(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】反射型マスクブランクおよび反射型マスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240827BHJP
G03F 1/58 20120101ALI20240827BHJP
G03F 1/32 20120101ALI20240827BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240827BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/58
G03F1/32
C23C14/06 A
C23C14/08 J
(21)【出願番号】P 2023162137
(22)【出願日】2023-09-26
(62)【分割の表示】P 2021553606の分割
【原出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019195856
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】田邊 容由
(72)【発明者】
【氏名】羽根川 博
(72)【発明者】
【氏名】宇野 俊之
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-067757(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090485(WO,A1)
【文献】特開2018-141969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 - 1/86
C23C 14/00 - 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、EUV光を反射する反射層と、前記反射層を保護する保護層と、EUV光を吸収する吸収層をこの順に有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収層の波長13.53nmにおける反射率が2.5~10%であり、
前記吸収層が、下部吸収層および上部吸収層の二層からなり、
前記二層からなる吸収層の膜厚d
biは
【数1】
という関係を満た
し、
前記反射層の波長13.53nmにおける反射光に対する前記吸収層の波長13.53nmにおける反射光の位相差は190~220度であることを特徴とする反射型マスクブランク。
ここで、整数iは0または1であり、d
bi MAXは
【数2】
である。上式中、下部吸収層の屈折率をn
1、上部吸収層の屈折率をn
2、上部吸収層の吸収係数をk
2とする。INT(x)は小数部を切り捨てた整数値を返す関数である。
【請求項2】
前記吸収層はTa、Nb、Mo、Ti、Zr、Re、Ru、Au、Pt、Pd、Rh、B、N、および、Oからなる群から選択される1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項
1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記吸収層の反射光スペクトルのピーク波長をλ
MAXとしたとき、前記整数iに対応して
【数3】
を満たすことを特徴とする請求項1
または2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記吸収層の上にハードマスク層を有することを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記ハードマスク層は、CrおよびSiの少なくとも一方の元素を含むことを特徴とする請求項
4に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記基板の裏面に裏面導電層を有することを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記裏面導電層の材料は、CrもしくはTa、またはこれらの合金であることを特徴とする請求項
6に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の反射型マスクブランクの前記吸収層に、パターンが形成されている反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフト効果を利用した反射型マスク、および該反射型マスクが得られる反射型マスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスを構成する集積回路の微細化に伴い、可視光や紫外光(波長365~193nm)を用いた従来の露光技術に代わる露光方法として、極端紫外光(Etreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)リソグラフィが検討されている。
【0003】
EUVリソグラフィでは、露光に用いる光源として、ArFエキシマレーザ光よりも短波長のEUV光が用いられる。なお、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光をいい、具体的には、波長が0.2~100nm程度の光である。EUVリソグラフィに用いられるEUV光としては、例えば、波長λが13.5nm程度のEUV光が使用される。
【0004】
EUV光は、多くの物質に対して吸収され易いため、従来の露光技術で用いられていた屈折光学系を使用できない。そのため、EUVリソグラフィでは、反射型マスクやミラーなどの反射光学系が用いられる。EUVリソグラフィにおいては、反射型マスクが転写用マスクとして用いられる。
【0005】
反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する反射層が形成され、該反射層の上にEUV光を吸収する吸収層がパターン状に形成されている。反射型マスクは、基板上に反射層および吸収層を基板側からこの順に積層して構成された反射型マスクブランクを原板として用いて、吸収層の一部を除去して所定のパターンに形成することで得られる。
【0006】
反射型マスクに入射したEUV光は、吸収層で吸収され、反射層で反射される。反射されたEUV光は、光学系によって露光材料(レジストを塗布したウエハ)の表面に結像される。これにより、吸収層の開口部が露光材料の表面に転写される。EUVリソグラフィにおいては、EUV光は、通常、約6°傾斜した方向から反射型マスクに入射し、同様に斜めに反射される。
【0007】
従来、吸収層の材料としては、TaNや特許文献1に示すTaBNなどが用いられている。これら材料は、通常EUV光での反射率2%以下、膜厚60nm以上の条件で用いられている。光学的にはバイナリマスクの条件に相当し、位相シフトマスクとしての効果は小さい。
【0008】
吸収層の透過率を調節することにより、位相シフト効果を利用した反射型マスクを得ることができる。吸収層は光を僅かに透過するとともに、吸収層の反射光は、開口部で反射される光と位相差を持つ。このような位相シフト効果を利用した反射型マスクを用いることにより、ウエハ上の光学像のコントラストが向上し、露光マージンが増加する。
【0009】
位相シフト効果を利用した反射型マスクの一例として、特許文献2では吸収層の材料としてTaNbを用いている。特許文献2では、吸収層の反射率の最適値を、開口部の反射率との相対値として4~15%としている。この値は従来のArF位相シフトマスクの透過率の最適値と近い。開口部の反射率は通常65%程度なので、吸収層の反射率の最適値は、絶対値で2.5~10%となる。
【0010】
特許文献2では、位相シフトを利用した反射型マスクの位相差の最適値を175~185度としている。この範囲は従来のArF位相シフトマスクの位相差の最適値である180度を含んでいる。
【0011】
ArF位相シフトマスクの場合には、吸収層の膜厚を無視した薄膜近似が成り立つので、位相差の最適値が180度となる。しかし、EUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの場合、吸収層の膜厚がパターンサイズと同程度になるため薄膜近似が使えない。
図3(a)は、位相シフト効果を利用した反射型マスクにおける反射光強度分布の一例を示した図であり、
図3(b)は当該反射型マスクにおける反射光位相分布の一例を示した図である。
図3(a),(b)の横軸は、幅64nmのパターンの中心の位置を0nmとした場合の該パターンの幅方向における位置を示している。
図3(a)に示すように、反射光強度はパターンの中心で極大となり、パターンの幅方向における端部(パターンエッジ)に向けて連続的に低くなる。
図3(b)に示すように反射光の位相は、パターンの中心で極小となり、パターンエッジに向けて、反射光の位相が連続的に変化する。この影響により実効的な位相差がずれてしまう。そのため、反射型マスクの場合、吸収層の位相差の最適値は180度と異なる。
【0012】
一方、露光時の光学像強度が高いことが、露光時間が短くなり、スループットに有利となるため好ましい。そのため、露光時のピーク光強度は高いことが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】日本国特許4163038号明細書
【文献】日本国特許5266988号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、位相シフト効果が大きく、かつ露光時のピーク光強度が高いEUVリソグラフィ用反射型マスク、および該反射型マスクが得られるEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、EUVリソグラフィ用反射型マスクにおいて、位相シフト効果が大きく、かつ露光時のピーク光強度が高い吸収層の膜厚の条件を見出した。
【0016】
図4(a)に吸収層をTaNb(屈折率n=0.945、吸収係数k=0.0236)の単層膜として、波長13.53nm、投影光学系の開口数NAが0.33、σ値が0.5の露光条件でウエハ上の22nmのホールパターンを露光した場合のNILS(Normalized Image Log Slope、規格化イメージログスロープ)の吸収層膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示す。NILSはウエハ上の光学像のコントラストに対応している。
図4(a)では、吸収層膜厚が72nmのときにNILSが最大となり、このとき位相シフト効果も最大となる。
【0017】
図4(b)には、上記と同じ条件で、位相差の吸収層膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示す。
図4(b)では、膜厚72nmのときに位相差は約210度となっている。これは、前述したように、パターンエッジに向けて、反射光の位相が連続的に変化する影響で、位相差の最適値が180度からずれていることが原因である。膜厚72nmでNILSが最大になっていることから、実効的な位相差は180度に近いと考えられる。
【0018】
図4(c)には、上記と同じ条件で、吸収層の反射率の膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示す。膜厚72nmのときに反射率は極大になっている。位相シフト効果が最大になる条件は、実効的な位相差が約180度であり、同時に反射率が極大になる場合である。このため、NILSの最大値と反射率の極大値は一致する。
【0019】
図4(a)~(c)に見られるように、NILS、位相差、反射率は吸収層の膜厚増加とともに振動している。このような現象が生じる原因は、
図5に示すように、反射層20からの反射光100と、吸収層40表面での反射光200との間に干渉が生じるためである。吸収層の膜厚が増加すると、干渉が強め合う位置と弱め合う位置が交互に発生する。反射率の極大値は干渉が強め合う位置、すなわち反射光100と反射光200の位相が揃う場合に相当する。
【0020】
反射光100と反射光200の位相が揃う条件は以下のように求められる。最初に、吸収層40中での光路長差だけを考えると、反射光100と反射光200の位相の揃う条件は、吸収層40の膜厚をdとして、下記(1)式で表される。
【数1】
上記(1)式中、Nは整数、λは波長、nは吸収層40の屈折率、θは入射角である。EUVリソグラフィ用反射型マスクの場合、波長λは13.53nm、入射角θは6°である。
【0021】
次に、反射光100と反射光200について、それぞれの反射面での位相のずれを考える。反射光100は反射層20内部で反射が生じている。このときの位相のずれは、数値計算によると-0.64ラジアンとなっている。一方、反射光200は吸収層40表面で反射が生じるため、位相のずれはtan
-1(-k/(1-n))となる。ここでnは波長13.53nmにおける吸収層40の屈折率、kは吸収層40の同波長における吸収係数である。反射光100と反射光200の位相の揃う条件は、反射面での位相のずれを考慮して下記(2)式で与えられる。
【数2】
【0022】
上記(2)式が反射光100と反射光200の位相の揃う条件、すなわち反射率が極大値を持つ条件である。NILSが最大値になるためには、さらに実効的な位相差が約180度になる必要がある。このとき、吸収層40の位相差は、
図4(b)に示すように約210度となる。吸収層40の膜厚をdとすると、吸収層40を光が往復する場合の真空中との光路長差は、2(1-n)dとなる。このときの位相差が210度に相当するのは、2(1-n)d=210/360・λの場合である。ここから、NILSが最大値となる吸収層の膜厚d
MAXは、おおよそ下記(3)式となる。
【数3】
最終的に、(2)式と(3)式を組み合わせて、ncos6°≒1であることを考慮すると、(4)式が得られる。
【数4】
ここでINT(x)は小数部を切り捨てた整数値を返す関数である。(4)式が位相シフト効果を最大にするために、吸収層の膜厚が満たすべき条件である。
【0023】
ここまで、位相シフト効果によるNILSの最大化だけを考慮してきた。露光時に考慮すべきもう一つの重要な性質として、光学像の強度がある。光学像の強度が高いほど露光時間は短くて済み、スループットが向上する。本明細書では、露光時の光学像の強度の指標として、露光時のピーク光強度を用いる。
図7(a)にNILSの膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示し、
図7(b)にピーク光強度の膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示し、
図7(c)に位相差の膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示す。
図7(a),(b),(c)では、横軸を吸収層の膜厚と、上記で求まるNILSが最大値となる吸収層の膜厚d
MAXとの差としている。露光条件は
図4の場合と同じである。吸収層の膜厚d
MAXは(4)式より72.3nmとなる。
【0024】
図7(b)から判るように、露光時のピーク光強度は膜厚が薄いほど大きくなる。一方、NILSは、吸収層の膜厚がd
MAXのとき最大になり、d
MAX-6nmにもピークを持っている。膜厚d
MAX-6nmでの光強度は、膜厚d
MAXでの光強度より6%高い。NILSと光強度のバランスを考慮すると、吸収層の膜厚の最適値はd
MAXあるいはd
MAX-6nmのどちらかになる。
【0025】
図7(c)に示すように、膜厚d
MAXでの位相差は210度、膜厚d
MAX-6nmでの位相差は203度となり、どちらも180度からは大きく外れている。膜厚のバラツキ+-1nmを考慮すると、位相差の最適値は190~220度となる。位相差が180度となる膜厚でのNILSはいずれもピークを外しており、位相差180度が吸収層の膜厚の最適値では無いことが判る。
【0026】
実際に吸収層を成膜する際には、膜厚に+-1nm程度のバラツキが生じる。
図7(a)~(c)から判るように、この程度のバラツキが生じても、NILSの低下は僅かであり許容できる。このとき、反射光スペクトルのピーク波長のバラツキは+-0.1nm程度になる。したがって、吸収層の膜厚d(nm)がd
MAX-1nm≦d≦d
MAX+1nm、あるいは(d
MAX-6nm)-1nm≦d≦(d
MAX-6nm)+1nmを満たしていれば、位相シフト効果が大きく、かつ露光時のピーク光強度が高くなる。これらの式をまとめると下記(5)式となる。
【数5】
ここで整数iは0または1である。
【0027】
図2に示す反射型マスクブランクは、吸収層40が下部吸収層41と上部吸収層42の二層からなる。この場合、
図6に示すように、反射層20からの反射光100と、上部吸収層42表面での反射光202との間に干渉が生じる。反射光202は上部吸収層42表面で反射が生じるため、位相のずれはtan
-1(-k
2/(1-n
2))となる。ここで、k
2は波長13.53nmにおける上部吸収層42の吸収係数、n
2は同波長における上部吸収層の屈折率である。
反射光100と反射光200の位相の揃う条件は、二層からなる吸収層40の膜厚をd
biとして、反射面での位相のずれを考慮して下記(6)式で与えられ、NILSが最大値となる膜厚d
bi
MAXは、おおよそ下記(7)式となる。
【数6】
【数7】
この場合も、二層からなる吸収層40の膜厚d
bi(nm)がd
bi
MAX-1nm≦d
bi≦d
bi
MAX+1nm、あるいは(d
bi
MAX-6nm)-1nm≦d
bi≦(d
bi
MAX-6nm)+1nmを満たしていれば、位相シフト効果が大きく、かつ露光時のピーク光強度が高くなる。
これらの式をまとめると下記式となる。
【数8】
ここで整数iは0または1である。
【0028】
(4)式から判るように、d
MAXは吸収層の屈折率nに大きく依存する。(7)式から判るように、d
bi
MAXは下部吸収層の屈折率n
1および上部吸収層の屈折率n
2に大きく依存する。しかし、マスクブランク製造時の管理として、n,n
1,n
2を頻繁に測定することは困難である。
吸収層の膜厚のより現実的な管理方法として、反射光のスペクトルを使用する方法が考えられる。反射光のスペクトルは市販の装置を使用して測定可能である。
図8に吸収層の膜厚がd
MAXおよびd
MAX-6nmの際の反射光スペクトルを示す。ピーク波長λ
MAXは、それぞれ13.53nm、13.63nmとなっている。吸収層の膜厚管理の基準として、反射光のピーク波長λ
MAXを用いることができる。
この場合、ピーク波長λ
MAXが(13.53-0.1)nm≦λ
MAX≦(13.53+0.1)nm、あるいは(13.63-0.1)nm≦λ
MAX≦(13.63+0.1)nmを満たしていれば、位相シフト効果が大きく、かつ露光時のピーク光強度が高くなる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の反射型マスクを用いることにより位相シフト効果が向上する。また、本発明の反射型マスクを用いることにより、露光時のピーク光強度が高くなり、スループットを確保しつつ、ウエハ上の光学像のコントラストが向上し、露光マージンが増加する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクの一構成例の概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクの別の一構成例の概略断面図である。
【
図3】(a)は位相シフト効果を利用した反射型マスクにおける反射光の強度分布の一例を示した図であり、(b)は該反射型マスクにおける反射光の位相分布の一例を示した図である。
【
図4】(a)はNILSの吸収層膜厚依存性をシミュレーションした図であり、(b)は位相差の吸収層膜厚依存性をシミュレーションした図であり、(c)は反射率の吸収層膜厚依存性をシミュレーションした図である。
【
図5】反射層からの反射光と、吸収層表面からの反射光との干渉を説明するための図である。
【
図6】反射層からの反射光と、上部吸収層表面からの反射光との干渉を説明するための図である。
【
図7】(a)は吸収層膜厚-d
MAXとNILSとの関係を示した図であり、(b)は吸収層膜厚-d
MAXとピーク光強度との関係を示した図であり、(c)は吸収層膜厚-d
MAXと位相差との関係を示した図である。
【
図8】吸収層膜厚がd
MAXおよびd
MAX-6nmの際の反射光スペクトルを示した図である。
【
図9】反射型マスクの一構成例を示す概略断面図である。
【
図10】(a)は吸収層膜厚と、反射率との関係を示した図であり、(b)は吸収層の膜厚がd
MAXでの反射光スペクトルを示した図であり、(c)は吸収層の膜厚がd
MAX-6nmでの反射光スペクトルを示した図である。
【
図11】(a)は例1、例2について、吸収層膜厚-d
MAXとNILSとの関係を示した図であり、(b)は例1、例2について、吸収層膜厚-d
MAXとピーク光強度との関係を示した図である。
【
図12】(a)は例1、例3、例4について、吸収層膜厚-d
MAXとNILSとの関係を示した図であり、(b)は例1、例3、例4について、吸収層膜厚-d
MAXとピーク光強度との関係を示した図である。
【
図13】(a)は例1、例3、例4について、吸収層の膜厚がd
MAXでの反射光スペクトルを示した図であり、(b)は例1、例3、例4について、吸収層の膜厚がd
MAX-6nmでの反射光スペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0032】
<反射型マスクブランク>
本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクについて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクの一構成例の概略断面図である。
図1に示すように、反射型マスクブランクは、基板10の上に、反射層20、保護層30、および吸収層40をこの順に積層して構成している。
図2は、本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクの別の一構成例の概略断面図である。
図2に示すように、反射型マスクブランクは、基板10の上に、反射層20、保護層30、下部吸収層41および上部吸収層42をこの順に積層して構成している。
図2に示す反射型マスクブランクは、吸収層40が下部吸収層41と上部吸収層42の二層からなる。
【0033】
(基板)
基板10は、熱膨張係数が小さいことが好ましい。基板10の熱膨張係数が小さい方が、EUV光による露光時の熱により吸収層40に形成されるパターンに歪みが生じるのを抑制できる。基板10の熱膨張係数は、具体的には、20℃において、0±1.0×10-7/℃が好ましく、0±0.3×10-7/℃がより好ましい。
【0034】
熱膨張係数が小さい材料としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラスなどを用いることができる。SiO2-TiO2系ガラスとしては、SiO2を90~95質量%、TiO2を5~10質量%含む石英ガラスを用いることが好ましい。TiO2の含有量が5~10質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。なお、SiO2-TiO2系ガラスは、SiO2およびTiO2以外の微量成分を含んでもよい。
【0035】
基板10の反射層20が積層される側の面(以下、「主面」という。)は、高い平滑性を有することが好ましい。主面の平滑性は、原子間力顕微鏡で測定でき、表面粗さで評価できる。主面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さRqで、0.15nm以下が好ましい。
【0036】
主面は、所定の平坦度となるように表面加工されることが好ましい。これは、反射型マスクが高いパターン転写精度および位置精度を得るためである。基板10は、主面の所定の領域(例えば、132mm×132mmの領域)において、平坦度が100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。
【0037】
また、基板10は、反射型マスクブランク、パターン形成後の反射型マスクブランク、または反射型マスクの洗浄などに用いる洗浄液に対して耐性を有することが好ましい。
【0038】
さらに、基板10は、基板10上に形成される膜(反射層20など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有することが好ましい。例えば、基板10は、65GPa以上の高いヤング率を有していることが好ましい。
【0039】
(反射層)
反射層20は、EUV光に対して高い反射率を有する。具体的には、EUV光が入射角6°で反射層の表面に入射した際、波長13.5nm付近のEUV光の反射率の最大値は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。また、反射層の上に、保護層が積層されている場合でも、同様に、波長13.5nm付近のEUV光の反射率の最大値は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。
【0040】
反射層20は、EUV光に対して屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に複数積層された多層反射膜であることが好ましい。以下、反射層が多層反射膜の場合について記載する。
【0041】
上記多層反射膜は、高屈折率層と低屈折率層とを基板10側からこの順に積層した積層構造を1周期として複数周期積層してもよいし、低屈折率層と高屈折率層とをこの順に積層した積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。
【0042】
高屈折率層としては、Siを含む層を用いることができる。Siを含む高屈折率層を用いることによって、EUV光の反射率に優れた反射型マスクが得られる。低屈折率層としては、Mo、Ru、RhおよびPtからなる群から選択される金属またはこれらの合金を用いることができる。本実施形態では、低屈折率層がMoを含む層であり、高屈折率層がSiを含む層であることが好ましい。
【0043】
多層反射膜は、高屈折率層および低屈折率層をそれぞれ複数備えているが、高屈折率層同士の膜厚または低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくてもよい。
多層反射膜を構成する各層の膜厚および周期は、使用する膜材料、反射層に要求されるEUV光の反射率またはEUV光の波長(露光波長)などにより適宜選択できる。例えば、反射層が波長13.5nm付近のEUV光の反射率の最大値を60%以上とする場合、低屈折率層(Moを含む層)と高屈折率層(Siを含む層)とを交互に30周期~60周期積層したMo/Si多層反射膜が好ましく用いられる。
【0044】
なお、多層反射膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの公知の成膜方法を用いて所望の厚さになるように成膜することができる。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて多層反射膜を作製する場合、高屈折率材料のターゲットおよび低屈折率材料のターゲットに対して、イオン源からイオン粒子を供給することにより行う。
【0045】
(保護層)
保護層30は、
図9に示す反射型マスクの製造時において、吸収層40(下部吸収層41、上部吸収層42)をエッチング(通常、ドライエッチング)して吸収層40に吸収体パターン60を形成する際、反射層20の表面をエッチングによるダメージから保護する。また、エッチング後の反射型マスクブランクに残っているレジストを洗浄液を用いて剥離して、反射型マスクブランクを洗浄する際に、反射層20を洗浄液から保護する。そのため、得られる反射型マスクのEUV光に対する反射率は良好となる。
【0046】
図1、2では、保護層30が1層の場合を示しているが、保護層30は複数層でもよい。
保護層30を形成する材料としては、吸収層40のエッチングの際に、エッチングによる損傷を受け難い物質が選択される。この条件を満たす物質としては、例えば、Ru金属単体、Ruに、B、Si、Ti、Nb、Mo、Zr、Y、La、Co、およびReからなる群から選択される1種以上の金属を含有したRu合金、上記Ru合金に窒素を含む窒化物などのRu系材料;Cr、Al、Taおよびこれらに窒素を含む窒化物;SiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3またはこれらの混合物;などが例示される。これらの中でも、Ru金属単体およびRu合金、CrNおよびSiO
2が好ましい。Ru金属単体およびRu合金は、酸素を含まないガスに対してエッチングされ難く、反射型マスクの加工時のエッチングストッパとして機能する点から、特に好ましい。
【0047】
保護層30の膜厚は、保護層30としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。反射層20で反射されたEUV光の反射率を保つ点から、保護層30の膜厚は、1~8nmが好ましく、1.5~6nmがより好ましく、2~5nmがさらに好ましい。
【0048】
保護層30の形成方法としては、スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの公知の膜形成方法を用いることができる。
【0049】
(吸収層)
吸収層40は、EUVリソグラフィの反射型マスクに使用するためには、EUV光の吸収係数が高いこと、容易にエッチングできること、および洗浄液に対する洗浄耐性が高いことなどの特性を有することが好ましい。
【0050】
吸収層40は、EUV光を吸収し、EUV光の反射率が極めて低い。但し、EUV光の反射率が低すぎると、位相シフト効果が低下するため、EUV光が吸収層40の表面に照射された際の、波長13.53nm付近のEUV光の反射率は、2.5~10%である。反射率の測定は、マスクブランク用EUV反射率計(AIXUV社製、MBR)を用いて行うことができる。
【0051】
さらに、吸収層40は、Cl系ガスやCF系ガスを用いたドライエッチングなどによりエッチングして加工される。そのため、吸収層40は、容易にエッチングできることが好ましい。
【0052】
また、吸収層40は、後述する反射型マスクの製造時において、エッチング後の反射型マスクブランクに残っているレジストパターンを洗浄液で除去する際に洗浄液に晒される。その際、洗浄液としては、硫酸過水(SPM)、硫酸、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、およびオゾン水などが用いられる。
【0053】
吸収層40の材料にはTa系材料が好ましく用いられる。TaにNやOやBを加えれば、酸化に対する耐性が向上し、経時的な安定性を向上させることができる。マスク加工後のパターン欠陥検査を容易にするため、
図2に示すように、吸収層40を、2層構造、例えば下部吸収層41としてのTaN膜上に上部吸収層42としてのTaON膜を積層させた構造とすることも好ましい。
【0054】
本発明における吸収層40は、Ta、Nb、Mo、Ti、Zr、Re、Ru、Au、Pt、Pd、Rh、B、N、および、Oからなる群から選択される1種以上の元素を含有することが好ましい。
【0055】
Taを吸収層として用いても、位相シフト効果は発生するが、反射率は2%以下になるため、その効果は小さい。Nb、Mo、Ti、Zrなどの吸収係数の小さな材料を用いれば、反射率を上げて位相シフト効果を大きくすることができる。また、これらの材料にTa、N、O、Bを加えると洗浄耐性や経時的な安定性を向上させることができる。
【0056】
また、Re、Ru、Au、Pt、Pd、Rhなどの屈折率の小さな材料を用いれば、位相シフトマスクとして用いた場合に、薄膜化が可能になる。また、これらの材料にTa、N、O、Bを加えると洗浄耐性や経時的な安定性を向上させることができる。
【0057】
吸収層40は、結晶状態がアモルファスであることが好ましい。これにより、吸収層40は、優れた平滑性および平坦度を有することできる。また、吸収層40の平滑性および平坦度が向上することで、
図9に示す反射型マスクの製造時において、吸収体パターン60のエッジラフネスが小さくなり、吸収体パターン60の寸法精度を高くできる。
【0058】
図1に示す反射型マスクブランクのように、吸収層40が単層である場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率を向上できる。
【0059】
図2に示す反射型マスクブランクのように、吸収層40が下部吸収層41および上部吸収層42の二層で構成されている場合、上部吸収層42の光学定数や膜厚を適切に設定することで、
図9に示す反射型マスクの製造時において、検査光を用いて吸収体パターン60を検査する際の反射防止膜として使用できる。これにより、吸収体パターンの検査時における検査感度を向上できる。また、上部吸収層42に酸素を含む材料を用いると、洗浄耐性や安定性が向上する。
【0060】
(その他の層)
本発明の反射型マスクブランクは、吸収層40上にハードマスク層を備えていてもよい。本発明におけるハードマスク層は、CrおよびSiの少なくとも一方の元素を含むことが好ましい。ハードマスク層としては、Crを含むCr系膜、またはSiを含むSi系膜など、エッチングに対して耐性の高い材料、具体的には、Cl系ガスやCF系ガスを用いたドライエッチングに対して耐性の高い材料が用いられる。Cr系膜としては、例えば、Cr、およびCrにOまたはNを加えた材料などが挙げられる。具体的には、CrO、CrN、CrONが挙げられる。Si系膜としては、Si、並びにSiにO、N、C、およびHからなる群から選択される一種以上を加えた材料などが挙げられる。具体的には、SiO
2、SiON、SiN、SiO、Si、SiC、SiCO、SiCN、SiCONが挙げられる。中でも、Si系膜は、吸収層40をドライエッチングする際に側壁の後退が生じ難いため好ましい。吸収層40上にハードマスク層を形成することで、
図9に示す反射型マスクの製造時において、吸収体パターン60の最小線幅が小さくなっても、ドライエッチングを実施できる。そのため、吸収体パターン60の微細化に対して有効である。
【0061】
本発明の反射型マスクブランクは、基板10の反射層20が積層される側とは反対側の主面(以下、裏面という。)に、静電チャック用の裏面導電層を備えることができる。裏面導電層には、特性として、シート抵抗値が低いことが要求される。裏面導電層のシート抵抗値は、例えば、250Ω/□以下であり、200Ω/□以下が好ましい。
【0062】
裏面導電層の材料は、例えば、CrもしくはTaなどの金属、またはこれらの合金を用いることができる。Crを含む合金としては、Crに、B、N、O、およびCからなる群から選択される1種以上を含有したCr化合物を用いることができる。Taを含む合金としては、Taに、B、N、O、およびCからなる群から選択される1種以上を含有したTa化合物を用いることができる。
【0063】
裏面導電層の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、例えば、10~400nmとする。また、この裏面導電層は、反射型マスクブランクの裏面側の応力調整も備えることができる。すなわち、裏面導電層は、主面側に形成された各種層からの応力とバランスをとって、反射型マスクブランクを平坦にするように調整することができる。
【0064】
裏面導電層の形成方法は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などの公知の成膜方法を用いることができる。
【0065】
裏面導電層は、例えば、反射層を形成する前に、基板の裏面に形成することができる。
【0066】
<反射型マスク>
次に、
図2に示す反射型マスクブランクを用いて得られる反射型マスクについて説明する。
図9は、反射型マスクの構成の一例を示す概略断面図である。
図9に示す反射型マスクは、
図2に示す反射型マスクブランクの吸収層40(下部吸収層41、上部吸収層42)に、所望の吸収体パターン60を形成したものである。吸収体パターンは通常の加工方法、すなわち反射型マスクブランク上へのレジスト塗布、露光、現像、エッチングにより形成される。なお、
図1に示す反射型マスクブランクを用いて得られる反射型マスクの場合、単層の吸収層に吸収体パターンが形成される。
【実施例】
【0067】
例1、例3、例4は実施例、例2は比較例である。
【0068】
[例1]
成膜用の基板として、SiO
2-TiO
2系のガラス基板(外形が約152mm角、厚さが約6.3mm)を使用した。なお、ガラス基板の熱膨張係数は0.02×10
-7/℃以下である。ガラス基板を研磨して、表面粗さを二乗平均平方根粗さRqで0.15nm以下、平坦度を100nm以下の平滑な表面に加工した。ガラス基板の裏面上には、マグネトロンスパッタリング法を用いて、厚さが約100nmのCr層を成膜し、静電チャック用の裏面導電層を形成した。Cr層のシート抵抗値は100Ω/□程度であった。
基板の裏面に導電層を成膜した後、基板の表面にイオンビームスパッタリング法を用いて、Si膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返す。Si膜の膜厚は、約4.0nmとし、Mo膜の膜厚は、約3.0nmとする。これにより、合計の膜厚が約280nm((Si膜:4.0nm+Mo膜:3.0nm)×40)の反射層(多層反射膜)を形成した。その後、反射層の上に、イオンビームスパッタリング法を用いてRu層(膜厚が約2.5nm)を成膜して、保護層を形成した。このとき、波長13.53nmにおける反射率は64%となった。
保護層上に、吸収層としてTaNb膜を成膜した。スパッタターゲットにはTaNb(Ta:Nb=60:40)を用い、スパッタガスにはArを用いた。吸収層のスパッタ時にステージの回転を止めることにより、面内で膜厚分布を有する吸収層を得た。これにより、
図1に示す反射型マスクブランクを作製した。吸収層の膜厚は、X線回折装置(株式会社リガク社製、SmartLab HTP)を用いてX線反射率法(XRR)にて測定した。
反射型マスクブランクの吸収層の厚さと反射率の関係を測定した。反射率の測定には、マスクブランク用EUV反射率計(AIXUV社製、MBR)を用いて行った。EUV光の波長は13.53nmとした。吸収層の厚さと反射率との関係を
図10(a)に示す。吸収層の膜厚72nm付近で反射率3.2%のピークを持っている。この反射率は位相シフトマスクとしての条件である2.5%以上、10%以下を満たしている。
図10(a)には、実測値とともにシミュレーション結果を示している。シミュレーションでは、波長13.53nmにおける屈折率nを0.945とし、同波長における吸収係数kを0.0236とした。実測値とシミュレーション結果は良く一致していることが判る。
上記の条件では、(4)式よりd
MAXは72.3nmとなる。
図10(b)には膜厚がd
MAXでの反射光スペクトル、
図10(c)には膜厚がd
MAX-6nmでの反射光スペクトルを示す。実測値とシミュレーション結果は良く一致していることが判る。位相シフトマスクの膜厚管理に反射光スペクトルを用いることができる。
【0069】
[例2]
吸収層として、TaNb膜の代わりにTaN膜を用いた。波長13.53nmにおける屈折率nを0.947、同波長における吸収係数kを0.031とすると、d
MAXは(4)式より72.0nmとなった。このときの反射率はシミュレーションより1.2%となり、位相シフトマスクとしての条件である2.5%以上、10%以下を満たしていない。
例1,2について、投影光学系の開口数NAが0.33、σ値が0.5の露光条件でウエハ上22nmの孤立ホールパターンを露光した場合のシミュレーション結果を
図11(a),(b)に示す。
図11(a)にNILSの膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示し、
図11(b)に光学像のピーク光強度の膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示す。
図11(a),(b)では、横軸を吸収層の膜厚と、(4)式より求まるd
MAXとの差としている。
図11(a)に示すように、吸収層がTaNb膜の例1に比べ、吸収層がTaN膜の例2は、NILSはずっと小さくなり、位相シフト効果は小さいことが判る。
図11(b)に示すように、吸収層がTaNb膜の例1に比べ、吸収層がTaN膜の例2は、露光時のピーク光強度が低いことが判る。
【0070】
[例3]
吸収層として、TaNb膜の代わりにRe膜を用いた。波長13.53nmにおける屈折率nを0.933、同波長における吸収係数kを0.0405とすると、d
MAXは(4)式より44.8nmとなり、TaNb膜を用いた例1よりずっと薄くなる。これはn値が小さいためである。このときの反射率はシミュレーションより3.7%となり、位相シフトマスクとしての条件である2.5%以上、10%以下を満たしている。投影光学系の開口数NAが0.33、σ値が0.5の露光条件でウエハ上に22nmの孤立ホールパターンを露光した場合のシミュレーション結果を
図12(a),(b)に示す。
図12(a)にNILSの膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示し、
図12(b)に光学像のピーク光強度の膜厚依存性をシミュレーションにより求めた結果を示す。
図12(a),(b)では、横軸を吸収層の膜厚と、(4)式より求まるd
MAXとの差としている。
図12(a)に示すように、吸収層としてRe膜を用いた例3のNILSは、吸収層としてTaNb膜を用いた例1と同じく、吸収層膜厚がd
MAX、d
MAX-6nm付近でピークを持っている。
図12(b)より判るように、光学像の光強度は膜厚が薄いほど大きくなる。一方、NILSは、吸収層の膜厚がd
MAXのとき最大になり、d
MAX-6nmにもピークを持っている。膜厚d
MAX-6nmでの光強度は、膜厚d
MAXでの光強度より6%高い。NILSと光強度のバランスを考慮すると、吸収層の膜厚の最適値はd
MAXあるいはd
MAX-6nmのどちらかになる。
【0071】
[例4]
吸収層として、TaNb膜の代わりに、下部吸収層のTaNb膜、上部吸収層のTaNO膜(膜厚4nm)の二層膜(TaNO(4nm)/TaNb膜)を用いた。下部吸収層としてのTaNbの波長13.53nmにおける屈折率n
1は0.945、上部吸収層としてのTaONの波長13.53nmにおける屈折率n
2は0.968、同波長における吸収係数k
2は0.0512とすると、d
bi
MAXは(6)式より71.6nmとなる。このときの反射率はシミュレーションより3.5%となり、位相シフトマスクとして十分な効果を期待できる。TaNO膜が最表面にあるため、TaNb単膜に比べ洗浄に強く、経時安定性良好になる。投影光学系の開口数NAが0.33、σ値が0.5の露光条件でウエハ上に22nmの孤立ホールパターンを露光した場合のシミュレーション結果を
図12(a),(b)に示す。
図12(a)に示すように、下部吸収層のTaNb膜、上部吸収層のTaNO膜(膜厚4nm)の二層膜を用いた例4のNILSは、吸収層としてTaNb膜を用いた例1と同じく、吸収層膜厚がd
bi
MAX、d
bi
MAX-6nm付近でピークを持っている。
図12(b)より判るように、光学像の光強度は膜厚が薄いほど大きくなる。一方、NILSは、吸収層の膜厚がd
bi
MAXのとき最大になり、d
bi
MAX-6nmにもピークを持っている。膜厚d
bi
MAX-6nmでの光強度は、膜厚d
bi
MAXでの光強度より6%高い。NILSと光強度のバランスを考慮すると、吸収層の膜厚の最適値はd
bi
MAXあるいはd
bi
MAX-6nmのどちらかになる。
【0072】
図13(a),(b)には例1、3、4で述べたTaNb膜、Re膜、TaON膜(4nm)/TaNb膜の反射光スペクトルを示す。
図13(a)は膜厚がd
MAXまたはd
bi
MAXの場合で、反射率のピーク波長は13.53nm付近となっている。
図13(b)は膜厚がd
MAX-6nmまたはd
bi
MAX-6nmの場合で、反射率のピーク波長は13.63nm付近となっている。
図13(a),(b)から判るように、吸収層の膜厚管理の基準として、膜種によらず、反射光のピーク波長を用いることができる。
【0073】
以上の通り、本発明は、以下の反射型マスクブランクおよび反射型マスクを提供する。
(1)基板上に、EUV光を反射する反射層と、前記反射層を保護する保護層と、EUV光を吸収する吸収層をこの順に有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収層の波長13.53nmにおける反射率が2.5~10%であり、
前記吸収層の膜厚dは
【数9】
という関係を満たすことを特徴とする反射型マスクブランク。
ここで、整数iは0または1であり、d
MAXは
【数10】
である。上式中、吸収層の屈折率をn、吸収層の吸収係数をkとする。INT(x)は小数部を切り捨てた整数値を返す関数である。
(2)基板上に、EUV光を反射する反射層と、前記反射層を保護する保護層と、EUV光を吸収する吸収層をこの順に有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収層の波長13.53nmにおける反射率が2.5~10%であり、
前記吸収層が、下部吸収層および上部吸収層の二層からなり、
前記二層からなる吸収層の膜厚d
biは
【数11】
という関係を満たすことを特徴とする反射型マスクブランク。
ここで、整数iは0または1であり、d
bi MAXは
【数12】
である。上式中、下部吸収層の屈折率をn
1、上部吸収層の屈折率をn
2、上部吸収層の吸収係数をk
2とする。INT(x)は小数部を切り捨てた整数値を返す関数である。
(3)前記反射層の波長13.53nmにおける反射光に対する前記吸収層の波長13.53nmにおける反射光の位相差は190~220度であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の反射型マスクブランク。
(4)前記吸収層はTa、Nb、Mo、Ti、Zr、Re、Ru、Au、Pt、Pd、Rh、B、N、および、Oからなる群から選択される1種以上の元素を含有することを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の反射型マスクブランク。
(5)前記吸収層の反射光スペクトルのピーク波長をλ
MAXとしたとき、前記整数iに対応して
【数13】
を満たすことを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の反射型マスクブランク。
(6)前記吸収層の上にハードマスク層を有することを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の反射型マスクブランク。
(7)前記ハードマスク層は、CrおよびSiの少なくとも一方の元素を含むことを特徴とする上記(6)に記載の反射型マスクブランク。
(8)前記基板の裏面に裏面導電層を有することを特徴とする上記(1)~(7)のいずれか一つに記載の反射型マスクブランク。
(9)前記裏面導電層の材料は、CrもしくはTa、またはこれらの合金であることを特徴とする上記(8)に記載の反射型マスクブランク。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一つに記載の反射型マスクブランクの前記吸収層に、パターンが形成されている反射型マスク。
【0074】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
本出願は、2019年10月29日出願の日本特許出願2019-195856に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0075】
10 基板
20 反射層
30 保護層
40 吸収層
41 下部吸収層
42 上部吸収層
60 吸収体パターン