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  • 特許-光学フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/80 20190101AFI20240827BHJP
   B29B 17/02 20060101ALI20240827BHJP
   C08J 11/06 20060101ALI20240827BHJP
   B29C 48/76 20190101ALI20240827BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20240827BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240827BHJP
   B29B 9/04 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B29C48/80
B29B17/02
C08J11/06
B29C48/76
B29C48/40
B29C48/08
B29B9/04
B32B27/40
B32B27/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021028930
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130008
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐哉
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001262(JP,A)
【文献】特開平06-198652(JP,A)
【文献】特開2004-027072(JP,A)
【文献】国際公開第2006/104245(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/80
B29B 17/02
C08J 11/06
B29C 48/76
B29C 48/40
B29C 48/08
B29B 9/04
B32B 27/40
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体を含む第一層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える樹脂フィルムから、前記脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを製造する製造方法であって;
前記製造方法が、
前記樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する工程(I)、
前記樹脂フィルムを、ベントが形成された二軸押出機内で溶融混練して、溶融樹脂を得る工程(II)、
前記溶融樹脂を、前記二軸押出機から押し出して、再生樹脂を得る工程(III)、及び、
前記再生樹脂を製膜する工程(IV)、
をこの順に含み;
前記工程(II)が、
前記二軸押出機内に、水を供給する工程(II-1)、及び、
前記ベントを通して脱気して、前記二軸押出機から水を排出する工程(II-2)、
を含み;
前記二軸押出機内の、前記ベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度が、260℃以上である、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
光学フィルムの製造方法が、前記工程(I)の前に、前記樹脂フィルムを粉砕する工程(V)を含む、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に、前記樹脂フィルムを、界面活性剤水溶液で洗浄する工程(VI)を含む、請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に、前記樹脂フィルムを脱水して、前記樹脂フィルムに含まれる水分量を4000ppm以下に調整する工程(VII)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記二軸押出機に、当該二軸押出機内に前記樹脂フィルムを供給できるフィルム供給口が設けられ、
前記工程(II-1)が、前記フィルム供給口を通して前記二軸押出機に水を供給することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記二軸押出機の、前記フィルム供給口より下流の位置に、前記二軸押出機内に水を供給できる給水口が設けられ、
前記工程(II-1)が、前記給水口を通して前記二軸押出機に水を供給することを含む、請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記二軸押出機に供給される水の量が、前記二軸押出機内で溶融混練される前記樹脂フィルム100重量部に対して、0.2重量部以上、2.0重量部以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記工程(II-2)が、5kPa以下の減圧脱気によって前記二軸押出機から水を排出することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記二軸押出機に、前記ベントが複数設けられている、請求項1~8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記二軸押出機が、ポリマーフィルタを備え、
前記工程(III)が、前記ポリマーフィルタを通して前記二軸押出機から前記溶融樹脂が押し出されて、前記再生樹脂が得られることを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂製品の製造過程においては、樹脂の廃材が生じることがある。このような廃材から樹脂を再生し、再び樹脂製品の原料として用いる場合がある。このような樹脂の再生技術として、例えば、特許文献1~2の技術が知られている。
また、特許文献3の技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-198652号公報
【文献】特開2004-27072号公報
【文献】特許第5619239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂環式構造含有重合体は、優れた光学特性を有する。よって、脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、光学フィルムの材料として用いられることがある。以下、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を、「COP樹脂」と呼ぶことがある。COP樹脂は、一般に、他の樹脂との接着性が低い。そこで、COP樹脂で形成されたフィルムの表面には、接着性の向上のために、易接着層を形成することがある。この易接着層の材料としては、ポリウレタンを含むウレタン樹脂がしばしば用いられる。
【0005】
前記のフィルムの製造過程においては、通常、COP樹脂の層とウレタン樹脂の層とを備える樹脂フィルムが廃材として生じる。本発明者は、この廃材からCOP樹脂を再生して、光学フィルムの原料として用いるべく、検討を行った。通常、廃材に含まれるウレタン樹脂の量は、COP樹脂に比べて小さいので、本発明者は、廃材を溶融して脂環式構造含有重合体を含むCOP樹脂として再生樹脂を得て、この再生樹脂でフィルムを製造することを試みた。
【0006】
ところが、溶融によってCOP樹脂にポリウレタンが混入した結果、得られた再生樹脂が黄色又は茶色に呈色し、透明性が低下した。また、この再生樹脂に含まれるポリウレタンは、当該再生樹脂を用いたフィルム製造過程においてローラー及びダイス等の製造設備に容易に付着し、設備のメンテナンス負担を増大させる原因となりえた。前記の事情から、COP樹脂の層とウレタン樹脂の層とを備える樹脂フィルムからポリウレタンを除去し、ポリウレタンの含有量が小さいCOP樹脂を再生樹脂として得て、その再生樹脂によって光学フィルムを製造するリサイクル技術が求められる。
【0007】
そこで、本発明者は更に検討を進め、アルカリ性水溶液による洗浄によってウレタン樹脂の層を除去し、COP樹脂の層を選択的に再生することを試みた。この方法によれば、一部のポリウレタンを洗浄によって除去することは可能であった。しかし、エーテル系ポリウレタン又はカーボネート系ポリウレタンを含むウレタン樹脂の層は、前記の洗浄によっては十分に除去できなかったので、得られる光学フィルムの呈色の抑制が不十分であった。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、脂環式構造含有重合体を含む層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える樹脂フィルムから、脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを、呈色を抑制しながら製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄した後で、特定の条件で給水及び脱気を行いながら当該樹脂フィルムを二軸押出機で溶融押出することを含む方法により、ポリウレタンによる呈色を抑制しながら光学フィルムを製造できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0010】
〔1〕 脂環式構造含有重合体を含む第一層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える樹脂フィルムから、前記脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを製造する製造方法であって;
前記製造方法が、
前記樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する工程(I)、
前記樹脂フィルムを、ベントが形成された二軸押出機内で溶融混練して、溶融樹脂を得る工程(II)、
前記溶融樹脂を、前記二軸押出機から押し出して、再生樹脂を得る工程(III)、及び、
前記再生樹脂を製膜する工程(IV)、
をこの順に含み;
前記工程(II)が、
前記二軸押出機内に、水を供給する工程(II-1)、及び、
前記ベントを通して脱気して、前記二軸押出機から水を排出する工程(II-2)、
を含み;
前記二軸押出機内の、前記ベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度が、260℃以上である、光学フィルムの製造方法。
〔2〕 光学フィルムの製造方法が、前記工程(I)の前に、前記樹脂フィルムを粉砕する工程(V)を含む、〔1〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔3〕 前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に、前記樹脂フィルムを、界面活性剤水溶液で洗浄する工程(VI)を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔4〕 前記工程(I)の後、前記工程(II)の前に、前記樹脂フィルムを脱水して、前記樹脂フィルムに含まれる水分量を4000ppm以下に調整する工程(VII)を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔5〕 前記二軸押出機に、当該二軸押出機内に前記樹脂フィルムを供給できるフィルム供給口が設けられ、
前記工程(II-1)が、前記フィルム供給口を通して前記二軸押出機に水を供給することを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔6〕 前記二軸押出機の、前記フィルム供給口より下流の位置に、前記二軸押出機内に水を供給できる給水口が設けられ、
前記工程(II-1)が、前記給水口を通して前記二軸押出機に水を供給することを含む、〔5〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔7〕 前記二軸押出機に供給される水の量が、前記二軸押出機内で溶融混練される前記樹脂フィルム100重量部に対して、0.2重量部以上、2.0重量部以下である、〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔8〕 前記工程(II-2)が、5kPa以下の減圧脱気によって前記二軸押出機から水を排出することを含む、〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔9〕 前記二軸押出機に、前記ベントが複数設けられている、〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
〔10〕 前記二軸押出機が、ポリマーフィルタを備え、
前記工程(III)が、前記ポリマーフィルタを通して前記二軸押出機から前記溶融樹脂が押し出されて、前記再生樹脂が得られることを含む、〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、脂環式構造含有重合体を含む層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える樹脂フィルムから、脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを、呈色を抑制しながら製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法で用いうる一例としての二軸押出機を、その一部を破断して模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0014】
以下の説明において、「上流」及び「下流」とは、別に断らない限り、樹脂フィルム、溶融樹脂、又は光学フィルムの流れ方向の上流及び下流を表す。
【0015】
以下の説明において、「ppm」は、別に断らない限り、重量に基づく割合を表す。
【0016】
[1.概要]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、脂環式構造含有重合体を含む第一層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える樹脂フィルムから、脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを製造する。
【0017】
この光学フィルムの製造方法は、
樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する工程(I)、
樹脂フィルムを、ベントが形成された二軸押出機内で溶融混練して、溶融樹脂を得る工程(II)、
溶融樹脂を二軸押出機から押し出して、再生樹脂を得る工程(III)、及び、
再生樹脂を製膜する工程(IV)、
を、この順に含む。また、前記の工程(II)は、
二軸押出機内に、水を供給する工程(II-1)、及び、
ベントを通して脱気して、二軸押出機から水を排出する工程(II-2)、
を含む。さらに、工程(II)において、二軸押出機内の、ベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度が、特定の範囲にある。
【0018】
前記の製造方法によれば、脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを、呈色を抑制しながら製造できる。このような効果が得られる仕組みを、本発明者は下記の通りと推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みに制限されない。
【0019】
前記の製造方法では、工程(I)において樹脂フィルムの第二層の一部が除去され、また、第二層の表面が粗化される。その後、工程(II)において樹脂フィルムが溶融混練されて、溶融樹脂が得られる。工程(II)が、二軸押出機内に水を供給する工程(II-1)を含むので、溶融樹脂に含まれるポリウレタンは、水に接触する。通常、溶融混練の際に二軸押出機内は加熱されるので、その二軸押出機内に供給された水は速やかに加熱され、高温の水又は水蒸気となる。これら高温の水及び水蒸気は、ポリウレタンを加熱分解する能力に優れるので、ポリウレタンの加水分解が円滑に進行できる。また、工程(II)が、二軸押出機を脱気する工程(II-2)を含むので、加水分解に用いられた水(水蒸気を含む。)、及び、ポリウレタンの加水分解によって生じた加水分解物は、溶融樹脂から除去される。したがって、二軸押出機から押し出される溶融樹脂としての再生樹脂は、ポリウレタンの量を少なくでき、好ましくはポリウレタンを含まないことができる。よって、この再生樹脂を成膜することにより、ポリウレタンの含有量が小さいかポリウレタンを含まない光学フィルムを得ることができる。そして、こうして得られた光学フィルムは、ポリウレタンの含有量が少ないので、ポリウレタンによる呈色を抑制することができる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、前記の工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、光学フィルムの製造方法は、任意の工程として、
工程(I)の前に、樹脂フィルムを粉砕する工程(V);
工程(I)の前に、樹脂フィルムの第二層を研磨する工程(VIII);
工程(I)の後、工程(II)の前に、樹脂フィルムを、界面活性剤水溶液で洗浄する工程(VI);
工程(I)の後、工程(II)の前に、樹脂フィルムを脱水する工程(VII);
を含んでいてもよい。
【0021】
[2.樹脂フィルム]
樹脂フィルムは、脂環式構造含有重合体を含む第一層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える。樹脂フィルムは、第一層及び第二層に組み合わせて更に任意の層を備えていてもよいが、通常は、第一層及び第二層のみを備える複層フィルムである。
【0022】
(2.1.第一層)
第一層は、通常、脂環式構造含有重合体を含む樹脂で形成されている。第一層を形成する樹脂は、前記の通り脂環式構造含有重合体を含むので、COP樹脂である。通常、脂環式構造含有重合体が熱可塑性を有するので、当該脂環式構造含有重合体を含むCOP樹脂は、熱可塑性樹脂でありうる。第一層は、好ましくは、COP樹脂のみで形成されている。
【0023】
脂環式構造含有重合体は、その重合体の構造単位が脂環式構造を含有する。脂環式構造含有重合体は、主鎖に脂環式構造を有していてもよく、側鎖に脂環式構造を有していてもよい。中でも、機械的強度及び耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0024】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度及び耐熱性の観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0025】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。脂環式構造を構成する炭素原子数が前記の範囲にある場合、当該脂環式構造含有重合体を含むCOP樹脂の機械強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0026】
脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にある場合、COP樹脂の透明性及び耐熱性が良好となる。
【0027】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及び、これらの水素添加物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体は、透明性と成形性が良好なため、好適である。
【0028】
ノルボルネン系重合体及びその水素化物の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの重合体としては、例えば、特開2002-321302号公報等に開示されている重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性の観点から、特に好適である。
【0029】
ノルボルネン系重合体及びこれらの水素化物の具体例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア」;JSR社製「アートン」;TOPAS ADVANCED POLYMERS社製「TOPAS」が挙げられる。
【0030】
脂環式構造含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に制限は無いが、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にある場合、COP樹脂の機械的強度および成型加工性が高度にバランスされる。
【0031】
脂環式構造含有重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上である場合、脂環式構造含有重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下である場合、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、光学フィルムの安定性を高めることができる。
【0032】
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、溶媒としてシクロヘキサンを用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)により、ポリイソプレン換算の値で測定しうる。重合体がシクロヘキサンに溶解しない場合には、溶媒としてトルエンを用いたGPCにより、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0033】
第一層を形成するCOP樹脂に含まれる脂環式構造含有重合体の量は、COP樹脂100重量%に対して、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、更に好ましくは80重量%~100重量%、更に好ましくは90重量%~100重量%、特に好ましくは95重量%~100重量%である。脂環式構造含有重合体の量が前記範囲にある場合、脂環式構造含有重合体が有する特性を効果的に発揮できる。
【0034】
第一層を形成するCOP樹脂は、脂環式構造含有重合体以外にも、任意の成分を含みうる。任意の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等の添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0035】
第一層を形成するCOP樹脂のガラス転移温度Tgは、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、特に好ましくは110℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下、特に好ましくは180℃以下である。ガラス転移温度Tgが前記範囲の下限値以上である場合、高温環境下における光学フィルムの耐久性を高めることができる。また、ガラス転移温度Tgが前記範囲の上限値以下である場合、光学フィルムの延伸処理を円滑に行える。
【0036】
ガラス転移温度Tgは、窒素雰囲気下で300℃に加熱した樹脂を液体窒素で急冷し、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して測定できる。
【0037】
第一層には、延伸処理が施されていてもよく、延伸処理が施されていなくてもよい。
【0038】
第一層の厚みは、特に制限は無いが、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下である。
【0039】
第一層は、例えば、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などのフィルム製造方法により、フィルムとして製造できる。
【0040】
(2.2.第二層)
第二層は、通常、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含むウレタン樹脂で形成されている。通常、ポリウレタンが熱可塑性を有するので、当該ポリウレタンを含むウレタン樹脂は、熱可塑性樹脂でありうる。第二層は、好ましくは、ウレタン樹脂のみで形成されている。
【0041】
エーテル系ポリウレタンは、当該ポリウレタンの分子骨格にエーテル結合を有するポリウレタンである。ポリウレタンは、例えば、1分子中に平均2個以上の水酸基を含有するポリオール化合物と、1分子中に平均2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とを反応させることを含む製造方法により、製造できる。また、ポリウレタンは、例えば、ポリオール化合物とポリイソシアネート成分とをウレタン化反応させて得たイソシアネート基含有プレポリマーを、水、水溶性ポリアミン、及びグリコール類等の鎖延長剤を用いて鎖延長することを含む製造方法により、製造できる。エーテル系ポリウレタンは、通常1以上、好ましくは複数のエーテル結合を含むポリエーテルポリオール化合物を含むポリオール化合物を用いた前記のポリウレタンの製造方法により、製造されうる。
【0042】
ポリエーテルポリオール化合物の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサングリコール、2,5-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチルプロパンジオール、1,4-ブタンジオール等のポリオール化合物のアルキレンオキシド付加物;アルキレンオキシドと環状エーテル(例えばテトラヒドロフランなど)との開環重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコールの共重合体;グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコールなどのグリコール化合物;などが挙げられる。ポリエーテルポリオール化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、エーテル系ポリオールの製造のために用いられるポリオール化合物は、ポリエーテルポリオール化合物に組み合わせて、ポリエーテルポリオール化合物以外の任意のポリオール化合物を含んでいてもよい。
【0043】
ポリイソシアネート成分の例としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を含有する脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、及び、芳香族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート化合物は、例えば、炭素原子数1~12の脂肪族ジイソシアネートでありうる。脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びヘキサンジイソシアネート(HDI)が挙げられる。
脂環式ポリイソシアネート化合物は、例えば、炭素原子数4~18の脂環式ジイソシアネートでありうる。脂環式ジイソシアネートの具体例としては、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、及びジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)が挙げられる。
芳香族ポリイソシアネート化合物は、例えば、芳香族ジイソシアネートでありうる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、及びキシリレンジイソシアネートが挙げられる。
ポリイソシアネート化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
カーボネート系ポリウレタンは、当該ポリウレタンの分子骨格にカーボネート構造を有するポリウレタンである。カーボネート系ポリウレタンは、通常1以上、好ましくは複数のカーボネート構造を含むポリカーボネートポリオール化合物を含むポリオール化合物を用いた前記のポリウレタンの製造方法により、製造されうる。
【0045】
ポリカーボネートポリオールの例としては、式HO-R-(O-C(O)-O-R)-OH(ただし、式中、Rは炭素原子数1~12の飽和脂肪酸ポリオール残基を示す。また、Xは分子の構造単位の数を示し、通常5~50の整数である。)で表される化合物が挙げられる。ポリカーボネートポリオール化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、カーボネート系ポリオールの製造のために用いられるポリオール化合物は、ポリカーボネートポリオール化合物に組み合わせて、ポリカーボネートポリオール化合物以外の任意のポリオール化合物を含んでいてもよい。
【0046】
エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンといったポリウレタンは、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応後に反応せず残った水酸基を含むものであってもよい。さらに、ポリウレタンは、その分子構造に、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SOH)等の酸構造を含んでいてもよい。さらに、それらの酸構造の一部又は全部は、アミン等の塩基によって中和されていてもよい。
【0047】
ポリウレタンの数平均分子量は、特に制限は無いが、好ましくは1,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは200,000以下である。
【0048】
第二層を形成するウレタン樹脂に含まれるポリウレタンの量は、特に制限されないが、ウレタン樹脂100重量%に対して、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは60重量%~100重量%、更に好ましくは70重量%~100重量%、更に好ましくは75重量%~100重量%である。
【0049】
第二層を形成するウレタン樹脂は、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンといったポリウレタン以外にも、任意の成分を含みうる。任意の成分の例を挙げると、無機粒子、有機粒子等の粒子;エポキシ化合物、アミノ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等の架橋剤;耐熱安定剤;耐候安定剤;レベリング剤;帯電防止剤;スリップ剤;アンチブロッキング剤;防曇剤;滑剤染料、顔料等の着色剤;天然油;合成油;ワックス;等の添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
第二層の厚みは、特に制限は無いが、第一層の厚み100%に対して、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.015%以上、特に好ましくは0.02%以上であり、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下である。
【0051】
第二層の厚みは、特に制限は無いが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、特に好ましくは30nm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、特に好ましくは200nm以下である。
【0052】
第二層は、例えば、ポリウレタンを含む塗工液を第一層に塗工し、必要に応じて乾燥、加熱、光照射等の硬化処理を行って、形成できる。
【0053】
上述したエーテル系ポリウレタンが有するエーテル結合、及び、カーボネート系ポリウレタンが有するカーボネート構造は、エステル系ポリウレタン等の他のポリウレタンに含まれるエステル結合に比べて加水分解しにくい。よって、エーテル系ポリウレタン又はカーボネート系ポリウレタンを含む第二層を備える樹脂フィルムは、従来、それらのポリウレタンを除去して再生樹脂を得ることが難しかった。これに対し、本実施形態に係る光学フィルムの製造方法では、エーテル系ポリウレタン又はカーボネート系ポリウレタンを円滑に加水分解して除去できるので、ポリウレタンによる呈色が抑制された光学フィルムを製造することができる。
【0054】
(2.3.樹脂フィルムの寸法及び形状)
樹脂フィルムの寸法及び形状に制限は無い。通常、樹脂フィルムは、第一層及び第二層を備える製品フィルムの製造過程に生じた廃材として用意される。また、製品フィルムは、一般に、長尺のフィルムとして製造される。したがって、樹脂フィルムも、長尺のフィルムであってもよい。例えば、樹脂フィルムの長さは、好ましくは1000m以上、より好ましくは1500m以上、特に好ましくは2000m以上でありえ、また、好ましくは10000m以下、より好ましくは8000m以下、特に好ましくは6000m以下でありえる。
【0055】
樹脂フィルムの幅は、制限されない。例えば、樹脂フィルムの幅は、好ましくは1000mm以上、より好ましくは1300mm以上、特に好ましくは1330mm以上でありえ、また、好ましくは1500mm以下、より好ましくは1490mm以下でありえる。
【0056】
[3.樹脂フィルムを粉砕する工程(V)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、工程(I)の前に、樹脂フィルムを粉砕する工程(V)を含んでいてもよい。樹脂フィルムを粉砕することにより、当該樹脂フィルムの洗浄、脱水、溶融混練などの処理を円滑に行うことができる。よって、呈色を抑制された光学フィルムの製造を円滑に行うことができる。
【0057】
樹脂フィルムの粉砕方法は、特に制限は無い。例えば、樹脂フィルムを、適切な粉砕機で粉砕してもよい。一般に、粉砕によれば、第一層及び第二層を備えるフィルム片としての樹脂フィルムが得られる。この樹脂フィルムとしてのフィルム片を、適宜「フラフ」と呼ぶことがある。フラフの寸法は、特段の制限は無いが、好ましくは1mm角以上、より好ましくは3mm角以上であり、好ましくは10cm角以下、より好ましくは3cm角以下でありうる。
【0058】
[4.樹脂フィルムの第二層を研磨する工程(VIII)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、工程(I)の前に、樹脂フィルムの第二層を研磨する工程(VIII)を含んでいてもよい。光学フィルムの製造方法が樹脂フィルムを粉砕する工程(V)を含む場合、光学フィルムの製造方法は、第二層を研磨する工程(VIII)を、工程(V)の前に含んでいてもよく、工程(V)の後に含んでいてもよい。研磨を効率良く行う観点では、工程(V)の前に研磨を行うことが好ましい。第二層の研磨を行うことにより、第二層の一部を除去することが可能である。また、研磨によれば、第二層の表層に微細な凹凸を形成できるので、工程(I)におけるアルカリ性水溶液の第二層への浸入を促進して、洗浄の効果を上げることができる。よって、光学フィルムに含まれるポリウレタンの量を効果的に低減できるので、ポリウレタンによる光学フィルムの呈色を効果的に抑制できる。
【0059】
研磨は、適切な研磨材と第二層とを擦りあわせることによって行いうる。例えば、長尺の樹脂フィルムに粉砕前に研磨を行う場合、当該樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら第二層を研磨材と擦りあわせることにより、第二層を効率良く研磨することができる。具体的な研磨は、例えば、特開2020-001262号公報に記載の方法によって行いうる。
【0060】
研磨は、第二層の一部が除去される程度行うことが好ましい。すなわち、研磨は、第二層の一部が樹脂フィルムに残る程度に行うことが好ましい。この場合、研磨によって第一層が除去されることを抑制できる。よって、再生される脂環式構造含有重合体の量を増やすことができ、脂環式構造含有重合体のリサイクル率を高めることができる。
【0061】
[5.樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する工程(I)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する工程(I)を含む。アルカリ性水溶液による洗浄によって、ポリウレタンの一部が加水分解されるので、第二層の一部が樹脂フィルムから除去されうる。ただし、一般に、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンといった加水分解され難いポリウレタンの全てをアルカリ性水溶液によって加水分解することは難しいので、第二層の一部は樹脂フィルムに残留する。また、通常は、アルカリ性水溶液による洗浄により、第二層の表面が荒らされる。よって、後述する工程(II)における水及び水蒸気の第二層への進入が促進されるので、工程(II)におけるポリウレタンの除去を効率的に行うことが可能である。
【0062】
アルカリ性水溶液は、通常、溶質としてのアルカリ及び溶媒としての水を含む。アルカリとしては、苛性アルカリが好ましい。苛性アルカリとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物及び炭酸塩が挙げられる。その具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
アルカリ性水溶液のpHは、ポリウレタンの除去が可能な範囲に設定されうる。具体的なpHは、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは12以上であり、好ましくは14以下である。
【0064】
洗浄時のアルカリ性水溶液の液温は、ポリウレタンの除去を効果的に行う観点から、高いことが好ましい。具体的な液温は、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは60℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。
【0065】
洗浄は、例えば、樹脂フィルムとアルカリ性水溶液とを接触させることを含む方法によって行いうる。例えば、樹脂フィルムとアルカリ性水溶液とを適切な洗浄容器に入れ、撹拌することを含む方法によって、洗浄を行ってもよい。この方法では、通常、洗浄後にアルカリ性水溶液は除去され、得られた洗浄済みの樹脂フィルムが次の工程に供される。
【0066】
[6.樹脂フィルムを界面活性剤水溶液で洗浄する工程(VI)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、アルカリ性水溶液で樹脂フィルムを洗浄する工程(I)の後、樹脂フィルムを溶融混練する工程(II)の前に、樹脂フィルムを界面活性剤水溶液で洗浄する工程(VI)を含んでいてもよい。界面活性剤水溶液による洗浄によって、樹脂フィルムに付着した異物を除去できる。また、界面活性剤を含む水溶液によって洗浄することにより、その水溶液での異物の分散性を向上させることができるので、異物の樹脂フィルムへの再付着を抑制することができる。異物としては、例えば、第二層に含まれていた粒子及び色素、並びに、粉砕又は研磨時に生じた塵等が挙げられる。
【0067】
界面活性剤水溶液は、通常、溶質としての界面活性剤及び溶媒としての水を含む。界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、アニオン界面活性剤及びカチオン性界面活性剤が挙げられ、中でもノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン;ポリエチレングリコールエーテル系界面活性剤などが挙げられる。ポリエチレングリコールエーテル系界面活性剤としては、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、及び、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテルが好ましい。また、アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
界面活性剤水溶液の濃度(界面活性剤濃度)は、異物の除去が可能な範囲に設定されうる。具体的な濃度は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは10.0重量%以下、より好ましくは8.0重量%以下、特に好ましくは5.0重量%以下である。
【0069】
洗浄時の界面活性剤水溶液の液温は、常温でもよく、加熱した温度であってもよい。具体的な液温は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、特に好ましくは30℃以上であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、特に好ましくは80℃以下である。
【0070】
洗浄は、例えば、樹脂フィルムと界面活性剤水溶液とを接触させることを含む方法によって行いうる。例えば、樹脂フィルムと界面活性剤水溶液とを適切な洗浄容器に入れ、撹拌することを含む方法によって、洗浄を行ってもよい。この方法では、通常、洗浄後に界面活性剤水溶液は除去され、得られた洗浄済みの樹脂フィルムが次の工程に供される。
【0071】
[7.樹脂フィルムを脱水する工程(VII)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、アルカリ性水溶液で樹脂フィルムを洗浄する工程(I)の後、樹脂フィルムを溶融混練する工程(II)の前に、樹脂フィルムを脱水する工程(VII)を含んでいてもよい。この脱水は、水の乾燥を含みうる。光学フィルムの製造方法が樹脂フィルムを界面活性剤水溶液で洗浄する工程(VI)を含む場合、光学フィルムの製造方法は、樹脂フィルムを脱水する工程(VII)を、工程(VI)の後に含むことが好ましい。工程(II)の前に脱水によって樹脂フィルムが含む水分量を調整することにより、工程(II)における樹脂フィルムの混練を円滑に行うことができる。また、混練室130内の樹脂フィルムがバックフローによって逆流することを抑制できる。さらに、工程(III)において押し出される溶融樹脂中の水分と樹脂との接触比率を管理できるので、着色等の品質の変動を抑えることができる。
【0072】
脱水方法は、特段の制限は無い。脱水方法としては、例えば、圧縮脱水法;加熱乾燥、減圧乾燥、風乾等の乾燥法;などが挙げられる。これらの脱水方法は、組み合わせて実施してもよい。
【0073】
前記の脱水は、樹脂フィルムに含まれる水分量が特定の範囲に収まるように行うことが好ましい。脱水後の樹脂フィルムに含まれる水分量は、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、特に好ましくは2500ppm以下である。下限は、理想的には0ppmであるが、脱水に要する時間及びコストを抑制する観点では、好ましくは1000ppm以上、より好ましくは1500ppm以上である。樹脂フィルムに含まれる水分量は、実施例に記載の方法によって測定しうる。
【0074】
[8.樹脂フィルムを二軸押出機内で溶融混練する工程(II)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する工程(I)の後に、樹脂フィルムを溶融混練する工程(II)を含む。この工程(II)では、樹脂フィルムを二軸押出機に供給し、この二軸押出機内で溶融混練を行って、溶融樹脂を得る。
【0075】
図1は、本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法で用いうる一例としての二軸押出機を、その一部を破断して模式的に示す側面図である。ただし、図1では、2本のスクリューのうち一本のみを図示し、残りのスクリューの図示を省略する。図1に示すように、工程(II)で用いる二軸押出機100は、シリンダ110と、このシリンダ110内に収納された2本のスクリュー120とを備える。
【0076】
シリンダ110は、当該シリンダ110内で樹脂フィルムを溶融混練するための容器である。このシリンダ110には、混練室130、フィルム供給口140、吐出口150、及び、ベント160が形成されている。また、シリンダ110には、更に給水口170が形成されていることが好ましい。
【0077】
混練室130は、当該混練室130内で樹脂フィルムの溶融混練を行えるようにシリンダ110内に形成された中空部である。混練室130は、通常、スクリュー120の軸方向に延びるように形成されていて、この混練室130内にスクリュー120が収納されている。以下の説明において、別に断らない限り、「軸方向」は、スクリュー120の軸方向をいう。
【0078】
フィルム供給口140は、二軸押出機100内の混練室130に樹脂フィルムを供給できるように混練室130に連通して形成された孔である。通常、フィルム供給口140は、シリンダ110の壁部111に、この壁部111を貫通するように形成される。フィルム供給口140は、一般に、シリンダ110の上流側の端部112の近傍に形成される。よって、フィルム供給口140は、一般に、シリンダ110の吐出口150から遠い側の端部112の近傍に設けられる。また、フィルム供給口140には、当該フィルム供給口140を通じて混練室130内に水を供給できるように、図示しない給水装置が接続されていることが好ましい。
【0079】
吐出口150は、混練室130内で樹脂フィルムを溶融混練して得られた溶融樹脂を、シリンダ110の外へ吐出できるように形成された孔である。通常、吐出口150は、シリンダ110の一方の軸方向の端部113に形成される。吐出口150には、図示しないポリマーフィルタが設けられていることが好ましい。ポリマーフィルタの目開きは、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、特に好ましくは1μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下である。
【0080】
ベント160は、混練室130内のガスを排出して二軸押出機100の脱気ができるように混練室130に連通して形成された孔である。通常、ベント160は、シリンダ110の壁部111に、この壁部111を貫通するように形成される。ベント160を通じた混練室130からのガスの排出を負圧を利用して効率的に行うため、ベント160には、真空ポンプ等の負圧形成装置を備えた脱気装置が接続されていることが好ましい。例えば、図示しない真空ポンプ及びタンクを備えた脱気装置がベント160に接続され、真空ポンプが発生させた負圧によって混練室130内のガスがベント1600を通って引き抜かれ、そのガスがタンク内に回収されてもよい。
【0081】
ベント160は、軸方向におけるシリンダ110の下流半分の区画に設けられることが好ましい。よって、シリンダ110を軸方向に4等分して上流から区画110A、110B、110C及び110Dを設定した場合、ベント160は、上流から3番目の区画110C又は4番目の区画110Dに設けられていることが好ましい。前記の区画110A、110B、110C及び110Dは、ベント160の位置を説明するために仮想的に設定されたものであり、それらの区画同士は隔壁によって物理的に隔てられていなくてもよい。また、ベント160の位置とは、別に断らない限り、ベント160が混練室130内に開口する位置を表す。軸方向におけるシリンダ110の下流半分の区画110C及び110Dでは、混練室130内に充填された樹脂フィルム及びその溶融樹脂は、高い温度を有することができる。よって、これらの区画110C及び110Dにベント160が設けられている場合、混練室130に供給された水は、ベント160から排出される前に高温の水又は水蒸気となってポリウレタンと接触できるので、ポリウレタンの加水分解を効果的に行うことができる。また、特にフィルム供給口140から水が供給される場合、その水がベント160を通して排出されるまでに充分な時間をかけることができる。よって、ポリウレタンと水とが接触する十分な時間を得ることができるので、ポリウレタンの加水分解を特に効果的に行うことができる。
【0082】
さらに、ベント160は、シリンダ110の吐出口150からある程度離れた位置に設けられることが好ましい。よって、ベント160は、上流から4番目の区画110D以外の区画に設けられていることが好ましい。吐出口150から離れた位置にベント160が設けられている場合、ガスの一部が吐出口150を通じて排出されることを抑制できる。したがって、ベント160の位置は、上流から3番目の区画110Cにあることが特に好ましい。
【0083】
ベント160は、1つのみ形成してもよく、複数形成してもよい。ベント160を複数形成した場合、混練室130内のガスを効率良く排出できるので、二軸押出機100の効率的な脱気が可能である。
【0084】
ベント160には、ベント160を通じて樹脂フィルム及び溶融樹脂が送出されることを抑制するために、適切な弁装置等の樹脂送出抑制装置が設けられていてもよい。また、ベント160がシリンダ110の重力方向上部に設けられている場合には、ベント160が混練室130に開口する開口部を覆う板材によっても、通常は、ベント160を通じた樹脂フィルム及び溶融樹脂の送出を抑制することは可能である。
【0085】
給水口170は、二軸押出機100内の混練室130に水を供給できるように混練室130に連通して形成された孔である。通常、給水口170は、シリンダ110の壁部111に、この壁部111を貫通するように形成される。給水口170を通じて混練室130内に水を供給できるように、給水口170には、図示しない給水装置が接続されていることが好ましい。例えば、図示しない給水タンク及び給水ポンプを備えた給水装置が給水口170に接続され、給水タンク内の水が給水ポンプによって給水口170を通って混練室130内に供給されてもよい。
【0086】
給水口170は、軸方向において、フィルム供給口140より下流の位置に形成される。この給水口170は、ベント160の近傍に設けられることが望ましい。よって、給水口170は、軸方向におけるシリンダ110の下流半分の区画110C又は110Dに設けられていることが好ましく、上流から3番目の区画110Cに設けられていることが特に好ましい。給水口170の位置が前記の区画にある場合、給水口170を通って混練室130内に供給された水が、ポリウレタンの加水分解後、速やかにベント160を通って排出されることができる。よって、吐出口150を通じて吐出される溶融樹脂への水の残留を抑制できる。また、給水口170から供給される水による混練室130内の過剰な圧力上昇を抑制できるので、吐出口150を通じた溶融樹脂の吐出量を安定させることができる。ここで給水口170の位置とは、別に断らない限り、給水口170が混練室130内に開口する位置を表す。
【0087】
給水口170は、1つのみ形成してもよく、複数形成してもよい。給水口170を複数形成した場合、ポリウレタンの加水分解を混練室130内の広い範囲で行うことができるので、ポリウレタンの効率的な除去が可能である。
【0088】
給水口170には、給水口170を通じて樹脂フィルム、溶融樹脂及び水が送出されることを抑制するために、適切な弁装置等の逆流抑制装置が設けられていてもよい。
【0089】
2本のスクリュー120は、それぞれ、相対的に凹んだ溝部121及び相対的に突出したフライト部122を有しており、軸方向に延在して設けられている。これらのスクリュー120は、シリンダ110の他方の軸方向の端部(吐出口150とは反対側の端部)112に形成された軸受け(図示せず)によって、回転可能に支持されている。また、スクリュー120には、スクリュー120を周方向に回転させる動力を供給するための駆動装置(図示せず)が接続されている。複数のスクリュー120の組み合わせは、完全噛み合い型、不完全噛み合い型、非噛み合い型のいずれであってもよい。中でも、混練性が良好であるので、完全噛み合い型が好ましい。また、複数のスクリュー120の回転方向は、同方向でもよく、異方向でもよい。2本のスクリュー120を用いた混練により、ポリウレタンの加水分解を効果的に行うことができ、また、水及びポリウレタンの加水分解物のベント160を通した排出を効果的に行うことができる。よって、溶融樹脂からのポリウレタンの除去を効果的に行うことが可能である。
【0090】
シリンダ110の外周には、シリンダ110の所望の位置を所望の温度に調整できるように、温度調整装置としてのヒーター(図示せず)が設けられている。シリンダ110の混練室130内の樹脂フィルム及び溶融樹脂は、通常、ヒーターから与えられる熱、並びに、スクリュー120による混練によって与えられる圧力及び摩擦によって、加熱されうる。よって、混練室130内の温度は、ヒーターの出力、スクリュー120の回転速度、などの条件によって調整できる。
【0091】
本実施形態において、二軸押出機100内の温度は、ベント160が設けられた部分における溶融樹脂の温度が特定の温度範囲になるように設定される。ベント160が設けられ部分とは、二軸押出機100内の部分であって、ベント160が開口している部分を表す。したがって、混練室130内でベント160が開口する部分における溶融樹脂の温度が、前記のベント160が設けられ部分における溶融樹脂の温度を表す。この溶融樹脂の温度は、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンの効果的な加水分解の観点から、通常260℃以上、好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上、特に好ましくは320℃以上である。また、このような温度においては、ポリウレタンの加水分解物が速やかに気化できるので、通常は、脱気による当該加水分解物の除去を効果的に行うことができる。温度の上限は、熱による脂環式構造含有重合体の物性変化を抑制する観点から、好ましくは380℃以下、より好ましくは360℃以下、特に好ましくは340℃以下である。
【0092】
通常、二軸押出機100内のベント160が設けられた部分における溶融樹脂の温度と、ベント160を通して排出されるガスの温度とは、同じである。よって、二軸押出機100内のベント160が設けられた部分における溶融樹脂の温度は、ベント160から排出される水蒸気及びポリウレタンの加水分解物等のガスの温度として、測定できる。
【0093】
ベント160が設けられた部分よりも下流の部分での二軸押出機100内の溶融樹脂の温度は、当該溶融樹脂が溶融状態を維持できる範囲で設定される。通常、シリンダ110内では、溶融樹脂は、シリンダ110内において次第に加熱される。よって、シリンダ110内を移動する溶融樹脂の温度は、一般に、下流ほど高温である。したがって、ベント160が設けられた部分よりも下流の部分における溶融樹脂の温度は、前記のベント160が設けられた部分における溶融樹脂の温度以上でありうる。そして、混練室130の下流端部にある吐出口150から吐出される時点において、溶融樹脂の温度は最高となりうる。
【0094】
吐出口150から吐出される時点における溶融樹脂の温度は、好ましくはTg+100℃以上、より好ましくはTg+120℃以上、特に好ましくはTg+140℃以上であり、好ましくはTg+300℃以下、より好ましくはTg+250℃以下、特に好ましくはTg+210℃以下である。例えば、吐出口150から吐出される時点における溶融樹脂の温度は、300℃以上であってもよい。ここでTgは、樹脂フィルムの第一層に含まれていたCOP樹脂のガラス転移温度を表す。吐出口150から吐出される時点における溶融樹脂の温度が前記の範囲にある場合、熱による樹脂の劣化を抑制しながら溶融樹脂を吐出口150を通して円滑に押し出して、再生樹脂を安定した得ることができる。
【0095】
ベント160が設けられた部分よりも上流の部分での二軸押出機100内の樹脂フィルム及び溶融樹脂の温度は、樹脂フィルムの混練を妨げない範囲で設定しうる。具体的な温度は、ベント160が設けられた部分まで到達した溶融樹脂が上述した範囲の温度を有することができるように調整することが好ましい。
【0096】
フィルム供給口140が設けられた部分での樹脂フィルムの温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。フィルム供給口140が設けられた部分とは、二軸押出機100内の部分であって、フィルム供給口140が開口している部分を表す。したがって、混練室130内でフィルム供給口140が開口する部分における樹脂フィルムの温度が、前記のフィルム供給口140が設けられた部分における樹脂フィルムの温度を表す。この温度が前記の範囲にある場合、樹脂フィルムの供給と同時に当該樹脂フィルムへの給水ができる。
【0097】
上述した二軸押出機100を用いた工程(II)では、スクリュー120を回転させ、シリンダ110の温度を上述したように調整した状態で、フィルム供給口140を通して混練室130内に樹脂フィルムを供給する。供給された樹脂フィルムは、回転するスクリュー120によって混練室130内を移動させられながら混練される。また、樹脂フィルムは、混練室130内で加熱されて溶融する。したがって、樹脂フィルムの溶融混練が行われて、溶融樹脂が得られる。
【0098】
本実施形態に係る工程(II)は、二軸押出機100内に、水を供給する工程(II-1)を含む。この工程(II-1)では、具体的には、樹脂フィルムの溶融混練を行いながら、混練室130内に水を供給する。供給された水は、混練室130内で加熱されて、高温の水又は水蒸気となる。この高温の水及び水蒸気は、ポリウレタンを加水分解する能力に優れる。よって、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンといった第二層に含まれていたポリウレタンを加水分解することができる。加水分解によって、ポリオール化合物及びイソシアネート化合物等の加水分解物が生じうるが、混練室130内は高温であるので、これらの加水分解物はガスとして得られる。
【0099】
水は、フィルム供給口140及び給水口170のいずれを通して供給してもよい。よって、工程(II-1)は、フィルム供給口140を通して二軸押出機100に水を供給することを含んでいてもよく、給水口170を通して二軸押出機100に水を供給することを含んでいてもよい。フィルム供給口140を通して供給された水は、通常、混練室130に進入した直後には液体であるが、スクリュー120によって下流に送られて高温になると、気体の水蒸気となりうる。この水蒸気の一部が上流に戻りうるので、フィルム供給口140に近い混練室130の上流部分(例えば、区画110A及び区画110B)を含む広い範囲で、ポリウレタンの加水分解は進行しうる。他方、給水口170を通して供給された水は、通常、速やかに加熱されて水蒸気となることができるので、ポリウレタンの加水分解を急速に進行させることができる。よって、フィルム供給口140及び給水口170のいずれを通して供給された水によっても、ポリウレタンの加水分解を効果的に進行させることができる。
【0100】
フィルム供給口140及び給水口170の両方から水を供給することが好ましい。一般に、ポリウレタンの加水分解は、ポリウレタンに対する水の接触及び除去を繰り返す回数が多いほど、大きく進行する。フィルム供給口140及び給水口170という異なる位置から水を供給した場合、ポリウレタンに対する水の接触及び除去を複数回繰り返すことと同じ作用を期待することができる。よって、ポリウレタンの効率的な除去を行うことができる。同じく、ポリウレタンの効率的な除去の観点では、複数の異なる給水口170から給水を行うことが好ましい。
【0101】
二軸押出機100に供給される水の量は、二軸押出機100内で溶融混練される樹脂フィルム100重量部に対して、特定の範囲にあることが好ましい。この特定の範囲は、好ましくは0.2重量部以上、より好ましくは0.6重量部以上であり、好ましくは2.0重量部以下、より好ましくは1.6重量部以下である。水の量がこの特定の範囲にある場合、ポリウレタンの加水分解とベント160を通した水蒸気及びポリウレタンの加水分解物の除去とを効果的に行えるので、溶融樹脂からのポリウレタンの効率的な除去を行うことができる。
【0102】
二軸押出機100への樹脂フィルムの供給及び溶融混練を連続的に行う場合、二軸押出機100への水の供給は連続的に行うことが好ましい。この場合、二軸押出機100に単位時間当たりに供給される水の量が、二軸押出機100に単位時間当たりに供給される樹脂フィルム100重量部に対して、前記特定の範囲にあることが好ましい。
【0103】
フィルム供給口140及び給水口170の両方から水を供給する場合、フィルム供給口140を通して供給される水の量と、給水口170を通して供給される水の量との比率は、特に制限は無い。通常は、フィルム供給口140を通して供給される水が多いほど、ポリウレタンの加水分解を長時間にわたって行うことができるので、ポリウレタンの除去を促進することができる。他方、給水口170を通して供給される水が多いほど、フィルム供給口140からの水の逆流を安定して抑制できる。これらのバランスの観点から、フィルム供給口140を通して供給される水の量と、給水口170を通して供給される水の量との比率(フィルム供給口/給水口)は、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、特に好ましくは30/70以上であり、好ましくは70/30以下、より好ましくは60/40以下、特に好ましくは50/50以下である。
【0104】
本実施形態に係る工程(II)は、さらに、ベント160を通して二軸押出機100内を脱気して、二軸押出機100から水を排出する工程(II-2)を含む。この工程(II-2)では、具体的には、樹脂フィルムの溶融混練を行いながら、ベント160を通して混練室130のガスを排出する。排出されるガスには、ポリウレタンの加水分解に用いられた水としての水蒸気が含まれるので、前記の脱気によって、二軸押出機100の混練室130からの水の排出が達成される。また、排出されるガスには、ポリウレタンの加水分解物としてのガスが含まれうる。よって、前記の脱気により、樹脂フィルムから得られる溶融樹脂に含まれていたポリウレタンを除去することができる。したがって、工程(II-1)と工程(II-2)との組み合わせにより、ポリウレタンを除去された溶融樹脂が混練室130内に得られる。
【0105】
前記の脱気は、減圧脱気として行うことが好ましい。よって、真空ポンプ等の負圧形成装置によってベント160に負圧を与え、この負圧によってベント160を通して混練室130内のガスを排出させることが好ましい。減圧脱気の際の減圧条件は、好ましくは5kPa以下、より好ましくは3kPa以下、特に好ましくは2kPa以下である。減圧脱気によれば、水及びポリウレタンの加水分解物を混練室130から効果的に除去できる。
【0106】
前記の工程(II)において、スクリュー120の回転速度は、溶融混練ができる範囲で設定されうる。中でも、スクリュー120の回転速度は、ポリウレタンの加水分解を充分に進行させられるように設定することが好ましい。例えば、フィルム供給口140を通して水が供給される場合、その水は、樹脂フィルム及びその溶融樹脂がフィルム供給口140に入ってからベント160に到達するまでの期間、樹脂フィルム及び溶融樹脂に接触し、ポリウレタンの加水分解に用いられうる。よって、スクリュー120の回転速度を調整して、樹脂フィルム及びその溶融樹脂がフィルム供給口140に入ってからベント160に到達するまでの期間の長さを制御することにより、ポリウレタンの加水分解が行われる時間を調整できる。よって、スクリュー120の回転速度により、ポリウレタンの加水分解の進行の程度の制御が可能である。スクリュー120の回転速度は、例えば、樹脂フィルム及びその溶融樹脂がフィルム供給口140に入ってからベント160に到達するまでの期間の長さが特定の範囲となるように調整することが好ましい。前記の特定の範囲は、好ましくは1秒以上、より好ましくは3秒以上、特に好ましくは5秒以上であり、好ましくは30秒未満、より好ましくは20秒未満、特に好ましくは15秒未満である。
【0107】
[9.溶融樹脂を二軸押出機から押し出して再生樹脂を得る工程(III)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、二軸押出機100内において溶融樹脂を得た後で、その溶融樹脂を二軸押出機100から押し出して、再生樹脂を得る工程(III)を含む。この工程(III)では、具体的には、二軸押出機100の混練室130内で得られた溶融樹脂を、スクリュー120の回転によって吐出口150を通して押し出して、再生樹脂を得る。工程(II)において溶融樹脂からポリウレタンが除去されるので、得られる再生樹脂が含むポリウレタンの量は少ないことができる。
【0108】
二軸押出機100がポリマーフィルタ(図示省略)を備える場合、工程(III)は、ポリマーフィルタを通して二軸押出機100から溶融樹脂が押し出すことを含むことが好ましい。ポリマーフィルタを通して押し出すことにより、溶融樹脂中の異物を除去できるので、欠陥の無い光学フィルムの材料として再生樹脂を得ることができる。
【0109】
通常、二軸押出機100から押し出された再生樹脂は冷却されて硬化し、ストランド状の樹脂として得られる。工程(III)は、このストランド状の樹脂を適切なサイズに切断して、ペレット状の再生樹脂を得ることを含んでいてもよい。再生樹脂をペレット状に成形することにより、再生樹脂の取り扱い性を向上させることができる。
【0110】
[10.再生樹脂を製膜する工程(IV)]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、再生樹脂を得る工程(III)の後で、その再生樹脂を製膜する工程(IV)を含む。この工程(IV)では、再生樹脂を適切な方法で製膜して、フィルムを得る。以下、こうして得られるフィルムを「再生フィルム」と呼ぶことがある。本実施形態に係る光学フィルムの製造方法では、前記の再生フィルムを光学フィルムとして得てもよい。
【0111】
再生樹脂の成膜方法に制限は無い。成膜方法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などが挙げられる。中でも、溶媒を使用しない溶融押出法は、揮発性成分の量を効率よく低減させることができ、地球環境の観点、作業環境の観点、及び、製造効率の観点から好ましい。溶融押出法としては、例えばダイスを用いるインフレーション法が挙げられ、生産性及び厚み精度に優れる点で、Tダイを用いる方法が好ましい。
【0112】
ダイスを用いる溶融押出法においては、通常、押出機内で溶融させた再生樹脂を、当該押出機に設けられたダイスを通して押し出してフィルム状に成形する。この際、再生樹脂の溶融温度は、好ましくはTg+80℃以上、より好ましくはTg+100℃以上であり、好ましくはTg+180℃以下、より好ましくはTg+150℃以下である。前記の溶融温度は、押出機における再生樹脂の溶融温度を表す。具体的な押出温度は、再生樹脂の組成に応じて適切に選択しうる。例えば、押出機内における再生樹脂の温度は、樹脂投入口ではTg~(Tg+100℃)、押出機出口では(Tg+50℃)~(Tg+170℃)、ダイス温度は(Tg+50℃)~(Tg+170℃)℃でありうる。
【0113】
再生樹脂に含まれるポリウレタンの量が少ないので、再生樹脂の成膜時における当該再生樹脂からのポリウレタンのブリードアウトは、抑制される。したがって、再生樹脂の成膜を行う設備へのポリウレタンの付着を抑制できる。よって、工程(IV)では、通常、連続的かつ安定した成膜が可能である。
【0114】
[11.任意の工程]
本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
例えば、光学フィルムの製造方法は、工程(I)において樹脂フィルムをアルカリ性水溶液で洗浄する前に、その樹脂フィルムを界面活性剤水溶液で洗浄する工程を含んでいてもよい。この工程における洗浄は、工程(VI)における洗浄と同じ方法及び条件で行いうる。
また、例えば、光学フィルムの製造方法は、工程(IV)で得た再生フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程を含んでいてもよい。この場合、前記の延伸フィルムとして光学フィルムを得ることができる。延伸によれば、フィルム厚みの調整、並びに、フィルムのレターデーション等の光学特性の調整が可能である。
また、例えば、光学フィルムの製造方法は、再生フィルム、延伸フィルム等のフィルムに更に任意の層を形成する工程、得られたフィルムを所望のサイズにカットするトリミング工程、などを含んでいてもよい。
【0115】
[12.得られる光学フィルム]
上述した製造方法によれば、脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを製造できる。得られる光学フィルムは、COP樹脂のフィルムであり、ポリウレタンを含まないか、少量のみ含む。よって、ポリウレタンによる呈色を抑制することができる。例えば、無色透明な光学フィルムを得ることができる。
【0116】
光学フィルムは、通常、高い全光線透過率を有することができる。光学フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。光線透過率は、分光光度計(例えば、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計「V-570」)を用いて波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0117】
光学フィルムは、通常、小さいヘイズを有することができる。光学フィルムの具体的なヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下であり、理想的には0%である。ここで、ヘイズは、JIS K7361-1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH-300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値を採用しうる。
【0118】
光学フィルムの厚みに特段の制限は無いが、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下である。
【0119】
光学フィルムの長さに特段の制限は無いが、保存及び運搬の利便性の観点から、長尺であることが好ましい。光学フィルムの具体的な長さは、好ましくは1000m以上、より好ましくは1500m以上、特に好ましくは2000m以上である。長さの上限は、例えば、10000m以下、8000m以下、6000m以下などでありうる。
【0120】
光学フィルムの幅に特段の制限は無いが、好ましくは1000mm以上、より好ましくは1300mm以上、特に好ましくは1330mm以上であり、好ましくは1500mm以下、より好ましくは1490mm以下である。
【0121】
光学フィルムの用途に制限は無い。光学フィルムの用途の具体例としては、当該基材フィルム上に任意の層を形成するための基材フィルム;偏光板保護フィルム、液晶表示装置用の視野角補償フィルム、円偏光板に設けられる1/4波長板等の位相差フィルム;などが挙げられる。
【実施例
【0122】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものでは無く、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧大気中において行った。
【0123】
[評価方法]
(フラフ中の水分量の測定方法)
フラフに含まれる水分量は、以下の方法で測定した。
フラフを絶乾させる前に、そのフラフの質量を測定した。その後、フラフを高温環境下で絶乾させて、絶乾後のフラフの質量を測定した。絶乾前のフラフの質量から絶乾後のフラフの質量を引き算して、フラフ中の水分量を求めた。
【0124】
(光学フィルムに含まれるポリウレタン量の評価方法)
光学フィルムについて、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)による分析を行って、光学フィルムに含まれるトルエンジイソシアネート(TDI)の量を測定した。トルエンジイソシアネートは、後述する実施例及び比較例で使用されたポリウレタンの合成に用いられたイソシアネート成分であり、よって、光学フィルム中のポリウレタンのGC-MS分析時の熱による加熱分解(360℃~400℃)によって生じたものでありうる。したがって、トルエンジイソシアネートの検出量は、光学フィルムに含まれるポリウレタンの量に相関を有する。具体的には、トルエンジイソシアネートの検出量が多いほど、光学フィルムに含まれるポリウレタンの量が多いことを表す。
【0125】
GC-MS分析によるトルエンジイソシアネートの量の測定は、下記の方法で行った。TDI標準試料のGC-MS分析を行って、GC-MS分析によるピーク強度とトルエンジイソシアネートの濃度との関係を表す校正曲線を作成した。この校正曲線に、光学フィルムのGC-MS分析で得られるトルエンジイソシアネートのピーク強度を当て嵌めて、光学フィルムに含まれるトルエンジイソシアネートの量を求めた。
【0126】
(光学フィルムに含まれる成分の分子量の測定方法)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、シクロヘキサン溶媒でポリイソプレンを基準にて、光学フィルムに含まれる成分の分子量を測定して、その重量平均分子量を求めた。
【0127】
(光学フィルムの色の評価方法)
光学フィルムの色を、肉眼観察及びカラーメーターによる測定によって、評価した。
【0128】
(光学フィルムの工程適性の評価方法)
再生樹脂を製膜して光学フィルムを製造するために用いた製造設備を観察して、再生樹脂からブリードアウトしたポリウレタン又はその分解物が設備に付着していないかを調べた。
【0129】
[製造例1.樹脂フィルムの製造]
(未延伸フィルムの製造)
脂環式構造含有重合体を含むCOP樹脂(日本ゼオン社製「ZEONOR」、ガラス転移温度126℃)のペレットを100℃で5時間乾燥した。このペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にフィルム状に押し出し、冷却して、長尺の未延伸フィルム(厚み80μm、幅1600mm)を得た。
【0130】
(易接着層の形成)
ポリウレタンの水分散体(第一工業製薬社製「スーパーフレックス870」、エーテル系ポリウレタン、ポリウレタンのガラス転移温度78℃、固形分30%)を用意し、当該水分散体をポリウレタンが100部となる量だけ取り分けた。この水分散体に、エポキシ化合物であるグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX-313」;エポキシ当量141g/eq.)15部と、平均粒子径80nmのシリカ微粒子(日産化学工業社製「スノーテックスZL」)10部と、シリカ粒子の水分散液(日産化学社製「スノーテックスMP2040」;平均粒子径200nm)をシリカ粒子の量で2.5部と、非イオン系界面活性剤として4,7-ジヒドロキシ-2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンのエチレンオキサイド付加物(日信化学工業社製「サーフィノール465」)と、水とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分濃度5%の液状の水系樹脂を得た。ここで、非イオン系界面活性剤の添加量は、得られる水系樹脂に対し100ppmとなる量とした。
【0131】
コロナ処理装置を用いて、前記の未延伸フィルムの片面に、放電処理を施した。この放電処理を施した面に、前記の水系樹脂を、乾燥厚みが0.2μmになるように塗布した。その後、加熱により水系樹脂の層を乾燥して、未延伸フィルム上に易接着層を形成した。これにより、未延伸フィルム及び易接着層を備える複層フィルムを得た。
【0132】
(複層フィルムの延伸)
前記の複層フィルムを、延伸温度135℃で、長手方向及び幅方向にこの順で遂次二軸押出して、脂環式構造含有重合体を含む第一層及びエーテル系ポリウレタンを含む第二層を備える長尺の樹脂フィルムを得た。この際、長手方向の延伸倍率は1.15倍、幅方向の延伸倍率は1.40倍であった。こうして得られた樹脂フィルムの平坦部の平均厚みは50μm、幅は1490mmであった。
【0133】
[実施例1]
製造例1で製造した樹脂フィルムを粉砕機で粉砕し、約5mm角のフィルム片としてのフラフを得た(工程(V))。
【0134】
フラフを容器に入れた。この容器に、アルカリ性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液(濃度=0.4重量%、pH=13)を入れ、撹拌して、アルカリ洗浄処理を行った(工程(I))。このアルカリ洗浄処理の際、アルカリ性水溶液の温度は70℃、撹拌時間は30分であった。その後、容器からアルカリ性水溶液を除去した。
【0135】
前記の容器に、界面活性剤水溶液として花王株式会社製の界面活性剤「エマール20T」の水溶液(濃度=5%)を入れ、撹拌して、界面活性剤水溶液による洗浄処理を行った(工程(VI))。この洗浄処理の際、界面活性剤水溶液の温度は60℃、撹拌時間は80分であった。その後、容器から界面活性剤水溶液を除去した。
【0136】
容器からフラフを取り出し、乾燥を含む脱水処理を行った(工程(VII))。脱水処理後のフラフに含まれる水分量を測定したところ、2000ppmであった。
【0137】
図1に示す二軸押出機100を用意した。この二軸押出機100は、内部に混練室130を形成されたシリンダ110と、この混練室130内に収納された2本のスクリュー120と、図示しないポリマーフィルタ(フィルタの目開き5μm)と、を備えていた。シリンダ110には、混練室130内にフラフを供給できるようにシリンダ110の上流側の端部近傍に形成されたフィルム供給口140としてのホッパー部と、混練室130内で得られた溶融樹脂を押し出すことができるようにシリンダ110の下流側の端部に形成された吐出口150と、が形成されていた。吐出口150は、ポリマーフィルタを通した押し出しができるように、前記のポリマーフィルタに接続されていた。さらに、シリンダ110を軸方向に4つの区画に4等分した場合に上流側から3番目の区画110Cの位置に、真空ベント160及び給水口170がそれぞれ複数形成されていた。
真空ベント160は、それぞれ、混練室130内を脱気して混練室130内の水蒸気を排出できるように、図示しない真空ポンプに接続されていた。また、給水口170は、それぞれ、混練室130内に水を供給できるように、図示しない給水装置に接続されていた。
【0138】
図示しないヒーターを用いてシリンダ110を加熱した。この際、シリンダ110の具体的な温度は、真空ベント160が設けられた部分及び給水口170が設けられた部分における溶融樹脂の温度が260℃、吐出口150から吐出される溶融樹脂の温度(溶融樹脂の最高温度)が330℃となるように設定した。さらに、このようにシリンダ110の温度を制御した状態で、2本のスクリュー120を回転させた。スクリュー120の回転速度は、フィルム供給口140に供給されたフラフが溶融混練されて得られる溶融樹脂が真空ベント160にまで到達するのに要する時間が、約8秒となる速度であった。
【0139】
前記のシリンダ110内の混練室130に、フィルム供給口140を通してフラフ(図示せず。)を供給した。供給されたフラフは、スクリュー120の回転によってシリンダ110内の混練室130を下流に移動しながら溶融混練されて、溶融樹脂が得られた(工程(II))。また、同時に、フィルム供給口140及び給水口170を通して、シリンダ110内の混練室130に水を供給した(工程(II-1))。水の量は、混練室130に供給されるフラフの量100部に対して、1部であった。フィルム供給口140を通して供給される水の量は、フィルム供給口140から水が逆流しない程度の量に調整し、それ以外の水を給水口170を通して混練室130に供給した。さらに、真空ポンプを駆動して、真空ベント160を通して、2kPaの減圧条件で、混練室130内の減圧脱気を行った(工程(II-2))。
【0140】
混練室130内に供給された水は、加熱によって水蒸気となり、この水蒸気によってフラフに含まれていたポリウレタンが加水分解された。水蒸気及びポリウレタンの加水分解物は、減圧脱気により、真空ベント160を通して混練室130の外に排出された。また、溶融樹脂は、吐出口150を通ってポリマーフィルタへと送出され、このポリマーフィルタを通ってストランド状に押し出された。押し出された溶融樹脂を水冷して硬化させ、ペレタイザーによりカットして、ペレット状の再生樹脂を得た。
【0141】
前記の再生樹脂を製膜して、光学フィルムを得た(工程(IV))。具体的には、単軸押出機と、この単軸押出機に装着されたT型ダイスとを備える押出成形装置を用意した。この押出成形装置を用いて、前記の再生樹脂を、押出温度250℃でフィルム状に溶融押出した。押し出されたフィルム状の樹脂を、冷却ロールによって冷却し、厚み52μm、幅1490mmの長尺の光学フィルムを得た。
得られた光学フィルムを、上述した方法で評価した。
【0142】
[実施例2]
二軸押出機のシリンダの温度を、給水口が設けられた部分及び真空ベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度が330℃、吐出口から吐出される溶融樹脂の温度(溶融樹脂の最高温度)が330℃となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0143】
[実施例3]
二軸押出機のシリンダの温度を、給水口が設けられた部分及び真空ベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度が350℃、吐出口から吐出される溶融樹脂の温度(溶融樹脂の最高温度)が330℃となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法によって、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0144】
[比較例1]
アルカリ性水溶液によるフラフの洗浄、界面活性剤によるフラフの洗浄、フラフの脱水処理、並びに、二軸押出機への給水及び脱気を行わなかった。また、シリンダ温度を変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0145】
具体的には、製造例1で製造した樹脂フィルムを粉砕機で粉砕し、フィルム片としてのフラフを得た。このフラフを二軸押出機に供給した。ホッパー部及び給水口を通じた水の供給を行わないこと、真空ベントを通じた脱気を行わないこと、及び、二軸押出機の吐出口から吐出される溶融樹脂の温度(溶融樹脂の最高温度)が220℃となるようにシリンダ温度を変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、二軸押出機によってフラフを溶融混練し、その溶融混練によって得られた溶融樹脂を押し出した。押し出された溶融樹脂を水冷して硬化させ、ペレタイザーによりカットして、ペレット状の再生樹脂を得た。この再生樹脂を、実施例1と同じ方法で製膜して、長尺の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムを、上述した方法で評価した。
【0146】
[比較例2]
二軸押出機への給水及び脱気を行わなかった。また、シリンダ温度を変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、光学フィルムの製造及び評価を行った。
【0147】
具体的には、製造例1で製造した樹脂フィルムを粉砕機で粉砕して、フィルム片としてのフラフを得た。このフラフに、実施例1と同じ方法で、アルカリ性水溶液による洗浄処理、界面活性剤水溶液による洗浄処理、及び、脱水処理を行った。このフラフを二軸押出機に供給した。ホッパー部及び給水口を通じた水の供給を行わないこと、真空ベントを通じた脱気を行わないこと、二軸押出機の吐出口から吐出される溶融樹脂の温度(溶融樹脂の最高温度)が220℃となるようにシリンダ温度を変更したこと以外は実施例1と同じ条件で、二軸押出機によってフラフを溶融混練し、その溶融混練によって得られた溶融樹脂を押し出した。押し出された溶融樹脂を水冷して硬化させ、ペレタイザーによりカットして、ペレット状の再生樹脂を得た。この再生樹脂を、実施例1と同じ方法で製膜して、長尺の光学フィルムを得た。得られた光学フィルムを、上述した方法で評価した。
【0148】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表に示す。
【0149】
【表1】
【0150】
[検討]
実施例及び比較例の結果から、本発明に係る光学フィルムの製造方法によれば、脂環式構造含有重合体を含む層と、エーテル系ポリウレタン及びカーボネート系ポリウレタンからなる群より選ばれる1以上のポリウレタンを含む第二層と、を備える樹脂フィルムから、脂環式構造含有重合体を含む光学フィルムを、呈色を抑制しながら製造できることが確認された。
【0151】
実施例1では、光学フィルムからTDIが検出され、また、光学フィルムが実用可能な範囲であるもののわずかに呈色している。よって、実施例1では、光学フィルムにポリウレタンが少量含まれることがわかる。これに比べ、実施例2及び3の結果からは、光学フィルムにポリウレタンが含まれていないことが分かる。したがって、ポリウレタンの効果的な除去の観点では、二軸押出機内のベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度には適切な範囲があることが分かる。
【0152】
また、実施例2で得られた光学フィルムの機械的特性は樹脂フィルムと同じであるが、実施例3で得られた光学フィルムの機械的特性は樹脂フィルムと異なることが判明している。よって、原料となった樹脂フィルムと同じ物性を有する光学フィルムを製造する観点でも、二軸押出機内のベントが設けられた部分における溶融樹脂の温度には適切な範囲があることが分かる。
【符号の説明】
【0153】
100 二軸押出機
110 シリンダ
111 液部
112 上流側の端部
113 下流側の端部
120 スクリュー
121 溝部
122 フライト部
130 混練室
140 フィルム供給口
150 吐出口
160 ベント
170 給水口
図1