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特許7543916ダイバーティングエージェント及びこれを用いた坑井の亀裂の閉塞方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ダイバーティングエージェント及びこれを用いた坑井の亀裂の閉塞方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/508 20060101AFI20240827BHJP
   C09K 8/62 20060101ALI20240827BHJP
   E21B 43/26 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09K8/508
C09K8/62
E21B43/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020572268
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005304
(87)【国際公開番号】W WO2020166598
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019023949
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰広
(72)【発明者】
【氏名】谷口 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107286916(CN,A)
【文献】国際公開第2018/231236(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106350043(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103725277(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105441047(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107629774(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/08
C09K 8/508
E21B 43/26
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が800~2000μmの粉末状の、親水性変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂を含有するダイバーティングエージェント。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂1gを23℃の水100gに1時間浸漬した際の前記ポリビニルアルコール系樹脂の残存率が50質量%以上である、請求項1に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂1gを40℃の水100gに7日間浸漬した際の前記ポリビニルアルコール系樹脂の残存率が10質量%以下である、請求項1又は2に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が90~100モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂が、側鎖に一級水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載のダイバーティングエージェント。
【請求項6】
坑井に生成された亀裂を一時的に閉塞する方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載のダイバーティングエージェントを、坑井内の流体の流れにより亀裂に流入させる坑井の亀裂の閉塞方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイバーティングエージェント(Diverting Agent)及びこれを用いた坑井の亀裂の閉塞方法に関し、更に詳しくは、水圧破砕法を用いる掘削工法の施工時に用いられるダイバーティングエージェント、及び該ダイバーティングエージェントを用いて坑井の亀裂を閉塞する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油やその他の地下資源の採取のために、地下の頁岩(シェール)層に高圧の水を注入して亀裂を生じさせる水圧破砕法が広く採用されている。水圧破砕法では、まず、ドリルで垂直に地下数千メートルの縦孔(垂直坑井)を掘削し、頁岩層に達したところで水平に直径十から数十センチメートルの横孔(水平坑井)を掘削する。垂直坑井と水平坑井内を流体で満たし、この流体を加圧することにより、坑井から亀裂(フラクチャ、fracture)を生成させ、かかる亀裂から頁岩層にある天然ガスや石油(シェールガス・オイル)等が流出してくるので、それを回収する。このような手法によれば、亀裂の生成により、坑井の資源流入断面が増大し、効率よく地下資源の採取を行うことができる。
【0003】
上記の水圧破砕法においては、流体加圧による亀裂の生成に先立って、水平坑井中でパーフォレーション(Perforation)と呼ばれる予備爆破が行われる。このような予備爆破により、坑井から生産層に穿孔を開ける。この後、この坑井内にフラクチュアリング流体を圧入することにより、これら穿孔に流体が流入し、これら穿孔に負荷が加えられることにより、これら穿孔に亀裂が生じ、資源の採取に好適な大きさの亀裂に成長していくこととなる。
【0004】
水圧破砕法では、既に生成している亀裂をより大きく成長させたり、さらに多くの亀裂を生成させるために、既に生成している亀裂の一部をダイバーティングエージェントと呼ばれる添加剤を用いて一時的に塞ぐことがなされる。亀裂の一部をダイバーティングエージェントで一時的に閉塞し、この状態で坑井内に充填されたフラクチュアリング流体を加圧することにより、他の亀裂内に流体が浸入していき、これにより、他の亀裂を大きく成長させるあるいは新たな亀裂を発生させることができる。
【0005】
ダイバーティングエージェントは、上記したように亀裂を一時的に閉塞するために用いられるものであるので、一定期間はその形状を維持でき、天然ガスや石油等を採取する際には加水分解して消失するものが使用される。例えば、ポリグリコール酸(PGA)やポリ乳酸(PLA)等の加水分解性樹脂をダイバーティングエージェントとして使用する技術が種々提案されている。
【0006】
特許文献1では、生分解性脂肪族ポリエステル系樹脂の中でも生分解性の高いポリグリコール酸を含有する坑井掘削用一時目止め剤が提案されている。
また、特許文献2では、生分解性樹脂であるポリ乳酸の粒子からなり、目開き500μmの篩にかけた際にパスしない粒子が50質量%以上、且つ、51度以上の安息角を有する粉体が提案されている。
そして、特許文献3では、ポリ乳酸中に該ポリ乳酸の加水分解性を調整するための生分解性の高いポリオキサレートの微細粒子が分布している分散構造を有している加水分解性粒子であって、平均粒径(D50)が300~1000μmの範囲にあり、短径/長径比が0.8以上の真円度を有する加水分解性粒子が提案されている。
そしてまた、特許文献4では、平均粒径(D50)が300~1000μmの範囲にあり、短径/長径比が0.8以上の真円度を有しているポリオキサレート粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/072317号
【文献】日本国特開2016-56272号公報
【文献】日本国特開2016-147971号公報
【文献】日本国特開2016-147972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
資源の採取場所によっては40~60℃の低温となる場所があるが、ポリグリコール酸やポリ乳酸等は前記のような低温域では生分解速度が遅いため、除去されるまでにかなりの時間を要することが問題であった。
また、水に溶けやすい材料を用いたとしても、溶解が早すぎる場合は、一旦亀裂を閉塞したとしても水圧破砕法を行っている期間の十分な閉塞性を保つことができない虞がある。
【0009】
そこで、本発明は水への溶解性のコントロールに優れるダイバーティングエージェントであって、水圧破砕法を用いる掘削工法において、坑井の亀裂の閉塞初期には溶解し難く、かつ閉塞する必要が無くなった後には水に溶けて容易に除去できるダイバーティングエージェントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、平均粒子径が800~2000μmの範囲の粉末状のポリビニルアルコール系樹脂が、水へ添加後の初期溶解性を抑制できる一方で、一定期間経過後(例えば、7日後)にはほとんど溶解することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の(1)~(6)を特徴とする。
(1)平均粒子径が800~2000μmの粉末状のポリビニルアルコール系樹脂を含有するダイバーティングエージェント。
(2)前記ポリビニルアルコール系樹脂1gを23℃の水100gに1時間浸漬した際の前記ポリビニルアルコール系樹脂の残存率が50質量%以上である、前記(1)に記載のダイバーティングエージェント。
(3)前記ポリビニルアルコール系樹脂1gを40℃の水100gに7日間浸漬した際の前記ポリビニルアルコール系樹脂の残存率が10質量%以下である、前記(1)又は(2)に記載のダイバーティングエージェント。
(4)前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が90~100モル%である、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載のダイバーティングエージェント。
(5)前記ポリビニルアルコール系樹脂が、親水性変性基を有するポリビニルアルコール系樹脂である、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載のダイバーティングエージェント。
(6)坑井に生成された亀裂を一時的に閉塞する方法であって、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載のダイバーティングエージェントを、坑井内の流体の流れにより亀裂に流入させる坑井の亀裂の閉塞方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のダイバーティングエージェントは、水溶性のポリビニルアルコール系樹脂粉末を含有し、該ポリビニルアルコール系樹脂粉末の平均粒子径は800~2000μmである。このポリビニルアルコール系樹脂粉末は、水への添加後初期の溶解性が低い(つまり、水に溶解した際の残存率が高い)にもかかわらず、一定期間経過後(例えば、7日後)には溶解してほとんど消失させることができる。よって、本発明のダイバーティングエージェントは、坑井の亀裂に対して十分な閉塞性を有しつつ、閉塞後は水に溶解し容易に除去される。
したがって、本発明のダイバーティングエージェントは、天然ガスや石油等の掘削作業で行われる水圧破砕法に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施形態の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
なお、用語「ポリビニルアルコール」は、単に「PVA」ということがある。
また、本明細書において、(メタ)アリルとはアリル又はメタリル、(メタ)アクリルとはアクリル又はメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートをそれぞれ意味する。
また、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0014】
本発明のダイバーティングエージェントは、平均粒子径が800~2000μmの粉末状のポリビニルアルコール系樹脂を含有する。
【0015】
〔PVA系樹脂〕
本発明で用いられるPVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と未ケン化部分の酢酸ビニル構造単位を有するものである。
本発明では、PVA系樹脂として、未変性PVA系樹脂の他に、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種モノマーを共重合させ、これをケン化して得られる変性PVA系樹脂や、未変性PVA系樹脂に後変性によって各種官能基を導入した各種の後変性PVA系樹脂等を用いることができる。かかる変性は、PVA系樹脂の水溶性が失われない範囲で行うことができる。また、場合によっては、変性PVA系樹脂を更に後変性させてもよい。
【0016】
本発明で用いられるPVA系樹脂は粉末状であり、その平均粒子径が800~2000μmである。なお、本発明において、「粉末状」とは、細かく砕けて小さな粒になったものをいい、粉砕又は解砕されて平均粒子径が800~2000μmの範囲にあるものをいう。
PVA系樹脂の平均粒子径が800μm以上であると、水に添加した際の初期の溶解速度を適度に減少させることができ、2000μm以下であると、40~60℃の低温水溶液においても1週間程度で溶解除去することができる。平均粒子径は、PVA系樹脂がダイバーティングエージェントに含有され、坑井の亀裂に充填されて当該亀裂を閉塞したときの溶解性(初期溶解性)と、亀裂を閉塞する必要が無くなる一定期間経過後(例えば、7日後)の溶解性(後期溶解性)とのバランスをコントロールしやすい点で、850~1800μmであることが好ましく、880~1500μmであることがより好ましい。
かかる平均粒子径は、乾式ふるい分け試験方法(JIS Z 8815:1994参考)の方法により測定することができる。本明細書において、粒子径とは、乾式ふるい分け試験方法で粒径別の体積分布を測定し、積算値(累積分布)が50%になる粒子径のことである。
【0017】
PVA系樹脂粉末の形状は特に限定されないが、例えば、球状、楕円球状、多角形状、不定形状等が挙げられる。
【0018】
なお、本発明で用いられるPVA系樹脂は、PVA系樹脂1gを23℃の水100gに1時間浸漬した際の残存率が50質量%以上であることが好ましい。ダイバーティングエージェントは、通常、常温~室温の水に分散して使用される。よって、23℃の水を用いることにより実際の使用に即した評価を行うことができる。PVA系樹脂1gを23℃の水100gに1時間浸漬した際のPVA系樹脂の残存率が50質量%以上であると、初期溶解性が低いので、坑井の亀裂等の隙間に対して優れた閉塞性を発揮することができる。23℃の水に1時間浸漬した際の残存率は、52~95質量%であることがより好ましく、52~90質量%がさらに好ましい。
【0019】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂は、PVA系樹脂1gを40℃の水100gに7日間浸漬した際の残存率が10質量%以下であることが好ましい。坑井内は、地域によって温度が40~60℃になっており、ダイバーティングエージェントを分散させた分散液は、坑井内に充填されると温度が徐々に上昇する。よって、40℃の水を用いることにより実際の使用に即した評価を行うことができる。PVA系樹脂1gを40℃の水100gに7日間浸漬した際のPVA系樹脂の残存率が10質量%以下であると、溶解性に優れるので坑井の亀裂等の隙間を閉塞した後に速やかに除去される。40℃の水に7日間浸漬した際の残存率は、0~9質量%であることがより好ましく、0~8質量%がさらに好ましい。
【0020】
このようなPVA系樹脂は、平均粒子径に加えて、平均重合度、ケン化度、融点、熱処理等を調整することや、官能基による変性等により調整することにより、上記した23℃又は40℃の水に浸漬した際の溶解性をコントロールできる。
【0021】
本発明で用いられるPVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726:1994に準拠して測定)は、200~3000であることが好ましい。PVA系樹脂の平均重合度が前記範囲であると、溶解速度を適正範囲内にすることができるため溶解挙動をコントロールしやすくなる。平均重合度は、閉塞性と後期溶解性のバランスの観点から、300~2500であることが好ましく、400~2000がより好ましい。
【0022】
PVA系樹脂のケン化度(JIS K 6726:1994に準拠して測定)は、90~100モル%であることが好ましい。かかるケン化度が低すぎると水溶性が低下する傾向がある。ケン化度は、亀裂等の隙間に対する閉塞性の観点から、92~99.9モル%であることがより好ましく、94~99.5モル%がさらに好ましい。
【0023】
PVA系樹脂の融点は、140~250℃であることが好ましく、より好ましくは150~245℃、更に好ましくは160~240℃、特に好ましくは170~230℃である。
なお、融点は、示差走査熱量計(DSC)で昇降温速度10℃/minで測定した値である。
【0024】
PVA系樹脂の4質量%水溶液粘度は、2~80mPa・sであることが好ましく、より好ましくは3~70mPa・s、更に好ましくは4~60mPa・s、特に好ましくは4~40mPa・sである。かかる粘度が低すぎると本願の効果が得られ難くなる傾向があり、高すぎると製造しにくくなる傾向がある。
なお、PVA系樹脂の4質量%水溶液粘度は、PVA系樹脂の4質量%水溶液を調製し、JIS K6726:1994に準拠して測定した20℃における粘度である。
【0025】
本発明において、PVA系樹脂は、官能基が導入された変性PVA系樹脂を用いてもよく、例えば、親水性変性基含有PVA系樹脂や、エチレン変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、親水性変性基含有PVA系樹脂が好ましい。親水性変性基としては、例えば、水酸基(ヒドロキシル基)、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。
特に、溶融成形性に優れる点で、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が好ましい。側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂における一級水酸基の数は、1~5個であることが好ましく、より好ましくは1~2個であり、特に好ましくは1個である。また、一級水酸基以外にも二級水酸基を有することが好ましい。
【0026】
このような側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂としては、例えば、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有する変性PVA系樹脂、側鎖にヒドロキシアルキル基構造単位を有する変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、特に下記一般式(1)で表される、側鎖に1,2-ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂(以下、「側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂」と称することがある。)を用いることが好ましい。
なお、1,2-ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位である。
【0027】
【化1】
【0028】
(式(1)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0029】
上記一般式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。R~Rは、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば炭素数1~4のアルキル基であってもよい。当該アルキル基としては特に限定しないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が好ましく、当該アルキル基は必要に応じてハロゲノ基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0030】
上記一般式(1)中、Xは単結合又は結合鎖であり、熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で、単結合であることが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。
かかる結合鎖としては、特に限定されず、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子等で置換されていてもよい。)の他、-O-、-(CHO)-、-(OCH-、-(CHO)CH-、-CO-、-COCO-、-CO(CHCO-、-CO(C)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO-、-Si(OR)-、-OSi(OR)-、-OSi(OR)O-、-Ti(OR)-、-OTi(OR)-、-OTi(OR)O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等が挙げられる。Rは各々独立して水素原子又は任意の置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1~4のアルキル基)が好ましい。また、mは自然数であり、好ましくは1~10、特に好ましくは1~5である。結合鎖は、これらのなかでも、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは-CHOCH-が好ましい。
【0031】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における特に好ましい構造は、R~Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である。
【0032】
PVA系樹脂が変性PVA系樹脂である場合、かかる変性PVA系樹脂中の変性率、すなわち共重合体中の各種モノマーに由来する構造単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、官能基の種類によって特性が大きく異なるため一概には言えないが、0.1~20モル%であることが好ましい。
例えば、PVA系樹脂が親水性変性基含有PVA系樹脂である場合の変性率は、0.1~20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10モル%、更に好ましくは1~8モル%、特に好ましくは1~3モル%である。かかる変性率が高すぎると、坑井の亀裂を一時的に閉塞できなくなり、低すぎると一定期間後の溶解性が悪化する傾向がある。
【0033】
なお、PVA系樹脂中の1,2-ジオール構造単位の含有率(変性率)は、ケン化度100モル%のPVA系樹脂のH-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。具体的には1,2-ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出することができる。
【0034】
PVA系樹脂がエチレン変性PVA系樹脂である場合の変性率は、0.1~15モル%であることが好ましく、より好ましくは0.5~10モル%、更に好ましくは1~10モル%、特に好ましくは5~9モル%である。かかる変性率が高すぎると水溶性が低下する傾向があり、低すぎると溶融成形が困難となる傾向がある。
【0035】
本発明で用いられるPVA系樹脂の製造方法としては、例えば、ビニルエステル系モノマーを重合し、得られたポリビニルエステル重合体をケン化して製造する方法が挙げられる。
【0036】
ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等が挙げられ、価格や入手の容易さの観点で、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0037】
ビニルエステル系樹脂の製造時にビニルエステル系モノマーとの共重合に用いられるモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、そのモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド;アリルトリメチルアンモニウムクロライド;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン[1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル]エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類あるいはそのアシル化物等の誘導体を挙げることができる。
【0038】
また、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物などが挙げられる。
【0039】
ビニルエステル系モノマーの重合又はビニルエステル系モノマーと共重合モノマーとの重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。
【0040】
かかる重合で用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、好ましくは炭素数1~3の低級アルコールが用いられる。
【0041】
得られた重合体のケン化についても、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
中でも、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
【0042】
ケン化反応の反応温度は、20~60℃であることが好ましい。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒でも短時間で、高ケン化度のPVA系樹脂を得ることが可能である。
【0043】
また、側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、日本国特開2002-284818号公報、日本国特開2004-285143号公報、日本国特開2006-95825号公報に記載されている方法により製造することができる。すなわち、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法などにより、製造することができる。
【0044】
【化2】
【0045】
(式(2)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表し、R及びRは、それぞれ独立して水素原子又はR-CO-(式中、Rは炭素数1~4のアルキル基である。)を表す。)
【0046】
【化3】
【0047】
(式(3)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表す。)
【0048】
【化4】
【0049】
(式(4)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、Xは単結合又は結合鎖を表し、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。)
【0050】
式(2)~式(4)中のR~R及びXの具体例、好ましい例示は、上記式(1)の場合と同様であり、また、R~R11の炭素数1~4のアルキル基の具体例、好ましい例示も式(1)の場合と同様である。
【0051】
上記方法(i)~(iii)のうち、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で、(i)の方法が好ましく、特に、上記一般式(2)で示される化合物は、R~Rが水素原子、Xが単結合、R、RがR-CO-であり、Rが炭素数1~4のアルキル基である3,4-ジアシロキシ-1-ブテンが好ましく、その中でも特にRがメチル基である3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましく用いられる。
【0052】
本発明で用いられるPVA系樹脂は、1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。PVA系樹脂を2種類以上用いる場合としては、例えば、平均粒子径、ケン化度、平均重合度、融点などが異なる2種以上の未変性PVA系樹脂の組み合わせ;未変性PVA系樹脂と変性PVA系樹脂との組み合わせ;平均粒子径、ケン化度、平均重合度、融点、官能基の種類や変性率などが異なる2種以上の変性PVA系樹脂の組み合わせ等が挙げられる。
【0053】
〔ダイバーティングエージェント〕
本発明のダイバーティングエージェントは、上記した平均粒子径が800~2000μmのPVA系樹脂粉末を含有する。平均粒子径が800~2000μmのPVA系樹脂粉末の含有量は、ダイバーティングエージェント全体に対して、10~100質量%であることが好ましく、より好ましくは30~100質量%、更に好ましくは50~100質量%である。かかる含有量が少なすぎると、本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。
【0054】
本発明のダイバーティングエージェントには、本発明の効果を阻害しない範囲で、平均粒子径が800~2000μmのPVA系樹脂粉末以外に、例えば、砂、鉄、セラミック、その他の生分解性樹脂(例えば、平均粒子径が800μm未満のPVA系樹脂、溶融成形したペレット状のPVA系樹脂、ペレット状又は粉末状のPLA、ペレット状又は粉末状のPGA等)等の添加材(剤)を配合することができる。
かかる添加材(剤)の配合量は、ダイバーティングエージェント全体に対して、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0055】
ダイバーティングエージェントは、平均粒子径が800~2000μmのPVA系樹脂粉末と必要により他の添加材(剤)とを均一に混合することにより作製することができる。
【0056】
本発明のダイバーティングエージェントは、石油や天然ガスなどの掘削において、水圧破砕法を用いる場合に、坑井に生成された亀裂や割れ目の中に入り、その亀裂や割れ目を一時的に閉塞することができる。本発明のダイバーティングエージェントには平均粒子径が800~2000μmのPVA系樹脂粉末が含まれるので、亀裂や割れ目の閉塞初期にはダイバーティングエージェントが溶解し難く、閉塞性に優れ、かつ一定時間後の溶解性にも優れる。よって、本発明のダイバーティングエージェントにより一時的に亀裂を塞いだ状態で、新たな亀裂や割れ目を形成することができる。亀裂や割れ目の閉塞方法としては、本発明のダイバーティングエージェントを坑井内の流体の流れにより亀裂に流入させればよい。これにより、閉塞したい亀裂の一時目止めを行うことができる。
【0057】
また、本発明のダイバーティングエージェントは水溶性で、かつ生分解性であるため、使用後は速やかに水に溶解し除去され、その後生分解されるため、環境負荷が小さく、非常に有用である。
【実施例
【0058】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量を基準とする。
【0059】
〔試験例1〕
(実施例1)
下記の粉末状のPVA系樹脂粒子(PVA1)からなるダイバーティングエージェントを作製した。
還流冷却器、滴下装置、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル20部(全体の20%を初期仕込み)、メタノール18部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン0.6部(全体の20%を初期仕込み)を仕込み、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、沸点に到達した後、アセチルパーオキサイドを0.093部投入し、重合を開始した。
さらに、重合開始から0.5時間後に酢酸ビニル80部と3,4-ジアセトキシ-1-ブテン2.4部を8.5時間かけて等速滴下した。酢酸ビニルの重合率が96%となった時点で、ヒドロキノンモノメチルエーテルを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0060】
ついで、上記溶液をメタノールで希釈し、固形分濃度を55%に調整して、溶液温度を45℃に保ちながら、水酸化ナトリウム2%メタノール溶液(ナトリウム換算)を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して15ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、ケーキ状となった時点で、ケーキをベルト上で移動させながら粉砕した。その後、中和用の酢酸を水酸化ナトリウム1当量あたり0.3当量添加し、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、側鎖1,2-ジオール構造単位を含有する変性PVA系樹脂粒子(側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子)(PVA1)を得た。
【0061】
得られたPVA1は粉末状であり、乾式ふるい分け試験方法でふるい分けし、積算値が50%になる粒子径を算出した。PVA1の平均粒子径は、899μmであった。
また、PVA1のケン化度は、樹脂中の残存酢酸ビニルおよび3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.3モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726:1994に準じて分析を行ったところ、600であった。
また、PVA1中の前記式(1)で表される1,2-ジオール構造単位の含有量(変性率)は、H-NMR(300MHz プロトンNMR、d-DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、1.5モル%であった。
【0062】
(実施例2)
実施例1において、PVA系樹脂のケーキをベルト上で移動させる際のベルトスピードを1.2倍とした以外は実施例1と同様の方法により側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子(PVA2)を得た。
得られたPVA2は粉末状であり、平均粒子径980μm、ケン化度99.3モル%、平均重合度600、変性率1.5モル%であった。
【0063】
(実施例3)
実施例1において、水酸化ナトリウム2%メタノール溶液(ナトリウム換算)を酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して16ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った以外は実施例1と同様の方法により側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子(PVA3)を得た。
得られたPVA3は粉末状であり、平均粒子径1100μm、ケン化度99.4モル%、平均重合度600、変性率1.5モル%であった。
【0064】
(実施例4)
実施例1において、仕込みの酢酸ビニルを100部、メタノールを32.5部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを2部とし、重合反応において重合率が92%となった時点で重合を終了し、水酸化ナトリウム2%メタノール溶液(ナトリウム換算)を酢酸ビニル構造単位及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテン構造単位の合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行い、ケーキの粉砕後に、得られた樹脂を850μm目開きメッシュで篩過して小粒子径のものを除去した以外は実施例1と同様の方法により側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子(PVA4)を得た。
得られたPVA4は粉末状であり、平均粒子径903μm、ケン化度98.5モル%、平均重合度450、変性率1.0モル%であった。
【0065】
(比較例1)
実施例1で得られたPVA1をさらに粉砕して側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子(PVA5)を得た。
得られたPVA5は粉末状であり、平均粒子径679μm、ケン化度99.3モル%、平均重合度600、変性率1.5モル%であった。
【0066】
(比較例2)
実施例4において、850μm目開きメッシュでの篩過を行わなかった以外は実施例4と同様の方法により側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子(PVA6)を得た。
得られたPVA6は粉末状であり、平均粒子径751μm、ケン化度98.5モル%、平均重合度450、変性率1.0モル%であった。
【0067】
<PVA系樹脂の残存率の測定>
各例について、水に対する溶解性(残存率)を測定した。
【0068】
(1)23℃、1時間の残存率
100gの水が入った140mLの蓋付きガラス容器を恒温機に入れ、水温を23℃とした。ナイロン製の120メッシュ(目開き125μm、10cm×7cm)の長辺を二つ折りにし、両端をヒートシールし袋状メッシュ(5cm×7cm)を得た。
得られた袋状メッシュに1gのPVA系樹脂粒子を入れ、開口部をヒートシールし、PVA系樹脂入りの袋状メッシュを得て、質量を測定した。上記ガラス容器中にPVA系樹脂入りの袋状メッシュを浸漬させた。23℃の恒温機内で1時間静置後、PVA系樹脂入りの袋状メッシュを上記ガラス容器から取り出し、140℃で3時間乾燥させた後、かかるPVA系樹脂入りの袋状メッシュの質量を測定した。浸漬前の質量から袋状メッシュ中に残存したPVA系樹脂の質量を算出し、下記式によってPVA系樹脂の1時間後残存率を算出した。結果を表1に示す。
なお、下記式中、PVA系樹脂の固形分率(質量%)は、PVA系樹脂を105℃で3時間乾燥させ、乾燥前後のPVA系樹脂の質量を測定することにより算出できる。
残存率(%)={乾燥後のPVA系樹脂残渣の重量(g)/(PVA系樹脂の初期重量(g)×PVA系樹脂の固形分率(質量%)/100)}×100
【0069】
(2)40℃、7日の残存率
上記(1)の方法において、恒温機内の水温を40℃として、7日後のPVA系樹脂の残存率を算出した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1の結果より、実施例1~4は、PVA系樹脂を水に23℃で1時間浸漬した際の残存率が50質量%以上であり、かつ40℃で7日間浸漬した際の残存率が10質量%以下であった。このことから、実施例1~4は水へ添加後の初期溶解性が低く、亀裂等の隙間に対する閉塞性に優れる一方で、後期溶解性にも優れることがわかった。よって、坑井の亀裂を閉塞した際に、十分な閉塞性と速やかな溶解性を備えることがわかった。
【0072】
〔試験例2〕
(円柱状PVA系樹脂粒子(PVA7)の作製)
上記実施例1において、仕込みの酢酸ビニルを100部、メタノールを32.5部、及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを4部とし、重合反応において酢酸ビニルの重合率が91%となった時点で重合を終了した以外は実施例1と同様の方法により側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子を得た。
得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子のケン化度は98.5モル%、平均重合度530、変性率2.0モル%であった。
【0073】
上記で得られた側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子を押出機に投入し、さらにステアリン酸マグネシウム500ppmと12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム500ppmを混合し下記の条件で溶融混練し、空冷させることにより凝固させた後、カッターを用いてカッティングした(ストランドカッティング方式)。その後、乾燥し、直径2.5mm、軸方向長さ3mmの円柱状の側鎖1,2-ジオール構造単位含有変性PVA系樹脂粒子(PVA7)を得た。
(溶融混練条件)
押出機:テクノベル社製 15mmφ L/D=60
回転数:200rpm
吐出量:1.2~1.5kg/h
押出温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=90/170/200/215/215/220/225/225/225℃
【0074】
<加圧脱水試験>
下記の表2に示した組成に従い、PVA1~6とPVA7を混合し、粒子混合物1~6を得た。
各粒子混合物を分散させた分散液の脱水量を、Fann Instrument社の加圧脱水装置「HPHT Filter Press 500CT」を用いて測定した。
グアーガムの0.48質量%水溶液に粒子混合物を加えて、前記粒子混合物の濃度が12質量%となる混合液を調製した。この混合液を23℃で60分間撹拌し分散させて分散液を得た。
次に、上記加圧脱水装置の排水部のスリットを2mm幅に設定し、1MPaの圧力を加えて加圧脱水した。
加圧開始(0分)から5分後までの0.5分毎の脱水量を測定し、時間の平方根xに対する積算脱水量yを求めた。横軸に前記時間の平方根xを、縦軸に前記積算脱水量yをとったグラフにプロットした散布図から、最小二乗法によって下記式(A)で表わされる回帰直線を算出した。式(A)において、aが80以下であるものは閉塞時間の持続性があると評価できる。結果を表2に示す。
y=ax+b ・・・(A)
(式(A)中、yは積算脱水量(g)、xは加圧開始から経過した時間(分)の平方根、a及びbは回帰直線の傾きと切片を表わし、0<x≦2である。)
【0075】
【表2】
【0076】
表2の結果より、実施例1~4のPVA系樹脂粒子を含有した粒子混合物1~4は、粒子混合物5~6に比べて式(A)の切片bが小さく、傾きaが大きいものであった。このことから、実施例1~4のPVA系樹脂粒子を含有した粒子混合物1~4は、加圧初期の閉塞性が高く、かつ閉塞状態を素早く解除できることが分かった。
【0077】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年2月13日出願の日本特許出願(特願2019-023949)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。