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特許7544041ナノメッシュ積層体、導電回路の製造方法、及びナノメッシュ貼り付けキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ナノメッシュ積層体、導電回路の製造方法、及びナノメッシュ貼り付けキット
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/22 20060101AFI20240827BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240827BHJP
   A61B 5/257 20210101ALI20240827BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20240827BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B32B5/22
B32B27/30 102
B32B27/18 F
A61B5/257
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021522812
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020911
(87)【国際公開番号】W WO2020241685
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019100247
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019150227
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊栖 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 友英
(72)【発明者】
【氏名】小野 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】小出 史代
(72)【発明者】
【氏名】小森 尭
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112246(JP,A)
【文献】特開2014-214133(JP,A)
【文献】特表2013-544259(JP,A)
【文献】特開2011-132634(JP,A)
【文献】特開2009-263818(JP,A)
【文献】特開2018-048415(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A61B 5/0408
5/257
H01B 5/14
7/06
13/00
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網状基材(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、水及び/又はアルコールにて溶解するナノメッシュ層(B)とが隣接して積層されたナノメッシュ積層体であって、
前記網状基材(A)の開孔率が10~45%であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70~100モル%であって
前記ナノメッシュ層(B)が化粧料有効成分又は医薬有効成分を含有する、
ノメッシュ積層体。
【請求項2】
前記ナノメッシュ層(B)における前記有効成分の含有量が0.0001重量%以上10重量%以下である、請求項1に記載のナノメッシュ積層体。
【請求項3】
網状基材(A)と、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とし、水及び/又はアルコールにて溶解するナノメッシュ層(B)とが隣接して積層されたナノメッシュ積層体であって、
前記網状基材(A)の開孔率が55~80%であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70~100モル%であって、
前記ナノメッシュ層(B)が化粧料有効成分又は医薬有効成分を含有し、
前記有効成分の含有量が0.0001重量%以上10重量%以下である、
ナノメッシュ積層体。
【請求項4】
前記ナノメッシュ層(B)が経皮吸収促進剤を含み、
前記経皮吸収促進剤が、脂肪酸エステル類、グリセリンエステル類、酸アミド類、中性界面活性剤、不飽和脂肪酸、及びイオン液体のいずれか1つを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載のナノメッシュ積層体。
【請求項5】
前記経皮吸収促進剤が、脂肪酸エステル類、グリセリンエステル類、及び中性界面活性剤、不飽和脂肪酸の少なくともいずれかを含む、請求項4に記載のナノメッシュ積層体。
【請求項6】
前記ナノメッシュ層(B)が化粧料有効成分を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のナノメッシュ積層体。
【請求項7】
網状基材(A)上に、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)と、導電性物質層(C)と、を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のナノメッシュ積層体。
【請求項8】
網状基材(A)上に、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)と、導電性物質層(C)と、これらを保護する保護層と、がこの順に積層された、請求項1~7のいずれか1項に記載のナノメッシュ積層体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のナノメッシュ積層体を所望の場所に載置するステップ、及び前記ナノメッシュ積層体とアルコール水溶液又は水とを接触させるステップ、を含む、導電回路の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のナノメッシュ積層体と、アルコール水溶液又は水を担持させた担持体と、を含む、ナノメッシュ貼り付けキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノメッシュ積層体に関し、好ましくは導電性ナノメッシュ積層体に関する。また、該導電性ナノメッシュ積層体を用いて導電回路を製造する方法、更には該ナノメッシュ積層体を含むナノメッシュ貼り付けキットに関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルな基材上にエレクトロニクスデバイスを形成する、フレキシブルエレクトロニクスが研究されており、生体への適用についても研究が進んでいる。
例えば、高い表面追従性を有し、長期間安定的に使用可能なものとして、開口部を有する基材と、開口部の周囲を外枠として懸架された繊維網を有する電子機能部材が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、通気性と伸縮性を兼ね備えた皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーを、生体適合性がありかつ生分解性も期待できるポリビニルアルコール(PVA)樹脂を用いて作成することが提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1に開示されたナノメッシュセンサーは、エレクトロスピニング法により作成されたPVAナノファイバーのメッシュの一方の面に、導電性の金属等をコートしたものである。このナノメッシュセンサーを皮膚上におき、水を吹きかけることで導電性金属等のナノファイバーメッシュが皮膚表面に接着し、接着した導電性金属等のナノファイバーメッシュが皮膚の変形等に追随し、関節等への適用が可能で、各種センサーへの配線等に使用することができる。特に導電性金属等として金を用いること、メッシュ構造であり皮膚呼吸等を妨げないこと、により、ナノメッシュ装着に起因する不快感、炎症が発生することがきわめて少なくなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-112246号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】“皮膚呼吸が可能な皮膚貼り付け型ナノメッシュセンサーの開発に成功”、[online]、東京大学、科学技術振興機構、慶應義塾大学、理化学研究所、[平成31年2月25日検索]、インターネット<URL:http://www.jst.go.jp/pr/announce/20170718/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の電子機能部材は、エレクトロスピニング法により繊維網を形成し、その上に蒸着法、スパッタ法などにより導電性物質を被覆させている。
しかしながら、ナノメッシュセンサーを実用化しようとする場合、ナノメッシュ自身が繊細であり、使用前にナノメッシュが損傷してしまう、あるいは基材からナノメッシュを剥離させる際にナノメッシュが破損する、など、その使い勝手に改善の余地があった。
【0008】
このような意図しない損傷を防ぐために、剥離材として金属箔等を用いることが考えられるが、エレクトロスピニング法との相性の関係で用いることができない。また、剥離材として樹脂シートを用いる場合には、剥離性に課題がある。そこで、現実的な方法として、剥離材としてシリコーン加工耐油紙(クッキングシート)を用いることを余儀なくされていた。しかしながら、それでも剥がしにくく、更に剥がした後のナノメッシュの平滑性にも課題があり、取り扱い性に依然難があることは否めなかった。
【0009】
このような状況下、本発明者らは特定のテープ剥離力を有する剥離材上に、導電性物質でコートされたナノメッシュを有する導電性ナノメッシュ材料を提案している(特願2019-65956)。当該ナノメッシュは、剥離剤から剥離した後に皮膚に配置して、ナノメッシュに水などを吹きかけてナノメッシュを溶かすことで、導電性物質からなる配線が皮膚上に形成されるものである。
【0010】
しかしながら、剥離材から剥離した後のナノメッシュは薄くて軽いため、所望の位置に貼り付けることが困難であった。例えば貼り付ける部位が小さい場合には、位置決めが困難であり、また貼り付ける部位が大きい場合には、先に接着した部分と、未だ接着されていない部分との間に歪みを生じ、均一に貼り付けることが困難であった。
本発明は、ナノメッシュ材料を所望の場所に貼付することが容易で、且つ貼付の際にゆがみが生じにくい、ナノメッシュ積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく改良を重ね、網状基材(A)とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)とが隣接して積層されたナノメッシュ積層体により、容易に貼り付けが可能で、且つ貼付の際にゆがみが生じにくい、ナノメッシュ積層体を提供できることを見出した。
更に、PVA系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)と導電性物質層(C)との積層体の、設置面とは反対側の面に網状基材(A)を設けることで、ナノメッシュ積層体自身の位置決めを容易に行うことが可能となり、且つ先に接着した部分と、未だ接着されていない部分との間に歪みが生じにくくなることを見出した。
このようにナノメッシュ層(B)と導電性物質層(C)との積層体の、設置面とは反対側の面に網状基材(A)を設けることで、網状基材(A)が網目状であることから、所望の設置個所に網状基材(A)ごとナノメッシュ積層体を配置した後に霧吹きを用いて、また、水などを含ませた脱脂綿等の担持体を用いて水などを積層体に供給することで、積層体に供給された水や蒸気や被着体表面の結露水等によりPVA系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)が溶解し、導電性物質層(C)を所望の位置に貼り付けることが可能となる。また、貼付の際に網状基材(A)がそのまま存在することで、貼付の際の歪みが生じにくい。
【0012】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
[1]網状基材(A)とポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)とが隣接して積層されたナノメッシュ積層体。
[2]網状基材(A)上に、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)と導電性物質層(C)と、を有する、[1]に記載のナノメッシュ積層体。
[3]網状基材(A)上に、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)と、導電性物質層(C)と、これらを保護する保護層と、がこの順に積層された、[1]又は[2]に記載のナノメッシュ積層体。
[4]前記網状基材(A)の開孔率が55~80%である、[1]~[3]のいずれかに記載のナノメッシュ積層体。
[5]開孔率が55~80%である網状基材(A)と、ポリビニルアルコールを主成分とし化粧料成分又は医薬成分を含有するナノメッシュ層(B1)とが隣接して積層された、[1]~[3]のいずれかに記載のナノメッシュ積層体。
[6]前記網状基材(A)の開孔率が10~45%である、[1]~[3]のいずれかに記載のナノメッシュ積層体。
[7]開孔率が10~45%である網状基材(A)と、ポリビニルアルコールを主成分とし化粧料成分又は医薬成分を含有するナノメッシュ層(B1)とが隣接して積層された、[1]~[3]のいずれかに記載のナノメッシュ積層体。
[8][1]~[7]のいずれかに記載のナノメッシュ積層体を所望の場所に載置するステップ、及び前記ナノメッシュ積層体とアルコール水溶液又は水とを接触させるステップ、を含む、導電回路の製造方法。
[9][1]~[7]のいずれかに記載のナノメッシュ積層体と、アルコール水溶液又は水を担持させた担持体と、を含む、ナノメッシュ貼り付けキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ナノメッシュ材料、好ましくは導電性のナノメッシュ材料を所望の場所に貼付することが容易であり、且つ貼付の際に歪みを生じにくい、ナノメッシュ積層体を提供することができる。
また、当該ナノメッシュ積層体を所望の場所に載置した後、水またはアルコール水溶液を用いてナノメッシュ積層体を貼り付けることで、貼り付けに要する時間が短縮され、導電性物質層が所望の位置から動いてしまうことを防ぐことができる。
更に、ナノメッシュ積層体と、水またはアルコール水溶液を含浸させた脱脂綿などの担持体と、を組み合わせたナノメッシュ貼り付けキットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の実施形態を示す断面模式図である。
図2】本発明の一実施形態を示す断面模式図である。
図3】本発明の別の一実施形態を示す断面模式図である。
図4】本発明の別の一実施形態を示す断面模式図である。
図5】本発明の別の一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本発明の一実施形態は、網状基材(A)とポリビニルアルコール系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)とが隣接して積層されたナノメッシュ積層体である。
【0017】
網状基材(A)は、液体や蒸気を通過させ得る網目を有する基材であり、その開孔率は特に限定されないが、短時間での貼付けのためには水、アルコール水溶液、水蒸気、アルコール蒸気などの透過率を高くするため、開孔率が55%~80%が好ましい。
一方、ナノメッシュにより転写するパターンに正確さを求められる場合、例えば抵抗値を測定するような場合や、転写されるパターンに細かい部分がある場合、例えば転写されるパターンの一部に太さが2mm以下、特に1mm以下の幅しかないような部分がある場合には、パターンを正確に転写するため、貼り付け時にナノメッシュ積層体、特に導電性物質層にかかる圧力が分散し、ナノメッシュ積層体、特に導電性物質層へのダメージを抑制するため、基体のメッシュの開孔率は10%以上45%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
開孔率を低くすることで、網状基材を液体の状態で通過するものより、水蒸気やアルコール蒸気のような気体で通過し、貼付面で結露し、貼り付け面側からナノメッシュ層を溶解し貼り付けるものが増えるため、より正確な転写が可能になると考えられる。
【0018】
網状の形状としては、格子形状であってよく、網状の格子形状としては、例えば、60°千鳥型、角千鳥型、並列型、長丸穴千鳥型、長丸穴並列型、角穴千鳥型、角穴並列型、六角形60°千鳥型、長角穴千鳥型、長角穴並列型などが挙げられる。ナノメッシュ層(B)との密着性から角穴並列型が好ましい。
開孔率は、その基材の開孔部のパターンが規則的なものの場合には、そのパターンに基づき計算により求めればよい。
また基材が網戸のように開孔部のパターンが規則的な場合や不織布のように開孔部のパターンが不規則な場合でも、以下のように開孔部のパターンを2値化することで、開孔率を求めることができる。例えば、倍率10倍の光学顕微鏡にて、そのパターンを2値化して取り込み、全体の面積に対する開孔部の割合を計算することにより求めることができる。2値化を行うための1グリッドの大きさとしては、0.1mm×0.1mm程度の範囲で測定すればよい。また、特にその開孔部のパターンが不規則なものであれば、1cm×1cmの範囲を倍率10倍程度とした画像を撮り、0.1mm×0.1mmを1グリッドとして、開孔部の割合を求めることで、開孔率を得ることができる。
開孔率の確認方法としては、ナノメッシュ積層体から網状基材を剥がし、水等の溶剤等によりナノメッシュ層を除去した上で、光学顕微鏡を用いて網状基材を観察し、上述のようにして、開孔率を求めることができる。
【0019】
また、網状基材(A)の材質としては、一般的に用いられる熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエステルなどが挙げられる。ナノメッシュ層の剥離の容易性の点から、疎水性が高いポリエチレン、ポリポリプロピレンが好ましい。また、柔軟性の点で好ましくはポリエチレンである。さらに、強度の点からはポリプロピレンが好ましい。
【0020】
網状基材(A)の厚さは、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上であり、通常500μm以下、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下である。網状基材(A)の厚さをこの範囲にすることで、ナノメッシュ層(B)の支持が十分になり、かつ被着体への追随が容易になる。また、網状基材(A)は、液体を透過できればその網目の粗さは特段限定されないが、通常目開き50nm以上、好ましくは目開き100nm以上であり、また通常目開き20mm以下、好ましくは目開き10mm以下である。
【0021】
ナノメッシュ層(B)は、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とする。本明細書で「主成分」とは最も多い成分をいい、主成分はナノメッシュ層(B)中、50重量%以上であってよく、70重量%以上であってよく、90重量%以上であってよく、100重量%以上であってよい。そのためナノメッシュ層(B)には、PVA系樹脂以外の繊維を含んでいてもよい。PVA系樹脂以外の繊維としては、水溶性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドなどの合成高分子や、ゼラチン、プルラン、水溶性コラーゲンなどの天然高分子及びその化学変性高分子(但し、増粘性多糖類を除く)が挙げられる。
【0022】
ナノメッシュ層(B)を構成するPVA系樹脂の繊維径は、50nm以上が好ましく、より好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、特に好ましくは300nm以上である。また、通常1000nm以下であり、好ましくは900nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは600nm以下、特に好ましくは500nm以下である。かかる繊維径とすることで、積層体の耐久性が十分になり、また導電性物質層の密度が十分なものとしやすいため好ましい。
繊維径は、エレクトロスピニング法においては、例えばナノメッシュ層製造時に用いる紡糸液の濃度によって調整できる。紡糸液中のPVA系樹脂あるいはPVA系樹脂および水溶性樹脂の濃度の増加と共に繊維径は太くなる。また、メルトブロー法においては、例えばナノメッシュ層製造時に用いる紡糸液の吐出量によって調整できる。PVA系樹脂あるいはPVA系樹脂および水溶性樹脂からなる紡糸液の吐出量の増加と共に繊維径は太くなる。
【0023】
PVA系樹脂としては、無変性PVAや、カルボキシル基含有PVA、スルホ基含有PVA、アセトアセチル基含有PVA、側鎖に1,2-ジオール構造などを有する変性PVAが挙げられる。中でも生体への適合性の点で、無変性PVAが好ましい。
PVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とケン化されずに残存したビニルエステル構造単位から構成される。
なお、無変性PVAは、ビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位のみからなり、変性PVAは、ビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位とさらにそれ以外の構造単位を有するPVAである。
【0024】
本実施形態に使用されるPVA系樹脂の平均重合度は、300以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、400以上がさらに好ましく、500以上が特に好ましい。この範囲とすることで、ナノメッシュの強度が向上する。一方3500以下であることが好ましく、3000以下がより好ましく、2500以下が更に好ましく、2300以下が特に好ましい。この範囲とすることで、PVA系樹脂を容易に製造することができる。
なお、本実施形態において、PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。
【0025】
PVA系樹脂のケン化度は70~100モル%であることが好ましく、70~95モル%がより好ましく、70~92モル%が更に好ましく、70~90モル%が特に好ましい。
PVA系樹脂のケン化度を70モル%以上とすることで柔軟性と粘着性が適正な範囲に保たれ、成形物が使用しやすくなる。一方、PVA系樹脂は完全ケン化物(すなわち、ケン化度100モル%)であってもよいが、前述の範囲とすることでナノメッシュ層(B)の製造が容易となる。
なお、本実施形態において、PVA系樹脂のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求められた値とする。
【0026】
その他、ナノメッシュ層(B)を構成する成分として、可塑剤や増粘剤等が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール、あるいはこれらのアルキレンオキサイド付加物を配合することができる。PVA系樹脂に対する可塑剤として特に好ましくは、グリセリンである。可塑剤の添加量は、目的とする柔軟性および溶解性を得るために十分な量を添加すればよく、特に限定されないが、通常PVA系樹脂100重量部に対し、30重量部以下が好ましく、さらに好ましくは10~15重量部である。フィルム変形の許容度が小さい用途においては、可塑剤の添加量は、PVA系樹脂100重量部に対し、2重量部以下とすることが好ましい。
増粘剤としては、例えば、多糖類、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム等のガラクトマンナン類、キタンサンガム、低アシル型ジェランガム(以下「LAジェランガム」ともいう。)等のジェランガム、ウェランガム、ラムザンガム、ダイユータンガム等の発酵多糖類、デンプン、デキストリン等のグルコース類、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、オウルラン等が挙げられるが、上記増粘性を有する限りこれら以外の増粘性多糖類も使用することができる。
【0027】
ナノメッシュ層(B)の製造方法としては、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)、メルトブロー法、海島溶融紡糸法等があげられる。
エレクトロスピニング法は、周知の手段によって行うことができ、一般的に、高分子材料を溶解した溶液(紡糸液)をシリンジに充填し、シリンジのノズルと導電性のコレクターとの間に高電圧を印加して、溶液をジェット状に飛散させ、飛散の過程で溶媒が揮発することで繊維をコレクターに堆積させる。
支持体上にナノメッシュ層(B)を形成するために、支持体を導電性にしてそのままコレクターとして用いてもよいが、ノズルとコレクターとの間に支持体を置いてもよい。
【0028】
メルトブロー法は一般的な不織布の製造方法であるが、ナノメッシュを製造するためには、ノズル径を小さくして、樹脂の吐出量を小さくし、製造する。
海島溶融紡糸法は、海ポリマー中に多数の島ポリマーを配置できる口金を用いて、島数が数十~数百の海島複合繊維を作製し、これから海ポリマーを溶剤で除去することで島ポリマーからなる極細繊維を得る方法である。
【0029】
エレクトロスピニング法を行う条件は、特に限定されず、紡糸液の種類や得られる微細繊維の用途等に応じて適宜調整すればよい。一般的な条件としては、例えば、印加電圧は5~30kV、吐出速度は0.01~1.00mL/分、ノズルと基板の間の垂直距離は100~200mmとすることができ、ノズルは15~25Gの径のものを使用することができる。紡糸環境は、特段厳密に制御を行わなくてもよいが、相対湿度10~50RH%、温度を10~25℃とすることが好ましい。
【0030】
エレクトロスピニング法に供する紡糸液に用いる溶媒としては、PVA系樹脂の良溶媒であることが好ましい。また加えて水溶性樹脂を用いる場合には、PVA系樹脂および水溶性樹脂の良溶媒であることが好ましい、さらに増粘多糖類を加える場合には、PVA系樹脂および水溶性樹脂の良溶媒であって且つ増粘性多糖類の貧溶媒である溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒として水又はアルコール類が好ましい。このような溶媒を用いて水溶性樹脂を溶解させ増粘性多糖類を添加することで、増粘性多糖類が分散した水溶性樹脂の溶液を得ることができ、得られた分散液をエレクトロスピニング法で紡糸することで、水溶性樹脂の繊維中に増粘性多糖類が粒子状に存在する積層シートを得ることができる。化粧あるいは医薬用に使用する場合には、安全性の点から水又はエタノール又はエチレングリコールを溶媒として用いることが好ましい。
【0031】
紡糸液中のPVA系樹脂あるいはPVA系樹脂および水溶性樹脂の濃度は、使用する溶媒と水溶性樹脂の種類と平均分子量によって種々変更することができるが、通常5~20重量%程度である。PVA系樹脂あるいはPVA系樹脂および水溶性樹脂の濃度が低すぎる場合にはノズル先端から液滴が飛散しても繊維が形成されず、濃度が高すぎる場合にはノズルから吐出した溶液がコレクターに到達するまでにジェット状に飛散せずノズルから溶液のままコレクターに到達してしまう、あるいはノズル先端で溶液が固化し溶液が吐出しないため、繊維シートが得られない。
【0032】
紡糸液中の増粘性多糖類の添加量は、水溶性樹脂100重量部に対して好ましくは10~900重量部、より好ましくは20~600重量部、さらに好ましくは50~400重量部である。シートの目付にもよるが、添加量が10部以下であると水を添加しても十分な増粘効果が得られず、900重量部以上であるとシートの骨格となる繊維が少ないため強度が低下し、ハンドリングが困難となる。
【0033】
紡糸液には任意に導電剤や界面活性剤を含有させてもよい。これらの添加量は紡糸液に対して通常0.0001~5重量%である。導電剤や界面活性剤を添加することで繊維の形成性を向上させることができる。導電剤としては溶媒に可溶な塩が好ましく、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。また界面活性剤としてはアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のものが挙げられるが、紡糸への影響が小さいことからノニオン性の界面活性剤が好ましい。
【0034】
さらに、紡糸液には、パラフィンワックス、スクワラン、ワセリン等の炭化水素類、カルナウバロウ、ミツロウ等の天然ロウ類、パルミチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリオクタン酸グリセリル等のエステル類、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸類、ラノリン誘導体類、アミノ酸誘導体類などの油脂類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アルキル変性オルガノポリシロキサン、アルコキシ変性オルガノポリシロキサン、高級脂肪酸変性オルガノポリシロキサン、フッ素変性オルガノポリシロキサン等のシリコーン化合物類、パーフルオロポリエーテル、パーフルオロデカン、パーフルオロオクタン等のフッ素系油剤類、デキストリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、デンプン脂肪酸エステル、イソステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム等の油性ゲル化剤類、ベンゾフェノン系、PABA系、パケイ皮酸系、サリチル酸系、酸化チタン、酸化セリウム等の紫外線防止剤、コラーゲンペプチド、シルクフィブロイン、ヒアルロン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、アルブチン、クエン酸、リン酸Lアスコルビン酸マグネシウム、ラクトフェリン、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、アルブチン、ガンマオリザノール、ビタミンAアセテート、パンテノール、アラントイン、ベタイントリメチルグリシン等の美容成分、香料などを、エレクトロスピニング法による紡糸を阻害しない範囲で配合してもよい。
【0035】
また、化粧用途に用いる場合には、化粧料有効成分を配合してもよい。化粧料有効成分としては、美白成分、紫外線防御成分、抗老化成分、抗シワ成分、抗炎症成分、抗酸化成分、保湿成分、収斂成分、痩身成分、ピーリング成分、美肌成分、血行促進成分、抗菌成分、殺菌成分、清涼成分などがあげられる。また、医薬用途に用いる場合には、抗炎症成分、抗ヒスタミン成分、抗アレルギー成分、血行促進成分、血管拡張成分、消炎成分、鎮痛成分、栄養成分、創傷治癒成分、抗菌成分、抗ウイルス成分、殺菌成分など医薬有効成分や皮膚保護成分を配合してもよい。更に、これらの有効成分の経皮吸収を促進させるための、メンソール、カンフル、セチルアルコール等のアルコール類、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類、モノラウリン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン等のグリセリンエステル類、ラウリン酸ジエタノールアミド等の酸アミド類、ポリエチレングリコールジラウリルエーテル等の中性界面活性剤、レブリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、イオン液体などの経皮吸収促進剤を配合してもよい。
化粧用途、医薬用途に用いる場合、有効成分の含有量はその効果を奏する範囲であればよく、通常0.0001重量%以上、10重量%以下である。紡糸液に配合する成分がPVA系樹脂や水溶性樹脂の良溶媒に溶解しない場合には、配合する成分をPVA系樹脂や水溶性樹脂の良溶媒以外の溶媒に溶解させてもよい。この場合、PVA系樹脂あるいはPVA系樹脂および水溶性樹脂を溶解させた溶液に、配合成分を溶解させた溶液を、ホモジナイザーや攪拌機を用いて分散させた、エマルションもしくはサスペンション溶液を紡糸液として用いてもよい。
【0036】
本実施形態のナノメッシュ積層体は、好ましくは網状基材(A)上に、PVA系樹脂を主成分とするナノメッシュ層(B)と、導電性物質層(C)と、を有する。
【0037】
好ましい例では、ナノメッシュ層が生分解性樹脂であるPVA(ポリビニルアルコール)からなり、導電性材料が金からなるため生体に好ましく適用され得るが、フレキシブルエレクトロニックデバイスとして適用できるものに用いられてもよい。生体に適用される場合、生体の温度、圧力、筋電などを測定するセンサーとして用いることができる。以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0038】
図1は、従来の実施形態であるナノメッシュシートの断面模式図である。
ナノメッシュシート100は、PETフィルム10の上にエレクトロスピニング法などによりナノメッシュ11を形成し、その上に蒸着法やスパッタリング法などにより導電性物質層12を形成することで、製造され得る。このようなナノメッシュシート100は、PETフィルム10から剥がす際にナノメッシュが破損するなどの問題があった。このような問題に対し本発明者らは基材となる剥離材表面の剥離力を調整することを提案している(特願2019-065956)。
【0039】
一方で、剥離材から剥離した後のナノメッシュは薄くて軽いため、所望の位置に貼り付けることが困難であった。例えば貼り付ける部位が小さい場合には、位置決めが困難であり、また貼り付ける部位が大きい場合には、先に接着した部分と、未だ接着されていない部分との間にゆがみを生じ、均一に貼り付けることが困難であった。このような問題を解決するため、本実施形態では網状基材(A)を用いる。
【0040】
図2は、本実施形態に係るナノメッシュ積層体の一例を示す断面模式図である。
ナノメッシュシート200は、網状基材20上に、PVAナノメッシュ21及び導電性物質層22が積層される。
網状基材20は、PVAナノメッシュシート21及び導電性物質層22が積層された積層体を支持する。網状基材としては、上記説明したとおり、難溶性であり、網目から液体や蒸気を透過できるものであれば特に限定されない。
網状基材20は、多孔質フィルムなどの市販品を用いてもよく、既知の方法で製造してもよい。
【0041】
PVAナノメッシュ層21は、PVA系樹脂を主成分として含むナノメッシュ層であり、好ましくはPVA系樹脂からなり、水やアルコールにより溶解する。PVAナノメッシュ層21は、典型的にはエレクトロスピニング法で作成される。エレクトロスピニング法では、上記網状基材を準備し、その上にPVAナノメッシュ層を形成する。エレクトロスピニング法は、特許文献1でも用いられた方法であり、当該文献を参照できる。
【0042】
本実施形態において、PVAナノメッシュ層21はPVA系樹脂以外の生分解性樹脂で代替してもよい。例えばポリビニルピロリデン(PVP)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。
【0043】
PVAナノメッシュ層21上には導電性物質層22が形成される。導電性材料は、導電性を有する限り特段限定されず、具体的には金、白金、銀、塩化銀、銅、チタン、パラジウム、クロム又はコバルト等の金属あるいはその合金、カーボン(炭素)等を用いることができ、導電性材料を透明にしたい場合にはITO(酸化インジウムスズ)を使用してもよい。これ以外の、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化インジウム、インジウム-ジルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、又は酸化亜鉛等の導電性金属酸化物を使用してもよい。ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PSSや、ポリチオフェン誘導体にパラトルエンスルホン酸をドーピングしたPEDOT:PTS、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料を用いてもよい。これらのうち、生体への適用を考慮すると、金、カーボン、チタン、PEDOT:PSS、およびPEDOT:PTSが好ましく、特に好ましくは金である。
【0044】
導電性物質層の形成方法は特に限定されず、ドライプロセス又は塗布法により形成される。ドライプロセスとしては、蒸着、スパッタリング、CVDなどが用いられる。このうち、蒸着により導電性物質層を形成することが最も簡単である。塗布法に特段の制限はないが、具体的には、ワイヤーバーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スリットダイコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット等が挙げられる。
【0045】
PVAナノメッシュ層21の厚みは目的に応じて適宜設定すればよく、特段限定されないが、通常0.1μm以上であり、1μm以上であってよく、また通常100μm以下であり、80μm以下であってよい。
導電性物質層の厚みは特段限定されないが、通常5nm以上であり、10nm以上であってよく、また通常2μm以下であり、1μm以下であってよく、500nm以下であってよい。
【0046】
本実施形態のナノメッシュ積層体、網状基材側を上にして皮膚などの対象物に貼付し、PVAナノメッシュに水やアルコールを接触させることでPVAナノメッシュが溶け、液体の乾燥と共にPVAが接着剤として作用し、対象物に導電性物質層、即ち配線や導電回路を形成できる。
この時、水を使用してもよいが、水ではなくアルコール水溶液を用いることで、液体の乾燥速度が向上し、PVAナノメッシュの丸まりなどが起こりにくく、位置ずれが抑制されるため、好ましい。
アルコールは、水を含む液体の蒸発を加速し得るものが好ましく、エチルアルコール又はメチルアルコール、イソプロピルアルコールを含むことが好ましく、これらが混合されていてもよい。また水との混合割合は5:95-98:2の範囲で選択することができる。このうち好ましくはエタノールの割合が90%~50%であり、特に消毒用に使用されるアルコール(エチルアルコール70%以上、90%以下)が好ましい。また、界面活性剤等を含有することもできる。
一方、化粧料有効成分又は医薬有効成分を含むナノメッシュ積層体を皮膚に貼付する際には、安全性の面からアルコールを含まない水を使用することが好ましい。このとき、界面活性剤等を含有することもできる。
【0047】
本発明の別の実施形態を図3に示す。
本実施形態のナノメッシュシート300は、導電性物質層32を、PVAナノメッシュ31で、両側から挟持する形態である。導電性物質層32の面積が大きい場合には、PVAナノメッシュ31が一面側にあるだけでは対象物に対する接着力が不足する可能性もある。本実施形態のように、導電性物質層32の両面にPVAナノメッシュ31を設けることで、導電性物質層32を対象物に確実に接着することができる。
【0048】
また、本発明の別の実施形態を図4に示す。
本実施形態のナノメッシュシート400は、保護層43を有する。PVAナノメッシュ41は水に溶解することから、湿気に弱い。そのため、PVAナノメッシュ41を水分から保護する保護層43を積層することが好ましい。また、図5に示すように、PVAナノメッシュ51の両側から保護層を設けてもよい。
保護層は、PVAナノメッシュ層と導電性物質層を、水分等から保護できればよいが、ガスバリア性を有するものが好ましい。具体的にはPET、PTEF、EVA等の樹脂フィルムであることが好ましい。
保護層の厚みは特段限定されず、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、2000μm以下であってよく、1000μm以下であってよい。
【0049】
以上説明したナノメッシュ積層体を用いて導電回路を製造する方法もまた、本発明の実施形態に含まれる。すなわち、本発明の別の実施形態は、上記ナノメッシュ積層体を所望の場所に載置するステップ、及び前記ナノメッシュ積層体とアルコール水溶液又は水とを接触させるステップ、を含む、導電回路の製造方法である。導電回路を形成する箇所は特段限定されないが、人体の皮膚上に好適に適用される。
【0050】
また、更に別の実施形態は、上記ナノメッシュ積層体と、アルコール水溶液又は水を担持させた担持体と、を含む、ナノメッシュ貼り付けキットである。ナノメッシュ貼り付けキットとすることで、容易に人体に導電回路を形成できることかできるため、例えば病気患者の各種パラメータを測定するためのセンサーを取り付ける際に、非常に容易となる。また、多くの患者に対して、安定して同じ回路を設けることができる。また、患者毎に形成された回路のバラツキが小さく、回路形成ミスを減少させることもできる。
【0051】
アルコール水溶液又は水を担持させる担持体は、アルコール水溶液又は水を担持できればよく、例えば綿、ナイロン、ポリエステル織布、ポリエステル不織布、などがあげられる。アルコール水溶液は、前述のとおり、水を含む液体の蒸発を加速し得るものが好ましく、エチルアルコール又はメチルアルコール、イソプロピルアルコールを含むことが好ましく、これらが混合されていてもよい。また水との混合割合は5:95-98:2の範囲で選択することができる。このうち好ましくはエタノールの割合が90%~50%であり、特に消毒用に使用されるアルコール(エチルアルコール80%前後)が好ましい。また、アルコール水溶液又は水には界面活性剤等を含有することもできる。
【実施例
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例の記載により限定されないことはいうまでもない。
【0053】
(実施例1)
〔網状基材(A)の準備〕
網状基材(A)(開孔率65.6%、角穴並列型網、ポリエチレン製、厚さ240μm)をカトーテック社製ドラム型エレクトロスピニング装置のナノメッシュ形成部(ドラム上)に装着した。
【0054】
〔ナノメッシュ層(B)の製造〕
PVA(未変性、ケン化度88モル%、4重量%水溶液粘度3mPa・s)をエチレングリコールに溶解させ、PVAの4重量%エチレングリコール溶液を作製し、紡糸液とした。
上記で準備した網状基材(A)が設置されたエレクトロスピニング装置に、かかる紡糸液を4ml、シリンジ中に投入し、シリンジ先端のノンベベル針18G(テルモ社製)に電極を取り付けて、エレクトロスピニングによりのナノメッシュ層(B)を製造し、ナノメッシュ積層体1を得た。エレクトロスピニング装置の設定は以下の通りである。
本実施例においては、導電性物質による回路が形成されたセンサー層の代わりに、回路形成がないナノメッシュ層(B)を用いた。なお、取り扱い性については、回路形成の有無の影響を受けない。
<設定条件>
Target speed:5m/min
Traverse speed:10cm/min
シリンジ speed:0.050~0.080mm/min
電圧:15~20kV
成膜時間:60min
【0055】
〔取扱い性評価〕
上記で得られたナノメッシュ積層体1の導電材側を体温約36℃の被験者の皮膚に接するように置き、約23℃の屋内環境において網状基材(A)の上から水を吹きかけた。網状基材(A)を容易に取り外すことができ、かつゆがみなくナノメッシュ層(B)が皮膚に密着する状態が得られた。
【0056】
(参考例1)
従来の方法として、基材をシリコーン加工耐油紙(クッキングシート0251 30cm×5m 東洋アルミ社製)に変えた以外は、実施例1と同様にナノメッシュ積層体を作成し、取り扱い評価を行なった。得られた積層体は、破損することなく基材から容易に取り外すことができたが、皮膚への貼り付けの際、ナノメッシュがカールし、互着したため、皮膚に皺なく貼りつけることができなかった。
【0057】
(比較例1)
図1に示される従来の構成のPVAナノメッシュシートを用いた。ナノメッシュシートのサイズは約3×5cmで、回路を模した0.5cm×4cmの金線を3本設けた。ナノメッシュシートから基材を剥離し、体温約36℃の被験者の皮膚上に載置し、約23℃の屋内環境において医療用アルコール綿(エチルアルコール80%、水20%を含ませた脱脂綿)をナノメッシュシート上から1分間以上押し付けたところ、アルコール綿側に金線が転写され、皮膚上に回路がうまく形成できなかった。
【0058】
(比較例2)
アルコール綿の代わりに、霧吹きでPVAナノメッシュシートに水を掛けたところ、金線が変形して、メッシュシート状に描かれた所望の回路を再現できなかった。
【0059】
(実施例2)
図2に示される、網状基材(A)(ポリプロピレン製)を用いたPVAナノメッシュ積層体を用いた。ナノメッシュ積層体のサイズは約3×5cmで、網状基材(A)のメッシュの目開きは1000μm、開孔率62.3%の網状基材(A)のメッシュを構成する繊維の径は0.7μmで、回路を模した0.4cm×3cmの金線を3本設けた。網状基材(A)を有したまま、体温約36℃の被験者の皮膚上に載置し、約23℃の屋内環境において医療用アルコール綿(エチルアルコール80%、水20%を含ませたアルコール綿)を、ナノメッシュシートの網状基材(A)の上から1分間以上押し当てたところ、金線が皮膚上にその形状を維持したまま転写し、回路を形成することができた。
【0060】
(実施例3)
図2に示される、網状基材(A)(ポリプロピレン製、開孔率26%:角穴並列型網)を用いたPVAナノメッシュ積層体シートを用いた。ナノメッシュ積層体シートのサイズは約3×5cmで、回路を模した0.4cm×3cmの金線を3本設けた。網状基材(A)を有したまま、体温約36℃の被験者の皮膚上に載置し、約23℃の屋内環境において水のみを含ませた脱脂綿を、ナノメッシュシートの網状基材(A)の上から1分間以上押し当てたところ、金線が皮膚上にその形状を維持したまま転写し、回路を形成することができた 。
【0061】
(実施例4)
図2に示される、網状基材(A)(ポリプロピレン製、開孔率26%:角穴並列型網)を用いたPVAナノメッシュ積層体シートを用いた。ナノメッシュ積層体シートのサイズは約3×5cmで、回路を模した0.4cm×3cmの金線を3本設けた。網状基材(A)を有したまま、体温約36℃の被験者の皮膚上に載置し、約23℃の屋内環境において医療用アルコール綿(エチルアルコール80%、水20%を含ませたアルコール綿)を、ナノメッシュシートの網状基材(A)の上から1分間以上押し当てたところ、金線が皮膚上にその形状を維持したまま転写し、回路を形成することができた 。
【符号の説明】
【0062】
100、200、300、400、500 ナノメッシュシート
10 PETフィルム
20、30、40、50 網状基材(A)
11、21、31、41、51 PVAナノメッシュ
12、22、32、42、52 導電性物質
43、53 保護フィルム
図1
図2
図3
図4
図5