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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】磁気ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
   F25B 21/00 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
F25B21/00 A ZAA
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024025523
(22)【出願日】2024-02-22
【審査請求日】2024-02-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2023年度秋期低温工学・超電導学会、海峡メッセ下関(山口県下関市)、2023年12月4日 〔刊行物等〕 2023年度秋期低温工学・超電導学会 講演概要集、公益社団法人低温工学・超電導学会、2023年12月4日発行、ISSN0919-5998
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】平野 直樹
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-255746(JP,A)
【文献】特開平09-035931(JP,A)
【文献】特開2007-147136(JP,A)
【文献】特開2016-020768(JP,A)
【文献】特開2022-068403(JP,A)
【文献】特開2022-136671(JP,A)
【文献】特開2012-023168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 21/00
H01F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物からの熱輸送を行う磁気ヒートポンプであって、
磁場の変動に伴い発熱状態または吸熱状態となる磁気作業物質と、
前記磁気作業物質に対して磁場を与える超伝導コイルと、
前記超伝導コイルとコンデンサとを直列に接続したLC共振回路と、
前記磁気作業物質と前記被冷却物との間で熱交換を行う熱交換機構とを備え
前記LC共振回路は、
前記超伝導コイルを回路から切り離した第1の状態、
前記コンデンサを回路から切り離し、前記超伝導コイルを含む閉回路を構成した第2の状態、
前記超伝導コイルと前記コンデンサとを直列に接続した第3の状態を相互に切り替えるための1以上のスイッチを備える磁気ヒートポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の磁気ヒートポンプであって、
前記LC共振回路における前記第1の状態を第1の保持時間だけ保持し、前記第2の状態を第2の保持時間だけ保持するように前記スイッチを制御するスイッチ制御部を備える磁気ヒートポンプ。
【請求項3】
請求項2記載の磁気ヒートポンプであって、
前記熱交換機構は、熱交換媒体を前記磁気作業物質との間で熱交換可能な流路で流す機構であり、
前記第1および第2の保持時間は、それぞれ前記熱交換媒体が、前記流路のうち、前記磁気作業物質と熱交換する部分を通過するのに要する時間以上となっている磁気ヒートポンプ。
【請求項4】
請求項2記載の磁気ヒートポンプであって、
前記スイッチは複数存在し、
前記スイッチ制御部は、前記第1~第3の状態の切り替えに際し、今まで開いていたいずれかの前記スイッチを閉じた後、今まで閉じていた前記スイッチを開くよう制御する磁気ヒートポンプ。
【請求項5】
請求項1記載の磁気ヒートポンプであって、
前記熱交換機構は、熱交換媒体を前記磁気作業物質との間で熱交換可能な流路で流す機構であり、
該流路は、
前記磁気作業物質が前記発熱状態にあるときの発熱時流路と、
前記磁気作業物質が前記吸熱状態にあるときの吸熱時流路とを備える磁気ヒートポンプ。
【請求項6】
請求項5記載の磁気ヒートポンプであって、
前記発熱時流路と前記吸熱時流路は、一部が共通の流路となっており、
前記流路は、さらに、前記発熱時流路と前記吸熱時流路とを切り替える切替弁を備える磁気ヒートポンプ。
【請求項7】
請求項5記載の磁気ヒートポンプであって、
前記超伝導コイルへの通電状態に連動させて、前記発熱時流路と、前記吸熱時流路を使い分ける流路制御部を備える磁気ヒートポンプ。
【請求項8】
請求項7記載の磁気ヒートポンプであって、
前記流路制御部は、前記超伝導コイルへの通電状態が、前記磁気作業物質を前記発熱状態にする通電状態から前記吸熱状態にする通電状態に変化するタイミングから、所定の時間遅らせて、前記発熱時流路から前記吸熱時流路への切り替えを行う磁気ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気作業物質に対して、超伝導コイルを用いて生成される変動磁場を加えることで冷却を行う磁気ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体ヘリウム以下の極低温に適用される冷凍機として、磁場に応じて発熱、吸熱を行う磁性材料(以下、「磁気作業物質」という。)を利用した磁気冷凍機が知られている。
例えば、特許文献1は、超伝導コイルの中心部分に磁気作業物質を配置するとともに、超伝導コイルと磁気作業物質との間の空間に磁気遮蔽体を往復動させる静止型磁気冷凍機を開示している。当該技術では、磁気遮蔽体の往復動に応じて磁気作業物質に磁場を作用させたり遮断させたりすることにより、磁気作業物質の発熱/吸熱を変化させ、冷凍を実現する。
また、特許文献2は、超伝導コイルと、磁気遮蔽体とを積み重ね、その内部に磁気作業物質を配置した構造の磁気冷凍機を開示する。当該技術では、磁性遮蔽体を往復動させて、超伝導コイルの内部に配置した状態と、磁気遮蔽体の内部に配置した状態とを切り替えることにより、磁気作業物質の発熱/吸熱を変化させ、冷凍を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平4-273956号公報
【文献】特開平6-151983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の磁気冷凍技術では、超伝導コイルによる磁場の発生については、超伝導状態を維持するための冷却が必要となるが、通電損失がないことからエネルギ効率の向上が図られているものの、磁気遮蔽体または磁気作業物質の往復動自体にエネルギが必要となり、全体としてエネルギ効率について改善の余地が残されていた。従って、磁気作業物質に作用する磁場を省エネルギで変動させる技術が求められていた。
本発明は、かかる課題に鑑み、省エネルギで磁場を変動させ、磁気冷凍を実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
被冷却物からの熱輸送を行う磁気ヒートポンプであって、
磁場の変動に伴い発熱状態または吸熱状態となる前記磁気作業物質と、
前記磁気作業物質に対して磁場を与える超伝導コイルと、
前記超伝導コイルとコンデンサとを直列に接続したLC共振回路と、
前記磁気作業物質と前記被冷却物との間で熱交換を行う熱交換機構とを備える磁気ヒートポンプと構成することができる。
【0006】
本発明では、LC共振回路を備えるため、超伝導コイルに流れる電流が共振周波数に対応する周期で変動し、これによって磁気作業物質に加えられる磁界が変動するため、冷却を実現することができる。しかも、超伝導は電気抵抗がゼロとなるから、LC共振回路に流れる電流は、外からエネルギを与えなくても、理論的には、ほとんど減衰することなく継続して流れる。
従って、本発明によれば、磁気作業物質を用いた冷却に要するエネルギを非常に小さく抑えることが可能となるのである。
【0007】
本発明において磁気作業物質としては、ガドリニウム他、種々の物質を利用することができる。
また、熱交換機構において磁気作業物質との間で熱交換を実現する部分についての形状・構造も任意に決めることができる。例えば、熱交換機構の一部を磁気作業物質の塊で構成してもよいし、磁気作業物質を用いた細線をメッシュ状に編むなどして構成してもよい。かかる細線は、例えば、磁気作業物質を銅その他の熱伝導性の良い金属で包んだ、いわゆるパウダーインチューブ製造技術により製造してもよい。
熱交換機構において、被冷却物との間で熱交換を行う部分については、例えば、熱交換媒体を流す機構としてもよいし、金属その他の熱伝導を利用してもよい。その他種々の構成を適用可能である。
なお、LC共振回路は、熱交換を効果的に実現するよう共振周波数を設定し、それを実現するように超伝導コイルのインダクタンス、コンデンサの静電容量を設計すればよい。共振周波数は、任意に決めることができるが、例えば、0.1Hz程度に低い周波数とすることができる。
【0008】
本日発明において、
前記LC共振回路は、
前記超伝導コイルを回路から切り離した第1の状態、
前記コンデンサを回路から切り離し、前記超伝導コイルを含む閉回路を構成した第2の状態、
前記超伝導コイルと前記コンデンサとを直列に接続した第3の状態を相互に切り替えるための1以上のスイッチを備えても良い。
【0009】
こうすることにより、第1の状態では、超伝導コイルに電流が流れない状態を維持することが可能となる。第2の状態では、超伝導コイルに電流を一定方向に流し続けることが可能となる。第3の状態では、超伝導コイルに流す電流を変動させることができる。
このように、上記態様によれば、それぞれの状態を分けることにより、磁気作業物質に加える磁界を制御することが可能となる。
【0010】
第1~第3の状態を切換可能とする態様においては、
前記LC共振回路における前記第1の状態を第1の保持時間だけ保持し、前記第2の状態を第2の保持時間だけ保持するように前記スイッチを制御するスイッチ制御部を備えても良い。
【0011】
磁気作業物質は、磁界の変化に応じて発熱状態と冷却状態が発現する。この意味では、超伝導コイルに電流が流れない第1の状態、及び超伝導コイルに一方向に電流が流れ続ける第2の状態は、発熱、冷却のいずれにも寄与しないように思われる。しかしながら、実際には、磁界の変動が止まったからといって即時に発熱や冷却が停止する訳ではない。上記態様では、第1の状態及び第2の状態をそれぞれ保持するように電流を制御することにより、磁界の変動が止まった後も磁気作業物質の発熱状態、冷却状態を維持することができる利点がある。
【0012】
このように第1及び第2の状態を保持する場合においては、
前記熱交換機構は、熱交換媒体を前記磁気作業物質との間で熱交換可能な流路で流す機構とし、
前記第1および第2の保持時間は、それぞれ前記熱交換媒体が、前記流路のうち、前記磁気作業物質と熱交換する部分を通過するのに要する時間以上としてもよい。
【0013】
こうすることにより、熱交換媒体が十分に熱交換を行うことができる利点がある。
【0014】
第1~第3の状態を切り替え可能とする場合、
前記スイッチは複数存在し、
前記スイッチ制御部は、前記第1~第3の状態の切り替えに際し、今まで開いていたいずれかの前記スイッチを閉じた後、今まで閉じていた前記スイッチを開くよう制御しても良い。
【0015】
一般に、電流が流れている状態で、突然、スイッチを開放して、電流が流れないようにすると、スイッチの部分でアーク放電が生じることがある。上記態様では、いずれかのスイッチを閉じることで、電流が流れる状態を確保した上で、他のスイッチを開放するため、アーク放電の発生を防ぐことができる。
【0016】
本発明においては、
前記熱交換機構は、熱交換媒体を前記磁気作業物質との間で熱交換可能な流路で流す機構であり、
該流路は、
前記磁気作業物質が前記発熱状態にあるときの発熱時流路と、
前記磁気作業物質が前記吸熱状態にあるときの吸熱時流路とを備えても良い。
【0017】
磁気作業物質が発熱状態にあるときは、その熱を外部に排出するように熱交換を行うことが好ましい。一方、磁気作業物質が冷却状態にあるときは、被冷却物との間で熱交換を行うことが好ましい。上記態様では、それぞれの状態に適した流路を備えるため、発熱状態、冷却状態の双方において、適切な熱交換を実現するすることが可能となる。
【0018】
発熱時流路と吸熱時流路を備える場合、両者を個別の系統として備えても良いが、
前記発熱時流路と前記吸熱時流路は、一部が共通の流路となっており、
前記流路は、さらに、前記発熱時流路と前記吸熱時流路とを切り替える切替弁を備えるようにしても良い。
【0019】
こうすることで、熱交換媒体やその流路を共用することができるから、発熱時流路と冷却時流路を個別に備えるよりも、簡易かつ低コストに構成することができる。
【0020】
発熱時流路と吸熱時流路を備える場合、
前記超伝導コイルへの通電状態に連動させて、前記発熱時流路と、前記吸熱時流路を使い分ける流路制御部を備えてもよい。
こうすることで、磁気作業物質の発熱、吸熱状態に同期して発熱時流路、吸熱時流路を使い分けることが可能となる。
【0021】
このように通電状態に連動して流路の切換えを行う場合、
前記流路制御部は、前記超伝導コイルへの通電状態が、前記磁気作業物質を前記発熱状態にする通電状態から前記吸熱状態にする通電状態に変化するタイミングから、所定の時間遅らせて、前記発熱時流路から前記吸熱時流路への切り替えを行うようにしても良い。
【0022】
吸熱状態に変化した直後に、発熱時流路から吸熱時流路への切り替えを行うと、発熱時に熱を受けた熱媒体が、吸熱時流路に流れ込む恐れがある。上記態様によれば、吸熱状態に切り替えた後、しばらく遅らせてから切り替えを行うため、こうした弊害を回避することができる。
【0023】
本発明は、以上で説明した種々の特徴を全て備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりして構成することができる。また、本発明は、磁気ヒートポンプの他、磁気作業物質を用いた磁気冷凍方法などの態様で構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】磁気ヒートポンプの構成を示す説明図である。
図2】スイッチング態様を示す説明図である。
図3】スイッチングのシーケンスを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例について、超伝導コイルと磁気作業物質を利用した磁気ヒートポンプとしての構成を例にとって説明する。水素が被冷却物となり、これを再凝縮して液体水素として貯槽するシステムとしての構成例である。被冷却極低温において冷凍を行うシステムである。
【0026】
図1は、磁気ヒートポンプの構成を示す説明図である。
密閉容器10内には、超伝導コイル31が設置されている。超伝導を実現するため超伝導コイル31は、冷却されているが、図の煩雑化を回避するため、この冷却機構は図示を省略した。
【0027】
超伝導コイル31の内部空間には、磁場の状態に応じて発熱/吸熱を生じる磁気作業物質30が設置されている。磁気作業物質30は、種々の素材で構成することができるが、本実施例では、ディスプロシウム合金(例えばDyNi)を用いるものとした。銅その他の熱伝導性の良好な素材で構成した中空の細線内にディスプロシウム合金の粉状体を充填した、いわゆるパウダーインチューブ製造技術により細線を製作し、これを編むことにより、磁気作業物質30を構成することができる。かかる構成に限らず、ディスプロシウム合金の塊などで構成しても差し支えない。もっとも、これらは一例であり、ガドリニウム合金(例えばGd5Ge4)を排除する趣旨ではない。
【0028】
熱交換媒体を流す流路21~24が磁気作業物質30を通り抜けるように設けられている。磁気作業物質30が、磁場の作用によって発熱/吸熱を生じると、それに応じた熱が、流路21~24内の熱交換媒体によって伝送される。
【0029】
流路21、22の上方、密閉容器10の外部には、排熱部20が取り付けられている。磁気作業物質30が発熱状態にあるとき、その熱は、流路21、22を通じて排熱部20に伝送され、密閉容器10から外部に排出される。
一方、被冷却物である水素貯槽12と磁気作業物質30との間には、熱スイッチ25が取り付けられている。熱スイッチ25は、一方向にのみ熱が伝達する素子である。熱スイッチ25は、周知の種々の素子を利用可能であるため、詳細な説明は省略する。熱スイッチ25を設けることにより、磁気作業物質30が吸熱時には、水素貯槽12から磁気作業物質30に熱が流れ、水素貯槽12の冷却が行われることになる。逆に、磁気作業物質30が吸熱時には、水素貯槽12への熱伝達が遮断され、水素貯槽12の冷却が阻害されるのを防ぐことができる。
【0030】
本実施例では、流路21~24は、一連の流路として熱交換媒体が循環するように構成した。その上で、流路の途中に切換機構26、27を設けた。
切換機構26は、排熱部20を迂回するように熱交換媒体を循環させるよう流路21、22間を短絡する機構である。磁気作業物質30が吸熱状態にあるときは、排熱部20を迂回することで、効果的に冷却を行うことができる。この状態は、吸熱時流路となる。
一方、切換機構27は、熱スイッチ25および水素貯槽12を迂回するように、流路23、24を短絡する機構である。磁気作業物質30が発熱状態にあるときは、被冷却物である水素貯槽12を迂回することで、水素貯槽12の冷却が阻害されることを防ぐことができる。この状態は、発熱時流路となる。
このように、吸熱時流路と発熱時流路とを切換可能とすることにより、吸熱時、発熱時の熱交換を効果的に行うことが可能となる。
実施例では、一連の流路の一部に切換機構26、27を設ける構成を示したが、吸熱時流路と発熱時流路とを個別の2系統の流路として構成しても差し支えない。
【0031】
超伝導コイル31は、電源33およびコンデンサ32を含む回路に接続されている。電源33は、系統電力、バッテリその他種々の電源を用いることができる。回路は、超伝導コイル31の両端に電源33およびコンデンサ32を並列に接続した状態となっている。また、超伝導コイル31とコンデンサ32の間には、両極を短絡する回路も形成されている。コンデンサ32と電源33との間にはスイッチ35が設けられ、短絡回路とコンデンサ32との間にはスイッチ36が設けられ、短絡回路にはスイッチ37が設けられている。これらのスイッチ35~37の開閉により、次の回路構成が実現される。
スイッチ35、36を閉じ、スイッチ37を開いた状態では、電源33および超伝導コイル31を接続する閉回路が形成される。スイッチ35を閉じるのは、この場合のみである。
スイッチ35~37を全て開いた状態では、超伝導コイル31、コンデンサ32、電源33のいずれも回路から切り離された状態となる。
スイッチ35、37を開き、スイッチ36を閉じた状態では、超伝導コイル31とコンデンサ32とを接続したLC共振回路が形成される。
スイッチ35、36を開き、スイッチ37を閉じた状態では、超伝導コイル31の両極を接続した回路が形成される。
【0032】
磁気ヒートポンプの動作は、制御装置40によって制御される。制御装置40は、内部にCPUおよびメモリを備えたコンピュータとして構成することができる。本実施例では、コンピュータプログラムをインストールすることによって、スイッチ35~37のスイッチングを行うスイッチング制御機能、および切換機構26、27を制御して発熱時流路、冷却時流路の切換を行う流路制御機能、排熱部20の動作を制御する排熱制御機能を、それぞれソフトウェア的に実現している。これらの機能の全部または一部をASICなどのハードウェアによって構成してもよい。
【0033】
図2は、スイッチング態様を示す説明図である。
最初に、スイッチ35、36を閉じ、スイッチ37を開いた状態で、電源33と超伝導コイル31を接続する閉回路を形成すると、超伝導コイル31に電流が流れ、初期充電が行われる(この状態は図示していない)。初期充電が完了すると、図2のそれぞれのスイッチング態様に入る。
【0034】
図2(a)に示すように、スイッチ37を閉じ、スイッチ36を開放すると、超伝導コイル31の両極を接続した閉回路が形成される。超伝導コイル31には既に電流が流れている状態なので、図2(a)では、一定方向(図中では時計回り)に電流が流れ続ける。
【0035】
図2(b)に示すように、スイッチ37を開放し、スイッチ36を閉じると、超伝導コイル31とコンデンサ32を接続したLC共振回路が形成される。超伝導コイル31に時計回りに流れていた電流は、今度は、コンデンサ32を含んで時計回りに流れるようになり、コンデンサ32に図示するように電荷が充電される。
コンデンサ32への充電とともに、超伝導コイル31に流れる電流は減少し、やがて0となる。
【0036】
このままで放置すれば、今度は、コンデンサ32から超伝導コイル31に逆向きに電流が流れ始め、LC共振回路による共振が開始されることになる。本実施例では、かかる共振を生じさせても差し支えないが、電流の流れる期間をより積極的に制御するため、超伝導コイル31への電流が0となった時点で、図2(c)に示すように、スイッチ36、37を開放する。こうすることで、超伝導コイル31、コンデンサ32の双方が回路から切り離された状態となり、コンデンサ32に充電されたまま、電流が流れない状態が維持される。
【0037】
次に、図2(d)に示すようにスイッチ37を開放したまま、スイッチ36を閉じる。こうすること、コンデンサ32を電源として、超伝導コイル31への通電が行われ、図示するように反時計回りに電流が流れるようになる。この状態は、コンデンサ32の電荷が完全に放出されるまで継続する。
【0038】
このままで放置すれば、今度は、超伝導コイル31からコンデンサ32への充電が始まりLC共振回路による共振が開始されることになる。かかる共振を生じさせても差し支えないが、電流の流れる期間をより積極的に制御するため、コンデンサ32の電荷が放出された時点で、図2(e)に示すように、スイッチ36を開放して、スイッチ37を閉じる。こうすることで、超伝導コイル31に反時計回りの電流が流れ続ける。
【0039】
次に、図2(f)に示すように、スイッチ36を閉じ、スイッチ37を開放すると、超伝導コイル31とコンデンサ32を接続したLC共振回路が形成される。超伝導コイル31に反時計回りに流れていた電流は、今度は、コンデンサ32を含んで反時計回りに流れるようになり、コンデンサ32に図示するように電荷が充電される。
コンデンサ32への充電とともに、超伝導コイル31に流れる電流は現象し、やがて0となる。
【0040】
超伝導コイル31への電流が0となった時点で、図2(g)に示すように、スイッチ36、37を開放する。こうすることで、超伝導コイル31、コンデンサ32の双方が回路から切り離された状態となり、コンデンサ32に充電されたまま、電流が流れない状態が維持される。
【0041】
次に、図2(h)に示すようにスイッチ37を開放したまま、スイッチ36を閉じる。こうすること、コンデンサ32を電源として、超伝導コイル31への通電が行われ、図示するように反時計回りに電流が流れるようになる。この状態は、コンデンサ32の電荷が完全に放出されるまで継続する。
そして、図2(a)の状態に戻る。
【0042】
以上のスイッチングを繰り返し実行する。図2(b)の状態は、超伝導コイル31への電流が減少する期間であるから、磁気作業物質30は冷却状態となる。図2(c)は電流が流れていないが、図2(b)での冷却状態がしばらく継続される。
図2(d)の状態は、超伝導コイル31への電流が増加する期間であるから、磁気作業物質30は発熱状態となる。図2(e)は電流が流れていないが、図2(d)での発熱状態がしばらく継続される。
同様に、図2(f)、図2(g)は冷却状態となり、図2(h)、図2(a)は発熱状態となる。
このように、本実施例では、図2に示したスイッチングを行うことにより、LC共振回路を利用して、外部からエネルギを加えなくても超伝導コイル31への電流を変化させることができ、磁気作業物質30を発熱状態、冷却状態に変化させることができる。
【0043】
図3は、スイッチングのシーケンスを示す説明図である。折れ線L36、L37にスイッチ36、37のON(閉)、OFF(開)の変化を示し、これに伴う電流の変化を曲線Cに模式的に示した。時間軸に付した(a)~(h)は、図2(a)~図2(h)の状態に対応している。
期間(a)(図2(a)に対応)では、スイッチ36がOFF、スイッチ37がONとなっており、電流は最大値で一定となっている。
期間(b)(図2(b)に対応)では、スイッチ36がON、スイッチ37がOFFとなり、コンデンサ32への充電とともに、電流が減っていく。これにより、磁気作業物質30は冷却状態となる。
期間(c)(図2(c)に対応)では、スイッチ36、37ともにOFFとなり、電流は0である。磁気作業物質30は冷却状態がしばらく維持される。
期間(d)(図2(d)に対応)では、スイッチ36がON、スイッチ37がOFFとなり、コンデンサ32を電源として逆方向の電流が徐々に増えていく。これにより、磁気作業物質は発熱状態となる。
期間(e)(図2(e)に対応)では、スイッチ36がOFF、スイッチ37がONとなり、逆向きの電流が最大値で一定となっている。磁気作業物質30は発熱状態がしばらく維持される。
期間(f)(図2(f)に対応)では、スイッチ36がON、スイッチ37がOFFとなり、コンデンサ32への充電とともに、逆向きの電流が減っていく。これにより、磁気作業物質30は冷却状態となる。
期間(g)(図2(g)に対応)では、スイッチ36、37ともにOFFとなり、電流は0である。磁気作業物質30は冷却状態がしばらく維持される。
期間(h)(図2(h)に対応)では、スイッチ36がON、スイッチ37がOFFとなり、コンデンサ32を電源として逆方向の電流が徐々に増えていく。これにより、磁気作業物質は発熱状態となる。
【0044】
図の下側に、期間(a)から期間(b)への切換時におけるスイッチングの詳細な手順を拡大して示した。この切換では、スイッチ36をOFFからONに、スイッチ37をONからOFFに切り換える。この時、スイッチ37をOFFに切り換えるタイミングが、スイッチ36をONに切り換えるタイミングよりも一瞬でも早くなると、スイッチ36、37の双方がOFFとなる瞬間が生じる。期間(a)のように電流が流れている状態で、このように双方のスイッチが突然、OFFになるとアーク放電が生じることが通常である。本実施例では、これを回避するため、図示するように、まずスイッチ36をONにした後、微小な時間dtを経過してから、スイッチ37をOFFとするようにスイッチングを制御するのである。こうすることで、アーク放電の発生を回避することができる。微小時間dtは、アーク放電を回避できる範囲で任意に決めることができる。
このようにスイッチのOFFを遅らせる制御は、期間(e)から期間(f)への切り換えの際も同様に適用される。
【0045】
図3には、切換機構26、27の切り換えのタイミングも黒の三角印B1~B4で示した。期間(a)から期間(b)に移行すると、磁気作業物質30は冷却状態となる。しかし、期間(a)では発熱状態にあるため、熱交換媒体は熱を受けた状態となっている。従って、期間(b)に入って直後に、熱交換媒体が被冷却物である水素貯槽12に流れる冷却時流路に切り換えを行うと、温度の高い熱交換媒体が水素貯槽12に流れるおそれがある。本実施例では、これを回避するため、期間(b)に移行して、しばらく経過したタイミングB1で冷却時流路への切り換えを行うようにした。移行から切り換えタイミングB1までの経過時間は、熱交換媒体の冷却状態などを踏まえて任意に決めることができる。
【0046】
次に、期間(c)から期間(d)への移行時には、磁気作業物質30は発熱状態となり、熱交換機構は、発熱時流路への切り換えを行うことになる。この場合は、水素貯槽12の冷却が阻害されるおそれがないため、移行と同時のタイミングB2で、発熱時流路への切り換えを行う。
もっとも、期間(c)から期間(d)への移行時にも、熱交換媒体の温度はしばらくは低いことを考慮し、タイミングB1と同様に、期間(d)への移行時から少し遅らせて切り換える方法を排除するものではない。
【0047】
期間(e)から期間(f)への切り換えも、タイミングB1と同じく、期間(f)に移行してしばらく経過してから冷却時流路への切り換えを行う。期間(g)から期間(h)への切り換えは、タイミングB2と同じく、期間(h)への移行と同時に発熱時流路への切り換えを行う。
こうすることにより、効果的な熱交換を実現することができる。
【0048】
図3で示した通り、本実施例のスイッチングのシーケンスでは、期間(a)、(e)のように一定の電流が流れる期間(これらを「最大電流保持期間」という)、および期間(c)、(g)のように電流が流れない期間(これらを「0電流保持期間」という)が設けられている。これらの期間は、磁気作業物質30への磁場は変化しないが、その直前の発熱状態、冷却状態が維持される。従って、最大電流保持期間、0電流保持期間を設けることにより、磁気作業物質30の発熱状態、冷却状態を十分に熱交換に利用することが可能となる。
最大電流保持期間、0電流保持期間は、任意に決めることができるが、磁気作業物質30の発熱状態、冷却状態を利用するためには、熱交換媒体が磁気作業物質30と熱交換を行う部分を流れるのに要する時間よりも長くすることが好ましい。
【0049】
また、磁気作業物質30が発熱状態または冷却状態になる時間は、期間(b)、(d)、(f)、(h)において電流の変化に要する時間で決まる。この時間は、超伝導コイル31のリアクタンスとコンデンサ32の静電容量で定まるLC共振回路の共振周波数によって決まることになる。従って、本実施例では、熱交換媒体との熱交換の時間を十分に確保できるように期間(b)、(d)、(f)、(h)を設定し、これを実現するようにLC共振回路を設計することが好ましい。期間(b)、(d)、(f)、(h)の時間は、少なくとも熱交換媒体が磁気作業物質30と熱交換を行う部分を流れるのに要する時間よりも長くすることが好ましい。
【0050】
以上で説明した実施例の磁気ヒートポンプによれば、超伝導コイル31に初期充電で貯蔵したエネルギを、超伝導コイル31とコンデンサ32のLC共振回路で周期的に流すことにより、外部からエネルギをほぼ供給しなくても、磁気作業物質30に与える磁場を変動させることができ、冷却に要するエネルギを抑制することができる利点がある。実際には、交流損失その他の要因により、LC共振回路を流れる電流は減衰していくが、これを補うためのわずかなエネルギ供給で冷却を維持することが可能となるのである。
【0051】
以上で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備える必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりすることが可能である。
また、本発明は、上述の実施例に限らず、種々の変形例を構成することができる。実施例では、水素の凝縮のための磁気ヒートポンプとしての例を示したが、本発明は、その他の用途に用いることもできる。かかる用途としては、例えば、核融合用コイルや超伝導電力貯蔵システム用の冷却システムなど水素の凝縮を目的としない冷凍または冷却システムとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、超伝導コイルを用いた変動磁場を磁気作業物質に与えることによる冷却に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 密閉容器
12 水素貯槽
20 排熱部
21、22、23、24 流路
25 熱スイッチ
26、27 切換機構
30 磁気作業物質
31 超伝導コイル
32 コンデンサ
33 電源
35、36、37 スイッチ
40 制御装置



【要約】
【課題】 磁気作業物質に変動磁場を与えて冷却を行う際の省エネルギ化を実現する。
【解決手段】 超伝導コイル31の内部に磁気作業物質30を配置する。超伝導コイル31には、スイッチ36を介してコンデンサ32を直列に接続する。またスイッチ37を介して超伝導コイル31の両端を接続する。こうすることで、電源33から超伝導コイル31に電流を流した後、電源33を切断しても、LC共振回路によって超伝導コイル31への電流を周期的に変化させ、磁気作業物質30を発熱状態、冷却状態に切り換えることができる。また、超伝導コイル31の両端を接続して一定の電流が流れ続ける状態、超伝導コイル31およびコンデンサ32をいずれも切り離して電流が流れない状態をとることで、一層、効果的な熱交換を実現する。以上により、変動磁場による冷却の省エネルギ化を実現できる。
【選択図】 図1

図1
図2
図3