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  • 特許-土壌の評価試験方法 図1
  • 特許-土壌の評価試験方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】土壌の評価試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/24 20060101AFI20240827BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N33/24 B
B09C1/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020203151
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090701
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】清田 正人
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-201184(JP,A)
【文献】特開2007-101363(JP,A)
【文献】特開平11-347531(JP,A)
【文献】特開2008-049214(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0171723(US,A1)
【文献】恒岡 伸幸,セメント改良土からの六価クロムの溶出とその周辺地盤での挙動に関する研究,Kyoto University Research Infomation Repository,2004年05月24日,特に、1-29頁,http://hdl.handle.net/2433/138497
【文献】中嶋 悟、森泉 美穂子,土壌の現場分析 -色測定と可視・近赤外分光測定-,ぶんせき,2018年,Vol.9,pp.369-370
【文献】吉田 宗久 ほか,画像色分析による土壌中のアロフェン量の推定法に関する研究,Cement Science and Concrete Technology,2020年03月31日,Vol.73,pp.407-412
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
B09C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌の色度aを測定する測定工程と、
前記色度aが測定された前記土壌における六価クロムの溶出しやすさを前記色度aにより推定する推定工程とを備えており、
前記推定工程においては、前記色度aが所定値以上であった前記土壌に固化材が添加されて製造される固化処理土における前記六価クロムの溶出量を多いものと推定し、かつ、前記色度aが前記所定値未満であった前記土壌に前記固化材が添加されて製造される固化処理土における前記六価クロムの溶出量を少ないものと推定し、
ここで前記所定値は3であることを特徴とする土壌の評価試験方法。
【請求項2】
前記色度aが前記所定値未満であった前記土壌に対しては第1の固化材を添加し、かつ、前記色度aが前記所定値以上であった前記土壌に対しては第2の固化材を添加する添加工程をさらに備え、
前記第2の固化材には、前記第1の固化材に比較して前記六価クロムを溶出させにくいものを使用することを特徴とする請求項に記載の土壌の評価試験方法。
【請求項3】
前記第1の固化材には、ポルトランドセメントを主成分とするセメント系固化材を使用し、前記第2の固化材には、高炉セメントを主成分とするセメント系固化材を使用することを特徴とする請求項に記載の土壌の評価試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌の評価試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工事を行うにあたっては、工事の対象とする土壌に対して、六価クロム溶出試験を予め行っておく必要がある。この試験においては、例えば、下記特許文献1に記載のように、工事の対象とする土壌を採取して複数の容器に小分けして供給し、各々の容器に供給された土壌サンプルに対して様々な特性の固化材(セメント組成物)をそれぞれ添加した後、土壌サンプルにおける六価クロム溶出量を測定する。この測定値に基づいて、地盤改良工事の対象とする土壌に添加するに最適な固化材を決定する。
【0003】
近年では、地盤改良工事の実施件数が増加している。このため、多様な地盤から採取した多数の土壌サンプルそれぞれについて、最適な固化材を決定するために、上記の六価クロム溶出試験を行う必要がある。すると、この試験に多くの時間及びコストを要することになり、地盤改良工事の円滑な実施を妨げるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-164343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、地盤改良工事の対象とする土壌に最適な固化材を絞り込む技術について研究を進めた結果、土壌における色度aと六価クロムの溶出しやすさとの間に一定の関係があるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づいて得られたものであり、土壌における六価クロムの溶出しやすさを評価できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一項目に係る土壌の評価試験方法は、土壌の色度aを測定する測定工程と、前記色度aが測定された前記土壌における六価クロムの溶出しやすさを前記色度aにより推定する推定工程とを備える。
【0007】
この第一項目によれば、土壌に固化材を添加する前に、土壌における六価クロムの溶出しやすさを土壌の色度aに基づいて推定することができる。なお、土壌における色度aと六価クロムの溶出しやすさとの関係については後述する試験例で示している。
【0008】
本発明の第二項目に係る土壌の評価試験方法は、前記推定工程において、前記色度aが所定値以上であった前記土壌においては前記六価クロムが溶出しやすいと推定し、かつ、前記色度aが前記所定値未満であった前記土壌においては前記六価クロムが溶出しにくいと推定するものである。
【0009】
この第二項目によれば、土壌を六価クロムが溶出しやすいものと溶出しにくいものとに分類することができる。
【0010】
本発明の第三項目に係る土壌の評価試験方法においては前記所定値が3である。
【0011】
この第三項目によれば、上記第二項目における分類をさらに正確に行うことができる。
【0012】
本発明の第四項目に係る土壌の評価試験方法の前記推定工程においては、前記色度aが前記所定値以上であった前記土壌に固化材が添加されて製造される固化処理土における前記六価クロムの溶出量を多いものと推定し、かつ、前記色度aが前記所定値未満であった前記土壌に前記固化材が添加されて製造される固化処理土における前記六価クロムの溶出量を少ないものと推定する。
【0013】
この第四項目によれば、固化処理土における六価クロム溶出量を評価することができ、固化処理土を六価クロム溶出量が多いものと少ないものとに分類することができる。
【0014】
本発明の第五項目に係る土壌の評価試験方法は、前記色度aが前記所定値未満であった前記土壌に対しては第1の固化材を添加し、かつ、前記色度aが前記所定値以上であった前記土壌に対しては第2の固化材を添加する添加工程をさらに備える。前記第2の固化材には、前記第1の固化材に比較して前記六価クロムを溶出させにくいものを使用する。例えば、前記第1の固化材には、ポルトランドセメントを主成分とするセメント系固化材を使用し、前記第2の固化材には、高炉セメントを主成分とするセメント系固化材を使用する。
【0015】
この第五項目によれば、推定工程においての固化処理土における六価クロム溶出量の推定に基づいて、添加工程において土壌に適切な固化材(第1の固化材または第2の固化材)を添加することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、土壌における六価クロムの溶出しやすさを評価することができるとともに、六価クロム溶出量が少ない固化処理土を効率的に作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る土壌の評価試験方法の手順を説明するための説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る土壌の評価試験方法における試験例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る土壌の評価試験方法について以下に説明する。図1は、本実施形態の評価試験方法の手順を説明するための説明図である。この評価試験方法は、室内配合試験において行うものであり、測定工程P1と、推定工程P2と、添加工程P3とを備える。
【0019】
土壌S1は、地盤改良工事の対象とする地盤から採取した土壌により構成された試料(土壌サンプル)である。具体的には、土壌S1は、地盤改良工事の対象とする地盤から採取した土壌を乾燥及び粉砕してから篩分けした後の篩通過分である。例えば、土壌S1には、地盤から採取した土壌を110℃で24時間乾燥させて粉砕してから0.3mm篩により篩分けした篩通過分を使用する。
【0020】
本実施形態における土壌S1~S3は同一物(上記試料)であるが、説明の便宜上、測定工程P1の前段階における上記試料を土壌S1とし、測定工程P1の後段階であって推定工程P2の前段階にある上記試料を土壌S2とし、推定工程P2の後段階であって添加工程P3の前段階にある上記試料を土壌S3とする。
【0021】
図1に示すように、測定工程P1においては、測色計(色差計、色彩計及び分光測色計)により土壌S1における色度aを測定する。
【0022】
推定工程P2は、土壌S2における六価クロムの溶出しやすさを、測定された色度aにより推定する工程である。具体的には、色度aが所定値以上であった土壌S2においては六価クロムが溶出しやすいと推定し、かつ、色度aが所定値未満であった土壌S2においては六価クロムが溶出しにくいと推定する。特に、所定値が3である場合には、色度aが所定値以上(3以上)であった土壌S2においては六価クロムが溶出しやすいと推定し、かつ、色度aが所定値未満(3未満)であった土壌S2においては六価クロムが非常に溶出しにくいと推定する。
【0023】
より具体的には、推定工程P2においては、色度aが所定値以上であった土壌S2に任意の固化材(図示せず)が添加されて製造される固化処理土における六価クロムの溶出量を多いものと推定し、かつ、色度aが所定値未満であった土壌S2に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロムの溶出量を少ないものと推定する。特に、所定値が3である場合には、色度aが所定値以上であった土壌S2に任意の固化材(図示せず)が添加されて製造される固化処理土における六価クロムの溶出量を多いものと推定し、かつ、色度aが所定値未満であった土壌S2に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロムの溶出量をほぼゼロ(土壌環境基準値である0.05mg/L未満)であると推定する。
【0024】
添加工程P3においては、色度aが所定値未満であった土壌S3に対して第1の固化材を添加して固化処理土を製造する。その後、この固化処理土について六価クロム溶出試験及び一軸圧縮試験を行う。そして、これらの試験により得られた六価クロム溶出量及び一軸圧縮強さに基づき、色度aが所定値未満であった土壌S3に第1の固化材が最適か否かを最終的に決定する。
【0025】
その一方、添加工程P3においては、色度aが所定値以上であった土壌S3に対して第2の固化材を添加して固化処理土を製造する。その後、この固化処理土について六価クロム溶出試験及び一軸圧縮試験を行う。そして、これらの試験により得られた六価クロム溶出量及び一軸圧縮強さに基づき、色度aが所定値以上であった土壌S3に第2の固化材が最適か否かを最終的に決定する。
【0026】
ここで、添加工程P3においては、第2の固化材として、第1の固化材に比較して六価クロムを溶出させにくいものを使用する。例えば、第1の固化材には、ポルトランドセメント(例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント)を主成分とするセメント系固化材(高炉スラグを含まないセメント系固化材)、あるいは一般軟弱土用セメント系固化材を使用する。第2の固化材には、高炉セメントを主成分とするセメント系固化材(高炉スラグを含むセメント系固化材)、あるいは特殊土用セメント系固化材(例えば、有機質土タイプ、高強度タイプ)を使用することができる。
【0027】
次に、本発明の一実施形態に係る土壌の評価試験方法の試験例について説明する。各試験例(試験例A~試験例L)においては、互いに異なる地盤から採取した土壌を乾燥及び粉砕してから0.3mm篩に供給し、この0.3mm篩の通過分をそれぞれ試料土(土壌サンプル)として利用した。その後、各々の試料土について、含水比(%)、湿潤密度(g/cm3)、Lab表色系における明度L、色度a及び色度bを測定した。さらに、各々の試料土1m3に対してセメント系固化材を100kg添加して各々の固化処理土(試料土とセメント系固化材との混合物)を製造し、各々の固化処理土について六価クロム溶出試験を行って六価クロム溶出量を測定した。
【0028】
各試験例(試験例A~試験例L)においては、セメント系固化材として、宇部三菱セメント株式会社製のセメント系固化材ユースタビラー10(ポルトランドセメントを主成分とするセメント系固化材)を使用した。明度L、色度a及び色度bの測定は、JIS Z 8722「色の測定方法-反射及び透過物体色」に準拠して、日本電色工業株式会社製の分光色差計(型番:ZE-2000)を使用して行った。固化処理土の製造は、セメント協会JCAS L-01:2006「セメント系固化材による改良体の強さ試験方法」に基づいて行った。六価クロム溶出試験は、平成3年8月23日付け環境庁告示46号に記載された規格の「配合設計の段階で実施する環境庁告示46号溶出試験」に基づいて行った。
【0029】
表1は、各々の試料土における土質、含水比(%)、湿潤密度(g/cm3)、明度L、色度a及び色度b、並びに、各々の固化処理土における六価クロム溶出量(mg/L)を試験例ごとに示している。表1に示すように、試料土における土質、含水比、湿潤密度、明度L及び色度bと固化処理土における六価クロム溶出量との間に相関は見られなかった。その一方、試料土における色度aと固化処理土における六価クロム溶出量との間には正の相関が見られた。
【0030】
【表1】
【0031】
図2は、表1に示す各試験例における試料土の色度aと固化処理土における六価クロム溶出量との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸が試料土の色度aを示しており、縦軸が固化処理土における六価クロム溶出量(mg/L)を示している。図2に示すように、試料土の色度aが3未満であれば固化処理土における六価クロム溶出量はほぼゼロであるが、試料土の色度aが3以上になると固化処理土における六価クロム溶出量が急激に増加する。
【0032】
したがって、この試験例から次の(1)~(3)の結論を導出することができる。(1)土壌においては色度aと六価クロムの溶出しやすさとが正の相関を有する。(2)土壌においては、土質、含水比及び湿潤密度に関わらず色度aが所定値未満であれば、六価クロムが溶出しにくくなり(すなわち、この土壌に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロム溶出量が少なくなり)、土質、含水比及び湿潤密度に関わらず色度aが所定値以上であれば、六価クロムが溶出しやすくなる(すなわち、この土壌に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロム溶出量が多くなる)。(3)特に、土壌においては、土質、含水比及び湿潤密度に関わらず色度aが3未満であれば、六価クロムが非常に溶出しにくくなり(すなわち、この土壌に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロム溶出量がほぼゼロになり)、土質、含水比及び湿潤密度に関わらず色度aが3以上であれば、六価クロムが溶出しやすくなる(すなわち、この土壌に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロム溶出量が多くなる)。
【0033】
この試験結果の原理を次のように説明することができる。すなわち、色度aが所定値未満である土壌は他成分を還元させやすいため、このような土壌に添加された固化材に含まれる六価クロムは三価クロムに還元されやすく、この結果として固化処理土において六価クロムが溶出しにくくなる。一方、色度aが所定値以上である土壌は他成分を酸化させやすいため、このような土壌に添加された固化材に含まれる六価クロムは六価クロムのまま存在しやすく、この結果として固化処理土において六価クロムが溶出しやすくなる。
【0034】
以上のように、上記実施の形態によれば、推定工程P2の前段に測定工程P1を備えることにより、推定工程P2において土壌S2に固化材を添加せずに土壌S2における六価クロムの溶出しやすさを評価することができ、土壌S2を六価クロムが溶出しやすいものと溶出しにくいものとに分類することができる。これにより、土壌S2に固化材が添加されて製造される固化処理土における六価クロム溶出量を評価することができ、この固化処理土を六価クロム溶出量が多いものと少ないものとに分類することができる。よって、推定工程P2においての固化処理土における六価クロム溶出量の推定に基づいて、添加工程P3において土壌S3に適切な固化材M(第1の固化材または第2の固化材)を添加することができる。
【0035】
従来技術においては、六価クロム溶出試験において、土壌サンプルに様々な特性の固化材を添加して固化処理土を作製し、所定材齢まで養生した後に前記六価クロム溶出試験を実施していた。しかし、上記実施の形態によれば、これらの試験(添加工程P3に相当)において、土壌サンプル(土壌S3)に第1の固化材または第2の固化材を添加すれば足りる。よって、上記実施の形態によれば、六価クロム溶出試験を低コストかつ短時間で行うことができる。
【0036】
M 固化材
P1 測定工程
P2 推定工程
P3 添加工程
S1~S3 土壌
図1
図2