(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】成膜用粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20240827BHJP
C01F 17/259 20200101ALI20240827BHJP
【FI】
C23C24/04
C01F17/259
(21)【出願番号】P 2023104067
(22)【出願日】2023-06-26
(62)【分割の表示】P 2022123049の分割
【原出願日】2019-07-02
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2018134243
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】高井 康
(72)【発明者】
【氏名】中村 成亨
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082325(JP,A)
【文献】特開2018-080401(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002580(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/04
C01F 17/259
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類酸フッ化物を含有
し、平均粒子径D50が0.6μm以上15μm以下であり、粒径が0.3μm以下の粒子の含有率が0.5体積%以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の総容積が0.51cm
3
/g以上1.5cm
3
/g以下であり、BET法による比表面積が3m
2
/g以上50m
2
/g以下であり、アスペクト比が1.2以上3以下であり、かつ下記式(1)
(D90-D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、各々、体積基準の粒子径分布における累積10%径、50%径及び90%径である。)
により求められる分散指数(b80)が1.6以下である成膜用粉末を製造する方法であって、
平均粒子径D50が0.2μm以上15μm以下であり、アスペクト比が1.2以上3.5以下であり、かつ上記式(1)により求められる分散指数(b80)が0.7~2.5である、粉末状の希土類酸化物を溶媒に分散させて、希土類酸化物のスラリー濃度が5質量%以上30質量%以下である希土類酸化物の分散液を調製し、該分散液に、フッ化アンモニウムを添加して攪拌し、10~80℃の温度で1~16時間反応させることにより、希土類酸化物粒子の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
上記前駆体粒子を、350℃以上700℃以下の温度で熱処理する工程と
を含むことを特徴とする成膜用粉末の製造方法。
【請求項2】
上記フッ化アンモニウムと共に、希土類硝酸塩、希土類塩化物及び希土類酢酸塩から選ばれる希土類化合物を添加することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記希土類酸フッ化物、希土類酸化物及び希土類アンモニウムフッ化物複塩が、各々、酸フッ化イットリウム、酸化イットリウム及びフッ化イットリウムアンモニウムであることを特徴とする請求項1
又は2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置などの内部に保護コーティングとして設けられる皮膜の形成に好適に使用される成膜用粉末及びその製造方法、特に、エアロゾルデポジションによる皮膜の形成に好適な成膜用粉末及びその製造方法に関する。また、本発明は、成膜用粉末を用いてエアロゾルデポジションにより皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体のドライエッチング装置の内部は、反応性が高いハロゲン系プラズマや酸素系プラズマに晒されるため、プラズマ耐性がない材質(例えば、石英ガラス、アルミナ、アルマイトなど)の部材をそのまま使用すると、表面腐食が進み、これに伴い発生したパーティクルにより、半導体の微細回路に欠陥が生じてしまう。そのため、半導体製造装置のプラズマに晒される面には、プラズマへの耐食性を与え、装置部材を保護する保護コーティングが形成される。
【0003】
このような保護コーティングとして、各種プラズマに広く耐食性を示す酸フッ化イットリウムの皮膜が提案されており、例えば、特開2017-150083号公報(特許文献1)には、一定範囲の細孔容積を有する酸フッ化イットリウム粉末を使用することにより、緻密で、耐食性に優れた保護コーティングを形成できることが示されている。保護コーティングの形成は、特開2017-150083号公報(特許文献1)記載の方法では、溶射法、PVD法、エアロゾルデポジション法などが挙げられているが、エアロゾルデポジション法を用いた場合に、最もパーティクルが少なく表面が滑らかな保護コーティングが得られている。また、大韓民国公開特許公報第2011-0118939号(特許文献2)には、エアロゾルデポジション法を用いて、酸フッ化イットリウムの皮膜を形成すると、溶射法よりも緻密な皮膜を形成できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-150083号公報
【文献】大韓民国公開特許公報第2011-0118939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の酸フッ化イットリウム粉末を用いたエアロゾルデポジションにより、耐食性の高い緻密な皮膜が得られることが知られているが、従来の酸フッ化イットリウム粉末を用いたエアロゾルデポジションでは、成膜時の歩留り(付着率)が低いため、生産性が低いことが問題であった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、エアロゾルデポジションによる皮膜の形成に好適である成膜用粉末、特に、エアロゾルデポジションにより、緻密な皮膜を、高い歩留り(付着率)で形成できる成膜用粉末、その製造方法を提供すること、また、この成膜用粉末を用い、エアロゾルデポジションにより、基材上に皮膜を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、酸フッ化イットリウムなどの希土類酸フッ化物を含有する成膜用粉末について鋭意検討を重ねた結果、より大きな細孔容積を有する粉末を用いて、エアロゾルデポジションで、基材上に皮膜を形成した場合に、緻密な皮膜が高い歩留り(付着率)で得られることを知見し、このような大きな細孔容積を有する粉末を、希土類酸化物粒子の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩を形成して前駆体粒子を調製し、前駆体粒子を350℃以上700℃以下の温度で熱処理することにより製造できることを見出した。
【0008】
そして、このような製造方法により、例えば、希土類酸フッ化物を含有し、平均粒子径D50が0.6μm以上15μm以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の総容積が0.51cm3/g以上1.5cm3/g以下であり、かつBET法による比表面積が3m2/g以上50m2/g以下である成膜用粉末を好適に製造することができ、このような成膜用粉末が、エアロゾルデポジションによる皮膜の成膜において、高い耐食性に寄与する緻密な皮膜を、高い歩留り(付着率)で形成できるものであることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の成膜用粉末の製造方法を提供する。
1.希土類酸フッ化物を含有し、平均粒子径D50が0.6μm以上15μm以下であり、粒径が0.3μm以下の粒子の含有率が0.5体積%以下であり、水銀圧入法により測定した直径10μm以下の細孔の総容積が0.51cm
3
/g以上1.5cm
3
/g以下であり、BET法による比表面積が3m
2
/g以上50m
2
/g以下であり、アスペクト比が1.2以上3以下であり、かつ下記式(1)
(D90-D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、各々、体積基準の粒子径分布における累積10%径、50%径及び90%径である。)
により求められる分散指数(b80)が1.6以下である成膜用粉末を製造する方法であって、
平均粒子径D50が0.2μm以上15μm以下であり、アスペクト比が1.2以上3.5以下であり、かつ上記式(1)により求められる分散指数(b80)が0.7~2.5である、粉末状の希土類酸化物を溶媒に分散させて、希土類酸化物のスラリー濃度が5質量%以上30質量%以下である希土類酸化物の分散液を調製し、該分散液に、フッ化アンモニウムを添加して攪拌し、10~80℃の温度で1~16時間反応させることにより、希土類酸化物粒子の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩を形成して前駆体粒子を調製する工程と、
上記前駆体粒子を、350℃以上700℃以下の温度で熱処理する工程と
を含むことを特徴とする成膜用粉末の製造方法。
2.上記フッ化アンモニウムと共に、希土類硝酸塩、希土類塩化物及び希土類酢酸塩から選ばれる希土類化合物を添加することを特徴とする1記載の製造方法。
3.上記希土類酸フッ化物、希土類酸化物及び希土類アンモニウムフッ化物複塩が、各々、酸フッ化イットリウム、酸化イットリウム及びフッ化イットリウムアンモニウムであることを特徴とする1又は2記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、より大きな細孔容積を有する成膜用粉末を製造することができ、本発明の成膜用粉末を用い、エアロゾルデポジションにより、基材上に皮膜を形成すると、緻密で、ハロゲン系プラズマや酸素系プラズマなどへの耐食性が高い、半導体製造装置の内部に保護コーティングとして好適な皮膜を、高い歩留り(付着率)で形成でき、保護コーティング用などの皮膜を、高い生産性で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エアロゾルデポジションにより、成膜用粉末を用い、基材上に皮膜を形成する装置の一例を示す概念図である。
【
図2】実施例1で得られた乾燥後、熱処理前の粉末のX線回折プロファイルを示す図である。
【
図3】実施例1で得られた熱処理後の粉末のX線回折プロファイルを示す図である。
【
図4】実施例4~6で原料として用いた酸化イットリウム粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図5】実施例5で得られた熱処理後の粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図6】実施例5で得られた熱処理後の粉末のX線回折プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明の成膜用粉末は、希土類酸フッ化物を含有する。希土類酸フッ化物は、組成式REOxF(3-2x)(式中、REは希土類元素を示す(以下同じ)。xは0<x≦1を満たす正数である。)で示される、希土類元素と酸素とフッ素とからなる化合物である。このような希土類酸フッ化物として具体的には、REOF(上記組成式中、x=1)、RE5O4F7(同、x=4/5)、RE6O5F8(同、x=5/6)、RE7O6F9(同、x=6/7)などが挙げられ、成膜用粉末に含まれる希土類酸フッ化物は、1種のみであっても、2種以上の混合物であってもよい。
【0013】
成膜用粉末には、希土類酸フッ化物以外に、例えば、希土類酸化物(RE2O3など)、希土類フッ化物(REF3など)などを含有していてもよいが、成膜用粉末は、希土類酸フッ化物のみからなるものが好適である。希土類酸フッ化物の含有の有無は、X線回折(XRD)により、希土類酸フッ化物(REOF、RE5O4F7、RE6O5F8、RE7O6F9など)が検出されることにより定めることができる。XRDにおける特性X線には、通常、CuのKα線が用いられる。
【0014】
成膜用粉末が、希土類酸化物(RE2O3など)、希土類フッ化物(REF3など)などの他の成分を含有する場合も、その有無は、XRDにより定めることができる。成膜用粉末が、希土類酸フッ化物のみからなる場合、XRDにおいて、希土類酸フッ化物のみが検出され、他の成分を含有する場合は、希土類酸化物(RE2O3など)、希土類フッ化物(REF3など)などのピークが検出されるが、希土類酸フッ化物以外に他の成分を含有する場合、希土類酸フッ化物の最大ピークの強度(2種以上の希土類酸フッ化物を含有する場合は、それらの最大ピークの強度の合計)に対して、希土類酸フッ化物以外の他の成分の最大ピークの強度(他の成分が2種以上含まれる場合は、それらの最大ピークの強度の合計)が10%以下、特に3%以下であることが好ましい。ここで、ピーク強度は、ピーク高さにより評価することができる。なお、本発明の成膜用粉末は、結晶性が高いものであることが好ましく、少量の非結晶成分の含有は許容されるが、実質的に結晶性の化合物のみで構成されているものであることが、特に好ましい。
【0015】
本発明の成膜用粉末を構成する成分、並びに後述する成膜用粉末を製造する原材料を構成する成分及び成膜用粉末から形成された皮膜を構成する成分において、希土類元素(RE)は、Y及びLaからLuまでの第3族元素から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。これらの希土類元素のなかでも、イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から選ばれる1種又は2種以上が好ましく、希土類元素として、イットリウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム及びイッテルビウムのいずれかを含むこと、特に、希土類元素が、主成分(例えば90モル%以上)であるイットリウムと、残部のイッテルビウム又はルテチウムとで構成されていることが好ましく、とりわけ、希土類元素が、イットリウムのみで構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の成膜用粉末を構成する成分及び成膜用粉末から形成された皮膜を構成する成分において、不純物量であれば、希土類元素、酸素及びフッ素以外の他の元素の含有は許容されるが、特に、Zr、Si、Al及びFeの含有率は、各々10ppm(質量)以下であることが好ましい。
【0017】
希土類元素が、イットリウムのみで構成されている場合、希土類酸フッ化物は、酸フッ化イットリウムであり、組成式YOxF(3-2x)(式中、xは0<x≦1を満たす正数である。)で示される、イットリウムと酸素とフッ素とからなる化合物である。このような酸フッ化イットリウムとして具体的には、YOF(上記組成式中、x=1)、Y5O4F7(同、x=4/5)、Y6O5F8(同、x=5/6)、Y7O6F9(同、x=6/7)などが挙げられ、成膜用粉末に含まれる酸フッ化イットリウムは、1種のみであっても、2種以上の混合物であってもよい。希土類元素が、イットリウムのみで構成されている場合、希土類酸化物は酸化イットリウム(Y2O3など)、希土類フッ化物はフッ化イットリウム(YF3など)である。
【0018】
本発明の成膜用粉末は、以下のような方法により製造することができる。本発明の成膜用粉末の製造方法には、(1)希土類酸化物粒子の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩を形成して前駆体粒子を調製する工程と、(2)前駆体粒子を熱処理する工程とが含まれる。
【0019】
まず、工程(1)では、例えば、粉末状の希土類酸化物(RE2O3など)を、水、有機溶媒などの溶媒に分散させ、希土類酸化物の分散液(スラリー)を調製し、この分散液に、フッ化アンモニウム(NH4F、NH4HF2など)と、必要に応じて、希土類硝酸塩(RE(NO3)3など)、希土類塩化物(RECl3など)、希土類酢酸塩(RE(CH3COO)3など)の希土類酸化物以外の希土類化合物(希土類源化合物)とを添加して、攪拌する。これにより、希土類源化合物を添加していない場合は、希土類酸化物粒子の表面部の希土類酸化物と、フッ化アンモニウムとが反応し、希土類酸化物の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩が形成された(析出した)前駆体粒子(希土類酸化物と希土類アンモニウムフッ化物複塩との複合粒子)を調製することができる。また、希土類源化合物を添加した場合は、希土類源化合物と、フッ化アンモニウムとが、又は希土類源化合物と、希土類酸化物粒子の表面部の希土類酸化物と、フッ化アンモニウムとが反応し、希土類酸化物の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩が形成された(析出した)前駆体粒子を調製することができる。フッ化アンモニウム及び希土類源化合物は、固体で添加しても、水、有機溶媒などの溶媒に溶解させて溶液で添加してもよい。また、フッ化アンモニウムは、酸性フッ化アンモニウムであってもよい。
【0020】
工程(1)においては、粉末状の希土類酸化物(希土類酸化物粒子)を使用することが好ましい。工程(2)において、希土類酸化物と、希土類アンモニウムフッ化物複塩とを反応させる点からすれば、出発物質として、希土類炭酸塩、希土類水酸化物などの熱分解により希土類酸化物を生成する物質を使用することも考えられるが、これらの物質は、微粒子を含む場合が多く、また、希土類アンモニウムフッ化物複塩を生成する際に、粒子が崩壊して微粒子を発生しやすく、更に、その後の熱処理で、粒子間の癒着が激しく大粒子になりやすいという欠点がある。また、希土類炭酸塩を用いた場合は、熱処理の温度が500℃以下であると、未分解希土類炭酸塩由来の炭素分が残留しやすいという欠点がある。このような理由から、出発物質として、粉末状の希土類酸化物を使用することが有利である。
【0021】
粉末状の希土類酸化物を出発物質とすることは、粉末状の希土類酸化物(希土類酸化物粒子)は、粒子径分布が比較的狭い(シャープな)ものを入手しやすい点においても有利である。また、本発明の成膜用粉末の製造方法により希土類酸フッ化物を含有する成膜用粉末を製造した場合、粉末状の希土類酸化物を出発物質とすれば、粉末状の希土類酸化物と同等の分散指数(b80)又は粉末状の希土類酸化物より小さい分散指数(b80)を有する成膜用粉末を得ることができる。そのため、粒子径分布が狭い(分散指数(b80)が小さい)粉末状の希土類酸化物を用いれば、粒子径分布がより狭い(分散指数(b80)がより小さい)成膜用粉末が得られることになる。この点から、粉末状の希土類酸化物の分散指数(b80)は、例えば、分散指数(b80)が後述するような範囲の成膜用粉末を得る場合には、成膜用粉末となったときに粒子径分布が狭くなる場合を考慮して、2.5以下とすることができ、2.3以下、特に2以下であることが好ましい。なお、粉末状の希土類酸化物の分散指数(b80)の下限は、通常、0.7以上である。
【0022】
また、本発明の成膜用粉末の製造方法により希土類酸フッ化物を含有する成膜用粉末を製造した場合、粉末状の希土類酸化物を出発物質とすれば、粉末状の希土類酸化物と同等の平均粒子径D50又は粉末状の希土類酸化物より大きい平均粒子径D50を有する成膜用粉末を得ることができる。この点から、粉末状の希土類酸化物の平均粒子径D50は、例えば、平均粒子径D50が後述するような範囲の成膜用粉末を得る場合には、成膜用粉末となったときに粒子径が大きくなる場合を考慮して、0.2μm以上とすることができ、0.4μm以上、特に0.6μm以上であることが好ましく、また、15μm以下、特に10μm以下、とりわけ8μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の成膜用粉末の製造方法により希土類酸フッ化物を含有する成膜用粉末を製造した場合、粉末状の希土類酸化物を出発物質とすれば、粉末状の希土類酸化物と同等のアスペクト比又は粉末状の希土類酸化物より若干低いアスペクト比を有する成膜用粉末を得ることができる。この点から、粉末状の希土類酸化物のアスペクト比は、例えば、アスペクト比が後述するような範囲の成膜用粉末を得る場合には、1.2以上、特に1.4以上、更に1.5以上、とりわけ1.7以上であることが好ましく、また、成膜用粉末となったときにアスペクト比が若干低くなる場合を考慮して、3.5以下とすることができ、3以下、特に2.3以下であることが好ましい。
【0024】
一方、添加するフッ化アンモニウムの量は、分散液に含まれる希土類元素の総モル数(希土類源化合物を添加していない場合は希土類酸化物のみ、希土類源化合物を添加した場合は希土類酸化物及び希土類源化合物の合計が対象となる。)Aに対して、添加するフッ化アンモニウム中のフッ素のモル数Bを、成膜用粉末に生成させる希土類酸フッ化物の希土類元素、酸素及びフッ素の組成に合わせた比率(B/A)とすればよい。例えば、B/A=1とすればREOF、B/A=1.4とすればRE5O4F7、1<B/A<1.4とすればREOFとRE5O4F7との混合物を生成させることができる。一方、B/A<1とした場合、希土類酸化物(RE2O3)とREOFとの混合物、B/A>1.4とした場合、RE5O4F7と希土類フッ化物(REF3)との混合物となる。そのため、この比率(B/A)は、希土類酸化物(RE2O3)を少量含んでよい場合は、0.9≦B/A<1の範囲、希土類フッ化物を少量含んでよい場合は1.4<B/A≦1.6の範囲とすることができるが、成膜用粉末が希土類酸フッ化物のみを含有するようにするためには、1≦B/A≦1.4の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
次に、前駆体粒子を分散液として調製した場合、得られた前駆体粒子を分散液から、濾過などの方法により固液分離して固形分を回収し、必要に応じて、水、有機溶媒などで洗浄(リンス)する、室温(20℃)~100℃の温度で乾燥する、篩を通すなどの方法で固結した粒子をほぐす(分離する)などの工程を経て、工程(2)に供する前駆体粒子とする。次に、工程(2)では、前駆体粒子を熱処理する。前駆体粒子を熱処理することにより、複合粒子を構成する希土類酸化物と希土類アンモニウムフッ化物複塩とが反応して、希土類酸フッ化物を含有する粒子が生成する。
【0026】
希土類酸フッ化物を含有する粒子を製造する従来の方法、例えば、特開2017-150083号公報(特許文献1)に記載されているような、希土類酸化物と希土類フッ化物とを混合して反応させる方法では、700℃を超える温度で加熱しなければ、希土類フッ化物の分解が進行し難いため、反応を十分に進行させて、反応を完結させるために、700℃を超える高温での熱処理が必要であった。この場合、高温での熱処理により、粒子間の焼結や、粒子内部の緻密化(結晶子同士が密接化することによる粒子の収縮)が進み、エアロゾルデポジションで必要な結晶子レベルでの塑性変形が起こりにくい、粒子内部が緻密な粒子となってしまう。そのため、従来の方法では、粒子内部の緻密化を抑制された、エアロゾルデポジションで必要な結晶子レベルでの塑性変形が起こりやすい成膜用粉末を得ることはできなかった。また、従来の方法では、粒子間の焼結に起因する粒子径の巨大化が起きるため、成膜に適した粒子径に戻すために、粉砕ビーズなどの硬質セラミックス(ジルコニア、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素など)製メディアを使用し、ステンレス鋼などで構成された機器を用いた粉砕工程が必要となるため、Zr、Si、Al及びFeの含有率が、各々10ppm(質量)以下の成膜用粉末を得ることができなかった。
【0027】
これに対して、本発明の成膜用粉末の製造方法では、希土類酸化物と希土類アンモニウムフッ化物複塩との複合粒子を形成し、これを熱処理することにより、希土類酸フッ化物を含有する粒子を生成させるが、希土類アンモニウムフッ化物複塩は、350℃程度で分解が始まり、希土類酸化物と容易に反応するため、希土類酸化物の表面に、希土類アンモニウムフッ化物複塩が形成された前駆体粒子を熱処理すれば、希土類酸化物と希土類アンモニウムフッ化物複塩とが良好に接触した状態から、効率よく反応を進行させることができるので、従来の方法と比べて、低温で希土類酸フッ化物を生成させることができる。そのため、本発明の成膜用粉末の製造方法では、粒子間の焼結や、粒子内部の緻密化を抑制して、エアロゾルデポジションで必要な結晶子レベルでの塑性変形が起こりやすい粒子を得ることができ、また、粉砕工程が不要である。従って、本発明の成膜用粉末の製造方法では、直径10μm以下の細孔の総容積が0.51cm3/g以上の成膜用粉末を、特に、平均粒子径D50が0.6μm以上15μm以下、直径10μm以下の細孔の総容積が0.51cm3/g以上1.5cm3/g以下、かつBET法による比表面積が3m2/g以上50m2/g以下の成膜用粉末を好適に製造することができ、また、粉砕メディアからの不純物元素の混入を避けることもできる。
【0028】
工程(1)における希土類酸化物のスラリー濃度は、5質量%以上、特に10質量%以上で、30質量%以下、特に25質量%以下であることが好ましい。工程(1)における反応(熟成)は、10~80℃の温度で実施することができ、また、反応時間(熟成時間)は、1~16時間とすることが好ましい。
【0029】
工程(2)における熱処理温度は、粒子間の焼結や、粒子内部の緻密化を抑制する観点から、700℃以下とすることが好ましく、より好ましくは680℃以下、更に好ましくは630℃以下である。一方、熱処理温度は、希土類アンモニウムフッ化物複塩の分解が350℃程度で進行するので、350℃以上とすればよく、400℃以上、特に450℃以上が好適である。熱処理雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気、窒素ガスを含む雰囲気、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気などが挙げられるが、希土類酸フッ化物を生成させる反応の雰囲気であり、また、原料由来の炭素、窒素、水素などを酸化して除去する(焼成する)ことができる点から、大気雰囲気などの酸素ガスを含む雰囲気が好適である。また、反応時間(焼成時間)は、1~10時間とすることが好ましい。
【0030】
なお、本発明において、成膜用粉末の希土類元素が、イットリウムのみで構成されている場合、成膜用粉末に含まれる希土類酸フッ化物は、酸フッ化イットリウムであるが、このような成膜用粉末を製造する場合、工程(1)において用いる希土類酸化物及び希土類アンモニウムフッ化物複塩としては、各々、酸化イットリウム及びフッ化イットリウムアンモニウムが好適に用いられる。
【0031】
本発明により、エアロゾルデポジションによる皮膜の成膜に好適な成膜用粉末が提供できる。本発明の成膜用粉末の平均粒子径D50は、0.6μm以上15μm以下であることが好ましい。この平均粒子径D50は、0.7μm以上であること、また、10μm以下であることが、より好ましい。本発明における平均粒子径D50は、体積基準の粒子径分布における累積50%径(メジアン径)であり、レーザー回折法(レーザー回折・散乱法)により測定することができる。平均粒子径D50が上記範囲未満の粉末は、粒径が小さい粒子が多く、粒径が小さい粒子は、エアロゾルデポジションにおいて、ノズルから真空チャンバ内の基材に向かって、粉末が噴射される際に、エアロゾルの急激な体積膨張により乱流を発生させ、粉末が、基材以外の部分に飛散する量が多くなってしまい、基材に堆積し難くなる。一方、成膜用粉末の平均粒子径D50が上記範囲を超える粉末では、エアロゾル化が困難である粒径が大きい粒子が多く、エアロゾル化される粒子の割合が低い上、粒径が大きい粒子は、基材に衝突した際に、運動エネルギーが大きすぎて、跳ね返ったり、基材上に形成された皮膜を削り取ったりしてしまう確率が高くなる。平均粒子径D50が上記範囲から外れると、いずれの場合も、成膜効率(歩留り)の低下につながる場合がある。
【0032】
本発明の成膜用粉末の粒径が0.3μm以下の粒子の含有率は0.5体積%以下であることが好ましく、粒径が0.3μm以下の粒子が実質的に含まれないこと(0体積%であること)がより好ましい。この粒径は、体積基準の粒子径分布における粒径であり、レーザー回折法(レーザー回折・散乱法)により測定することができる。粒径が0.3μm以下の粒子の含有率が上記範囲を超える成膜用粉末では、エアロゾル中で粒子が凝集を起こしやすく、均一に分散浮遊し難くなるおそれがあり、また、成膜効率(歩留り)の低下につながる場合がある。
【0033】
本発明の成膜用粉末の直径10μm以下の細孔の総容積は、0.51cm3/g以上1.5cm3/g以下であることが好ましい。この直径10μm以下の細孔の総容積は、0.55cm3/g以上であること、また、1cm3/g以下であることが、より好ましい。本発明において、直径10μm以下の細孔の総容積は、水銀圧入法により測定された値が適用される。水銀圧入法による細孔径分布の測定では、通常、細孔直径に対する積算細孔容積分布が測定され、この結果から、直径10μm以下の細孔の総容積を求めることができる。
【0034】
エアロゾルデポジションでは、真空中に噴射された粒子が、基材に衝突した際に、結晶子レベルで塑性変形を起こすことにより、粒子が緻密に堆積して、皮膜が形成されるが、直径10μm以下の細孔の総容積が上記範囲未満の粒子は、粒子内部が緻密であるため、塑性変形を起こす確率が低下し、基材に衝突した際に跳ね返されて、基材に付着しない確率が増大する。塑性変形を起こしやすくする観点では、直径10μm以下の細孔の総容積が0.51cm3/g以上であれば、より大きいことが有利であるが、直径10μm以下の細孔の総容積が上記範囲を超えると、粒子の密度(かさ密度)が低くなり、上述した平均粒子径D50の範囲では、粒子が軽すぎるため、エアロゾルの急激な体積膨張による乱流で、粉末が、基材以外の部分に飛散する量が多くなってしまい、基材に堆積し難くなる。直径10μm以下の細孔の総容積が上記範囲を外れると、いずれの場合も、成膜効率(歩留り)の低下につながる場合がある。
【0035】
本発明の成膜用粉末のBET法による比表面積(BET比表面積)は3m2/g以上、特に6.5m2/g以上、とりわけ9m2/g以上であることが好ましく、50m2/g以下、特に40m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が上記範囲未満の粉末では、表面エネルギーが小さいため、基材に衝突した際に塑性変形を起こす確率が低下し、基材に衝突した際に跳ね返されて、基材に付着しない確率が増大するおそれがある。一方、BET比表面積が上記範囲を超える粉末を得る場合は、かなり低温での熱処理が必要なため、反応し切れていない複塩が残留している可能性がある上、BET比表面積が上記範囲を超える粉末では、粒子の密度(かさ密度)が低くなり、上述した平均粒子径D50の範囲では、粒子が軽すぎるため、エアロゾルの急激な体積膨張による乱流で、粉末が、基材以外の部分に飛散する量が多くなってしまい、基材に堆積し難くなるおそれがある。比表面積が上記範囲を外れると、いずれの場合も、成膜効率(歩留り)の低下につながる場合がある。
【0036】
本発明の成膜用粉末のアスペクト比は1.2以上、特に1.4以上、更に1.5以上、とりわけ1.7以上であることが好ましく、また3以下、特に2.3以下であることが好ましい。成膜用粉末のアスペクト比は、粒子の長径(長軸に沿った長さ)の短径(短軸に沿った幅、例えば長さ方向に直交する幅)に対する比であり、例えば、1,000~10,000倍程度の電子顕微鏡写真を撮影し、その中の重なっていない粒子の短径と長径を測って計算することにより測定することができ、例えば、100個程度以上の粒子の平均値として求めることができる。アスペクト比が上記範囲未満の粉末では、表面エネルギーが小さいため、基材に衝突した際に塑性変形を起こす確率が低下し、基材に衝突した際に跳ね返されて、基材に付着しない確率が増大するおそれがある。一方、アスペクト比が上記範囲を超える粉末では、いびつな形の塑性変形が起こることにより、気孔率が増加するおそれがある。アスペクト比が上記範囲を外れると、成膜効率(歩留り)の低下につながる場合がある。
【0037】
本発明の成膜用粉末は、下記式(1)
(D90-D10)/D50 (1)
(式中、D10、D50及びD90は、各々、体積基準の粒子径分布における累積10%径、50%径及び90%径であり、レーザー回折法(レーザー回折・散乱法)により測定した値を適用することができる。)
により求められる分散指数(b80)が1.6以下、特に1.5以下であることが好ましい。分散指数(b80)が大きくなるほど、粒子径分布が広くなり、それに伴い、粒径が小さい粒子や大きい粒子の割合が高くなる。粒径が小さい粒子や大きい粒子は、エアロゾルデポジションにおいて、上述したような問題を生じさせるため、分散指数(b80)が上記範囲を超える粒径が小さい粒子や大きい粒子が多すぎる成膜用粉末では、成膜効率(歩留り)の低下につながる場合がある。なお、成膜用粉末の分散指数(b80)の下限は、通常0.7以上である。
【0038】
本発明の成膜用粉末を用いた皮膜の形成方法としては、溶射法、PVD法、エアロゾルデポジション法などが挙げられるが、本発明の成膜用粉末は、基材上に、エアロゾルデポジションにより、皮膜を形成する場合に、パーティクルが少なく表面が滑らかな皮膜を形成することができ、特に効果的である。この皮膜は、半導体製造装置などの内部に保護コーティングとして設けられる皮膜などとして好適である。基材としては、半導体製造装置用の部材などを構成するアルミニウム、ニッケル、クロム、亜鉛、それらの合金、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、石英ガラスなどが挙げられる。なお、形成する皮膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常、2μm以上、特に5μm以上であることが好ましく、また、50μm以下、特に30μm以下であることが好ましい。
【0039】
本発明の成膜用粉末を用い、基材上に、エアロゾルデポジションにより、皮膜を形成する工程において、成膜装置及び成膜条件は、公知の装置及び条件を適用することができる。成膜装置としては、例えば、
図1に示されるようなものが挙げられる。この成膜装置では、成膜チャンバ1内上部に、成膜中、2次元方向(この場合、水平方向)にX-Y方向への移動可能に、ステージ2が設けられており、基材Sは、ステージ2の下に設けられる。また、成膜チャンバ1には、成膜チャンバ1内を減圧するための真空ポンプ3が、配管31を介して設けられている。一方、成膜チャンバ1の下方には、成膜用粉末Pを収容するエアロゾル発生容器4が設けられており、成膜チャンバ1とエアロゾル発生容器4とは配管5で、内部が連通し、成膜チャンバ1内の配管5の末端には、基材Sの下方の位置に成膜ノズル51が設けられている。そして、エアロゾル発生容器4内に、配管6を通じて窒素ガスなどのキャリアガス61を供給することにより、キャリアガス流により成膜用粉末が舞い上がってエアロゾル化し、これが配管5を通じて、成膜ノズル51から基材Sに向かって吹き出して、基材S上に皮膜が形成されるようになっている。
【0040】
本発明の成膜用粉末を用い、エアロゾルデポジションにより形成した皮膜は、成膜用粉末と同様に、希土類酸フッ化物を含む皮膜が形成され、成膜用粉末に含まれる成分構成(化合物及びそれらの比率)を反映して、成膜用粉末と実質的に同等の成分構成の皮膜が形成される。本発明の成膜用粉末を用いて皮膜を成膜すること、特に、エアロゾルデポジションにより皮膜を形成することにより、気孔率が3体積%以下、特に1体積%以下の緻密な皮膜を得ることができる。気孔率は、皮膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、気孔面積の画像処理計算により求めることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
原料の酸化イットリウム粉末及び得られた成膜用粉末の粒度分布(D10、平均粒子径D50、D90、及び粒径0.3μm以下の粒子の含有率)は、粒度分布測定機(日機装(株)製、Microtrac MT3300 EXII型)で、レーザー回折法(レーザー回折・散乱法)により測定し、得られた測定結果から、式(1)に基づき分散指数(b80)を算出した。得られた成膜用粉末の細孔径分布は、細孔分布測定装置(Micromeritics社製、Auto Pore III)で、水銀圧入法により測定し、得られた細孔直径に対する積算細孔容積分布から、径10μm以下の細孔の総容積(累積容積)を算出した。得られた成膜用粉末のBET比表面積は、全自動比表面積測定装置((株)マウンテック製、Macsorb HM model-1280)で測定した。得られた成膜用粉末の結晶相は、X線回折装置(PANalytical社製 X-Part Pro MPD、CuKα線、)で、2θ=5~70°の範囲を分析した。得られた成膜用粉末のアスペクト比は、1,000~10,000倍の電子顕微鏡写真を複数箇所撮影し、その中の重なっていない粒子の短径と長径を測って算出し、200個分の平均値とした。得られた成膜用粉末中の不純物(Zr、Si、Al、Fe)の含有率は、酸に溶解してICP発光法で測定した。
【0043】
得られた皮膜の膜厚は、渦電流式膜厚計(Kett社製、LH-300型)で測定した。得られた皮膜の気孔率は、皮膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、2視野を撮像して、気孔面積の画像処理計算により、2視野の平均値として求めた。具体的には、ASTM E2109に準拠して、溶射膜を樹脂埋めして、走査型電子顕微鏡観察のサンプルとし、5000倍の倍率で、反射電子組成画像(COMPO像)を撮像し、256階調のグレースケール画像において、デンシティースライス操作により、二値化のためのグレイ値(閾値)を、細孔に相当する暗部の中の最大諧調の値より1階調低い値として設定した。皮膜の形成における歩留りは、成膜装置でチャンバに供給した成膜用粉末の質量に対する、基材上に形成された皮膜の質量の割合(付着率)として求めた。
【0044】
[実施例1~3]
酸化イットリウム粉末(平均粒子径D50=1.14μm、分散指数(b80)=1.48、信越化学工業(株)製)1,129g(5mol、イットリウム=10mol)を、水6.5Lに混合し、分散(スラリー化)して、分散液とした。次に、フッ化アンモニウム(NH4F)370.4g(フッ素=10mol)を、混合下の分散液に速やかに投入し、40℃で3時間混合・熟成し、酸化イットリウムと、フッ化アンモニウムとの反応により、酸化イットリウムの表面に、イットリウムアンモニウムフッ化物複塩が形成された(析出した)前駆体粒子(酸化イットリウムとフッ化イットリウムアンモニウムとの複合粒子)を得た。
【0045】
次に、分散液から前駆体粒子を濾過により固液分離して固形分を回収し、水洗して80℃の温度で16時間乾燥し、目開き75μmの篩を通して、軽く固結した粒子をほぐした後、電気炉により、大気雰囲気中で、表1に示される温度で3時間熱処理(焼成)して、成膜用粉末を得た。実施例1で得られた、乾燥後、熱処理前の粉末のX線回折プロファイルを
図2に、熱処理後の粉末のX線回折プロファイルを
図3に、各々示す。
【0046】
次に、得られた成膜用粉末を用い、
図1に示される成膜装置で、エアロゾルデポジションにより、ステージを水平方向で往復移動させながら、基材上に皮膜を形成した。成膜条件は、表3に示されるとおりとした。
【0047】
[比較例1、2]
熱処理温度を表1に示される温度とした以外は、実施例1と同様にして成膜用粉末を得、得られた成膜用粉末を用い、実施例1と同様にして、皮膜を形成した。
【0048】
[実施例4]
酸化イットリウム粉末を、平均粒子径D50=3.92μm、分散指数(b80)=1.90のもの(信越化学工業(株)製)に変更し、熱処理温度を表1に示される温度とした以外は、実施例1と同様にして成膜用粉末を得、得られた成膜用粉末を用い、実施例1と同様にして、皮膜を形成した。原料として用いた酸化イットリウム粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図4に示す。
【0049】
[実施例5]
フッ化アンモニウム(NH
4F)の量を518.5g(14mol)とした以外は、実施例4と同様にして成膜用粉末を得、得られた成膜用粉末を用い、実施例1と同様にして、皮膜を形成した。熱処理後の粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)像を
図5に、X線回折プロファイルを
図6に、各々示す。
【0050】
[実施例6]
酸化イットリウム粉末(平均粒子径D50=3.92μm、分散指数(b80)=1.90、信越化学工業(株)製)1,581g(7mol、イットリウム=14mol)を、水10Lに混合し、分散(スラリー化)して、分散液とした。次に、0.6mol/L硝酸イットリウム水溶液10.0L(イットリウム=6mol)と、2.0mol/Lフッ化アンモニウム(NH4F)水溶液10.0L(フッ素=20mol)を、分散液の攪拌下、5時間で投入し、酸化イットリウム及び硝酸イットリウムと、フッ化アンモニウムとの反応により、酸化イットリウムの表面に、イットリウムアンモニウムフッ化物複塩が形成された(析出した)前駆体粒子(酸化イットリウムとフッ化イットリウムアンモニウムとの複合粒子)を得た。
【0051】
次に、分散液から前駆体粒子を濾過により固液分離して固形分を回収し、水洗して80℃の温度で16時間乾燥し、目開き75μmの篩を通して、軽く固結した粒子をほぐした後、電気炉により、大気雰囲気中で、表1に示される温度で3時間熱処理(焼成)して、成膜用粉末を得た。
【0052】
次に、得られた成膜用粉末を用い、
図1に示される成膜装置で、エアロゾルデポジションにより、ステージを水平方向で往復移動させながら、基材上に皮膜を形成した。成膜条件は、表3に示されるとおりとした。
【0053】
実施例1~6及び比較例2で得られた成膜用粉末の平均粒子径D50、分散指数(b80)、粒径0.3μm以下の粒子の含有率、BET比表面積、径10μm以下の細孔の総容積、アスペクト比、結晶相、及び不純物含有率を表1に示す。また。実施例1~6及び比較例2で得られた皮膜の膜厚、気孔率及び付着率を表2に示す。なお、比較例1においては、酸化イットリウムとイットリウムアンモニウムフッ化物複塩とが、多量に残存していたので、X線回折法による結晶相の分析以外は実施しておらず、また、皮膜の形成も実施しておらず、成膜用粉末の結晶相のみを表1に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【符号の説明】
【0057】
1 成膜チャンバ
2 ステージ
3 真空ポンプ
31 配管
4 エアロゾル発生容器
5 配管
51 成膜ノズル
6 配管
61 キャリアガス
S 基材
P 成膜用粉末