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特許7544460樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240827BHJP
   B32B 27/08 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08L29/04 S
B32B27/08
B32B27/18 Z
B32B27/28 102
C08K5/09
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2016575273
(86)(22)【出願日】2016-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2016088316
(87)【国際公開番号】W WO2017110989
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-06-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2015253453
(32)【優先日】2015-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】小室 綾平
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】藤井 勲
【審判官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-83665(JP,A)
【文献】特開平4-227744(JP,A)
【文献】特開2001-348017(JP,A)
【文献】特開2012-153815(JP,A)
【文献】特開2002-60496(JP,A)
【文献】特開平8-239528(JP,A)
【文献】特開2001-81262(JP,A)
【文献】特開平8-52845(JP,A)
【文献】特開平7-118470(JP,A)
【文献】特開平8-239528(JP,A)
【文献】特開平7-118469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/00- 29/14
C08K 5/00- 5/59
B32B 27/00- 27/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)と、脂肪酸金属塩とを含有する樹脂組成物であって、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つであり、かつ、上記(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくとも2つが亜鉛塩であり、上記亜鉛塩の総含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.03重量部であり、上記樹脂組成物がヒンダードフェノール系酸化防止剤を含まないことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
上記炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)の含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.025重量部であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)の含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.025重量部であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
上記炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)の含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.025重量部であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む樹脂組成物層の少なくとも一方の面に、接着樹脂層を介して、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂層が積層されることを特徴とする多層構造体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む樹脂組成物層の少なくとも一方の面に、ポリアミド層が積層されることを特徴とする多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH」と略記することがある。)を用いて得られる樹脂組成物およびそれを用いた多層構造体に関するものであり、さらに詳しくは、多層共押出成形を適用した場合にも、外観不良の発生が抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化が改善された多層構造体を形成することのできる樹脂組成物、およびそれを用いた樹脂組成物層を含む多層構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や様々な物品を包装するための包装材料には、ガスバリア性、特に酸素バリア性が要求されることが多い。これは、酸素等によって包装内容物が酸化劣化する等の影響を防ぐためであり、また、食品の鮮度を長らく維持させるためである。このため、従来の包装材料では、酸素の透過を防ぐガスバリア層を設け、酸素等の透過を防止していた。
【0003】
従来の包装材料に一般的に設けられているガスバリア層としては、無機物からなるガスバリア層、有機物からなるガスバリア層をあげることができる。無機物からなるガスバリア層としては、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層等の金属層、または酸化ケイ素蒸着層や酸化アルミニウム蒸着層等の金属化合物層が使用されている。しかし、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層等の金属層は、包装内容物が見えないこと、廃棄性に劣る等の欠点がある。また、酸化ケイ素蒸着層や酸化アルミニウム蒸着層等の金属化合物層は、印刷、ラミネート等の二次加工の際の変形、輸送時の振動や衝撃、包装材の変形や落下等で割れが発生し、ガスバリア性が著しく低下する等の欠点がある。
【0004】
一方で、有機物からなるガスバリア層として、ポリ塩化ビニリデン系重合体からなる層や、ポリビニルアルコールおよびEVOH等のビニルアルコール系重合体からなる層が使用されている。ポリ塩化ビニリデン系重合体は、焼却廃棄する際に有害な塩素化合物が発生する等のおそれがあることから、近年使用量が大きく減少している。ポリビニルアルコールおよびEVOH等のビニルアルコール系重合体からなる層は透明であり、ガスバリア層の割れが比較的発生しにくく、廃棄面での問題が少ないという利点があるため、広く包装材料に用いられている。
【0005】
例えば、上記包装材料として、EVOHからなる層を中間層とし、接着性樹脂層やポリアミド層を介して、EVOH以外の熱可塑性樹脂(他の熱可塑性樹脂)を積層した多層構造体があげられる。このような多層構造体は、上述のとおり、その優れたガスバリア性および透明性を利用して、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の包装材料としてのフィルムやシート、あるいはボトル等の容器等に成形されて利用されている。
【0006】
近年は特に内容物への安心感が強く求められることから、内容物が外からでも確認できるよう、視認性(透明性)の高い多層構造体が好まれる傾向にある。
【0007】
かかる多層構造体の成形にあたっては、共押出成形が適用される場合が多い。このとき、成形条件によっては、EVOH樹脂組成物層とその隣接する層との積層界面で荒れが発生し、結果として多層構造体の外観(透明性)が低下する場合があった。
【0008】
一般に、EVOHの成形性改善を目的として、特許文献1には、高級脂肪酸が表面に付着したEVOHペレットが、特許文献2には、EVOHと周期律表第2族金属の脂肪酸金属塩からなる樹脂組成物が、特許文献3には、エチレン組成の異なる2種類のEVOHと高級脂肪酸亜鉛塩からなる樹脂組成物が、特許文献4には、脂肪酸金属塩がEVOHペレットの内部および外部表面にそれぞれ存在することを特徴とする樹脂組成物がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-092160号公報
【文献】特開2000-290455号公報
【文献】特開2015-083665号公報
【文献】特開2001-200123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1~4に記載された樹脂組成物は、近年の成形技術の高度化(例えば、フィードブロック・ダイ形状の多様化、成形装置の高機能化等)や多層構造体の高機能化(例えば、層数増加等)に伴って、多層共押出成形した際に、得られる多層構造体の外観、特に多層構造体の透明性が不充分であったり、成形条件次第では色調が悪化する等の問題が生じる場合があるため、さらなる改善が要望されていた。
【0011】
そこで、本発明はこのような背景下において、外観不良の発生が抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化が改善された多層構造体を形成することのできる樹脂組成物、およびそれを用いた樹脂組成物層を含む多層構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
しかるに本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、EVOH(A)と、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩を少なくとも2つ含有し、かつ(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくともつが亜鉛塩である樹脂組成物を用いることにより、例えば、多層共押出成形する場合、EVOH層/接着樹脂層およびEVOH層/ポリアミド層の少なくとも一方の積層界面で発生する界面荒れに起因する外観不良が抑制され、特に外観の低下が少ない多層構造体が得られ、かつ溶融成形時の色調悪化が改善されることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、EVOH(A)と、脂肪酸金属塩とを含有する樹脂組成物であって、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つであり、かつ(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくとも2つが亜鉛塩であり、上記亜鉛塩の総含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.03重量部であり、上記樹脂組成物がヒンダードフェノール系酸化防止剤を含まない樹脂組成物を第1の要旨とする。
【0014】
そして、本発明は、上記樹脂組成物からなる樹脂組成物層の少なくとも一方の面に、接着樹脂層を介して、上記樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂層が積層される多層構造体を第2の要旨とし、上記樹脂組成物からなる樹脂組成物層の少なくとも一方の面に、ポリアミド層が積層される多層構造体を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、EVOH(A)と、脂肪酸金属塩とを含有する樹脂組成物であって、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つであり、かつ(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくとも2つが亜鉛塩であり、上記亜鉛塩の総含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.03重量部であり、上記樹脂組成物がヒンダードフェノール系酸化防止剤を含まないことを特徴とする樹脂組成物である。このため、上記樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は、EVOH層/接着樹脂層およびEVOH層/ポリアミド層の少なくとも一方の積層界面で発生する界面荒れに起因する外観不良が抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化が改善された優れた多層構造体とすることができる。
【0017】
上記炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)の含有量が、上記EVOH(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.0345重量部である樹脂組成物であると、この樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は、EVOH層/接着樹脂層およびEVOH層/ポリアミド層の少なくとも一方の積層界面で発生する界面荒れに起因する外観不良がより一層抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化がより一層改善された優れた多層構造体とすることができる。
【0018】
上記炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)の含有量が、上記EVOH(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.0345重量部である樹脂組成物であると、この樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は、EVOH層/接着樹脂層およびEVOH層/ポリアミド層の少なくとも一方の積層界面で発生する界面荒れに起因する外観不良がより一層抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化がより一層改善された優れた多層構造体とすることができる。
【0019】
上記炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)の含有量が、上記EVOH(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.0345重量部である樹脂組成物であると、この樹脂組成物を用いて得られる多層構造体は、EVOH層/接着樹脂層およびEVOH層/ポリアミド層の少なくとも一方の積層界面で発生する界面荒れに起因する外観不良がより一層抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化がより一層改善された優れた多層構造体とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0021】
本発明は、EVOH(A)と、脂肪酸金属塩とを含有する樹脂組成物であって、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つであり、かつ、(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくともつが亜鉛塩であることを特徴とする樹脂組成物である。
以下、本発明の構成について詳細に説明する。
【0022】
<(A)EVOH>
本発明で用いるEVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行ない得る。
すなわち、本発明で用いるEVOH(A)は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、場合によってはケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を通常含むものである。
【0023】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等があげられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0024】
EVOH(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定した値であり、通常20~60モル%、好ましくは25~50モル%、特に好ましくは25~35モル%である。かかる含有量が少なすぎると、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0025】
EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定した値であり、通常90~100モル%、好ましくは95~100モル%、特に好ましくは99~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0026】
また、上記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが高すぎると、製膜性が低下する傾向がある。また、MFRが低すぎると溶融押出が困難となる傾向がある。
【0027】
また、本発明に用いられるEVOH(A)は、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
上記コモノマーは、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類や、2-プロペン-1-オール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類や、そのエステル化物である、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、特に、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等、アシル化物等の誘導体、2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーがあげられる。
【0028】
さらに、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0029】
特に、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOHは、二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも側鎖に1級水酸基を有するEVOH、特には、1,2-ジオールを側鎖に有するEVOHが好ましい。
【0030】
上記1,2-ジオールを側鎖に有するEVOHは、側鎖に1,2-ジオール構造単位を含むものである。上記1,2-ジオール構造単位とは、具体的には下記の一般式(1)で示される構造単位である。
【0031】
【化1】
【0032】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等があげられる。
【0033】
特に、上記一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位を含有する場合、その含有量は通常0.1~20モル%、さらには0.1~15モル%、特には0.1~10モル%のものが好ましい。
【0034】
また、本発明で使用されるEVOH(A)は、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、上記他のEVOHとしては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、上記一般式(1)で表わされる1,2-ジオール構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの等をあげることができる。
【0035】
本発明においては、樹脂組成物に脂肪酸金属塩が含有され、この脂肪酸金属塩は、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる少なくとも2つである。
【0036】
<(B)炭素数3~12の脂肪酸金属塩>
本発明において使用される炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)としては、例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸等の脂肪酸の塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩等の遷移金属塩)等をあげることができ、好適には発明の効果が得られやすい脂肪酸亜鉛塩(酪酸亜鉛、カプロン酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、ペラルゴン酸亜鉛、カプリン酸亜鉛、ウンデカン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛等)が用いられ、さらに熱安定性および価格の観点から、特にはラウリン酸亜鉛が用いられる。
【0037】
上記炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、金属換算で、通常0.0005~0.0345重量部であり、好ましくは0.0007~0.025重量部、さらに好ましくは0.01~0.02重量部である。かかる含有量が少なすぎると、発明の効果が不充分となり、含有量が多すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0038】
<(C)炭素数13~20の脂肪酸金属塩>
本発明において使用される炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)は、例えば、ミスチリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸等の脂肪酸の塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩等の遷移金属塩)等をあげる事ができ、好適には発明の効果が得られやすい脂肪酸亜鉛塩(ミスチリン酸亜鉛、パルチミン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキン酸亜鉛等)、脂肪酸マグネシウム塩(ミスチリン酸マグネシウム、パルチミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、アラキン酸マグネシウム等)、脂肪酸カルシウム塩(ミスチリン酸カルシウム、パルチミン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、アラキン酸カルシウム等)、が用いられ、さらに入手のしやすさおよび価格の観点から、特にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムが用いられる。
【0039】
上記炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、金属換算で、通常0.0005~0.0345重量部であり、好ましくは0.0007~0.025重量部、さらに好ましくは0.001~0.02重量部である。かかる含有量が少なすぎると、発明の効果が不充分となり、含有量が多すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0040】
<(D)炭素数21~29の脂肪酸金属塩>
本発明において使用される炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)は、例えば、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等の脂肪酸の塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩等の遷移金属塩)等をあげる事ができ、好適には発明の効果が得られやすい脂肪酸亜鉛塩(ベヘン酸亜鉛、リグノセリン酸亜鉛、セロチン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛等)が用いられ、さらに入手のしやすさおよび価格の観点から、特にはベヘン酸亜鉛が用いられる。
【0041】
上記炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、金属換算で、通常0.0005~0.0345重量部であり、好ましくは0.0007~0.025重量部、さらに好ましくは0.001~0.02重量部である。かかる含有量が少なすぎると、発明の効果が不充分となり、含有量が多すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0042】
<EVOH(A)に対する脂肪酸金属塩の含有量>
本発明において使用される炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の総含有量(B+C+D)は、EVOH(A)100重量部に対して、金属換算で、通常0.0005~0.06重量部であり、好ましくは0.0007~0.05重量部、さらに好ましくは0.001~0.04重量部である。かかる含有量が少なすぎると、発明の効果が不充分となり、含有量が多すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0043】
本発明は、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩を少なくとも2つ含有するものであるが、中でも発明の効果が得られやすい観点から、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)を含有することが好ましい。
【0044】
上記炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)の含有量の、上記炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)の含有量に対する比(B/C)は、金属換算で、通常0.01~70であり、好ましくは0.5~35、さらに好ましくは1~20、殊に好ましくは1.1~10である。かかる比率小さすぎると、発明の効果が不充分となり、比率が高すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0045】
上記炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)の含有量の、上記炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)の含有量に対する比(B/D)は、金属換算で、通常0.01~70であり、好ましくは0.5~35、さらに好ましくは1~20、殊に好ましくは1.1~10である。かかる比率小さすぎると、発明の効果が不充分となり、比率が高すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0046】
上記炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)の含有量の、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)と上記炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)との含有量に対する比(B/(C+D))は、金属換算で、通常0.01~70であり、好ましくは0.5~35、さらに好ましくは1~20、殊に好ましくは1.1~10である。かかる比率小さすぎると、発明の効果が不充分となり、比率が高すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0047】
<EVOH(A)に対する亜鉛塩の総含有量>
本発明の樹脂組成物の亜鉛塩の総含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、金属換算で、0.0005~0.03重量部であり、好ましくは0.0007~0.025重量部、さらに好ましくは0.001~0.02重量部、より好ましくは0.005~0.017重量部、特に好ましくは0.008~0.013重量部である。かかる含有量が少なすぎると、発明の効果が不充分となり、含有量が多すぎると熱安定性および色調安定性が低下する傾向がある。
【0048】
上記金属含有量は、例えば、本発明の樹脂組成物を灰化後、塩酸水溶液に溶解して、誘導結合プラズマ発光分析計(ICP-AES)によって測定を行い、標準液の検量線から金属の含有量を定量する方法等によって求めることができる。また、樹脂組成物中のEVOH(A)の含有量および脂肪酸金属塩の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより求めることができる。
【0049】
本発明においては、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つであり、かつ、上記(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくともつが亜鉛塩であればよい。
上記(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくともつが亜鉛塩であり、かつ少なくとも1つがマグネシウム塩もしくはカルシウム塩である場合、溶融成形時の色調悪化が改善されやすい傾向がある。また、上記(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩が全て亜鉛塩である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
【0050】
本発明においては、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)をそれぞれ少なくとも1つずつ用い、かつ、上記(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくともつが亜鉛塩である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。好ましくは、上記(B)、(C)、(D)が全て亜鉛塩である。
【0051】
<(E)他の熱可塑性樹脂>
本発明の樹脂組成物には、樹脂成分として、EVOH(A)以外に、他の熱可塑性樹脂(E)を、EVOH(A)100重量部に対して、通常30重量部以下となるような範囲内で含有してもよい。
【0052】
上記他の熱可塑性樹脂(E)としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独または共重合体、ポリ環状オレフィン、あるいはこれらのオレフィンの単独または共重合体を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド、共重合ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂があげられる。
【0053】
特に、本発明の樹脂組成物を用いてなる多層構造体を製造し、これを食品の包装材として用いた場合、上記包装材の熱水処理後に、包装材端部にてEVOH層が溶出することを防止する目的で、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。ポリアミド系樹脂は、アミド結合がEVOHのOH基およびエステル基の少なくとも一方との相互作用によりネットワーク構造を形成することが可能であり、これにより、熱水処理時のEVOHの溶出を防止することができる。従って、レトルト食品やボイル食品の包装材として本発明の樹脂組成物を用いる場合には、ポリアミド系樹脂を配合することが好ましい。
【0054】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。
具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーがあげられる。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-P-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-P-フェニレン・3-4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等があげられる。あるいは、これらの末端変性ポリアミド系樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド系樹脂である。
【0055】
上記末端変性ポリアミド系樹脂とは、具体的には例えば、炭素数1~22の炭化水素基で変性された末端変性ポリアミド系樹脂であり、市販のものを用いてもよい。より詳細には、例えば末端変性ポリアミド系樹脂の末端COOH基の数[X]と、末端CONR12基(但し、R1は炭素数1~22の炭化水素基、R2は水素原子または炭素数1~22の炭化水素基)の数[Y]が、
100×Y/(X+Y)≧5
を満足する末端変性ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。
【0056】
上記末端変性ポリアミド系樹脂は、通常の未変性ポリアミド系樹脂のカルボキシル基を末端調整剤によりN-置換アミド変性したものであり、変性前のポリアミド系樹脂が含有していたカルボキシル基の総数に対して5%以上変性されたポリアミド系樹脂である。かかる変性量が少なすぎると、ポリアミド系樹脂中のカルボキシル基が多く存在することとなり、かかるカルボキシル基が溶融成形時にEVOHと反応してゲル等を発生し、得られたフィルムの外観が不良となりやすい傾向がある。かかる末端変性ポリアミド系樹脂は、例えば特公平8-19302号公報に記載の方法にて製造することができる。
【0057】
他の熱可塑性樹脂(E)としてポリアミド系樹脂を用いる場合、EVOH/ポリアミド系樹脂の含有比は、重量比にて通常99/1~70/30であり、好ましくは97/3~75/25、特に好ましくは95/5~85/15である。ポリアミド系樹脂の重量比率が大きすぎる場合には、ロングラン成形性およびガスバリア性が低下する傾向がある。ポリアミド系樹脂の重量比率が小さすぎる場合には、熱水処理後のEVOHの溶出抑制効果が低下する傾向がある。
【0058】
<(F)無機フィラー>
本発明の樹脂組成物には、ガスバリア性を向上させる目的で、EVOH(A)(所望により、さらに他の熱可塑性樹脂(E))に加え、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる少なくとも2つの脂肪酸金属塩の他、さらに無機フィラー(F)を含有してもよい。
【0059】
上記無機フィラー(F)としては、よりガスバリア性を発揮させる点から、板状無機フィラーであることが好ましく、例えば、含水ケイ酸アルミニウムを主成分とし、粒子が板状となっているカオリン、層状ケイ酸鉱物である雲母やスメクタイト、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなるタルク等があげられる。これらのうち、カオリンが好ましく用いられる。カオリンの種類としては、特に限定せず、焼成されていても、いなくてもよいが、好ましくは焼成カオリンである。
【0060】
上記無機フィラー(F)の配合により、樹脂組成物のガスバリア性が一層向上する。特に板状無機フィラーの場合は、多層構造をしていることから、フィルム成形の場合には、板状無機フィラーの板状面がフィルムの面方向に配向されやすくなる。こうして、面方向に配向した板状無機フィラーが樹脂組成物層(例えば、フィルム)の酸素遮断に特に寄与することが推測される。
【0061】
上記無機フィラー(F)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、通常1~20重量部であり、好ましくは3~18重量部であり、より好ましくは5~15重量部である。かかる含有量が少なすぎるとガスバリア性向上効果が低下する傾向があり、多すぎると透明性が低下する傾向がある。
【0062】
<(G)酸素吸収剤>
本発明の樹脂組成物には、熱水処理(レトルト処理)後のガスバリア性を改善する目的で、EVOH(A)(所望により、さらに他の熱可塑性樹脂(E))に加え、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる少なくとも2つの脂肪酸金属塩の他、さらに酸素吸収剤(G)を含有してもよい。
【0063】
上記酸素吸収剤(G)とは、包装される内容物よりも素早く酸素を捕捉する化合物である。具体的には、無機系の酸素吸収剤、有機系の酸素吸収剤、無機触媒(遷移金属系触媒)と有機化合物を組み合わせて用いる複合型酸素吸収剤等があげられる。
【0064】
上記無機系酸素吸収剤としては、金属,金属化合物があげられ、これらと酸素が反応することにより酸素を吸収するものである。上記金属としては、水素よりもイオン化傾向の大きい金属(Fe、Zn、Mg、Al、K、Ca、Ni、Sn等)が好ましく、代表的には鉄である。これらの金属は、粉末状で用いられることが好ましい。鉄粉としては、還元鉄粉、アトマイズ鉄粉、電解鉄粉等、その製法等によらず、従来公知のものを特に限定されることなくいずれも使用可能である。また、使用する鉄は、一旦酸化された鉄を還元処理したものであってもよい。また、上記金属化合物としては酸素欠損型金属化合物が好ましい。ここで、酸素欠損型金属化合物としては、酸化セリウム(CeO2)や、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)等があげられ、これらの酸化物が還元処理により結晶格子中から酸素が引き抜かれて酸素欠損状態となり、雰囲気中の酸素と反応することにより酸素吸収能を発揮するものである。このような金属および金属化合物は、反応促進剤としてハロゲン化金属等を含有することも好ましい。
【0065】
上記有機系酸素吸収剤としては、例えば、水酸基含有化合物、キノン系化合物、二重結合含有化合物、被酸化性樹脂があげられる。これらに含まれる水酸基や二重結合に酸素が反応することにより、酸素を吸収することができる。上記有機系酸素吸収剤としては、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体およびその環化物等が好ましい。
【0066】
このような酸素吸収剤(G)の含有量は、EVOH(A)100重量部に対して、通常1~30重量部であり、好ましくは3~25重量部であり、より好ましくは5~20重量部である。
【0067】
<(H)その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物には、上記各成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内にて(例えば、樹脂組成物全体の5重量%以下にて)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;高級脂肪酸(例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸等)、高級脂肪酸エステル(高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、または低分子量ポリプロピレン);フッ化エチレン樹脂等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤(ただし、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を除く);着色剤;帯電防止剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);界面活性剤;共役ポリエン化合物等の公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0068】
本発明の樹脂組成物全体におけるベース樹脂はEVOH(A)である。従って、EVOH(A)の量は、樹脂組成物全体に対して通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。かかる量が多すぎる場合、上記(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)の配合効果(これらを併用する場合も含む)が低下する傾向があり、少なすぎる場合、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0069】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法については特に限定されず、要は炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つが樹脂組成物の内部および外部表面の少なくとも一方に存在するようにすれば良い。
【0070】
「脂肪酸金属塩を樹脂組成物の内部に存在させる方法」
炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つを樹脂組成物の内部に存在させる方法として、具体的には、
(I)EVOH(A)と脂肪酸金属塩を一括で混合した後に溶融混練する方法、
(II)EVOH(A)と脂肪酸金属塩の一部を溶融混練した後に、他の脂肪酸金属塩を添加して更に溶融混練する方法、
(III)EVOH(A)に脂肪酸金属塩の一部を含有させた後に、他の脂肪酸金属塩を溶融混練する方法、
(IV)脂肪酸金属塩を一括で混合した後に、EVOH(A)を溶融混練する方法、
(V)EVOH(A)と脂肪酸金属塩とを溶解可能な溶剤中で均一に溶解して混合した後に該溶剤を除去する方法、
等をあげることができ、工業上好適には(I)~(IV)の方法が用いられ、かかる方法について更に詳細に説明をするが、これに限定されるものではない。
なお、上記脂肪酸金属塩の一部とは、脂肪酸金属塩(B)、(C)および(D)の3つを用いる場合は、そのうちの1つまたは2つ〔例えば、(B)または、(B)および(C)〕を意味し、脂肪酸金属塩を2つ用いる場合は、そのうちの1つ〔例えば、(C)〕を意味するものである。
【0071】
上記(I)~(IV)中の溶融混練の方法については、その手段としては、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミル等の公知の溶融混練装置を使用して行うことができ、通常は150~300℃(更には180~280℃)で、1分~20分間程度溶融混練することが好ましく、特に単軸または二軸の押出機を用いることが容易にペレットを得られる点で工業上有利であり、また必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。特に、水分や副生成物(熱分解低分子量物等)を除去するために、押出機に1個以上のベント孔を設けて減圧下に吸引したり、押出機中への酸素の混入を防ぐために、ホッパー内に窒素等の不活性ガスを連続的に供給したりすることにより、熱着色や熱劣化が軽減された品質の優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
また、押出機等の溶融混練装置への供給方法供給方法についても特に限定されず、
(i)EVOH(A)と脂肪酸金属塩とをドライブレンドして一括して押出機に供給する方法、
(ii)EVOH(A)を押出機に供給して溶融させたところに固体状の脂肪酸金属塩を供給する方法(ソリッドサイドフィード法)、
(iii)EVOH(A)を押出機に供給して溶融させたところに溶融状態の脂肪酸金属塩を供給する方法(メルトサイドフィード法)、
等をあげることができるが、中でも、(i)の方法が装置の簡便さ、ブレンド物のコスト面等で実用的である。
【0073】
次に前記(III)の方法について説明する。
前記(III)のEVOH(A)に脂肪酸金属塩を含有させるにあたっては、
(a)上記の押出機等による溶融混練する方法、
(b)EVOH(A)を含有した溶液に脂肪酸金属塩を添加して混合後、溶液中の溶剤を除去する方法、
(c)脂肪酸金属塩を含有した溶液にEVOH(A)を投入して含浸後乾燥する方法
、等をあげることができるが、中でも、(b)および(c)の方法が脂肪酸金属塩の分散性に優れる点で好ましい。
【0074】
上記(I)~(V)の方法で得られた樹脂組成物は、原料を溶融混練した後に直接溶融成形品を得ることも可能であるが、工業上の取り扱い性の点から、上記溶融混練後に樹脂組成物製ペレットを作製し、これを溶融成形法に供し、溶融成形品を得ることが好ましい。経済性の点から、押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押出し、これをカットしてペレット化する方法が好ましい。
【0075】
上記ペレットの形状は、例えば、球形、円柱形、立方体形、直方体形等があるが、通常、オーバル状または円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、球状の場合は径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、高さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、円柱状の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0076】
上記樹脂組成物またはペレットの含水率は、0.001~5重量%(さらには0.01~2重量%、特には0.1~1重量%)になるようにするのが好ましく、該含水率が低すぎると、ロングラン成形性が低下する傾向にあり、逆に高すぎると、押出成形時に発泡が発生する傾向がある。
【0077】
なお、ここで言う樹脂組成物ペレットの含水率については、以下の方法により測定・算出されるものである。
[含水率の測定方法]
樹脂組成物ペレットを電子天秤にて秤量(W1:単位g)後、150℃に維持された熱風オーブン型乾燥器に入れ、5時間乾燥させてから、更にデシケーター中で30分間放冷させた後の重量を同様に秤量(W2:単位g)して、以下の(1)式から算出する。
[式1]
含水率(%)={(W1-W2)/W1}×100 ・・・(1)
【0078】
「脂肪酸金属塩を樹脂組成物の外部表面に存在させる方法」
続いて、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる少なくとも2つの脂肪酸金属塩を樹脂組成物の外部表面に存在させる方法として、具体的には、
(1)含水率0.1~5重量%のEVOH(A)に脂肪酸金属塩をブレンドする方法、
(2)加熱したEVOH(A)に溶融させた脂肪酸金属塩をブレンドする方法、
(3)少量のシリコンオイル等を混ぜたEVOH(A)に脂肪酸金属塩をブレンドする方法、
(4)グリセリン等の液状可塑剤を含ませたEVOH(A)に脂肪酸金属塩をブレンドする方法、
(5)EVOH(A)に少量の溶媒に溶解させた脂肪酸金属塩をブレンドする方法、
等をあげることができるが、工業上好適には(1)の方法が採用され、かかる方法について更に具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【0079】
樹脂組成物の表面に脂肪酸金属塩を付着させるに当たっては、脂肪酸金属塩の付着性を向上させるために、かかるペレットの含水率を0.1~5重量%(更には0.5~4重量%、特には1~3重量%)に調整しておくことが好ましく、かかる含水率が0.1重量%未満では脂肪酸金属塩が脱落しやすく付着(添着)分布が不均一となる傾向があり、逆に5重量%を越えると脂肪酸金属塩が凝集してこの時も付着(添着)分布が不均一となる傾向がある。
【0080】
また、ブレンドには、ロッキングミキサー、リボンブレンダー、ラインミキサー等の公知の混合装置を用いて付着させることができる。
【0081】
<多層構造体>
本発明の樹脂組成物からなる層(以下、単に「樹脂組成物層」という。)は、他の基材と積層することで、さらに強度を上げたり、他の機能を付与することができる。
【0082】
上記基材としては、接着樹脂からなる層(以下、単に「接着樹脂層」という。)、ポリアミド系樹脂からなる層(以下、単に「ポリアミド層」という。)、EVOH以外の熱可塑性樹脂からなる層(以下、単に「熱可塑性樹脂層」という。)が好ましく用いられる。
【0083】
多層構造体の層構成は、本発明の樹脂組成物層をα(α1、α2、・・・)、接着樹脂層をβ(β1、β2、・・・)、ポリアミド層をγ(γ1、γ2、・・・)、熱可塑性樹脂層をδ(δ1、δ2、・・・)とするとき、α/β/δ、α1/β/α2、δ1/β/α/δ2、δ/α1/β/α2、δ1/β1/α/β2/δ2、δ1/α1/β/α2/δ2、δ1/β1/α1/β2/α2/β3/δ2、γ1/α/γ2、γ/α/β、γ/α/β/δ、α1/β/α2/γ、δ1/β/α/γ/δ2、δ/α1/β/α2/γ、δ1/β1/α/γ/β2/δ2、δ1/β1/γ1/α/γ2/β2/δ2、δ1/α1/β/α2/γ/δ2、δ1/β1/α1/γ1/β2/α2/γ2/β3/δ2等任意の組み合わせが可能である。また、該多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を回収して再度溶融成形して得られる、本発明の樹脂組成物、接着樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性樹脂との混合物を含むリサイクル層をR(R1、R2、・・・)とするとき、δ/R/β/α、δ/R/α1/β/α2、δ1/R/α/β/δ2、R1/α1/β/α2/R2、δ1/R1/β1/α/β2/R2/δ2、δ1/R1/α1/β/α2/R2/δ2、δ/R/β/α/γ、δ/R/γ/α1/β/α2、δ1/R/γ/α/β/δ2、R1/γ/α1/β/α2/R2、δ1/R1/β1/γ/α/β2/R2/δ2、δ1/R1/γ1/α1/β/α2/γ2/R2/δ2等とすることも可能である。
【0084】
上記ポリアミド系樹脂としては、公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)等のホモポリマーがあげられる。また、共重合ポリアミド系樹脂としては、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン108)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン66/610)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)等の脂肪族ポリアミドや、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ヘキサメチレンイソフタルアミド/テレフタルアミド共重合体、ポリ-P-フェニレンテレフタルアミドや、ポリ-P-フェニレン・3-4’ジフェニルエーテルテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド、非晶性ポリアミド、これらのポリアミド系樹脂をメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものやメタキシリレンジアンモニウムアジペート等があげられる。あるいは、これらの末端変性ポリアミド系樹脂であってもよく、好ましくは末端変性ポリアミド系樹脂である。
【0085】
上記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および/または側鎖に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等があげられる。
【0086】
これらのうち、疎水性を考慮した場合、疎水性樹脂である、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂であり、特にポリ環状オレフィン系樹脂は疎水性樹脂として好ましく用いられる。
【0087】
また、上記接着性樹脂層の形成材料である接着剤樹脂としては、公知のものを使用でき、基材となる他の熱可塑性樹脂に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸またはその無水物をポリオレフィン系樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性ポリオレフィン系重合体をあげることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン系樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン系樹脂等であり、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0088】
上記他の熱可塑性樹脂(基材樹脂)、接着性樹脂層には、本発明の趣旨を阻害しない範囲内(例えば、30重量%以下、好ましくは10重量%以下)において、従来公知の可塑剤、フィラー、クレー(モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、核剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。
【0089】
本発明の樹脂組成物を上記基材と積層させて多層構造体を作製する場合の積層方法は、公知の方法にて行なうことができる。例えば、本発明の樹脂組成物のフィルム、シート等に他の基材を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材に本発明の樹脂組成物を溶融押出ラミネートする方法、本発明の樹脂組成物と他の基材とを共押出成形する方法、本発明の樹脂組成物からなるフィルム(層)および他の基材(層)を各々作製し、これらを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材上に本発明の樹脂組成物の溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等があげられる。これらの中でも、コストや環境の観点から考慮して共押出成形する方法が好ましい。
【0090】
上記多層構造体は、ついで必要に応じて(加熱)延伸処理が施される。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる。
【0091】
なお、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、次いで熱固定を行なってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば上記延伸した多層構造体(延伸フィルム)を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で、通常2~600秒間程度熱処理を行なう。
【0092】
また、本発明の樹脂組成物を用いて得られてなる多層延伸フィルムをシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、上記の熱固定を行わず、例えば延伸後のフィルムに冷風を当てて冷却固定する等の処理を行なえばよい。
【0093】
さらに、場合によっては、本発明の多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。多層容器の作製方法としては、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等があげられる。さらに、多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等があげられる。本発明の多層積層体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液または溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行なうことができる。
【0094】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、さらには多層構造体を構成する樹脂組成物層、ポリアミド樹脂層、接着性樹脂層、他の熱可塑性樹脂層の厚みは、層構成、熱可塑性樹脂の種類、ポリアミド系樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により適宜設定されるものである。なお、下記の数値は、樹脂組成物層、接着性樹脂層、他の熱可塑性樹脂層のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、同種の層の厚みを総計した値である。
【0095】
本発明の多層構造体(延伸したものを含む)の総厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。多層構造体の総厚みが薄すぎる場合には、ガスバリア性が低下することがある。また、多層構造体の総厚みが厚すぎる場合には、ガスバリア性が過剰性能となり、不必要な原料を使用することとなるため経済的でない傾向がある。そして、樹脂組成物層は、通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmであり、他の熱可塑性樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmであり、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
【0096】
さらに、多層構造体における樹脂組成物層の他の熱可塑性樹脂層に対する厚みの比(樹脂組成物層/他の熱可塑性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。また、多層構造体における樹脂組成物層のポリアミド樹脂層に対する厚み比(樹脂組成物層/ポリアミド樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~80/20、特に好ましくは40/60~60/40である。また、多層構造体における樹脂組成物層の接着性樹脂層に対する厚み比(樹脂組成物層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0097】
上記のようにして得られたフィルム、延伸フィルムからなる袋およびカップ、トレイ、チューブ、ボトル等からなる容器や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器として有用である。
【0098】
中でも、本発明の樹脂組成物からなる層を有する多層構造体は、溶融成形時の色調悪化が改善され、外観不良の発生、特に像鮮明度の低下が小さくなったものである。これは、多層構造体の、樹脂組成物層/接着樹脂層および樹脂組成物層/ポリアミド層少なくとも一方の積層界面で、外観不良の原因となるような微小な界面荒れが低減されているためと考えられる。これは、一般的な食品、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、スープ、飲料、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬、燃料等各種の容器として有用である。特に、マヨネーズ、ケチャップ、ソース、味噌、わさび、からし、焼肉等のたれ等の半固形状食品・調味料、サラダ油、みりん、清酒、ビール、ワイン、ジュース、紅茶、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、牛乳等の液体状飲料・調味料用のボトル状容器やチューブ状容器、フルーツ、ゼリー、プリン、ヨーグルト、マヨネーズ、味噌、加工米、調理済み食品、スープ等の半固形状食品・調味料用のカップ状容器や、生肉、畜肉加工品(ハム、ベーコン、ウインナー等)、米飯、ペットフード用の広口容器等の包装材料として有用である。
【実施例
【0099】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」とあるのは重量基準である。
【0100】
[実施例1]
<樹脂組成物の製造>
EVOH(A)として、EVOH(a1)〔エチレン構造単位の含有量38モル%,ケン化度99.6モル%,MFR4.2g/10分(210℃、荷重2160g)〕ペレット、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)として、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0017部、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)としてステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0012部、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)としてベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0011部用いた。EVOH(a1)ペレット、ラウリン酸亜鉛(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)、ベヘン酸亜鉛(d1)を一括でドライブレンドしたあと、20mmφ二軸押出成形装置(L/D=25)で溶融混練して再ペレット化することにより本発明の樹脂組成物を調製した。
【0101】
<多層構造体の製造>
3種5層多層共押出キャストフィルム製膜装置に、上記で調製した樹脂組成物、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)(日本ポリエチレン社製「UF240」、MFR2.1g/10分(190℃、荷重2160g))、接着樹脂(LyondellBasell社製「PLEXAR PX3236」、MFR2.0g/10分(190℃、荷重2160g))を供給して、下記条件で多層共押出成形により、LLDPE層/接着樹脂層/EVOH層/接着樹脂層/LLDPE層の3種5層構造の多層構造体(フィルム)を得た。多層構造体の各層の厚み(μm)は、37.5/5/15/5/37.5であった。成形装置のダイ温度は、全て210℃に設定した。
(多層共押出成形条件)
・中間層押出機(EVOH):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・上下層押出機(LLDPE):40mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・中上下層押出機(接着樹脂):32mmφ単軸押出機(バレル温度:210℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:210℃)
・引取速度:14m/分
・ロール温度:50℃
【0102】
<多層構造体の外観>
JIS K 7374「プラスチック-像鮮明度の求め方」に準拠して透過法により、上記で製造した多層構造体の像鮮明度を測定し、下記評価基準に基づいて多層構造体の外観評価結果とした。フィルム試験片は、フィルム機械方向を鉛直方向として測定した。測定器にはスガ試験機社製ICM-1型写像性測定器を用いた。光学櫛は0.25mmを使用した。
◎:像鮮明率≧45%:多層構造体の外観が著しく良い。
○:10%≦像鮮明率<45%:多層構造体の外観が良い。
×:像鮮明率<10%:多層構造体の外観が悪い。
【0103】
<樹脂組成物の色調安定性評価>
上記で調整した樹脂組成物5gを30mmφアルミカップ(アズワン社製ディスポディニッシュPP-724)に入れ、空気雰囲気下で210℃×2時間加熱処理したものを試料として色調評価に供した。色調評価は、下記装置および評価方法に基づいて行った。
・使用機器;ビジュアルアナライザーIRISVA400(アルファ・モス・ジャパン社製)
・データ解析用ソフト;Alpha Soft V14.3
・対物レンズ;25mm(Basler社製)
・照明モード;上下照明
・測定方法;色調評価用試料を、上記ビジュアルアナライザーのチャンバー内のトレイにセットし、CCDカメラで色調評価用試料全体の平面画像を撮影した後、データ解析ソフトを用いて画像処理を行うことで試料のカラーパターンを評価した。得られたカラーパターンのうち、一番存在割合が多かった色(主要色)の明度(L*)および下記評価基準から、樹脂組成物の色調安定性を評価した。
◎:L*≧55:加熱処理前後の色調差がほとんどない。
○:50≦L*<55:加熱処理前後の色調差がややある。
×:L*<50:加熱処理前後の色調差が大きい。
【0104】
[実施例2]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0025部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0025部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0025部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0105】
[実施例3]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0106】
[実施例4]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00167部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00167部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00667部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0107】
[実施例5]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00167部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00667部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00167部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0108】
[実施例6]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00667部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00167部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00167部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0109】
[実施例7]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0110】
[実施例8]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)として12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛(c2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部用い、ステアリン酸亜鉛(c1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0111】
[実施例9]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0112】
[実施例10]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部用い、ベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0113】
[実施例11]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部用い、ステアリン酸亜鉛(c1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0114】
[実施例12]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.005部用い、ラウリン酸亜鉛(b1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0115】
[比較例1]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部用い、ステアリン酸亜鉛(c1)とベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0116】
[比較例2]
実施例1において、ステアリン酸亜鉛(c1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部用い、ラウリン酸亜鉛(b1)とベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0117】
[比較例3]
実施例1において、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)として12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛(c2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部用い、ラウリン酸亜鉛(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)、ベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0118】
[比較例4]
実施例1において、ベヘン酸亜鉛(d1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.01部用い、ラウリン酸亜鉛(b1)とステアリン酸亜鉛(c1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0119】
[比較例5]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)、ベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0120】
[比較例6]
実施例1において、その他の添加剤(H)としてラウリン酸(h1)をEVOH(a1)100部に対して0.0237部(金属換算で0部)、ステアリン酸(h2)をEVOH(a1)100部に対して0.0323部(金属換算で0部)、ベヘン酸(h3)をEVOH(a1)100部に対して0.038部(金属換算で0部)用い、ラウリン酸亜鉛(b1)、ステアリン酸亜鉛(c1)、ベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。なお(h1)、(h2)、(h3)の(a1)100部に対する含有量は、それぞれ実施例2の(b1)、(b2)、(b3)の脂肪酸金属塩としての(a1)100部に対する含有量に対応している。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0121】
[比較例7]
実施例1において、ラウリン酸カルシウム(b2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部、ステアリン酸カルシウム(c2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部、ベヘン酸カルシウム(d2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0122】
[比較例8]
実施例1において、ラウリン酸ナトリウム(b3)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部、ステアリン酸ナトリウム(c3)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部、ベヘン酸ナトリウム(d3)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00333部用いた以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。
【0123】
上記得られた樹脂組成物を構成する各成分とともに、上記評価結果を下記表1に併せて示す。
【0124】
【表1】
【0125】
[参考例1]
実施例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00207部、ステアリン酸マグネシウム(c4)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00082部用い、ステアリン酸カルシウム(c2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00132部用い、ステアリン酸亜鉛(c1)及びベヘン酸亜鉛(d1)を用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、実施例1と同様に評価した。得られた樹脂組成物を構成する各成分とともに、上記評価結果を下記表2に示す。
【0126】
[参考例2]
参考例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0031部、ステアリン酸マグネシウム(c4)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00082部用い、ステアリン酸カルシウム(c2)用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、参考例1と同様に評価した。得られた樹脂組成物を構成する各成分とともに、上記評価結果を下記表2に示す。
【0127】
[参考例3]
参考例1において、ラウリン酸亜鉛(b1)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.0031部、ステアリン酸カルシウム(c2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00198部用い、ステアリン酸マグネシウム(c4)用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、参考例1と同様に評価した。得られた樹脂組成物を構成する各成分とともに、上記評価結果を下記表2に示す。
【0128】
[比較例9]
参考例1において、ステアリン酸マグネシウム(c4)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00123部、ステアリン酸カルシウム(c2)をEVOH(a1)100部に対して金属換算で0.00198部用い、ラウリン酸亜鉛(b1)用いなかった以外は同様に行ない、樹脂組成物および多層構造体を作製した。得られた多層構造体の外観と樹脂組成物の色調安定性について、参考例1と同様に評価した。得られた樹脂組成物を構成する各成分とともに、上記評価結果を下記表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
上記結果から、EVOH(a1)と、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる少なくとも2つの脂肪酸金属塩とを含有し、かつ(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくともつが亜鉛塩である樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の実施例1~12は、色調安定性が良好で、多層構造体の外観が良好であることがわかる。
【0131】
これに対して、EVOH(a1)と、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩を1つ含有し、かつ(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩が亜鉛塩である樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の比較例1~4は、多層構造体の外観が良好であるが、色調安定性が不充分であることがわかる。
【0132】
また、EVOH(a1)を含有し、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)のいずれも含有しない樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の比較例5は、色調安定性が良好だが、多層構造体の外観が不充分であることがわかる。
【0133】
また、EVOH(a1)と、ラウリン酸(h1)、ステアリン酸(h2)、ベヘン酸(h3)とを含有する樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の比較例6は、色調安定性および多層構造体の外観が不充分であることがわかる。
【0134】
また、EVOH(a1)と、ラウリン酸カルシウム(b2)、ステアリン酸カルシウム(c2)、ベヘン酸カルシウム(d2)とを含有する樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の比較例7は、色調安定性および多層構造体の外観が不充分であることがわかる。
【0135】
また、EVOH(a1)と、ラウリン酸ナトリウム(b3)、ステアリン酸ナトリウム(c3)、ベヘン酸ナトリウム(d3)とを含有する樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の比較例8は、色調安定性および多層構造体の外観が不充分であることがわかる。
【0136】
また、EVOH(a1)と、ステアリン酸マグネシウム(c4)、ステアリン酸カルシウム(c2)とを含有する樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を使用して製造した多層構造体の比較例9は、色調安定性および多層構造体の外観が不充分であることがわかる。
【0137】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)と、脂肪酸金属塩とを含有する樹脂組成物であって、上記脂肪酸金属塩が、炭素数3~12の脂肪酸金属塩(B)、炭素数13~20の脂肪酸金属塩(C)、炭素数21~29の脂肪酸金属塩(D)から選ばれる脂肪酸金属塩の少なくとも2つであり、かつ(B)、(C)、(D)から選ばれる脂肪酸金属塩のうち、少なくとも2つが亜鉛塩であり、上記亜鉛塩の総含有量が、上記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物(A)100重量部に対して金属換算で0.0005~0.03重量部であり、上記樹脂組成物がヒンダードフェノール系酸化防止剤を含まないことを特徴とする樹脂組成物である。この樹脂組成物からなる多層構造体は、外観不良の発生が抑制され、かつ溶融成形時の色調悪化が改善された多層構造体である。このことから、食品の各種包装材料、特にアルコール飲料用容器として有用である。本発明の樹脂組成物からなる多層構造体は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器の原料として有用である。