IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
  • 特許-溶融成形品とその製造方法 図1
  • 特許-溶融成形品とその製造方法 図2A
  • 特許-溶融成形品とその製造方法 図2B
  • 特許-溶融成形品とその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】溶融成形品とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240823BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20240823BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20240823BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240823BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/10
C08L33/08
C08J5/00 CEY
C08J5/00 CFD
C08J5/18 CEY
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020204945
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092251
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
(72)【発明者】
【氏名】中倉 英樹
(72)【発明者】
【氏名】多賀 翔
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/011804(WO,A1)
【文献】特開2015-168752(JP,A)
【文献】特開2012-001683(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043021(WO,A1)
【文献】特開平08-085749(JP,A)
【文献】特開2020-162801(JP,A)
【文献】特開2016-094518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が150~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む樹脂組成物からなり、
ポリカーボネート系樹脂(A)を含む海相と、当該海相の中に形成され、溶融成形時の流れ方向に線状に配向したメタクリル系樹脂(B)を含む相とを含み、
アクリル系ゴム粒子(C)の含有量に対するメタクリル系樹脂(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.1~2.0であり、
JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)が50kJ/m以上である、溶融成形品。
【請求項2】
JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が1.0mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(1.0)としたとき、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]が30~100%である、請求項1に記載の溶融成形品。
【請求項3】
アクリル系ゴム粒子(C)の体積基準平均粒子径が230~300nmである、請求項1又は2に記載の溶融成形品。
【請求項4】
押出成形品又は射出成形品である、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融成形品。
【請求項5】
押出成形品であり、
JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向のシャルピー衝撃強度をChTD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)/ChTD(0.25)が0.8~4.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶融成形品。
【請求項6】
ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が150~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む樹脂組成物からなる樹脂層を含み、
前記樹脂層は、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む海相と、当該海相の中に形成され、溶融成形時の流れ方向に線状に配向したメタクリル系樹脂(B)を含む相とを含み、アクリル系ゴム粒子(C)の含有量に対するメタクリル系樹脂(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.1~2.0であり、
前記樹脂層の、JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)が50kJ/m以上である、溶融成形品。
【請求項7】
シート状である、請求項1~6のいずれか1項に記載の溶融成形品。
【請求項8】
ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が150~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含み、アクリル系ゴム粒子(C)の含有量に対するメタクリル系樹脂(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.1~2.0である前記樹脂組成物を、せん断速度1~50000s-1の条件で溶融成形する工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の溶融成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックの1つであるポリカーボネート系樹脂は、耐衝撃性及び耐熱性等に優れることから、自動車、OA機器、及び電気電子製品等の用途に広く用いられている。一般的に、ポリカーボネート系樹脂は、耐衝撃性及び耐熱性等に優れる一方、表面硬度及び耐候性等に劣る傾向がある。
耐衝撃性及び耐熱性を維持しつつ、表面硬度、流動性、及び耐候性を向上させる技術として、特許文献1、2には、ポリカーボネート系樹脂にメタクリル系樹脂及びゴム含有グラフト共重合体からなるアクリル系ゴム粒子を配合した樹脂組成物が開示されている(特許文献1の請求項1、特許文献2の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/043021号
【文献】特開平11-60930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、一般的に、ポリカーボネート系樹脂は、耐衝撃性に優れる樹脂と言われている。しかしながら、ポリカーボネート系樹脂単体からなる成形品において、その形状によっては、又は成形品の表面に傷が形成された場合には、局所的な応力集中が生じて耐衝撃強度が低下し、脆性破壊が起こる場合がある。
例えば、シャルピー衝撃試験においては、同じサンプルであっても、ノッチの先端半径によって耐衝撃強度が大きく変わる場合がある。例えば、ノッチの先端半径が比較的大きい場合(例えば先端半径が1.0mmの場合)は高衝撃強度が安定的に得られても、ノッチの先端半径が比較的小さい場合(例えば先端半径が0.25mmの場合)は耐衝撃強度が低下し、脆性破壊が起こる場合がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ポリカーボネート系樹脂とメタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含み、より過酷な条件でも良好な耐衝撃性を有する溶融成形品とその製造方法を提供することを目的とする。
より具体的には、ポリカーボネート系樹脂とメタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含み、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でのシャルピー衝撃試験においても良好な耐衝撃性を有する溶融成形品とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]~[8]の溶融成形品とその製造方法を提供する。
[1] ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が50~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む樹脂組成物からなり、
ポリカーボネート系樹脂(A)を含む海相と、当該海相の中に形成され、溶融成形時の流れ方向に配向したメタクリル系樹脂(B)を含む相とを含み、
JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)が30kJ/m以上である、溶融成形品。
【0007】
[2] JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が1.0mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(1.0)としたとき、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]が30~100%である、[1]の溶融成形品。
[3] アクリル系ゴム粒子(C)の含有量に対するメタクリル系樹脂(B)の含有量の質量比((B)/(C))が0.1~6.0である、[1]又は[2]の溶融成形品。
【0008】
[4] 押出成形品又は射出成形品である、[1]~[3]のいずれかの溶融成形品。
[5] 押出成形品であり、
JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向のシャルピー衝撃強度をChTD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)/ChTD(0.25)が0.8~4.0である、[1]~[4]のいずれかの溶融成形品。
【0009】
[6] ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が50~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む樹脂組成物からなる樹脂層を含み、
前記樹脂層は、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む海相と、当該海相の中に形成され、溶融成形時の流れ方向に配向したメタクリル系樹脂(B)を含む相とを含み、
前記樹脂層の、JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)が30kJ/m以上である、溶融成形品。
[7] シート状である、[1]~[6]のいずれかの溶融成形品。
【0010】
[8] ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が50~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む前記樹脂組成物を、せん断速度1~50000s-1の条件で溶融成形する工程を含む、[1]~[7]のいずれかの溶融成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリカーボネート系樹脂とメタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含み、より過酷な条件でも高い耐衝撃性を有する溶融成形品とその製造方法を提供することができる。
より具体的には、ポリカーボネート系樹脂とメタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含み、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でのシャルピー衝撃試験においても良好な耐衝撃性を有する溶融成形品とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る一実施形態の押出成形装置の模式図である。
図2A】シャルピー衝撃強度ChMD測定用の試験片の作成手順を示す模式斜視図である。
図2B】シャルピー衝撃強度ChTD測定用の試験片の作成手順を示す模式斜視図である。
図3】本発明の溶融成形品のTEM像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[溶融成形品]
本発明の溶融成形品は、ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が50~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む樹脂組成物(M)からなる。
上記溶融成形品は、ポリカーボネート系樹脂(A)を含む海相と、この海相の中に形成され、溶融成形時の流れ方向に配向したメタクリル系樹脂(B)を含む相とを含む。
上記溶融成形品の、JIS K7111-1に準拠して、ノッチあり、ノッチの先端半径が0.25mmの条件で測定される、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向のシャルピー衝撃強度をChMD(0.25)としたとき、ChMD(0.25)が30kJ/m以上である。
【0014】
本発明の溶融成形品は、樹脂組成物(M)からなる樹脂層のみからなる単層構造でもよいし、上記樹脂層と1つ以上の他の樹脂層とを含む積層構造でもよい。他の樹脂層は、組成及び/又はシャルピー衝撃強度ChMD(0.25)が樹脂組成物(M)からなる樹脂層の規定外である樹脂層である。
【0015】
上記組成の樹脂組成物(M)を用い、溶融成形条件を工夫することで、従来よりも高い耐衝撃性を実現し、ノッチの先端半径が小さく、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でも、具体的にはノッチの先端半径が0.25mmのより過酷な条件でも、高い耐衝撃性を実現できる。
例えば、特定範囲のせん断速度となるよう、せん断応力をかけて溶融成形を行うことで、従来よりも高い耐衝撃性を実現し、ノッチの先端半径が0.25mmという過酷な条件でも、高い耐衝撃性を実現できる。
【0016】
本発明の溶融成形品は、押出成形法及び射出成形法等の公知の溶融成形法にて成形されたものである。注型成形法は、本発明の対象外である。
本発明の溶融成形品の形態は特に制限されず、フィルム、シート、板、及び任意の3次元成形品が挙げられる。
一般的に、薄膜成形体に対しては、厚みによって、「フィルム」、「シート」、および「板」の用語が使用される。本明細書では、特に明記しない限り、これらを明確に区別せず、これらを総称して「シート」と称す。
【0017】
(ポリカーボネート系樹脂(A))
本明細書において、ポリカーボネート系樹脂(A)は、特に明記しない限り、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂等の一般的な非変性ポリカーボネート系樹脂である。
ポリカーボネート系樹脂(A)は、好ましくは1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。カーボネート前駆体としては、ホスゲン等のカルボニルハライド;ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル;二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられる。
ポリカーボネート系樹脂(A)の製造方法としては、二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法、及び、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法等が挙げられる。
【0018】
ポリカーボネート系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~70,000である。Mwが10,000以上であることで、本発明の溶融成形品は耐衝撃性及び耐熱性に優れるものとなる。Mwが100,000以下であることで、ポリカーボネート系樹脂(A)は成形性に優れ、本発明の溶融成形品の生産性を高められる。
【0019】
加熱溶融成形の安定性の観点から、ポリカーボネート系樹脂(A)のメルトフローレイト(MFR)は、好ましくは1~30g/10分、より好ましくは3~20g/10分、特に好ましくは5~10g/10分である。本明細書において、ポリカーボネート系樹脂(A)のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定される値である。
【0020】
ポリカーボネート系樹脂(A)は市販品を用いてもよい。住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」及び「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、及び帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。
【0021】
樹脂組成物(M)に含まれるポリカーボネート系樹脂(A)の含有量は、60~94質量%である。下限値は、好ましくは65質量%、より好ましくは70質量%、特に好ましくは75質量%である。上限値は、好ましくは90質量%、より好ましくは85質量%、特に好ましくは80質量%である。ポリカーボネート系樹脂(A)の含有量が上記範囲内であると、溶融成形品の耐衝撃性が優れる。
【0022】
(メタクリル系樹脂(B))
メタクリル系樹脂(B)は、好ましくはメタクリル酸メチル(MMA)を含む1種以上のメタクリル酸炭化水素エステル(以下、単に「メタクリル酸エステル」とも言う。)単量体単位を含む単独重合体又は共重合体である。メタクリル酸エステル中の炭化水素基は、メチル基、エチル基、及びプロピル基等の非環状脂肪族炭化水素基であっても、脂環式炭化水素基であっても、フェニル基等の芳香族炭化水素基であってもよい。メタクリル系樹脂(B)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0023】
メタクリル系樹脂(B)は、メタクリル酸エステル単位以外の1種以上の他の単量体単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸3-メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、及びアクリル酸3-ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル等が挙げられる。中でも、入手性の観点から、MA、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、及びアクリル酸tert-ブチル等が好ましく、MA及びアクリル酸エチル等がより好ましく、MAが特に好ましい。メタクリル系樹脂(B)における他の単量体単位の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0024】
メタクリル系樹脂(B)は、好ましくはMMAを含む1種以上のメタクリル酸エステル、及び必要に応じて他の単量体を重合することで得られる。複数種の単量体を用いる場合は、通常、複数種の単量体を混合して単量体混合物を調製した後、重合を行う。重合方法としては特に制限されず、生産性の観点から、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法が好ましい。
【0025】
メタクリル系樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは40,000~500,000である。Mwが40,000以上であることでメタクリル系樹脂(B)は耐擦傷性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが500,000以下であることでメタクリル系樹脂(B)は成形性に優れるものとなる。本明細書において、特に明記しない限り、「Mw」はゲルパーエミーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0026】
樹脂組成物(M)に含まれるメタクリル系樹脂(B)の含有量の下限値は、1質量%であり、好ましくは5質量%、より好ましくは10質量%、特に好ましくは15質量%である。樹脂組成物(M)に含まれるメタクリル系樹脂(B)の含有量の上限値は、30質量%であり、好ましくは25質量%、より好ましくは20質量%、特に好ましくは15質量%である。メタクリル系樹脂(B)の含有量が多くなる程、耐候性、表面硬度、及び溶融成形時の流動性が向上する一方、耐衝撃性が低下する傾向がある。メタクリル系樹脂(B)の含有量が上記範囲内であると、溶融成形品の耐衝撃性、耐候性、表面硬度、及び溶融成形時の流動性が優れる。
【0027】
(アクリル系ゴム粒子(C))
アクリル系ゴム粒子(C)は、好ましくはアクリル系多層構造ゴム粒子である。アクリル系ゴム粒子(C)としては、1種以上のアクリル酸アルキルエステル共重合体を含む1層以上のグラフト共重合体層を含むアクリル系多層構造ゴム粒子が挙げられる。かかるアクリル系多層構造ゴム粒子としては、特開2004-352837号公報等に開示のものを使用できる。アクリル系多層構造ゴム粒子は好ましくは、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む架橋重合体層を含むことができる。
アクリル系ゴム粒子(C)の層数は特に制限されず、2層でも3層以上でもよい。好ましくは、アクリル系ゴム粒子(C)は、最内層(C-a)と1層以上の中間層(C-b)と最外層(C-c)とを含む3層以上のコアシェル多層構造粒子である。
【0028】
最内層(C-a)の構成重合体は、MMA単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最内層(C-a)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~99.99質量%、より好ましくは85~99質量%、特に好ましくは90~98質量%である。3層以上のアクリル系ゴム粒子(C)中の最内層(C-a)の割合は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは7~13質量%である。最内層(C-a)の割合がかかる範囲内にあることで、溶融成品の耐熱性を高めることができる。
【0029】
中間層(C-b)の構成重合体は、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。中間層(C-b)の構成重合体中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは70~99.8質量%、より好ましくは75~90質量%、特に好ましくは78~86質量%である。3層以上のアクリル系ゴム粒子(C)中の中間層(C-b)の割合は、好ましくは40~60質量%、より好ましくは45~55質量%である。中間層(C-b)の割合がかかる範囲内であることで、溶融成形品の表面硬度を高め、割れ難くすることができる。
【0030】
最外層(C-c)の構成重合体は、MMA単位を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最外層(C-c)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。3層以上のアクリル系ゴム粒子(C)中の最外層(C-c)の割合は、好ましくは35~50質量%、より好ましくは37~45質量%である。最外層(C-c)の割合がかかる範囲内であることで、溶融成形品の表面硬度を高め、溶融成形品の耐衝撃性を高めることができる。
【0031】
アクリル系ゴム粒子(C)の体積基準平均粒子径は、50~300nmである。下限値は、好ましくは70nm、より好ましくは100nm、特に好ましくは150nmである。上限値は、より好ましくは250nm、特に好ましくは240nmである。
体積基準平均粒子径は、電子顕微鏡観察及び動的光散乱測定等の公知方法により測定することができる。電子顕微鏡観察による測定は例えば、電子染色法によりアクリル系ゴム粒子(C)の特定の層を選択的に染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて複数の粒子の粒子径を実測し、それらの平均値を求めることによって行うことができる。動的光散乱法は、粒子径が大きくなる程、粒子のブラウン運動が大きくなるという原理を利用する測定法である。
【0032】
アクリル系ゴム粒子(C)は、アクリル系ゴム粒子(C)同士の膠着による取り扱い性の低下、及び、溶融混練時の分散不良による耐衝撃性の低下を抑制するため、アクリル系ゴム粒子(C)と分散用粒子(d)とを含むラテックス又は粉体の形態で用いることができる。分散用粒子(d)は例えば、MMAを主とする1種以上の単量体の(共)重合体からなり、アクリル系ゴム粒子(C)よりも相対的に粒子径の小さい粒子を用いることができる。
【0033】
分散用粒子(d)の粒子径は、分散性向上の観点から、できるだけ小さいことが好ましく、乳化重合法による製造再現性の観点から、好ましくは40~120nm、より好ましくは50~100nmである。分散用粒子(d)の添加量は、分散性向上効果の観点から、アクリル系ゴム粒子(C)と分散用粒子(d)との合計量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0034】
なお、樹脂組成物(M)を溶融成形すると、分散用粒子(d)はメタクリル系樹脂(B)と完全に相溶する。そのため、特に明記しない限り、分散用粒子(d)の量は、メタクリル系樹脂(B)の含有量に含めるものとする。
【0035】
樹脂組成物(M)に含まれるアクリル系ゴム粒子(C)の含有量は、5~20質量%である。下限値は、好ましくは7質量%、より好ましくは10質量%、特に好ましくは13質量%である。上限値は、好ましくは17質量%、より好ましくは15質量%、特に好ましくは12質量%である。アクリル系ゴム粒子(C)の含有量が上記範囲内であると、溶融成形品の耐衝撃性、耐候性、表面硬度、及び溶融成形時の流動性が優れる。
【0036】
樹脂組成物(M)において、アクリル系ゴム粒子(C)の含有量に対するメタクリル系樹脂(B)の含有量の質量比((B)/(C))は特に制限されず、好ましくは0.1~6.0、より好ましくは0.1~2.0、さらに好ましくは0.1~1.7、特に好ましくは0.1以上1.5未満、最も好ましくは0.1~1.0である。下限値は、好ましくは0.2である。質量比((B)/(C))が上記範囲内であると、溶融成形品の耐衝撃性が優れる。
【0037】
(添加剤)
樹脂組成物(M)は必要に応じて、上記以外の各種添加剤を含むことができる。添加剤としては特に制限されず、着色剤、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、光拡散剤、艶消し剤、ブロック共重合体等のアクリル系ゴム粒子以外の耐衝撃性改質剤、及び蛍光体等が挙げられる。樹脂組成物(M)中のこれら添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。例えば、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量%、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量%、光安定剤の含有量は0.01~3質量%、滑剤の含有量は0.01~3質量%が好ましい。
樹脂組成物(M)に各種添加剤を添加させる場合、添加タイミングは特に制限されず、ポリカーボネート系樹脂(A)の重合時、メタクリル系樹脂(B)の重合時、アクリル系ゴム粒子(C)の重合時、それらの樹脂の混合時のいずれのタイミングでもよい。
【0038】
(シャルピー衝撃強度)
樹脂組成物(M)からなる樹脂層のシャルピー衝撃強度は、気温23℃、相対湿度50%の条件で、JIS K7111-1(測定条件:ノッチあり)に準拠して測定する。
溶融成形品が積層構造である場合は、測定対象の樹脂層のみを取り出して、測定を行う。
試験片の厚みは、1mm超とする。厚みが1mm以下の樹脂層は、厚みが4mm以上になるまで複数重ね、熱プレス成形をして、試験片とする。JIS K7111-1の6.3.1.2に従って、厚みが1mm超10.2mm以下の樹脂層は、その厚みのまま測定を行い、厚みが10.2mm超の樹脂層は、10mm±0.2mmの厚みに加工して、試験片とする。
【0039】
溶融成形時の流れ方向は、「MD(machine direction)」とも言う。溶融成形時の流れ方向に垂直な方向は、「TD(transverse direction)」とも言う。
溶融成形時の流れ方向(MD)は、溶融成形品を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで決定できる。TEM像では、ポリカーボネート系樹脂からなる海相の中に、流れ方向に配向したメタクリル系樹脂相が見える。このメタクリル系樹脂相の配向方向を「流れ方向」と決定する。
図3に、溶融成形品のTEM像と溶融成形時の流れ方向MD(=メタクリル系樹脂相の配向方向)の一例を示す。
本明細書において、試験片の長さ方向と幅方向は、長さと幅の大小関係に関係なく、溶融成形時の流れ方向(MD)を長さ方向、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向(TD)を幅方向と定義する。
【0040】
溶融成形時の流れ方向に垂直な方向(TD)のシャルピー衝撃強度をChMDとする。シャルピー衝撃強度ChMDの測定に用いる試験片SMDは、溶融成形時の流れ方向(MD)に長い溶融成形試験片である。この試験片SMDに対して、溶融成形時の流れ方向(MD)に平行な一側面の中心部から溶融成形時の流れ方向に垂直な方向(TD)にノッチNを形成する(図2Aを参照されたい。)。
ノッチの先端半径は、0.25mm及び1.0mmの2条件とする。先端半径の異なる2種類の刃を用いてノッチを形成することで、ノッチの先端半径を変更できる。
【0041】
溶融成形時の流れ方向(MD)のシャルピー衝撃強度をChTDとする。シャルピー衝撃強度ChTDの測定に用いる試験片STDは、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向(TD)に長い溶融成形試験片である。この試験片STDに対して、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向(TD)に平行な一側面の中心部から溶融成形時の流れ方向(MD)にノッチNを形成する(図2Bを参照されたい。)。
ノッチの先端半径は、0.25mm及び1.0mmの2条件とする。
【0042】
溶融成形品が押出成形品である場合は、シャルピー衝撃強度ChMDとシャルピー衝撃強度ChTDを測定する。
溶融成形品が射出成形品である場合は、シャルピー衝撃強度ChMDを測定する。
【0043】
本明細書では、4種類のシャルピー衝撃強度を以下の略号で表す。
ChMD(0.25):試験片の長手方向がMD、ノッチ先端半径0.25mm、
ChTD(0.25):試験片の長手方向がTD、ノッチ先端半径0.25mm、
ChMD(1.0):試験片の長手方向がMD、ノッチ先端半径1.0mm、
ChTD(1.0):試験片の長手方向がTD、ノッチ先端半径1.0mm。
具体的な試験片の作成方法及びシャルピー衝撃強度の測定方法の例については、後記[実施例]の項及び図2A図2Bを参照されたい。
【0044】
(ChMD(0.25))
樹脂組成物(M)からなる樹脂層のシャルピー衝撃強度ChMD(0.25)は、30kJ/m以上であり、好ましくは35kJ/m以上、より好ましくは40kJ/m以上、特に好ましくは45kJ/m以上、最も好ましくは50kJ/m以上である。シャルピー衝撃強度ChMD(0.25)が上記を満たしていることは、ノッチの先端半径が小さく、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でも、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0045】
(ChMD(0.25)/ChMD(1.0))
一般的に、ポリカーボネート系樹脂は、耐衝撃性に優れる樹脂と言われている。しかしながら、ポリカーボネート系樹脂単体からなる成形品において、その形状によっては、又は成形品の表面に傷が形成された場合には、局所的な応力集中が生じて耐衝撃強度が低下、脆性破壊が起こる場合がある。
ポリカーボネート系樹脂単体からなる成形品において、延性破壊と脆性破壊のどちらが起こるかは、試験条件による。延性破壊では、樹脂の内部でせん断降伏が起こる。これに対し、脆性破壊では、せん断降伏よりも先に、クレーズの生成、さらにはクラックの生成が起こり、これによる破壊が起こる。
【0046】
シャルピー衝撃試験においては、同じサンプルであっても、ノッチの先端半径によって耐衝撃強度が大きく変わる場合がある。例えば、ノッチの先端半径が比較的大きい場合(例えば先端半径が1.0mmの場合)は高衝撃強度が安定的に得られても、ノッチの先端半径が比較的小さい場合(例えば先端半径が0.25mmの場合)は耐衝撃強度が低下し、脆性破壊が起こる場合がある(後記[実施例]の項の参考例1-1、1-2を参照されたい。)。
【0047】
ノッチの先端半径が0.25mmと比較的小さい場合、ノッチ部に応力がより集中しやすく、クレーズの生成、さらにはクラックの生成が優先的に起こり、その結果、脆性破壊が起こり、耐衝撃性が不良となると考えられる。一方、ノッチの先端半径が1.0mmと比較的大きい場合、ノッチ部に対する応力集中が緩和されるため、せん断降伏(延性破壊)が起こり、耐衝撃性が良好となると考えられる(一般的に、ポリカーボネート系樹脂で言われている高耐衝撃性の発現)。
【0048】
本発明の溶融成形品は、ノッチの先端半径が小さく、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な試験条件でも耐衝撃性に優れ、ChMD(1.0)に対するChMD(0.25)の低下が小さく抑えられる。本発明の溶融成形品では例えば、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]は30~100%であり、40~100%又は50~100%も可能である。
【0049】
(ChMD(0.25)/ChTD(0.25))
ChMD(0.25)/ChTD(0.25)は、衝撃強度の異方性を表し、特に制限されない。上限値は、好ましくは4.0、より好ましくは3.0、特に好ましくは2.5、最も好ましくは2.0である。下限値は、好ましくは0.8、より好ましくは0.9、さらに好ましくは1.0、特に好ましくは1.1、最も好ましくは1.2である。ChMD(0.25)/ChTD(0.25)が上記範囲内であると、異形押出成形品及び筒状成形品の溶融成形品において、長手方向に直交する方向から応力が加わる場合においても、良好な耐衝撃性が得られ、好ましい。
【0050】
(曲げ弾性率)
樹脂組成物(M)からなる樹脂層の曲げ弾性率は、特に制限されない。下限値は、好ましくは1800MPa、より好ましくは2000MPa、特に好ましくは2100MPa、最も好ましくは2200MPaである。上限値は、好ましくは2600MPa、より好ましくは2500MPa、特に好ましくは2400MPa、最も好ましくは2300MPaである。樹脂組成物(M)からなる樹脂層の曲げ弾性率が上記範囲内であると、剛性及び耐衝撃性が優れ、好ましい。
曲げ弾性率は、シャルピー衝撃強度ChMDの測定に用いるのと同様の試験片(ただし、ノッチ形成なし)を用意し、JIS-K7171に準拠して、測定することができる。
【0051】
(他の樹脂層)
本発明の溶融成形品は、樹脂組成物(M)からなる樹脂層を含み、1つ以上の他の樹脂層を含んでいてもよい、単層構造又は積層構造の溶融成形品である。
他の樹脂層は、組成及び/又はシャルピー衝撃強度ChMD(0.25)が樹脂組成物(M)からなる樹脂層の規定外である樹脂層である。他の樹脂層の構成樹脂としては特に制限されず、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0052】
(製造方法)
単層構造又は積層構造の本発明の溶融成形品は、押出成形法及び射出成形法等の公知の溶融成形法にて成形することができる。注型成形法は、対象外である。
ポリカーボネート系樹脂(A)、メタクリル系樹脂(B)、及びアクリル系ゴム粒子(C)の均一分散性等の観点から、押出成形法が好ましい。積層構造の場合は、共押出成形法が好ましい。
【0053】
以下、例として、押出成形法によるシート状の溶融成形品(溶融成形シート又は樹脂シートとも言う。)の製造方法について、説明する。
ポリカーボネート系樹脂(A)、メタクリル系樹脂(B)、アクリル系ゴム粒子(C)、及び必要に応じて他の添加剤を押出機に投入し、溶融混練し、得られた溶融状態の樹脂組成物(M)をTダイからシート状の形態で押出し、複数の冷却ロールを用いて加圧及び冷却し、引取りロールによって引き取ることで、単層構造のシート状の溶融成形品(樹脂シート)を成形することができる。
【0054】
図1に、一実施形態として、Tダイ11、第1~第3冷却ロール12~14、及び一対の引取りロール15を含む押出成形装置の模式図を示す。Tダイ11から押出された溶融状態の熱可塑性樹脂層は複数の冷却ロール12~14を用いて加圧及び冷却される。加圧及び冷却されたシート状の溶融成形品(樹脂シート)16は、一対の引取りロール15により引き取られる。冷却ロールの数は、適宜設計することができる。なお、製造装置の構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜設計変更が可能である。
【0055】
積層構造の場合は、溶融状態の各層の樹脂原料をTダイ流入前に積層するフィードブロック方式又はTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式にて積層した後、Tダイから積層シート状の形態で押出し、複数の冷却ロールを用いて加圧及び冷却し、引取りロールによって引き取ることで、成形することができる。
【0056】
樹脂組成物(M)を用い、溶融成形条件を工夫することで、従来よりも高い耐衝撃性を実現し、ノッチの先端半径が0.25mmという過酷な条件でも、高い耐衝撃性(具体的には、シャルピー衝撃強度ChMD(0.25)が30kJ/m以上)を実現できる。
例えば、特定範囲のせん断速度となるよう、せん断応力をかけて溶融成形を行うことで、従来よりも高い耐衝撃性を実現し、ノッチの先端半径が0.25mmという過酷な条件でも、高い耐衝撃性(具体的には、シャルピー衝撃強度ChMD(0.25)が30kJ/m以上)を実現できる。
【0057】
押出成形法では、せん断速度1~100s-1の条件で溶融成形を行うことが好ましく、せん断速度はより好ましくは1~50s-1、特に好ましくは1~20s-1である。押出成形時のせん断速度とは、ダイ部でのせん断速度を意味する。
射出成形法では、せん断速度100~50000s-1の条件で溶融成形を行うことが好ましく、せん断速度はより好ましくは1000~30000s-1、特に好ましくは5000~15000s-1、最も好ましくは7000~12000s-1である。射出成形時のせん断速度とは、最もせん断速度が大きくなるゲート部でのせん断速度を意味する。
せん断速度は、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定することができる。
せん断速度が上記範囲内であると、ポリカーボネート系樹脂相中のメタクリル系樹脂相を配向させることができ、ChMD(0.25)/ChTD(0.25)を適切な範囲にすることができ、長手方向に直交する方向から応力が加わる場合においても、良好な耐衝撃性が得られ、好ましい。
【0058】
すべての原料についてバージン材を用いてもよいが、少なくとも一部の原料はリワーク材を用いてもよい。すべての原料について、リワーク材を用いてもよい。
「バージン材」とは、過去に成形加工に供されたことが一度もない成形材料である。
「リワーク材」とは、過去に、シート、フィルム、又は他の任意の形状の成形品として1回以上成形加工されたことのある成形材料である。リワーク材として利用される成形品としては、押出成形においてシート幅方向の両端部のトリミング処理によって生成された端材、押出成形において生産条件の調整時等に発生する板厚等の物性が規格外である規格外品、溶融成形品の切削加工によって生じる端材、押出成形以外の方法で成形された規格外成形品(射出成形品等)等が挙げられる。製品として出荷されない端材及び規格外品等を用いて得られたリワーク材を用いることで、資源を有効利用でき、好ましい。
【0059】
リワーク材の形態としては、端材及び規格外品等のリワーク材用成形品を公知方法にて粉砕して得られた粉砕物、又は、この粉砕物を押出機等を用いて溶融混練し、ペレット等の形態に加工した加工物等が挙げられる。粉砕物を用いる場合、粉砕の程度は、押出機による溶融混練が安定して行える範囲であれば特に限定されない。粉砕物は例えば、最長長さが1~15mm程度のフレーク状不定形物であることが好ましい。
【0060】
一般的に、リワーク材の使用量が増加するにつれて、溶融成形品の内部に樹脂劣化によるヤケ異物及びゴム粒子の凝集物等の異物がより多く発生する傾向がある。
透明な溶融成形品の場合、上記異物は欠点として視認されるため、外観品質上好ましくなく、製品として不適切である。押出機の先端にスクリーンメッシュ等のフィルターを設置することで、上記異物をろ過により取り除くことができる。しかしながら、長時間生産後にフィルターが目詰まりすれば、押出機を停止して、フィルターを新品に交換する必要があり、生産性が低下する。
【0061】
本発明の溶融成形品は全体的に白っぽく見えるため、内部に異物が存在していても、使用者からは異物が欠点として視認されにくく、外観品質上不良品とならない。本発明の溶融成形品では、内部に異物が存在していても外観品質上問題とならないため、原料の少なくとも一部に、異物を生成しやすいリワーク材を用いることができ、フィルターを用いて異物を除去する必要もない。リワーク材の使用は、シートの不透明化、原料コスト低減、及び地球環境保護の観点から、好ましい。また、異物を除去するフィルターの不使用は、生産性の観点から、好ましい。
【0062】
上記のように、本発明の溶融成形品では異物を許容することができ、原料の少なくとも一部に異物を生成しやすいリワーク材を用いる場合にも、異物を除去するフィルターを使用しなくてもよい。ただし、本発明の溶融成形品の製造工程においても、押出機の先端にスクリーンメッシュ等のフィルターを設置して、異物を取り除いてもよい。この場合でも、不透明な溶融成形品では内部の異物が視認されにくいため、フィルターの目開きを比較的大きく設定することができ、生産開始からフィルターが目詰まりを起こすまでの時間をより長くし、フィルターの交換頻度を少なくすることができる。
【0063】
リワーク材の使用量は、必要な光学特性、表面硬度、外観、及び耐熱性等の物性を損なわない範囲内で、調整することができる。樹脂組成物(M)を構成する全原料のうち5~100質量%、好ましくは50~95質量%、さらに好ましくは60~95質量%、特に好ましくは70~95質量%、最も好ましくは80~95質量%が、リワーク材であることが好ましい。
バージン材とリワーク材とを併用する場合、リワーク材は、ポリカーボネート系樹脂(A)、メタクリル系樹脂(B)、又はアクリル系ゴム粒子(C)の単独材料でもよいし、これらのうちの2種以上の混合材料でもよい。
【0064】
以上説明したように、本発明によれば、ポリカーボネート系樹脂とメタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含み、より過酷な条件でも高い耐衝撃性を有する溶融成形品とその製造方法を提供することができる。
より具体的には、ポリカーボネート系樹脂とメタクリル系樹脂とアクリル系ゴム粒子とを含み、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でのシャルピー衝撃試験においても良好な耐衝撃性を有する溶融成形品とその製造方法を提供することができる。
【0065】
[用途]
本発明の溶融成形品は例えば、自動車等の車両の部品(自動車の外装材及び内装材等);OA機器の部品(筐体等);電気機器の部品;携帯電話及びタブレット端末等の電子機器の部品(筐体等);光記録媒体;建築部材;各種シート等として好適である。
【実施例
【0066】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(重量平均分子量(Mw))
樹脂のMwは、下記の手順でGPC法により求めた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。樹脂4mgをテトラヒドロフラン(THF)5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分の条件で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点についてGPC測定を行い、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいてMwを決定した。
【0067】
(アクリル系ゴム粒子(C)の体積基準平均粒子径)
ダイヤモンドナイフを用いてシート状の溶融成形品(樹脂シート)から超薄切片を切り出し、リンタングステン酸を用いてアクリル酸ブチル部分を選択的に染色した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製「JSM-7600」)を用いて撮像した。粒子全体が写っている30個のアクリル系ゴム粒子(C)を無作為に選択し、各粒子について染色部分の直径を測定し、平均値を体積基準平均粒子径とした。
【0068】
(シート状の押出成形品のシャルピー衝撃強度)
<試験片の作成>
ランニングソー及び切削機を用いて、図2A図2Bに示すように2種類の試験片を切り出した。図2Aは、シャルピー衝撃強度ChMD測定用の試験片の作成手順を示す模式斜視図である。図2Bは、シャルピー衝撃強度ChTD測定用の試験片の作成手順を示す模式斜視図である。
【0069】
シャルピー衝撃強度ChMD測定用として、図2Aに示すように、シート状の押出成形品を溶融成形時の流れ方向(MD)に切断して、長さ80mm以上×幅10mm×厚み4mmのシートを切り出し、このシートを溶融成形時の流れ方向に垂直方向(TD)に切断して、長さ80mm×幅10mm×厚み4mmの試験片SMDを得た。試験片SMDは、元のシートのMDに平行な中心軸を通るように作成した。
シャルピー衝撃強度ChMDの測定に用いる試験片SMDは、溶融成形時の流れ方向(MD)に長い溶融成形試験片である。この試験片SMDに対して、図2Aに示すように、溶融成形時の流れ方向(MD)に平行な一側面の中心部から溶融成形時の流れ方向に垂直方向(TD)にノッチNを形成した。
ノッチNの先端半径は、0.25mm及び1.0mmの2条件とした。先端半径の異なる2種類の刃を用いてノッチを形成することで、ノッチNの先端半径を変更した。
【0070】
シャルピー衝撃強度ChTD測定用として、図2Bに示すように、シート状の押出成形品を溶融成形時の流れ方向(MD)に切断して、長さ10mm以上×幅80mm×厚み4mmのシートを切り出し、このシートを溶融成形時の流れ方向に垂直方向(TD)に切断して、長さ10mm×幅80mm×厚み4mmの試験片STDを得た。試験片STDは、元のシートのMDに平行な中心軸を通るように作成した。
シャルピー衝撃強度ChTDの測定に用いる試験片STDは、溶融成形時の流れ方向に垂直な方向(TD)に長い溶融成形試験片である。この試験片STDに対して、図2Bに示すように、溶融成形時の流れ方向に垂直方向(TD)に平行な一側面の中心部から溶融成形時の流れ方向(MD)にノッチNを形成した。
ノッチNの先端半径は、0.25mm及び1.0mmの2条件とした。先端半径の異なる2種類の刃を用いることで、ノッチNの先端半径を変更した。
【0071】
<シャルピー衝撃強度の測定>
気温23℃、相対湿度50%の条件で、JIS K7111-1に準拠して、試験片SMD、STDのシャルピー衝撃強度を測定した。各試験片について、測定を10回行い、平均値をシャルピー衝撃強度とした。各例について、以下の4種類のシャルピー衝撃強度を測定し、ChMD(0.25)/ChTD(0.25)[-]及びChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]を求めた。
ChMD(0.25):試験片の長手方向がMD、ノッチ先端半径0.25mm、
ChTD(0.25):試験片の長手方向がTD、ノッチ先端半径0.25mm、
ChMD(1.0):試験片の長手方向がMD、ノッチ先端半径1.0mm、
ChTD(1.0):試験片の長手方向がTD、ノッチ先端半径1.0mm。
【0072】
試験片の破壊には、試験片が完全に2つに分断する完全破壊と、試験片が2つに分かれるが、これらが皮一枚で繋がった状態となるヒンジ破壊の2種類がある。特に耐衝撃性が高い試験片ではヒンジ破壊となり、それ以外の試験片では完全破壊となる。
表1-2、表2-2中、ヒンジ破壊が起こった例については、シャルピー衝撃強度のデータの横に(H)を記載した。(H)の記載のない例は、完全破壊が起こった例である。
【0073】
(シート状の射出成形品のシャルピー衝撃強度)
得られた長さ80mm×幅10mm×厚み4mmのシート状の射出成形品を、シャルピー衝撃強度ChMD測定用の試験片SMDとしてそのまま用いた。試験片SMDは、溶融成形時の流れ方向(MD)に長い溶融成形試験片である。この試験片SMDに対して、溶融成形時の流れ方向(MD)に平行な一側面の中心部から溶融成形時の流れ方向に垂直方向(TD)にノッチNを形成した(図2Aに示す試験片SMDと同様。)。
ノッチNの先端半径は、0.25mm及び1.0mmの2条件とした。先端半径の異なる2種類の刃を用いることで、ノッチNの先端半径を変更した。
各例について、以下の2種類のシャルピー衝撃強度を測定し、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]を求めた。
ChMD(0.25):試験片の長手方向がMD、ノッチ先端半径0.25mm、
ChMD(1.0):試験片の長手方向がMD、ノッチ先端半径1.0mm。
【0074】
(曲げ弾性率)
シャルピー衝撃強度ChMDの測定に用いたのと同じ試験片(ただし、ノッチ形成なし)を用意した。JIS-K7171に準拠し、島津製作所製「オートグラフAG-10TBR」を用いて、温度23℃、相対湿度50%の条件で曲げ弾性率を測定した。測定を5回行い、平均値を曲げ弾性率とした。
【0075】
(総合評価)
下記基準にて、総合評価を行った。
A(良):ChMD(0.25)が40kJ/m以上、かつ、曲げ弾性率が2000MPa以上である。
B(可):ChMD(0.25)が30kJ/m以上40kJ/m未満、かつ、曲げ弾性率が2000MPa以上である。
C(不良):ChMD(0.25)が30kJ/m未満、または、曲げ弾性率が2000MPa未満である。
【0076】
[材料]
用いた材料は、以下の通りである。
<ポリカーボネート系樹脂(A)>
(A1) 住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「SDポリカ(登録商標)」(温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=6.7g/10分。
【0077】
<メタクリル系樹脂(B)>
(B1) ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、株式会社クラレ製「パラペット(登録商標)HR」(温度230℃、3.8kg荷重下でのMFR=2.0g/10分、Tg=119℃)。
【0078】
<多層構造ゴム粒子(C)>
(C1) 以下の組成の共重合体からなる、最内層(C1-a)、中間層(C1-b)、及び最外層(C1-c)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(C1)を製造した。体積基準平均粒子径は230nmであった。
最内層(C1-a):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=32.91/2.09/0.07、
中間層(C1-b):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=37.00/8.00/0.90、
最外層(C1-c):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=18.80/1.20。
【0079】
(C2) 以下の組成の共重合体からなる、最内層(C2-a)、中間層(C2-b)、及び最外層(C2-c)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(C2)を製造した。体積基準平均粒子径は110nmであった。
最内層(C2-a):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=9.39/0.61/0.02、
中間層(C2-b):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=41.11/8.89/2.00、
最外層(C2-c):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=37.61/2.39。
【0080】
(C3) 以下の組成の共重合体からなる、最内層(C3-a)、中間層(C3-b)、及び最外層(C3-c)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(C3)を製造した。体積基準平均粒子径は500nmであった。
最内層(C3-a):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=32.91/2.09/0.07、
中間層(C3-b):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=37.00/8.00/0.90、
最外層(C3-c):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=18.80/1.20。
【0081】
[実施例1-1]
表1-1に記載の質量比になるように、ポリカーボネート系樹脂(A1)、メタクリル系樹脂(B1)、及びアクリル系ゴム粒子(C1)をドライブレンドした。押出機として50mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて、上記ドライブレンド材料の溶融混練を行い、溶融状態の樹脂をTダイから吐出量(Q)40kg/h(Q=10101mm/s)で押出した。押出条件は、以下の通りとした。
Tダイの幅(L):400mm、
リップ開度(T):4.5mm、
せん断速度(γ=6Q/LT):7.5s-1
押出された溶融樹脂を複数の金属製冷却ロールを用いて加圧及び冷却することにより、厚み4.0mmのシート状の溶融成形品(押出成形品)を得、評価した。
主な製造条件と評価結果をそれぞれ、表1-1、表1-2に示す。表1-1において、不記載の条件は共通条件とした。
【0082】
[実施例2-1、3-1、4~6、参考例1-1、比較例1-1~7-1]
アクリル系ゴム粒子(C)の種類、ポリカーボネート系樹脂(A)とメタクリル系樹脂(B)とアクリル系ゴム粒子(C)との配合比を表1-1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、シート状の溶融成形品を得、評価した。主な製造条件と評価結果をそれぞれ、表1-1、表1-2に示す。また、実施例2-1で得られた溶融成形品の透過型電子顕微鏡(TEM)写真の例を図3に示す。
【0083】
[実施例1-2~3-2、参考例1-2、比較例1-2~7-2]
表2-1に記載の質量比になるように、ポリカーボネート系樹脂(A1)、メタクリル系樹脂(B1)、及びアクリル系ゴム粒子(C1)をドライブレンドした。押出機として40mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて、上記ドライブレンド材料の溶融混練を行い、押出されたストランドをペレット状にカットし、ペレットを得た。
その後、上記ペレットを、射出成形機(名機製作所製「M-100C」)を用いて、成形温度280℃及び金型温度80℃の条件で、長さ80mm×幅10mm×厚み4mmのシート状の溶融成形品(射出成形品)を得、評価した。
長さ方向が溶融成形時の流れ方向(MD)である。
射出速度(S):25mm/s、
シリンダーの直径(D):40mm、
ゲート直径(d):3.2mm。
射出成形時のゲート部での式:γ=8DS/dにより求めたせん断速度(γ)は、9766s-1であった。
【0084】
【表1-1】
【0085】
【表1-2】
【0086】
【表2-1】
【0087】
【表2-2】
【0088】
[結果のまとめ]
[参考例1-1、1-2]
参考例1-1、1-2では、ポリカーボネート系樹脂(A)単体からなる溶融成形品を得た。これら参考例では、ノッチの先端半径により、シャルピー衝撃強度の結果が大きく変化した。具体的には、ChMD(1.0)の値は大きかったが、ChMD(0.25)の値が小さく、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]の値が小さかった。
ノッチの先端半径が0.25mmと比較的小さい場合、ノッチ部に応力がより集中しやすく、クレーズの生成、さらにはクラックの生成が優先的に起こり、その結果、脆性破壊が起こり、耐衝撃性が不良となると考えられる。一方、ノッチの先端半径が1.0mmと比較的大きい場合、ノッチ部に対する応力集中が緩和されるため、せん断降伏(延性破壊)が起こり、耐衝撃性が良好となると考えられる(一般的に、ポリカーボネート系樹脂で言われている高耐衝撃性の発現)。
【0089】
[実施例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2、4~6]
実施例1-1、1-2、2-1、2-2、3-1、3-2、4~6では、ポリカーボネート系樹脂(A)60~94質量%、メタクリル系樹脂(B)1~30質量%、及び体積基準平均粒子径が50~300nmであるアクリル系ゴム粒子(C)5~20質量%を含む樹脂組成物(M)からなる単層構造のシート状の溶融成形品を得た。
実施例1-1、2-1、3-1、4~6で得られたシート状の押出成形品はいずれも、ノッチの先端半径が0.25mmの過酷な条件(ノッチの先端部分が鋭い過酷な条件)においても、比較的高いシャルピー衝撃強度が得られ、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]の値が参考例1-1よりも大きかった。これら実施例では、ノッチの先端部分を鋭くしたときのシャルピー衝撃強度の低下が効果的に抑制され、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でのシャルピー衝撃試験においても良好な耐衝撃性を有する溶融成形品が得られた。
これら実施例で得られたシート状の押出成形品はいずれも、曲げ弾性率も良好であった。

【0090】
同様に、実施例1-2、2-2、3-2で得られたシート状の射出成形品はいずれも、ノッチの先端半径が0.25mmの過酷な条件(ノッチの先端部分が鋭い過酷な条件)においても、比較的高いシャルピー衝撃強度が得られ、ChMD(0.25)/ChMD(1.0)×100[%]の値が参考例1-2よりも大きかった。これら実施例では、ノッチの先端部分を鋭くしたときのシャルピー衝撃強度の低下が効果的に抑制され、ノッチ先端部分が鋭いより過酷な条件でのシャルピー衝撃試験においても良好な耐衝撃性を有する溶融成形品が得られた。
これら実施例で得られたシート状の押出成形品はいずれも、曲げ弾性率も良好であった。
【0091】
上記実施例で得られた溶融成形品は、アクリル系ゴム粒子(C)を含むことで、アクリル系ゴム粒子(C)を含まない比較例1-1、1-2、2-1、2-2に対して、以下の効果により耐衝撃性が向上したと考えられる。
(1)ゴム粒子周りで応力集中が起こることによる、ゴム粒子周りでのせん断降伏発生
(2)ゴム粒子周りでのせん断変形帯によるクラック発生の抑制(成澤郁夫 著「高分子材料強度のすべて」2012年発行、p.311、図7.58<ゴム粒子周りのクレーズとせん断降伏のモデル>を参照されたい。)
(3)ゴム粒子周りに形成される空洞(キャビテーション)によるエネルギー吸収(キャビテーションと呼ばれる空洞は、衝撃を受けたときに、ゴム粒子とポリカーボネート系樹脂又はメタクリル系樹脂とを剥離させるエネルギーを吸収できる)
【0092】
上記実施例では、溶融成形時のせん断速度を1~50000s-1とすることで、本発明の効果をより良く発揮するモルフォロジーを形成できたと考えられる。具体的には、メタクリル系樹脂相がMDに配向し、ポリカーボネート系樹脂相とアクリル系ゴム粒子とが接触する。この結果、ポリカーボネート系樹脂とゴム粒子との間でせん断変形帯を形成でき、クレーズがクラックにまで成長しないため、溶融流れ方向に垂直な方向の鋭いノッチでも耐衝撃性が発現できると考えられる。ノッチの先端半径が0.25mmの過酷な条件(ノッチの先端部分が鋭い過酷な条件)においても、良好なシャルピー衝撃強度が得られたと考えられる。
【0093】
[比較例1-1、1-2、2-1、2-2]
比較例1-1、1-2、2-1、2-2では、ポリカーボネート系樹脂(A)とメタクリル系樹脂(B)とを含み、アクリル系ゴム粒子(C)を含まない樹脂組成物からなる溶融成形品を得た。
これら比較例では、ポリカーボネート系樹脂単体からなる溶融成形品よりも耐衝撃性が劣る結果となった。メタクリル系樹脂の含有量が多くなる程、耐衝撃性が低下した。これら比較例では、メタクリル系樹脂部で、クレーズの生成、さらにはクラックの生成が起こり、そのクラックが海相であるポリカーボネート系樹脂まで伝播したと考えられる。
【0094】
[比較例3-1、3-2、4-1、4-2]
比較例3-1、3-2、4-1、4-2では、ポリカーボネート系樹脂(A)とメタクリル系樹脂(B)とを含み、アクリル系ゴム粒子(C)を5質量%未満の割合で含む樹脂組成物からなる溶融成形品を得た。
これら比較例では、アクリル系ゴム粒子(C)の量が不充分であったため、耐衝撃性が不充分であった。これら比較例では、応力分散及びせん断変形帯によるクラック抑制が不充分であり、脆性破壊が起こったと考えられる。
【0095】
[比較例5-1、5-2、6-1、6-2]
比較例5-1、5-2、6-1、6-2では、ポリカーボネート系樹脂(A)とメタクリル系樹脂(B)とを含み、アクリル系ゴム粒子(C)を20質量%超の割合で含む樹脂組成物からなる溶融成形品を得た。
これら比較例では、耐衝撃性が不充分であった。アクリル系ゴム粒子(C)の量が過剰であったため、曲げ弾性率が小さく、不良であった。得られた溶融成形品は、曲げ弾性率が小さいため、小さい力でも成形品が曲がりやすく、自動車等の用途には適さないものであった。
【0096】
[比較例7-1、7-2]
比較例7-1、7-2では、ポリカーボネート系樹脂(A)とメタクリル系樹脂(B)とを含み、体積基準平均粒子径が300nm超のアクリル系ゴム粒子(C)を含む樹脂組成物からなる溶融成形品を得た。
これら比較例7-1、7-2で得られた溶融成形品は、耐衝撃性が不充分であった。アクリル系ゴム粒子(C)の体積基準平均粒子径が過大では、「(1)ゴム粒子周りで応力集中が起こることによる、ゴム粒子周りでのせん断降伏発生」の作用効果が低減すると考えられる。また、同じ添加量で比較した場合、粒子数が低減するため、「(2)ゴム粒子周りでのせん断変形帯によるクラック発生の抑制」及び「(3)ゴム粒子周りに形成される空洞(キャビテーション)によるエネルギー吸収」の作用効果も低減すると考えられる。
【0097】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
11 Tダイ
12~14 冷却ロール
15 引取りロール
16 シート状の溶融成形品(樹脂シート)
図1
図2A
図2B
図3