IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】含フッ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/16 20060101AFI20240827BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20240827BHJP
   C07C 209/60 20060101ALN20240827BHJP
   C07C 211/63 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C07C17/16
C07C19/08
C07C209/60
C07C211/63
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020192093
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080796
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】石村 隆行
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-48741(JP,A)
【文献】特開2013-95669(JP,A)
【文献】Sergej V. Pasenok et al.,New Method of Preparation of Fluoro compounds via Utilisation of Ammonium and Phosphonium Perfluorocyclobutane Ylides as Fluorination Reagents,Tetrahedron,1996年,Vol. 52, No. 8,p.2977-2982
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
(式中、mは1又は2である。)で示される環式化合物と、炭素原子数3~5の直鎖状のパーフルオロアルケン及び炭素原子数4~5の直鎖状のパーフルオロアルカジエンからなる群より選ばれる直鎖化合物とを含む混合物に、第三級アミンを反応させて、直鎖化合物を分離除去し、分離除去後の反応混合物に、式(2):ROH(式中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基又はアリールアルキル基である。)で示されるアルコールを反応させて、式(3):RF(式中、Rは上記と同じである。)で示される含フッ素化合物とすることを特徴とする、含フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記混合物に含まれる前記直鎖化合物の80質量%以上を前記第三級アミンとの反応により分離除去する、請求項1記載の含フッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第三級アミンが、トリアルキルアミン、N-アルキルモルホリン、N-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンである、請求項1又は2に記載の含むフッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記式(2)で示されるアルコールが、メタノール又はエタノールである、請求項1~3のいずれか一項に記載のフッ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アルカンをはじめとする含フッ素化合物は、半導体の製造分野におけるプラズマ用エッチングガスや化学気相成長法(CVD)用ガス、含フッ素医薬中間体、ハイドロフルオロカーボン系溶剤等として有用である。
【0003】
含フッ素アルカンに関しては、含フッ素イリドを利用した製造方法が知られている(特許文献1及び2、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-48741号公報
【文献】特開2013-95669号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Pasenok et al.“New Method of Preparation of Fluoro compounds via Utilisation of Ammonium and Phosphonium Perfluorocyclobutane Ylides as Fluorination Reagents” Tetrahedron、Vol.52、No.8、2977~2982頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、パーフルオロ不飽和炭化水素は、二重結合を有しているため反応性が高く、また、化合物同士の沸点が近い場合や蒸気圧が高い場合も多く、分離や除去を蒸留精製や吸着処理などの方法で選択的に行うことが一般的に難しい。中でも、パーフルオロ不飽和炭化水素のうち、炭素原子数3~5程度の環式化合物と直鎖化合物との分離は通常、困難である。
【0007】
本発明者は、パーフルオロ不飽和炭化水素の研究を進める中で、所定の炭素原子数の環式化合物と直鎖化合物を含む混合物に第三級アミンを反応させることで、直鎖化合物を容易に分離除去することができ、一方、分離除去後の反応混合物にアルコール類を反応させることで、含フッ素化合物が得られることができることを見出した。
【0008】
本発明は、式(1):
【化1】
(式中、mは1又は2である。)で示される環式化合物と、炭素原子数3~5の直鎖状のパーフルオロアルケン及び炭素原子数4又は5の直鎖状のパーフルオロアルカジエンからなる群より選ばれる直鎖化合物とを含む混合物に、第三級アミンを反応させて、未反応の直鎖化合物を分離除去し、分離除去後の反応混合物に、式(2):ROH(式中。Rは、アルキル基、シクロアルキル基又はアリールアルキル基である。)を反応させて、式(3):RF(式中、Rは上記と同じである。)で示される含フッ素化合物とすることを特徴とする、含フッ素化合物の製造方法に関する。
【0009】
本発明では、混合物に含まれる直鎖化合物の80質量%以上を第三級アミンとの反応により分離除去することができ、回収物は半導体や液晶の製造プロセスにおいてエッチング用ガス、クリーニング用ガス、飽和パーフルオロカーボンの代替やフッ素樹脂の原料に利用可能である。
【0010】
第三級アミンとしては、トリアルキルアミン、N-アルキルモルホリン、N-アルキルピペリジン又はN-アルキルピロリジンを使用することができる。
【0011】
式(2)で示されるアルコールとしては、メタノール又はエタノール等を使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パーフルオロ不飽和炭化水素について、所定の炭素原子数の環式化合物と直鎖化合物を含む混合物に第三級アミンを反応させることで、直鎖化合物を容易に分離除去することができ、一方、分離除去後の反応混合物にアルコール類を反応させることで、含フッ素化合物が得られることができ、有用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第三級アミンとの反応>
本発明は、式(1):
【化2】
(式中、mは1又は2である。)で示される環式化合物(以下、「環式化合物」ともいう。)と、炭素原子数3~5の直鎖状のパーフルオロアルケン及び炭素原子数4~5の直鎖状のパーフルオロアルカジエンからなる群より選ばれる直鎖化合物(以下、「直鎖化合物」ともいう。)とを含む混合物(以下、「所定の混合物」ともいう。)に、第三級アミンを反応させる工程を含む。
【0014】
(所定の混合物)
式(1)で示される環式化合物は、mが1の場合、ヘキサフルオロシクロブテン(c-C)であり、mが2の場合、オクタフルオロシクロペンテン(c-C)である。これらはそれぞれ単独で用いても、両者を組み合わせてもよい。
【0015】
炭素原子数3~5の直鎖状のパーフルオロアルケンは、CFCF=CF、CFCFCF=CF、CFCF=CFCF、CFCFCFCF=CF、CFCFCF=CFCFを包含し、炭素原子数4~5の直鎖状のパーフルオロアルカジエンは、CF=CFCF=CF、CFCF=CFCF=CF、CF=CFCFCF=CFを包含する。これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0016】
中でも、環式化合物と直鎖化合物の炭素原子数が同じである場合、沸点が近接しており、本発明の製造方法を利用する有用性が高い。炭素原子数4及び5の化合物を沸点とともに以下に挙げる。
c-C:ヘキサフルオロシクロブテン(沸点5~6℃)
c-C:オクタフルオロシクロペンテン(沸点27℃)
CFCFCF=CF(沸点6℃)
CFCF=CFCF(沸点1.2℃)
CF=CFCF=CF(沸点5~6℃)
CFCFCFCF=CF(沸点28.9℃)
CFCFCF=CFCF(沸点1.2℃)
【0017】
所定の混合物中の環式化合物と直鎖化合物の割合は、特に限定されず、これらの質量割合(環式化合物の質量:直鎖化合物の質量)は、例えば、0.1:99.9~99.9:0.1とすることができる。十分な分離効果と、効率的な最終生成物の製造の両立の点から、これらの質量割合(環式化合物の質量:直鎖化合物の質量)は1:9~9:1が好ましく、より好ましくは3:7~7:3である。
【0018】
所定の混合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよく、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、大気、脂肪族飽和炭化水素類、エーテル類、芳香族炭化水素類等が挙げられる。他の成分は0%であってもよく、この場合、混合物は、環式化合物と直鎖化合物から構成される。
【0019】
(第三級アミン)
第三級アミンは、式:NR(ここで、R、R及びRは、独立してアルキル基であり、これらのうち2つは一緒になって、酸素原子又は硫黄原子で中断されていてもよいアルキレン基を形成していてもよい。)で表される。第三級アミンは、室温(23℃)、大気圧下で、液体であることが好ましい。
【0020】
、R、Rがアルキル基の場合、これらは同じであっても、異なっていてもよいが、好ましくは同じである。
【0021】
アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキル基としては、炭素原子数1個以上4個以下のアルキル基が挙げられ、好ましくは1個以上3個以下であり、例えば、メチル、エチル、プロピルである。
【0022】
、R、Rのうち、2つは一緒になって、酸素原子又は硫黄原子で中断されていてもよいアルキレン基を形成していてもよく、基:-(CH-(ここで、pは3以上6以下の整数である。)、-(CH-O-(CH-(ここで、qは、同じであっても異なっていてもよく、1以上3以下の整数である。)、-(CH-S-(CH-(ここで、rは、同じであっても異なっていてもよく、1以上3以下の整数である。)、等が挙げられる。R、R、Rのうち、残りの1つは、アルキル基であり、アルキル基については、上記の例示及び好適例が適用される。
【0023】
第三級アミンとしては、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等のトリアルキルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-ブチルモルホリン等のN-アルキルモルホリン、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジン等のN-アルキルピペリジン、N-メチルピロリジン、N-エチルピロリジン等のN-アルキルピロリジン等が好ましく、より好ましくはトリエチルアミン、メチルジエチルアミン等のトリアルキルアミンである。
【0024】
所定の混合物中の環式化合物のモル数に対して、第三級アミンのモル数を0.5倍以上10倍以下とすることができる。この範囲であれば、良好な反応が期待できる。所定の混合物中の環式化合物のモル数に対する第三級アミンのモル数は、0.5倍以上が好ましく、1.0倍以上がより好ましく、また、5倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましい。
【0025】
(反応プロセス)
所定の混合物と第三級アミンとの接触により、所定の混合物中の式(1)で示される環式化合物と第三級アミンとが反応し、式(4)で示されるイリド化合物が生成する。各式中、R、R及びRは上記と同義である。
【0026】
【化3】
【0027】
一方、直鎖化合物は反応系外に分離除去することができる。分離除去した直鎖化合物を回収して、半導体や液晶の製造プロセスにおいてエッチング用ガス、クリーニング用ガス、飽和パーフルオロカーボンの代替やフッ素樹脂など化学品の原料等の様々な用途に使用することができる。
【0028】
所定の混合物に第三級アミンを反応させるプロセスは、特に限定されず、第三級アミンを含む反応容器に所定の混合物を導入して反応させてもよく、反応容器に所定の混合物を導入した後、第三級アミンを注入して反応させてもよい。反応は、溶媒なしで行うことができるが、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素類(へプタン等)、エーテル類(ジブチルエーテル等)、芳香族炭化水素類(キシレン等)等が挙げられる。溶媒を使用することで、反応系内の濃度を容易に調整することができ、撹拌性の向上、副生物の抑制を行い、環式化合物を反応させつつ、未反応の直鎖化合物を分離することを容易に行うことができる。
【0029】
例えば、第三級アミンを融点以上の温度とした液体又は第三級アミンを溶媒に溶解もしくは分散させた液体を反応容器に入れ、反応容器中で所定の混合物と反応させることができる。第三級アミンの液体を滴下して、反応系内の濃度を調整することで反応の進行を制御してもよい。
【0030】
また、例えば、第三級アミンをゼオライト、シリカ、アルミナ、活性炭といった固体吸着剤に担持させて反応容器内に配置し、所定の混合物を導入して、反応させることができる。この方式により、反応系内でのアミン濃度を均一化し、局所的な反応進行を抑え、反応速度を調整することができ、副生物の抑制を行い、環式化合物を反応させつつ、未反応の直鎖化合物を分離することを容易に行うことができる。所定の混合物を気体として連続的に供給することが好ましい。
【0031】
さらに、第三級アミンを融点以上の温度とした液体又は第三級アミンを溶媒に溶解もしくは分散させた液体を所定の混合物に噴霧して、反応させることができる。この方式により、所定の混合物と第三級アミンの接触濃度・頻度を調整することができ、局所的な反応進行を抑え、環式化合物を反応させつつ、未反応の直鎖化合物を分離することを容易に行うことができる。気体である所定の混合物に噴霧することが好ましい。
【0032】
所定の混合物は、気体の状態で反応器に導入することができる。所定の混合物を加熱等して、気体の状態にしてもよい。反応器への導入後、気相で第三級アミン化合物と接触させてもよく、反応器内で冷却して一部又は全部を液化させて、液相で所定の混合物をアミンと接触させてもよい。
【0033】
所定の混合物と第三級アミンの反応は、反応系内に直鎖化合物と第三級アミンとの反応を妨げるような抑制剤等の存在下で行うことができる。これにより、直鎖化合物と第三級アミンの副反応が抑制され、直鎖化合物を効率よく分離除去することができる。
【0034】
所定の混合物と第三級アミンの反応は、-5℃以上30℃以下で行うことが好ましい。この範囲であれば、環式化合物を十分に第三級アミンと反応させつつ、直鎖化合物と第三級アミンとの副反応等により生じる直鎖化合物の副生物を抑制することができる。反応温度は0℃以上が好ましく、また、20℃以下がより好ましい。
【0035】
所定の混合物と第三級アミンの反応時間は、特に限定されず、例えば、5時間以上168時間以下とすることができ、好ましくは10時間以上120時間以下である。
【0036】
反応は、常圧下で行うことができる。
【0037】
本発明では、所定の混合物と第三級アミンの反応において、直鎖化合物を分離除去する。分離除去後、第三級アミンと環式化合物の反応によって生成するイリド化合物を含む反応混合物をそのまま、あるいは再結晶等による精製処理を行い、次工程に付すことができる。
【0038】
直鎖化合物及びその副生物が反応混合物に含まれると、目的とする含フッ素化合物の生成や高純度化が阻害され得る。また、直鎖化合物から副生し得るC1化合物は、目的とする含フッ素化合物に混入すると、含フッ素化合物をエッチング等の用途に使用した場合、悪影響を及ぼし得る。これらの点から、混合物中の直鎖化合物の80質量%以上の直鎖化合物を分離除去することが好ましく、次工程に付す反応混合物中に残存する直鎖化合物の量及び直鎖化合物由来の化合物の直鎖化合物換算量の合計を、混合物中の直鎖化合物の20質量%未満に抑制することが好ましい。分離除去する直鎖化合物は、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよく、反応混合物中に残存する直鎖化合物の量及び直鎖化合物由来の化合物の直鎖化合物換算量の合計は、混合物中の直鎖化合物の10質量%未満に抑制することがより好ましく、0質量%であってもよい。
【0039】
直鎖化合物の分離除去は、直鎖化合物を気体として捕集することにより行うことができる。例えば、反応容器中で所定の混合物と第三級アミンを反応させた後、反応容器に接続した減圧下で冷却した容器に気体を捕集することができる。また、反応容器に第三級アミンを担持した固体吸着剤を配置して、所定の混合物を気体状態で流通させる場合は、第三級アミンを担持した固体吸着剤に接触させた後の気体を反応容器外に流通させて取り出すことで捕集することができる。また、反応容器に所定の混合物を気体状態で流通させ、反応容器内で第三級アミンを噴霧する場合は、噴霧後の気体を反応容器外に流通させて取り出すことで捕集することができる。いずれの場合においても、直鎖化合物は、捕集した気体中に含まれ、一方、反応混合物は反応容器中に残る。
【0040】
<アルコールとの反応>
本発明は、直鎖化合物を分離除去した後の反応混合物に、式(2):ROH(式中。Rは、アルキル基。シクロアルキル基又はアリールアルキル基である。)で示されるアルコールを反応させる。反応混合物中の式(4)で示されるイリド化合物がアルコールと反応し、式(3):RF(式中、Rは上記と同じである)で示される含フッ素化合物が生成する。各式中、R、R、R及びRは上記と同義である。
【化4】
【0041】
(アルコール)
式(2)におけるRは、アルキル基、シクロアルキル基、アリールアルキル基である。
【0042】
アルキル基としては、炭素原子数1~6のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル又はエチルである。アルキル基は直鎖であっても、分岐であってもよい。
シクロアルキル基としては、炭素原子数4~6のシクロアルキル基が挙げられる。シクロアルキル基は、アルキル基(例えば、炭素原子数1~6のアルキル基)で置換されていてもよい。好ましくはシクロペンチル又はシクロヘキシルである。
アリールアルキル基としては、炭素原子数6~8のアリール基によって置換されたメチル又はエチルが挙げられ、好ましくはベンジルである。
【0043】
Rがアルキル基の式(2)で示されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、シクロブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-1-ブタノール等が挙げられる。
Rがシクロアルキル基の式(2)で示されるアルコールとしては、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
Rがアリールアルキル基の式(2)で示されるアルコールとしては、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0044】
目的物である式(3)で示される含フッ素化合物は、式(2)で示されるアルコールの水酸基がフッ素原子で置き換わった構造を有するため、アルコールは、目的物である含フッ素化合物に応じて選択することができ、例えば、アルコールとして、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールを使用した場合、モノフルオロメタン(CHF)、モノフルオロエタン(CHCHF)、1-フルオロプロパン、2-フルオロプロパン等が得られる。
【0045】
所定の混合物中の環式化合物のモル数に対して、式(2)で示されるアルコールのモル数を1.0倍以上3倍以下とすることができる。この範囲であれば、良好な反応の進行が期待できる。所定の混合物中の環式化合物のモル数に対する式(2)で示されるアルコールのモル数は、1.0倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、また、3倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましい。
【0046】
(反応プロセス)
直鎖化合物を分離除去した後の反応混合物にアルコールを反応させるプロセスは、特に限定されず、分離除去後の反応混合物とアルコールとを混合することにより行うことができる。例えば、分離除去後の反応混合物を含む反応容器にアルコールを添加、加熱撹拌して反応させてもよい。
【0047】
分離除去後の反応混合物とアルコールの反応は、25℃以上70℃以下で行うことが好ましい。この範囲であれば、反応混合物中のイリド化合物によるアルコールのフッ素化反応を十分に進めることができる。反応温度は30℃以上が好ましく、また、60℃以下がより好ましい。
【0048】
分離除去後の反応混合物とアルコールの反応時間は、特に限定されず、例えば、1時間以上6時間以下とすることができ、好ましくは2時間以上4時間以下である。
【0049】
反応は、常圧下で行うことができる。
【0050】
反応は、溶媒なしで行うことができるが、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジクロペンチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテルなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどの塩素系類、ペンタフルオロブタン、デカフルオロペンタン、ヘプタフルオロシクロペンタン、ウンデカフルオロヘキサンなどのフッ素化炭化水素類、トルエン、キシレン、ベンゾフルオリドなどの芳香族類が挙げられる。中でも、トルエンが好ましい。
【0051】
式(3)で示される含フッ素化合物は、気体として回収することができる。例えば、反応容器中で、直鎖化合物を分離除去した後の反応混合物をアルコールと反応させた後、出口側を不活性ガスでシールし、開放して大気圧と等しくした冷却した容器に捕集、または反応容器に接続した減圧下で冷却した容器に、含フッ素化合物を気体として捕集することができる。
【実施例
【0052】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
内部を減圧した耐圧反応器Aを-30℃に冷却し、バルブよりヘキサフルオロブタジエンを21g(0.13モル)、ヘキサフルオロシクロブテン21g(0.13モル)を気体で、トリエチルアミン15.7 g(0.16モル)を液体で導入した。
その後、反応器A内を5℃に上げて90時間、撹拌した。内部を減圧した空の耐圧容器Bを-30℃に冷却し、耐圧反応器Aと接続してそれぞれのバルブを開け、耐圧反応器Aを徐々に5℃から室温、室温から35℃に加温して内部に残留した気体を耐圧容器Bに気体で移し、耐圧容器B内で液化させた。回収後の耐圧容器Bの重量増加量は20.5gであった(回収率97.6%)。回収した成分を分析し、導入前のNMRとの比較によりヘキサフルオロブタジエンであることを確認した。
耐圧容器Bを取り外して耐圧反応器Aに真空ポンプを取り付け、内部を1時間減圧した。減圧後の耐圧反応器Aの重量増加量は34gであった。耐圧反応器Aに耐圧容器Cを取り付け、耐圧容器Cの出口側バルブは窒素によりシールして開けておき、耐圧容器Cを液体窒素で冷却して耐圧反応器A内で生成する気体成分を液化して深冷捕集できるようにした。次に耐圧反応器Aにメタノール6.3g(0.20モル)を導入し、60~63℃で2時間加熱した。加熱終了後、耐圧容器Cのバルブを閉め、3.8gの重量増加を確認した。耐圧容器Cに捕集した気体成分をNMRにより分析し、モノフルオロメタンであることを確認した。
モノフルオロメタンの収率85%。
モノフルオロメタン
19F-NMR(δppm):-270.8(q,1F,CF)
【0054】
<実施例2>
内部を減圧した耐圧反応器Aを-40℃に冷却し、バルブよりヘキサフルオロプロペンを15g(0.10モル)、ヘキサフルオロシクロブテン15g(0.09モル)を気体で、トリエチルアミン11.2 g(0.11モル)を液体で導入した。
その後、反応器A内を10℃に上げて80時間、撹拌した。内部を減圧した空の耐圧容器Bを-30℃に冷却し、耐圧反応器Aと接続してそれぞれのバルブを開け、耐圧反応器Aを徐々に5℃から室温、室温から35℃に加温して内部に残留した気体を耐圧容器Bに気体で移した。回収後の耐圧容器Bの重量増加量は13.9gであった(回収率93%)。回収した成分を分析し、導入前のNMRとの比較によりヘキサフルオロプロペンであることを確認した。
耐圧容器Bを取り外して耐圧反応器Aに真空ポンプを取り付け、内部を1時間減圧した。減圧後の耐圧反応器Aの重量増加量は25.7gであった。耐圧反応器Aに耐圧容器Cを取り付け、耐圧容器Cの出口側バルブは窒素によりシールして開けておき、耐圧容器Cを液体窒素で冷却して耐圧反応器A内で生成する気体成分を液化して深冷捕集できるようにした。次に耐圧反応器Aにメタノール4.7g(0.15モル)を導入し、60~63℃で2時間加熱した。加熱終了後、耐圧容器Cのバルブを閉め、2.9gの重量増加を確認した。耐圧容器Cに捕集した気体成分をNMRにより分析し、モノフルオロメタンであることを確認した。
モノフルオロメタンの収率88%。
モノフルオロメタン
19F-NMR(δppm):-270.8(q,1F,CF)
【0055】
<実施例3>
内部を減圧した耐圧反応器Aを-30℃に冷却し、バルブよりオクタフルオロ-2-ブテンを18g(0.09モル)、ヘキサフルオロシクロブテン18g(0.11モル)を気体で、トリエチルアミン13.5 g(0.13モル)を液体で導入した。
その後、反応器A内を5℃に上げて93時間、撹拌した。内部を減圧した空の耐圧容器Bを-30℃に冷却し、耐圧反応器Aと接続してそれぞれのバルブを開け、耐圧反応器Aを徐々に5℃から室温、室温から35℃に加温して内部に残留した気体を耐圧容器Bに気体で移した。回収後の耐圧容器Bの重量増加量は17.6gであった(回収率98%)。回収した成分を分析し、導入前のNMRとの比較によりオクタフルオロ-2-ブテンであることを確認した。
耐圧容器Bを取り外して耐圧反応器Aに真空ポンプを取り付け、内部を1時間減圧した。減圧後の耐圧反応器Aの重量増加量は30.8gであった。耐圧反応器Aに耐圧容器Cを取り付け、耐圧容器Cの出口側バルブは窒素によりシールして開けておき、耐圧容器Cを液体窒素で冷却して耐圧反応器A内で生成する気体成分を液化して深冷捕集できるようにした。次に耐圧反応器Aにメタノール5.6g(0.17モル)を導入し、60~63℃で2時間加熱した。加熱終了後、耐圧容器Cのバルブを閉め、3.4gの重量増加を確認した。耐圧容器Cに捕集した気体成分をNMRにより分析し、モノフルオロメタンであることを確認した。
モノフルオロメタンの収率85%。
モノフルオロメタン
19F-NMR(δppm):-270.8(q,1F,CF)
【0056】
<実施例4>
内部を減圧した耐圧反応器Aを-30℃に冷却し、バルブよりヘキサフルオロブタジエンを17g(0.10モル)、ヘキサフルオロシクロブテン17g(0.10モル)を気体で、トリエチルアミン12.7g(0.13モル)を液体で導入した。
その後、反応器A内を5℃に上げて90時間、撹拌した。内部を減圧した空の耐圧容器Bを-30℃に冷却し、耐圧反応器Aと接続してそれぞれのバルブを開け、耐圧反応器Aを徐々に5℃から室温、室温から35℃に加温して内部に残留した気体を耐圧容器Bに気体で移した。回収後の耐圧容器Bの重量増加量は16.5gであった(回収率97%)。回収した成分を分析し、導入前のNMRとの比較によりヘキサフルオロブタジエンであることを確認した。
耐圧容器Bを取り外して耐圧反応器Aに真空ポンプを取り付け、内部を1時間減圧した。減圧後の耐圧反応器Aの重量増加量は29gであった。耐圧反応器Aに耐圧容器Cを取り付け、耐圧容器Cの出口側バルブは窒素によりシールして開けておき、耐圧容器Cを液体窒素で冷却して耐圧反応器A内で生成する気体成分を液化して深冷捕集できるようにした。次に耐圧反応器Aにエタノール7.6g(1.57モル)を導入し、60~63℃で2時間加熱した。加熱終了後、耐圧容器Cのバルブを閉め、3.0gの重量増加を確認した。耐圧容器Cに捕集した気体成分をNMRにより分析し、モノフルオロエタンであることを確認した。
モノフルオロエタンの収率80%。
モノフルオロエタン
19F-NMR(δppm):-214.5(m,1F,CF)
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、パーフルオロ不飽和炭化水素について、所定の炭素原子数の環式化合物と直鎖化合物を含む混合物に第三級アミンを反応させることで、直鎖化合物を容易に分離除去することができる一方、分離除去後の反応混合物にアルコール類を反応させることで、含フッ素化合物が得られることができ、有用性が高い。