(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】配線膜および配線膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20240827BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C23C14/14 B
C23C14/14 D
C23C14/14 G
H01L21/285 S
H01L21/285 301
(21)【出願番号】P 2019073658
(22)【出願日】2019-04-08
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018076267
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 剛直
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 安彦
(72)【発明者】
【氏名】前野 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】増茂 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】滝本 康幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 晴彦
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-157580(JP,A)
【文献】特開2006-279022(JP,A)
【文献】特開2015-081376(JP,A)
【文献】特開2008-221488(JP,A)
【文献】特公昭60-004154(JP,B2)
【文献】電気銅めっき膜の内部応力および結晶成長に及ぼすハロゲン化物イオンの影響,表面技術,2004年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B32B 1/00-43/00
H05K 3/10- 3/26
H05K 3/38
H05K 1/03
C25D 1/00-21/22
H01L 21/00-21/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた多層構造の配線膜であって、
前記基板上に成膜された膜厚が3~200nmである金属元素から構成される金属若しくは合金からなる初期層と、
前記初期層上に成膜された金属元素から構成される金属若しくは合金からなる2層目以降の層と、を含み、
前記初期層と2層目の間に界面を有し、
前記初期層および前記2層目以降の
層が同種の金属若しくは合金から構成され、
前記初期層は酸素原子含有層であり
、層間酸素原子含有比率が2以上であ
り、かつ初期層酸素原子含有比率が0.03~0.15である(ここで、前記層間酸素原子含有比率とはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて深さ方向プロファイルを測定して得られる、前記初期層の酸素原子数百分率値を前記2層目以降の層の表面空気酸化層を除去した領域における酸素原子数百分率値で除した値であ
り、前記初期層酸素原子含有比率とはXPSを用いて深さ方向プロファイルを測定して得られる、前記初期層の酸素原子数百分率値を前記初期層の金属原子数百分率値で除した値である。)
ことを特徴とする配線膜。
【請求項2】
Al、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1の金属元素の金属若しくは合金から構成される、請求項1に記載の配線膜。
【請求項3】
X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが5.0以上である、請求項1または2に記載の配線膜。
【請求項4】
真空雰囲気下でのスパッタリングにより、金属元素を含む多層構造の配線膜を形成する方法であって、
真空雰囲気下で、膜厚が3~200nmである初期層を前記基板上に成膜後、真空排気する工程、および
2層目以降の層を前記初期層上に成膜する工程、を含み、
前記初期層と2層目の間に界面を有し、
前記初期層および前記2層目以降の
層が同種の金属若しくは合金から構成され、
前記初期層の成膜後における真空排気後の圧力が1.0×10
-3Pa以下であ
り、
前記初期層は酸素原子含有層であり、層間酸素原子含有比率が2以上であり、かつ初期層酸素原子含有比率が0.03~0.15である(ここで、前記層間酸素原子含有比率とはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて深さ方向プロファイルを測定して得られる、前記初期層の酸素原子数百分率値を前記2層目以降の層の表面空気酸化層を除去した領域における酸素原子数百分率値で除した値であり、前記初期層酸素原子含有比率とはXPSを用いて深さ方向プロファイルを測定して得られる、前記初期層の酸素原子数百分率値を前記初期層の金属原子数百分率値で除した値である。)
方法。
【請求項5】
前記配線膜が、Al、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1の金属元素の金属若しくは合金から構成される、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線膜および配線膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ製造に使用する基板の大型化に伴い、TFT(Thin Film Transistor)素子はじめとして、ディスプレイのAl配線膜の品質を維持することが困難になっている。金属配線の品質の指標として、Al配線の場合はその結晶性、Al(111)結晶面への配向性が挙げられる(非特許文献1、2)。
【0003】
大型基板を用いた場合、均一且つ迅速な基板の温度制御や真空排気が困難となり、水分や酸素、窒素等の残留ガス分圧が高くなるため、結晶の配向性が悪くなる。残留ガス分圧が高い場合、結晶の成長過程において積層欠陥が発生するために、異なった方位を向いた成長核が発生し、例えばAlの場合はAl(111)配向が弱まると考えられている。配向性を向上させる方法として、特に基板表面に存在する水分を除去することが重要である(非特許文献1、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】伊藤隆司著、VLSIの薄膜技術、1986年
【文献】S.Vaidya,A.K.Sinha,Thin Solid Films,Volume 75,Issue 3,16 January 1981, p.253-259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板表面の水分を除去する方法としては、一般に基板の温度や真空槽内の圧力を適切な条件とする方法が知られている。例えば、基板の温度を上昇させると脱ガスが促進され、基板表面近傍の水分が低減する。また、真空槽内の圧力を低下させると雰囲気中および基板に吸着する水分等のガスが減少する。これらによって金属原子の移動を阻害する要因が減少した結果、金属原子が最安定に配列できるため、結晶の配向性が向上する。
【0007】
しかしながら、これら因子と配向性との関係は完全には解明されておらず、実験的に最適条件を明らかにする必要があり、その選定は容易ではない。また最適な条件が判明した場合であっても、これらの因子は装置構成やタクトの制限から一定の範囲内とする必要があり、改善には限界がある。
【0008】
上述のような課題に鑑み、本発明は、結晶の配向性に優れた配線膜および該配線膜を簡易且つ効率的に形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、真空雰囲気下でのスパッタリングにより、膜厚が3~200nmである初期層を基板上に成膜し、該初期層上に2層目以降の層を成膜することにより、結晶の配向性に優れた、金属元素を含む多層構造の配線膜が得られることを見出し、係る知見に基づいて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.基板上に設けられた多層構造の配線膜であって、
前記基板上に成膜された膜厚が3~200nmである金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなる初期層と、
前記初期層上に成膜された金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなる2層目以降の層と、を含み、前記初期層と2層目の間に界面を有することを特徴とする配線膜。
2.前記初期層および2層目以降の層の主成分が同種の金属もしくは合金またはその化合物から構成されることを特徴とする、前記1に記載の配線膜。
3.前記初期層が酸素原子含有層であることを特徴とする、前記1または2に記載の配線膜。
4.層間酸素原子含有比率が2以上であることを特徴とする、前記3に記載の配線膜。
5.初期層酸素原子含有比率が、0.02~1.5であることを特徴とする、前記4に記載の配線膜。
6.前記金属元素がAl、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1である、前記1~5のいずれか1に記載の配線膜。
7.真空雰囲気下でのスパッタリングにより基板上に設けられた金属元素を含む多層構造の配線膜であって、
前記基板上に成膜された膜厚が3~200nmである初期層と、
前記初期層の成膜後に真空排気した後に、前記初期層上に成膜された2層目以降の層とを含むからなる、配線膜。
8.前記初期層の成膜後における真空排気後の圧力が1.0×10-3Pa以下である、前記7に記載の配線膜。
9.Al、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1の金属元素の金属若しくは合金またはその化合物から構成される、前記7または8に記載の配線膜。
10.X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが5.0以上である、前記1~9のいずれか1に記載の配線膜。
11.膜厚が200nm以下であって、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが2.3以上である、前記1~9のいずれか1に記載の配線膜。
12.X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上大きい、前記1~11のいずれか1に記載の配線膜。
13.AlまたはCuを主成分とする、前記1~12のいずれか1に記載の配線膜。
14.Alを主成分とする配線膜であり、且つX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークとAl(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Al(111)/Al(200)が5.0以上である前記13に記載の配線膜。
15.Alを主成分とする配線膜であり、膜厚が200nm以下であって、X線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークとAl(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Al(111)/Al(200)が2.3以上である前記13に記載の配線膜。
16.Alを主成分とする配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下である前記13に記載の配線膜。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
17.Alを主成分とする配線膜であり、Al(111)結晶面に起因する回折ピークの位置でロッキングカーブを測定したときのピーク間距離が15°以下である前記13に記載の配線膜。
18.Alを主成分とする2層構造の配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの強度と2層の膜厚との比が、5.0[count/nm]以上である前記13に記載の配線膜。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
19.Alを主成分とする配線膜であり、且つ、X線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上小さい、前記13に記載の配線膜。
20.Cuを主成分とする配線膜であり、且つX線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークとCu(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Cu(111)/Cu(200)が5.0以上である前記13に記載の配線膜。
21.Cuを主成分とする配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下である前記13に記載の配線膜。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
22.Cuを主成分とする配線膜であり、且つ、X線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上小さい、前記13に記載の配線膜。
23.前記基板がガラス基板、シリコン基板、石英基板、樹脂基板、セラミックス基板、または金属基板である、前記1~22のいずれか1に記載の配線膜。
24.真空雰囲気下でのスパッタリングにより、金属元素を含む多層構造の配線膜を形成する方法であって、
膜厚が3~200nmである初期層を前記基板上に成膜後、真空排気する工程、および
2層目以降の層を前記初期層上に成膜する工程、を含む方法。
25.前記初期層の成膜後における真空排気後の圧力が1.0×10-3Pa以下である、前記24に記載の方法。
26.前記配線膜が、Al、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1の金属元素の金属若しくは合金またはその化合物から構成される、前記24または25に記載の方法。
27.前記配線膜が、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが5.0以上である、前記24~26のいずれか1に記載の方法。
28.前記配線膜が、膜厚が200nm以下であって、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが2.3以上である、前記24~26のいずれか1に記載の方法。
29.前記配線膜が、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上大きい、前記24~28のいずれか1に記載の方法。
30.前記配線膜がAlまたはCuを主成分とする、前記24~29のいずれか1に記載の方法。
31.前記配線膜がAlを主成分とする配線膜であり、且つX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークとAl(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Al(111)/Al(200)が5.0以上である前記30に記載の方法。
32.前記配線膜がAlを主成分とする配線膜であり、膜厚が200nm以下であって、X線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークとAl(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Al(111)/Al(200)が2.3以上である前記30に記載の方法。
33.前記配線膜がAlを主成分とする配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下である前記30に記載の方法。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
34.前記配線膜がAlを主成分とする配線膜であり、Al(111)結晶面に起因する回折ピークの位置でロッキングカーブを測定したときのピーク間距離が15°以下である前記30に記載の方法。
35.前記配線膜がAlを主成分とする2層構造の配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの強度と2層の膜厚との比が、5.0[count/nm]以上である前記30に記載の方法。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
36.前記配線膜がAlを主成分とする配線膜であり、且つ、X線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上小さい、前記30に記載の方法。
37.前記配線膜がCuを主成分とする配線膜であり、且つX線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークとCu(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Cu(111)/Cu(200)が5.0以上である前記30に記載の方法。
38.前記配線膜がCuを主成分とする配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下である前記30に記載の方法。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
39.前記配線膜がCuを主成分とする配線膜であり、且つ、X線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上小さい、前記30に記載の方法。
40.前記基板がガラス基板、シリコン基板、石英基板、樹脂基板、セラミックス基板、または金属基板である、前記24~39のいずれか1に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の配線膜は、結晶の配向性が著しく向上する。また、本発明の方法によれば、膜厚が特定範囲である初期層を基板上に成膜した後に、初期層上に2層目以降の層を形成して多層構造膜からなる配線膜を形成することにより、初期層を形成するスパッタ時に基板上の水分子を顕著に除去することができ、基板の温度制御や長時間をかけて圧力を低下させる等の方法によらずに、結晶の配向性が著しく向上した配線膜を簡易且つ効率的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一態様の方法に用いるスパッタリング装置の第一例を説明するための断面図である。
【
図2】
図2(a)~(e)は、本発明の一態様の配線膜の形成工程の一例を説明するための断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様の配線膜を有する液晶表示装置の一例を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一態様の方法に用いるスパッタリング装置の第二例を説明するための断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一態様の方法に用いるスパッタリング装置の第三例を説明するための断面図である。
【
図6】
図6(a)~(c)は、通常の単層成膜により配線膜が形成される過程を示す模式図である。また、
図6(d)~(g)は本発明の一態様の方法により、2層構造の配線膜が形成される過程を示す模式図である。
【
図7】
図7(a)は比較例1-1および実施例1-1で得られた膜の断面をSEMにより観察した図であり、
図7(b)は、
図7(a)における実施例1-1で得られた膜の断面の拡大図である。
【
図8】
図8(a)は比較例1-1で得られた膜の表面をSEMにより観察した図であり、
図8(b)は実施例1-1で得られた膜の表面をSEMにより観察した図である。
【
図9】
図9は、比較例1-5および実施例1-7で得られた膜をXPSによりAl膜表面からガラス側に向かい、深さ方向分析した結果を示した図である。
【
図10】
図10は、総膜厚が600nmとなるよう2層で成膜した膜において、初期層の膜厚と、得られた膜のX線回折によるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの強度[以下、Al(111)ピーク強度ともいう。]と、真空排気後の圧力と、の関係を示す図である。ここで膜厚600nmのプロットは単層であることを示している。
【
図11】
図11は、総膜厚が600nmとなるよう2層で成膜した膜において、真空排気後の圧力と、得られた膜のX線回折によるAl(111)ピーク強度と、の関係を示す図である。
【
図12】
図12は、総膜厚が100nmとなるよう2層で成膜した膜において初期層の膜厚と、得られた膜のX線回折によるAl(111)ピーク強度と、真空排気後の圧力と、の関係を示す図である。ここで膜厚100nmのプロットは単層であることを示している。
【
図13】
図13は比較例1-1および実施例1-1で得られた膜についてAl(111)結晶面のロッキングカーブを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の一態様の配線膜について詳細に説明する。本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下において「~」は、同様の意味をもって使用される。
【0014】
[配線膜]
本発明の第1態様の配線膜は、基板上に設けられた多層構造の配線膜であって、
前記基板上に成膜された膜厚が3~200nmである金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなる初期層と、
前記初期層上に成膜された金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなる2層目以降の層と、を含む配線膜であり、初期層と2層目の間に界面を有することを特徴とする金属膜である。ここで界面とはSEM(Scanning Electron Microscopy)を用いた反射電子像観察により断面を観察した際に初期層と2層目の間に画像上の濃淡が不連続となる、境界線が存在することを意味する。反射電子像における濃淡の差異は一般に組成の違いを意味し、これら差異は結晶状態の違い、すなわち結晶成長が不連続となる、結晶粒界が存在することを意味し、2層目がエピタキシャル成長をしていないことが推定されるが、この限りではない。
また、初期層と2層目の間には界面が形成されるが、他の層間には界面が存在しても、しなくてもよい。
【0015】
第1態様の配線膜は、初期層が酸素原子含有層であり、層間酸素原子含有比率が2以上であることを特徴とする。
ここで層間酸素原子含有比率とはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)を用いて深さ方向プロファイルを測定して得られる、初期層の酸素原子数百分率値を2層目以降の層の表面空気酸化層を除去した領域における酸素原子数百分率値で除した値である。
【0016】
第1態様の配線膜は、初期層酸素原子含有比率が、0.02~1.5であることを特徴とする。
ここで初期層酸素原子含有比率とはXPSを用いて深さ方向プロファイルを測定して得られる、初期層中の酸素原子数百分率値を初期層中の金属原子数百分率値で除した値である。
【0017】
初期層には保水に伴う水素原子も存在すると考えられるが、XPSでは水素原子は捉えられないので、保水分を代表する値として酸素原子検出量で判断している。
第1態様の配線膜における層間酸素原子含有比率および初期層酸素原子含有比率が高いのは、基板に付着した水分と反応しながら、かつ/またはスパッタにより水分を叩き出しながら初期層が成膜されるため、ガラス表面水分が叩き出された後に成膜する2層目よりも保水分が多いものと推定している。あるいは、初期層成膜後に一端スパッタをやめ、真空排気をしているため、その際に空間に微量残留した水分により表面が酸化されて酸素原子量が高くなった可能性もあると考えられる。連続的に成膜した場合でも基板に付着した水分と反応しながら、かつ/またはスパッタにより水分を叩き出しながら膜形成がなされるものの、この場合は水分が膜中に拡散するため、均質になるものと考えられる。
なお、以上の考察において、水素と結合していない酸素の存在の可能性も否定できないが、本発明はその可能性には左右されない。
【0018】
なお、層間酸素原子含有比率および初期層酸素原子含有比率の測定としてはXPSが適しているが、膜中の酸素と金属の原子数比を測定できる方法であれば手法はこれに限らない。他の手法として、例えば、断面SEM-EDX(Scanning Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、断面TEM-EDX(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、オージェ電子分光法、RBS(Rutherford Backscattering Spectrometry)、D-SIMS(Dynamic-Secondary Ion Mass Spectrometry)などが考えられる。
なお、断面分析する際は、断面作製時に断面層が空気などによる酸化を受ける懸念があるので、酸化を受けない断面作製方法、もしくは断面作製時の酸化の影響を排除して分析値を求める方法が必要なのは、言うまでもない。
【0019】
第1態様の配線膜は、初期層が金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなり、好ましくは金属元素から構成される金属若しくは合金からなる。また、本発明の第1態様の配線膜は、2層目以降の層が金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなり、好ましくは金属元素から構成される金属または合金からなる。金属または合金の化合物としては、例えば、金属または合金の酸化物および窒化物が挙げられる。
【0020】
前記金属元素は、Al、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1が好ましく、Al、Cu、Ti、Moがより好ましく、AlまたはCuがさらに好ましい。
【0021】
本発明の第2態様の配線膜は、真空雰囲気下でのスパッタリングにより基板上に設けられた金属元素を含む多層構造の配線膜であって、
前記基板上に成膜された膜厚が3~200nmである初期層と、
前記初期層の成膜後に真空排気した後に、前記初期層上に成膜された2層目以降の層とを含む、配線膜である。
【0022】
第2態様の配線膜は、初期層の成膜後における真空排気後の圧力が1.0×10-3Pa以下であることが好ましく、より好ましくは5.0×10-4Pa以下であり、さらに好ましくは3.0×10-4Pa以下である。初期層の成膜後における真空排気により圧力を1.0×10-3Pa以下とした後に、初期層上に2層目以降を成膜することにより、配線膜の結晶の配向性が向上する。
【0023】
第2態様の配線膜は、Al、Cu、Ti、Mo、C、Si、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、As、Se、Zr、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pt、Au、Pb、Ru、およびBiからなる群より選ばれる少なくとも1の金属元素の金属若しくは合金またはその化合物から構成されることが好ましく、Al、Cu、Ti、Moの金属元素の金属若しくは合金またはその化合物から構成されることがより好ましく、AlまたはCuの金属元素の金属若しくは合金またはその化合物から構成されることがさらに好ましい。
【0024】
第2態様の配線膜は、初期層が金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなることが好ましく、金属元素から構成される金属若しくは合金からなることがより好ましい。また、本発明の第2態様の配線膜は、2層目以降の層が金属元素から構成される金属若しくは合金またはその化合物からなることが好ましく、金属または合金からなることがより好ましい。
【0025】
第1態様および第2態様の配線膜は、初期層と2層目以降の層とは同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。また、初期層と2層目以降の層とは、主成分が同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同一のターゲットで2層処理できることや成膜後に実施されるエッチングに複数種の液が不要となることを踏まえ、生産性を向上する点から主成分が同じであることが好ましい。
【0026】
第1態様および第2態様の配線膜は、AlまたはCuを主成分とすることが好ましい。本発明において主成分とは、主成分とする元素を50原子%以上含有することを示す。したがって、「Alを主成分とする」とは、「Al原子を50原子%以上含有する」ことをいう。第1態様および第2態様の配線膜は、AlまたはCuを75原子%以上含有することがより好ましく、AlまたはCuを90原子%以上含有することがさらに好ましく、AlまたはCuからなることが特に好ましい。
【0027】
第1態様および第2態様の配線膜における初期層の膜厚は、3~200nmであり、好ましくは4~100nmであり、より好ましくは5~50nmであり、さらに好ましくは10~30nmである。初期層の膜厚を3~200nmとすることにより、結晶の配向性に優れた配線膜となる。
【0028】
初期層の膜厚は、配線膜の膜厚に応じて調整することが好ましい。具体的には、配線膜の膜厚が200nm以下の場合、初期層の膜厚は、3nm以上であることが好ましく、より好ましくは5nm以上であり、さらに好ましくは10nm以上である。また、初期層の膜厚は、配線膜の膜厚の50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。初期層の膜厚を、配線膜の膜厚の3nm以上かつ配線膜の膜厚の50%以下とすることにより、結晶の配向性に優れた配線膜となる。
【0029】
第1態様および第2態様の配線膜は、膜厚が30~1000nmであることが好ましく、より好ましくは50~700nm、さらに好ましくは100~400nmである。配線膜の膜厚が30nm以上であることにより、電子の表面散乱の影響により電気抵抗が上昇するのを防ぐとともに、良質な2層目以降の層の膜厚が厚くなるので、膜品質をより向上できる。また、膜厚が1000nm以下であることにより、膜応力により基板から膜が剥がれやすくなるのを防ぐとともに、生産効率を向上できる。
【0030】
第1態様および第2態様の配線膜は、多層構造の全層数が2~10であることが好ましく、より好ましくは2~5であり、さらに好ましくは2~4である。多層構造の全層数を2~10とすることにより、膜品質の向上と成膜工程にかかるタクト短縮の両立が可能である。
【0031】
第1態様の配線膜は、層間酸素原子含有比率 が2以上であることが好ましく、より好ましくは4以上である。また、2層目以降の層に酸素が全く含まれない場合、層間酸素原子含有比率は無限大にもなりうる。
【0032】
また、第1態様の配線膜は、初期層酸素原子含有比率が、0.02~1.5であることが好ましく、より好ましくは0.02~0.5であり、さらに好ましくは0.02~0.3であり、特に好ましくは、0.03~0.15である。これにより、2層目以降の結晶配向を向上することができる、適切な初期層とすることができる。
【0033】
第1態様および第2態様の配線膜は、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが5.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、12.0以上であることがさらに好ましく、15.0以上であることが特に好ましい。
【0034】
第1態様および第2態様の配線膜は、膜厚が200nm以下であって、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが2.3以上であることが好ましく、3.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましい。
【0035】
第1態様および第2態様の配線膜は、X線回折により得られる特定の結晶面に起因する回折ピークのうち、最大となる第1回折ピークと次に大きい第2回折ピークとの比、第1回折ピーク/第2回折ピークが、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上大きいことが好ましく、10%以上大きいことがより好ましく、20%以上大きいことがさらに好ましく、40%以上大きいことが特に好ましい。
【0036】
第1態様および第2態様の配線膜は、Alを主成分とする配線膜であり、且つX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークとAl(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Al(111)/Al(200)が5.0以上であることが好ましく、より好ましくは10.0以上であり、さらに好ましくは15.0以上である。Al(111)/Al(200)が5.0以上であることにより、配向性が向上した配線膜が得られる。Al(111)/Al(200)の上限は特に制限されないが、典型的には50.0以下である。
【0037】
第1態様および第2態様の配線膜は、Alを主成分とする配線膜であり、膜厚が200nm以下であって、X線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークとAl(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Al(111)/Al(200)が2.3以上であることが好ましく、より好ましくは3.5以上であり、さらに好ましくは5.0以上である。Al(111)/Al(200)が2.3以上であることにより、配向性が向上した配線膜が得られる。Al(111)/Al(200)の上限は特に制限されないが、典型的には50.0以下である。
【0038】
第1態様および第2態様の配線膜は、Alを主成分とする配線膜であり、且つ結晶子サイズを下記条件により測定したX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因するピークの半値幅で規定したとき、前記回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下であることが好ましく、より好ましくは0.36°以下、さらに好ましくは0.34°以下である。前記回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下であることにより、配向性が向上した配線膜が得られる。前記回折ピークの半値幅(2θ)の下限は特に制限されないが、典型的には0.30°以上である。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
【0039】
第1態様および第2態様の配線膜は、Alを主成分とする配線膜であり、Al(111)結晶面についてのロッキングカーブ(ωスキャン)のピーク間距離が15[°]以下であることが好ましく、より好ましくは12[°]以下であり、さらに好ましくは9[°]以下である。前記ピーク間距離が15[°]以下であることにより、結晶の配向性に優れ、結晶軸の分散(揺らぎ、ばらつき)の低減された配向膜となる。該ピーク間距離の下限は特に制限されないが、典型的には2[°]以上である。
【0040】
一般的に配向性の強弱はロッキングカーブの半値幅で表現されることが多いが、第1態様および第2態様の配線膜ではロッキングカーブが2つの極大点を有していたので、本発明においては半値幅に替えて2山のピーク間距離で配向性の強弱を議論することとした。前記ロッキングカーブのピーク間距離は、例えば次のようにして測定することができる。X線回折測定を行い、Al(111)結晶面に起因する回折ピークの位置(入射X線方向と回折X線方向との成す角2θ=38.5°の位置)に2θを固定して、入射角X線と結晶表面の成す角ωだけを変化させてX線回折測定を行い、得られた回折強度分布(ロッキングカーブ)において、半値幅に替えて本波形を2山の合成波形となるようにpseudo-Voight関数でピークフィッティングした際の各山のピーク間距離を用いることとする。各山のピーク間距離は15[°]以下であることが好ましく、より好ましくは12[°]以下であり、さらに好ましくは9[°]以下である。該ピーク間距離の下限は特に制限されないが、典型的には2[°]以上である。
【0041】
第1態様および第2態様の配線膜は、Alを主成分とする2層構造の配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの強度と2層の膜厚との比が、5.0[count/nm]以上であることが好ましく、より好ましくは7.0[count/nm]以上、さらに好ましくは10.0[count/nm]以上である。前記比の上限は特に制限されないが、典型的には30.0[count/nm]以下である。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
【0042】
第1態様および第2態様の配線膜は、Alを主成分とする配線膜であり、且つ、X線回折により得られるAl(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上小さいことが好ましく、10%以上小さいことがより好ましく、15%以上小さいことがさらに好ましい。前記範囲であることにより、結晶の配向性が向上した配線膜が得られる。
【0043】
第1態様および第2態様の配線膜は、Cuを主成分とする配線膜であり、且つX線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークとCu(200)結晶面に起因する回折ピークとの比、Cu(111)/Cu(200)が5.0以上であることが好ましく、より好ましくは5.5以上であり、さらに好ましくは6.0以上である。Cu(111)/Cu(200)が5.0以上であることにより、配向性が向上した配線膜が得られる。Cu(111)/Cu(200)の上限は特に制限されないが、典型的には10.0以下である。
【0044】
第1態様および第2態様の配線膜は、Cuを主成分とする配線膜であり、且つ下記条件により測定したX線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が0.38°以下であることが好ましく、より好ましくは0.36°以下、さらに好ましくは0.34°以下である。前記回折ピークの半値幅(2θ)の下限は特に制限されないが、典型的には0.30°以上である。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
管電圧:40kV
管電流:40mA
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
【0045】
第1態様および第2態様の配線膜は、Cuを主成分とする配線膜であり、且つ、X線回折により得られるCu(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が、スパッタリングにより前記基板上に成膜された同一の膜厚および前記初期層と同一の組成である単層からなる配線膜と比較して、5%以上小さいことが好ましく、10%以上小さいことがより好ましく、15%以上小さいことがさらに好ましい。前記範囲であることにより、結晶の配向性が向上した配線膜が得られる。
【0046】
第1態様および第2態様の配線膜は、基板がガラス基板、シリコン基板、石英基板、樹脂基板、セラミックス基板、または金属基板であることが好ましい。
【0047】
[配線膜の形成方法]
本発明の一態様の方法は、真空雰囲気下でのスパッタリングにより、金属元素を含む多層構造の配線膜を形成する方法であって、膜厚が3~200nmである初期層を前記基板上に成膜後、真空排気する工程、および2層目以降の層を前記初期層上に成膜する工程、を含む方法である。
【0048】
図1の符号1は、本発明の一態様の方法に用いるスパッタリング装置の第一例を示す。スパッタリング装置1は、真空槽2を有しており、真空槽2内には、金属元素を含むスパッタリングターゲット11が配置されている。
【0049】
真空槽2内には、真空排気系9とガス導入系8が接続されている。基板21を基板ホルダ7に保持させた後、真空槽2内へ搬送し、真空排気系9によって真空槽2内を真空排気し、真空雰囲気とする。
【0050】
スパッタリングターゲット11は真空槽2外部に配置された電源5に接続されており、ガス導入系8からスパッタリングガスを導入しながら、スパッタリングターゲット11に電源5から電圧を印加し、スパッタリングターゲット11表面近傍にプラズマを形成し、スパッタリングターゲット11をスパッタリングすると、スパッタリングターゲット11を構成する物質の粒子が放出され、基板21表面に到達し、
図2(b)に示すように初期層22が形成される。
【0051】
初期層22の形成時における真空槽2内の圧力は通常1.0×10-3~1.0×10-7Paであり、好ましくは5.0×10-4~1.0×10-6Paであり、より好ましくは3.0×10-4~1.0×10-5Paである。また、初期層22の形成時における真空槽2内の温度は、通常25~250℃であり、好ましくは75~200℃、より好ましくは100~150℃である。
【0052】
初期層22の膜厚が3~200nmに形成されたところで、電圧印加およびスパッタガスの導入を停止する。初期層23の形成後に真空排気した後、真空槽2内でスパッタリングターゲット11をスパッタすると、初期層22の表面に、2層目以降の層23が形成される[
図2(c)]。
【0053】
初期層22の形成後における真空排気後の圧力は1.0×10-3Pa以下であることが好ましく、より好ましくは5.0×10-4Pa以下、さらに好ましくは3.0×10-4Pa以下である。本明細書において、「初期層の成膜後における真空排気後の圧力」とは、初期層の成膜後に真空排気した後、スパッタリングガスを導入する前、すなわち2層目を成膜する直前における圧力をいう。また、2層目以降の層23の形成時における真空槽2内の温度は、通常25~250℃であり、好ましくは75~200℃、より好ましくは100~150℃である。
【0054】
2層目以降の層23が所定膜厚に形成されたところで、基板21をスパッタリング装置1から搬出する。基板21の表面には、
図2(c)に示すように、初期層22と2層目以降の層23とからなる配線膜24が形成されている。
【0055】
次に、
図2(d)に示すように、配線膜24の表面にパターニングしたレジスト膜26を配置し、レジスト膜26底面に露出する配線膜24を弱酸等のエッチング液やエッチングガスに曝すと、
図2(e)に示すように、パターニングされた配線膜25が形成される。
【0056】
初期層22と2層目以降の層23の主成分が同じである場合、同じ組成のエッチング液(又はエッチングガス)でエッチングが可能であり、初期層22をエッチングする際に、新しくレジスト膜を配置しなおす必要はない。
【0057】
上記例では、初期層22と2層目以降の層23を同じスパッタリング装置1の真空槽2内で形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。後述する
図4、5に示すように、初期層22と2層目以降の層23を、別々の真空槽内で、別々のターゲットをスパッタリングして形成してもよい。
【0058】
上記基板21は、後述するTFT基板や半導体装置に用いられる基板であり、例えば、ガラス基板やシリコン基板、石英基板、樹脂基板、セラミックス基板、金属基板等が挙げられる。
【0059】
なお、初期層22と2層目以降の層23とを同一のスパッタリング装置1内部で連続して成膜すれば、初期層22と2層目以降の層23とが大気に曝されるおそれがないので、膜質を向上することができる。
【0060】
図4の符号80は第二例のスパッタリング装置を示し、
図5の符号90は第三例のスパッタリング装置を示している。第二、第三例のスパッタリング装置80、90は、第一の真空槽2aと、第一の真空槽2aに接続された第二の真空槽2bと、第一の真空槽2a内に配置された第一のスパッタリングターゲット11aと、第二の真空槽2b内に配置された第二のスパッタリングターゲット11bとを有している。
【0061】
第二例、第三例のスパッタリング装置80、90を用いて配線膜用の多層構造膜を形成する工程について説明する。
【0062】
先ず、真空排気系9により、第一、第二の真空槽2a、2b内部に真空雰囲気を形成し、該真空雰囲気を維持したまま、基板21を第一の真空槽2a内部に搬入し、基板ホルダ7aに保持させる。
【0063】
真空排気を続けながら、ガス導入系8から第一の真空槽2a内にスパッタガスを導入し、電源5から第一のスパッタリングターゲット11aに電圧を印加し、真空雰囲気中で第一のスパッタリングターゲット11aをスパッタリングし、初期層22を成膜した後、スパッタガスの導入を止めて、真空排気する。
【0064】
第二、第三例のスパッタリング装置80、90は、異なる真空雰囲気を別々の真空槽2a~2c内に形成する。そのため、第一例のスパッタリング装置1のように、同じ真空槽2内に交互に異なる真空雰囲気を形成する場合に比べ、一つの膜の成膜を終了してから、次の膜を成膜するまでの真空排気に長時間を要しない。また同じ時間で各真空槽内にて初期層と2層目以降の層を成膜することができるため、生産性を向上できる。
【0065】
更に、第三例のスパッタリング装置90のように、真空槽2a~2cの数を、配線膜24、25を構成する多層構造の層数と同じにし、各膜を専用の真空槽2a~2c内で成膜するようにすれば生産性を向上できる。
【0066】
第二例のスパッタリング装置80は、
図4に示したように、第一、第二の真空槽2a、2bを直接接続してもよいし、第一、第二の真空槽2a、2bを同じ搬送室に接続し、該搬送室を介して第一、第二の真空槽2a、2b間で基板21を搬出入してもよい。
【0067】
また、第三例のスパッタリング装置90は、
図5に示したように、第一~第三の真空槽2a~2cを直列的に接続し、基板21を第二の真空槽2bを介して第一の真空槽2aから第三の真空槽2cへ搬送してもよい。更に、第一~第三の真空槽2a~2cを同じ搬送室に接続し、該搬送室を介して基板21を第一~第三の真空槽2a~2c間で搬出入してもよい。
【0068】
いずれの場合も、基板21が大気に触れずに真空槽間を移動するから、膜質の良い配線膜24、25が得られる。
【0069】
初期層22が成膜された基板21を第一の真空槽2aから第二の真空槽2bへ搬入し、基板ホルダ7bに保持させる。第二の真空槽2a内を真空排気しながら、スパッタガスを導入し、真空雰囲気中で第二のスパッタリングターゲット11bをスパッタリングして2層目以降の層23を成膜する。
【0070】
図6(a)~(c)は、通常の単層成膜により配線膜が形成される過程を示す模式図である。また、
図6(d)~(g)は本発明の一態様の方法により、2層構造の配線膜が形成される過程を示す模式図である。
【0071】
図6(a)および(d)に示すように、処理前の基板21の表面近傍にはSi-OH基や水分子17が存在する。
図6(b)~(c)に示すように、通常の単層成膜では、金属元素を含むターゲットをスパッタリングして、基板21に単層18を成膜すると、スパッタされた金属原子とSi-OH基および吸着している水分子との相互作用やスパッタ時に叩き出される基板21近傍の水分子17の影響により、結晶の配向性が低下した配線膜となる。
【0072】
本発明の一態様の方法においては、真空雰囲気下でのスパッタリングにより、膜厚3~200nmの初期層22が基板16上に成膜された後[
図6(e)~(f)]、一旦成膜を止めて真空排気後に、初期層22上に2層目以降の層23が成膜されて、配線膜24が形成される[
図6(g)]。
【0073】
本発明では初期層23を成膜するスパッタにより基板表面近傍の水分が極度に除去された状態[
図6(f)]となり、初期層23上に2層目以降の層が成膜されることにより、結晶の配向性が向上し、良質な配線膜24が得られると考えられる。本発明の一態様の方法により効果を奏する理由としてこのような仮説が考えられるが、本発明はこれに限定されない。
【0074】
[電子装置]
次に、
図3を参照して、本発明の配線膜を有する電子装置の一例としての液晶表示装置について説明する。
図3において、液晶表示装置3は、TFT基板75およびカラーフィルタ基板95を備える。
【0075】
この液晶表示装置3はアクティヴマトリクス型であり、TFT基板75は、ガラス基板76上に表示画素80、蓄積容量84およびTFT(薄膜トランジスタ)85を有する。
【0076】
蓄積容量84は蓄積電極83を有し、表示画素80は画素電極81を有し、TFT85は、ゲート電極86、ソース電極87およびドレイン電極88を有する。蓄積電極83、ゲート電極86、ソース電極87およびドレイン電極88は、上記配線膜24、25によって構成される。
【0077】
また、TFT85は、ゲート絶縁膜89、チャネル半導体層91、ソース半導体層92およびドレイン半導体層93を有する。
【0078】
ドレイン電極88は、その表面の一部が露出されており、表示画素80から延設された画素電極81と接している。画素電極81は、蓄積容量84が位置する部分まで延設され、絶縁膜(ゲート絶縁膜89)を介してガラス基板76上に配置された蓄積電極83と対向して配置されており、対向した部分により蓄積容量が形成される。
【0079】
ソース半導体層92およびドレイン半導体層93の間における、チャネル半導体層91の片面には、ゲート電極86およびゲート絶縁膜89が配置されている。チャネル半導体層91の反対側の面には、互いに離間してソース半導体層92およびドレイン半導体層93が接している。
【0080】
ドレイン半導体層93およびソース半導体層92の表面には、ソース電極87およびドレイン電極88が、それぞれ接している。ゲート電極86およびソース電極87はTFT85の外部に導出されて外部電源からの電圧を印加可能に構成されている。
【0081】
TFT85およびカラーフィルタ基板95は一定距離をおいて設置され、液晶49がその間に封入されている。カラーフィルタ基板95は、ブラックマトリクス97がTFT85と対向する位置に配され、カラーフィルタ98が表示画素80と対向する位置に配されている。カラーフィルタ基板95における少なくとも表示画素80と対向する部分には、共通電極100が配置されている。画素電極81と共通電極100は、例えばITO等の透明な導電膜であることができる。
【0082】
TFT基板75は偏光板94を、カラーフィルタ基板95は偏光板104をそれぞれ備える。TFT85の導通と遮断により画素電極81および共通電極100の間に電圧が印加されると、表示画素80上の液晶49の配向が変化することにより液晶49を通る光の偏向方向が変更され、液晶表示装置3の外部への、表示画素80に照射される光の遮断および透過が制御される。
【0083】
蓄積電極83、ゲート電極86、ソース電極87およびドレイン電極88は、本発明により形成された配線膜24、25で構成され、初期層22が、ガラス基板76又は半導体層92、93と接している。
【0084】
蓄積電極83およびゲート電極86はガラス基板76と接し、ソース電極87およびドレイン電極88は半導体層(ソース半導体層92、ドレイン半導体層93)と接している。
【0085】
なお本発明の配線膜を有する電子装置は液晶表示装置に限定されるものではなく、基板もガラス基板に限定されるものではない。表層に水分が存在して膜の結晶成長が阻害される場合であれば、同様に効果を奏することができる。例えば半導体基板(シリコン基板)や石英基板、樹脂基板、セラミックス基板、金属基板を基板として用いてもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、表中の物性の各測定結果について、空欄は未測定であることを表す。
【0087】
[評価方法]
(X線回折の測定)
X線回折を以下の装置および条件で測定した。
装置:リガク社製Ultima III
光学系:平行ビーム光学系(PB)[薄膜(一般)]
X線源:Cu-Kα線(Kβフィルタ不使用)
検出器:シンチレーションカウンタ
入射側ソーラースリット(垂直)開口角度:5°
受光側ソーラースリット(水平)開口角度:0.5°
管電圧:40kV
管電流:40mA
アッテネータ(ATT):開放
発散スリット(DS):1.00mm
散乱スリット(SS):開放
受光スリット(RS):開放
スキャンモード:2θ/ωスキャン
2θスキャン範囲:膜を構成する金属によって変更。Al膜の場合、37.5~39.5°および44.0~45.5°
サンプリングステップ:0.02°/step
スキャン速度:1°/min
なお、表および図中の値は得られた波形に対して各種処理(平滑化やBG除去、Kα除去等)を行っていない、生の波形から求めた値である。
【0088】
(ロッキングカーブのピーク間距離)
X線回折パターンにおいて、X線回折測定を行い、Al(111)結晶面に起因する回折ピークの位置(入射X線方向と回折X線方向との成す角2θ=38.5°の位置)に2θを固定して、入射角X線と結晶表面の成す角ωだけを変化させてX線回折測定を行い、得られた回折強度分布(ロッキングカーブ)において半値幅に替えて本波形を2山の合成波形となるようにpseudo-Voight関数でピークフィッティングした際の2山のピーク間距離を測定した。
【0089】
ロッキングカーブの測定の際は前記2θ/ω測定の条件から、以下を変更して測定した。
スキャンモード:ωスキャン
ω範囲:3~33°
サンプリングステップ:0.1°/step
スキャン速度:3°/min
なお、表および図中の値は得られた波形に対して各種処理(平滑化やBG除去、Kα除去等)を行っていない、生の波形から求めた値である。
【0090】
(Dektak膜厚)
Dektak膜厚は、アルバック社製Dektak150により下記条件にて測定した。
Scantype:StandardScan
触針半径:12.5μmR
スキャン長:2000μm
時間:13sec
水平分解能:0.513μm/データ点
荷重:3.00mg
垂直測定範囲:6.5μm
プロファイル:Hills&Valleys
【0091】
(SEM)
日立ハイテク社製SU8230を用いて、2.0kVまたは5.0kVの加速電圧で22,000倍、100,000倍で観察した。
【0092】
(断面SEM膜厚)
断面SEM膜厚は、SEMの断面観察で得られた画像を元に、スケールバーとの対比で膜厚を算出した。なお、膜厚算出の方法は適当な分解能で膜厚を算出できれば、TEMの断面観察など、他の手法を取ることができる。
【0093】
(XPS)
XPSはアルバック・ファイ社製Quantera-SXMにより、下記条件にて測定した。
X線源;単色化AlKα線
光電子検出角度;試料面に対して45°
パスエネルギー;140eV
ステップエネルギー;0.5eV/step
スパッタイオン;Ar+
スパッタイオンの加速電圧;1kV
スパッタイオンのラスターサイズ;2×2 mm2
深さ方向プロファイルは、膜厚既知のシリコンウェハ上熱酸化膜(SiO2膜)のスパッタレートを予め求めておき、この値を用いて算出したシリコンウェハ上熱酸化膜(SiO2膜)の換算深さを深さ方向プロファイルの横軸とした。深さ方向プロファイルの測定ピッチは、シリコンウェハ上熱酸化膜(SiO2膜)の換算深さとして3.0nm以下とした。実施例におけるシリコンウェハ上熱酸化膜(SiO2膜)のスパッタレートは2.5nm/minであり、測定ピッチは2.5nmである。
【0094】
[試験例1]X線回折による解析
実施例1-1
実施例1-1では、第一例のスパッタリング装置1として、真空槽を有する縦型インライン方式スパッタ装置(島津製作所製)を用いて配線膜を作製した。実施例1-1にかかる配線膜24の構造は、
図2(c)に示した断面図のとおりである。基板21として、寸法が40mm×40mm×厚さ0.5mmのガラス基板を用いた。
【0095】
(初期層の成膜)
基板21を基板ホルダ7に保持させた後、真空槽2内へ搬送し、圧力が5.5×10-4Paとなるように真空排気系9により真空槽2内を真空排気し、真空雰囲気とした。スパッタリングターゲット11としてアルミニウム(純度:4N、搬送方向幅:127mm、搬送直交方向幅:559mm)からなるものを用い、基板21の温度を110℃に保持した状態で、ガス導入系8からスパッタリングガスとしてArガスを導入し4.0×10-1Paに調圧して安定したところで電源を起動し、2.0kWの電力をスパッタリングターゲット11に供給して、基板21をスパッタリングターゲット11の面外に静置した状態でプレスパッタを2分間行った後、搬送速度1347mm/minでターゲット前面を通過させ、DCマグネトロンスパッタ法により初期層22を基板21上に成膜した。この搬送速度で成膜することにより、アルミニウムからなる初期層22の膜厚が20nmとなる。
【0096】
(2層目の成膜)
基板21がターゲット前を通過し終えた時点で、電圧印加およびスパッタリングガスの導入を止めて、真空排気を行った。圧力が3.4×10-4Paとなるまで真空排気した後、再びガス導入系8からスパッタリングガスとしてArガスを導入して4.0×10-1Paに調圧後、電源を起動し、2.0kWの電力をアルミニウムからなるスパッタリングターゲット11に供給して、基板をスパッタリングターゲット11の面外に静置した状態でプレスパッタを2分間行った後、アルミニウムからなる2層目の層23の膜厚が580nmとなるように搬送速度47mm/minでターゲット前面を通過させ、DCマグネトロンスパッタ法により2層目の層23を初期層22上に成膜した。基板21がターゲット前を通過し終えた時点でスパッタリングガスの導入を止めて、基板21をスパッタリング装置1外へ搬出し、初期層22および2層目の層23からなる配線膜24を得た。実施例1-1の成膜条件を表1に示す。
【0097】
実施例1-2
表1に示す条件にて、初期層22の成膜条件における電源を1.0kWの電力とし、搬送速度を1347mm/minとし、膜厚10nmの初期層22を基板21上に成膜した後、2層目の層23の成膜条件における搬送速度を46mm/minとし、膜厚590nmの2層目の層23を初期層22上に成膜した以外は、実施例1-1と同様に行い、配線膜24を得た。
【0098】
実施例1-3
表1に示す条件にて、初期層22の成膜条件における搬送速度を540mm/minとし、膜厚50nmの初期層22を基板21上に成膜した後、2層目の層23の成膜条件における搬送速度を49mm/minとし、膜厚550nmの2層目の層23を初期層22上に成膜した以外は、実施例1-1と同様に行い、配線膜24を得た。
【0099】
実施例1-4
表1に示す条件にて、初期層22の成膜条件における搬送速度を270mm/minとし、膜厚100nmの初期層22を基板21上に成膜した後、2層目の層23の成膜条件における搬送速度を54mm/minとし、膜厚500nmの2層目の層23を初期層22上に成膜した以外は、実施例1-1と同様に行い、配線膜24を得た。
【0100】
実施例1-5
表1に示す条件にて、初期層22の成膜条件における電源を1.0kWの電力とし、搬送速度を1346mm/minとし、膜厚10nmの初期層22を基板21上に成膜した後、2層目の層23の成膜条件における搬送速度を302mm/minとし、膜厚90nmの2層目の層23を初期層22上に成膜した以外は、実施例1-1と同様に行い、配線膜24を得た。
【0101】
実施例1-6
表1に示す条件にて、初期層22の成膜条件における搬送速度を1345mm/minとし、膜厚20nmの初期層22を基板21上に成膜した後、2層目の層23の成膜条件における搬送速度を338mm/minとし、膜厚80nmの2層目の層23を初期層22上に成膜した以外は、実施例1-1と同様に行い、配線膜24を得た。
【0102】
実施例1-7
表1に示す条件にて、初期層22の成膜条件における搬送速度を1345mm/minとし、膜厚20nmの初期層22を基板21上に成膜した後、2層目の層23の成膜条件における搬送速度を540mm/minとし、膜厚50nmの2層目の層23を初期層22上に成膜した以外は、実施例1-1と同様に行い、配線膜24を得た。
【0103】
比較例1-1
表1に示す条件にて、搬送速度を45mm/minとし、1回のスパッタで膜厚600nmまで成膜した以外は実施例1-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0104】
比較例1-2
表1に示す条件にて、初期層22および2層目の層23の成膜時における搬送速度を90mm/minとし、それぞれ膜厚300nmまで成膜した以外は実施例1-1と同様に行い、2層構造の膜を得た。
【0105】
比較例1-3
表1に示す条件にて、搬送速度を45mm/minとし、1回のスパッタで600nmまで成膜した以外は実施例1-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0106】
比較例1-4
表1に示す条件にて、搬送速度を271mm/minとし、1回のスパッタで100nmまで成膜した以外は実施例1-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0107】
比較例1-5
表1に示す条件にて、搬送速度を386mm/minとし、1回のスパッタで70nmまで成膜した以外は実施例1-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0108】
実施例1-1~1-7、比較例1-1~1-5で得られた試験サンプルについてX線回折により評価した結果を表1、
図10~13に示す。表1において「-」は未評価であることを示す。
【0109】
【0110】
表1に示すように、本発明の配線膜である実施例1-1~1-4は、通常の単層成膜である比較例1-1、比較例1-3および比較例1-4と比較して、Al(111)ピーク強度が高かった。また、表1に初期層の膜厚が200nm超である比較例1-2は、実施例1-1~1-4と比較して、Al(111)ピーク強度が低かった。
【0111】
Al(111)ピーク強度はAl(111)面へ配向している結晶子の量(体積)を表しており、Al(111)ピーク強度の数値が大きいほど結晶が成長しており、結晶子の量が大きく、向きが揃っていることを示す。したがって、本発明の配線膜は、比較例と比較して、結晶の配向性に優れていることがわかった。
【0112】
また、表1に示すように、本発明の配線膜である実施例1-1~1-5は、Al(111)/Al(200)が5.0以上であり、Al(111)面へ高配向した良質な結晶から構成されていることがわかった。さらに、本発明の配線膜である実施例1-1~1-5は、Al(111)ピーク強度と2層の膜厚との比が5.0[count/nm]以上であり、Al(111)面への配向性に優れているとわかった。
【0113】
図10および
図12は、初期層の膜厚と、得られた膜のX線回折によるAl(111)ピーク強度と、真空排気後の圧力と、の関係を示す図である。
図10に示すように、初期層の成膜後における真空排気後の圧力(実施例1-1、比較例1-2)および単層成膜前における真空排気後の圧力(比較例1-1)は同等程度であるにもかかわらず、実施例1-1は比較例1-1および比較例1-2と比較して、Al(111)ピーク強度が顕著に高かった。また、表1および
図12に示すように、初期層の膜厚を3~200nm以下とすることにより、長時間をかけて真空槽内の圧力を低下させることなく、結晶の配向性に優れた配線膜を形成できることがわかった。
【0114】
図11は、真空排気後の圧力と、得られた膜のX線回折によるAl(111)ピークの強度との関係を示す図である。
図11に示すように、実施例1-1は比較例1-1および比較例1-3と比較して、Al(111)ピーク強度が顕著に高かった。
【0115】
図13は、比較例1-1および実施例1-1で得られた膜についてAl(111)結晶面のロッキングカーブを測定した結果を示す図である。表1および
図13に示すように、本発明の配線膜である実施例1-1~1-4、実施例1-7は、比較例1-1~1-5と比較して、ロッキングカーブのピーク間距離が小さく、結晶の配向性に優れ、結晶軸の分散の低減された配向膜であることがわかった。
【0116】
これらの結果から、本発明の方法によれば、長時間をかけて真空槽内の圧力を低下させることなく、結晶の配向性に優れた配線膜を形成できることがわかった。
【0117】
[試験例2]SEMによる観察
図7(a)および(b)、
図8(a)および(b)は比較例1-1および実施例1-1で得られた膜をSEMにより観察した図である。
図7(a)および(b)は断面図(SEM条件:2.0kV、22,000倍)であり、
図7(b)は
図7(a)における実施例1-1の拡大図(SEM条件:2.0kV、100,000倍)である。また、
図8(a)および
図8(b)は、それぞれ比較例1-1および実施例1-1で得られた膜の表面をSEMにより観察した図(観察条件:5.0kV、100,000倍)である。
図7(a)および(b)に示すように、比較例1-1は連続的に膜が成長している一方で、実施例1-1は初期層と2層目の境界が明確に存在していて、不連続となっている。このように膜断面をSEMにより観察することで、本発明の第1態様および第2態様の配線膜である証明が可能である。第1態様および第2態様の配線膜である証明としてSEM観察を例示したが、証明はこれに限定されるものではない。
【0118】
図7(a)および(b)、
図8(a)および(b)に示すように、実施例1-1は、比較例1-1と比較して、全体的に大きい粒径の結晶の割合が多くなっており、また粒径のばらつきも小さくなっている傾向を示した。加えて表面の粗さも低下していた。
【0119】
[試験例3]XPSによる解析
図9(a)および(b)はそれぞれ比較例1-5および実施例1-7で得られた膜をXPSによりAl膜表面からガラス側に向かい、深さ方向分析した結果を示した図である。また、表2にこのデータから読み取った、表面からの深さに対するO、Alの組成を示す。
比較例1-5は深さ約0~10nmは表面の空気酸化層が存在する領域であり、深さ約10~60nmは単層Al膜が存在する領域であり、深さ約60~80nmにかけては単層Al膜とガラスが存在する領域である。深さ約60~80nmの領域では酸素原子量は増大している。深さ約50nm付近において酸素原子量は0atomic%となっている。実施例1-7では深さ約0~10nmは同様に表面の空気酸化層が存在する領域であり、深さ約10~40nmは2層目のAl膜が存在する領域であり、深さ約40~60nmは2層目のAl膜と初期層が存在する領域であり、深さ約60~80nmは初期層とガラスが存在する領域である。実施例1-7において深さ約40~60nmの酸素原子量が増大していることがわかり、深さ約50nm付近において酸素原子量は極大を示し、5atomic%となっている。このとき、層間酸素原子含有比率は12.5であり、初期層酸素原子含有比率は0.053である。
このように実施例1-7の初期層の酸素原子量は比較例1-5と比べて大きいということがわかった。このような結果は、実施例1-7が基板に付着した水分と反応しながら、かつ/またはスパッタにより水分を叩き出しながら初期層が成膜されるので、ガラス表面水分が叩き出された後に成膜する2層目よりも保水分が多いものと推定している。
【0120】
【0121】
[試験例4]X線回折による解析
実施例2-1
実施例2-1では、第一例のスパッタリング装置1として、真空槽を有する縦型インライン方式スパッタ装置(島津製作所製)を用いて配線膜を作製した。表2に示す条件にて、スパッタリングターゲット11としてモリブデン(純度:4N、搬送方向幅:127mm、搬送直交方向幅:559mm)からなるものを用いた以外は、実施例1-1と同様にして配線膜24を得た。
【0122】
比較例2-1
表2に示す条件にて、搬送速度を101mm/minとし、1回のスパッタで膜厚300nmまで成膜した以外は実施例2-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0123】
得られた試験サンプルについてX線回折により評価した結果を表2に示す。Mo膜の2θスキャン範囲は、次に示す通り結晶の各(hkl)面からの回折線位置をカバーする範囲で測定した。
Mo(110):39.0~41.0°、Mo(211):73.0~75.0°
【0124】
【0125】
表3に示すように、初期層の成膜後における真空排気後の圧力(実施例2-1)および単層成膜前における真空排気後の圧力(比較例2-1)は同等程度であるにもかかわらず、実施例2-1は比較例2-1と比較して、Mo(110)ピーク強度、Mo(110)/Mo(211)が顕著に高かった。したがって、本発明の方法によれば、長時間をかけて真空槽内の圧力を低下させることなく、結晶の配向性に優れた配線膜を形成できることがわかった。
【0126】
[試験例5]X線回折による解析
実施例3-1
実施例3-1では、第一例のスパッタリング装置1として、真空槽を有する縦型インライン方式スパッタ装置(島津製作所製)を用いて配線膜を作製した。表3に示す条件にて、スパッタリングターゲット11としてチタン(純度:4N、搬送方向幅:127mm、搬送直交方向幅:559mm)からなるものを用いた以外は、実施例1-1と同様にして配線膜24を得た。
【0127】
比較例3-1
表3に示す条件にて、搬送速度を73mm/minとし、1回のスパッタで膜厚300nmまで成膜した以外は実施例3-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0128】
得られた試験サンプルについてX線回折により評価した結果を表4に示す。Ti膜の2θスキャン範囲は、次に示す通り結晶の各(hkl)面からの回折線位置をカバーする範囲で測定した。
Ti(002):37.0~39.0°、Ti(004):81.5~83.5°
【0129】
【0130】
表4に示すように、初期層の成膜後における真空排気後の圧力(実施例3-1)および単層成膜前における真空排気後の圧力(比較例3-1)は同等程度であるにもかかわらず、実施例3-1は比較例3-1と比較して、Ti(002)ピーク強度およびTi(002)/Ti(004)が顕著に高かった。したがって、本発明の方法によれば、長時間をかけて真空槽内の圧力を低下させることなく、結晶の配向性に優れた配線膜を形成できることがわかった。
【0131】
[試験例6]X線回折による解析
実施例4-1
実施例4-1では、表5に示す条件にて、インライン方式スパッタ装置(日真精機製)を用いて、スパッタリングターゲット11として銅(純度:4N、搬送方向幅:70mm、搬送直交方向幅:200mm)からなるものを用いた以外は、実施例1-1と同様にして配線膜24を得た。
【0132】
比較例4-1
表5に示す条件にて、搬送速度を66mm/minとし、1回のスパッタで膜厚300nmまで成膜した以外は実施例4-1と同様に行い、単層膜を得た。
【0133】
得られた試験サンプルについてX線回折により評価した結果を表5に示す。
【0134】
【0135】
表5に示すように、本発明の配線膜である実施例4-1は、比較例4-1と比較して、Cu(111)/Cu(200)の値が高く、結晶の配向性に優れていることがわかった。