IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許7544415プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計
<>
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図1
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図2
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図3
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図4
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図5
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図6
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図7
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図8
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図9
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図10
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図11
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図12
  • 特許-プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20240827BHJP
   H01J 41/18 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
H05H1/24
H01J41/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023529588
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022013803
(87)【国際公開番号】W WO2022264603
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2021098407
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】倉島 優一
(72)【発明者】
【氏名】本村 大成
(72)【発明者】
【氏名】柳町 真也
(72)【発明者】
【氏名】高木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】日暮 栄治
(72)【発明者】
【氏名】松前 貴司
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-003425(JP,A)
【文献】特開2016-12501(JP,A)
【文献】特表2016-513787(JP,A)
【文献】特表2006-511921(JP,A)
【文献】実開平5-92953(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2011/0233397(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01J 41/10-41/20
G04F 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁石と、
前記第1の磁石の第1の磁極に対して当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が対向するように配置された第2の磁石と、
前記第1の磁石の第1の磁極の向きと同じ方向に当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が向けられ、前記第1の磁石を囲うように配置された第3の磁石と、
前記第3の磁石の前記第2の磁極に対して当該第2の磁極とは異なる第1の磁極が対向し、前記第2の磁石を囲うように配置された第4の磁石と、
前記第1の磁石の前記第1の磁極及び前記第3の磁石の前記第2の磁極の側に設けられる第1の電極と、
前記第1の電極に対向し、前記第2の磁石の前記第2の磁極及び前記第4の磁石の前記第1の磁極の側に設けられる第2の電極と、
前記第1の電極及び前記第2の電極より高電位となるように電圧が印加されるようになっており、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置される第3の電極と、
を有し、
前記第1の磁石と前記第2の磁石との間の第1の空間と前記第3の磁石と前記第4の磁石との間の第2の空間とにおける、前記第2の磁石から前記第1の磁石への第1の方向の最大の磁場強度|By(max)|と、前記第1の方向の最小の磁場強度|By(min)|とが、|By(min)|/|By(max)|≧0.1を満たしており、
前記第1の空間と前記第2の空間とに挟まれた第3の空間における、前記第1の方向と直交する第2の方向の最大の磁場強度|Bx(max)|と、前記第2の方向の最小の磁場強度|Bx(min)|とが、|Bx(min)|/|Bx(max)|≦0.1を満たしている
プラズマ源。
【請求項2】
第1の磁石と、
前記第1の磁石の第1の磁極に対して当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が対向するように配置された第2の磁石と、
前記第1の磁石の第1の磁極の向きと同じ方向に当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が向けられ、前記第1の磁石を囲うように配置された第3の磁石と、
前記第3の磁石の前記第2の磁極に対して当該第2の磁極とは異なる第1の磁極が対向し、前記第2の磁石を囲うように配置された第4の磁石と、
前記第1の磁石の前記第1の磁極及び前記第3の磁石の前記第2の磁極の側に設けられる第1の電極と、
前記第1の電極に対向し、前記第2の磁石の前記第2の磁極及び前記第4の磁石の前記第1の磁極の側に設けられる第2の電極と、
前記第1の電極及び前記第2の電極より高電位となるように電圧が印加されるようになっており、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置される第3の電極と、
を有し、
前記第1の磁石と前記第2の磁石との距離と前記第3の磁石と前記第4の磁石との距離とのうち短い方の距離を、前記第1乃至第4の磁石の厚みの平均値で除した値が、1以上10以下である
プラズマ源。
【請求項3】
前記第1の磁石及び前記第2の磁石が円柱状であり、
前記第3の磁石及び前記第4の磁石が円筒状である
請求項1又は2記載のプラズマ源。
【請求項4】
前記第2の磁石から前記第1の磁石への第1の方向の最大の磁場強度|By(max)|と、前記第1の方向の最小の磁場強度|By(min)|とが、|By(min)|/|By(max)|≧0.3を満たしており、
前記第1の方向と直交する第2の方向の最大の磁場強度|Bx(max)|と、前記第2の方向の最小の磁場強度|Bx(min)|とが、|Bx(min)|/|Bx(max)|≦0.03である
請求項1記載のプラズマ源。
【請求項5】
前記第1の磁石と前記第2の磁石との距離と前記第3の磁石と前記第4の磁石との距離とのうち短い方の距離を、前記第1乃至第4の磁石の厚みの平均値で除した値が、2.5以上5以下である
請求項2記載のプラズマ源。
【請求項6】
前記第1乃至第4の磁石が、前記第1乃至第3の電極を含むセルに対して脱着可能である
請求項1乃至5のいずれか1つ記載のプラズマ源。
【請求項7】
請求項6記載のプラズマ源と、
前記プラズマ源の前記セルと連通した冷却原子生成部と、
を含む原子時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ源及び当該プラズマ源を用いた原子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
超高真空で封止された小型セルは様々な革新的なデバイスに応用が期待される。こうした超高真空の小型セルは、中真空(10-1乃至1Pa)程度で気密封止された後、セルを外部から超高真空ポンプを用いて更に排気することで実現される。一般的に超高真空ポンプとしてはイオンポンプが広く使われており、イオンポンプ内部には高効率な放電が可能なプラズマ源が用いられる。
【0003】
小型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)真空ポンプとして、イオンポンプと同様の構造をMEMSプロセス(微細加工と陽極接合)により実現する技術が知られている。この技術では、第1の磁石のN極と第2の磁石のS極とを対向させ、第1の磁石側にシリコンの第1のカソード電極と、第2の磁石側にシリコンの第2のカソード電極と、第1のカソード電極と第2のカソードとの間に空間を設けるようにシリコンのアノード電極とを配置している。このような小型のMEMS真空ポンプでは、10-5Pa程度以下の超高真空状態で高効率に放電するのは難しい。
【0004】
また、中心にカソード電極、その外側でカソード電極を囲うようにカソード電極と略同一面にアノード電極を配置し、異なる磁極が対向するようにカソード電極及びアノード電極の上下に磁石を配置するような他の技術も知られている。これにより、電子を閉じ込めて放電を行い、残留ガスに電子を衝突させて、排気するものである。このような技術でも、10-5Pa程度以下の超高真空状態で高効率に放電できるわけではない。
【0005】
一方、基板上に膜を成膜する方法として、マグネトロンスパッタリング法が知られており、そのための成膜装置には、下側にN極、S極、N極といった並びで磁石を配置し、下側の磁石に対向するように上側にS極、N極、S極といった並びで磁石を配置する技術が存在している。しかし、この技術では基板への成膜が目的となっているので、この技術を超高真空状態での高効率な放電という問題に対してそのまま適用できるわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-26559号公報
【文献】特開昭63-303065号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】T.Grzebyk et.al.,"MEMS ion-sorption high vacuum pump", Journal of Physics: Conference Series 773 (2016) 012047
【文献】T.Grzebyk et.al.,"Magnetron-like miniature ion source", Vacuum 151 (2018) 167-174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、一側面として、超高真空状態での高効率な放電を可能とする小型のプラズマ源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面に係るプラズマ源は、(A)第1の磁石と、(B)第1の磁石の第1の磁極に対して当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が対向するように配置された第2の磁石と、(C)第1の磁石の第1の磁極の向きと同じ方向に当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が向けられ、第1の磁石を囲うように配置された第3の磁石と、(D)第3の磁石の第2の磁極に対して当該第2の磁極とは異なる第1の磁極が対向し、第2の磁石を囲うように配置された第4の磁石と、(E)第1の磁石の第1の磁極及び第3の磁石の第2の磁極の側に設けられる第1の電極と、(F)第1の電極に対向し、第2の磁石の第2の磁極及び第4の磁石の第1の磁極の側に設けられる第2の電極と、(G)第1の電極及び第2の電極より高電位となるように電圧が印加されるようになっており、第1の電極と第2の電極との間に配置される第3の電極とを有する。そして、第1の磁石と第2の磁石との間の第1の空間と第3の磁石と第4の磁石との間の第2の空間とにおける、第2の磁石から第1の磁石への第1の方向の最大の磁場強度|By(max)|と、上記第1の方向の最小の磁場強度|By(min)|とが、|By(min)|/|By(max)|≧0.1を満たしている。また、第1の空間と第2の空間とに挟まれた第3の空間における、第1の方向と直交する第2の方向の最大の磁場強度|Bx(max)|と、第2の方向の最小の磁場強度|Bx(min)|とが、|Bx(min)|/|Bx(max)|≦0.1を満たしている。
【0010】
本発明の第2の側面に係るプラズマ源は、(A)第1の磁石と、(B)第1の磁石の第1の磁極に対して当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が対向するように配置された第2の磁石と、(C)第1の磁石の第1の磁極の向きと同じ方向に当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が向けられ、第1の磁石を囲うように配置された第3の磁石と、(D)第3の磁石の第2の磁極に対して当該第2の磁極とは異なる第1の磁極が対向し、第2の磁石を囲うように配置された第4の磁石と、(E)第1の磁石の第1の磁極及び第3の磁石の第2の磁極の側に設けられる第1の電極と、(F)第1の電極に対向し、第2の磁石の第2の磁極及び第4の磁石の第1の磁極の側に設けられる第2の電極と、(G)第1の電極及び第2の電極より高電位となるように電圧が印加されるようになっており、第1の電極と第2の電極との間に配置される第3の電極とを有する。そして、第1の磁石と第2の磁石との距離と第3の磁石と第4の磁石との距離とのうち短い方の距離を、第1乃至第4の磁石の厚みの平均値で除した値が、1以上10以下である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1の実施の形態に係るプラズマ源の概要を示す図である。
図2図2は、第1の実施の形態に係るプラズマ源の概要を示す図である。
図3図3は、第1の実施の形態に係るプラズマ源における磁石配置などを説明するための図である。
図4図4(a)乃至(c)は、磁石間距離比毎の磁力線分布の例を示す図である。
図5図5(a)乃至(c)は、磁石間距離比毎の磁力線分布の例を示す図である。
図6図6は、Y方向の磁力強度分布の例を示す図である。
図7図7は、X方向の磁力強度分布の例を示す図である。
図8図8は、第1の実施の形態に係るプラズマ源の効果を説明するための図である。
図9図9は、プラズマ源をイオンポンプとして用いる場合の構成例を示す図である。
図10図10は、小型冷却原子時計の概要を示す図である。
図11図11は、小型冷却原子時計の概要を示す図である。
図12図12は、プラズマ源を真空ポンプとして用いる場合の実施例を示す図である。
図13図13は、プラズマ源を真空ポンプとして用いる場合の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態1]
図1に本実施の形態に係るプラズマ源の構成例を示す。本実施の形態に係るプラズマ源は、図1(a)に示すヨーク1100と、図1(b)に示すセル部1500との組み合わせである。ヨーク1100は、上側アーム1200と、下側アーム1300とを有しており、上側アーム1200と下側アーム1300との間には空隙1400が設けられている。この空隙1400に、セル部1500を挿入するようになっている。すなわち、空隙1400の縦方向の長さは、セル部1500の厚みより若干長くなっている。
【0013】
上側アーム1200は、円柱状磁石1220と、当該円柱状磁石1220を囲う円筒状磁石1210とを含む。すなわち、円筒状磁石1210の内径は、円柱状磁石1220の直径より大きい。好ましくは、円柱状磁石1220の上面から見た中心点と、円筒状磁石1210の上面から見た中心点は一致するように配置する。また、好ましくは、円筒状磁石1210の厚みと円柱状磁石1220との厚みは同じであり、同じ強度の磁石を用いる。さらに、好ましくは、円筒状磁石1210の下面と、円柱状磁石1220の下面とは、上側アーム1200の下面と一致するように配置する。
【0014】
下側アーム1300は、円柱状磁石1320と、当該円柱状磁石1320を囲う円筒状磁石1210とを含む。すなわち、円筒状磁石1310の内径は、円柱状磁石1320の直径より大きい。好ましくは、円柱状磁石1320の上面から見た中心点と、円筒状磁石1310の上面から見た中心点は一致するように配置する。また、好ましくは、円筒状磁石1310の厚みと円柱状磁石1320との厚みは同じであり、同じ強度の磁石を用いる。さらに、好ましくは、円筒状磁石1310の上面と、円柱状磁石1320の上面とは、下側アーム1300の上面と一致するように配置する。なお、図1(a)において参照符号が振られていない円柱状の要素は、以下の説明では関係ない設計上の接続部などであるから、説明を省略する。
【0015】
なお、さらに好ましくは、円筒状磁石1210及び1310と、円柱状磁石1220及び1320とは、同じ強度の磁石である。例えば、磁石には、ネオジムやサマリウムコバルトの磁石が想定される。さらに、好ましくは、円柱状磁石1220と円柱状磁石1320の形状は同じであり、円筒状磁石1210と円筒状磁石1310の形状も同じである。さらに、好ましくは、円柱状磁石1220の上面から見た中心点と、円筒状磁石1210の上面から見た中心点と、円柱状磁石1320の上面から見た中心点と、円筒状磁石1310の上面から見た中心点とは一致するように配置する。
【0016】
セル部1500は、例えばシリコンからなる平板状の上部電極1510と、例えばシリコンからなる平板状の下部電極1530と、例えばガラスからなるスペーサ1541乃至1543等と、上部電極1510と下部電極1530との間にスペーサ1541乃至1543等により保持され且つ穴1521が設けられた平板状の電極1520とを有する。なお、スペーサについては、例えば、スペーサ1541及び電極1520の下のスペーサのように、図示の都合で図1には現れていないものもある。電極1520には、上部電極1510及び下部電極1530より高い電位の電圧が印加される。例えば、上部電極1510及び下部電極1530は接地され、電極1520には正の電圧が印加される。好ましくは、上部電極1510と下部電極1530との中間に電極1520を保持する。また、好ましくは、穴1521は、円形であり、その直径は、円筒状磁石1210及び1310の内径以上とする。さらに好ましくは、穴1521の中心と、円柱状磁石1220及び1320の上面から見た中心点とを一致させる。但し、穴1521の形状は任意である。穴1521は、図3に示す空間1700を形成するために空けられており、上部電極1510に対して下部電極1530を完全には遮蔽しないようにしている。
【0017】
図1(b)において、図示の都合でセル部1500の左右に空きがあるように示されているが、スペーサを適切に追加配置するか形状を変更することで密閉空間を形成することが出来る。
【0018】
図2に、ヨーク100とセル部1500とを組み合わせた状態を模式的に示す。以下、詳細な構成について説明するため、一点鎖線A-A'で切断し、その断面を矢印方向に見た場合を説明する。
【0019】
図3は、上記断面の概略を示す図である。本実施の形態では、円柱状磁石1220は、対向する円柱状磁石1320の方にS極を向けており、円柱状磁石1320は、対向する円柱状磁石1220の方にN極を向けている。円筒状磁石1210は、対向する円筒状磁石1310の方にN極を向けており、円筒状磁石1310は、対向する円筒状磁石1210の方にS極を向けている。なお、S極とN極とは逆にしても良い。このような磁石配置を行うことで、上部電極1510と下部電極1530で挟まれ、スペーサ1541乃至1543等及び電極1520でさらに囲まれる空間1700内に、図示したような磁力線が生じる。本実施の形態では、円柱状磁石1220及び1320と円筒状磁石1210及び1310による磁気回路によって、高密度にプラズマを閉じ込めるため一定強度以上のマグネトロン磁場Q及び平行磁場Pを生成する。ここで、下側アーム1300から下側アーム1300に対向する上側アーム1200への方向をY方向とし、Y方向に直交する方向をX方向とする。電子は、磁力線が疎から密(磁場強度が弱から強)に対しては進行できずに跳ね返される。電子は、マグネトロン磁場QによりY方向には進めない。また、電子は、上下にあるマグネトロン磁場Qの間ではゼロ磁場領域が発生するので、ゼロ磁場領域から磁力線を横切って進むことも出来ない。さらに、X方向にも同様に平行磁場Pにより進むことが出来ない。このため、領域Rにプラズマが閉じ込められ、高密度なプラズマを生成することが出来る。
【0020】
なお、図3では、図示の都合上、電極の厚みが強調されている。一例として、円柱状磁石1220及び1320の直径は7mmであり、円筒状磁石1210及び1310の外径は20mm、内径は10mmである。また、上部電極1510と下部電極1530との間の距離は、4.4mmである。なお、本実施の形態では、小型のプラズマ源を想定しており、上部電極1510と下部電極1530の距離は、長くても20mm程度を想定している。これを実現させるためにはデバイ長さ(プラズマの大きさ)λDが上記距離の1/10以下(上下2つプラズマが生成されるので1mm以下)となる。より具体的には、10-4Paの真空度でデバイ長さが1mm以下である。デバイ長さ(プラズマの大きさ)が上記距離の1/10を超えてくると、電極から生成される荷電粒子の数より壁に衝突して消失する荷電粒子が多くなり、プラズマが維持できなくなる。
【0021】
図3で示したような磁石配置のみでは、上で述べたような高密度なプラズマを生成することは出来ない。本実施の形態では、上側アーム1200における磁石と、当該磁石に対向する、下側アーム1300の磁石との距離のうち最短距離を、用いられている磁石の厚みの平均値で除した値を、磁石間距離比と定義する。図3に示すような例では、磁石の厚みは全て同じTであり、上側アーム1200における磁石と当該磁石に対向する、下側アーム1300の磁石との距離も全て同じLである。このような場合には、L/Tが磁石間距離比となる。
【0022】
磁石間距離比L/Tが小さな値、例えば0.5といった値の場合には、図4(a)に模式的に示すシミュレーション結果のように、磁石が近すぎて十分な強度のマグネトロン磁場が生成できていない。磁石間距離比L/Tが増加して例えば1.0になると、図4(b)に模式的に示すシミュレーション結果のように、マグネトロン磁場が生成されて高密度なプラズマを生成できるようになる。さらに磁石間距離比L/Tが増加して例えば2.5になると、十分な強度のマグネトロン磁場及び平行磁場が生成される。さらに磁石間距離比L/Tが増加して例えば5.0でも、図5(a)に模式的に示すシミュレーション結果のように、十分な強度のマグネトロン磁場及び平行磁場が生成される。さらに磁石間距離比L/Tが増加して例えば10になると、図5(b)に模式的に示すシミュレーション結果のように、マグネトロン磁場が支配的になってはいるが、平行磁場もある程度形成されている。さらに磁石間距離比L/Tが増加して例えば20になると、図5(c)に模式的に示すシミュレーション結果のように、平行磁場がほとんど生成されておらず、マグネトロン磁場が支配的になっており、プラズマ閉じ込めが出来なくなる。
【0023】
以上のシミュレーション結果からすると、磁石間距離比L/Tが1以上10以下であれば、一般的なプラズマ源として用いることが出来る。また、より高密度なプラズマ閉じ込めを行うには、磁石間距離比L/Tが2.5以上5以下にすることが好ましい。
【0024】
また、十分な強度の平行磁場及びマグネトロン磁場を生成できる別の指標についても説明する。ここでも、下側アーム1300の磁石から上側アーム1200の磁石への方向をY方向とし、それに直交する方向をX方向とする。平行磁場はY方向の磁場であり、マグネトロン磁場はX方向の磁場である。このとき、下側アーム1300の磁石と、当該磁石に対向する、上側アームの磁石との距離が最も短い磁石ペア(円柱状磁石1220及び1320、又は円筒状磁石1210及び1310)の間の空間において、最強の磁場強度|By(max)|を探索する。図6に、図3のような磁石配置の場合におけるY方向の磁場強度を模式的に示す。なお、黒いほど磁場強度の絶対値が大きい。この例では、円柱状磁石1220と円柱状磁石1320の距離と、円筒状磁石1210と円筒状磁石1310の距離は同じであるが、ここでは円柱状磁石1220及び1320の磁石ペアに着目する。そうすると、円柱状磁石1220及び1320の表面(白太点線)で、最強の磁場強度|By(max)|が得られる。また、最強の磁場強度|By(max)|が得られた磁石ペア(すなわち円柱状磁石1220及び1320)の間の空間において、最弱の磁場強度|By(min)|を探索する。図3のような磁石配置では、|By(max)|が得られた円柱状磁石1220及び1320の表面(白太点線)に垂直な線分の中点を通り且つ当該線分に垂直な面内(中央の白太点線)において、最弱の磁場強度|By(min)|が得られる。そして、|By(min)|/|By(max)|を指標値として、|By(min)|/|By(max)|≧0.1となると好ましい平行磁場が生成される。これは、磁石から出ている磁場が乱れずに全ての磁束がN極からS極へ向かうことが好ましく、それを判定するための基準である。なお、|By(min)|=|By(max)|で指標値は1となるので、1>|By(min)|/|By(max)|である。
【0025】
一方、マグネトロン磁場はx方向の磁場であり、X方向の磁場強度に着目する。このとき、円柱状磁石1220と円柱状磁石1320との間の空間と、円筒状磁石1210と円筒状磁石1310との間の空間とで挟まれる空間Wにおいて、最強の磁場強度|Bx(max)|を探索する。図7に、図3のような磁石配置の場合におけるX方向の磁場強度を模式的に示す。ここでも黒いほど磁場強度の絶対値が大きい。このような場合には、円柱状磁石1220と円筒状磁石1210の端部を結ぶ線分の中点と、円柱状磁石1320と円筒状磁石1310の端部を結ぶ線分の中点に、最強の磁場強度|Bx(max)|が得られる。また、同じ空間Wにおいて、最弱の磁場強度|Bx(min)|を探索する。図3のような磁石配置では、|Bx(max)|が得られた位置を繋ぐ線分の中点において、最弱の磁場強度|Bx(min)|が得られる。そして、|Bx(min)|/|Bx(max)|を指標値として、|Bx(min)|/|Bx(max)|≦0.1となると好ましいマグネトロン磁場が生成される。ゼロ磁場領域とマグネトロン磁場で形成される高強度磁場のコントラストが強い方が良いということを表している。なお、|Bx(min)|=0で指標値は0となるので、0≦|Bx(min)|/|Bx(max)|である。
【0026】
なお、より好ましくは、|By(min)|/|By(max)|≧0.3、|Bx(min)|/|Bx(max)|≦0.03である。
【0027】
以上のように、図3に示すような基本的な磁石配置と、図4及び図5を用いて説明した詳細な磁石配置、又は図6及び図7を用いて説明した詳細なマグネトロン磁場及び平行磁場構成とにより、高密度なプラズマ閉じ込めが可能となる。
【0028】
図3に示すような磁石配置の場合と平行磁場のみを生成させる磁石配置の場合とについて、真空度とイグニッション電圧との関係を図8に示す。なお、磁石なしの場合には、電極外で放電してしまい、電極間の空間では放電しなかった。図8において、マグネトロン磁場と平行磁場とを生成する場合は丸印で示されており、平行磁場のみを生成させる場合は四角印で示されている。10乃至10-1Pa程度までは、マグネトロン磁場を生成したとしても、平行磁場のみの場合と略同程度の電圧でイグニッションしていた。しかしながら、図8から分かるように、10-1Pa以下の高真空状態では明らかに、マグネトロン磁場をも生成した方が、イグニッション電圧が低く、放電しやすかった。すなわち、10-1Pa以下の高真空状態でプラズマの生成効率が向上していることが分かる。10-6Pa以下の超高真空状態でプラズマの生成効率が向上していることが期待される。
【0029】
[実施の形態2]
第1の実施の形態で示したプラズマ源は、イオンポンプに応用できる。イオンポンプとして用いる場合には、図3に示すような構成において、図9に示すように、上部電極1510の下側アーム1300側の面にTi膜1610を形成し、下側電極1530の上側アーム1200側の面にTi膜1620を形成しておく。
【0030】
イオンポンプでは、プラズマ中のイオンが陰極である上部電極1510及び下部電極1530に向かい、表面に成膜したTi膜1610及び1620のTi原子に衝突し、Ti原子は四方に飛び散る。すなわち、スパッタされる。スパッタされたTi原子は、電極1520にもTi膜を形成する。さらに、スパッタされたTi原子は、活性ガスを化学的に吸着して真空度が高くなる。また、不活性ガスであっても、電子との衝突でイオン化して、陰極である電極1510及び1530内部やTi膜1610及び1620に閉じ込められる。このため、さらに真空度が高くなる。
【0031】
[実施の形態3]
第2の実施の形態に係る真空ポンプは、小型冷却原子時計に応用できる。図10に、小型冷却原子時計において真空ポンプと関連する部分を、真空ポンプの構成と共にその概略を示す。ヨーク1100の上側アーム1200と下側アーム1300との間に挟まれるセル部1500と原子時計部1800とは一体化されており、セル部1500に設けられている内部の空間1700と、原子時計部1800の冷却原子生成部1810とは、上部電極1510と電極1520の間の空間1830と電極1520と下部電極1530の間の空間1840とで連通している。
【0032】
まず、図11に示すように、ヨーク1100の上側アーム1200と下側アーム1300の間に、セル部1500を差し込んで、上部電極1510及び下部電極1530と電極1520との間に電圧をかけることで、セル部1500の空間1700にプラズマを生成させて、空間1700と共に冷却原子生成部1810を真空排気する。但し、冷却原子生成には、磁場による悪影響があるので、図10に示すように、ヨーク1100からセル部1500及び原子時計部1800を分離する。このように、磁石を含むヨーク1100と、セル部1500及び原子時計部1800とを着脱可能な構成とすることで、小型冷却原子時計を適切に運用できるようになる。
【0033】
このような小型冷却原子時計は、自動車等の移動体の高精度測位、第5及び第6世代の移動通信基地局はもとより、モバイル、クラウド、電子商取引といったネットワーク通信における基準時間、工業や先端科学技術(地球探査や重力波計測)における精密計測等の要として、現代社会のあらゆる活動に欠かせないインフラとしての需要がある。但し、実施の形態に係るプラズマ源は、イオンビーム用のイオン発生源や光源等に用いることが出来る。
【0034】
以上本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、磁石間距離比L/T及び|By(min)|/|By(max)|及び|Bx(min)|/|Bx(max)|といった指標値に関する数値以外の数値は、磁石間距離比L/T及び|By(min)|/|By(max)|及び|Bx(min)|/|Bx(max)|といった指標値に関する数値を実現するために変更しても良い。また、円筒状磁石1210及び1310については、複数の磁石を組み合わせて円筒状にしても良い。また、円柱状磁石1220及び1320も円筒状磁石1210及び1310も、円ではない形であっても良い。
【0035】
さらに、円筒状磁石1210と円筒状磁石1310との距離と、円柱状磁石1220と円柱状磁石1320との距離とを同じにした例を多く図示したが、異なるようにしても良い。また、図3などでは、プラズマ源が軸対称となっている例を示しているが、必ずしも軸対称でなくても良い。
【0036】
[小型真空ポンプとしての実施例について]
図12に、実験方法を示す図を示す。図12に示すように、容積280cmのガラス管内に、第2の実施の形態に係る真空ポンプ2000を入れ、フィードスルー電極により気密封止した状態でガラス管外部から電圧を印加できるようにした。ガラス管に取り付けたターボ分子ポンプ(TMP:TurboMolecular Pump)により真空排気し、電離真空計によりガラス管内部の真空度をモニタした。
【0037】
ガラス管をターボ分子ポンプにより1×10-6Paまで真空排気した後にベローズバルブを閉じてガラス管を封止した。封止した際にOリングやガラス管内壁に吸着している脱ガスが原因でバルブを閉じた直後から真空度が悪化する。圧力の上昇を評価したところ3×10-3Pa/minであった。バルブを閉じて1×10-2Paまで真空度が悪化したところで真空ポンプ2000の陰極及び陽極に1.2kVの電圧を印加して放電を6分間試みた。その後さらに1.5kV及び1.8kVの電圧をそれぞれ6分間ずつ印加して放電を試みた。
【0038】
その結果、図13に示すように電圧を印加する前の圧力が1×10-2Paであったのに対して、真空ポンプ2000に1.2kVの電圧を印加して放電を6分間させたところ2.7×10-3Pa、1.5kVの電圧を印加して放電を6分間させたところ1.8×10-3Paまで圧力が下がり、最終的に1.8kVの電圧を印加して放電を6分間させたところ1.7×10-3Paまで圧力を下げることができた。これにより、第1の実施の形態に係るプラズマ源を利用すれば真空排気が可能であると言える。
【0039】
本実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0040】
本実施の形態の第1の態様に係るプラズマ源は、(A)第1の磁石と、(B)第1の磁石の第1の磁極に対して当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が対向するように配置された第2の磁石と、(C)第1の磁石の第1の磁極の向きと同じ方向に当該第1の磁極とは異なる第2の磁極が向けられ、第1の磁石を囲うように配置された第3の磁石と、(D)第3の磁石の第2の磁極に対して当該第2の磁極とは異なる第1の磁極が対向し、第2の磁石を囲うように配置された第4の磁石と、(E)第1の磁石の第1の磁極及び第3の磁石の第2の磁極の側に設けられる第1の電極と、(F)第1の電極に対向し、第2の磁石の第2の磁極及び第4の磁石の第1の磁極の側に設けられる第2の電極と、(G)第1の電極及び第2の電極より高電位となるように電圧が印加されるようになっており、第1の電極と第2の電極との間に配置される第3の電極とを有する。そして、第1の磁石と第2の磁石との間の第1の空間と第3の磁石と第4の磁石との間の第2の空間とにおける、第2の磁石から第1の磁石への第1の方向の最大の磁場強度|By(max)|と、第1の方向の最小の磁場強度|By(min)|とが、|By(min)|/|By(max)|≧0.1を満たしており、第1の空間と第2の空間とに挟まれた第3の空間における、第1の方向と直交する第2の方向の最大の磁場強度|Bx(max)|と、第2の方向の最小の磁場強度|Bx(min)|とが、|Bx(min)|/|Bx(max|≦0.1を満たしている。
【0041】
このような磁場強度分布を有するように第1乃至第4の磁石を配置することで、超高真空状態での高効率な放電を可能とする小型のプラズマ源が得られるようになる。なお、より好ましくは、|By(min)|/|By(max)|≧0.3、|Bx(min)|/|Bx(max)|≦0.03である。
【0042】
本実施の形態の第2の態様に係るプラズマ源は、第1の態様に係るプラズマ源における(A)乃至(G)と同様の構成要素を有する。そして、第1の磁石と第2の磁石との距離と第3の磁石と第4の磁石との距離とのうち短い方の距離を、第1乃至第4の磁石の厚みの平均値で除した値が、1以上10以下である。
【0043】
このような磁石サイズ及び磁石配置を採用することで、超高真空状態での高効率な放電を可能とする小型のプラズマ源が得られるようになる。
【0044】
なお、上で述べた第1の磁石及び第2の磁石が円柱状であり、第3の磁石及び第4の磁石が円筒状であってもよい。軸対称の方が効率の観点からすると好ましい。
【0045】
また、第2の態様に係るプラズマ源では、第1の磁石と第2の磁石との距離と第3の磁石と第4の磁石との距離とのうち短い方の距離を、第1乃至第4の磁石の厚みの平均値で除した値が、2.5以上5以下であることがより好ましい。より高密度なプラズマ閉じ込めが可能となる。
【0046】
さらに、上で述べた第1乃至第4の磁石は、第1乃至第3の電極を含むセルに対して脱着可能であっても良い。このようにすれば、プラズマ源を例えばイオンポンプとして用いた後、磁石の磁力が悪影響を及ぼすような場合には、第1乃至第4の磁石を取り外してセルを用いることが出来るようになる。
【0047】
本実施の形態に係る原子時計は、第1乃至第4の磁石が第1乃至第3の電極を含むセルに対して着脱可能なプラズマ源と、プラズマ源の上記セルと連通した冷却原子生成部とを含む。このようにすれば、プラズマ源によるイオンポンプで冷却原子生成部をも排気して超高真空状態を得ることが出来るようになる。そして、冷却原子生成時には、第1乃至第4の磁石をセルから分離することも出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13