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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】チューブ及びポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/04 20060101AFI20240823BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20240823BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240823BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240823BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
F16L11/04
B32B1/08 Z
C08L23/26
C08K5/29
C08L77/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021502109
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006623
(87)【国際公開番号】W WO2020175290
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019031722
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】關口 健治
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-052819(JP,A)
【文献】特開2015-199876(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115699(WO,A1)
【文献】特開2016-121349(JP,A)
【文献】特開2014-012771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F06L 11/04
B32B 1/08
C08L 77/06
C08L 23/26
C08K 5/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミドを60~80質量%と酸無水物基を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%含有する層を含むチューブであって、
前記層が、さらにカルボジイミド化合物を0.3~5質量%含み、
前記半芳香族ポリアミドが、全ジカルボン酸単位に対してテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸単位から選ばれる少なくとも1種を50モル%以上含むジカルボン酸単位と、全ジアミン単位に対して炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位を60モル%以上含むジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドであり、
前記脂肪族ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン及び2-メチル-1,8-オクタンジアミンから選ばれる少なくとも1種に由来する単位であり、
前記半芳香族ポリアミドは、その末端アミノ基含量([NH ])が5~60μeq/gであり、
前記エラストマー1g中における酸無水物基の濃度が95~210μeq/gであり、
前記層は、
前記半芳香族ポリアミドを含有する相(A)及び前記エラストマーを含有する相(B)を含む相分離構造を有し、
前記相(A)は連続相であり、
前記相(B)は前記相(A)中に分散された分散相であり、
前記層の断面を電子顕微鏡で観察した画像において、100平方μmあたりに存在する長軸径が2μm以上の前記相(B)の平均個数が1個/100μm以下である、チューブ。
【請求項2】
JIS B 0601(1982)に従って測定した前記層の表面粗さ(Ra)が、0.4μm以下である、
請求項1に記載のチューブ。
【請求項3】
前記層がチューブの最内層である、請求項1又は2に記載のチューブ。
【請求項4】
前記相分離構造が、
前記半芳香族ポリアミドと前記エラストマーが反応してなる相分離構造である、
請求項1~3のいずれかに記載のチューブ。
【請求項5】
押出し成形体又はブロー成形体である、請求項1~のいずれかに記載のチューブ。
【請求項6】
燃料チューブ、エンジン冷却液チューブ、尿素溶液搬送チューブ、エアコン冷媒用チューブ、石油掘削チューブ、又はブローバイチューブである、請求項に記載のチューブ。
【請求項7】
ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、半芳香族ポリアミドを60~80質量%と、酸無水物基を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%と、を溶融混錬してなるポリアミド樹脂組成物であって
前記半芳香族ポリアミドが、全ジカルボン酸単位に対してテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸単位から選ばれる少なくとも1種を50モル%以上含むジカルボン酸単位と、全ジアミン単位に対して炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位を60モル%以上含むジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドであり、
前記脂肪族ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン及び2-メチル-1,8-オクタンジアミンから選ばれる少なくとも1種に由来する単位であり、
前記半芳香族ポリアミドは、その末端アミノ基含量([NH ])が5~60μeq/gであり、
前記エラストマー1g中における酸無水物基の濃度が95~210μeq/gであり、
さらに、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、カルボジイミド化合物を0.3~5質量%含む、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
半芳香族ポリアミド、並びに、酸無水物基を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを溶融混錬した後に、
カルボジイミド化合物をさらに添加し、溶融混錬する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、前記半芳香族ポリアミドが60~80質量%であり、前記エラストマーが15~40質量%であり、
さらに、前記ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、前記カルボジイミド化合物を0.3~5質量%含み、
前記半芳香族ポリアミドが、全ジカルボン酸単位に対してテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸単位から選ばれる少なくとも1種を50モル%以上含むジカルボン酸単位と、全ジアミン単位に対して炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位を60モル%以上含むジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドであり、
前記脂肪族ジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン及び2-メチル-1,8-オクタンジアミンから選ばれる少なくとも1種に由来する単位であり、
前記半芳香族ポリアミドは、その末端アミノ基含量([NH ])が5~60μeq/gであり、
前記エラストマー1g中における酸無水物基の濃度が95~210μeq/gである、
ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性を有し、さらに柔軟性、成形性にも優れるチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、強度、耐熱性、耐薬品性等に優れており、従来から自動車用の燃料配管や燃料配管継手(コネクター)等、自動車の機構部品に使用されている。例えば、自動車用エンジン冷却に用いられるロングライフクーラント(以下「LLC」)やエアコン冷却用の冷媒を循環させるためのチューブなどにもポリアミド樹脂組成物が用いられる。上記チューブには押出し成形の容易性や柔軟性の観点からポリアミド12やポリアミド11、ポリアミド6などの脂肪族ポリアミドが広く用いられているが、一方で、これらの脂肪族ポリアミドは、耐薬品性不足、耐熱性不足などの問題点も指摘されている。特に近年、自動車の燃費向上を目的として冷却水や高温のガス、オイルが流れるチューブの樹脂化が盛んに検討されており、従来のチューブよりも、耐薬品性、耐熱性に優れたチューブが望まれている。
【0003】
テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を含む半芳香族ポリアミドは一般に脂肪族ポリアミドよりも耐薬品性、耐熱性に優れることが知られている。半芳香族ポリアミドは一般的に脂肪族ポリアミドよりも剛直であるため、チューブとして使用する際にはエラストマーなどの柔軟性付与材とのアロイにより柔軟性を付与することが提案されている(特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-176597
【文献】特表2015-501341
【文献】国際公開第2017/115699号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半芳香族ポリアミドを含むポリアミド組成物に十分な柔軟性を付与するため、エラストマーの添加量を増やすと目ヤニが増加し、それに伴い表面平滑性が悪化するなど成形性の問題が指摘されていた。
そこで本発明は、従来技術の問題を鑑みて、優れた耐熱性を有し、さらに柔軟性と成形性に優れるチューブ、及び該チューブを得ることができるポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、半芳香族ポリアミドとエラストマーを溶融混錬して得られたポリアミド樹脂組成物を用いて成形することにより、半芳香族ポリアミドが有する優れた耐熱性を有しつつ、柔軟性と表面平滑性などの成形性に優れるチューブが得られることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1],[2]を提供する。
[1]半芳香族ポリアミドを60~80質量%とカルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%含有する層を含むチューブであって、
前記層は、前記半芳香族ポリアミドを含有する相(A)及び前記エラストマーを含有する相(B)を含む相分離構造を有し、前記相(A)は連続相であり、前記相(B)は前記相(A)中に分散された分散相であり、
前記層の断面を電子顕微鏡で観察した画像において、100平方μmあたりに存在する長軸径が2μm以上の前記相(B)の平均個数が1個/100μm以下である、チューブ。
[2]半芳香族ポリアミドを60~80質量%と、カルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%と、を溶融混錬してなり、前記エラストマー1g中におけるカルボキシル基及び酸無水物基の合計濃度が85~250μeq/gである、ポリアミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、さらに柔軟性と成形性に優れるチューブ、及び該チューブを得ることができるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のチューブは、半芳香族ポリアミドを60~80質量%とカルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%含有する層を含み、
上記層は、前記半芳香族ポリアミドを含有する相(A)及び前記エラストマーを含有する相(B)を含む相分離構造を有し、上記相(A)は連続相であり、上記相(B)は上記相(A)中に分散された分散相であり、
上記層の断面を電子顕微鏡で観察した画像において、100平方μmあたりに存在する長軸径が2μm以上の上記相(B)の平均個数が1個/100μm以下であることを特徴とする。
また本発明は、上記チューブを得ることができるポリアミド樹脂組成物をも提供する。すなわち、本発明のポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミドを60~80質量%と、カルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%と、を溶融混錬してなり、前記エラストマー1g中におけるカルボキシル基及び酸無水物基の合計濃度が85~250μeq/gであることを特徴とする。
半芳香族ポリアミドと上記官能基を有する不飽和化合物で変性されたエラストマーとを含むポリアミド樹脂組成物中に上記官能基を特定濃度有することで、チューブに柔軟性が付与され、また上記モルフォロジーが形成されて表面平滑性に優れる層を有するチューブが得られる。さらに、半芳香族ポリアミドを含有することにより、その特性である耐熱性がチューブに付与される。
以下に本発明のポリアミド樹脂組成物及びチューブ等についてより具体的に説明する。
【0010】
なお、本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。また本明細書において、実施態様の好ましい形態を示すが、個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、好ましい形態である。数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
また、カルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを、単に「エラストマー」と称すことがある。
また、「チューブ」とは、管やホースなどのような筒状構造体を意味する。
【0011】
<ポリアミド樹脂組成物>
[半芳香族ポリアミド]
本発明において半芳香族ポリアミドとは、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミド、又は、脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドをいう。ここで「主成分とする」とは、全単位中の50~100モル%、好ましくは60~100モル%を構成することをいう。
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、半芳香族ポリアミドを60~80質量%含む。半芳香族ポリアミドの上記含有量が60質量%未満であると十分な耐熱性を発現することができず、また80質量%を超えると柔軟性に劣る。半芳香族ポリアミドの上記含有量は、63質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、67質量%以上がさらに好ましく、75質量%以下が好ましい。
【0012】
本発明に用いる半芳香族ポリアミドとしては、半芳香族ポリアミドの中でも、芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含むポリアミドが好ましく、芳香族ジカルボン酸単位を50~100モル%含有するジカルボン酸単位と、炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位を60~100モル%含有するジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドがより好ましい。
【0013】
半芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸単位は、耐薬品性及び耐熱性が良好な半芳香族ポリアミドとなる観点から、ジカルボン酸単位における芳香族ジカルボン酸単位の含有率は、50~100モル%の範囲にあることが好ましく、75~100モル%の範囲にあることがより好ましく、90~100モル%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0014】
芳香族ジカルボン酸単位としては、テレフタル酸単位、ナフタレンジカルボン酸単位、イソフタル酸単位、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸単位、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸単位、ジフェン酸単位、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸単位、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸単位、4,4’-ビフェニルジカルボン酸単位等が挙げられる。上記ナフタレンジカルボン酸単位としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、及び1,4-ナフタレンジカルボン酸から誘導される単位が挙げられ、2,6-ナフタレンジカルボン酸単位が好ましい。
これらの中でも、芳香族ジカルボン酸単位はテレフタル酸単位及び/又はナフタレンジカルボン酸単位であることが好ましい。よって、半芳香族ポリアミドは、全ジカルボン酸単位に対してテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸単位から選ばれる少なくとも1種を50モル%以上含むジカルボン酸単位を含むことが好ましい。全ジカルボン酸単位におけるテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸単位から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸単位の含有率は、50~100モル%の範囲にあることが好ましく、75~100モル%の範囲にあることがより好ましく、90~100モル%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0015】
半芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸単位は、好ましくは50モル%未満の範囲で、芳香族ジカルボン酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでもよい。かかる他のジカルボン酸単位としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジメチルマロン酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;などに由来する単位を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。ジカルボン酸単位におけるこれらの他のジカルボン酸単位の含有率は、25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。本発明で用いる半芳香族ポリアミドはさらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸に由来する単位を溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
【0016】
また、半芳香族ポリアミドは、全ジアミン単位に対して炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位を60モル%以上含むことが好ましい。炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位をこの割合で含有する半芳香族ポリアミドを使用すると、靭性、耐熱性、耐薬品性、軽量性に優れたポリアミド樹脂組成物が得られる。ジアミン単位における炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位の含有率は、60~100モル%の範囲にあることが好ましく、75~100モル%の範囲にあることがより好ましく、90~100モル%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0017】
上記の炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位としては、例えば、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状脂肪族ジアミン;などに由来する単位を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。
【0018】
上記の炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位は、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン及び1,10-デカンジアミンに由来する単位から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、耐熱性、低吸水性及び耐薬液性により一層優れるポリアミド樹脂組成物が得られることから、1,9-ノナンジアミン及び/又は2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する単位であることがより好ましく、1,9-ノナンジアミン単位及び2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位であることがさらに好ましい。脂肪族ジアミン単位が1,9-ノナンジアミン及び2-メチル-1,8-オクタンジアミンに由来する単位をともに含む場合には、1,9-ノナンジアミン単位と2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位のモル比は、1,9-ノナンジアミン単位/2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位=95/5~40/60の範囲にあることが好ましく、90/10~40/60の範囲にあることがより好ましく、80/20~40/60の範囲にあることがさらに好ましい。
【0019】
半芳香族ポリアミドを構成するジアミン単位は、好ましくは40モル%未満の範囲で、炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位以外の他のジアミン単位を含んでもよい。かかる他のジアミン単位としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン等の炭素数3以下の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどに由来する単位を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。ジアミン単位におけるこれらの他のジアミン単位の含有率は25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0020】
半芳香族ポリアミドは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、さらにアミノカルボン酸単位及び/又はラクタム単位を含んでいてもよい。
当該アミノカルボン酸単位としては、例えば、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などに由来する単位を挙げることができ、アミノカルボン酸単位は、2種以上含まれていてもよい。半芳香族ポリアミドにおけるアミノカルボン酸単位の含有率は、半芳香族ポリアミドを構成する全モノマー単位100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
半芳香族ポリアミドは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、ラクタム単位を含んでいてもよい。また、当該ラクタム単位としては、例えば、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等などに由来する単位を挙げることができ、ラクタム単位は2種以上含まれていてもよい。半芳香族ポリアミドにおけるラクタム単位の含有率は、半芳香族ポリアミドを構成する全モノマー単位100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
芳香族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、炭素数4~13の脂肪族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含む代表的な半芳香族ポリアミドとしては、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM8T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)、ポリノナメチレンナフタレンジカルボキサミド(ポリアミド9N)、ポリノナメチレンナフタレンジカルボキサミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフタレンジカルボキサミドコポリマー(ナイロン9N/M8N)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリアミド6Iとポリアミド6Tとの共重合体(ポリアミド6I/6T)、ポリアミド6Tとポリウンデカンアミド(ポリアミド11)との共重合体(ポリアミド6T/11)、及びポリアミド10Tとポリウンデカンアミド(ポリアミド11)との共重合体(ポリアミド10T/11)などが挙げられる。
これらの中でも、ポリアミド10T/11、ポリノナメチレンナフタレンジカルボキサミド(ポリアミド9N)、ポリノナメチレンナフタレンジカルボキサミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフタレンジカルボキサミドコポリマー(ナイロン9N/M8N)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)及びポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリノナメチレンナフタレンジカルボキサミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)ナフタレンジカルボキサミドコポリマー(ナイロン9N/M8N)、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)、及びポリアミド10T/11から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ポリノナメチレンテレフタルアミド/ポリ(2-メチルオクタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン9T/M8T)がさらに好ましい。
【0023】
一方、半芳香族ポリアミドのうち、脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含む半芳香族ポリアミドについては、脂肪族ジカルボン酸単位として、前述した脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。また、芳香族ジアミン単位としては、前述した芳香族ジアミンから誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上を含むことができる。また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の単位を含んでもよい。
脂肪族ジカルボン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位を主成分とするジアミン単位とを含む代表的な半芳香族ポリアミドとしては、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)、ポリパラキシリレンセバカミド(PXD10)などが挙げられる。
【0024】
本発明の半芳香族ポリアミドは、その分子鎖の末端基の10モル%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。末端封止率が10モル%以上の半芳香族ポリアミドを使用すると、溶融安定性、耐熱水性などの物性がより優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物が得られる。
【0025】
末端封止剤としては、末端アミノ基又は末端カルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を用いることができる。具体的には、モノカルボン酸、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類、モノアミンなどが挙げられる。反応性及び封止末端の安定性などの観点から、末端アミノ基に対する末端封止剤としては、モノカルボン酸が好ましく、末端カルボキシル基に対する末端封止剤としては、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さなどの観点からは、末端封止剤としてはモノカルボン酸がより好ましい。
【0026】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び安息香酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0027】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性及び価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアニリンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
半芳香族ポリアミドは、濃硫酸を溶媒とし、濃度0.2g/dl、温度30℃で測定した固有粘度[ηinh]が0.6dl/g以上であることが好ましく、0.8dl/g以上であることがより好ましく、0.6dl/g以上であることがさらに好ましく、1.0dl/g以上であることが特に好ましく、また、2.0dl/g以下であることが好ましく、1.8dl/g以下であることがより好ましく、1.6dl/g以下であることがさらに好ましい。ポリアミドの固有粘度[ηinh]が上記の範囲内であれば、成形性などの諸物性がより向上する。固有粘度[ηinh]は、溶媒(濃硫酸)の流下時間t(秒)、試料溶液の流下時間t(秒)及び試料溶液における試料濃度c(g/dl)(すなわち、0.2g/dl)から、ηinh=[ln(t/t)]/cの関係式により求めることができる。
【0029】
半芳香族ポリアミドは、その末端アミノ基含量([NH])が5~60μeq/gであることが好ましく、5~50μeq/gの範囲内にあることがより好ましく、5~30μeq/gの範囲内にあることがさらに好ましい。末端アミノ基含量([NH])が5μeq/g以上であれば、半芳香族ポリアミドと、後述するエラストマーとの相容性が良好である。また、該末端アミノ基含量が60μeq/g以下であれば、エラストマーとして後述する酸変性エラストマーを用いる場合、該末端アミノ基とエラストマーの変性部分とが反応しすぎてゲル化するのを避けることができる。
本明細書でいう末端アミノ基含量([NH])は、半芳香族ポリアミドが1g中に含有する末端アミノ基の量(単位:μeq)を指し、指示薬を用いた中和滴定法より求めることができる。
【0030】
ジカルボン酸単位とジアミン単位とを含み、末端アミノ基含量([NH])が上記した範囲にある半芳香族ポリアミドは、例えば、以下のようにして製造できる。
まず、ジカルボン酸、ジアミン、及び必要に応じてアミノカルボン酸、ラクタム、触媒、末端封止剤を混合し、ナイロン塩を製造する。この際、上記の反応原料に含まれる全てのカルボキシル基のモル数(X)と全てのアミノ基のモル数(Y)が下記の式(2)
-0.5≦[(Y-X)/Y]×100≦2.0 (2)
を満足するようにすると、末端アミノ基含量([NH])が5~60μeq/gである半芳香族ポリアミドを製造し易くなり好ましい。次に、生成したナイロン塩を200~250℃の温度に加熱し、濃硫酸中30℃における固有粘度[ηinh]が0.10~0.60dlL/gのプレポリマーとし、さらに高重合度化することにより、本発明において使用される半芳香族ポリアミドを得ることができる。プレポリマーの固有粘度[ηinh]が0.10~0.60dLl/gの範囲内にあると、高重合度化の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、さらに分子量分布の小さい、各種性能や成形性により優れた半芳香族ポリアミドが得られる。高重合度化の段階を固相重合法により行う場合、減圧下又は不活性ガス流通下に行うことが好ましく、重合温度が200~280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色及びゲル化を有効に抑制することができる。 また、高重合度化の段階を溶融押出機により行う場合、重合温度は370℃以下であることが好ましく、かかる条件で重合を行うと、ポリアミドの分解がほとんどなく、劣化の少ない半芳香族ポリアミドが得られる。
【0031】
半芳香族ポリアミドを製造する際に使用することができる触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、又はこれらの塩もしくはエステルなどが挙げられる。上記の塩又はエステルとしては、例えば、リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを挙げることができる。
上記触媒の使用量は、原料の総質量100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。触媒の使用量が上記下限以上であれば良好に重合が進行する。上記上限以下であれば触媒由来の不純物が生じにくくなり、例えばポリアミドないしそれを含有するポリアミド樹脂組成物を押出成形した場合に上記不純物による不具合を防ぐことができる。
【0032】
[エラストマー]
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを15~40質量%含む。エラストマーの上記含有量が15質量%未満であると柔軟性に劣り、また40質量%を超えると優れた耐熱性を発現することが困難となる。
柔軟性及び耐衝撃性を付与する観点から、エラストマーの上記含有量は、好ましくは19質量%以上であり、より好ましくは25質量%以上である。また、成形性の観点から、エラストマーの上記含有量は、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは31質量%以下である。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物の実施態様の一つとして、エラストマーの上記含有量を成形体の曲げ弾性率に応じて調整してもよい。該組成物からなるチューブの柔軟性を向上させる観点から、エラストマーの上記含有量は、ISO 178(2001年第4版)に準じ、23℃、50%RHの条件下において測定されるポリアミド樹脂組成物の成形体の曲げ弾性率が1.8GPa以下となる量に調節することが好ましく、1.5GPa以下となる量に調節することがより好ましく、1.2GPa以下となる量に調整することがさらに好ましい。また、エラストマーの上記含有量は、チューブとして機能させる観点から、上記曲げ弾性率が0.3GPa以上となる量に調節することが好ましい。
【0033】
本発明ではエラストマーとして、例えばα-オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー、又は芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体(以下、「共重合体等」と称することがある。)を、カルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したものを用いることができる。このような不飽和化合物で変性すると、半芳香族ポリアミドが有する末端アミノ基と、エラストマーの成分である該変性成分が有するカルボキシル基及び/又は酸無水物基とが反応し、半芳香族ポリアミドの相とエラストマーの相との界面の親和性が強くなり、耐衝撃性と伸び特性が向上し柔軟性が発現される。上記の中でも、α-オレフィン系共重合体をカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する不飽和化合物で変性した重合体が好ましく、エチレン-ブテン共重合体を当該不飽和化合物で変性した重合体がより好ましい。
【0034】
カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する不飽和化合物により変性されたエラストマーに用いられる、カルボキシル基を有する不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸などが挙げられる。また、酸無水物基を有する不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β-不飽和結合を有するジカルボン酸無水物などが挙げられる。カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する不飽和化合物としては、α,β-不飽和結合を有するジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0035】
上記エラストマー1g中における、カルボキシル基及び酸無水物基の合計濃度は、85~250μeq/gの範囲内にあることが好ましく、90~220μeq/gの範囲内にあることがより好ましく、95~210μeq/gの範囲内にあることがさらに好ましい。カルボキシル基及び酸無水物基の含有量が上記範囲であれば、押出し成形時に表面外観の優れたチューブが得られ、表面平滑性に優れるチューブを容易に得ることができる。
なお、ポリアミド樹脂組成物中における上記カルボキシル基及び酸無水物基の合計濃度は、溶融混錬の過程でポリアミドの末端アミノ基とカルボキシル基及び酸無水物基が反応するため特定困難である。
【0036】
上記共重合体等としては、α-オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマー、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体などが挙げられる。これらの共重合体等は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記のα-オレフィン系共重合体としては、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体や、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。α-オレフィン系共重合体としては、エチレンと炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。
炭素数3以上のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。上記の中でも、炭素数3以上のα-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン及び1-オクテンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、1-ブテンがより好ましい。
【0038】
また、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、4,8-ジメチル-1,4,8-デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,5-ノルボルナジエン等の非共役ジエンのポリエンを共重合してもよい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
上記の(エチレン及び/又はプロピレン)/(α,β-不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体は、エチレン及び/又はプロピレンとα,β-不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル単量体を共重合した重合体であり、α,β-不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、α,β-不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これら不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記のアイオノマーは、オレフィンとα,β-不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンの中和によりイオン化されたものである。オレフィンとしては、エチレンが好ましく用いられ、α,β-不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく用いられるが、ここに例示したものに限定されるものではなく、不飽和カルボン酸エステル単量体が共重合されていてもよい。また、金属イオンはLi、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の他、Al、Sn、Sb、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Cd等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
また、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックを少なくとも1個と、共役ジエン系重合体ブロックを少なくとも1個有するブロック共重合体が用いられる。また、上記のブロック共重合体では、共役ジエン系重合体ブロックにおける不飽和結合が水素添加されていてもよい。
【0042】
芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位から主としてなる重合体ブロックである。その場合の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。また、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、場合により少量の他の不飽和単量体からなる構造単位を有していてもよい。共役ジエン系重合体ブロックは、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等の共役ジエン化合物の1種又は2種以上から形成された重合体ブロックであり、水素添加した芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体では、その共役ジエン重合体ブロックにおける不飽和結合部分の一部又は全部が水素添加されている。
【0043】
芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体及びその水素添加物の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状、又はそれら任意の組み合わせのいずれであってもよい。これらの中でも、芳香族ビニル化合物/共役ジエン化合物系ブロック共重合体及び/又はその水素添加物として、1個の芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと1個の共役ジエン系重合体ブロックが直鎖状に結合したジブロック共重合体、芳香族ビニル化合物系重合体ブロック-共役ジエン系重合体ブロック-芳香族ビニル化合物系重合体ブロックの順に3つの重合体ブロックが直鎖状に結合しているトリブロック共重合体、及びそれらの水素添加物の1種又は2種以上が好ましく用いられ、未水添又は水添スチレン/ブタジエンブロック共重合体、未水添又は水添スチレン/イソプレンブロック共重合体、未水添又は水添スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、未水添又は水添スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、未水添又は水添スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0044】
[劣化抑制剤]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、その耐熱老化性や耐加水分解性を向上させるために、さらに劣化抑制剤を含有してもよい。
劣化抑制剤としては、銅系安定剤、フェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、硫黄系熱安定剤などの酸化防止剤が挙げられる。また劣化抑制剤として、カルボジイミド化合物などの加水分解抑制剤が挙げられる。これら劣化抑制剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、劣化抑制剤を0.3~5質量%含むことが好ましく、0.4~3質量%含むことがより好ましく、0.6~2質量%含むことがさらに好ましい。劣化抑制剤の含有量が上記範囲であれば、耐熱老化性や耐加水分解性に優れ、押出し成形時のガスの発生量の少ない組成物を得ることができる。
【0045】
銅系安定剤は銅化合物と金属ハロゲン化物の混合物として用いることができ、ポリアミド樹脂組成物中の銅化合物と金属ハロゲン化物との割合について、ハロゲンの総モル量と銅の総モル量との比(ハロゲン/銅)が2/1~50/1となるように、ポリアミド樹脂組成物に銅化合物と金属ハロゲン化物とを含有させることが好ましい。上記比(ハロゲン/銅)は、好ましくは3/1以上、より好ましくは4/1以上、さらに好ましくは5/1以上であり、また好ましくは45/1以下、より好ましくは40/1以下、さらに好ましくは30/1以下である。比(ハロゲン/銅)が上記下限以上である場合には、成形時の銅析出及び金属腐食をより効果的に抑制することができる。比(ハロゲン/銅)が上記上限以下である場合には、得られるポリアミド樹脂組成物の引張物性などの機械物性を損なうことなく、成形機のスクリューなどの腐食をより効果的に抑制することができる。
【0046】
銅化合物としては、例えばハロゲン化銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅、エチレンジアミン及びエチレンジアミン四酢酸等のキレート剤に配位した銅錯塩などが挙げられる。上記ハロゲン化銅としては、例えば、ヨウ化銅;臭化第一銅、臭化第二銅等の臭化銅;塩化第一銅等の塩化銅などが挙げられる。これらの銅化合物の中でも、耐熱老化性に優れ、押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食を抑制することができる観点から、ハロゲン化銅及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅、及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ヨウ化銅、臭化銅、及び酢酸銅からなる群より選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。銅化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
金属ハロゲン化物としては、銅化合物に該当しない金属ハロゲン化物を用いることができ、元素周期律表の1族又は2族金属元素とハロゲンとの塩が好ましい。例えばヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、得られるポリアミド樹脂組成物が耐熱老化性等の高温耐熱性に優れ、金属腐食を抑制することができる観点などから、ヨウ化カリウム及び臭化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヨウ化カリウムがより好ましい。金属ハロゲン化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
フェノール系熱安定剤としては、例えばヒンダードフェノール化合物が挙げられる。ヒンダードフェノール化合物は、ポリアミド等の樹脂に耐熱性や耐光性を付与する性質を有する。
ヒンダードフェノール化合物としては、例えば2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-へキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、トリエチレングリコールビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸などが挙げられる。
【0049】
フェノール系熱安定剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、耐熱性向上の観点から、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0050】
リン系熱安定剤としては、例えばリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-テトラトリデシル)ジホスファイト、テトラ(C12~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、テトラ(C1~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化-4,4’-イソプロピリデンジフェニルポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス(4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル))・1,6-ヘキサノールジホスファイト、ヘキサトリデシル-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、トリス(4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル))ホスファイト、トリス(1,3-ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2-メチレンビス(3-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]-ジオキサホスフェピンなどが挙げられる。
【0051】
硫黄系熱安定剤としては、例えばジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、2-メルカプトベンズイミダゾール、ジドデシル3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル3,4’-チオジプロピオネート、2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ]メチル]-1,3-プロパンジイルエステルなどが挙げられる。
【0052】
アミン系熱安定剤としては、例えば4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックCD」等)、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックWhite」等)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックDP」等)、N-フェニル-1-ナフチルアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックPA」等)、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラック810-NA」等)、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラック6C」等)、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックG-1」等)、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルアセトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)マロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)テレフタレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)エタン、α,α’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)トリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン]ジエタノールとの縮合物などが挙げられる。
【0053】
カルボジイミド化合物としては、モノカルボジイミドとポリカルボジイミドが挙げられ、耐熱性の観点からポリカルボジイミドが望ましい。ポリカルボジイミドは、より具体的には下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有する化合物が好ましい。
【0054】
【化1】
【0055】
上記一般式(I)中、Xは、2価の炭化水素基を示す。該炭化水素基としては、鎖状脂肪族基、脂環式構造含有脂肪族基、及び芳香環含有基が挙げられる。鎖状脂肪族基の炭素数は1以上であり、好ましくは1~20、より好ましくは6~18であり、脂環式構造含有脂肪族基及び芳香環含有基の炭素数は好ましくは5以上、より好ましくは6~20、さらに好ましくは6~18である。該炭化水素基は、アミノ基、水酸基、アルコキシ基などの置換基を有していてもよい。
【0056】
ポリカルボジイミドとしては、脂肪族ポリカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド、又はこれらの混合物が挙げられる。このうち、得られる成形体の耐薬品性と成形加工性の観点から脂肪族ポリカルボジイミドがより好ましい。
脂肪族ポリカルボジイミドとしては、上記一般式(I)で表される繰り返し単位を有し、Xが鎖状脂肪族基又は脂環式構造含有脂肪族基であるポリカルボジイミドが好ましい。Xは、炭素数3~18のアルキレン基、下記一般式(II)で表される2価の基、及び下記一般式(III)で表される2価の基からなる群から選ばれる基であることがより好ましく、下記一般式(III)で表される2価の基であることがさらに好ましい。
【0057】
【化2】
【0058】
上記一般式(II)及び一般式(III)中、R~Rは、それぞれ独立に、単結合、又は炭素数1~8のアルキレン基である。一般式(II)中のR及びRは、好ましくは単結合である。一般式(III)中のR及びRは、好ましくは単結合であり、Rは、好ましくは炭素数1~6のアルキレン基、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基である。
【0059】
[他の成分]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて他種ポリマー、充填剤、結晶核剤、着色剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤などの他の成分を含有してもよい。
【0060】
他種ポリマーとしては、例えば、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド等のポリエーテル樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂;ポリフェニレンスルフィド、ポリチオエーテルスルホン等のポリチオエーテル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン等のポリケトン系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メタクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のポリニトリル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル等のポリメタクリレート系樹脂;ポリ酢酸ビニル等のポリビニルエステル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフルオライド共重合体等のフッ素系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリイミド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン樹脂;などが挙げられる。
【0061】
充填剤としては、例えば、ガラス繊維などの繊維状充填剤、炭酸カルシウム、ウォラストナイト、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化マグネシウム、二硫化モリブデン等の粉末状充填剤;ハイドロタルサイト、ガラスフレーク、マイカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のフレーク状充填剤などが挙げられる。
【0062】
結晶核剤としては、ポリアミドの結晶核剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、これらの任意の混合物などが挙げられる。これらのうちでも、ポリアミドの結晶化速度を増大させる効果が大きいことから、タルクが好ましい。結晶核剤は、ポリアミドとの相容性を向上させる目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などで処理されていてもよい。
【0063】
着色剤としては、特に制限されず、無機又は有機顔料、及び染料の中からポリアミド樹脂組成物の用途に応じて適宜選択できる。薬液輸送用チューブに用いられるポリアミド樹脂組成物に配合する着色剤としては、カーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ボーンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、チタンブラック等の黒色無機顔料が好ましいものとして挙げられる。
【0064】
帯電防止剤としては、特に制限されず、有機系のものであっても、無機系のものであってもよい。例えば、有機系帯電防止剤としては、リチウムイオン塩、4級アンモニウム塩、イオン性液体などのイオン性化合物;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の電子伝導性高分子化合物などが挙げられる。無機系帯電防止剤としては、ATO、ITO、PTO、GZO、五酸化アンチモン、酸化亜鉛などの金属酸化物系導電剤;カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素系導電剤が挙げられる。耐熱性の観点からは、無機系帯電防止剤が好ましい。なお、着色剤であるカーボンブラックが帯電防止剤としての機能を兼ねていてもよい。
【0065】
可塑剤としては、ポリアミドの可塑剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、ベンゼンスルホン酸アルキルアミド系化合物、トルエンスルホン酸アルキルアミド系化合物、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル系化合物、ヒドロキシ安息香酸アルキルアミド系化合物等が挙げられる。
【0066】
滑剤としては、ポリアミドの滑剤として一般的に使用されるものであれば特に制限されず、例えば、高級脂肪酸系化合物、オキシ脂肪酸系化合物、脂肪酸アミド系化合物、アルキレンビス脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸低級アルコールエステル系化合物、金属石鹸系化合物、ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。脂肪酸アミド系化合物、例えば、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド、エチレンビスステアリルアミドなどは、外部滑性効果に優れるため好ましい。
【0067】
ポリアミド樹脂組成物中のこれらの他の成分の含有量は、ポリアミド樹脂組成物100質量%に対して、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法が半芳香族ポリアミド及びエラストマーを含む上記混合物を溶融混錬する工程を有することで、溶融混錬時に、半芳香族ポリアミドの末端基、エラストマーの変性部分が相互に反応し、得られる樹脂組成物は柔軟性及び耐衝撃性に優れるものとなる。
該溶融混錬時の温度及び時間は、使用する半芳香族ポリアミドの融点などに応じて適宜調整できるが、エラストマー重合性の劣化を抑制する観点から、溶融混錬温度は380℃以下であることが好ましく、370℃以下であることがより好ましく、360℃以下であることがさらに好ましい。溶融混錬時間は1~5分程度であることが好ましい。
溶融混錬の手法に特に制限はなく、半芳香族ポリアミド、エラストマー及び上記他の成分を均一に混合することのできる方法を好ましく採用することができ、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが好ましく、エラストマーの良分散性と工業的生産性の観点から二軸押出機がより好ましい。
【0069】
劣化抑制剤としてカルボジイミド化合物などの半芳香族ポリアミドの末端基やエラストマーの変性部分と反応する成分を配合する場合には、半芳香族ポリアミドとエラストマーを溶融混錬した後に劣化抑制剤を添加することで、溶融混錬中の半芳香族ポリアミドとエラストマーの相互の反応が劣化抑制剤によって阻害されることを防ぐことができる。すなわち、半芳香族ポリアミド、並びに、カルボキシル基及び酸無水物基から選ばれる少なくとも1種を有する不飽和化合物で変性したエラストマーを溶融混錬した後に、カルボジイミド化合物をさらに添加し、溶融混錬する、ポリアミド樹脂組成物の製造方法であることが好ましい。
具体的には溶融混錬装置として二軸押出機を用いる場合、半芳香族ポリアミド、エラストマー、必要に応じて添加されるその他成分をドライブレンドした混合物を二軸押出機の根元の第一フィード口から投入し、スクリューに設置された第一混錬部と第二混錬部の間に設けられた第二フィード口から劣化抑制剤を投入することが好ましい。この際、劣化抑制剤は必要に応じて半芳香族ポリアミドとドライブレンドして投入してもよい。
【0070】
<チューブ>
[チューブの製造方法]
本発明のチューブは上述のポリアミド樹脂組成物から成形されるチューブであることが好ましい。
本発明のチューブ製造法としては特に制限はなく、押出し成形やブロー成形などの公知の方法を用いることができる。例えば、層の数もしくは材料の数に対応する押出機を用いて、溶融押出し、ダイ内あるいは外において同時に積層する方法(共押出法)、あるいは、単層チューブを予め製造しておき、外側に順次、必要に応じて接着剤を使用して、樹脂を一体化せしめ積層する方法(コーティング法)が挙げられる。
波形領域を有するチューブを製造する場合、まず直管状のチューブを成形した後に、引き続いてモールド成形することで、所定の波形形状とすることができる。
【0071】
[チューブの構成]
チューブの外径は、内部を流れる流体の流量を考慮して設計される。またチューブの肉厚は内在物の透過性が増大せず、また、必要とされるチューブの破壊圧力を維持できる厚さで、かつ、チューブの組み付け作業容易性及び使用時の耐振動性が良好な程度の柔軟性を維持することができる厚さに設計される。好ましくは、チューブの外径は2.5~300mmであり、肉厚は0.5~30mmである。
【0072】
本発明のチューブは、本発明に記載のポリアミド樹脂組成物を含有する層を少なくとも一つ含んでいればよく、必要に応じて単層又は2層以上であってもよい。チューブが2層以上で構成される場合、内部を流れる流体の流路抵抗を低減し、不必要な残存物を低減するために、上記ポリアミド樹脂組成物を含有する層が、チューブの最内層であることが好ましい。
また、多層チューブであった場合に、他の層を構成する材料については、特に限定されないが、チューブの成形性の観点からは熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、チューブの用途や、隣接する層との密着性などを考慮して適宜選択することができる。具体的には、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ビニリデンフルオライド重合体(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフルオライド共重合体等のフッ素系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)などのポリオレフィン系樹脂;ポリアセタール、ポリフェニレンスルファイド等のポリエーテル樹脂;半芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド等のポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0073】
(モルフォロジー)
本発明のチューブは、前述の半芳香族ポリアミドを60~80質量%と前述のエラストマーを15~40質量%含有する層を含み、該層が、半芳香族ポリアミドを含有する相(A)及びエラストマーを含有する相(B)を含む相分離構造を有し、相(A)は連続相であり、相(B)は相(A)中に分散された分散相である。上記層は、相(A)が海相であり、相(B)が島相であるいわゆる海島構造を示すことによって、各相の特性が良好に発揮されることができ、優れた柔軟性及び成形性が発現される。また、上記相分離構造は、半芳香族ポリアミドとエラストマーが反応してなる相分離構造である。
なお、「半芳香族ポリアミドを含有する相(A)」とは、相中に半芳香族ポリアミドを50質量%超含有する相であり、「エラストマーを含有する相(B)」とは、相中にエラストマーを50質量%超含有する相である。
【0074】
また、上記層の断面を電子顕微鏡で観察した画像において、100平方μmあたりに存在する長軸径が2μm以上の上記相(B)の平均個数は、1個/100μm以下であり、より好ましくは0.5個/100μm以下であり、0個/100μmに近いほど好ましい。上記平均個数が1個/100μm以下を超えると表面平滑性に劣り、チューブ内部を流れる流体の流路抵抗が発生し、チューブ内に残存物が生じるおそれがある。
上記平均個数(個/100μm)は、チューブを輪切りにした際の上記層の断面(切り口)について、10μm×10μmの任意の6区画における、長軸径が2μm以上の上記相(B)の総数を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定し、総数をその総面積(10μm×10μm×6区画)で割って算出した値である。
また、長軸径が2μm以上の相(B)は、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて得られる画像等を基に一般的な画像解析ソフトを用いて測定することができる。
【0075】
(表面粗さ(算術平均粗さRa))
チューブの表面は内部を流れる流体の流路抵抗を低減し、不必要な残存物を低減するために凹凸の無い平滑な表面であることが好ましい。具体的には、JIS B 0601(1982)に従って測定した上記層の表面粗さRaが0.4μm以下であることが好ましく、0.35μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましい。
【0076】
(曲げ弾性率)
本発明のチューブは優れた柔軟性を有するものである。
具体的には、チューブに用いられる本発明のポリアミド樹脂組成物を4mm厚の試験片に射出成形した際の、ISO 178(2001年第4版)に準じ測定した23℃における曲げ弾性率が、1.8GPa以下であることが好ましく、1.7GPa以下であることがより好ましく、1.6GPa以下であることがさらに好ましい。また、上記曲げ弾性率は、チューブとしての機能を損なわない観点から、0.3GPa以上であることが好ましい。
上記曲げ弾性率は、具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0077】
(熱変形温度)
本発明のチューブは優れた耐熱性を有するものである。該チューブは、半芳香族ポリアミドの優れた耐熱性を維持する本発明のポリアミド樹脂組成物を用いることにより、容易にその耐熱性を発現することができる。
熱変形温度について具体的には、チューブに用いられる本発明のポリアミド樹脂組成物を4mm厚の試験片に射出成形した際の、ISO75(2013年第3版)に準じ測定した熱変形温度が、70℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましい。また、チューブとしての機能及び本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記熱変形温度の上限値に制限はない。
上記熱変形温度は、具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0078】
[用途]
本発明で得られるチューブは、ポリアミド樹脂組成物を主成分とするので、優れた耐薬品性、耐熱性を示し、さらに、ポリアミド樹脂組成物が、特定量のエラストマーを含み、かつ該エラストマーのカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する不飽和化合物の含有濃度が特定範囲にあることにより、成形性、柔軟性にも優れる。
そのため、自動車部品、内燃機関用途、原油掘削・輸送用途、電気・電子部品、医療、食品、家庭・事務用品・建材関係部品などに使用することが可能である。特に耐薬品性、耐熱性に優れるため、フィードチューブ、リターンチューブ、エバポチューブ、フューエルフィラーチューブ、ORVRチューブ、リザーブチューブ、ベントチューブ等の燃料チューブ; オイルチューブ、石油掘削チューブ、ブレーキチューブ、ウインドウオッシャー液用チューブ、エンジン冷却液(LLC)チューブ、リザーバータンクチューブ、尿素溶液搬送チューブ、冷却水、冷媒等用クーラーチューブ、エアコン冷媒用チューブ、ヒーターチューブ、ロードヒーティングチューブ、床暖房チューブ、インフラ供給用チューブ、消火器及び消火設備用チューブ、医療用冷却機材用チューブ、インク、塗料散布チューブ、ブローバイチューブ、その他薬液チューブが挙げられる。特に、エンジン冷却液チューブ、尿素水チューブ、燃料チューブ、石油掘削チューブ、ブローバイチューブとして好適に用いることができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
実施例、比較例、及び製造例における各物性の測定は、以下に示す方法に従って行った。
・固有粘度
製造例で得られた半芳香族ポリアミド(試料)について、濃硫酸を溶媒とし、濃度0.2g/dl、温度30℃での固有粘度(dl/g)を下記関係式より求めた。
ηinh=[ln(t/t)]/c
上記関係式中、ηinhは固有粘度(dl/g)を表し、tは溶媒(濃硫酸)の流下時間(秒)を表し、tは試料溶液の流下時間(秒)を表し、cは試料溶液中の試料の濃度(g/dl)(すなわち、0.2g/dl)を表す。
【0081】
・融点
製造例で得られた半芳香族ポリアミドの融点は、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量分析装置「DSC7020」を使用して測定した。
融点は、ISO11357-3(2011年第2版)に準拠して測定を行った。具体的には、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ10℃/分の速度で試料(ポリアミド)を加熱し、340℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分の速度で50℃まで冷却し50℃で5分間保持した。再び10℃/分の速度で340℃まで昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とし、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点(℃)とした。
【0082】
・末端アミノ基濃度
製造例で得られた半芳香族ポリアミド1gをフェノール35mLに溶解し、そこへメタノールを2mL混合し、試料溶液とした。チモールブルーを指示薬とし、0.01規定の塩酸水溶液を使用した滴定を実施し、半芳香族ポリアミドの末端アミノ基含量([NH2]、単位:μeq/g)を測定した。
【0083】
・エラストマーのカルボキシル基及び/又は酸無水物基の合計濃度
1gのエラストマーを、トルエン170mLに溶解し、さらにエタノールを30mL加えて調製した試料溶液を用いて、フェノールフタレインを指示薬とし、0.1規定のKOH/エタノール溶液で滴定を行い、カルボキシル基及び酸無水物基の合計濃度を求めた。
【0084】
《チューブの作製》
IKG(株)の単軸押し出し機(DHS40-25、φ40mm、L/D=28、フルフライトスクリュー、圧縮比3)に単層用のクロスヘッドダイを接続し、実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物を押出温度300℃で溶融させ、管状体に成形した。引き続いて寸法を制御する真空サイジング槽により冷却し、10m/分の速度で引き取りを行い、内径6mm、外径8mmのチューブを作製した。
【0085】
・モルフォロジー観察(長軸径が2μm以上の分散相(B)の平均個数)
上記の方法で作製したチューブを半径方向に切断し、凍結ウルトラミクロトーム(LEICA製 ULTRACUT UC-S/FC-S)を用いて面出しをおこない、切断面を四酸化ルテニウム染色した後にオスミウムコート処理をし、電界放出形走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製 Regulus8220)により観察して画像(FE-SEM像)を得た。
なお、各相を構成する成分は、上記のFE-SEM観察時にエネルギー分散型X線分析を行い特定した。
【0086】
上記の方法で得られた倍率3500倍の画像において、100平方μm(10μm×10μm)の任意の6区画に認められる分散相(B)の長軸径(長軸分散径)を測定し、長軸径が2μm以上の分散相(B)の総数をその総面積(10μm×10μm×6区画)で割って、長軸径が2μm以上の分散相(B)の平均個数(個/100μm)を算出した。
【0087】
・表面粗さ(算術平均粗さRa)(成形性)
上記の方法で作製した所定の長さのチューブを長手方向に半分に切断し、長手方向の内表面の粗さを測定した。測定は(株)小坂研究所の表面粗さ測定機(SE700)を用いてJIS B 0601(1982)に準拠して測定した(速度0.1mm/秒、測定長1.25mm)。測定は各チューブに3回行い、その平均値を測定値とした。
【0088】
《試験片の作製》
住友重機械工業(株)製の射出成形機(型締力:100トン、スクリュー径:φ32mm)を使用し、実施例及び比較例で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、半芳香族ポリアミドの融点よりも20~30℃高いシリンダー温度とし、金型温度140℃の条件下で、Tランナー金型を用いてポリアミド樹脂組成物を成形し、多目的試験片タイプA1(JIS K7139に記載されたダンベル型の試験片;4mm厚、全長170mm、平行部長さ80mm、平行部幅10mm)を作製した。そして、上記多目的試験片から直方体試験片(寸法:長さ×幅×厚さ=80mm×10mm×4mm)を切り出して、曲げ弾性率及び熱変形温度の評価用試験片とした。
【0089】
・曲げ弾性率(柔軟性)
上記の方法で作製した試験片を用い、曲げ弾性率についてはISO178(2001年第4版)に準拠して、オートグラフ((株)島津製作所製)を使用して、23℃、50%RHにおける及び曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0090】
・熱変形温度(耐熱性)
上記の方法で作製した試験片を用い、熱変形温度についてはISO75(2013年第3版)に準拠して、(株)東洋精機製作所製のHDTテスター「S-3M」を使用して、熱変形温度(℃)を測定した。
【0091】
製造例1[半芳香族ポリアミドA-1の製造]
テレフタル酸9870.6g(59.42モル)、1,9-ノナンジアミンと2-メチル1,8-オクタンジアミンの混合物[50/50(モル比)]9497.4g(60.00モル)、安息香酸142.9g(1.17モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物19.5g(原料の総質量に対して0.1質量%)及び蒸留水5リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間攪拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.2dL/gのプレポリマーを得た。これをホソカワミクロン株式会社製フレーククラッシャーを使って2mm以下の粒径まで粉砕し、100℃、減圧下で12時間乾燥した後、230℃、13Pa(0.1mmHg)にて10時間固相重合し、白色のポリアミド樹脂(ポリアミド1)を得た。ポリアミド1はテレフタル酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位及び2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(1,9-ノナンジアミン単位/2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位=50/50(モル比))とからなり、融点は265℃、固有粘度[ηinh]は1.20dL/g、末端アミノ基濃度([NH])は15μeq/gであった。
【0092】
実施例1、実施例2、比較例2(ポリアミド樹脂組成物の製造)
表1に示す半芳香族ポリアミド、エラストマー、並びに、劣化抑制剤C-3、滑剤、染料を所定の質量比で予め混合して、二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」)の上流部フィード口に投入した。劣化抑制剤C-1はスクリューの第一混錬部と第二混錬部の中間部フィード口から投入し、シリンダー温度300~320℃の条件下で溶融混錬することにより混錬して押出し、冷却及び切断してペレット状のポリアミド樹脂組成物を製造した。該ペレットを用いて各種物性評価用の試験片及びチューブを作製し、前述の方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
実施例3、比較例1
表1に示す半芳香族ポリアミド、エラストマー、劣化抑制剤C-2又はC-3、並びに滑剤、染料を所定の質量比で予め混合して、二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM-26SS」)の上流部フィード口に一括投入し、シリンダー温度300~320℃の条件下で溶融混錬することにより混錬して押出し、冷却及び切断してペレット状のポリアミド樹脂組成物を製造した。該ペレットを用いて各種物性評価用の試験片及びチューブを作製し、前述の方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
なお、表1に示す各成分は下記の通りである。
<半芳香族ポリアミドA-1>
製造例1で得られた半芳香族ポリアミドA-1
【0095】
<エラストマーB-1>
エチレン-ブテン共重合体を無水マレイン酸で変性したエラストマー(三井化学(株)製、タフマーMH5010、酸無水物基濃度:50μeq/g)
<エラストマーB-2>
エチレン-ブテン共重合体を無水マレイン酸で変性したエラストマー(三井化学(株)製、タフマーMH5020、酸無水物基濃度:100μeq/g)
<エラストマーB-3>
エチレン-ブテン共重合体を無水マレイン酸で変性したエラストマー(三井化学(株)製、タフマーMH5040、酸無水物基濃度:200μeq/g)
<エラストマーB-4>
エチレン-プロピレン共重合体を無水マレイン酸で変性したエラストマー(三井化学(株)製、タフマーMP0620、酸無水物基濃度:100μeq/g)
【0096】
<劣化抑制剤C-1>
脂環式ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル(株)製、カルボジライトHMV-15CA)
<劣化抑制剤C-2>
銅系安定剤(PolyAd Services製、KG HS01-P、モル比:ハロゲン/銅=10/1)
<劣化抑制剤C-3>
ヒンダードフェノール化合物(住友化学(株)製、SUMILIZER GA-80)
【0097】
<滑剤D-1>
ポリオレフィンワックス(クラリアントケミカルズ製、LICOCENE PE MA4221)
<滑剤D-2>
モンタン酸系ワックス(クラリアントケミカルズ製、LICOWAX OP)
<染料E-1>
カーボンブラック(三菱化学(株)製、#980B)
【0098】
【表1】

【0099】
表1から、実施例1~3のチューブは、半芳香族ポリアミドが有する耐熱性を保ちつつ、低い曲げ弾性率と高い表面平滑性を両立していることが判る。比較例1のチューブは耐熱性及び表面の平滑性は高いものの、柔軟性が不十分である。また、比較例2のチューブは耐熱性及び柔軟性に優れるものの、長軸径2μm以上の粗大な分散相(B)の平均個数が3となって表面平滑性が不十分である。
エラストマーのカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する不飽和化合物の含有濃度が特定範囲にあることにより、エラストマーとポリアミドとの親和性が増し、押出し成形時に表面平滑性を損なう原因となるエラストマーの凝集や目ヤニとしての遊離が抑制され、多量のエラストマーを含む組成物においても表面平滑性に優れるチューブが得られたものと推測される。