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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】コメの硬化性を判別する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20240826BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20240826BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240826BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20240826BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12Q1/6895 Z
C12Q1/686 Z
A01H6/46
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020098595
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191240
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 智仁
(72)【発明者】
【氏名】芦田 かなえ
(72)【発明者】
【氏名】山内 歌子
(72)【発明者】
【氏名】福岡 修一
【審査官】坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102816778(CN,A)
【文献】特開2013-172710(JP,A)
【文献】品田博史ら,水稲糯新品種「きたゆきもち」の育成,北海道立総合研究機構農業試験場集報,2016年06月,第100号,33~46頁
【文献】粕谷雅志ら,水稲糯新品種「しろくまもち」の育成,北海道立総合研究機構農業試験場集報,2013年,第97号,15~28頁
【文献】Ardashir Kharabian-Masouleh et al.,Discovery of polymorphisms in starch-related genes in rice germplasm by amplification of pooled DNA and deeply parallel sequencing,Plant Biotechnology Journal,2011年,Vol.9,p.1074-1085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コメの硬化性を判別する方法であって、対象となるイネのゲノムDNAが、下記(A)を満たすか否かを基準に判別する、方法:
(A) 配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGである。
【請求項2】
さらに下記(B)を満たすか否かを基準に判別することを含む、請求項1に記載の方法:
(B) 配列番号:1の配列の位置1991に対応する塩基がGである。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の判別方法に使用するための、配列番号:1に記載の塩基配列の一部に相補的であり、かつ15塩基以上の長さを有する、プライマー対。
【請求項4】
配列番号:2の配列を有するプライマーと、配列番号:3に記載のプライマーである、請求項3に記載のプライマー対。
【請求項5】
下記の工程を含む、請求項1又は2に記載の判別方法:
請求項3又は4に記載のプライマー対を用いて対象となるイネから抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行って増幅産物を得て、
得られた増幅産物を、配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGであることを認識できる制限酵素で処理し、酵素処理断片を得る。
【請求項6】
制限酵素が、BspT107I(HgiC I)である、請求項5に記載の判別方法。
【請求項7】
PCRにおいて請求項4に記載のプライマー対を用い、得られた酵素処理断片が、
・未切断のものからなる場合(1つである場合)に、きたゆきもち型、
・切断されたものからなる場合(2つである場合)に、しろくまもち型、
・未切断のものと切断されたものからなる場合(3つである場合)に、ヘテロ型
と判断する、請求項6に記載の判別方法。
【請求項8】
請求項1、2、5~7のいずれか1項に記載の判別方法によりイネを選抜し、選抜したイネ又はその後代を交配に用いることを含む、イネの育種方法。
【請求項9】
請求項1、2、5~7のいずれか1項に記載の判別方法によりイネを選抜し、選抜したイネ又はその後代を交配に用いることを含む、イネの生産方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法により得られたイネの、
請求項1、2、5~7のいずれか1項に記載の判別方法によりイネを選抜し、
得られたイネから、収穫物、繁殖材料又は加工品を得る
工程を含む、イネの収穫物、繁殖材料又は加工品の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコメの硬化性を判別するための遺伝マーカー、及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水稲糯品種においては、搗いて成形した後の餅の硬くなりやすさ(硬化性)が重要な遺伝形質とされている。餅が硬くなりやすい(硬化性が高い)特性を持つ品種は短時間での製品生産が可能となるため切り餅等の加工用途に、硬くなりにくい(硬化性が低い)特性を持つ品種は長時間柔らかさが保持されるため大福等の和菓子用途に向く。
【0003】
植物では、澱粉の特性に関与するものとして、2つの主要なクラスの澱粉枝付け酵素(Starch branching enzyme)、すなわちSbeI及びSbeIIが知られている。穀類では、SbeIIはさらに、SbeIIa及びSbeIIbの2つのタイプに分類することができる。近年、「Kurnai」と水稲糯品種「マンゲツモチ」を交配した後代の糯性固定系統が調査され、SbeI活性を欠いた系統は餅硬化性が低下すること、活性の欠損は第6染色体長腕末端に座乗するSbeI遺伝子座を含む領域で制御されていることが明らかにされた(非特許文献3)。また、愛知県育成の糯品種「愛知糯126号」がSbe1の活性を失っており、それが原因で餅の硬化性が低いことが報告された(非特許文献4)。
【0004】
一方、SbeIIに関しては、SbeIIa又はSbeIIbのレベルを低下させたイネ(特許文献1)、ジャポニカ米由来のSbeIIb型の遺伝子座が劣勢ホモであり、インディカ米由来のSSIIa及びGBSSI遺伝子が遺伝的に固定されており、非遺伝子組み換え体であることを特徴とするイネ変異体(特許文献2)、SSI、SS IIIa、SBE I、及びSBE IIbを含む2つ、3つ、又は4つの遺伝子の組み合わせにおいて1つ以上の突然変異を含むイネ植物であって;前記イネ植物が、発芽する種子を産生し、さらに前記イネ植物からの穀粒が、野生型イネ植物からの穀粒と比較して増加した難消化性デンプン又は総食物繊維レベルを有する、前記イネ植物(特許文献3)が知られている。さらに、粳品種である日本晴を使用した突然変異体解析によって、澱粉のゲル化(糊化)特性に関与する遺伝変異がSbeIIb遺伝子中に同定された(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-511207号公報
【文献】特開2017-038588号公報
【文献】特開2019-509035号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】杉浦ら, 日作紀Vol.74(2005),No.1 pp.30-35
【文献】佐藤ら, 日作紀Vol.74(2005),No.3 pp.310-315
【文献】Okamoto et al.(2013) J. Appl. Glycosci. 63: 53-60
【文献】鈴木ら, 育種学研究Vol.21(2019),No.1 pp.28-34
【文献】Nakata et al.(2018) Plant Biotechnology J. 16: 111-123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、糯品種の硬化性を効率的に判別する方法は開発されていない。従来法による判別では評価可能になるまで育成材料の世代を進め、特性が遺伝的に固定した材料を用いる必要がある。そのため,供試材料の世代を進める必要がなく、簡便に硬化性を判別可能な方法の開発が望まれている。
【0008】
また、硬化性の判定は、栽培・収穫調整を経て精白米を得て、炊飯後に搗いて成型し、時間経過後に硬さを測定する、といった過程を要する。これは、硬化性の原因遺伝子が明らかになっておらず、実際に表現型としての餅を評価しなければ判定ができないためである。
【0009】
糯品種の硬化性については、非特許文献1や非特許文献2にあるように、品種間差が報告され、登熟気温との関連、玄米成分や糊化特性、尿素崩壊性との関連などが指摘されている。しかし、それらの原因遺伝子までは明らかになっていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、北海道水稲糯2品種間の硬化性の違いに関わる染色体領域の遺伝子型を特定した。また、塩基配列の相違を対象としたDNAマーカーを用いることで、育種材料の養成、栽培や収穫調整といった過程を省略し、その硬化性を判別できることを見出した。更に、この遺伝子上に生じた塩基置換を対象としたCAPSマーカーを作成し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
[1] コメの硬化性を判別する方法であって、対象となるイネのゲノムDNAが、下記(A)及び(B)の少なくとも一つを満たすか否かを基準に判別する、方法:
(A) 配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGである。
(B) 配列番号:1の配列の位置1991に対応する塩基がGである。
[2] 少なくとも(A)を満たすか否かを基準に判別する、1に記載の方法。
[3] 1又は2に記載の判別方法に使用するための、配列番号:1に記載の塩基配列の一部に相補的であり、かつ15塩基以上の長さを有する、プライマー対。
[4] 配列番号:2の配列を有するプライマーと、配列番号:3に記載のプライマーである、3に記載のプライマー対。
[5] 下記の工程を含む、2に記載の判別方法:
3又は4に記載のプライマー対を用いて対象となるイネから抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行って増幅産物を得て、
得られた増幅産物を、配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGであることを認識できる制限酵素で処理し、酵素処理断片を得る。
[6] 制限酵素が、BspT107I(HgiC I)である、5に記載の判別方法。
[7] PCRにおいて4に記載のプライマー対を用い、得られた酵素処理断片が、
・未切断のものからなる場合(1つである場合)に、きたゆきもち型、
・切断されたものからなる場合(2つである場合)に、しろくまもち型、
・未切断のものと切断されたものからなる場合(3つである場合)に、ヘテロ型
と判断する、6に記載の判別方法。
[8]1、2、5~7のいずれか1項に記載の方法を実施するための、キット。
[9]3又は4に記載のプライマー対を含む、請求項8に記載のキット。
[10] 1、2、5~7のいずれか1項に記載の判別方法によりイネを選抜し、選抜したイネ又はその後代を交配に用いることを含む、イネの育種方法。
[11] 1、2、5~7のいずれか1項に記載の判別方法によりイネを選抜し、選抜したイネ又はその後代を交配に用いることを含む、イネの生産方法。
[12] 10又は11に記載の方法により得られたイネの、収穫物、繁殖材料又は加工品。
【発明の効果】
【0012】
塩基配列の相違を対象としたDNAマーカーを用いることで、育種材料の養成、栽培や収穫調整といった過程を省略し、コメの硬化性の判別ができる。
【0013】
遺伝子型と硬化性は関連しており、実際に搗いた餅を評価することなく、コメの硬化性の判別ができる。
【0014】
共優性マーカーであるため、当該遺伝子型がホモ型に固定していない材料であっても、判定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】QTL周辺の遺伝地図。96のF2植物からマーカー遺伝子座FA0159とFA0817の間の組換え体を選択した。白バーはKT(きたゆきもち)ホモ接合体、黒バーはSR(しろくまもち)ホモ接合体を示す。No.25及び24、No.12及び13、No.66及び65は、それぞれ同じF2組換え体由来のものである。*、**は、それぞれt検定によるsufficiency 1%、0.1%を示す。
図2】CAPSマーカーの増幅産物を制限酵素で消化し、電気泳動した結果。左の2レーンは、親系統であり、その他は交配後代についての結果である。K:きたゆきもち、S:しろくまもち
図3】北海道水稲育成品種の育成系譜と各品種のbe2b遺伝子型。品種名後ろのKT、SRはそれぞれ、遺伝子型がきたゆきもち型、しろくまもち型であることを示す。
図4】https://rapdb.dna.affrc.go.jp/から入手した澱粉合成酵素遺伝子be2bのDNAの塩基配列。ベースは日本晴のものだが、きたゆきもちと同じである。網掛は5'UTR、及び3'UTR、下線はCDSに相当する。囲んだTはしろくまもちではGであり、囲んだAはしろくまもちではGである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔判別方法〕
本発明は、イネゲノム中に存在する一塩基多型(SNP)を、コメの硬化性のマーカーとして利用することに関する。より具体的には、対象となるイネのゲノムDNAが、下記(A)及び(B)の少なくとも一つを満たすか否かを基準に、コメの硬化性を判別する。
(A) 配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGである。
(B) 配列番号:1の配列の位置1991に対応する塩基がGである。
【0017】
配列番号:1には、イネの品種・日本晴の澱粉合成酵素タンパク質をコードする遺伝子の一つ、be2b(LOC_Os02g0528200-01)の配列が示されている。日本晴のbe2bは、Transcript 2916pb、Coding Sequence 2478bp、22エクソンと826アミノ酸残基タンパク質をコードする11338bpからなる。日本晴のbe2bのDNA配列はきたゆきもち(北海道の水稲糯品種)と同じである。
【0018】
「配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がG」であるとは、判別対象となる植物のbe2bの配列を配列番号:1の配列を最適の態様で整列させた場合に、配列番号:1の配列において位置958に対応する位置の塩基がGであることをいう。最適の態様で整列させるとは、通常、2つの配列間で共有する一致した塩基率が最も高くなるように整列させることを意味する。塩基配列の整列や同一性に関する解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラムにより行うことができる。
【0019】
本発明の方法は、一塩基多型(SNP)を利用して判別を行う。多型とは、同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在すること、又はその異なる遺伝子・DNA配列のことをいう。多型には一塩基多型(SNP)、Insertion/Deletion(挿入/欠失)多型、制限断片長多型、タンデム反復数多型(variable number of tandem repeats:VNTR)、超可変領域、ミニサテライト、ジヌクレオチド反復、トリヌクレオチド反復、テトラヌクレオチド反復、及び単純配列反復が含まれる。
【0020】
一塩基多型(SNP)は1個のヌクレオチドからなる多型部位において、その1個のヌクレオチドが別のもの(ヌクレオチド、又はジ~テトラヌクレオチド、オリゴもしくはポリヌクレオチド)で置換されて起こる。一塩基多型は、参照対立遺伝子と比較して1個のヌクレオチドが欠失するか、又は1個のヌクレオチドが挿入されるかによっても起こる。なお多型を表す場合に、関与するヌクレオチドの種類を便宜上そのヌクレオチドを構成する塩基の種類(A、G、T又はC)を用いて示すことがある。
【0021】
具体的には、本発明においては澱粉合成酵素遺伝子be2bの遺伝子型が、きたゆきもち型である(配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がTであり、かつ位置1991に対応する塩基がAである。)場合は硬化性が低く、しろくまもち型である(配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGであり、かつ位置1991に対応する塩基がGである。)場合は硬化性が高いと判断することができる。
【0022】
あるいは、本発明においては、対象となるイネのゲノムDNAが、(A) 配列番号:1の配列の位置958に対応する塩基がGである、及び(B) 配列番号:1の配列の位置1991に対応する塩基がGである、の少なくとも一つを満たすか否かを基準とし、(A)及び(B)の少なくとも一つを満たす場合、より好ましくは少なくとも(A)を満たす場合、さらに好ましくは(A)及び(B)を満たす場合に、硬化性が高いと判断し、それ以外の場合は硬化性が低いと判断することができる。
【0023】
本発明者らの検討により、しろくまもちときたゆきもちのbe2b遺伝子の配列の比較から、しろくまもちにおいては、きたゆきもち(野生型)のexon3のTからGへ、及びexon4におけるAからGへの変異が判明している。これらの変異は、アミノ酸の非同義置換(順に、Leu94Val(exon3)、His196Arg(exon4))である。なおヘテロ型である場合は、be2bも他の澱粉合成遺伝子と同様に機能すると考えると、両親の中間の硬化性を示すと考えられる。
【0024】
本発明は、コメの硬化性を判別するための方法である。水稲の糯品種には餅硬化性と称される硬くなりやすさの指標がある。この餅硬化性は、山下の方法(山下浩 1996. もち. 山本隆一・堀末登・池田良一共編. イネ育種マニュアル. 養賢堂, 東京. 70-73.)に準じて測定できる。具体的には、例えば、適切な方法で精米した精白米を約15分間浸水し、脱水後、市販の餅つき機で炊飯して練り上げ、その後、長さ約50cm、幅5cm、厚さ1.5cmに成形し、5℃で約22時間保存したものをつりかけ器に下げ、曲がり度合を計測する。曲がり度合いが小さいほど餅硬化性が高い(硬い)と判断することができる。本発明に関し、コメの硬化性というときは、餅硬化性と同様、餅にした場合の硬くなりやすさをいう。
【0025】
硬化性はまた、本明細書の実施例の項に記載されている、糊化開始温度(PT)、及びクリープメーターにより測定される硬さを指標とすることもできる。
【0026】
なお硬化性に関し、測定された値を比較するに際しては、通常、評価対象が農産物であり、長期の貯蔵が困難であり、再現性が高くない場合があることが考慮される。そのため、例えば、対象となる品種について、硬化性が低い品種として知られているはくちょうもちと同時に評価し、はくちょうもちと同等の値が得られた場合には、その品種・系統は硬化性が低いと判断でき、逆であれば硬化性が高いと判断することができる。この場合さらに硬化性が高い品種として知られているこがねもちについても同時に評価し、硬化性の高さの程度を、こがねもちと同程度と評価することができる。誤差等を考慮して、必要に応じ、有意差検定を行うことができる。評価に際しては、同じ年に収穫されたもの同士、可能であれば同じ地域で得られたもの同士を比較することが推奨される。一方、産地間で競合するもの同士を比較したい場合があり、この場合は収穫年を一致させた対象を用い、実需者が同じ条件で使用し、使用感により評価することができる。
【0027】
本発明者らの検討によると、本明細書により開示される遺伝子型の違いにより、両親間や後代分離系統間で、PT及びクリープメーターにより測定される硬さにおいて有意差が認められている。遺伝子型に基づく本発明の方法により、硬化性の判別に際して、栽培地域や収穫年次にとらわれずに、また実際に収穫し、精米し、搗いた餅を評価することなく、硬化性の判別ができる。
【0028】
本発明に関し、イネ、コメというときは、品種は特に限定されない。ジャポニカ種(日本型、短粒種)、インディカ種(インド型、長粒種)、ジャバニカ種(ジャワ型、大粒種)であってもよい。本発明の判別方法は、糯品種に対しても粳品種に対しても適用することができるが、糯品種は、加工の際に重視される特性の一つが硬化性であることから、糯品種に対して適用するのに特に優れている。
【0029】
糯品種の例として、しろくまもち、きたふくもち(北海道の糯品種であり、しろくまもちの子供にあたる品種)、はくちょうもち、こがねもち、水稲農林糯144号(マンゲツモチ)、水稲農林糯145号(カグラモチ)、水稲農林糯216号(ヒヨクモチ)、水稲農林糯221号(ヒメノモチ)、水稲農林糯233号(クレナイモチ)、水稲農林糯254号(ヒデコモチ)、水稲農林糯317号(峰の雪もち)、羽二重糯、大正糯、藤蔵糯、旭糯、みやこがねもち、もちひかり、喜寿糯等の水稲品種、陸稲農林糯55号(トヨハタモチ)、陸稲農林糯60号(ゆめのはたもち)等の陸稲品種を挙げることができる。粳品種の例として、日本晴、きらら397、ななつぼし、ゆめぴりか、ふっくりんこ、おぼろづき、彩、あやひめ、大地の星、えみまる、きたくりん、北瑞穂、さんさんまる、そらゆき、さんさんまる、雪ごぜん、ほしのゆめ、ほしまる、ゆきひかり、雪ごぜん、ゆきさやか、雪の穂、ゆきのめぐみ、ゆきむつみ、きらら、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、はえぬき、ほしのゆめ、つがるロマン等を挙げることができる。
【0030】
本発明者らの検討によると、be2bの遺伝子型がきたゆきもち型であるものには、日本晴、コシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれ、こがねもち、ヒメノモチ、はくちょうもちであり、種々の粳・糯品種が含まれ、また北海道で栽培されている硬化性が低いものとして知られている糯品種が含まれる。また、しろくまもち型であるのは、北海道で栽培されている糯品種のしろくまもち、きたふくもち、北海道で栽培されている粳品種のきらら397、ななつぼし、ゆめぴりか、ふっくりんこ、おぼろづきの5品種であり、現在のところ北海道で育種された品種内にのみこの遺伝子型が見つかっている。
【0031】
〔CAPS法、プライマー、キット等〕
本発明の方法は、上述したようは配列の違いを検出するためのDNAマーカーを提供するものであるが、DNAマーカーの検出は、種々の方法で行うことができる。例えば、例えば、CAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)法〔「モデル植物の実験プロトコール」細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ15、2001年4月2日発行、秀潤社、p.69-76〕、dCAPS法〔Plant J 14, 381-385 (1998)〕、PCRダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、AP-PCR(Arbitrarily Primed-PCR)法〔Nucl. Acids Res., 18, 7213-7218 (1990)〕、PCR-SSCP(一本鎖DNA高次構造多型)法〔Biotechniques, 16,296-297 (1994), Biotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991), Nuc. Acids. Res., 20,4831-4837 (1992)〕、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis; DGGE)法〔Biotechniqus, 27, 1016-1018 (1999)〕、RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、MALDI-TOF/MS(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997), Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet., 3, p225-232 (1998)、遺伝子医学, 4, p50-51 (2000)〕、モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol.,1, p49-53 (1998)、遺伝子医学、4, p46-48(2000)〕、TaqMan PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999), J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、インベーダー法〔Science, 5109, 778-783(1993), J. Biol. Chem., 30, 21387-21394 (1999), Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、ダイナミック・アレル-スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization (DASH))法〔Nat. Biotechnol.,1, p87-88, (1999)、遺伝子医学, 4, p47-48 (2000)〕、UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームページ(http://www.takara.co.jp)参照〕、及びDNAチップまたはDNAマイクロアレイを用いる方法〔Genomics 4, (1989), Drmanae, R., Labat, I., Brukner, I. and Crkvenjakov, R., p114-128、Bio Industry Vol.17 No.4, 「DNAチップ技術」 p5-11 (2000)〕等が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0032】
これらのうち、本発明が特に好ましく適用できるのは、制限酵素により配列差を検出するCleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法である。CAPS法は、本発明に関しては、具体的には、下記の工程を含む方法として行うことができる:
対象となるイネから抽出したゲノムDNAを鋳型として、プライマー対を用いてPCRを行って増幅産物を得る工程;及び
得られた増幅産物を、目的のSNPを認識できる制限酵素で処理し、酵素処理断片を得る。
【0033】
本発明は、CAPS法により上述のコメの硬化性の判別方法を実施するのに適した、プライマー対、プライマー対による増幅産物、キット等を提供する。
【0034】
プライマー対は、配列番号:1の配列の位置958に対応する位置、又は配列番号:1の配列の位置1991に対応する位置のそれぞれの上流及び下流に会合することができるものであり、配列番号:1に記載の塩基配列又はその相補配列の一部に相補的である。プライマーの長さは、通常15 塩基長~100 塩基長であり、好ましくは17 塩基長~30 塩基長である。プライマーは、本発明の多型マーカーを含むDNAを増幅しうるものであれば、特に制限されない。プライマーによる増幅産物の長さは特に制限されないが、例えば4000塩基長以下であり、3000塩基長以下、2000塩基長以下、1000塩基長以下、500塩基長以下、300 塩基長以下、100 塩基長以下、50 塩基長以下、30又は20 塩基長以下であってもよい。プライマーは、従来のプライマーの設計方法を参考に適宜設計できる。プライマーの設計方法のためには、ソフトウェアが市販されており、本発明のためにも使用できる。プライマーとして用いるポリヌクレオチドは、例えば市販のポリヌクレオチド合成機により作製することができる。
【0035】
プライマー対の特に好ましい例は、配列番号:2の配列を有するプライマーと、配列番号:3に記載のプライマーからなる。Be2bは全長は約11.3kbpであるが、これらのプライマー対は5‘UTR先端から約0.9kbpに位置するため、上流寄りである。Fプライマーはイントロンに、Rプライマーはエクソン部分に位置する。なおこれらのプライマーは、目的の領域を増幅することができるものであれば、1又は数個の塩基が置換等された塩基配列を有するプライマーを用いてもよいことはいうまでもない。
【0036】
配列番号:1の配列の位置958がGであるか否かにより判別する場合、用いる制限酵素の好ましい例の一つは、BspT107I(HgiC I)である。酵素処理のための条件は当業者であれば適宜設計できる。
【0037】
制限酵素BspT107 I(HgiC I)は、上で説明した配列番号:1の配列の位置958のGを認識し、下記のように切断する。
【0038】
【化1】
【0039】
配列番号:2の配列を有するプライマーと、配列番号:3に記載のプライマーによる増幅産物がこの酵素で切断されると約145bpと80bpの2つの断片となる。後代系統で該遺伝子を両親のヘテロ型で有する個体の場合は、225bpの未切断のものと合わせて、電気泳動では3本のバンドが検出される。
【0040】
したがって本発明のCAPS法では、判別は、酵素処理断片の電気泳動等により、見られる断片のサイズ、数等に基づいて行うことができる。具体的には、次のように行うことができる。得られた酵素処理断片が、
・未切断のものからなる場合(1つである場合)に、きたゆきもち型、
・切断されたものからなる場合(2つである場合)に、しろくまもち型、
・未切断のものと切断されたものからなる場合(3つである場合)に、ヘテロ型
【0041】
対象となるイネからの鋳型の抽出に際しては、用いる組織は特に限定されず、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、種子(発芽種子、未熟種子を含む。)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストのいずれでもよいが、新鮮な葉から抽出することが好ましい。
【0042】
また本発明は、上述した本発明の方法を実施するためのキットを提供する。キットには目的の部分を増幅するための上述のプライマー対が含まれ、それ以外に制限酵素、各種試薬類、反応液、対照標品、反応容器、操作器具等を含めることができる。また、キットには、対象からの核酸の抽出手順、プライマー対による増幅手順、酵素処理手順、電気泳動手順、判別手順、及び判別のための基準のいずれかが記録された媒体(紙、CD等)、そのような情報にアクセスするための情報が含まれていてもよい。
【0043】
〔育種方法、収穫物等〕
本発明はまた、本発明の判別方法によりイネを選抜し、選抜したイネ又はその後代を交配に用いることを含む、イネの育種方法、及び本発明の判別方法によりイネを選抜し、選抜したイネ又はその後代を交配に用いることを含む、イネの生産方法を提供する。さらに、本発明は、これらの方法により得られたイネの、収穫物、繁殖材料又は加工品を提供する。
【0044】
本発明で「植物」というときは、特別な場合を除き、植物個体又はその一部の意味で用いており、また「その一部」というときは、特別な場合を除き、種子(発芽種子、未熟種子を含む。)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。植物には、遺伝子操作植物及び形質転換植物が含まれる。植物には、「収穫物」及び「繁殖材料」がふくまれる。
【0045】
繁殖材料は、特に記載した場合を除き、植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの(「種苗」ということもある。)をいい、例えば、種子、苗、細胞、カルス、幼芽がある。本発明でいう「収穫物」とは、特別な場合を除き、通常の意味で用いており、植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されないもの、例えば、植物がイネ属に属するものである場合、収穫物には、コメ、精米、米粉、刈り取った稲、もみが含まれる。
【0046】
加工品とは、特に記載した場合を除き、収穫物から直接的に又は間接的に生産される加工品をいう。本発明の範囲は、少なくとも、本発明の収穫物における特徴を反映した加工品が含まれる。例えば、収穫物であるコメを原料とし、精米した米、炊飯したまたは蒸した米、餅、菓子類(和菓子、切り餅、あられ)、米粉、米粉を使用した菓子類(和菓子、切り餅、あられ)類、饅頭類、パン類、ピザ、酒は、本発明の範囲に含まれる。
【0047】
以下実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0048】
〔方法〕
<植物材料と生育条件>
きたゆきもち(KT)としろくまもち(SR)を交配してF2個体を得た。コメの硬化性に関わるQTLを検出するために、F2個体の自家受粉により96個のF3個体群を育成した。KT系統、SR系統、F3系統は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センターの実験水田(北緯43度00分、東経141度42分)で自然条件で栽培した。播種は4月下旬、移植は5月下旬に行った。いずれも、各列内の株間は12.5cm、列間は30.0cmの間隔で植え付けた。栽培管理は、北海道農業研究センターの標準的な手順に従った。種子は完熟期に収穫した。
【0049】
<表現型データの収集>
精米は0.5mmスクリーン付きサンプルミル(CYCLOTEC 1093 Samole mill FOSS TECATOR Denmark)を用いて粉砕した。精米粉の含水率は、135℃で1時間乾燥させた後の重量損失として算出した。
【0050】
米粉懸濁液として米粉4.0gとMilli-Q水20.5mL(水分14%ベース)を使用し、AACC承認の方法76-21(AACC International, 2000)に従って、Rapid Visco Analyser(RVA3D+, Newport Scientific Pty Ltd., NSW, Australia)を使用してペースト特性を測定した。テストプロファイルSTD2は以下のように修正して使用した;米粉懸濁液を95℃に加熱し、その温度で2分間維持した。定回転パドル(160 rpm)を使用した。RVAを用いて測定した後、米粉ペーストをカバー付きのアルミシャーレ(外径5.0 cm×高さ1.5 cm)に入れ、4℃で24時間保存した。得られた餅の硬さは、クリープメーター(RHEONER II RE2-33005C 山電 日本)を用いて測定した。1サンプルあたり3回計測した。
【0051】
<DNA の単離とジェノタイピング>
個々の植物の全ゲノムDNAを、1~3cmの新鮮な葉から、簡便な方法で抽出をした。具体的には、1M KCl、100mM Tris-HCl(pH8.0)、10mM EDTA(pH8.0)を含む250μLの抽出緩衝液中で破砕し、100μLの2-プロパノールで沈殿させ、150μLの70%エタノールで洗浄し、1mM Tris-HCl(pH8.0)、0.1mM EDTA(pH8.0)を含む30μLの緩衝液に溶解した(Hori K, et al. Genetic Architecture of Variation in Heading Date Among Asian Rice Accessions. BMC Plant Biol. 2015;15:115.)。なおこの方法は例であり、DNAを抽出・精製するための各種の方法を用いることができる。親系統間で多型を示す一塩基多型(SNP)マーカーを親系統の全ゲノム配列を比較して選択し、合計82個のマーカーをQTL検出に用いた。
【0052】
<QTLの検出>
Kosambi機能に基づくプログラムMAPMAKER/EXP 3.0 (Lander E, Green P, Abrahamson J, Barlow A, Daly M, Lincoln S, et al. Mapmaker: an interactive computer package for constructing primary genetic linkage maps of experimental and natural populations. Genomics. 1987;1:174-81.)を用いて、連鎖地図を構築した。QTL解析は、QTL Cartographer v. 2.5ソフトウェア(Basten C, Weir B, Zeng Z. QTL cartographer, ver. 1.17. Raleigh, NC: Department of Statistics, North Carolina State University; 2005.)によって提供される複合間隔マッピングを用いて行った。ゲノムワイドな閾値(α=0.05)は、QTL検出のための1000回のpermutationの結果から計算した。クリープメーターを用いて測定した「硬さ」についてはLOD3.41以上、RVAを用いて測定した「糊化温度」についてはLOD4.52以上を有意とした。
【0053】
<SbeIIb遺伝子のDNA配列解析とSbeIIb遺伝子型CAPSマーカーの開発>
SbeIIb 遺伝子周辺(遺伝子のプロモーター領域を含め上流下流それぞれ2kbp程度)の多型 SNP を親系統の全ゲノム配列を比較して決定し、Primer3 プログラムを用いて切断増幅多型配列(CAPS)マーカーに変換した。
【0054】
このCAPSマーカーの増幅産物を制限酵素で消化し、2.0%アガロースゲルで電気泳動した。PCR反応には市販の酵素KAPA Taq Extra HS ReadyMix(色素入り)(NIPPON Genetics Co., Ltd, Tokyo, Japan)を説明書の推奨プロトコールで使用した。
【0055】
〔結果〕
<米粉ペーストの澱粉性状に関するQTL>
82個のSNPマーカーを用いて12の染色体をジェノタイプ化し、糊化温度(PT)と硬さのQTL解析を行った(表1)。
【0056】
【表1】
【0057】
2番染色体の同一領域にQTLが検出された。2番染色体のQTLはFA0159からFA0817の間にマップされた。その結果、LODスコアは、PTは6.33、硬さは4.25であった。表現型の説明された変動の割合(PVE)はPTで41.2%,硬さで17.0%であった(表2)KT対立遺伝子はPTを低下させ、餅の軟らかさを保つことに寄与した。
【0058】
【表2】
【0059】
<澱粉の特性を決定する遺伝子のファインマップ化とスクリーニング>
候補領域の組換えF3ラインを用いて、澱粉特性のための遺伝子座の区切りを行った。FA0159からFA0817の間に組換えた6系統を、52個のSNPマーカーを追加してジェノタイピングし(データは図示せず)、特性を比較した(図1)。
【0060】
F3組換え体No.25及び24、No.12及び13、No.66及び65は、それぞれ同じF2組換え体に由来するものであった。その結果、305kbpの領域にあるFA5957とFA5969の2つのマーカーの遺伝子型が澱粉の特性と関連していることがわかった(図1)。
【0061】
RAP-DBは、この領域に澱粉合成酵素タンパク質をコードする遺伝子の一つ、be2b(LOC_Os02g0528200-01)をコードしている。ゲノム配列解析の結果、日本晴のbe2bは、Transcript(転写されるところ、含むUTR領域)2916pb、Coding Sequence(アミノ酸の翻訳の対象となる塩基配列で、開始コドンから終止コドンまでの翻訳領域、CDS)2478bp、22エクソンと826アミノ酸残基の予測タンパク質をコードする11338bpからなる。きたゆきもちとしろくまもちのbe2bDNA配列の比較から、しろくまもちにおけるexon3及びexon4におけるTからGへ、AからGへの変異が明らかとなった。これらの変異は、アミノ酸の非同義置換(順に、Leu94Val(exon3)、His196Arg(exon4))と解析された。
【0062】
<CAPSマーカーによる解析>
設計したCAPSマーカー、Sbe2b_ex3-1 F及びRの配列、並びに当該プライマー対のBEIIb遺伝子上のおおよその位置を下記に示す。
【0063】
F-5‘TTGCTTGTTGTCGCTCATTC3’(配列番号:2) ポジションChr.2 19366248-19366229
R-5‘CTCCTGTTGGTGGGACAACT3’(配列番号:3) ポジションChr.2 19366023-19366042
【0064】
BeIIb遺伝子のポジションはChr.2の5‘UTR [19367127-19355790] 3‘UTR であるので、全長は約11.3kbpである。プライマー対は5‘UTR先端から約0.9kbpに位置するため、上流寄りである。Fプライマーはイントロンに、Rプライマーはエクソン部分に位置する。
【0065】
プライマー対を用いたPCRによって得られた増幅産物を、制限酵素BspT107 I(HgiC I)で処理すると、しろくまもち由来の塩基配列だけを認識して増幅産物を切断し、電気泳動により2本のバンドが検出された。ヘテロ型の個体の識別も可能であった(図2)。
【0066】
制限酵素BspT107 I(HgiC I)は、上で説明したexon3のSNPを認識する。具体的には、下図の上段左から2番目がGであればしろくまもち型であり、Tであればきたゆきもち型である。切断されると約145bpと80bpの2つの断片となる。後代系統で該遺伝子を両親のヘテロ型で有する個体の場合は、、225bpの未切断のものと合わせて、電気泳動では3本のバンドが検出される。
【0067】
【化2】
【0068】
イネの約100品種・系統について供試したが、遺伝系譜において矛盾が生じる品種は見つかっていない。したがって、このCAPSマーカーは、特異性が高く、信頼度の高いものだとと考えられる。また、解析のためのPCRや電気泳動のために、特殊な酵素や機器は必要ではない。
【0069】
調査水稲品種において、きたゆきもち型は日本晴、コシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれ、こがねもち、ヒメノモチ、はくちょうもちなどの、府県の粳・糯品種及び北海道の「硬化性が低い」とされる糯品種であった。しろくまもち型は、しろくまもち、きたふくもち(北海道の糯品種であり、しろくまもちの子供にあたる品種)、きらら397、ななつぼし、ゆめぴりか、ふっくりんこ、おぼろづき(この5品種は北海道で広く栽培されている粳品種)であった。今のところ北海道の品種内にしか、しろくまもち型は見つかっていない。
【0070】
<澱粉特性の遺伝子型の分布>
澱粉特性に関する遺伝子型の分布を調べるため、北海道中心に様々な地域の品種に対してCAPSマーカーSbe2b Ex3-1を使用した。しろくまもちの遺伝子型は、米国産の品種Cody由来由来であり、「キタアケ」を通じて北海道へ導入された(図3)。現在、北海道の水田では、しろくまもちの遺伝子型を持つ品種が90%以上栽培されている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、コメの硬化性の判定を行なうことが可能となる。
本願は農業全般に利用可能である。さらには、コメを原料とする食品産業においても有効に利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列番号:1 澱粉合成酵素遺伝子be2b
配列番号:2 Sbe2b_ex3-1 F
配列番号:3 Sbe2b_ex3-1 R
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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