(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-21
(45)【発行日】2024-08-29
(54)【発明の名称】インコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置
(51)【国際特許分類】
G03H 1/04 20060101AFI20240822BHJP
G03H 1/22 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G03H1/04
G03H1/22
(21)【出願番号】P 2021001520
(22)【出願日】2021-01-07
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】井口 義則
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132781(WO,A1)
【文献】特表2019-511743(JP,A)
【文献】特表2016-533542(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0173160(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108594617(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を構成する各点光源からのインコヒーレント光を2系に分離し、撮像素子上で互いに干渉させてホログラム像を得るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系であって、
前記点光源から発散するインコヒーレント光を出力する撮像レンズと、
該撮像レンズからの該インコヒーレント光を入射光として受光する空間光変調単位素子群を有し、該空間光変調単位素子群のうちの一部の単位素子は該入射光を収束または発散させるように変調した第1インコヒーレント光を出力するとともに、該空間光変調単位素子群のうちのその余の単位素子は該入射光を変調せずに第2インコヒーレント光を出力する第1の空間光変調手段と、
該第1の空間光変調手段から出力された前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光を受光する別の空間光変調単位素子群を有し、該別の空間光変調単位素子群のうちの一部の単位素子は前記第1インコヒーレント光を変調せずに出力するとともに、該別の空間光変調単位素子群のうちのその余の単位素子は前記第2インコヒーレント光を収束または発散させるように変調して出力する第2の空間光変調手段と、
前記第2の空間光変調手段から出力された前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光を互いに重畳させるとともに、該第2の空間光変調手段の位置におけるこれら2つのインコヒーレント光の光路長差よりも小さい光路長差とし得る光軸上の位置に配された撮像素子とを、
被写体側から順に配設してなることを特徴とするインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系。
【請求項2】
前記第1の空間光変調手段の有効半径に比して、前記撮像素子上に結像されたホログラム像の半径が大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系。
【請求項3】
前記点光源からのインコヒーレント光を、斜め偏光とする第1および第2の偏光子を備え、該第1の偏光子は前記点光源と第1の空間光変調手段の間に配され、該第2の偏光子は前記第2の空間光変調手段と前記撮像素子の間に配されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系。
【請求項4】
前記第1の偏光子は、前記点光源からの光を斜め偏光とすることで、前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光を、偏光方向が互いに直交する直線偏光として合成された状態とし、前記第2の偏光子は、前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光の偏光方向をいずれも斜め偏光として揃えることを特徴とする請求項3に記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系。
【請求項5】
前記点光源から前記撮像素子の間のいずれかの位置に帯域制限フィルタが配されていることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1項に記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系。
【請求項6】
前記第1の空間光変調手段から出力された光のうち、前記第1インコヒーレント光が変調を受けた収束光であって前記第2インコヒーレント光が変調を受けていない平行光であり、前記第2の空間光変調手段から出力された光のうち、前記第1インコヒーレント光が変調を受けていない透過光であって前記第2インコヒーレント光が変調を受けた発散光であり、前記第1の空間光変調手段による第1コヒーレント光に対する焦点距離f
1と、前記第2の空間光変調手段による第2コヒーレント光に対する焦点距離f
2と、前記第1の空間光変調手段および前記第2の空間光変調手段の距離Lが下式(1)、(2)、(3)により表されることを特徴とする請求項1~5のうちいずれか1項に記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系。
【数1】
ここで、
R:前記第1の空間光変調手段の有効半径
r:ホログラム半径
Z
h:前記第1の空間光変調手段と前記撮像素子の撮像面との距離
L:前記第1の空間光変調手段と前記第2の空間光変調手段との距離
である。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか1項に記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系と、該インコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系により得られた被写体のホログラム像データからホログラム再生像を得るための演算処理を施す演算手段と、を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項8】
前記演算手段の後段に、該演算手段から出力されたホログラム像情報の、記録を行う記録手段および表示を行う表示手段の少なくとも一方を配設してなることを特徴とする請求項7に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系および撮像装置に関し、詳しくは、インコヒーレント光の自己干渉原理を応用した3次元テレビシステムや立体顕微鏡等に用いられるインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インコヒーレントホログラフィは、自然光や屋内照明、LED等の干渉性の低いインコヒーレント光源により照明された物体のホログラムを形成し、ホログラムから計算により物体の再構成像を得る手法であり、一般的な照明のもとで物体の3次元情報を取得できることから、近年、精力的に研究が進められている。
その中でも、Fresnel incoherent correlation holography(FINCH)と呼ばれる手法が知られている。このFINCHの手法は、物体の1点から射出した光線を2つの光線に分割し、別々の光路を通った光線を互いに干渉させてホログラムを形成するものである。物体の3次元情報が得られることに加え、結像光学系を用いる一般的な撮像手法に比べて像の解像度を向上させることができるといった利点があり、注目されている(非特許文献1、2、特許文献1を参照)。
【0003】
(従来技術1)
上述した非特許文献2にはFINCHの理論的考察が記述されている。このFINCHの手法による基本的な撮像光学系101の構成(従来技術1とする)を
図3に示す。主な構成要素は帯域制限フィルタ122、撮像レンズ111(焦点距離f
0)、空間光変調素子142(Space light modulator:以下SLMと略記する)、撮像素子121である。
【0004】
撮像レンズ111よりも光入射側に焦点距離f0だけ離れた、光軸上に位置する点光源Oから出て図の右側へ進む光は、撮像レンズ111を通過後に平行光となり、SLM142に到達する。SLM142は多数の画素(単位素子)からなり、例えば、全単位素子の中からランダムに選択した半数を、焦点距離f1の収束球面波を形成するように光を変調する単位素子として設定するとともに、その余の単位素子(半数の単位素子)は光を変調せず、そのまま透過させる単位素子として設定する。
こうすることで、SLM142に入射する光のうちの半分は焦点距離f1の収束球面波を形成するように撮像素子121に向かって直進し、一方、その余のSLM142に入射する光はSLM142で変調を受けずに撮像素子121に向かって直進する。これらの光は撮像素子121の撮像面で干渉し、ホログラムを形成する。例えば、光路L1(O→A→B→X)と光路L2(O→C→D→X)を通った光が互いに干渉する。
【0005】
Z
h=2f
1のとき(Z
hは、SLM142と撮像面(撮像素子121)との距離)、平面波(平行光)と球面波が完全にオーバーラップし、ホログラムから再構成される画像の解像度を最も高くすることができることから、
図3に示す従来技術1においてもZ
h=2f
1に設定されている。また、従来技術1においては、SLM142の有効半径Rとホログラム半径rは等しく設定されている。
【0006】
また、インコヒーレント光を用いる干渉光学系で2つの光線に干渉を起こさせるためには、これらの光線の光路長差δは下式1-1を満たす必要がある。なお、以下の説明においては、帯域制限フィルタ122を通過した後の光のスペクトル分布が、λを中心波長とするガウス分布であると仮定している。
δ≦λ2/Δλ (1-1)
ここで、
δ:2つの光線の光路長差
λ:光の中心波長
Δλ:光の波長帯域
である。
【0007】
逆に、2つの光線の光路長差δが知られているとき、光の波長帯域Δλは下式1-2を満たす必要がある。
【0008】
Δλ≦λ2/δ (1-2)
上式1-2を満たすように波長帯域を制限するためには、例えば撮像レンズ111の光入射側に帯域制限フィルタ122を挿入する手法が知られている。
【0009】
ここで、
図3に基づき、光路長差δと、必要とされる光の波長帯域幅Δλを計算する。
光路L1における光路O→A→Bと、光路L2における光路O→C→Dは、光軸に対して互いに対称をなし、両者の光路長は同じ長さであることから、光路L1における光路B→X((BX)と表す)と、光路L2におけるD→X((DX)と表す)との差を計算すれば光路長差δを求めることができる。
【0010】
ここで、光路(BX)の光路長は、下式2-1に示すように表される。また、光路(DX)の光路長は、下式2-2に示すように表される。
光路長差δは、下式2-3に示すように表される。
【0011】
【数1】
例えば、光の中心波長λ=633nm、SLM142の有効半径R=3.5mm、SLM142と撮像面(撮像素子121)との距離Z
h=200mmとすると、(BX)=200mm、(DX)=200.122mmとなり、2つの光線の光路長差δは下式2-4で、光の波長帯域Δλは下式2-5で表される。
【0012】
δ=0.122mm (2-4)
Δλ≦3.28nm (2-5)
が得られる。
【0013】
(従来技術2)
下記非特許文献2には、別の例として、
図4に示すような撮像光学系201が記載されている(従来技術2と称する)。
図4に示す従来技術2の構成のものでは、
図3に示す従来技術1のものに比べて、ホログラム半径rを大きくすることができる(r>R)。ホログラム半径rを大きくすることにより、従来技術1と同じ画素ピッチの撮像素子221を用いた場合でも、より忠実に(高次の縞模様まで)ホログラムを撮影することができ、再構成像の空間解像度を高めることができる。
【0014】
撮像レンズ211よりも光入射側に焦点距離f0だけ離れた、光軸上に位置する点光源Oから出て図の右側へ進む光は、レンズ211を通過後に平行光となり、SLM242に到達する。SLM242は多数の画素(単位素子)からなり、例えば、全単位素子の中からランダムに選択した半数を、焦点距離f1(焦点はSLM242の光入射側)で光が発散するように光を変調する単位素子として設定するとともに、その余の単位素子(半数の単位素子)を、焦点距離f2(焦点はSLM242の光射出側)で光を収束するように変調する単位素子として設定する。
【0015】
このように設定された撮像光学系201において、上記焦点距離f
1および上記焦点距離f
2は三角形の相似関係より、下式3-1および下式3-2により求められる。
【数2】
ここで、
R:SLM242の有効半径
r:ホログラム半径
Z
h:SLM242と撮像面(撮像素子221)との距離
である。
【0016】
ここで、
図4に基づき、光路長差δと、必要とされる光の波長帯域幅Δλを計算する。
光路(BX)の光路長は、下式3-3に示すように表される。また、光路(DX)の光路長は、下式3-4に示すように表される。
光路長差δは、下式3-5に示すように表される。
【0017】
【0018】
例えば、光の中心波長λ=633nm、SLM242の有効半径R=3.5mm、ホログラム半径r=35mm、SLM242と撮像素子221の撮像面との距離Zh=200mmとすると、f1=22.22mm、f2=18.18mm、(BX)=202.47mm、(DX)=203.67mmとなり、2つの光線の光路長差δは下記計算結果4-1で、光の波長帯域Δλは下記計算結果4-2で、各々表される。
【0019】
δ=1.2mm (4-1)
Δλ≦0.33nm (4-2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【非特許文献】
【0021】
【文献】J.Rosen, et al., “Digital spatially incoherent Fresnel holography”, Optics Letters, Vol.32, No.8, p.912 (2007)
【文献】J.Rosen, et al., “Theorical and experimental demonstration of resolution beyond the Rayleigh limit by FINCH fluorescence microscopic imaging”, OPTICS EXPRESS, Vol.19, No.27, p.26249 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述した従来技術1に係る
図3の撮像光学系101においては、点光源の波長帯域が可視光の白色光(波長範囲は約400nm~800nm)である場合、元々の帯域幅は約400nmであるのに対し、帯域制限フィルタで3.28nm以下に帯域を制限する必要があり、光量は約1/120(3.28/400)に低減されてしまう。
帯域制限により撮像素子121に届く光量(撮像素子121に入射する信号量)が低減してしまうため、撮像時のS/N比が低下し、これが原因で再構成像のS/N比が大幅に低下するという問題がある。
【0023】
さらに、上述した従来技術2に係る
図4の撮像光学系201においては、SLM242と撮像素子221の撮像面との距離Z
hを
図3と同じ値に設定し、点光源Oの波長帯域を可視光の白色光(波長範囲は約400nm~800nm)とした場合、元々の帯域幅は約400nmであるのに対し、帯域制限フィルタ222によって0.33nm以下に波長帯域を制限する必要があり、光量は約1/1212(0.33/400)に低減されてしまう。これは
図3の従来技術1の撮像光学系101のさらに1/10以下である。
【0024】
すなわち、
図4に示す撮像光学系201の構成は、
図3の撮像光学系101に比べて、ホログラムをより忠実に撮像して再構成像の空間解像度を高めることができる利点はあるものの、光量損失がさらに大きくなってしまい、再構成像のS/N比が一層低下するため、実用性がより低くなってしまう。
【0025】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、従来の構成のものと比べ、波長帯域を広くして光量損失を低減することが可能なインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系は、
被写体を構成する各点光源からのインコヒーレント光を2系に分離し、撮像素子上で互いに干渉させてホログラム像を得るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系であって、
前記点光源から発散するインコヒーレント光を出力する撮像レンズと、
該撮像レンズからの該インコヒーレント光を入射光として受光する空間光変調単位素子群を有し、該空間光変調単位素子群のうちの一部の単位素子は該入射光を収束または発散させるように変調した第1インコヒーレント光を出力するとともに、該空間光変調単位素子群のうちのその余の単位素子は該入射光を変調せずに第2インコヒーレント光を出力する第1の空間光変調手段と、
該第1の空間光変調手段から出力された前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光を受光する別の空間光変調単位素子群を有し、該別の空間光変調単位素子群のうちの一部の単位素子は前記第1インコヒーレント光を変調せずに出力するとともに、該別の空間光変調単位素子群のうちのその余の単位素子は前記第2インコヒーレント光を収束または発散させるように変調して出力する第2の空間光変調手段と、
前記第2の空間光変調手段から出力された前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光を互いに重畳させるとともに、該第2の空間光変調手段の位置におけるこれら2つのインコヒーレント光の光路長差よりも小さい光路長差とし得る光軸上の位置に配された撮像素子とを、
被写体側から順に配設してなることを特徴とするものである。
【0027】
また、前記第1の空間光変調手段の有効半径に比して、前記撮像素子上に結像されたホログラム像の半径が大きくなるように構成されていることが好ましい。
【0028】
また、前記点光源からのインコヒーレント光を、斜め偏光とする第1および第2の偏光子を備え、該第1の偏光子は前記点光源と第1の空間光変調手段の間に配され、該第2の偏光子は前記第2の空間光変調手段と前記撮像素子の間に配されてなることが好ましい。
ここで、「斜め偏光」とは、縦偏光(例えば
図1では紙面内の偏光)および横偏光(例えば
図1では、紙面に垂直となる偏光)の偏向方向を45度傾けた直線偏光を称するものとする。
【0029】
また、前記第1の偏光子は、前記点光源からの光を斜め偏光とすることで、前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光を、偏光方向が互いに直交する直線偏光として合成された状態とし、前記第2の偏光子は、前記第1インコヒーレント光および前記第2インコヒーレント光の偏光方向をいずれも斜め偏光として揃えることが好ましい。
また、前記点光源から前記撮像素子の間のいずれかの位置に帯域制限フィルタが配されていることが好ましい。
【0030】
また、前記第1の空間光変調手段から出力された光のうち、前記第1インコヒーレント光が変調を受けた収束光であって前記第2インコヒーレント光が変調を受けていない平行光であり、前記第2の空間光変調手段から出力された光のうち、前記第1インコヒーレント光が変調を受けていない透過光であって前記第2インコヒーレント光が変調を受けた発散光であり、前記第1の空間光変調手段による第1インコヒーレント光に対する焦点距離f1と、前記第2の空間光変調手段による第2インコヒーレント光に対する焦点距離f2と、前記第1の空間光変調手段および前記第2の空間光変調手段の距離Lが下式(1)、(2)、(3)により表されることが好ましい。
【0031】
【数4】
ここで、
R:前記第1の空間光変調手段の有効半径
r:ホログラム半径
Z
h:前記第1の空間光変調手段と前記撮像素子の撮像面との距離
L:前記第1の空間光変調手段と前記第2の空間光変調手段との距離
である。
【0032】
また、本発明の撮像装置は、上述したいずれかに記載のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系と、該インコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系により得られた被写体のホログラム像データからホログラム再生像を得るための演算処理を施す演算手段と、を備えたことを特徴とするものである。
また、前記演算手段の後段に、該演算手段から出力されたホログラム像情報の、記録を行う記録手段および表示を行う表示手段の少なくとも一方を配設してなることが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置によれば、従来の構成のものと比べて、波長帯域を広くして光量損失を低減することができる。
【0034】
従来のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置においては、被写体を構成する点光源から射出され、SLMにより2系に分離された第1および第2のインコヒーレント光が撮像素子上で再び合波されるまでのこれら2つのインコヒーレント光の光路長差は、SLMから撮像素子までの距離が小さくなる程、また、ホログラム半径rとSLMの有効半径の比r/Rが大きくなる程、大きくなっていた。
このため、2つのインコヒーレント光を干渉させるために、SLMから撮像素子までの距離やホログラム半径に応じて、光の波長帯域を狭くする必要があり、光量の大幅な減少を阻止することが難しかった。
【0035】
これに対して、本発明のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置においては、2つのSLMを備えており、第1のSLMにより分離され、光路長差が生じた第1および第2のインコヒーレント光は、第2のSLMにより、上記光路長差とは逆の光路長差が与えられるように設定されている。したがって、SLMから撮像素子までの距離が小さくなっても、また、ホログラム半径がSLMの有効半径に比べて大きくなっても、光の波長帯域を狭くする必要がなくなり、光量の減少を阻止することが可能である。
【0036】
なお、前述した従来技術1において、撮像光学系101内に2つの偏光子を挿入するタイプの変型例も知られているが、本発明のように、波長帯域を広くして光量損失を低減する、との作用効果を得ることができない点では、上述した従来技術1、2と変わるところがない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の第1の実施例に係るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系および撮像装置を示す概略図である。
【
図2】本発明の第2の実施例に係るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系および撮像装置を示す概略図である。
【
図3】従来技術1に係るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系を示す概略図である。
【
図4】従来技術2に係るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に係るインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系および撮像装置について図面を用いて説明する。
(第1の実施例)
図1に本実施形態の第1の実施例に係る撮像光学系1の概略図を示す。なお、この撮像光学系1はFINCHの光学系の構成を応用したものである。
撮像光学系1の主要な構成要素は、被写体(点光源O)側から順に、帯域制限フィルタ22、撮像レンズ11(焦点距離f
0)、偏光子31(P1)、第1の空間光変調素子41(SLM1)、第2の空間光変調素子42(SLM2)、偏光子32(P2)、および撮像素子21である。なお、帯域制限フィルタ22は状況に応じて適宜、非設置とすることも可能である。
【0039】
本実施例の撮像光学系1では、被写体からのインコヒーレント光を2系に分け、その後、互いに干渉させて、拡大されたホログラム像を撮像素子21により得るものであり、その際に、再構成像の空間解像度を高めつつ、光量損失の低減を図るようにしている。
このような効果を奏する撮像光学系1は、主として以下のような特徴的な構成を有している。
【0040】
すなわち、第1の特徴は、第1の空間光変調素子41(以下、SLM1と称する)によって分離され、形成された2つの光路L1、L2の間の光路長差δを、第2の空間光変調素子42(以下、SLM2と称する)を用いて補償し、撮像素子21の撮像面上において、光路長差δが0となる2つの光路L1、L2の光を互いにオーバーラップするように重畳したことにある。
【0041】
また、第2の特徴は、SLM1の有効半径Rよりも撮像素子21上に形成されるホログラム像の半径rの方が大きくなるように設定することにより、ホログラムの形状を忠実に再現し、ホログラム再構成像の空間解像度を高めたことにある。
以下、これら2つの特徴を中心として、撮像光学系1の具体的な説明を行う。
【0042】
被写体の各輝点を構成する点光源Oから射出された発散光であるインコヒーレント光は、帯域制限フィルタ22により通過光の波長帯域を制限され、撮像レンズ11により平行光とされて偏光子P1に入射する。偏光子P1を透過したインコヒーレント光は縦偏光(例えば
図1では紙面内の偏光)および横偏光(例えば
図1では、紙面に垂直となる偏光)の成分からなる斜め偏光となり、SLM1に入射する。
【0043】
本実施例の撮像光学系1においては、SLMが特定の方向に偏光した光のみを変調し、それと直交する方向に偏光した光は透過する(SLMの特性に偏光依存性がある)性質を利用している。SLM1は多数の単位素子をアレイ状に配列してなり、特定の偏光方向のインコヒーレント光(本例では横偏光)のみを焦点距離f1の収束球面波に変換するように変調し、SLM2に向けて射出する(光路L2を形成する)。一方これと直交する方向(本例では縦偏光)のインコヒーレント光を変調することなく透過させ、SLM2に向けて射出する(光路L1を形成する)ように設定される。
【0044】
SLM2は多数の単位素子をアレイ状に配列してなり、特定の偏光方向のインコヒーレント光(本例では縦偏光)のみを焦点距離f2の発散球面波に変換するように変調し、撮像素子に向けて射出する(光路L1を形成する)。一方これと直交する方向(本例では横偏光)のインコヒーレント光は変調することなく透過させる(光路L2を形成する)。
【0045】
このようにしてSLM2から射出された、2つの光路L1、L2の光は、偏光子(P2)によって両者が共に斜め(45°)偏光となるように(45°の偏光成分を持つように)構成されるので、撮像素子21の撮像面上において互いに干渉し、その干渉縞像(ホログラム像)が撮像素子21により撮像される。
すなわち、光路L1(O→A→B→E→X)と光路L2(O→C→D→X)を通過した2系の光が撮像素子21の撮像面上において互いに干渉することになる。
【0046】
ここで、光路L1と光路L2の光路長差δについて検証する。
まず、光路L1における光路O→A→Bと、光路L2における光路O→C→Dは、光軸に対して互いに対称をなし、両者の光路長は同じ長さであることから、光路L1における光路B→E→X((BEX)と表す)と、光路L2におけるD→X((DX)と表す)との差を計算すれば光路長差δを求めることができることになる。
【0047】
光路(BEX)の光路長は、下式31に示すように表される。また、光路(DX)の光路長は、下式32に示すように表される。したがって、光路長差δは、下式33に示すように表されるから、与えられたR、r、Zhのもとで適当なL(LはSLM1とSLM2の距離)を選択することで光路長差δ=0((DX)=(BEX))とすることができる。
【0048】
【数5】
すなわち、下式34が成立するようにLを決定すればよい。
【0049】
【数6】
したがって、Lは下式35を満たすように設定すればよい。
【0050】
【数7】
このとき、f
1、f
2は三角形の相似関係を用いて、下式36、下式37で計算することができるので、δ=0に設定した現実の光学系を構築することができる。
【0051】
上式35の条件下では、原理的にはすべての波長で光路長が等しくなるため、帯域制限フィルタ22は必要とされない。したがって、従来技術における、帯域制限による光量損失の問題を抜本的に解決できるため、撮像時のS/N比を大幅に向上させ、結果として再構成像のS/N比を大幅に向上させることができる。
【0052】
なお、実際には、撮像レンズやSLMの収差、焦点距離の誤差等により、光路長差δが厳密にゼロになることは考えにくいことから、帯域制限フィルタ22を配置することが有効である。ただ、その場合でも、従来の光学系に比べ、帯域幅を広くすることができる、との効果を奏することができる。
【0053】
【数8】
ここで、
R:前記第1の空間光変調手段の有効半径
r:ホログラム半径
Z
h:前記第1の空間光変調手段と前記撮像素子の撮像面との距離
L:前記第1の空間光変調手段と前記第2の空間光変調手段との距離
である。
また、光路長差δがゼロでない場合は、光の波長帯域Δλは下式38により得ることができる。
Δλ≦λ
2/δ (38)
【0054】
また、SLM1の有効半径Rよりも撮像素子21の撮像面上に結像されるホログラム像の半径rが大きくなるように設定しているので、ホログラムをより忠実に撮像して再構成像の空間解像度を高めることができる。
【0055】
すなわち、本実施例の構成では
図4に示す従来技術2の構成と同様に、ホログラム半径をより拡大したものとすることができるので、
図3に示す従来技術1の構成に比べてホログラムを忠実に撮影できる効果も併せて享受することができる。したがって、本実施例によれば、S/N比が高く、かつ空間解像度の高い再構成像を得ることができる。
【0056】
また、Zh-LとZhが、Rとrに比べ十分大きいときには、下式40に示す近似を用いて下式39を解くこともできる。
【0057】
【0058】
すなわち、δ=0となる場合は、上式39と上式40が等しいとおけるから、これをLについて解くと、下式41を得る。
【0059】
【0060】
以上の式について、例えば、R=3.5mm、r=35mm、Zh=200mm、λ=633nm、と実用的な数値に設定すると、以下のような計算結果が得られる。
L=66.12mm (計算結果1、上式41を用いて計算)
f1=14.88mm (計算結果2、上式36を用いて計算)
f2=18.18mm (計算結果3、上式37を用いて計算)
【0061】
上記計算結果1により得られたLの値を、近似を使わない式に代入すると、以下のような値に設定することができる。
(BEX)=203.66mm (計算結果4、上式31に計算結果1を代入して計算)
(DX)=203.67mm (計算結果5、上式32を用いて計算)
δ=0.01mm (計算結果6、上式33を用いて計算)
Δλ≦40nm (計算結果7、上式38に計算結果6を代入して計算)
【0062】
本実施例における光の波長帯域Δλは、上述したような近似計算を用いて算出したLの値にも拘わらず、上記従来技術1の10倍以上、上記従来技術2の100倍以上の帯域幅を得ることができ、格段に光量を大きくできることが明らかである。
【0063】
(第2の実施例)
図2に本実施形態の第2の実施例に係る撮像光学系1´を示す。第1の実施例との違いは、偏光子を用いていないこと、および第1の空間光変調素子41´(以下、SLM1´と称する)、および第2の空間光変調素子42´(以下、SLM2´と称する)が偏光依存性をもたないことである。
なお、第2の実施例の構成部材において、第1の実施例の構成部材と対応するものについては、第1の実施例の構成部材の符号に´(ダッシュ)を付して表し、その構成部材自体の主な説明は省略する。
【0064】
撮像レンズ11´よりも光入射側に焦点距離f0だけ離れた、光軸上に位置する点光源Oから出て図の右側へ進む光は、撮像レンズ11´を通過後に平行光となり、SLM1´に到達する。SLM1´は多数の画素(単位素子)からなり、例えば、全単位素子の中からランダムに選択した半数を、平面波が入射した場合に焦点距離f1の収束球面波を形成するように光を変調する単位素子として設定するとともに、その余の単位素子(半数の単位素子)は光を変調せず、そのまま透過させる単位素子として設定する。こうすることで、SLM1´に入射する光のうちの半分は焦点距離f1の収束球面波を形成するように屈折し、SLM2´に向かって直進し、一方、その余のSLM1´に入射する光はSLM1´で変調を受けずに、そのままSLM2´に向かって直進する。
【0065】
SLM2´は多数の画素(単位素子)からなり、例えば、全単位素子の中からランダムに選択した半数を、平面波が入射した場合に焦点距離f2の発散球面波を形成するように光を変調して屈折する単位素子として設定するとともに、その余の単位素子(半数の単位素子)は光を変調せず、そのまま透過させる単位素子として設定する。こうすることで、SLM2´に入射する光のうち光路L1を進む光の半分は焦点距離f2の発散球面波を形成するように撮像素子21´に向かって直進し、一方、光路L1を進む光のその余のSLM2´に入射する光はSLM2´で変調を受けずに、そのまま撮像素子21´に向かって直進する。また、SLM2´に入射する光のうち光路L2を進む光の半分は変調を受けて、光軸との角度がより開くように屈折し、一方、光路L2を進む光のその余のSLM2´に入射する光はSLM2´で変調を受けずに、そのまま撮像素子21´に向かって直進する。
SLM1´で変調を受けず、かつ、SLM2´で変調を受けた成分の光と、SLM1´で変調を受け、かつ、SLM2´で変調を受けない成分の光とが撮像面で干渉し、ホログラムを形成する。例えば、光路(O→A→B→E→X)と光路(O→C→D→X)を通った光が互いに干渉する。
【0066】
第2の実施例では、光路L1を進む光のうち、SLM2´で変調を受けない光は、ホログラムの形成に寄与しない(干渉しない)不要光となる。同様に光路L2を進む光のうちSLM2´で変調を受ける光も不要光となる。これらの不要光が撮像素子に到達するため、撮像されるホログラムに不要な成分が重畳され、第1の実施例に比べてホログラムのコントラストが低くなるが、簡易な構成としつつ、2つの干渉光の光路長差を低減する、との効果を奏することができる。
なお、SLM1´、SLM2´の焦点距離f1、f2や光路差長の計算は、第1の実施例と同じである。
【0067】
(撮像装置)
本実施形態の撮像装置としては、上述した実施形態(第1の実施例および第2の実施例)に係る撮像光学系を備え、
図1に示すように、撮像素子21からのホログラム像情報に演算を施してホログラム再生像を得るための演算手段51を備えている。また、この演算結果に基づきホログラム再生像を表示する表示手段52、およびこの演算結果に基づきホログラム再生像を記録する記録手段53の両者または少なくとも一方を備えることが好ましい。
【0068】
(変更態様)
なお、本発明のインコヒーレントディジタルホログラム用撮像光学系およびそれを用いた撮像装置としては上述した実施形態のものに限られるものではなく、種々の態様の変更が可能である。例えば、上記第1の実施例においては、2つの空間光変調素子が共に偏光依存型とされ、光路中の所定位置に2つの偏光子が配されているが、これに限られるものではなく、偏光依存型の空間光変調素子を用いる場合にも、光路中に偏光子を1つ配する、または全く配しない構成をとり得る。
【0069】
また、空間光変調素子が偏光依存型であるか、偏光無依存型であるかに拘らず、光路中に、種々の機能素子を配設して、撮像光学系としての特性を向上させることができる。
また、上記実施形態においては、帯域制限フィルタ22が被写体と撮像レンズの間に配置されているが、帯域制限フィルタ22は、撮像レンズとSLMの間や、撮像素子の直前など、任意の位置に配置することができる。同様に、偏光子(P1)31は、第1の空間光変調素子41よりも点光源側に配置すればよく、例えば、点光源と撮像レンズの間に配置することができる。
【0070】
また、上記実施形態においては、2つの空間光変調素子41、42として、透過型の液晶表示装置を用いているが、反射型の液晶表示装置(LCOS)に変更することも可能である。
【0071】
また、上記実施形態においては、光路L1の光が、まず平行光とされた後、発散光とされ、一方、光路L2の光が収束光とされるように構成されているが、平行光、発散光、収束光についての設定は必ずしも上記実施形態のものに限られない。要は、両光路L1、L2の光路長差が小さくなるように、可能ならば0となるように設定することができる構成とされていればよい。
【符号の説明】
【0072】
1、1´、101、201 撮像光学系
11、11´、111、211 撮像レンズ
21、21´、121、221 撮像素子
22、22´、122、222 帯域制限フィルタ
31、32 偏光子(P1、P2)
41、41´ 第1の空間光変調器(SLM1)
42、42´ 第2の空間光変調器(SLM2)
51、51´ 演算手段
52、52´ 表示手段
53、53´ 記録手段
142、242 空間光変調器(SLM)