(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20240822BHJP
G01N 30/54 20060101ALI20240822BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20240822BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G01N30/86 Q
G01N30/54 F
G01N30/34 Z
G01N30/32 A
(21)【出願番号】P 2020054992
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】宝泉 雄介
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 千尋
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-119402(JP,A)
【文献】特開2014-115118(JP,A)
【文献】特開2006-201064(JP,A)
【文献】米国特許第04468331(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出部に溶離液を送る送液部を有する液体クロマトグラフ部と、
試料の成分を分離するカラムと、
所定のタイムテーブルに基づいて上記送液部による送液およびカラム温度の少なくとも一方の被制御特性を制御する制御部と、
を備えたクロマトグラフ装置であって、
上記制御部は、
他の液体クロマトグラフ装置を動作させるためのタイムテーブル、ならびに
上記他の液体クロマトグラフ装置における、上記被制御特性の制御指令と、その制御指令に応じた制御結果との
定常的な状態での対応関係である静的対応関係、および当該液体クロマトグラフ装置における、上記被制御特性の制御指令と、その制御指令に応じた制御結果との
定常的な状態での対応関係である静的対応関係の少なくとも一方に基づいた制御を行うように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項2】
請求項1のクロマトグラフ装置であって、
上記制御指令は、上記カラムの温度に関するものであり、
上記制御部は、さらに、
上記他のクロマトグラフ装置における上記カラム温度の制御指令と、その制御指令に応じたカラム温度との動的特性に基づく影響、および当該クロマトグラフ装置における上記カラム温度の制御指令と、その制御指令に応じたカラム温度との動的特性に基づいて、上記当該クロマトグラフ装置のカラム温度が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置のカラム温度に近づくように、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルに基づいて生成された、当該クロマトグラフ装置のタイムテーブルに基づいて、上記カラム温度の制御を行うように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項3】
請求項2のクロマトグラフ装置であって、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを、上記他のクロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めた第1の仮想タイムテーブルに変換し、
さらに、上記第1の仮想タイムテーブルを変換して、上記当該クロマトグラフ装置のカラム温度が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置のカラム温度に近づくようにする第2の仮想タイムテーブルを生成し、
上記第2の仮想タイムテーブルを、上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めたタイムテーブルに変換するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項4】
請求項2のクロマトグラフ装置であって、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを変換して、上記当該クロマトグラフ装置のカラム温度が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置のカラム温度に近づくようにする仮想タイムテーブルを生成し、
さらに、上記仮想タイムテーブルを、上記他のクロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれ、および上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めたタイムテーブルに変換するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項5】
請求項2のクロマトグラフ装置であって、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを、上記他のクロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれ、および上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めた仮想タイムテーブルに変換し、
さらに、上記仮想タイムテーブルを変換して、上記当該クロマトグラフ装置のカラム温度が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置のカラム温度に近づくようにするタイムテーブルを生成するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項6】
請求項1のクロマトグラフ装置であって、
上記制御指令は、上記溶離液の送液に関するものであり、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置における上記送液の制御指令と、その制御指令に応じた送液態様との対応関係、および当該クロマトグラフ装置における上記送液の制御指令と、その制御指令に応じた送液態様との対応関係に基づいて、上記当該クロマトグラフ装置の送液態様が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置の送液態様に近づくように、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルに基づいて生成された、当該クロマトグラフ装置のタイムテーブルに基づいて、上記送液の制御を行うように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項7】
請求項6のクロマトグラフ装置であって、
上記制御指令は、上記溶離液の混合比率に関するものであり、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを、上記他のクロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めた第1の仮想タイムテーブルに変換し、
さらに、上記第1の仮想タイムテーブルを変換して、上記当該クロマトグラフ装置での溶離液の混合比率が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置での溶離液の混合比率に近づくようにする第2の仮想タイムテーブルを生成し、
上記第2の仮想タイムテーブルを、上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めたタイムテーブルに変換するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項8】
請求項6のクロマトグラフ装置であって、
上記制御指令は、上記溶離液の混合比率に関するものであり、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを変換して、上記当該クロマトグラフ装置での溶離液の混合比率が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置での溶離液の混合比率に近づくようにする仮想タイムテーブルを生成し、
さらに、上記仮想タイムテーブルを、上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれ、および上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めたタイムテーブルに変換するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項9】
請求項6のクロマトグラフ装置であって、
上記制御指令は、上記溶離液の混合比率に関するものであり、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを、上記他のクロマトグラフ装置におけ
る上記静的対応関係のずれ、および上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めた仮想タイムテーブルに変換し、
さらに、上記仮想タイムテーブルを変換して、上記当該クロマトグラフ装置での溶離液の混合比率が、上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルによって設定される上記他のクロマトグラフ装置での溶離液の混合比率に近づくようにするタイムテーブルを生成するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項10】
請求項6のクロマトグラフ装置であって、
上記制御指令は、溶離液の流量に関するものであり、
上記制御部は、
上記他のクロマトグラフ装置のタイムテーブルを、上記他のクロマトグラフ装置、および上記当該クロマトグラフ装置における上記静的対応関係のずれを含めたタイムテーブルに変換するように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ装置に関し、特に複数の液体クロマトグラフ装置間におけるシステム変換に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置を用いた分析技術は、高精度であることが求められている。液体クロマトグラフ装置でクロマトグラムを測定する際に当該装置に設定する内容として、測定メソッドがある。測定メソッドは、例えば、溶離液(溶媒)の流量、試料注入量、圧力上限、カラムオーブンの温度設定、検出器のサンプリング間隔、装置のレスポンスに関する情報等である。
【0003】
特許文献1には、ある装置(汎用液体クロマトグラフ装置)の測定メソッドを、当該装置よりも線速度(ある成分がカラムを通過する速度)の速い他の装置(超高速液体クロマトグラフ装置)などの測定メソッドに変換する技術が開示されている。さらに、当該文献には、この測定メソッドの変換に際して、カラムのデータ等を用いてその補正値を求めることが開示されている。
【0004】
また、実際に装置を動作させたときの溶離液の流速やカラム温度などの実測値に基づいてタイムテーブルを変換する技術も知られている(例えば、特許文献2、3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-281897号公報
【文献】特開2014-115118号公報
【文献】特開2014-119402号公報
【文献】特開2014-119401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように測定メソッドの変換に際して、カラムのデータ等を用いてその補正値を求めたり、実測値に基づいてタイムテーブルを変換したりしても、異なる装置間で得られる計測結果の一致精度を高くすることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、複数の液体クロマトグラフ装置を用いて測定した結果の一致精度を高くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、
検出部に溶離液を送る送液部を有する液体クロマトグラフ部と、
試料の成分を分離するカラムと、
所定のタイムテーブルに基づいて上記送液部による送液およびカラム温度の少なくとも一方の被制御特性を制御する制御部と、
を備えたクロマトグラフ装置であって、
上記制御部は、
他の液体クロマトグラフ装置を動作させるためのタイムテーブル、ならびに
上記他の液体クロマトグラフ装置における、上記被制御特性の制御指令と、その制御指令に応じた制御結果との静的対応関係、および当該液体クロマトグラフ装置における、上記被制御特性の制御指令と、その制御指令に応じた制御結果との静的対応関係の少なくとも一方に基づいた制御を行うように構成されていることを特徴とする。
【0009】
これにより、静的対応関係にずれがあるような場合などでも、タイムテーブルの変換を適切にして、測定特性の精度を高くすることが容易にできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の液体クロマトグラフ装置を用いて測定した結果の一致精度を容易に高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】液体クロマトグラフ装置のシステム構成を示す図である。
【
図2】液体クロマトグラフ装置のシステム流路を示す図である。
【
図3】データ処理装置106とシステム変換処理装置107のシステム構成の一部を示す図である。
【
図4】設定温度と実測温度との関係の例を示すグラフである。
【
図5】温度制御特性カーブの表示例を示す説明図である。
【
図6】設定混合比率と実測混合比率との関係の例を示すグラフである。
【
図7】実施形態2のタイムテーブル変換の例を示す説明図である。
【
図8】実施形態3のタイムテーブル変換の例を示す説明図である。
【
図9】2つの装置の設定温度の対応関係の例を示すグラフである。
【
図10】実施形態4のタイムテーブル変換の例を示す説明図である。
【
図11】混合比率を測定するタイムプログラム例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
まず、カラムオーブンの応答性が高い装置を用いて、応答性が低い装置と同等の測定が行われるようにされる例を説明する。このような応答性が異なる装置で同じタイムテーブル(タイムテーブル)を用いて動作させると、実際のカラム温度の時間変化が同じにならないので、同等の測定結果を得ることが困難になる。そのような場合でも、タイムテーブルを適切に設定することによって、実際のカラム温度の時間変化が同様になるようにすることができる。また、実際の装置においては、タイムテーブルの制御指令に応じた正確なカラム温度になるとは限らない場合がある。そのような場合でも、以下では、タイムテーブルを適切に設定することによって、同等の測定結果を容易に得ることができる。以下、具体的に説明する。
【0013】
図1に本発明における液体クロマトグラフ装置のシステム構成を示す。この図に示す液体クロマトグラフ装置は、試料の分離・分析が行われる液体クロマトグラフ部101と、液体クロマトグラフ部101に係る各装置を所定のメソッドに基づいて制御するための制御装置である制御部110を備えている。
【0014】
液体クロマトグラフ部101は、制御部110からの指令に基づいて溶離液を送るポンプ(送液部)102と、ポンプ102からの溶離液に対して、制御部110の指令に基づいて試料を注入するオートサンプラ(試料注入部)103と、制御部110からの指令に基づいて分析カラム202(
図2参照)の温度を保持するカラムオーブン(分離部)104と、分析カラム202から溶出した成分を検出して電気信号に変換して制御部110に出力する検出器(検出部)105を備えている。
【0015】
制御部110は、液体クロマトグラフ部101に係る各装置との指令及びデータのやりとりを実行するデータ処理装置106と、測定メソッドを含む各種データや、オペレータからの指示等が入力される入力装置(例えば、ポインティングデバイス、キーボード、タブレット等)108と、入力装置108を介して入力された測定メソッドを変換する処理(システム変換処理)を実行するシステム変換処理装置107と、検出器105による検出結果や、液体クロマトグラフ部101及び制御部110の各種操作に係るグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等が表示される出力装置109を備えている。検出器105によって検出された各成分の測定値はデータ処理装置106に取込まれ、試料の分析結果が出力装置109に送信・表示される。
【0016】
測定メソッドには、カラムオーブン104への制御指令値(カラムオーブン内の温度制御の目標値)の時系列であって、カラムオーブン内の温度制御の時間変化を予め定めたデータ系列(以下、「温度制御タイムテーブル」という。)が含まれる。温度制御タイムテーブルの具体例は後述する。
【0017】
本実施の形態では、カラムオーブン104に指示する温度制御タイムテーブルを変換することで、他の液体クロマトグラフ装置での測定を再現する場合を例に挙げてシステム変換を説明する。
【0018】
後述するように、システム変換処理装置107は、同じタイムテーブルを他の液体クロマトグラフ装置で使用したときの「温度制御態様」が本実施の形態に係るものに実際に表れるように、各液体クロマトグラフ装置、またはカラムオーブン間の温度制御特性の差に基づいて温度制御タイムテーブルの変換(システム変換)を行う。
【0019】
温度制御特性とは、所定の指令値(指令値の具体例については後述)をカラムオーブン104に入力したときに得られる各液体クロマトグラフ装置の実際の温度制御態様のことである。例えば、複数の液体クロマトグラフ装置に同じ指令値を入力した場合には、当該複数の装置における各種仕様の違い(例えば、カラムオーブンにおいてはカラムオーブンユニットの加熱・冷却性能、ヒートブロックの熱伝導性能、プレヒートに埋め込んでいる配管の容量、温度の精密性、安定性等の違い等があり、カラムオーブンを含めた液体クロマトグラフ装置全体に関しては、配管径、ポンプのデッドボリューム、ミキサの液体混合性能、オートサンプラのデッドボリューム、カラム外試料拡散容量、及び検出器等の違い)に起因して、実際の温度制御態様に違いが生じる。すなわち、温度制御特性は、各カラムオーブン、または各液体クロマトグラフ装置に固有の値となる。
【0020】
実際の温度制御特性を測定する方法としては、所定の指令値に基づいてカラムオーブン104内の温度を制御した際の実測値をオーブン温度センサ等の測定手段によって測定する方法がある。また、測定温度を演算により求めることもできる。オーブン温度センサの値は、出力装置における表示画面上等(図示せず)にて確認することもできる。
【0021】
なお、温度制御特性を取得する際に各液体クロマトグラフ装置のカラムオーブン104に入力する指令値は原則同じものが好ましいが、最終的に温度センサ等の測定手段による実測値の結果が同じものになれば、指令値同士の完全な一致までは問わない。
【0022】
図2は、本発明における液体クロマトグラフ装置のシステム流路を示す。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付し、説明は省略することがある(後の図も同様)。この図に示した液体クロマトグラフ部101は、ポンプ102と、オートサンプラ103と、カラムオーブン104と、検出器105と、を備えている。
【0023】
ポンプ102は、溶離液201A、溶離液201Bを送液する。ポンプ102から送られる溶離液は、オートサンプラ103を介して注入された試料と共に、カラムオーブン104内の分析カラム202に送られる。検出器105はカラムを通過した試料成分を検出し、検出結果は制御部110のデータ処理装置106に記憶される。
【0024】
上述の通り、液体クロマトグラフ装置におけるカラムオーブン104の加熱・冷却性能、ヒートブロックの熱伝導性能、プレヒートに埋め込んでいる配管の容量、温度の精密性、安定性等に違いがある場合、カラムの中で試料が分離される際に、検出されたピークの保持時間と分離度に影響する。また、上述の通りカラムオーブン以外のユニットにおける各種仕様の違いによっても、この影響はさらに増大する。本実施例においては、カラムオーブンユニットのみが異なっている場合の例について説明するが、当然のことながら、これに限定されるものではなく、カラムオーブン以外の各種仕様に違いがある場合においても適用可能である。
【0025】
上記のような装置の仕様等の違いは、例えば次のようにしてタイムテーブルを変換することによって吸収することができる。すなわち、例えば、2つの異なる液体クロマトグラフ装置A、Bについて、装置Bでの測定結果が、装置Aで所定のタイムテーブルに基づいて温度を制御したときに得られる測定結果に近づくような装置Bのタイムテーブルは、次のようなシステム変換を行って生成することができる。
【0026】
液体クロマトグラフ装置A、Bは、例えば、それぞれの持つカラムオーブンA,Bの加熱・冷却性能(ペルチェ温度変化の制御、ハード上の保温性能)、ヒートブロックの熱容量、プレヒートの材質による熱伝導率、プレヒートに埋め込んでいる配管の容量や構内の風量、温度の精密性、安定性等に起因する温度制御特性を有する。そこで、まず、各々の装置の有する温度制御特性を取得する。この温度制御特性とは、上述した通り、所定の指令値(例えば、インパルス入力など)をカラムオーブン104に入力したときに得られる各液体クロマトグラフ装置におけるカラムオーブンユニットの実際の温度制御の態様(例えば、インパルス応答)のことである。
【0027】
次に、液体クロマトグラフ装置Aと液体クロマトグラフ装置Bとの温度制御特性の差異trans(t)を求めることによって、より具体的には、例えば各装置のタイムテーブルと実際の実測プロファイルとの対応から制御特性を求め、一方の制御特性と逆変換特性とからtrans(t)を求めるなどして、装置Aから装置Bへのシステム変換のための温度変化タイムテーブルをコンボリューション演算によって求めることができる。このようにして決定された温度変化タイムテーブルに基づいて、データ処理装置106のカラムオーブン制御部407はカラムオーブンBのユニットに指示を与えることで装置Bにおいても、装置Aと同様の測定結果を得られるようにシステム変換することが可能となる。なお、trans(t)関数を用いるのに限らず、一旦実際のプロファイルと同様の特性を求め、逆変換して変換後のタイムテーブルを求めるなどしてもよい。
【0028】
図3は、本発明のデータ処理装置106とシステム変換処理装置107のシステム構成図の一部である。なお、ここでは図示していないが、データ処理装置106とシステム変換処理装置107は、それぞれ、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置(例えば、ROM、RAMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリや、ハードディスク等の磁気記憶装置)と、各装置101、106、107、108、109へのデータ及び指示等の入出力制御を行うための入出力演算処理装置を備えているものとする。
【0029】
図3において、データ処理装置106は、タイムテーブル入力部405と、タイムテーブル記憶部406と、カラムオーブン制御部407を備えている。
【0030】
タイムテーブル入力部405は、カラムオーブン104内の温度制御に係るタイムテーブルが外部から入力される部分である。タイムテーブルの入力方法としては、例えば、入力装置108による入力のほかに、タイムテーブルが記憶された記憶メディアを介した入力や他のコンピュータとネットワークを介した通信によるものがある。
【0031】
タイムテーブル記憶部406は、タイムテーブル入力部405を介して入力されたタイムテーブルと、後述するシステム変換処理装置107における変換タイムテーブル計算部404で変換されたタイムテーブルとが記憶される部分である。
【0032】
カラムオーブン制御部407は、タイムテーブル記憶部406に記憶されたタイムテーブルに基づいて液体クロマトグラフ部101のカラムオーブン104内の温度制御を行う部分である。ここで利用するタイムテーブルとして、変換タイムテーブル計算部404が変換したデータが選択された場合には、カラムオーブン制御部407は当該タイムテーブルに基づいてカラムオーブン104の温度制御を行う。
【0033】
図3において、システム変換処理装置107は、温度制御特性入力部401と、温度制御特性記憶部402と、差異計算部403と、変換タイムテーブル計算部404を備えている。
【0034】
温度制御特性入力部401は、液体クロマトグラフ部101を含めて複数の液体クロマトグラフ装置の温度制御特性が入力される部分である。温度制御特性入力部401への温度制御特性の入力方法としては、例えば、入力装置108による入力のほかに、温度制御特性が記憶された記憶メディアを介した入力、温度制御特性が記憶された他のコンピュータとネットワークを介した通信によるもの等がある。
【0035】
図4は、例えばエミュレーションする側、またはされる側の装置において、タイムテーブルによって制御指令される設定温度と、実際のカラム温度との静的対応関係の例を示す。このような制御指令と実際のカラム温度とのずれは、調整して一致させることも考えられるが、本実施形態では、エミュレートする装置のタイムテーブルを調整することによって、容易に同等の測定結果を得ることができる。すなわち、前記のようなタイムテーブルの変換をする際に、元のタイムテーブルに基づいて変換するのではなく、実際に生じる温度変化に応じた仮想タイムテーブルを用いることによって、適切な動的特性に基づく変換を容易に行うことができる。
【0036】
また、このようにして得られたタイムテーブルは、装置Bによってカラム温度が制御される場合に、タイムテーブルによって正確に指令されたカラム温度になるとは限らない。そのような場合、やはり、
図4に示したような制御指令と実際のカラム温度との関係に基づいてタイムテーブルを変換することによって、装置Aの測定結果に近づけることが容易にできる。
【0037】
なお、上記のような制御指令と実際のカラム温度との関係に基づくタイムテーブルの変換は、両方の装置A・Bに対して行われるのに限らず、何れか一方だけ行われてもよい。すなわち、これらの変換によって得られる精度の向上効果は、独立して得られる。また、例えば装置A・Bの一方が較正されて、制御指令と実際のカラム温度との差が充分に小さい場合などには、他方の装置についてだけ変換が行われるようにしてもよい。
【0038】
温度制御特性記憶部402は、温度制御特性入力部401を介して入力された複数の液体クロマトグラフ装置(液体クロマトグラフ部101を含む)の温度制御特性が記憶される部分である。
【0039】
差異計算部403は、液体クロマトグラフ部101と他の液体クロマトグラフ装置の温度制御特性の差異(trans(t))を演算する部分である。
【0040】
変換タイムテーブル計算部404では、差異計算部403で求められた温度制御特性の差異に基づいて、タイムテーブル記憶部406に記憶されたタイムテーブルであって試料分析に用いるものを記憶する部分である。変換タイムテーブル計算部404でタイムテーブルが変換される場合としては、例えば、ある装置(装置A)で所定のタイムテーブルを利用して得た測定結果を他の装置(装置B)で再現する場合がある。
【0041】
図5は本発明のシステム変換の設定を行う際の出力装置109の表示画面に表示された温度制御特性カーブ表示部506の例を示す。この温度制御特性カーブ表示部506には、温度制御特性の測定に利用した指令値507と、自機(装置B)の温度制御特性508と、測定結果を再現する他の装置(装置A)の温度制御特性509が表示される部分である。図示した例では、指令値507は階段状のものであり、装置Bの方(温度制御特性508)が装置A(温度制御特性509)よりも応答が速いことがわかる。そこで、例えば同図に2点鎖線で示すように、温度の立ち上がりタイミングを遅らせるようなタイムテーブルに変換することによって、装置Bでも、装置Aの温度制御特性509に近い特性を得ることができる。
【0042】
(実施形態2)
上記のようなタイムテーブルの変換によってエミュレーションの精度を高める手法は、カラム温度に限らず、溶離液の混合比率や、流量(流速)を調整するためにも有効である。例えば、
図6に示すように設定値(制御指令)である溶離液の混合比率B(%)に対して、実際の混合比率(b(%))が線形関係にないような場合でも、コンボリューション演算によるタイムテーブルの変換の前後にレベルの変換を行うことによって、より正確に特性を揃えることが容易にできる。
【0043】
具体的には、例えば
図7(a)に示すように、装置Aでの元のタイムテーブルで、設定値である混合比率B(%)が0%から、40%、70%に変化するようにされていたとして、実際の静的な特性としては、
図7(b)に示すように非線形に0%から45%、65%に変化するとする。また、実際に動的な特性としては、過渡特性等によって、
図7(c)に示すように、混合比率は変わらなくてもタイムラグ(ディレイ)や時定数的な変化が生じる。
【0044】
そこで、
図7(d)に示すように装置Bが動作すべき特性をコンボリューション演算などによって求める際に、元のタイムテーブル(
図7(a))ではなく、
図7(b)のように静的な対応関係のずれを含めた仮のタイムテーブルと、あらかじめ
図7(c)のような実測に基づいて求められるなどした、装置A・Bの制御特性の差異trans(t)とに基づいて演算することによって、適切な、装置Bが動作すべき特性(
図7(d))が得られる。なお、trans(t)が用いられるのに限らず、一旦、
図7(c)のような動作が求められてから、逆変換によって
図7(d)の特性が求められるなどしてもよい。
【0045】
そして、さらに、装置Bにおいても、与えられるタイムテーブルと実際の静的な特性とにずれがある場合には、そのずれを含めたタイムテーブル(
図7(e))を求めることによって、より正確な特性を得ることができる。
【0046】
また、上記のような変換は、溶離液の流量についても適用することができる。ただし、この流量のように、上記温度や混合比率のように過渡特性を考慮しなくてもよいような場合には、単純に装置A、Bの流量設定値と実際の流量との対応関係を合成して適切なタイムテーブルを得ることができる。
【0047】
(実施形態3)
上記のような装置Aにおけるタイムテーブルによる制御指令と制御結果との静的対応関係に基づいた変換が行われてから、動的特性(trans(t))に基づく変換が行われることによって、上記動的特性に基づく変換をより適切に行うことが容易になるが、静的対応関係に基づいた変換は、動的特性に基づく変換が行われた後にだけ行われるようにしてもよい。すなわち、装置Aでのカラムの設定温度と実際の温度との静的対応関係のずれの補正自体は、動的特性に基づく変換の前後に係わらず行うこともできる。
【0048】
具体的には、例えば
図8(a)に示すように、装置Aで、カラム温度を0℃から40℃、および70℃に変化させるタイムテーブルに基づいて、装置A・Bの制御特性の差異に基づいた変換結果が
図8(d)のようになるとする。この場合、定常的な温度は、元のタイムテーブルと同じ、0℃から40℃、および70℃に変化するような制御指令を示すものとなる。
【0049】
一方、装置Aでの設定温度T
Aと装置Bでの設定温度T
Bとが、
図9に示すような静的対応関係だったとする。すなわち、例えば装置Aで設定温度が40℃、70℃のときの実際のカラム温度と、装置Bで設定温度が45℃、65℃のときの実際のカラム温度がそれぞれ等しいとする。この場合、上記のような装置A・Bの設定温度の静的対応関係に基づいて、
図8(d)に示すタイムテーブルが
図8(e)に示すようにカラム温度を0℃から45℃、および65℃に変化させるタイムテーブルに変換される。このようなタイムテーブルによって装置Bが動作することによって、実際のカラム温度が何℃であるかに直接係わらず、少なくとも装置A・Bの静的、定常的なカラム温度は同じになり、一致程度が高い測定結果を得ることが容易にできる。
【0050】
また、例えば
図8(d)に相当するタイムテーブルが(例えば特許文献4等で示されるように)近似式で表現されたり、
図9に示すような対応関係が0.1℃ステップで求められていたとしても測定時は5℃ステップからの近似カーブであったり、各温度差異が設定範囲にわたり一定幅にシフトしているだけだったりする場合など、現実的に、装置A・Bによる測定結果の一致程度を許容範囲内に抑え得る場合があると考えられる。
【0051】
最後にまとめて温度差異を補正する方式が本実施形態である。前述のように温度センサをもつ疑似カラムを用いれば、同様に装置Bの静的対応である設定T
Bと実測Tの関係を決定することができる。
図8(d)から
図8(e)へ静的対応関係に基づいて出口側として変換する。T
AからTが、T
BからTが対応付けられる静的対応関係は
図9のように3軸のグラフでイメージすることが可能である。実測のTを手前に掃引し、得られる3次元空間内の破線曲線をT
B-T
A平面に投影することにより
図9が決定できる。この対応グラフ(
図9)は定期的に更新することが望ましい。
この関係は数式でも表せる。まずHPLC装置Aの設定温度T
Aが、温度計による実測値T=f(T
A)になる。
【0052】
同様にUHPLC装置Bの設定温度T
Bが実測値T=g(T
B)になる。
さて、逆関数を用いれば、T
B=g
-1(T)と表せる。
従って代入し、T
B=g
-1{ f(T
A)}が得られる。
変数が3つあって、ここで
図9が現れるわけである。
【0053】
(実施形態4)
また、装置Bでのカラムの設定温度と実際の温度との静的対応関係のずれの補正を、動的特性に基づく変換の前に行うようにしてもよい。
【0054】
具体的には、例えば上記実施形態3と同様に、装置Aでの設定温度T
Aと装置Bでの設定温度T
Bとが
図9に示すような静的対応関係だったとし、
図10(a)に示すように、装置Aで用いられるタイムテーブルが、カラム温度を0℃から40℃、および70℃に変化させるものである場合の例を説明する。
【0055】
この場合、まず、上記
図9に示すような装置A・Bの設定温度の静的対応関係に基づいて、
図10(a)に示すタイムテーブルが
図10(b)に示すようにカラム温度を0℃から45℃、および65℃に変化させるタイムテーブルに変換される。その後、
図10(e)に示すように、trans(t)に基づく変換によって、装置Bで用いられるタイムテーブルが生成される。このようなタイムテーブルによって装置Bが動作することによって、やはり、実際のカラム温度が何℃であるかに直接係わらず、少なくとも装置A・Bの静的、定常的なカラム温度は同じになり、一致程度が高い測定結果を得ることが容易にできる。
【0056】
(その他の事項)
上記のような静的対応関係や動的特性に基づく変換等をするための実測データを得る方法は特に限定されず、例えば、装置A・Bに温度センサを内蔵する疑似的なカラムを装着して数分間温度、タイムプロファイルを測定し、動的な実際のプロファイルとして求めたり、装置A・Bの静的対応である設定温度と実測温度との関係などを決定したりすることができる。
【0057】
また、B液の混合比率(B(%))の静的対応関係や、動的特性カーブなどは、例えば、装置Aと装置Bそれぞれ以下のようにして求めてもよい。すなわち、A液には純水、B液にはUV吸収のある水溶液を用い、B液に例えば、数十ppmカフェイン水溶液を用いてUV273 nmで検出する。または、0.1%アセトン水溶液を250 nmで測定し、B液100%の吸光度を100として百分率で表す。より具体的には、例えば
図11に示すように混合比率を0%から100%まで10%ステップ設定で、10分間ごとに増加させる。これにより、検出プロファイルから、静的対応関係、および動的特性カーブが同時に獲得できる。正確に言えば、各設定混合比率B%で特性カーブが若干異なる場合も想定できるが複雑化するので、特性カーブを平均化するなど統計学的に処理することが望ましい。この統計学的平均化処理は、カラムオーブンの温度制御特性カーブの測定時にも有効である。
【0058】
また、上記のような
図9の静的対応関係や、
図5の温度制御特性カーブ、すなわち動的特性も定期的に更新することが望ましい。また、B液の混合比率(B(%))の静的対応関係、および動的特性カーブも装置Aと装置Bそれぞれで定期的に更新することが望ましい。
【0059】
また、上記のような様々な処理、測定、変換などの構成要素は、論理的に可能な範囲で種々組み合わせてもよい。具体的には、例えば、実施形態2の送液制御において、制御指令と実際の混合比率との関係に基づくタイムテーブルの変換は、両方の装置A・Bに対して行われるのに限らず、実施形態1で説明したように、何れか一方だけ行われてもよい。また、実施形態3、4で示したような動的特性に基づく変換の前後で静的対応関係に基づく変換が行われる構成が、溶離液の混合比率などの送液制御等に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
101 液体クロマトグラフ部
102 ポンプ
103 オートサンプラ
104 カラムオーブン
105 検出器
106 データ処理装置
107 システム変換処理装置
108 入力装置
109 出力装置
110 制御部
201A 溶離液
201B 溶離液
202 分析カラム
401 温度制御特性入力部
402 温度制御特性記憶部
403 差異計算部
404 変換タイムテーブル計算部
405 タイムテーブル入力部
406 タイムテーブル記憶部
407 カラムオーブン制御部
506 温度制御特性カーブ表示部
507 指令値
508 温度制御特性
509 温度制御特性