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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】分離膜エレメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/10 20060101AFI20240827BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20240827BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B01D63/10
B01D63/00 510
B01D69/00 500
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020173791
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065306
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 正憲
(72)【発明者】
【氏名】池下 和輝
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-131072(JP,A)
【文献】特開2004-202382(JP,A)
【文献】特開平10-137558(JP,A)
【文献】特開2002-102659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有孔の中空管と積層体とを含み、前記中空管に前記積層体の少なくとも一部が巻回された分離膜エレメントの製造方法であって、
前記積層体は、
二つ折りした分離膜の間に第1流路部材を介在させたリーフと、前記リーフに積層される第2流路部材を構成する少なくとも一部の層とを含む分離膜ユニットが、複数積層され、且つ、
前記分離膜の折目部分の位置が前記積層体の巻回方向にずれるように、前記分離膜ユニットが積層されたものであり、
前記製造方法は、前記分離膜ユニットを積層する工程を含み、
前記積層する工程は、Nを2以上の整数とする場合に、(N-1)層目の分離膜ユニットに含まれる前記分離膜の折目部分の少なくとも一部を含む第1領域を押圧した状態で、前記(N-1)層目の分離膜ユニット上にN層目の分離膜ユニットを積層する第1工程を含む、分離膜エレメントの製造方法。
【請求項2】
前記第1領域の押圧は、前記第1領域において対向する前記分離膜の表面の間の最大距離が5mm未満となるように行う、請求項1に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項3】
前記積層する工程は、さらに、前記第1工程で積層した前記N層目の分離膜ユニット上に、(N+1)層目の分離膜ユニットを積層する第2工程を含み、
前記第2工程は、前記N層目の分離膜ユニットに含まれる前記分離膜の折目部分の少なくとも一部を含む第2領域を押圧した状態で、前記(N+1)層目の分離膜ユニットを積層する、請求項1又は2に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程を、前記第1工程における前記第1領域を押圧した状態を維持しながら行う、請求項3に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項5】
前記積層する工程は、さらに、前記第2工程で積層した前記(N+1)層目の分離膜ユニット上に、(N+2)層目の分離膜ユニットを積層する第3工程と、を含み、
前記第3工程は、前記(N+1)層目の分離膜ユニットに含まれる前記分離膜の折目部分の少なくとも一部を含む第3領域を押圧した状態で、前記(N+2)層目の分離膜ユニットを積層する、請求項3又は4に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項6】
前記第3工程を、前記第2工程における前記第2領域を押圧した状態を維持しながら行う、請求項5に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項7】
前記第1領域の押圧は、第1押圧部材を押し当てることによって行い、
前記積層する工程は、さらに、前記第1押圧部材による前記第1領域の押圧を解除する工程を含み、
前記第3工程を、前記解除する工程後の前記第1押圧部材が、前記第3領域を押圧した状態で行う、請求項5又は6に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項8】
前記第2領域の押圧は、第2押圧部材を押し当てることによって行う、請求項7に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項9】
前記分離膜エレメントは、前記積層体の全長が前記中空管に巻回されたスパイラル型の分離膜エレメントである、請求項1~8のいずれか1項に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項10】
前記第1流路部材及び第2流路部材は、一方が原料流体が流れる流路を形成するための供給側流路部材であり、他方が前記分離膜を透過した透過流体が流れる流路を形成するための透過側流路部材である、請求項1~9のいずれか1項に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項11】
前記第1流路部材は、前記供給側流路部材であり、
前記第2流路部材は、前記透過側流路部材である、請求項10に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【請求項12】
前記分離膜は、多孔層と前記多孔層上に設けられたゲル層とを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の分離膜エレメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜エレメントの製造方法及び分離膜エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
液体や気体等の原料流体から特定の流体成分を分離するために、分離膜エレメントを用いることが知られている。分離膜エレメントは、一般的に、分離膜、供給側流路部材、及び透過側流路部材等を積層した積層体を中空管に巻回した構造を有する。積層体は、二つ折りにした分離膜の間に供給側流路部材を挟み込んだリーフを形成し、上記リーフと透過側流路部材とを重ねた分離膜ユニットを複数積層して形成されることがある(例えば、特許文献1、2等)。このような積層体では、複数積層された分離膜ユニットが、上記積層体の巻回方向に所定のピッチでずれるように積層される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3570831号公報
【文献】特開2010-82575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分離膜ユニットに含まれるリーフは、分離膜を二つ折りにして形成されているため、分離膜の折目部分に膨らみが発生しやすい。リーフに膨らみが生じた状態で分離膜ユニットを複数積層すると、分離膜ユニットが積層された部分のうち、リーフの折目部分が配置された領域の厚みが大きくなり、積層した分離膜ユニットに反りが生じてしまう。このような反りが生じた状態で分離膜ユニットの積層をさらに行うと、分離膜ユニットに含まれるリーフや透過側流路部材の積層位置にズレが生じ、上記所定のピッチで精度良く分離膜ユニットを積層することが困難となる。分離膜ユニットが精度良く積層されないと、積層体を中空管に巻回した部分の断面が真円形にならず、偏心した形状となって外観が低下しやすい。
【0005】
本発明は、分離膜ユニットを良好に積層することができ、積層体を中空管に巻き取った部分の形状が良好な分離膜エレメントの製造方法及び分離膜エレメントの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の分離膜エレメントの製造方法及び分離膜エレメントを提供する。
〔1〕 有孔の中空管と積層体とを含み、前記中空管に前記積層体の少なくとも一部が巻回された分離膜エレメントの製造方法であって、
前記積層体は、
二つ折りした分離膜の間に第1流路部材を介在させたリーフと、前記リーフに積層される第2流路部材を構成する少なくとも一部の層とを含む分離膜ユニットが、複数積層され、且つ、
前記分離膜の折目部分の位置が前記積層体の巻回方向にずれるように、前記分離膜ユニットが積層されたものであり、
前記製造方法は、前記分離膜ユニットを積層する工程を含み、
前記積層する工程は、Nを2以上の整数とする場合に、(N-1)層目の分離膜ユニットに含まれる前記分離膜の折目部分の少なくとも一部を含む第1領域を押圧した状態で、前記(N-1)層目の分離膜ユニット上にN層目の分離膜ユニットを積層する第1工程を含む、分離膜エレメントの製造方法。
〔2〕 前記第1領域の押圧は、前記第1領域において対向する前記分離膜の表面の間の最大距離が5mm未満となるように行う、〔1〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔3〕 前記積層する工程は、さらに、前記第1工程で積層した前記N層目の分離膜ユニット上に、(N+1)層目の分離膜ユニットを積層する第2工程を含み、
前記第2工程は、前記N層目の分離膜ユニットに含まれる前記分離膜の折目部分の少なくとも一部を含む第2領域を押圧した状態で、前記(N+1)層目の分離膜ユニットを積層する、〔1〕又は〔2〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔4〕 前記第2工程を、前記第1工程における前記第1領域を押圧した状態を維持しながら行う、〔3〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔5〕 前記積層する工程は、さらに、前記第2工程で積層した前記(N+1)層目の分離膜ユニット上に、(N+2)層目の分離膜ユニットを積層する第3工程と、を含み、
前記第3工程は、前記(N+1)層目の分離膜ユニットに含まれる前記分離膜の折目部分の少なくとも一部を含む第3領域を押圧した状態で、前記(N+2)層目の分離膜ユニットを積層する、〔3〕又は〔4〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔6〕 前記第3工程を、前記第2工程における前記第2領域を押圧した状態を維持しながら行う、〔5〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔7〕 前記第1領域の押圧は、第1押圧部材を押し当てることによって行い、
前記積層する工程は、さらに、前記第1押圧部材による前記第1領域の押圧を解除する工程を含み、
前記第3工程を、前記解除する工程後の前記第1押圧部材が、前記第3領域を押圧した状態で行う、〔5〕又は〔6〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔8〕 前記第2領域の押圧は、第2押圧部材を押し当てることによって行う、〔7〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔9〕 前記分離膜エレメントは、前記積層体の全長が前記中空管に巻回されたスパイラル型の分離膜エレメントである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔10〕 前記第1流路部材及び第2流路部材は、一方が原料流体が流れる流路を形成するための供給側流路部材であり、他方が前記分離膜を透過した透過流体が流れる流路を形成するための透過側流路部材である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔11〕 前記第1流路部材は、前記供給側流路部材であり、
前記第2流路部材は、前記透過側流路部材である、〔10〕に記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔12〕 前記分離膜は、多孔層と前記多孔層上に設けられたゲル層とを有する、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の分離膜エレメントの製造方法。
〔13〕 有孔の中空管と積層体とを含み、前記中空管に前記積層体の少なくとも一部が巻回された分離膜エレメントであって、
前記積層体は、
二つ折りした分離膜の間に第1流路部材を介在させたリーフと、前記リーフに積層される第2流路部材を構成する少なくとも一部の層とを含む分離膜ユニットが、複数積層され、且つ、
前記分離膜の折目部分の位置が前記積層体の巻回方向にずれるように、前記分離膜ユニットが積層されたものであり、
前記分離膜は、
多孔層と前記多孔層上に設けられたゲル層とを有し、且つ、
前記分離膜を、1N/cmの荷重が折目全体に付与されるように二つ折りにした後、前記荷重を除去したときの前記分離膜の対向する表面の間の最大距離が10mm以上であり、
前記分離膜エレメントは、
前記積層体の積層方向に前記第2流路部材を介して隣合う2つの前記リーフに含まれる前記分離膜の折目部分の位置の間の巻回方向の距離をWRとし、
前記中空管の外周長Cを前記積層体に含まれる前記リーフの数nで除した値(C/n)をピッチPとするとき、
前記ピッチPからの前記距離WRのズレ量の標準偏差が0.4以下である、分離膜エレメント。
〔14〕 前記分離膜エレメントは、前記積層体の全長が前記中空管に巻回されたスパイラル型の分離膜エレメントである、〔13〕に記載の分離膜エレメント。
〔15〕 前記第1流路部材及び第2流路部材は、一方が原料流体が流れる流路を形成するための供給側流路部材であり、他方が前記分離膜を透過した透過流体が流れる流路を形成するための透過側流路部材である、〔13〕又は〔14〕に記載の分離膜エレメント。
〔16〕 前記第1流路部材は、前記供給側流路部材であり、
前記第2流路部材は、前記透過側流路部材である、〔15〕に記載の分離膜エレメント。
【発明の効果】
【0007】
本発明の分離膜エレメントの製造方法によれば、分離膜ユニットを良好に積層することができ、積層体を中空管に巻き取った部分の形状が良好な分離膜エレメントを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】スパイラル型の分離膜エレメントを示す、一部展開部分を設けた概略の斜視図である。
図2】テレスコープ防止板を設けたスパイラル型の分離膜エレメントを示す、一部展開部分を設けた概略の斜視図である。
図3】スパイラル型の分離膜エレメントに含まれる積層体の一例を示す概略断面図である。
図4】スパイラル型の分離膜エレメントの製造工程の一例を説明するための模式図である。
図5】分離膜の折目部分に膨らみのある分離膜ユニットを積層した状態を説明するための模式図である。
図6】分離膜の一例を示す概略断面図である。
図7】分離膜の他の一例を示す概略断面図である。
図8図7に示す分離膜を用いたリーフの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下のすべての図面は、本発明の理解を助けるために示すものであり、図面に示される各構成要素のサイズや形状は、実際の構成要素のサイズや形状とは必ずしも一致しない。
【0010】
以下では、主にスパイラル型の分離膜エレメントを例に挙げて説明するが、本実施形態の分離膜エレメント及びその製造方法は、スパイラル型の分離膜エレメント及びその製造方法に限定されるものではない。本実施形態の分離膜エレメントは、中空管に積層体の少なくとも一部が巻回された構造を有する分離膜エレメントであってもよい。具体的には、中空管の外周に積層体の少なくとも一部(例えば1周分だけ)を巻回し、残りの部分の積層体を中空管に吊り下げた状態としたプレート&フレーム型の分離膜エレメントにも適用することもできる。
【0011】
<スパイラル型の分離膜エレメントの製造方法>
図1及び図2は、スパイラル型の分離膜エレメントを示す、一部展開部分を設けた概略の斜視図である。図3は、スパイラル型の分離膜エレメントに含まれる積層体の一例を示す概略断面図である。
【0012】
図1及び図2に示すように、本実施形態の製造方法によって製造されるスパイラル型の分離膜エレメント1a,1b(以下、両者をまとめて「分離膜エレメント1」ということがある。)は、少なくとも特定の流体成分を含む原料流体から、特定の流体成分を分離するために用いることができる。原料流体は、ガスであってもよく、液体であってもよい。分離膜エレメント1は好ましくはガス分離膜エレメントであり、原料ガスから特定のガス成分を選択的に透過させるものであることが好ましい。ガス分離膜エレメントに含まれる分離膜が選択的に透過させる特定のガス成分は、酸性ガスであることが好ましい。酸性ガスとしては、二酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、硫黄酸化物(SO)、窒素酸化物(NO)等が挙げられる。特定のガス成分は、二酸化炭素又は硫化水素であることが好ましく、二酸化炭素であることがより好ましい。
【0013】
分離膜エレメント1は、図1及び図2に示すように、有孔の中空管5と積層体7(図3)とを含み、中空管5に積層体7の全長が巻回されたものである。分離膜エレメント1は、円筒状であることが好ましい。
【0014】
積層体7は、図3に示すように、二つ折りした分離膜10の間に供給側流路部材3(第1流路部材)を介在させたリーフ6と、リーフ6に積層される、透過側流路部材4(第2流路部材)を構成する少なくとも一部の層とを含む分離膜ユニット9が、複数積層されている。積層体7は、分離膜10の折目部分の位置が、積層体7の巻回方向(図3中の両矢印の方向)に、例えばピッチP0でずれるように、分離膜ユニット9が積層されている。積層体7では通常、図3に示すように、最外層(最も下側)が透過側流路部材4であり、最上面がリーフ6であるため、最外層の透過側流路部材4及び最上面のリーフ6は、図3に示す積層体7の状態では分離膜ユニット9を構成しない。図3に示す積層体7では、分離膜ユニット9はいずれも、リーフ6上に透過側流路部材4を構成する全ての層が設けられた構造を有する。分離膜エレメント1では、この積層体7が中空管5に巻回されている。
【0015】
後述するように透過側流路部材4が2以上の層を積層した多層構造である場合、積層体は、図3に示す積層体7の形態であってもよく、図3に示す積層体7の形態とは異なり、最上層のリーフ6上に透過側流路部材4を構成する少なくとも一部の層を含んでいてもよい。すなわち、透過側流路部材4を構成するすべての層を最も下側に配置すれば、積層体は図3に示す積層体7の形態となる。この場合、分離膜ユニット9はいずれも、リーフ6上に透過側流路部材4を構成する全ての層が設けられた構造を有する。一方、透過側流路部材4を構成する複数の層のうちの一部の層のみを最も下側に配置した場合には、透過側流路部材4を構成する複数の層のうちの残りの層を、最上層のリーフ6上に配置することができるため、積層体は図3に示す積層体7の形態は異なる形態となる。この場合、最上層以外の分離膜ユニット9は、リーフ6上に透過側流路部材4を構成する全ての層が設けられた構造を有し、最上層の分離膜ユニット9は、リーフ6上に透過側流路部材4を構成する少なくとも一部の層を含む構造を有する。なお、中空管5に積層体を巻回した状態では、上記で説明した積層体7における最上面の層が、リーフ6であるか、又は、透過側流路部材4を構成する複数の層のうちの一部の層であるかにかかわらず、積層体7の最も下側に配置された透過側流路部材4を構成する層の全て又は一部が最外層を構成することができる。
【0016】
積層体7におけるピッチP0は、リーフ6を積層するために予め設定された設定値とすることができ、中空管5の外周長Cと積層体7に含まれるリーフ6の数nに基づいて設定することができる。ピッチP0は例えばC/nである。ピッチP0は、積層体7を中空管5に巻回する前の状態(図3に示すように分離膜ユニット9を平積みした状態)において、積層体7の積層方向に透過側流路部材4を介して隣合う2つのリーフ6の分離膜10の折目部分の先端部分(折目部分の頂点となる部分)どうしの距離である。折目部分の先端部分どうしの距離は、積層体7の積層方向に直交する方向(水平方向)であって、折目部分の先端部分が構成する直線に直交する方向の距離である。
【0017】
分離膜エレメント1は、さらに、供給側流路部材3を流れる原料流体と、透過側流路部材4を流れる透過流体との混合を防止するための封止部を有することが好ましい。分離膜エレメント1は、中空管5に積層体7が巻回された巻回体の巻戻しや巻崩れを防止するために、外周テープや、図2に示すテレスコープ防止板55等の固定部材を備えていてもよい。分離膜エレメント1は、分離膜エレメントにかかる内圧及び外圧による負荷に対する強度を確保するために、巻回体の最外周にアウターラップ(補強層)を有していてもよい。
【0018】
本実施形態では、分離膜エレメント1として、二つ折りした分離膜10の間に供給側流路部材3を介在させたリーフ6と、リーフ6上に透過側流路部材4を設ける場合について説明するが、これに限定されない。分離膜エレメントは、二つ折りした分離膜10の間に透過側流路部材4を介在させたリーフと、このリーフ上に供給側流路部材3を設けたものであってもよい。
【0019】
図4は、スパイラル型の分離膜エレメントの製造工程の一例を説明するための模式図である。図5は、分離膜の折目部分に膨らみのある分離膜ユニットを積層した状態を説明するための模式図である。以下では、透過側流路部材4が単層構造である場合について説明するが、上記したように透過側流路部材4は多層構造を有するものであってもよい。
【0020】
分離膜エレメント1の製造方法は、分離膜ユニット9を積層する工程を含む。分離膜ユニット9を積層する工程は、リーフ6及び透過側流路部材4を予め一体化した構造体を積層してもよく、リーフ6及び透過側流路部材4を順に積層する工程であってもよい。
【0021】
積層する工程は、図4の(a)及び(b)に示すように、(N-1)層目の分離膜ユニット9aに含まれる分離膜10aの折目部分の少なくとも一部を含む第1領域を押圧した状態で、(N-1)層目の分離膜ユニット9a上にN層目の分離膜ユニット9bを積層する第1工程を含む。なお、上記のように特定の層の分離膜ユニット9、並びに、当該分離膜ユニット9に含まれるリーフ6、分離膜10、供給側流路部材3、及び透過側流路部材4に対しては、該当する数字の符号に同じアルファベットを付している。
【0022】
積層する工程は、第1工程を繰り返し行う工程であってもよい。積層する工程は、第1工程に加えてさらに、図4の(c)に示すように、N層目の分離膜ユニット9b上に(N+1)層目の分離膜ユニット9cを積層する第2工程を含んでいてもよく、図4の(d)に示すように、(N+1)層目の分離膜ユニット9c上に(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層する第3工程を含んでいてもよい。積層する工程はさらに、分離膜ユニット9を複数積層したユニット群上に、積層体7の最上面を構成するリーフ6(図3)を積層する工程を含んでいてもよい。
【0023】
ここで、Nは2以上の整数であり、図3に示す積層体7に含まれるリーフ6の数をnとしたとき(n-1)以下の整数である。なお、上記のとおり、積層体7の最上面を構成する層は通常リーフ6であるため、図3に示す積層体7に含まれるリーフ6の数nと分離膜ユニット9の数とは一致せず、積層体7に含まれる分離膜ユニット8の数は(n-1)となる。ただし、上記したように、透過側流路部材4が多層構造を有し、透過側流路部材4を構成する少なくとも一部の層が、最上層に位置するリーフ6の上面に積層されている場合は、Nはn以下の整数となる。nは整数であり、分離膜エレメント1の分離性能及び/又は中空管5の大きさ(外周長C)等に応じて選択すればよい。nは、特に限定されないが、例えば5以上であり、8以上であってもよく、10以上であってもよく、また、例えば30以下であり、20以下であってもよい。
【0024】
本実施形態の分離膜エレメント1の製造方法によれば、後述するスパイラル型の分離膜エレメントを好適に製造することができる。以下、積層する工程の各工程について詳述する。
【0025】
(第1工程)
第1工程では、(N-1)層目の分離膜ユニット9a上に、積層体7の巻回方向(図4中の両矢印の方向)にピッチP0(図3)でずれるようにN層目の分離膜ユニット9bを積層する。このとき、図4の(a)及び(b)に示すように、(N-1)層目の分離膜ユニット9aに含まれる分離膜10aの折目部分の少なくとも一部を含む第1領域を押圧することにより、分離膜10aの折目部分の膨らみを抑制した状態で、N層目の分離膜ユニット9bを積層することができる。第1領域の押圧は、分離膜ユニット9aに含まれる透過側流路部材3aを介して分離膜10aを押圧することが好ましい。
【0026】
分離膜ユニット9のリーフ6は、二つ折りした分離膜10を含むため、分離膜10の折目部分に膨らみが生じやすい。この膨らみにより、分離膜ユニット9では、分離膜10の折目部分側の厚みが大きくなり、水平面に分離膜ユニット9を載置した場合に折目部分が位置する領域の近傍が反り上がった状態になりやすい。特に、分離膜ユニット9を複数積層したユニット群を形成した場合には、図5中の左側部分に示すように、折目部分が位置する領域の反りが大きくなりやすい。この反りが発生した分離膜ユニット9又はユニット群上に、次の分離膜ユニット9を積層すると、予め設定されたピッチP0で精度良く分離膜ユニット9を積層することが難しくなる。
【0027】
そこで、本実施形態では図4の(a)及び(b)に示すように、N層目の分離膜ユニット9bを積層する前に、(N-1)層目の分離膜ユニット9aに含まれる分離膜10aの折目部分の少なくとも一部を含む第1領域を押圧している。これにより、(N-1)層目の分離膜ユニット9aに発生する膨らみや反りを抑制し、分離膜ユニット9a又はユニット群を平坦な状態に近付けたり、折目部分を中空管5の軸方向に対して平行な状態に近付けたりすることができる。そのため、(N-1)層目の分離膜ユニット9a上に、適切なピッチP0で精度良くN層目の分離膜ユニット9bを積層することができる。したがって、予め設定されたピッチP0から大きくずれることなく分離膜10を積層することができるため、中空管5に積層体7を巻回した巻回体の断面形状を真円形に近付けることができ、外観形状が良好な分離膜エレメント1を得ることができる。また、分離膜エレメント1の分離性能の低下を抑制することも期待できる。
【0028】
本実施形態の製造方法では、例えば、分離膜10を二つ折りにしたときに折目を強く付与しなくても、適切なピッチP0で精度良く分離膜ユニット9を積層することができる。特に、後述するように分離膜10が多孔層と多孔層上に設けられたゲル層とを有する場合には、分離膜10に折目を強く付与するとゲル層中のゲルに偏り等が生じる虞があるため、強い折目を付与しにくい。本実施形態の製造方法は、折目を強く付与できない分離膜10を用いた場合にも好適に用いることができる。
【0029】
上記第1領域は、(N-1)層目の分離膜ユニット9aに含まれる分離膜10aの折目部分の少なくとも一部を含んでいれば特に限定されず、折目部分の10%以上の範囲を含むことが好ましく、20%以上を含んでいてもよく、30%以上を含んでいてもよい。第1領域は、折目部分全体を(100%)含むものであってもよい。第1領域は、折目部分の延在方向の中央部分に設けられてもよいし、折目部分の延在方向の端部を含むように設けられてもよい。第1領域は、折目部分の延在方向の中央部分のように1つの領域のみであってもよく、折目部分の延在方向の両端部のように互いに離間した2つ以上の領域を含むものであってもよい。
【0030】
上記第1領域の押圧は、図4に示すように第1押圧部材31を押し当てることによって行うことが好ましい。第1押圧部材31は、第1領域を押圧することができるものであれば特に限定されない。第1押圧部材31は、例えば図4に示すように、押圧面が平面である押圧部を棒状の支持部で支持したものであってもよく、押圧面が曲面である押圧部を棒状の支持部で支持したものであってもよく、第1押圧部材としてロールを用い、ロール表面を押圧部とするものであってもよい。押圧面の形状は、針状のように鋭い形状とすると分離膜10(ゲル層を有する場合は、特にゲル層)を損傷する虞があるため、分離膜10を損傷しにくい形状とすることが好ましく、上記した第1領域の範囲は、押圧により分離膜10を損傷することのないように設定することが好ましい。
【0031】
第1領域の押圧は、第1領域において対向する分離膜10aの表面の間の最大距離が5mm未満となるように行うことが好ましく、4mm以下であってもよく、3mm以下であってもよく、また、0mmであってもよく、0.5mm以上であってもよい。最大距離が上記の範囲内であることにより、適切なピッチP0で精度良く分離膜ユニット9を積層することができる。また、折目を強く付与できない分離膜10を用いた場合にも、適切なピッチP0で精度良く分離膜ユニット9を積層することができる。分離膜10aの表面とは、二つ折りした分離膜10aの内側の表面をいう。表面の間の最大距離とは、第1領域の範囲内において、分離膜10aの内側の表面どうしの間の積層体7の積層方向に沿った距離のうち、当該距離が最も大きくなる部分の距離をいう。
【0032】
(第2工程)
第2工程では、第1工程で積層したN層目の分離膜ユニット9b上に、積層体7の巻回方向にピッチP0でずれるように(N+1)層目の分離膜ユニット9cを積層する。第2工程では、第1工程での第1領域を押圧した状態を解除して、又は、第1工程での第1領域を押圧した状態を維持しながら、さらにN層目の分離膜ユニット9bに含まれる分離膜10bの折目部分の少なくとも一部を含む第2領域を押圧する。第2領域の押圧は、分離膜ユニット9bに含まれる透過側流路部材3bを介して分離膜10bを押圧することが好ましい。これにより、分離膜10a,10bの折目部分の膨らみを抑制した状態で、(N+1)層目の分離膜ユニット9cを積層することができる。
【0033】
上記したように分離膜ユニット9を複数積層したユニット群では、折目部分が位置する領域の反りが大きくなりやすい(図5)。そのため、第2工程のように分離膜ユニット9を3層以上積層したユニット群を形成する場合にも、(N+1)層目の分離膜ユニット9cを積層する前に、N層目の分離膜ユニット9bに含まれる分離膜10bの第2領域を押圧している。これにより、(N-1)層目及びN層目の分離膜ユニット9a,9bに発生する膨らみや反りを抑制し、ユニット群を平坦な状態に近付けたり、折目部分を中空管5の軸方向に対して平行な状態に近付けたりすることができる。そのため、N層目の分離膜ユニット9b上に、適切なピッチP0で精度良く(N+1)層目の分離膜ユニット9cを積層することができる。したがって、予め設定されたピッチP0から大きくずれることなく分離膜10を積層することができるため、中空管5に積層体7を巻回した巻回体の断面形状を真円形に近付けることができる。また、分離膜エレメント1の分離性能の低下を抑制することも期待できる。
【0034】
特に第2工程では、図4の(c)に示すように、第1工程での第1領域の押圧を維持した状態で、(N+1)層目の分離膜ユニット9cを積層する前に、N層目の分離膜ユニット9bに含まれる分離膜10bの第2領域を押圧することが好ましい。これにより、(N-1)層目及びN層目の分離膜ユニット9a,9bに発生する膨らみや反りをより一層抑制し、ユニット群をより一層平坦な状態に近付けたり、折目部分を中空管5の軸方向に対してより一層平行な状態に近付けたりすることができる。
【0035】
第2領域は、N層目の分離膜ユニット9bに含まれる分離膜10bの折目部分の少なくとも一部を含んでいれば特に限定されない。第2領域の好ましい形態は、第1領域の好ましい形態として説明した形態を挙げることができる。
【0036】
第2領域の押圧は、第1領域を押圧した第1押圧部材31によって行ってもよく、第1押圧部材31とは異なる第2押圧部材32によって行ってもよい。第1工程での第1領域を押圧した状態を解除して第2領域を押圧する場合、第1領域を押圧していた第1押圧部材31を移動させて、第2領域を押圧するようにしてもよい。第1工程での第1領域の押圧を維持した状態で、第2領域の押圧を行う場合には、図4に示すように第2押圧部材32を押し当てることによって行うことが好ましい。第2押圧部材32は、第2領域を押圧することができるものであれば特に限定されない。第2押圧部材32の好ましい形態は、第1押圧部材31の好ましい形態として説明した形態を挙げることができる。第1押圧部材31により第1領域を押圧した状態で、第2押圧部材32により第2領域を押圧する場合には、第1押圧部材31の押圧面と第2押圧部材32の押圧面とが干渉しないように、一方の押圧部材の押圧面の側に、他方の押圧部材の押圧面とは反対側の面と係合する凹部を設けてもよい。
【0037】
第2領域の押圧は、第1領域の押圧と同様に、第2領域において対向する分離膜10bの表面の間の最大距離が5mm未満となるように行うことが好ましい。最大距離の好ましい範囲は、第1領域の押圧で説明した範囲と同じである。
【0038】
(第3工程)
積層する工程は、さらに、(N+1)層目の分離膜ユニット9c上に、積層体7の巻回方向にピッチP0でずれるように(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層する第3工程を含んでいてもよい。積層する工程は、さらに、第1押圧部材31による第1領域の押圧を解除する工程を含んでいてもよい。解除する工程は、第2工程の後に行うことが好ましい。
【0039】
第3工程では、第2工程での第2領域を押圧した状態を解除して、又は、第2工程での第2領域を押圧した状態を維持しながら、解除する工程後の第1押圧部材31が、(N+1)層目の分離膜ユニット9cに含まれる分離膜10cの折目部分の少なくとも一部を含む第3領域を押圧している。この状態で、(N+1)層目の分離膜ユニット9c上に(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層する。これにより、分離膜10b,10cの折目部分の膨らみを抑制した状態で、(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層することができる。
【0040】
第1押圧部材31は、解除する工程の後、第1領域の押圧位置から第3領域の押圧位置に移動することにより、第3領域を押圧してもよい。そのため、解除する工程は、第1押圧部材31が、第1領域を押圧する位置から第3領域を押圧する位置に移動する工程を含んでいてもよい。第3領域の押圧は、図4に示すように、分離膜ユニット9cに含まれる透過側流路部材3cを介して分離膜10cを押圧することが好ましい。
【0041】
上記したように分離膜ユニット9を複数積層したユニット群では、折目部分が位置する領域の反りが大きくなりやすい(図5)。そのため、第3工程のように分離膜ユニット9を4層以上積層したユニット群を形成する場合にも、(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層する前に、(N+1)層目の分離膜ユニット9cに含まれる分離膜10cの第3領域を押圧している。これにより、特にN層目及び(N+1)層目の分離膜ユニット9b,9cに発生する膨らみや反りを抑制し、ユニット群を平坦な状態に近付けたり、折目部分を中空管5の軸方向に対して平行な状態に近付けたりすることができる。そのため、(N+1)層目の分離膜ユニット9c上に、適切なピッチP0で精度良く(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層することができる。したがって、予め設定されたピッチP0から大きくずれることなく分離膜10を積層することができるため、中空管5に積層体7を巻回した巻回体の断面形状を真円形に近付けることができる。また、分離膜エレメント1の分離性能の低下を抑制することも期待できる。
【0042】
特に第3工程では、図4の(d)に示すように、第2工程での第2領域の押圧を維持した状態で、(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層する前に、(N+1)層目の分離膜ユニット9cに含まれる分離膜10cの第3領域を押圧することが好ましい。第3領域の押圧は、第1領域の押圧位置から移動した第1押圧部材31によって行ってもよい。これにより、特にN層目及び(N+1)層目の分離膜ユニット9b,9cに発生する膨らみや反りをより一層抑制し、ユニット群をより一層平坦な状態に近付けたり、折目部分を中空管5の軸方向に対してより一層平行な状態に近付けたりすることができる。
【0043】
第3工程では、(N+1)層目の分離膜ユニット9cの第3領域の押圧を、第1工程で(N-1)層目の分離膜ユニット9aの第1領域の押圧を行った第1押圧部材31で行ってもよい。これによれば、第1領域及び第3領域を押圧するための1つの第1押圧部材31によって行うことができるため、第1領域及び第3領域のそれぞれを押圧する部材を用意する必要がなく、積層体7を製造するための装置の部品点数を低減することができる。あるいは、第2工程でN層目の分離膜ユニット9bの第2領域の押圧を行った押圧部材(第1押圧部材31又は第2押圧部材32)を移動させて、第3領域の押圧を行ってもよく、これらとは異なる押圧部材で第3領域を押圧してもよい。
【0044】
第3領域は、(N+1)層目の分離膜ユニット9cに含まれる分離膜10cの折目部分の少なくとも一部を含んでいれば特に限定されない。第3領域の好ましい形態は、第1領域の好ましい形態として説明した形態と同様とすることができる。
【0045】
第3領域の押圧は、第1領域の押圧と同様に、第3領域において対向する分離膜10cの表面の間の最大距離が5mm未満となるように行うことが好ましい。最大距離の好ましい範囲は、第1領域の押圧で説明した範囲と同じである。
【0046】
積層する工程は、第1工程~第3工程を一組とした第2セットを、1回行うものであってもよく2回以上行うものであってもよい。積層工程は、第2セットを行った後、第1工程~第3工程のうちの1つ以上の工程を1回以上行ってもよい。
【0047】
積層する工程は、第2セット後に第3工程を繰り返し行うことが好ましい。これにより、分離膜ユニット9を複数積層したユニット群を平坦な状態に近付けた状態で、適切なピッチP0で精度よく分離膜ユニット9を積層することができる。また、第2領域の押圧を第2押圧部材32によって行うことにより、分離膜ユニット9の積層に伴って第1押圧部材31及び第2押圧部材32を移動させて分離膜10の折目部分を押圧しながら、分離膜ユニット9を複数積層することができる。
【0048】
(最上面のリーフを積層する工程)
図3に示す積層体7の最上面を構成する層がリーフ6である場合、積層する工程は、積層体7に含まれる分離膜ユニット9を全て積層した後に、積層体7の最上面を構成するリーフ6を積層する工程を含んでいてもよい。リーフ6を積層する工程は、第3工程の後に行ってもよい。リーフ6を積層する工程を行うことにより、積層体7を形成することができる。積層体7の最上面を構成する層が分離膜ユニット9である場合には、本工程は通常行わない。
【0049】
最上面のリーフ6を積層する工程は、第3工程で説明した(N+2)層目の分離膜ユニット9dを積層することに代えて、リーフ6を積層すること以外は、第3工程で説明した手順で行うことができる。
【0050】
(その他の工程)
分離膜エレメント1の製造方法は、上記した分離膜ユニットを積層する工程を経て積層体7を形成した後に、中空管5に積層体7を巻回して巻回体を形成する工程を含むことができる。巻回体を形成する工程は、例えば、図3に示すように、積層体7の最外層(最も下側)に位置する透過側流路部材4の一端を中空管5の外周に固定し、中空管5を回転させて、中空管5の周囲に積層体7を巻回すればよい。中空管5は、図3に示すように、積層体7の、分離膜10の折目部分が位置する側の端部に設けることが好ましい。上記したように積層体7の最上面はリーフ6であるが、積層体7を中空管5に巻回することにより、積層体7の最上面のリーフ6は、積層体7の最外面に位置する透過側流路部材4に接した状態となる。
【0051】
分離膜エレメント1は、供給側流路部材3を流れる原料流体と、透過側流路部材4を流れる透過流体との混合を防止するための封止部を有することができる。そのため、分離膜エレメント1の製造方法は、封止部を形成する工程を含んでいてもよい。封止部を形成する工程は、例えば、リーフ6及び透過側流路部材4を積層する際に、リーフ6の表面に封止材料を設ける工程と、封止材料を硬化する工程と、を含むことができる。封止材料を硬化する工程は、巻回体を形成する工程の後に行うことが好ましい。
【0052】
封止材料を設ける工程は、例えば、リーフ6及び/又は透過側流路部材4の表面の周縁に、分離膜10の折目部分側が開口するように(いわゆるエンベロープ状に)封止材料を設ければよい。封止材料は、分離膜ユニット9のリーフ6側の表面及び/又は透過側流路部材4側の表面の周縁に、分離膜10の折目部分側が開口するように設けてもよい。封止材料は、塗布や転写等によって上記表面に設けることができる。
【0053】
上記のように封止材料を設けて積層体7を形成した後、積層体7を中空管5に巻回しながら、リーフ6の間に介在する透過側流路部材4に封止材料を浸透させたり、透過側流路部材4を介して対向するリーフ6の間で封止材料を押し広げる。その後、封止材料を硬化する工程を行う。封止材料を硬化する工程は、封止材料の種類に応じて硬化方法を選択すればよい。封止材料の硬化方法としては、例えば、封止材料として熱硬化性樹脂を用いている場合には、加熱等を行って熱硬化性樹脂を硬化させればよく、封止材料が熱融着性接着剤である場合には、加熱等を行った後に冷却すればよい。封止材料として活性エネルギー線硬化性樹脂を用いている場合は、活性エネルギー線照射により硬化を行えばよく、封止材料が水や溶剤を含む材料である場合には、水や溶媒を除去するための乾燥を行えばよい。
【0054】
上記ではスパイラル型の分離膜エレメントの製造方法について説明したが、上記したように本実施形態の分離膜エレメントの製造方法は、プレート&フレーム型の分離膜エレメントの製造方法であってもよい。プレート&フレーム型の分離膜エレメントは、中空管に積層体の一部を巻回し、残りの部分が中空管から吊り下がった状態となっている。例えば、プレート&フレーム型の分離膜エレメントでは、中空管の外周に1周分だけ積層体を巻回し、残りの部分は巻回していない状態となっている。そのため、プレート&フレーム型の分離膜エレメントの製造方法においても、分離膜ユニットを積層する場合には、上記で説明した方法と同様に、第1領域、第2領域、又は第3領域の押圧を行うことができる。これによれば、積層体を中空管に巻き取った部分の形状が良好な分離膜エレメントを製造することができる。
【0055】
<スパイラル型の分離膜エレメント>
本実施形態のスパイラル型の分離膜エレメント1は、上記したように、有孔の中空管5と積層体7とを含み、中空管5に積層体7が巻回されたものである。分離膜エレメント1の形状及び分離膜エレメント1によって分離する流体成分については、上記したとおりである。また、積層体7の説明については上記したとおりである。積層体7では、複数の分離膜ユニット9が積層されており、分離膜10の折目部分の位置が積層体7の巻回方向にずれるように、分離膜ユニット9が積層されている。
【0056】
分離膜エレメント1において、分離膜10は、多孔層と多孔層上に設けられたゲル層とを有し、且つ、分離膜10を、1N/cmの荷重が折目全体に付与されるように二つ折りにした後、この荷重を除去したときの分離膜10の対向する表面の間の最大距離が10mm以上である。
【0057】
分離膜エレメント1は、
積層体7の積層方向に透過側流路部材4を介して隣合う2つのリーフ6に含まれる分離膜10の折目部分の位置の間の巻回方向の距離をWRとし、
中空管5の外周長Cを積層体7に含まれるリーフ6の数nで除した値(C/n)をピッチPとするとき、
ピッチPからの距離WRのズレ量の標準偏差が0.4以下である。
【0058】
上記したように、積層体7の最上面を構成する層は、リーフ6又はリーフ6上に透過側流路部材4を構成する少なくとも一部の層であり、積層体7の最外面(最も下側)は透過側流路部材4を構成する少なくとも一部の層である。積層体7は、最上面のリーフ6と最外面の透過側流路部材4を構成する少なくとも一部の層との間に分離膜ユニット9を2以上有することが好ましい。
【0059】
分離膜10が備える多孔層は、ゲル層の支持層又は保護層として機能する。ゲル層は、特定の流体成分を選択的に透過させるための分離機能層として機能する。後述するように、分離膜10はゲル層の両面に多孔層を有していてもよい。
【0060】
分離膜10を1N/cmの荷重で二つ折りにするとは、水平面上に積置した分離膜10を折り返し、折目となる部分全体に1N/cmの荷重を付与することをいう。荷重の付与方法は後述する実施例に記載のとおりであり、荷重を付与する面が金属製の平面である部材を、当該平面どうしが対向するように配置し、分離膜10の折目となる部分全体に荷重を5秒間付与することによって行う。
【0061】
荷重を除去したときの分離膜10の対向する表面の間の最大距離は、10mm以上であり、12mm以上であってもよく、15mm以上であってもよく、通常60mm以下であり、40mm以下であってもよく、20mm以下であってもよい。分離膜10の対向する表面とは、二つ折りした分離膜10の内側の表面をいう。分離膜10の対向する表面の間の最大距離とは、水平面上に載置された二つ折りした分離膜10の、水平面に直交する方向における上記表面どうしの間の距離のうち、当該距離が最も大きくなる部分の距離をいう。
【0062】
距離WRは、積層体7の積層方向に透過側流路部材4を介して隣合う2つのリーフ6について、各リーフ6に含まれる分離膜10の折目部分の位置の間の距離であって、積層体7の巻回方向に沿った距離である。距離WRは、分離膜エレメント1において中空管5に巻回されている積層体を展開した状態で測定することができ、中空管5に巻回された積層体7における上記距離と考えることができる。距離WRは、1つの折目部分全体について測定した折目部分どうしの間の距離のうちの最大値をいう。距離WRは、積層体7に含まれ、且つ、その積層方向に透過側流路部材4を介して互いに隣合う2つのリーフ6のそれぞれについて測定する。
【0063】
ピッチPは、中空管5の外周長Cを、積層体7に含まれるリーフ6の数nで除した値(C/n)である。このようにピッチPを設定することにより、積層体7に含まれる全ての分離膜10の一部(折目部分近傍)が中空管5の外周に接するように、積層体7を中空管5に巻回することができる。
【0064】
ピッチPからの距離WRのズレ量は、予め設定されたピッチPと、積層体7が中空管5に巻回された状態における実際のピッチとの差とみなすことができる。ズレ量は、上記した隣合う2つのリーフ6のそれぞれについて測定した距離WRのそれぞれに対して算出する。
【0065】
ズレ量の標準偏差は、距離WRとピッチP(ただし、P=C/n(Cは中空管5の外周長を表し、Pは積層体7に含まれるリーフ6の数を表す。))とするとき、下記に示す式(I)によって算出することができる。
ズレ量の標準偏差={Σ[(WR/P)-1]/n}0.5 (I)
【0066】
ズレ量の標準偏差は、0.4以下であり、0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.2以下であってもよい。ズレ量の標準偏差が小さいほど、予め設定されたピッチPと、積層体7が中空管5に巻回された状態における実際のピッチとの差が小さいと考えられる。
【0067】
上記した分離膜を備え、ズレ量の標準偏差が上記範囲内にある分離膜エレメント1によれば、積層体7を中空管5に巻回した巻回体においても、距離WRがピッチPから大きくずれていない状態になっていると考えられる。そのため、巻回体の断面形状を真円形に近付けることができ、外観形状が良好な分離膜エレメント1を得ることができる。また、分離膜エレメント1の分離性能の低下を抑制することも期待できる。
【0068】
特に、分離膜エレメント1では、分離膜10がゲル層を含んでおり、分離膜10を二つ折りした場合に強い折目を形成しにくい。このような分離膜10を備えた分離膜エレメント1においても、ズレ量の標準偏差が上記範囲内であることにより、良好な巻回形状とすることができる。
【0069】
上記の分離膜エレメント1を製造する方法は特に限定されないが、例えば上記した分離膜エレメント1の製造方法が挙げられる。
【0070】
分離膜エレメント1に設けられた供給側流路部材3は、その端部のうち少なくとも、二つ折りした分離膜10の折目部分に対向して配置される端部に、当該端部を覆う第1カバー部を備えていてもよい。第1カバー部は、供給側流路部材3の端部を包み込むように設けられることが好ましい。第1カバー部は、フィルム上に粘着剤層を設けたテープであってもよく、樹脂コーティング等による被覆によって形成してもよい。例えば、供給側流路部材3を構成する素材の剛性が高い場合等には、供給側流路部材3の端部が分離膜10と接触すると、分離膜10を突き刺す、傷つける等の損傷を生じることがある。そのため、供給側流路部材3の端部に第1カバー部が設けられていることにより、分離膜10と供給側流路部材3の端部とが接触した場合にも、分離膜10を損傷することを抑制することができる。第1カバー部としては、国際公開第2018/186109号に記載のものが挙げられる。
【0071】
分離膜エレメント1は、さらに、上記した封止部を有していてもよく、外周テープ、テレスコープ防止板55、アウターラップを備えていてもよい。また、上記したように、分離膜エレメントは、二つ折りした分離膜10の間に透過側流路部材4を介在させたリーフと、このリーフ上に供給側流路部材3を設けたものであってもよい。二つ折りした分離膜10の間に透過側流路部材4を介在する場合には、透過側流路部材4に上記した第1カバー部を設けることが好ましい。
【0072】
上記ではスパイラル型の分離膜エレメントについて説明したが、上記したように本実施形態の分離膜エレメントは、プレート&フレーム型の分離膜エレメントであってもよい。プレート&フレーム型の分離膜エレメントは、中空管に積層体の一部を巻回し、残りの部分が中空管から吊り下がった状態となっている。例えば、プレート&フレーム型の分離膜エレメントでは、中空管の外周に1周分だけ積層体を巻回し、残りの部分は巻回していない状態となっている。そのため、プレート&フレーム型の分離膜エレメントにおいても、分離膜は、多孔層と多孔層上に設けられたゲル層とを有し、且つ、分離膜を、1N/cmの荷重が折目全体に付与されるように二つ折りにした後、この荷重を除去したときの分離膜10の対向する表面の間の最大距離が10mm以上とし、分離膜エレメントは、上記ピッチPからの距離WRのズレ量の標準偏差が0.4以下とすることができる。これによれば、分離膜エレメントの積層体を中空管に巻き取った部分の形状を良好なものとすることができる。
【0073】
<分離膜モジュール>
分離膜エレメントは、分離膜モジュールに用いることができる。分離膜モジュールは、分離膜エレメントを1基以上有する。分離膜モジュールは、分離膜10に原料流体を供給するための原料流体供給口(図1及び図2に示す供給口51と連通する部分)、分離膜10を透過した透過流体を排出するための透過流体排出口(図1及び図2に示す第1排出口52と連通する部分)、及び分離膜10を透過しなかった原料流体を排出するための非透過流体排出口(図1及び図2に示す第2排出口53と連通する部分)を備えている。上記の原料流体供給口、透過流体排出口及び非透過流体排出口は、分離膜エレメントを収納する容器(以下、「ハウジング」ということがある。)に設けられてもよい。
【0074】
ハウジングは、分離膜モジュール内を流通する原料流体を封入するための空間を形成することができ、例えばステンレス等の筒状部材と、この筒状部材の軸方向両端を閉塞するための閉塞部材とを有していてもよい。ハウジングは、円筒状、角筒状等の任意の筒状形状であってもよいが、分離膜エレメントは通常、円筒状であることから、円筒状であることが好ましい。また、ハウジングの内部には、供給口51に供給される原料流体と、分離膜エレメントに備えられた分離膜10を透過しなかった非透過流体との混合を防止するための仕切りを設けることができる。
【0075】
ハウジング内に2以上の分離膜エレメントを配置する場合、各分離膜エレメントに供給される原料流体は、並列に供給されてもよく、直列に供給されてもよい。ここで、原料流体を並列に供給するとは、少なくとも原料流体を分配して複数の分離膜エレメントに導入することをいい、原料流体を直列に供給するとは、少なくとも前段の分離膜エレメントから排出された透過流体及び/又は非透過流体を、後段の分離膜エレメントに導入することをいう。
【0076】
<分離装置>
分離装置は、分離膜モジュールを少なくとも1つ備えることができる。分離装置に備えられる分離膜モジュールの配列及び個数は、要求される処理量、特定の流体成分の回収率、分離装置を設置する場所の大きさ等に応じて選択することができる。
【0077】
分離装置は、分離膜10によって互いに隔てられた供給側空間及び透過側空間と、特定の流体を少なくとも含む原料流体を、供給部から供給側空間に供給するための供給側入口と、分離膜10を透過した特定のガスを含む透過ガスを透過側空間から排出するための透過側出口と、分離膜10を透過しなかった原料ガスを供給側空間から排出するための非透過側出口と、を備えていてもよい。
【0078】
以下、分離膜エレメント1をなす各部材等について説明する。
(分離膜)
図6及び図7は、分離膜の一例を示す概略断面図であり、図8は、図7に示す分離膜を用いたリーフの一例を示す概略断面図である。なお、以下で説明する分離膜は、上記で説明した分離膜エレメント及びその製造方法で用いるものであるが、上記以外の分離膜エレメント及びその製造方法で用いることもできるものである。
【0079】
分離膜10は、原料流体から特定の流体成分を選択的に透過させることができる公知のものであれば特に限定されない。分離膜はガス分離膜であることが好ましい。分離膜10,10’(以下、両者をまとめて「分離膜10」ということがある。)は、第1多孔層11(多孔層)と、第1多孔層11上に設けられたゲル層15とを有することが好ましく、ゲル層の第1多孔層11とは反対側に第2多孔層12(多孔層)を有していてもよい。また、分離膜10は、図6及び図7に示すように、第1多孔層11のゲル層15とは反対側に第3多孔層13を有していてもよく、第2多孔層12のゲル層15とは反対側に第4多孔層14を有していてもよい。
【0080】
第1多孔層11及びゲル層15を含む分離膜10は、例えば、ゲル層15を形成するための組成物を含む塗布液を、第1多孔層11上に塗布することによって製造することができる。塗布液は、ゲル層に含まれる組成物(後述する親水性樹脂、アルカリ金属化合物、アミノ酸等)と媒質とを含むことができる。媒質としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール等のプロトン性極性溶媒;トルエン、キシレン、ヘキサン等の無極性溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;等が挙げられる。媒質は、1種類を単独で用いてもよく、相溶する範囲で2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコールからなる群から選択される少なくとも1つが含まれる媒質が好ましく、水が含まれる媒質がより好ましい。
【0081】
第1多孔層11上に塗布液を塗布する方法としては、スロットダイ塗布、スピンコート法、バー塗布、ダイコート法、ブレード塗布、エアナイフ塗布、グラビアコート法、ロールコーティング塗布、スプレー塗布、ディップ塗布、コンマロール法、キスコート法、スクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
【0082】
第1多孔層11上に塗布液を塗布して形成された塗布液の膜から、媒質を除去することによってゲル層15を形成することができる。媒質を除去する方法としては、加熱等により塗布液の膜から媒質を蒸発除去させる方法等が挙げられる。分離膜10が第2多孔層12を有する場合は、媒質を除去する前又は媒質の一部を除去した後に、塗布液の膜上に第2多孔層12を積層すればよい。
【0083】
分離膜10は、リーフ6を形成するために二つ折りしたときの折目部分の位置にゲル層15が存在するものであってもよく、図7及び図8に示す分離膜10’のように折目部分にゲル層15が存在していないものであってもよい。以下、折目部分にゲル層15が存在していない分離膜10’について説明する。
【0084】
(折目部分にゲル層が存在していない分離膜及びそれを備えたリーフ)
折目部分にゲル層15が存在していない分離膜10’は、少なくとも第3多孔層13、第1多孔層11及びゲル層15をこの順に有する。分離膜10’は、図7に示すように、ゲル層15の第1多孔層11とは反対側に第2多孔層12を有していてもよく、第2多孔層12のゲル層15とは反対側に第4多孔層14を有していてもよい。
【0085】
分離膜10’は、分離膜10’を二つ折りしたときの折目部分を含む領域には、少なくともゲル層15及び第1多孔層11が存在しない非分離機能領域18が形成されている。分離膜10’が第2多孔層12を有する場合、非分離機能領域18には第2多孔層12が存在しないことが好ましい。分離膜10’が第4多孔層14を有する場合は、非分離機能領域18には第4多孔層14が存在していてもよい。
【0086】
非分離機能領域18は、分離膜10’を二つ折りしたときの折目部分を含む領域であればその大きさは特に限定されない。非分離機能領域18は、分離膜10’の折目位置から折目部分の延在方向に直交する2方向に、好ましくはそれぞれ2mm以上の範囲(非分離機能領域18の延在方向の長さが4mmの範囲)であり、より好ましくはそれぞれ4mm以上の範囲であり(非分離機能領域18の延在方向の長さが8mmの範囲)であり、さらに好ましくはそれぞれ5mm以上であり(非分離機能領域18の延在方向の長さが10mmの範囲)、通常それぞれ15mm以下(非分離機能領域18の延在方向の長さが30mmの範囲)である。
【0087】
分離膜10’を用いて分離膜エレメントを作製した場合に、非分離機能領域18から原料流体が流出することを抑制するために、非分離機能領域18には充填材19が設けられる。充填材19としては例えば樹脂材料等が挙げられる。樹脂材料としては、後述する封止材料に用いられる材料として例示したものが挙げられ、接着剤であることが好ましい。非分離機能領域18に設けられる充填材19の少なくとも一部は、非分離機能領域18に存在する層(第1多孔層11、第3多孔層13、第4多孔層14等)に浸透した状態で存在していてもよい。
【0088】
分離膜10’は、二つ折りしたときに外側になる表面において、非分離機能領域18が形成された範囲を少なくとも被覆するように、第2カバー部36を有する(図8)。第2カバー部36が被覆する範囲は、非分離機能領域18が形成された範囲全体を含んでいてもよく、非分離機能領域18のうち少なくとも分離膜10’の折目部分を含むものであってもよい。第2カバー部36を設けることにより、非分離機能領域18に設けられた充填材19が、非分離機能領域18に存在する層(第1多孔層11、第3多孔層13等)から染み出すことを抑制することができる。第2カバー部36の形態としては、供給側流路部材3に設けてもよい第1カバー部として説明した形態のものが挙げられ、より具体的には国際公開第2018/186109号に記載されたものが挙げられる。
【0089】
ゲル層15を含む分離膜では、リーフを形成するために分離膜を二つ折りする際に強く折目を形成すると、折目部分においてゲル層に偏りが生じ、ゲル層が存在しない領域が形成される虞がある。ゲル層が存在しない領域では、分離膜に供給された原料流体がそのまま流出しやすくなるため、分離機能が低下しやすい。分離膜10’では、二つ折りしたときに折目部分となる領域にゲル層15が存在しない非分離機能領域18を設け、非分離機能領域18に充填材19を設けている。これにより、分離膜10’をゲル層が存在しない領域に折目を形成することができ、また、非分離機能領域18に充填材19を設けることにより、非分離機能領域18から原料流体が流出することを抑制することができる。その結果、分離膜10’による分離効率の低下を抑制することができる。
【0090】
図8に示すように、二つ折りした分離膜10’の間に供給側流路部材3を介在させることにより、リーフ6’を形成することができる。なお、リーフ6’に用いる供給側流路部材3は、分離膜10’の折目部分に対向して配置される端部に、第1カバー部を有していてもよい。これにより、供給側流路部材3の端部が、分離膜10’の特に非分離機能領域18に存在する充填材19や第3多孔層等の層を損傷することを抑制し、非分離機能領域18から原料流体が流出することを抑制することができる。
【0091】
リーフ6’では、分離膜10’を二つ折りした折目部分の内側を充填するように充填材19が設けられている。充填材19は、折目部分で対向するゲル層15の間に存在していてもよく、充填材19によって対向するゲル層15の間が接着されていてもよい。充填材19は、非分離機能領域18の周辺に位置する、分離膜10’を構成する層、及び供給側流路部材3に浸透した状態で存在していてもよい。
【0092】
分離膜10’は、例えば、第3多孔層13、第1多孔層11、及びゲル層15等の分離膜10’を構成する層が積層された原料積層シートを用いて製造することができる。具体的には、原料積層シートから、分離膜10’を二つ折りしたときに折目部分となる領域において、ゲル層15等の非分離機能領域18には存在しない層を切り出し、非分離機能領域18に充填材19となる材料を設ければよい。リーフ6’は、充填材19となる材料が硬化性樹脂等である場合には、当該材料が硬化する前に、供給側流路部材3を間に介在させた状態で分離膜10’を二つ折りし、上記材料を硬化することによって製造することができる。
【0093】
図7に示す分離膜10’では、第3多孔層13、第1多孔層11、ゲル層15、第2多孔層12、及び第4多孔層14をこの順に有し、非分離機能領域18は、第3多孔層13及び第4多孔層14が存在し、第1多孔層11、ゲル層15、及び第2多孔層12が存在していない。非分離機能領域18には、第1多孔層11、ゲル層15、及び第2多孔層12が存在していない部分の少なくとも一部を埋め、且つ、第3多孔層13の少なくとも一部に浸透するように、充填材19が設けられている。充填材19は、第1多孔層11、ゲル層15、及び第2多孔層12が存在していない部分全体を埋めるように設けられることが好ましい。分離膜10’は、第3多孔層13の第1多孔層11とは反対側の表面において、非分離機能領域18が形成された範囲の少なくとも一部を覆うように配置された第2カバー部36を有する。
【0094】
図8に示すリーフ6’は、二つ折りした分離膜10’の間に供給側流路部材3が介在している。リーフ6’では、折目部分に設けられた充填材19によって、対向する分離膜10’の内側表面どうしが接着され、分離膜10’の二つ折りした状態を固定することができる。リーフ6’では、充填材19は、分離膜10’を構成する層、透過側流路部材4、及び供給側流路部材3に浸透した状態で存在している。供給側流路部材3の折目部分に対向する端部には、第1カバー部が設けられていてもよく、この場合、充填材19は第1カバー部に浸透していてもよく、供給側流路部材3に浸透していなくてもよい。
【0095】
(ゲル層)
ゲル層は、特定の流体成分を選択的に透過させるための分離機能層として用いられ、特に特定のガス成分を選択的に透過させるための分離機能層であることが好ましい。ゲル層は親水性樹脂を含み、さらに、アルカリ金属化合物、アミノ酸、アミノスルホン酸、及び/又は、アミノホスホン酸を含むことが好ましい。ゲル層は、さらに、特定のガス成分とアルカリ金属化合物との反応速度を向上させるための水和反応触媒を含んでいてもよく、第1多孔層及び/又は第2多孔層に対する濡れ性を調整するための界面活性剤を含んでいてもよい。
【0096】
親水性樹脂は、水酸基やイオン交換基等の親水性基を有する樹脂であり、親水性樹脂の分子鎖同士が架橋により網目構造を有することで高い保水性を示す架橋型親水性樹脂を含むことがより好ましい。親水性基は、ゲル層に含まれるアルカリ金属化合物等によって中和されて塩の形態となっていてもよい。
【0097】
親水性樹脂を形成する重合体は、例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、脂肪酸のビニルエステル、又はそれらの誘導体に由来する構成単位を有していることが好ましい。このような親水性を示す重合体としては、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等の単量体を重合してなる重合体が挙げられ、具体的には、イオン交換基としてカルボキシル基を有するポリアクリル酸系樹脂、ポリイタコン酸系樹脂、ポリクロトン酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂等、水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂等、それらの共重合体であるアクリル酸-ビニルアルコール共重合体系樹脂、アクリル酸-メタクリル酸共重合体系樹脂、アクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体系樹脂、メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体系樹脂等が挙げられる。この中でも、アクリル酸の重合体であるポリアクリル酸系樹脂、メタクリル酸の重合体であるポリメタクリル酸系樹脂、酢酸ビニルの重合体を鹸化したポリビニルアルコール系樹脂、アクリル酸メチルと酢酸ビニルとの共重合体を鹸化したアクリル酸塩-ビニルアルコール共重合体系樹脂、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体であるアクリル酸-メタクリル酸共重合体系樹脂がより好ましく、ポリアクリル酸、アクリル酸塩-ビニルアルコール共重合体系樹脂がさらに好ましい。
【0098】
架橋型親水性樹脂は、親水性基を有する重合体を架橋剤と反応させて調製してもよいし、親水性基を有する重合体の原料となる単量体と架橋性単量体とを共重合させて調製してもよい。架橋剤又は架橋性単量体としては特に限定されず、従来公知の架橋剤又は架橋性単量体を使用することができる。
【0099】
架橋剤としては、例えば、エポキシ架橋剤、多価グリシジルエーテル、多価アルコール、多価イソシアネート、多価アジリジン、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒド、多価アミン、有機金属系架橋剤、金属系架橋剤等の、従来公知の架橋剤が挙げられる。架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、テトラアリルオキシエタン、ジアリルアミン、ジアリルエーテル、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等の、従来公知の架橋性単量体が挙げられる。架橋方法としては、例えば、熱架橋、紫外線架橋、電子線架橋、放射線架橋、光架橋等の方法や、特開2003-268009号公報、特開平7-88171号公報に記載されている方法等、従来公知の手法を使用することができる。
【0100】
アルカリ金属化合物は、ゲル層内に溶解した特定のガス成分と可逆的に反応することができる。これにより、ゲル層における特定のガス成分の選択透過性を向上できる。ゲル層に含まれるアルカリ金属化合物は、1種であってもよく2種以上であってもよい。アルカリ金属化合物は、親水性樹脂の親水性基、アミノ酸のカルボキシ基、アミノスルホン酸のスルホキシル基、又は、アミノホスホン酸のホスホキシル基を中和して、塩の形態とすることもできる。
【0101】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属水酸化物(例えば、国際公開公報2016/024523号パンフレット等に記載)等が挙げられる。上記以外にも、クエン酸等の酸性化合物と塩を形成している化合物を使用してもよい。
【0102】
アミノ酸、アミノスルホン酸、及び、アミノホスホン酸は、ゲル層の保水性を向上することができる。アミノ酸、アミノスルホン酸、及び、アミノホスホン酸は、アルカリ金属化合物と組み合わせて用いることにより、ゲル層において、分離膜を透過する特定のガス成分との親和性を向上することができると考えられる。アミノ酸が有するカルボキシ基、アミノスルホン酸が有するスルホキシル基、及び、アミノホスホン酸が有するホスホキシル基は、ゲル層に含まれるアルカリ金属化合物、アミン、又はアンモニウム化合物等によって中和されて塩の形態となっていてもよい。これにより、ゲル層における特定のガス成分の選択透過性を向上させることができる。ゲル層に含まれるアミノ酸、アミノスルホン酸、及び、アミノホスホン酸は、1種であってもよく2種以上であってもよい。アミノ酸はカルボキシ基以外の酸性解離性基を有していてもよい。アミノスルホン酸基はスルホキシル基以外の酸性解離性基を有していてもよい。アミノホスホン酸基はホスホキシル基以外の酸性解離性基を有していてもよい。これらの酸性解離性基は、アルカリ金属化合物、アミン、又はアンモニウム化合物等によって中和されて塩の形態となっていてもよい。ここでいう酸性解離性基とは、例えばフェノール性水酸基、ヒドロキサム酸基(N-ヒドロキシカルボン酸アミド)等である。
【0103】
アミノ酸、アミノスルホン酸、及び、アミノホスホン酸としては、特に限定されない。アミノ酸、アミノスルホン酸、及び、アミノホスホン酸としては、例えば、グリシン、N,N-ジメチルグリシン、アラニン、セリン、プロリン、タウリン、ジアミノプロピオン酸、2-アミノプロピオン酸、2-アミノイソ酪酸、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、サルコシン、3-(メチルアミノ)プロピオン酸、N-(2-アミノエチル)グリシン、N-(3-アミノプロピル)グリシン、N-(4-シアノフェニル)グリシン、ジメチルグリシン、馬尿酸、4-アミノ馬尿酸、N-(4-ヒドロキシフェニル)グリシン、ヒダントイン酸、イミノ二酢酸、イミノジプロピオン酸、N-イソバレリルグリシン、フェナセツル酸、N-チグロイルグリシン、アセツル酸、アラニルグリシルグリシン、ベンゾイルグリシルグリシン、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、2-アリルグリシン、N-β-アラニルグリシン、N-アセチル-β-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、オルニチン、シトルリン、シスチン、ピペコリン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。アミノ酸、アミノスルホン酸、及び、アミノホスホン酸は、グリシン、N,N-ジメチルグリシン、アラニン、セリン、プロリン、タウリン、ジアミノプロピオン酸、2-アミノプロピオン酸、2-アミノイソ酪酸、3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン、サルコシン、イミノ二酢酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0104】
特定のガス成分が酸性ガスである場合の水和反応触媒としては、オキソ酸化合物が挙げられる。オキソ酸化合物としては、14族元素、15族元素、及び16族元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素のオキソ酸化合物であることが好ましく、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及びオルトケイ酸化合物からなる群より選択される少なくとも1つであることがさらに好ましい。ゲル層は、オキソ酸化合物を1種又は2種以上含むことができる。
【0105】
(第1多孔層及び第2多孔層)
第1多孔層及び第2多孔層は、一方がゲル層を支持するための支持層であり、他方がゲル層を保護するための保護層であることができる。第1多孔層及び第2多孔層は、ゲル層に直接接していることができる。第1多孔層及び第2多孔層のうちの一方は、ゲル層を形成するための親水性樹脂を含む塗布液が塗布される層であり、他方は、一方の多孔層上に塗布液の塗布によって形成された塗布層を被覆保護する層とすることができる。第1多孔層及び第2多孔層は、分離膜においてゲル層に供給された原料ガス又は原料ガスに含まれる特定のガス成分の拡散抵抗とならないように、ガス透過性の高い多孔性を有する。
【0106】
第1多孔層及び第2多孔層は、それぞれ樹脂材料又は無機材料によって形成されていることが好ましい。第1多孔層及び第2多孔層を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリスチレン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、高分子量ポリエステル、耐熱性ポリアミド、アラミド、ポリカーボネート、これらの樹脂材料のうちの2種以上の混合物等が挙げられる。これらの中でも、撥水性及び耐熱性の点から、ポリオレフィン系樹脂及びフッ素含有樹脂のうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリテトラフルオロエチレンのうちの1種以上を含むことがより好ましい。第1多孔層及び第2多孔層を構成する樹脂材料は互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。第1多孔層及び第2多孔層を構成する無機材料としては、金属、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【0107】
第1多孔層及び第2多孔層は、多孔質体であれば特に限定されない。第1多孔層及び第2多孔層はそれぞれ独立して、例えば、多孔膜、不織布、織布、発泡体、メッシュ、ネット等のシート状の多孔質体であってもよい。第1多孔層及び第2多孔層は、特定のガス成分の拡散抵抗となることを抑制しつつゲル層の支持層又は保護層として好適に用いられるという観点から、多孔膜であることが好ましい。多孔膜とは、多孔性の樹脂フィルムをいう。多孔膜としては、延伸法、相分離法、自己組織化、又はクレージングで得られた多孔膜が挙げられる。第1多孔層及び第2多孔層は、互いに同じ多孔質体であってもよく、互いに異なる多孔質体であってもよい。
【0108】
(第3多孔層及び第4多孔層)
第3多孔層は、第1多孔層のゲル層側とは反対側に設けることができる。第3多孔層は、第1多孔層11の支持層又は保護層としての機能を補強するための補強層として用いることができる。第4多孔層は、第2多孔層のゲル層側とは反対側に設けることができる。第4多孔層は、第2多孔層の保護層又は支持層としての機能を補強するための補強層として用いることができる。
【0109】
第3多孔層及び/又は第4多孔層を設けることにより、原料ガス中の特定のガス成分を選択的に透過させる際に分離膜にかかる圧力負荷に耐え得る強度を追加的に付与することができる。
【0110】
第3多孔層及び第4多孔層は、それぞれ独立して、樹脂材料又は無機材料によって形成されていることが好ましい。第3多孔層及び第4多孔層を構成する樹脂材料又は無機材料としては、第1多孔層及び第2多孔層を形成するための樹脂材料又は無機材料として説明したものを挙げることができる。
【0111】
第3多孔層及び第4多孔層は、それぞれ独立して、多孔膜、不織布、織布、発泡体、ネット等の形態であってもよく、不織布であることが好ましい。不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、エアレイド不織布、スパンレース不織布、カード不織布等が挙げられる。
【0112】
(中空管)
中空管5は、分離膜10を透過した透過ガスを収集して、スパイラル型の分離膜エレメント1から排出するための導管である。中空管5は、分離膜エレメント1が設けられる分離装置の使用温度条件に耐え得る耐熱性を有することが好ましい。中空管5は、その周囲に巻回される積層体7の巻き付けに耐え得る機械的強度を有する材料であることが好ましい。中空管5は、図1及び図2に示すように、その外周面に透過側流路部材4で形成される透過ガスの流路空間と中空管5内部の中空空間とを連通させる複数の孔50を有している。
【0113】
(供給側流路部材及び透過側流路部材)
供給側流路部材3及び透過側流路部材4は、原料流体及び分離膜10を透過した透過流体の乱流(膜面の表面更新)を促進して、原料流体中の透過流体の膜透過速度を増加させる機能と、供給される原料流体及び分離膜10を透過した透過流体の圧力損失をできるだけ小さくする機能とを有していることが好ましい。供給側流路部材3及び透過側流路部材4は、原料流体及び透過流体の流路を形成するスペーサとしての機能と、原料流体及び透過流体に乱流を生じさせる機能とを備えていることが好ましいことから、網目状(ネット状、メッシュ状等)のものが好適に用いられる。網目の単位格子の形状は、網目の形状により流体の流路が変わることから、目的に応じて、例えば、正方形、長方形、菱形、平行四辺形等の形状から選択されることが好ましい。供給側流路部材3及び透過側流路部材4の材質としては、特に限定されないが、分離膜エレメント1が設けられる分離装置の運転温度条件に耐え得る耐熱性を有する材料が好ましい。供給側流路部材3及び透過側流路部材4は、それぞれ独立して、単層構造であってもよく多層構造であってもよい。多層構造を有する供給側流路部材3及び透過側流路部材4は、1種類以上の網目状の層を積層した構造を有することが好ましく、積層される網目状の層は互いに異なる網目構造を有していてもよい。
【0114】
(第1カバー部及び第2カバー部)
第1カバー部及び第2カバー部がテープである場合、テープの基材となるフィルムとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素含有樹脂;ポリスチレン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)等が挙げられる。テープの粘着剤層は、公知の粘着剤を用いて形成することができる。
【0115】
第1カバー部及び第2カバー部が樹脂コーティングである場合、樹脂コーティングを形成する樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、塩化ビニル共重合体系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体系樹脂、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体系樹脂、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体系樹脂、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、フェノキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素ホルムアミド系樹脂等が挙げられる。樹脂コーティングを形成する樹脂は、公知の又は市販されている接着剤を用いてもよい。
【0116】
(封止部)
封止部は、原料流体と透過流体との混合を防止するために設けられる。スパイラル型の分離膜エレメント1では、例えば透過側流路部材4及び分離膜10、又は、供給側流路部材3及び分離膜10に、封止材料が浸透して硬化することにより形成することができる。封止材料としては、一般に接着剤として用いられる材料を用いることができる。接着剤としては、熱硬化性接着剤、熱融着性接着剤、活性エネルギー線硬化性接着剤等が挙げられる。
【0117】
封止部に用いられる封止材料に含まれる樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル共重合体系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体系樹脂、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体系樹脂、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体系樹脂、各種の合成ゴム系(エラストマー系)樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、フェノキシ系樹脂、尿素ホルムアミド系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、封止材料は、エポキシ系樹脂(エポキシ系接着剤用樹脂)の接着剤であることが好ましい。
【実施例
【0118】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0119】
〔実施例1〕
(分離膜(1)の作成)
媒質として水188質量部を、親水性樹脂として架橋ポリアクリル酸(住友精化社製「アクペックHV-501」)4質量部及び非架橋ポリアクリル酸(住友精化社製「アクパーナAP-40F」、40%Na鹸化)0.8質量部を、中和剤として水酸化セシウム一水和物10.5質量部を仕込み、撹拌しながら中和反応を行った。その後、COと可逆的に反応するキャリアとして炭酸セシウム10質量部を、水和反応触媒として亜テルル酸カリウム1.5質量部を、添加剤として界面活性剤(AGCセイミケミカル社製「サーフロンS-242」)1.2質量部を加えて混合し、塗工液を得た。
【0120】
第1多孔層としての疎水性PTFE多孔膜(住友電工ファインポリマー社製「ポアフロンHP-010-50」、膜厚50μm、平均孔径0.1μm)と、第3多孔層としてのPPS製不織布(廣瀬製紙社製「PS0080」)とが積層された積層シートを用意した。この積層シートの疎水性PTFE多孔膜側に、上記で得た塗工液を塗布した後、その上に第2多孔層としての疎水性PTFE多孔膜(同上)を重ね、塗布後の疎水性PTFE多孔膜を温度120℃程度で5分間程度乾燥させて、第3多孔層/第1多孔層/ゲル層/第2多孔層の層構造を備える分離膜のシート原料を作製した。
【0121】
上記で作製したシート原料を繰り出しながら、幅方向に1050mm、長さ方向に1575mmの大きさに切り出して、切出片を得た。界面活性剤(AGCセイミケミカル社製「サーフロン S-242」)と水とを1:10の割合で混合した界面活性剤水溶液をスポンジに含ませ、切出片の第2多孔層の周縁に塗布し、1時間以上自然乾燥した。自然乾燥後、第2多孔層の周縁に、0.045g/mmの供給量で、二液混合型エポキシ系接着剤(粘度45000cP、アレムコ・プロダクツ社製)を塗布した。塗布した接着剤を介して、切出片と、幅1050mm×長さ1575mmのサイズの第4多孔層((廣瀬製紙社製「PS0080S」(PPS製不織布))とを貼合して、分離膜(1)を作製した。
【0122】
水平面に分離膜(1)を広げた後、分離膜(1)を二つ折りになるように折返した。荷重を付与する面が金属製の平面である部材を用意し、当該部材の平面どうしを対向させて、分離膜(1)の折返しの折目となる部分全体を挟んで、1N/cmの荷重を5秒間付与した。その後、分離膜(1)の対向する内側の表面の間の距離(水平面に直交する方向の距離)をノギスで測定し、上記距離のうちの最大距離を決定したところ、17mmであった(表1)。
【0123】
(分離膜ユニットの作製)
分離膜(1)の第4多孔層上に、供給側流路部材(SUS製金網、50×50mesh、幅1050mm×長さ813mm)を置き、この供給側流路部材を間に挟み込むように分離膜(1)を二つ折りにして、リーフ(1)を得た。リーフ(1)の一方の面に、折目部分に位置する縁を除く3つの縁部分に、0.045g/mmの供給量で、封止材料としての二液混合型エポキシ系接着剤(粘度45000cP、アレムコ・プロダクツ社製)を塗布した。塗布された接着剤を介して、リーフ(1)と、幅1050mm×長さ813mmのサイズの透過側流路部材(SUS製金網、50×50mesh/100×100mesh/50×50meshの多層構造)とを貼合して分離膜ユニットを得た。同様の操作を繰り返して、20枚の分離膜ユニットを作製した。
【0124】
(積層体の作製)
積層体の最外層をなす透過側流路部材としてのリードスペーサ(SUS製金網、50×50mesh、幅1050mm×長さ1194mm)の長さ方向の一端に、幅方向に沿って、外周面に複数の孔を有する中空管(SUS製、径25.4mm、長さ1260mm)を、粘着テープにより固定した。リードスペーサのうち、リードスペーサ上に分離膜ユニットが配置されていない部分を中空管に巻回したものの外径は50.8mmであった。続いて、水平面に載置したリードスペーサ上に、1層目の分離膜ユニットの透過側流路部材側が露出するように(リードスペーサと分離膜ユニットのリーフとが対向するように)、リードスペーサ上に分離膜ユニットを配置した。このとき、リードスペーサ上に、分離膜の折目部分が中空管側に位置し、且つ、折目部分の先端部分が中空管の軸方向に平行となるように、1層目の分離膜ユニットを配置した。
【0125】
続いて、リードスペーサ上の1層目の分離膜ユニットに含まれる分離膜(1)の折目部分の中央付近を含む第1領域を、第1押圧部材で押圧した。第1押圧部材は、1層目の分離膜ユニットに含まれる透過側流路部材を介して分離膜(1)の折目部分を押圧した。第1押圧部材は、押圧面が平面であり、押圧面の平面視形状が長方形である押圧部を棒状の支持部で支持したものであり、押圧面は、折目部分の延在方向に平行な方向の長さが300mm、延在方向に直交する方向の長さが100mmである。第1押圧部材による押圧は、第1押圧部材が押圧している第1領域において、分離膜(1)の表面の間の最大距離が2mmとなるように行った(表1)。この最大距離は、ノギスで測定した。
【0126】
第1押圧部材による第1領域の押圧を維持した状態で、2層目の分離膜ユニットの透過側流路部材が露出するように、1層目の分離膜ユニット上に2層目の分離膜ユニットを積層した。2層目の分離膜ユニットは、分離膜(1)の折目部分の先端部分の位置が、折目部分と直交する方向であって、1層目の分離膜ユニットの分離膜(1)よりも中空管から離れる方向にオフセットする(ずれる)ように積層した。1層目及び2層目の分離膜ユニットにおける分離膜(1)の折目部分の先端部分の間の距離は9.4mmに設定した。
【0127】
次に、第1押圧部材による第1領域の押圧を維持した状態で、2層目の分離膜ユニットの分離膜(1)の折目部分の中央付近を含む第2領域を押圧した。第2領域は、第1押圧部材と干渉しない位置に設定した。第2押圧部材は、2層目の分離膜ユニットに含まれる透過側流路部材を介して分離膜(1)の折目部分を押圧した。第2押圧部材は、第1押圧部材と同じ構造のものを用いた。第2押圧部材による押圧は、第2領域において2層目の分離膜ユニットにおける分離膜(1)の表面の間の最大距離が2mmとなるように行った。
【0128】
第1押圧部材による第1領域の押圧、及び、第2押圧部材による第2領域の押圧を維持した状態で、3層目の分離膜ユニットの透過側流路部材が露出するように、2層目の分離膜ユニット上に3層目の分離膜ユニットを積層した。2層目の分離膜ユニット上への3層目の分離膜ユニットの積層は、1層目の分離膜ユニット上への2層目の分離膜ユニットの積層と同じ関係になるように行った。
【0129】
続いて、第2押圧部材による第2領域の押圧を維持した状態で、第1押圧部材による第1領域の押圧を解除した。第1押圧部材を移動させて、3層目の分離膜ユニットの分離膜(1)の折目部分の中央付近を含む第3領域を押圧した。第3領域は、第2押圧部材と干渉しない位置に設定した。第1押圧部材は、3層目の分離膜ユニットに含まれる透過側流路部材を介して分離膜(1)の折目部分を押圧した。第1押圧部材による押圧は、第1領域において行った押圧と同様に行った。
【0130】
第2押圧部材による第2領域の押圧、及び、第1押圧部材による第3領域の押圧を維持した状態で、4層目の分離膜ユニットの透過側流路部材が露出するように、3層目の分離膜ユニット上に4層目の分離膜ユニットを積層した。3層目の分離膜ユニット上への4層目の分離膜ユニットの積層は、1層目の分離膜ユニット上への2層目の分離膜ユニットの積層と同じ関係になるように行った。4層目の分離膜ユニットを積層する操作で説明した操作を繰り返し行い、分離膜ユニットが20枚積層した。その後、分離膜ユニットに代えてリーフを積層すること以外は同様にして、積層体の最上面を構成するようにリーフを積層し、中空管付きの積層体を得た。
【0131】
(分離膜エレメントの作製)
中空管付きの積層体の中空管を、分離膜エレメントの製造装置の巻付け用チャックにセットし、中空管を回転させて、中空管の外周面に積層体を巻回した。巻回体の外周面にポリイミドテープをらせん状に巻き付け、封止材料である接着剤等を硬化させて分離膜エレメントを得た。
【0132】
分離膜エレメントにおいて中空管に巻回されている積層体を展開し、積層体7の積層方向に透過側流路部材4を介して隣合う2つのリーフ6について、各リーフ6に含まれる分離膜(1)の折目部分どうしの間の距離WRを測定した。距離WRは、隣合う2つのリーフ6の間でそれぞれ測定した。測定したWRを用いて、上記式(I)に基づいて、ピッチP(P=9.4mm)からの距離WRのズレ量の標準偏差を決定したところ、0.25であった(表1)。
【0133】
〔比較例1〕
積層体の作製において、第1押圧部材及び第2押圧部材による押圧を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして分離膜エレメントを得た。得られた分離膜エレメントについて、実施例1と同様にして、ピッチPからの距離WRのズレ量の標準偏差を決定したところ、1であった(表1)。
【0134】
〔実施例2〕
(分離膜(2)の作製)
分離膜(1)の作製と同様の手順で、シート原料を作製して切出片を得た。次に、切出片の長さ方向の中央から長さ方向(2方向)に向かってそれぞれ5mmの範囲(全長が10mmとなる範囲)において、第3多孔層が残るように、第1多孔層、ゲル層、及び第2多孔層を切出して除去して非分離機能領域を形成した。第2多孔層の周縁及び非分離機能領域に界面活性剤水溶液を塗布して自然乾燥させ、1時間以上自然乾燥した。自然乾燥後、二つ折りしたときに外側になる第3多孔層の外表面の非分離機能領域を被覆するように、ポリプロピレン製粘着テープを貼り付けた。続いて、第2多孔層の周縁及び非分離機能領域に、二液混合型エポキシ系接着剤(粘度45000cP、アレムコ・プロダクツ社製)を塗布した。塗布した接着剤を介して、切出片と、幅1050mm×長さ1575mmのサイズの第4多孔層((廣瀬製紙社製「PS0080S」(PPS製不織布))とを貼合して、分離膜(2)を作製した。
【0135】
水平面に分離膜(2)を広げた後、非分離機能領域において分離膜(2)を二つ折りになるように折返し、実施例1で説明した手順で、折返し部分の折目となる部分全体に1N/cmの荷重を付与した後、分離膜(2)の対向する内側の表面の間の距離(水平面に直交する方向の距離)を測定し、上記距離のうちの最大距離を決定したところ、17mmであった(表1)。
【0136】
(分離膜ユニットの作製)
分離膜(2)の第4多孔層上に、供給側流路部材(SUS製金網、50×50mesh、幅1050mm×長さ813mm)を置き、この供給側流路部材を間に挟み込むように、且つ、非分離機能領域に折目部分が位置するように分離膜(2)を二つ折りにして、リーフ(2)を得た。このリーフ(2)を用いて、実施例1で説明した手順で分離膜ユニットを20枚作製した。
【0137】
(積層体及び分離膜エレメントの作製)
リーフ(2)を用いて作製した分離膜ユニットを用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で積層体及び分離膜エレメントを作製した。
【0138】
分離膜エレメントにおいて中空管に巻回されている積層体を展開し、積層体7の積層方向に透過側流路部材4を介して隣合う2つのリーフ6について、各リーフ6に含まれる分離膜(2)の折目部分どうしの間の距離WRを測定した。距離WRは、隣合う2つのリーフ6の間でそれぞれ測定した。測定したWRを用いて、上記式(I)に基づいて、ピッチP(P=9.4mm)からの距離WRのズレ量の標準偏差を決定したところ、0.15であった(表1)。
【0139】
【表1】
【符号の説明】
【0140】
1,1a,1b 分離膜エレメント、3,3a,3b,3c,3d 供給側流路部材(第1流路部材、第2流路部材)、4,4a,4b,4c,4d 透過側流路部材(第1流路部材、第2流路部材)、5 中空管、6,6’ リーフ、7 積層体、9,9a,9b,9c,9d 分離膜ユニット、10,10a,10b,10c,10d,10’ 分離膜、11 第1多孔層(多孔層)、12 第2多孔層(多孔層)、13 第3多孔層、14 第4多孔層、15 ゲル層、18 非分離機能領域、19 充填材、31 第1押圧部材、32 第2押圧部材、36 第2カバー部、50 孔、51 供給口、52 第1排出口、53 第2排出口、55 テレスコープ防止板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8