(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】加熱調理用油脂組成物、その製造方法、およびその加熱調理に伴う劣化抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240822BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/007
(21)【出願番号】P 2020055708
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】林 哲大
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-029086(JP,A)
【文献】特開2015-065833(JP,A)
【文献】特開2013-252129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンおよびナトリウム塩を含む加熱調理用油脂組成物であって、
加熱温度180℃での連続フライ試験70時間経過時点において、酸価が2.1以下かつ重合物が8.0%以下で
あり、
前記ナトリウム塩は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、および、リンゴ酸二ナトリウムから選ばれる、加熱調理用油脂組成物。
【請求項2】
シリコーンを0.7~2.5ppm、およびナトリウム塩をナトリウムとして0.5~2.0ppmの
含有量で含
み、
前記ナトリウム塩は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、および、リンゴ酸二ナトリウムから選ばれる、加熱調理用油脂組成物。
【請求項3】
前記加熱調理用油脂組成物が、1回の使用で廃棄することなく、フライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を継ぎ足し、一定期間、油を取り替えることなく使用するための組成物である、請求項1または2に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項4】
前記シリコーンを1.0~2.0ppmの含有量で含む、請求項1ないし3のいずれか
1項に記載の加熱調理用油脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか
1項に記載の加熱調理用油脂組成物を製造する方法であって、該組成物において、加熱調理に伴う酸価の上昇と重合物の増加とをバランス良く抑制するように、シリコーンおよびナトリウム塩の含有量を調整することを特徴とする方法。
【請求項6】
加熱調理用油脂組成物の加熱調理に伴う酸価の上昇と重合物の増加とをバランス良く抑制する方法であって、請求項1ないし
4のいずれか
1項に記載の加熱調理用油脂組成物中のシリコーンおよびナトリウム塩の含有量を調整することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1回の使用で廃棄することなく、フライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を継ぎ足し、一定期間、油を取り替えることなく使用するための加熱調理用油脂組成物、その製造方法、およびその加熱調理に伴う劣化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食店、スーパーマーケットのバックヤード、総菜店などの外食・中食産業、食品製造業で使用される加熱調理用油脂は、新しい油を継ぎ足しながら、長時間にわたり、大量の揚げ物の調理に使用される。加熱調理時に、熱、酸素、揚げ種の水分、揚げ種から溶出する成分などの影響によって、熱酸化、熱重合、熱分解、加水分解等の反応が複合的に起こり、重合物、遊離脂肪酸などの物質が生成するため、着色、加熱臭、粘性の高まり、酸価上昇等の現象で示される、油脂の劣化が生ずる。劣化が進行した油脂を繰り返し使用すると、加熱調理後の食品の風味や外観に悪影響を及ぼす。加熱調理用油脂は使用のたびに変質、劣化が進むため、通常、定期的に廃棄、交換されているが、短期間での廃棄、交換は、経済的、環境的に負荷が大きく、加熱調理用油脂の劣化抑制技術が必要とされている。すなわち、加熱調理用油脂の購入や廃棄処理にかかる費用の削減や、廃棄油による環境負荷の低減が求められている。
【0003】
油脂の劣化の指標として、油脂の酸価が用いられている。たとえば、弁当および総菜の衛生規範では、フライ処理中の油脂の交換の指標の一つとして、酸価を2.5と定めている。フライ時間の長い業態では、油脂の劣化の指標の中でも酸価の上昇が速いため、酸価を指標としてフライ油の廃棄時期を管理している。このような状況を鑑みて、本出願人は、油脂中にナトリウムまたはカリウムを含有する添加物を添加することで、油脂の酸価上昇を抑制し、油脂の劣化を抑制する技術(特許文献1)をすでに開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、酸価だけでなく、重合物も、油脂劣化の重要な指標であることに着目した。すなわち本発明は、酸価上昇と、高温酸化による重合物の増加をバランス良く抑制し、長期にわたって使用できる加熱調理用油脂組成物を提供することを目的とする。
本発明の目的は、約140~200℃での使用時における加熱調理用油脂の劣化を抑制し、該油脂の消費量の低減化を図るものであり、加熱調理用油脂による揚げ物などの加工食品の製造において、製品の品質を低下させないで該油脂の使用できる状態を長時間保持することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)~(6)の加熱調理用油脂組成物に関する。
(1)シリコーンおよびナトリウム塩を含む加熱調理用油脂組成物であって、加熱温度180℃での連続フライ試験70時間経過時点において、酸価が2.1以下かつ重合物が8.0%以下であり、前記ナトリウム塩は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、および、リンゴ酸二ナトリウムから選ばれる、加熱調理用油脂組成物。
(2)シリコーンを0.7~2.5ppm、およびナトリウム塩をナトリウムとして0.5~2.0ppmの含有量で含み、前記ナトリウム塩は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、および、リンゴ酸二ナトリウムから選ばれる、加熱調理用油脂組成物。
(3)前記加熱調理用油脂組成物が、1回の使用で廃棄することなく、フライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を継ぎ足し、一定期間、油を取り替えることなく使用するための組成物である、上記(1)または(2)に記載の加熱調理用油脂組成物。
(4)前記シリコーンを1.0~2.0ppmの含有量で含む、上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物。
【0007】
本発明は、以下の(5)の加熱調理用油脂組成物の製造方法に関する。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物を製造する方法であって、加熱調理に伴う酸価の上昇と重合物の増加とをバランス良く抑制するように、前記加熱調理用油脂組成物中のシリコーンおよびナトリウム塩の含有量を調整することを特徴とする方法。
【0008】
本発明は、以下の(6)の加熱調理用油脂組成物の加熱調理に伴う酸価の上昇と重合物の増加とをバランス良く抑制する方法に関する。
(6)加熱調理用油脂組成物の加熱調理に伴う酸価の上昇と重合物の増加とをバランス良く抑制する方法であって、上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の加熱調理用油脂組成物中のシリコーンおよびナトリウム塩の含有量を調整することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、加熱調理用油脂の劣化防止あるいは使用期間の長期化の機能を有する新しい加熱調理用油脂組成物を提供することができる。約140~200℃での使用時における加熱調理用油脂の酸化、劣化を抑制し、該油脂の消費量を低減することができる。加熱調理用油脂による揚げ物などの加工食品の製造において、製品の品質を低下させないで該油脂の使用できる状態を長時間保持することができる。外食・中食産業、食品製造業で使用される加熱調理用油脂として、該油脂の劣化防止あるいは使用期間の長期化の機能を有する新しい加熱調理用油脂組成物を提供することができる。本発明により、加熱調理時の酸価の上昇および重合物の増加をバランス良く抑制することが可能な加熱調理用油脂組成物、その製造方法、およびその加熱調理に伴う劣化抑制方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、加熱調理時における酸価の上昇および重合物の増加をバランス良く抑制することができる加熱調理用油脂組成物に関する。具体的には、本発明に係る加熱調理用油脂組成物は、加熱調理時における酸価の上昇および重合物の増加をバランス良く抑制するものであり、「加熱温度180℃での連続フライ試験70時間経過時点において、酸価が2.1以下かつ重合物が8.0%以下」であるものと定義される。なお、重合物の量を8.0%以下と定義したのは、重合物が8.0%を超えると油脂に持続性の泡立ちが認められるようになるためである(たとえば、太田静行「食用油脂の劣化及びその防止に関する研究」、油化学、第38巻、第9号、p678、1989年)。
【0011】
なお、本発明に係る加熱調理用油脂組成物は、加熱調理用の油脂組成物であれば特に限定されず、フライ調理、焼き調理、炒め調理、蒸し調理、煮物調理などに用いることができるが、特に、油脂の酸価が上昇しやすく、また、重合物が増加しやすい、フライ時間の長いフライ調理に適している。フライ時間の長いフライ調理とは、たとえば、フライ油を1回の使用で廃棄することなく、1日のフライ作業終了後に、揚げ種に吸収されて減少した分の油を継ぎ足し(この操作を「差し油」、「足し油」等という)、酸価が2.5などの所定の酸価に達するまでの一定期間、油を取り替えることなく使用する調理のことである。
【0012】
本発明に係る加熱調理用油脂組成物を得るために使用できる原料油脂は、特に限定がなく、食用として用いられるものであればよい。たとえば、大豆油、菜種油、コーン油、紅花油、ヒマワリ油、綿実油、パーム油、米油、小麦胚芽油、オリーブ油、ゴマ油等、およびこれらの高オレイン油、それらの分別油、硬化油、エステル交換油等が挙げられる。これらの中から選ばれる1種または2種以上を混合してもよい。さらには、これらの油脂の中で、リン脂質や遊離脂肪酸を含まない、高度に精製されたものが好ましく、通常140~200℃程度の温度で行われるフライ調理に適した油脂であるのが好ましい。
【0013】
本発明に係る加熱調理用油脂組成物は、シリコーンを油脂中に含有することを特徴とする。当該シリコーンは、食品用途で市販されているものであれば使用することができ、たとえば、ジメチルポリシロキサン構造を持つシリコーンオイルなどが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、500~2000mm2/sであるものが好ましく、600~1500mm2/sであるものがより好ましく、800~1100mm2/sであるものがさらに好ましい。本発明に係る加熱調理用油脂組成物は、シリコーンを0.7ppm以上、より好ましくは1.0ppm以上、さらに好ましくは1.2ppm以上含有するとともに、シリコーンを2.5ppm以下、より好ましくは2.0ppm以下の範囲で含有することを特徴とする。一般のフライ用油脂にも、シリコーンが消泡剤として添加されているが、その添加量は3.0ppm以上であるのに対して、本発明に係る加熱調理用油脂組成物では、多くても2.5ppm以下の範囲となるようにシリコーンの添加量が調整されている。
【0014】
これは、発明者が本発明に係る研究により、シリコーンの含有量が少ないほど、酸価の上昇が抑制される傾向にある一方、重合物が増加する傾向にあることを発見し、油脂にナトリウム塩を添加するとともに、シリコーンの含有量を0.7~2.5ppmに調整することで、酸価の上昇と、重合物の増加とをバランス良く抑制することができる、加熱調理用油脂組成物を得られることを発見したことによる。
【0015】
また、本発明に係る加熱調理用油脂組成物は、ナトリウム塩を油脂中に含有することも特徴とする。ナトリウム塩は、食品添加物として利用可能なものであれば、特に限定されず、たとえば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム、L-グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、カゼインナトリウム、DL-酒石酸ナトリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどを用いることができる。また、これらの中でも、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウムおよびリンゴ酸二ナトリウムが好ましく、炭酸ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウムがより好ましく、風味の点から、リンゴ酸二ナトリウムがさらに好ましい。
【0016】
なお、ナトリウム塩の含有量は、特に限定されないが、加熱調理用油脂組成物中に、ナトリウムとして0.5~2.0ppm含有することが好ましく、1.0~2.0ppm含有することがより好ましく、1.5~2.0ppm含有することがさらに好ましい。また、ナトリウム塩を油脂に含有させる方法も、特に限定されず、乳化剤を併用して溶解もしくは均一分散させる方法や脱水処理等の公知の手法を用いることができる。
【0017】
油脂中のナトリウムの含有量は、たとえば、下記の分析法で管理することができる。すなわち、乾式灰化法にて試料を調製し、ICP発光分析法により、油脂中のナトリウムの含有量を定量することができる。なお、定量は下限0.5mg/kgで実施される。試験法の詳細は「2.1.1.21乾式分解 2.1.1.3 一斉分析法、衛生試験法・注解、2010年度版、日本薬学会編」を参照すればよい。
また、ICP発光分析法に替えて、原子吸光光度法による定量も可能である。原子吸光光度法による定量を行う際には、「2.1.1.21乾式分解 2.1.1.4 各個試験、衛生試験法・注解、2010年度版、日本薬学会編」を参照すればよい。
【0018】
なお、本発明に係る加熱調理用油脂組成物には、必要に応じて、食用乳化剤、酸化防止剤、シリコーン以外の消泡剤などを添加することもできる。
【実施例】
【0019】
本実施例で使用した試料の詳細は以下の通りである。
食用油脂:キャノーラ油(シリコーン無添加)(昭和産業)
シリコーン:KF96ADF-1000(信越化学工業)
炭酸ナトリウム:特級炭酸ナトリウム(無水)(富士フイルム和光純薬)
リンゴ酸二ナトリウム:特級リンゴ酸二ナトリウム水和物(東京化成工業)
乳化剤:サンソフトNo.818R(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル製剤)(太陽化学)
【0020】
(加熱調理用油脂組成物の調製)
下記表1および表2に示すように、キャノーラ油に、シリコーンをそれぞれ0.5~3.0ppmとなるように添加して、各試験区1~10の加熱調理用油脂組成物を調製した。また、試験区2,4,6,8,10においては、リンゴ酸二ナトリウム水溶液を調製し、当該水溶液を乳化剤と共にキャノーラ油へ添加して、加熱調理用油脂組成物を調製した。なお、ナトリウム含有量は、ICP発光分析を用いて定量した。
【0021】
(連続フライ試験)
上記加熱調理用油脂組成物(以下、試験油)を用いて、連続フライ試験を行った。具体的には、マッハフライヤー(FM-3H、マッハ機器株式会社製)に試験油3.5kgを張り込み、油温を180℃±5℃に加熱し、1時間毎に、1個当たり約55gの冷凍コロッケ(冷凍北海道男爵コロッケ、サンマルコ食品)5個を5分間フライした。なお、連続フライ試験では、10時間ごとに、揚げかすを取り除き、フライ作業において揚げ種および揚げかすに吸収されて減少した分の試験油(400g程度であった)を継ぎ足して、計80時間フライ調理を行った。そして、連続フライ試験前の未使用の試験油と、各経過時間におけるフライ調理後の試験油とをそれぞれ採取し、酸価および重合物の量を測定した。
【0022】
なお、酸価および重合物の量は、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2013年版 酸価 2.3.1-2013、 油脂重合物 2.5.7-2013)により測定した。
【0023】
具体的には、採取した試験油を10g三角フラスコに計り取り、0.1mol/L水酸化カリウム溶液で滴定し、指示薬の変色が30秒間続いたときを中和の終点として、酸価を下記式(1)により算出した。
酸価=(5.611×A×F)/B ・・・(1)
なお、上記式(1)において、A,F,Bはそれぞれ以下のとおりである。
A:0.1mol/L水酸化カリウム溶液の添加量(mL)
F:0.1mol/L水酸化カリウム溶液のファクター
B:サンプル量(g)
【0024】
また、重合物は、基準油脂分析試験法におけるゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法により測定した。具体的には、採取した試験油をテトラヒドロフランに溶解して0.5g/100mLの溶液とし、メンブレンフィルターでろ過して測定用の溶液とした。高速液体クロマトグラフにゲル浸透クロマトグラフ法用カラムを接続し、測定用の溶液を注入して、重合物を下記式(2)により算出した。
重合物(%)=C/D×100 ・・・(2)
なお、上記式(2)において、C,Dはそれぞれ以下のとおりである。
C:重合物全体のピーク面積
D:サンプル全体のピーク面積
【0025】
各試験油の酸価および重合物の測定結果を、表1および表2に示す。なお、表1は、試験油の酸価の測定結果を示し、表2は、試験油の重合物の測定結果を示している。下記表1及び表2に示すように、試験区1~10では、シリコーンの含有量をそれぞれ0.5ppm,1.0ppm,1.5ppm,2.0ppmおよび3.0ppmに調整している。また、試験区1,3,5,7,9は、シリコーンのみを添加した試験油であり、試験区2,4,6,8,10は、シリコーンとともにリンゴ酸二ナトリウムをナトリウムとして2.0ppm添加した試験油である。
【表1】
【表2】
なお、表1および表2において、経過時間0時間は、連続フライ調理前の未使用の試験油を意味する。
【0026】
測定の結果、酸価については、表1に示すように、シリコーンの添加量が少ないほど、酸価の上昇を抑制することができることがわかった。また、ナトリウム塩を、ナトリウムとして2.0ppm添加することで、酸価の上昇をより抑制することができることがわかった。また、重合物については、表2に示すように、シリコーンの添加量が多いほど、重合物の増加を抑制することができることがわかった。また、ナトリウム塩を、ナトリウムとして2.0ppm添加した場合には、添加しない場合と比べて、重合物の増加が促進されることがわかった。
【0027】
本実施例では、加熱調理時の酸価の上昇および重合物の増加をバランス良く抑制することができる加熱調理用油脂組成物として、加熱温度180℃での連続フライ調理を70時間行っても、酸価を2.1以下に抑制することができ、重合物を8.0%以下に抑制することができる加熱調理用油脂組成物の組成を探索した。その結果、表1に示すように、フライ調理を70時間経過した後の試験油のうち、試験区4,6~10の試験油において、酸価が2.1以下となり、表2に示すように、フライ調理を70時間経過した後の試験油のうち、試験区1~6,8の試験油において、重合物が8.0%以下となった。
【0028】
このことから、試験区4,6,8の試験油、すなわち、シリコーンを0.7ppm~2.0ppm含有し、ナトリウム塩を、ナトリウムとして2.0ppm含有する試験油が、連続フライ試験70時間でも、酸価を2.1以下とすることができ、かつ、重合物を8.0%以下とすることができる、加熱調理時の酸価上昇および重合物増加をバランス良く抑制することができる加熱調理用油脂組成物であることが示唆された。
【0029】
さらに、ナトリウム塩の含有量に応じた、油脂の酸価と重合物の抑制効果を確認するために、シリコーンの含有量は変えずに、リンゴ酸二ナトリウムの含有量だけを変えて、試験油の酸価と重合物を測定した。具体的には、下記表3および表4に示すように、上述した試験区6の試験油を基準とし、試験区6の試験油よりもリンゴ酸二ナトリウムの含有量を少なくした試験区6-1,6-2の試験油を調製した。より具体的には、試験区6-1では、リンゴ酸二ナトリウムをナトリウムとして1.0ppm含有するように試験油を調製し、試験区6-2では、リンゴ酸二ナトリウムをナトリウムとして0.5ppm含有するように試験油を調製した。そして、試験油6-1,6-2についても、連続フライ試験前の未使用の試験油と、各経過時間におけるフライ調理後の試験油とをそれぞれ採取し、酸価および重合物の量を測定し、その測定結果を、試験油6の測定結果とともに表3および表4に示した。なお、表3は、試験油の酸価の測定結果を示し、表4は、試験油の重合物の測定結果を示している。
【表3】
【表4】
【0030】
さらに、下記表5および表6に示す実施例では、リンゴ酸二ナトリウムを炭酸ナトリウムに変えて、試験区11,11-1,11-2の試験油を調製した。具体的には、試験区11では、炭酸ナトリウムをナトリウムとして2.0ppmとなるように添加して試験油を調製し、試験区11-1では、炭酸ナトリウムをナトリウムとして0.5ppmとなるように添加して試験油を調製し、試験区11-2では、炭酸ナトリウムをナトリウムとして1.0ppmとなるように添加して試験油を調製した。そして、試験油11,11-1,11-2についても、連続フライ試験前の未使用の試験油と、各経過時間におけるフライ調理後の試験油とをそれぞれ採取し、酸価および重合物の量を測定し、その測定結果を表5および表6に示した。
【表5】
【表6】
【0031】
表3~表6に示す測定結果から、リンゴ酸二ナトリウムであっても、炭酸ナトリウムであっても、添加量をナトリウムとして0.5ppm~2.0ppmとすることで、連続フライ試験70時間において、酸価を2.1以下に抑制することができた。特に、炭酸ナトリウムを添加した場合では、ナトリウムとして0.5~2.0ppmのいずれの場合でも、連続フライ試験70時間において、酸価を1.71以下と抑制することができ、リンゴ酸二ナトリウムを添加した場合よりも酸価上昇抑制効果が高くなることが分かった。
【0032】
また、重合物の増加に関しても、リンゴ酸二ナトリウムおよび炭酸ナトリウムのいずれの場合も、ナトリウムとして0.5ppm~2.0ppmの含有量とすることで、連続フライ試験70時間においても重合物を8.0%以下に抑制することができた。特に、炭酸ナトリウムよりも、リンゴ酸二ナトリウムを用いた方が、重合物増加抑制効果が高いことが分かった。
【0033】
このように、ナトリウム塩を、ナトリウムとして0.5~2.0ppmとなるように添加することで、連続フライ試験70時間において酸価を2.1以下とすることができ、重合物を8.0%以下とすることができ、加熱調理時の酸価上昇および重合物増加をバランス良く抑制することができる加熱調理用油脂組成物とすることができた。また、添加するナトリウム塩の種類や添加量に応じて、加熱調理時の酸価上昇抑制特性や重合物増加抑制特性を変化させることができ、これにより、添加するナトリウム塩の種類や添加量を調整することで、連続フライ試験70時間において、酸価を2.1以下とすることができ、かつ、重合物を8.0%以下とすることができる加熱調理用油脂組成物を提供することができることも分かった。たとえば、酸価上昇抑制を重視する場合には、炭酸ナトリウムを含有するように加熱調理用油脂組成物を構成することができるし、重合物増加抑制を重視する場合や、風味を重視する場合には、リンゴ酸二ナトリウムを含有するように、加熱調理用油脂組成物を構成することができる。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態例の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。