(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】チョコレート
(51)【国際特許分類】
A23G 1/36 20060101AFI20240826BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
A23G1/36
A23D9/00 500
(21)【出願番号】P 2020059964
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-098952(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010102(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0076731(US,A1)
【文献】特開2017-143829(JP,A)
【文献】特開2019-110813(JP,A)
【文献】特開2016-101157(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013582(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/36
A23D 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油脂として液状油が50質量%以上配合されている粉末油脂組成物が配合されたチョコレートであって、液状油を1~15質量%含有し、前記液状油の70質量%以上が前記粉末油脂組成物由来で
あり、前記液状油が炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸を70質量%以上含有するチョコレート。
【請求項2】
前記チョコレートが、モールドで成形されたチョコレートである
請求項1に記載のチョコレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年の健康指向の高まりを受けて、健康機能を有する食材が注目されている。食用油脂においても、健康機能を有する食用油脂が注目されている。近年、注目されている食用油脂は、オリーブ油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等である。
【0003】
オリーブ油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、いずれも常温で液状の油脂(液状油)であり、そのまま摂取する他に、これらの油脂が配合された食品を食べることでも摂取することができる。これらの油脂が配合された食品のうち、手軽に食べられる食品の1つに、チョコレートがある。これらの油脂が配合されたチョコレートとしては、例えば、特許文献1~4が提案されている。
【0004】
チョコレートの中でもモールドで成形されるチョコレート(以下、モールドで成形されるチョコレートは、モールド成形チョコレートとする。)は、生産数量が多く、最も一般的なチョコレートである。モールド成形チョコレートは、常温での性状が硬く、持ち運びが便利であることを特徴としている。そのため、モールド成形チョコレートに、オリーブ油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリドが配合されると、これらの油脂をより手軽に摂取することができる。しかしながら、通常、モールド成形チョコレートに、液状油が配合されると、液状油が浸み出し、ブルームが発生することがあった。そのため、モールド成形チョコレートに、液状油であるオリーブ油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合することには問題があった。
【0005】
以上のような背景から、オリーブ油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の液状油が配合されたモールド成形チョコレートの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-50582号公報
【文献】特開2016-220688号公報
【文献】特開2014-207890号公報
【文献】特開2009-17821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、液状油が配合されているにもかかわらず、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、チョコレートに、液状油を粉末油脂組成物として配合することにより、本課題が解決できることが見いだされた。これにより、本発明が完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、原料油脂として液状油が50質量%以上配合されている粉末油脂組成物が配合されたチョコレートであって、液状油を0.5~15質量%含有し、前記液状油の70質量%以上が前記粉末油脂組成物由来であり、前記液状油が炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸を70質量%以上含有するチョコレートである。
本発明の第2の発明は、前記チョコレートが、モールドで成形されたチョコレートである請求項1に記載のチョコレートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、液状油が配合されているにもかかわらず、ブルームが発生しにくいチョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態のチョコレートは、粉末油脂組成物が配合されたチョコレートであって、液状油を0.5~15質量%含有し、前記液状油の70質量%以上が前記粉末油脂組成物由来である。
【0012】
本発明で、チョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、調温工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含まない(水分が好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。)食品のことである。また、本発明でチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートのいずれであってもよい。
【0013】
本発明の実施の形態のチョコレートは、粉末油脂組成物が配合され、好ましくは0.5~20質量%配合され、より好ましくは0.7~15質量%配合され、さらに好ましくは1~10質量%配合される。チョコレートに、粉末油脂組成物が前記範囲で配合されると、液状油が配合されているにもかかわらず、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0014】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される粉末油脂組成物は、原料油脂として液状油が好ましくは50質量%以上配合され、より好ましくは60~85質量%配合され、さらに好ましくは65~80質量%配合される。なお、本発明で液状油とは、20℃で液状の油脂のことである。
前記液状油の具体例は、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCTともいう。)やこれらの油脂の加工油脂(エステル交換油脂、分別油、硬化油(水素添加油)等)等が挙げられる。前記液状油は、2種以上を併用することもできる。
前記液状油は、炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸を好ましくは70質量%以上含有し、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは90質量%以上含有する。
油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)を用いて行うことができる。
【0015】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される粉末油脂組成物は、原料として加工澱粉が好ましくは1~20質量%配合され、より好ましくは3~18質量%配合され、さらに好ましくは5~15質量%配合される。
【0016】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される粉末油脂組成物は、原料としてデキストリンが好ましくは5~30質量%配合され、より好ましくは7~25質量%配合され、さらに好ましくは10~20質量%配合される。
【0017】
前記粉末油脂組成物には、液状油、加工澱粉、デキストリン以外に、通常粉末油脂の製造に使用される原料を配合することができる。前記粉末油脂組成物に配合することのできる原料は、具体的には、糖類(例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖等)、ビタミン類(例えば、ビタミンCやビタミンE等)、増粘多糖類(例えば、ゼラチン、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、ペクチン等)、微量栄養成分(例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛等)、抗酸化剤、香料等である。
【0018】
前記粉末油脂組成物は、従来公知の製造方法で製造することができる。前記粉末油脂組成物は、例えば、原料を含む水中油型乳化液を乾燥粉末化することで製造することができる。前記水中油型乳化液は、公知のエマルジョン調製方法によって得られ、例えば、水相と、液状油を含む油相とを混合し、ホモミキサー等で撹拌後、ホモジナイザー等で均質化して得ることができる。水中油型乳化液の乾燥粉末化は、公知の噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法等を利用することができる。
【0019】
本発明の実施の形態のチョコレートは、液状油を0.5~15質量%含有し、好ましくは0.7~10質量%含有し、より好ましくは1.0~7質量%含有する。なお、本発明の実施の形態のチョコレートに含まれる液状油は、前記粉末油脂組成物に原料油脂として配合される液状油と同じである。また、本発明での液状油は、チョコレートに直接配合される液状油の他に、粉末油脂組成物等の加工油脂等に原料油脂として配合されている液状油も含む。
本発明の実施の形態のチョコレートに含まれる液状油は、炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸を好ましくは70質量%以上含有し、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは90質量%以上含有する。チョコレートに含まれる液状油が、炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸を前記範囲で含有すると、中鎖脂肪酸が配合されたチョコレートが得られる。
【0020】
発明の実施の形態のチョコレートは、液状油の70質量%以上が前記粉末油脂組成物由来であり、好ましくは液状油の80質量%以上が前記粉末油脂組成物由来であり、より好ましくは液状油の90質量%以上が前記粉末油脂組成物由来である。チョコレートに含まれる液状油の70質量%以上が前期粉末油脂組成物由来であると、チョコレートは、液状油が配合されているにもかかわらず、ブルームが発生しにくいチョコレートとなる。なお、本発明で、粉末油脂組成物由来とは、粉末油脂組成物の原料油脂として配合されていることである。
【0021】
本発明の実施の形態のチョコレートは、油脂を好ましくは20~70質量%含有し、より好ましくは25~65質量%含有し、さらに好ましくは30~60質量%含有する。
なお、本発明で油脂(チョコレートに含まれる油脂)は、チョコレートに含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分である。例えば、チョコレートがカカオマス、全脂粉乳、前記粉末油脂組成物、油脂aを含む場合、油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと、全脂粉乳に含まれる乳脂と、前記粉末油脂組成物に含まれる油脂と、油脂aとの混合油である。すなわち、本発明で油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)や前記粉末油脂組成物に含まれる油脂(液状油等)を含む。
【0022】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用される油脂は、特に制限されることない。本発明の実施の形態のチョコレートの製造には、通常のチョコレートの製造に使用される食用油脂(ココアバター、大豆油、菜種油、高エルシン酸菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、イリッペ脂、サル脂、乳脂や、これらの油脂の混合油、これらの油脂又は混合油の加工油脂(エステル交換油、分別油、水素添加油等)等)を使用することができる。
【0023】
本発明の実施の形態のチョコレートの製造に使用されるその他の原料は、例えば、カカオマス、ココアパウダー、糖質(糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖等)、アスパルテーム、ステビア、サッカリン等の甘味料、全脂粉乳、脱脂粉乳等の乳製品、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、コーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、酵素分解レシチン、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等の乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料等である。
【0024】
本発明によると、液状油が配合されているにもかかわらず、ブルームが発生しにくいモールド成形チョコレートが得られる。従って、本発明の実施の形態のチョコレートは、モールド成形チョコレートに適している。本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくはモールド成形チョコレートである。
【0025】
通常、テンパリング型チョコレートは、液状油が配合されると、ブルームが発生しやすい。本発明の実施の形態のチョコレートは、液状油が配合されたテンパリング型チョコレートであっても、ブルームが発生しにくい。従って、本発明の実施の形態のチョコレートは、テンパリング型チョコレートに適している。本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくはテンパリング型チョコレートである。
【0026】
本発明の実施の形態のチョコレートは、前記粉末油脂組成物を使用すること以外、従来公知のチョコレートの製造方法で製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートは、例えば、食用油脂、糖質、カカオマス、乳製品、香料、乳化剤等を原料とし、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)、成形工程、冷却工程等を経て製造される。本発明の実施の形態のチョコレートは、好ましくは微粒化工程を経て製造される。また、本発明の実施の形態のチョコレートの製造において、前記粉末油脂組成物は、好ましくは微粒化工程より後の工程で配合される。
【0027】
本発明によると、液状油が配合されているにもかかわらず、ブルームが発生しにくいチョコレートが得られる。
【0028】
本発明の実施の形態のチョコレートは、複合食品用に使用することができる。なお、本発明で、複合食品とは、チョコレートと食品を組み合わせることで得られるチョコレート複合食品のことである。本発明で、食品は、チョコレート以外の食品のことである。
【0029】
前記複合食品の製造に使用される食品としては、例えば、ドーナツ、食パン、コッペパン、フルーツブレッド、バターロール、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペーストリー等のベーカリー製品、カステラ、ワッフル、ボーロ、八つ橋、あられ、揚げせんべい、かりんとう、スポンジケーキ、ロールケーキ、パウンドケーキ、バウムクーヘン、フルーツケーキ、マドレーヌ、シュー、エクレア、ミルフィーユ、パイ、タルト、マカロン、ビスケット、クッキー、クラッカー、サブレ、蒸しパン、プレッツェル、ウエハース、スナック菓子、クレープ、スフレ、ポテトチップス等の菓子、バナナ、りんご、イチゴ等の果物等が挙げられる。
【0030】
前記複合食品は、従来公知の複合食品の製造方法を用いることによって、本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせることで製造することができる。本発明の実施の形態のチョコレートと食品とを組み合わせる方法としては、例えば、被覆、包餡、注入、巻く、挟む、付着等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)を用いて行った。
【0032】
〔MCT1〕
中鎖脂肪酸トリグリセリドをMCT1(20℃の性状:液状、炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸含有量:100質量%)とした。
【0033】
〔粉末油脂組成物の製造〕
100質量部の水に、10質量部の加工澱粉、15質量部のデキストリンを溶解させ水相を調製した。次いで、125質量部の水相と75質量部のMCT1とを混合した後、圧力式ホモジナイザーを用いて水相と油相とを均質化し、水中油型乳化液を得た。得られた水中油型乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、粉末油脂組成物(液状油の含有量:75質量%、液状油の炭素数8~10の直鎖飽和脂肪酸含有量:100質量%、加工澱粉の含有量:10質量%、デキストリンの含有量:15質量%)を得た。
【0034】
〔チョコレートの製造及び評価〕
完全に融解した状態のテンパリング型チョコレート(使用されたチョコレートは、液状油含有量0質量%で、通常のチョコレートの製造工程(微粒化工程を含む)を経て製造されたチョコレートである。)に、以下の表1、2の配合で粉末油脂組成物を加えて混合した。混合後のチョコレートにテンパリングを行った後、37mm×37mm×3mmのモールドに充填した。モールドに充填したチョコレートを冷却固化させた後、チョコレートをモールドから外すことで、粉末油脂組成物が配合されたチョコレートを得た。各末油脂組成物が配合されたチョコレートを20℃で1年間保存した後、ブルームの発生を下記評価基準にて評価した。評価結果が◎又は○である場合、良好であると判断した。評価結果を表1、2に示した。
【0035】
<ブルームの評価>
◎:ブルームが発生していない。
○:ブルームが部分的に発生している。
×:ブルームが全体に発生している。
【0036】
【0037】
【0038】
表1、2から分かるように、実施例のチョコレートは、比較例のチョコレートと比較して、ブルームが発生しにくかった。