(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電磁誘導型発電素子用の電源回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240823BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H02M7/12 F
H02M3/155 H
(21)【出願番号】P 2020111945
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-04-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、研究タイプ「個人型研究(さきがけ)」、研究領域「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」、研究題目「抵抗変化素子を活用した環境発電用回路技術の創成」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 赳彬
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-156678(JP,A)
【文献】特開昭61-98159(JP,A)
【文献】特開2011-50226(JP,A)
【文献】特開2017-118764(JP,A)
【文献】特開平8-237998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部コイルおよび内部抵抗を含む電磁誘導型発電素子から電力を取り出す電源回路であって、
前記内部コイルとともに昇圧コンバータを形成するスイッチングトランジスタ、整流素子およびキャパシタと、
前記電磁誘導型発電素子の交流出力の半波の間に、
オン時間を固定して、前記スイッチングトランジスタを複数回、スイッチングさせるコントローラと、
を備
え、
前記整流素子の一端は、前記スイッチングトランジスタの一端と接続されていることを特徴とする電源回路。
【請求項2】
前記内部コイルのインダクタンスをL、前記内部抵抗をRとするとき、前記スイッチングトランジスタのオン時間は、時定数τ=L/Rの0.3~3倍であることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項3】
前記電源回路は、前記内部コイルと直列に接続されるインダクタをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の電源回路。
【請求項4】
前記内部コイルのインダクタンスをL
1、前記インダクタのインダクタンスをL
2、前記内部抵抗をRとするとき、前記スイッチングトランジスタのオン時間は、時定数τ=(L
1+L
2)/Rの0.3~3倍であることを特徴とする請求項3に記載の電源回路。
【請求項5】
前記電源回路において、インダクタ電流を遮断したときの電圧変化の符号から前記インダクタ電流の向きを検出し、整流を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電源回路。
【請求項6】
前記電磁誘導型発電素子は、磁歪式振動発電素子であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境発電に関する。
【背景技術】
【0002】
光、熱、振動、風などの再生可能エネルギー(環境エネルギーともいう)を電力に変換する環境発電素子(エネルギーハーベスト素子とも称される)が注目されている。
【0003】
発電素子は、大きく、直流出力のものと、交流出力のものに分けられる。発電素子が電力を供給すべき負荷回路は直流の電源を必要とするため、交流出力の発電素子を用いる場合、その出力を交流から直流に変換する必要がある。
【0004】
一般に、交流を直流に変換するためには、整流回路が用いられる。発電素子の出力電圧がダイオードの順方向電圧Vfよりも十分に大きい場合、ダイオード整流回路を用いることができるが、発電素子の出力電圧がそれほど大きくない場合、同期整流回路(同期検波回路)を用いる必要がある。同期整流回路は、複数のトランジスタを含み、発電素子の交流出力と同期して、複数のトランジスタをスイッチングすることにより、交流電圧を直流電圧に変換する。
【0005】
コイルの起電力を利用する電磁誘導型の発電素子と同期整流回路を組み合わせると、発電素子の大きなリアクタンスが共振回路を形成するため、発電素子の電流が非ゼロのタイミングで同期整流回路の状態を遷移させると(ハードスイッチング)、回路が発振する。
【0006】
整流回路を用いずに、電磁誘導型の発電素子から直接電力を取り出す技術が提案されている(非特許文献1)。この技術は、SMFE(Synchronized Magnetic Flux Extraction)と称される。
図1は、SMFE技術を用いたエネルギ再生回路2の等価回路図である。
【0007】
エネルギ再生回路2は、発電素子10と、エネルギ取り出し回路20を備え、負荷Rに電力を供給する。発電素子10は、交流電圧源12、抵抗rO、インダクタンスLOの直列回路としてモデリングされる。取り出し回路20は、スイッチングトランジスタ22、整流素子D1,D2,キャパシタC1,C2を含む。
【0008】
インダクタンスLOおよびエネルギ取り出し回路は、昇圧コンバータ(Boost converter)を構成している。
【0009】
SMFE技術では、発電素子10の振動と同期して、スイッチングトランジスタ22を制御する。
図2は、
図1のエネルギ再生回路2の動作波形図である。
図2には、出力電圧V
OUT、コイル電流i、振動発電素子の変位(起電力の積分値に相当)xの波形が示される。エネルギ取り出し回路20は、スイッチングトランジスタ22がオンの状態φ
ONと、オフの状態φ
OFFを交互に繰り返す。スイッチングトランジスタ22がオンの状態φ
ONでは、内部コイルL
Oの電流iが時間とともに増大していく。そして、電流iが最大となるタイミング、すなわち内部コイルL
Oの磁束エネルギが最大のタイミングで一瞬、状態φ
OFFに切り替わる。この短い状態φ
OFFにおいて、内部コイルL
Oに蓄えられた磁束エネルギーが、整流素子D1を介してキャパシタC1に、またはD2を介してC2に供給され、出力電圧V
OUTが上昇する。変位xとコイル電流iの位相差θは、r
OとL
Oに応じて定まる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】E. Arroyo, A. Badel, "Electromagnetic vibration energy harvesting device optimization by synchronous energy extraction", Sensors and Actuators A 171, 266 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、SMFE技術を、内部抵抗r
O(出力インピーダンス)が数百Ω~数kΩである発電素子10に適用することを検討し、以下の課題を認識するに至った。
図3は、SMFE技術における電流波形を示す図である。r
O≪ωL
Oの領域では、インダクタンスの影響が支配的であり、電流iは、式(1)で表される。vは、電圧源12の発生電圧である。
i=∫v/L
Odt …(1)
交流電圧vの半周期ごとにピークをとることとなり、SMFE技術によって、発電素子10から高効率でエネルギを取り出すことができる。
【0012】
しかしながら、rOがωLOに対して無視できない領域では、内部抵抗rOの影響が支配的となり、発電素子10の電流iは式(2)で表される。
i=v/rO …(2)
電流iのピークは、電圧vのピークと一致しており、このときのピーク電流は、rO≪ωLOの場合に比べて大幅に小さくなる。したがってSMFE技術では、内部抵抗rOが大きな発電素子10からは、効率よく電力を取り出すことができない。
【0013】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的は、内部抵抗rOが大きな電磁誘導型の発電素子から高効率で電力を取り出すことが可能な電源回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態または複数の実施形態を指すものとして用いる場合がある。
【0015】
一実施形態に係る電源回路は、内部コイルおよび内部抵抗を含む電磁誘導型発電素子から電力を取り出す。電源回路は、内部コイルとともに昇圧コンバータを形成するスイッチングトランジスタ、整流素子およびキャパシタと、電磁誘導型発電素子の交流出力の半波の間に、スイッチングトランジスタを複数回、スイッチングさせるコントローラと、を備える。
【0016】
この構成によれば、電磁誘導型発電素子の周波数の2倍より高い周波数でスイッチングトランジスタを駆動することで、内部抵抗が大きな発電素子から高効率で電力を取り出すことができる。
【0017】
一実施形態において、内部コイルのインダクタンスをL、内部抵抗をRとするとき、スイッチングトランジスタのオン期間の長さは、時定数τ=L/Rの0.3~3倍であってもよい。この場合に、インピーダンスマッチングがとれ、最大電力を取り出すことができる。
【0018】
一実施形態において、電源回路は、内部コイルと直列に接続されるインダクタをさらに備えてもよい。
【0019】
一実施形態において、内部コイルのインダクタンスをL1、インダクタのインダクタンスをL2、内部抵抗をRとするとき、スイッチングトランジスタのオン期間の長さは、時定数τ=(L1+L2)/Rの0.3~3倍であってもよい。この場合にインピーダンスマッチングがとれ、最大電力を取り出すことができる。
【0020】
一実施形態において、電磁誘導型発電素子は、磁歪式振動発電素子であってもよい。
【0021】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、内部抵抗rOが大きな電磁誘導型の発電素子から高効率で電力を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】SMFE技術を用いたエネルギ再生回路の等価回路図である。
【
図2】
図1のエネルギ再生回路の動作波形図である。
【
図3】SMFE技術における電流波形を示す図である。
【
図4】実施形態に係る環境発電回路の回路図である。
【
図6】実施例1に係る環境発電回路の回路図である。
【
図8】実施例2に係る環境発電回路の回路図である。
【
図10】
図8の環境発電回路のコイル電流I
Lおよび出力電圧V
OUTの波形図である。
【
図11】
図11(a)、(b)は、
図8の環境発電回路の起動時の出力電圧V
OUTの波形図である。
【
図12】実施例3に係る環境発電回路の回路図である。
【
図13】実施例4に係る環境発電回路の回路図である。
【
図14】実施例5に係る環境発電回路の回路図である。
【
図15】変形例1に係る環境発電回路の回路図である。
【
図16】
図16(a)~(c)は、変形例2~変形例4に係る環境発電回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0025】
本明細書において、「部材Aが、部材Bに接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0026】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
図4は、実施形態に係る環境発電回路100の回路図である。環境発電回路100は、電磁誘導型発電素子110および電源回路120を備え、負荷回路R
Lに電力を供給する。
【0028】
発電素子110は電磁誘導型の発電素子であり、内部コイルL1および内部抵抗R1を含む。たとえば発電素子110は、磁歪素子とコイルを含む磁歪式振動発電素子や、永久磁石とコイルを含む発電素子などである。発電素子110の等価回路は、起電力vを発生する理想電圧源112と、内部コイルL1、内部抵抗R1の直列接続回路である。発電素子110の周波数をf、その角周波数をω=2πfとするとき、内部抵抗R1は、コイルのインピーダンスωL1に対して無視できない大きさを有しており、たとえばR1>ωL1/2の範囲において本技術は有効である。
【0029】
電源回路120は、電磁誘導型発電素子110から電力を取り出す。電源回路120は、スイッチングトランジスタ(スイッチングトランジスタ)M1,M2、整流素子D1、整流素子D2、出力キャパシタC1、出力キャパシタを含む。スイッチングトランジスタM1,M2、整流素子D1,D2、出力キャパシタC1は、内部コイルL1とともにダイオード整流型の昇圧コンバータ102を形成している。
【0030】
コントローラ130は、スイッチングトランジスタM1,M2を、電磁誘導型発電素子110の周波数f(つまり起電力vの周波数)の2倍より高い周波数fsw(>2f)で駆動する。具体的には、内部コイルL1のインダクタンスをL、内部抵抗R1をRとするとき、スイッチングトランジスタM1,M2のオン期間の長さ(オン時間ともいう)TONは、時定数τ1=L/Rにもとづいて規定され、好ましくは、オン時間TONは、時定数τ1の0.3~3倍の範囲に含まれる。コントローラ130は、IL>0の区間、スイッチングトランジスタM2をオンに固定し、スイッチングトランジスタM1をスイッチングする。またコントローラ130は、IL<0の区間、スイッチングトランジスタM1をオンに固定し、スイッチングトランジスタM2をスイッチングする。
【0031】
以上が環境発電回路100の構成である。続いてその動作を説明する。
図5は、
図4の環境発電回路100の動作波形図である。
【0032】
IL>0の期間T1、スイッチングトランジスタM1がスイッチングし、スイッチングトランジスタM2がオンに固定されている。スイッチングトランジスタM1は、時定数L/Rに応じて定まるオン時間TONの間、オンとなり、それに続くオフ時間TOFFの間、オフとなる。オフ時間TOFFは、オン時間TONに比べて短くてよい。
【0033】
オフ時間TOFFは、コイルL1に蓄えられたエネルギーがゼロ、つまりコイル電流ILがゼロに戻るのに要する時間τ2にもとづいて定めればよい。この時間τ2は、
dIL/dt=(v-VOUT-VF)/L
で定まる。VFはダイオードD1,D2の順方向電圧である。VOUT≫VF,vの場合、
dIL/dt=-VOUT/L
となり、出力キャパシタC1の電圧VOUTが上昇するにしたがってコイル電流ILの変化速度は速くなる。
【0034】
トランジスタM1のターンオフのタイミングにおけるコイル電流ILは、IL≒v/Rであるから、
(v/R)/τ2=VOUT/L
を得る。したがって時間τ2は、以下の式で表される。
τ2=(L/R)・(v/VOUT)=τ1・(v/VOUT)
【0035】
たとえば、L=0.1H、R=1kΩ、v=0.1V、VOUT=1Vとすると、
τ1=L/R=100μs
τ2=τ1・(v/VOUT)=0.1ms×0.1/1=10μs
となる。
【0036】
発電素子110のコイル電流ILは、スイッチングトランジスタM1のオン時間TONにおいて増大し、スイッチングトランジスタM1のオフ時間TOFFにおいて減少する。オン時間TONを、時定数τ1=L/Rと等しくすると、コイル電流ILの包絡線は、v/Rにしたがって変化することとなる。
【0037】
IL<0の期間T2、スイッチングトランジスタM2がスイッチングし、スイッチングトランジスタM1がオンに固定されている。スイッチングトランジスタM2は、スイッチングトランジスタM2と同様に、時定数L/Rに応じて定まるオン時間TONの間、オンとなり、それに続くオフ時間TOFFの間、オフとなる。期間T2におけるコイル電流ILの包絡線も、v/Rにしたがって変化することとなる。
【0038】
以上が環境発電回路100の動作である。環境発電回路100によれば、スイッチング周波数fSWを発電素子110の周波数fの2倍より高くして、スイッチングトランジスタM1,M2を高速にスイッチングすることで、内部抵抗R1がコイルのインピーダンスωL1に比べて無視できないほど大きい場合に、SMFE技術に比べて多くの電力を取り出すことが可能となる。
【0039】
特に、スイッチングトランジスタM1,M2のオン時間TONをL/Rに近づけることにより、インピーダンス整合が成立し、最大の電力を取り出すことが可能となる。
【0040】
以下、環境発電回路100の具体的な構成をいくつかの実施例にもとづいて説明する。
【0041】
(実施例1)
図6は、実施例1に係る環境発電回路100Aの回路図である。コントローラ130Aは、タイミング発生器132、ロジック回路134、極性判定回路136、ゼロ電流検出回路138、ドライバDR1,DR2を備える。
【0042】
タイミング発生器132は、所定の周波数f(=1/TP)で発振するオシレータを含み、タイミング信号TGを生成する。周期TPは、オン期間TONとオフ期間TOFFの和である。タイミング信号TGは、オフ期間TOFFの開始タイミングを規定する。
【0043】
極性判定回路136は、コイル電流ILの極性を判定し、極性検出信号POLを生成する。ゼロ電流検出回路138は、コイル電流ILがゼロとなると、ゼロ電流検出信号ZCをアサートする。
【0044】
ロジック回路134は、タイミング信号TG、極性検出信号POL、ゼロ電流検出信号ZCにもとづいて、スイッチングトランジスタM1およびスイッチングトランジスタM2の制御パルスG1,G2を生成する。ドライバDR1は、制御パルスG1にもとづいてスイッチングトランジスタM1を駆動し、ドライバDR2は、制御パルスG2にもとづいてスイッチングトランジスタM2を駆動する。
【0045】
ロジック回路134は、コイル電流ILの極性POLに応じて、オフ期間TOFFにおいてオフすべきスイッチングトランジスタを選択する。すなわちIL>0のとき、オフ期間TOFFにおいてスイッチングトランジスタM1をオフし、スイッチングトランジスタM2をオンする。反対に、IL<0のとき、オフ期間TOFFにおいてスイッチングトランジスタM2をオフし、スイッチングトランジスタM1をオンする。
【0046】
ロジック回路134は、ゼロ電流検出信号ZCに応答して、オン期間TONに遷移し、オン期間TONの間、スイッチングトランジスタM1,M2の両方をオン状態とする。そして次のタイミング信号TGのアサートに応答して、オフ期間TOFFに戻る。
【0047】
図7は、
図6の環境発電回路100Aの動作波形図である。時刻t
1より前のオン期間T
ONの間、スイッチングトランジスタM1,M2がオンとなり、コイル電流I
Lが時間とともに増大する。オン期間T
ONの間、出力キャパシタC1は負荷電流によって放電されるから、出力電圧V
OUTは低下する。
【0048】
時刻t1にタイミング信号TGがアサートされると、オフ期間TOFFに遷移する。この例では、IL>0であるから、オフ期間TOFFの間、スイッチングトランジスタM1がオフとされ、整流ダイオードD1を介した充電電流ICHGによって、出力キャパシタC1が充電され、出力電圧VOUTが上昇する。
【0049】
オフ期間TOFFにおける充電電流ICHGは、コイル電流ILと一致する。コイル電流ILは、時間とともに減少していく。時刻t2にコイル電流ILがゼロとなると、ゼロ電流検出信号ZCがアサートされ、オン期間TONに遷移する。オン期間TONでは、スイッチングトランジスタM1,M2が両方オンとなる。そして時刻t3にタイミング信号TGが再びアサートされると、オフ期間TOFFに遷移する。環境発電回路100Aはこの動作を繰り返す。
【0050】
(実施例2)
図8は、実施例2に係る環境発電回路100Bの回路図である。環境発電回路100Bは、発電素子110、スイッチングトランジスタM1,M2、トランジスタM3、出力キャパシタC1、整流ダイオードD1,D2、ドライバDR1~DR3、コントローラ130Bを備える。
【0051】
コントローラ130Bは、タイミング発生器132、ロジック回路134および検出回路140を備える。検出回路140は、
図6の極性判定回路136とゼロ電流検出回路138の機能を兼ねており、コイル電流I
Lの極性と、コイル電流I
Lがゼロになるタイミング(電流ゼロクロス点)を検出する。
【0052】
この実施例では、コントローラ130Bは、スイッチング周期内に、極性判定期間を設け、極性判定期間において、コイル電流の向き(極性)を判定する。極性判定期間は、タイミング信号OPENにもとづいて生成される。タイミング信号OPENは、極性判定期間の間、ハイレベルとなる。タイミング信号OPENの周期は、環境発電回路100の動作周期、つまりオン時間TONとオフ時間TOFFの和にもとづいている。
【0053】
具体的には、ロジック回路134は、OPEN信号がハイの間、スイッチングトランジスタM1、M2を両方オフとする。コイル電流ILが第1極性(IL>0)であるとき、コイル電流ILは、スイッチングトランジスタM2のボディダイオードに流れるため、スイッチングトランジスタM2のドレイン電圧VD2は負電圧となり、スイッチングトランジスタM1のドレインには、逆起電力に応じた正の電圧VD1が発生する。コイル電流ILが第2極性(IL<0)であるとき、コイル電流ILは、スイッチングトランジスタM1のボディダイオードに流れるため、スイッチングトランジスタM1のドレイン電圧VD1は負電圧となり、スイッチングトランジスタM2のドレインには、逆起電力に応じた正の電圧VD2が発生する。検出回路140は、2つのスイッチングトランジスタM1,M2のドレイン電圧VD1,VD2のうち、いずれが正(ハイレベル)となっているかを検出する。
【0054】
検出回路140は、フリップフロップFF1,FF2およびORゲートOR1,OR2を含む。フリップフロップFF1,FF2それぞれの電源端子は、発電素子110の第1端E1,第2端E2と接続される。
【0055】
第1フリップフロップFF1のセット端子は発電素子110の第1端E1と接続され、そのリセット端子は発電素子110の第2端E2と接続される。第2フリップフロップFF2のセット端子は発電素子110の第2端E2と接続され、そのリセット端子は発電素子110の第1端E1と接続される。
【0056】
第1ORゲートOR1は、第1フリップフロップFF1の非反転出力Q1と第2フリップフロップFF2の反転出力Q2Bの論理和KEEP_INUPを生成する。第2ORゲートOR2は、第1フリップフロップFF1の反転出力Q1Bと第2フリップフロップFF2の非反転出力Q2の論理和KEEP_INBTを生成する。
【0057】
ロジック回路134は、ORゲートOR3およびNORゲートNOR1,NOR2を含む。
【0058】
第1NORゲートNOR1は、第1ORゲートOR1の出力KEEP_INUPと、タイミング信号OPENの否定論理和を生成する。第2NORゲートNOR2は、第2ORゲートOR2の出力KEEP_INBTとタイミング信号OPENの否定論理和を生成する。
【0059】
第3ORゲートOR3は、ORゲートOR1,OR2出力KEEP_INUPとKEEP_INBTの論理和を生成する。ドライバDR3は、第3ORゲートOR3の出力に応じてトランジスタM3を駆動する。
【0060】
図9は、
図8の環境発電回路100Bの動作波形図(シミュレーション)である。時刻t
0にオープン信号OPENがハイになると、NORゲートNOR1,NOR2の出力G1,G2、すなわちスイッチングトランジスタM1,M2のゲート信号SWUP,SWBTがローとなり、トランジスタM1,M2がオフとなる。
【0061】
ここでは、IL>0の向きに電流が流れている。トランジスタM1,M2がオフとなると、VD1が上昇し、VD2が負電圧となる。VD1の上昇の結果、フリップフロップFF1が動作可能となり、セット端子にハイ電圧VD1が入力されることにより、時刻t1に、Q1信号がハイとなり、KEEP_INUP信号もハイとなる。もし、IL<0であれば、Q1B信号がハイとなり、KEEP_INBT信号もハイとなる。つまり検出回路140の出力KEEP_INUP,KEEP_INBTは、コイル電流ILの極性を表す。
【0062】
時刻t1以降、KEEP_INUP信号のハイに対応して、SWUP信号はローを維持し、スイッチングトランジスタM1はオフである。
【0063】
一方、フリップフロップFF2は動作しないから、KEEP_INBT信号はローである。KEEP_INBT信号のローに対応して、SWBT信号がハイとなり、スイッチングトランジスタM2はオンとなる。
【0064】
また時刻t1にトランジスタM3のゲート信号GATEはハイとなる。
【0065】
時刻t1以降、ダイオードD1およびトランジスタM3を介して、キャパシタC1が充電される。コイル電流ILおよび充電電流ICHGは時間とともに減少する。コイル電流ILの減少にともない、発電素子110の第1端E1の電圧VD1は低下していく。そして時刻t2に、フリップフロップFF1の出力Q1がローとなり、KEEP_INUP信号もローとなる。時刻t1~t2が、オフ期間TOFFに相当する。
【0066】
つまり、KEEP_INUP信号およびKEEP_INBT信号は、コイル電流ILがゼロ付近まで低下したことを示している。
【0067】
時刻t2に、オン期間TONに移行し、ゲート信号SWUP,SWBTが両方ハイとなり、スイッチングトランジスタM1,M2がオンとなる。オン期間TONは、次にOPEN信号がハイに遷移するまで持続する。
【0068】
図10は、
図8の環境発電回路100Bのコイル電流I
Lおよび出力電圧V
OUTの波形図である。
【0069】
図11(a)、(b)は、
図8の環境発電回路100Bの起動時の出力電圧V
OUTの波形図である。
図11(a)は、発電素子110の起電力vが0.5Vのとき、
図11(b)は、起電力vが0.1Vのときの波形を示す。
【0070】
図11(a)、(b)には、環境発電回路100Bの出力波形(i)に加えて、インピーダンス整合時の理論限界(ii)、5段のチャージポンプを用いた場合(iv)、ダイオード整流回路を用いた場合(iv)、SMFE技術を用いた場合(v)の波形を示す。
【0071】
このように本実施例によれば、理論限界の50%の充電速度を維持することができ、他の手法に比べてより大きな電力を取り出すことができる。
【0072】
(実施例3)
図12は、実施例3に係る環境発電回路100Cの回路図である。環境発電回路100Cは、
図8の環境発電回路100Bから、トランジスタM3およびそれに関連する素子を省略したものである。
【0073】
(実施例4)
図13は、実施例4に係る環境発電回路100Dの回路図である。コントローラ130Dは、タイミング発生器132、ロジック回路134、極性判定回路136、オン時間タイマ142、ドライバDR1,DR2を備える。
【0074】
タイミング発生器132は、環境発電回路100Dの動作周期TPで発振するオシレータを含み、タイミング信号SONを出力する。
【0075】
ロジック回路134は、タイミング信号SONに応答して、オン期間TONに遷移するとともに、オン時間タイマ142にスタートトリガを出力する。オン時間タイマ142は、スタートトリガに応答してオン時間TONの測定を開始し、オン時間TONの経過後に、ターンオフ信号SOFFを出力する。オン時間TONは、時定数L/Rにもとづいて定められる。ロジック回路134は、ターンオフ信号SOFFに応答して、オフ期間TOFFに遷移し、次のタイミング信号TGに応答して、オン期間TONに遷移する。
【0076】
(実施例5)
図14は、実施例5に係る環境発電回路100Eの回路図である。コントローラ130Eは、ロジック回路134、極性判定回路136、ゼロ電流検出回路138、オン時間タイマ142、ドライバDR1,DR2を備える。
【0077】
ゼロ電流検出回路138は、オフ期間TOFFにおいて、コイル電流ILがゼロ付近まで低下したことを検出し、ターンオン信号(ゼロ電流検出信号)SONを生成する。ロジック回路134は、ターンオン信号SONに応答して、オン期間TONに遷移するとともに、オン時間タイマ142にスタートトリガを出力する。オン時間タイマ142は、スタートトリガに応答してオン時間TONの測定を開始し、オン時間TONの経過後に、ターンオフ信号SOFFを出力する。オン時間TONは、時定数L/Rにもとづいて定められる。ロジック回路134は、ターンオフ信号SOFFに応答して、オフ期間TOFFに遷移する。
【0078】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0079】
(変形例1)
図15は、変形例1に係る環境発電回路100Fの回路図である。電源回路120Fは、内部コイルL1と直列に設けられたインダクタL2を備える。オン期間T
ONの長さは、τ=(L1+L2)/Rにもとづいて規定される。
【0080】
(変形例2~4)
図16(a)~(c)は、変形例2~変形例4に係る環境発電回路100G~100Iの回路図である。
図16(a)の電源回路120Gは、
図6の電源回路120Aのトポロジーを同期整流型に変更したものであり、ダイオードD1,D2に代えて、同期整流トランジスタM3,M4を備える。
【0081】
コントローラ130Gは、IL>0であるオフ期間TOFFにおいて、同期整流トランジスタM3をオンし、IL<0であるオフ期間TOFFにおいて、同期整流トランジスタM4をオンする。
【0082】
図16(b)の電源回路120Hのトポロジーは、
図1のそれと同様である。この形式の場合、コイル電流I
Lの極性の検出は不要である。
【0083】
図16(c)の電源回路120Iのトポロジーは、
図16(b)の電源回路120Hの構成を同期整流型に変更したものである。
【0084】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0085】
100 環境発電回路
102 昇圧コンバータ
110 発電素子
112 電圧源
R1 内部抵抗
L1 内部コイル
L2 インダクタ
120 電源回路
M1,M2 スイッチングトランジスタ
D1,D2 整流素子
C1,C2 出力キャパシタ
130 コントローラ
132 タイミング発生器
134 ロジック回路
136 極性判定回路
138 ゼロ電流検出回路
DR1 第1ドライバ
DR2 第2ドライバ