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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】印刷用樹脂溶液
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240827BHJP
   C09D 11/36 20140101ALI20240827BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240827BHJP
   C08F 297/00 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240827BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240827BHJP
   B41M 5/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/36
C08L53/02
C08F297/00
C08K5/01
C08K3/22
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021526019
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021709
(87)【国際公開番号】W WO2020250748
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019111477
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 弘康
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107141889(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107189552(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0320008(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101805538(CN,A)
【文献】特開2004-002501(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101519552(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106554695(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 297/00
C08K 5/01
C08L 53/02
C08L 101/00
C09D 11/30
B41M 5/00
C08K 3/22
C08K 3/28
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が125℃以上である非極性溶媒と、熱可塑性エラストマーと、一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子とを含み、粘度が1cP以上50cP以下であり、
前記熱可塑性エラストマーが、
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物であり、
前記非極性溶媒が、デカヒドロナフタレン、ドデカン、トリデカン、シクロドデカン、及びテトラデカンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、印刷用樹脂溶液。
【請求項2】
前記粒子が、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射する、請求項1に記載の印刷用樹脂溶液。
【請求項3】
前記粒子が、チタンブラック粒子を含む、請求項1又は2に記載の印刷用樹脂溶液。
【請求項4】
前記粒子が、高抵抗黒色顔料粒子を含む、請求項1又は2に記載の印刷用樹脂溶液。
【請求項5】
更に前記非極性溶媒に可溶な分散剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の印刷用樹脂溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用樹脂溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷方式として、インクジェット印刷法が知られており、インクジェット印刷法に用いられうるインク組成物として、例えば樹脂エマルジョン及び水を含有する組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-059804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷により得られる層が所望の機能を有するように、インクなどの印刷用組成物に、ある機能を有する粒子を含有させる場合がある。
ところで、インクジェット印刷法は、パターン形成を容易にでき、また、例えばバーコート法、スピンコート法などの塗布法と比較して、塗布用の組成物が少量でよいことから、電子素子の作製工程への適用が望まれている。
しかし、従来のインクジェット印刷用組成物は、印刷用組成物に粒子を含有させると、粒子の材質によっては、溶媒により粒子が変質して、粒子が所望の機能を果たさない場合があった。また、従来の水系のインクジェット印刷用組成物又は有機溶媒系のインクジェット印刷用組成物は、電子材料に塗布すると、電子材料の機能が変化する場合があった。 さらに、有機溶媒を含む印刷用組成物は、インクジェット印刷法に用いると、ノズル詰まりが発生する場合があった。
【0005】
したがって、インクジェット印刷法を用いて塗布可能であり、かつ電子材料を変質させにくい、有機溶媒を含む印刷用樹脂溶液が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、所定の非極性溶媒、熱可塑性エラストマー、及び所定の粒子を含み、粘度が所定の範囲である印刷用樹脂溶液により、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] 沸点が125℃以上である非極性溶媒と、熱可塑性エラストマーと、一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子とを含み、粘度が1cP以上50cP以下である、印刷用樹脂溶液。
[2] 前記熱可塑性エラストマーが、
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、又は、
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物である、[1]に記載の印刷用樹脂溶液。
[3] 前記粒子が、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射する、[1]又は[2]に記載の印刷用樹脂溶液。
[4] 前記粒子が、チタンブラック粒子を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の印刷用樹脂溶液。
[5] 前記粒子が、高抵抗黒色顔料粒子を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の印刷用樹脂溶液。
[6] 前記非極性溶媒が、デカヒドロナフタレン、ドデカン、トリデカン、シクロドデカン、及びテトラデカンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の印刷用樹脂溶液。
[7] 更に前記非極性溶媒に可溶な分散剤を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の印刷用樹脂溶液。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット印刷法を用いて塗布可能であり、かつ電子材料を変質させにくい、有機溶媒を含む印刷用樹脂溶液を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
以下の説明において、別に断らない限り、「(メタ)アクリル」は「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する用語である。例えば、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」はアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、又はこれらの混合物を意味する。
【0011】
以下の説明において「溶媒」の文言により示されるものは、説明の便宜上、溶液における媒体のみならず、固形物をその中に分散させる分散媒をも包含する。
【0012】
[1.印刷用樹脂溶液の概要]
本発明の一実施形態に係る印刷用樹脂溶液は、沸点が125℃以上である非極性溶媒と、熱可塑性エラストマーと、一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子とを含み、粘度が1cP以上50cP以下である。
【0013】
[1.1.非極性溶媒]
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、所定の沸点を有する非極性溶媒を含む。非極性溶媒の沸点は、通常125℃以上であり、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは175℃以上である。
印刷用樹脂溶液が、沸点が前記下限値以上の非極性溶媒を含むことにより、印刷用樹脂溶液をインクジェット印刷法に用いた際に、ノズル内で固形分が析出してノズル詰まりが発生することを抑制できる。
非極性溶媒の沸点は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下である。印刷用樹脂溶液が、沸点が前記上限値以下の非極性溶媒を含むことにより、印刷用樹脂溶液を乾燥させることが容易となる。
沸点が125℃以上である非極性溶媒を構成する物質の例としては、水及び無機物以外の、常温(好ましくは25℃)で液体の物質が挙げられ、より具体的には、例えば、沸点が125℃以上である炭化水素溶媒が挙げられ、更に具体的には、例えば、エチルシクロヘキサン、キシレン、デカヒドロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、トリメチルベンゼン、シクロオクタン、シクロデカン、オクタン(例、ノルマルオクタン)、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、及びシクロドデカンが挙げられる。
非極性溶媒は、熱可塑性エラストマーの溶解性の高さの観点から、好ましくは、デカヒドロナフタレン、ドデカン、トリデカン、シクロドデカン、及びテトラデカンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
印刷用樹脂溶液に含まれる、沸点が125℃以上である非極性溶媒全重量中、デカヒドロナフタレン、ドデカン、トリデカン、シクロドデカン、及びテトラデカンの合計重量の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上であり、通常100重量%以下である。
【0014】
印刷用樹脂溶液には、沸点が125℃以上である非極性溶媒に加えて、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて、沸点が125℃未満である非極性溶媒を含んでいてもよい。沸点が125℃以上である非極性溶媒の重量割合は、印刷用樹脂溶液に含まれる非極性溶媒の合計重量を基準として、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上であり、通常100重量%以下であり、100重量%であってもよい。
【0015】
印刷用樹脂溶液には、非極性溶媒に加え、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて例えば、非極性溶媒と良好に相溶しうる極性の溶媒を含んでもよい。より具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等の、極性溶媒として用いられる物質を含んでもよい。印刷用樹脂溶液を塗布する対象として、電子材料を含む広範囲の材料を選択できることから、非極性溶媒及び極性溶媒の合計における非極性溶媒の割合は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上、更に好ましくは99.9重量%以上であり、理想的には100重量%である。
【0016】
印刷用樹脂溶液は、水を含んでいてもよいが、印刷用樹脂溶液を塗布する対象として、電子材料を含む広範囲の材料を選択できることから、印刷用樹脂溶液における水の重量割合は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、更に好ましくは0.01重量%以下であり、通常0重量%以上であり、0重量%であってもよい。
【0017】
[1.2.熱可塑性エラストマー]
熱可塑性エラストマーとは、常温ではゴムの特性を示し、高温では可塑化されて成形加工が可能となる材料をいう。このような熱可塑性エラストマーは、小さい力の負荷では伸びも破断も生じにくい特徴を有する。具体的には、熱可塑性エラストマーは、23℃において、ヤング率0.001~1GPa、及び引張伸び(破断伸度)100~1000%の値を示す。熱可塑性エラストマーはまた、40℃以上200℃以下の高い温度範囲において、貯蔵弾性率が急激に低下して損失正接tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)がピークを持つか、1を超える値を示し、軟化する。ヤング率及び引張伸びは、JIS K7113に則り測定しうる。また損失正接tanδは市販の動的粘弾性測定装置により測定しうる。
【0018】
熱可塑性エラストマーは、一般に残留溶媒を含まないか含むとしてもその量は少ないのでアウトガスが少ないという利点、及び印刷工程を、架橋処理等を伴わない簡略な工程といしうるという利点を有する。
【0019】
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、熱可塑性エラストマーを含む。
印刷用樹脂溶液において、熱可塑性エラストマーは、通常溶解した状態で存在する。印刷用樹脂溶液において、熱可塑性エラストマーは、溶解した固形分として存在しうる。印刷用樹脂溶液における固形分とは、溶媒以外の成分であり、通常は、印刷用樹脂溶液を乾燥させ溶媒を揮発させた後に残留する成分の全てである。
【0020】
熱可塑性エラストマーとして、重合体を用いうる。熱可塑性エラストマーとして用いうる重合体の例としては、エチレン-プロピレン共重合体などのエチレン-α-オレフィン共重合体;エチレン-α-オレフィン-ポリエン共重合体;エチレン-メチルメタクリレート、エチレン-ブチルアクリレートなどの、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体;エチレン-酢酸ビニルなどの、エチレンと脂肪酸ビニルとの共重合体;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリルなどのアクリル酸アルキルエステルの重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ブタジエン-イソプレン共重合体、ブタジエン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ブタジエン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル-アクリロニトリル-スチレン共重合体などの、ジエン系共重合体;ブチレン-イソプレン共重合体;スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-イソプレンランダム共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体などの、芳香族ビニル化合物-共役ジエン共重合体;水素化スチレン-ブタジエンランダム共重合体、水素化スチレン-イソプレンランダム共重合体、水素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体などの、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエン共重合体;低結晶性ポリブタジエン;スチレングラフトエチレン-プロピレンエラストマー;熱可塑性ポリエステルエラストマー;エチレン系アイオノマー;及び、これら重合体のケイ素原子含有極性基による変性物を挙げることができる。
重合体は、一種類を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
熱可塑性エラストマーとしては、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体、又は水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物が、本発明の所望の効果を得るためには好ましい。
【0022】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の水素化物である。即ち、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合、芳香環の炭素-炭素不飽和結合、又はこれらの両方の、一部又は全部を水素化して得られる構造を有するものである。但し、本願において水素化物は、その製造方法によっては限定されない。
【0023】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体が好ましく、工業的な入手の容易さから、スチレンを用いることが特に好ましい。共役ジエンとしては、鎖状共役ジエン(直鎖状共役ジエン、分岐鎖状共役ジエン)が好ましく、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが好ましく挙げられる。これらの中でも、工業的な入手の容易さから1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0024】
芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、及びこれらの混合物から選ばれるものであることが好ましい。これらのより具体的な例としては、特開平2-133406号公報、特開平2-305814号公報、特開平3-72512号公報、特開平3-74409号公報、及び国際公開第2015/099079号などの従来技術文献に記載されているものが挙げられる。
【0025】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。水素化率が高いほど、印刷用樹脂溶液により形成される層の耐熱性及び耐光性を良好にできる。ここで、水素化物の水素化率は、1H-NMRによる測定により求めることができる。
【0026】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の主鎖及び側鎖の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、印刷用樹脂溶液により形成される層の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
【0027】
また、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、水素化物のガラス転移温度が高くなるので、印刷用樹脂溶液により形成される層の耐熱性を効果的に高めることができる。さらに、印刷用樹脂溶液により形成される層の光弾性係数を下げて、レターデーションの発現を低減することができる。
【0028】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体としては、共役ジエン由来の不飽和結合及び芳香環の両方を水素化してなる構造を有するものが好ましい。
【0029】
水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体の特に好ましいブロックの形態は、共役ジエン重合体水素化物のブロック[B]の両端に芳香族ビニル重合体水素化物のブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、さらに、該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体である。特に、[A]-[B]-[A]のトリブロック共重合体であることが、製造が容易であり且つ熱可塑性エラストマーとしての物性を所望の範囲とすることができるため、特に好ましい。
【0030】
全芳香族ビニル単量体単位が前記ブロック共重合体全体に占める質量分率をwAとし、前記ブロック共重合体中の全共役ジエン単量体単位が前記ブロック共重合体全体に占める質量分率をwBとしたときの、wAとwBとの比(wA:wB)は、好ましくは20/80以上、より好ましくは30/70以上であり、好ましくは60/40以下、より好ましくは55/45以下である。前記の比wA/wBを前記範囲の下限値以上にすることにより、印刷用樹脂溶液により形成される層の耐熱性を向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、印刷用樹脂溶液により形成される層の柔軟性を高めることができる。さらに、ブロック共重合体のガラス転移温度を下げることで封止温度を下げられるので、本実施形態の印刷用樹脂溶液を有機エレクトロルミネッセンス素子及び有機半導体素子等の電子素子の封止に適用した場合に、前記素子の熱劣化を抑制することができる。また前記比(wA/wB)を前記範囲内とすることにより、印刷用樹脂溶液により形成される層がゴム弾性を持つ温度範囲を広げ、印刷用樹脂溶液を塗布して得られたデバイスなどが柔軟性を持つ温度範囲を広げることができる。
【0031】
熱可塑性エラストマーは、熱可塑性エラストマーとして用いうる重合体として例示した重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物であってもよい。熱可塑性エラストマーとして、重合体のケイ素原子含有極性基による変性物を用いることにより、印刷用樹脂溶液から形成される層と、印刷対象物との密着性を向上させうる。
以下、変性物を得る反応に用いる重合体を、反応前重合体ともいう。変性物は、例えば、反応前重合体と、単量体としてのケイ素原子含有極性基を有する化合物とのグラフト重合により得られる構造を有する。
ただし、変性物は、その製造方法によっては限定されない。
ケイ素原子含有極性基としては、アルコキシシリル基が好ましい。
【0032】
グラフト重合のための単量体として用いうるケイ素原子含有極性基を有する化合物の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び2-ノルボルネン-5-イルトリメトキシシランなどの、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和シラン化合物が挙げられる。
【0033】
反応前重合体とケイ素原子含有極性基を有する化合物とを反応させることにより、反応前重合体にケイ素原子含有極性基を導入し、ケイ素原子含有極性基を有する変性物を得うる。ケイ素原子含有極性基としてアルコキシシリル基を導入する場合、アルコキシシリル基の導入量は、反応前重合体100重量部に対し、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは0.3重量部以上であり、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、更に好ましくは3重量部以下である。アルコキシシリル基の導入量を前記範囲に収めると、水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを防止できるので、接着性を高く維持することができる。アルコキシシリル基の導入に用いるアルコキシシリル基を有する物質、及び変性方法の例としては、国際公開第2015/099079号等の従来技術文献に記載されているものが挙げられる。
【0034】
極性基の導入量は、H-NMRスペクトルにて計測しうる。また、極性基の導入量の計測の際、導入量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0035】
反応前重合体に、極性基としてアルコキシシリル基を導入することは、シラン変性と呼ばれる。シラン変性に際しては、反応前重合体にアルコキシシリル基を直接結合させてもよく、例えばアルキレン基などの2価の有機基を介して結合させてもよい。以下、反応前重合体のシラン変性により得られた重合体を「シラン変性物」ともいう。
【0036】
反応前重合体の、ケイ素原子含有極性基による変性物としては、水素化芳香族ビニル化合物-共役ジエンブロック共重合体のシラン変性物が好ましく、水素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体のシラン変性物、水素化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体のシラン変性物、水素化スチレン-イソプレンブロック共重合体のシラン変性物、及び水素化スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体のシラン変性物から選ばれる一種以上のシラン変性物が好ましい。
【0037】
熱可塑性エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、好ましくは20,000以上、より好ましくは30,000以上、更に好ましくは35,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは70,000以下である。熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値で測定しうる。また、熱可塑性エラストマーの分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下であり、好ましくは1以上である。熱可塑性エラストマーの重量平均分子量Mw及び分子量分布Mw/Mnを前記の範囲に収めることにより、印刷用樹脂溶液により形成される層の機械強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0038】
熱可塑性エラストマーのガラス転移温度は、特に限定されないが、好ましくは40℃以上、より好ましくは70℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、更に好ましくは160℃以下である。また、熱可塑性エラストマーとしてブロック共重合体を含むものを用いた場合には、それぞれの重合体ブロックの重量比率を変えてガラス転移温度を調整することにより、印刷用樹脂溶液により形成される層の接着性と可撓性とのバランスを取ることができる。
【0039】
本実施形態の印刷用樹脂溶液における熱可塑性エラストマーの割合は、特に限定されず、所望の性質が得られる範囲に適宜調整しうる。具体的には、印刷用樹脂溶液全量における熱可塑性エラストマーの割合は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。
【0040】
[1.3.粒子]
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子を含む。本願において、一次粒子径とは、通常、一次粒子の数平均粒子径を表す。一次粒子の数平均粒子径は、レーザー回折粒度計を用いて、測定しうる。
レーザー回折粒度計を用いて測定された一次粒子の数平均粒子径が、40nm未満である場合は、一次粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法による粒子径測定装置により好適に測定しうる。動的光散乱法による測定は、粒子を溶媒に分散させた分散液の状態で行ってもよい。
また、レーザー回折粒度計を用いて測定された一次粒子の数平均粒子径が、40nm未満である場合、又は、レーザー回折法及び動的光散乱法により測定ができない場合は、電子顕微鏡を用いた観察により平均粒子径を好適に求めうる。具体的には、以下の方法により平均粒子径を求めうる。電子顕微鏡を用いた観察により、50個の粒子のそれぞれについて、一次粒子の短軸と長軸との和を求め、得られた和を2で割って得られた数値の算術平均値を、平均粒子径としうる。電子顕微鏡を用いた観察により平均粒子径を求める場合、印刷用樹脂溶液からフィルムを作製して、フィルム断面における粒子を観察してもよい。
【0041】
印刷用樹脂溶液において、粒子は分散した状態で存在する。粒子の一次粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上であり、通常200nm以下、好ましくは150nm以下である。粒子の一次粒子径が、前記下限値以上であることにより、印刷用樹脂溶液中での粒子の凝集及び/又は変質を抑制することができる。
粒子の一次粒子径が、前記上限値以下であることにより、印刷用樹脂溶液が適切な流動性を保持できる。その結果、印刷用樹脂溶液をインクジェット印刷法に用いた場合に、印刷用樹脂溶液を、ノズルから適切な時に、ノズルをつまらせることなく吐出させることができる。
【0042】
粒子としては、所望の機能を有する粒子を用いうる。例えば、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射する粒子を用いうる。
【0043】
粒子が、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射することは、下記の方法により確認されうる。
粒子を含む印刷用樹脂溶液1を調製して、粒子を含む樹脂層1をガラス板上に作製する。
また、粒子を添加しない他は、印刷用樹脂溶液1の調製方法と同じ調製方法により調製した印刷用樹脂溶液C1を調製して、粒子を含まない樹脂層C1をガラス板上に作製する。
樹脂層1及び樹脂層C1について、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光についての光線透過率を測定する。
光線透過率の測定の結果、樹脂層1の光線透過率が、樹脂層C1の光線透過率よりも小さくなる波長の光が存在すれば、粒子が、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を吸収又は反射することが確認されうる。
【0044】
粒子の例としては、特に限定されないが、有機顔料の粒子;無機顔料の粒子;カーボンブラック;公知の赤外線吸収材料の粒子;量子ドット粒子が挙げられる。粒子は、1種単独で用いられていても、2種以上を組み合わせて用いられていてもよい。
【0045】
有機顔料の具体例としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、及び多環式顔料が挙げられる。
【0046】
無機顔料の具体例としては、二酸化チタン、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化カドミウム、チタンニッケルアンチモン酸化物、チタンニッケルバリウム酸化物、クロム酸ストロンチウム、ビリジアン、酸化クロム、アルミン酸コバルト、窒化チタン、酸化コバルト、マグネタイト、低次酸化チタン、酸窒化チタン(チタンブラック)、及び、高抵抗黒色顔料が挙げられる。
高抵抗黒色顔料の例としては、チタンブラックと、Y、ZrO、Al、SiO、TiO、及びVからなる群から選択される少なくとも一種を含む絶縁顔料とを含む顔料;チタンブラックを含む黒色顔料と、Y、ZrO、Al、SiO、TiO、及びVからなる群から選択される少なくとも一種を含む絶縁顔料とを含む顔料が挙げられる。
【0047】
高抵抗黒色顔料は、印刷用樹脂溶液に含有させて、印刷用樹脂溶液から厚み1μmの樹脂層を形成した場合に、樹脂層の表面抵抗値が、1013Ω/□以上となるような絶縁性を有することが好ましい。
【0048】
赤外線吸収材料の具体例としては、六ホウ化ランタン、セシウム酸化タングステン、スズ酸化インジウム(ITO)、及びアンチモン酸化スズ(ATO)が挙げられる。
【0049】
量子ドット粒子に含まれる材料の具体例としては、InP/ZnS、CdSe/ZnS、CdSeS/ZnS、及びCsPbX(X=Cl,Br,又はI)が挙げられる。
【0050】
印刷用樹脂溶液全量中の、一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子の重量割合は、印刷用樹脂溶液の所望の特性を満たすように適宜調整されうるが、好ましくは、0.1重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上、更に好ましくは0.8重量%以上、特に好ましくは1重量%以上であり、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。
【0051】
印刷用樹脂溶液における一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子の重量割合は、固形分全量を基準として、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは60重量%以下、更に好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。
一次粒子径が1nm以上200nm以下である粒子の重量割合が、前記下限値以上であることにより、所望とする粒子の機能(例えば、光線遮蔽効果)を効果的に発揮することができる。また該粒子の重量割合が、前記上限値以下であることにより、印刷用樹脂溶液から形成される層の透明性を高めることができる。
【0052】
[1.4.任意成分]
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、前記の、非極性溶媒、熱可塑性エラストマー、及び粒子に加えて、本発明の効果を著しく損ねない限りにおいて、任意の成分を含んでいてもよい。
任意の成分の例としては、酸化防止剤;可塑剤;分散剤;紫外線吸収剤;滑剤;及び、無機フィラーが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、フェノ-ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられ、着色がより少ないリン系酸化防止剤が好ましい。
【0054】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物;6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン、6-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンなどの化合物を挙げることができる。
【0055】
酸化防止剤の量は、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、更に好ましくは0.1重量部以上であり、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下、更に好ましくは0.3重量部以下である。酸化防止剤を前記範囲の下限値以上用いることにより、印刷用樹脂溶液から形成される層の耐久性を改善することができる。酸化防止剤を前記範囲の上限値以下用いることにより、効率的に耐久性を改善することができる。
【0056】
可塑剤の好適な例としては、炭化水素系オリゴマー;一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステルなどの有機酸エステル系可塑剤;有機リン酸エステル系、有機亜リン酸エステル系などのリン酸エステル系可塑剤;並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0057】
分散剤は、印刷用樹脂溶液において、粒子の分散性を向上させる機能を有する。
分散剤の例としては、非極性溶媒に可溶である分散剤が挙げられる。本発明では分散剤は、前記沸点が125℃以上である非極性溶媒に可溶であることが好ましく、デカヒドロナフタレン、ドデカン、トリデカン、シクロドデカン、及びテトラデカンに可溶であることがより好ましい。本明細書において、「非極性溶媒に可溶である」とは、非極性溶媒に対して、5重量%以上溶解することを意味する。非極性溶媒に可溶であるか否かを判定する試験は、印刷用樹脂溶液に含まれる各成分を混合して印刷用樹脂溶液を調製する際の温度において行いうる。かかる試験の温度条件は、通常は常温(5℃~35℃)であり、好ましくは25℃である。かかる温度条件において、非極性溶媒に対して5重量%以上の分散剤が、固形分の沈殿を残さずに溶解する場合は、この分散剤が、非極性溶媒に可溶であると判定しうる。かかる試験に用いる非極性溶媒としては、前記熱可塑性エラストマーの製造において用いられ、熱可塑性エラストマーを溶解しうる各種の非極性溶媒を用いうる。これら各種の非極性溶媒のいずれかに可溶である場合に、非極性溶媒に可溶であると判定しうる。
【0058】
非極性溶媒に可溶である分散剤の例としては、12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマー;並びに、東亜合成社の「アロン(登録商標)」及び「ジュリマー(登録商標)」シリーズ、日本触媒社の「アクアリック(登録商標)」シリーズ、共栄社化学社の「フローレン(登録商標)」シリーズ、楠本化成社の「ディスパロン(登録商標)」シリーズ、BASF社の「ソカラン(登録商標)」シリーズ及び「EFKA」シリーズ、ビックケミー社の「DISPERBYK(登録商標)」シリーズ及び「Anti-Terra」シリーズ、日本ルーブリゾール社の「SOLSPERSE(登録商標)」シリーズ、及び味の素ファインテクノ社の「アジスパー」シリーズなどの、市販の分散剤;が挙げられる。
【0059】
[1.5.印刷用樹脂溶液の粘度]
本実施形態の印刷用樹脂溶液の粘度は、通常1cP以上、好ましくは2cP以上、より好ましくは3cP以上であり、通常50cP以下、好ましくは30cP以下、より好ましくは20cP以下である。
印刷用樹脂溶液の粘度が、前記下限値以上であることにより、印刷用樹脂溶液から形成される層の厚みを、大きくすることができる。
印刷用樹脂溶液の粘度が、前記上限値以下であることにより、印刷用樹脂溶液をインクジェット印刷法に用いた場合に、印刷用樹脂溶液を、ノズルから適切な時に吐出させることができる。
【0060】
印刷用樹脂溶液の粘度は、音叉型振動式粘度計を用いて25℃±2℃の環境下で測定しうる。
【0061】
[2.印刷用樹脂溶液の用途]
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、各種印刷法に用いられ、樹脂層を形成しうる。樹脂層は、使用目的に応じたパターン状の層としうる。印刷法の例としては、凸版印刷法、凹版印刷法(例、グラビア印刷法)、スクリーン印刷法、及びインクジェット印刷法が挙げられる。本願において、印刷法には、インクジェット印刷法のように、印刷版を用いない方法を含むものとする。
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、印刷ヘッドのノズル詰まりを抑制できることから、特にインクジェット印刷法に好適に用いられうる。
インクジェット印刷法の方式としては、特に限定されず、加熱によりノズル内に気泡を生じさせて、ノズル先端から印刷用樹脂溶液を吐出させるサーマル方式であっても、ピエゾ素子の変形によりノズル先端から印刷用樹脂溶液を吐出させるピエゾ方式であってもよい。
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、特に、ピエゾ方式のインクジェット印刷法に好適に用いられうる。
本実施形態の印刷用樹脂溶液は、有機電子材料などの電子材料を変質させにくいことから、例えば、アルミ、銅、銀などの金属、発光ダイオード(LED)(例、有機エレクトロルミネッセンス素子、マイクロLED,ミニLED)、導電層(例、有機透明導電膜)などの対象の上に樹脂層を形成するために好適に用いうる。
また、本実施形態の印刷用樹脂溶液は、含まれる粒子の機能に応じた特性を、樹脂層に与えうる。例えば、粒子として、赤外線を吸収又は反射する粒子を用いることによって、樹脂層に、赤外線遮蔽機能を与えうる。また、粒子として、顔料粒子を用いることによって、樹脂層を、例えば、画像表示素子のカラーフィルタとして用いうる。
【実施例
【0062】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0063】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0064】
[評価方法]
(樹脂のヤング率、引張伸び及びtanδ)
樹脂の23℃におけるヤング率及び引張伸びは、JIS K7113に則り測定した。40℃以上200℃以下における樹脂の損失正接tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)は、樹脂をフィルム状にしてから幅10mm×長さ20mmの試験片を切り出し日立ハイテクサイエンス社製の動的粘弾性測定装置DMS6100を用い測定した。
【0065】
(印刷用樹脂溶液の粘度)
印刷用樹脂溶液の粘度を、下記の方法により測定した。
測定機器としては、株式会社エー・アンド・デイ製の音叉型振動式粘度計SV-10を用いた。サンプル容器の基準線の間に樹脂溶液の液面がくるように樹脂溶液で容器を満たし、振動子を規定の位置まで樹脂溶液中に入れて測定した。測定は25℃±2℃の環境下で行った。
【0066】
[製造例1]
(P1-1.水素化ブロック共重合体の製造)
芳香族ビニル化合物としてスチレンを用い、鎖状共役ジエン化合物としてイソプレンを用いて、ブロック共重合体の水素化物(水素化ブロック共重合体)を、以下の手順により製造した。製造されたブロック共重合体の水素化物は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック構造を有する。
【0067】
内部が充分に窒素置換された、攪拌装置を備えた反応器に、脱水シクロヘキサン256部、脱水スチレン25.0部、及びn-ジブチルエーテル0.615部を入れ、60℃で攪拌しながらn-ブチルリチウム(15%シクロヘキサン溶液)1.35部を加えて重合を開始させ、さらに、攪拌しながら60℃で60分反応させた。この時点での重合転化率は99.5%であった(重合転化率は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。以下にて同じ。)。
【0068】
次に、脱水イソプレン50.0部を加え、同温度で30分攪拌を続けた。この時点での重合転化率は99%であった。
その後、さらに、脱水スチレンを25.0部加え、同温度で60分攪拌した。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。
次いで、反応液にイソプロピルアルコール0.5部を加えて反応を停止させて、ブロック共重合体を含む溶液(i)を得た。
得られた溶液(i)中のブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は44,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.03であった(テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算の値で測定。以下同じ)。
【0069】
次に、溶液(i)を攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、溶液(i)に水素化触媒としてシリカ-アルミナ担持型ニッケル触媒(E22U、ニッケル担持量60%;日揮化学工業社製)4.0部及び脱水シクロヘキサン350部を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度170℃、圧力4.5MPaにて6時間水素化反応を行なうことによりブロック共重合体を水素化して、ブロック共重合体の水素化物(ii)を含む溶液(iii)を得た。溶液(iii)中の水素化物(ii)の重量平均分子量(Mw)は45,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.04であった。
【0070】
水素化反応の終了後、溶液(iii)をろ過して水素化触媒を除去した。その後、ろ過された溶液(iii)に、リン系酸化防止剤である6-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ〕-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン(住友化学社製「スミライザー(登録商標)GP」。以下、「酸化防止剤A」という。)0.1部を溶解したキシレン溶液1.0部を添加して溶解させ、溶液(iv)を得た。
【0071】
次いで、溶液(iv)を、ゼータプラス(登録商標)フィルター30H(キュノー社製、孔径0.5μm~1μm)にて濾過し、さらに別の金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)にて順次濾過して微小な固形分を除去した。ろ過された溶液(iv)から、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去した。そして、前記の濃縮乾燥器に直結したダイから、固形分を溶融状態でストランド状に押出し、冷却し、ペレタイザーでカットして、ブロック共重合体の水素化物及び酸化防止剤Aを含有する、ペレット(v)85部を得た。得られたペレット(v)中のブロック共重合体の水素化物(水素化ブロック共重合体)の重量平均分子量(Mw)は45,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.08であった。また、1H-NMRにより測定した水素化率は99.9%であった。
このペレット(v)からフィルム状の試験片を作製し、ガラス転移温度Tgを動的粘弾性測定装置のtanδピークで評価したところ、130℃であった。またこのペレット(v)の40℃以上200℃以下におけるtanδのピーク値は1.4であった。このペレット(vi)の、23℃におけるヤング率は0.6GPaであり、23℃における引張伸びは550%であった。したがって、得られた水素化ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーであった。
【0072】
[製造例2]
製造例1で得られたブロック共重合体の水素化物(水素化ブロック共重合体)のペレット(v)を用いて、下記の方法により、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(水素化ブロック共重合体のアルコキシシリル基による変性物)を得た。
【0073】
(P2-1.水素化ブロック共重合体のシラン変性物の製造)
製造例1の(P1-1)で得られたペレット(v)100部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.0部及びジ-t-ブチルパーオキサイド0.2部を添加し、混合物を得た。この混合物を、二軸押出し機を用いて、バレル温度210℃、滞留時間80秒~90秒で混練した。混練された混合物を押し出し、ペレタイザーでカットして、水素化ブロック共重合体のシラン変性物のペレット(vi)を得た。このペレット(vi)からフィルム状の試験片を作製し、ガラス転移温度Tgを動的粘弾性測定装置のtanδピークで評価したところ、124℃であった。またこのペレット(vi)の40℃以上200℃以下におけるtanδのピーク値は1.3であった。このペレット(vi)の、23℃におけるヤング率は0.5GPaであり、23℃における引張伸びは550%であった。したがって、得られた水素化ブロック共重合体のシラン変性物は、熱可塑性エラストマーであった。
また、このペレット(vi)のアッベ屈折計により測定した屈折率(n1)は1.50であった。
【0074】
[実施例1]
(1-1.印刷用樹脂溶液の調製)
製造例2で製造された、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))11.5部に、トリデカン(沸点234℃)103.5部を加えてペレット(vi)を溶解し、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に、ITO粒子がトルエン中に分散している、10%のITO粒子分散液を10部加えた。ITO粒子は、一次粒子の数平均粒子径が20nmである。一次粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定装置「データサイザーナノ」(マルバーン社製)を用い、ITO粒子分散液を適宜希釈して測定した。
また、トルエンに分散させる前のITO粒子の一次粒子径を、透過型電子顕微鏡(TEM)による粒子の観察によって測定したところ、20nmであった。具体的には、以下の方法により測定した。50個のITO粒子のそれぞれについて、一次粒子の短軸と長軸との和を求めた。得られた和を2で割って得られた数値の算術平均値を、TEMの観察によるITO粒子の一次粒子径とした。
これにより、固形分に対して8%のITO粒子を含む、印刷用樹脂溶液D1を得た。
このITO粒子は、比較例1の(C1-3.樹脂層の光学特性)で後述するとおり、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射する。
印刷用樹脂溶液D1の粘度は、8cPであった。
【0075】
(1-2.樹脂層の形成)
印刷用樹脂溶液D1を、ガラス板上に、インクジェット印刷機により塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を130℃で3分間の条件で乾燥させて、厚み3μmの樹脂層を形成した。インクジェット印刷機による塗布工程では、印刷ヘッドのノズル詰まりはなく、厚みのムラのない、良好な樹脂層を形成できた。
【0076】
(1-3.樹脂層の光学特性)
分光光度計(日本分光社製「V-570」)を用いて、波長800nm以上2000nmの範囲で、ガラス板上に形成された樹脂層の光線透過率を測定した。その結果、樹脂層は、以下に示す光線透過率を示し、近赤外線領域で十分な遮光性を有していることが分かった。
800nm:78%
1150nm:60%
1500nm:16%
2000nm:2.3%
また、樹脂層のヘイズ値をヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH4000」)により測定したところ、0.8%であった。
【0077】
(1-4.透明導電層の抵抗値変化)
銀ナノワイヤー及びポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を総量で2.5%含む、透明導電膜形成材料(ナノニクス社製「AP2325」)を、#12のバーコータを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に塗布して塗布層を得た。塗布層を、90℃で3分間の条件で乾燥させて、透明導電層が形成されたフィルムを得た。得られたフィルムから、一辺が50mmの正方形である試験片を切り出した。試験片の4つの角のうち、隣り合う2つの角の間について、抵抗値を測定したところ、80Ωであった。
該試験片の透明導電層上に、印刷用樹脂溶液D1を、インクジェット印刷機を用いて塗布し、印刷用樹脂溶液D1の層を得た。印刷領域を40mm×50mmとして、印刷用樹脂溶液D1を塗布しない、幅5mmの帯状である領域を、試験片の2つの端部に設けた。印刷用樹脂溶液D1の層を、110℃で3分間の条件で乾燥させて、赤外線遮蔽層である樹脂層を形成した。樹脂層が形成された試験片の4つの角のうち、樹脂層が形成された領域を挟んで隣り合う2つの角の間について、抵抗値を測定したところ、80Ωであり、樹脂層を形成する前と抵抗値は変わらなかった。
【0078】
[実施例2]
(2-1.印刷用樹脂溶液の調製)
以下の事項を変更した以外は、実施例1の(1-1.印刷用樹脂溶液の調製)と同様にして、印刷用樹脂溶液D2を得た。
・水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))の代わりに、製造例1で製造された水素化ブロック共重合体(ペレット(v))を用いた。
・トリデカンの代わりに、デカヒドロナフタレン(沸点190℃)を用いた。
印刷用樹脂溶液D2の粘度は、15cPであった。
【0079】
(2-2.樹脂層の形成)
印刷用樹脂溶液D1の代わりに、印刷用樹脂溶液D2を用いた以外は、実施例1の(1-2.樹脂層の形成)と同様にして、厚み3.1μmの樹脂層を形成した。
【0080】
(2-3.樹脂層の光学特性)
(2-2)で得られた樹脂層について、実施例1の(1-3.樹脂層の光学特性)と同様にして、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
その結果、樹脂層は、以下に示す光線透過率を示し、近赤外線領域で十分な遮光性を有していることが分かった。
800nm:77%
1150nm:60%
1500nm:17%
2000nm:2.4%
また、樹脂層のヘイズ値は、0.8%であった。
【0081】
(2-4.透明導電層の抵抗値変化)
印刷用樹脂溶液D1の代わりに印刷用樹脂溶液D2を用いた以外は、実施例1の(1-4.透明導電層の抵抗値変化)と同様にして抵抗値を測定した。樹脂層が形成された後の試験片について測定された抵抗値は、80Ωであり、樹脂層を形成する前と抵抗値は変わらなかった。
【0082】
[比較例1]
(C1-1.印刷用樹脂溶液の調製)
以下の事項を変更した以外は、実施例1の(1-1.印刷用樹脂溶液の調製)と同様にして、印刷用樹脂溶液CD1を調整した。
・ITO粒子分散液を加えなかった。
印刷用樹脂溶液の粘度は、10cPであった。
【0083】
(C1-2.樹脂層の形成)
印刷用樹脂溶液D1の代わりに、印刷用樹脂溶液CD1を用いた以外は、実施例1の(1-2.樹脂層の形成)と同様にして、厚み3μmの樹脂層を形成した。
【0084】
(C1-3.樹脂層の光学特性)
(C1-2)で得られた樹脂層について、実施例1の(1-3.樹脂層の光学特性)と同様にして、光線透過率及びヘイズ値を測定した。
その結果、樹脂層は、以下に示す光線透過率を示し、近赤外線領域での遮光性は不十分であった。
800nm:92%
1150nm:93%
1500nm:93%
2000nm:91%
また、樹脂層のヘイズ値は、0.2%であった。
【0085】
また、ITO粒子を含む印刷用樹脂溶液D1から得られた樹脂層(樹脂層1)の光線透過率を、ITO粒子を含まない印刷用樹脂溶液CD1から得られた樹脂層(樹脂層C1)の光線透過率と対比すると、樹脂層1は、少なくとも、波長800nm、1150nm、及び1500nmの光について、光線透過率が樹脂層C1よりも小さい。
したがって、印刷用樹脂溶液D1に含まれるITO粒子は、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射することが分かる。
【0086】
[比較例2]
(C2-1.印刷用樹脂溶液の調製)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-1.印刷用樹脂溶液の調製)と同様にして、印刷用樹脂溶液CD2を得た。
・トリデカンの代わりに、テトラヒドロフラン(沸点61℃)を用いた。
・ITO粒子分散液を加えなかった。
印刷用樹脂溶液CD2の粘度は、6cPであった。
【0087】
(C2-2.樹脂層の形成)
印刷用樹脂溶液D1の代わりに、印刷用樹脂溶液CD2を用いた以外は実施例1の(1-2.樹脂層の形成)と同様にして、厚み1μmの樹脂層を形成した。インクジェット印刷機による塗布工程では、印刷ヘッドのノズルが複数箇所で詰まり、その結果、樹脂層にスジ状の厚みムラが発生した。又は塗布工程を中止しなければならなかった。
【0088】
(C2-3.透明導電層の抵抗値変化)
印刷用樹脂溶液D1の代わりに、印刷用樹脂溶液CD2を用いた以外は、実施例1の(1-4.透明導電層の抵抗値変化)と同様にして抵抗値を測定した。樹脂層が形成された後の試験片について測定された抵抗値は、樹脂層を形成する前の値から増大した。
【0089】
[比較例3]
(C3-1.印刷用樹脂溶液の調製)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-1.印刷用樹脂溶液の調製)と同様にして、印刷用樹脂溶液CD3を得た。
・トリデカンの代わりに、シクロヘキサン(沸点80℃)を用いた。
印刷用樹脂溶液CD3の粘度は、7cPであった。
【0090】
(C3-2.樹脂層の形成)
印刷用樹脂溶液CD3を、ガラス板上に、インクジェット印刷機により塗布することを試みた。しかし、印刷ヘッドのノズルが複数箇所で詰まり、その結果樹脂層にスジ状の厚みムラが発生した。又は、塗布工程を中止しなければならなかった。
【0091】
[比較例4]
(C4-1.印刷用樹脂溶液の調製)
下記の事項を変更した以外は、実施例1の(1-1.印刷用樹脂溶液の調製)と同様にして、印刷用樹脂溶液CD4を得た。
・トリデカンの量を、103.5部から28.5部に変更した。
印刷用樹脂溶液CD4の粘度は、60cPであった。
【0092】
(C4-2.樹脂層の形成)
印刷用樹脂溶液CD4を、ガラス板上に、インクジェット印刷機により塗布することを試みた。しかし、印刷ヘッドの全てのノズルが完全に詰まり、塗布工程を中止しなければならなかった。
【0093】
以上の結果より、以下の事項が分かる。
実施例1及び2の印刷用樹脂溶液は、ノズル詰まりを発生させず、インクジェット印刷法による印刷に用いられうる。また、実施例1及び2の印刷用樹脂溶液から得られた樹脂層は、近赤外領域で十分な遮光性を有し、配合されたITO粒子が、近赤外領域の波長光を吸収又は反射するという、所望の機能を保持していることがわかる。さらに、実施例1及び2の印刷用樹脂溶液は、銀ナノワイヤー及びPEDOTを含む電子材料に塗布しても、材料の抵抗値を変化させず、電子材料にも塗布されうることが分かる。
【0094】
一方、比較例1の印刷用樹脂溶液は、ITO粒子を含まないため、得られた樹脂層が、所望する近赤外領域での十分な遮光性を有さないことが分かる。
また、比較例2の印刷用樹脂溶液は、非極性溶媒を含まず、印刷時にノズル詰まりが発生してインクジェット印刷法に適さないことが分かる。さらに電子材料に塗布すると、材料の抵抗値が変化することが分かる。
また、比較例3の印刷用樹脂溶液は、沸点が125℃以上の非極性溶媒を含まず、印刷時にノズル詰まりが発生してインクジェット印刷法に適さないことが分かる。
さらに、比較例4の印刷用樹脂溶液は、粘度が50cPより大きく、印刷時にノズル詰まりが発生してインクジェット印刷法に適さないことが分かる。
【0095】
[実施例3]
酸化亜鉛粒子(堺化学工業社製「NANOFINE-50LP」、一次粒子の平均粒子径20nm)10部に、12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマーを主成分とする分散剤を2部及びドデカン188部を加えてペイントシェーカーで酸化亜鉛粒子を分散させた後、目開き5μmのポリエステルメッシュを用いて濾過し、酸化亜鉛分散液を作製した。酸化亜鉛の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による粒子の観察によって実施例1のITO粒子と同様にして測定されうる。
次に、製造例2で製造された、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))を20部に対し、ドデカン(沸点216℃)80部を加えてペレット(vi)を溶解し、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に、酸化亜鉛分散液を、樹脂溶液:酸化亜鉛分散液が1:1の重量比となるように加え、固形分に対して19%の酸化亜鉛粒子を含む酸化亜鉛分散印刷用樹脂溶液を作製した。この印刷用樹脂溶液の粘度は、12cPであった。
【0096】
得られた酸化亜鉛分散印刷用樹脂溶液を、ガラス板上にインクジェット印刷機を用いて塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を130℃のホットプレート上で3分間乾燥する工程を3回繰り返し、樹脂層としての、パターニングされた紫外線(UV)吸収層を作製した。インクジェット印刷機による塗布工程では、印刷ヘッドのノズル詰まりはなく、厚みのムラのない、良好な樹脂層を形成できた。乾燥後のUV吸収層の厚みは、5μmであった。分光光度計(日本分光社製「V-570」)を用いてUV吸収層の380nmの光線透過率を測定した。その結果、酸化亜鉛粒子を含まない樹脂層は380nmの紫外線の光線透過率が91%であるのに対し、酸化亜鉛粒子を含むUV吸収層は380nmの紫外線の光線透過率が10%まで減じていることを確認した。したがって、酸化亜鉛分散印刷用樹脂溶液に含まれる酸化亜鉛粒子は、350nm以上1500nm以下の波長域の少なくとも一部に含まれる波長の光を、吸収又は反射することが分かる。
【0097】
印刷用樹脂溶液D1の代わりに酸化亜鉛分散印刷用樹脂溶液を用いた以外は、実施例1の(1-4.透明導電層の抵抗値変化)と同様にして抵抗値を測定した。樹脂層が形成された後の試験片について測定された抵抗値は、80Ωであり、樹脂層を形成する前と抵抗値は変わらなかった。
【0098】
[実施例4]
「チタンブラック粒子」(一次粒子の平均粒子径70nm、レーザ回折粒度計により測定)3部に、12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマーを主成分とする分散剤を0.3部及びドデカン196.7部を加えてペイントシェーカーでチタンブラック粒子を分散させ、チタンブラック分散液を作製した。
次に、製造例2で得られた、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))を20部に対し、ドデカン80部を加えて、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液に、チタンブラック分散液を、樹脂溶液:チタンブラック分散液が1:1の重量比となるように加え、固形分に対して7%のチタンブラック粒子を含むチタンブラック分散印刷用樹脂溶液を作製した。この印刷用樹脂溶液の粘度は、11Pであった。
【0099】
得られたチタンブラック分散印刷用樹脂溶液を、ガラス板上にインクジェット印刷機を用いて塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を130℃のホットプレート上で3分間乾燥する工程を3回繰り返し、樹脂層としての、減光層を作製した。インクジェット印刷機による塗布工程では、印刷ヘッドのノズル詰まりはなく、厚みのムラのない、良好な樹脂層を形成できた。乾燥後の減光層の厚みは、6μmであった。
分光光度計(日本分光社製「V-570」)を用いて減光層の光線透過率を測定した。減光層は、以下に示す光線透過率を示し、可視光領域で遮光性を示した。
400nm:37%
500nm:43%
600nm:37%
なお、チタンブラック粒子及び12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマーを主成分とする分散剤を使わなかった以外は、前記の方法と同様にして、厚み6μmの樹脂層を作製した。この粒子を含んでいない樹脂層は、以下のような光線透過率を示した。
400nm:91%
500nm:92%
600nm:92%
【0100】
印刷用樹脂溶液D1の代わりにチタンブラック分散印刷用樹脂溶液を用いた以外は、実施例1の(1-4.透明導電層の抵抗値変化)と同様にして抵抗値を測定した。樹脂層が形成された後の試験片について測定された抵抗値は、80Ωであり、樹脂層を形成する前と抵抗値は変わらなかった。
【0101】
[実施例5]
「チタンブラック粒子」(一次粒子の平均粒子径70nm、レーザ回折粒度計により測定)7部に、12-ヒドロキシステアリン酸オリゴマーを主成分とする分散剤を0.7部及びトリデカン92.3部を加えてペイントシェーカーで分散しチタンブラック分散液を作製した。
次に、製造例1で得られた、水素化ブロック共重合体のシラン変性物(ペレット(vi))を3部に対し、トリデカン97部を加えて、樹脂溶液を作製した。得られた樹脂溶液に、チタンブラック分散液を、樹脂溶液:チタンブラック分散液が1:1の重量比となるように加え、固形分に対して65%のチタンブラック粒子を含むチタンブラック分散印刷用樹脂溶液を作製した。この印刷用樹脂溶液の粘度は、7cPであった。
【0102】
得られたチタンブラック分散印刷用樹脂溶液をガラス板上にインクジェット印刷機を用いて塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を130℃のホットプレート上で3分間乾燥させて、樹脂層としての、減光層を作製した。インクジェット印刷機による塗布工程では、印刷ヘッドのノズル詰まりはなく、厚みのムラのない、良好な樹脂層を形成できた。乾燥後の減光層の厚みは、1μmであった。
分光光度計(日本分光社製「V-570」)を用いて減光層の光線透過率を測定した。減光層は、波長550nmで16%の光線透過率を示し、可視光領域で遮光性を示した。
【0103】
印刷用樹脂溶液D1の代わりにチタンブラック分散印刷用樹脂溶液を用いた以外は、実施例1の(1-4.透明導電層の抵抗値変化)と同様にして抵抗値を測定した。樹脂層が形成された後の試験片について測定された抵抗値は、80Ωであり、樹脂層を形成する前と抵抗値は変わらなかった。
【0104】
実施例3~5より、以下の事項が分かる。
実施例3~5の印刷用樹脂溶液は、ノズル詰まりを発生させず、インクジェット印刷法による印刷に用いられうる。さらに、実施例3~5の印刷用樹脂溶液は、銀ナノワイヤー及びPEDOTを含む電子材料に塗布しても、材料の抵抗値を変化させず、電子材料にも塗布されうることが分かる。