(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-22
(45)【発行日】2024-08-30
(54)【発明の名称】EPAを含有する末梢の体温保持用の食品
(51)【国際特許分類】
A23L 33/115 20160101AFI20240823BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20240823BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240823BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20240823BHJP
A61K 31/232 20060101ALI20240823BHJP
A61K 31/66 20060101ALI20240823BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240823BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20240823BHJP
A61K 36/02 20060101ALI20240823BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A23L33/115
A23L33/12
A61K9/48
A61K31/202
A61K31/232
A61K31/66
A61K35/12
A61K35/60
A61K36/02
A61P43/00 101
(21)【出願番号】P 2021503515
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005817
(87)【国際公開番号】W WO2020179414
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019038856
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 綾華
(72)【発明者】
【氏名】柳本 賢一
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-072717(JP,A)
【文献】Toxicology and Industrial Health,2018年,Vol.34,No.2,pp.69-82
【文献】魚油摂取は交感神経を介して、「脂肪燃焼細胞」を増やす-「魚油」の効果で体脂肪燃焼を促す新メカニズムを解明,京都大学ホームページ,2015年12月18日,http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2015/151217_1.html,[retrieved on 2023.12.22]
【文献】KIM M. et al.,Fish oil intake induces UCP1 upregulation in brown and white adipose tissue via the sympathetic nervoussystem,Scientific Reports,2015年,5:18013,doi: 10.1038/srep18013
【文献】魚油摂取による末梢血流と冷えへの影響に関する研究,臨床研究情報ポータルサイト,2018年12月27日,https://rctportal.niph.go.jp/detail/um?trial_id=UMIN000030637,[retrieved on 2023.12.22]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRIGOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)および(B)を有効成分として含有し、
前記成分(A)及び前記成分(B)の1日分の用量の合計が、100mg以上11000mg以下である、末梢の体温保持用の食品:
(A)エイコサペンタエン酸(EPA)、EPAと炭素数1~3のアルコールとのエステル、EPAを含有するグリセリド及びEPAを含有するリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種
(B)ドコサヘキサエン酸(DHA)、DHAと炭素数1~3のアルコールとのエステル、DHAを含有するグリセリド及びDHAを含有するリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種。
【請求項2】
前記成分(A)の含有量が、0.05重量%以上60重量%以下である、請求項1に記載の食品。
【請求項3】
前記成分(B)の含有量が、0.01重量%以上25重量%以下である、請求項1または2に記載の食品。
【請求項4】
前記食品における前記成分(A)及び前記成分(B)の含有量の合計が、0.06重量%以上85重量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の食品。
【請求項5】
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有量の重量比(成分(A)/成分(B))が、1以上10以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の食品。
【請求項6】
前記成分(A)及び前記成分(B)の含有量の重量比(成分(A)/成分(B))が、1.5以上5以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の食品。
【請求項7】
前記成分(A)の1日分の用量が、50mg以上6500mg以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の食品。
【請求項8】
前記成分(A)、及び/又は前記成分(B)が含まれる場合の前記成分(B)が、水産物からの抽出物として食品に含有される、請求項1~7のいずれか1項に記載の食品。
【請求項9】
前記水産物が、魚介類、海獣類、及び藻類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の食品。
【請求項10】
前記水産物からの抽出物が、魚油である、請求項8又は9に記載の食品。
【請求項11】
前記食品が水産物からの抽出物をソフトカプセルに調製したものである、請求項8~10のいずれか1項に記載の食品。
【請求項12】
前記食品の適用対象が、20歳以上49歳以下の健常な女性である、請求項1~11のいずれか1項に記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢の体温を保持するための食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚油中に含まれるエイコサペンタエン酸(以下、EPAという。)、ドコサヘキサエン酸(以下、DHAという。)等の多価不飽和脂肪酸は、様々な生理作用を持つことが知られている。例えば、EPAは高脂血症に改善効果があることが知られており(特許文献1)、DHAは基礎代謝を増進させる効果があることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-154618号公報
【文献】特許第4812240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、EPAやDHAに末梢の体温を保持する効果があることは、これまで知られていなかった。
本発明の目的は、末梢の体温を保持する効果を持つ食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的に即して鋭意検討した結果、EPA等を有効成分として含有する食品を摂取した人が、末梢の体温を保持することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 下記成分(A)を有効成分として含有する、末梢の体温保持用の食品:
(A)エイコサペンタエン酸(EPA)、EPAと炭素数1~3のアルコールとのエステル、EPAを含有するグリセリド及びEPAを含有するリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種。
[2] 前記成分(A)の含有量が、0.05重量%以上60重量%以下である、[1]に記載の食品。
[3] さらに下記成分(B)を有効成分として含有する、[1]又は[2]に記載の食品:
(B)ドコサヘキサエン酸(DHA)、DHAと炭素数1~3のアルコールとのエステル、DHAを含有するグリセリド及びDHAを含有するリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種。
[4] 前記成分(B)の含有量が、0.01重量%以上25重量%以下である、[3]に記載の食品。
[5] 前記食品における前記成分(A)及び前記成分(B)の含有量の合計が、0.06重量%以上85重量%以下である、[3]又は[4]のいずれかに記載の食品。
[6] 前記成分(A)及び前記成分(B)の含有量の重量比(成分(A)/成分(B))が、1以上10以下である、[3]~[5]のいずれかに記載の食品。
[7] 前記成分(A)及び前記成分(B)の含有量の重量比(成分(A)/成分(B))が、1.5以上5以下である、[3]~[6]のいずれかに記載の食品。
[8] 前記成分(A)及び前記成分(B)の1日分の用量の合計が、100mg以上11000mg以下である、[3]~[7]のいずれかに記載の食品。
[9] 前記成分(A)の1日分の用量が、50mg以上6500mg以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の食品。
[10] 前記成分(A)、及び/又は前記成分(B)が含まれる場合の前記成分(B)が、水産物からの抽出物として食品に含有される、[1]~[9]のいずれかに記載の食品。
[11] 前記水産物が、魚介類、海獣類、及び藻類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[10]に記載の食品。
[12] 前記水産物からの抽出物が、魚油である、[10]又は[11]に記載の食品。
[13] 前記食品が水産物からの抽出物をソフトカプセルに調製したものである、[10]~[12]のいずれかに記載の食品。
[14] 前記食品の適用対象が、20歳以上49歳以下の健常な女性である、[1]~[13]のいずれかに記載の食品。
[15] [1]~[14]のいずれかに記載の食品を適用することにより、末梢の体温を保持する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、末梢の体温を保持できるという効果が得られる。また、それにより、以下のさらなる効果も奏することが期待できる。さらなる効果の例として、寒冷条件におかれたときに体温を保持すること、寒冷条件におかれたときに下がった体温の回復を早めること、及び末梢の冷えの感覚を摂取前よりも低減することからなる群から選ばれる少なくとも1種があげられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】被験食の摂取前及び摂取8週後のEPA群及びプラセボ群における安静時の手指の平均温度を示すグラフである。
【
図2】被験食の摂取前及び摂取8週後のEPA群及びプラセボ群における安静時の手指の最低温度を示すグラフである。
【
図3】被験食の摂取8週後のEPA群及びプラセボ群における冷水負荷による手指の平均温度の経時変化を示すグラフである。
【
図4】被験食の摂取8週後のEPA群及びプラセボ群における冷水負荷による手指の血流量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、少なくとも成分(A)を有効成分として含有する食品に関する。成分(A)は、エイコサペンタエン酸(以下、EPAともいう。)、EPAと炭素数1~3のアルコールとのエステル、EPAを構成脂肪酸として含有するグリセリド及びEPAを構成脂肪酸として含有するリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0010】
EPAは、5個の二重結合をもつ炭素数20 (20:5)のn-3脂肪酸の多価不飽和脂肪酸の一つである。EPAは、例えば5、8、11、14及び17位に二重結合をもつ、n-3系多価不飽和脂肪酸に分類される化合物等を含む。本発明において、EPAは、遊離脂肪酸、低級アルコールとのエステル、又はn-3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するグリセリドもしくはリン脂質などの形態で用いることができる。なお、低級アルコールとは、炭素数1~3のアルコールを指す。
【0011】
EPAの低級アルコールとのエステルとしては、メチルエステル、エチルエステルなどがあげられる。EPAを構成脂肪酸として含有するグリセリドとしては、グリセリンとのエステル、すなわち、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドがあげられる。EPAを構成脂肪酸として含有するリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホフファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジン酸(いずれにもリゾ体を含む)などがあげられる。
【0012】
本発明の食品は、さらに成分(B)を有効成分として含有していることが好ましい。成分(B)は、ドコサヘキサエン酸(以下、DHAともいう。)、DHAと炭素数1~3のアルコールとのエステル、DHAを構成脂肪酸として含有するグリセリド及びDHAを構成脂肪酸として含有するリン脂質からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
DHAは、6個の二重結合を含む炭素数22 (22:6)のn-3脂肪酸の多価不飽和脂肪酸の一つである。例えば4、7、10、13、16及び19位に二重結合をもつ、n-3系多価不飽和脂肪酸に分類される化合物等を含む。本発明において、DHAは、遊離脂肪酸、低級アルコールとのエステル、又はn-3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有するグリセリドもしくはリン脂質などの形態で用いることができる。
【0014】
DHAの低級アルコールとのエステルとしては、メチルエステル、エチルエステルなどがあげられる。DHAを構成脂肪酸として含有するグリセリドとしては、グリセリンとのエステル、すなわち、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドがあげられる。DHAを構成脂肪酸として含有するリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホフファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ホスファチジン酸(いずれにもリゾ体を含む)などがあげられる。
【0015】
本発明において使用する成分(A)及び成分(B)は、天然又は人工的に得られたものを使用できる。成分(A)及び成分(B)は、水産物から得た粗抽出物を脱酸、脱色、脱臭、脱ガム、及び脱ロウ等の常法により処理し、水産物の抽出物として使用することができる。水産物には、魚介類、海獣類、又は藻類が含まれる。
【0016】
本発明において、成分(A)及び成分(B)は、例えば水産物の抽出物として含有されてもよい。水産物には、魚介類、海獣類、又は藻類が含まれる。水産物の抽出物としては、例えば魚油、海獣油、又は藻類油があげられる。魚油には、例えば肝油が含まれる。魚介類としては、例えばイワシ、マグロ、サバ、サケ、カツオ、ニシン、サンマ、アジ、タラ、ナンキョクオキアミ等があげられる。また、海獣類は、海にすむ哺乳類の総称をいい、例えばアザラシ、カイギュウ、クジラ、オットセイ等があげられる。また、藻類としては、例えばラビリンチュラ類等の微細藻類があげられる。
【0017】
食品における成分(A)の含有量は、食品全量に対して通常0.05重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上、また、食品全量に対して通常60重量%以下、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下、特に好ましくは35重量%以下である。食品における成分(A)の含有量において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、食品における成分(A)の含有量は、食品全量に対して通常0.05重量%以上60重量%以下、好ましくは1重量%以上45重量%以下、より好ましくは5重量%以上40重量%以下、特に好ましくは10重量%以上35重量%以下である。食品における成分(A)の含有量が上記範囲内であれば、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0018】
食品における成分(B)の含有量は、食品全量に対して通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、特に好ましくは5重量%以上、また、食品全量に対して通常25重量%以下、好ましくは22重量%以下、より好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下である。食品における成分(B)の含有量において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、食品における成分(B)の含有量は、食品全量に対して通常0.01重量%以上25重量%以下、好ましくは0.1重量%以上22重量%以下、より好ましくは1重量%以上20重量%以下特に好ましくは5重量%以上15重量%以下である。食品における成分(B)の含有量が上記範囲内であれば、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0019】
食品における成分(A)及び成分(B)の含有量の合計は、食品全量に対して通常0.06重量%以上、好ましくは1.1重量%以上、より好ましくは6重量%以上、特に好ましくは15重量%以上、また、食品全量に対して通常85重量%以下、好ましくは67重量%以下、より好ましくは60重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。食品における成分(A)及び成分(B)の含有量の合計において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、食品における成分(A)及び成分(B)の含有量の合計は、食品全量に対して通常0.06重量%以上85重量%以下、好ましくは1.1重量%以上67重量%以下、より好ましくは6重量%以上60重量%以下、特に好ましくは15重量%以上50重量%以下である。食品における成分(A)及び成分(B)の含有量の合計が上記範囲内であれば、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0020】
成分(A)及び成分(B)の含有量は公知の方法で測定することができる。測定方法としては、例えば、液体高速クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、質量分析計等があげられる。これらは単独で用いてもよいが、組み合わせて用いることもできる。本明細書中、成分(A)及び成分(B)の含有量(重量%)は、特に明記しない限り、「AOCS official method Ce1b-89」に従い、組成物中の成分をエステル化した後、ガスクロマトグラフィーにより測定した値に基づいて算出される。ガスクロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
【0021】
装置:Agilent6890N GC system(Agilent社)
カラム:DB-WAX(Agilent Technologies, 30m x 0.25mm ID, 0.25・m film thickness)
キャリアガス:ヘリウム(1.0mL/min, コンスタントフロー)
注入口温度:250℃
注入量:1μL
注入法:スプリット
スプリット比:20:1
カラムオーブン:180℃ - 3℃/min - 230℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
【0022】
食品が成分(A)及び成分(B)の両方を含む場合において、食品における成分(A)及び成分(B)の重量比(成分(A)/成分(B))は、通常1以上、好ましくは1.5以上であり、また、通常10以下、好ましくは5以下である。食品における成分(A)及び成分(B)の重量比(成分(A)/成分(B))において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、成分(A)及び成分(B)の重量比(成分(A)/成分(B))は、通常1以上10以下、好ましくは1.5以上5以下である。食品における成分(A)の含有量が、成分(B)の含有量以上であれば、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0023】
本発明において食品は、飲料又は食料として使用することができるものをいう。例えば、本発明において食品は、成分(A)の有効成分を含有し体温保持をコンセプトとしてその旨を表示した飲食品、即ち、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、特別用途食品、加工食品、サプリメント、カプセル剤、栄養補助食品、栄養機能食品、医療用食品、病人用食品、乳幼児用食品、介護用食品、高齢者用食品として使用することができる。
【0024】
本発明において食品は、上記成分(A)を含み本発明の効果を得られる限り、その形状については特に限定されず、例えば、液状、ペースト状、ゲル状、固形状等任意の形状で使用できる。また、本発明において食品は、本発明の効果を得られる限り、その形態については特に限定されず、例えば、ドリンク、シロップ、クリーム、ゼリー、粉末、顆粒、タブレット、ソフトカプセル、ハードカプセル等の任意の形態で使用できる。本発明の食品はソフトカプセルの形態が好ましい。また食品は、本発明の効果を妨げない範囲で、甘味料、香料、賦形剤、着色料等の他の任意成分を含んでいてもよい。本発明では公知の方法によって食品を例示の形態に製造することができる。本発明の食品は水産物の抽出物そのものでもよい。また、水産物の抽出物を内容物に含むソフトカプセルに調製することにより本発明の食品を製造してもよい。水産物の抽出物としては、例えば魚油、海獣油、又は藻類油があげられる。
【0025】
魚油をソフトカプセルに調製する場合、魚油のソフトカプセル中の含有量は、ソフトカプセル内容物全量に対して通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上であり、また、ソフトカプセル内容物全量に対して通常90重量%以下であり、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下であり、特に好ましくは75重量%以下である。魚油のソフトカプセル中の含有量において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、魚油のソフトカプセル中の含有量は、ソフトカプセル内容物全量に対して通常10重量%以上90重量%以下、好ましくは20重量%以上85重量%以下、より好ましくは40重量%以上80重量%以下、特に好ましくは50重量%以上75重量%以下である。魚油の含有量は、公知の測定方法により測定することができ、例えば液体高速クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0026】
ソフトカプセルにする場合、成分(A)のソフトカプセル中の含有量は、ソフトカプセル内容物全量に対して通常0.01重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、特に好ましくは7重量%以上であり、また、ソフトカプセル内容物全量に対して通常55重量%以下であり、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下であり、特に好ましくは40重量%以下である。成分(A)のソフトカプセル中の含有量において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、成分(A)のソフトカプセル中の含有量は、ソフトカプセル内容物全量に対して通常0.01重量%以上55重量%以下、好ましくは1重量%以上50重量%以下、より好ましくは5重量%以上45重量%以下、特に好ましくは7重量%以上40重量%以下である。
【0027】
ソフトカプセルにする場合、成分(B)のソフトカプセル中の含有量は、ソフトカプセル内容物全量に対して通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、特に好ましくは5重量%以上であり、また、ソフトカプセル内容物全量に対して通常25重量%以下であり、好ましくは22重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、特に好ましくは15重量%以下である。成分(B)のソフトカプセル中の含有量において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。また、成分(B)のソフトカプセル中の含有量は、ソフトカプセル内容物全量に対して通常0.01重量%以上25重量%以下、好ましくは0.1重量%以上22重量%以下、より好ましくは1重量%以上20重量%以下、特に好ましくは5重量%以上15重量%以下である。
【0028】
食品1日分における成分(A)の含有量(成分(A)の1日当たりの用量)は、通常50mg以上、好ましくは100mg以上、より好ましくは500mg以上、特に好ましくは600mg以上であり、また、通常6500mg以下、好ましくは1500mg以下、より好ましくは1000mg以下、特に好ましくは900mg以下である。食品1日分における成分(A)の含有量(成分(A)の1日当たりの用量)において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。食品1日分における成分(A)の含有量(成分(A)の1日当たりの用量)は、通常50mg以上6500mg以下、好ましくは100mg以上1500mg以下、より好ましくは500mg以上1000mg以下、特に好ましくは600mg以上900mg以下であってもよい。成分(A)の含有量(成分(A)の1日当たりの用量)が上記範囲であれば、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0029】
食品1日分における成分(A)及び成分(B)の含有量(有効成分の1日当たりの用量)の合計は、通常100mg以上、好ましくは200mg以上、より好ましくは400mg以上、特に好ましくは800mg以上であり、また、通常11000mg以下、好ましくは7000mg以下、より好ましくは3000mg以下、特に好ましくは1500mg以下である。食品1日分における成分(A)及び成分(B)の含有量(有効成分の1日当たりの用量)の合計において、これらの上限と下限はいずれの組み合わせであってもよい。食品1日分における成分(A)及び成分(B)の含有量(有効成分の1日当たりの用量)の合計は、通常100mg以上11000mg以下、好ましくは200mg以上7000mg以下、より好ましくは400mg以上3000mg以下、特に好ましくは800mg以上1500mg以下であってもよい。成分(A)及び成分(B)の含有量(有効成分の1日当たりの用量)の合計が上記範囲であれば、本発明の効果を十分に得る上で好ましい。
【0030】
なお、各成分の含有量(濃度、用量)は、当該成分を含有する素材を用いる場合にあっては、当該素材中の当該成分そのものの量に基づいて算出されるものとする。また、各成分の含有量(濃度、用量)は、当該成分がエステル、グリセリド、又はリン脂質を形成している場合にあっては、エステル、グリセリド、又はリン脂質の重量を等モルの遊離体の重量に換算した値に基づいて算出されるものとする。また、各成分の含有量(濃度、用量)は、当該成分が水和物を形成している場合にあっては、水和物の重量を等モルの無水物の重量に換算した値に基づいて算出されるものとする。
【0031】
本発明の別の態様は、少なくとも成分(A)を有効成分として含有する食品を適用することで、末梢の体温を保持する方法である。本明細書において「適用」は、食品を摂取すること及び食品を摂取させることを含む。本発明の方法において、成分(A)を有効成分として含有する食品が成分(B)をさらに有効成分として含有することもできるし、また成分(B)を有効成分として含有する食品を別で適用することもできる。成分(A)及び成分(B)のそれぞれの含有量、並びに成分(A)及び成分(B)のそれぞれの有効成分としての1日当たりの用量は、上述の通りである。適用方法としては、例えば経口的な適用があげられる。本発明の方法において、上記の有効成分の1日当たりの用量を通常4週間以上、好ましくは8週間以上継続して適用することが、十分に効果を得る上で好ましい。
【0032】
本発明の別の態様は、末梢の体温保持用の食品の製造における成分(A)の使用である。本態様においては、成分(B)を共に使用することができる。
本発明の別の態様は、末梢の体温保持における成分(A)の使用である。本態様においては、成分(B)を共に使用することができる。
本発明の別の態様は、末梢の体温保持のために用いられる、成分(A)である。本態様においては、成分(B)も共に用いられてもよい。
これらの態様における成分(A)及び成分(B)のそれぞれの含有量、並びに成分(A)及び成分(B)のそれぞれの有効成分としての1日当たりの用量は、上述の通りである。
【0033】
本発明によれば、末梢の体温を保持するという効果が得られる。本発明において「末梢」とは、体表など体躯外縁部一帯の部位(具体的には、頬の表面、鼻先など)、手(手首から手指の先)、足(足の付け根から足の爪先)を指す。手は、手指(手指の付け根から手指の先)を含み、足は、足先(足首から足の爪先)を含む。本発明において「末梢の体温を保持する」とは、身体の周囲の温度が体幹の温度よりも低い場合に、末梢の温度が周囲の環境に奪われずに保持できることを意味する。即ち、本発明の食品を摂取することで、末梢の体温が食品摂取前と比べて上昇する効果が得られる。末梢の温度の上昇は、例えば、フリアーシステムズジャパン株式会社製のサーモグラフィ「FLIR T620」等を用いて、体表、手指、足先などを測定部位とした際の温度上昇を測定することで評価できる。例えば本発明の食品摂取前と摂取8週後において、22℃の室温で30分間安静にした後の手指の温度を測定することで評価できる。
【0034】
また、本発明の食品によれば、末梢が一定時間(1分以上)寒冷条件に曝されたときに体温を保持すること、及び下がった体温の回復を早めることが期待できる。「寒冷条件」とは、寒い季節に戸外に出たとき(例えば、外気温-10℃以上5℃以下)、寒い季節や夏場の強い冷房により室内温度が低いとき(例えば、室内気温5℃以上22℃以下)、冷水(例えば、0℃以上15℃以下の水)に一定時間(例えば、1分以上)触れたとき等の状況で末梢の温度が奪われる状態をいう。「体温の回復」とは、寒冷条件に曝されて下がった末梢の温度が、寒冷条件に曝される前の温度に戻っていく際の温度の上昇を指す。
本発明は、寒冷条件下に長時間(例えば、30分以上)曝される人、寒冷地に住む人、冬場に外気や冷水に長時間触れる人に適用することが好ましい。
【0035】
また、本発明によれば、末梢の冷えの感覚を摂取前よりも低減することが期待できる。「冷えの感覚」とは、身体が冷たいと感じる主観的な感覚である。冷えの感覚の低減効果は、例えば後述する実施例のように、アンケートにより被験食の摂取前後の冷えに関する自覚を調査し、VAS(Visual analog scale)スコアが低減することで評価できる。
【0036】
冷えの感覚の原因は、一般的に末梢の血流障害によると考えられており、末梢の血流障害は様々な疾患が原因で生じ、また、加齢により身体機能の低下している人は末梢の血流障害が生じやすいと言われている。しかし、本発明は血流障害に関わらず効果が得られる。即ち、血流障害に関する疾患を持たない健常人、20歳以上49歳以下であって加齢による身体機能の低下を生じていないと推認される人に適用することができる。また、冷えの感覚を生じる人の割合は男性よりも女性が多いと言われており、特に女性に適用することが好ましい。
【0037】
本発明において「健常人」とは、末梢の血流障害に影響を及ぼすような疾患の診断を受けていない人である。また、入院患者や病気療養中ではなく、通常の生活を送っている人である。
本発明者らは、本発明の食品は摂取した人の末梢の体温を保持することができるため、冷えの感覚の低減効果も得られると推認している。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
<被験食:実施例1>
EPA及びDHAを含む魚油をロータリーダイス方式ソフトカプセル充填機を用いて植物性皮膜のソフトカプセルに調製し、実施例1とした。
【0040】
ソフトカプセルの内容液として、EPA群用のソフトカプセル(実施例1)においては、EPA及びDHAを含む魚油を使用し、ソフトカプセル1粒当たり300mgの内容液を充填した。
【0041】
ソフトカプセルの植物性皮膜は、カラギナン、デンプン、グリセリン、リン酸水素二ナトリウム、及びカラメル色素を原料とした。ソフトカプセルのサイズはOval6号とした。
【0042】
実施例1の1日分8粒には、EPA600mg及びDHA260mg(有効成分として860mg)が含まれていた。実施例1の1日分8粒で摂取する油量としては、2.4gであった。魚油中にはEPAが25.0重量%、DHAが10.8重量%含まれていた。1日分8粒にはEPAが16.3重量%、及びDHAが7.1重量%含まれていた。
【0043】
<被験食:比較例1>
プラセボ群用のソフトカプセル(比較例1)は、ソフトカプセルの内容液としてコーン油にトコフェロールを1重量%添加したものを使用した以外は、実施例1と同様にしてソフトカプセルを調製した。比較例1の1日分8粒で摂取する油量としては、2.4gであった。
【0044】
<被験者>
20歳以上49歳以下の健常な女性を被験者とし、EPA群はn=15名、プラセボ群はn=16名とした。ただし、下記条件の被験者は除外した。被験者は、指定の検査着(上は半袖、下は7分丈のズボン)を着用した。
・被験食成分によりアレルギー症状を示す恐れのある者
・妊娠中又は妊娠している可能性のある者、及び授乳中の者
・重篤な肝障害、腎障害、心疾患の既往歴のある者
・消化器系疾患の既往歴のある者
・長期間の内科系疾患の既往歴がある者
・特定の疾患に罹患しており、通院・投薬・治療を行っている者
・消化器系疾患の薬を服用している者
・凍傷の既往又は現在患っている者
・更年期障害の自覚のある者
・生理不順の者
・アルコール多飲者(例:毎日、ビール大瓶3本以上相当のアルコールを摂取している者)
・喫煙者
・ライフスタイルが不規則な者(食事のタイミングが一定でない、睡眠が十分でない等)
・不規則な交代制勤務・深夜勤務等がある者
・毎日、運動を1時間以上行っている者
・青魚(マアジ、サバ、イワシ、サンマなど)を週4日以上食べている者
・試験結果に影響のある医薬品(イコサペント酸エチルを主成分とする医薬品など)、サプリメント(EPA・DHA、ヘスペリジン、カプサイシン、生姜エキス、ヒハツ等)を摂取している者
・他の臨床試験に参加している者
【0045】
<摂取期間>
EPA群は、EPA及びDHAを含む魚油含有のソフトカプセルのみを1日8粒、プラセボ群はコーン油含有のソフトカプセルのみを1日8粒、8週間摂取した。
【0046】
<試験室>
後述する温度測定、冷水負荷試験、及び血流量測定は恒湿・恒温室にて行った。恒湿・恒温室は、温度22±2℃、湿度50%±RH10%に保たれていた。
【0047】
[試験例1]安静時の手指の温度に対する影響の検討
フリアーシステムズジャパン株式会社製のサーモグラフィ「FLIR T620」を用いて、手指の温度を測定し、被験食の摂取前後の温度の変化を調べて、手指の温度に対する影響を検討した。
【0048】
被験食の摂取前及び摂取8週後において、被験者を恒湿・恒温室にて30分間安静に保った後、甲及び指先を含む左手を測定部位とし、サーモグラフィを用いて温度を測定した。手指の測定結果について、平均温度を
図1、最低温度を
図2に示す。被験食を摂取した後、手指の平均温度は、EPA群では摂取前と比較して有意に上昇した。また、被験食を摂取した後の手指の最低温度は、EPA群では摂取前と比較して、さらに、プラセボ群と比較して有意に上昇した。このことから、EPA含有魚油の摂取により、手指の温度が周囲の空気に奪われずに保持されていることがわかる。
【0049】
[試験例2]冷水負荷試験による手指の温度及び手指の血流量に対する影響の検討
被験食の摂取8週後において、被験者を恒湿・恒温室にて30分間安静に保った後、15℃の冷水に手首から先を1分間浸水する冷水負荷試験を行った。
【0050】
手指の温度は、甲及び指先を含む左手を測定部位とし、サーモグラフィにより冷水負荷前、負荷直後、負荷後5、10、15、20、25、30分に測定した。手指の血流量は、甲及び指先を含む右手を測定部位とし、オメガウェーブ株式会社製のレーザー血流計「オメガゾーンOZ―1」にて冷水負荷前、負荷直後、負荷後10、20、30分に測定した。測定は、各測定ポイント1フレーム/1秒で計120フレームの計2分実施した。手指の測定結果を
図3及び4に示す。実施例1摂取後の手指の平均温度及び手指の血流量は、冷水負荷後、プラセボ群と比較してEPA群の方が平均温度及び血流量の回復が早い傾向が見られた(
図3及び4)。
【0051】
[試験例3]冷えの感覚に対する効果の検討
冷えの感覚の定量のために冷えに関する自覚アンケートを被験食摂取前、摂取4週後、及び摂取8週後に実施した。冷えに関する自覚アンケートは、VASを用いて実施した。VASは、10cmの直線を用い、左端を「全くない」:1とし、右端を「非常に感じる」:100として被験者が線を引いた箇所の左端からの距離を計測し、スコア化することで算出した。冷えに関する自覚アンケートは表1の通りである。質問項目のうち、「手指」は「手指の付け根から手指の爪先」、「手全体」は「手首から手指の先」、「足先」は「足首から足の爪先」、「足全体」は「足の付け根から足の爪先」を指すものとする。評価結果に関しては、実施例1摂取前と摂取4週後、8週後の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定(Bonferroniの不等式で多重比較)、群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。
【0052】
【0053】
結果を表2に示す。実施例1の摂取8週後のEPA群においてプラセボ群と比較して手指の冷えの感覚、及び体全体の冷えの感覚を評価するVASスコアが有意に低減していることがわかる。また、手全体の冷えや足先の冷え、及び足全体の冷えの感覚を評価するVASスコアも、プラセボ群と比較してEPA群で低減していることがわかる。このことから、EPA含有魚油の摂取により、摂取前よりも冷えの感覚が低減していることがわかる。
【0054】
【0055】
恒温の環境下においては、EPA等の摂取により、プラセボ群と比較して手指の最低温度が有意に上昇した。冷水負荷試験後の手指の平均温度及び血流量においては、プラセボ群と比較してEPA群の方が手指の平均温度及び血流量の回復が早い傾向が見られた。さらには、冷えの感覚がプラセボ群と比較して低減することが示され、体感として冷えを感じにくくなることがわかった。
このことから、EPAを含有する本発明の食品の摂取後、安静時体温が上昇することにより、一定時間寒冷条件に曝されたときに体温を保持する効果が期待できる。