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特許7544053レーザー発色性多層フィルム、該多層フィルムを備えたプラスチックカード用積層体、および、電子パスポート用積層体、該多層フィルムを備えたパスポート等、ならびに、該多層フィルムをパスポート等として用いる方法
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  • 特許-レーザー発色性多層フィルム、該多層フィルムを備えたプラスチックカード用積層体、および、電子パスポート用積層体、該多層フィルムを備えたパスポート等、ならびに、該多層フィルムをパスポート等として用いる方法 図1
  • 特許-レーザー発色性多層フィルム、該多層フィルムを備えたプラスチックカード用積層体、および、電子パスポート用積層体、該多層フィルムを備えたパスポート等、ならびに、該多層フィルムをパスポート等として用いる方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】レーザー発色性多層フィルム、該多層フィルムを備えたプラスチックカード用積層体、および、電子パスポート用積層体、該多層フィルムを備えたパスポート等、ならびに、該多層フィルムをパスポート等として用いる方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240827BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240827BHJP
   B41M 5/26 20060101ALI20240827BHJP
   B42D 25/24 20140101ALI20240827BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/18 Z
B32B27/36
B41M5/26
B42D25/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021536994
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028407
(87)【国際公開番号】W WO2021020269
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019141662
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】八田 全裕
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/116209(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/188828(WO,A1)
【文献】特開2013-240885(JP,A)
【文献】特開2004-243685(JP,A)
【文献】特開2019-025754(JP,A)
【文献】特開2015-083623(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074480(WO,A1)
【文献】特開2011-079285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B41M5/333
B41M5/52
B42D25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層(A)および発色層(B)の少なくとも2層を有するレーザー発色性多層フィルムであって、
前記層(A)が、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂および酸化防止剤を含み、該酸化防止剤の含有量が、該非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂100質量部に対して0.05~4質量部であり、
前記発色層(B)が、ポリカーボネート樹脂およびレーザー発色剤を含み、レーザー発色剤が金属酸化物であり、前記発色層(B)中の酸化防止剤の含有量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.05質量部未満である、レーザー発色性多層フィルム。
【請求項2】
前記レーザー発色剤の単位面積当たり含有量が135μg/cm以上である、請求項1に記載のレーザー発色多層フィルム。
【請求項3】
前記レーザー発色剤の単位面積当たり含有量が135~250μg/cmである、請求項1に記載のレーザー発色多層フィルム。
【請求項4】
前記発色層(B)が酸化防止剤を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルム。
【請求項5】
前記金属酸化物が、ビスマス系の金属酸化物である、請求項1~4のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルム。
【請求項6】
前記酸化防止剤が、ジブチルヒドロキシトルエン及び/またはトリスアルキルホスファイトである、請求項1~5のいずれか1項に記載のレーザー発色性フィルム。
【請求項7】
全光線透過率が84%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルム。
【請求項8】
前記発色層(B)の厚みが、50μm以上200μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルム。
【請求項9】
前記レーザー発色性多層フィルムの少なくとも一方の面に、さらに昇華型熱転写受像層(C)を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルムを備えた、プラスチックカード用積層体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のレーザー発色性多層フィルムを備えた、電子パスポート用積層体。
【請求項12】
層(X)および発色層(Y)の少なくとも2層を有するレーザー発色性多層フィルムであって、
前記層(X)および前記発色層(Y)のうちの一方の層が、樹脂成分としてポリエステル系樹脂を含み、他方の層が、樹脂成分としてポリカーボネート樹脂を含み、
前記層(X)が酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤を含み、該酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上であり、
前記発色層(Y)がレーザー発色剤を含み、レーザー発色剤が金属酸化物であり、前記発色層(Y)中の酸化防止剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.1質量部未満であり、
前記ポリエステル系樹脂が非結晶性のポリエステル系樹脂である、
パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカード用レーザー発色性多層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー発色性多層フィルム、該多層フィルムを備えたプラスチックカード用積層体、および、電子パスポート用積層体、該多層フィルムを備えたパスポート等、ならびに、該多層フィルムをパスポート等として用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、保険証などのカードは、複数枚のカード用シートを重ねて真空プレス機により各シート間を加熱融着した後、打ち抜き機にて打ち抜きカード状に製造される。このようなカードに、レーザーを照射して、文字、バーコード等をマーキングすることが行われる。例えば、バーコード、顔写真等を印刷する替わりに、YAGレーザー等を用いて、カードの個別番号やロット番号、あるいは個人情報、顔写真等をカードに書き込むことが行われている。このように、レーザー等により情報をカードに書き込めば、磨耗や経時劣化で個人情報が消失するのを防ぐことができる。また、レーザーを用いたマーキングは、簡単な工程で行うことができるので、工業的にも価値が高く、注目されている。
【0003】
これらのレーザーマーキングを行ったカードでは、印字部とそれ以外の部分とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像が得られる必要があり、これらの特性は、カードの改竄や偽造等を防止する点においても重要である。
【0004】
特許文献1には、スキン層、コア層を有する少なくとも3層からなる透明レーザーマーキング多層シートが記載されている。特許文献1の透明レーザーマーキング多層シートでは、実施例において記載されているように、コア層は、ポリカーボネートに発色剤(カーボンブラック)と酸化防止剤が添加されて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-194757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来に比べて、印字部とそれ以外の部分とのコントラストが高い、新たな構成のレーザー発色性多層フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者は以下の事項を見出した。
(1)レーザー発色剤である金属酸化物と酸化防止剤とが作用することにより、レーザー発色剤が黒色化して、シートの色調に影響を与えること、
(2)上記を防ぐために、発色層(B)(発色層(Y))中の酸化防止剤の含有量を所定値以下にする必要があり、また、含有量をゼロにすることが好ましいこと、
(3)層(A)と発色層(B)との界面(層(X)と発色層(Y)との界面)でのエステル交換反応を防ぐべく、層(A)(層(X))に酸化防止剤(および/またはエステル交換抑制剤)を添加する必要があること、
【0008】
これらの事項を鋭意検討した結果、本発明者は以下を完成させた。
本発明は、第1の形態として、層(A)および発色層(B)の少なくとも2層を有するレーザー発色性多層フィルムであって、
前記層(A)が、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂および酸化防止剤を含み、該酸化防止剤の含有量が、該非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂100質量部に対して、0.05~4質量部であり、
前記発色層(B)が、ポリカーボネート樹脂およびレーザー発色剤を含み、レーザー発色剤が金属酸化物であり、前記発色層(B)中の酸化防止剤の含有量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.05質量部未満である、レーザー発色性多層フィルムを開示する。
【0009】
第1の形態において、前記レーザー発色剤の単位面積当たり含有量が135μg/cm以上であることが好ましい。
【0010】
第1の形態において、前記レーザー発色剤の単位面積当たり含有量が135~250μg/cmであることが好ましい。
【0011】
第1の形態において、前記発色層(B)が酸化防止剤を含まないことが好ましい。
【0012】
第1の形態において、前記金属酸化物が、ビスマス系の金属酸化物であることが好ましい。
【0013】
第1の形態において、前記酸化防止剤が、ジブチルヒドロキシトルエン及び/またはトリスアルキルホスファイトであることが好ましい。
【0014】
第1の形態のレーザー発色性多層フィルムは、全光線透過率が84%以上であることが好ましい。
【0015】
第1の形態において、前記発色層(B)の厚みが、50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0016】
第1の形態において、前記レーザー発色性多層フィルムの少なくとも一方の面に、さらに昇華型熱転写受像層(C)を有することが好ましい。
【0017】
本発明は、第2の形態として、第1の形態のレーザー発色性多層フィルムを備えた、プラスチックカード用積層体を開示する。
【0018】
本発明は、第3の形態として、第1の形態のレーザー発色性多層フィルムを備えた、電子パスポート用積層体を開示する。
【0019】
本発明は、第4の形態として、層(X)および発色層(Y)の少なくとも2層を有するレーザー発色性多層フィルムであって、
前記層(X)および前記発色層(Y)のうちの一方の層が、樹脂成分としてポリエステル系樹脂を含み、他方の層が、樹脂成分としてポリカーボネート樹脂を含み、
前記層(X)が酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤を含み、該酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上であり、
前記発色層(Y)がレーザー発色剤を含み、レーザー発色剤が金属酸化物であり、前記発色層(Y)中の酸化防止剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.1質量部未満である、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカード用レーザー発色性多層フィルムを開示する。
【0020】
第4の形態において、前記層(X)中の酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.05~4質量部であることが好ましい。
【0021】
第4の形態において、前記発色層(Y)が酸化防止剤を含まないことが好ましい。
【0022】
第4の形態において、前記金属酸化物が、酸素欠陥型であることが好ましい。
【0023】
第4の形態において、前記金属酸化物が、ビスマス系の金属酸化物であることが好ましい。
【0024】
第4の形態において、前記層(X)がポリエステル系樹脂を含み、前記発色層(Y)がポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0025】
第4の形態において、前記ポリエステル系樹脂が非結晶性のポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0026】
本発明は、第5の形態として、第4の形態のレーザー発色性多層フィルムを備えた、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカードを開示する。
【0027】
本発明は、第6の形態として、第4の形態のレーザー発色性多層フィルムを、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカードとして用いる方法を開示する。
【0028】
また、本発明は、第7の形態として、第4の形態のレーザー発色性多層フィルムの、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカードとしての使用を開示する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のレーザー発色性多層フィルムでは、発色層(B)(発色層(Y))中の酸化防止剤の含有量が所定値以下に制限されているので、フィルム全体の着色を抑制し、印字部とそれ以外の部分とのコントラストを高くすることができる。また、層(A)(層(X))中に酸化防止剤(および/またはエステル交換抑制剤)を添加することにより、層(A)と発色層(B)との界面(層(X)と発色層(Y)との界面)でのエステル交換反応を防止して、発泡を防ぐことができ、印字部の視認性を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】(a)、(b)ともに、プラスチックカード用積層体の層構成を示す模式図である。
図2】(a)、(b)ともに、電子パスポート用積層体の層構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態の一例としてのレーザー発色性多層フィルム、プラスチックカード用積層体、電子パスポート用積層体、パスポート等、および、多層フィルムをパスポート等として用いる方法について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0032】
以下に本発明を詳細に説明する。なお、数値範囲を示す「a~b」の記述は、特にことわらない限り「a以上b以下」を意味すると共に、「好ましくはaより大きい」及び「好ましくはbより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
なお、本発明において「発色」とは、発色していない箇所と発色した箇所との間で視覚的に明瞭な相違があれば足り、色彩を有することを必須とするものではない。従って本発明における「発色」には、黒色や灰色等の無彩色をも包含する。
【0033】
<第1の形態のレーザー発色性多層フィルム>
第1形態のレーザー発色性多層フィルムは、層(A)と発色層(B)の少なくとも2層を有する。以下、各層について説明する。
【0034】
(層(A))
層(A)は、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂および酸化防止剤を含む。
【0035】
・非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂
非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂は、実質的に非結晶性であるポリエステル系樹脂であればよく、実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)のポリエステル系樹脂としては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル系樹脂、および、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く、押出し製膜法によるフィルム作成時において結晶性が高い状態とならないポリエステル系樹脂、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(△Hm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。すなわち、本発明における非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂には、“非結晶状態である結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂”をも包含する。
【0036】
層(A)に用いる樹脂成分としては、上記非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を主体とするものが好ましい。ここで、「主体」とは、層(A)の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、55質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含まれることをいう。その上限は100質量%である。
【0037】
層(A)の実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂としては、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%以上80モル%以下の1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)と、20モル%以上80モル%以下のエチレングリコールをジオール成分の主体とする共重合ポリエステルであることが、原料入手の容易さから好ましい。なお、ジカルボン酸成分の主体であるテレフタル酸は、ポリエステルを製造する原料としては、ジメチルテレフタル酸であってもよい。
【0038】
ここで、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4-CHDMおよびエチレングリコールを好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上含むことをいう。
【0039】
ジオール成分における、1,4-CHDMの量が前記下限値以上であることにより、結晶性樹脂としての特徴が抑制され、接着性が良好となる。逆に、1,4-CHDMの量が前記上限値以下であることにより、やはり結晶性が抑制されることから好ましい。
【0040】
該組成範囲にある共重合ポリエステル樹脂の中でも、1,4-CHDMがジオール成分の約30モル%付近の組成では、DSC(示差走査熱量計)測定においても結晶化挙動が認められず、完全に非結晶性を示すことが知られている。該完全に非結晶性のポリエステル系樹脂としては、PETG樹脂が挙げられる。PETG樹脂としては、例えば、イーストマンケミカル社製の「イースター GN001」等が挙げられる。PETG樹脂は、多くの用途に用いられており原料の安定供給体制が確立されている点から、本発明の層(A)の主体となる樹脂成分として特に好ましい。
【0041】
ただし、これに限定されるものではなく、特定の条件では結晶性を示すが通常の押出し製膜条件では非結晶性樹脂として取り扱うことが可能なイーストマンケミカル社の「PCTG・5445」(ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、ジオール成分の約60モル%が1,4-CHDMで、約40モル%がエチレングリコールである共重合ポリエステル樹脂)等を用いることもできる。また、これ以外に、ネオペンチルグリコール共重合PET系樹脂で結晶性を示さないもの(一例として、東洋紡社製の「コスモスター・SI-173」等)や、結晶性の低いもの、例えば、ジエチレングリコールを共重合したPET系樹脂、イソフタル酸を共重合したPET系樹脂やPBT系樹脂で結晶性の低いもの等、各種共重合成分の導入により結晶化を阻害した構造を有する共重合ポリエステル樹脂も層(A)の主体となる実質的に非結晶性であるポリエステル系樹脂として用いることができる。また、上記で例示したポリエステル系樹脂において、テレフタル酸の一部又は全てをナフタレンジカルボン酸に置き換えたポリエステル系樹脂も、非結晶性であるものは同様に用いることができる。
【0042】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを用いることができる。中でも、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤は二種以上を混合して使用してもよい。二種類以上の酸化防止剤を用いることで、押出製膜時の樹脂に対して分子量低下や黄変を効果的に抑えることが可能である。また、二種類以上の酸化防止剤を用いることで、押出製膜時の安定性と、成形品(フィルムや積層体)としての長期安定性とを両立することもできる。
【0043】
フェノール系酸化防止剤としては、α-トコフェロール、4-メトキシフェノール、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、β-トコフェロール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-4-メトキシフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)、プロピオン酸ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)等が挙げられる。中でも、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)が好ましい。
【0044】
リン系酸化防止剤としては、トリス(2,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス〔2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェニル〕ホスファイト、トリス(モノ又はジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’ -ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン、トリスステアリルホスファイト等のトリスアルキルホスファイト等が挙げられる。中でも、トリスステアリルホスファイト等のトリスアルキルホスファイト等が好ましい。
【0045】
イオウ系酸化防止剤としては、チオジプロピオン酸、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリル-β,β’-チオジブチレート、チオビス(β-ナフトール)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート等が挙げられる。
【0046】
層(A)における酸化防止剤の含有量は、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上4質量部以下が好ましく、0.07質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.08質量部以上2質量部以下がさらに好ましい。
【0047】
酸化防止剤は、ポリエステルとポリカーボネートとのエステル交換反応を抑制する効果がある。よって、層(A)に上記所定量の酸化防止剤を含有させることにより、層(A)と発色層(B)との界面におけるエステル交換反応による発泡を抑制することが可能となる。また、酸化防止剤により、フィルム自体の黄変を防ぐという効果もある。このような効果を好適に奏する点から、酸化防止剤の含有量は、上記下限以上であることが好ましく、また、このような効果が飽和する点から、上記上限以下とすることが好ましい。
【0048】
また、層(A)には、その性質を損なわない範囲において、あるいは本発明の目的以外の物性をさらに向上させるために、各種添加剤または汎用樹脂を適宜な量添加してもよい。添加剤としては、熱安定剤、プロセス安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消し剤、衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、充填材等の広汎な樹脂材料に一般的に用いられているものや、カルボジイミド系やエポキシ系他の末端カルボン酸封止剤、あるいは加水分解防止剤等のポリエステル樹脂用として市販されているものを挙げることができる。これらに関しても使用される目的に応じて、通常使用される量を添加すればよい。
汎用樹脂としては、上記した非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂以外の、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂と相溶性のある樹脂を用いることが好ましい。
【0049】
層(A)への着色顔料や染料類の添加は任意である。しかし、本発明においては、実質的に透明な層(A)を介して、発色層(B)におけるコントラストが高い印字を視認可能なことを目的としているので、該視認性が低下するほどには層(A)に着色顔料等を添加しないことが好ましい。
【0050】
(発色層(B))
前記発色層(B)は、ポリカーボネート樹脂およびレーザー発色剤を含む。
【0051】
・ポリカーボネート樹脂
発色層(B)におけるポリカーボネート樹脂としては限定されるものではないが、ビスフェノール系ポリカーボネートを好適に用いることができる。ビスフェノール系ポリカーボネートとは、ジオールに由来する構造単位中50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールであるものをいう。ビスフェノール系ポリカーボネートは、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、ビスフェノール系ポリカーボネートは、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。
【0052】
本発明において用いるビスフェノール系ポリカーボネートの製造方法は、例えば、ホスゲン法、エステル交換法およびピリジン法などの公知のいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。
【0053】
エステル交換法は、ビスフェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
【0054】
ビスフェノールの代表例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他のビスフェノールで置き換えてもよい。
【0055】
ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。
【0056】
一方、炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、及び、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0057】
本発明において用いられるビスフェノール系ポリカーボネートの質量平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、10,000以上、100,000以下、好ましくは30,000以上、80,000以下の範囲である。なお、本発明においては、ビスフェノール系ポリカーボネートを1種のみを単独、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0058】
・レーザー発色剤
本発明において、レーザー発色剤としては、少なくとも金属酸化物を含有する。金属酸化物としてはレーザー発色効果を有するものであれば限定されず、例えば、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化ネオジウム、マイカ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、スメクタイトなどが挙げられる。中でも、レーザー発色効果とコストの観点から、酸化ビスマスや、ビスマスとZn、Ti、Al、Zr、SrおよびNbから選択される少なくとも1種の金属を含んだ金属酸化物等のビスマス系の金属酸化物を用いることが好ましく、酸化ビスマスを用いることがより好ましい。酸化ビスマスは、比較的少量であっても、良好に発色するため、発色層(B)の透明性を損なうことなく、本発明の効果を十分に発揮することが可能となる。
【0059】
発色層(B)におけるレーザー発色剤である金属酸化物の含有量は、レーザー発色性多層フィルムの単位面積当たり含有量として、135μg/cm以上であることが好ましく、135μg/cm以上250μg/cm以下であることがより好ましく、140μg/cm以上245μg/cm以下であることがさらに好ましい。金属酸化物の含有量を上記下限値以上とすることにより、印字性を良好にすることができ、また、上記上限値以下とすることにより、フィルムの透明性を良好にできる。ここで、発色層(B)中にレーザー発色能を有さない金属酸化物を含有している場合は、上記の含有量の数値には算入しない。
【0060】
金属酸化物の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましい。粒径が10μm以下であれば、透明性が大幅に低下するおそれがない。ここで、粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めたメディアン径(d50)を意味する。金属酸化物の平均粒径の下限は限定されないが、印字性能の観点から0.05μm以上であることが好ましい。
【0061】
金属酸化物の市販品としては、例えば、東罐マテリアル・テクノロジー(株)製の商品名「42-903A」、「42-920A」などが挙げられる。
【0062】
発色層(B)は、上記したレーザー発色剤である金属酸化物以外に、金属酸化物以外のレーザー発色剤を含んでいてもよい。ここで、レーザー発色剤とは、レーザー光線の照射によって発熱する機能を有するものであれば特に限定されず、レーザー光の照射によってそれ自身が発色するいわゆる自己発色型発色剤でもよいし、或いは、それ自身は発色しないものであってもよい。レーザー発色剤が発熱することにより、少なくともその周辺の形成材料が炭化し、発色層(B)に所望の印字が表れる。さらに自己発色するレーザー発色剤を用いると、レーザー発色剤の発色とフィルムの形成材料が炭化することによって生じる炭化物による発色とが相乗して、色が濃く、視認性に優れた印字を表すことができる。レーザー発色剤が発色する場合、その色彩は特に限定されるものではないが、視認性の観点から、黒、紺、茶を含む濃色に発色し得るレーザー発色剤を用いることが好ましい。
【0063】
金属酸化物以外のレーザー発色剤の具体例としては、金属系としては例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、コバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモン、アルミニウムなどの金属、それらの塩である塩化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化銅、硝酸銅、リン酸銅、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマスなどの金属塩が挙げられる。また、金属水酸化物系としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化ランタン、水酸化ニッケル、水酸化ビスマスなどが挙げられる。また、金属ホウ化物系としては、例えば、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ランタンホウ化物などが挙げられる。また、染料系としては、例えば、フルオラン系、フェノチアジン系、スピロピラン系、トリフェニルメタフタリド系、ローダミンラクタム系などのロイコ染料などが挙げられる。
【0064】
上記した金属酸化物以外のレーザー発色剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記のうち、希土類元素の六ホウ化物は近赤外吸収能を有しており、中でも六ホウ化ランタンはレーザー光の吸収効率に優れているため好ましい。
【0065】
レーザー発色剤が、金属酸化物以外の金属化合物等の粒状の場合、平均粒径は10μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましい。粒径が10μm以下であれば、透明性が大幅に低下するおそれがない。
【0066】
なお、金属酸化物以外のレーザー発色剤を加える場合は、金属酸化物とそれ以外のレーザー発色剤との合計量が、上記した単位面積当たりの含有量の上限を超えないようにすることが好ましい。こうすることで発色層(B)の透明性の低下を防ぐことができる。
【0067】
・酸化防止剤の含有量
前記発色層(B)中の酸化防止剤の含有量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.05質量部未満が好ましく、0.02質量部以下が更に好ましい。これにより発色層(B)の透明性の低下を防ぐことができる。また、発色層(B)の透明性を重視する場合は、発色層(B)は酸化防止剤を含まないことが好ましい。なお、本発明において「酸化防止剤を含まない」とは、酸化防止剤を実質的に含まないことを意味し、意図的に酸化防止剤を配合しない場合であって、不可避不純物として酸化防止剤を含有する態様も、含むものとする。
【0068】
本発明者が検討したところによると、レーザー発色剤である金属酸化物(例えば、酸化ビスマス)と酸化防止剤とが相互作用して、シートの色調が黒っぽくなる理由は、以下のように説明できると考えている。
【0069】
酸素欠陥型酸化ビスマスは、レーザー発色性がよいものとして知られているが、本発明者が検討したところによると、酸素欠陥型酸化ビスマスは、酸素欠陥の程度によりそれ自体の色が変化することが分かった。つまり、酸素欠陥型酸化ビスマス(一般式:Bi(3-x)、ただし、0.01≦x≦0.3)において、酸素欠陥の程度xが0.3に近づくにつれて、酸化ビスマス自体が黒~灰色に着色してしまうことが分かった。また、酸化防止剤が酸素欠陥型酸化ビスマスを還元させることにより酸素欠陥を増大させていることが予想された。この観点から、本発明者は、発色層(B)における酸化防止剤の含有量を制限することにより、発色層(B)の透明性を維持できることを見出した。
【0070】
また、レーザー発色性の点からすると、酸素欠陥の程度xが、0.01未満とならないようにすることが好ましい。押出製膜時にレーザー発色剤は経時的に酸化するので、所定量の欠陥を確保する観点から、本発明の上限の範囲内において、発色層(B)に酸化防止剤を含有させておくことができる。
【0071】
レーザー発色性の観点から、レーザー発色剤としては、酸素欠陥型の金属酸化物を用いることが好ましく、上記した酸素欠陥型酸化ビスマス以外の酸素欠陥型である金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛や酸化錫等を挙げることができる。
【0072】
(層構成)
第1形態のレーザー発色性多層フィルムの層構成としては、少なくとも、層(A)と発色層(B)と有していれば特に限定されないが、例えば、層(A)/発色層(B)の2層構成、層(A)/発色層(B)/層(A)の3層構成を挙げることができる。
【0073】
・昇華型熱転写受像層(C)
第1形態のレーザー発色性多層フィルムは、該多層フィルムの少なくとも一方側に、昇華型熱転写受像層(C)を備えていてもよい。昇華型熱転写受像層(C)は、顔写真等をフルカラーで鮮明に印刷する際に、その受像層として用いられる。印刷用のインキとシート表面の親和性を高めるために受像層を塗布することにより、より鮮明に印刷が可能となる。なお、この場合の層構成の例としては、昇華型熱転写受像層(C)/層(A)/発色層(B)、層(A)/発色層(B)/昇華型熱転写受像層(C)、昇華型熱転写受像層(C)/層(A)/発色層(B)/層(A)、昇華型熱転写受像層(C)/層(A)/発色層(B)/層(A)/昇華型熱転写受像層(C)を挙げることができる。
【0074】
昇華型熱転写受像層(C)は従来公知のものを使用することができる。例えば、色材を転写または染着し易い樹脂を主成分とするワニスに、必要に応じて、離型剤等の各種添加剤を加えて構成する。
【0075】
昇華型熱転写受像層(C)に用いる染着し易い樹脂は、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、及びこれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ボリアミド系樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニル系モノマーとの共重合体、アイオノマー、セルロース誘導体等の単体、又は混合物を用いることができ、これらの中でもポリエステル系樹脂、及び、ビニル系樹脂が好ましい。
【0076】
上述の樹脂を有機溶剤や水などの溶媒に溶解分散して塗布することにより昇華型熱転写受像層を形成することができる。有機溶剤としては特に限定されるものではないが、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、アセトン、テトラヒドロフラン、又はこれらの混合溶媒等を用いることが出来る。
【0077】
さらに添加剤として、エポキシ化合物等の安定剤、耐候性改善のために紫外線吸収剤、塗布適性改善のため、消泡剤や界面活性剤等を適宜用いることができる。
【0078】
昇華型熱転写受像層(C)には、画像形成時に受像層が熱転写シートと熱融着してしまうのを防止するために、離型剤を配合してもよい。離型剤として、シリコーンオイル、燐酸エステル系可塑剤、フッ素系化合物を用いることかができるが、その中でもシリコーンオイルが好ましい。離型剤の添加量は、受像層形成樹脂100質量部に対して2~30質量部が好ましい。離型剤は受像層の材料に添加混合するのに代えて受像層の表面に離型剤層を積層するようにしてもよい。また受像層中には必要に応じて蛍光漂白剤その他の添加剤を添加してもよい。
【0079】
また、昇華型熱転写受像層(C)と層(A)または発色層(B)との間に、適宜アンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層の機能として、耐溶剤性能、バリア性能、接着性能、白色付与能、隠蔽性能、クッション性付与、耐電防止性などが挙げられる。
【0080】
また、アンカーコート層は、熱可塑性樹脂からなるバインダーに、帯電防止性を有する導電性物質、例えば導電性針状結晶(チタン酸カリウム、酸化チタン、硼酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素等の針状結晶の表面を導電剤で処理したもの)を分散して形成してもよい。帯電防止性を付与することで、熱転写受像シートの熱転写プリンターの供給時にダブルフィード等の搬送トラブルを防止することができる。
【0081】
昇華型熱転写受像層(C)は、通常レーザー発色性多層フィルムの表面(カードとして積層した際に視認側となる面)に設ける。昇華型熱転写受像層(C)は、層(A)と発色層(B)とを有するレーザー発色性多層フィルムの少なくとも片面に薄膜塗工し、乾燥工程を経ることによって形成することができる。塗工方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0082】
・層厚み
第1形態のレーザー発色性多層フィルムの厚みは特に制限されないが、層(A)の厚みは1~50μmであることが好ましい。層(A)の厚みがかかる範囲内であれば、発色層(B)の保護の役割を十分に果たすことができる。層(A)の厚みの下限は、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。一方、上限は、45μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましい。
【0083】
また、発色層(B)の厚みは50~200μmであることが好ましい。発色層(B)の厚みがかかる範囲内であれば、発色性に優れたレーザー印刷を行うことができる。発色層(B)の厚みの下限は、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましい。一方、上限は、180μm以下であることがより好ましく、160μm以下であることがさらに好ましい。
【0084】
(レーザー発色性多層フィルムの性状)
・全光線透過率
レーザー発色性多層フィルムは、透明性が高いことが好ましく、JIS K7105に準拠した全光線透過率は、84%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、86%以上がさらに好ましく、88%以上がもっとも好ましい。レーザー発色性多層フィルムの透明性を高くすることにより、発色層(B)における印字部以外の部分と印字部とのコントラストを高くすることが可能となる。
【0085】
・フィルム着色性(L
明度Lは、分光測色計(型式:CM-2500d、コニカミノルタ社製)を用いて校正白色板の上で測定することでフィルム着色性の指標とし、Lが大きいほど、フィルムは透明に近いことを意味する。Lは、92以上が好ましく、95以上がより好ましい。
【0086】
<第1の形態のレーザー発色性多層フィルムの製法>
第1形態のレーザー発色性多層フィルムの成形方法としては、例えば、各層を形成する樹脂組成物を、所望の厚さとなるように溶融押出成形して積層する方法(共押出法)、各層を所望の厚さを有するフィルム状に形成し、これをラミネートする方法、あるいは、複数の層を溶融押出して形成し、これに別途形成したフィルムをラミネートする方法等がある。これらの中でも、生産性、コストの面から溶融押出成形により積層することが好ましい。
【0087】
具体的には、各層を構成する樹脂組成物をそれぞれ調製し、或いは必要に応じてペレット状にして、Tダイを共有連結した多層Tダイ押出機の各ホッパーにそれぞれ投入する。さらに、温度200~300℃の範囲で溶融して多層Tダイ溶融押出成形する。次に、冷却ロール等で冷却固化する。こうして、多層フィルムを形成することができる。なお、本開示のレーザー印刷用多層フィルムは、上記方法に限定されることなく、公知の方法により形成することができる。
【0088】
<第2の形態のプラスチックカード用積層体>
第2の形態のプラスチックカード用積層体は、上記した第1の形態のレーザー発色性多層フィルムを備えている。また、本発明の第2の形態のプラスチックカード用積層体は、上記した第1の形態のレーザー発色性多層フィルムを表面材として備えていることが好ましい。プラスチックカードとしては、例えば、運転免許証、保険証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書などのIDカード、キャッシュカード、クレジットカード、タグカード、ICカード、磁気カード、車検証、プリペイドカードなどが挙げられる。
【0089】
第2の形態のプラスチックカード用積層体の構成としては、具体的には、図1(a)に示した、レーザー発色性多層フィルム1/コア用シート2/レーザー発色性多層フィルム1からなる3層積層体20A、または、図1(b)に示した、保護層4/レーザー発色性多層フィルム1/コア用シート2/レーザー発色性多層フィルム1/保護層4からなる5層積層体20Bが好ましい。
【0090】
コア用シート2は、好ましくは溶融押出成形により少なくとも1層以上のシートが積層されて形成されるシートであり、ポリカーボネート樹脂及び/又は非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を主成分として、主成分の樹脂100質量%に対して、少なくとも1種以上の着色剤を1質量%以上含有させることが好ましい。コア用シート2の全厚さは400~700μmであることが好ましい。コア用シートの着色剤としては、白色顔料として酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、黄色顔料として酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料として、酸化鉄、青色顔料としてコバルトブルー群青等が挙げられる。ただし、コントラスト性を高めるため、薄い色付、淡彩色系となるものが好ましい。上記した着色剤の中でも、より好ましいのはコントラスト性の際立つ、白色系染料、顔料等の樹脂の着色剤が添加されることである。
【0091】
保護層4は、レーザー光エネルギー照射によるレーザー印字部分が発泡する、いわゆる「膨れ」を抑制するための層である。保護層4に用いる樹脂としては、特に制限はないが、透明性の高い樹脂が好ましく、例えば、ポリカーボネート樹脂、非結晶性の芳香族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂と非結晶性の芳香族ポリエステル樹脂の混合物等が挙げられる。
【0092】
<第3の形態の電子パスポート用積層体>
第3の形態の電子パスポート用積層体は、上記した第1の形態のレーザー発色性多層フィルムを備えている。また、本発明の第3の形態の電子パスポート用積層体は、上記した第1の形態のレーザー発色性多層フィルムを表面材として備えていることが好ましい。
【0093】
第3の形態の電子パスポート用積層体の構成としては、具体的には、図2(a)に示した、レーザー発色性多層フィルム1/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/レーザー発色性多層フィルム1からなる5層積層体10A、または、図2(b)に示した、保護層4/レーザー発色性多層フィルム1/コア用シート2/ヒンジシート3/コア用シート2/レーザー発色性多層フィルム1/保護層4からなる7層積層体10Bが好ましい。
【0094】
第3の形態の電子パスポート用積層体におけるヒンジシート3は、(1)レーザー発色性多層フィルムに、レーザーマーキングにより書き込んだ文字、図形、記号、又は情報、(2)コア用シートに印刷等により印刷した画像、文字等の情報、さらには(3)例えば、各種の情報等を、ICチップ等の記憶媒体に記憶させて配設したシート、いわゆるインレットシートに配設するICチップ等の記憶媒体に記憶させた各種の情報を、パスポートの表紙と他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。そのため、堅固な加熱融着性、適度な柔軟性、加熱融着工程での耐熱性等を有するものが好ましい。例えば、このヒンジシート3を(パスポートの)表紙等にミシン綴じをする場合には、ミシン部の引裂き、引張強度に優れ、且つ、このヒンジ部の耐光、耐熱性を有することが要求される場合が多い。さらには、繰り返し曲げに対する抵抗性、言い換えるとヒンジ特性に優れることが要求される場合も多い。従って、このような目的に合致するヒンジシート3としては、下記素材が好適に用いられる。
【0095】
このような役割を果たすヒンジシート3は、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーから選ばれる少なくとも1種から形成されるシートとして構成されることが好ましい。また、ヒンジシート3が、ポリエステル樹脂、及び/又はポリアミド樹脂の織物、前記織物と熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーから選ばれる少なくとも1種から形成されるシートからなるラミネートシートとして構成されることも好ましい。
【0096】
コア用シート2について、全厚さ50~200μmであることが好ましい以外は、上記と同様である。また、保護層4は、上記と同様である。
【0097】
<第4の形態のレーザー発色性多層フィルム>
本発明の第4の形態のレーザー発色性多層フィルムは、層(X)および発色層(Y)の少なくとも2層を有するレーザー発色性多層フィルムであって、前記層(X)および前記発色層(Y)のうちの一方の層が、樹脂成分としてポリエステル系樹脂を含み、他方の層が、樹脂成分としてポリカーボネート樹脂を含み、
前記層(X)が酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤を含み、該酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上であり、
前記発色層(Y)がレーザー発色剤を含み、レーザー発色剤が金属酸化物であり、前記発色層(Y)中の酸化防止剤の含有量が、該樹脂成分100質量部に対して0.1質量部未満である、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカード用レーザー発色性多層フィルムである。
【0098】
第4の形態のレーザー発色性多層フィルムにおいて、層(X)と発色層(Y)のうちの一方の層が、樹脂成分としてポリエステル系樹脂を含み、他方の層が、樹脂成分としてポリカーボネート樹脂を含んでいればよく、層(X)がポリエステル系樹脂を含み、発色層(Y)がポリカーボネート樹脂を含んでいてもよいし、逆に、層(X)がポリカーボネート樹脂を含み、発色層(Y)がポリエステル系樹脂を含んでいてもよい。
中でも、多層フィルム全体の着色を防止し、印字部とそれ以外の部分とのコントラストを高くすることができる点から、層(X)がポリエステル系樹脂を含み、発色層(Y)がポリカーボネート樹脂を含んでいることが好ましい。
【0099】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂としては、特に限定はなく、結晶性または非結晶性の脂肪族ポリエステル系樹脂、結晶性または非結晶性の脂環族ポリエステル系樹脂、結晶性または非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を用いることができるが、中でも、透明性やコストの点から、非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましい。
非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂としては、第1形態のレーザー発色性多層フィルムの層(A)におけるものと同様のものを使用することができる。
【0100】
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂としては、第1形態のレーザー発色性多層フィルムの発色層(B)におけるものと同様のものを使用することができる。
【0101】
(層(X))
層(X)は、上記した樹脂成分の他に、酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤を含む。
【0102】
・酸化防止剤
酸化防止剤は、第1形態のレーザー発色性多層フィルムにおけるものと同様のものを使用することができる。
【0103】
・エステル交換抑制剤
エステル交換抑制剤としては、ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂とのエステル交換反応を抑制できるものであれば特に制限はなく、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル、これらの金属塩等が挙げられ、中でもリン酸エステル化合物が好ましく、特に有機リン酸エステル化合物が好ましい。
有機リン酸エステル化合物は、リン原子にアルコキシ基又はアリールオキシ基が1~3個結合した部分構造を有するものである。なお、これらのアルコキシ基やアリールオキシ基には、さらに置換基が結合していてもよい。好ましくは、有機リン酸エステル化合物の金属塩であり、金属としては、周期律表第Ia、IIa、IIb、IIIa、および、IIIbから選ばれる少なくとも1種の金属がより好ましく、中でも、マグネシウム、バリウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウムがさらに好ましく、マグネシウム、カルシウム又は亜鉛が特に好ましい。
【0104】
本発明においては、下記一般式(1)~(5)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いることが好ましく、下記一般式(1)~(4)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いることがより好ましく、下記一般式(1)又は(2)で表される有機リン酸エステル化合物を用いることがさらに好ましい。有機リン酸エステル化合物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
【化1】
【0106】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0107】
【化2】
【0108】
一般式(2)中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0109】
【化3】
【0110】
一般式(3)中、R~R11は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mは3価の金属イオンとなる金属原子を表す。
【0111】
【化4】
【0112】
一般式(4)中、R12~R14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mは3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのMはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0113】
【化5】
【0114】
一般式(5)中、R15はアルキル基又はアリール基を表す。nは0~2の整数を表す。なお、nが0又は1のとき、2つまたは3つのR15は同一でも異なっていてもよい。
【0115】
一般式(1)~(5)中、R~R15は、通常は炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~30のアリール基である。滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性等の観点からは、炭素数2~25のアルキル基であるのが好ましく、更には炭素数6~23のアルキル基であるのが最も好ましい。アルキル基としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、一般式(1)、(2)のM、Mは亜鉛であるのが好ましく、一般式(3)、(4)のM、Mはアルミニウムであるのが好ましい。
【0116】
有機リン酸エステル化合物の好ましい具体例としては一般式(1)の化合物としてはビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、一般式(2)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩、一般式(3)の化合物としてはトリス(ジステアリルアッシドホスフェート)アルミニウム塩、一般式(4)の化合物としては1個のモノステアリルアッシドホスフェートと2個のモノステアリルアッシドホスフェートアルミニウム塩との塩、一般式(5)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェートやジステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。中でも、ビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、モノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩がより好ましい。これらは単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0117】
有機リン酸エステル化合物としては、エステル交換抑制効果が非常に高く、成形加工時の熱安定性がよく成形性に優れ、押出機等の温度を高めに設定することが可能となって成形が安定すること、また耐加水分解性、耐衝撃性が優れる観点から、前記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、前記一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩等のステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩を用いるのが好ましい。これらの市販のものとしては、城北化学工業社製「JP-518Zn」等がある。
【0118】
また、有機ホスファイト化合物や有機ホスホナイト化合物も使用することができる。有機ホスファイト化合物としては、好ましくは、下記一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0119】
【化6】
(一般式(6)中、R16、R17及びR18は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基又は炭素原子数6~30のアリール基であり、R16、R17及びR18のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
【0120】
有機ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0121】
有機ホスホナイト化合物としては、好ましくは、下記一般式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0122】
【化7】
(一般式(7)中、R19、R20及びR21は、それぞれ水素原子、炭素原子数1~30のアルキル基又は炭素原子数6~30のアリール基であり、R19、R20及びR21のうちの少なくとも1つは炭素原子数6~30のアリール基である。)
【0123】
有機ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0124】
層(X)における酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤の含有量は、上記樹脂成分100質量部に対して、0.01質量部以上であり、0.05質量部以上4質量部以下が好ましく、0.07質量部以上3質量部以下がより好ましく、0.08質量部以上2質量部以下がさらに好ましい。なお、酸化防止剤、および、エステル交換抑制剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、両者を混合して用いてもよい。
【0125】
酸化防止剤およびエステル交換抑制剤は、ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂とのエステル交換反応を抑制する効果がある。よって、層(X)に上記所定量の酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤を含有させることにより、層(X)と発色層(Y)との界面におけるエステル交換反応による発泡を抑制することが可能となる。また、酸化防止剤およびエステル交換抑制剤により、フィルム自体の黄変を防ぐという効果もある。このような効果を好適に奏する点から、酸化防止剤および/またはエステル交換抑制剤の含有量は、上記下限以上であることが好ましく、また、このような効果が飽和する点から、上記上限以下とすることが好ましい。
【0126】
層(X)に各種添加剤または汎用樹脂、あるいは、着色顔料や染料類を添加可能な点については、上記第1形態のレーザー発色性多層フィルムと同様である。
【0127】
(発色層(Y))
発色層(Y)は、上記樹脂成分の他に、レーザー発色剤を含む。
【0128】
・レーザー発色剤
レーザー発色剤は、第1形態のレーザー発色性多層フィルムの発色層(B)におけるものと同様である。
【0129】
・レーザー発色剤の含有量
レーザー発色性多層フィルムの単位面積当たりのレーザー発色剤の含有量についても、上記第1形態のレーザー発色性多層フィルムの発色層(B)における含有量と同様である。
【0130】
・酸化防止剤の含有量
前記発色層(Y)中の酸化防止剤の含有量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.1質量部未満であり、0.07質量部以下が好ましく、0.05質量部未満がより好ましく、0.02質量部以下が更に好ましい。これにより発色層(Y)の透明性の低下やフィルムの着色を防ぐことができる。また、発色層(Y)の透明性、着色防止を重視する場合は、発色層(Y)は酸化防止剤を含まないことが好ましい。
【0131】
(層構成)
第4の形態のレーザー発色性多層フィルムの層構成としては、少なくとも、層(X)と発色層(Y)と有していれば特に限定されないが、例えば、層(X)/発色層(Y)の2層構成、層(X)/発色層(Y)/層(X)の3層構成を挙げることができる。
【0132】
・昇華型熱転写受像層(C)
第4の形態のレーザー発色性多層フィルムは、該多層フィルムの少なくとも一方側に、昇華型熱転写受像層(C)を備えていてもよい。昇華型熱転写受像層(C)は、第1の形態のレーザー発色性多層フィルムにおけるものと同様である。
【0133】
(用途)
第4の形態のレーザー発色性多層フィルムの用途としては、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカードを挙げることができる。
【0134】
<第4の形態のレーザー発色性多層フィルムの使用方法>
第4の形態のレーザー発色性多層フィルムは、パスポート、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、および、クレジットカードとして使用することができる。第2及び第3形態において説明したように、コア用シート、ヒンジシート等、用途に応じて必要なシート等と組み合わせて、各用途に適した積層体とすることで、各用途にて使用することが可能となる。
【実施例
【0135】
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
【0136】
<材料>
各実施例および比較例において使用した材料は、以下の通りである。
(非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂(PETG))
PETGとして、GN001(イーストマンケミカル社製)を使用した。
【0137】
(ポリカーボネート系樹脂(PC))
PCとして、ノバレックス7027(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)を用いた。
【0138】
(酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を用いた。
リン系酸化防止剤として、トリスステアリルホスファイトを用いた。
【0139】
(レーザー発色剤)
レーザー発色剤として、酸化ビスマス(平均粒子径:1μm、比重:8.9g/cm)を用いた。
【0140】
下記実施例および比較例において、第1実施形態の層(A)は第4実施形態の層(X)に相当し、第1実施形態の発色層(B)は第4実施形態の発色層(Y)に相当する。
<実施例1>
層(A)として、PETG100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤を0.08質量部、リン系酸化防止剤を0.08質量部をドライブレンドして、押出機を用いて2種3層のマルチマニホールド式の口金より、第1層および第3層(両外層)として240℃で押出した。
また、発色層(B)として、PC100質量部に対して、レーザー発色剤を0.30質量部をドライブレンドして、押出機の上記口金より、第2層(中間層)として、240℃で押出した。
押出したフィルムを、約80℃のキャスティングロールにて急冷して、層(A)が20μm、発色層(B)が90μm、総厚が130μmである、多層フィルムを得た。
【0141】
<実施例2>
発色層(B)における、レーザー発色剤の量を、0.23質量部とした以外は、実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。
【0142】
<実施例3>
発色層(B)における、レーザー発色剤の量を、0.19質量部とした以外は、実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。
【0143】
<実施例4>
発色層(B)における、レーザー発色剤の量を、0.19質量部として、層(A)の厚みを14μm、発色層(B)の厚みを102μmとした以外は、実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。
【0144】
<実施例5>
層(A)において、フェノール系酸化防止剤を0.05質量部、リン系酸化防止剤を0.05質量部とし、発色層(B)における、レーザー発色剤の量を0.16質量部とした以外は、実施例4と同様にして、多層フィルムを得た。
【0145】
<実施例6>
発色層(B)に、さらに、フェノール系酸化防止剤を0.01質量部、リン系酸化防止剤を0.01質量部添加した以外は、実施例4と同様にして、多層フィルムを得た。
【0146】
<実施例7>
実施例1の多層フィルムの一方の面側に、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体とMEK/シクロヘキサン混合溶媒とを質量比で共重合体:混合溶媒20:80で混合して得られた昇華型熱転写受像層(C)を乾燥後厚み2μmとなるように設けた。
<実施例8>
層(A)として、PETG100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤を0.08質量部、リン系酸化防止剤を0.08質量部をドライブレンドして、押出機を用いて2種3層のマルチマニホールド式の口金より、第1層および第3層(両外層)として240℃で押出した。
また、発色層(B)として、PC100質量部に対して、レーザー発色剤を0.30質量部をドライブレンドして、押出機の上記口金より、第2層(中間層)として、240℃で押出した。
押出したフィルムを、約80℃のキャスティングロールにて急冷して、層(A)が23μm、発色層(B)が104μm、総厚が150μmである、多層フィルムを得た。
【0147】
<実施例9>
発色層(B)において、レーザー発色剤を0.19質量部とし、層(A)を11μm、発色層(B)を78μmとして、総厚を100μmとした以外は、実施例8と同様にして、多層フィルムを得た。
【0148】
<比較例1>
層(A)として、PETGを用い、押出機を用いて2種3層のマルチマニホールド式の口金より、第1層および第3層(両外層)として240℃で押出した。
また、発色層(B)として、PC100質量部に対して、レーザー発色剤を0.05質量部、フェノール系酸化防止剤を0.12質量部、リン系酸化防止剤を0.12質量部をドランブレンドして、押出機の上記口金より、第2層(中間層)として、240℃で押出した。
押出したフィルムを、約80℃のキャスティングロールにて急冷して、層(A)が12.5μm、発色層(B)が25μm、総厚が50μmである、多層フィルムを得た。
【0149】
<比較例2>
層(A)の厚みを25μm、発色層(B)の厚みを50μm、総厚を100μmとした以外は、比較例1と同様にして、多層フィルムを得た。
【0150】
<比較例3>
層(A)として、PETGを用い、押出機を用いて2種3層のマルチマニホールド式の口金より、第1層および第3層(両外層)として240℃で押出した。
また、発色層(B)として、PC100質量部に対して、レーザー発色剤を0.19質量部、フェノール系酸化防止剤を0.08質量部、リン系酸化防止剤を0.08質量部をドランブレンドして、押出機の上記口金より、第2層(中間層)として、240℃で押出した。
押出したフィルムを、約80℃のキャスティングロールにて急冷して、層(A)が14μm、発色層(B)が102μm、総厚が130μmである、多層フィルムを得た。
【0151】
<比較例4>
層(A)として、PETGを用い、押出機を用いて2種3層のマルチマニホールド式の口金より、第1層および第3層(両外層)として240℃で押出した。
また、発色層(B)として、PC100質量部に対して、フェノール系酸化防止剤を0.15質量部、リン系酸化防止剤を0.15質量部をドランブレンドして、押出機の上記口金より、第2層(中間層)として、240℃で押出した。
押出したフィルムを、約80℃のキャスティングロールにて急冷して、層(A)が25μm、発色層(B)が50μm、総厚が100μmである、多層フィルムを得た。
【0152】
<比較例5>
発色層(B)において、酸化防止剤を添加しなかった以外は、比較例4と同様にして、多層フィルムを得た。
【0153】
<評価>
上記実施例および比較例にて得られた多層フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(単位面積当たりのレーザー発色剤量)
単位面積当たりのレーザー発色剤量は、以下の式に従って求めた。
単位面積当たりのレーザー発色剤量(μg/cm)=レーザー発色剤の比重(μg/cm)×レーザー発色剤含有層におけるレーザー発色剤の質量割合(%)×レーザー発色剤含有層の厚み(cm)、
例えば、実施例1の場合、以下のように計算される。
8.9×10(比重)×0.003(質量割合)×90×10-4(厚み)=240.3
【0154】
(フィルム発泡)
作製した多層フィルムを目視により観察し、気泡の有無について以下の基準により評価した。
○:多層フィルム中に気泡がない、
×:多層フィルム中に気泡が見られた、
【0155】
(フィルム着色性(L))
作製した多層フィルムの色度Lについて、分光測色計(型式:CM-2500d、コニカミノルタ社製)を用いて校正白色板の上でLの測定を行った。Lが92以上を好ましく、95以上をより好ましいと判断した。
【0156】
(透明性(全光線透過率))
ヘーズメーター(型式:TC-HIIIDPK、東京電色社製)にて、JIS K7105に準拠して全光線透過率を測定した。
全光線透過率が84%以上を好ましく、85%以上をより好ましいと判断した。
【0157】
(印字性(反射濃度値))
多層フィルムを用いて作製したカードについて、日本電産コパル社製CLM-20を用いて、51μm/step×80%でレーザー印字を行って、X-Rite社製eXactにより反射濃度値を測定した。反射濃度値が1.4以上を好ましく、1.5以上をより好ましいと判断した。
なお、カードは、多層フィルムと厚さ280μmのコアシート(質量比でPETG:酸化チタン=88:12)を多層フィルム/コアシート/コアシート/多層フィルムの順に重ねた後、120℃の熱プレス機によって得た積層体をカード形状に打ち抜かれたものである。
【0158】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明のレーザー発色性多層フィルムは、印字部とそれ以外の部分とのコントラストを高くすることができるため、改竄や偽造防止が必要な種々の分野、例えば、運転免許証、保険証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書などのIDカード、キャッシュカード、クレジットカード、タグカード、ICカード、磁気カード、車検証、プリペイドカード等のプラスチックカード用積層体の構成材料として、または、パスポート用積層体の構成材料として、使用可能である。
【符号の説明】
【0160】
1:レーザー発色性多層フィルム
2:コア用シート
3:ヒンジシート
4:保護層
20A、20B:プラスチックカード用積層体
10A、10B:電子パスポート用積層体
図1
図2