(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】研磨条件決定用相関関係式の作成方法、研磨条件の決定方法および半導体ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240827BHJP
B24B 37/005 20120101ALI20240827BHJP
B24B 49/14 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01L21/304 622R
H01L21/304 621D
B24B37/005 Z
B24B49/14
(21)【出願番号】P 2021079616
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕生
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131353(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0170320(US,A1)
【文献】特開2015-168015(JP,A)
【文献】特開2008-177266(JP,A)
【文献】特開平10-128655(JP,A)
【文献】特開2007-181910(JP,A)
【文献】特開2020-109839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/005
B24B 49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の研磨パラメータを含む複数の研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、該複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの面内研磨量分布情報を実測によって取得すること、
複数の研磨パラメータを含む研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、該複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を実測によって取得するか、または、複数の研磨パラメータを含む研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を伝熱解析によって作成すること、
前記研磨時面内温度分布情報に基づき、半導体ウェーハの面内温度分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式1を作成すること、
前記面内研磨量分布情報に基づき、半導体ウェーハの面内研磨量分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式2を作成すること、
前記相関関係式1と前記相関関係式2とに基づき、半導体ウェーハの面内研磨量分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式3を作成すること、
を含み、
前記相関関係式3は、半導体ウェーハの実研磨における研磨条件を決定するために使用される相関関係式である、
研磨条件決定用相関関係式の作成方法。
【請求項2】
前記面内温度分布パラメータは、面内最高温度Tmaxと面内最低温度Tminとの差(Tmax-Tmin)である、請求項1に記載の作成方法。
【請求項3】
前記面内研磨量分布パラメータは、面内研磨量最大値Qmaxと面内研磨量最小値Qminとの差(Qmax-Qmin)である、請求項1または2に記載の作成方法。
【請求項4】
前記研磨パラメータは、研磨時間τ、研磨スラリー流量f、研磨圧力Pおよび定盤・研磨ヘッド回転数ωからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の作成方法。
【請求項5】
前記相関関係式1は、
ΔT=X
1+X
2τ+X
3P+X
4ω+X
5f
であり、
ΔTは面内最高温度Tmaxと面内最低温度Tminとの差、τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、X
1、X
2、X
3、X
4およびX
5は相関分析によって決定された定数である、請求項1~4のいずれか1項に記載の作成方法。
【請求項6】
前記相関関係式2は、
ΔQ/ΔT=Y
1+Y
2τ+Y
3P+Y
4ω+Y
5f
であり、
ΔQは面内研磨量最大値Qmaxと面内研磨量最小値Qminとの差、τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、Y
1、Y
2、Y
3、Y
4およびY
5は相関分析によって決定された定数である、請求項5に記載の作成方法。
【請求項7】
前記相関関係式3は、
ΔQ=(X
1+X
2τ+X
3P+X
4ω+X
5f)×(Y
1+Y
2τ+Y
3P+Y
4ω+Y
5f)
である、請求項6に記載の作成方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の作成方法によって研磨条件決定用相関関係式を作成すること、
研磨対象半導体ウェーハの面内研磨量分布の目標値または目標範囲を設定すること、および
設定された目標値または目標範囲を達成可能と予測される研磨条件を前記相関関係式によって決定すること、
を含む、研磨条件の決定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の決定方法によって研磨条件を決定すること、および
決定された研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行うこと、
を含む、半導体ウェーハの製造方法。
【請求項10】
前記半導体ウェーハはシリコンウェーハである、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨条件決定用相関関係式の作成方法、研磨条件の決定方法および半導体ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体ウェーハの製造工程には研磨工程が含まれる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体ウェーハの研磨工程では、予め決定した研磨条件下で半導体ウェーハが研磨される。しかし、通常、決定すべき研磨条件には複数の項目が含まれる。従来、それら項目の決定には、多くの試行錯誤を繰り返さざるを得なかった。
【0005】
かかる状況下、本発明の一態様は、多くの試行錯誤を経ることなく半導体ウェーハの研磨条件を決定することを可能にする新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
複数の研磨パラメータを含む複数の研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、かかる複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの面内研磨量分布情報を実測によって取得すること、
複数の研磨パラメータを含む研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、かかる複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を実測によって取得するか、または、複数の研磨パラメータを含む研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を伝熱解析によって作成すること、
上記研磨時面内温度分布情報に基づき、半導体ウェーハの面内温度分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式1を作成すること、
上記面内研磨量分布情報に基づき、半導体ウェーハの面内研磨量分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式2を作成すること、
上記相関関係式1と上記相関関係式2とに基づき、半導体ウェーハの面内研磨量分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式3を作成すること、
を含み、
上記相関関係式3は、半導体ウェーハの実研磨における研磨条件を決定するために使用される相関関係式である、
研磨条件決定用相関関係式の作成方法(以下、「関係式作成方法」とも記載する。)、
に関する。
【0007】
上記関係式作成方法によれば、半導体ウェーハの実研磨における研磨条件を決定するために使用される相関関係式(相関関係式3)を、上記の各種工程を実施することによって作成することができる。即ち、上記相関関係式3を、多くの試行錯誤を経ることなく決定することができる。更に、以下の推察は本発明を限定するものではないが、こうして決定される相関関係式3は、上記のように実測により取得された情報および/または伝熱解析により作成された情報に基づき、各種研磨パラメータの影響度合いを考慮して決定された相関関係式であるため、半導体ウェーハを精度よく研磨可能な研磨条件の決定に寄与することが期待できると本発明者は推察している。
【0008】
一形態では、上記温度分布パラメータは、面内最高温度Tmaxと面内最低温度Tminとの差(Tmax-Tmin)であることができる。
【0009】
一形態では、上記面内研磨量分布パラメータは、面内研磨量最大値Qmaxと面内研磨量最小値Qminとの差(Qmax-Qmin)であることができる。
【0010】
一形態では、上記研磨パラメータは、研磨時間τ、研磨スラリー流量f、研磨圧力Pおよび定盤・研磨ヘッド回転数ωからなる群から選択されることができる。
【0011】
一形態では、
上記相関関係式1は、
ΔT=X1+X2τ+X3P+X4ω+X5f
であることができる。ΔTは面内最高温度Tmaxと面内最低温度Tminとの差、τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、X1、X2、X3、X4およびX5は相関分析によって決定された定数である。
【0012】
一形態では、
上記相関関係式2は、
ΔQ/ΔT=Y1+Y2τ+Y3P+Y4ω+Y5f
であることができる。ΔQは面内研磨量最大値Qmaxと面内研磨量最小値Qminとの差、τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、Y1、Y2、Y3、Y4およびY5は相関分析によって決定された定数である。
【0013】
一形態では、
上記相関関係式3は、
ΔQ=(X1+X2τ+X3P+X4ω+X5f)×(Y1+Y2τ+Y3P+Y4ω+Y5f)
であることができる。
【0014】
本発明の一態様は、
上記関係式作成方法によって研磨条件決定用相関関係式を作成すること、
研磨対象半導体ウェーハの面内研磨量分布の目標値または目標範囲を設定すること、および
設定された目標値または目標範囲を達成可能と予測される研磨条件を上記相関関係式によって決定すること、
を含む、研磨条件の決定方法、
に関する。
【0015】
本発明の一態様は、
上記研磨条件の決定方法によって研磨条件を決定すること、および
決定された研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行うこと、
を含む、半導体ウェーハの製造方法、
に関する。
【0016】
一形態では、上記半導体ウェーハはシリコンウェーハであることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、多くの試行錯誤を経ることなく半導体ウェーハの研磨条件を決定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】半導体ウェーハ研磨装置(片面研磨装置)の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図1に示す研磨装置の研磨ヘッド10の概略断面図である。
【
図3】伝熱解析モデルによる温度の計算値と、温度の実測値と、を対比したグラフ(r=0mm)である。
【
図4】伝熱解析モデルによる温度の計算値と、温度の実測値と、を対比したグラフ(r=50mm)である。
【
図5】伝熱解析モデルによる温度の計算値と、温度の実測値と、を対比したグラフ(r=100mm)である。
【
図6】伝熱解析モデルによる温度の計算値と、温度の実測値と、を対比したグラフ(r=150mm)である。
【
図7】伝熱解析モデルによる温度の計算値と、温度の実測値と、を対比したグラフ(r=160mm)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[関係式作成方法]
以下、上記関係式作成方法について、更に詳細に説明する。
【0020】
上記関係式作成方法によって最終的に作成される相関関係式3は、半導体ウェーハの実研磨における研磨条件を決定するために使用される相関関係式である。本発明および本明細書において「実研磨」とは、製品として出荷するための半導体ウェーハを製造する工程において行われる研磨を意味するものとする。ただし、かかる実研磨を経て製造された半導体ウェーハは、実際に製品として出荷されて市場に流通する半導体ウェーハに限定されず、何らかの理由により不良品と判定されて製品として出荷されるウェーハ群から排除される半導体ウェーハである場合もある。半導体ウェーハの表面を研磨する研磨方式としては、ウェーハの片面を研磨する片面研磨と、ウェーハの両面を研磨する両面研磨とがある。片面研磨装置では、通常、研磨ヘッドに保持されたウェーハの研磨対象表面を、定盤に貼り付けられた研磨パッドに押し付けながら、研磨ヘッドと定盤とをそれぞれ回転させて、ウェーハの研磨対象表面と研磨パッドとを摺接させる。こうして摺接する研磨対象表面と研磨パッドとの間に研磨剤を供給することにより、ウェーハの一方の表面(研磨対象表面)を研磨することができる。上記関係式作成方法によって作成される相関関係式は、半導体ウェーハの実研磨として片面研磨を行うための研磨条件を決定するために使用することができる。
【0021】
<半導体ウェーハ研磨装置の一例>
図1は、半導体ウェーハ研磨装置(片面研磨装置)の一例を示す概略断面図である。
図1に示す半導体ウェーハ研磨装置30は、研磨ヘッド10および定盤22を、それぞれ回転機構(図示せず)により回転させながら、半導体ウェーハ(単に「ウェーハ」とも記載する。)Wの研磨対象表面と定盤22上に貼り合わされた研磨パッド21とを摺接させる。研磨剤供給機構40から排出される研磨剤41が、ウェーハWの研磨対象表面と研磨パッド21との間に供給され、ウェーハWの研磨対象表面が研磨される。研磨剤としては、CMP(chemical Mechanical Polishing)に通常使用される研磨スラリーを用いることができる。
【0022】
図2は、
図1に示す研磨装置の研磨ヘッド10の概略断面図である。片面研磨装置において、研磨ヘッドに保持されたウェーハを研磨パッドに押し付ける方式としては、ラバーチャック方式が挙げられる。
図2に示す研磨ヘッド10は、ラバーチャック方式の研磨ヘッドである。ラバーチャック方式の研磨ヘッドでは、メンブレンの背面の空間に空気等を導入してメンブレンを膨らませることによって、メンブレンの下方に位置するバックパッドを介してウェーハを押圧することができる。
【0023】
図2中、研磨ヘッド10は、ヘッド本体11に、剛性リング12が接続されている。剛性リング12の下面は、メンブレン14で覆われている。更に、メンブレン14の下面にはバックパッド15が貼り合わされている。メンブレン14の背面側には、剛性リング12の開口部が中板16とメンブレン14によって閉塞されることにより、空間部17が形成されている。この空間部17に気体導入路18から空気等の気体を導入してメンブレン14を膨らませることにより、バックパッド15を介して、リテーナリング13の開口部に保持されたウェーハWを押圧することができる。押圧されたウェーハWは、定盤22上に貼り合わされた研磨パッド21に押し付けられる。研磨ヘッド10および定盤22をそれぞれ回転機構(図示せず)により回転させることによって、ウェーハWの研磨対象表面w1と研磨パッド21とを摺接させる。こうして、ウェーハWの研磨対象表面w1を研磨することができる。
【0024】
<研磨対象>
上記関係式決定方法により決定された相関関係式を使用して研磨条件が決定されて研磨される対象は、半導体ウェーハであり、例えばシリコンウェーハ(好ましくは単結晶シリコンウェーハ)であることができる。例えば、シリコンウェーハは、以下の方法により作製できる。チョクラルスキー法によりシリコン単結晶インゴットを引き上げ、作製されたインゴットをカットしてブロックを得る。得られたブロックをスライスしてウェーハとする。このウェーハに各種加工を施すことにより、シリコンウェーハを作製することができる。上記加工としては、面取り加工、平坦化加工(ラップ、研削、研磨)等を挙げることができる。上記関係式決定方法により決定された相関関係式を使用して研磨条件が決定される研磨としては、例えば、上記のウェーハ加工の最終工程である仕上げ研磨を挙げることができる。
【0025】
次に、上記関係式作成方法において行われる各種工程について説明する。
【0026】
<面内研磨量分布情報の取得>
上記関係式作成方法では、複数の研磨パラメータを含む複数の研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、これら複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの面内研磨量分布情報を実測によって取得する。即ち、ウェーハの研磨を実際に行い、研磨されたウェーハ表面の面内各部における研磨量を実測する。各種研磨条件で研磨されるウェーハは、例えば、同じインゴットから切り出されたウェーハであって、かつ同じウェーハ径および同じ厚みに加工されたウェーハであることができる。ただし、これに限定されるものではない。研磨パラメータは、研磨条件を構成する各種数値であることができる。上記の複数の研磨パラメータとしては、例えば、研磨時間τ、研磨スラリー流量f、研磨圧力Pおよび定盤・研磨ヘッド回転数ωを挙げることができる。各種研磨パラメータの単位は、特に限定されず、それらパラメータについて通常採用され得る単位であることができる。定盤の回転数をω1とし、研磨ヘッドの回転数をω2とすると、通常の半導体ウェーハ研磨装置において、ω1とω2は、それぞれ独立に設定可能であって、同じ値にも異なる値にも設定することができる。本発明および本明細書において、「定盤・研磨ヘッド回転数ω」とは、ω1=ω2の場合の定盤の回転数かつ研磨ヘッドの回転数をいうものとする。
【0027】
一例として、
図1に示す半導体ウェーハ研磨装置によって、表1に示す各種研磨条件によってシリコンウェーハを研磨した。各種研磨条件で研磨されたウェーハは、同じシリコン単結晶インゴットから切り出されたウェーハであって、かつ同じウェーハ径(直径300mm)および同じ厚み(厚み775μm)に加工されたウェーハである。研磨後、各ウェーハの研磨された表面の面内の複数箇所においてウェーハ厚み(研磨後厚み)を測定した。ウェーハ厚みは、非接触式または接触式の公知の厚み測定方法によって測定することができる。研磨前のウェーハ厚みから研磨後の各箇所における厚みをそれぞれ差し引いて、上記複数箇所について研磨量を算出した。研磨前のウェーハ厚みとしては、ウェーハ製造時の設計値を用いてもよく、研磨前のウェーハにおける任意の1箇所における測定値または任意の複数箇所における測定値の算術平均等を用いてもよい。各研磨条件によって研磨された各ウェーハについて算出された研磨量の中での最大値を面内研磨量最大値Qmax、最小値を面内研磨量最小値Qminとし、それらの差(Qmax-Qmin)として求められたΔQを表1に示す。こうして求められたΔQは、面内研磨量分布情報の一例である。表1中、各種研磨パラメータの単位は任意単位である。研磨圧力Pは、ウェーハの研磨対象表面に加わる面圧であり、ダッソー・システムズ社製ABAQUSを使用し、圧力計算(有限要素法)により求めた算出値である。なお、表1中のΔTについては後述する。
【0028】
【0029】
<研磨時面内温度分布情報の取得または作成>
上記関係式作成方法では、複数の研磨パラメータを含む研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、これら複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を実測によって取得するか、または、複数の研磨パラメータを含む研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を伝熱解析によって作成する。
【0030】
一形態では、複数の研磨パラメータを含む研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行い、これら複数の研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を実測によって取得する。即ち、ウェーハの研磨を実際に行い、研磨時のウェーハ表面の面内各部の温度に関する情報を実測によって取得する。ここで実測する温度は、研磨されているウェーハの研磨対象表面の近傍の位置の温度または研磨されているウェーハの研磨対象表面の温度そのものであることができる。通常、研磨パッドと摺接して研磨されている最中のウェーハ表面の表面温度そのものを測定することは容易ではない。したがって、ここで実測される温度は、研磨されているウェーハの研磨対象表面の近傍の位置の温度であることが好ましい。例えば、
図1に示す半導体ウェーハ研磨装置において、ウェーハ研磨中、研磨対象のウェーハの上方に位置する部材(例えばメンブレン14、バックパッド15等)の面内各部の温度を実測し、この実測結果を、ウェーハの研磨時面内温度分布情報として採用することができる。
【0031】
例えば、ΔQを求めるために
図1に示す半導体ウェーハ研磨装置によって表1に示す各種研磨条件によってシリコンウェーハを研磨した際、研磨中のウェーハの研磨対象表面近傍の位置の温度の測定を行うことができる。例えば、研磨中のウェーハ表面近傍の温度を実測するために、研磨開始前、メンブレンとバックパッドとの間の複数箇所に無線機付き熱電対線を挟み込み、これら熱電対線によって研磨中の各箇所の温度を測定することができる。各研磨条件での研磨中、上記複数箇所の温度を連続的に測定し、測定結果の中の最大値を面内最高温度Tmaxとし、最小値を面内最低温度Tminとし、差(Tmax-Tmin)であるΔTを求めることができる。こうして求められるΔTは、研磨時面内温度分布情報の一例である。なお、上記の例は、面内研磨量分布情報を取得するための研磨中に研磨時面内温度分布情報の取得を行った例である。ただし、上記関係式決定方法は、かかる例に限定されない。例えば、面内研磨量分布情報を取得するための研磨とは別に研磨を行い、この研磨中に研磨時面内温度分布情報を取得するための温度の実測を行うこともできる。また、面内研磨量分布情報を取得するための研磨を行う複数の研磨条件は、研磨時面内温度分布情報を取得するための複数の研磨条件とすべて同じである場合もあり、または、1つ以上もしくはすべてが異なる研磨条件である場合もある。
【0032】
また、一形態では、複数の研磨パラメータを含む研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を伝熱解析によって作成することができる。
例えば、伝熱解析モデルとして、汎用有限要素法(FEM)解析ソフトAbaqusにより熱伝導方程式を解くモデルを採用することができる。このような伝熱解析モデルを用いると、通常測定が容易ではない研磨中のウェーハ表面の温度を予測できる。
上記モデルでは、摩擦発熱(摩擦熱流束を表現する熱流束境界条件)に用いる動摩擦係数μ、スラリー抜熱(スラリー冷却の熱流束を表現し、Newton冷却則を使用した熱流束境界条件)に用いる熱伝達率hを、実験パラメータとした。これらはウェーハ中心からの距離r、研磨パラメータ(研磨時間τ,研磨圧力P、定盤・研磨ヘッド回転数ω、スラリー流量f)の関数となる。ここでは、研磨パラメータの値の単位は、任意単位としている。こうして上記モデルにより決定された関数を以下に示す。
【0033】
【0034】
図3~
図7は、伝熱解析モデルによる温度の計算値と、温度の実測値と、を対比したグラフである。詳しくは、
図3~
図7は、上記伝熱解析モデルから計算された各箇所における温度の予測値を、同じ研磨条件で実際に研磨を行って先に記載した方法で各箇所の温度を実測して得た実測値とを対比したグラフである。ウェーハ中心からの距離をrとすると、実測は、ウェーハ中心の直上の位置(r=0mm)、ウェーハ中心から半径方向に50mm外側の位置の直上の位置(r=50mm)、ウェーハ中心から半径方向に100mm外側の位置の直上の位置(r=100mm)、ウェーハ中心から半径方向に150mm外側の位置の直上の位置(r=150mm)、およびウェーハ中心から半径方向に160mm外側の位置の直上の位置(r=160mm)の5箇所で行った。
図3~
図7に示すグラフから、伝熱解析モデルによって、研磨中のウェーハの研磨対象表面の温度(詳しくはメンブレン温度、より詳しくはメンブレンとバックパッドとの間の温度)を実測値との差分0.5℃以下で予測可能であることが確認できる。したがって、上記関係式作成方法では、複数の研磨パラメータを含む研磨条件での研磨における半導体ウェーハの研磨時面内温度分布情報を、実測を要することなく、伝熱解析によって作成することもできる。例えば、予測結果から、面内最高温度Tmaxと面内最低温度Tminとの差(Tmax-Tmin)であるΔTを算出することができる。こうして求められるΔTは、研磨時面内温度分布情報の一例である。表1に示すΔTは、ΔQを求めるために
図1に示す半導体ウェーハ研磨装置によって表1に示す各種研磨条件によってシリコンウェーハを研磨する際のΔTを上記の伝熱解析モデルによって算出した値である。温度の予測は、ウェーハ中心からの距離r=0~148mmについて行い、予測値の中の最大値をTmaxとし、最小値をTminとして、ΔTを算出した。なお、上記の例は、面内研磨量分布情報を取得するための研磨条件について伝熱解析モデルを適用した例である。ただし、上記関係式決定方法は、かかる例に限定されない。面内研磨量分布情報を取得するための研磨を行う複数の研磨条件は、伝熱解析によって研磨時面内温度分布情報を作成するための複数の研磨条件とすべて同じである場合もあり、または、1つ以上もしくはすべてが異なる研磨条件である場合もある。
【0035】
表1に示す結果から、ΔTと研磨条件との間およびΔQと研磨条件との間には、高い相関があるということができる。
【0036】
<相関関係式1の作成>
相関関係式1は、半導体ウェーハの面内温度分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式であって、上記で取得または作成された研磨時面内温度分布情報に基づいて作成することができる。例えば、相関関係式1は、「式1:ΔT=X1+X2τ+X3P+X4ω+X5f」であることができる。ここで、ΔTは、面内最高温度Tmaxと面内最低温度Tminとの差であり、先に記載したように求めることができる。τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、X1、X2、X3、X4およびX5は相関分析によって決定された定数であり、正または負の値である。相関分析の手法は公知である。
一例として、表1に示した実施形態では、式1は、以下の式(1)として求められる(R2=0.89)。
式(1):
ΔT=max(T(r,t=τ,P,ω,f))-min(T(r,t=τ,P,ω,f))
=-0.59+0.16τ+0.49P+0.53ω-0.006f
【0037】
<相関関係式2の作成>
相関関係式2は、半導体ウェーハの面内研磨量分布パラメータと複数の研磨パラメータとの相関関係式であって、上記で取得された面内研磨量分布情報に基づいて作成することができる。例えば、相関関係式2は、「式2:ΔQ/ΔT=Y1+Y2τ+Y3P+Y4ω+Y5f」であることができる。ここで、ΔQは、面内研磨量最大値Qmaxと面内研磨量最小値Qminとの差であり、先に記載したように求めることができる。τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、Y1、Y2、Y3、Y4およびY5は相関分析によって決定された定数であり、正または負の値である。一例として、表1に示した実施形態では、式2は、以下の式(2)として求められる(R2=0.91)。
式(2):
ΔQ/ΔT=ΔQ(τ,P,ω,f)/ΔT(τ,P,ω,f)
=146.46-74.82τ-86.82P-19.62ω-9.76f
【0038】
<相関関係式3の作成>
相関関係式3は、半導体ウェーハの実研磨における研磨条件を決定するために使用される相関関係式であって、相関関係式1と相関関係式2とに基づいて作成することができる。例えば、相関関係式1が上記式1であり、相関関係式2が上記式2の場合、式1と式2から「式3:ΔQ=(X1+X2τ+X3P+X4ω+X5f)×(Y1+Y2τ+Y3P+Y4ω+Y5f)」を導出できる。式3中、X1~X5、Y1~Y5、τ、f、P、ωは上記と同義である。例えば、相関関係式3は、上記式3であることができる。一例として、表1に示した実施形態では、式3は、上記の式(1)および式(2)から、以下の式(3)として導出できる。
式(3):
ΔQ=(-0.59+0.16τ+0.49P+0.53ω-0.006f)×(146.46-74.82τ-86.82P-19.62ω-9.76f)
【0039】
相関関係式3に基づき研磨条件を決定する方法について、以下に説明する。
【0040】
[研磨条件の決定方法]
本発明の一態様は、
上記関係式作成方法によって研磨条件決定用相関関係式を作成すること、
研磨対象半導体ウェーハの面内研磨量分布の目標値または目標範囲を設定すること、および
設定された目標値または目標範囲を達成可能と予測される研磨条件を上記相関関係式によって決定すること、
を含む、研磨条件の決定方法、
に関する。
【0041】
上記研磨条件の決定方法における研磨条件決定用相関関係式を作成については、先に記載した通りである。具体的には、先に記載した相関関係式3が、研磨条件決定用相関関係式である。
【0042】
相関関係式3は、ΔQを含む相関関係式であることができ、その具体例は先に記載した式3である。例えば、研磨対象半導体ウェーハの面内研磨量分布の目標値または目標範囲として、ΔQの目標値または目標範囲を設定することができる。かかる目標値または目標範囲は、製品ウェーハに望まれる平坦度等を考慮して任意に設定することができる。
【0043】
上記目標値または目標範囲が設定された後、目標値、目標範囲内の値、または上記の値から多少相違する値との間で、相関関係式3が成立する研磨条件(詳しくは、各種研磨パラメータの具体的な値)を、設定された目標値または目標範囲を達成可能と予測される研磨条件として決定することができる。上記の値から多少相違する値は、目標値または目標範囲内の値をAとして、例えば、「A×0.90~1.10」の値であることができ、「A×0.95~1.05」の値であることもできる。
【0044】
また、研磨条件の決定に際して、制約条件として、以下の事項の1つ以上を考慮することもできる。
【0045】
制約条件A:スラリーのコスト増加を防ぐため、スラリー流量fを所定値以下とする。例えば、表1に示す実施形態では1.00以下とする。また、研磨加工に十分な砥粒を供給するために、スラリー流量fを所定値以上とする。例えば、表1に示す実施形態では0.50以上とする。
【0046】
制約条件B:スループットの増加を防ぐために研磨時間τを所定値以下とする。例えば、表1に示す実施形態では1.00以下とする。
【0047】
制約条件C:研磨ヘッドの部材の破損を防ぐために、研磨圧力Pを所定値以下とする。例えば、表1に示す実施形態では2.00以下とする。
【0048】
制約条件D:スラリー成分の凝縮を防ぐため、研磨パッドの劣化を防ぐため、および定盤の熱割れを防ぐために、研磨中のウェーハの研磨対象表面またはその近傍の温度の最大値(以下、単に「温度の最大値」と記載する。)を所定値T以下とする。研磨中のウェーハの研磨対象表面またはその近傍の温度の詳細は、先に記載した通りである。所定値Tは、相関分析によって「式4:T=Z1+Z2τ+Z3P+Z4ω+Z5f」から求めることができる。τは研磨時間、fは研磨スラリー流量、Pは研磨圧力、ωは定盤・研磨ヘッド回転数であり、Z1、Z2、Z3、Z4およびZ5は相関分析によって決定された定数であり、正または負の値である。例えば、表1に示す実施形態では、式4は、相関分析によって以下の式(4)として求められ(R2=0.92)、所定値Tは、例えば50℃と算出できる。
式(4):
Tmax=17.04+0.76τ+7.31P+7.88ω-0.52f
【0049】
制約条件E:研磨中のウェーハの脱落を防ぐために、定盤・研磨ヘッド回転数ωを所定値以下とする。例えば、表1に示す実施形態では1.50以下とする。
【0050】
例えば、表1に示す実施形態において、上記制約条件A~Eの下、ΔQの目標値を50mm、100mm、150mmまたは200nmに設定し、制約条件Aのスラリー流量fを1.00に固定すると、式(3)から、式(3)が成立する研磨条件として、表2(表2-1~表2-4)に示す各種研磨条件を決定できる。
研磨条件は、例えば、以下のように決定することができる。
(i)ΔQの目標値を設定した後、制約条件Aを満たす範囲内でスラリー流量fを決定する。
(ii)次いで、制約条件Eを満たす範囲内で定盤・研磨ヘッド回転数ωを決定する。
(iii)その後、制約条件Bを満たす範囲内で研磨時間τを決定する。
(iv)上記(i)~(iii)においてスラリー流量f、定盤・研磨ヘッド回転数ωおよび研磨時間τが決定された後、決定された各種値を式(3)に代入し、式(3)においてΔQが設定した目標値または目標値に近い値となる値として、制約条件Cを満たす範囲内で研磨圧力Pを決定する。式(3)を構成する各種変数(τ、P、ωおよびf)の中で、研磨圧力Pは、制御が比較的容易なため最後に決定される値として適している。
表2中、制約条件の判定の欄に「OK」と記載されていることは、同表中の左隣の値が表1に示す実施形態について記載した上記制約条件を満たす範囲内であることを示す。なお、表2に示す研磨条件は例示であって、これら以外にも式(3)が成立する研磨条件は各種あり得る。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
上記研磨条件の決定方法によれば、例えば上記のように、半導体ウェーハの研磨条件を相関関係式3によって多くの試行錯誤を経ることなく決定することができる。
【0056】
[半導体ウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、
上記研磨条件の決定方法によって研磨条件を決定すること、および
決定された研磨条件によって半導体ウェーハの研磨を行うこと、
を含む、半導体ウェーハの製造方法、
に関する。
【0057】
上記半導体ウェーハの製造方法における研磨条件の決定の詳細は、先に記載した通りである。決定された研磨条件による研磨は、例えば片面研磨装置において行うことができる。先に説明した
図1に示されている半導体ウェーハの研磨装置は、片面研磨装置の一例である。例えば、
図1に示す半導体ウェーハ研磨装置において、研磨ヘッド10および定盤22を、それぞれ回転機構(図示せず)により回転させながら、ウェーハWの研磨対象表面と定盤22上に貼り合わされた研磨パッド21とを摺接させる。研磨剤供給機構40から排出される研磨剤41が、ウェーハWの研磨対象表面と研磨パッド21との間に供給され、ウェーハWの研磨対象表面が研磨される。研磨剤としては、CMP(chemical Mechanical Polishing)に通常使用される研磨スラリーを用いることができる。上記半導体ウェーハの製造方法については、上記のように研磨条件が決定される点以外は、研磨面を有する半導体ウェーハの製造方法に関する公知技術を適用することができる。研磨対象のウェーハは、例えばシリコンウェーハ(好ましくは単結晶シリコンウェーハ)であることができる。例えば、シリコンウェーハは、先に記載した方法により作製できる。上記のように決定された研磨条件によって行われる研磨は、例えば、ウェーハ加工の最終工程である仕上げ研磨であることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の一態様は、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハの技術分野において有用である。