(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】信号検出装置、測定装置、および質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20240826BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20240826BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J49/26
H01J37/244
(21)【出願番号】P 2021117689
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西元 琢真
(72)【発明者】
【氏名】古矢 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-247396(JP,A)
【文献】特開2006-300551(JP,A)
【文献】特開2015-115881(JP,A)
【文献】国際公開第2015/128905(WO,A1)
【文献】特開2020-89070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
H01J 37/244
G01T 1/00、7/00
H03F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象である光子を電流信号に変換する光電変換素子と、前記電流信号を電圧信号に変換する電流・電圧変換器と、を含む検知器と、
前記電圧信号を伝送する伝送部と、
伝送されてきた前記電圧信号を検出・収集するデータ収集部と、を備え、
前記検知器は、フレームグランドと接続される第1シールドケースの内部に配置され、
前記電流・電圧変換器は、第1および第2入力端子を有する差動増幅器を含み、
前記第1入力端子は、第1入力抵抗を介して前記光電変換素子の第1出力端子に接続され、
前記第2入力端子は、前記第1入力抵抗よりも大きい抵抗値を有する第2入力抵抗を介して前記光電変換素子の第2出力端子とグランドに接続され、
前記電流・電圧変換器の第1および第2出力端子は、前記伝送部でデータ収集部に接続し、
前記伝送部は、前記電流・電圧変換器と前記データ収集部とともに、前記グランドに接続される、信号検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記光電変換素子、前記電流・電圧変換器、および前記データ収集部は、前記フレームグランドとは絶縁されている、信号検出装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記光電変換素子は、光電子増倍管である、信号検出装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記第2入力抵抗は、前記第1入力抵抗と抵抗値が同一で前記第2入力端子に接続された抵抗と、前記第1入力抵抗よりも抵抗値が大きく、前記光電変換素子と前記グランドに接続されたダミー抵抗と、を含む、信号検出装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記光電変換素子、前記電流・電圧変換器、および前記データ収集部は、絶縁電源から電力を供給することにより、前記フレームグランドと絶縁されている、信号検出装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記フレームグランドは、接地されている、信号検出装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記伝送部は、前記電流・電圧変換器からの前記電圧信号をアナログ信号形式で前記データ収集部へ伝送する、信号検出装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記伝送部は、前記電流・電圧変換器からの前記電圧信号をデジタル信号に変換して前記データ収集部へ伝送する、信号検出装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記伝送部は、前記第1シールドケースとは異なる第2シールドケースに収容されている、信号検出装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記伝送部は、前記電流・電圧変換器からの前記電圧信号を光信号に変換して前記データ収集部へ伝送する、信号検出装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記伝送部は、前記第1シールドケースとは異なる第2シールドケースに収容されている、信号検出装置。
【請求項12】
測定装置筐体の中に、請求項1に記載の信号検出装置を含み、
前記信号検出装置に含まれる少なくとも前記伝送部が、前記測定装置筐体の中央部に配置される、測定装置。
【請求項13】
分析対象の試料をイオン化するイオン源と、
前記イオン化した試料の中で所望の質量電荷比であるイオンのみを通過させる分離部と、
イオンが衝突することで2次電子を射出するコンバージョンダイノードと、
前記2次電子が入射し、シンチレーション光を射出するシンチレータと、
前記シンチレータから射出された光を検知し、データを収集する、請求項1に記載の信号検出装置と、
を筐体内に備える、質量分析装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記信号検出装置は、前記筐体内の中央部に配置される、質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号検出装置、測定装置、および質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、β線測定装置において、β線が入射するとシンチレーション光を発するシンチレータと、そのシンチレーション光を吸収して異なる波長のシンチレーション光に変換する波長変換ファイバと、その波長変換ファイバによって伝播した光を捉える光電子増倍管と、を備えた信号検出装置が用いられている。
【0003】
また、例えば、質量分析装置において、分析対象の試料を気化させた後に、高電界を印加することでイオン化し、そのイオン化した試料をコンバージョンダイノードに衝突させることで2次電子を発生させ、その2次電子をシンチレータに入射させてシンチレーション光を発生させ、そのシンチレーション光を光電子増倍管で捉える信号検出装置が用いられている。
【0004】
このような信号検出装置に関し、例えば、特許文献1は、シンチレータ及び波長変換ファイバを有する概略平板状の第1のβ線検出器2と、第1のβ線検出器2の厚み方向に重ねて設けられ、シンチレータ及び波長変換ファイバを有する概略平板状の第2のβ線検出器3と、第1のβ線検出器2及び第2のβ線検出器3との間に設けられ、β線を遮蔽するβ線遮蔽板4と、を備える信号検出装置において、第1のβ線検出器2のシンチレータ及び第2のβ線検出器3のシンチレータの形状を同一とし、第1のβ線検出器2の波長変換ファイバ及び第2のβ線検出器3の波長変換ファイバの構成を同一とすることにより、検出対象のβ線とノイズであるγ線を区別すること、およびS/Nを確保しつつ環境温度におけるノイズを低減することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光電変換素子、信号検出器、およびデータ収集部を有する信号検出装置のS/Nを劣化させるノイズには、シンチレータなどのセンサにおける検出対象以外の検出信号や、環境温度における熱ノイズなどの他に、信号検出装置を測定装置に搭載した際に、測定装置内部の別の電気機器から発生する電磁波ノイズ(以下、「外乱伝播ノイズ」という)や、更に、測定装置の外から入射する外乱伝播ノイズがある。外乱伝播ノイズを発生する測定装置内部の電気機器は、例えばスイッチング電源やデジタル回路がある。また、測定装置の外から入射する外乱伝播ノイズは、例えば、測定装置の付近に配置された別の測定装置や、通信無線電波、放送電波などがある。ここで、一般的に高い検出精度を有する測定装置では、搭載する信号検出装置に用いられる光電子増倍管などの光電変換素子の感度を上げることで、より微弱な信号を検出する。
【0007】
しかし、光電変換素子の感度を上げると、信号検出装置の内外で発生する外乱伝播ノイズも高感度に信号として検出してしまい、正常な測定ができなくなるという課題がある。
本開示は、このような状況に鑑み、信号検出装置内外の外乱伝播ノイズの影響を低減し、信号検出精度を向上させる技術について提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、検出対象である光子を電流信号に変換する光電変換素子と、電流信号を電圧信号に変換する電流・電圧変換器と、を含む検知器と、電圧信号を伝送する伝送部と、伝送されてきた電圧信号を検出・収集するデータ収集部と、を備え、検知器は、フレームグランドと接続される第1シールドケースの内部に配置され、電流・電圧変換器は、第1および第2入力端子を有する差動増幅器を含み、第1入力端子は、第1入力抵抗を介して光電変換素子の第1出力端子に接続され、第2入力端子は、第1入力抵抗よりも大きい抵抗値を有する第2入力抵抗を介して光電変換素子の第2出力端子とグランドに接続され、電流・電圧変換器の第1および第2出力端子は、ケーブル伝送部でデータ収集部に接続し、ケーブル伝送部は、電流・電圧変換器とデータ収集部とともに、グランドに接続される、信号検出装置を提供する。
【0009】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになる。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。なお、本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、信号検出装置に外乱伝播ノイズが入射した際、外乱伝播ノイズが信号検出に与える影響を低減し、検出精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態による信号検出装置100の構成例を示す図である。
【
図2】従来技術による信号検出装置の電気回路の構成例を示す図である。
【
図3】第1の実施形態による信号検出装置100の電気回路構成例を示す図である。
【
図4】第2の実施形態による信号検出装置400の構成例を示す図である。
【
図5】第3の実施形態による信号検出装置500の構成例を示す図である。
【
図6】第4の実施形態による測定装置600における信号検出装置100、400、あるいは500の配置位置(例)を示す図である。
【
図7】第5の実施形態による質量分析装置700の構成例を示す図(装置側面の垂直断面図)である。
【
図8】質量分析装置700を上から見た、信号検出装置を配置した位置における水平断面図である。
【
図9】第5の実施形態による質量分析装置700の測定中に外乱伝播ノイズを照射した際に測定結果例と、S/Nの改善効果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。また、本実施形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0013】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0014】
(1)第1の実施形態
以下では、光電変換素子と電流・電圧変換器とシールドケースから構成される検知器と、ケーブル伝送部と、データ収集部を備えた信号検出装置において、光電変換素子が出力する信号に重畳する外乱伝播ノイズを低減する技術について説明する。
【0015】
<信号検出装置の構成例>
図1は、第1の実施形態による信号検出装置100の構成例を示す図である。信号検出装置100は、検出対象である光子を電流信号に変換する光電変換素子120と、光電変換素子120から出力された電流信号を電圧信号に変換する電流・電圧変換器121と、電流・電圧変換器121から出力された電圧信号を伝送するケーブル伝送部103と、伝送した電圧信号を検出・収集するデータ収集部104と、制御装置(コンピュータ)105と、光電変換素子と電流・電圧変換器を収納するシールドケース102と、光電変換素子、電流・電圧変換器、およびデータ収集部に電力を供給する絶縁電源106と、を備える。
【0016】
検出対象である光子は、例えば、シンチレータが出力するシンチレーション光や、レーザなどを用いた光学計測器の反射光などである。
【0017】
光電変換素子120は、入射する光子量に応じた電流量を出力するセンサであり、例えば、光電子増倍管やフォトダイオードなどを用いることができる。
【0018】
電流・電圧変換器121は、入力した電流量に応じた電圧量を出力するトランス・インピーダンス回路であり、第一と第二の2つの差動入力端子と、第一と第二の2つの差動出力端子を有する。
【0019】
ケーブル伝送部103は、電流・電圧変換器121が出力する差動の電圧信号をアナログ信号としてデータ収集部104へ伝播する伝送路であり、例えば、信号線を絶縁層および導電層で覆うことでシールド効果を有した同軸ケーブルを用いることができる。また、ケーブル伝送部103は、電流・電圧変換器121の差動の電圧信号をペアとして差動伝送する差動同軸ケーブルでも良いし、第一と第二の出力端子それぞれ個別に、2本の同軸ケーブルでデータ収集部104に接続してもよい。
【0020】
データ収集部104は、ケーブル伝送部103によって伝送されてきた差動の電圧信号を検出する信号検出器107を有する。当該信号検出器107の検出精度を向上させるために、その前段に増幅器や検出帯域を選択するフィルタなどを設けてもよい。信号検出器107は、差動の電圧信号を検出・収集して制御装置105へ転送する機能を有する。また、信号検出器107は、例えば、アナログ・デジタル変換器、メモリ、およびデータ転送部を有し、当該アナログ・デジタル変換器で差動電圧信号をサンプリングおよび量子化してデジタルデータを生成し、そのデジタルデータをメモリに一時保存する。そして、ある一定のデータ量がメモリに保存されると、データ転送部がデジタルデータを制御装置105へ転送する。さらに、例えば、信号検出器107は、比較器、閾値電圧生成器、およびデータ転送部を有し、電圧信号と閾値電圧を比較器で比較し、電圧信号が閾値電圧を超えた場合、デジタル値で「1」を、超えない場合「0」を制御装置105へ転送してもよい。
【0021】
絶縁電源106は、光電変換素子120、電流・電圧変換器121、およびデータ収集部104と測定装置フレームグランド110とを絶縁するとともに、光電変換素子120、電流・電圧変換器121、およびデータ収集部104に必要な電力を供給する電源であり、例えば、1次側と2次側を電気的に絶縁できる絶縁電源である。
【0022】
制御装置105は、検出・収集したデータを処理するとともに、データ収集部104の動作を制御する。また、制御装置105は、測定装置の制御も司っている。例えば、測定装置が質量分析装置である場合、制御装置105は、質量分析装置のイオン源701、収束部702、分離部703、および蛍光部704(後出の
図8参照)に印加する電圧値を制御する。
【0023】
<外乱伝播ノイズの流入経路>
図2は、従来技術による信号検出装置200の電気回路の構成例を示す図である。
先ず、従来技術による信号検出装置200における検出原理について説明する。光電変換素子120が出力する電流信号を1つの出力端子を有する電流・電圧変換器122で電圧信号に変換する。一般的な電流・電圧変換の倍率はフィードバック抵抗Rf(電圧信号=電流信号×Rf)である。電圧信号はケーブルなどの信号伝送路を通して信号検出器107に送信される。
【0024】
続いて、従来技術による信号検出装置200に外乱伝播ノイズが入射した場合のノイズ経路について説明する。一般的に、従来技術でも信号を伝送する配線には、外乱伝播ノイズの直接入射を防ぐために、信号検出装置全体にシールド処理がなされている。しかし、このシールド処理に用いている導体を介して、外乱伝播ノイズが電流・電圧変換器122の入力端子に流れ込んでしまう。これにより、電流・電圧変換器122は外乱伝播ノイズを電圧信号として信号検出器107へ送信することになる。また、外乱伝播ノイズは、信号検出器107へもケーブルなど伝送路のシールド処理用導体を介して流れ込む。この結果、信号検出のS/N劣化を招くことになる。
【0025】
<外乱伝播ノイズを低減するための構成例>
図3は、第1の実施形態による信号検出装置100の電気回路構成例を示す図である。前述(
図2)と同様に、信号配線をシールド処理する導体に外乱伝播ノイズが重畳した場合、第1の実施形態では、ダミー抵抗(レプリカ抵抗ともいう:抵抗値Rd)300を介して外乱伝播ノイズが電流・電圧変換器121の入力端子に流れ込むことになる。したがって、外乱伝播ノイズをダミー抵抗300で減衰させれば、電流・電圧変換器121が出力する外乱伝播ノイズ由来の電圧信号を低減できると考えられる。また、電流・電圧変換器121の出力を差動とすることで外乱伝播ノイズが信号検出器107へ流れる経路を遮断できる。これにより、信号検出のS/Nを維持することが可能となる。
【0026】
ここで、光電変換素子120として光電子増倍管を用いた場合を例に、外乱伝播ノイズの減衰量について説明する。光電子増倍管の一般的な回路等価モデルは、理想電流源と抵抗の並列接続であり、抵抗値は数MΩ~数十MΩ程度である。この抵抗をRp(
図2および
図3に示す)とすると、
図2の従来技術の信号検出装置における外乱伝播ノイズの増幅率は1+Rf/Rpとなる。一般的にRfの値は数百Ωから数kΩが用いられるため、Rf/Rpの値はゼロに近似することができる。従って、従来技術の外乱伝播ノイズの増幅率は1+Rf/Rp≒1と、ノイズをそのままの強度で出力することになる。
【0027】
一方、
図3に示す第1の実施形態による信号検出装置100における外乱伝播ノイズの増幅率は、Rf/(Rin+Rd)となる。Rfの値は数百Ωから数kΩ、Rinの値は数十Ωから数百Ωが用いられる。ここで、ダミー抵抗300のRdの値は数kΩから数十kΩを用いることができる。つまり、外乱伝播ノイズの増幅率はRf/(Rin+Rd)≒Rf/Rd<1となり、1未満にすることができる。これにより、外乱伝播ノイズを減衰させて出力させることになる。
【0028】
以上のように、ダミー抵抗Rdの値の増加とともに外乱伝播ノイズをより減衰できるが、ダミー抵抗Rd自身の熱雑音の増加や、電流・電圧変換器の周波数帯域の低下を招くことになる。このため、ダミー抵抗Rdの値は、このような信号検出装置100の回路特性(電気特性)と外乱伝播ノイズの減衰量とのバランスを取って決定することができる。回路特性は、信号検出装置100によって検出できる周波数の帯域がダミー抵抗300の値(Rd)に比例している。抵抗値Rdを大きくしすぎると周波数が低い信号までしか検出できなくなってしまう。光電子増倍管が信号をゆっくりと出力するのであればRdの値を極端に大きくしてもよいが、信号出力速度が遅い信号検出装置にしか有効ではない。そのため、光電子増倍管の信号出力周波数が高い場合には、Rdを大きくし過ぎずに数十kΩ程度を上限とする。
【0029】
なお、上述ではRinとRdを別々の抵抗素子として表記しているが、RinとRdの抵抗値の合計値を有する1つの抵抗素子Rindとして用いても良い。この場合、電流・電圧変換器の第一と第二の入力端子の抵抗値は、Rin<Rindの関係となる。
【0030】
<ダミー抵抗挿入によるインピーダンス不整合について>
図1を参照して、第1の実施形態による信号検出装置100を測定装置に搭載する場合のインピーダンス不整合とその対策について説明する。信号検出装置100では、上述のように、ダミー抵抗を用いて外乱伝播ノイズを減衰させるが、ダミー抵抗により電流・電圧変換器の入力インピーダンスが増加する。これは、光電変換素子120の出力信号を伝送する配線のインピーダンスと電流・電圧変換器121の入力インピーダンスの不整合を招く。このため、光電変換素子120の出力信号を正確に電流・電圧変換器121に伝送するために、光電変換素子120と電流・電圧変換器121を近接配置し、配線長を短くする必要がある。例えば、光電変換素子120の出力信号の波長の1/10以内に光電変換素子120と電流・電圧変換器121とを近接配置するとよい。
【0031】
また、光電子増倍管を代表とする光電変換素子120の多くは、高い出力インピーダンスを持ち、また電流・電圧変換器121も高い入力インピーダンスを持つ。つまり、光電変換素子120の出力信号を伝送する配線は、高いインピーダンスを有することになり、本配線に外乱伝播ノイズが直接入射すると大きなノイズ重畳を招く。このため、外乱伝播ノイズの直接入射を抑止するため、シールドケース102の内部に光電変換素子120と電流・電圧変換器121を収納する必要がある。つまり、シールドケース102は、装置全体をシールドする筐体とは別に、光電変換素子120および電流・電圧変換器121をシールドする。シールドケース102は抵抗率が小さい金属で構成することができ、例えば、ステンレスやアルミなどの材料を用いることができる。
【0032】
<グランド結線および絶縁について>
図1を参照して、第1の実施形態による信号検出装置100を測定装置に搭載する際のグランドの結線および絶縁について説明する。光電変換素子120が出力する信号を正確にデータ収集部104に伝送するために、光電変換素子120、電流・電圧変換器121、ケーブル伝送部103、およびデータ収集部104のグランドは、信号グランド111と結線するようにしてもよい。
【0033】
シールドケース102は、入射した外乱伝播ノイズを光電変換素子120、電流・電圧変換器121、ケーブル伝送部103、およびデータ収集部104へ流入することを抑止するために、フレームグランド110に結線される。また、フレームグランド110と信号グランド111は、低域通過フィルタなどのノイズ除去器(図示せず)を介して接続するようにしてもよい。
【0034】
また、上述のようにフレームグランド110と信号グランド111を分離するため、光電変換素子120、電流・電圧変換器121、ケーブル伝送部103、およびデータ収集部104に給電する電源は、1次側と2次側を絶縁できる絶縁電源106を用いることができる。
【0035】
なお、フレームグランド110と信号グランド111とを接続するノイズ除去器(図示せず)の位置は、搭載する測定装置の形状やノイズの経路に合わせて、信号検出器107でもよいし、絶縁電源106の1次側と2次側を接続する形態でもよい。
【0036】
<第1の実施形態による技術的効果>
以上から、信号検出装置100、および/または測定装置(例えば、質量分析装置など)に外乱伝播ノイズが入射したとしても、当該外乱伝播ノイズを減衰させることができ、測定に与える影響を低減して信号検出精度を向上することが可能となる。
【0037】
(2)第2の実施形態
上述の第1の実施形態では、ケーブル伝送部103に同軸ケーブルを用い、アナログ信号形式で光電変換素子120の信号をデータ収集部104に伝送している。第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した信号検出装置100において、ケーブル伝送部103にデジタル信号と光信号を用いる形態について説明する。
【0038】
<信号検出装置の構成例>
図4は、第2の実施形態による信号検出装置400の構成例を示す図である。
図4を参照して、デジタル信号を用いた信号検出装置の動作原理について説明する。
【0039】
信号検出装置400において、ケーブル伝送部103は、電流・電圧変換器121が出力するアナログ信号である電圧信号をサンプリング、および量子化してデジタル値に変換するアナログ・デジタル変換器402と、デジタル値に変換した電圧信号を送信するデジタル送信器403と、デジタル信号を伝送するデジタル伝送路404とを含む。
【0040】
アナログ・デジタル変換器402は、例えば、一般的なA/D変換器を用いることができる。あるいは、アナログ・デジタル変換器402を閾値電圧生成器と比較器とで構成し、電流・電圧変換器121が出力する電圧信号と閾値電圧生成器から出力される閾値とを比較器で比較し、電圧信号が閾値電圧を超えた場合、デジタル値の「1」に、超えない場合「0」に変換して出力するようにしてもよい。
【0041】
デジタル送信器403は、デジタル値に変換した電圧信号を必要に応じて、符号化、同期化、変調などのデジタルデータ伝送の処理を実施する。例えば、イーサネットなど一般的な規格の伝送方式を用いてもよい。デジタルデータ伝送の処理が不要な場合、デジタル送信器403は、アナログ・デジタル変換器402が出力するデジタル信号をそのままデジタル伝送路404へ出力してもよい。
【0042】
前述したように、アナログ・デジタル変換器402やデジタル送信器403といったデジタル回路を電流・電圧変換器121の後段に接続する場合、デジタル回路から発生するノイズが電流・電圧変換器121に流入し、信号検出のS/Nを劣化させる。デジタル回路から発生するノイズは、デジタル動作により放射される伝播ノイズ406と、デジタル回路のグランドから伝導する伝導ノイズ(グランドノイズ)405がある。
【0043】
デジタル動作により放射される伝播ノイズ406を抑制するため、アナログ・デジタル変換器402とデジタル送信器403は、シールドケース102の外に配置される。また、グランドからの伝導ノイズ(グランドノイズ)405は、第1の実施形態で述べた、ダミー抵抗Rd、あるいはダミー抵抗Rdと入力抵抗Rinの合計値を有する抵抗素子Rindで減衰させることができる。また、アナログ・デジタル変換器402と、デジタル送信器403、およびデジタル伝送路404に外乱伝播ノイズが入射することで発生する伝導ノイズ(グランドノイズ)405も同様に上述の抵抗素子Rindで減衰することが可能となる。
【0044】
なお、アナログ・デジタル変換器402とデジタル送信器403に入射する外乱伝播ノイズを抑制するために、シールドケース102とは別にシールドケース(デジタル送信部用シールドケース)401を配置してもよい。
【0045】
<第2の実施形態の効果>
第2の実施形態によれば、デジタル信号を用いる信号検出装置400において、外乱伝播ノイズが入射した際、外乱伝播ノイズを減衰させることができ、測定に与える影響を低減して精度を向上できる。
【0046】
(3)第3の実施形態
<信号検出装置の構成例>
図5は、第3の実施形態による信号検出装置500の構成例を示す図である。第3の実施形態は、光信号を用いた信号検出に関する。信号検出装置500は、ケーブル伝送部103の構成が異なるだけで、その他の構成は第2の実施形態による信号検出装置400と同様である。
信号検出装置500が有するケーブル伝送部103は、電気・光変換器502と、光送信器503と、光伝送路504と、を備える。
【0047】
電気・光変換器502は、電流・電圧変換器121から出力される電圧信号を光信号に変換する。光送信器503は、電気・光変換器502によって変換された光信号を光伝送路504へ出力する。電気・光変換器502、光送信器503、および光伝送路504は、例えば、一般的な光ファイバを用いたデジタル光通信などを用いてもよい。また、検知器101とデータ収集部104とを近接配置することでケーブル伝送部103の伝送距離を短くする場合、光送信器にフォトカプラなどを用いたアナログ光通信を用いてもよい。
【0048】
デジタル信号を用いた信号検出装置400(第2の実施形態)と同様に、電気・光変換器502と光送信器503から発生する伝播ノイズ406を抑制するため、電気・光変換器502と光送信器503はシールドケース102の外に配置される。また、グランドからの伝導ノイズ(グランドノイズ)505は、第1の実施形態で述べた、ダミー抵抗Rd、又はダミー抵抗Rdの入力抵抗Rinの合計値を有する抵抗素子Rindで減衰させることができる。さらに、電気・光変換器502と光送信器503に外乱伝播ノイズが入射することで発生する伝導ノイズ505も同様に上述の抵抗素子Rindで減衰することが可能となる。
【0049】
なお、電気・光変換器502と光送信器503に入射する外乱伝播ノイズを抑制するために、電気・光変換器502および光送信器503をシールドケース102とは別のシールドケース(光送信部用シールドケース)501を配置するようにしてもよい。
【0050】
<本実施の形態の効果>
第3の実施形態によれば、光信号を用いる信号検出装置500において、外乱伝播ノイズが入射した際、外乱伝播ノイズを減衰させることができ、測定に与える影響を低減して精度を向上できる。
【0051】
(4)第4の実施形態
第4の実施形態は、第1から第3の実施形態による信号検出装置100、400、あるいは500を搭載した測定装置において、信号検出装置に入射する外乱伝播ノイズ自身の強度を低減することで、信号検出のS/Nを向上させる信号検出装置の配置について説明する。
【0052】
<測定装置における信号検出装置の配置>
図6は、第4の実施形態による測定装置600における信号検出装置100、400、あるいは500の配置位置(例)を示す図である。測定装置600は、測定装置筐体601の内部に測定装置600の構成部品602と、検知器101、ケーブル伝送部103、およびデータ収集部104を含む信号検出装置を備えている。測定装置600の構成部品602は、例えば、測定対象物を検出するための処理を実施する機器や、測定装置の電源などである。
【0053】
測定装置筐体601は、フレームグランド110として用いられる。また、フレームグランド110は接地(アースに接続)するようにしてもよい。
また、信号検出装置100、400、あるいは500と測定装置の構成部品602との間に絶縁体を配し、互いに近傍に配置されるようにしてもよい。
【0054】
<ケーブル伝送部の配置>
次に、ケーブル伝送部103の配置について説明する。測定装置600に入射する外乱伝播ノイズは、測定装置筐体601により強度が減衰されるが、一般的に測定装置600の内部にまで侵入する。このため、測定装置600の内部に侵入した外乱伝播ノイズがケーブル伝送部103に入射して信号検出のS/Nを劣化させることになる。このため、ケーブル伝送部103は、測定装置筐体601から距離をとった位置に配置し、測定装置600に侵入した外乱伝播ノイズの強度が、より減衰して入射するようにする。特に、信号検出装置を構成するケーブル伝送部103は、測定装置600の中央部に配置し、測定装置の構成部品602で外乱伝播ノイズの強度を更に減衰できるようにする。これは、測定装置600の底面の中央部に、例えば、構成部品602の上に絶縁体を配置し、その絶縁体の上に信号検出装置100、400、あるいは500を載置することにより、実現することができる。
【0055】
<第4の実施形態の効果>
第4の実施形態によれば、信号検出装置100、400、あるいは500に入射する外乱伝播ノイズ自身の強度を低減できるので、測定装置600による測定に与える影響を低減して測定精度を向上できる。
【0056】
(5)第5の実施形態
第5の実施形態は、第1から第3の実施形態による信号検出装置100、400、あるいは500を備え、外乱伝播ノイズを低減することで高精度に質量分析する質量分析装置700について説明する。
【0057】
<質量分析装置の構成例>
図7は、第5の実施形態による質量分析装置700の構成例を示す図(装置側面の垂直断面図)である。また、
図8は、質量分析装置700を上から見た、信号検出装置を配置した位置における水平断面図である。
【0058】
質量分析装置700は、前処理部から送液される分析対象の試料をイオン化するイオン源701と、イオン化した試料710を収束させる収束部702と、収束したイオン化試料を質量電荷比に応じてフィルタリングすることで検出対象のイオン化試料のみを通過させる分離部703と、分離部で通過したイオン化試料をコンバージョンダイノード709に衝突させ、そのイオン化試料の量に応じた電子に変換し、その電子をシンチレータ705に入射させることで電子量に応じた光子を出力する蛍光部704と、その光子に応じた電気信号を出力する検知器101と、検知器から出力される電気信号を伝送するケーブル伝送部103と、その電気信号を検出・収集するデータ収集部104と、質量分析を制御する制御部706と、各部位に電力を供給する電源部707、質量分析装置の筐体である708と、を有する。
【0059】
検知器101、ケーブル伝送部103、およびデータ収集部104は、信号検出装置100、400、あるいは500に含まれる構成要素である。また、電源部707は、上述の絶縁電源106も含む。さらに、制御部706は、上述の制御装置105を含む。なお、質量分析装置700における信号検出装置100、400、あるいは500(特に、ケーブル伝送部103)の配置場所は、第4の実施形態で述べたとおり、質量分析装置700の中央部とすることができる(
図7および
図8参照)。
図7および
図8からも分かるように、信号検出装置100、400、あるいは500は、樹脂のブロックで囲まれ、質量分析装置700の中央部に配置される。質量分析装置700の他の構成要素の上に信号検出装置100、400、あるいは500を載置することにより、上下方向において中央部にくるように配置される。また、上述のように、信号検出装置100、400、あるいは500を質量分析装置700の筐体708とは別の筐体(シールドケース102、401、501)内に収容することにより、外乱伝播ノイズの低減を図っている。
【0060】
<測定結果の例>
図9は、第5の実施形態による質量分析装置700の測定中に外乱伝播ノイズを照射した際に測定結果例と、S/Nの改善効果例を示す図である。
【0061】
測定結果801は、外乱伝播ノイズが検出信号に重畳して測定値変動803が発生した場合を示す。測定結果802は、外乱伝播ノイズを減衰させてS/Nを改善した場合を示し、測定値変動803の発生を抑制することで正確に質量を分析できる。
【0062】
<第5の実施形態の効果>
第5の実施形態によれば、外乱伝播ノイズを低減することで高精度に質量分析することができる。
【0063】
(6)その他
以上、本開示の技術について、複数の実施形態に基づき具体的に説明したが、本開示の技術は当該実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1実施形態から第5の実施形態の構成を複数組み合わせて適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
100、400、500 信号検出装置
101 検知器
102 シールドケース
103 ケーブル伝送部
104 データ収集部
105 制御装置
106 絶縁電源
107 信号検出器
110 フレームグランド
111 信号グランド
112 光電変換素子電源
113 電流・電圧変換器電源
114 データ収集部電源
120 光電変換素子
121 電流・電圧変換器
300 ダミー抵抗
401 デジタル送信部用シールドケース
402 アナログ・デジタル変換器
403 デジタル送信器
404 デジタル伝送路
405、505 伝導ノイズ
406、506 伝播ノイズ
501 光送信部用シールドケース
502 電気・光変換器
503 光送信器
504 光伝送路
600 測定装置
601 測定装置筐体
700 質量分析装置
701 イオン源
702 収束部
703 分離部
704 蛍光部
705 シンチレータ
706 制御部
707 電源部
709 コンバージョンダイノード