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特許7544027セリウム化合物除去用洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】セリウム化合物除去用洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240827BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01L21/304 622Q
H01L21/304 ZAB
H01L21/304 622B
H01L21/304 647A
C11D7/32
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021501969
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020005988
(87)【国際公開番号】W WO2020171003
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2019027048
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 智博
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117057(JP,A)
【文献】特開2012-072267(JP,A)
【文献】特表2016-519423(JP,A)
【文献】特開2014-080614(JP,A)
【文献】特開2017-107905(JP,A)
【文献】特開2011-057833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)と成分(B)を含み、前記成分(B)が、第4級アンモニウム水酸化物を含み、界面活性剤を含まない、セリウム化合物除去用洗浄液。
成分(A):配位数が7以上のアミノポリカルボン酸化合物
成分(B):pH調整剤
【請求項2】
前記成分(A)が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【化1】
(上記一般式(1)において、X11~X15及びX21~X22は、それぞれ独立にCH、C又はCを示す。)
【化2】
(上記一般式(2)において、X31~X36及びX41~X43は、それぞれ独立にCH、C又はCを示す。)
【請求項3】
以下の成分(A)を含み、
前記成分(A)が、下記一般式(2)で表される化合物であり、界面活性剤を含まない、セリウム化合物除去用洗浄液。
成分(A):配位数が7以上のアミノポリカルボン酸化合物
【化3】
(上記一般式(2)において、X 31 ~X 36 及びX 41 ~X 43 は、それぞれ独立にCH 、C 又はC を示す。)
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物が、ジエチレントリアミン五酢酸を含む、請求項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【請求項5】
前記一般式(2)で表される化合物が、トリエチレンテトラミン六酢酸を含む、請求項2又は3に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【請求項6】
更に、以下の成分(B)を含む、請求項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
成分(B):pH調整剤
【請求項7】
前記成分(B)が、第4級アンモニウム水酸化物を含む、請求項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【請求項8】
更に、以下の成分(C)を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
成分(C):還元剤
【請求項9】
前記成分(C)が、アスコルビン酸を含む、請求項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【請求項10】
更に、以下の成分(D)を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
成分(D):水
【請求項11】
化学的機械的研磨後洗浄に用いる、請求項1~10のいずれか1項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【請求項12】
二酸化ケイ素が露出している面の洗浄に用いる、請求項1~11のいずれか1項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液を用いてセリウム化合物を除去する工程を含む、洗浄方法。
【請求項14】
半導体ウェハ上のセリウム化合物を除去する工程を含む、請求項13に記載の洗浄方法。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のセリウム化合物除去用洗浄液を用いてセリウム化合物を除去する工程を含む、半導体ウェハの製造方法。
【請求項16】
更に、セリウム化合物を含む研磨剤を用いて化学的機械的研磨を行う工程を含む、請求項15に記載の半導体ウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム化合物除去用洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハは、シリコン基板の上に、配線となる金属膜や層間絶縁膜の堆積層を形成した後に、研磨微粒子を含む水系スラリーからなる研磨剤を使用する化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing。以下、「CMP」と略す場合がある。)工程によって表面の平坦化処理を行い、平坦になった面の上に新たな層を積み重ねていくことで製造される。半導体ウェハの微細加工は、各層において精度の高い平坦性が必要であり、CMPによる平坦化処理の重要性は非常に高い。
【0003】
半導体デバイス製造工程では、トランジスタ等の素子を電気的に分離するために、従来のLOCOS(Local Oxidation of Silicon)に代わり、より微細化に適したSTI(Shallow Trench Isolation)による素子分離構造が用いられている。また、配線層の間には、ILD(Inter Layer Dielectric)が用いられている。STI及びILDは、TEOS(Tetraethyl Orthosilicate)等を原料として二酸化ケイ素を製膜し、CMP工程で平坦化を行うことにより作られる。
【0004】
CMP工程後の半導体ウェハの表面には、CMP工程で用いられた研磨剤の研磨微粒子やスラリー中に含まれる有機化合物由来の有機残渣等が多量に存在することから、これらを除去するため、CMP工程後の半導体ウェハは、洗浄工程に供される。
【0005】
近年、二酸化ケイ素のCMP工程では、研磨速度を速くするため、酸化セリウム等のセリウム系の研磨微粒子が用いられているが、セリウム系の研磨微粒子は、CMP工程中に二酸化ケイ素の表面と結合を形成するため、洗浄工程において除去が困難である。
【0006】
そのため、従来は、希釈フッ化水素酸や硫酸と過酸化水素との混合液(SPM)等の強力な薬品を用いて洗浄が行われていたが、安全性や廃液処理等の問題から、希釈フッ化水素酸やSPMに代わる洗浄液として、様々な洗浄液が提案されている。例えば、特許文献1には、還元剤を含む洗浄液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/136511号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示されている洗浄液は、酸性であるため、水溶液中でセリウム化合物が正に、半導体ウェハ表面が負に帯電し、セリウム化合物と半導体ウェハ表面の間に静電的な引力が働くため、セリウム化合物の除去性が不十分であった。
【0009】
また、希釈アンモニア水のようなアルカリ性洗浄剤を用いることも考えられる。希釈アンモニア水のようなアルカリ性洗浄剤を用いることで、水溶液中でセリウム化合物も半導体ウェハ表面も負に帯電し、セリウム化合物を含む微粒子と半導体ウェハ表面の間に静電的な斥力が働くため、セリウム化合物を含む微粒子の半導体ウェハ表面への再付着は抑制することができる。しかしながら、希釈アンモニア水のようなアルカリ性洗浄剤は、セリウム化合物と二酸化ケイ素との結合を切る能力が低く、セリウム化合物の除去性が不十分であった。
【0010】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、セリウム化合物の除去性に優れる洗浄液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従前、様々な成分を含む洗浄液が検討されていたが、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、後述する成分(A)を含む洗浄液を見出し、この洗浄液が、セリウム化合物の除去性に優れることを見出した。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]以下の成分(A)を含む、セリウム化合物除去用洗浄液。
成分(A):配位数が7以上のアミノポリカルボン酸化合物
[2]前記成分(A)が、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、[1]に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
【0013】
【化1】
【0014】
(上記一般式(1)において、X11~X15及びX21~X22は、それぞれ独立にCH、C又はCを示す。)
【0015】
【化2】
【0016】
(上記一般式(2)において、X31~X36及びX41~X43は、それぞれ独立にCH、C又はCを示す。)
[3]前記一般式(1)で表される化合物が、ジエチレントリアミン五酢酸を含む、[1]又は[2]に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
[4]前記一般式(2)で表される化合物が、トリエチレンテトラミン六酢酸を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
[5]更に、以下の成分(B)を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
成分(B):pH調整剤
[6]前記成分(B)が、第4級アンモニウム水酸化物を含む、[5]に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
[7]更に、以下の成分(C)を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
成分(C):還元剤
[8]前記成分(C)が、アスコルビン酸を含む、[7]に記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
[9]更に、以下の成分(D)を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
成分(D):水
[10]化学的機械的研磨後洗浄に用いる、[1]~[9]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
[11]二酸化ケイ素が露出している面の洗浄に用いる、[1]~[10]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液。
[12][1]~[11]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液を用いてセリウム化合物を除去する工程を含む、洗浄方法。
[13]半導体ウェハ上のセリウム化合物を除去する工程を含む、[12]に記載の洗浄方法。
[14][1]~[11]のいずれか1つに記載のセリウム化合物除去用洗浄液を用いてセリウム化合物を除去する工程を含む、半導体ウェハの製造方法。
[15]更に、セリウム化合物を含む研磨剤を用いて化学的機械的研磨を行う工程を含む、[14]に記載の半導体ウェハの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の洗浄液は、セリウム化合物の除去性に優れる。
また、本発明の洗浄方法は、セリウム化合物の除去性に優れる。
更に、本発明の半導体ウェハの製造方法は、セリウム化合物の除去性に優れる洗浄工程を含むため、半導体デバイスの動作不良を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0019】
(洗浄液)
(成分(A))
本発明の洗浄液(以下、単に「洗浄液」と称することがある。)は、セリウム化合物除去用であり、以下の成分(A)を含む。成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
成分(A):配位数が7以上のアミノポリカルボン酸化合物
【0020】
アミノポリカルボン酸化合物とは、分子中に少なくとも1つのアミノ基と複数のカルボキシル基とを有する化合物を意味する。当該アミノ基は、置換されていてもよい。
【0021】
本発明では、アミノポリカルボン酸化合物の配位数は7以上である。アミノポリカルボン酸化合物の配位数とは、金属(セリウム)と配位結合が可能な部位の数を意味し、例えば、後述する一般式(1)であれば、3つのアミノ基と5つのカルボキシル基との合計で配位数が8、後述する一般式(2)であれば、4つのアミノ基と6つのカルボキシル基との合計で配位数が10となる。
【0022】
アミノポリカルボン酸化合物の配位数が7以上であると、セリウムイオンの配位数を満たし、本発明の洗浄液がセリウム化合物の除去性に優れる。
【0023】
本発明の洗浄液は、配位数が7以上のアミノポリカルボン酸化合物を含むことで、セリウムイオンに選択的に作用し、二酸化ケイ素にダメージを与えることなくセリウム化合物と二酸化ケイ素との結合を切ることができ、セリウム化合物の除去性と二酸化ケイ素の低ダメージ性に優れる。
【0024】
アミノポリカルボン酸化合物の配位数は、セリウムへの配位力の観点から、8以上が好ましい。また、アミノポリカルボン酸化合物の配位数は、セリウムへの配位力の観点から、14以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
【0025】
アミノポリカルボン酸化合物が有する金属(セリウム)と配位結合が可能な部位としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、フォスフィノ基、チオール基等が挙げられる。これらの中でも、セリウムへの配位力の観点から、アミノ基、カルボキシル基が好ましい。
【0026】
また、配位数が7以上のアミノポリカルボン酸化合物は、セリウムへの配位力の観点から、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、下記一般式(1)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。
【0027】
【化3】
【0028】
上記一般式(1)において、X11~X15及びX21~X22は、それぞれ独立にCH、C又はCを示す。また、X11~X15は、セリウムへの配位力の観点から、それぞれ独立にCH、Cであることが好ましく、CHであることがより好ましい。X21~X22は、セリウムへの配位力の観点から、それぞれ独立にCH、Cであることが好ましく、CHであることがより好ましい。
【0029】
【化4】
【0030】
上記一般式(2)において、X31~X36及びX41~X43は、それぞれ独立にCH、C又はCを示す。また、X31~X36は、セリウムへの配位力の観点から、それぞれ独立にCH、Cであることが好ましく、CHであることがより好ましい。X41~X43は、セリウムへの配位力の観点から、それぞれ独立にCH、Cであることが好ましく、CHであることがより好ましい。
【0031】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸、ジプロピレントリアミン五酢酸、ジブチレントリアミン五酢酸等が挙げられる。これらの中でも、セリウムへの配位力の観点から、上記一般式(1)で表される化合物は、ジエチレントリアミン五酢酸を含むことが好ましい。
【0032】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリプロピレンテトラミン六酢酸、トリブチレンテトラミン六酢酸等が挙げられる。これらの中でも、セリウムへの配位力の観点から、上記一般式(2)で表される化合物は、トリエチレンテトラミン六酢酸を含むことが好ましい。
【0033】
(成分(B))
本発明の洗浄液は、洗浄液のpHを調整することができることから、成分(A)以外に、以下の成分(B)を含むことが好ましい。
成分(B):pH調整剤
【0034】
成分(B)としては、例えば、酸、アルカリ等が挙げられる。これらの成分(B)の中でも、ゼータ電位を調整し、成分(A)の効果を十分に発揮させることができることから、アルカリが好ましい。
【0035】
酸としては、例えば、無機酸、有機酸等が挙げられる。これらの酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの酸の中でも、金属不純物が少ないことから、無機酸、有機酸が好ましく、有機酸がより好ましい。
【0036】
無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらの無機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの無機酸の中でも、揮発性が低いことから、硫酸、リン酸が好ましく、硫酸がより好ましい。
【0037】
有機酸としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基を有する有機化合物等が挙げられる。これらの有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの有機酸の中でも、キレート力に優れることから、アミノ基を有する有機化合物、カルボキシル基を有する有機化合物が好ましく、カルボキシル基を有する有機化合物がより好ましい。
【0038】
アルカリとしては、例えば、無機アルカリ、有機アルカリ等が挙げられる。これらのアルカリは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのアルカリの中でも、製造が容易であることから、無機アルカリ、有機アルカリが好ましく、金属成分を含まないことから、アンモニア、第4級アンモニウム水酸化物、アルカノールアミン化合物がより好ましく、洗浄後の半導体ウェハ上に残存することを抑制することができることから、第4級アンモニウム水酸化物、アルカノールアミン化合物が更に好ましく、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、エタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミンが特に好ましい。
【0039】
(成分(C))
本発明の洗浄液は、セリウム化合物を還元して、セリウム化合物の除去性を高めることができることから、成分(A)以外に、以下の成分(C)を含むことが好ましい。
成分(C):還元剤
【0040】
成分(C)としては、例えば、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、没食子酸、没食子酸メチル、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、二酸化チオ尿素、ハイドロサルファイトナトリウム等が挙げられる。これらの成分(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの成分(C)の中でも、還元力に優れることから、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸等のアスコルビン酸が好ましく、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸がより好ましく、L-アスコルビン酸が更に好ましい。
【0041】
(成分(D))
本発明の洗浄液は、微粒子除去性に優れることから、成分(A)以外に、以下の成分(D)を含むことが好ましい。
成分(D):水
【0042】
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられ、これらの中でも、セリウム化合物の除去性をより高める観点から、超純水が好ましい。
【0043】
(他の成分)
本発明の洗浄液は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)~成分(D)以外の他の成分を含んでもよい。
他の成分としては、例えば、界面活性剤、エッチング抑制剤等が挙げられる。
【0044】
(洗浄液の物性)
洗浄液のpHは、9~14が好ましく、10~13.5がより好ましく、11~13が更に好ましい。pHが9以上であると、成分(A)由来の水素イオンが十分に解離し、成分(A)の効果を十分に発揮させることができると共に、セリウム化合物を含む微粒子も半導体ウェハ表面も負に帯電し、セリウム化合物を含む微粒子の半導体ウェハ表面への再付着を抑制することができる。また、pHが14以下であると、半導体ウェハのダメージを抑制することができる。
【0045】
(各成分の質量比)
本発明の洗浄液が成分(B)を含む場合、成分(B)に対する成分(A)の質量比(成分(A)の質量/成分(B)の質量)は、0.1~60が好ましく、0.2~10がより好ましい。成分(B)に対する成分(A)の質量比が0.1以上であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。また、成分(B)に対する成分(A)の質量比が60以下であると、洗浄液のpHを容易に調整することができる。
【0046】
本発明の洗浄液が成分(C)を含む場合、成分(C)に対する成分(A)の質量比(成分(A)の質量/成分(C)の質量)は、1~200が好ましく、5~150がより好ましい。成分(C)に対する成分(A)の質量比が1以上であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。また、成分(C)に対する成分(A)の質量比が200以下であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。
【0047】
本発明の洗浄液が成分(B)及び成分(C)を含む場合、成分(B)に対する成分(C)の質量比(成分(C)の質量/成分(B)の質量)は、0.01~5が好ましく、0.05~1がより好ましい。成分(B)に対する成分(C)の質量比が0.01以上であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。また、成分(B)に対する成分(C)の質量比が5以下であると、洗浄液のpHを容易に調整することができる。
【0048】
(洗浄液中の各成分の含有率)
成分(A)の含有率(質量%)は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~30質量%が好ましく、0.005質量%~20質量%がより好ましく、0.01質量%~15質量%が更に好ましい。成分(A)の含有率が0.001質量%以上であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。また、成分(A)の含有率が30質量%以下であると、成分(A)を成分(D)に溶解させることができ、洗浄液の製造コストを抑制することができる。
【0049】
成分(A)の含有率(mmol/L)は、0.025mmol/L~750mmol/Lが好ましく、0.125mmol/L~500mmol/Lがより好ましく、0.25mmol/L~375mmol/Lが更に好ましい。成分(A)の含有率が0.025mmol/L以上であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。また、成分(A)の含有率が750mmol/L以下であると、成分(A)を成分(D)に溶解させることができ、洗浄液の製造コストを抑制することができる。
【0050】
本発明の洗浄液が成分(B)を含む場合、成分(B)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~30質量%が好ましく、0.005質量%~20質量%がより好ましく、0.01質量%~15質量%が更に好ましい。成分(B)の含有率が0.001質量%以上であると、洗浄液のpHを容易に調整することができる。また、成分(B)の含有率が30質量%以下であると、本発明の効果を損なうことなく、洗浄液のpHを調整することができる。
【0051】
本発明の洗浄液が成分(C)を含む場合、成分(C)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.0005質量%~10質量%が好ましく、0.001質量%~5質量%がより好ましく、0.002質量%~2.5質量%が更に好ましい。成分(C)の含有率が0.0005質量%以上であると、洗浄液はセリウム化合物の除去性により優れる。また、成分(C)の含有率が10質量%以下であると、成分(C)を成分(D)に溶解させることができ、洗浄液の製造コストを抑制することができる。
【0052】
本発明の洗浄液が他の成分を含む場合、他の成分の含有率は、洗浄液100質量%中、20質量%以下が好ましく、0.001質量%~10質量%がより好ましく、0.01質量%~5質量%が更に好ましい。他の成分の含有率が20質量%以下であると、本発明の効果を損なうことなく、他の成分の効果を付与することができる。
【0053】
本発明の洗浄液が成分(D)を含む場合、成分(D)の含有率は、成分(D)以外の成分(成分(A)~成分(C)及び他の成分)の残部とすることが好ましい。
【0054】
(洗浄液の製造方法)
本発明の洗浄液の製造方法は、特に限定されず、成分(A)、並びに、必要に応じて、成分(B)~成分(D)及び他の成分を混合することで製造することができる。
混合の順番は、特に限定されず、一度にすべての成分を混合してもよく、一部の成分を予め混合した後に残りの成分を混合してもよい。
【0055】
本発明の洗浄液の製造方法は、洗浄に適した含有率になるように、各成分を配合してもよいが、輸送や保管等のコストを抑制することができることから、成分(D)以外の各成分を高含有率で含む洗浄液を調製した後、洗浄前に成分(D)で希釈して洗浄液を調製してもよい。
希釈する倍率は、洗浄対象に応じて適宜設定できるが、30倍~150倍が好ましく、40倍~120倍がより好ましい。
【0056】
(洗浄対象)
本発明の洗浄液の洗浄対象としては、例えば、半導体ウェハ、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体等が挙げられる。これらの洗浄対象の中でも、本発明の効果が顕著に優れることから、二酸化ケイ素が露出している面を有するものが好ましく、二酸化ケイ素が露出している面を有する半導体ウェハがより好ましい。
【0057】
二酸化ケイ素が露出している面を有する半導体ウェハの表面では、二酸化ケイ素以外に、窒化ケイ素や金属が共存してもよい。
【0058】
(洗浄工程の種類)
本発明の洗浄液は、セリウム化合物の除去性に優れることから、化学的機械的研磨後洗浄に好適に用いることができる。
【0059】
化学的機械的研磨(CMP)工程とは、半導体ウェハの表面を機械的に加工し、平坦化する工程のことをいう。通常、CMP工程では、専用の装置を用い、半導体ウェハの裏面をプラテンと呼ばれる治具に吸着させ、半導体ウェハの表面を研磨パッドに押し付け、研磨パッド上に研磨粒子を含む研磨剤を垂れ流し、半導体ウェハの表面を研磨する。
【0060】
(CMP)
CMPは、研磨剤を用いて、被研磨体を研磨パッドに擦り付けて行われる。
研磨剤は、水に不溶で被研磨体を研磨できるものであれば特に限定されないが、本発明の洗浄液の効果を十分に発揮させることができることから、研磨微粒子が好ましく、セリウム化合物の研磨微粒子がより好ましい。
【0061】
研磨微粒子は、セリウム化合物の研磨微粒子以外に、コロイダルシリカ(SiO)やフュームドシリカ(SiO)やアルミナ(Al)を含有してもよい。
【0062】
セリウム化合物としては、例えば、酸化セリウム、水酸化セリウム等が挙げられる。これらのセリウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのセリウム化合物の中でも、研磨速度、低スクラッチ性に優れることから、酸化セリウム、水酸化セリウムが好ましく、酸化セリウムがより好ましい。
【0063】
研磨剤には、研磨微粒子以外にも、酸化剤、分散剤等の添加剤が含まれることがある。特に、金属が露出している面を有する半導体ウェハにおけるCMPでは、金属が腐食しやすいため、防食剤が含まれることが多い。
【0064】
本発明の洗浄液は、このようなセリウム化合物の研磨微粒子を含む研磨剤で研磨した後の二酸化ケイ素が露出している面を有する半導体ウェハに適用すると、セリウム化合物に由来した半導体ウェハの汚染を極めて効果的に除去することができる。
【0065】
(洗浄条件)
洗浄対象への洗浄方法は、本発明の洗浄液を洗浄対象に直接接触させる方法が好ましい。
本発明の洗浄液を洗浄対象に直接接触させる方法としては、例えば、洗浄槽に本発明の洗浄液を満たして洗浄対象を浸漬させるディップ式;洗浄対象の上にノズルから本発明の洗浄液を流しながら洗浄対象を高速回転させるスピン式;洗浄対象に本発明の洗浄液を噴霧して洗浄するスプレー式等が挙げられる。これらの方法の中でも、短時間でより効率的な汚染除去ができることから、スピン式、スプレー式が好ましい。
【0066】
このような洗浄を行うための装置としては、例えば、カセットに収容された複数枚の洗浄対象を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1個の洗浄対象をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置等が挙げられる。これらの装置の中でも、洗浄能力に優れていることから、枚葉式洗浄装置が好ましい。
【0067】
洗浄対象への洗浄方法は、洗浄対象に付着した微粒子による汚染の除去性が更に向上し、洗浄時間の短縮ができることから、物理力による洗浄方法が好ましく、洗浄ブラシを用いるスクラブ洗浄、周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄がより好ましく、CMP後の洗浄により好適であることから、樹脂製ブラシを用いるスクラブ洗浄が更に好ましい。
【0068】
樹脂製ブラシの材質は、特に限定されないが、樹脂製ブラシ自体の製造が容易であることから、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールが好ましい。
【0069】
洗浄温度は、室温でもよく、半導体ウェハの性能を損なわない範囲で30~70℃に加温してもよい。
【0070】
(洗浄方法)
本発明の洗浄方法は、本発明の洗浄液を用いてセリウム化合物(例えば、半導体ウェハ上のセリウム化合物)を除去する工程を含む方法であり、前述した通りである。
【0071】
(半導体ウェハの製造方法)
本発明の半導体ウェハの製造方法は、本発明の洗浄液を用いてセリウム化合物を除去する工程を含む方法であり、前述したように、セリウム化合物を含む研磨剤を用いて化学的機械的研磨を行う工程を含むことが好ましい。
【実施例
【0072】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0073】
(原料)
成分(A-1):ジエチレントリアミン五酢酸(東京化成工業株式会社製)
成分(A-2):トリエチレンテトラミン六酢酸(東京化成工業株式会社製)
成分(A’-1):モノエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)
成分(B-1):テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製)
成分(C-1):L-アスコルビン酸(東京化成工業株式会社製)
成分(D-1):水
【0074】
(pH測定)
実施例1~6及び比較例1~2で得られた洗浄液を、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、pH計(機種名「D-74」、株式会社堀場製作所製)により、pHを測定した。
【0075】
(酸化セリウム残留量測定)
テトラエトキシシラン(TEOS)を用いてプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により二酸化ケイ素膜を成膜したシリコン基板を30mm×30mmに切断した。次いで、酸化セリウムを含む研磨剤(粒子径が200nm以下の酸化セリウム微粒子の水分散液)と研磨パッド(商品名「IC1000」、ニッタ・ハース株式会社製)とを用いて、シリコン基板を30秒間化学的機械的研磨(CMP)した。
【0076】
次いで、シリコン基板を実施例1~6及び比較例1~2で得られた洗浄液中に入れ、5分間超音波洗浄した。次いで、シリコン基板を水で濯ぎ、乾燥させ、蛍光X線分析装置(機種名「ZSX100e」、株式会社リガク製)を用いて、シリコン基板の表面に残留した酸化セリウムの量(μg/cm)を測定した。
【0077】
[実施例1]
洗浄液100質量%中、成分(A-1)が0.39質量%、成分(B-1)が0.88質量%、成分(D-1)が残部となるよう、各成分を混合し、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2~6、比較例1~2]
原料の種類及び含有率を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様に操作を行い、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から分かるように、成分(A)を含む実施例1~6で得られた洗浄液は、酸化セリウムの残留量を抑制することができた。
【0081】
一方、比較例1及び2で得られた洗浄液は、成分(A)を含まなかったため、酸化セリウムの残留量を抑制することができなかった。
【0082】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年2月19日出願の日本特許出願(特願2019-27048)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の洗浄液は、セリウム化合物の除去性に優れることから、化学的機械的研磨後洗浄に好適に用いることができる。