(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】HTTリプレッサーおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240826BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240826BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240826BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240826BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240826BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240826BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240826BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C07K14/00 ZNA
C12N15/864 100Z
A61K38/17
A61K31/7088
A61K35/76
A61P43/00 105
A61P25/14
(21)【出願番号】P 2021540305
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(86)【国際出願番号】 US2020013661
(87)【国際公開番号】W WO2020150338
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-13
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508241200
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】キャリー, ガレン
(72)【発明者】
【氏名】チオッコ, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】チョイ, ヴィヴィアン
(72)【発明者】
【氏名】フェリス, ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】フローリック, スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】クラッテ, デブラ
(72)【発明者】
【氏名】ミラー, ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】パッション, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】リーバー, エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ザイトラー, ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, レイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, エイチ. スティーブ
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532428(JP,A)
【文献】特表2015-509958(JP,A)
【文献】特表2013-500045(JP,A)
【文献】特表2021-521775(JP,A)
【文献】Gabriela Ecco, A tale of domestication: the endovirome, its polydactyl controllers and the species-specificity of human biology,Development.,2017年,144,2719-29
【文献】Zeitler, Bryan,Allele-selective transcriptional repression of mutant HTT for the treatment of Huntington's disease,Nature Medicine,2019年,25,1131-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
45294または45723で指定されるジンクフィンガータンパク質(ZFP)を含
み、以下の表
の単一の行に示される順に認識ヘリックス領域を含むジンクフィンガータンパク質転写因子(ZFP-TF)。
【請求項2】
請求項1に記載のZFP-TFをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むrAAVベクタ
ー。
【請求項4】
核局在化シグナル(NLS)をコードする配列、および必要に応じて構成的プロモータ
ーなどの前記ZFP-TFの発現を駆動するプロモーターをさらに含む、請求項3に記載のrAAVベクター。
【請求項5】
請求項1に記載の1つもしくは複数のZFP-TF、
請求項2に記載の1つもしくは複数のポリヌクレオチド、および/または
、請求項3もしくは請求項4に記載の1つもしくは複数のrAAVベクターを含む医薬組成物。
【請求項6】
細胞におけるHTT遺伝子の発現を改変するための、請求項1~4のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、および/または1つもしくは複数のrAAVベクターを含む組成物、
あるいは、請求項5に記載の医薬組成物であって、前記細胞に投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項7】
前記HTT遺伝子が変異体HTT(mHTT)遺伝子である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記細胞がニューロン細胞である、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ニューロン細胞が脳にある、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ニューロン細胞が脳の線条体にある、請求項8または9に記載の組成物。
【請求項11】
必要とする患者においてハンチントン病を処置および/または防止するための、請求項1~4のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、および/または1つもしくは複数のrAAVベクターを含む組成物、
あるいは、請求項5に記載の医薬組成物であって、
必要に応じて、前記対象の線条体の両側に投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項12】
必要とする患者における変異体HTT(mHTT)発現を抑制するための、請求項1~4のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、および/または1つもしくは複数のrAAVベクターを含む組成物、
あるいは、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ハンチントン病が前記対象において処置される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
mHTT凝集体および/または運動障害が前記対象において低減される、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
前記対象の脳に、必要に応じて前記対象の線条体の両側に送達される、請求項12から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
前記1つまたは複数のrAAVベクターが、1×10
7~1×10
15ベクターゲノム(vg)/線条体の用量で線条体の両側に投与される、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2019年1月15日付けで出願された米国仮出願第62/792,701号の利益を主張し、この開示は、本明細書によって参考としてその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出され、これにより参照によりその全体が本明細書に組み込まれる配列表を含有する。前記ASCIIコピーは、2020年1月3日に作成され、8327-018740_SL.txtと名付けられ、22,157バイトのサイズである。
【0003】
技術分野
本開示は、ハンチントン病の診断および治療の分野にある。
【背景技術】
【0004】
背景
ハンチントン病(HD)は、ハンチントン舞踏病としても知られ、運動障害、認知障害、および精神障害の進行性の障害である。この疾患の平均発症年齢は、35~44歳であるが、症例の約10%では、21歳より前に発症し、疾患の診断後の平均寿命は15~18年である。発生率は、西欧人の血統で100,000人あたり約3~7人である。
【0005】
ハンチントン病は、三塩基リピート伸長障害の例であり、1990年代初期に初めて特徴付けられた(Di Prospero and Fischbeck (2005) Nature Reviews Genetics 6:756-765を参照されたい)。これらの障害は、3つのヌクレオチドセットの不安定なリピートの局所的伸長を含み、伸長したリピートが存在する遺伝子の機能喪失、毒性機能の獲得、またはその両方をもたらし得る。三塩基リピートは、非コードおよびコード遺伝子領域を含む遺伝子の任意の部分に位置し得る。コード領域内に位置するリピートは、典型的には、反復グルタミンコードトリプレット(CAG)またはアラニンコードトリプレット(CGA)のいずれかを伴う。非コード配列内のリピート領域の伸張は、遺伝子の異常な発現をもたらし得るが、コード領域内のリピートの伸張(コドン反復障害としても知られる)は、ミスフォールディングおよびタンパク質凝集を引き起こし得る。異常なタンパク質に関連する病理生理学の正確な原因は不明であることが多い。典型的には、三塩基伸長に供される野生型遺伝子では、これらの領域は、正常集団において様々な数のリピート配列を含有するが、罹患集団では、リピート数は倍加からリピート数の対数次数の増加まで増加し得る。HDでは、リピートは、大きいサイトゾルタンパク質であるハンチンチン(HTT)をコードする遺伝子のN末端コード領域内に挿入される。正常なHTT対立遺伝子は、15~24個のCAGリピート(配列番号23として開示される「CAG」リピート)を含有するが、36個またはそれより多くのリピートを含有する対立遺伝子は、潜在的にHDを引き起こす対立遺伝子であると考えられ、疾患を発症するリスクを付与し得る。36~39個のリピートを含有する対立遺伝子は、不完全浸透体であると考えられ、それらの対立遺伝子を有する個体は、疾患を発症することもしないこともあり得る(または人生の後期に症状を発生し得る)が、40個またはそれより多くのリピートを含有する対立遺伝子は完全浸透体であると考えられる。実際には、この多くのリピートを有するHD対立遺伝子を含有する人は、無症候性であることが報告されている。青年期発症(<21歳)HDを有するそれらの個体は、しばしば60個またはそれより多くのCAGリピートを有することが見出されている。CAGリピートの増加に加えて、HDは、リピート配列内に+1および+2のフレームシフトを含み得て、それによって領域は、ポリグルタミンではなくてポリセリンポリペプチド(+1フレームシフトの場合ではAGCリピートによってコードされる)トラックをコードし得ることも示されている(Davies and Rubinsztein (2006) Journal of Medical Genetics 43:893-896)。HDでは、変異体HTT(mHTT)対立遺伝子は通常、優勢の形質として片親から受け継がれる。HD患者の出生子は、片親が障害に罹患していない場合、疾患を発症する確率が50%である。一部の例では、親が中間のHD対立遺伝子を有する場合があり、無症候性であり得るが、リピート伸長により子供は疾患を発症する。加えて、HD対立遺伝子はまた、精子形成の際のリピート領域の不安定な性質により、重症度の増加または発症年齢の低年齢化が数世代にわたって観察される、表現促進現象として知られる現象も示し得る。
【0006】
さらに、HTTにおける三塩基伸長は、線条体における中型有棘ガンマ-アミノ酪酸(GABA)投射ニューロンのニューロン喪失をもたらし、ニューロンの喪失はまた、新皮質でも起こる。エンケファリンを含有し、淡蒼球外節に投射する中型有棘ニューロンは、サブスタンスPを含有し、淡蒼球内節に投射するニューロンより大きく関係している。ハンチントン病を有する人において大きく影響を受ける他の脳の領域は、黒質、皮質の3、5、および6層、海馬のCA1領域、頭頂葉の角回、小脳のプルキンエ細胞、視床下部の外側隆起核、および視床の正中中心核-束傍核複合体を含む(Walker (2007) Lancet 369:218-228)。
【0007】
正常なHTTタンパク質の役割はあまり理解されていないが、これは神経発生、アポトーシス細胞死、および膜小胞輸送に関係し得る。加えて、野生型HTTが、線条体ニューロンの生存促進因子である脳由来の神経栄養因子(BDNF)の産生を刺激するという証拠がある。HDの進行が、HDのマウスモデルにおいてBDNF発現の減少と相関すること(Zuccato et al. (2005) Pharmacological Research 52(2):133-139)、および組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター媒介遺伝子送達を介したBDNFまたはグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の送達が、マウスHDモデルにおいて線条体ニューロンを保護し得ることが示されている(Kells et al. (2004) Molecular Therapy 9(5):682-688)。
【0008】
HDの診断および処置の選択肢は、現在、非常に限られている。診断に関しては、変更された(変異体)HTT(mHTT)レベルは、疾患負荷スコアに有意に関連し、可溶性mHTT種は、疾患の進行と共に濃度が増加する。しかし、少量のmHTTは、患者のCNSにおいて定量することが難しく、これによりin vivoでのHDの神経病理生物学における役割に関する研究が制限され、HTT低下剤が標的に結合することを実証できない。例えば、Wild et al. (2014) J Neurol Neurosurg Psychiatry 85:e4を参照されたい。
【0009】
処置に関連して、シャペロニンの過剰発現または化合物ゲルダナマイシンによる熱ショック応答の誘導などの伸張したポリグルタミン鎖を通して起こるタンパク質凝集に関連する毒性を防止するように設計されたいくつかの有望な方法論が、in vitroモデルにおいてこれらの毒性の低減を示している。他の処置は、疾患の臨床発現におけるアポトーシスの役割を標的とする。例えば、片親がHD対立遺伝子を含有し、他方の親がカスパーゼ1のドミナントネガティブ対立遺伝子を有するマウスの交配の子孫における動物モデルにおいて、カスパーゼ活性の遮断を介して、疾患の症状を遅らせることが示されている。加えて、カスパーゼによるmHTTの切断は、疾患の発病において役割を果たし得る。カスパーゼ-6耐性変異体HTTを有するトランスジェニックマウスは、非カスパーゼ耐性変異体HTT対立遺伝子を有するマウスと比較して、正常なニューロン機能を維持することが見出され、線条体の神経変性を発症しなかった(Graham et al. (2006) Cell 125:1179-1191を参照されたい)。アポトーシス経路のメンバーを標的とする分子もまた、症候学に対して遅らせる効果を有することが示されている。例えば、化合物zVAD-fmkおよびミノサイクリンは、その両方がカスパーゼ活性を阻害するが、マウスにおいて疾患発現を遅らせることが示されている。薬物レマセミドもまた、この化合物が変異体HTTのNDMA受容体に対する結合を防止して神経細胞に毒性効果を発揮するのを防止すると考えられることから、HDの小規模ヒト臨床試験において使用されている。しかし、これらの臨床試験では、ニューロンの機能に統計学的に有意な改善は観察されなかった。加えて、ハンチントン病研究グループ(Huntington Study Group)は、補酵素Qを使用して無作為二重盲検試験を実施した。補酵素Q10によって処置した患者では疾患進行を遅らせる傾向が観察されたが、全機能の低下速度に有意な変化はなかった(Di Prospero and Fischbeck (2005) Nature Reviews Genetics 6:756-765)。
【0010】
ジンクフィンガータンパク質(「ZFP」)、TAL-エフェクタードメイン(「TALE」)、およびCRISPR/Cas転写因子系(Casおよび/またはCfp1系を含む)由来のDNA結合ドメインを含む組換え転写因子およびヌクレアーゼは、内因性の遺伝子の遺伝子発現の調節能力を有する。例えば、その開示の全体が全ての目的に関して参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,045,763号;同第9,005,973号;同第8,956,828号;同第8,945,868号;同第8,586,526号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,503,717号;同第6,689,558号;同第7,067,317号;同第7,262,054号;同第7,888,121号;同第7,972,854号;同第7,914,796号;同第7,951,925号;同第8,110,379号;同第8,409,861号;米国特許出願公開第2003/0232410号;同第2005/0208489号;同第2005/0026157号;同第2005/0064474号;同第2006/0063231号;同第2008/0159996号;同第2010/00218264号;同第2012/0017290号;同第2011/0265198号;同第2013/0137104号;同第2013/0122591号;同第2013/0177983号、同第2013/0177960号、同第2015/0335708号;および同第2015/0056705号;Perez-Pinera et al. (2013) Nature Methods 10:973-976; Piatek et al. (2015) Plant Biotechnology J. 13(4):578-89, doi:10.1111/pbi.12284)を参照されたい。例えば、米国特許第9,234,016号;同第9,943,565号;同第8,841,260号;同第9,499,597号;および米国特許出願公開第2018/0200332号;同第2017/0096460号;同第2017/0035839号;同第2016/0296605号および同第2019/0322711号は、HTTなどのHD対立遺伝子の発現をモジュレートするDNA結合タンパク質に関する。米国特許出願公開第2015/0335708号は、中型有棘ニューロンを改変する方法に関する。
【0011】
さらに、同様に、ゲノム編集および遺伝子治療において使用するために潜在性を有し得る標的化ヌクレアーゼが、アルゴノート系に基づいて開発されている(例えば、T.thermophilus由来の「TtAgo」として知られる、Swarts et al. (2014) Nature 507(7491):258-261を参照されたい)。ジンクフィンガータンパク質を含有するこれらの操作された転写因子を使用する臨床試験は、これらの新規転写因子が様々な状態を処置することができることを示している(例えば、Yu et al. (2006) FASEB J. 20:479-481を参照されたい)。ヌクレアーゼ媒介切断は、非相同末端結合(NHEJ)または修復などのエラー媒介プロセスによる切断の修復または修復鋳型(相同組換え修復、すなわちHDR)を使用する修復が、遺伝子のノックアウトまたは目的の配列の挿入(標的化組み込み)をもたらし得るように、標的DNA配列において二本鎖切断(DSB)またはニックを誘導するために操作されたヌクレアーゼの使用を伴う。外部から修復鋳型(例えば、「ドナー」または「導入遺伝子」)が供給されていない条件下での二本鎖切断の導入は、細胞NHEJ経路により導入される、変異を介した標的化遺伝子の不活化(「インデル」として知られる挿入および/または欠失)のために一般的に使用されている。
しかし、脳への広範囲の送達を示すモダリティを含む、ハンチントン病の診断、試験、処置、および/または防止方法がなおも必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第9,045,763号明細書
【文献】米国特許第9,005,973号明細書
【文献】米国特許第8,956,828号明細書
【文献】米国特許第8,945,868号明細書
【文献】米国特許第8,586,526号明細書
【文献】米国特許第6,534,261号明細書
【文献】米国特許第6,599,692号明細書
【文献】米国特許第6,503,717号明細書
【文献】米国特許第6,689,558号明細書
【文献】米国特許第7,067,317号明細書
【文献】米国特許第7,262,054号明細書
【文献】米国特許第7,888,121号明細書
【文献】米国特許第7,972,854号明細書
【文献】米国特許第7,914,796号明細書
【文献】米国特許第7,951,925号明細書
【文献】米国特許第8,110,379号明細書
【文献】米国特許第8,409,861号明細書
【文献】米国特許出願公開第2003/0232410号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0208489号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0026157号明細書
【文献】米国特許出願公開第2005/0064474号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0063231号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0159996号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0218264号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0017290号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0265198号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0137104号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0122591号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0177983号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0177960号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0335708号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0056705号明細書
【文献】米国特許第9,234,016号明細書
【文献】米国特許第9,943,565号明細書
【文献】米国特許第8,841,260号明細書
【文献】米国特許第9,499,597号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0200332号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0096460号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0035839号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0296605号明細書
【文献】米国特許出願公開第2019/0322711号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0335708号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Di Prospero and Fischbeck (2005) Nature Reviews Genetics 6:756-765
【文献】Davies and Rubinsztein (2006) Journal of Medical Genetics 43:893-896
【文献】Walker (2007) Lancet 369:218-228
【文献】Zuccato et al. (2005) Pharmacological Research 52(2):133-139
【文献】Kells et al. (2004) Molecular Therapy 9(5):682-688
【文献】Wild et al. (2014) J Neurol Neurosurg Psychiatry 85:e4
【文献】Graham et al. (2006) Cell 125:1179-1191
【文献】Perez-Pinera et al. (2013) Nature Methods 10:973-976
【文献】Piatek et al. (2015) Plant Biotechnology J. 13(4):578-89, doi:10.1111/pbi.12284
【文献】Swarts et al. (2014) Nature 507(7491):258-261
【文献】Yu et al. (2006) FASEB J. 20:479-481
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
ハンチントン病を診断、防止、および/または処置するための方法および組成物が本明細書で開示される。特に、mHTTリプレッサー(mHTT転写物を抑制し、同様にmHTTタンパク質発現も抑制する)を含む、ハンチントン病を防止または処置するためにHD HTT対立遺伝子を改変する(例えば、その発現をモジュレートする)ための方法および組成物が本明細書で提供される。本明細書に記載される組成物(mHTTリプレッサー)は、例えば細胞死を低減させ、アポトーシスを減少させ、細胞機能(代謝)を増加させ、および/または対象における運動障害を低減させることによって、対象において治療利益を提供する。したがって、mHTT遺伝子のCAGリピートドメインに結合する天然に存在しないジンクフィンガータンパク質(ZFP)であって、45643、46025、45294、45723、または33074で指定されるZFPの認識ヘリックス領域を含むZFPを含む、本明細書に記載されるF1~F6のF1~F4、F1~F5の順の4、5、または6個のジンクフィンガードメインを含む、ジンクフィンガータンパク質が本明細書で記載される。ある特定の実施形態では、表1の1つの行に示される順に認識ヘリックス領域を含む、45294または45723で指定されるZFPが本明細書で提供される。同様に、転写抑制ドメイン(例えば、KRAB、KOX等)に作動可能に連結されたこれらのZFP、および必要に応じて核局在化シグナル(NLS)および/またはZFP-TFコード配列(例えば、転写抑制ドメインをコードする配列をさらに含み、必要に応じてNLSをコードする配列および/またはZFP-TFの発現を駆動するプロモーターをさらに含む45294または45723で指定されるZFPを含むZFP-TF)の発現を駆動するプロモーター(例えば、CMVプロモーターなどの構成的プロモーター)などの追加のエレメントを含む人工転写因子(ZFP-TF)も記載される。ある特定の実施形態では、表3の1つの行(特定のリプレッサー)に示されるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する1つまたは複数のZFP-TF(タンパク質および/またはポリヌクレオチド型)が本明細書で提供される。
45294または45723で指定されるジンクフィンガータンパク質(ZFP)を含む、または表3に示されるZFP-TFのアミノ酸配列を含むジンクフィンガータンパク質転写因子(ZFP-TF)が本明細書で記載される。同様に、1つまたは複数のポリヌクレオチドが同じおよび/または異なるZFP-TFの1つまたは複数をコードし得る、本明細書に記載される1つまたは複数のZFP-TFをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドであって、必要に応じて1つまたは複数のrAAVベクター(例えば、45294または45723で指定されるZFPを含む1つまたは複数のZFP-TFをコードする配列を含むrAAV、またはrAAVベクターは、表3に示す配列を有するポリヌクレオチドを含み、必要に応じて1つまたは複数のrAAVベクターが、核局在化シグナル(NLS)をコードする配列、および必要に応じてZFP-TFの発現を駆動するプロモーター、例えば構成的プロモーター(例えばCMV)などの追加のエレメントをさらに含む)を含む、1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む。同様に、本明細書に記載される1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、および/または1つもしくは複数のrAAVベクターを含む医薬組成物が本明細書で記載される。対象の細胞(例えば、脳、必要に応じて線条体におけるニューロン細胞)におけるHTT遺伝子(例えば、変異体HTT(mHTT)遺伝子)の発現を改変する方法もまた提供され、方法は、本明細書に記載される1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクター、および/または医薬組成物を対象の細胞に投与するステップを含む。必要とする患者においてハンチントン病(HD)を処置および/または防止する方法もまた提供され、方法は、必要とする患者に、本明細書に記載される1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクターおよび/または医薬組成物を投与するステップを含み、必要に応じて1つまたは複数のZFP-TF、ポリヌクレオチド、rAAVベクター、および/または医薬組成物は、対象の線条体の両側に投与される。同様に、必要とする患者における変異体HTT(mHTT)の発現を抑制するための、本明細書に記載される1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクター、および/または医薬組成物の使用も提供される。HDの処置および/または防止は、対象におけるmHTT凝集体および/または運動障害の低減を含み得る。さらに、本明細書に記載される方法または使用のいずれかにおいて、1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクターおよび/または医薬組成物は、対象の脳に、必要に応じて対象の線条体の両側に、これらに限定されないが、1×107~1×1015ベクターゲノム(vg)/線条体の間(またはその間の任意の値)の用量を含む任意の投薬量で送達され得る。
【0015】
したがって、一態様では、操作された(天然に存在しない)mHTTリプレッサーが提供される。リプレッサーは、HD対立遺伝子(例えば、mHTT)の発現をモジュレートする系(例えば、ジンクフィンガータンパク質、TALエフェクター(TALE)タンパク質、またはCRISPR/dCas-TF)を含み得る。操作されたジンクフィンガータンパク質またはTALEは、そのDNA結合ドメイン(例えば、認識ヘリックスまたはRVD)が予め選択された標的部位に結合するように変更されている(例えば、選択および/または合理的設計によって)天然に存在しないジンクフィンガーまたはTALEタンパク質である。本明細書に記載されるジンクフィンガータンパク質のいずれも、1、2、3、4、5、6個またはそれより多くのジンクフィンガーを含み得て、各ジンクフィンガーは、選択された配列(例えば、遺伝子)における標的サブ部位に結合する認識ヘリックスを有する。同様に、本明細書に記載されるTALEタンパク質のいずれも、任意の数のTALE RVDを含み得る。一部の実施形態では、少なくとも1つのRVDは、非特異的DNA結合を有する。一部の実施形態では、少なくとも1つの認識ヘリックス(またはRVD)は、天然に存在しない。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、転写抑制ドメインに作動可能に連結されて、人工転写因子(リプレッサー)を作り出すDNA結合ドメイン(ZFP、TALE、一本鎖ガイドRNA)を含む。必要に応じて、人工リプレッサーは、これらに限定されないが、核局在化シグナル(NLS)を含む追加の成分を含む。一部の実施形態では、これらの人工TF(例えば、ZFP-TF、CRISPR/dCas-TF、またはTALE-TF)は、DNAに結合すると多量体化を可能にするタンパク質相互作用ドメイン(または「二量体化ドメイン」)を含む。
【0016】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるジンクフィンガータンパク質(ZFP)、CRISPR/Cas系のCasタンパク質、またはTALEタンパク質は、融合タンパク質の一部として調節ドメイン(または機能的ドメイン)と作動可能に連結した状態で配置され得る。機能的ドメインは、例えば転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、および/またはヌクレアーゼ(切断)ドメインであり得る。DNA結合ドメインと共に使用するために活性化ドメインまたは抑制ドメインのいずれかを選択することによって、そのような分子を使用して、遺伝子発現を活性化または抑制することができる。一部の実施形態では、変異体HTT発現をダウンレギュレートするために使用することができる転写抑制ドメインに融合された本明細書に記載されるmHTTに標的化されるZFP、dCas、またはTALEを含む分子が提供される。一部の実施形態では、野生型HTT対立遺伝子をアップレギュレートすることができる転写活性化ドメインに融合された野生型HTT対立遺伝子に標的化されるZFP、CRISPR/Cas、またはTALEを含む融合タンパク質が提供される。ある特定の実施形態では、調節ドメインの活性は、細胞の転写機構との相互作用が外因性のリガンドの非存在下では起こらないが、他の実施形態では、外因性の小分子またはリガンドが相互作用を防止するように、外因性の小分子またはリガンドによって調節される。そのような外因性のリガンドは、ZFP-TF、CRISPR/Cas-TF、またはTALE-TFと転写機構との相互作用の程度を制御する。調節ドメインは、1つもしくは複数のZFP、dCas、もしくはTALEの間、1つもしくは複数のZFP、dCas、もしくはTALEの外部、またはその任意の組合せを含む、ZFP、dCas、またはTALEの1つまたは複数の任意の部分に作動可能に連結され得る。本明細書に記載される融合タンパク質のいずれも医薬組成物に製剤化され得る。
【0017】
一部の実施形態では、本明細書に記載される操作されたDNA結合ドメインは、融合タンパク質の一部としてヌクレアーゼ(切断)ドメインと作動可能に連結された状態で配置され得る。一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、Ttagoヌクレアーゼを含む。他の実施形態では、CRISPR/Cas系などのヌクレアーゼ系を、特異的一本鎖ガイドRNAと共に利用してDNAにおける標的位置にヌクレアーゼを標的化してもよい。ある特定の実施形態では、そのようなヌクレアーゼおよびヌクレアーゼ融合体を、人工多能性幹細胞(iPSC)、ヒト胚性幹細胞(hESC)、間葉幹細胞(MSC)、またはニューロン幹細胞などの幹細胞における変異体HTT対立遺伝子を標的化するために利用してもよく、ヌクレアーゼ融合体の活性は、野生型の数のCAGリピートを含有するHTT対立遺伝子をもたらす。したがって、本明細書に記載されるHTT(例えば、mHTT)リプレッサーのいずれも、二量体化ドメインおよび/または機能的ドメイン(例えば、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、またはヌクレアーゼドメイン)をさらに含み得る。ある特定の実施形態では、改変細胞(例えば、幹細胞)を含む医薬組成物が提供される。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、表1の1つの行に示される順に認識ヘリックス領域を含むZFPを含む。表3に示すZFP-TF(リプレッサー)(1行あたり1つのリプレッサーが表3に表示される)も同様に提供される。融合分子の1つまたは複数を含む組成物(例えば、表1のZFPを含むZFP-TFおよび/または表3に示すZFP-TF)も同様に提供される。
【0018】
なお別の態様では、本明細書に記載されるDNA結合タンパク質および/または融合分子(例えば、人工転写因子)の1つまたは複数をコードするポリヌクレオチドが提供される。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、ウイルス(例えば、AAVまたはAd)ベクターおよび/または非ウイルス(例えば、プラスミドまたはmRNAベクターまたはアプタマー)において運ばれる。これらのポリヌクレオチド(例えば、rAAVベクター)を含む宿主細胞、および/または本明細書に記載されるポリヌクレオチド、タンパク質および/または宿主細胞を含む医薬組成物もまた提供される。ある特定の実施形態では、ポリヌクレオチドは、表3(列2)に示される少なくとも1つの配列を含む。これらのポリヌクレオチドの1つまたは複数を含む組成物もまた提供される。
【0019】
他の態様では、本発明は、ドナー核酸の標的細胞への送達を含む。ドナーは、ヌクレアーゼをコードする核酸の前に、後に、またはそれと共に送達され得る。ドナー核酸は、細胞のゲノム内、例えば内因性の遺伝子座に組み込まれる外因性の配列(導入遺伝子)を含み得る。一部の実施形態では、ドナーは、標的化切断部位との相同性領域が隣接する全長の遺伝子またはその断片を含み得る。一部の実施形態では、ドナーは、相同領域を欠如し、相同組換え非依存的機構(すなわち、NHEJ)を通して標的遺伝子座に組み込まれる。ドナーは、ヌクレアーゼ誘導二本鎖切断の相同組換え修復のための物質として使用する場合、ドナー特異的欠失が内因性の染色体座で生成されるか、またはあるいは(またはそれに加えて)内因性の遺伝子座の新規対立遺伝子形態(例えば、転写因子結合部位を切除する点変異)が作り出される任意の核酸配列、例えば核酸を含み得る。一部の態様では、ドナー核酸は、組み込まれると遺伝子修正事象または標的化欠失をもたらすオリゴヌクレオチドである。
【0020】
一部の実施形態では、DNA結合タンパク質および/または人工転写因子(例えば、ZFP-TF)をコードするポリヌクレオチドは、mRNAである。一部の態様では、mRNAは、化学修飾され得る(例えば、Kormann et al. (2011) Nature Biotechnology 29(2):154-157を参照されたい)。他の態様では、mRNAは、ARCAキャップ(米国特許第7,074,596号および第8,153,773号を参照されたい)を含み得る。さらなる実施形態では、mRNAは、非改変および改変ヌクレオチドの混合物を含み得る(米国特許出願公開第2012/0195936号を参照されたい)。
【0021】
なお別の態様では、本明細書に記載されるポリヌクレオチドの1つまたは複数を含む遺伝子送達ベクターが提供される。ある特定の実施形態では、ベクターはアデノウイルスベクター(例えば、Ad5/F35ベクター)、組み込みコンピテントもしくは組み込み欠損レンチウイルスベクターを含むレンチウイルスベクター(LV)、または組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)とも称されるAAVベクター(AAV)である。ある特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV6またはAAV9ベクターである。AAVベクターは、表3の1つの行に示されるポリヌクレオチドの1つまたは複数(配列番号13~17のいずれか1つまたは複数)を含み得る。ある特定の実施形態では、AAVベクターは、天然に存在するカプシド配列または人工の操作されたカプシド配列を有し得る。したがって、少なくとも1つのヌクレアーゼ(ZFNまたはTALEN)をコードする配列および/または標的遺伝子への標的化組み込みのためのドナー配列を含む、アデノウイルス(Ad)ベクター、LV、または組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)も本明細書で提供される。ある特定の実施形態では、Adベクターは、キメラAdベクター、例えばAd5/F35ベクターである。ある特定の実施形態では、レンチウイルスベクターは、インテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)または組み込みコンピテントレンチウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、ベクターは、VSV-Gエンベロープまたは他のエンベロープによってシュードタイプ化されている。
【0022】
加えて、核酸および/またはタンパク質(例えば、ZFP、Cas、またはTALEおよび/または融合タンパク質(例えば、ZFP、Cas、またはTALEを含む人工転写因子))を含む医薬組成物もまた提供される。例えば、ある特定の組成物は、調節配列に作動可能に連結された本明細書に記載されるZFP、Cas、またはTALEの1つをコードする配列を含む核酸を、薬学的に許容される担体または希釈剤と組み合わせて含み、調節配列は、細胞における核酸の発現を可能にする。ある特定の実施形態では、コードされるZFP、CRISPR/Cas、またはTALEは、HD HTT対立遺伝子に対して特異的である。一部の実施形態では、医薬組成物は、HD mHTT対立遺伝子をモジュレートするZFP、CRISPR/Cas、またはTALE、および神経栄養因子をモジュレートするおよびZFP、CRISPR/Cas、またはTALEを含む。タンパク質に基づく組成物は、本明細書に開示される1つまたは複数のZFP、CRISPR/Cas、またはTALE、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、HTTの抑制のために表3のタンパク質および/またはポリヌクレオチドの1つまたは複数を含む。ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるAAVベクターを含む医薬組成物は、AAV-ZFP-TFの1×107~5×1015vgの間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×107~1×1011vgの間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×108~1×1010vgの間(またはその間の任意の値)を含む。ある特定の実施形態では、AAVベクターは、これらに限定されないが、各線条体あたり3e8、3e9、または3e10、9.2e9、3.1e10、または9.2e10vgを含む、各線条体あたり1×108~1×1010vgの間(またはその間の任意の値)の用量で投与される。線条体内投与は、片方の半球であり得るが、または好ましくは両側(同じまたは異なる用量で)であり得る。なお別の態様では、本明細書に記載されるタンパク質、ポリヌクレオチド、および/または組成物のいずれかを含む単離された細胞もまた提供される。
【0023】
別の態様では、細胞(例えば、対象の脳、例えば線条体におけるin vitroまたはin vivoでのニューロン細胞)におけるHTT遺伝子の発現を改変する方法であって、細胞に本明細書に記載される1つまたは複数のタンパク質、ポリヌクレオチド、医薬組成物、および/または細胞を投与することを含む方法が本明細書で記載される。投与(例えば、本明細書に記載されるAAV ZFP-TFを含む医薬組成物の投与)は、任意の用量(例えば、1×107~5×1015AAV vgの間(またはその間の任意の値))で疾患症状の発生前および/または後であり得る。投与は、1回であってもよく、または間隔を開けて繰り返してもよく、反復投与は、同じまたは異なる用量で行ってもよい。HTT遺伝子は、少なくとも1つの野生型および/または変異体HTT対立遺伝子を含み得る。ある特定の実施形態では、HTT発現は、例えば変異体HTT(mHTT)発現が野生型発現と比較して優先的に抑制される場合、抑制される。mHTTの選択的抑制を含むHTTの抑制は、本明細書に記載されるZFP-TFの1回または複数回の投与後、数日間、数週間、数ヶ月間、または数年間持続し得る。ある特定の実施形態では、mHTT(野生型HTTと比較して)の選択的抑制は、1回投与後6ヶ月またはそれより長く持続する。
【0024】
別の態様では、本明細書に記載される方法および組成物(タンパク質、ポリヌクレオチド、および/または細胞)を使用してハンチントン病を処置および/または防止する方法が本明細書で提供される。一部の実施形態では、方法は、ポリヌクレオチドおよび/またはタンパク質がウイルスベクター、非ウイルスベクター(例えば、プラスミド)および/またはその組合せを使用して送達され得る組成物を含む。医薬組成物は、標準的な技術を使用して対象に送達され得る。一部の実施形態では、方法は、ZFPもしくはTALEを含む、または本発明のZFN、TALEN、Ttago、もしくはCRISPR/Casヌクレアーゼ系によって変更された幹細胞集団を含む組成物を含む。対象は、少なくとも1つの変異体および/または野生型HTT対立遺伝子を含み得る。
【0025】
なおさらなる態様では、rAAV(例えば、カプシドAAV9またはAAV6)ベクターを使用して対象の脳にHTT(例えば、mHTT)の1つまたは複数のリプレッサーを送達する方法が本明細書で記載される。送達は、カニューレの使用を介する送達(例えば、頭蓋内注射)を含む任意の好適な手段による、脳の任意の領域、例えば線条体(例えば、被殻;定位線条体注射を含む線条体内注射)への送達であり得る。脳(例えば、線条体)への投与は、片側の半球への投与であり得るか、または両側(例えば、両側の場合には同じまたは異なる用量)であり得る。一部の実施形態では、送達は、髄腔内腔への直接注射を通しての送達である。さらなる実施形態では、静脈内注射を通しての送達である。rAAVベクターは、ベクターが直接投与されない脳の領域(例えば、線条体への送達)への順行性軸索輸送および逆行性軸索輸送を含む、対象の脳へのリプレッサーの広範な送達を提供し、前脳、後脳皮質、黒質、視床等などの他の構造への送達をもたらす。ある特定の実施形態では、対象はヒトであり、他の実施形態では、対象は非ヒト霊長類である。ある特定の実施形態では、表3の1つまたは複数のタンパク質および/またはポリヌクレオチド(またはこれらのタンパク質および/またはポリヌクレオチドを含む医薬組成物)が対象に送達される。表3に示すリプレッサーの任意の1つまたは組合せを使用してもよい(例えば、1、2、3、4、または5個のリプレッサーの任意の組合せ)。
【0026】
したがって、他の態様では、対象におけるHDを防止および/または処置する方法であって、変異体HTT(mHTT)対立遺伝子の少なくとも1つのリプレッサーを対象に投与するステップを含む方法が本明細書で記載される。リプレッサーは、例えばウイルス(例えば、AAV)および/もしくは非ウイルスベクター(例えば、プラスミドおよび/またはmRNA)を使用するポリヌクレオチド型、タンパク質型、ならびに/または本明細書に記載される医薬組成物(例えば、本明細書に記載される1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のAAVベクター、1つもしくは複数の融合分子、および/または1つもしくは複数の細胞を含む医薬組成物)を介して投与され得る。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、対象のCNS(例えば、線条体)に投与される。リプレッサーは、これらに限定されないが、HDを有する対象のHDニューロンにおけるmHTT凝集体の形成の低減(核凝集に影響を及ぼさないmHTT凝集の低減を含む)、ニューロンもしくはニューロン集団(例えば、HDニューロンまたはHDニューロン集団)における細胞死、および/またはHD対象における運動障害(例えば、四肢をつかむ、舞踏病、平衡感覚の問題等)の低減を含む治療利益を提供し得る。ある特定の実施形態では、変異体HTTの発現は、対象への投与によって抑制され、表3の1つまたは複数のタンパク質および/またはポリヌクレオチド(またはこれらのタンパク質および/またはポリヌクレオチドを含む医薬組成物)が対象に送達される。
【0027】
本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、変異体HTT対立遺伝子のリプレッサーは、ZFP-TF、例えば変異体HTT対立遺伝子に特異的に結合するZFPおよび転写抑制ドメイン(例えば、KOX、KRAB等)を含む融合タンパク質であり得る。ある特定の実施形態では、ZFP-TFは、表3に示されるアミノ酸配列を有するまたはポリヌクレオチドによってコードされるZFP-TFリプレッサーを含む、表1の1つの行に示されるZFPの認識ヘリックス領域を有するZFPを含む。他の実施形態では、変異体HTT対立遺伝子のリプレッサーは、TALE-TFまたはCRISPR/Cas-TFであり得て、Casタンパク質におけるヌクレアーゼドメインは、タンパク質がもはやDNAを切断しないように不活化されている。なおさらなる実施形態では、リプレッサーは、変異体HTT対立遺伝子を切断し、それによって不活化することによって変異体HTT対立遺伝子を抑制する1つまたは複数のヌクレアーゼ(例えば、ZFN、TALEN、および/またはCRISPR/Cas系)を含み得る。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、ヌクレアーゼによる切断後に非相同末端結合(NHEJ)を介して挿入および/または欠失(「インデル」)を導入する。一部の実施形態では、2つのヌクレアーゼは、大きい欠失が領域において作製されるようにCAG伸長領域を切断する。他の実施形態では、ヌクレアーゼは、ドナーの組み込みによって変異体HTT対立遺伝子を不活化するドナー配列を導入する(例えば、相同性または非相同的方法によって)。
【0028】
本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、リプレッサーは、タンパク質、ポリヌクレオチド、またはタンパク質とポリヌクレオチドの任意の組合せとして対象(例えば、脳)に送達され得る。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、AAV(例えば、AAV9またはAAV6)ベクターを使用して送達される。他の実施形態では、リプレッサーの少なくとも1つの成分(例えば、CRISPR/Cas系のsgRNA)は、RNA型で送達される。他の実施形態では、リプレッサーは、本明細書に記載される任意の発現構築物の組合せ、例えば1つの発現構築物(例えば、AAV9またはAAV6などのAAV)上に1つのリプレッサー(またはその一部)、および異なる発現構築物(rAAVまたは他のウイルスもしくは非ウイルス構築物)上の1つのリプレッサー(またはその一部)を使用して送達される。
【0029】
さらに、本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、リプレッサーは、所望の効果を提供する任意の濃度(用量)で送達することができる。本明細書に示されるように、HTT抑制は、対象において1VG/細胞もの低い曝露でin vivoで達成され得る。好ましい実施形態では、リプレッサーは、10,000~500,000ベクターゲノム/細胞(またはその間の任意の値)の組換えアデノ随伴ウイルスベクターを使用して送達される。ある特定の実施形態では、リプレッサーは、250~10,000(またはその間の任意の値)のMOIでレンチウイルスベクターを使用して送達される。他の実施形態では、リプレッサーは、150~1,500ng/細胞100,000個(またはその間の任意の値)でプラスミド構築物を使用して送達される。他の実施形態では、リプレッサーは、0.003~1,500ng/細胞100,000個(またはその間の任意の値)でmRNAとして送達される。一部の実施形態では、AAVの用量は、動物(対象)あたりで計算される。例えば、本明細書において記載されるAAVベクターは、1×107~5×1015vgの間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×107~1×1013vgの間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×108~1×1013vgの間(またはその間の任意の値)のAAV-ZFP-TFを含み得る。線条体内投与は、片側の半球、または好ましくは両側への投与(同じまたは異なる用量で)であり得る。例えば、一部の実施形態では、リプレッサーは、およそ9e9 VG/マウス、またはおよそ9e9 VG/マウス~3e10 VG/マウスの間、またはおよそ3e10 VG/マウス~9e10 VG/マウスの間で送達される。一部の実施形態では、AAV用量は、9e9 VG/マウス未満(例えば、6e8 VG/マウスまたはそれ未満)であり、他の実施形態では、AAV用量は9e10 VG/マウスより多い。
【0030】
本明細書に記載される方法のいずれかにおいて、本明細書に記載される組成物および方法は、対象の1つまたは複数のHDニューロンにおける変異体HTT対立遺伝子発現の約70%またはそれより多く、約75%またはそれより多く、約85%またはそれより多く、約90%またはそれより多く、約92%またはそれより多く、または約95%またはそれより多くの抑制を生じることができる。さらに、本明細書に記載される組成物および方法は、HTT(例えば、mHTT)抑制(オフターゲット部位の抑制と比較して)に関して、対照と比較して少なくとも50%の、好ましくは50%~90%(またはその間の任意の値)の、さらにより好ましくは90%より高い選択性を示すことができる。
【0031】
さらなる態様では、本明細書に記載される本発明は、1つまたは複数のHTTモジュレート転写因子、例えばジンクフィンガータンパク質(ZFP TF)、TALE(TALE-TF)、およびCRISPR/Cas-TF、例えばZFP-TF、TALE-TF、またはCRISPR/Cas-TFの1つまたは複数を含むHTTモジュレート転写因子を含む。ある特定の実施形態では、HTTモジュレート転写因子は、対象の1つまたは複数のHDニューロンにおける変異体HTT対立遺伝子の発現を抑制することができる。抑制は、対象の未処置(例えば、野生型)ニューロンと比較して対象の1つまたは複数のHDニューロンにおいて変異体HTT対立遺伝子の約70%またはそれより多く、約75%またはそれより多く、約85%またはそれより多く、約90%またはそれより多く、約92%またはそれより多く、または約95%もしくはそれより多くの抑制であり得る。ある特定の実施形態では、HTTモジュレート転写因子を使用して、本明細書に記載される方法の1つまたは複数を達成することができる。ある特定の実施形態では、ZFP-TFは、表3に示されるmHTTリプレッサーのアミノ酸配列を含む。
【0032】
一部の実施形態では、治療有効性は、明白な臨床症状の分析のための統一ハンチントン病評価尺度(UHDRS)(Huntington Study Group (1996) Mov Disord 11(2):136-142)を使用して測定される。他の実施形態では、患者における有効性は、PETおよびMRIイメージングを使用して測定される。一部の実施形態では、変異体HTTモジュレート転写因子による処置は、明白な臨床症状の任意のさらなる発生を防止し、ニューロン機能性の任意のさらなる喪失を防止する。他の実施形態では、変異体HTTモジュレート転写因子による処置は、臨床症状(例えば、四肢をつかむ行動、ローターロッド分析等などの公知の測定を使用して決定される運動機能)を改善し、ニューロン機能を改善する。
【0033】
同様に、本明細書に記載されるHTTモジュレーター(例えば、リプレッサー)、ならびに/またはHTTモジュレーターの成分を含む、および/もしくはHTTモジュレーター(またはその成分)をコードするポリヌクレオチドの1つまたは複数を含むキットも提供される。キットは、細胞(例えば、ニューロン)、試薬(例えば、CSFにおいてmHTTタンパク質を検出および/または定量するため)、および/または本明細書に記載される方法を含む使用のための指示をさらに含み得る。
【0034】
これらおよび他の態様は、全体として開示を考慮すれば当業者に容易に明らかになる。 本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
45294または45723で指定されるジンクフィンガータンパク質(ZFP)を含む、または表3に示されるZFP-TFのアミノ酸配列を含むジンクフィンガータンパク質転写因子(ZFP-TF)。
(項目2)
項目1に記載のZFP-TFをコードするポリヌクレオチド。
(項目3)
項目2に記載の1つまたは複数のポリヌクレオチドを含むrAAVベクターであって、前記ZFP-TFが45294もしくは45723で指定されるZFPを含むか、または前記rAAVベクターが表3に示される配列を有するポリヌクレオチドを含む、rAAVベクター。
(項目4)
前記ZFP-TFが45294または45723で指定されるZFPを含み、核局在化シグナル(NLS)をコードする配列、および必要に応じて構成的プロモーター(例えば、CMV)などの前記ZFP-TFの発現を駆動するプロモーターをさらに含む、項目3に記載のrAAVベクター。
(項目5)
前記項目のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、および/または1つもしくは複数のrAAVベクターを含む医薬組成物。
(項目6)
細胞におけるHTT遺伝子の発現を改変する方法であって、前記細胞に、前記項目のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクター、および/または医薬組成物を投与するステップを含む方法。
(項目7)
前記HTT遺伝子が変異体HTT(mHTT)遺伝子である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記細胞がニューロン細胞である、項目6または7に記載の方法。
(項目9)
前記ニューロン細胞が脳にある、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記ニューロン細胞が脳の線条体にある、項目8または9に記載の方法。
(項目11)
必要とする患者においてハンチントン病を処置および/または防止する方法であって、前記項目のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクターおよび/または医薬組成物を、必要とする患者に投与するステップを含み、必要に応じて前記1つまたは複数のZFP-TF、ポリヌクレオチド、rAAVベクターおよび/または医薬組成物が、前記対象の線条体の両側に投与される、方法。
(項目12)
必要とする患者における変異体HTT(mHTT)発現を抑制するための、前記項目のいずれかに記載の1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクターおよび/または医薬組成物の使用。
(項目13)
ハンチントン病が前記対象において処置される、項目12に記載の使用。
(項目14)
mHTT凝集体および/または運動障害が前記対象において低減される、項目12または13に記載の使用。
(項目15)
前記1つもしくは複数のZFP-TF、1つもしくは複数のポリヌクレオチド、1つもしくは複数のrAAVベクターおよび/または医薬組成物が、前記対象の脳に、必要に応じて前記対象の線条体の両側に送達される、項目12から14のいずれかに記載の使用。
(項目16)
前記1つまたは複数のrAAVベクターが、1×10
7
~1×10
15
ベクターゲノム(vg)/線条体の用量で線条体の両側に投与される、項目15に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、示されたZFP-TF(配列番号18~22)のタンパク質(アミノ酸)配列のアライメントを示す。同様に表3を参照されたい。
【0036】
【
図2A】
図2Aおよび
図2Bは、示されたZFP-TFの導入後の相対的HTT発現(wtHTTおよびmHTT)を示すグラフである。
図2Aは、示されたZFP-TFまたは対照(GFPまたは偽)のmRNA型の導入後の、17CAGリピート(CAG17を各対の棒グラフの左側に示す)(配列番号23として開示される「CAG」リピート)または48CAGリピート(CAG48を各対の棒グラフの右側に示す)(配列番号23として開示される「CAG」リピート)のいずれかを含むヒト神経幹細胞(NSC)におけるHTTの発現を示す。各ZFPの最も左側の棒グラフの対は、mRNA 1500ngを細胞にトランスフェクトとした場合の結果を示し、左から2番目の棒グラフの対は、mRNA 300ngを細胞にトランスフェクトした場合の結果を示す。右から2番目の棒グラフの対は、mRNA 150ngを細胞にトランスフェクトとした場合の結果を示し、および最も右側の棒グラフの対は、mRNA 15ngを細胞にトランスフェクトした場合の結果を示す。
図2Bの上のグラフは、示されたZFP-TFまたは対照(
図2Aに示すように)をコードするrAAV6ベクターによる感染後21日目でのHDニューロン(
図2Aと同様に示されたCAGリピートによる)における相対的HTT発現を示す。各棒グラフの対のrAAV MOI(CAG17(配列番号23として開示される17「CAG」リピート)、およびCAG48(配列番号23として開示される48「CAG」リピート))をグラフの下に示す(500K、300K、100K、10K、左から右に棒グラフにおいて2連で表す)。
図2Bの下のグラフは、示された条件下でのZFP-TFコピー数を示す。ZFP-TF(45643および46025)を使用した結果を枠で囲む。
【0037】
【
図3】
図3は、低用量(3E10)または高用量(9E10)のZFP-TFおよびGFP対照(GFP)を有するrAAV、ならびにビヒクルおよび非注射対照によって処置した対象における変異体または野生型HTTのin vivoでの相対的発現レベルを示す。48CAGリピートのノックイン(KI CAG48)(配列番号23として開示される48「CAG」リピート)を有するQ50マウスにおける変異体HTT(KI対立遺伝子 Q50)発現の抑制を示す。
【0038】
【
図4】
図4は、HDニューロンにおける4つの示されたZFPによるオフターゲット調節のマイクロアレイ分析の結果を示す。影をつけていない領域は、対照の50~90%のオフターゲット発現を示す。斜線の領域は、対照の90%より大きいオフターゲット発現レベルを示す。交差斜線の枠(45294、45643、および45723の列1)は、対照の50%未満のオフターゲット発現を示す。示されるように、最も特異的から最も特異的でないZFP-TFの特異性は、以下の通りである:46025>45723>45643>45294。オフターゲット部位は、遺伝子の略称で称される(例えば、SRPXは、Sushi-リピート含有タンパク質、X連鎖遺伝子等を指す)。
【0039】
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、ZFP 45643 mRNA(ng)の示された投薬量を投与後の、野生型HTT(CAG18(配列番号23として開示される18「CAG」リピート)または変異体HTT(mHTT(CAG45(配列番号23として開示される45「CAG」リピート)))のいずれかをコードする示されたmRNAの相対的発現を示すグラフである。各条件(投薬量)における左(白色)の棒グラフはHTTmRNA発現を示し、右(黒色)の棒グラフはmHTT発現を示す。
図5Aは、示されたZFP mRNA投薬量での線維芽細胞における結果を示す。
図5Bは、ニューロンにおける結果(GFP発現の%としてのmRNA発現)を示す。
【0040】
【
図6】
図6は、ニューロン(上)および線維芽細胞(下)におけるZFP-TF 45643のオフターゲット分析を示す。影をつけていない領域は、対照の2倍未満または2倍に等しい抑制のオフターゲット抑制を示す。斜線の領域は、対照と比較してモジュレーションに変化がないことを示す。交差斜線の枠(列1はニューロンにおけるsprx標的を示し、列1~5(線維芽細胞におけるSPRX、TTC12、MAB211.1、STC1、およびCNK5R2標的部位))は、2倍より大きいオフターゲット抑制を示す。
【0041】
【
図7】
図7は、ヒト変異体ハンチンチン対立遺伝子のノックイン対立遺伝子を有する齧歯類HDモデルであるQ175マウスを、示された投薬量のGFPまたはZFP-TF 45643をコードするrAAVベクターによって処置した11週間後の、対照(未処置)および処置Q175マウスの線条体における野生型およびmHTT発現を表すグラフを示す。左側のグラフは変異体(mHTT)の相対的発現を示し、右のグラフは野生型HTT(wtHTT)の相対的発現を示す。示されるように、mHTTの有意で優先的な抑制が、全ての投薬量でZFP-TF処置動物において認められた。
【0042】
【
図8】
図8は、示された投薬量でGFPまたはZFP-TF 45643をコードするAAVベクターによって処置した11週間後の、対照(未処置)および処置Q175マウスの線条体におけるウイルスゲノムコピー/細胞およびmHTT mRNAレベルを表すグラフを示す。左側のグラフは、示された条件下でのウイルスゲノムコピー/細胞を示し、右のグラフは、示された条件下でのGFPレベルのパーセンテージとしてのmHTT mRNAレベルを示す。mHTT mRNAレベルの有意な抑制が、1VG/細胞もの低い曝露を含む全ての投薬量でZFP-TF処置動物において観察された。
【0043】
【
図9】
図9は、示された投薬量のGFPまたはZFP-TF 45643を有するrAAVベクターによるQ175マウスの処置後11週目(左のグラフ)および33週目(右のグラフ)での、脳の示された領域(線条体、前脳皮質、および後脳皮質)における可溶性mHTTタンパク質(%GFP処置)を表すグラフを示す。左から右に脳の各領域の棒グラフを示す:GFP 5.5e10 VG/マウス;ZFP-TF 45643 9.2e9 VG/マウスをコードするrAAVベクター;ZFP-TF 45643 3.1e10 VG/マウスをコードするrAAVベクター;およびZFP-TF 45643 9.2e10 VG/マウスをコードするrAAVベクター。可溶性mHTTにおける用量依存的な有意な低減は、ZFP-TF 45643をコードするrAAVベクターの1回投与後33週間持続した。
【0044】
【
図10】
図10は、示された投薬量のGFPまたはZFP-TF 45643を有するAAVベクターによるR6/2HDマウスの処置後の、脳の示された領域(線条体、前脳皮質、および後脳皮質)における可溶性mHTTタンパク質(%GFP処置)を表すグラフである。左から右に脳の各領域の棒グラフを示す:GFP 5.5e10 VG/マウス;ZFP-TF 45643 9.2e9 VG/マウスをコードするrAAVベクター;ZFP-TF 45643 3.1e10 VG/マウスをコードするrAAVベクター;およびZFP-TF 45643 9.2e10 VG/マウスをコードするrAAVベクター。ZFP-TFは、重度のR6/2 HDマウスモデルにおいて可溶性mHTTタンパク質産生を有意に低減させた。
【0045】
【
図11】
図11は、示された用量のZFP-TF 45643をコードするrAAVベクターを投与後のQ175およびR6/2マウスにおけるmHTT核凝集を表すグラフを示す。左のグラフは、Q175対象における導入遺伝子陽性ニューロン(スポット数/導入遺伝子陽性ニューロン数)におけるmHTT核凝集体を示す。右のグラフは示された条件下での全てのニューロンにおけるmHTT核凝集体(スポット数/ニューロン数)を示す。ZFP-TF投与は、Q175およびR6/2対象の両方においてmHTT核凝集体を低減させた。
【0046】
【
図12】
図12は、1回用量による示された条件下で投与後8週目に分析した12ヶ月齢のQ175マウスの線条体ニューロンにおける野生型(wtHTT)および変異体(mHTT)mRNA発現の相対的発現を表すグラフである。
【0047】
【
図13】
図13は、示された処置条件下で投与後8週目および16週目の12ヶ月齢Q175マウスにおける核周囲凝集体(ビヒクルのパーセントとしての)を表すグラフである。ZFP-TF 45643は、12ヶ月齢Q175マウスにおいて治療的に投与した場合に核周囲mHTT凝集体を低減させた。
【0048】
【
図14】
図14は、示された処置条件下でR6/2マウスにおける運動機能を表すグラフを示す。左のグラフは、対象がローターロッドに留まることができる時間を測定するローターロッド性能試験の結果を示す。右のグラフは、示された週齢での示された条件下で、四肢をつかむ行動を示すマウスのパーセンテージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
ハンチントン病(HD)を検出する、疾患進行をモニターする、処置する、および/または防止するための組成物の広範なCNS送達のための組成物および方法が本明細書で開示される。特に、本明細書に記載される組成物および方法は、送達部位を超えて機能的mHTTリプレッサーの広がりを提供するmHTTリプレッサーの送達のためのAAV9ベクターを使用する。mHTTリプレッサー(例えば、mHTTモジュレート転写因子、例えばジンクフィンガータンパク質(ZFP TF)、TALE(TALE-TF)、またはCRISPR/Cas-TF、例えば変異体HTT対立遺伝子の発現を抑制するZFP-TF、TALE-TF、またはCRISPR/Cas-TFを含むmHTTモジュレート転写因子)は、例えばHDニューロンにおけるHTTの凝集を低減させることによって、HDニューロンのエネルギー論を増加させることによって(例えば、ATPレベルの増加)、HDニューロンにおけるアポトーシスを低減させることによって、および/またはHD対象における運動障害を低減することによって、HDの作用および/または症状を低減または消失させるようにCNSを改変する。
総論
【0050】
方法の実施、ならびに本明細書で開示される組成物の調製および使用は、別段の指定がない限り、当業界の技術範囲内ものとして、分子生物学、生化学、クロマチン構造および分析、計算機化学、細胞培養、組換えDNAならびに関連分野における従来の技術を用いる。これらの技術は、文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook et al. MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL, Second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 and Third edition, 2001;Ausubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, 1987および定期のアップデート;METHODS IN ENZYMOLOGYのシリーズ、Academic Press, San Diego;Wolffe, CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION, Third edition, Academic Press, San Diego, 1998;METHODS IN ENZYMOLOGY, Vol. 304, ”Chromatin” (P.M. Wassarman and A. P. Wolffe, eds.), Academic Press, San Diego, 1999;ならびにMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, Vol. 119, ”Chromatin Protocols” (P.B. Becker, ed.) Humana Press, Totowa, 1999を参照されたい。
【0051】
"
定義
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、および「オリゴヌクレオチド」は、同義的に使用され、直鎖状または環状のコンフォメーションの、一本鎖または二本鎖形態のいずれかの、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示の目的のために、これらの用語は、ポリマーの長さに関する限定と解釈されないものとする。用語は、天然ヌクレオチドの公知のアナログ、ならびに塩基、糖および/またはリン酸部分において改変されたヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート主鎖)を包含し得る。一般的に、特定のヌクレオチドのアナログは、同じ塩基対形成の特異性を有し、すなわち、Aのアナログは、Tと塩基対を形成する。
【0052】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、同義的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。用語は、1つまたは複数のアミノ酸が、対応する天然に存在するアミノ酸の化学的アナログまたは改変された誘導体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0053】
「結合」は、高分子間の(例えば、タンパク質と核酸との間の)配列特異的な非共有結合の相互作用を指す。全体としての相互作用が配列特異的である限り、必ずしも結合相互作用の全ての成分が配列特異的であること(例えば、DNA主鎖中のリン酸残基との接触)を必要としない。このような相互作用は、一般的に10-6M-1またはそれよりも低い解離定数(Kd)によって特徴付けられる。「親和性」は、結合の強度を指し、結合親和性の増加は、より低いKdと相関する。
【0054】
「結合タンパク質」は、非共有結合によって別の分子に結合することができるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合タンパク質の場合、それは、それ自体に結合することができ(ホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)、および/またはそれは、異なるタンパク質(単数または複数)の1つもしくは複数の分子に結合することができる。結合タンパク質は、1つよりも多くのタイプの結合活性を有していてもよい。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合、RNA結合およびタンパク質結合活性を有する。
【0055】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、配列特異的な方式で、構造が亜鉛イオンの配位を介して安定化された結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である1つまたは複数のジンクフィンガーを介してDNAに結合する、タンパク質、またはより大きいタンパク質内のドメインである。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、しばしばジンクフィンガータンパク質またはZFPと略記される。
【0056】
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1つまたは複数のTALE反復ドメイン/単位を含むポリペプチドである。反復ドメインは、TALEのそのコグネート標的DNA配列への結合に関与する。単一の「反復単位」(「反復」とも称される)は、典型的には33~35アミノ酸の長さであり、天然に存在するTALEタンパク質内の他のTALE反復配列と少なくともある程度の配列相同性を示す。例えば、米国特許第8,586,526号を参照されたい。
【0057】
「TtAgo」は、遺伝子サイレンシングに関与すると考えられる原核生物アルゴノートタンパク質である。TtAgoは、細菌Thermus thermophilus由来である。例えば、Swarts et al,(2014) Nature 507(7491):258-261;G. Sheng et al., (2013) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111, 652を参照されたい。「TtAgo系」は、例えばTtAgo酵素による切断のためのガイドDNAを含む必要な全ての成分である。
「組換え」は、これらに限定されないが、非相同末端結合(NHEJ)によるドナー捕捉および相同組換えを含む、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換プロセスを指す。この開示の目的のために、「相同組換え(HR)」は、例えば、相同組換え修復メカニズムを介した細胞における二本鎖切断の修復中に起こる、このような交換の特殊化した形態を指す。このプロセスは、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を経たもの)の鋳型修復に「ドナー」分子を使用し、ドナーから標的への遺伝情報の移入をもたらすことから、「非交差遺伝子変換」または「ショートトラクト遺伝子変換」として様々な形で公知である。いかなる特定の理論にも縛られることは望まないが、このような移入は、切断した標的とドナーとの間で形成されるヘテロ二重鎖DNAのミスマッチ修正、ならびに/またはドナーを使用して標的および/もしくは関連プロセスの一部になる遺伝情報を再合成する「合成依存性鎖アニーリング」を含み得る。このような特殊化したHRは、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全部が標的ポリヌクレオチドに取り込まれるような、標的分子の配列の変更をもたらすことが多い。
【0058】
ジンクフィンガー結合ドメインおよびTALE DNA結合ドメインは、例えば天然に存在するジンクフィンガータンパク質の認識へリックス領域を操作すること(1つまたは複数のアミノ酸を変更すること)を介して、またはTALEタンパク質のRVDを操作することによって、所定のヌクレオチド配列に結合するように「操作」することができる。それゆえに、操作されたジンクフィンガータンパク質またはTALEは、天然に存在しないタンパク質である。ジンクフィンガータンパク質またはTALEを操作するための方法の非限定的な例は、設計および選択である。「設計された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEは、その設計/組成が主として合理的な基準に起因する天然に存在しないタンパク質である。設計に関する合理的な基準としては、置換ルールの適用、ならびに既存のZFP設計および結合データのデータベース保存情報における情報を処理するためのコンピューター化されたアルゴリズムが挙げられる。「選択された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEは、天然に見出されないタンパク質であり、それらの産生は主として、実験的なプロセス、例えばファージディスプレイ、相互作用トラップまたはハイブリッド選択に起因する。例えば、米国特許第8,586,526号;同第6,140,081号;同第6,453,242号;同第6,746,838号;同第7,241,573号;同第6,866,997号;同第7,241,574号、および同第6,534,261号を参照されたい;同様に、国際公報WO03/016496号も参照されたい。
【0059】
用語「配列」は、DNAまたはRNAであってもよく、直鎖状、環状または分岐状であってもよく、一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい、任意の長さのヌクレオチド配列を指す。用語「ドナー配列」は、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、任意の長さ、例えば、2~10,000ヌクレオチドの間の長さ(またはそれらの間の、またはそれらを超える任意の整数値)、好ましくは、約100~1,000ヌクレオチドの間の長さ(またはそれらの間の任意の整数)、より好ましくは、約200~500ヌクレオチドの間の長さ(またはそれらの間の任意の値)のものであってもよい。
【0060】
「標的部位」または「標的配列」は、結合に十分な条件が存在することを条件として、結合分子が結合する核酸の部分を定義する核酸配列である。
【0061】
「外因性」分子は、細胞中に通常存在しないが、1つまたは複数の遺伝学的、生化学的または他の方法によって細胞に導入できる分子である。「細胞中に通常存在すること」は、細胞の特定の発生段階および環境条件に関して決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発生中にのみ存在する分子は、成体筋肉細胞にとって外因性分子である。同様に、熱ショックにより誘導された分子は、熱ショックを受けていない細胞にとって外因性分子である。外因性分子は、例えば、正常に機能しない内因性分子の機能するバージョン、または正常に機能する内因性分子の正常に機能しないバージョンを含んでいてもよい。
【0062】
外因性分子は、とりわけ、コンビナトリアルケミストリープロセスによって生成されたなどの小分子、またはタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖などの高分子、上記の分子の任意の改変された誘導体、または上記の分子の1つもしくは複数を含む任意の複合体であってもよい。核酸としては、DNAおよびRNAが挙げられ、これらは、一本鎖または二本鎖であってもよく、直鎖状、分岐状または環状であってもよく、任意の長さのものであってもよい。核酸としては、二重鎖を形成することが可能なもの、ならびに三重鎖形成核酸が挙げられる。例えば、米国特許第5,176,996号および同第5,422,251号を参照されたい。タンパク質としては、これらに限定されないが、DNA結合タンパク質、転写因子、クロマチン再構築因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレースおよびヘリカーゼが挙げられる。
【0063】
外因性分子は、内因性分子と同じタイプの分子、例えば、外因性タンパク質または核酸であってもよい。例えば、外因性核酸は、細胞中に通常存在しない、細胞または染色体に導入される感染性のウイルスゲノム、プラスミドまたはエピソームを含んでいてもよい。外因性分子の細胞への導入のための方法は、当業者に公知であり、これらに限定されないが、脂質媒介性移入(すなわち、中性およびカチオン脂質を含むリポソーム)、エレクトロポレーション、直接注射、細胞融合、粒子衝撃、リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介性移入およびウイルスベクター媒介性移入が挙げられる。また外因性分子は、内因性分子と同じタイプの分子であってもよいが、細胞が由来するものとは異なる種に由来する。例えば、ヒト核酸配列は、元々はマウスまたはハムスター由来の細胞系に導入されてもよい。
【0064】
それに対して、「内因性」分子は、特定の細胞中に、特定の発生段階で、特定の環境条件下で通常存在するものである。例えば、内因性核酸は、染色体、ミトコンドリアのゲノム、葉緑体もしくは他の細胞器官、または天然に存在するエピソームの核酸を含み得る。追加の内因性分子としては、タンパク質、例えば、転写因子および酵素を挙げることができる。
【0065】
「融合」分子は、2つまたはそれよりも多くのサブユニット分子が好ましくは共有結合によって連結されている分子である。サブユニット分子は、同じ化学的タイプの分子であってもよく、異なる化学的タイプの分子であってもよい。第1のタイプの融合分子の例としては、これらに限定されないが、融合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインと、1つまたは複数活性化ドメインとの融合体)、および融合核酸(例えば、上記の融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられる。第2のタイプの融合分子の例としては、これらに限定されないが、三重鎖形成核酸とポリペプチドとの間の融合体、および副溝結合体と核酸との間の融合体が挙げられる。用語はまた、ポリヌクレオチド成分が、ポリペプチド成分と会合して機能的分子を形成する系も含む(例えば、単一ガイドRNAが機能的ドメインと会合して遺伝子発現をモジュレートするCRISPR/Cas系)。
【0066】
細胞における融合タンパク質の発現は、細胞への融合タンパク質の送達から、または細胞への融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの送達によって生じてもよく、ポリヌクレオチドが転写され、転写物が翻訳されて、融合タンパク質を生成する。また、細胞におけるタンパク質の発現に、トランススプライシング、ポリペプチドの切断およびポリペプチドのライゲーションが含まれていてもよい。細胞へのポリヌクレオチドおよびポリペプチド送達のための方法は、この開示の他所で提示される。
【0067】
「多量体化ドメイン」(同様に、「二量体化ドメイン」または「タンパク質相互作用ドメイン」とも称される)は、ZFP TFまたはTALE TFのアミノ、カルボキシ、またはアミノおよびカルボキシ末端領域に組み込まれたドメインである。これらのドメインは、三塩基リピートドメインのより大きい経路が、野生型の長さの数を有するより短い経路と比較して多量体化ZFP TFまたはTALE TFによって優先的に結合されるように複数のZFP TFまたはTALE TF単位の多量体化を可能にする。多量体化ドメインの例は、ロイシンジッパーを含む。多量体化ドメインはまた、小分子によっても調節され得るが、多量体化ドメインは、小分子または外部のリガンドの存在下に限って別の多量体化ドメインとの相互作用を可能にする適切な立体構造をとる。したがって、外因性のリガンドを使用して、これらのドメインの活性を調節することができる。
【0068】
「遺伝子」は、本開示の目的に関して、遺伝子産物をコードするDNA領域(下記を参照)、ならびに遺伝子産物の産生を調節する全てのDNA領域を含み、このような調節配列がコード配列および/または転写された配列に隣接しているかどうかは問わない。したがって、遺伝子としては、必ずしもこれらに限定されないが、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列、例えばリボソーム結合部位および内部リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インシュレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス結合部位および遺伝子座制御領域が挙げられる。
【0069】
「遺伝子発現」は、遺伝子に含有される情報の遺伝子産物への変換を指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接的な転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNAまたは他の任意のタイプのRNA)、またはmRNAの翻訳によって産生されたタンパク質であり得る。遺伝子産物は、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、および編集などのプロセスによって改変されたRNA、ならびに例えばメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADP-リボシル化、ミリスチル化(myristilation)、およびグリコシル化によって改変されたタンパク質も含む。
【0070】
遺伝子発現の「モジュレーション」は、遺伝子の活性の変化を指す。発現のモジュレーションとしては、これらに限定されないが、遺伝子の活性化および遺伝子の抑制を挙げることができる。ゲノム編集(例えば、切断、変更、不活性化、ランダム変異)を使用して、発現をモジュレートすることができる。遺伝子の不活性化は、本明細書に記載されるZFP、またはTALEタンパク質を含まない細胞と比較した、遺伝子発現における任意の低減を指す。したがって、遺伝子の不活性化は、部分的であっても、完全であってもよい。
【0071】
「目的の領域」は、外因性分子に結合することが望ましい、細胞クロマチンの任意の領域、例えば、遺伝子、または遺伝子内のもしくは遺伝子に隣接する非コード配列などである。結合は、標的化されたDNA切断および/または標的化された組換えの目的のためであり得る。目的の領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官のゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、または感染性のウイルスゲノム中に存在していてもよい。目的の領域は、遺伝子のコード領域内、例えば、リーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロンなどの転写された非コード領域内、またはコード領域の上流もしくは下流のいずれかの転写されなかった領域内であってもよい。目的の領域は、単一のヌクレオチド対ほど小さくてもよく、もしくは最長2,000ヌクレオチド対の長さであってもよく、または任意の整数値のヌクレオチド対であってもよい。
【0072】
「真核」細胞としては、これらに限定されないが、真菌細胞(例えば酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞(例えば、T細胞)が挙げられる。
【0073】
用語「作用的な連結」および「作動可能に(operatively)連結した」(または「作用的に(operably)連結した」)は、両方の成分が正常に機能し、成分の少なくとも1つが、他の成分の少なくとも1つで発揮される機能を媒介し得る可能性をもたらすように成分が配列されている2つまたはそれよりも多くの成分(例えば配列エレメント)の並置に関連して、同義的に使用される。例証として、プロモーターなどの転写調節配列が、1つまたは複数の転写調節因子の存在または非存在に応答してコード配列の転写レベルを制御する場合、転写調節配列は、コード配列に作用的に連結している。転写調節配列は、一般的に、コード配列とシスで作用的に連結しているが、必ずしもそれと直接隣接していなくてもよい。例えば、エンハンサーは、それらが連続していないとしても、コード配列に作用的に連結した転写調節配列である。
【0074】
融合ポリペプチドに関して、用語「作動可能に連結した」とは、成分のそれぞれが、連結されていない場合と同様に、他の成分と連結されても同じ機能を発揮するという事実を指し得る。例えば、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインが活性化ドメインに融合されている融合ポリペプチドの場合、ZFPまたはTALE DNA結合ドメインおよび活性化ドメインは、融合ポリペプチドにおいてZFPまたはTALE DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができるが、活性化ドメインが遺伝子発現をアップレギュレートすることができる場合、作動可能な連結にある。遺伝子発現を調節することが可能なドメインに融合されたZFPは、集合的に「ZFP-TF」、または「ジンクフィンガー転写因子」と称されるが、遺伝子発現を調節することが可能なドメインに融合されたTALEは、集合的に「TALE-TF」または「TALE転写因子」と称される。ZFP DNA結合ドメインが切断ドメイン(「ZFN」または「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」)に融合されている融合ポリペプチドの場合、融合ポリペプチドにおいて、ZFP DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができるが、切断ドメインが、標的部位の近傍でDNAを切断することができる場合、ZFP DNA結合ドメインおよび切断ドメインは作動可能な連結にある。TALE DNA結合ドメインが切断ドメイン(「TALEN」、または「TALEヌクレアーゼ」)に融合されている融合ポリペプチドの場合、融合ポリペプチドにおいて、TALE DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができるが、切断ドメインが、標的部位の近傍でDNAを切断することができる場合、TALE DNA結合ドメインおよび切断ドメインは作動可能な連結にある。Cas DNA結合ドメインが活性化ドメインに融合されている融合ポリペプチドの場合、融合ポリペプチドにおいて、Cas DNA結合ドメイン部分がその標的部位および/またはその結合部位に結合することができるが、活性化ドメインが遺伝子発現をアップレギュレートすることができる場合、Cas DNA結合ドメインおよび活性化ドメインは作動可能な連結にある。Cas DNA結合ドメインが切断ドメインに融合されている融合ポリペプチドの場合、融合ポリペプチドにおいて、Cas DNA結合ドメインがその標的部位および/またはその結合部位に結合することができるが、切断ドメインが標的部位の近傍でDNAを切断することができる場合、Cas DNA結合ドメインおよび切断ドメインは作動可能な連結にある。
【0075】
タンパク質、ポリペプチドまたは核酸の「機能的な断片」は、その配列が全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一ではないが、全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同じ機能を依然として保持している、タンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能的な断片は、対応するネイティブの分子よりも多くの、それよりも少ない、もしくはそれと同じ数の残基を有していてもよいし、および/または1つもしくは複数のアミノ酸もしくはヌクレオチド置換を含有していてもよい。核酸の機能を決定するための方法(例えば、コード化機能、別の核酸にハイブリダイズする能力)は、当業界において周知である。同様に、タンパク質の機能を決定する方法も周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えばフィルター結合、電気泳動移動度のシフト、または免疫沈降アッセイによって決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によってアッセイすることができる。Ausubel et al.、前記を参照されたい。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば共免疫沈降、2ハイブリッドアッセイ、または遺伝的および生化学的相補性によって決定することができる。例えば、Fields et al. (1989) Nature 340:245-246;米国特許第5,585,245号、および国際公報WO98/44350号を参照されたい。
【0076】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に移入させることが可能である。典型的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、および「遺伝子移入ベクター」は、目的の遺伝子の発現を指示することが可能な、遺伝子配列を標的細胞に移入させることができる任意の核酸構築物を意味する。したがって、用語は、クローニング、および発現ビヒクル、ならびに組み込み型ベクターを含む。用語は、これらに限定されないがプラスミド、mRNA、AAV(本明細書において「組換えAAV」または「rAAV」とも称される)、アデノウイルスベクター(Ad)、レンチウイルスベクター(例えば、IDLV)等を含む、ウイルスおよび非ウイルスベクターを含む。
【0077】
「レポーター遺伝子」または「レポーター配列」は、必ずしもそうでなくてもよいが、好ましくは慣例的なアッセイで容易に測定されるタンパク質生成物を産生する任意の配列を指す。好適なレポーター遺伝子としては、これらに限定されないが、抗生物質耐性(例えば、アンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、ピューロマイシン耐性)を媒介するタンパク質をコードする配列、有色または蛍光または発光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、強化緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ)、ならびに強化された細胞成長および/または遺伝子増幅(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ)を媒介するタンパク質をコードする配列が挙げられる。エピトープタグとしては、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HAまたは任意の検出可能なアミノ酸配列の1つまたは複数のコピーが挙げられる。「発現タグ」は、目的の遺伝子の発現をモニターするために所望の遺伝子配列に作動可能に連結され得るレポーターをコードする配列を含む。
DNA結合ドメイン
【0078】
本明細書に記載される方法は、HTT遺伝子における標的配列に特異的に結合する、特に複数の三塩基リピートを含む変異体HTT対立遺伝子(mHTT)に結合するDNA結合ドメインを含む組成物、例えばHTTモジュレート転写因子を利用する。任意のポリヌクレオチドまたはポリペプチドDNA結合ドメイン、例えばDNA結合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALE)またはDNA結合ポリヌクレオチド(例えば、単一ガイドRNA)を、本明細書に開示される組成物および方法において使用することができる。ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、配列番号6のヌクレオチドの9~28(または10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、または27を含むその間の任意の値)連続コピーを含む標的部位に結合する。
【0079】
ある特定の実施形態では、mHTTモジュレート転写因子、またはその中のDNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質を含む。標的部位の選択;融合タンパク質(およびそれをコードするポリヌクレオチド)の設計および構築のためのZFPおよび方法は、当業者に公知であり、米国特許第6,140,081号;同第5,789,538号;同第6,453,242号;同第6,534,261号;同第5,925,523号;同第6,007,988号;同第6,013,453号;および同第6,200,759号;ならびに国際特許公開WO95/19431;WO96/06166;WO98/53057;WO98/54311;WO00/27878;WO01/60970 WO01/88197;WO02/099084;WO98/53058;WO98/53059;WO98/53060;WO02/016536およびWO03/016496で詳細に記載されている。
【0080】
ある特定の実施形態では、ZFPは、変異体HTT対立遺伝子または野生型HTT配列のいずれかに選択的に結合することができる。HTT標的部位は典型的に、少なくとも1つのジンクフィンガーを含むが複数のジンクフィンガー(例えば、2、3、4、5、6、またはそれより多くのフィンガー)を含み得る。例えば、米国特許第9,234,016号;同第9,943,565号;同第8,841,260号;同第9,499,597号;および米国特許出願公開第2015/0335708号;同第2018/0200332号;同第2017/0096460号;同第2017/0035839号;同第2016/0296605号;および同第2019/0322711号を参照されたい。通常、ZFPは、少なくとも3つのフィンガーを含む。ZFPのある特定のものは、4、5または6つのフィンガーを含むが、一部のZFPは、7、8、9、10、11または12のフィンガーを含む。3つのフィンガーを含むZFPは、典型的には、9または10ヌクレオチドを含む標的部位を認識し;4つのフィンガーを含むZFPは、典型的には、12~14ヌクレオチドを含む標的部位を認識し;一方で6つのフィンガーを有するZFPは、18~21ヌクレオチドを含む標的部位を認識することができる。ZFPはまた、1つまたは複数の調節ドメインを含む融合タンパク質であってもよく、このドメインは、転写活性化または抑制ドメインであってもよい。一部の実施形態では、融合タンパク質は、共に連結された2つのZFP DNA結合ドメインを含む。したがって、これらのジンクフィンガータンパク質は、8、9、10、11、12個またはそれより多くのフィンガーを含み得る。一部の実施形態では、2つのDNA結合ドメインは、1つのDNA結合ドメインが、4、5、または6個のジンクフィンガーを含み、第2のDNA結合ドメインが追加の4、5、または5個のジンクフィンガーを含むように、伸張可能なフレキシブルリンカーを介して連結される。一部の実施形態では、リンカーは、フィンガーアレイが、8、9、10、11、または12個またはそれより多くのフィンガーを含む1つのDNA結合ドメインを含むように、標準的なフィンガー間リンカーである。他の実施形態では、リンカーはフレキシブルリンカーなどの非定型リンカーである。DNA結合ドメインは、少なくとも1つの調節ドメインに融合され、「ZFP-ZFP-TF」構造であると考えることができる。これらの実施形態の特定の例は、フレキシブルリンカーによって連結され、KOXリプレッサーに融合された2つのDNA結合ドメインを含む「ZFP-ZFP-KOX」、および2つのZFP-KOX融合タンパク質がリンカーを介して共に融合されている「ZFP-KOX-ZFP-KOX」と称され得る。
【0081】
あるいは、DNA結合ドメインは、ヌクレアーゼ由来であってもよい。例えば、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼの認識配列、例えばI-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevIIおよびI-TevIIIが公知である。米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfort et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3379-3388;Dujon et al. (1989) Gene 82:115-118;Perler et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22, 1125-1127;Jasin (1996) Trends Genet. 12:224-228; Gimble et al. (1996) J. Mol. Biol. 263:163-180;Argast et al. (1998) J. Mol. Biol. 280:345-353およびNew England Biolabsのカタログも参照されたい。加えて、ホーミングエンドヌクレアーゼおよびメガヌクレアーゼのDNA結合特異性は、非天然の標的部位に結合するように操作することができる。例えば、Chevalier et al. (2002) Molec. Cell 10:895-905;Epinat et al. (2003) Nucleic Acids Res. 31:2952-2962;Ashworth et al. (2006) Nature 441:656-659;Paques et al. (2007) Current Gene Therapy 7:49-66;米国特許公開第2007/0117128号を参照されたい。
【0082】
「2ハンド」のジンクフィンガータンパク質とは、2つのジンクフィンガードメインが2つの不連続な標的部位に結合するように、ジンクフィンガーDNA結合ドメインの2つのクラスターが介在するアミノ酸によって離れているそれらのタンパク質である。2ハンド型のジンクフィンガー結合タンパク質の例は、4つのジンクフィンガーのクラスターがタンパク質のアミノ末端に位置し、3つのフィンガーのクラスターがカルボキシル末端に位置するSIP1である(Remacle et al. (1999) EMBO Journal 18(18):5073-5084を参照されたい)。これらのタンパク質におけるジンクフィンガーのそれぞれのクラスターは、固有の標的配列に結合することができ、2つの標的配列間の間隔は多くのヌクレオチドを含み得る。2ハンド型ZFPは、例えばZFPの1つまたは両方に融合した機能的ドメインを含み得る。したがって、機能的ドメインは、1つまたは両方のZFPの外部に結合され得る(
図1Cを参照されたい)か、またはZFP間に位置し得る(両方のZFPに結合する)ことは明白である(
図4)。
【0083】
HTT標的化ZFPの特定の例は、表1ならびにその全体が全ての目的に関して参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,234,016号;同第8,841,260号;および同第6,534,261号;米国特許出願公開第2017/0096460号;同第2015/0056705号;同第2015/0335708号;および同第2019/0322711号に開示される。この表の第1列は、ZFPの内部参照名(番号)であり、表2の列1の同じ名称に対応する。「F」はフィンガーを指し、「F」の後の数字はどのジンクフィンガーであるかを指す(例えば、「F1」はフィンガー1を指す)。
【表1】
【0084】
これらのタンパク質の標的部位の配列および位置を表2に開示する。ZFP認識ヘリックスが接触する標的部位中のヌクレオチドを、大文字で示し、非接触ヌクレオチドを小文字で示す。
【表2】
【0085】
本明細書に記載されるZFP-TFはまた、認識ヘリックス領域(すなわち、骨格領域)外に、米国特許出願公開第2018/0087072号に記載される変異を含む、1つまたは複数の変異を含み得る。
【0086】
ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、天然に存在するまたは操作された(天然に存在しない)TALエフェクター(TALE)DNA結合ドメインを含む。例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,586,526号を参照されたい。
【0087】
Xanthomonas属の植物病原菌は、重要な穀物植物において多くの疾患を引き起こすことが公知である。Xanthomonasの病原性は、25個よりも多くの異なるエフェクタータンパク質を植物細胞に注入する保存されたIII型分泌(T3S)系に依存する。これらの注入されたタンパク質のなかでも、植物転写活性化因子を模倣し、植物トランスクリプトームをマニピュレートする転写活性化因子様エフェクター(TALE)がある(Kay et al (2007) Science 318:648-651を参照)。これらのタンパク質は、DNA結合ドメインおよび転写活性化ドメインを含有する。最もよく特徴付けられたTALEの1つは、Xanthomonas campestgris pv.Vesicatoria由来のAvrBs3である(Bonas et al (1989) Mol Gen Genet 218:127-136および国際特許公開WO2010/079430を参照)。TALEは、タンデム反復の集中型ドメインを含有し、各反復は、これらのタンパク質のDNA結合特異性にとって重要なおよそ34アミノ酸を含有する。加えて、それらは、核局在化配列および酸性転写活性化ドメインを含有する(総説に関して、S. Schornack et al (2006) J Plant Physiol 163(3):256-272を参照)。加えて、植物病原性細菌であるRalstonia solanacearumにおいて、R.solanacearum biovar 1株GMI1000およびbiovar 4株RS1000においてXanthomonasのAvrBs3ファミリーに相同な、brg11およびhpx17と名付けられた2つの遺伝子が見出されている(Heuer et al (2007) Appl and Envir Micro 73(13):4379-4384を参照)。これらの遺伝子は、ヌクレオチド配列において互いに98.9%同一であるが、hpx17の反復ドメインにおける1,575bpの欠失により異なる。しかしながら、両方の遺伝子産物は、XanthomonasのAvrBs3ファミリータンパク質と40%未満の配列同一性を有する。
【0088】
これらのTALEの特異性は、タンデム反復に見出される配列に依存する。繰り返しの配列は、およそ102塩基対を含み、反復は、典型的には、互いに91~100%相同である(Bonas et al (1989) Mol Gen Genet 218:127-136)。反復の多型は通常、12および13位に位置し、TALEの標的配列における連続するヌクレオチドの同一性と、12および13位における高度可変二残基の同一性と間に1対1の対応が存在すると考えられる(Moscou and Bogdanove, (2009) Science 326:1501およびBoch et al (2009) Science 326:1509-1512を参照)。実験的に、これらのTALEのDNA認識に関するコードは、12および13位におけるHD配列により、シトシン(C)への結合が起こり、NGがTに、NIがA、C、GまたはTに結合し、NNがAまたはGに結合し、NGがTに結合すると決定された。これらのDNA結合反復が、新しい組合せおよび多数の反復を有するタンパク質に組み立てることができる人工転写因子が作製された。加えて、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,586,526号および米国特許出願公開第2013/0196373号は、N-キャップポリペプチド、C-キャップポリペプチド(例えば、+63、+231、または+278)および/または新規(非定型)RVDを有するTALEを記載する。
【0089】
例示的なTALEは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2013/0253040号に記載される。
【0090】
ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、二量体化および/または多量体化ドメイン、例えばコイルドコイル(CC)および二量体化ジンクフィンガー(DZ)を含む。米国特許出願公開第2013/0253040号を参照されたい。
【0091】
なおさらなる実施形態では、DNA結合ドメインは、CRISPR/Cas系の単一ガイドRNA、例えば米国特許出願公開第2015/0056705号に開示されるsgRNAを含む。
【0092】
古細菌および多くの細菌におけるRNA媒介ゲノム防御経路の存在に関して説得力のある証拠が最近出現しており、これらは真核生物RNAi経路と相似であると仮説が立てられている(再検討に関しては、Godde and Bickerton (2006) J. Mol. Evol. 62:718-729; Lillestol et al. (2006) Archaea 2:59-72; Makarova et al. (2006) Biol. Direct 1:7; Sorek et al. (2008) Nat. Rev. Microbiol. 6:181-186を参照されたい)。この経路はCRISPR-Cas系または原核生物RNAi(pRNAi)として公知であり、2つの進化的におよびしばしば物理的に連鎖した遺伝子座:系のRNA成分をコードするCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)遺伝子座、およびタンパク質をコードするcas(CRISPR関連)遺伝子座から生じることが提唱されている(Jansen et al. (2002) Mol. Microbiol. 43:1565-1575; Makarova et al. (2002) Nucleic Acids Res. 30:482-496; Makarova et al. (2006) Biol. Direct 1:7; Haft et al. (2005) PLoS Comput. Biol. 1:e60)。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子ならびにCRISPR媒介核酸切断の特異性をプログラミングすることが可能な非コードRNAエレメントの組合せを含有する。個々のCasタンパク質は、真核生物RNAi機構のタンパク質成分との有意な配列類似性を共有しないが、類似の予想される機能(例えば、RNA結合、ヌクレアーゼ、ヘリカーゼ等)を有する(Makarova et al. (2006) Biol. Direct 1:7)。CRISPR関連(cas)遺伝子はしばしば、CRISPRリピート-スペーサーアレイに関連している。40を超える異なるCasタンパク質ファミリーが記載されている。これらのタンパク質ファミリーの中で、Cas1は、異なるCRISPR/Cas系において遍在するように思われる。cas遺伝子およびリピート構造の特定の組合せが、8個のCRISPRサブタイプを定義するために使用されており(Ecoli、Ypest、Nmeni、Dvulg、Tneap、Hmari、Apern、およびMtube)、そのうち一部は、リピート関連の不可思議なタンパク質(RAMP)をコードする追加の遺伝子モジュールに関連している。1つより多くのCRISPRサブタイプが単一のゲノムに起こり得る。CRISPR/Casサブタイプが散在性に分布していることは、系が微生物進化の間に水平遺伝子伝播に供されることを示唆している。
【0093】
最初にS.pyogenesにおいて記載されたII型CRISPRは、最もよく特徴付けられた系の1つであり、4つの逐次ステップで標的化されたDNA二本鎖切断を実行する。第1に、CRISPR遺伝子座から、2つの非コードRNA、pre-crRNAアレイおよびtracrRNAが転写される。第2に、tracrRNAをpre-crRNAの反復領域にハイブリダイズさせ、pre-crRNAの、個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAへのプロセシングを媒介させ、プロセシングはCas9タンパク質の存在下で二本鎖特異的RNase IIIによって生じる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体が、Cas9を、crRNA上のスペーサーと標的DNA上のプロトスペーサーとの間のワトソン-クリック塩基対形成を介して標的DNAに、次に、標的認識のための追加の必要条件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に向ける。加えて、tracrRNAもまた、その3’末端でcrRNAと塩基対を形成することから存在しなければならず、この会合はCas9活性を誘発する。最後に、Cas9は標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサー内に二本鎖切断を作り出す。CRISPR/Cas系の活性は、3つのステップ:(i)「適合」と呼ばれるプロセスにおける将来的な攻撃を防止するための外来のDNA配列のCRISPRアレイへの挿入、(ii)関連タンパク質の発現、ならびにアレイの発現およびプロセシング、それに続く(iii)外来の核酸でのRNA媒介性干渉を含む。したがって、細菌細胞において、いわゆる「Cas」タンパク質のいくつかは、CRISPR/Cas系の天然の機能に関連する。
【0094】
タイプII CRISPR系は、多くの異なる細菌において見出されている。Fonfara et al. ((2013) Nuc Acid Res 42(4):2377-2590)による公開されたゲノムに関するBLAST検索により、347種の細菌においてCas9オルトログが見出された。加えて、このグループは、S.pyogenes、S.mutans、S.therophilus、C.jejuni、N.meningitides、P.multocida、およびF.novicidaからのCas9オルトログを使用して、DNA標的がin vitroでCRISPR/Casによって切断されることを実証した。したがって、用語「Cas9」は、DNA結合ドメインおよび2つのヌクレアーゼドメインを含むRNAガイドDNAヌクレアーゼを指し、Cas9をコードする遺伝子は任意の好適な細菌に由来し得る。
【0095】
Cas9タンパク質は、少なくとも2つのヌクレアーゼドメインを有し:1つのヌクレアーゼドメインはHNHエンドヌクレアーゼと類似であり、他方のヌクレアーゼドメインは、Ruvエンドヌクレアーゼドメインと類似である。HNH型ドメインは、crRNAと相補的であるDNA鎖の切断に関与するように思われるが、Ruvドメインは、非相補鎖を切断する。Cas9ヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインの1つのみが機能的であり、Casニッカーゼを作り出すことができるように操作することができる(Jinek et al. (2012) Science 337:816を参照されたい)。ニッカーゼは、酵素の触媒ドメインにおけるアミノ酸の特異的変異によって、またはドメインがもはや機能的でなくなるようにドメインの一部もしくは全ての切断によって生成することができる。Cas9は、2つのヌクレアーゼドメインを含むことから、このアプローチはいずれかのドメインで起こり得る。2つのそのようなCas9ニッカーゼを使用することによって、二本鎖切断を標的DNAにおいて達成することができる。ニッカーゼは、それぞれがDNAの1つの鎖を切断し、2つを使用すると二本鎖切断を作り出す。
【0096】
crRNA-tracrRNA複合体の必要条件は、crRNAおよびtracrRNAのアニーリングによって通常形成されるヘアピンを含む操作された「単一ガイドRNA」(sgRNA)を使用することによって回避することができる(Jinek et al. (2012) Science 337:816 and Cong et al. (2013) Science 339(6121):819-823, Sciencexpress/10.1126/science.1231143を参照されたい)。S.pyrogenesでは、操作されたtracrRNA:crRNA融合体またはsgRNAは、二本鎖RNA:DNAヘテロ二量体がCas会合RNAと標的DNAとの間で形成する場合に、Cas9が標的DNAを切断するように誘導する。Cas9タンパク質およびPAM配列を含有する操作されたsgRNAを含むこの系は、ゲノム編集のために使用されており(Ramalingam (2013) Genome Biol. 14(2):107を参照されたい)、in vivoでのゼブラフィッシュ胚のゲノム編集にとって有用であり(Hwang et al. (2013) Nature Biotechnology 31(3):227を参照されたい)、編集効率はZFNおよびTALENと類似である。
【0097】
CRISPR遺伝子座の主生成物は、侵入物標的化配列を含有する短いRNAであるように思われ、経路におけるその仮説上の役割に基づいてガイドRNAまたは原核生物沈黙化RNA(psiRNA)と呼ばれる(Makarova et al. (2006) Biol. Direct 1:7; Hale et al. (2008) RNA 14:2572-2579)。RNA分析により、CRISPR遺伝子座の転写物がリピート配列内で切断されて、個々の侵入物標的化配列および隣接するリピート断片を含有する約60ヌクレオチド~約70ヌクレオチドのRNA中間体を放出することが示されている(Tang et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. 99:7536-7541; Tang et al. (2005) Mol. Microbiol. 55:469-481; Lillestol et al. (2006) Archaea 2:59-72; Brouns et al. (2008) Science 321:960-964; Hale et al. (2008) RNA 14:2572-2579)。古細菌であるPyrococcus furiosusでは、これらの中間RNAは、豊富で安定な約35ヌクレオチド~45ヌクレオチドの成熟psiRNAへとさらに処理される(Hale et al. (2008) RNA 14:2572-2579)。
【0098】
crRNA-tracrRNA複合体の必要条件は、crRNAおよびtracrRNAをアニールすることによって通常形成されるヘアピンを含む操作された「単一ガイドRNA」(sgRNA)を使用することによって回避することができる(Jinek et al. (2012) Science 337:816 and Cong et al. (2013) Science 339(6121):819-823, Sciencexpress/10.1126/science.1231143を参照されたい)。S.pyrogenesでは、操作されたtracrRNA:crRNA融合体またはsgRNAは、二本鎖RNA:DNAヘテロ二量体がCas会合RNAと標的DNAとの間で形成する場合に、Cas9が標的DNAを切断するように誘導する。Cas9タンパク質およびPAM配列を含有する操作されたsgRNAを含むこの系は、RNAガイドゲノム編集のために使用されており(Ramalingam (2013) Genome Biol. 14(2):107を参照されたい)、in vivoでのゼブラフィッシュ胚のゲノム編集にとって有用であり(Hwang et al. (2013) Nature Biotechnology 31(3):227を参照されたい)、編集効率はZFNおよびTALENと類似である。
【0099】
キメラまたはsgRNAは、任意の所望の標的と相補的な配列を含むように操作することができる。一部の実施形態では、ガイド配列は、約5ヌクレオチドもしくはそれより長い、10ヌクレオチドもしくはそれより長い、11ヌクレオチドもしくはそれより長い、12ヌクレオチドもしくはそれより長い、13ヌクレオチドもしくはそれより長い、14ヌクレオチドもしくはそれより長い、15ヌクレオチドもしくはそれより長い、16ヌクレオチドもしくはそれより長い、17ヌクレオチドもしくはそれより長い、18ヌクレオチドもしくはそれより長い、19ヌクレオチドもしくはそれより長い、20ヌクレオチドもしくはそれより長い、21ヌクレオチドもしくはそれより長い、22ヌクレオチドもしくはそれより長い、23ヌクレオチドもしくはそれより長い、24ヌクレオチドもしくはそれより長い、25ヌクレオチドもしくはそれより長い、26ヌクレオチドもしくはそれより長い、27ヌクレオチドもしくはそれより長い、28ヌクレオチドもしくはそれより長い、29ヌクレオチドもしくはそれより長い、30ヌクレオチドもしくはそれより長い、35ヌクレオチドもしくはそれより長い、40ヌクレオチドもしくはそれより長い、45ヌクレオチドもしくはそれより長い、50ヌクレオチドもしくはそれより長い、75ヌクレオチドもしくはそれより長い、またはそれより長い長さである。一部の実施形態では、ガイド配列は、約75ヌクレオチド未満、50ヌクレオチド未満、45ヌクレオチド未満、40ヌクレオチド未満、35ヌクレオチド未満、30ヌクレオチド未満、25ヌクレオチド未満、20ヌクレオチド未満、15ヌクレオチド未満、12ヌクレオチド未満、またはそれより少ないヌクレオチドの長さである。一部の実施形態では、RNAは、標的と相補的でG[n19]型の22塩基を含み、その後にS.pyogenesのCRISPR/Cas系と共に使用するためのNGGまたはNAG型のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)が続く。したがって、1つの方法では、sgRNAは:(i)ZFNヘテロ二量体の認識配列を関連するゲノムの参照配列(ヒト、マウス、または特定の植物種)と整列させることによって;(ii)ZFNハーフ部位の間のスペーサー領域を同定することによって;(iii)スペーサー領域に最も近いモチーフG[N20]GGの位置を同定することによって(1つより多くのそのようなモチーフがスペーサーと重複する場合、スペーサーと比較して中心にあるモチーフを選択する);(iv)そのモチーフをsgRNAのコアとして使用することによって、目的の遺伝子における公知のZFN標的を利用することによって設計することができる。この方法は、都合よくは証明されたヌクレアーゼ標的に依存する。あるいは、sgRNAを、G[n20]GG式に従う好適な標的配列を単に同定することによって目的の任意の領域を標的とするように設計することができる。相補的領域と共に、sgRNAは、追加のヌクレオチドを含み、sgRNAのtracrRNA部分のテール領域へと伸張し得る(Hsu et al. (2013) Nature Biotech doi:10.1038/nbt.2647を参照されたい)。テールは、+67~+85ヌクレオチドのテールであり得るか、または+85ヌクレオチドの好ましい長さを有するその間の任意の数字のテールであり得る。切断されたsgRNA、「tru-gRNA」もまた使用してもよい(Fu et al. (2014) Nature Biotech 32(3):279を参照されたい)。tru-gRNAでは、相補性領域は17または18ヌクレオチドの長さへと減少する。
【0100】
さらに、S.pyogenes Cas9を使用して、PAM配列がNGGの代替としてのNAGであり得る代替のPAM配列もまた、利用してもよい(Hsu (2013) Nature Biotech 31:827-832, doi:10.1038/nbt.2647)。追加のPAM配列はまた、最初のGを欠如する配列も含み得る(Sander and Joung (2014) Nature Biotech 32(4):347)。S.pyogenesコードCas9 PAM配列に加えて、他の細菌起源からのCas9タンパク質に対して特異的な他のPAM配列を使用することができる。例えば、以下に示すPAM配列(Sander and Joung、前記、およびEsvelt et al. (2013) Nat Meth 10(11):1116から改作)は、これらのCas9タンパク質に対して特異的である:
種 PAM
S.pyogenes NGG
S.pyogenes NAG
S.mutans NGG
S.thermophilius NGGNG
S.thermophilius NNAAAW
S.thermophilius NNAGAA
S.thermophilius NNNGATT
C.jejuni NNNNACA
N.meningitides NNNNGATT
P.multocida GNNNCNNA
F.novicida NG
【0101】
したがって、S.pyogenes CRISPR/Cas系と共に使用するために好適な標的配列は、以下のガイドライン:[n17、n18、n19、またはn20](G/A)Gに従って選択することができる。あるいは、PAM配列は、ガイドラインG[n17、n18、n19、n20(G/A)Gに従うことができる。非S.pyogenes細菌に由来するCas9タンパク質の場合、代替PAMがS.pyogenes PAM配列の代わりに置換されている同じガイドラインを使用してもよい。
【0102】
潜在的オフターゲット配列を回避する特異性の最高の可能性を有する標的配列を選択することが最も好ましい。これらの望ましくないオフターゲット配列は、以下の属性:i)利用されるCas9タンパク質と共に機能することが公知のPAM配列が後に続く標的配列における類似性;ii)所望の標的配列とのミスマッチが3個未満である類似の標的配列;iii)ミスマッチが全てPAM近位領域ではなくてPAM遠位領域に位置する、ii)と類似の標的配列(時に「シード」領域と称されるPAMに直ちに隣接するかまたは近位のヌクレオチド1~5(Wu et al. (2014) Nature Biotech 32:670-676, doi:10.1038/nbt2889)は、認識にとって最も重要であるという証拠があり、そのため、シード領域内に位置するミスマッチを有する推定のオフターゲット部位は、sgRNAによって認識される可能性が最も低くなり得る);およびiv)その結果ミスマッチが間隔を開けずにまたは4ヌクレオチドより大きい間隔を開けて存在する類似の標的配列(Hsu et al. (2014) Cell 157(6):1262-78)を考慮することによって同定することができる。したがって、上記のこれらの基準を使用して、どのCRIPSR/Cas系が使用されているかに関してゲノムにおける潜在的なオフターゲット部位の数の分析を実施することによって、sgRNAの好適な標的配列が同定され得る。
【0103】
一部の実施形態では、CRISPR-Cpf1系が使用される。CRISPR-Cpf1系は、Francisella sppで同定されており、ヒト細胞においてロバストなDNA干渉を媒介するクラス2CRISPR-Cas系である。機能的に保存されているにもかかわらず、Cpf1およびCas9は、それらのガイドRNAおよび基質特異性を含む多くの態様において異なる(Fagerlund et al, (2015) Genom Bio 16:251を参照)。Cas9とCpf1タンパク質との主要な差は、Cpf1はtracrRNAを利用しないことであり、したがってcrRNAのみを必要とする。FnCpf1 crRNAは、42~44ヌクレオチドの長さ(19ヌクレオチドの反復および23~25ヌクレオチドのスペーサー)であり、単一のステムループを含有し、これが2次構造を保持する配列の変化を許容する。加えて、Cpf1 crRNAは、Cas9が必要とする約100ヌクレオチドの操作されたsgRNAよりも著しく短く、FnCpflのPAMの必要条件は、置き換えられた鎖における5’-TTN-3’および5’-CTA-3’である。Cas9およびCpf1の両方が標的DNA中に二本鎖切断を生じるが、Cas9は、ガイドRNAのシード配列内に平滑末端化された切断を生じるのに、そのRuvCおよびHNH様ドメインを使用し、それに対してCpf1は、シードの外側に付着切断を生じるのに、RuvC様ドメインを使用する。Cpf1は、重要なシード領域から離れて付着切断を生じるため、NHEJは、標的部位を破壊せず、それゆえに、Cpf1は、所望のHDR組換え事象が起こるまで同じ部位を確実に切り続けることができる。したがって、本明細書に記載される方法および組成物では、用語「Cas」は、Cas9およびCfp1タンパク質の両方を含むことが理解される。したがって、本明細書で使用される場合、「CRISPR/Cas系」は、ヌクレアーゼおよび/または転写因子系の両方を含む、CRISPR/Casおよび/またはCRISPR/Cfp1系の両方を指す。
【0104】
一部の実施形態では、他のCasタンパク質を使用してもよい。一部の例示的なCasタンパク質としては、Cas9、Cpf1(Cas12aとしても公知)、C2c1、C2c2(Cas13aとしても公知)、C2c3、Cas1、Cas2、Cas4、CasX、およびCasY;ならびにその操作されたおよび天然のバリアント(Burstein et al. (2017) Nature 542:237-241)、例えばHF1/spCas9(Kleinstiver et al. (2016) Nature 529:490-495; Cebrian-Serrano and Davies (2017) Mamm Genome 28(7):247-261);スプリットCas9系(Zetsche et al. (2015) Nat Biotechnol 33(2):139-142)、インテイン-エクステイン系に基づくトランススプライシングされたCas9(Troung et al. (2015) Nucl Acid Res 43(13):6450-8);小型SaCas9(Ma et al. (2018) ACS Synth Biol 7(4):978-985)が挙げられる。したがって、本明細書に記載される方法および組成物において、用語「Cas」は、天然のおよび操作された全てのCasバリアントタンパク質を含むと理解される。
【0105】
ある特定の実施形態では、Casタンパク質は、天然に存在するCasタンパク質の「機能的な誘導体」であってもよい。ネイティブ配列のポリペプチドの「機能的な誘導体」は、ネイティブ配列のポリペプチドと共通の定性的な生物学的特性を有する化合物である。「機能的な誘導体」としては、これらに限定されないが、対応するネイティブ配列のポリペプチドと共通の生物学的活性をそれらが有するという条件で、ネイティブ配列の断片、ならびにネイティブ配列のポリペプチドの誘導体およびその断片が挙げられる。本明細書において企図される生物学的活性は、DNA基質を断片に加水分解する機能的な誘導体の能力である。用語「誘導体」は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント、共有結合による改変体の両方、およびそれらの融合体を包含する。一部の態様では、機能的誘導体は、天然に存在するCasタンパク質の単一の生物特性を含み得る。他の態様では、機能的誘導体は、天然に存在するCasタンパク質の生物特性のサブセットを含み得る。Casポリペプチドまたはその断片の好適な誘導体としては、これらに限定されないが、Casタンパク質またはその断片の、変異体、融合体、共有結合による改変体が挙げられる。Casタンパク質は、Casタンパク質またはその断片、ならびにCasタンパク質またはその断片の誘導体を含み、これらは、細胞から得ることができる、または化学的に合成される、またはこれらの2つの手順の組合せによってであり得る。細胞は、天然にCasタンパク質を産生する細胞、または天然にCasタンパク質を産生し、内因性Casタンパク質をより高い発現レベルで産生するように、もしくは内因性Casと同じもしくは異なるCasをコードする外因的に導入された核酸からCasタンパク質を産生するように遺伝子操作された細胞であってもよい。一部の場合では、細胞は、天然にCasタンパク質を産生せず、Casタンパク質を産生するように遺伝子操作されている。
【0106】
特定の遺伝子に標的化される例示的なCRISPR/Casヌクレアーゼ系は、例えば米国特許出願公開第2015/0056705号に開示される。
【0107】
したがって、ヌクレアーゼは、DNAを切断するヌクレアーゼドメインと組み合わせてドナー(導入遺伝子)を挿入することが望ましい任意の遺伝子における標的部位に特異的に結合するDNA結合ドメインを含む。
融合分子
【0108】
DNA結合ドメインを、本明細書に記載される方法に使用するために任意の追加の分子(例えば、ポリペプチド)に融合してもよい。ある特定の実施形態では、方法は、少なくとも1つのDNA結合分子(例えば、ZFP、TALE、または単一ガイドRNA)および異種の通常の(機能的)ドメイン(またはその機能的断片)を含む融合分子を使用する。
【0109】
ある特定の実施形態では、機能的ドメインは、転写調節ドメインを含む。一般的なドメインは、例えば転写因子ドメイン(アクチベーター、リプレッサー、コアクチベーター、コリプレッサー)、サイレンサー、腫瘍遺伝子(例えば、myc、jun、fos、myb、max、mad、rel、ets、bcl、myb、mosファミリーメンバー等);DNA修復酵素およびその関連因子および改変剤;DNA再構成酵素およびその関連する因子および改変剤;クロマチン関連タンパク質およびその改変剤(例えば、キナーゼ、アセチラーゼ、およびデアセチラーゼ);ならびにDNA改変酵素(例えば、メチルトランスフェラーゼ、トポイソメラーゼ、ヘリカーゼ、リガーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、ポリメラーゼ、エンドヌクレアーゼ)およびその関連する因子および改変剤を含む。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2013/0253040号を参照されたい。
【0110】
活性化を達成するために適したドメインとしては、HSV VP16活性化ドメイン(例えば、Hagmann et al. (1997) J. Virol. 71:5952-5962を参照されたい)核内ホルモン受容体(例えば、Torchia et al. (1998) Curr. Opin. Cell. Biol. 10:373-383を参照されたい);核内因子カッパBのp65サブユニット(Bitko & Barik (1998) J. Virol. 72:5610-5618 and Doyle & Hunt (1997) Neuroreport 8:2937-2942; Liu et al. (1998) Cancer Gene Ther. 5:3-28)、または人工キメラ機能的ドメイン、例えばVP64(Beerli et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14623-33)、およびデグロン(Molinari et al. (1999) EMBO J. 18:6439-6447)が挙げられる。追加の例示的な活性化ドメインとしては、Oct1、Oct-2A、Sp1、AP-2、およびCTF1(Seipel et al. (1992) EMBO J. 11:4961-4968)、ならびにp300、CBP、PCAF、SRC1 PvALF、AtHD2A、およびERF-2が挙げられる。例えば、Robyr et al. (2000) Mol. Endocrinol. 14:329-347; Collingwood et al. (1999) J. Mol. Endocrinol. 23:255-275; Leo et al. (2000) Gene 245:1-11; Manteuffel-Cymborowska (1999) Acta Biochim. Pol. 46:77-89; McKenna et al. (1999) J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 69:3-12; Malik et al. (2000) Trends Biochem. Sci. 25:277-283; and Lemon et al. (1999) Curr. Opin. Genet. Dev. 9:499-504を参照されたい。追加の例示的な活性化ドメインとしては、これらに限定されないが、OsGAI、HALF-1、C1、AP1、ARF-5、-6、-7、および-8、CPRF1、CPRF4、MYC-RP/GP、およびTRAB1が挙げられる。例えば、Ogawa et al. (2000) Gene 245:21-29; Okanami et al. (1996) Genes Cells 1:87-99; Goff et al. (1991) Genes Dev. 5:298-309; Cho et al. (1999) Plant Mol. Biol. 40:419-429; Ulmason et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:5844-5849; Sprenger-Haussels et al. (2000) Plant J. 22:1-8; Gong et al. (1999) Plant Mol. Biol. 41:33-44; and Hobo et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:15,348-15,353を参照されたい。
【0111】
例示的な抑制性ドメインとしては、これらに限定されないが、KRAB A/B、KOX、TGF-ベータ誘導可能初期遺伝子(TIEG)、v-erbA、SID、MBD2、MBD3、DNMTファミリーメンバー(例えば、DNMT1、DNMT3A、DNMT3B)、Rb、およびMeCP2が挙げられる。例えば、Bird et al. (1999) Cell 99:451-454; Tyler et al. (1999) Cell 99:443-446; Knoepfler et al. (1999) Cell 99:447-450; and Robertson et al. (2000) Nature Genet. 25:338-342を参照されたい。追加の例示的な抑制性ドメインとしては、これらに限定されないが、ROM2およびAtHD2Aが挙げられる。例えば、Chem et al. (1996) Plant Cell 8:305-321; and Wu et al. (2000) Plant J. 22:19-27を参照されたい。
【0112】
融合分子は、当業者に周知のクローニングおよび生化学コンジュゲーションの方法によって構築される。融合分子は、DNA結合ドメインおよび機能的ドメイン(例えば、転写活性化または抑制ドメイン)を含む。融合分子はまた、必要に応じて、核局在化シグナル(例えば、SV40中等度T抗原を形成するもの)およびエピトープタグ(例えば、FLAGおよびヘマグルチニン)を含む。融合タンパク質(およびそれらをコードする核酸)は、翻訳読み取り枠が融合体の成分の間で保存されるように設計される。
【0113】
一方で機能的ドメイン(またはその機能的断片)のポリペプチド成分と他方での非タンパク質DNA結合ドメイン(例えば、抗生物質、インターカレート剤、副溝結合剤、核酸)との間の融合は、当業者に公知の生化学的なコンジュゲーションの方法によって構築される。例えば、Pierce Chemical Company(Rockford,IL)のカタログを参照されたい。副溝結合剤とポリペプチドとの間の融合体を作製する方法および組成物が記載されている。Mapp et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:3930-3935。
【0114】
融合分子は、当業者に公知であるように薬学的に許容される担体と共に製剤化され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1985;および共同所有の国際特許出願WO00/42219号を参照されたい。
【0115】
融合分子の機能的成分/ドメインは、融合分子がそのDNA結合ドメインを介して標的配列に結合すると、遺伝子の転写に影響を及ぼすことが可能な様々な異なる成分のいずれかから選択することができる。したがって、機能的成分は、これらに限定されないが、様々な転写因子ドメイン、例えばアクチベーター、リプレッサー、コアクチベーター、コリプレッサー、およびサイレンサーを含み得る。
【0116】
ある特定の実施形態では、融合分子は、ZFPが転写リプレッサードメインに作動可能に連結された1つまたは複数のZFP-TF(リプレッサー)を含む。抑制性ドメインの非制限的な例としては、KOX(KRAB)ドメイン等が挙げられる。追加の要素、例えばNLSを含んでもよく、ジンクフィンガードメイン間および/またはZFPと抑制性ドメイン(および/または任意の追加のエレメント)との間で任意のリンカーを使用してもよい。これらのZFP-TFリプレッサーをコードするポリヌクレオチドはまた、さらに追加のエレメント、例えばZFP-TFの発現を駆動するプロモーター、エンハンサー、インスレーター等を含み得る。
【0117】
表3は、本明細書に記載されるZFPを含む例示的なZFP-TF(最初の列の名称によって同定される)のポリヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示す。認識ヘリックス領域配列(表1)を表3において下線で示し、NLSペプチドを太字で示し、抑制性ドメインをイタリック体で示す。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0118】
本明細書に記載されるリプレッサーをコードするポリヌクレオチドは、これらに限定されないが、ウイルスベクター(例えば、AAV、Ad等)、および非ウイルスベクター(例えば、mRNA、プラスミド、ミニサークル等)を含む任意の好適な発現ベクターを使用して送達され得る。発現ベクターは、核局在化シグナル(NLS)および/またはリプレッサーの発現を駆動するためのプロモーター(例えば、CMVプロモーターなどの構成的プロモーター)などの追加のエレメントを含み得る。同じまたは異なる形態(例えば、ウイルスおよび/または非ウイルスベクター)の1つまたは複数のポリヌクレオチド(例えば、発現ベクター)を対象に送達し、1つまたは複数の医薬組成物に製剤化してもよい。本明細書に記載されるポリヌクレオチドは、エピソームによって(染色体外で)維持されてもよく、および/または送達後細胞に安定に組み込まれてもよい。
【0119】
ある特定の実施形態では、融合タンパク質は、DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼドメインを含み、その操作された(ZFPまたはTALE)DNA結合ドメインを通してその意図される核酸標的を認識することができる機能的実体を作り出し、ヌクレアーゼ活性を介してDNA結合部位の近傍でDNAを切断させるヌクレアーゼ(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはTALEヌクレアーゼ)を作り出すことができる。
【0120】
したがって、本明細書に記載される方法および組成物は、広範囲に適用可能であり、目的の任意のヌクレアーゼを含み得る。ヌクレアーゼの非限定的な例としては、メガヌクレアーゼ、TALENおよびジンクフィンガーヌクレアーゼが挙げられる。ヌクレアーゼは、異種DNA結合および切断ドメイン(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ;TALEN;異種切断ドメインを有するメガヌクレアーゼDNA結合ドメイン)を含んでいてもよく、あるいは、天然に存在するヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、選択された標的部位(例えば、コグネート結合部位と異なる部位に結合するように操作されたメガヌクレアーゼ)に結合するように変更されてもよい。
【0121】
ヌクレアーゼドメインは、任意のヌクレアーゼ、例えば任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼに由来し得る。本明細書に記載されるHTT DNA結合ドメインに融合され得る好適なヌクレアーゼ(切断)ドメインの非制限的な例としては、任意の制限酵素、例えばIIS型制限酵素(例えば、FokI)からのドメインが挙げられる。ある特定の実施形態では、切断ドメインは、切断活性のために二量体化を必要とする切断ハーフドメインである。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,586,526号;同第8,409,861号;および同第7,888,121号を参照されたい。一般的に、融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合、2つの融合タンパク質が切断に必要である。あるいは、2つの切断ハーフドメインを含む単一のタンパク質を使用してもよい。2つの切断ハーフドメインは、同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的な断片)由来であってもよく、各切断ハーフドメインは、異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的な断片)由来であってもよい。加えて、2つの融合タンパク質のための標的部位は、好ましくは、2つの融合タンパク質のそれらそれぞれの標的部位への結合によって、切断ハーフドメインが例えば二量体化により機能的な切断ドメインを形成することが可能な空間的な配向で互いに切断ハーフドメインが配列されるように互いに配置される。
【0122】
ヌクレアーゼドメインはまた、切断活性を有する任意のメガヌクレアーゼ(ホーミングエンドヌクレアーゼ)ドメインに由来してもよく、同様に、これらに限定されないが、I-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevII、およびI-TevIIIを含む、本明細書に記載されるヌクレアーゼと共に使用され得る。
【0123】
ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、compact TALEN(cTALEN)を含む。これらは、TevIヌクレアーゼドメインにTALE DNA結合ドメインを連結させる一本鎖融合タンパク質である。融合タンパク質は、TALE領域によって局在化されるニッカーゼとして作用し得るか、またはTALE DNA結合ドメインがメガヌクレアーゼ(例えば、TevI)ヌクレアーゼドメインに関してどこに位置するかに応じて二本鎖切断を作り出すことができる(Beurdeley et al. (2013) Nat Comm 4:1762, doi:10.1038/ncomms2782を参照されたい)。他の実施形態では、TALEヌクレアーゼはメガTALである。これらのメガTALヌクレアーゼは、TALE DNA結合ドメインおよびメガヌクレアーゼ切断ドメインを含む融合タンパク質である。メガヌクレアーゼ切断ドメインは、単量体として活性であり、活性のために二量体化を必要としない(Boissel et al. (2013) Nucl Acid Res 42(4):2591-601, doi:10.1093/nar/gkt1224を参照されたい)。
【0124】
加えて、メガヌクレアーゼのヌクレアーゼドメインはまた、DNA結合機能性も示し得る。任意のTALENを、追加のTALEN(例えば、1つまたは複数のTALEN(cTALENまたはFokI-TALEN)を1つまたは複数のメガ-TALと共に)および/またはZFNと組み合わせて使用してもよい。
【0125】
加えて、切断ドメインは、例えばオフターゲット切断効果を低減させるまたは除去する絶対ヘテロ二量体の形成のために、野生型と比較して1つまたは複数の変更を含み得る。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,914,796号;同第8,034,598号;および同第8,623,618号を参照されたい。
【0126】
本明細書に記載されるヌクレアーゼは、二本鎖標的(例えば、遺伝子)において二本鎖または一本鎖切断を生成し得る。一本鎖切断(「ニック」)の生成は、例えば参照により本明細書に組み込まれ、ヌクレアーゼドメインの1つの触媒ドメインの変異がどのようにニッカーゼをもたらすかを記載する、米国特許第8,703,489号に記載されている。
【0127】
したがって、ヌクレアーゼ(切断)ドメインまたは切断ハーフドメインは、切断活性を保持する、または多量体化して(例えば、二量体化して)機能的な切断ドメインを形成する能力を保持するタンパク質の任意の部分であってもよい。
【0128】
あるいは、ヌクレアーゼは、いわゆる「スプリット酵素」技術を使用して、in vivoにおいて核酸標的部位で組み立てられてもよい(例えば米国特許公開第2009/0068164号を参照)。このようなスプリット酵素の成分は、別々の発現構築物で発現させてもよく、または例えば自己切断2AペプチドまたはIRES配列によって個々の成分が離れている1つのオープンリーディングフレーム中で連結させることができる。成分は、個々のジンクフィンガー結合ドメインまたはメガヌクレアーゼ核酸結合ドメインのドメインであり得る。
【0129】
ヌクレアーゼは、例えば米国特許公開第2009/0111119号に記載されたような酵母ベースの染色体系で、使用前に、活性に関してスクリーニングすることができる。ヌクレアーゼ発現構築物は、当業界において公知の方法を使用して容易に設計することができる。
【0130】
融合タンパク質の発現は、構成的プロモーターまたは誘導型プロモーター、例えばラフィノースおよび/またはガラクトースの存在下で活性化され(脱抑制され)、グルコースの存在下で抑制されるガラクトキナーゼプロモーターの制御下にあり得る。ある特定の実施形態では、プロモーターは、融合タンパク質の発現を、例えば高親和性結合部位を含むことを介して自己調節する。例えば米国特許第9,624,498号を参照されたい。
送達
【0131】
タンパク質および/またはポリヌクレオチド(例えば、HTTリプレッサー)ならびに本明細書に記載されるタンパク質および/またはポリヌクレオチドを含む組成物は、例えばタンパク質の注射によって、mRNAを介して、および/または発現構築物(例えば、プラスミド、レンチウイルスベクター、AAVベクター、Adベクター等)を使用することを含む任意の好適な手段によって標的細胞に送達され得る。好ましい実施形態では、リプレッサーは、AAV9またはAAV6を使用して送達される。
【0132】
本明細書に記載されるジンクフィンガータンパク質を含むタンパク質を送達する方法は、例えば、米国特許第6,453,242号;同第6,503,717号;同第6,534,261号;同第6,599,692号;同第6,607,882号;同第6,689,558号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;および同第7,163,824号に記載されており、これらの全ての開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0133】
これらに限定されないが、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターなどを含む任意のベクター系を使用することができる。参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,586,526号;同第6,534,261号;同第6,607,882号;同第6,824,978号;同第6,933,113号;同第6,979,539号;同第7,013,219号;および同第7,163,824号も参照されたい。さらに、これらのベクターのいずれも、1つまたは複数のDNA結合タンパク質をコードする配列を含んでいてもよいことが明らかである。したがって、1つまたは複数のHTTリプレッサーが細胞に導入されるとき、タンパク質成分をコードする配列および/またはポリヌクレオチド成分は、同じベクターに、または異なるベクターに担持されてもよい。複数のベクターが使用される場合、各ベクターが、1つのまたは複数HTTリプレッサーまたはその成分をコードする配列を含んでいてもよい。
【0134】
従来のウイルスおよび非ウイルスベースの遺伝子移入方法を使用して、細胞(例えば、哺乳動物細胞)および標的組織中に操作されたHTTリプレッサーをコードする核酸を導入することができる。このような方法は、in vitroでそのようなリプレッサー(またはその成分)をコードする核酸を細胞に投与することにも使用できる。ある特定の実施形態では、リプレッサーをコードする核酸は、in vivoまたはex vivoでの遺伝子療法での使用のために投与される。非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、裸の核酸、およびリポソームまたはポロキサマーなどの送達ビヒクルと複合体化した核酸が挙げられる。ウイルスベクター送達系としては、細胞への送達の後にエピソームのまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有するDNAおよびRNAウイルスが挙げられる。遺伝子療法手順の総説については、Anderson, (1992) Science 256:808-813;Nabel & Felgner, (1993) TIBTECH 11:211-217;Mitani & Caskey, (1993) TIBTECH 11:162-166;Dillon, (1993) TIBTECH 11:167-175;Miller,0 (1992) Nature 357:455-46;Van Brunt, (1988) Biotechnology 6(10):1149-1154;Vigne, (1995) Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36;Kremer & Perricaudet, (1995) British Medical Bulletin 51(1):31-44;Haddada et al., in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Boehm (eds.) (1995);およびYu et al., (1994) Gene Therapy 1:13-26を参照されたい。
【0135】
核酸の非ウイルス送達の方法としては、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNA、裸のRNA、人工ビリオン、およびDNAの作用物質増強取り込み(agent-enhanced uptake)が挙げられる。例えば、Sonitron 2000システム(Rich-Mar)を使用するソノポレーションも核酸の送達に使用することができる。好ましい実施形態では、1つまたは複数の核酸は、mRNAとして送達される。翻訳効率および/またはmRNA安定性を増加させるためのキャップされたmRNAの使用も好ましい。特に好ましくは、ARCA(anti-reverse cap analog;アンチリバースキャップアナログ)キャップまたはそれらのバリアントである。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,074,596号および同第8,153,773号を参照されたい。
【0136】
追加の例示的な核酸送達系としては、Amaxa Biosystems(Cologne、Germany)、Maxcyte,Inc.(Rockville、Maryland)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston、MA)およびCopernicus Therapeutics Incによって提供されるものが挙げられる(例えばUS特許6,008,336を参照)。リポフェクションは、例えば、US特許5,049,386、4,946,787;および4,897,355に記載されており、リポフェクション試薬は、商業的に販売されている(例えば、Transfectam(商標)、およびLipofectin(商標)、およびLipofectamine(商標)RNAiMAX)。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適なカチオン性および中性脂肪としては、Felgner、国際特許公開WO91/17424、およびWO91/16024のものが挙げられる。送達は、細胞(ex vivo投与)または標的組織(in vivo投与)への送達であってもよい。
【0137】
標的化されたリポソームを含む脂質:核酸複合体、例えばイムノリピド(immunolipid)複合体の調製は当業者に周知である(例えば、Crystal, (1995) Science 270:404-410;Blaese et al., (1995) Cancer Gene Ther. 2:291-297;Behr et al., (1994) Bioconjugate Chem. 5:382-389;Remy et al., (1994) Bioconjugate Chem. 5:647-654;Gao et al., (1995) Gene Therapy 2:710-722;Ahmad et al., (1992) Cancer Res. 52:4817-4820;米国特許第4,186,183号、同第4,217,344号、同第4,235,871号、同第4,261,975号、同第4,485,054号、同第4,501,728号、同第4,774,085号、同第4,837,028号、および同第4,946,787号を参照)。
【0138】
追加の送達方法としては、送達しようとする核酸のEnGeneIC送達ビヒクル(EDV)へのパッケージングの使用が挙げられる。これらのEDVは、二重特異性抗体を使用して標的組織に特異的に送達され、抗体の一方のアームは、標的組織に対する特異性を有し、他方のアームは、EDVに対する特異性を有する。抗体は、EDVを標的細胞表面に運び、次いでEDVがエンドサイトーシスによって細胞に持ち込まれる。細胞中に入ると、内容物が放出される(MacDiarmid et al (2009) Nature Biotechnology 27(7) 643を参照)。
【0139】
操作されたZFP、TALEまたはCRISPR/Cas系をコードする核酸の送達のためのRNAまたはDNAウイルスベースの系の使用は、ウイルスを体内の特定の細胞に標的化する、およびウイルスペイロードを核にトラフィッキングするための高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接投与してもよく(in vivo)、ウイルスベクターを使用して、in vitroで細胞を処置してもよく、改変された細胞が患者に投与される(ex vivo)。ZFP、TALEまたはCRISPR/Cas系の送達のための従来のウイルスベースの系としては、これらに限定されないが、遺伝子移入のための、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴、ワクシニアおよび単純疱疹ウイルスベクターが挙げられる。宿主ゲノム中での組み込みは、レトロウイルス、レンチウイルス、およびアデノ随伴ウイルス遺伝子移入方法を用いて可能であり、これは、挿入された導入遺伝子の長期にわたる発現をもたらすことが多い。加えて、高い形質導入効率が多くの様々な細胞型および標的組織で観察された。
【0140】
レトロウイルスの向性は、外来性エンベロープタンパク質を取り入れ、標的細胞の潜在的な標的集団を拡張することによって変更することができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に形質導入するかまたは感染することができるレトロウイルスベクターであり、典型的には、高いウイルス力価を生じる。レトロウイルス遺伝子移入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、最大6~10kbの外来性配列のためのパッケージング能力を有するシス作用性長末端反復で構成される。最小限のシス作用性LTRが、ベクターの複製およびパッケージングに十分であり、これは次いで、治療用遺伝子を標的細胞に組み込んで永続的な導入遺伝子発現を提供するのに使用される。広く使用されるレトロウイルスベクターとしては、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に基づくもの、およびそれらの組合せが挙げられる(例えば、Buchscher et al., (1992) J. Virol. 66:2731-2739;Johann et al., (1992) J. Virol. 66:1635-1640;Sommerfelt et al., (1990) Virol. 176:58-59;Wilson et al., (1989) J. Virol. 63:2374-2378;Miller et al., (1991) J. Virol. 65:2220-2224;国際特許公開WO94/26877を参照)。
【0141】
一過性発現が好ましい適用において、アデノウイルスベースの系を使用することができる。アデノウイルスベースベクターは、多くの細胞型で非常に高い形質導入効率を可能にし、細胞分裂を必要としない。このようなベクターを用いて、高い力価および高いレベルの発現が得られている。このベクターは、比較的単純な系で大量に産生することができる。アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターは、例えば、核酸およびペプチドのin vitroの産生において、ならびにin vivoおよびex vivoでの遺伝子療法手順のために細胞を標的核酸で形質導入することにも使用される(例えば、West et al., (1987) Virology 160:38-47;米国特許第4,797,368号;国際特許公開WO93/24641;Kotin, (1994) Human Gene Therapy 5:793-801;Muzyczka, (1994) J. Clin. Invest. 94:1351を参照。組換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号;Tratschin et al., (1985) Mol. Cell. Biol. 5:3251-3260;Tratschin, et al., (1984) Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081;Hermonat & Muzyczka, (1984) PNAS 81:6466-6470;およびSamulski et al., (1989) J. Virol. 63:03822-3828を含むいくつかの出版物に記載されている。
【0142】
臨床試験における遺伝子移入のために、少なくとも6つのウイルスベクターアプローチが現在利用可能であり、これらは、ヘルパー細胞系に挿入された遺伝子によって不完全なベクターを補完し、形質導入剤を生成することを含むアプローチを利用する。
【0143】
pLASNおよびMFG-Sは、臨床試験で使用されてきたレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al., (1995) Blood 85:3048-305;Kohn et al., (1995) Nat. Med. 1:1017-102;Malech et al., (1997) PNAS 94:22 12133-12138)。PA317/pLASNは、遺伝子療法試験で使用された最初の治療用ベクターであった。(Blaese et al., (1995) Science 270:475-480)。MFG-Sをパッケージングしたベクターの場合、50%またはそれよりも大きい形質導入効率が観察されている。(Ellem et al., (1997) Immunol Immunother. 44(1) :10-20;Dranoff et al., (1997) Hum. Gene Ther. 1:111-2)。
【0144】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、不完全で非病原性のパルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスに基づく有望な代替遺伝子送達系である。全てのベクターは、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAVの145bpの逆位末端反復のみを保持するプラスミド由来である。形質導入される細胞のゲノムへの組み込みによる効率的な遺伝子移入および安定な導入遺伝子送達が、このベクター系の主要な特色である。(Wagner et al., (1998) Lancet 351:9117 1702-3, Kearns et al., (1996) Gene Ther. 9:748-55)。AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV8.2、AAV9およびAAVrh10ならびにシュードタイプAAV、例えばAAV2/8、AAV2/5およびAAV2/6を含む他のAAV血清型も、本発明に従って使用することができる。好ましい実施形態では、AAV9またはAAV6のカプシドが使用される。
【0145】
複製欠損型組換えアデノウイルスベクター(Ad)を高い力価で産生し、いくつかの異なる細胞型に容易に感染させることができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAd E1a、E1b、および/またはE3遺伝子を置き換えるように操作されており、その後、複製欠損ベクターは、欠失した遺伝子機能をトランスで供給するヒト293細胞中で増える。Adベクターは、in vivoで、非分裂性の分化細胞、例えば肝臓、腎臓および筋肉に見出されるものを含むなどの複数のタイプの組織に形質導入することができる。従来のAdベクターは、大きい運搬能力を有する。臨床試験におけるAdベクターの使用の例は、筋肉内注射での抗腫瘍免疫のためのポリヌクレオチド療法を伴うものであった(Sterman et al., (1998) Hum. Gene Ther. 7:1083-9)。臨床試験における遺伝子移入のためのアデノウイルスベクターの使用の追加の例としては、Rosenecker et al., (1996) Infection 24:1 5-10;Sterman et al., (1998) Hum. Gene Ther. 9:7 1083-1089;Welsh et al., (1995) Hum. Gene Ther. 2:205-18;Alvarez et al., (1997) Hum. Gene Ther. 5:597-613;Topf et al., (1998) Gene Ther. 5:507-513;Sterman et al., (1998) Hum. Gene Ther. 7:1083-1089が挙げられる。
【0146】
パッケージング細胞は、宿主細胞に感染することが可能なウイルス粒子を形成するのに使用される。このような細胞としては、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が挙げられる。遺伝子療法で使用されるウイルスベクターは通常、核酸ベクターをウイルス粒子にパッケージングするプロデューサー細胞系によって生成される。ベクターは、典型的には、パッケージングおよびそれに続く宿主への組み込み(適切な場合)に必要な最小のウイルス配列を含有し、他のウイルス配列は、発現させようとするタンパク質をコードする発現カセットによって置き換えられている。失われたウイルス機能は、パッケージング細胞系によってトランスで供給される。例えば、遺伝子療法で使用されるAAVベクターは、AAV複製タンパク質が存在する場合には、典型的には、パッケージングおよび宿主ゲノムへの組み込みに必要なAAVゲノム由来の逆位末端反復(ITR)配列のみを有する。ウイルス遺伝子は、他のAAV遺伝子、すなわちrepおよびcapをコードするがITR配列を欠くヘルパープラスミドを含有する細胞系中にトランスで補充される。細胞系も、ヘルパーとしてのアデノウイルスで感染させる。ヘルパーウイルスは、AAVゲノムの複製およびヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列の欠如のために相当量でパッケージングされない。アデノウイルスでの汚染は、例えば、AAVよりもアデノウイルスが感受性を示す熱処理によって低減することができる。
【0147】
多くの遺伝子療法適用において、遺伝子療法用ベクターが特定の組織タイプに対して高度な向性で送達されることが望ましい。したがって、ウイルスの外面上のウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現することによって所与の細胞型に対して向性を有するように、ウイルスベクターを改変してもよい。リガンドは、目的の細胞型に存在することがわかっている受容体に対して親和性を有するように選択される。例えば、Han et al., (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:9747-9751は、モロニーマウス白血病ウイルスは、gp70に融合したヒトヘレグリンを発現するように改変することができ、組換えウイルスは、ヒト上皮成長因子受容体を発現するある特定のヒト乳がん細胞に感染することを報告した。この原理は、標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する他のウイルス標的細胞の対に拡張することができる。例えば、線状ファージは、実質的に全ての選択された細胞受容体に対して特異的な結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を提示するように操作することができる。上の記載は主としてウイルスベクターに適用されるが、同じ原理を非ウイルスベクターに適用することができる。このようなベクターは、特定の標的細胞による取込みに有利な特定の取り込み配列を含有するように操作することができる。
【0148】
遺伝子療法用ベクターは、典型的には、後述するように、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、または頭蓋内注入、脳への直接注射を含む)または局所的適用による個々の患者への投与によって、in vivoで送達することができる。あるいは、ベクターは、ex vivoで、個々の患者からの体外培養した細胞(例えば、リンパ球、骨髄穿刺液、組織生検)またはユニバーサルドナー造血幹細胞などの細胞に送達することができ、続いて細胞は、通常ベクターを取り込んだ細胞の選択の後に、患者に再び埋め込まれる。
【0149】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される組成物(例えば,ポリヌクレオチドおよび/またはタンパク質)は、in vivoで直接送達される。組成物(細胞、ポリヌクレオチド、および/またはタンパク質)は、これらに限定されないが、脳または脊髄への直接注射を含む中枢神経系(CNS)に直接投与され得る。これらに限定されないが、海馬、黒質、マイネルト基底核(NBM)、線条体、および/または新皮質を含む、脳の1つまたは複数の領域を標的化してもよい。あるいはまたはCNS送達に加えて、組成物は全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、心臓内、筋肉内、髄腔内、皮下、および/または頭蓋内注入)され得る。本明細書に記載される組成物を対象に直接(CNSに直接を含む)送達するための方法および組成物としては、これらに限定されないが、ニードルアセンブリを介しての直接注射(例えば、定位注射)が挙げられる。そのような方法は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、脳への組成物(発現ベクターを含む)の送達に関する米国特許第7,837,668号;同第8,092,429号、および米国特許出願公開第2006/0239966号に記載されている。
【0150】
投与される有効量は、患者ごとにおよび投与様式および投与部位に従って変化し得る。したがって、有効量は当業者によって決定され得る。リプレッサーの発現にとって十分な期間の後(例えば、典型的に4~15日)、治療ポリペプチドの血清または他の組織レベルの分析および投与前の初回レベルとの比較により、投与される量が低すぎるか否か、正しい範囲内にあるか、または高すぎるかが決定される。ある特定の実施形態では、AAVなどのウイルスベクターを使用する場合、投与される用量は、1×107~5×1015vg/mlの間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×1011~1×1014vg/mlの間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×1012~1×1013vg/mlの間(またはその間の任意の値)である。AAVの投薬量はまた、1×107~5×1015vg/kgもしくはvg/線条体の間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×107~1×1013vg/kgもしくはvg/線条体の間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×108~1×1012vg/kgもしくはvg/線条体の間(またはその間の任意の値)の任意の投薬量を含む、対象のキログラムあたりまたは線条体あたりで投与され得る。
【0151】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを使用してZFPをヒト脳に直接送達するために、1×107~5×1015vg/mL(例えば1×1011~1×1014vg/mlの間のいずれか、または1×1012~1×1013vg/mLの間のいずれかを含むその間の任意の値)ベクターゲノム/線条体の間の用量範囲を適用することができる。1×107~5×1015vg/kgもしくはvg/線条体(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×107~1×1013vg/kgもしくはvg/線条体の間(またはその間の任意の値)、さらにより好ましくは1×108~1×1012vg/kgもしくはvg/線条体の間(またはその間の任意の値)の用量範囲を適用することができる。指摘したように、投薬量は、他の脳の構造および異なる送達プロトコールに関して変化し得る。rAAVベクターを脳に直接送達する方法は、当業界において公知である。例えば、米国特許第9,089,667号:同第9,050,299号:同第8,337,458号:同第8,309,355号:同第7,182,944号:同第6,953,575号:および同第6,309,634号を参照されたい。
【0152】
診断、研究、または遺伝子治療のためのex vivo細胞トランスフェクション(例えば、トランスフェクトした細胞の宿主生物への再注入を介して)は、当業者に周知である。好ましい実施形態では、細胞は、少なくとも1つのHTTリプレッサーまたはその成分をトランスフェクトされた対象生物から単離され、対象生物(例えば、患者)に再注入される。好ましい実施形態では、HTTリプレッサーの1つまたは複数の核酸は、AAV9を使用して送達される。他の実施形態では、HTTリプレッサーの1つまたは複数の核酸は、mRNAとして送達される。翻訳効率および/またはmRNA安定性を増加させるためのキャップされたmRNAの使用も好ましい。特に好ましくは、ARCA(anti-reverse cap analog;アンチリバースキャップアナログ)キャップまたはそれらのバリアントである。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,074,596号および同第8,153,773号を参照されたい。ex vivoでのトランスフェクションに好適な様々な細胞型が当業者に周知である(例えば、どのように患者から細胞を単離および培養するかの考察に関して、Freshney et al., Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique (3rd ed. 1994)およびそこで引用された文献を参照)。
【0153】
一実施形態では、細胞トランスフェクションおよび遺伝子療法のためのex vivoの手順で、幹細胞が使用される。幹細胞を使用する利点は、それらがin vitroで他の細胞型に分化することができる、または哺乳動物(例えば細胞のドナー)に導入することができることであり、それらは骨髄に移植される。GM-CSF、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインを使用してin vitroでCD34+細胞を臨床的に重要な免疫細胞型に分化させるための方法が公知である(Inaba et al., (1992) J. Exp. Med. 176:1693-1702を参照)。
【0154】
幹細胞は、公知の方法を使用して、形質導入および分化のために単離される。例えば、幹細胞は、望まれない細胞、例えばCD4+およびCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR-1(顆粒細胞)、ならびにIad(分化した抗原提示細胞)に結合する抗体で骨髄細胞をパニングすることによって、骨髄細胞から単離される(Inaba et al., (1992) J. Exp. Med. 176:1693-1702を参照)。
【0155】
一部の実施形態では、改変された幹細胞も使用することができる。例えば、アポトーシスに対する耐性が付与された神経幹細胞が、治療用組成物として使用することができ、幹細胞も本発明のZFP TFを含有する。アポトーシスに対する耐性は、例えば、幹細胞においてBAXもしくはBAK特異的TALENまたはZFNを使用してBAXおよび/もしくはBAKをノックアウトすることによって(米国特許第8,597,912号を参照)、またはここでも例えばカスパーゼ-6特異的なZFNを使用してカスパーゼにおいて破壊されているものによって、生じ得る。これらの細胞に、変異体または野生型HTTを調節することが公知であるZFP TFまたはTALE TFをトランスフェクトすることができる。
【0156】
治療用ZFP核酸を含有するベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)は、in vivoでの細胞の形質導入のために、生物に直接投与することもできる。あるいは、裸のDNAを投与してもよい。投与は、これらに限定されないが、注射、注入、局所的適用およびエレクトロポレーションを含む、最終的な血液または組織細胞との接触に分子を導くのに通常使用される経路のいずれかによる。このような核酸を投与する好適な方法は利用可能で、当業者に周知であり、特定の組成物を投与するのに1つよりも多くの経路を使用することができるが、特定の経路が、別の経路よりも即時かつ有効な反応を提供できることが多い。
【0157】
造血幹細胞へのDNAの導入のための方法は、例えば、米国特許第5,928,638号に開示されている。造血幹細胞、例えばCD34+細胞に導入遺伝子を導入するのに有用なベクターとしては、アデノウイルス35型が挙げられる。
【0158】
免疫細胞(例えば、T細胞)への導入遺伝子の導入に好適なベクターとしては、非組み込み型レンチウイルスベクターが挙げられる。例えば、Naldini et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:11382-11388;Dull et al. (1998) J. Virol. 72:8463-8471;Zuffery et al. (1998) J. Virol. 72:9873-9880;Follenzi et al. (2000) Nature Genetics 25:217-222を参照されたい。
【0159】
薬学的に許容される担体は、部分的に、投与される特定の組成物によって、ならびに組成物を投与するのに使用される特定の方法によって決定される。したがって、後述するように、利用可能な医薬組成物の多種多様の好適な製剤がある(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1989を参照)。
【0160】
上述したように、開示された方法および組成物は、これらに限定されないが、原核細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞を含む任意のタイプの細胞で使用することができる。タンパク質発現のための好適な細胞系は、当業者に公知であり、これらに限定されないが、COS、CHO(例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、perC6、昆虫細胞、例えばSpodoptera fugiperda(Sf)、ならびに真菌細胞、例えばSaccharomyces、PischiaおよびSchizosaccharomycesが挙げられる。これらの細胞系の後代、変種および派生物も使用することができる。好ましい実施形態では、方法および組成物は、脳細胞、例えば線条体に直接送達される。
応用
【0161】
本明細書で記載されるHTT結合分子(例えば、ZFP、TALE、CRISPR/Cas系、Ttago等)、およびそれらをコードする核酸は、様々な応用のために使用することができる。これらの応用は、HTT結合分子(DNA結合タンパク質をコードする核酸を含む)が対象(例えば、AAV9などのAAV)に投与され、対象内で標的遺伝子(したがってタンパク質)の発現をモジュレートするために使用される治療方法を含む。モジュレーションは、抑制の形態、例えばHD疾患状態に寄与しているmHTTの抑制であり得る。あるいは、モジュレーションは、内因性の細胞遺伝子の発現の活性化または発現の増加が疾患状態を改善することができる場合、活性化の形態であり得る。なおさらなる実施形態では、モジュレーションは、例えば変異体HTT遺伝子を不活化するための切断(例えば、1つまたは複数のヌクレアーゼによる)であり得る。上記のように、そのような応用に関して、HTT結合分子またはより典型的にはそれらをコードする核酸は、医薬組成物として薬学的に許容される担体と共に製剤化される。
【0162】
HTT結合分子またはそれらをコードするベクターを、単独でまたは他の適した成分(例えば、リポソーム、ナノ粒子、または当業界において公知の他の成分)と組み合わせて、吸入を介して投与されるエアロゾル製剤に作製することができる(すなわち、それらを「噴霧化」することができる)。エアロゾル製剤は、加圧された許容される噴射剤、例えばジクロロフルオロメタン、プロパン、窒素等の下に置くことができる。非経口投与、例えば、静脈内、筋肉内、皮内、および皮下経路にとって好適な製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の等張滅菌注射液、ならびに懸濁剤、溶解剤、濃化剤、安定剤、および保存剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。化合物は、例えば、静脈内注入、経口、局所、腹腔内、膀胱内、頭蓋内、又は髄腔内に投与することができる。化合物の製剤は、アンプルおよびバイアルなどの単一用量または多用量密封容器に提示することができる。注射溶液および懸濁液は、すでに記載された種類の滅菌粉末、顆粒剤、および錠剤から調製することができる。
【0163】
患者に投与される用量は、患者における有益な治療応答に経時的に影響を及ぼすために十分でなければならない。用量は、使用される特定のHTT結合分子の有効性およびKd、標的細胞、および患者の状態、ならびに処置される患者の体重または体表面積によって決定される。用量のサイズは、特定の患者における特定の化合物またはベクターの投与に伴う任意の有害な副作用の存在、性質、および程度によって決定される。
【0164】
有益な治療応答は、いくつかの方法で測定することができる。例えば、ハンチントン病関連運動障害、例えば不随意のけいれんまたはもがくような動き、筋肉の障害、例えば強直または筋拘縮(ジストニア)、遅いまたは異常な眼球運動、歩行、姿勢、および平衡の障害、言語の物的生産困難または嚥下困難、ならびに随意運動の障害の改善を測定することができる。他の障害、例えば認知障害および精神障害もまた、処置に関連する改善の兆候に関してモニターすることができる。UHDRS尺度を使用して、疾患の臨床特徴を定量することができる。他のバイオマーカー測定もまた、CSFにおけるmHTTの測定を含むアウトカムを決定するために使用することができる。
【0165】
発症前である患者の場合、処置は、HDにおいて広範な神経変性が起こる前に疾患を処置する機会を与えることから特に重要であり得る。この損傷は、上記の明白な症状が発生する前に始まる。HDの病態は、主に線条体中型有棘ニューロンにおける変異体HTTの毒性効果を含む。これらの中型有棘ニューロンは、遺伝子転写因子、神経伝達物質受容体、および電位依存的転写因子に関係するcAMPおよびcGMPシグナル伝達カスケードを調節する高レベルのホスホジエステラーゼ10A(PDE10A)を発現し(Niccolini et al. (2015) Brain 138:3016-3029)、PDE10Aの発現は、HDマウスにおいて低減していること、およびヒトにおける死後の試験でも同じことが見出されることが示されている。最近、PDE10A酵素(例えば11C-IMA107、例えばNiccolini et al.、上記を参照されたい;18FMNI-659、例えばRussell et al. (2014) JAMA Neurol 71(12):1520-1528を参照されたい)のリガンドであるポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)リガンドが開発されており、これらの分子は、発症前のHD患者を評価するために使用されている。試験は、PDE10Aレベルが、症状が発生する前であってもHD患者において変更されていることを示している。このように、PETによるPDE10Aの評価を、本発明の組成物の治療有効性を測定するために処置前、処置の間、および処置後に行うことができる。「治療有効性」は、臨床および分子測定の改善を意味し得て、同様に中型有棘ニューロンの機能の任意のさらなる減少、または有棘ニューロンの喪失の増加、またはHDに関連する明白な臨床提示のさらなる発生からの患者の保護を意味し得る。
【0166】
以下の実施例は、HTTモジュレーターがジンクフィンガータンパク質を含む本開示の例示的な実施形態に関する。これは単に例示目的であり、これらに限定されないが、TALE-TF、CRISPR/Cas系、追加のZFP、ZFN、TALEN、追加のCRISPR/Cas系(例えば、Cfp系)、操作されたDNA結合ドメインを有するホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)を含む、他のHTTモジュレーター(例えば、リプレッサー)を使用することができることが認識される。
【実施例】
【0167】
(実施例1)
mHTTリプレッサー
mHTTに標的化されるジンクフィンガータンパク質は、本質的に米国特許第9,234,016号:同第8,841,260号:同第6,534,261号:米国特許出願公開第2019/0322711号:同第2017/0096460号:同第2015/0056705号:および同第2015/0335708号:および同第2019/0322711に記載されているように操作された。表1は、これらのZFPのDNA結合ドメインの認識ヘリックスを示し、表2はこれらのZFPの標的配列を示す。ZFPを評価して、その標的部位に結合することが示された。
【0168】
ZFPは、KOX抑制ドメインに作動可能に連結して、HTTを抑制するZFP-TFを形成した。表3は、示されたZFP-TFリプレッサーのアミノ酸およびヌクレオチド配列を示す。
【0169】
ZFP TF転写物をヒト細胞(例えば、HD患者に由来する細胞)にトランスフェクトし、HTTおよびmHTT転写物の発現をリアルタイムqRT-PCRを使用してモニターした。ZFP-TFは全て、変異体HTT発現の選択的抑制において有効であることが見出された。ZFP-TFは、プラスミドとして、mRNA型で、Adベクター、レンチウイルスベクターおよび/またはAAVベクター(例えば、AAV9またはAAV6)を含む組換えウイルスベクターにおいて製剤化される場合、機能的リプレッサーである。
(実施例2)
in vitro試験
【0170】
表1および3に示したZFP-TFが、wtHTT対立遺伝子と比較してmHTTの転写を選択的に抑制する能力を、HD患者の線維芽細胞および幹細胞由来ニューロンにおいて評価した。
【0171】
簡単に説明すると、ヒトニューロン幹細胞(CAG17またはCAG48(配列番号23として開示される17および48「CAG」リピート))に、表3のZFP-TFまたはGFPをコードするmRNAの0~1500ng(1500、300、150、または15ng)をトランスフェクトし、wtHTTおよびmHTTのレベルを24時間後にqPCRによって測定した。加えて、HDニューロンに、表3のZFP-TFコード配列を有するAAV6またはGFPを10K~500K(500K、300K、100K、または10K)のMOIで形質導入した。
【0172】
図2に示すように、ZFP-TFは、mHTT発現を有意に抑制し、野生型HTTの抑制は最小限であった。
【0173】
ZFP-TF 45643をさらなる試験のために選択し、導入遺伝子mRNAのHD患者線維芽細胞への一過性のトランスフェクションを実施し、導入遺伝子タンパク質がmHTTおよびwtHTT遺伝子転写を抑制する能力を評価した。GM02151線維芽細胞(CAG18またはCAG45(配列番号23として開示される18または45「CAG」リピート)に、rAAV9-ZFP-TF 45643導入遺伝子またはGFPのいずれかをコードするmRNA 0~1000ngをトランスフェクトし、wtHTTおよびmHTT mRNAのレベルを24時間後にqPCRによって測定した。
【0174】
6つの独立した実験(ダネットの多重比較試験を伴う一元配置ANOVA)からのデータのメタ分析から、導入遺伝子mRNA≧0.3ngをトランスフェクトした細胞においてwtHTT mRNAの有意な低減を伴わないmHTT mRNAの有意な低減(GFPトランスフェクト細胞と比較してp<0.001)が示された。
図5を参照されたい。これらの結果を、2つの追加のHD線維芽細胞株GM04723(CAG15またはCAG67(配列番23として開示される15または67「CAG」リピート))およびND30259(CAG21またはCAG38(配列番号23に開示される21または38「CAG」リピート))において確認した。
【0175】
ニューロンにおけるmHTTの抑制を評価するために、HD患者のES細胞(GENEA020;CAG17またはCAG48(配列番号23として開示される17または48「CAG」リピート))を、ニューロンに分化させ、ZFP-TF 45643導入遺伝子をコードするmRNA 0、15、150、もしくは300ngまたはGFPのいずれかを一過性にトランスフェクトし、wtHTTおよびmHTT mRNAのレベルを48時間後にqPCRによって測定した。ZFP-TF 45643導入遺伝子をコードするmRNAをトランスフェクトしたニューロンは、同等量のGFPを発現するmRNAをトランスフェクトした細胞よりおよそ90%少ないmHTT mRNAを有した。wtHTT mRNAのレベルは、全ての処置群に対して不変であった。
図5を参照されたい。
【0176】
加えて、mHTTおよびwtHTT転写の抑制を、rAAV9-ZFP-TFs 45643を、HD患者ES細胞(GENEA020;CAG17/48(配列番号23として開示される「CAG」リピート))に由来するニューロンに形質導入後17日目に調べた。細胞に、rAAV9-ZFP-TF 45643を、5e4、1e5、5e5、5e6、または1e7vg/細胞で形質導入し、導入遺伝子mRNA、wtHTT、およびmHTT mRNAのレベルを、17日後にqPCRによって測定した。導入遺伝子mRNA/細胞のレベルを、形質導入された細胞数に基づいて概算したところ、2~123コピー/細胞へと用量依存的に増加した。導入遺伝子mRNAのこの用量依存的増加にもかかわらず、mHTTおよびwtHTT mRNAのレベルは、全ての用量で同等であった。mHTTのレベルは、偽またはAAV9-GFP形質導入細胞よりおよそ75%低かったが、wtHTT mRNAのレベルは影響を受けなかった。
【0177】
併せて考慮すると、これらの結果は、本明細書に記載のZFP-TFタンパク質がmHTT対立遺伝子における伸張したCAGリピートを選択的に標的とすることを実証している。さらに、結果は、mHTTの最大の抑制を達成するために、低レベルの導入遺伝子発現で十分であることを示している。
(実施例3)
特異性
【0178】
ゲノムワイドな選択性を、オンターゲットおよびオフターゲット部位に関するマイクロアレイ分析を使用してHD患者の細胞においてin vitroで評価した。オフターゲット遺伝子のサブセットも同様にqPCR分析によって分析した。
【0179】
図4および6に示すように、記載のオフターゲット部位に関して示されるように、ZF-TFは、qPCR分析によって決定した場合にその標的部位に対して高い程度の特異性を示した。
(実施例4)
in vivo試験
【0180】
rAAV9-ZFP-TF 45643のin vivo薬理学を、2つのHDマウスモデル、すなわちR6/2モデルおよびより進行性のQ175モデルを使用して評価した。例えば、Crook & Housman (2011) Neuron 69:423-435を参照されたい。一部の試験では、rAAV9-ZFP-TF 45643を、疾患症状の発生前に投与し、他の試験では、投与は疾患の発症後に行った。これらの試験の全てにおいて、主要評価項目は、mHTT発現の抑制であった。加えて、運動機能および認知機能に及ぼすrAAV9-ZFP-TF 45643の影響もまた一部の試験において評価した。
【0181】
mHTT mRNAおよびタンパク質凝集体に及ぼすrAAV9-ZFP-TF 45643の効果を、加齢Q175マウスモデルにおいて評価した。52/53週齢のQ175マウスに、ビヒクル、rAAV9-ZFP-TF 45643(3e8、3e9、または3e10 VG/線条体)、またはrAAV9-GFP(3e8、3e9、または3e10 VG/線条体)を、定位固定線条体内注射によって投与した。
図13を参照されたい。組織をqPCR分析のために術後8週目に収集し、IHC分析のために術後8または16週目に収集した。
【0182】
さらに、rAAV9-ZFP-TF 45643による処置は、トランスジェニックmRNAの用量依存的増加およびmHTT mRNAの用量依存的減少をもたらした。
図7および8を参照されたい。野生型マウスHTTに及ぼす効果は、rAAV9-GFP処置群において観察された効果と類似であった。細胞質mHTTタンパク質凝集体は、rAAV9-ZFP-TF 45643処置線条体では、ビヒクルまたはrAAV9-GFP処置線条体と比較して減少した。核凝集体に及ぼす効果は、いかなる処置群においても観察されなかった。したがって、rAAV9-ZFP-TF 45643は、Q175マウスモデルにおいて、疾患の発症後に投与した場合に、mHTT転写を抑制し、細胞質mHTT凝集体のレベルを低減させることができる。
【0183】
mHTT mRNA、可溶性mHTTタンパク質、およびmHTT凝集体に及ぼすrAAV9-ZFP-TF 45643の効果を若いQ175マウスにおいて評価した。5週齢のQ175マウスに、rAAV9-ZFP-TF 45643(9.2e9、3.1e10、9.2e10VG/マウス)、またはrAAV9-GFP(5.5e10VG/マウス)を、定位固定の両側の線条体内注射によって投与した。組織を術後11週目にqPCR、ELISA、およびIHC分析のために収集した。
【0184】
処置後33週目でのmHTT mRNA、可溶性mHTTタンパク質、およびmHTT凝集体に及ぼすrAAV9-ZFP-TF 45643の効果を、Q175マウスにおいて評価した。5週齢のQ175マウスに、rAAV9-ZFP-TF 45643(9.2e9、3.1e10、9.2e10VG/マウス)、またはrAAV9-GFP(5.5e10VG/マウス)を、定位固定の両側の線条体内注射によって投与した。運動機能(オープンフィールド、ローターロッド、Carter (1999) J Neurosci. 19(8):3248-3257に記載されるテーパードバランスビーム)を、16/17、26/27、および36/37週齢で評価し、認知機能(FR5/PR)を、28~35週齢で評価した。組織を、術後33週目(38週齢)にqPCR、ELISA、およびIHC分析のために収集した。試験終了時、生存しているマウス(4~6匹/群)の脳を組織病理学のために処理した。
【0185】
mHTT mRNA、可溶性mHTTタンパク質およびmHTT凝集体に及ぼすrAAV9-ZFP-TF 45643の効果を、R6/2マウスにおいて評価した。4週齢のR6/2マウスに、rAAV9-ZFP-TF 45643(9.2e9、3.1e10、9.2e10 VG/マウス)、またはrAAV9-GFP(5.5e10 VG/マウス)を定位固定の両側の線条体内注射によって投与した。運動機能を、5、7、9、および11週齢で評価した。組織を、術後7日目(11週齢)に、qPCR、ELISA、およびIHC分析のために収集した。
【0186】
図7~13に示すように、結果は、rAAV9-ZFP-TF 45643の線条体内注射が、導入遺伝子タンパク質を発現する細胞においてmHTTの合成を抑制することを実証する。特に、
図7および8は、全てのZFP-TF用量(野生型HTT発現レベルに低減がない)でmHTTの統計学的に有意な選択的抑制を示す。
図9は、処置後11週目での線条体および前脳皮質における、ならびに処置後33週目での線条体、前脳皮質、および後脳皮質におけるZFP-TF(全ての投薬量)によって処置した対象における可溶性mHTTタンパク質の有意な低減を示す。
図10は、高用量による処置後8週目での線条体における可溶性mHTTの有意な低減を示す(9.2×10
12vg)。
図11は、GFP対照またはZFP-TF(全ての投薬量)を発現するニューロンにおけるmHTTタンパク質凝集体(GFP対照と比較して)の有意な低減を示す。
図12および13は、本明細書に記載されるAAV ZFP-TFによって処置した対象におけるmHTT発現の有意な抑制を示す。
【0187】
さらに
図14は、処置した対象における運動機能が対照と比較して顕著に改善したことを示す。
【0188】
類似のin vivo結果が、本明細書に記載される任意のZFP-TF(46025、45294、45723、または33074で指定されるZFPを含むZFP-TF)を使用して得られる。
【0189】
本明細書に記載されるZFP-TFは、HD患者の細胞におけるin vitroでのwtHTT対立遺伝子または他のCAGリピート含有遺伝子に有意な作用を及ぼすことなく、mHTT対立遺伝子の転写を抑制する。2つの異なるHDマウスモデルにおけるin vivo試験は、疾患症状の発生前または発生後のいずれかに与えたrAAV9-ZFP-TF 45643の1回線条体内(線条体内)投与がmHTT mRNAおよびタンパク質の合成を最大33週間、有効に抑制したことを実証する。
【0190】
本明細書で述べられた全ての特許、特許出願および刊行物は、これにより参照により全ての目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる。
【0191】
理解を明確にする目的のために図解と実施例によってある程度詳細に開示を提供したが、本開示の趣旨または範囲から逸脱することなく様々な変更や改変を実施することができることが当業者には明らかである。したがって、前述の記載および実施例は、限定として解釈されるべきではない。
【配列表】