(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】破壊予測プログラム及び破壊予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240826BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G01N3/08
G01N3/00 Z
(21)【出願番号】P 2023503680
(86)(22)【出願日】2022-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2022005541
(87)【国際公開番号】W WO2022185883
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2021033963
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 一磨
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-65847(JP,A)
【文献】特開2020-159834(JP,A)
【文献】特開2010-69533(JP,A)
【文献】特開2016-31314(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-133103(KR,A)
【文献】特開2020-46184(JP,A)
【文献】国際公開第2019/64922(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の破壊予測をコンピュータに判断させる破壊予測プログラムであって、
前記樹脂成形体の、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片に対する引張試験による、前記試験片の破断時の荷重を、前記試験片の3D試験片モデルに印加し、前記切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、前記切欠き底の主応力が作用する主応力方向と直交する直交方向への相当歪の勾配と、を算出する第1算出部と、
前記第1算出部で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値を設定する閾値設定部と、
前記樹脂成形体の、破壊予測する対象の3D対象モデルに対して、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する第2算出部と、
前記第2算出部で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、前記閾値とに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する破壊判定部と、を備える
ことを特徴とする、破壊予測プログラム。
【請求項2】
前記樹脂成形体は、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体であり、
前記3D試験片モデルの繊維配向を算出する繊維配向算出部を備え、
前記第1算出部は、前記繊維配向算出部が算出した前記繊維配向の情報を持った前記3D試験片モデルに対して、前記切欠き底に発生する相当歪の最大値と、前記直交方向への相当歪の勾配と、を算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の破壊予測プログラム。
【請求項3】
前記第1算出部は、前記3D試験片モデルの表層の相当歪に基づいて、相当歪の勾配を算出する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の破壊予測プログラム。
【請求項4】
前記試験片は、平板を、複数の方向に切り出して作成されたものを使用する
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の破壊予測プログラム。
【請求項5】
樹脂成形体の破壊予測方法であって、
前記樹脂成形体の、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片に対して引張試験を実施し、前記試験片の破断時の荷重を測定する破断荷重測定工程と、
前記試験片の3D試験片モデルに対して、コンピュータによって、前記破断荷重測定工程で測定した前記試験片の破断時の荷重を印加し、前記切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、前記切欠き底の主応力が作用する主応力方向と直交する直交方向への相当歪の勾配と、を算出する第1算出工程と、
前記第1算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値を設定する閾値設定工程と、
前記樹脂成形体の、破壊予測する対象の3D対象モデルに対して、コンピュータによって、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、前記閾値とに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する破壊判定工程と、を含む
ことを特徴とする、破壊予測方法。
【請求項6】
前記樹脂成形体は、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体であり、
前記3D試験片モデルの繊維配向を算出する繊維配向算出工程を含み、
前記第1算出工程では、前記繊維配向算出工程で算出した前記繊維配向の情報を持った前記3D試験片モデルに対して、前記切欠き底に発生する相当歪の最大値と、前記直交方向への相当歪の勾配と、を算出する
ことを特徴とする、請求項5に記載の破壊予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂成形体の破壊予測をコンピュータに判断させる破壊予測プログラム及び破壊予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体の破壊予測をする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、形状的な応力集中部を備えない所定の周囲環境の応力測定樹脂試験片に対して、荷重を加えた際の応力測定樹脂試験片の限界応力と、形状的な応力集中部を備える樹脂成形品に荷重を加えた場合に解析により求まる応力集中部に発生する解析応力と、から算出される予測限界荷重を、実測により求めた実測限界荷重で除することにより得られる補正係数と、応力集中部を備えない所定の温度のひずみ測定樹脂試験片に対して、ひずみ測定樹脂試験片に引っ張り方向に荷重を加えた際の破断ひずみと、の相関関係を所定の形式の関数で表す構成が開示されている。これにより、形状的な応力集中部を備える樹脂成形品に荷重が加えられ、樹脂成形品が破壊する場合、樹脂成形品は応力集中部が破壊するが、この応力集中部に発生する応力をより正確に予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、樹脂成形体に形成された凹部は、曲率が大きくなる程(Rがきつくなる程)、荷重をかけたときに、切欠きの先端が伸びる性質がある。また、強化繊維を含む樹脂材料では、同じ荷重を印加した場合であっても繊維の配向状態によって発生する応力値は大きく変動する。そのため、応力を基準とした特許文献1に記載の構成では、樹脂成形体の破壊を精度よく予測することができない、という問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、簡易な方法で、樹脂成形体の破壊を精度よく予測することができる破壊予測プログラム及び破壊予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本開示の破壊予測プログラムは、樹脂成形体の破壊予測をコンピュータに判断させる破壊予測プログラムであって、前記樹脂成形体の、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片に対する引張試験による、前記試験片の破断時の荷重を、前記試験片の3D試験片モデルに印加し、前記切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、前記切欠き底の主応力が作用する主応力方向と直交する直交方向への相当歪の勾配と、を算出する第1算出部と、前記第1算出部で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値を設定する閾値設定部と、前記樹脂成形体の、破壊予測する対象の3D対象モデルに対して、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する第2算出部と、前記第2算出部で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、前記閾値とに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する破壊判定部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
前記目的を達成するために、本開示の破壊予測方法は、樹脂成形体の破壊予測方法であって、前記樹脂成形体の、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片に対して引張試験を実施し、前記試験片の破断時の荷重を測定する破断荷重測定工程と、前記試験片の3D試験片モデルに対して、コンピュータによって、前記破断荷重測定工程で測定した前記試験片の破断時の荷重を印加し、前記切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、前記切欠き底の主応力が作用する主応力方向と直交する直交方向への相当歪の勾配と、を算出する第1算出工程と、前記第1算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値を設定する閾値設定工程と、前記樹脂成形体の、破壊予測する対象の3D対象モデルに対して、コンピュータによって、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する第2算出工程と、前記第2算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、前記閾値とに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する破壊判定工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本開示の破壊予測プログラム及び破壊予測方法は、簡易な方法で、樹脂成形体の破壊を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の破壊予測プログラムが実行される破壊予測システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例1の試験片の引張試験を説明する斜視図である。
【
図3】実施例1の試験片の作製方法を説明する図である。
【
図5】実施例1の引張試験の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1の3D試験片モデルを示す平面図である。
【
図7】実施例1の3D試験片モデルに荷重を印加した状態を示す解析図である。
【
図8】実施例1の3D試験片モデルの歪と表面からの位置の関係を示すグラフである。
【
図10】実施例1の3D対象モデルを示す斜視図である。
【
図11A】実施例1の3D対象モデルに荷重を印加した状態を示す解析図であり、相当歪の最大値について説明する図である。
【
図11B】実施例1の3D対象モデルに荷重を印加した状態を示す解析図であり、相当歪の勾配について説明する図である。
【
図12】実施例1の3D対象モデルの歪と表面からの位置の関係を示すグラフである。
【
図13】実施例1の破壊判定部を説明するグラフである。
【
図14】実施例1の制御部による処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】実施例1の樹脂成形体の破壊予測方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示による破壊予測プログラム及び破壊予測方法を実現する実施形態を、実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
実施例1における破壊予測プログラム及び破壊予測方法は、射出成形によって成形された樹脂成形体の破壊予測をコンピュータに判断させる。
【0013】
[破壊予測システムの構成]
図1は、実施例1の破壊予測プログラムが実行される破壊予測システムの構成を示すブロック図である。
図2は、実施例1の試験片の引張試験を説明する斜視図である。
図3は、実施例1の試験片の作製方法を説明する図である。
図4は、実施例1の試験片を示す平面図である。
図5は、実施例1の引張試験の結果を示すグラフである。
図6は、実施例1の3D試験片モデルを示す平面図である。
図7は、実施例1の3D試験片モデルに荷重を印加した状態を示す解析図である。
図8は、実施例1の3D試験片モデルの歪と表面からの位置の関係を示すグラフである。
図9は、実施例1の閾値を説明する図である。
図10は、実施例1の3D対象モデルを示す斜視図である。
図11A、
図11Bは、実施例1の3D対象モデルに荷重を印加した状態を示す解析図である。
図11Aは、相当歪の最大値について説明する図であり、
図11Bは、相当歪の勾配について説明する図である。
図12は、実施例1の3D対象モデルの歪と表面からの位置の関係を示すグラフである。
図13は、実施例1の破壊判定部を説明するグラフである。以下、実施例1の破壊予測プログラムが実行される破壊予測システムの構成を説明する。
【0014】
図1に示すように、破壊予測プログラムが実行される破壊予測システム1は、コンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)であって、入力部40から情報が制御部50に入力され、制御部50で処理された情報が、出力部60に出力されるようになっている。
【0015】
<入力部>
入力部40は、試験片情報5aと、引張試験結果情報5bと、破壊予測する対象情報5c等の情報を、制御部50に入力する。
【0016】
(試験片情報)
試験片情報5aは、樹脂成形体である試験片10の情報である。試験片10は、
図2に示すように、引張試験機2で試験するためのものである。試験片10は、例えば、射出成形によって形成される。
【0017】
また、試験片10は、射出成形によって形成された平板に基づいて、多様な方向から、試験片10を切り出して形成してもよい。例えば、
図3に示すように、試験片10は、射出成形によって形成された平板8に基づいて、長手方向に延在した試験片10と、長手方向に直交する短手方向に延在した試験片10と、をプレス加工によって形成することもできる。これにより、繊維Fの向きが異なった試験片10を作成することができる。
【0018】
試験片情報5aには、試験片10の樹脂情報と、試験片10の形状情報と、試験片10の成形条件情報と、が含まれる。試験片10の形状情報には、試験片10の切欠きの大きさの情報が含まれる。試験片10の成形条件情報には、例えば、試験片10が射出成形によって形成される場合、射出成形金型に樹脂が注入される樹脂注入点(ゲート)の情報が含まれる。
【0019】
実施例1では、試験片10は、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体とする。繊維複合樹脂成形体は、強化繊維(ガラスやカーボン)を含んだ、結晶性の熱可塑性樹脂(PA、PEEK、PPS、POM、PBT、PE)によって形成することができる。すなわち、試験片10の樹脂情報には、試験片10の樹脂の種類の情報が含まれる。
【0020】
図4に示すように、実施例1では、試験片10として、第1試験片10Aと、第2試験片10Bと、第3試験片10Cと、第4試験片10Dと、第5試験片10Eとが使用される。
【0021】
第1試験片10Aは、切欠き10aが形成されている。切欠き10aは、正面視でR状に形成され、半径(切欠き半径)が0.5mmに形成されている。切欠き10aの底面は、切欠き底を構成する。
【0022】
第2試験片10Bは、切欠き10bが形成されている。切欠き10bは、正面視でR状に形成され、半径(切欠き半径)が1.0mmに形成されている。切欠き10bの底面は、切欠き底を構成する。
【0023】
第3試験片10Cは、切欠き10cが形成されている。切欠き10cは、正面視でR状に形成され、半径(切欠き半径)が5.0mmに形成されている。切欠き10cの底面は、切欠き底を構成する。
【0024】
第4試験片10Dは、切欠き10dが形成されている。切欠き10dは、正面視でR状に形成され、半径(切欠き半径)が50.0mmに形成されている。切欠き10dの底面は、切欠き底を構成する。
【0025】
第5試験片10Eは、切欠きが形成されていない。言い換えると、第5試験片10Eの切欠きは、半径(切欠き半径)が無限に形成されている。
【0026】
試験片10の形状情報は、例えば、
図6に示すように、3DCADによって作成された試験片10の3D試験片モデル110とすることができる。
【0027】
実施例1では、試験片10は、射出成形によって形成される。試験片10の成形条件情報には、射出成形工程を再現する充填解析によって繊維配向を計算するために必要な情報が含まれる。例えば、試験片10の成形条件情報には、
図6に示すように、射出成形金型に樹脂が注入される樹脂注入点(ゲート)の情報が含まれる。
【0028】
(引張試験結果情報)
引張試験結果情報5bは、第1試験片10A、第2試験片10B、第3試験片10C、第4試験片10D、及び第5試験片10Eについて、引張試験機2によって、引張試験を実施した結果の情報が含まれる。
【0029】
具体的には、引張試験結果情報5bは、
図5に示すように、第1試験片10A、第2試験片10B、第3試験片10C、第4試験片10D、及び第5試験片10Eについて、引張試験を実施して得られた、伸びと荷重の関係の情報と、破断時の荷重の情報とを含む。すなわち、引張試験結果情報5bは、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片10に対する引張試験による、試験片10の破断時の荷重を含む。
【0030】
(破壊予測する対象情報)
破壊予測する対象情報5cは、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の樹脂情報と、形状情報と、成形条件情報と、が含まれる。
【0031】
対象部品の樹脂情報には、対象部品の樹脂の種類の情報が含まれる。なお、対象部品の樹脂の種類は、試験片10と同じ樹脂とすることが好ましい。対象部品の形状情報は、例えば、
図10に示すように、3DCADによって作成された3D対象モデル120とすることができる。対象部品の成形条件情報には、例えば、対象部品が射出成形によって形成される場合、射出成形金型に樹脂が注入される樹脂注入点(ゲート)の情報が含まれる。
【0032】
<制御部>
図1に示すように、制御部50は、第1繊維配向算出部51と、第1算出部52と、閾値設定部53と、第2繊維配向算出部54と、第2算出部55と、破壊判定部56と、を備えている。
【0033】
(第1繊維配向算出部)
第1繊維配向算出部51は、3D試験片モデル110の繊維配向を算出する。第1繊維配向算出部51は、例えば、射出成形工程を再現する充填解析によって、繊維Fの配向を計算することができる。第1繊維配向算出部51は、充填解析で計算した繊維配向を、構造解析用モデルにマッピングし、
図6に示すように、構造解析用モデルの各要素に対して、繊維配向の情報を割り当てることができる。
【0034】
(第1算出部)
第1算出部52は、
図7に示すように、引張試験による試験片10の破断時の荷重を、3D試験片モデル110に印加し、切欠き(110a,110b,110c,110d)の切欠き底に発生する相当歪の最大値と、切欠き底の主応力が作用する主応力方向Sと直交する直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する。第1算出部52は、繊維配向算出部(第1繊維配向算出部51)が算出した繊維配向の情報を持った3D試験片モデル110に対して、切欠き底に発生する相当歪の最大値と、直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出することもできる。
【0035】
3D試験片モデル110に荷重を印加した際の主応力方向Sは、引張試験によって引っ張られる方向を指す。3D試験片モデル110に荷重を印加した際の直交方向Tは、主応力方向Sに直交する方向であり、3D試験片モデル110の幅方向を指す。
【0036】
図8に示すように、第1試験片10Aの切欠き10aの切欠き底に発生する相当歪の最大値は、約0.11である。第2試験片10Bの切欠き10bの切欠き底に発生する相当歪の最大値は、約0.05である。第3試験片10Cの切欠き10cの切欠き底に発生する相当歪の最大値は、約0.03である。第4試験片10Dの切欠き10dの切欠き底に発生する相当歪の最大値は、約0.025である。第5試験片10Eの側面に発生する相当歪の最大値は、約0.023である。
【0037】
直交方向Tへの相当歪の勾配は、3D試験片モデル110の表層の相当歪に基づいて、算出される。直交方向Tへの相当歪の勾配は、例えば、切欠き底の表面の相当歪と、切欠き底の表面から直交方向Tに0.3mmの位置の相当歪と、を結ぶ線分の傾きとすることができる。
【0038】
具体的に第1試験片10Aについてみると、
図8に示すように、切欠き底の表面の相当歪と、切欠き底の表面から直交方向Tに0.3mmの位置の相当歪と、を結ぶ線分Lの傾きとすることができる。
【0039】
また、直交方向Tへの相当歪の勾配は、最も傾きが大きな第1試験片10Aのグラフと、最も傾きが小さな第5試験片10Eのグラフが交わるポイントより、表層の相当歪に基づいて、算出してもよい。
【0040】
このようにして、第1算出部52は、第1試験片10A、第2試験片10B、第3試験片10C、第4試験片10D、及び第5試験片10Eに対して、切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、直交方向Tへの相当歪の勾配とを算出する。
【0041】
(閾値設定部)
閾値設定部53は、第1算出部52で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値Eを設定する。
【0042】
具体的には、閾値設定部53は、
図9に示すように、第1試験片10Aの破壊進展歪である相当歪の最大値(0.11)と、第1試験片10Aの相当歪の勾配とに基づいて、第1閾値点PAを設定する。
【0043】
閾値設定部53は、第2試験片10Bの破壊進展歪である相当歪の最大値(0.05)と、第2試験片10Bの相当歪の勾配とに基づいて、第2閾値点PBを設定する。
【0044】
閾値設定部53は、第3試験片10Cの破壊進展歪である相当歪の最大値(0.03)と、第3試験片10Cの相当歪の勾配とに基づいて、第3閾値点PCを設定する。
【0045】
閾値設定部53は、第4試験片10Dの破壊進展歪である相当歪の最大値(0.025)と、第4試験片10Dの相当歪の勾配とに基づいて、第4閾値点PDを設定する。
【0046】
閾値設定部53は、第5試験片10Eの破壊進展歪である相当歪の最大値(0.023)と、第5試験片10Eの相当歪の勾配とに基づいて、第5閾値点PEを設定する。
【0047】
閾値設定部53は、第1閾値点PA、第2閾値点PB、第3閾値点PC、第4閾値点PD、及び第5閾値点PEに基づいて、これらの点を通過するような近似直線を設定する。
この近似曲線は、閾値Eを構成する。
【0048】
(第2繊維配向算出部)
第2繊維配向算出部54は、3D対象モデル120の繊維配向を算出する。第2繊維配向算出部54は、例えば、射出成形工程を再現する充填解析によって、繊維Fの配向を計算することができる。第2繊維配向算出部54は、充填解析で計算した繊維配向を、構造解析用モデルにマッピングし、
図10に示すように、構造解析用モデルの各要素に対して、繊維配向の情報を割り当てることができる。
【0049】
(第2算出部)
第2算出部55は、破壊予測する対象の3D対象モデル120に対して、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する。第2算出部55は、第2繊維配向算出部54が算出した繊維配向と荷重の関係から、各要素の弾性率を計算し、その弾性率に基づいて、全体の構造計算を実行する。
【0050】
具体的には、第2算出部55は、
図11Aに示すように、3D対象モデル120に対して荷重を印加し、応力解析によって、最大歪が発生している凹部である場所Gを特定し、相当歪の最大値を算出する。また、第2算出部55は、
図11Bに示すように、主応力が作用する主応力方向Sと直交する直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する。
【0051】
3D対象モデル120に対して荷重を印加した際の直交方向Tへの相当歪の勾配は、3D対象モデル120の表層の相当歪に基づいて、算出される。3D対象モデル120に対して荷重を印加した際の直交方向Tへの相当歪の勾配は、例えば、
図12に示すように、最大歪が発生している場所Gの表面の相当歪と、最大歪が発生している場所Gの表面から直交方向Tに0.3mmの位置の相当歪と、を結ぶ線分Mの傾きとすることができる。
【0052】
(破壊判定部)
破壊判定部56は、第2算出部55で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、閾値Eとに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する。
【0053】
具体的には、破壊判定部56は、
図13に示すように、第2算出部55で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて算出されたプロット点P1が、閾値Eより下にある場合、破壊しないと判定する。破壊判定部56は、第2算出部55で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて算出されたプロット点P2が、閾値Eより上にある場合、破壊すると判定する。
【0054】
<出力部>
図1に示すように、出力部60には、制御部50で処理された情報が出力される。出力部60は、例えば、表示モニタとすることができる。出力部60には、破壊判定部56が判定した情報を出力することができる。
【0055】
[制御部による処理の流れ]
図14は、実施例1の制御部50による処理の流れを示すフローチャートである。以下、実施例1の制御部50による処理の流れについて説明する。
【0056】
図14に示すように、第1繊維配向算出部51は、3D試験片モデル110の繊維配向を算出する(ステップS101)。
【0057】
次いで、第1算出部52は、引張試験による試験片10の破断時の荷重を、3D試験片モデル110に印加し、切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、切欠き底の主応力が作用する主応力方向Sと直交する直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する(ステップS102)。
【0058】
次いで、閾値設定部53は、第1算出部52で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値Eを設定する(ステップS103)。
【0059】
次いで、第2繊維配向算出部54は、3D対象モデル120の繊維配向を算出する(ステップS104)。
【0060】
次いで、第2算出部55は、破壊予測する対象の3D対象モデル120に対して、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する(ステップS105)。
【0061】
次いで、破壊判定部56は、第2算出部55で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、閾値Eとに基づいて、破壊が生じるか否かを判定し(ステップS106)、処理を終了する。
【0062】
[破壊予測方法]
図15は、実施例1の樹脂成形体の破壊予測方法を示すフローチャートである。以下、実施例1の樹脂成形体の破壊予測方法の流れについて説明する。
【0063】
(破断荷重測定工程)
図15に示すように、破断荷重測定工程では、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片10に対して引張試験を実施し、試験片10の破断時の荷重を測定する(ステップS201)。
【0064】
(第1繊維配向算出工程)
第1繊維配向算出工程では、コンピュータは、試験片10の3D試験片モデル110の繊維配向を算出する(ステップS202)。
【0065】
(第1算出工程)
第1算出工程では、コンピュータは、第1繊維配向算出工程で算出した繊維配向の情報を持った3D試験片モデル110に対して、破断荷重測定工程で測定した試験片10の破断時の荷重を印加し、切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、切欠き底の主応力が作用する主応力方向Sと直交する直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する(ステップS203)。
【0066】
(閾値設定工程)
閾値設定工程では、コンピュータは、前記第1算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値Eを設定する(ステップS204)。
【0067】
(第2繊維配向算出工程)
第2繊維配向算出工程では、コンピュータは、破壊予測する対象の3D対象モデル120の繊維配向を算出する(ステップS205)。
【0068】
(第2算出工程)
第2算出工程では、コンピュータは、3D対象モデル120に対して、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する(ステップS206)。
【0069】
(破壊判定工程)
破壊判定工程では、コンピュータは、第2算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、閾値Eとに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する(ステップS207)。
【0070】
[破壊予測プログラム・破壊予測方法の作用]
以下、実施例1の破壊予測プログラム及び破壊予測方法の作用を説明する。
【0071】
実施例1の破壊予測プログラムは、樹脂成形体の破壊予測をコンピュータに判断させる破壊予測プログラムであって、樹脂成形体の、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片10に対する引張試験による、試験片10の破断時の荷重を、試験片10の3D試験片モデル110に印加し、切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、切欠き底の主応力が作用する主応力方向Sと直交する直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する第1算出部52と、第1算出部52で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値Eを設定する閾値設定部53と、樹脂成形体の、破壊予測する対象の3D対象モデル120に対して、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する第2算出部55と、第2算出部55で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、閾値Eとに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する破壊判定部56と、を備える(
図1)。
【0072】
ところで、樹脂成形体に形成された切欠きは、曲率が大きくなる程(Rがきつくなる程)、荷重をかけたときに、切欠きの先端が伸びる性質がある。
【0073】
実施例1では、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片10に対する試験結果を考慮することができる。そのため、切欠き半径の違いによる、樹脂成形体の伸びる性質を考慮して、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測をすることができる。その結果、簡易な方法で、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測を精度よくすることができる。
【0074】
実施例1の破壊予測プログラムにおいて、樹脂成形体は、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体であり、3D試験片モデル110の繊維配向を算出する繊維配向算出部(第1繊維配向算出部51)を備え、第1算出部52は、繊維配向算出部(第1繊維配向算出部51)が算出した繊維配向の情報を持った3D試験片モデル110に対して、切欠き底に発生する相当歪の最大値と、直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する(
図1)。
【0075】
ところで、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体は、繊維配向の影響によって、歪の値が大きく変化する。繊維が縦方向に並んでいるとすると、縦方向に引っ張った時の歪の大きさが、繊維の剛性に拘束されることになる。そのため、繊維が縦方向に並んでいる場合、樹脂成形体は、縦方向に歪が生じ難くなり、横方向に歪が生じ易くなる。その結果、繊維配向を考慮しない場合、繊維複合樹脂成形体の破壊予測を精度よくすることができない。
【0076】
実施例1では、繊維配向を考慮して、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測をすることができる。そのため、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測を精度よくすることができる。
【0077】
実施例1の破壊予測プログラムでは、第1算出部52は、3D試験片モデル110の表層の相当歪に基づいて、相当歪の勾配を算出する(
図8)。
【0078】
これにより、樹脂成形体の歪の変化が大きな表層の相当歪の勾配を利用することができる。そのため、切欠き半径の違いによる、樹脂成形体の伸びる性質を十分に考慮して、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測を精度よくすることができる。
【0079】
実施例1の破壊予測プログラムでは、試験片10は、平板8を、複数の方向に切り出して作成されたものを使用する(
図3)。
【0080】
これにより、3D対象モデル120の繊維配向に合わせた試験片10に基づいて、破壊の判定を実施することができる。そのため、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測を精度よくすることができる。
【0081】
実施例1の破壊予測方法は、樹脂成形体の破壊予測方法であって、樹脂成形体の、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片10に対して引張試験を実施し、試験片10の破断時の荷重を測定する破断荷重測定工程と、試験片10の3D試験片モデル110に対して、コンピュータによって、破断荷重測定工程で測定した試験片10の破断時の荷重を印加し、切欠きの切欠き底に発生する相当歪の最大値と、切欠き底の主応力が作用する主応力方向Sと直交する直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する第1算出工程と、第1算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配とに基づいて、破壊進展の閾値Eを設定する閾値設定工程と、樹脂成形体の、破壊予測する対象の3D対象モデル120に対して、コンピュータによって、荷重を印加し、発生する相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、を算出する第2算出工程と、第2算出工程で算出した相当歪の最大値と、相当歪の勾配と、閾値Eとに基づいて、破壊が生じるか否かを判定する破壊判定工程と、を含む(
図15)。
【0082】
ところで、樹脂成形体に形成された凹部は、曲率が大きくなる程(Rがきつくなる程)、荷重をかけたときに、切欠きの先端が伸びる性質がある。
【0083】
実施例1では、切欠き半径の異なる切欠きを形成した複数の試験片10に対する試験結果を考慮することができる。そのため、切欠き半径の違いによる、樹脂成形体の伸びる性質を考慮して、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測をすることができる。その結果、簡易な方法で、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測を精度よくすることができる。
【0084】
実施例1の破壊予測方法では、樹脂成形体は、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体であり、3D試験片モデル110の繊維配向を算出する繊維配向算出工程を含み、第1算出工程では、繊維配向算出工程で算出した繊維配向の情報を持った3D試験片モデル110に対して、切欠き底に発生する相当歪の最大値と、直交方向Tへの相当歪の勾配と、を算出する(
図15)。
【0085】
ところで、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体は、繊維配向の影響によって、歪の値が大きく変化する。繊維が縦方向に並んでいるとすると、縦方向に引っ張った時の歪の大きさが、繊維の剛性に拘束されることになる。そのため、繊維が縦方向に並んでいる場合、樹脂成形体は、縦方向に歪が生じ難くなり、横方向に歪が生じ易くなる。その結果、繊維配向を考慮しない場合、繊維複合樹脂成形体の破壊予測を精度よくすることができない。
【0086】
実施例1では、繊維配向を考慮して、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測をすることができる。そのため、破壊予測する樹脂成形体の対象部品の破壊予測を精度よくすることができる。
【0087】
以上、本開示の破壊予測プログラム及び破壊予測方法を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る本開示の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0088】
実施例1では、試験片10及び対象部品を射出成形によって形成する例を示した。しかし、試験片及び対象部品の成形方法は、この態様に限定されず、例えば、ブロー成形によって形成することもできる。
【0089】
実施例1では、試験片10及び対象部品を、繊維を複合した繊維複合樹脂成形体とする例を示した。しかし、試験片10及び対象部品は、樹脂成形体であってもよい。
【0090】
実施例1では、第1繊維配向算出部51及び第2繊維配向算出部54を設ける例を示した。しかし、第1繊維配向算出部51及び第2繊維配向算出部54を設けなくてもよい。
【0091】
実施例1では、第1繊維配向算出工程及び第2繊維配向算出工程を設ける例を示した。しかし、第1繊維配向算出工程及び第2繊維配向算出工程を設けなくてもよい。
【関連出願への相互参照】
【0092】
本出願は、2021年3月3日に日本国特許庁に出願された特願2021-033963に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。