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特許7544392農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法、生成装置、及び生成プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法、生成装置、及び生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20230101AFI20240827BHJP
   G06Q 50/02 20240101ALI20240827BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q50/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022033769
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2022136058
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021035834
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)ウェブサイトのアドレス http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/rcait/134410.html 掲載日 2020年3月6日 等
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】森岡 涼子
【審査官】加舎 理紅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163956(JP,A)
【文献】特開2020-128927(JP,A)
【文献】特開2020-144720(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151617(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/148107(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108229739(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法であって、
前記生成方法は、ソフトウェアの制御によってコンピュータが実行するものであり、
予測対象日以前の気象データの観測値データ及び土壌成分の測定値データの少なくとも一方を参照して、前記生産成績と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前記予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方から前記生産成績を予測する予測モデルを生成する工程をコンピュータが実行し、
前記生成する工程において、過去のある年の前記生産成績の実測値と、前記予測モデルを用いて予測したその年の前記生産成績の予測値との差が最小となるように、前記気象データの変数の組み合わせ及び土壌成分の変数の組み合わせを選択して、前記予測モデルを生成し、
前記予測モデルは、過去の年毎の特定の日におけるデータを含む前記生産成績の複数年分の実測値データと、それらの年の気象データの観測値データ及びそれらの年の土壌成分の測定値データの少なくとも一方とを含む測定データを学習データとして機械学習を行うことによって、前記生産成績の経年変化と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前年までの前記生産成績の実測値の少なくとも一部と前記予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方とが入力情報であり、当年の前記生産成績が出力情報である予測モデルである、生成方法。
【請求項2】
前記生成する工程において、前記予測対象日以前の気象データ及び土壌成分の各変数について、それぞれの積算値又は平均値に基づく回帰分析により、前記気象データ及び前記土壌成分の変数の組み合わせを選択する、請求項1に記載の生成方法。
【請求項3】
前記生成する工程において、前記積算値又は前記平均値を算出する起算日及び終算日、並びに算出日数に基づく回帰分析により、前記気象データ及び前記土壌成分の変数の組み合わせを選択する、請求項2に記載の生成方法。
【請求項4】
前記生成する工程において、前記気象データ及び前記土壌成分の各変数について、前記起算日から前記終算日までの各日における前記算出日数分の積算値又は平均値に基づく回帰分析により、前記気象データ及び前記土壌成分の変数の組み合わせを選択する、請求項3に記載の生成方法。
【請求項5】
農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成装置であって、
予測対象日以前の気象データの観測値データ及び土壌成分の測定値データの少なくとも一方を参照して、前記生産成績と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前記予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方から前記生産成績を予測する予測モデルを生成する生成部を備え、
前記生成部は、過去のある年の前記生産成績の実測値と、前記予測モデルを用いて予測したその年の前記生産成績の予測値との差が最小となるように、前記気象データ及び前記土壌成分の変数の組み合わせを選択して、前記予測モデルを生成し、
前記予測モデルは、過去の年毎の特定の日におけるデータを含む前記生産成績の複数年分の実測値データと、それらの年の気象データの観測値データ及びそれらの年の土壌成分の測定値データの少なくとも一方とを含む測定データを学習データとして機械学習を行うことによって、前記生産成績の経年変化と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前年までの前記生産成績の実測値の少なくとも一部と前記予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方とが入力情報であり、当年の前記生産成績が出力情報である予測モデルである生成装置。
【請求項6】
農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成プログラムであって、
予測対象日以前の気象データの観測値データ及び土壌成分の測定値データの少なくとも一方を参照して、前記生産成績と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前記予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方から前記生産成績を予測する予測モデルを生成するステップをコンピュータに実行させるためのプログラムであり、
前記生成するステップにおいて、過去のある年の前記生産成績の実測値と、前記予測モデルを用いて予測したその年の前記生産成績の予測値との差が最小となるように、前記気象データ及び前記土壌成分の変数の組み合わせを選択して、前記予測モデルを生成し、
前記予測モデルは、過去の年毎の特定の日におけるデータを含む前記生産成績の複数年分の実測値データと、それらの年の気象データの観測値データ及びそれらの年の土壌成分の測定値データの少なくとも一方とを含む測定データを学習データとして機械学習を行うことによって、前記生産成績の経年変化と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前年までの前記生産成績の実測値の少なくとも一部と前記予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方とが入力情報であり、当年の前記生産成績が出力情報である予測モデルである、生成プログラム。
【請求項7】
前記生成する工程において、情報量基準に基づき、前記気象データの変数の組み合わせ及び土壌成分の変数の組み合わせを選択する、請求項1に記載の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法、生成装置、及び生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な農作物の栽培現場において、栽培管理、出荷計画、販売交渉等に活用するために、気象データを用いて生育期や収穫期の農作物の成分含有量を予測することが試みられている。
【0003】
特許文献1には、作物の糖度を目標糖度にするための日射情報及び気温情報を予測し、予測した日射情報及び気温情報に基づき温室内の環境を制御する技術が記載されている。特許文献1に記載された技術では、作物固有の基準糖度と目標糖度との差を、収穫前4週間の日射及び気温の平均値と基準値との差に関連させて、糖度予測に利用している。
【0004】
非特許文献1には、過去数年間の気象変動の時系列データ及びミカンの品質の時系列データを用いて学習したモデルを構築したことが記載されている。非特許文献1に記載された技術では、構築したモデルを用いて、当年の収穫時期までの気象及びミカンの品質の時系列データから当年の収穫時期におけるミカンの品質を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-48551号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】森本ら、植物環境工学17(2):90-98,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
農作物の成分含有量の予測における問題点として、以下の3つが挙げられる。1点目は、データ測定点が少ないことである。生育過程の農作物の成分含有量を高頻度に測定してデータを蓄積する例は稀であり、多くは収穫期又は出荷時にのみ成分含有量が測定されている。2点目は、成分含有量が気象以外の影響も受けることである。例えば、多年生の作物では、経年のゆらぎが成分含有量に影響する場合があり、また、単年性の作物では消費者のし好を反映した栽培管理の経年傾向が成分含有量に影響する場合がある。3点目は、成分含有量に影響する気象データの変数の種類や時期が不明な場合が多いことである。
【0008】
したがって、過去の成分含有量の測定値と気象データとを用いて、作物生産環境の経年変化を反映した予測モデルが実現できれば、栽培現場に大きく貢献する。
【0009】
特許文献1に記載された技術では、作物固有の基準糖度が不明な場合には糖度予測に適用することが困難である。また、特許文献1に記載された技術では、収穫日が未定の場合には、予測に利用する日射及び気温のデータの起点が定まらないため、糖度予測に適用することが困難である。
【0010】
非特許文献1に記載された技術では、みかんの品質の時系列データを作成するために、生育過程で複数回成分含有量の測定を行う必要がある。また、非特許文献1に記載されたモデルは、栽培暦上の次の時期の品質予測には利用できるが、より早期に品質を予測することは困難である。
【0011】
本発明の一態様は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、農作物の生産成績を予測する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る予測モデルの生成方法は、農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成方法であって、予測対象日以前の気象データの観測値データを参照して、前記生産成績と気象の影響とを表す予測モデルであって、前記予測対象日の気象データの予報値から前記生産成績を予測する予測モデルを生成する工程を包含し、前記生成する工程において、過去のある年の前記生産成績の実測値と、前記予測モデルを用いて予測したその年の前記生産成績の予測値との差が最小となるように、前記気象データの変数の組み合わせを選択して、前記予測モデルを生成する。
【0013】
本発明の一態様に係る予測モデルの生成装置は、農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成装置であって、予測対象日以前の気象データの観測値データを参照して、前記生産成績と気象の影響とを表す予測モデルであって、前記予測対象日の気象データの予報値から前記生産成績を予測する予測モデルを生成する生成部を備え、前記生成部は、過去のある年の前記生産成績の実測値と、前記予測モデルを用いて予測したその年の前記生産成績の予測値との差が最小となるように、前記気象データの変数の組み合わせを選択して、前記予測モデルを生成する。
【0014】
本発明の各態様に係る予測モデルの生成装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記生成装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記生成装置をコンピュータにて実現させる生成装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、農作物の生産成績を予測する技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一態様に係る予測システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の一態様に係る予測装置で利用する前年までの年毎の生産成績の実測値データの一例を示す図である。
図3】農作物の生産成績の経年変化及び気象が生産成績に及ぼす影響について説明する図である。
図4】本発明の一態様に係る気象データの予測モデル生成装置において利用する、気象データの変数が生産成績に及ぼす影響を説明する図である。
図5】本発明の一態様に係る予測システムが実行する、予測モデルを用いた農作物の生産成績の予測の概念を説明する図である。
図6】本発明の一態様に係る予測装置が実行する予測処理の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の一態様に係る予測モデルの生成装置が実行する予測モデル生成処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本発明の一態様に係る気象データの予測モデル生成装置が実行する予測モデルの生成処理の一例を示すフローチャートである。
図9】実施例の糖度予測精度の検証結果を示す図である。
図10】実施例の糖度予測精度の検証結果を示す図である。
図11】実施例の酸度予測精度の検証結果を示す図である。
図12】実施例の酸度予測精度の検証結果を示す図である。
図13】実施例の糖度予測精度の検証結果を示す図である。
図14】実施例の酸度予測精度の検証結果を示す図である。
図15】実施例における、降水量、平均気温、及び日照時間の糖度への影響を示す図である。
図16】土壌水分値が生産成績に及ぼす影響を説明する図である。
図17】本発明の他の態様に係る予測システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一態様は、農作物の生産成績を予測するための技術を実現するものである。本発明の一態様により予測する農作物の生産成績には、農作物の収穫量;糖度、酸度、タンパク含有量、質量分析等で計測される分子成分、色素量等の成分含有量;色、形、大きさ、長さ等の形態;倒伏度、葉・花・茎・果実の成長指数(茎の長さや葉の出開き度、花や実の色づき具合)、着花数、着果数、葉の数が含まれるがこれに限定されない。すなわち、本発明の一態様によれば、生産された農作物を評価する評価項目の少なくとも1つを予測することができる。本発明の一態様により生産成績を予測する農作物は特に限定されず、ミカン、リンゴ、モモ、ブドウ、びわ、梅、コーヒー、緑茶、ビーツ、トウキ、カンゾウ、シャクヤク、ダイオウ等の多年生植物;イネ、麦、大豆、落花生、きび、トマト、ホウレンソウ、ナス、カボチャ、イチゴ、シソ、センキュウ、サイコ、ジャガイモ、サツマイモ、観賞用花き等の一年生植物等が例として挙げられる。
【0018】
〔予測システム100〕
図1に基づいて、農作物の生産成績を予測するために用いる予測システム100について説明する。予測システム100は、予測装置10、予測モデル生成装置20、及び気象データの予測モデル生成装置30を備えている。また、予測システム100は、さらに、入力装置40、記憶装置50、及び出力装置60を備えている。予測システム100は、予測装置10、予測モデル生成装置20、及び予測モデル生成装置30をそれぞれ独立した装置として備えていてもよいし、一の装置内に一体として備えていてもよい。
【0019】
入力装置40は、ユーザによる予測システム100に対する入力操作を受け付ける。入力装置40は、一例として、予測装置10において農作物の生産成績を予測するために用いるデータの入力を受け付ける。また、入力装置40は、予測モデル生成装置20において予測モデルを生成するために用いるデータの入力を受け付ける。さらに、入力装置40は、予測モデル生成装置30において気象データの予測モデルを生成するために用いるデータの入力を受け付ける。入力装置40は、例えば、キーボード、マウス、タッチセンサなどであってもよい。
【0020】
記憶装置50は、予測システム100にて使用されるプログラム及びデータを記憶する。記憶装置50は、一例として、入力装置40を介して入力された各種データを記憶している。また、記憶装置50は、一例として、予測装置10において農作物の生産成績を予測するために用いる予測モデル、入力情報、及び出力情報を記憶している。さらに、記憶装置50は、一例として、予測モデル生成装置20において、予測モデルの生成に使用する学習データ及び生成した予測モデルを記憶している。また、記憶装置50は、一例として、予測モデル生成装置30において、予測モデルの生成に使用する学習データ及び生成した予測モデルを記憶している。記憶装置50は、各種データを記憶するデータベースをクラウド又はサーバ上に有していてもよい。
【0021】
出力装置60は、予測装置10が予測した結果を出力する。また、出力装置60は、予測装置10が予測した結果に基づく栽培管理指導情報を出力してもよい。栽培管理指導情報には、例えば、マルチング実施時期、排水路の整備に関する情報、摘果数や摘果時期、施肥に関する情報、断根の実施に関する情報等が含まれる。
【0022】
出力装置60による出力の態様は特に限定されない。出力装置60は、例えば、当該情報を画像として表示する表示装置、当該情報を印刷する印刷装置、又は、当該情報を音声として出力する警報装置であってもよい。また、出力装置60は、予測装置10が予測した結果や、結果に基づく栽培管理指導情報等を表示する、スマートフォンのようなモバイルデバイスのディスプレイであってもよい。
【0023】
(予測装置10)
予測装置10は、農作物の生産成績を予測する予測装置である。予測装置10は、過去の年毎の生産成績の実測値データを参照して生成された、生産成績の経年変化を表す予測モデルを用いて、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部から当年の生産成績を予測する。
【0024】
予測装置10は、制御部11を備えている。制御部11は、予測装置10の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部11の各部が構成される。当該各部として、制御部11は、入力データ取得部12及び予測部13を備えている。
【0025】
入力データ取得部12は、生産成績を予測する予測モデルの入力情報である入力データを取得する。入力データ取得部12は、入力装置40からの予測の開始指示を表す入力信号に基づき、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部を含む実測値データを記憶装置50から読み出す。また、入力データ取得部12は、入力装置40を介して入力された、実測値データを取得してもよい。入力データ取得部12は、取得した入力データを予測部13へ出力する。
【0026】
ここで、前年までの生産成績の実測値とは、生産成績を予測する対象となる年である当年よりも前に測定された生産成績の実測値が意図される。生産成績の実測値は、各年において、少なくとも生育期や収穫期又は出荷時の1回測定されていればよい。実測値データは、少なくとも前年の生産成績の実測値のみを含んでいればよいが、前年までの複数年の生産成績の実測値を含んでいてもよい。
【0027】
予測部13は、過去の年毎の生産成績の実測値データを参照して生成された、生産成績の経年変化を表す予測モデル24を用いて、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部から当年の生産成績を予測する。予測部13は、記憶装置50から予測モデル24を読み出し、入力データ取得部12から送られた実測値データを予測モデル24に入力して、予測モデル24から出力された当年の生産成績を取得する。予測部13は、取得した当年の生産成績を表すデータを、予測結果として、出力装置60へ出力する。
【0028】
予測部13が生産成績を予測するために用いる予測モデル24は、後述する予測モデル生成装置20により生成された予測モデル24であり得る。予測モデル24は、一例として、実測値データを学習データとして機械学習を行うことによって生成されており、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部が入力情報であり、当年の生産成績が出力情報である予測モデルである。すなわち、予測モデル24を用いることにより、農作物の年毎の生産成績の変動(生産成績のゆらぎ)を経年変化として考慮して、生産成績を予測することができる。
【0029】
一例として、ミカンのような多年生植物は、生産成績の良かった年の翌年は、木の貯蔵養分が減少するなどの樹勢の低下により生産成績が低下する傾向にあることが知られている。そして、多年生植物は、表年(生産成績の良い年)と裏年(生産成績の悪い年)とを交互に繰り返す。このように、農作物には年単位での生産成績の変動が生じるため、前年までの生産成績の実測値から当年の生産成績を予測する予測モデル24を用いることで、年毎のゆらぎを考慮した生産成績の予測が可能である。
【0030】
また、他の例として、単年生植物では、栽培管理方法に年単位での変動が生じ得、この栽培管理方法の変動が、年毎の生産成績のゆらぎに繋がる。したがって、単年生植物においても、前年までの生産成績の実測値から当年の生産成績を予測する予測モデル24を用いることで、栽培管理方法の変動に起因する年毎のゆらぎを考慮した生産成績の予測が可能である。
【0031】
ここで、生産成績の予測に利用する実測値データについて、図2を参照して説明する。図2は、予測装置10で利用する前年までの年毎の生産成績の実測値データの一例を示す図である。図2の左側のグラフにおいて、X軸は暦、Y軸は糖度、Z軸は年次を示しており、当該グラフは各年の年間の糖度変化を表している。このような各年の年間の糖度変化のデータから、特定の日における年毎の糖度変化のデータを取り出すことで、図2の右側のグラフのように、特定の日における年毎の糖度変化を表すグラフが得られる。なお、図2の左側のグラフは、各年において複数回糖度を測定した結果から得られたものである。図2は、本発明の概念を説明するために示すものであり、本発明を図2に示す態様に限定するものではない。
【0032】
一例として、図2においては、過去15年間の各年の年間の糖度変化を表すグラフ(左側のグラフ)と、10月30日の過去15年間の糖度変化を表すグラフ(右側のグラフ)とを示している。予測装置10は、このように、特定の日における年毎の糖度変化を表すデータを用いることで、年毎のゆらぎを考慮して生産成績を予測することができる。
【0033】
生産成績の年間の変化を実測する場合、基準となる植物個体(決められた1本の基準木等)において年に複数回測定を繰り返すことになる。つまり、サンプリングのために、基準となる植物個体から葉や実を年間に複数回間引くことになる。サンプリングにより葉や実がなくなったことで、植物個体内の光合成産物の転流が変わったり、サンプリングによる傷が傷害ストレスとなったりして、植物個体の状態が変化し得る。そのため、通常の生育とは異なった状態で生産成績を測定することとなり、実際の生育過程を表していないデータになる可能性がある。このようにして得られたデータに基づき農作物の生産成績を予測すれば、予測精度が低下する虞がある。予測装置10では、年間の生産成績の変化ではなく、特定の日における年毎の生産成績の変化を考慮して生産成績を予測するので、精度よく予測することが可能である。
【0034】
また、予測部13は、過去の年毎の生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データを参照して生成された、生産成績の経年変化と気象の影響とを表す予測モデル24を用いて、当年の生産成績を予測し得る。予測部13は、記憶装置50から予測モデル24を読み出し、入力データ取得部12から送られた実測値データと当年の気象データの予報値とを予測モデル24に入力して、予測モデル24から出力された当年の生産成績を取得する。気象データの予報値は、一例として、気象庁等の気象情報を提供する機関が公開しているデータベースから取得することができる。予測装置10は、取得した気象データの予報値を記憶装置50に格納し、予測部13において生産成績を予測する際に、記憶装置50から読み出してもよい。
【0035】
予測モデル24は、過去の年毎の生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データを学習データとして機械学習を行うことによって生成される。そして、このような予測モデル24は、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と当年の気象データの予報値とが入力情報であり、当年の生産成績が出力情報である予測モデルである。このような予測モデル24を用いることにより、農作物の年毎の生産成績のゆらぎと共に、生産成績に影響を及ぼす気象データを考慮して、生産成績を予測することができる。農業に密接に関連する気象データをさらに考慮することによって、年毎の生産成績のゆらぎのみを考慮して生産成績を予測する場合よりも、より精度よく予測することができる。
【0036】
経年変化及び気象が生産成績に及ぼす影響について、図3を参照して説明する。図3は、農作物の生産成績の経年変化及び気象が生産成績に及ぼす影響について説明する図である。図3のグラフは、X軸が年次、Y軸が糖度を示しており、当該グラフは特定の日における年毎の糖度変化を表すグラフである。この年毎の糖度変化には、生産成績の経年変化だけでなく、気象が影響を及ぼしていると考えられる。そこで、図3の右側のグラフのように、年毎の糖度変化(実線のデータ)を、経年変化の影響による糖度変化(破線のデータ)と、破線のデータと実線のデータとの差により表される気象の影響による糖度変化(矢印の範囲)とに分解する。
【0037】
図3の破線で表される経年変化の影響を表す糖度は、上述した年毎の生産成績のゆらぎを考慮して予測される糖度であり、これを基準糖度(基準生産成績)とする。基準糖度は、年毎のゆらぎのみを考慮して予測されるので、図3の実線で表される実際の糖度とは異なり得る。この実際の糖度と年毎のゆらぎを考慮して予測される基準糖度との差は、気象が糖度に及ぼす影響分であると考えられる。
【0038】
予測モデル24は、過去の年毎の生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データから当年の生産成績を予測する予測モデルであるため、年毎のゆらぎのみならず、気象の影響も考慮した生産成績の予測が可能である。したがって、図3の右側のグラフにおいて、破線により表される基準生産成績に、気象の影響を表す矢印の範囲の補正が加えられて、実線により表される実際の生産成績により近い、精度のよい生産成績の予測が可能である。
【0039】
また、予測モデル24は、予測対象地点毎に生成した予測モデルであり、当該予測対象地点における前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と当該予測対象地点における当年の気象データの予報値とから、当該予測対象地点における当年の生産成績を予測するモデルであり得る。
【0040】
生産成績に及ぼす経年変化や気象の影響は、農作物を生育する地域毎に異なり得る。したがって、生産成績を予測する農作物を生育する地域である予測対象地点毎に作成された予測モデル24を用いて生産成績を予測することで、より精度よく生産成績を予測することができる。
【0041】
予測装置10によれば、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部により、当年の生産成績を予測することができるので、栽培期間の初期であっても、その年の収穫期又は出荷日の生産成績を予測することができる。これにより、栽培期間の初期にその年の生産成績を予測し、予測結果に基づいて、施肥、灌水、摘果等の栽培管理を変更することで、その年の生産成績を向上させることができる。また、予測した生産成績に基づいて、最適な作業時期や収穫時期を決定することもできる。
【0042】
(予測モデル生成装置20)
予測モデル生成装置20は、農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成装置である。予測モデル生成装置20は、過去の年毎の生産成績の実測値データを参照して、生産成績の経年変化を表す予測モデルであって、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部から当年の生産成績を予測する予測モデルを生成する。
【0043】
予測モデル生成装置20は、制御部21を備えている。制御部21は、予測モデル生成装置20の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部21の各部が構成される。当該各部として、制御部21は、学習データ取得部22及び予測モデル生成部23を備えている。
【0044】
学習データ取得部22は、予測モデル24を学習するための学習データを取得する。学習データ取得部22は、入力装置40からの学習の開始指示を表す入力信号に基づき、学習データを記憶装置50から読み出す。また、学習データ取得部22は、入力装置40を介して入力された学習データを取得してもよい。学習データ取得部22は、取得した学習データを予測モデル生成部23へ出力する。
【0045】
予測モデル生成部23は、過去の年毎の生産成績の実測値データを参照して、生産成績の経年変化を表す予測モデルであって、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部から当年の生産成績を予測する予測モデル24を生成する。
【0046】
予測モデル生成部23は、学習データ取得部22から取得した学習データを用いて機械学習を行うことにより、予測モデル24を生成する。ここで学習データは、実測値データである。予測モデル生成部23は、一例としては、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン等の既知の機械学習方法を用いて、予測モデル24を生成する。予測モデル生成装置20により生成された予測モデル24は、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部を入力情報として、当年の生産成績を出力情報とする予測モデルである。
【0047】
また、予測モデル生成部23は、一例として、ある年の前年までの年毎の生産成績とその年の生産成績との相関を表す統計モデルを生成してもよい。すなわち、予測モデル24は、線形回帰モデル、スパースモデリング、一般化線形モデル、状態空間モデル、階層ベイズモデル、時系列モデル、クラスタリング等の統計モデルであってもよい。
【0048】
予測モデル24は、過去の年毎の生産成績の実測値データを参照して、生産成績の経年変化を表すモデルであるため、農作物の年毎の生産成績の変動を経年変化として考慮した、生産成績の予測に利用できる。予測モデル24は、上述した予測装置10において生産成績を予測するために用いられる予測モデルである。予測モデル生成部23は、生成した予測モデル24を記憶装置50に格納してもよい。
【0049】
また、予測モデル生成部23は、過去の年毎の生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データを参照して、生産成績の経年変化と気象の影響とを表す予測モデル24を生成し得る。このような予測モデル24は、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と当年の気象データの予報値とから、当年の生産成績を予測する予測モデルである。気象データの観測値データは、一例として、気象庁等の気象情報を提供する機関が公開しているデータベースから取得することができる。予測モデル生成装置20は、取得した気象データの観測値を記憶装置50に格納し、予測モデル生成部23において予測モデル24を生成する際に、記憶装置50から読み出してもよい。
【0050】
予測モデル生成部23は、測定データを学習データとして機械学習を行うことによって、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と当年の気象データの予報値とが入力情報であり、当年の生産成績が出力情報である予測モデルを生成する。また、予測モデル生成部23は、一例として、ある年の前年までの年毎の生産成績及びその年の気象データの観測値と、その年の生産成績との相関を表す統計モデルを予測モデル24として生成してもよい。
【0051】
予測モデル24は、農作物の年毎の生産成績のゆらぎと共に、生産成績に影響を及ぼす気象データを考慮した、生産成績の予測に利用できる。農業に密接に関連する気象データを考慮することによって、年毎の生産成績のゆらぎのみを考慮して生産成績を予測する場合よりも、より精度よく予測することに利用できる。
【0052】
予測モデル生成部23は、予測対象地点毎に予測モデル24を生成することが好ましい。予測モデル生成部23は、当該予測対象地点における過去の年毎の生産成績の実測値と当該予測対象地点におけるそれらの年の気象データの観測値とを含む測定データを参照して、予測対象地点毎の予測モデル24を生成する。
【0053】
生産成績に及ぼす経年変化や気象の影響は、農作物を生育する地域毎に異なり得る。したがって、生産成績を予測する農作物を生育する地域である予測対象地点毎に予測モデル24を生成することで、より精度の高い生産成績の予測に利用できる。
【0054】
予測モデル生成部23は、予測精度を向上させるために、予測結果に基づいて予測モデル24を再生成してもよい。予測モデル24が機械学習により生成された学習モデルである場合、予測モデル24を再学習してもよい。一例として、予測モデル生成部23は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル24を用いて予測した、その年の生産成績の予測値との差が最小になるように、予測モデル24を再生成する。
【0055】
予測モデル生成部23は、一例として、前年までの各年の生産成績の実測値と、予測モデル24を用いて予測した、それらの年の生産成績の予測値との差を年毎に算出し、全ての年においてその差が最小になるように、予測モデル24を再生成する。また、予測モデル生成部23は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル24を用いて予測した、その年の生産成績の予測値との差の二乗和が最小になるように予測モデル24を再生成してもよい。
【0056】
さらに、予測モデル生成部23は、予測モデル24を再生成する場合に、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル24により予測した、その年の生産成績の予測値との差を、その年の気象データの観測値に基づいて回帰する回帰分析を用いて、予測モデルを再生成してもよい。
【0057】
予測装置10に関して説明したように、図3を参照すれば、年毎の生産成績の変化を、経年変化の影響による生産成績の変化と、気象の影響による生産成績の変化とに分解することができる。予測モデル生成部23は、経年変化の影響による生産成績の変化と気象の影響による生産成績の変化とのバランスを考慮して、年毎の生産成績の変化を、経年変化の影響による生産成績の変化と、気象の影響による生産成績の変化とに分解する。
【0058】
予測モデル生成部23は、一例として、正則化を用いて、経年変化を考慮した生産成績の予測値である基準生産成績を算出する。まず、正則化の強さを様々に変化させて、正則化係数毎に基準生産成績を算出する。そして、生産成績の測定値と正則化係数毎の基準生産成績との差を求め、この差を生産成績に及ぼす気象の影響分としてそれぞれ算出する。そして、気象の影響分をその年の気象データの観測値を用いて回帰する。予測モデル生成部23は、このような処理を繰り返して、生産成績の予測値と実測値との差が最小になる正則化係数、基準生産成績、気象データの回帰係数を決定し、予測モデル24を再生成する。
【0059】
なお、予測モデル生成部23が予測モデル24を再生成する場合に行う、気象データを用いた生産成績に及ぼす気象の影響分の回帰分析の一例は、後述する予測モデル生成装置30において予測モデル生成部33が行う回帰分析であり得る。
【0060】
このように、予測モデル24を再生成することによって、より精度よく生産成績を予測することが可能な予測モデル24を生成することができる。
【0061】
予測モデル生成装置20によれば、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部により、当年の生産成績を予測する予測モデルを生成することができるので、栽培期間の初期にその年の収穫期又は出荷日の生産成績を予測することにも利用することができる。これにより、栽培期間の初期にその年の生産成績を予測し、予測結果に基づいて、施肥、灌水、摘果等の栽培管理を変更することで、その年の生産成績を向上させることに利用することができる。また、予測した生産成績に基づいて、最適な作業時期や収穫時期を決定することにも利用できる。
【0062】
(予測モデル生成装置30)
気象データの予測モデル生成装置30は、農作物の生産成績を予測する予測モデルの生成装置である。予測モデル生成装置30は、予測対象日以前の気象データの観測値データを参照して、生産成績と気象の影響とを表す予測モデルであって、予測対象日の気象データの予報値から生産成績を予測する予測モデル34を生成する。予測モデル生成装置30は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル34を用いて予測したその年の生産成績の予測値との差が最小となるように、気象データの変数の組み合わせを選択して、予測モデル34を生成する。
【0063】
予測モデル生成装置30は、制御部31を備えている。制御部31は、予測モデル生成装置30の各部を統括して制御するものであり、一例として、プロセッサ及びメモリにより実現される。この例において、プロセッサはストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部31の各部が構成される。当該各部として、制御部31は、学習データ取得部32及び予測モデル生成部(生成部)33を備えている。
【0064】
学習データ取得部32は、予測モデル34を学習するための学習データを取得する。学習データ取得部32は、入力装置40からの学習の開始指示を表す入力信号に基づき、学習データを記憶装置50から読み出す。また、学習データ取得部32は、入力装置40を介して入力された学習データを取得してもよい。学習データ取得部32は、取得した学習データを予測モデル生成部33へ出力する。
【0065】
予測モデル生成部33は、予測対象日以前の気象データの観測値を参照して、生産成績と気象の影響とを表す予測モデルであって、予測対象日の気象データの予報値から生産成績を予測する予測モデル34を生成する。
【0066】
予測モデル生成部33は、日毎の気象データの観測値とそれらの日の生産成績の実測値とを含む学習データを参照して、生産成績と気象の影響とを表す予測モデル34を生成する。予測モデル生成部33は、学習データ取得部22から取得した学習データを用いて機械学習を行うことにより、予測モデル34を生成する。予測モデル生成部33は、一例としては、ニューラルネットワーク、決定木、ランダムフォレスト、サポートベクトルマシン等の既知の機械学習方法を用いて、予測モデル34を生成する。
【0067】
また、予測モデル生成部33は、一例として、日毎の気象データとそれらの日の生産成績との相関を表す統計モデルを生成してもよい。すなわち、予測モデル34は、線形回帰モデル、スパースモデリング、一般化線形モデル、状態空間モデル、階層ベイズモデル、時系列モデル、クラスタリング等の統計モデルであってもよい。
【0068】
予測モデル生成装置30は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル34を用いて予測したその年の生産成績の予測値との差が最小となるように、気象データの変数の組み合わせを選択して、予測モデル34を生成する。農作物の生産成績に影響することが予想される気象データには、降水量、平均気温、最高気温、最低気温、全天日射量、日照時間等の多くの変数が含まれる。気象データの変数には、相互依存する変数が存在し、一例として、雨が降る日は気温が低め(降水量と気温との関連性)のように、相互依存性の高い変数の組み合わせが存在する。したがって、生産成績の予測に最適な気象データの変数の組み合わせを選択することで、精度よく生産成績を予測可能な予測モデルを生成することができる。
【0069】
気象データの変数の組み合わせが生産成績に及ぼす影響について、図4を参照して説明する。図4は、気象データの変数が生産成績に及ぼす影響を説明する図である。図4において、上段左側のグラフは降水量の糖度への影響を表しており、上段中央のグラフは平均気温の糖度への影響を表しており、上段右側のグラフは日照時間の糖度への影響を表している。これらのグラフにおいて、X軸は日付、Y軸は糖度の増減値、Z軸は測定対象地点を示している。すなわち、これらのグラフは、測定対象地点毎に、気象データの変数が生産成績に及ぼす影響を示している。
【0070】
図4において、下段のグラフは、上段の3つのグラフにおいて、特定の測定対象地点のグラフのみを取出して重ねたグラフである。すなわち、このグラフは、気象データのそれぞれの変数が糖度に及ぼす影響をまとめて示すものである。なお、下段のグラフにおいては、実線は降水量の影響、点線は平均気温の影響、○印プロットは日照時間の影響を示している。
【0071】
図4の上段のグラフに示すように、場所毎及び日毎に生産成績が変数の影響を受ける程度が異なっている。図4の下段のグラフに示すように、各変数のグラフを重ねることで、同じ場所及び同じ日であっても、影響を受ける変数の種類やその程度が異なっていることが明白である。
【0072】
このように、気象データの変数が生産成績に及ぼす影響の程度に基づいて生産成績の予測に最適な変数の組み合わせを選択すれば、より精度よく生産成績を予測可能な予測モデルを生成することができる。また、最適な変数の組み合わせを、日毎又は場所毎に選択することで、より精度よく生産成績を予測可能な予測モデルを生成する事ができる。
【0073】
予測モデル生成部33は、予測対象日以前の気象データの各変数について、それぞれの積算値又は平均値に基づく回帰分析により、気象データの変数の組み合わせを選択する。予測モデル生成部33は、各変数について、それぞれを所定期間積算した積算値、又は、それぞれの所定期間内の平均値を算出し、算出した積算値又は平均値に基づく回帰分析を行って、生産成績の実測値と予測値との差が最小となる変数の組み合わせを選択する。予測モデル生成部33は、一例として、相互依存性の高い変数を解析可能な機械学習による回帰分析を行うことで、最適な変数の組み合わせを選択する。
【0074】
予測モデル生成部33は、各変数についての積算値又は平均値を算出する起算日及び終算日、並びに算出日数に基づく回帰分析により、気象データの変数の組み合わせを選択する。生産成績に及ぼす気象の影響は、年単位だけでなく、開花期や着果期のような短い期間単位で変化し得る。したがって、各変数について積算を開始する起算日及び積算を終了する終算日、又は、各変数について平均値の算出を開始する起算日及び算出を終了する終算日に基づく回帰分析を行うことで、期間毎に最適な変数の組み合わせを選択することができる。同様に、各変数について積算する日数又は平均する日数(算出日数)に基づく回帰分析を行うことで、より短い期間単位で最適な変数の組み合わせを選択することができる。
【0075】
予測モデル生成部33は、気象データの各変数について、起算日から終算日までの各日における算出日数の積算値又は平均値に基づく回帰分析により、前記気象データの変数の組み合わせを選択する。このように、起算日から終算日までの算出期間内の各日において算出日数分の各変数の積算値又は平均値を算出することで、算出日数分のウインドウを一日ずつずらし、算出期間内の毎日の各変数が生産成績に及ぼす影響を表すベクトルを作成することができる。そして、作成した毎日のベクトルを用いて回帰分析を行い、生産成績の実測値と予測値との差が最小となる変数の組み合わせを選択することで、生産成績の予測に最適な変数の組み合わせを選択することができる。また、毎日のベクトルを用いた回帰分析を行うことで、連日続く猛暑の影響のように、日毎の変数の連続性が生産成績に及ぼす影響についても考慮して、変数の組み合わせを選択することができる。
【0076】
予測モデル生成部33は、過去の年毎の前記生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データを参照して生成した、生産成績の経年変化と気象の影響とを表す予測モデルであって、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と予測対象日の気象データの予報値とから、生産成績を予測する予測モデル34を生成してもよい。また、このような予測モデル34は、測定データを学習データとして機械学習を行うことによって生成し、これにより、前年までの前記生産成績の実測値の少なくとも一部と前記予測対象日の気象データの予報値とが入力情報であり、当年の前記生産成績が出力情報である予測モデル34を生成してもよい。すなわち、予測モデル生成部33は、上述した予測モデル生成装置20の予測モデル生成部23において、年毎の生産成績の変化を経年変化の影響分と気象の影響分とに分解したときの、気象の影響分を回帰して、生産成績の経年変化と気象の影響を表す予測モデル34を生成し得る。
【0077】
また、予測モデル生成部33は、予測対象地点毎に予測モデル34を生成することが好ましい。予測モデル生成部33は、当該予測対象地点における過去の年毎の生産成績の実測値と当該予測対象地点におけるそれらの年の気象データの観測値とを含む測定データを参照して、予測対象地点毎の予測モデル24を生成する。生産成績を予測する農作物を生育する地域である予測対象地点毎に予測モデル34を生成することで、より精度の高い生産成績の予測に利用できる。
【0078】
予測モデルの生成装置30によれば、予測対象日の気象データの予報値から、当年の生産成績を予測することができるので、栽培期間の初期にその年の収穫期又は出荷日の生産成績を予測することにも利用することができる。これにより、栽培期間の初期にその年の生産成績を予測し、予測結果に基づいて、施肥、灌水、摘果等の栽培管理を変更することで、その年の生産成績を向上させることに利用することができる。また、予測した生産成績に基づいて、最適な作業時期や収穫時期を決定することにも利用できる。
【0079】
(予測システム100における生産成績の予測)
予測システム100における予測モデルを用いた生産成績の予測処理の流れの概念について、図5を参照して説明する。図5は、本発明の一態様に係る予測システムが実行する、予測モデルを用いた農作物の生産成績の予測の概念を説明する図である。なお、図5に示す気象データの変数は一例であり、気象データの変数はこれに限定されない。
【0080】
図5に示すように、過去の年毎の生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データを用いて学習済みの予測モデルを用いる。当該予測モデルに、前年までの(過去の)生産成績の実測値と当年の気象データの予報値とを入力する。予測モデルは、生産成績の予測値を、当年の基準生産成績と当年の気象の影響分とに分割する。予測モデルは、気象データの変数の組み合わせにより、当年の気象の影響分を回帰し、最適な変数の組み合わせを選択する。予測モデルは、選択された変数の組み合わせに基づいて当年の気象の影響分を回帰する。予測モデルは、当年の基準生産成績と当年の気象の影響分とから、当年の生産成績の予測値を出力する。
【0081】
(予測処理の流れ)
予測装置10による予測処理(予測方法)の流れについて、図6を参照して説明する。図6は、本発明の一態様に係る予測装置が実行する予測処理の一例を示すフローチャートである。図6に示すように、まず、入力データ取得部12は、前年までの(過去の)生産成績の実測値を取得する(ステップS1)。次に、入力データ取得部12は、当年の気象データの予報値を取得する(ステップS2)。そして、予測部13は、取得した前年までの生産成績の実測値と当年の気象データの予報値とを予測モデル24に入力し、出力された当年の生産成績の予測値を取得する(ステップS3、予測する工程)。予測部は、取得した予測値を予測結果として出力装置60に出力し(ステップS4)、処理を終了する。
【0082】
(予測モデル生成処理の流れ)
予測モデル生成装置20による予測モデル24の生成処理(予測モデルの生成方法)の流れについて、図7を参照して説明する。図7は、本発明の一態様に係る予測モデルの生成装置が実行する予測モデル生成処理の一例を示すフローチャートである。図7に示すように、まず、学習データ取得部22は、過去の年毎の生産成績の実測値を取得する(ステップS11)。次に、学習データ取得部22は、それらの年の気象データの観測値を取得する(ステップS12)。そして、学習データ取得部22は、過去の年毎の生産成績に実測値とそれらの年の気象データの観測値とを対応付け、学習データ(測定データ)を生成する(ステップS13)。予測モデル生成部23は、生成した学習データを用いて、前年までの(過去の)生産成績の実測値と当年の気象データの予報値とが入力情報であり、当年の生産成績が出力情報である予測モデル24を生成する(ステップS14、生成する工程)。予測モデル生成部23は、生成した予測モデル24を記憶装置50へ格納する。
【0083】
(気象データの予測モデル生成処理の流れ)
予測モデル生成装置30による予測モデル34の生成処理(予測モデルの生成方法)の流れについて、図8を参照して説明する。図8は、本発明の一態様に係る気象データの予測モデル生成装置が実行する予測モデルの生成処理の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、まず、予測モデル生成部33は、気象データの各変数の積算値又は平均値を算出する起算日及び終算日、並びに、積算する又は平均する日数(算出日数)を設定する(ステップS21)。次に、予測モデル生成部33は、各変数について、起算日から終算日までの各日における算出日数の積算値又は平均値を算出する(ステップS22)。そして、予測モデル生成部33は、算出した値を用いて予測モデル34を回帰し、予測値と実測値との誤差を求める(ステップS23)。予測モデル生成部33は、誤差が最小となる変数の組み合わせ、積算値又は平均値の起算日及び終算日、並びに、算出日数を求める(ステップS24)。予測モデル生成部33は、得られた変数の組み合わせ、積算値又は平均値の起算日及び終算日、並びに、算出日数に基づいて、予測モデル34を生成する(ステップS25、生成する工程)。予測モデル生成部33は、生成した予測モデル34を記憶装置50へ格納する(ステップS26)。
【0084】
〔ソフトウェアによる実現例〕
予測装置10、予測モデル生成装置20、及び予測モデル生成装置30(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、これらの装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、これらの装置の各制御ブロック(特に制御部11、制御部21、及び制御部31に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0085】
この場合、これらの装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0086】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、これらの装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介してこれらの装置に供給されてもよい。
【0087】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0088】
また、上記実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0089】
〔実施例〕
ミカンにおいて、複数の予測対象地点における過去の糖度及び酸度データを用いて生成した予測モデルを用いて糖度及び酸度を予測し、その精度を検証した。糖度予測及び酸度予測の精度は、令和2年度の実測値と予測モデルを用いた予測値とを比較して検証した。平成30年度及び令和1年度の気象観測値、並びに、令和2年度の3月22日時点の気象予報値を用いた。
【0090】
2か年の全予測対象地点及び全予測対象日において、予測値と実測値とのRMSE(二乗平均平方根誤差)を求めた。糖度予測において、気象観測値を使用した場合、RMSEは0.6561であった(図9)。糖度予測において、気象予報値を使用した場合、RMSEは1.5267であった(図10)。次に、酸度予測において、気象観測値を使用の場合、RMSEは0.2517であった(図11)。酸度予測において、気象予報値を使用した場合、RMSEは0.2636であった(図12)。
【0091】
また、令和2年3月22日時点の気象予報値に基づき、令和2年度の糖度及び酸度を予測し、令和2年11月9日時点までの測定値を用いて精度を検証した。令和2年11月9日時点までの精度の検証では、気象予報値を使用した。糖度予測におけるRMSEは0.7355であった(図13)。酸度予測におけるRMSEは0.1615(図14)であった。
【0092】
このように、予測モデルを用いることにより、3月時点で翌年度の生産成績の傾向を把握するために十分な精度で予測できることが示された。
【0093】
図15は、ある予測対象地点における令和2年度高糖度系統選果予測における気象3変数の時期別の影響を示す。図15において、実線は降水量の影響、点線は平均気温の影響、○印プロットは日照時間の影響を示している。なお、令和2年3月22日時点の気象予報値を使用しているため、令和2年度の実際の気象の影響とは異なる。平年値となる4月下旬以降が平年並みの気象であったとき、降水量、平均気温、及び日照時間の中では、降水量の糖度への影響が最も大きい。図15に示すように、令和2年6月末頃までの降水量は、選果時糖度を日毎で最大0.01上方修正する効果が見られた。一方で、令和2年7月及び8月の降水量は、選果時糖度を日毎で0.01から最大0.025程度下方修正する効果が見られた。この時期は、マルチシート被覆を行っているが、7月及び8月の降水量の影響はゼロではないことが示唆された。
【0094】
〔他の実施形態〕
(生産成績の平均値を用いる態様)
予測装置10は、過去の年毎の生産成績の実測値データを参照して生成された、生産成績の平均値を表す予測モデルを用いて、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部から当年の生産成績を予測してもよい。一例として、過去の年毎の生産成績の蓄積年数が2年から5年程度と少ない場合には、生産成績の経年変化を表す予測モデルではなく、生産成績の平均値を表す予測モデルを用いてもよい。ここで、生産成績の平均値は、所定の年数における各年の生産成績を平均した値であり得る。
また、予測モデル生成装置20が生成する予測モデル24及び予測モデル生成装置30が生成する予測モデル34は、過去の年毎の生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データとを含む測定データを参照して生成された、生産成績の平均値と気象の影響とを表す予測モデルであってもよい。このような予測モデル24及び予測モデル34は、農作物の年毎の変動を平均値として考慮して、生産成績を予測することができる。
【0095】
すなわち、上述した各実施形態において、生産成績の経年変化に関する説明の全てを、生産成績の平均値に読み替えた実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0096】
(土壌成分の測定値データを測定データとして用いる態様)
予測装置10は、過去の年毎の生産成績の実測値データと、それらの年の気象データの観測値データ及びそれらの年の土壌成分の測定値データの少なくとも一方を含む測定データを参照して生成された、生産成績の経年変化又は平均値と気象の影響とを表す予測モデルを用いて、当年の生産成績を予測してもよい。ここで、土壌成分の測定値データは、一例として、農作物を生育させる圃場に設けられた、土壌水分計のような土壌センサにより測定された土壌成分値(土壌水分値、土壌pH値等)であり得る。
【0097】
予測モデル生成装置20が生成する予測モデル24は、過去の年毎の生産成績の実測値データと、それらの年の気象データの観測値データ及び土壌成分の測定データの少なくとも一方を含む測定データを参照して生成された、生産成績の経年変化又は平均値と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであってもよい。このような予測モデル24は、測定データを学習データとして機械学習を行うことによって生成されており、前年までの前記生産成績の実測値の少なくとも一部と当年の気象データの予報値及び当年の土壌成分の測定値の少なくとも一方とが入力情報であり、当年の前記生産成績が出力値である。予測モデル24によれば、土壌成分を考慮して、生産成績を予測することができる。
【0098】
予測モデル24は、予測対象地点毎に生成した予測モデルであり、当該予測対象地点における前年までの前記生産成績の実測値の少なくとも一部と当該予測対象地点における当年の気象データの予報値及び当年の土壌成分の測定値の少なくとも一方とから、当該予測対象地点における当年の生産成績を予測してもよい。
予測モデル24は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル24により予測した、その年の生産成績の予測値との差を、その年の気象データの観測値及びその年の土壌成分の測定値の少なくとも一方に基づいて回帰する回帰分析を用いて、再生成してもよい。
【0099】
予測モデル生成装置30が生成する予測モデル34は、予測対象日以前の気象データの観測値データ及び土壌成分の測定値データの少なくとも一方を参照して生成された、生産成績と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方から生産成績を予測する予測モデルであり得る。
【0100】
このような予測モデル34は、過去のある年の生産成績の実測値と、予測モデル34を用いて予測したその年の生産成績の予測値との差が最小となるように、気象データの変数の組み合わせ及び土壌成分の変数の組み合わせを選択して生成されている。これらの変数の組み合わせは、予測対象日以前の気象データ及び土壌成分の各変数について、それぞれの変数の積算値又は平均値に基づく回帰分析により選択されてもよい。また、これらの変数の組み合わせは、上記積算値又は平均値を算出する起算日及び終算日、並びに算出日数に基づく回帰分析により選択されてもよい。さらに、これらの変数の組み合わせは、気象データ及び土壌成分の各変数について、起算日から終算日までの各日における算出日数分の積算値又は平均値に基づく回帰分析により選択されてもよい。
【0101】
また、予測モデル34は、過去の年毎の前記生産成績の実測値データとそれらの年の気象データの観測値データ及びそれらの年の土壌成分の測定値データの少なくとも一方を含む測定データを参照して生成した、生産成績の経年変化又は平均値と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルであって、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方とから、生産成績を予測する予測モデルである。このような予測モデル34は、測定データを学習データとして機械学習を行うことによって生成することができる。このような予測モデル34は、前年までの生産成績の実測値の少なくとも一部と予測対象日の気象データの予報値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方とが入力情報であり、当年の生産成績が出力情報である予測モデルである。
【0102】
土壌成分が生産成績に及ぼす影響について、図16を参照して説明する。図16は、土壌水分値が生産成績に及ぼす影響を説明する図である。図16に示すグラフにおけるX軸は日付、Y軸は土壌水分値の糖度換算影響値を示している。図16に示すグラフは、土壌水分値が収穫時糖度に及ぼす影響を示している。
【0103】
図16に示すように、日毎に土壌水分値が収穫時糖度に影響する程度が異なっている。一例として、図16によれば、7月~9月の土壌水分値が収穫時糖度に大きな影響を与えていることが分かる。この知見は、7月及び8月の乾燥ストレスにより糖度が上昇し、それ以降はその効果が飽和するという、果樹分野における既存の知見に一致する。
【0104】
このように、土壌成分を考慮して生産成績を予測することにより、より精度よく生産成績を予測することができる。また、気象と土壌成分との両方を考慮して生産生成器を予測することにより、予測精度のさらなる向上が期待できる。
【0105】
すなわち、本明細書に記載された各実施形態において、気象データに関する説明の全てを、(i)土壌成分の測定値データ、又は、(ii)気象データ及び土壌成分の測定値データに読み替えた実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0106】
(情報量基準に基づき変数を選択する態様)
予測モデル生成装置30が生成する予測モデル34における気象データの変数の組み合わせ及び土壌成分の変数の組み合わせの選択は、情報量基準に基づいて実行してもよい。すなわち、予測モデルの生成方法において、情報量基準に基づき、気象データの変数の組み合わせ及び土壌成分の変数の組み合わせを選択して、予測モデル34を生成する態様についても、本発明の技術的範囲に含まれる。ここで、情報量基準としては、従来公知の情報量基準を用いることが可能であり、一例として、カルバック-ライブラー情報量基準、赤池情報量基準、ベイズ情報量基準等が挙げられる。
【0107】
一例として、気象データの変数及び土壌成分の変数の組み合わせにおいて生成した各予測モデルの推定アルゴリズム内にモデル選択基準が内包されていない場合には、情報量基準に基づいて気象データの変数及び土壌成分の変数の組み合わせを選択してもよい。これにより、変数の選択処理に操作者の知識や熟練度等は影響せず、変数の選択処理を画一的に実行することができる。
【0108】
(生育ステージを予測する態様)
予測装置10は、予測された生産成績と農作物の生育ステージ毎の成績を表す基準値とを比較して、農作物の生育ステージを予測してもよい。ここで、農作物の生育ステージとは、農作物の開花期、収穫期、移植期等が意図される。予測装置10における生育ステージの予測は、予測部13において実行し得る。一例として、予測装置10の予測部13は、予測モデル24により得られた糖度や酸度のような生産成績の予測値が、予め設定された基準値(しきい値)を超えた場合に、収穫基準を満たしたとして、当該生産成績が予測された時期を収穫時期であると予測する。
【0109】
また、予測装置10は、予測モデルにおける、気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響量を算出し、算出した影響量を参照して、農作物の生育ステージを予測してもよい。
【0110】
農作物には、室内で苗を育ててから野外に移植される農作物や、収穫後に屋根のある日陰で貯蔵される農作物等がある。このような農作物に関して、予測モデル生成部23及び予測モデル生成部33において、生産成績に及ぼす気象又は土壌成分の影響量(影響分)を算出すれば、影響量が離散的に切り替わる日付を検出することができる。例えば、収穫後に屋根のある日陰で貯蔵されるような農作物の場合、日照時間の影響量が急激にほぼゼロになる日付が、収穫後に屋根のある貯蔵環境に移送された日に対応する。したがって、予測装置10は、このような影響量を参照することで、農作物の生育ステージを予測することができる。
【0111】
(生育ステージを予測する予測装置)
なお、過去の年毎の農作物の実際の生育ステージの推移を表すデータと、それらの年の気象データの観測値データ及びそれらの年の土壌成分の測定値データの少なくとも一方を含む測定データとを参照して生成された、生育ステージの推移と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す予測モデルを用いて、前年までの実際の生育ステージの推移の少なくとも一部と当年の気象データの予報値及び当年の土壌成分の測定値の少なくとも一方とから、当年の生育ステージの推移を予測する、生育ステージの予測装置についても、本発明の技術的範囲に含まれ得る。ここで、生育ステージの推移とは、一例として、開花日、収穫日、移植日等の農作物の各生育ステージの切り替わりの日付に関する情報が意図される。
【0112】
すなわち、このような生育ステージの予測装置が用いる予測モデルは、農作物の生育ステージの推移の経年変化又は平均値と気象及び土壌成分の少なくとも一方の影響とを表す生育ステージの予測モデルである。生育ステージの予測装置は、前年までの実際の生育ステージの推移の少なくとも一部と当年の気象データの予報値及び当年の土壌成分の測定値の少なくとも一方とを、生育ステージの予測モデルに入力して、出力される生育ステージの推移を取得する。一例として、生育ステージの予測装置は、生育ステージの予測モデルを用いることで、開花日の日付、所定の日付からの開花日までの日数、播種日から開花日までの日数等の予測結果を取得することができる。
【0113】
なお、本明細書に記載された実施形態において、生産成績の予測に関する説明の全てを生育ステージの推移の予測に読み替えた実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0114】
(生産成績のポテンシャル値を算出する態様)
予測装置の他の形態について、図17を参照して説明する。なお、説明の便宜上、上述した予測システム100及び予測装置10にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。図17は、本発明の他の形態に係る予測システム200の要部構成を示すブロック図である。予測システム200は、予測装置210の制御部211に、入力値生成部212、出力値取得部213、設定部214、及び算出部215を備える点において、図1に示す予測システム100と異なっている。
【0115】
入力値生成部212は、過去の気象データの観測値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方に基づき、気象データの観測値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方のシミュレーション入力値を生成する(入力値を生成する工程)。入力値生成部212は、入力データ取得部12が取得した気象データの観測値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方において、一日単位でデータを入れ替え、シミュレーション入力値を生成する。データの入れ替えは、同一場所における過去の別の年の同じ日のデータと入れ替えるように実行する。すなわち、入力値生成部212が生成するシミュレーション入力値は、複数年分のデータを一日単位でつぎはぎした気象データの観測値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方のデータであり得る。入力値生成部212は、生成したシミュレーション入力値を、出力値取得部213へ出力する。
【0116】
出力値取得部213は、予測モデル24又は予測モデル34を用いて、シミュレーション入力値から予測された、生産成績のシミュレーション出力値を取得する(出力値を取得する工程)。出力値取得部213は、予測モデル24又は予測モデル34に、シミュレーション入力値を入力し、出力される生産成績の予測値をシミュレーション出力値として取得する。出力値取得部213は、取得したシミュレーション出力値を設定部214へ出力する。
【0117】
設定部214は、得られたシミュレーション出力値が最も高くなるときのシミュレーション入力値をポテンシャル値に設定する(設定する工程)。設定部214は、さまざまなシミュレーション入力値に対して得られたシミュレーション出力値を比較して、シミュレーション出力値が最も高くなる時のシミュレーション入力値をポテンシャル値に設定する。すなわち、設定部214は、つぎはぎの態様が異なる複数の気象データ又は土壌成分のデータを用いて予測された生産成績を比較して、ポテンシャル値を設定する。設定部214は設定したポテンシャル値を算出部215へ出力する。
【0118】
算出部215は、ポテンシャル値が得られたときのシミュレーション入力値を最適環境値として算出する(算出する工程)。すなわち、算出部215は、最もよい生産成績が得られたときの気象データ又は土壌成分のデータを、当該生産成績を得るための気象条件及び土壌成分の条件の少なくとも一方を、最適環境値として算出する。
【0119】
予測装置210においては、気象データの観測値及び土壌成分の測定値の少なくとも一方について、同一場所における過去の別の年の同じ日のデータと入れ替えたシミュレーション入力値を仮想環境条件とし、仮想環境条件により予測される生産成績をポテンシャル値とする。このようなシミュレーション入力値は、例えば、「2010年3月3日の最高気温、日照時間及び降水量」を「2011年3月3日の最高気温、日照時間及び降水量」と入れ替えるというような処理を生育期間のすべての日付において実行することで、生成する。このように、仮想環境条件ごとに生産成績を比較することで、最も理想的な環境条件を予測することができる。
【0120】
なお、入力値生成部212は、予測モデル生成部23及び予測モデル生成部33から得られる生産成績に及ぼす気象又は土壌成分の影響分に関する情報から、どの時期のどの気象条件又は土壌成分の条件を入れ替えるかを決定してもよい。また、入力値生成部212は、生産成績に及ぼす気象又は土壌成分の影響分に関する情報に基づき、入れ替えるデータを決定するようなアルゴリズムを用いて、シミュレーション入力値を生成してもよい。
【0121】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0122】
10、210 予測装置
13 予測部
20 予測モデル生成装置
23 予測モデル生成部
30 予測モデル生成装置
33 予測モデル生成部(生成部)
100、200 予測システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図16
図17