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特許7544332体脂肪低下剤および体脂肪低下作用を有する物質のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】体脂肪低下剤および体脂肪低下作用を有する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240827BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240827BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240827BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240827BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240827BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240827BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20240827BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240827BHJP
   C07K 16/40 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P3/06
C12Q1/02
C12Q1/34
C12Q1/68
A61K39/395
A61K38/46
C12N15/113 130Z
C07K16/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021567532
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048154
(87)【国際公開番号】W WO2021132329
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019232338
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020087250
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520283978
【氏名又は名称】イネートセルセラピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】審良 静男
(72)【発明者】
【氏名】カルデス マティアス ホセ
(72)【発明者】
【氏名】阪口 薫雄
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】HABACHER C et al.,Ribonuclease-Mediated Control of Body Fat,Developmental Cell,2016年,39,359-369
【文献】PYDYN N. et al.,Analysis of MCPIP1 level in NAFLD patients,FEBS Open Bio,2019年07月,Vol. 9, No. Suppl. 1,pp. 69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61P 3/06
C12Q 1/02
C12Q 1/34
C12Q 1/68
A61K 39/395
A61K 38/46
C12N 15/113
C07K 16/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓のレグナーゼ1の発現を阻害する物質を有効成分とする脂肪性肝疾患の予防および/または治療用医薬であって、肝臓のレグナーゼ1の発現を阻害する物質が、レグナーゼ1遺伝子のsiRNA、レグナーゼ1遺伝子のshRNA、およびレグナーゼ1遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群より選択される核酸であり、前記核酸を肝臓に局所投与または肝臓に送達するように用いられる、医薬。
【請求項2】
脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患または非アルコール性脂肪肝炎である請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
肝臓のレグナーゼ1の発現を阻害する物質を有効成分とする脂肪性肝疾患の予防および/または治療用医薬であって、肝臓のレグナーゼ1の発現を阻害する物質が、肝臓特異的なプロモーター配列に動作可能に連結されたレグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するポリヌクレオチドを含むウイルスベクター、肝臓特異的なプロモーター配列に動作可能に連結されたレグナーゼ1遺伝子のshRNAを発現するポリヌクレオチドを含むウイルスベクター、肝臓特異的なプロモーター配列に動作可能に連結されたレグナーゼ1遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現するポリヌクレオチドを含むウイルスベクター、または肝臓特異的なプロモーター配列に動作可能に連結されたレグナーゼ1遺伝子を標的とするCRISPER/Cas9を発現するポリヌクレオチドを含むウイルスベクターである、医薬。
【請求項4】
脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患または非アルコール性脂肪肝炎である請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
脂肪性肝疾患の予防および/または治療用医薬の有効成分をスクリーニングする方法であって、被験物質とレグナーゼ1を発現する細胞を接触させる工程と、前記細胞のレグナーゼ1の発現レベルを測定する工程と、該発現レベルを、被験物質と接触させない前記細胞におけるレグナーゼ1の発現レベルと比較し、レグナーゼ1の発現レベルを低下させる被験物質を選択する工程とを含む方法。
【請求項6】
脂肪性肝疾患の予防および/または治療用医薬の有効成分をスクリーニングする方法であって、レグナーゼ1と基質RNAと被験物質を接触させる工程と、基質RNAの分解レベルを測定する工程と、該分解レベルを、被験物質を加えずにレグナーゼ1と基質RNAを接触させた際の基質RNAの分解レベルと比較し、基質RNAの分解レベルを低下させる被験物質を選択する工程とを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体脂肪低下剤および体脂肪低下作用を有する物質のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、食習慣の変化に伴い、肥満、糖尿病などのいわゆるメタボリック症候群が増加し、メタボリック症候群の肝臓における表現型である非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)も増加している。肝臓内に中性脂肪の貯まった状態を脂肪肝というが、アルコールをほとんど飲まない人に起こる脂肪肝をNAFLDと呼ぶ。NAFLDには、進行せず良性の経過をたどる単純性脂肪肝と、肝硬変や肝がんへと進行する可能性のある非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)が存在する。NAFLDの原因としては、肥満(内臓脂肪蓄積)、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、急激な体重減少や急性飢餓状態などが挙げられる。
【0003】
ウイルス性肝炎に対する効果的な治療法が最近開発されたものの、NAFLDおよびNASHの効果的な治療法は確立されていない。患者数の急激な増大を考慮すると、早急な治療法の開発が望まれる。
【0004】
レグナーゼ1(ZC3H12AおよびMCPIP1としても知られる)は、CCCH型のジンクフィンガータンパク質である。レグナーゼ1は、その中央領域にリボヌクレアーゼドメインを有し、IL-6およびIL-12のp40サブユニットなどの標的mRNAの分解によって、Toll様受容体(TLR)およびIL-1受容体を介した免疫応答を負に調節する(非特許文献1~4)。マウスにおけるレグナーゼ1の欠損は、重度の自己免疫疾患を引き起こし、T細胞の過剰活性化をもたらす。非免疫細胞では、レグナーゼ1は十二指腸上皮において鉄ホメオスタシスを維持する(非特許文献5)。また、腸管上皮細胞特異的レグナーゼ1欠損マウスは実験的大腸炎に耐性である(非特許文献6)。しかし、肝臓におけるレグナーゼ1の役割は明らかでない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Matsushita K, et al. (2009) Zc3h12a is an RNase essential for controlling immune responses by regulating mRNA decay. Nature 458(7242):1185-1190.
【文献】Iwasaki H, et al. (2011) The IkappaB kinase complex regulates the stability of cytokine-encoding mRNA induced by TLR-IL-1R by controlling degradation of regnase-1. Nat Immunol 12(12):1167-1175.
【文献】Uehata T, et al. (2013) Malt1-induced cleavage of regnase-1 in CD4(+) helper T cells regulates immune activation. Cell 153(5):1036-1049.
【文献】Mino T, et al. (2015) Regnase-1 and Roquin Regulate a Common Element in Inflammatory mRNAs by Spatiotemporally Distinct Mechanisms. Cell 161(5):1058-1073.
【文献】Yoshinaga M, et al. (2017) Regnase-1 Maintains Iron Homeostasis via the Degradation of Transferrin Receptor 1 and Prolyl-Hydroxylase-Domain-Containing Protein 3 mRNAs. Cell Rep 19(8):1614-1630.
【文献】Nagayama Y, et al. (2018) Regnase-1 controls colon epithelial regeneration via regulation of mTOR and purine metabolism. Proc Natl Acad Sci USA. 115(43):11036-11041.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
肝臓におけるレグナーゼ1の働きを解明し、レグナーゼ1阻害剤の新規な用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]レグナーゼ1阻害剤を有効成分とする体脂肪低下剤。
[2]メタボリック症候群の改善用である前記[1]に記載の体脂肪低下剤。
[3]脂肪性肝疾患の予防および/または治療用である前記[1]に記載の体脂肪低下剤。
[4]脂肪性肝疾患が非アルコール性脂肪性肝疾患または非アルコール性脂肪肝炎である前記[3]に記載の体脂肪低下剤。
[5]レグナーゼ1阻害剤が、レグナーゼ1の発現を阻害する核酸である前記[1]~[4]のいずれかに記載の体脂肪低下剤。
[6]レグナーゼ1阻害剤が、レグナーゼ1遺伝子を標的とする遺伝子治療薬である前記[1]~[4]のいずれかに記載の体脂肪低下剤。
[7]レグナーゼ1阻害剤が、レグナーゼ1と特異的に結合する抗体またはペプチドである前記[1]~[4]のいずれかに記載の体脂肪低下剤。
[8]レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質を選択することを含む、体脂肪低下作用を有する物質のスクリーニング方法。
[9]被験物質とレグナーゼ1を発現する細胞を接触させる工程と、前記細胞のレグナーゼ1の発現レベルを測定する工程と、該発現レベルを、被験物質と接触させない前記細胞におけるレグナーゼ1の発現レベルと比較し、レグナーゼ1の発現レベルを低下させる被験物質を選択する工程とを含む、前記[8]に記載の方法。
[10]レグナーゼ1と基質RNAと被験物質を接触させる工程と、基質RNAの分解レベルを測定する工程と、該分解レベルを、被験物質を加えずにレグナーゼ1と基質RNAを接触させた際の基質RNAの分解レベルと比較し、基質RNAの分解レベルを低下させる被験物質を選択する工程とを含む、前記[8]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、レグナーゼ1阻害剤を有効成分とする体脂肪低下剤を提供することができる。本発明の体脂肪低下剤は、メタボリック症候群の改善、脂肪性肝疾患の予防および/または治療に有用である。また、本発明は体脂肪低下作用を有する物質のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法により、体脂肪低下作用を有する有用物質を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】野生型マウスまたはレグナーゼ1遺伝子のエクソン4から6の領域をloxP配列で挟んだ改変遺伝子(Reg-1flox/flox)に置き換えられたRegnase-1fl/flマウスにAAV.TBG.Cre(AddGene社、#107787)を投与し、0、2、4、8日目の肝臓中のレグナーゼ1をウエスタンブロッティングで検出した結果を示す図である。
図2】ウイルス投与から3週後(8週齢)における、肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウス(Reg-1 LKOマウス)およびコントロールマウス(Reg-1 WTマウス)の血清を用いて(A)Alanine transaminase(ALT)、(B)Aspartate aminotransferase(AST)、(C)トリグリセリド、(D)総コレステロール、(E)エステル化コレステロールおよび(F)グルコースを測定した結果を示す図である。
図3】(A)は肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウス(Reg-1 LKOマウス)およびコントロールマウス(Reg-1 WTマウス)の3週齢~43週齢までの体重の推移を示す図であり、(B)は16~18週齢における両マウスの精巣上体脂肪組織の代表的な写真であり、(C)は両マウスの体重に対する精巣上体脂肪組織重量比(eWAT index)を示す図であり、(D)は両マウスの体重に対する肝臓重量比(Liver index)である。
図4】肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウス(Reg-1 LKOマウス)およびコントロールマウス(Reg-1 WTマウス)にウイルス投与後2週間目からNASH食またはコントロール食を6週間摂取させた期間中の体重の推移を示す図である。
図5】NASH食開始6週間後における各群マウスの肝臓重量の体重に対する比を示す図である。
図6】NASH食開始6週間後における各群マウスの血清を用いて(A)Alanine transaminase(ALT)、(B)Aspartate aminotransferase(AST)、(C)Lactate dehydrogenase(LDH)を測定した結果を示す図である。
図7】NASH食開始6週間後に、各群マウスから肝臓を摘出し組織学的検査に供した結果を示す図であり、1段目は肉眼観察した結果、2段目はヘマトキシリン・エオジン染色の結果、3段目は抗F4/80抗体による免疫染色の結果、4段目はシリウスレッド染色の結果である。
図8】肝臓のレグナーゼ1が欠損していないRegnase-1fl/flマウスにNASH食を摂取させ、NASHの病態を呈した後にAAV.TBG.Creを投与して肝臓のレグナーゼ1を欠損させた実験において、各群のマウスから経時的に肝臓を摘出し、組織学的検査に供した結果を示す図であり、1段目はヘマトキシリン・エオジン染色の結果、2段目は抗F4/80抗体による免疫染色の結果、3段目はシリウスレッド染色の結果である。
図9】肝臓のレグナーゼ1が欠損していないRegnase-1fl/flマウスにNASH食を摂取させ、NASHの病態を呈した後にAAV.TBG.Creを投与して肝臓のレグナーゼ1を欠損させた実験において、AAV.TBG.Creの投与から3週間目の各群マウスの血清を用いて(A)Alanine transaminase(ALT)、(B)Lactate dehydrogenase(LDH)、(C)Leucine aminopeptidase(LAP)および(D)トリグリセリドを測定した結果を示す図である。
図10】C57/Bl6JマウスにNASH食またはコントロール食を6週間摂取させた後、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVまたはコントロールウイルスを感染させ、感染後3週間目に各群のマウスから摘出した肝臓の肉眼観察結果を示す図である。
図11】C57/Bl6JマウスにNASH食またはコントロール食を6週間摂取させた後、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVまたはコントロールウイルスを感染させ、感染後3週間目に各群のマウスから摘出した肝臓の重量を測定し、各群マウスの肝臓重量の体重に対する比を示す図である。
図12】C57/Bl6JマウスにNASH食またはコントロール食を6週間摂取させた後、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVまたはコントロールウイルスを感染させ、感染後3週間目に各群のマウスから摘出した肝臓を組織学的検査に供した結果を示す図であり、1段目はヘマトキシリン・エオジン染色の結果、2段目はシリウスレッド染色の結果、3段目は抗F4/80抗体による免疫染色の結果である。
図13】C57/Bl6JマウスにNASH食またはコントロール食を6週間摂取させた後、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVまたはコントロールウイルスを感染させ、感染後3週間目に各群のマウスから摘出した肝臓からシリウスレッド染色標本を作製し、各群のマウス肝臓のシリウスレッド陽性エリアを画像解析により定量化した結果を示す図である。
図14】C57/Bl6JマウスにNASH食またはコントロール食を6週間摂取させた後、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVまたはコントロールウイルスを感染させ、感染後3週間目に各群のマウスから摘出した肝臓から抗F4/80抗体による免疫染色標本を作製し、抗F4/80抗体陽性エリアを画像解析により定量化した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔体脂肪低下剤〕
本発明はレグナーゼ1阻害剤を有効成分とする体脂肪低下剤を提供する。本発明の体脂肪低下剤は、メタボリック症候群の改善に好適に用いることができる。また、本発明の体脂肪低下剤は、脂肪性肝疾患の予防および/または治療に好適に用いることができる。脂肪性肝疾患は肝臓に中性脂肪が蓄積した状態の疾患であり、脂肪肝とも称される。脂肪性肝疾患は、アルコール性脂肪性肝疾患であってもよく、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)であってもよい。NAFLDのうち10~20%は、肝硬変や肝がんへと進行する可能性のある非アルコール性脂肪肝炎(NASH)である。本発明の体脂肪低下剤は、NASHの予防および/または治療に用いることができるので、非常に有用である。
【0011】
本発明の体脂肪低下剤は、医薬として実施することができる。本発明の体脂肪低下剤を医薬として実施する場合、レグナーゼ1阻害剤を有効成分とし、常套手段に従って製剤化することができる。例えば、経口投与のための製剤としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。これらの製剤は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。非経口投与のための製剤としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は、公知の方法に従って、例えば、上記有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製される。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO-50等)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記有効成分を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
【0012】
本発明の体脂肪低下剤は飲食品として実施することができる。飲食品には、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、病者用食品、栄養強化食品、サプリメント等が含まれる。飲食品の形態は特に限定されない。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、ドリンク剤等の形態;茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子およびパン類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂および油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、丼、お粥、雑炊等のレトルトパウチ食品;アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の冷菓などを挙げることができる。
【0013】
本発明の体脂肪低下剤の有効成分は、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質であってもよい。レグナーゼ1の発現を阻害する物質はレグナーゼ1の発現を阻害する核酸であってもよい。レグナーゼ1の発現を阻害する核酸としては、レグナーゼ1遺伝子のsiRNA(short interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、アンチセンスオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。投与対象動物のレグナーゼ1遺伝子の塩基配列は公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から容易に取得することができ、公知の方法でレグナーゼ1の発現を阻害する核酸を設計することができる。例えば、ヒト、マウス、ラットの塩基配列およびアミノ酸配列のアクセッション番号は以下のとおりである。
ヒト :NM_001323550(塩基配列)、NP_001310479(アミノ酸配列)
NM_001323551(塩基配列)、NP_001310480(アミノ酸配列)
マウス:NM_153159(塩基配列)、NP_694799(アミノ酸配列)
ラット:NM_001077671(塩基配列)、NP_001071139(アミノ酸配列)
【0014】
siRNAは、約20塩基(例えば、約21~23塩基)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAであり、このようなsiRNAを細胞に発現させることにより、そのsiRNAの標的となる遺伝子(本発明においてはレグナーゼ1遺伝子)の発現を抑制することができる。shRNAは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造からからなる約20塩基対以上の分子のことをいう。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様に標的となる遺伝子(本発明においてはレグナーゼ1遺伝子)の発現を抑制することができる。siRNAおよびshRNAは、レグナーゼ1の発現を抑制できるものであればどのような形態であってもよい。siRNAまたはshRNAは、標的遺伝子の塩基配列に基づいて、公知の方法により設計することができる。siRNAまたはshRNAは、人工的に化学合成することができる。また、例えばT7RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAをインビトロで合成することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、レグナーゼ1遺伝子のDNA配列中の連続する5から100の塩基配列に対して相補的な、またはハイブリダイズするヌクレオチドであればよく、DNAまたはRNAのいずれであってもよい。また、機能に支障がない限り修飾されたものであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置によって容易に合成することができる。
【0015】
本発明の体脂肪低下剤の有効成分が、レグナーゼ1の発現を阻害する核酸である場合、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。非ウイルスベクターの形態で投与する場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ-リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。siRNAまたはshRNAをウイルスベクターを用いて生体に投与する場合は、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用することができる。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、siRNAまたはshRNAを発現するDNAを導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。
【0016】
siRNAと標的配列は同一であることが望ましいが、RNA干渉を誘導できる限り、完全に同一な配列でなくてもよい。具体的には、siRNAのアンチセンス鎖配列と標的配列がハイブリダイズする限り、1~数個(例えば2、3、4個)のミスマッチがあってもよい。すなわち、siRNAは、標的配列に対して1~数個の塩基が置換、付加もしくは欠失したものであってRNA干渉を誘導できるものであってもよい。また、siRNAは、標的配列と85%以上、90%以上、95%以上、98%以上の配列同一性を有し、かつRNA干渉を誘導できるものであってもよい。
【0017】
siRNAは、RNA干渉を誘導できる限り、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれか一方のヌクレオチドを全てDNAに変換したもの(ハイブリッド型)や、センス鎖および/またはアンチセンス鎖の一部のヌクレオチドをDNAに変換したもの(キメラ型)であってもよい。ハイブリッド型としては、センス鎖のヌクレオチドをDNAに変換したものが挙げられる。キメラ型としては、下流側(センス鎖の3'末端側、アンチセンス鎖の5'末端側)の一部のヌクレオチドをDNAに変換したものが挙げられる。具体的には、センス鎖の3'末端側およびアンチセンス鎖の5'末端側のヌクレオチドを共にDNAに変換したもの、センス鎖の3'末端側またはアンチセンス鎖の5'末端側の何れかのヌクレオチドをDNAに変換したものが挙げられる。また、変換するヌクレオチド長は、RNA分子の1/2に相当するヌクレオチドまでの任意長であってもよい。
【0018】
siRNAは、RNA干渉を誘導できる限り、そのヌクレオチド(リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド)が、糖、塩基および/またはリン酸塩が化学修飾されたヌクレオチド類似体であってもよい。塩基が修飾されたヌクレオチド類似体としては、例えば、5位修飾ウリジンまたはシチジン(例えば、5-プロピニルウリジン、5-プロピニルシチジン、5-メチルシチジン、5-メチルウリジン、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ハロシチジン、5-ハロウリジン、5-メチルオキシウリジン等);8位修飾アデノシンまたはグアノシン(例えば、8-ブロモグノシン等);デアザヌクレオチド(例えば7-デアザ-アデノシン等);O-およびN-アルキル化ヌクレオチド(例えば、N6-メチルアデノシン等)等が挙げられる。また、糖が修飾されたヌクレオチド類似体としては、例えば、リボヌクレオチドの2'-OHが、H、OR、R、ハロゲン原子、SH、SR、NH2、NHR、NR2、もしくはCN(ここで、Rは炭素数1-6のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す)等によって置換された2'位糖修飾、5'末端がモノリン酸化された5'末端リン酸化修飾が挙げられる。リン酸塩が修飾されたヌクレオチド類似体としては、隣接するリボヌクレオチドを結合するホスホエステル基を、ホスホチオエート基で置換したものが挙げられる。
【0019】
レグナーゼ1の発現を阻害する物質はレグナーゼ1遺伝子を標的とする遺伝子治療薬であってもよい。このような遺伝子治療薬として、例えばレグナーゼ1遺伝子を標的とするゲノム編集手段を備えたウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどが挙げられる。ゲノム編集手段はCRISPER/Cas9であってもよい。CRISPER/Cas9は、Cas9タンパク質とガイドRNAで構成され、ガイドRNAはレグナーゼ1遺伝子に対して相補的なヌクレオチド領域およびCas9タンパク質と相互作用する領域を含むものを使用することができる。好ましくは、肝臓特異的なプロモーター配列に動作可能に連結されたレグナーゼ1遺伝子を標的とするCRISPER/Cas9を発現するポリヌクレオチドを含むアデノ随伴ウイルスベクターである。レグナーゼ1遺伝子を標的とするゲノム編集手段を備えたウイルスベクターを細胞または組織に感染させ、レグナーゼ1遺伝子を破壊、置換等することにより、レグナーゼ1の発現を阻害することができる。
【0020】
本発明の体脂肪低下剤の有効成分は、レグナーゼ1と特異的に結合する抗体またはペプチドであってもよい。抗体またはペプチドがレグナーゼ1と結合することにより、レグナーゼ1と基質RNAとの結合を阻害することができる。レグナーゼ1と特異的に結合する抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく、レグナーゼ1に特異的に結合し得る抗体フラグメント(例えば、Fab、F(Ab')2、Fab'、Fv、scFv等)でもよい。抗体はヒト型キメラ抗体またはヒト化抗体であってもよい。抗体およびペプチドは、いずれも公知の方法により製造することができる。本発明の医薬の有効成分がペプチドまたは抗体である場合、薬学的に許容される担体とともに製剤化された注射剤または輸液として、非経口投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮膚内、腹腔内、皮下または局所に投与することが好ましい。
【0021】
本発明の体脂肪低下剤の有効成分は、レグナーゼ1の発現または機能を阻害する低分子化合物であってもよい。
【0022】
本発明の体脂肪低下剤は、有効成分を0.001~50質量%、好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%含有することができる。本発明の医薬の投与量は、目的、疾患の種類、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、有効成分の種類などを考慮して、適宜設定される。約65~70kgの体重を有する平均的なヒトを対象とした場合、1日当たり0.02mg~4000mg程度が好ましく、0.1mg~200mg程度がより好ましい。1日当たりの総投与量は、単一投与量であっても分割投与量であってもよい。
【0023】
〔スクリーニング方法〕
本発明は、体脂肪低下作用を有する物質のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、レグナーゼ1を用いるものであればよい。本発明のスクリーニング方法で用いるレグナーゼ1はタンパク質でもよく、遺伝子でもよい。また、レグナーゼ1がタンパク質の場合、全長タンパク質でもよく、リボヌクレアーゼドメインを含む活性断片でもよい。
【0024】
本発明のスクリーニング方法に用いるレグナーゼ1は、どのような生物由来のレグナーゼ1でもよく、特に限定されない。本発明のスクリーニング方法に用いるレグナーゼ1は、哺乳動物のレグナーゼ1であってもよい。哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモットなどが挙げられ、好ましくはヒトである。各種動物のレグナーゼ1をコードする遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列の情報は、公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。例えば、ヒト、マウス、ラットの塩基配列およびアミノ酸配列のアクセッション番号は以下のとおりである。
ヒト :NM_001323550(塩基配列)、NP_001310479(アミノ酸配列)
NM_001323551(塩基配列)、NP_001310480(アミノ酸配列)
マウス:NM_153159(塩基配列)、NP_694799(アミノ酸配列)
ラット:NM_001077671(塩基配列)、NP_001071139(アミノ酸配列)
【0025】
被験物質は特に限定されず、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物の組織抽出液、血漿等であってもよい。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。被験物質は塩を形成していてもよい。被験物質の塩は生理学的に許容される酸や塩基との塩であってもよい。
【0026】
本発明のスクリーニング方法は、レグナーゼ1の発現を阻害する物質を選択する方法であってもよい。本発明のスクリーニング方法により、レグナーゼ1の発現を阻害する物質を選択する場合、例えば、被験物質とレグナーゼ1を発現する細胞を接触させる工程と、前記細胞のレグナーゼ1の発現レベルを測定する工程と、該発現レベルを被験物質と接触させない前記細胞におけるレグナーゼ1の発現レベルと比較し、レグナーゼ1の発現レベルを低下させる被験物質を選択する工程とを含むスクリーニング方法を用いることができる。
【0027】
レグナーゼ1を発現する細胞は、生体内の細胞でもよく、培養細胞でもよい。培養細胞は、初代培養細胞でもよく、株化細胞でもよい。レグナーゼ1を発現する細胞は、内在性のレグナーゼ1を発現する細胞でもよく、外来性のレグナーゼ1を発現する細胞でもよい。内在性のレグナーゼ1を発現する細胞としては、例えば、HeLa細胞、HEK293細胞、Jurkat細胞、Caco-2細胞、マウス胎児繊維芽細胞(MEF)、EL-4細胞などが挙げられる。外来性のレグナーゼ1を発現する細胞は、適当な宿主細胞にレグナーゼ1をコードするDNAを含む組換え発現ベクター(レグナーゼ1発現ベクター)を導入して作製することができる。宿主細胞としては、例えば、レグナーゼ1欠損マウス由来のMEF細胞および初代培養細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、Jurkat細胞、Caco-2細胞、EL-4細胞などを用いることができる。
【0028】
被験物質と細胞を接触させる方法は特に限定されない。例えば、培養細胞を用いる場合には、培地に被験物質を添加する方法などが挙げられる。例えば、非ヒト動物の生体において被験物質と細胞とを接触させる場合には、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与等の全身投与、標的臓器や標的組織への局所投与などが挙げられる。また、被験物質を接触させない対照群を設けることが好ましい。
【0029】
レグナーゼ1の発現レベルの測定は、レグナーゼ1のタンパク質量を測定してもよく、レグナーゼ1のmRNA量を測定してもよい。タンパク質量を測定する場合は、公知の方法で細胞からタンパク質を抽出し、公知のタンパク質量測定方法を用いて定量することができる。公知のタンパク質量測定方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、EIA法、ELISA法、RIA法、タンパク質測定試薬を用いる方法などが挙げられる。mRNA量を測定する場合は、公知の方法で細胞からRNAを抽出し、公知のmRNA量測定方法を用いて定量することができる。公知のmRNA量測定方法としては、ノーザンブロット法、RT-PCR法、定量RT-PCR法、RNaseプロテクションアッセイなどが挙げられる。
【0030】
被験物質を接触させない対照群におけるレグナーゼ1のタンパク質量またはmRNA量と比較して、被験物質を接触させた場合にレグナーゼ1のタンパク質量またはmRNA量が減少していれば、当該被験物質を目的物質として選択すれることができる。被験物質がレグナーゼ1のタンパク質量またはmRNA量を減少させる程度は特に限定されないが、例えば、被験物質を接触させていない細胞のタンパク質量またはmRNA量と比較して、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下または10%以下に減少させる被験物質を選択してもよい。
【0031】
本発明のスクリーニング方法は、レグナーゼ1の機能を阻害する物質を選択する方法であってもよい。レグナーゼ1の機能は、エンドリボヌクレアーゼ活性であってもよい。レグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する物質を選択する場合、例えば、レグナーゼ1と基質RNAと被験物質を接触させる工程と、基質RNAの分解レベルを測定する工程と、該分解レベルを、被験物質を加えずにレグナーゼ1と基質RNAを接触させた際の基質RNAの分解レベルと比較し、基質RNAの分解レベルを低下させる被験物質を選択する工程とを含むスクリーニング方法を用いることができる。
【0032】
レグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する物質を選択することを含むスクリーニング方法は、レグナーゼ1を発現する細胞を用いる系およびレグナーゼ1を発現する細胞を用いない系のいずれの系で実施してもよい。レグナーゼ1を発現する細胞を用いない場合、適当な反応液(例えば、「20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 5 mM MgCl2, and 1 mM DTT」等のマグネシウム含有トリス塩緩衝液)にレグナーゼ1と基質RNAと被験物質を添加して、30~37℃で30~120分間反応させ、基質RNAの分解(切断)レベルを測定する。被験物質がエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する場合、基質RNAの切断が抑制され、分解レベルが低下する。
【0033】
この系で用いるレグナーゼ1としては、組換えレグナーゼ1タンパク質が好適である。組換えレグナーゼ1タンパク質は全長タンパク質でもよく、リボヌクレアーゼドメインを含む活性断片でもよい。基質RNAはレグナーゼ1により切断されることが公知の配列を含むRNAを用いることができる。基質RNAは合成RNAであってもよい。
【0034】
基質RNAの分解レベルの測定方法は特に限定されないが、例えばPCR、電気泳動などが挙げられる。PCRを用いる場合、例えば基質RNAの5'側および3'側にDNAを連結したキメラオリゴを合成しこれを基質RNAとする方法が挙げられる。この方法では、基質キメラオリゴの5'側および3'側に連結したDNA配列と相補するプライマーを用いて定量PCRを行う。基質キメラオリゴが切断されていればPCR増幅効率が低下し、基質キメラオリゴが切断されていなければPCR増幅効率が高くなる。すなわち、被験物質がレグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する物質であれば、被験物質を加えていない系(レグナーゼ1により基質キメラオリゴが切断される)と比較してPCR増幅効率が高くなり、このような被験物質を基質RNAの分解レベルを低下させる被験物質として選択することができる。この系では、被験物質を添加した場合のPCR増幅レベルが、被験物質を添加していない場合のPCR増幅レベルの1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上または2倍以上に増加させる被験物質を選択してもよい。
【0035】
電気泳動を用いる場合、例えば上記基質キメラオリゴの末端(両方または一方)が標識された基質RNAを用いてもよい。標識物質は、電気泳動後のバンドの濃さを定量できるものであれば特に限定されず、例えば、蛍光標識、RI標識、ビオチン標識などが挙げられる。両端を蛍光標識した基質キメラオリゴを用いた場合、反応後に基質キメラオリゴを回収して電気泳動を行うと、切断されていない基質キメラオリゴは両端が蛍光標識された一本の全長バンドが現れる。一方、基質キメラオリゴが切断されている場合は、少なくとも短い二本のバンド、またはさらに分解が進んだ断片として現れる。すなわち、被験物質がレグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する物質であれば、被験物質を加えていない系(レグナーゼ1により基質キメラオリゴが切断される)と比較して一本の全長バンドが優勢に現れるので、このような被験物質を基質RNAの分解レベルを低下させる被験物質として選択することができる。
【0036】
レグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する物質を選択することを含むスクリーニング方法において、レグナーゼ1を発現する細胞を用いる場合、レグナーゼ1を発現する細胞としては、内在性のレグナーゼ1を発現する細胞でもよく、外来性のレグナーゼ1を発現する細胞でもよい。外来性のレグナーゼ1を発現する細胞は、レグナーゼ1発現ベクターを宿主細胞に導入して作製したレグナーゼ1発現細胞を用いることができる。基質RNAとしては、レグナーゼ1により切断されることが公知の配列を含むRNAを用いることができる。例えば、IL-6遺伝子の3'-UTRの転写物が挙げられる。
【0037】
この系では、適当な宿主細胞にレグナーゼ1発現ベクターと、ルシフェラーゼ遺伝子の下流にIL-6遺伝子の3'-UTRを連結したDNAを含むベクターを導入した細胞を、レグナーゼ1を発現する細胞として用いてもよい。被験物質を培地に添加して、1~3日程度(好ましくは2日間)培養し、その後細胞を溶解して細胞溶解液中のルシフェラーゼ活性を公知の方法を用いて測定する。この細胞を用いた場合、ルシフェラーゼ遺伝子のmRNAの3'-UTR部分がレグナーゼ1によって切断されるとルシフェラーゼ活性が低下するが、レグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性が阻害されるとルシフェラーゼ遺伝子のmRNAの3'-UTR部分が切断されず、ルシフェラーゼ活性が維持される。
【0038】
すなわち、被験物質がレグナーゼ1のエンドリボヌクレアーゼ活性を阻害する物質であれば、被験物質を加えていない系(レグナーゼ1により基質キメラオリゴが切断される)と比較して高い発光強度が得られるので、このような被験物質を基質RNAの分解レベルを低下させる被験物質として選択することができる。この系では、被験物質を添加した場合の発光強度が、被験物質を添加していない場合の発光強度の1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上または2倍以上に増加させる被験物質を選択してもよい。
【0039】
本発明には、以下の各発明が含まれる。
(A1)レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の有効量を投与する工程を包含することを特徴とする体脂肪を低下させる方法。
(A2)レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の有効量を投与する工程を包含することを特徴とするメタボリック症候群の改善方法。
(A3)レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の有効量を投与する工程を包含することを特徴とする脂肪性肝疾患の予防および/または治療方法。
(B1)体脂肪を低下させるための、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の使用。
(B2)メタボリック症候群の改善に使用するための、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質。
(B3)脂肪性肝疾患の予防および/または治療に使用するための、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質。
(C1)体脂肪低下剤を製造するための、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の使用。
(C2)メタボリック症候群改善剤を製造するための、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の使用。
(C3)脂肪性肝疾患の予防および/または治療用医薬を製造するための、レグナーゼ1の発現を阻害する物質またはレグナーゼ1の機能を阻害する物質の使用。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
以下の全ての実験は、C57/Bl6バックグラウンドのマウスを用いて行われた。レグナーゼ1遺伝子のエクソン4から6の領域をloxP配列で挟んだ改変遺伝子(Reg-1flox/flox)に置き換えられたマウス(Regnase-1fl/flマウス)は、Uehataら(Uehata T, et al. (2013) Malt1-induced cleavage of regnase-1 in CD4(+) helper T cells regulates immune activation. Cell 153(5):1036-1049)に記載されている。
【0042】
〔実施例1:肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウスにおける肝臓の評価〕
(1)肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウスの作製
5週齢のRegnase-1fl/flマウスに、AAV.TBG.Cre(AddGene社、#107787)0.625×1012個/100μL PBSを尾静脈から投与し、肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウス(以下「Reg-1 LKOマウス」という)を作製した。コントロールマウス(以下「Reg-1 WTマウス」という)はAAV8ウイルス粒子を尾静脈から投与した。Reg-1LKOマウスからは、2日以内に完全にレグナーゼ1遺伝子が欠失した(図1)。
【0043】
(2)生化学検査
肝臓におけるレグナーゼ1欠損の影響を調べるために、ウイルス投与から3週後(8週齢)に、Reg-1 LKOマウスおよびReg-1 WTマウスから採血し、血清を生化学検査に供した。結果を図2に示した。Reg-1 LKOマウスのAlanine transaminase(ALT)値およびAspartate aminotransferase(AST)値は、Reg-1 WTマウスと同等であり、レグナーゼ1欠損により肝障害が誘発されていないことが示された。Reg-1 LKOマウスの血清トリグリセリド(Triglycerides)、総コレステロール(T-CHOL)、エステル化コレステロール(E-CHOL)の各値は、Reg-1 WTマウスより低下しており、肝臓のレグナーゼ1は脂肪代謝調節に関わっていることが示された。さらに、Reg-1 LKOマウスの血清グルコース(Glucose)値もReg-1 WTマウスより低下しており、肝臓のレグナーゼ1は糖代謝にも関わっていることが示された。
【0044】
(3)体重の推移
Reg-1 LKOマウスおよびReg-1 WTマウスの体重を、3週齢~43週齢まで測定し、その推移を図3(A)に示した。Reg-1LKOマウスは、Reg-1 WTマウスと比較して、9週以降の体重増加の抑制が認められた。体重増加抑制の主な原因は、体脂肪の低下によるものと考えられた。図3(B)は、16~18週齢のReg-1 LKOマウスおよびReg-1 WTマウスの精巣上体脂肪組織の代表的な写真である。明らかにReg-1 LKOマウスの脂肪組織量が少ないことが分かる。図3(C)は、16~18週齢のReg-1 LKOマウスおよびReg-1 WTマウスの体重に対する精巣上体脂肪組織重量比(eWAT index)であり、図3(D)は、16~18週齢のReg-1 LKOマウスおよびReg-1 WTマウスの体重に対する肝臓重量比(Liver index)である。図3(C)、(D)から分かるように、Reg-1 LKOマウスのeWAT indexは、Reg-1 WTマウスに対して有意に減少していたが、Liver indexは両者の間に差がなかった。
【0045】
(4)まとめ
上記の結果から、肝臓におけるレグナーゼ1の欠損は、特に重篤な病態を惹き起こすことなく体脂肪および血糖値を低下させたことから、肝臓のレグナーゼ1を阻害することにより、メタボリック症候群を改善できると考えられた。
【0046】
〔実施例2:肝臓特異的レグナーゼ1欠損マウスにおけるNASH食に対する影響〕
Reg-1 LKOマウスおよびReg-1 WTマウスに、ウイルス投与後2週間目からNASH食(オリエンタル酵母社;NASH-1)またはコントロール食を摂取させた。6週間NASH食またはコントロール食を摂取させた後、各マウスからサンプルを回収した。
【0047】
(1)体重の推移
NASH食開始後1週間おきに体重を測定した。結果を図4に示した。Reg-1 WTマウスでは、コントロール食群、NASH食群ともに体重増加が認められたが、NASH食群の体重増加はコントロール食に比べ軽微であった。一方、Reg-1 LKOマウスのNASH食群では、Reg-1 WTマウスのコントロール食群と同程度の体重増加を示した。
【0048】
(2)肝臓重量
NASH食開始6週間後に各マウスから肝臓を摘出し重量を測定し、体重に対する比(肝臓炎症の指標)を調べた。結果を図5に示した。Reg-1 WTマウスのNASH食群の肝臓/体重比は、他の群(Reg-1 WTマウスのコントロール食群、Reg-1 LKOマウスのNASH食群およびコントロール食群)と比較して高値であった。この結果は、肝臓のレグナーゼ1が欠損していないマウス(Reg-1 WTマウス)はNASH食摂取により、肝臓に炎症が引き起こされるが、Reg-1 LKOマウスはNASH食を摂取しても肝臓に炎症が起こっていないことを示している。
【0049】
(3)生化学検査
各群のマウスから採取した血清を用いて、Alanine transaminase(ALT)値、Aspartate aminotransferase(AST)値およびLactate dehydrogenase(LDH)値を測定した。結果を図6に示した。いずれの値も、Reg-1 WTマウスのNASH食群で高値を示したが、Reg-1 LKOマウスのNASH食群では、有意に低下していた。
【0050】
(4)組織学的検査
各群のマウスから肝臓を摘出し、肉眼観察したのち、組織標本を作製して、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色、抗F4/80抗体による免疫染色、シリウスレッド(Sirious Red)染色を行った。結果を図7に示した。Reg-1 WTマウスのNASH食群では、門脈(pv)周囲の脂肪変性(H&E参照)、マクロファージの集積(F4/80陽性細胞)およびシリウスレッド染色による線維化がいずれも増加していたが、Reg-1 LKOマウスのNASH食群では、門脈周囲の脂肪変性、マクロファージの集積および線維化の程度が、いずれも顕著に減弱していた。
【0051】
(5)まとめ
上記の結果から、食餌性NASHマウスモデルにおいて肝臓のレグナーゼ1欠損は炎症と肝障害の減弱を惹き起こすことが示されたことから、肝臓のレグナーゼ1を阻害することにより、NASHの発症を予防できると考えられた。
【0052】
〔実施例3:NASHの病態を呈した後に肝臓特異的にレグナーゼ1を欠損させることによる病態改善の検討〕
6~7週齢のRegnase-1fl/fl雄マウスに、NASH食(オリエンタル酵母社;NASH-1)を5週間摂取させ、その後AAV.TBG.Creまたはを実施例1と同様に尾静脈から投与した。6~7週齢のRegnase-1fl/flマウスに、NASH食またはコントロール食を週間摂取させ、AAV.TBG.Creに代えてAAV8ウイルス粒子を投与したマウス(Reg-1 WTマウスのNASH食群およびReg-1 WTマウスのコントロール食群)を、それぞれ陽性対象および陰性対照とした(図8参照)。
【0053】
(1)組織学的検査
NASH食開始前、NASH食開始後5週間目、AAV.TBG.Cre投与後3週間目に各群のマウスから肝臓を摘出し、組織標本を作製して、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色、抗F4/80抗体による免疫染色、シリウスレッド(Sirious Red)染色を行った。結果を図8に示した。NASH食を5週間摂取したマウス(Reg-1 WTマウスのNASH食群およびRegnase-1fl/flマウス)は、NASHの病態所見であるミクロおよびマクロ水疱脂肪症(micro and macro vesicular steatosis)(H&E参照)、炎症所見(F4/80陽性細胞)、線維化(シリウスレッド染色)を呈した。AAV8ウイルス粒子を投与した後さらに3週間NASH食を摂取させたReg-1 WTマウスのNASH食群では、ミクロおよびマクロ水疱脂肪症の増悪が認められた。しかしながら、AAV.TBG.Creを投与して肝臓でのレグナーゼ1を欠損させたマウスでは、ミクロおよびマクロ水疱脂肪症、炎症および線維化のいずれもが有意に減弱した。
【0054】
(2)生化学検査
AAV.TBG.CreまたはAAV8ウイルス粒子の投与後3週間目のマウスから採血し、血清を生化学検査に供した。結果を図9に示した。AAV.TBG.Creを投与して肝臓でのレグナーゼ1を欠損させたマウス(図中LKO)は、肝障害のマーカーであるALT、LDH、LAPの有意な低下が認められた。さらに、血清トリグリセリドの上昇も殆ど認められなかった。
【0055】
(3)まとめ
上記の結果から、肝臓のレグナーゼ1を阻害することにより、NASH病態の指標である炎症、線維化、脂肪代謝異常を改善することができると考えられた。したがって、肝臓のレグナーゼ1は、脂肪性肝疾患治療の優れたターゲットになることが示された。
【0056】
〔実施例4:肝臓特異的にレグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)の投与によるNASHモデルマウスの病態改善の検討〕
肝細胞特異的なThyroxine-binding globulin(TBG)をプロモーターとしてレグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を作製した。レグナーゼ1遺伝子のsiRNAは、市販のマウスレグナーゼ1遺伝子を標的とするsiRNA(Thermo Fisher Scientific, siRNA ID: 170484, Catalog #: AM16708)と同じ塩基配列とした。コントロールウイルスとしてレグナーゼ1遺伝子のsiRNAの代わりにGFP遺伝子を発現するAAVを用いた。
【0057】
5週齢のC57/Bl6Jマウスに、NASH食またはコントロール食を6週間食べさせた後、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVまたはコントロールウイルスを尾静脈から投与(1.8×1012個)して、ウイルスを感染させた。
【0058】
(1)肝臓の肉眼観察と重量
ウイルス投与の3週間後に各群のマウスから肝臓を摘出し、肉眼観察した後、重量を測定した。肉眼観察の結果を図10に、肝臓重量の体重に対する比(肝臓炎症の指標)を図11に示した。コントロールウイルスを感染させたNASH食群マウスの肝臓は、脂肪肝に特徴的な黄色を帯びており、さらにコントロール食群マウスの肝臓と比較して大きさが増加していた。一方、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVを感染させたNASH食群マウスの肝臓は、色も大きさもコントロール食群マウスの肝臓と同じであった。
【0059】
(2)組織学的検査
重量を測定した後、肝臓の組織標本を作製して、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色、シリウスレッド(Sirious Red)染色、抗F4/80抗体による免疫染色を行った。結果を図12に示した。また、シリウスレッド染色標本の陽性エリア(線維化)を画像解析により定量化した結果を図13に、抗F4/80抗体による免疫染色陽性エリア(炎症)を画像解析により定量化した結果を図14に示した。レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVを感染させたNASH食群マウスでは、コントロールウイルスを感染させたNASH食群マウスと比較して、NASHの病態所見であるミクロおよびマクロ水疱脂肪症(micro and macro vesicular steatosis)の有意な減少が認められた。また、シリウスレッド染色結果および図13から、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを発現するAAVを感染させたNASH食群マウスにおける線維化の抑制が認められ、抗F4/80抗体による免疫染色結果および図14から、マクロファージの集積(炎症)の減弱が認められた。
【0060】
(3)まとめ
上記の結果から、レグナーゼ1遺伝子のsiRNAを用いた遺伝子治療が、NASHの治療法となりうる可能性が示唆された。
【0061】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
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