(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ベーカリー食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/00 20060101AFI20240823BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240823BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20240823BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240823BHJP
【FI】
A21D2/00
A21D2/14
A21D10/00
A21D13/00
(21)【出願番号】P 2020132870
(22)【出願日】2020-08-05
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 高史
(72)【発明者】
【氏名】大森 彬史
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】HBで♪しっとり!うどん食パン(online),cookpad,2008年11月04日,pp.1-2,retrieved on 2024.07.22, retrieved from the internet <https://cookpad.com/recipe/675886>
【文献】お気に入り♪HBそうめん食パン(online),cookpad,2011年11月06日,pp.1-2,retrieved on 2024.07.22, retrieved from the internet <https://cookpad.com/recipe/806947>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー食品の製造方法であって、
(1)穀粉類と、茹で又は蒸し麺類とを含む生地材料を混合して前生地を調製すること、ここで該穀粉類と該麺類との質量比は、乾燥質量換算で、穀粉類:麺類=98:2~80:20である、
(2)得られた前生地に対して、該茹で又は蒸し麺類100質量部あたり5~50質量部の量で加水し、混合してベーカリー食品生地を調製すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記(1)が、前記生地材料にさらに油脂類を加えて混合することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(1)で得られた前生地の水分量が、乾燥質量換算での前記穀粉類及び前記茹で又は蒸し麺類の合計100質量部あたり90~120質量部である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記麺類がうどん、冷や麦、及びそうめんからなる群より選択される少なくとも1種でである、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記穀粉類が小麦粉を50質量%以上含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記(2)で得られたベーカリー食品生地を発酵させることを含む、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記発酵後の生地を分割することを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ベーカリー食品がパン類である、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトで、しっとり、もちもちした食感を有するパン類の製造方法として、湯種法、加水(バシナージュ)法、α化穀粉を用いる方法などが知られている。例えば、特許文献1には、小麦粉とイースト以外の副材料とを水分とともに混捏して55~80℃程度の温度の中種を得た後、得られた中種に小麦粉及びイーストを含む副材料を混捏してパン生地を得て、発酵、焼成するパン類の製造方法が記載されている。特許文献2には、中種法によるパン類の製造方法において、本捏工程で、中種に対し、穀粉類、イースト、水及び、食塩を混合し、次いで食用油脂類、卵黄及び糖類を含有する可塑性油脂混合物を混合した後、さらに水を混合する方法が記載されている。特許文献3には、原料小麦粉の一部に湿熱処理粉を用いるパン類の製造方法が記載されている。一方で、非特許文献1~3には、茹で麺を配合した生地からホームベーカリーを用いて製造したパン類が、しっとり又はもちもちとした食感を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-245332号公報
【文献】特開2016-174570号公報
【文献】特開2014-50367号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】https://cookpad.com/recipe/267578(公開日2006年7月17日、アクセス日2020年6月22日)
【文献】https://cookpad.com/recipe/495587(公開日2008年1月27日、アクセス日2020年6月22日)
【文献】https://cookpad.com/recipe/675886(公開日2008年11月3日、アクセス日2020年6月22日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
湯種法で得られるソフトで、しっとり、もちもちした食感を有するパン類は、製造に時間や手間がかかり、また、一般に生地にべたつきがあり、混捏しやすさ、分割や丸めの際の二次加工性などの生地作業性に劣る。一方で、本発明者らは、生地に茹で麺を配合した場合、生地が硬くなることで、特にホームベーカリーを使用しない従来の工業的な製法で製造する場合に生地作業性に劣るという問題が生じ、また、製造したパン類の品質にも影響することを見出した。
【0006】
本発明は、生地作業性に優れ、かつ、しっとり、もちもちした良好な食感を有するベーカリー食品を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、生地材料に茹で又は蒸し麺類を所定量で配合するとともに、生地のミキシングの途中で所定量の足し水を行うことによって、生地の二次加工性の低下を改善しつつ、製造したベーカリー食品の食感を向上させることに成功した。
【0008】
したがって、本発明は、ベーカリー食品の製造方法であって、
(1)穀粉類と、茹で又は蒸し麺類とを含む生地材料を混合して前生地を調製すること、ここで該穀粉類と該麺類との質量比は、乾燥質量換算で、穀粉類:麺類=98:2~80:20である、
(2)得られた前生地に対して、該茹で又は蒸し麺類100質量部あたり5~50質量部の量で加水し、さらに混合してベーカリー食品生地を調製すること、
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な手順で、生地作業性に優れ、かつ、しっとり、もちもちした良好な食感を有するベーカリー食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法により得られるベーカリー食品としては、パン類、発酵菓子などが挙げられる。パン類としては、食パン、ロールパン、菓子パンなどが挙げられ、発酵生地から製造されるものが好ましい。食パンとしては白食パン、フランスパン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン、フォカッチャ、ピザ等が挙げられ、ロールパンとしては、テーブルロール、バターロール、コッペパン、スィートロール、バンズ等が挙げられ、菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、メロンパン、レーズンパン、デニッシュペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ等が挙げられる。発酵菓子としては、シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ドーナツ、マフィン、ワッフル、スコーンなどが挙げられる。ただし本発明の製造方法により製造されるベーカリー食品の種類は、これらに限定されない。
【0011】
本発明のベーカリー食品の製造方法(以下、本発明の方法ともいう)では、生地材料として、主に穀粉類と、茹で又は蒸し麺類とを用いる。
【0012】
生地材料として用いられる穀粉類としては、小麦粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、大麦粉、米粉、コーンフラワー、澱粉類などが挙げられ、これらをいずれか1種又はいずれか2種以上の組合せで用いることができる。小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、全粒粉、デュラム粉等が挙げられ、これらをいずれか1種又はいずれか2種以上の組合せで用いることができるが、強力粉が好ましい。澱粉類としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、酸化処理等の処理を施した加工澱粉等が挙げられ、これらをいずれか1種又はいずれか2種以上の組合せで用いることができる。
【0013】
該穀粉類には、小麦粉を主体とする穀粉類を用いることが好ましい。例えば、該穀粉類の総質量中における小麦粉の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。また好ましくは、該穀粉類の総質量中、50質量%以上が強力粉である。
【0014】
生地材料として用いられる茹で又は蒸し麺類は、麺類を通常の手段で茹で調理又は蒸し調理することによって得ることができる。麺類の茹で又は蒸し調理の手段としては、通常の方法、例えば沸騰水、加熱蒸気、マイクロ波加熱等による茹で、蒸しなどが挙げられる。該茹で又は蒸し麺類の水分量は、好ましくは55~85質量%程度である。本発明で用いられる茹で又は蒸し麺類は、茹で麺類又は蒸し麺類を単独で又は組み合わせて使用する場合を含む。用いられる麺類の種類は、特に限定されないが、例えば、うどん、冷や麦、そうめん、中華麺、そば、パスタ、麺皮類などが挙げられ、好ましくはうどん、冷や麦、及びそうめんからなる群より選択される少なくとも1種である。該麺類は、小麦粉を主体とする穀粉類、必要に応じて塩、及び水から製造されたものであることが好ましいが、グルテン、卵白、かんすい等の通常の麺類の製造に用いられる副材料を含んでいてもよい。
【0015】
本発明のベーカリー食品の生地材料として、さらに、イースト;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵等の卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;食塩等の無機塩類;イーストフード;乳化剤;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤などの、ベーカリー食品の製造に通常用いる副材料を使用することができる。
【0016】
本発明の方法においては、前記穀粉類と前記茹で又は蒸し麺類を含む生地材料とを混合することで、ベーカリー食品の生地を調製する。生地調製に使用する茹で又は蒸し麺類は、長い麺線の状態であってもよいが、細片にされていてもよい。また、使用する茹で又は蒸し麺類の温度は、典型的には60℃未満であり、二次加工の観点からは、好ましくは常温以下、例えば2~30℃である。生地調製に使用される該穀粉類と該茹で又は蒸し麺類との質量比は、乾燥質量換算で、好ましくは穀粉類:茹で又は蒸し麺類=98:2~80:20、より好ましくは97.1:2.9~83:17、さらにより好ましくは95:5~88:12である。茹で又は蒸し麺類の量が少なすぎる場合、製造したベーカリー食品の食感が充分に向上せず、一方、茹で又は蒸し麺類の量が多すぎる場合、生地の作業性が充分に改善しない。なお本明細書において、穀粉類、及び茹で又は蒸し麺類の乾燥質量とは、常圧加熱乾燥法(日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル[www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1368931.htm]を参照)に従って測定したときの穀粉類、及び茹で又は蒸し麺類の質量をいう。茹で又は蒸し麺類の水分量は、茹で又は蒸し麺類の質量からその乾燥質量を引いた残分として求めることができる。あるいは、茹で又は蒸し麺類の乾燥質量は、おおむね、該麺類の製造に用いた原料粉の総質量として求めることができる。
【0017】
本発明の方法によるベーカリー食品の生地の調製においては、前記所定の配合量で、茹で又は蒸し麺類を穀粉類に添加して混合し、前生地を調製する。好ましくは、この混合の際にはイーストをさらに添加する。また好ましくは、この混合の際には水分をさらに添加する。ここで加える水分の量は、該茹で又は蒸し麺類の水分量を考慮して調整され得る。例えば、前生地の水分量(おおまかには、加えた水分の量と、穀粉及び茹で又は蒸し麺類の水分量との合計)が、乾燥質量換算での穀粉類及び茹で又は蒸し麺類の合計100質量部あたり、好ましくは90~120質量部、より好ましくは95~115質量部であればよい。さらに必要に応じて、糖類、食塩、乳成分、卵成分、油脂類などの副材料を添加してもよい。好ましい手順においては、前記所定の配合量の茹で又は蒸し麺類と穀粉類、イースト、水分、糖類、食塩、及び必要に応じて乳成分や卵成分をあわせて混合し、次いで油脂類を加えてさらに混合する。生地材料の混合は、通常の製パンに使用されるミキサーなどを用いて、通常の製パン法の手順に従って行うことができる。
【0018】
さらに本発明の方法では、生地材料の混合の途中で加水を行う(バシナージュ)。すなわち、前述した生地材料の混合で得られた混合物(前生地)に対し、さらに加水し、混合してベーカリー食品生地を調製する。該加水によって、生地の二次加工性の低下を防ぎつつ、製造したベーカリー食品の食感を向上させることができる。該加水の量は、前記茹で又は蒸し麺類(水分を含む)100質量部に対し、好ましくは5~50質量部、より好ましくは8~40質量部、さらに好ましくは10~30質量部である。加水量が少なすぎる又は多すぎる場合、生地の作業性が充分に改善しない。該加水のタイミングは、製造するベーカリー食品の種類にもよるが、生地材料がある程度まとまった状態(生地状)になったときが好ましい。例えば、加水のタイミングは、生地材料の混合を最初に開始してから3分30秒後以降が好ましい。あるいは、油脂類を配合する場合、加水のタイミングは生地材料に油脂類を添加、混合した後であることが好ましい。加水の際は、全量を一度に加水してもよいが、混合しながら徐々に加水することが好ましい。該加水した混合物をさらに混合してベーカリー食品生地を得る。
【0019】
得られたベーカリー食品生地を、必要に応じて発酵させ、分割又は成形した後、焼成又は油ちょうすることによって、ベーカリー食品を得ることができる。生地の発酵、分割、成形、及び焼成又は油ちょうは、製パンにおける通常の手順に従って行うことができる。好ましくは、該ベーカリー食品生地は、一次発酵の後、分割され、所望の形状に成形され、次いで必要に応じて二次発酵を経て、焼成又は油ちょうされる。焼成又は油ちょうの前又は後に、生地にフィリングを詰めたり、トッピングを加えたりしてもよい。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定
されるものではない。
【0021】
食パンの製造
茹でうどん(小麦粉、水及び食塩含有、水分量75質量%)を用意した。茹でうどんの一部を取り分け、常圧加熱乾燥法により乾燥質量を測定した。生地材料とする強力粉(水分量約14質量%)についても、一部を取り分け、常圧加熱乾燥法により乾燥質量を測定した。
縦型ミキサーを用い、表1~2記載の量で強力粉、茹でうどん、生イースト、食塩、砂糖、脱脂粉乳、水を加え低速で3.5分、中速で4分、高速で2分ミキシングし、次いでショートニングを加え、低速で2分ミキシングして前生地を得た。前生地に足し水を少しずつ加えながら、中速で3分、高速で3分ミキシングして、ベーカリー食品生地を調製した。調製した生地を90分間発酵させ、400gに分割し、25分のベンチタイムを取り、ワンローフ食パン形状に成形し、温度38℃、湿度85%にて70分間のホイロ後、上火200℃/下火220℃で30分間焼成を行い、食パンを製造した。
【0022】
ベーカリー食品生地の二次加工性、及び製造した食パンの食感を下記評価基準にて評価した。評価は訓練された10人のパネラーが行い、平均点を求めた。結果を表1~2に示す。
<評価基準>
(生地の二次加工性)
5点:容易に分割、成形ができる
4点:生地の硬さをわずかに感じるが、分割、成形がやや容易である
3点:生地がやや硬いが、分割、成形に支障がない
2点:生地が硬く、分割、成形がやや困難である
1点:生地が非常に硬く、分割、成形が困難である
(食感)
5点:しっとり、かつもちもちとした食感
4点:ややしっとり、かつややもちもちとした食感
3点:パサつきはなく、わずかにもちもちとした食感を感じる
2点:ややパサつくか、やや脆い食感であり、もちもちとした食感に欠ける
1点:パサつくか、脆い食感であり、もちもち感が無い
【0023】
【0024】