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特許7543642液体組成物、液体吐出方法、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法
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  • 特許-液体組成物、液体吐出方法、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】液体組成物、液体吐出方法、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240827BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20240827BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240827BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20240827BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20240827BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240827BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240827BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240827BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240827BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01G11/26
H01G11/52
H01G11/84
H01M50/403 D
H01M50/446
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/46
H01M4/139
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019212693
(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公開番号】P2021086669
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】松岡 康司
(72)【発明者】
【氏名】升澤 正弘
(72)【発明者】
【氏名】羽山 祐子
(72)【発明者】
【氏名】柳田 英雄
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-164983(JP,A)
【文献】特開2017-177448(JP,A)
【文献】特開2019-067586(JP,A)
【文献】特開2012-028255(JP,A)
【文献】特開2016-219358(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109088031(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
H01M 50/40-497
H01G 11/00-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子と、酸無水物基を有する樹脂と、溶剤を含む液体組成物であって、
前記粒子が酸化アルミニウム粒子であり、
当該液体組成物の拡散係数が、前記粒子の含有量の増加に伴い、単一の変曲点を介して、一段の階段状に減少し、
前記粒子の含有量が前記変曲点における前記粒子の含有量以上である、液体組成物。
【請求項2】
90%径が5μm以下である、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
ゼータ電位の絶対値が30mV以下である、請求項1又は2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記溶剤が非水系溶剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
ゼータ電位が負の値である、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項6】
静的粘度(再回転)が動的粘度よりも高い、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項7】
動的粘度が14mPa・s以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項8】
静的粘度(再回転)が16mPa・s以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項9】
希釈することで粒子の集合状態が崩壊する、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項10】
希釈することにより前記粒子の含有量が10%程度変動することに対して、拡散係数Dが10%以上変化する、請求項1~のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の液体組成物を吐出する工程を含む、液体吐出方法。
【請求項12】
電極基体上に、電極合材層を形成する工程と、
請求項1~11のいずれか一項に記載の液体組成物を前記電極合材層上に吐出して、粒子層を形成する工程を含む、電極の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の電極の製造方法を用いて、電極を製造する工程を含む、電気化学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体組成物、液体吐出方法、電極の製造方法及び電気化学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体吐出方法により形成される画像の耐候性を向上させることを目的として、顔料を含む液体組成物にシフトしてきている。さらに、銀塩写真と同等の画質を求める要求が強くなっており、画像濃度を向上させ、画像の均一性を向上させる要求が非常に高くなっている。
【0003】
このような状況下で、画像濃度を向上させるために、種々の提案がされている。
【0004】
被塗布媒体に関する提案の一つとして、基紙の表面に、充填材やサイズ剤を塗布する方法が提案されている。例えば、充填材として、顔料を吸着する多孔質粒子を基紙に塗布することにより、受容層を形成する方法が知られている。
【0005】
しかしながら、比較的安価で入手が容易な普通紙に、画像濃度が高い画像を形成する要求が高く、多くの検討がなされている。
【0006】
特許文献1に、少なくとも色材として超微粒子顔料を含むインクと、インクに対して逆極性に表面が帯電している微粒子を分散状態で含む水性の液体組成物との組み合わせを有するインクセットが開示されている。
【0007】
一方、従来、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ等の電気化学素子においては、正極と負極の短絡を防止しながら、イオン伝導させることを目的として、紙、不織布、多孔質フィルム等のセパレータが使用されている。
【0008】
近年、電極合材層上に、粒子層が形成されている電極一体型セパレータが用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
電極一体型セパレータは、一般に、粒子と、溶剤を含む液体組成物を、多孔質構造を有する被塗布媒体である電極合材層上に塗布することにより、製造されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、電極合材層は、多孔質構造を有する被塗布媒体であるため、液体組成物を電極合材層上に塗布すると、溶剤が電極合材層に浸透することに伴い、粒子が電極合材層に侵入するため、セパレータが薄くなり、正極(負極)と、負極(正極)一体型セパレータの間の電気抵抗が低くなるという懸念がある。
【0011】
本発明は、液体吐出ヘッドから吐出することが可能であると共に、多孔質構造を有する被塗布媒体への浸透を抑制することが可能な液体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、粒子と、酸無水物基を有する樹脂と、溶剤を含む液体組成物であって、前記粒子が酸化アルミニウム粒子であり、当該液体組成物の拡散係数が、前記粒子の含有量の増加に伴い、単一の変曲点を介して、一段の階段状に減少し、前記粒子の含有量が前記変曲点における前記粒子の含有量以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体吐出ヘッドから吐出することが可能であると共に、多孔質構造を有する被塗布媒体への浸透を抑制することが可能な液体組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の液体組成物の粒子の含有量と拡散係数Dの関係を示す図である。
図2】本実施形態の電気化学素子の一例を示す断面図である。
図3】本実施形態の負極の製造方法の一例を示す模式図である。
図4】本実施形態の負極の製造方法の他の例を示す模式図である。
図5図3、4の液体吐出装置の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
[液体組成物]
本実施形態の液体組成物は、粒子と、溶剤を含む。
【0017】
本実施形態の液体組成物は、粒子の含有量の増加に伴い、単一の変曲点Iを介して、一段の階段状に拡散係数Dが減少する(図1参照)。ここで、図1中、点線は、微分曲線を意味し、微分曲線の最大値から、変曲点Iが決定される。
【0018】
本実施形態の液体組成物は、粒子の含有量が変曲点Iにおける粒子の含有量以上(例えば、領域Bの範囲内)である。液体組成物中の粒子の含有量が変曲点Iにおける粒子の含有量未満(例えば、領域Aの範囲内)であると、液体組成物が電極合材層に浸透しやすくなる。
【0019】
ここで、液体組成物の拡散係数Dは、粒子の運動性を示す指標であると考えられる。したがって、液体組成物の拡散係数Dが小さいと、粒子の運動性が低いと推測される。
【0020】
なお、液体組成物中の粒子の含有量の増加に伴い、液体組成物の拡散係数Dが線形に減少する場合は、粒子間の距離が減少しているためであると推測することができる。
【0021】
しかしながら、図1に示すように、粒子の含有量の増加に伴い、単一の変曲点Iを介して、一段の階段状に拡散係数Dが減少する場合、粒子間の距離の減少ではなく、変曲点Iにおいて、液体組成物の構造が転移していると考えられる。
【0022】
例えば、領域Aにおいて、粒子が単独で分散しており、領域Bにおいて、粒子の構造体が形成されていることが推測される。
【0023】
なお、領域Aにおいて、粒子が単独分散しているかどうかは、液体組成物の粒径分布を測定することで判定することができる。
【0024】
液体組成物の粒径分布は、例えば、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子製)を用いて、測定することができる。
【0025】
したがって、本実施形態の液体組成物は、粒子の含有量の増加に伴い、粒子の構造が転移する。また、本実施形態の液体組成物は、粒子の含有量が変曲点Iにおける粒子の含有量以上であるため、粒子の運動性が低い。このため、本実施形態の液体組成物を希釈すると、粒子の運動性が向上することが観測される。
【0026】
液体組成物の拡散係数Dは、ストークス-アインシュタインの式
D=(KT)/(3πηd)
から、算出される。ここで、dは、液体組成物の粒径であり、ηは、溶剤の粘度であり、Tは、温度であり、Kは、ボルツマン定数である。
【0027】
本実施形態の液体組成物の90%径は、5μm以下であることが好ましい。
【0028】
液体組成物の90%径は、粒子の含有量が10質量%以下になるように希釈されている状態で測定される、90%累積粒径である。
【0029】
本実施形態の液体組成物は、粒子の構造体が形成されている。ここでいう粒子の構造体とは、複数の一次粒子が会合することにより形成される粒子集合体を意味する。
【0030】
複数の一次粒子は、通常、イオン性相互結合、水素結合、ファンデルワース力等の非共有結合を形成することにより会合しているが、上記非共有結合以外により会合していてもよく、比較的弱い結合により会合していればよい。ここでいう比較的弱い結合とは、液体組成物を希釈したときに、粒子の集合状態が崩壊する程度の結合強度を有する結合を意味する。液体組成物を希釈することによって、粒子の集合状態が崩壊するかどうかは、液体組成物の粒子の含有量と拡散係数Dの関係(図1参照)において、ベースライン(単調変化部の平均値、又は、最小二乗法等で得られる一次直線)の急激なシフトの有無により確認することができる。ベースラインの急激なシフトは、液体組成物を希釈することによって、粒子の集合状態が崩壊することを意味する。なお、ここでいう急激なシフトとは、粒子の含有量が10%程度変動することに対して、拡散係数Dが10%以上変化することによって、ベースラインが変化することを意味する。
【0031】
ここで、本実施形態の液体組成物の90%粒径が5μm以下であることは、粒子の構造体における粒子間の距離がDLVO理論で記載されるエネルギー障壁よりも広いこと、一般的には、10質量%程度の希釈により、崩壊することが可能な粒子の構造体であることを意味している。
【0032】
なお、本実施形態の液体組成物の90%粒径は、吐出安定性の点から、2μm以下であることがより好ましい。
【0033】
また、本実施形態の液体組成物のメジアン径は、多孔質構造を有する被塗布媒体への粒子の侵入を抑制する観点から、0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。
【0034】
なお、画像濃度とは、いわゆる光学濃度を意味し、多孔質構造を有する被塗布媒体への液体組成物の浸透を抑制することで、光学濃度が増加する。
【0035】
したがって、本実施形態の液体組成物を多孔質構造を有する被塗布媒体に吐出すると、被塗布媒体への液体組成物の浸透が少ないため、粒子層の厚さが大きくなる傾向となる。その結果、粒子層の厚さが均一であり、表面抵抗が高い傾向にあるため、本実施形態の液体組成物は、セパレータ一体型電極を製造する際に、使用することができる。
【0036】
一般的に液体吐出方法に使用される液体組成物の動的粘度は、吐出安定性の点で、30mPa・s以下であることが好ましい。
【0037】
なお、液体組成物の動的粘度は、例えば、DV-II+Pro Viscometer(BROOKFIELD製)を用いて、25℃において、コーンプレート CPE-40を100rpm(250mm/sec相当)で回転させることにより、測定することができる。
【0038】
また、液体組成物の浸透性は、粘度と相関するといわれている。液体組成物の浸透深さlは、例えば、Lucas-Washburnの式
l=((t×r×γ×cosθ)/2η)1/2
で表される。ここで、tは、時間であり、rは、多孔質構造を有する被塗布媒体の孔径であり、θは、接触角であり、ηは、液体組成物の粘度である。これにより、液体組成物の浸透深さlは、液体組成物の粘度ηの1/2乗と反比例の関係にあることがわかる。
【0039】
したがって、液体吐出方法に適用される低粘度領域の液体組成物は、本質的に多孔質構造を有する被塗布媒体に浸透しやすい傾向にあるといえる。
【0040】
しかしながら、本実施形態の液体組成物では、液体吐出方法により吐出することが可能であるにも関わらず、多孔質構造を有する被塗布媒体への浸透を抑制することができる。その詳細なメカニズムは不明であるが、本実施形態の液体組成物は、後述するように、動的粘度、静的粘度(急止)、静的粘度(再回転)を測定し、解析した結果、液体吐出ヘッドのノズル内では、いわゆる高せん断力下にあるため、粘度が低いものの、多孔質構造を有する被塗布媒体上における静置下では、粒子の構造体が形成されており、粘度が高くなっており、多孔質構造を有する被塗布媒体へ浸透が抑制されていると推測される。
【0041】
本実施形態の液体組成物のゼータ電位の絶対値は、30mV以下であることが好ましく、20mV以下であることがより好ましく、10mV以下であることがさらに好ましい。
【0042】
一般に、液体組成物のゼータ電位の絶対値が30mV以下であると、電気二重層により粒子の構造体が形成されやすくなる。このため、多孔質構造を有する被塗布媒体に浸透しにくくなり、画像濃度が向上すると考えられる。
【0043】
なお、液体組成物のゼータ電位は、液体組成物中で測定される粒子の移動度から、算出される。
【0044】
<粒子>
粒子とは、溶剤に対する溶解性が低い固体粒子を意味する。ここで、粒子の溶剤に対する溶解度は、0.1質量%未満である。
【0045】
粒子を構成する材料としては、例えば、カーボン、酸化アルミニウム、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム等の無機材料、アゾ、フタロシアニン、キナクリドン等の有機材料、ポリスチレン、メラミン樹脂等の樹脂等が挙げられる。これらの中でも、絶縁性、耐熱性の点で、酸化アルミニウム、シリカが好ましく、α-アルミナがより好ましい。
【0046】
α-アルミナは、「ジャンク」化学種、即ち、リチウムイオン二次電池内で容量フェードを引き起こし得る化学種に対するスカベンジャとして機能することができる。 また、アルミナ粒子は、電解質に対する濡れ性、親和性が良好であり、リチウムイオン二次電池のサイクル性能が向上する。
【0047】
粒子の平均粒径は、約50nm~約1,000nmであり、約50nm~約800nmであることが良い好ましく、約100nm~約600nmであることがさらに好ましい。粒子の平均粒径が約50nm以上であると、画像濃度が向上し、約1,000nm以下であると、本実施形態の液体組成物の吐出性が向上すると共に、画像の表面平滑性が向上する。
【0048】
粒子の形状としては、例えば、矩形状、球状、楕円形状、円柱状、卵形状、ドッグボーン形状、無定形等が挙げられる。
【0049】
なお、粒子は、繊維状であってもよい。
【0050】
<溶剤>
溶剤は、水又は非水系溶剤を意味する。
【0051】
非水系溶剤としては、例えば、スチレン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n-ブタノール、イソブタノール、ter-ブタノール、n-ペンタノール、n-ヘキサノール、ジアセトンアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
【0052】
本実施形態の液体組成物は、粒子の構造体を形成していると考えられるが、粒子の構造体を制御するためには、粒子の表面と、溶剤の親和性が重要であると考えられる。
【0053】
したがって、溶剤を単独で使用することもできるが、複数の溶剤を組み合わせて使用することもできる。
【0054】
<酸無水物基を有する樹脂>
本実施形態の液体組成物は、酸無水物基を有する樹脂をさらに含むことが好ましい。
【0055】
一般に、溶剤中で、無機粒子の表面は帯電している。溶剤中において、高分子分散剤と無機粒子が共存している場合、高分子分散剤と、無機粒子の表面は、水素結合、イオン性相互作用、親水疎水相互作用等の相互作用により、高分子分散剤の極性基が無機粒子の表面に吸着することが多い。高分子分散剤の極性基がスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、アミノ基等のイオン性基である場合、イオン性相互作用により、高分子分散剤の極性基が無機粒子の表面に吸着する場合が多く、その場合、液体組成物のゼータ電位が大きくなる傾向にある。
【0056】
高分子分散剤の極性基としては、例えば、酸無水物基、カルボン酸エステル基、アミド基、エポキシ基、エーテル基等が挙げられる。これらの中でも、アルミナ粒子、ベーマイト粒子、アパタイト粒子、酸化チタン粒子、シリカ粒子等の無機粒子に対する吸着性とイオン性相互作用を考慮すると、酸無水物基が好ましい。
【0057】
無機粒子に対する高分子分散剤の質量比は、通常、0.01~10であるが、無機粒子の分散性を考慮すると、0.1~10であることが好ましく、セパレータ一体型電極の捕液性を考慮すると、0.1~1であることがより好ましく、0.1~0.5であることがさらに好ましい。
【0058】
高分子とは、数平均分子量(Mn)が1000~100000であることを意味する。
【0059】
高分子分散剤の数平均分子量(Mn)は、液体組成物の粘度の考慮すると、1000~10000であることが好ましく、1000~5000であることがより好ましい。
【0060】
高分子分散剤は、一般式
【0061】
【化1】
(式中、A4は、一般式
-O-R又は-CH-O-R
で表される基であり、A5、A6、A7は、一般式
-OR又は-NH-R
で表される基であり、Rは、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基又はオリゴエーテル基であり、A8は、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基又はオリゴエーテル基である。)
で表される構成単位のいずれか含むことが、液体組成物の分散安定性の点で、好ましい。
【0062】
オリゴエーテル基は、オキシエチレン基又はオキシプロピレン基を構成単位とする基である。
【0063】
オリゴエーテル基の分子量は、100~10000であることが好ましく、100~5000であることがより好ましい。オリゴエーテル基の分子量が100以上であると、高分子分散剤の分散性が向上し、10000以下であると、液体組成物の粘度が上昇しにくい。
【0064】
オリゴエーテル基の末端は、水酸基であってもよいし、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等であってもよい。
【0065】
オリゴエーテル基を有する構成単位の具体例を以下に示す。ここで、nは、重合度である。
【0066】
【化2】
【0067】
【化3】
【0068】
【化4】
オリゴエーテル基を有する高分子分散剤を使用すると、高極性溶剤を含む液体組成物の分散性が向上する。
【0069】
高極性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、NMP、DMSO、DMF、アセトン、THF等が挙げられる。
【0070】
<その他の成分>
本実施形態の液体組成物は、粘度の調整、表面張力の調整、非水系溶剤の蒸発制御、添加剤の溶解性向上、粒子の分散性向上、殺菌等を目的として、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等をさらに含んでいてもよい。
【0071】
本実施形態の液体組成物は、粒子層の擦過性及び基材との密着性の向上を目的として、樹脂等をさらに含んでいてもよい。
【0072】
樹脂は、液体組成物の吐出性の観点から、樹脂エマルション又は樹脂粒子であることが好ましい。
【0073】
樹脂としては、例えば、スチレン、ポリエチレングリコール、ポリエステル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の液体組成物は、樹脂の前駆体としての、モノマーと重合開始剤をさらに含んでいてもよい。この場合、本実施形態の液体組成物を加熱したり、光を照射したりすることにより、樹脂が生成する。
【0075】
<液体組成物の製造方法>
本実施形態の液体組成物は、分散装置を用いて、製造することができる。
【0076】
分散装置としては、例えば、攪拌機、ボールミル、ビーズミル、リング式ミル、高圧式分散機、回転式高速せん断装置、超音波分散機等が挙げられる。
【0077】
本実施形態の液体組成物は、単独で使用することもできるし、複数の液体組成物を併用することもできる。
【0078】
<液体組成物の使用方法>
本実施形態の液体組成物は、被塗布媒体に塗布して使用する。
【0079】
液体組成物の塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、バーコート法、スロットダイコート法、ドクターブレードコート法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、活版印刷法、スクリーン印刷法、液体吐出方法、液体現像方式による電子写真印刷法等が挙げられる。これらの中でも、液滴を吐出する位置を精密に制御することができる点で、液体吐出方法が好ましい。
【0080】
液体吐出方法を用いる場合は、液体吐出ヘッドから、被塗布媒体上に、液体組成物を吐出する。
【0081】
液体組成物を吐出する方式としては、例えば、液体組成物に力学的エネルギーを付与する方式、液体組成物に熱エネルギーを付与する方式等が挙げられる。これらの中でも、非水系溶剤を使用する場合、液体組成物に力学的エネルギーを付与する方式が好ましい。
【0082】
なお、液体吐出方法を用いる場合は、公知の液体吐出装置を用いることができる。
【0083】
<被塗布媒体>
被塗布媒体とは、本実施形態の液体組成物を吸収することが可能な媒体(多孔質体)である。
【0084】
被塗布媒体としては、普通紙、基紙に多孔質粒子を塗工し、インク受容層が形成されている媒体等が挙げられる。
【0085】
また、被塗布媒体として、電極基体上に、電極合材層が形成されている電極を用いると、セパレータ一体型電極等を製造することができる。
【0086】
上記以外の被塗布媒体としては、例えば、反射型表示素子に用いられる下地層、プリンテッドエレクトロニクスに用いられる電極層等が挙げられる。
【0087】
<活物質>
活物質としては、正極活物質又は負極活物質を用いることができる。
【0088】
なお、正極活物質又は負極活物質は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0089】
正極活物質としては、アルカリ金属イオンを挿入又は放出することが可能であれば、特に制限はないが、アルカリ金属含有遷移金属化合物を用いることができる。
【0090】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選択される一種以上の元素とリチウムとを含む複合酸化物等のリチウム含有遷移金属化合物が挙げられる。
【0091】
リチウム含有遷移金属化合物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等が挙げられる。
【0092】
アルカリ金属含有遷移金属化合物としては、結晶構造中にXO四面体(X=P,S,As,Mo,W,Si等)を有するポリアニオン系化合物も用いることができる。これらの中でも、サイクル特性の点で、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等のリチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましく、リチウム拡散係数、出力特性の点で、リン酸バナジウムリチウムが特に好ましい。
【0093】
なお、ポリアニオン系化合物は、電子伝導性の点で、炭素材料等の導電助剤により表面が被覆されて複合化されていることが好ましい。
【0094】
負極活物質としては、アルカリ金属イオンを挿入又は放出することが可能であれば、特に制限はないが、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を用いることができる。
【0095】
炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。
【0096】
炭素材料以外の負極活物質としては、例えば、チタン酸リチウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0097】
また、非水系蓄電素子のエネルギー密度の点から、負極活物質として、シリコン、スズ、シリコン合金、スズ合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化スズ等の高容量材料を用いることが好ましい。
【0098】
<分散媒>
分散媒としては、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール等の水性分散媒、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、シクロヘキサノン、酢酸ブチル、メシチレン、2-n-ブトキシメタノール、2-ジメチルエタノール、N,N-ジメチルアセトアミド等の有機分散媒が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0099】
<導電助剤>
導電助剤としては、例えば、ファーネス法、アセチレン法、ガス化法等により製造されている導電性カーボンブラックや、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛粉末等の炭素材料を用いることができる。炭素材料以外の導電助剤としては、例えば、アルミニウム等の金属粒子、金属繊維を用いることができる。なお、導電助剤は、予め活物質と複合化されていてもよい。
【0100】
<分散剤>
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸系分散剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系分散剤、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系分散剤、ポリエーテル系分散剤、ポリアルキレンポリアミン系分散剤等の高分子分散剤、アルキルスルホン酸系分散剤、四級アンモニウム塩系分散剤、高級アルコールアルキレンオキシド系分散剤、多価アルコールエステル系分散剤、アルキルポリアミン系分散剤等の界面活性剤、ポリリン酸塩系分散剤等の無機型分散剤等が挙げられる。
【0101】
<電気化学素子>
図2に、本実施形態の電気化学素子の一例を示す。
【0102】
電気化学素子1は、電極素子40に、電解質水溶液又は非水電解質で構成される電解質層51が形成されており、外装52により封止されている。電気化学素子1において、引き出し線41及び42は、外装52の外部に引き出されている。
【0103】
電極素子40は、負極15と正極25が、セパレータ30を介して、積層されている。ここで、正極25は、負極15の両側に積層されている。また、負極基体11には、引き出し線41が接続されており、正極基体21には、引き出し線42が接続されている。
【0104】
負極15は、負極基体11の両面に、負極合材層12及び粒子層13が順次形成されている。
【0105】
正極25は、正極基体21の両面に、正極合材層22が形成されている。
【0106】
ここで、正極基体21の両面に、正極合材層22及び粒子層が順次形成されていてもよい。この場合、必要に応じて、粒子層13を省略してもよい。
【0107】
なお、電極素子40の負極15と正極25の積層数は、特に制限は無い。
【0108】
また、電極素子40の負極15の個数と正極25の個数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0109】
電気化学素子1は、必要に応じて、その他の部材を有してもよい。
【0110】
電気化学素子1の形状としては、特に制限はなく、例えば、ラミネートタイプ、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダタイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が挙げられる。
【0111】
電気化学素子1としては、例えば、水系蓄電素子、非水系蓄電素子等が挙げられる。
【0112】
<セパレータ>
セパレータ30は、負極15と正極25の短絡を防ぐために、必要に応じて、負極15と正極25の間に設けられている。
【0113】
セパレータ30としては、例えば、クラフト紙、ビニロン混抄紙、合成パルプ混抄紙等の紙、セロハン、ポリエチレングラフト膜、ポリプロピレンメルトブロー不織布等のポリオレフィン不織布、ポリアミド不織布、ガラス繊維不織布、マイクロポア膜等が挙げられる。
【0114】
セパレータ30の大きさは、電気化学素子に使用することが可能であれば、特に制限はない。
【0115】
セパレータ30は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
【0116】
なお、非水電解質として、固体電解質を使用する場合は、セパレータ30を省略することができる。
【0117】
<電解質水溶液>
電解質水溶液を構成する電解質塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酒石酸亜鉛、過塩化亜鉛等が挙げられる。
【0118】
<非水電解質>
非水電解質としては、固体電解質又は非水電解液を使用することができる。
【0119】
ここで、非水電解液とは、電解質塩が非水溶媒に溶解している電解液である。
【0120】
<非水溶媒>
非水溶媒としては、特に制限はなく、例えば、非プロトン性有機溶媒を用いることが好ましい。
【0121】
非プロトン性有機溶媒としては、鎖状カーボネート、環状カーボネート等のカーボネート系有機溶媒を用いることができる。これらの中でも、電解質塩の溶解力が高い点から、鎖状カーボネートが好ましい。
【0122】
また、非プロトン性有機溶媒は、粘度が低いことが好ましい。
【0123】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等が挙げられる。
【0124】
非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量は、50質量%以上であることが好ましい。非水溶媒中の鎖状カーボネートの含有量が50質量%以上であると、鎖状カーボネート以外の非水溶媒が誘電率が高い環状物質(例えば、環状カーボネート、環状エステル)であっても、環状物質の含有量が少なくなる。このため、2M以上の高濃度の非水電解液を作製しても、非水電解液の粘度が低くなり、非水電解液の電極へのしみ込みやイオン拡散が良好となる。
【0125】
環状カーボネートとしては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等が挙げられる。
【0126】
なお、カーボネート系有機溶媒以外の非水溶媒としては、例えば、環状エステル、鎖状エステル等のエステル系有機溶媒、環状エーテル、鎖状エーテル等のエーテル系有機溶媒
等を用いることができる。
【0127】
環状エステルとしては、例えば、γ-ブチロラクトン(γBL)、2-メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0128】
鎖状エステルとしては、例えば、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル(例えば、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル)、ギ酸アルキルエステル(例えば、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル)等が挙げられる。
【0129】
環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン等が挙げられる。
【0130】
鎖状エーテルとしては、例えば、1,2-ジメトシキエタン(DME)、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
【0131】
<電解質塩>
電解質塩としては、イオン伝導度が高く、非水溶媒に溶解することが可能であれば、特に制限はない。
【0132】
電解質塩は、ハロゲン原子を含むことが好ましい。
【0133】
電解質塩を構成するカチオンとしては、例えば、リチウムイオン等が挙げられる。
【0134】
電解質塩を構成するアニオンとしては、例えば、BF 、PF 、AsF 、CFSO 、(CFSO、(CSO等が挙げられる。
【0135】
リチウム塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiN(CFSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiN(CSO)等が挙げられる。これらの中でも、イオン伝導度の点から、LiPFが好ましく、安定性の点から、LiBFが好ましい。
【0136】
なお、電解質塩は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0137】
非水電解液中の電解質塩の濃度は、目的に応じて適宜選択することができるが、非水系蓄電素子がスイング型である場合、1mol/L~2mol/Lであることが好ましく、非水系蓄電素子がリザーブ型である場合、2mol/L~4mol/Lであることが好ましい。
【0138】
[電気化学素子の製造方法]
本実施形態の電気化学素子の製造方法は、電極基体上に、電極合材層を形成する工程と、本実施形態の液体組成物を電極合材層上に吐出して、粒子層を形成する工程を含む。
【0139】
なお、電極合材層及び粒子層は、電極基体の片面に形成してもよいし、電極基体の両面に形成してもよい。
【0140】
電極合材層は、電極合材層用液体組成物を塗布することにより、形成することができる。
【0141】
電極合材層用液体組成物は、活物質と、分散媒を含み、必要に応じて、導電助剤、分散剤等をさらに含んでいてもよい。
【0142】
電極合材層用液体組成物の塗布方法としては、例えば、コンマコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、液体吐出法等が挙げられる。
【0143】
本実施形態の液体組成物の塗布方法としては、例えば、液体吐出法等が挙げられる。
【0144】
<負極の製造方法>
図3に、本実施形態の負極の製造方法の一例を示す。
【0145】
負極の製造方法は、液体吐出装置300を用いて、負極基体11上に、液体組成物12Aを吐出して、負極合材層12を形成する工程と、負極合材層12上に、本実施形態の液体組成物を吐出して、粒子層を形成する工程を含む。
【0146】
ここで、液体組成物12Aは、負極活物質と、分散媒を含む。
【0147】
液体組成物12Aは、タンク307に貯蔵されており、タンク307からチューブ308を経由して液体吐出ヘッド306に供給される。
【0148】
また、液体吐出装置300は、液体組成物12Aが液体吐出ヘッド306から吐出されていない際に、乾燥を防ぐため、ノズルをキャップする機構が設けられていてもよい。
【0149】
負極を製造する際には、加熱することが可能なステージ400上に、負極基体11を設置した後、負極基体11に液体組成物12Aの液滴を吐出した後に、加熱して、負極合材層12を形成する。このとき、ステージ400が移動してもよく、液体吐出ヘッド306が移動してもよい。
【0150】
また、負極基体11に吐出された液体組成物12Aを加熱する際には、ステージ400により加熱してもよいし、ステージ400以外の加熱機構により加熱してもよい。
【0151】
加熱機構としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等が挙げられる。
【0152】
なお、加熱機構は、複数個設置されていてもよい。
【0153】
加熱温度は、特に制限はなく、使用エネルギーの観点から、70~150℃の範囲であることが好ましい。
【0154】
また、負極基体11に吐出された液体組成物12Aを加熱する際に、紫外光を照射してもよい。
【0155】
次に、負極合材層12と同様にして、粒子層を形成し、負極を作製する。
【0156】
図4に、本実施形態の負極の製造方法の他の例を示す。
【0157】
負極の製造方法は、液体吐出装置300を用いて、負極基体11上に、液体組成物12Aを吐出して、負極合材層12を形成する工程と、負極合材層12上に、本実施形態の液体組成物を吐出して、粒子層を形成する工程を含む。
【0158】
まず、細長状の負極基体11を準備する。そして、負極基体11を筒状の芯に巻き付け、負極合材層12を形成する側が、図中、上側になるように、送り出しローラ304と巻き取りローラ305にセットする。ここで、送り出しローラ304と巻き取りローラ305は、反時計回りに回転し、負極基体11は、図中、右から左の方向に搬送される。そして、送り出しローラ304と巻き取りローラ305の間の負極基体11の上方に設置されている液体吐出ヘッド306から、搬送される負極基体11上に、液体組成物12Aの液滴を吐出する。液体組成物12Aの液滴は、負極基体11の少なくとも一部を覆うように吐出される。
【0159】
なお、液体吐出ヘッド306は、負極基体11の搬送方向に対して、略平行な方向又は略垂直な方向に、複数個設置されてもよい。
【0160】
次に、液体組成物12Aが吐出された負極基体11は、送り出しローラ304と巻き取りローラ305によって、加熱機構309に搬送される。その結果、負極基体11上の液体組成物12Aが乾燥して負極合材層12が形成される。
【0161】
加熱機構309としては、液体組成物12Aに直接接触しなければ、特に制限はなく、例えば、抵抗加熱ヒータ、赤外線ヒータ、ファンヒータ等が挙げられる。
【0162】
なお、加熱機構309は、負極基体11の上下の何れか一方に設置されてもよいし、複数個設置されていてもよい。
【0163】
加熱温度は、特に制限はなく、使用エネルギーの観点から、70~150℃の範囲であることが好ましい。
【0164】
また、負極基体11に吐出された液体組成物12Aを加熱する際に、紫外光を照射してもよい。
【0165】
次に、負極合材層12と同様にして、粒子層を形成し、負極を作製する。
【0166】
その後、負極は、打ち抜き加工等により、所望の大きさに切断される。
【0167】
図5に、液体吐出装置300の変形例を示す。
【0168】
液体吐出装置300'は、ポンプ310と、バルブ311、312を制御することにより、液体組成物12Aが液体吐出ヘッド306、タンク307、チューブ308を循環することが可能である。
【0169】
また、液体吐出装置300'は、外部タンク313が設けられており、タンク307内の液体組成物12Aが減少した際に、ポンプ310と、バルブ311、312、314を制御することにより、外部タンク313からタンク307に液体組成物12Aを供給することも可能である。
【0170】
液体吐出装置300、300'を用いると、負極基体11の狙ったところに液体組成物12Aを吐出することができる。また、液体吐出装置300、300'を用いると、負極基体11と負極合材層12の上下に接する面同士を結着することができる。さらに、液体吐出装置300、300'を用いると、負極合材層12の厚さを均一にすることができる。
【0171】
<正極の製造方法>
正極の製造方法は、正極基体上に、正極活物質と、分散媒を含む液体組成物を吐出する以外は、負極の製造方法と同様である。
【0172】
なお、粒子層は、正極及び/又は負極に形成することができる。
【0173】
<電気化学素子の用途>
電気化学素子の用途としては、特に制限はなく、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドホンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、ストロボ、カメラ等が挙げられる。
【実施例
【0174】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、実施例によって限定されるものではない。
【0175】
なお、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0176】
<液体組成物のメジアン径D50、90%径D90
固形分が10質量%以下になるように、液体組成物を希釈した後、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子製)を用いて、液体組成物のメジアン径D50、90%径D90を測定した。
【0177】
<液体組成物の粒子の含有量と拡散係数Dの関係>
ストークス-アインシュタインの式のdに、液体組成物のメジアン径D50を適用して、拡散係数Dを算出した。次に、横軸を液体組成物中の粒子の含有量[質量%]とし、縦軸を液体組成物の拡散係数Dとして、プロットした。
【0178】
ここで、液体組成物の拡散係数Dが、液体組成物中の粒子の含有量の増加に伴い、一段の階段状に減少した場合、微分曲線の最大値から、変曲点を決定した(図1参照)。
【0179】
<液体組成物のゼータ電位>
液体組成物に含まれる溶剤で光学的測定濃度領域まで希釈した後、ゼータ電位・粒径・分子量測定システムELSZ-2プラス(大塚電子製)を用いて、液体組成物のゼータ電位を測定した。
【0180】
<液体組成物の動的粘度>
DV-II+Pro Viscometer(BROOKFIELD製)を用いて、25℃において、コーンプレートCPE-40を100rpmで回転させ、液体組成物の動的粘度を測定した。
【0181】
<液体組成物の静的粘度>
DV-II+Pro Viscometer(BROOKFIELD製)を用いて、25℃において、コーンプレートCPE-40を100rpmで回転させた後、6rpmまで急減させて、液体組成物の静的粘度(急止)を測定した。次に、コーンプレートCPE-40を6rpmで30秒間回転した後、10秒間停止した。再度6rpmでコーンプレートCPE-40を回転させ、静的粘度(再回転)を測定した。
【0182】
<高分子分散剤1の合成>
1molの2-[2-(2-Methoxyethoxy)ethoxy]ethyl Acrylate(東京化成製)と、1.1molの無水マレイン酸(東京化成製)を、1000mlのジオキサンに溶解させた後、0.01molの2,2'-Azobis(2-methylpropionitrile)を添加した。次に、窒素雰囲気下、75℃で8時間攪拌した後、減圧乾燥させ、数平均分子量5000の高分子分散剤1を得た。
【0183】
<高分子分散剤2の合成>
105部の高分子分散剤1を100部のジオキサンに溶解させた後、1.3部のアンモニアが水に溶解している溶液を添加した。次に、100℃で2時間加熱攪拌した後、減圧乾燥させ、高分子分散剤2を得た。
【0184】
<高分子分散剤3の合成>
1molのステアリルアクリレート(東京化成製)と、1.1molの無水マレイン酸(東京化成製)を、100部のジオキサンに溶解させた後、0.01molの2,2'-Azobis(2-methylpropionitrile)を添加した。次に、窒素雰囲気下、75℃で8時間攪拌した後、減圧乾燥させ、数平均分子量5000の高分子分散剤3を得た。
【0185】
<液体組成物の調製>
粒子、溶剤、高分子分散剤を所定の比率で混合した後(表1参照)、ビーズミル分散機LMZ150(アシザワファインテック製)及び0.1mmのジルコニアビーズを用いて、回転速度6m/sで2回循環運転させ、液体組成物を得た。
【0186】
表1に、液体組成物の拡散係数D、90%径D90、ゼータ電位を示す。
【0187】
なお、表1の略称の意味は、以下の通りである。
【0188】
AKP-3000:酸化アルミニウム粒子(住友化学製)
LS-110:酸化アルミニウム粒子(日本軽金属製)
PT-301:酸化チタン粒子(石原産業製)
IPA:イソプロピルアルコール
HG:ヘキシレングリコール
MEK:メチルエチルケトン
DAA:ジアセトンアルコール
SC-0708A:高分子ポリカルボン酸(日油製)
また、表1の混合溶剤の混合比は、質量比である。
【0189】
<被塗布媒体の作製>
93部の黒鉛粉末KS6(ティムカル製)、5部のデンカブラック(アセチレンブラック)(電気化学工業製)に、水を加えて混練した後、カルボキシメチルセルロースの2質量%水溶液1270(ダイセル製)1部を加えて混練した。さらに、スチレン-ブタジエンゴム(日本ゼオン製)1部を加え、負極合材層用スラリーを作製した。
【0190】
負極基体としての、アルミニウム箔上に、負極合材層用スラリーを塗布した後、150℃で12時間真空乾燥させた。次に、プレス機(テスター産業製)を用いて、圧縮し、が単位面積当たりの固形分3mg/cm、単位体積当たりの固形分1.6g/cmの被塗布媒体を得た。
【0191】
<評価画像の形成>
液体吐出装置EV2500(リコー製)及び液体吐出ヘッド5421Fヘッド(リコー製)を用いて、被塗布媒体上に、液体組成物を吐出した後、ホットプレートを用いて、120℃で乾燥させ、評価画像を形成した。このとき、粒子の付着量[mg/cm]が、式
粒子の含有量[質量%]/40
となるように、液体吐出ヘッドに印加する駆動波形、駆動電圧、液滴数を調整した。
【0192】
<液体組成物の被塗布媒体に対する浸透性>
ポータブルイメージング分光色差計RM200(X-Rite製)を用いて、評価画像の明度Lを100箇所で測定した後、平均した。次に、式
(1mg)=Lの平均値/粒子の付着量
により、粒子の付着量が1mg/cmである場合の明度の平均値L(1mg)を算出し、液体組成物の被塗布媒体に対する浸透性を評価した。
【0193】
表1~3に、液体組成物の被塗布媒体に対する浸透性の評価結果を示す。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
【表3】
表1~3から、実施例1~42の液体組成物は、L(1mg)が70以上であり、液体組成物の被塗布媒体に対する浸透性が低いことがわかる。
【0197】
これに対して、比較例1~27、33~35の液体組成物は、粒子の含有量が図1の領域Aの範囲内であるため、L(1mg)が70未満であり、液体組成物の被塗布媒体に対する浸透性が高い。
【0198】
また、比較例28~32の液体組成物は、拡散係数が、粒子の含有量の増加に伴い、線形に減少するため、L(1mg)が70未満であり、液体組成物の被塗布媒体に対する浸透性が高い。
【0199】
なお、セパレータ一体型電極の製造を鑑みた場合、L(1mg)が70以上であれば、セパレータ一体型電極の製造に耐えうると判定した。
【0200】
また、実施例41、42の液体組成物は、D90が、それぞれ5.12μm、5.13μmであるため、若干の画像欠陥が観測されたものの、L(1mg)が70以上であった。
【0201】
次に、実施例29~32の液体組成物の動的粘度と静的粘度を測定し、液体組成物を吐出する際の粒子の構造を推測した。
【0202】
表4に、実施例29~32の液体組成物の動的粘度と静的粘度の測定結果を示す。
【0203】
【表4】
液体組成物の拡散係数Dが大きく、粒子の構造体を形成していると推測される場合は、通常、液体組成物の静的粘度が高くなることが予想される。
【0204】
しかしながら、表4に示すように、実施例29~32の液体組成物は、動的粘度及び静的粘度(急止)が低いが、静的粘度(再回転)が高い。このことから、実施例29~32の液体組成物中の粒子は、高せん断力下では、単独分散しているか、単独分散に近い状態であるが、静置下では、粒子の構造体が形成されていると推測される。
【0205】
なお、DV-II+Pro Viscometer(BROOKFIELD製)の測定限界よりも小さい粘度を測定することが困難であるため、実施例29~32の液体組成物の静的粘度(急止)を1.0mPa・s未満と記載した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0206】
【文献】特開2003-39810号公報
【文献】特開2006-173001号公報
図1
図2
図3
図4
図5