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特許7544489硬度と靭性のバランスに優れた機械構造用合金鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】硬度と靭性のバランスに優れた機械構造用合金鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240827BHJP
   C22C 38/22 20060101ALI20240827BHJP
   C22C 38/28 20060101ALI20240827BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20240827BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/22
C22C38/28
C21D8/06 A
C21D9/00 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020024680
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127513
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 春香
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和弥
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.25~0.40%、Si:0.05~0.30%、Mn:1.00~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50~3.00%、Mo:0.05~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.0100~0.0200%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ、以下の式(1)のAの値が10~18.1を満足する鋼であって、
さらに、硬さが45HRC以上であって、旧オーステナイト結晶粒径の平均が20μm以下であることを特徴とする、機械構造用合金鋼。
A=0.5C×(1+0.7Si)×(1+3.6Mn)×(1+2.2Cr)×(1+3.0Mo)・・・式(1)
ただし、式(1)の右辺の元素記号には、各元素の含有率(質量%)を代入する。
【請求項2】
請求項1に記載の化学成分に加えて、質量%でNb:0.02~0.04%、Ti:0.005~0.030%のうちいずれか一種または双方を含有し、かつNbとTiの質量%の合計値は0.005≦(Nb+Ti)≦0.050を満足するものであって、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ、以下の式(1)のAの値が10~18.1を満足する鋼であって、
さらに、硬さが45HRC以上であって、旧オーステナイト結晶粒径の平均が20μm以下であることを特徴とする、機械構造用合金鋼。
A=0.5C×(1+0.7Si)×(1+3.6Mn)×(1+2.2Cr)×(1+3.0Mo)・・・式(1)
ただし、式(1)の右辺の元素記号には、各元素の含有率(質量%)を代入する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木、建設等の分野で使用される土木建設機械等に使用される機械構造用合金鋼に関する。とりわけ土砂や岩石等との摩耗や折損が問題となる環境下で使用される部材として良好な機械構造用合金鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建設機械に使用される部材は、岩石等との衝突により折損等を生じることがある。また、土砂、岩石等により摩耗も引き起こされる。近年、土木建設機械が使用される環境はますます過酷になってきており、部材の早期折損、早期摩耗が問題視されている。
こうした早期折損に対しては部材の靭性を向上させること、早期摩耗に対しては部材を高強度化、高硬度化させることが望ましいところである。もっとも、靭性と硬度とはトレードオフの関係にあるので、高強度化と高硬度化の双方を両立させることは一般的に困難である。
【0003】
また、土木建設機械用の部材は大型の部品であることが多いために、焼入れ時に完全に部品の中心部まで硬化させる必要がある。焼入れ硬化層が浅い場合には、表面部に硬化層があるものの、この表面部の硬化層が摩耗しきってしまうと、とたんに軟質な内部が急激に摩耗してしまうこととなる。そこで、土木建設機械用鋼においては、大型部材に用いる機械構造用合金鋼においては、中心部まで焼入れ硬化が可能となる十分な焼入性を備えることが必要となる。
【0004】
従来、土砂や岩石等による摩耗が問題となる土木建設機械に使用される部材に対しては、Cr、Mo等の合金元素を多量に添加した鋼材に焼入れを行い、高硬度化した鋼材が使用されている。
【0005】
また、C添加による高硬度化、Si、Cr添加による焼入性の増大、Si添加による焼戻し軟化抵抗性の向上により、耐摩耗性の向上を指向する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
しかし、この提案の方法では、硬度向上のためのC増加により、他方で靭性が低下するという問題が生じる。また、焼入性向上のためにSi、Crを多量に添加しているものの、今度は過剰な焼入性によって製造性の低下が懸念される。
【0006】
また、B添加による粒界強化によって靭性の向上を図るとともに、Siの添加による固溶強化によって耐摩耗性の向上を指向する方法も提案されている(特許文献2参照。)。
しかし、この提案の方法では、Mn、Bの添加により焼入性の向上が図られるものの、合金元素が不足しているために焼入性が未だ低く十分とはいえない。つまり、大型部材に対し焼入れを行った場合には中心部までの硬化が得られず、耐摩耗性が十分とはいえなかった。
【0007】
また、Mn、Cr、Moの複合添加により焼入性、焼戻し軟化抵抗性の向上および靭性の向上を指向する方法が提案されている(特許文献3参照。)。
しかし、Mnの添加により粒界への炭化物の偏析が大きくなるので、靭性を低下させる要因となる。また、Moを多量に添加するため、成分偏析が大きくなることによる靭性の低下、過剰な焼入性による製造性の低下等も懸念される。
【0008】
また、Si添加量の低減による粒界炭化物析出の抑制、Al、Nの添加によるオーステナイト粒粗大化抑制およびC、Mn、Cr、Moの適切な添加により、靭性と耐摩耗性の向上を指向する方法が提案されている(特許文献4参照。)。
しかし、この提案の方法では、靭性に与える影響が一般的に大きいとされる旧オーステナイト粒径の制御が未だ不十分であって、ひとたび粗大化が発生すると深刻な靭性の低下が引き起こされる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】再表2016/170866号公報
【文献】特開2012-233252号公報
【文献】特開平08-199287号公報
【文献】特開2020-015927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、土木建設機械用部材、例えばトラックリンク、トラックシュー、リッパーポイント等のような大型の部材にも適用可能で、かつ厳しい衝撃が加わったり摩耗が生じやすい厳しい環境下での使用に適した鋼材として、中心部まで焼入れ硬化が可能な焼入性に優れる機械構造用合金鋼を提供することである。
また、上記の機械構造用合金鋼を焼入れ焼戻し処理した際に、優れた硬度と靭性を兼ね備えている機械構造用合金鋼の提供、すなわち、土木建設機械用部材に好適な、焼入れ焼戻し後の鋼材中心部の硬さが45HRC以上、2mmVノッチシャルピー衝撃試験により測定した衝撃値が50J/cm2以上であることを満たす、硬度と靭性のバランスに優れた機械構造用合金鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、焼入れ焼戻し処理を施して用いられる土木建設機械用部材に対し、Siの低減によって粒界炭化物およびオーステナイト粒の粗大化を抑制し、また、圧延工程の加熱温度を1150℃以下の低温とすることにより結晶粒粗大化を防止することで靭性を改善し、さらにC、Mn、Cr、Moを適切に添加することにより焼入れ時に鋼材の中心部まで焼入れ硬化する特性の、靭性と耐摩耗性の双方に優れる鋼を見出した。
【0012】
すなわち、本発明の課題を解決する第1の手段は、質量%で、C:0.25~0.40%、Si:0.05~0.30%、Mn:1.00~1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50~3.00%、Mo:0.05~0.50%、Al:0.020~0.050%、N:0.0100~0.0200%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ、以下の式(1)のAの値が10~20を満足する鋼であって、
さらに、硬さが45HRC以上であって、旧オーステナイト結晶粒径の平均が20μm以下であることを特徴とする、機械構造用合金鋼である。
A=0.5C×(1+0.7Si)×(1+3.6Mn)×(1+2.2Cr)×(1+3.0Mo)・・・式(1)
ただし、式(1)の右辺の元素記号には、各元素の含有率(質量%)を代入する。
【0013】
その第2の手段は、第1の手段に記載の化学成分に加えて、質量%でNb:0.02~0.04%、Ti:0.005~0.030%のうちいずれか一種または双方を含有し、かつNbとTiの質量%の合計値は0.005≦(Nb+Ti)≦0.050を満足するものであって、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ、以下の式(1)のAの値が10~20を満足する鋼であって、
さらに、硬さが45HRC以上であって、旧オーステナイト結晶粒径の平均が20μm以下であることを特徴とする、機械構造用合金鋼である。
A=0.5C×(1+0.7Si)×(1+3.6Mn)×(1+2.2Cr)×(1+3.0Mo)・・・式(1)
ただし、式(1)の右辺の元素記号には、各元素の含有率(質量%)を代入する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鋼は、焼入れ温度を規定することで焼入れ焼戻し後の鋼材中心部の硬さが45HRC以上と高硬度となっていることに加えて、さらに旧オーステナイト粒径の平均が20μm以下であることから50J/cm2以上の衝撃値が確保されており、高靱性ともなっている。そこで、大型の土木建設機械にも好適な、中心部まで焼入れ硬化し、かつ高靭性な、硬さと靱性の双方をバランスよく兼ね備えた機械構造用合金鋼を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を詳述するに先立ち、本発明の機械構造用合金鋼の各化学成分を規定する理由と、熱処理条件、硬度、オーステナイト粒径等を規定する理由について説明する。なお、各化学成分の%の記載は質量%を意味する。
【0016】
C:0.25~0.40%
Cは、焼入れ時のマトリックス強度を向上させ、焼入性、耐摩耗性を向上させるのに有効な元素である。Cが0.25%未満では十分な硬度が確保できないため、0.25%以上とする。他方、C量が過剰であると、靭性を大きく低下させる。そのため、Cは上限を0.40%とする。
そこで、Cは0.25~0.40%とする。好ましくは、Cは0.25~0.35%である。
【0017】
Si:0.05~0.30%
Siは鋼の脱酸に必要であるとともに、焼入性の向上に影響する元素である。そのため、Siは0.05以上必要である。他方、Siが0.30%を超えると、粒界炭化物の生成およびオーステナイト粒の粗大化を引き起こし、靭性を低下させる。そのため、Siは上限を0.30%とする。
そこで、Siは0.05~0.30%とする。
【0018】
Mn:1.00~1.50%
Mnは焼入性の向上、焼戻し軟化抵抗の向上に有効な元素である。そのため、Mnは1.00%以上必要である。他方、Mnが1.50%を超えると結晶粒界に偏析し靭性を低下させる。そのため、Mnは上限を1.50%とする。
そこで、Mnは1.00~1.50%である。
【0019】
P:0.030%以下
Pは結晶粒界に偏析し、靭性を低下させるため、0.030%以下とする。
【0020】
S:0.030%以下
Sは靭性の低下を招くため、0.030%以下とする。
【0021】
Cr:1.50~3.00%
Crは焼入性、焼戻し軟化抵抗を増加させ、耐摩耗性を向上させるのに有効な元素である。Crは1.50%以下では鋼材の中心部まで焼入れ硬化させることができないため、Crは1.50%以上が必要である。他方、Crは3.00%を超えると靭性の低下、焼入性過剰による製造性の低下を招く。そのため、Crは上限を3.00%とする。
そこで、Crは1.50~3.00%とする。
【0022】
Mo:0.05~0.50%
Moは焼入性、焼戻し軟化抵抗の向上に有効な元素である。そのため、Moは0.05%以上の添加が必要である。他方、Moは0.50%を超えると、鋼材の成分偏析および製造性の低下を引き起こす。そのため、Moは上限を0.50%とする。
そこで、Moは0.05~0.50%とする。
【0023】
Al:0.020~0.050%
Alは鋼中でAlNを形成し、ピンニング粒子としてオーステナイト粒径の粗大化を抑制し、靭性の向上に寄与する。そのため、Alは0.020%以上が必要である。もっとも、Alは0.050%を超えると、窒化物や酸化物が粗大化することにより靭性が低下する。また、製造性の低下を引き起こすことから、Alは上限を0.050%とする。
そこでAlは0.020~0.050%とする。
【0024】
N:0.0100~0.0200%
Nは鋼中でAlNを形成し、オーステナイト粒径の粗大化を抑制する元素である。そのため、Nは0.0100%以上必要である。もっともNは0.0200%を超えると、窒化物が粗大化し、靭性が低下するため、Nは上限を0.0200%とする。
そこで、Nは0.0100~0.0200%とする。
【0025】
本発明の機械構造用合金鋼には、NiとTiのいずれか1種あるいは双方を、以下の範囲で添加することができる。
Ti:0.005~0.030%、
Nb:0.02~0.04%、
Ti+Nb:0.005~0.050%
【0026】
Tiは、Alと同様にオーステナイト粒径の粗大化を抑制するのに有効な元素である。そのためにはTiは0.005%以上添加することが望ましい。もっとも、Tiが過剰であると窒化物の粗大化による靭性の低下、製造性の低下を招くため、Tiは上限を0.030%とする。
Nbは鋼中でNbCNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制することで靭性の向上に寄与する。そのためにはNbは0.02%以上添加することが望ましい。もっとも、Nbは過剰であると粗大なNbCNの析出により靭性が低下するため、Nbは上限を0.04%とする。
ただし、TiとNbは、いずれか1種あるいは双方を添加してもよいが、その合計量が0.050%を超えると効果が飽和するため、Ti+Nbの添加は、その上限を0.050%とする。
そこで、本発明の機械構造用合金鋼には、Ti:0.005~0.030%、Nb:0.02~0.04%、のいずれか1種または双方を、Ti+Nbの合計で0.005~0.050%の範囲で添加しうるものとする。
【0027】
式(1)におけるAの値:10~20
A=0.5C×(1+0.7Si)×(1+3.6Mn)×(1+2.2Cr)×(1+3.0Mo)・・・式(1)
(ただし、式(1)の右辺の元素記号には、各元素の含有率(質量%)の値を代入する。)
式(1)におけるAの値は、鋼材の焼入性に関わる指標である。A値の値が増加する程、鋼材の焼入性が向上する。すなわち、A値は、焼入性に関わるC,Si,Mn,Cr,Moのバランスを考慮した式(1)に各化学成分の値を代入して算定するものであるから、この式(1)を用いることで、鋼材の焼入れ性を適切に把握することができる。
そして、A値が高くなると、鋼材の中心部まで焼入れ硬化することによって耐摩耗性が向上することから、中心まで焼きが入る部材を選別でき、大型の部材としても十分適用できるようになる。そこで、φ200未満の鋼材径に対し、中心部まで焼入れ硬化できるよう、A値は10以上とする。
もっとも、A値が20以上であると、焼入性が過剰となりやすく、製造性の低下を招くとともに、コスト増加の要因となる。そのため、A値は20以下とする。
そこで、A値の値は、10~20とする。
【0028】
旧オーステナイト粒径:20μm以下
オーステナイト粒の粗大化は靭性の低下を引き起こすため、旧オーステナイト結晶粒径の平均値は、上限を20μmとする。
【0029】
本発明の第1又は第2の手段に記載の化学成分と式(1)のA値が10~20を満足する機械構造用合金鋼を、たとえば1150℃以下で塑性加工して焼ならしした後、オーステナイト化温度より30~100℃高い加熱温度から焼入れ焼戻し処理することで、焼入れ硬さが45HRC以上かつ旧オーステナイト結晶粒径の平均が20μm以下の機械構造用合金鋼を得ることができる。
【0030】
焼入温度:オーステナイト化温度+30~100℃
焼入温度が低いと、十分に鋼材を焼入れ硬化させることができないため、焼入温度は鋼材のオーステナイト化温度より30℃以上高いものとする。もっとも、焼入温度が高すぎると、結晶粒の粗大化により靭性が低下する。そのため、焼入温度は鋼材のオーステナイト化温度から高くとも100℃までとするとよい。
【0031】
塑性加工のための加熱温度:1150℃以下
本発明では、オーステナイト化温度より30~100℃高い加熱温度から焼入れ焼戻し処理を行った場合、旧オーステナイト結晶粒度の平均粒径が20μm以下となる鋼を得るためには、低温にて圧延工程等の塑性加工を行う必要がある。そこで、本発明の機械構造用合金鋼を得るためには、塑性加工のための加熱温度を1150℃以下とするとよい。
【0032】
(実施例について)
表1に示す実施例鋼および比較例鋼のそれぞれの化学成分からなる鋼を100kg真空溶解炉で溶製した。
得られた鋼部材を試験片へと加工し、靭性についてはJIS Z 2242に基づいたシャルピー衝撃試験を用いて評価した。
また、耐摩耗性については直径160mmの鋼材を焼入れ焼戻ししたときの鋼材中心部の硬さをJIS Z 2245に基づいたロックウェル硬度測定にて評価した。
【0033】
【表1】
【0034】
まず表1に示す鋼を、1150℃もしくは比較のために1250℃で直径160mmに鍛伸した後、870℃で1時間保持後空冷の焼ならしを行った。
その後、焼入れ処理として870℃に加熱して100~200分保持後に油冷し室温まで冷却した後、210℃にて60~90分保持後に空冷し室温まで冷却して焼戻しを行い棒鋼を得た。
得られた棒鋼について、靭性、耐摩耗性を評価した。
【0035】
すなわち、上記の条件で製造、熱処理を行った棒鋼について、鋼材中心の位置より、それぞれJIS 3号 2mm Vノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242に準拠してシャルピー衝撃試験を行った。
【0036】
また、上記の条件で製造、熱処理を行った棒鋼について、棒鋼の長さの中心位置(1/2L位置)より、直径160mm×長さ15mmを硬さ測定用試験片として採取し、JIS Z 2245に準拠し、鋼材の直径160mmの中心部の硬さをロックウェル硬度測定機にて測定した。
【0037】
旧オーステナイト結晶粒界は、採取した試料の断面を鏡面研磨した後に、直径160mmの鋼材の中心の位置について、ピクリン酸の飽和水溶液ベースの腐食液に浸漬させて現出させた。これを光学顕微鏡で観察し、粒径の平均値を旧オーステナイト平均粒径として記録した。
【0038】
表2にシャルピー衝撃試験、硬さ測定、旧オーステナイト平均粒径の結果を示す。表2の右端には、焼入性の指標であるA値を表1から転記して示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示す通り、1150℃にて鍛伸を実施した本発明に従う実施例鋼(No.1~10)は、いずれも中心部硬さが45HRC以上、シャルピー衝撃値が50J/cm2以上を満たしており、硬さと靭性のバランスに優れる機械構造用合金鋼として、土木建設機械用の部材に好適となることが確認された。
【0041】
これに対し、式(1)で示すA値が10未満である比較例鋼No.11、16、18、19、21は、1150℃にて鍛伸時に鋼材中心部の硬さが45HRCを下回っており、焼入性の不足から、鋼材の中心部まで焼入れ硬化していないことが確認された。
【0042】
一方、式(1)で示すA値が20以上である比較例鋼No.12、13、17、20、22、23は、合金元素量が多いことから焼入性が過剰となっており、製造性の低下、コストの増加が懸念されるとともに、靭性の低下も認められた。
【0043】
さらに、C量が多い比較例鋼No.17、20、22、23では、C量が過剰であることから、過度な高硬度化に伴う靭性の低下を招いている。
【0044】
また、本発明の熱処理方法として適さない1250℃にて鍛伸を実施した場合、実施例鋼(No.1~10)および比較例鋼(No.11~23)は、いずれも鍛伸温度の高温化によって旧オーステナイト粒径の平均が20μm以上となり、その衝撃値も50J/cm2を下回るものとなった。このように旧オーステナイト粒径の平均値が増大すると、靭性が低下することが確認された。