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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法、及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240827BHJP
   B29C 55/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021543712
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032137
(87)【国際公開番号】W WO2021044916
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019162220
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪股 貴道
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-218317(JP,A)
【文献】特開2013-218316(JP,A)
【文献】特開2015-121659(JP,A)
【文献】特開2013-186367(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131631(WO,A1)
【文献】特開2008-310262(JP,A)
【文献】特開2013-140324(JP,A)
【文献】特開2005-284047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C 55/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の複層物を得る第一工程、
前記複層物を二色性物質で染色する第二工程、及び
前記複層物を長手方向に搬送しながら、前記複層物を幅方向に延伸し、前記複層物を配向させる第三工程を含み、
前記第二工程及び前記第三工程を液体中で行
前記第三工程は、前記複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々を、端部ピンチローラーにより把持し、前記複層物が幅方向に延伸する方向に前記端部ピンチローラーが回転するよう、前記端部ピンチローラーを駆動することを含み、
前記端部ピンチローラーの軸と前記複層物の搬送方向とがなす角度が5°~89°であり、
前記端部ピンチローラーは、前記複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々において、前記端部の搬送経路に沿って複数配置され、
複数の前記端部ピンチローラーが、第一端部ピンチローラー、及び前記第一端部ピンチローラーより下流側に配置された第二端部ピンチローラーを含み、前記第一端部ピンチローラー及び前記第二端部ピンチローラーが、下記式(1)を満たす、偏光フィルムの製造方法
θ1>θ2 式(1)
但し、θ1は、前記第一端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度であり、
θ2は、前記第二端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度である
【請求項2】
前記第三工程開始時の前記複層物の搬送速度V1、及び
前記第三工程終了時の前記複層物の搬送速度V2が、式(2)を満たす、請求項に記載の偏光フィルムの製造方法:
V1>V2 式(2)
【請求項3】
前記第一工程が、ポリビニルアルコールフィルム上に、樹脂層(B)を形成することを含む、請求項1又は2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第一工程が、樹脂フィルム上にポリビニルアルコール層(A)を形成することを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
偏光フィルムの製造装置であって、
液体を貯留する貯留槽、及び
前記貯留槽内に設けられた延伸装置を含み、
前記延伸装置は、ポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の複層物を長手方向に搬送しながら、前記複層物を幅方向に延伸し、前記複層物を配向させうる延伸装置であ
搬送される前記複層物の搬送経路の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々に設けられた端部ピンチローラーであって、前記複層物が幅方向に延伸する方向に回転するよう駆動可能に設けられる、端部ピンチローラーを含み、
前記端部ピンチローラーは、その軸と前記複層物の搬送方向とがなす角度が5°~89°となるよう、その位置を調整可能に設けられ、
前記端部ピンチローラーは、前記複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々において、前記端部の搬送経路に沿って複数配置され、
複数の前記端部ピンチローラーが、第一端部ピンチローラー、及び前記第一端部ピンチローラーより下流側に配置された第二端部ピンチローラーを含み、前記第一端部ピンチローラー及び前記第二端部ピンチローラーが、下記式(1)を満たすよう配置される、偏光フィルムの製造装置
θ1>θ2 式(1)
但し、θ1は、前記第一端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度であり、
θ2は、前記第二端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造方法、偏光フィルム、及び偏光フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置には、しばしば、偏光フィルムが設けられる。偏光フィルムは、一般に、偏光子層と、この偏光子層を保護するための保護フィルム層とを備える。偏光子層としては、ポリビニルアルコールを主成分とするフィルムが広く用いられる。一方保護フィルム層としては、偏光子層より強度の高い樹脂のフィルムが用いられる。偏光子層の形成は、一般的に、ポリビニルアルコールを主成分とする材料のみからなるか、当該材料からなる層を含む複層物である材料フィルムを、二色性物質で染色する工程、及び延伸する工程に供することによって行われる。
【0003】
材料フィルムの延伸は、通常は、高い偏光度を得る観点から、液体中で行われる。例えば、二色性物質を含む液体を貯留する槽中で、長尺の材料フィルムを連続的に搬送し、材料フィルムの上流側の搬送速度より下流側の搬送速度を大きくすることにより、材料フィルムを長手方向に延伸する。
【0004】
しかしながら、このような延伸を行う場合、材料フィルムの幅方向寸法に比べて、得られる偏光フィルムの幅方向寸法が縮小する。したがって、大面積の偏光フィルムを製造する場合、必要になる材料フィルムの幅方向寸法が非常に大きくなり、したがって製造ラインにおける製造設備も非常に大型となる。このことは、大型テレビ等の大面積の表示装置に適用する偏光フィルムを製造する場合に特に大きな問題となる。
【0005】
幅方向寸法が大きい偏光フィルムを容易に製造する方法としては、材料フィルムを幅方向に延伸することが考えられる。そのような技術は、例えば、特許文献1及び2に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-287254号公報(対応公報:米国特許出願公開第2006/210803号明細書)
【文献】特開2008-310262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2では、延伸の工程を、乾式の工程として行っている。即ち、染色の工程とは別の時点において、気体中において、テンター装置等の幅方向への延伸を行いうる延伸装置により、延伸の工程を行っている。
【0008】
このような乾式の延伸を行った場合、得られる偏光フィルムの偏光度が不十分なものとなることが知られている。具体的には、偏光度が99.99%以上の偏光度を得ることが困難である。偏光度が99.99%未満の偏光フィルムしか得られない場合、染色を濃色とし可視光の透過率が低い偏光フィルムとすることで実用に供しうることが可能であるが、その場合、表示装置の明るさ及び消費電力効率が不所望に低下する。また横延伸した偏光フィルムのみを搬送し、乾燥工程に供したり、他フィルムと貼り合わせたりすると、フィルムの破断が生じやすく、安定生産に適さない。
【0009】
従って、本発明の目的は、幅方向寸法が大きく、偏光度が高く、且つ安定生産可能な偏光フィルム、その製造方法、及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記の課題を解決するべく検討した。その結果、本発明者は、特定の複層物を材料として用い、染色の工程と、幅方向への延伸の工程を液体中で行うことにより、前記課題を解決することを着想し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0011】
〔1〕 ポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の複層物を得る第一工程、
前記複層物を二色性物質で染色する第二工程、及び
前記複層物を長手方向に搬送しながら、前記複層物を幅方向に延伸し、前記複層物を配向させる第三工程を含み、
前記第二工程及び前記第三工程を液体中で行う、偏光フィルムの製造方法。
〔2〕 前記第三工程は、前記複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々を、端部ピンチローラーにより把持し、前記複層物が幅方向に延伸する方向に前記端部ピンチローラーが回転するよう、前記端部ピンチローラーを駆動することを含み、
前記端部ピンチローラーの軸と前記複層物の搬送方向とがなす角度が5°~89°である、〔1〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔3〕 前記端部ピンチローラーは、前記複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々において、前記端部の搬送経路に沿って複数配置される、〔2〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔4〕 複数の前記端部ピンチローラーが、第一端部ピンチローラー、及び前記第一端部ピンチローラーより下流側に配置された第二端部ピンチローラーを含み、前記第一端部ピンチローラー及び前記第二端部ピンチローラーが、下記式(1)を満たす、〔3〕に記載の偏光フィルムの製造方法:
θ1>θ2 式(1)
但し、θ1は、前記第一端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度であり、
θ2は、前記第二端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度である。
〔5〕 前記第三工程開始時の前記複層物の搬送速度V1、及び
前記第三工程終了時の前記複層物の搬送速度V2が、式(2)を満たす、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法:
V1>V2 式(2)
〔6〕 前記第一工程が、ポリビニルアルコールフィルム上に、樹脂層(B)を形成することを含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔7〕 前記第一工程が、樹脂フィルム上にポリビニルアルコール層(A)を形成することを含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔8〕 染色され延伸されたポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の偏光フィルムであって、
幅方向に吸収軸を有し可視光透過率42.0%以上で偏光度99.995%以上である、偏光フィルム。
〔9〕 偏光フィルムの製造装置であって、
液体を貯留する貯留槽、及び
前記貯留槽内に設けられた延伸装置を含み、
前記延伸装置は、長尺の複層物を長手方向に搬送しながら、前記複層物を幅方向に延伸し、前記複層物を配向させうる延伸装置である、偏光フィルムの製造装置。
〔10〕 前記延伸装置は、
搬送される前記複層物の搬送経路の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々に設けられた端部ピンチローラーであって、前記複層物が幅方向に延伸する方向に回転するよう駆動可能に設けられる、端部ピンチローラーを含み、
前記端部ピンチローラーは、その軸と前記複層物の搬送方向とがなす角度が5°~89°となるよう、その位置を調整可能に設けられる、〔9〕に記載の偏光フィルムの製造装置。
〔11〕 前記端部ピンチローラーは、前記複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々において、前記端部の搬送経路に沿って複数配置される、〔10〕に記載の偏光フィルムの製造装置。
〔12〕 複数の前記端部ピンチローラーが、第一端部ピンチローラー、及び前記第一端部ピンチローラーより下流側に配置された第二端部ピンチローラーを含み、前記第一端部ピンチローラー及び前記第二端部ピンチローラーが、下記式(1)を満たすよう配置される、〔11〕に記載の偏光フィルムの製造装置:
θ1>θ2 式(1)
但し、θ1は、前記第一端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度であり、
θ2は、前記第二端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、幅方向寸法が大きく、偏光度が高く、且つ安定生産可能な偏光フィルム、その製造方法、及びその製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の製造装置及びそれを用いた本発明の製造方法の実施の一例を概略的に示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示す延伸装置200を、より詳細に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0015】
以下の説明において、「長尺」とは、幅に対して、通常5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有する形状をいう。幅に対する長さの割合の上限は、特に限定されないが、例えば10万倍以下でありうる。
【0016】
以下の説明において、要素の方向が「平行」及び「垂直」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°の範囲内、又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0017】
〔偏光フィルムの製造方法:概要〕
本発明の偏光フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の複層物を得る第一工程、複層物を二色性物質で染色する第二工程、及び複層物を長手方向に搬送しながら、複層物を幅方向に延伸し、複層物を配向させる第三工程を含む。
【0018】
〔第一工程〕
ポリビニルアルコール層(A)を構成する材料は、ポリビニルアルコール樹脂としうる。ポリビニルアルコール樹脂とは、ポリビニルアルコール若しくはその誘導体を含み、必要に応じ任意成分を含みうる樹脂である。ポリビニルアルコール若しくはその誘導体は、酢酸ビニルを重合してポリ酢酸ビニルを得、当該ポリ酢酸ビニルをけん化する工程を含む製造方法により製造しうる。
【0019】
樹脂層(B)を構成する樹脂は、ポリビニルアルコール層(A)を構成する材料とは異なる材料である。樹脂層(B)を構成する樹脂としては、第三工程における延伸に供しうる複層物を与えうる樹脂を適宜選択しうる。具体的には、シクロオレフィン樹脂、非晶質ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種からなるフィルムであることが好ましく、シクロオレフィン樹脂からなるフィルムであることがより好ましい。樹脂層(B)は第三工程において延伸しても位相差が発現しないものが更に好ましい。
樹脂は、主成分の重合体と、任意成分の添加剤とを含みうる。重合体の好ましい具体例としては、国際公開第2017/130681号に記載されるブロック共重合体水素化物、及び国際公開第2018/003715号に記載されるブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル変性物が挙げられる。添加剤の例としては、軟化剤、ゴム成分等が挙げられる。
【0020】
第一工程は、ポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の複層物を得られる限りにおいて限定されず、任意の方法により行いうる。一例として、第一工程は、ポリビニルアルコールフィルム上に、樹脂層(B)を形成することにより行いうる。別の一例として、第一工程は、樹脂フィルム上にポリビニルアルコール層(A)を形成することにより行いうる。ポリビニルアルコールフィルム上への樹脂層(B)の形成の具体例としては、ポリビニルアルコールフィルム上に、別途製膜した樹脂層(B)を貼合する方法、及びポリビニルアルコールフィルム上に、樹脂層(B)を構成する樹脂を展開し、必要に応じ硬化させる方法が挙げられる。樹脂フィルム上へのポリビニルアルコール層(A)の形成の具体例としては、樹脂フィルム上に、別途製膜したポリビニルアルコール層(A)を貼合する方法、及び樹脂フィルム上に、ポリビニルアルコール層(A)を構成する材料を展開し、必要に応じて硬化させる方法が挙げられる。
【0021】
第一工程を実施し、ポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する複層物を材料としてその後の工程に供して偏光フィルムを製造することにより、幅方向寸法が大きく且つ偏光度が高い偏光フィルムを、安定して容易に製造することができる。具体的には、第三工程における幅方向の延伸による歪に対する耐久性が高い複層物を利用することにより、幅方向の延伸を円滑に行うことができ、その結果、幅方向寸法が大きく且つ偏光度が高い偏光フィルムを安定して容易に製造することができる。
【0022】
〔第二工程〕
第二工程に用いる二色性物質は、二色性の色素を包含する。二色性物質としては、偏光フィルムの製造に用いうる二色性物質として知られている各種の色素を用いうる。かかる色素としては、典型的には、ヨウ素又はヨウ素原子を含む化合物、及びアゾ系の直接染料を用いうる。
【0023】
本発明の偏光フィルムの製造方法では、第二工程を液体中で行う。具体的には、二色性物質を含む溶液に複層物を浸漬させることにより、液体中での第二工程を行いうる。より具体的には、二色性物質及び溶媒を含む溶液を貯留した槽を用意し、かかる溶液中において、複層物を、その長手方向に沿って搬送することにより、二色性物質による複層物の染色が達成される。かかる溶液としては、一種類の溶液のみを用いてもよく、複数種類の溶液を用いてもよい。複数種類の溶液を用いる場合、それぞれの溶液を貯留する槽を別々に設け、これら複数の槽に、複層物を順次通して搬送することにより、複数種類の溶液による染色を達成しうる。
【0024】
溶液を構成する溶媒は、特に限定されず、偏光フィルムの製造に用いうる溶液の溶媒として知られている各種の溶媒を用いうる。典型的には、水を用いうる。溶液の具体例としては、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む水溶液、ホウ酸及びヨウ化カリウムを含む水溶液、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
〔第三工程〕
第三工程では、複層物を長手方向に搬送しながら、複層物を幅方向に延伸する。第三工程では、かかる延伸により、複層物を配向させる。
【0026】
本願において、「幅方向」の延伸は、従来技術における縦延伸(上流側の搬送速度より下流側の搬送速度を大きくすることによる長手方向への延伸)における延伸方向以外の各種の方向への延伸を包含しうる。即ち、本願における「幅方向」の延伸は、長尺のフィルムの幅方向に正確に平行な延伸のみならず、所謂斜め延伸をも包含しうる。具体的には、延伸方向と幅方向とがなす角度が、60°以内、45°以内、30°以内、15°以内、又は5°以内といった範囲の角度での延伸を含みうる。但し、偏光度の高い偏光フィルムを得る観点からは、長尺のフィルムの幅方向に平行な延伸を行うことが好ましい。
【0027】
本発明の偏光フィルムの製造方法では、第三工程を液体中で行う。第三工程に使用する液体が第二工程で使用する液体と同じである場合、第二工程と第三工程とを同時に行いうる。但し第三工程は第二工程と同時に行ってもよく、第二工程の前又は後に行ってもよい。第三工程に使用する液体は、第二工程で使用する液体と同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0028】
第三工程に使用する液体が第二工程で使用する液体と異なる場合、第三工程に使用する液体の例としては、第二工程において使用しうる溶媒の例として挙げたものと同じものが挙げられる。
【0029】
第二工程のみならず第三工程をも液体中で行うことにより、偏光度の高い偏光フィルムを得ることができる。即ち、乾式の延伸と、溶液中での染色を行った場合、ポリビニルアルコール層の膨潤/乾燥等により配向が乱れ、偏光度99.99%以上といった高い偏光度を得ることができない一方、第二工程のみならず第三工程をも液体中で行うことにより、偏光度99.99%以上といった高い偏光度を得ることができる。
【0030】
〔第三工程の具体例;製造装置〕
第三工程は、複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々を、端部ピンチローラーにより把持し、複層物が幅方向に延伸する方向に端部ピンチローラーが回転するよう、端部ピンチローラーを駆動することを含むことが好ましい。高い偏光度を得る観点から、端部ピンチローラーによる把持は、複層物の幅方向の両方の端部において行うことがより好ましい。
【0031】
上に述べた好ましい例にかかる、第三工程を行うための装置及びそれを用いた第三工程の操作の具体例を、図1図2を参照して説明する。
【0032】
図1は、本発明の製造装置及びそれを用いた本発明の製造方法の実施の一例を概略的に示す縦断面図である。図1は、かかる製造装置を、重力方向に対して平行で、且つフィルム搬送方向に平行な面で切断した断面を示している。
【0033】
図1において、製造装置10は、液体を貯留する貯留槽120、及び貯留槽120内に設けられた延伸装置200を備える。製造装置10はさらに、任意の構成要素として、搬送経路において延伸装置200より上流側のガイドロール131及び132、並びに延伸装置200より下流側のガイドロール133及び134を含む。
【0034】
製造方法の実施においては、貯留槽120内に液体190を貯留させ、複層物110を、液体190内の延伸装置200を通る搬送経路に沿って、矢印A1方向に搬送する。具体的には、複層物110は、ガイドロール131及び132でガイドされた状態で延伸装置200へ導入される。延伸装置200において、複層物110は平坦な水平方向の搬送経路で搬送される。このような搬送を維持した状態において、延伸装置200において複層物110の幅方向への延伸を行う。延伸された複層物110は、ガイドロール133及び134でガイドされた状態で延伸装置200から導出する。
【0035】
図2は、図1に示す延伸装置200を、より詳細に示す上面図である。図1及び図2に示す通り、延伸装置200は、上流側全幅ピンチローラー211、下流側全幅ピンチローラー212、並びにこれらの間に位置する端部ピンチローラー221L~224L及び端部ピンチローラー221R~224Rを備える。
【0036】
図1の側面からの視点により図示される通り、それぞれのピンチローラーは、複層物の上側のロール及び複層物の下側のロールとのセットにより構成される。以下においては説明の便宜上、別に断らない限り、かかる上下一対2個のロールのセットを、一つのピンチローラーとして称する。例えば、別に断らない限り、「複数のピンチローラー」とは、上下一対2個のロールのセットが、2セット以上存在することを意味する。以下においてはまた、説明の便宜上、水平に搬送される複層物を下流側から見た場合における左側及び右側を、それぞれ単に「左」側及び「右」側ということがあり、また、搬送される複層物の幅方向の中心に相対的に近い側を「内」側、遠い側を「外」側ということがある。
【0037】
全幅ピンチローラー及び端部ピンチローラーのそれぞれは、適切な芯部材(不図示)により支承され、軸211AX、212AX、221LX~224LX及び221RX~221RXを中心に回転しうる態様で設けられる。それぞれのピンチローラーの上側のロール及び下側のロールの一方又は両方の芯部材には、さらに適切な駆動機構が連結され、それにより、それぞれのピンチローラーは、所望の回転速度及び回転方向に駆動させうる。ピンチローラーの性質上、全幅ピンチローラー及び端部ピンチローラーは通常いずれも、その軸が、複層物110の面に平行な方向となるよう配置され、且つ、一つのピンチローラーを構成する上下一対のロールは、通常平行な回転軸を有する。本願においては、別に断らない限り、ピンチローラーの軸方向と複層物の搬送方向とがなす角度θとは、ピンチローラーの軸方向と複層物の搬送方向とを、おもて面及びうら面の両方がピンチローラーに接する複層物の面に垂直な方向から観察した場合における角度θ(0°≦θ≦90°)である。また、以下においては、ピンチローラーの軸と複層物の搬送方向とがなす角度を、単に「軸の角度」という場合がある。
全幅ピンチローラーは複層物の幅方向の全体に亘って複層物を把持する。これに対し、端部ピンチローラーは、端部ピンチローラー221L~224L及び端部ピンチローラー221R~224Rにより例示される通り、複層物の幅方向の端部付近の一部のみを把持する。したがって、端部ピンチローラーが複層物を把持する範囲は、複層物の幅方向中央部までは延長しない。
【0038】
このような、液体中で駆動させうるピンチローラーとしては、従来技術において知られたものを適宜選択しうる。具体的には、従来の偏光フィルムの製造方法において、長手方向への延伸を行うために使用されているピンチローラーを、その寸法、支承装置の形状及び配置を適宜変更した上で、延伸装置200の構成要素として用いうる。従来技術において長尺のフィルムを幅方向に延伸する装置として用いられているテンター装置は、連結された多数のテンターブロック、テンターブロックを周回させるためのレール及びスプロケット等の周回装置、並びにそれぞれのテンターブロックに設けられた把持子及びそれらを開閉する機構を含む。そのような従来技術のテンター装置は、液体中で作動させうるよう構成することは非常に困難である。これに対して、複数のピンチローラーから構成される延伸装置200は、従来技術において知られた構成要素を組み合わせることにより、容易に得ることができる。
【0039】
図2において、矢印A1で示される方向は、延伸装置200内における複層物110の搬送方向を示す。また線A2は、角度の説明の便宜のためA1と平行な方向を示す線である。
【0040】
上流側全幅ピンチローラー211で複層物110を把持し、適当な周速度で回転させることにより、延伸装置200の上流で複層物110に負荷されていた張力をカットすることができる。これにより、搬送に適した張力で延伸装置200まで複層物110を搬送し、且つ、延伸装置200内の張力を、第三工程の実施に適した張力に調整することができる。同様に、下流側全幅ピンチローラー212で複層物110を把持し、適当な周速度で回転させることにより、延伸装置200内の張力を、第三工程の実施に適した張力に調整し、且つ搬送に適した張力で延伸装置200から複層物110を搬送することができる。
【0041】
端部ピンチローラー221L~224L及び221R~224Rのうち、例えば端部ピンチローラー221Lは、複層物110の左側の端部110Lを把持する。全幅ピンチローラー211及び212の軸211AX及び212AXが複層物110の搬送方向に対して垂直な方向であるのに対し、端部ピンチローラー221Lの軸221LXは、外側の方向に傾いている。ここで軸の「外側」への傾きとは、軸の外側が上流側に傾き内側が下流側に傾く方向への傾きである。外側への傾きを有するため、軸221LXが複層物の搬送方向となす角度は、90°より小さい角度であるθ221Lである。
【0042】
このような外側への傾きを有する端部ピンチローラー221Lを、矢印R221L(図1参照)の方向に回転するよう駆動すると、端部ピンチローラー221Lは、複層物110の端部110Lを、矢印A221Lで示す、外側に傾いた下流方向に付勢するよう搬送することができる。このような搬送を行うことにより、複層物の幅方向への延伸を達成することができる。
【0043】
端部ピンチローラーは、複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々において、端部の搬送経路に沿って複数配置されることが好ましい。図2の例では、複層物110の左側の端部110Lにおいて、端部110Lの搬送経路に沿って、複数の端部ピンチローラー221L~224Lが配置される。端部ピンチローラー222L~224Lの軸222LX~224LXは、221LXと同様、外側の方向に傾いており、それぞれが複層物の搬送方向となす角度は、90°より小さい角度であるθ222L~θ224Lである。したがって、端部ピンチローラー222L~224Lを、矢印R222L~224Lの方向に回転するよう駆動すると、端部ピンチローラー222L~224Lは、端部ピンチローラー221Lと同様に機能しうる。即ち、複層物110の端部110Lを、矢印A222L~A224Lで示す、外側に傾いた下流方向に付勢するよう搬送することができる。このように、端部ピンチローラーを、一方の端部において複数配置し、これらをそれぞれ駆動することにより、延伸倍率の高い延伸が可能となる。また、延伸の安定性を高めることができ、偏光度をより高めることができる。
【0044】
一方、複層物110の右側の端部110Rにおいては、端部110Rの搬送経路に沿って、複数の端部ピンチローラー221R~224Rが配置される。端部ピンチローラー221R~224Rの軸221RX~224RXは、外側の方向に傾いており、それぞれが複層物の搬送方向となす角度は、90°より小さい角度であるθ221R~θ224Rである。したがって、端部ピンチローラー221R~224Rを、端部ピンチローラー221L~224Lの駆動と同様の態様で駆動すると、端部ピンチローラー221R~224Rは、複層物110の端部110Rを、矢印A221R~A224Rで示す、外側に傾いた下流方向に付勢するよう搬送することができる。このように、端部ピンチローラーを、一方の端部において複数配置し、これらをそれぞれ駆動することにより、複層物110の端部110Rを、端部110Lと対称な方向に延伸することができる。このように複層物の幅方向の両方の端部の各々に複数の端部ピンチローラーを配置することにより、さらに延伸倍率の高い延伸が可能となる。また、延伸の安定性をさらに高めることができ、偏光度をさらにより高めることができる。
【0045】
端部ピンチローラーの軸と複層物の搬送方向とがなす角度は、5°~89°の範囲内としうる。かかる範囲内において、所望の延伸が達成されるよう、当該角度を調整しうる。
【0046】
複層物の幅方向の両方の端部の各々において端部ピンチローラーが配置される場合、端部ピンチローラーの配置は左右対称とすることが好ましい。例えば、端部ピンチローラーを配置する位置及び角度を、左右対称とすることが好ましい。ここで左右対称とは、搬送される複層物の幅方向の中心の位置を軸として対称であることをいう。
【0047】
図1図2の例では、端部ピンチローラー221Lと端部ピンチローラー221Rとが、その位置が左右対称であり、さらに、これらの軸221LX及び221RXがいずれも外側に傾き、これらの角度θ221Lとθ221Rが同じ角度であり、従って、これらは、その位置及び角度が左右対称である。同様に、端部ピンチローラー222L及び222R、端部ピンチローラー223L及び223R、並びに端部ピンチローラー224L及び224Rのそれぞれも、その位置及び角度が左右対称である。このように、複層物の幅方向の両方の端部の各々において複数の端部ピンチローラーが配置される場合は、それらの全てが左右対称であることが好ましい。端部ピンチローラーの配置が左右対称であることにより、より正確な延伸が達成され、より偏光度の高い偏光フィルムを得ることができる。但し、本発明の製造方法はこれに限られない。例えば、斜め延伸により、延伸方向と幅方向とが非平行である偏光フィルムを得ることが求められる場合、左右の端部ピンチローラーの位置、角度、操作条件のいずれか1以上を左右非対称とすることにより、所望の斜め延伸を行いうる。
【0048】
複層物の幅方向の一方の端部、又は両方の端部の各々において、複数の端部ピンチローラーが配置される場合、かかる複数の端部ピンチローラーのうちの2つ以上において、上流より下流の端部ピンチローラーについて、軸と複層物の搬送方向とがなす角度が小さいことが好ましい。即ち、複数の端部ピンチローラーのうちの一つを第一端部ピンチローラーとし、及び第一端部ピンチローラーより下流側に配置されたもう一つを第二端部ピンチローラーとした場合、第一端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度θ1と、第二端部ピンチローラーの軸方向と前記複層物の搬送方向とがなす角度θ2とが、下記式(1)を満たすことが好ましい。
θ1>θ2 式(1)
【0049】
図1図2の例では、複層物110の左側の端部110Lに配置される端部ピンチローラー221L~224Lのうち、上流側の端部ピンチローラー221Lの軸221LXの角度θ221Lより、端部ピンチローラー221Lの下流に隣接する端部ピンチローラー222Lの軸222LXの角度θ222Lのほうが小さい。同様に、端部ピンチローラー222Lの軸222LXの角度θ222Lより、端部ピンチローラー222Lの下流に隣接する端部ピンチローラー223Lの軸223LXの角度θ223Lのほうが小さく、さらに角度θ223Lより、端部ピンチローラー223Lの下流に隣接する端部ピンチローラー224Lの軸224LXの角度θ224Lのほうが小さい。即ち、これらはθ221L>θ222L>θ223L>θ224Lの関係を有する。
【0050】
さらに、複層物110の右側の端部110Rに配置される端部ピンチローラー221R~224Rの軸221RX~224RXの角度θ221R~θ224Rも、θ221R>θ222R>θ223R>θ224Rの関係を有する。
【0051】
複数の端部ピンチローラーが、このような角度関係を有することにより、延伸倍率を高め、且つ偏光度を高めることが可能となる。具体的には、上流側の端部ピンチローラーでの幅方向延伸より、下流側の端部ピンチローラーでの幅方向延伸において、より急峻な延伸が行われ、その結果、全体的な延伸倍率が高められ、加えて、幅方向の延伸が、長手方向の収縮を伴う、自由一軸延伸に近い態様で達成される。この結果、得られる偏光フィルムの偏光度を高めることが可能となる。
【0052】
第三工程における延伸倍率は、所望の値に設定しうる。延伸倍率は、延伸開始時点における複層物110の幅に対する、延伸終了時点における複層物110の幅の比で表される。図2の例では、図示の便宜のため、2倍程度の延伸を行う状態を示しているが、延伸倍率はこれに限られず、端部ピンチローラーの数及び/又は角度を変更することにより、さらに大きな倍率での延伸を行いうる。例えば6倍程度の延伸を行い、高い偏光度を有する偏光フィルムを製造することができる。
【0053】
第三工程において、ピンチローラーは、延伸に適した周速度で回転するよう駆動される。それぞれの端部ピンチローラーの駆動速度は、所望の延伸方向への、正確な延伸が達成されるよう適宜調整しうる。また、端部ピンチローラーの駆動速度を調整することによって、延伸装置200内における、複層物110の搬送速度を調整することができる。ここで、複層物110の搬送速度とは、複層物110が、その長手方向(図2においては、矢印A1方向)に進行する速度をいう。
【0054】
延伸装置200内における複層物110の搬送速度は一定であってもよく、一定で無くてもよい。より高い偏光度を得る観点からは、延伸が開始される時点における搬送速度より、延伸が終了する時点における搬送速度が遅いことが好ましい。即ち、第三工程開始時の複層物の搬送速度V1、及び第三工程終了時の複層物の搬送速度V2が、式(2)を満たすことが好ましい。
V1>V2 式(2)
【0055】
図1図2の例では、搬送経路における第三工程の開始位置は、複層物110が、端部ピンチローラーのうちの最も上流側に位置するもの即ち端部ピンチローラー221L及び221Rとの接触を開始する位置であり、その位置は点線W1で示される。したがって、搬送速度V1は、位置W1における複層物110の搬送速度である。搬送経路における第三工程の終了位置は、複層物110が、端部ピンチローラーのうちの最も下流側に位置するもの即ち端部ピンチローラー224L及び224Rとの接触を終了する位置であり、その位置は点線W2で示される。したがって、搬送速度V2は、位置W2における複層物110の搬送速度である。
【0056】
搬送速度V1及びV2が式(2)を満たすことにより、より高い倍率の延伸が達成され、より偏光度の高い偏光フィルムを得ることができる。具体的には、V2がV1に比べて相対的に遅いと、複層物110の幅方向の延伸の進捗に伴い、複層物110の長手方向の長さが圧縮され、その結果、幅方向の延伸が、長手方向の収縮を伴う、自由一軸延伸に近い態様での延伸が達成される。この結果、得られる偏光フィルムの偏光度を高めることが可能となる。V1及びV2の関係は、好ましくは0.4<(V2/V1)<0.6としうる。6倍程度の高い延伸倍率で延伸を行い、且つV1及びV2の関係をこのような範囲とすることにより、高い偏光度を有する偏光フィルムを容易に製造することができる。
【0057】
〔偏光フィルム〕
本発明の偏光フィルムは、染色され延伸されたポリビニルアルコール層(A)及び樹脂層(B)を有する長尺の偏光フィルムであって、幅方向に吸収軸を有し、可視光透過率42.0%以上で偏光度99.995%以上である。より具体的には、可視光透過率42.3%、偏光度99.9956%といった、可視光透過率及び偏光度の双方において優れた偏光フィルムとしうる。さらに、本発明の偏光フィルムは、幅方向に吸収軸を有するため、原料である複層物の幅方向寸法及び製造ラインにおける製造設備の規模が小さくしながら、得られる偏光フィルムの幅を容易に大きくすることが可能である。このような偏光フィルムは、上に述べた本発明の製造方法により初めて製造可能となった、新規な製品である。偏光フィルムの可視光透過率の上限は理想的には50.0%であり、偏光度の上限は理想的には100.000%である。
【0058】
〔変形例〕
本発明は、上に述べた具体例に限られず、上に述べた具体例を適宜変更したものをも包含しうる。
【0059】
図1図2に示した例においては、第三工程に用いる延伸装置200として、全幅ピンチローラー211及び212を備えるものを用いたが、本発明はこれに限られない。例えば、延伸装置の上流及び下流の複層物110の搬送張力を、第三工程の実施に適した範囲に適宜調整することにより、全幅ピンチローラー211及び212に相当する構成を省略しうる。
【0060】
図1図2に示した例においては、第三工程において、左右の端部ピンチローラー対間の距離が、上流で小さく下流で大きい状態で、連続的に延伸を行う操作を説明したが、本発明における端部ピンチローラーの配置はこれに限られない。また、端部ピンチローラーを支承する支承装置として、対称なピンチローラー間の距離、並びに各ピンチローラーの位置及び角度を調節可能なものを採用し、延伸工程の立ち上げ時、延伸工程の実施時等において、これらを変化させてもよい。一例として、左右の端部ピンチローラー対間の距離を、上流から下流まで同じ距離とし、その状態で複層物110を通して装置を立ち上げ、その後下流のピンチローラー対間の距離を徐々に広げて、複層物110の幅を広げながらこれらの位置を所望の位置に移動させる操作を行ってもよい。他の一例として、延伸工程の実施時において、延伸後の複層物110の延伸倍率、遅相軸方向、偏光度、光学異方性等の性状をモニターする一方、各ピンチローラーの位置及び角度、並びに各ピンチローラーの駆動条件を調整し、それにより、複層物の性状を所望の範囲に制御する操作を行ってもよい。
【0061】
図1図2に示した例においては、端部ピンチローラーの軸と複層物の搬送方向がなす角度が下流のものほど小さくなるよう、端部ピンチローラーを配置したが、端部ピンチローラーの配置はこれに限られない。例えば、図2に示した延伸装置200において、端部ピンチローラー224L及び224Rよりも下流に、追加の端部ピンチローラーであって、その軸と搬送方向とがなす角度がθ224L及びθ224Rより大きいものを設けてもよい。そのような追加の端部ピンチローラーを設けることにより、延伸工程終了時の端部の搬送角度を緩やかに変化させ、歪み等の発生を低減した状態で、延伸工程後の下流の搬送経路に複層物110を搬送することができる。
【符号の説明】
【0062】
10:製造装置
110:複層物
110L:複層物110の左側の端部
110R:複層物110の右側の端部
120:貯留槽
131:ガイドロール
132:ガイドロール
133:ガイドロール
134:ガイドロール
190:液体
200:延伸装置
211:上流側全幅ピンチローラー
212:下流側全幅ピンチローラー
211AX:軸
212AX:軸
221L:端部ピンチローラー
221LX:軸
221R:端部ピンチローラー
221RX:軸
222L:端部ピンチローラー
222LX:軸
222R:端部ピンチローラー
222RX:軸
223L:端部ピンチローラー
223LX:軸
223R:端部ピンチローラー
223RX:軸
224L:端部ピンチローラー
224LX:軸
224R:端部ピンチローラー
224RX:軸
A1:搬送方向
A2:A1と平行な方向を示す線
A221L:付勢方向
A221R:付勢方向
A222L:付勢方向
A222R:付勢方向
A223L:付勢方向
A223R:付勢方向
A224L:付勢方向
A224R:付勢方向
W1:第三工程開始位置
W2:第三工程終了位置
θ221L:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ221R:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ222L:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ222R:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ223L:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ223R:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ224L:軸が複層物の搬送方向となす角度
θ224R:軸が複層物の搬送方向となす角度
図1
図2