(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】フラワーペースト類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240827BHJP
A23G 3/00 20060101ALI20240827BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20240827BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240827BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240827BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20240827BHJP
A01H 6/46 20180101ALN20240827BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23G3/00
A23L9/20
C12N9/10
C12N15/29
C12N15/54
A01H6/46
(21)【出願番号】P 2021553625
(86)(22)【出願日】2020-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2020040249
(87)【国際公開番号】W WO2021085416
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019195883
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】糸井 伸行
(72)【発明者】
【氏名】王 旭
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188206(JP,A)
【文献】特開2015-033362(JP,A)
【文献】特開平2-031647(JP,A)
【文献】特開2002-209523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含有する、フラワーペースト。
【請求項2】
前記小麦粉が、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SA小麦粉)である、請求項1に記載のフラワーペースト。
【請求項3】
さらに卵黄を含む、請求項1又は2に記載のフラワーペースト。
【請求項4】
さらに油脂を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフラワーペースト。
【請求項5】
GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含む澱粉質原料及び水分を含む原料混合物を加熱する工程を含む、フラワーペーストの製造方法。
【請求項6】
前記小麦粉が、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SA小麦粉)である、請求項5に記載のフラワーペーストの製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物がさらに卵黄を含む、請求項5又は6に記載のフラワーペーストの製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物がさらに油脂を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載のフラワーペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラワーペースト類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラワーペースト類は、一般的に、小麦粉や澱粉、化学変性させた澱粉誘導体等の澱粉質原料と、ミルクや鶏卵等の液体原料、砂糖等の調味料、ショートニングやカカオマス等の油脂類、水等の原料とを混合した後、加熱して殺菌と共に糊化(α化)させることによって得られるものである。フラワーペーストは、卵を加えたカスタードやチョコレートを加えたチョコ風味スプレッドなどバリエーションが豊富であり、パン類やケーキ類、菓子類等のベーカリー製品のフィリング材、トッピング材、スプレッド材として広範に使用されている。
もともとフラワーペーストは澱粉質原料として小麦粉のみが使用されていたが、小麦粉の風味が得られる反面、粉っぽくなり易いという問題があった。そのため、小麦粉の一部又は全部を各種植物から精製されたタピオカ澱粉やコーンスターチ等の生澱粉に置換されることが一般的であるが、澱粉質原料をα化して製造されるフラワーペーストは、澱粉質特有の強い粘りが出るために、ねっとりとベタついた口溶け、硬くもたついた食感、艶のないくすんだ色調になりがちである。澱粉質原料として澱粉誘導体を使用すると、さくりと軽い食感に改善することはできるものの、色調を十分に改善できるものではなかった。
このような問題を解決するために、フラワーペーストの製造に使用する澱粉質原料や各種副原料に工夫が加えられている。例えば、特許文献1には、加工澱粉および/またはハイアミロース澱粉と熱処理小麦粉とを配合するフラワーペーストが開示されている。特許文献2には、特定架橋エーテル化度又は架橋エステル化度の加工澱粉を含有するフラワーペースト等のペースト状食品が開示されている。特許文献3には、微発酵させた乳酸発酵乳を使用したフラワーペースト等のペースト状食品が開示されている。特許文献4には、特定のα化度及び特定の粘度であるフラワーペースト類用小麦粉が開示されている。何れも優れた技術ではあるが、市場の要求は高く、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-209532号公報
【文献】特開2006-42739号公報
【文献】特開2006-320269号公報
【文献】特開2008-099665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、粉っぽさが低減され、滑らかで口溶けが良く、軽い食感をしており、明るく艶のある色調をしたフラワーペーストを提供することを目的とする。さらに本発明は、冷蔵又は冷凍保存後であっても粉っぽさが低減され、滑らかで口溶けが良く、軽い食感をしており、明るく艶のある色調をしたフラワーペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、フラワーペーストの製造において、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(以下、「GA-SX小麦粉」と称する場合がある)を使用すると、粉っぽさが低減され、滑らかで口溶けが良く、軽い食感をしており、明るく艶のある色調をしたフラワーペーストが得られること、また冷蔵又は冷凍保存後であっても粉っぽさが低減され、滑らかで口溶けが良く、軽い食感をしており、明るく艶のある色調をしたフラワーペーストが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含有する、フラワーペースト。
[2]前記小麦粉が、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SA小麦粉)である、前記[1]記載のフラワーペースト。
[3]さらに卵黄を含む、前記[1]又は[2]に記載のフラワーペースト。
[4]さらに油脂を含む、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載のフラワーペースト。
[5]GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含む澱粉質原料及び水分を含む原料混合物を加熱する工程を含む、フラワーペーストの製造方法。
[6]前記小麦粉が、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SA小麦粉)である、前記[5]に記載のフラワーペーストの製造方法。
[7]前記原料混合物がさらに卵黄を含む、前記[5]又は[6]に記載のフラワーペーストの製造方法。
[8]前記原料混合物がさらに油脂を含む、前記[5]~[7]のいずれか1項に記載のフラワーペーストの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粉っぽさが低減され、滑らかで口溶けが良く、軽い食感をしており、明るく艶のある色調をしたフラワーペーストを提供することができる。また本発明によれば、冷蔵又は冷凍保存後であっても滑らかで口溶けが良く、軽い食感をしており、明るく艶のある色調をしたフラワーペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において「フラワーペースト」とは、小麦粉や澱粉、化学変性させた澱粉誘導体等の澱粉質原料及び水分を必須成分とし、任意に糖類、油脂、乳製品、卵類、チョコレート、果肉や果汁等を加えた原料混合物を加熱してペースト状にしたものをいう。フラワーペーストの例としては、卵を加えたカスタードやチョコレートを加えたチョコ風味スプレッド、ヨーグルトを加えたヨーグルトクリーム、ブルーベリーなどの果肉や果汁を加えたフルーツクリーム等が挙げられる。フラワーペーストは、パン類やケーキ類、菓子類等のベーカリー製品のフィリング材、トッピング材、スプレッド材として広範に使用される。
【0009】
本発明のフラワーペーストは、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含んでいる。
普通系コムギは、異質6倍体であり、その染色体には同祖染色体であるA、B、Dの3つのゲノムがそれぞれ1~7番まで存在する(1A~7A、1B~7B、1D~7D)。
「GBSSI」とは、アミロースの合成に関与する顆粒結合性澱粉合成酵素であり、GBSSI-A1、GBSSI-B1、GBSSI-D1が、それぞれ7A、4A、7D染色体上に座乗する遺伝子によってコードされている。
「SSIIa」とは、アミロペクチンの分岐鎖合成に関与する澱粉合成酵素であり、SSIIa-A1、SSIIa-B1、SSIIa-D1が、それぞれ7A、7B、7D染色体上に座乗する遺伝子によってコードされている。
【0010】
「酵素活性を欠損する」とは、コムギ植物体内で正常な酵素活性を有するタンパク質が機能していないこと、好ましくは正常な酵素活性を有するタンパク質が発現していないことをいう。具体的には、遺伝子配列の変異(一つ又は複数の塩基の置換、欠失、挿入、逆位、転座などの変異をいい、遺伝子領域全体の欠失も含む)、mRNA転写の欠損、タンパク質翻訳の欠損、コムギ植物体内での酵素活性の阻害などの態様が挙げられ、野生型の酵素活性の10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満にまで酵素活性が低下ないし欠失していれば、いずれの態様であってもよい。
【0011】
GA-SX小麦粉としては、酵素活性を欠損した2種類のSSIIaの組み合わせにより、以下の小麦粉が挙げられる。
GA-SA小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-B1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉;
GA-SB小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-B1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-A1及びSSIIa-D1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉;
GA-SD小麦粉:GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-D1の酵素活性を欠損しておらず、SSIIa-A1及びSSIIa-B1の酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉。
これらのうち、GA-SA小麦粉が好ましい。
GA-SX小麦粉は、公知の方法、例えば、特開2013-188206号記載の方法に従って、製造することができる。
【0012】
フラワーペーストは、GA-SX小麦粉に加え、さらに他の小麦粉を含んでいてもよい。他の小麦粉としてはGA-SX小麦以外の小麦から製粉した小麦粉であれば特に限定はない。例えば、GBSSI(GBSSI-A1、GBSSI-B1及びGBSSI-D1)及びSSIIa(SSIIa-A1,SSIIa-B1及びSSIIa-D1)の6種の酵素活性の欠損の組み合わせ(ただし、GA-SXを除く)で酵素活性を欠損した小麦並びにGBSSI及びSSIIaの何れの酵素活性も欠損していない小麦から製粉した小麦粉が挙げられる。あるいは一般に使用される、強力粉、中力粉、薄力粉、及びそれらの混合物であってよい。
【0013】
フラワーペーストに含まれる澱粉質原料全量に対するGA-SA小麦粉の使用量は好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは40~80質量%である。
【0014】
本発明のフラワーペーストの水分量は、フラワーペーストに含まれる澱粉質原料全量を100質量部とした場合、好ましくは500~2000質量部、さらに好ましくは1000~1500質量部である。ここでいう水分は、水として添加するものだけではなく、牛乳、果汁等の液状の原料に含まれる水分も含まれる。
【0015】
本発明のフラワーペーストは、さらに卵黄を含むことができる。フラワーペーストに含まれる澱粉質原料全量を100質量部とした場合、かかる質量に対する卵黄の使用量は好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは150~250質量部である。
【0016】
本発明のフラワーペーストは、さらに油脂を含むことができる。油脂としてはショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等、通常フラワーペーストの製造に使用されるものであれば特に限定されない。フラワーペーストに含まれる澱粉質原料全量を100質量部とした場合に対する油脂の使用量は好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは200~300質量部である。
【0017】
本発明のフラワーペーストは、さらに他の原料として、通常フラワーペーストの製造に使用される原料であればいずれも配合することができ、例えば、澱粉質原料としてGA-SX小麦粉以外の標準的な小麦粉(GA-SX小麦粉とは異なるGBSSI及びSSIIaの酵素活性欠損パターンを示す小麦粉あるいはそれらの酵素活性を欠損していない小麦粉)、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉などの生澱粉;生澱粉をα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った変性澱粉等を使用することができ、副原料としてブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;乳化剤;食塩等の無機塩類;ココア;チョコレート;コーヒー;果肉;果汁;保存料;香料;香辛料;ビタミン等の強化剤等を使用することができる。
【0018】
本発明のフラワーペーストは製造後すぐ、または室温、冷蔵又は冷凍保存後にそのまままたは解凍して使用することができる。本発明のフラワーペーストは、冷凍されていても良い。
【0019】
本発明のフラワーペーストの製造方法は、GBSSI-A1の酵素活性を欠損しておらず、GBSSI-B1及びGBSSI-D1の酵素活性を欠損し、かつ、SSIIa-A1、SSIIa-B1及びSSIIa-D1のうちのいずれか2つの酵素活性を欠損したコムギの収穫物を製粉して得られた小麦粉(GA-SX小麦粉)を含む澱粉質原料及び水分を含む原料混合物を加熱する工程を含む。
ここで「GA-SX小麦粉」の定義は上述の通りであり、本発明のフラワーペーストの製造方法においてGA-SA小麦粉が好ましい。
本発明のフラワーペーストの製造方法において、原料混合物は加熱工程に供する原料を意味し、澱粉質原料と水分を必須成分として含む。ここで澱粉質原料は、穀粉類、澱粉、化学変性させた澱粉誘導体(変性澱粉)を意味する。
【0020】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、澱粉質原料はGA-SX小麦粉に加え、さらに他の小麦粉を含んでいてもよい。他の小麦粉としてはGA-SX小麦以外の小麦から製粉した小麦粉であれば特に限定はない。例えば、GBSSI(GBSSI-A1、GBSSI-B1及びGBSSI-D1)及びSSIIa(SSIIa-A1,SSIIa-B1及びSSIIa-D1)の6種の酵素活性の欠損の組み合わせ(ただし、GA-SXを除く)で酵素活性を欠損した小麦並びにGBSSI及びSSIIaの何れの酵素活性も欠損していない小麦から製粉した小麦粉が挙げられる。あるいは一般に使用される、強力粉、中力粉、薄力粉、及びそれらの混合物であってよい。澱粉質原料は好ましくはGA-SX小麦粉と他の小麦粉の組み合わせからなる。澱粉質原料には、澱粉及び化学変性させた澱粉誘導体を含まないことが好ましい。また好ましくは澱粉質原料はGA-SX小麦粉からなる。
【0021】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、澱粉質原料全量に対するGA-SA小麦粉の使用量は好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは40~80質量%である。
【0022】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、原料混合物における水分量は、澱粉質原料全量を100質量部とした場合、好ましくは500~2000質量部、さらに好ましくは1000~1500質量部である。ここでいう水分は、水として添加するものだけではなく、牛乳、果汁等の液状の原料に含まれる水分も含まれる。
【0023】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、原料混合物はさらに卵黄を含むことができる。フラワーペーストに含まれる澱粉質原料全量を100質量部とした場合、かかる質量に対する卵黄の使用量は好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは150~250質量部である。
【0024】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、原料混合物は、さらに油脂を含むことができる。油脂としてはショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等、通常フラワーペーストの製造に使用されるものであれば特に限定されない。澱粉質原料全量を100質量部とした場合に対する油脂の使用量は好ましくは100~500質量部、さらに好ましくは200~300質量部である。
【0025】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、さらに他の原料として、通常フラワーペーストの製造に使用される原料であればいずれも配合することができ、例えば、澱粉質原料としてGA-SX小麦粉以外の標準的な小麦粉(GA-SX小麦粉とは異なるGBSSI及びSSIIaの酵素活性欠損パターンを示す小麦粉あるいはそれらの酵素活性を欠損していない小麦粉)、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉などの生澱粉;生澱粉をα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った変性澱粉等を使用することができ、副原料としてブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵及びそれらを粉末化したものやその他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;乳化剤;食塩等の無機塩類;ココア;チョコレート;コーヒー;果肉;果汁;保存料;香料;香辛料;ビタミン等の強化剤等を使用することができる。
【0026】
本発明のフラワーペーストの製造方法において、原料混合物を加熱する工程について、加熱温度等の条件は原料混合物に含まれる澱粉質原料の種類や水分量によって適宜調整することが可能であり、例えば澱粉質原料が小麦粉を主成分とするものであれば、原料混合物を好ましくは撹拌しながら50~100℃に加熱することにより行うことができる。加熱により澱粉質原料に含まれる澱粉の糊化が起き、ペーストを調製することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0028】
<製造例1:カスタードクリームの製造>
(1)卵黄60質量部と砂糖80質量部とをボウルに投入し、全体が白色を帯びるまでホイッパーで十分にすり混ぜた。
(2)更に、ボウルに標準的な小麦粉(薄力粉、日本製粉株式会社製ハート)30質量部を篩い入れ均質になるまで混合した。
(3)沸騰直前(90~95℃)まで加熱した牛乳350質量部を卵黄が凝固しないように少しずつ加えながら手早くかき混ぜて溶きのばした。
(4)14メッシュの篩を通して鍋に移し入れ、中火で加熱しながら木ベラで素早くかき混ぜ、全体的にとろみが出てフツフツと表面に大き目の気泡がでてきたら弱火にしてかき混ぜ続け、クリーム状になるまで煮た。
(5)金属性バットに広げてラップで表面を覆い、粗熱を取った後冷蔵庫で冷却した。
(6)全量をミキサーに移し入れ、生クリーム150質量部を添加し、ミキサーで中速5分間均質化すると共に含気させ、冷蔵庫で1時間ねかせてカスタードクリームを得た。
(7)ねかせたカスタードクリームを-40℃で急速冷凍し、-20℃で7日間して冷凍カスタードクリームを得た。
【0029】
<評価例1:カスタードクリームの評価>
製造例1(6)で得られたカスタードクリームを室温に戻し、又は製造例1(7)で得られた冷凍カスタードクリームを室温解凍して室温に戻し、熟練パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。なお、標準的な小麦粉を使用して製造例1に従って製造したカスタードクリームの評点を3点とした。
【0030】
【0031】
<試験例1:カスタードクリームにおけるGA-SA小麦粉の影響>
表1記載の割合(カスタードクリームに使用する小麦粉の全量に対する質量%)で、小麦粉の一部又は全部をGA-SA小麦粉または変性澱粉に置き換えた以外は製造例1に従ってカスタードクリームを製造し、評価例1に従って評価した。
実施例1~5において、GA-SA小麦粉の含有量が高くなるに従って明るく艶のある色調になり、軽く滑らかでもたつきがなく速やかに溶け消え、粉っぽさのない食感になった。GA-SA小麦粉の含有量が高くになるにつれてカスタードクリームが軟らかくなる傾向であったが、90質量%以上のGA-SA小麦粉を含む実施例4及び5においても、スプーンやヘラでの触感に問題はなく、フィリング材やスプレッド材として十分に使用できるものであった。標準的な小麦粉のみを使用した比較例1では、やや粉っぽさが感じられた。変性澱粉を含む比較例2では、口溶けは比較例1と大差なく、やや柔らかくもたつきのない食感となり、粉っぽさが少ない食感となったが、くすみがあり艶のない色調になり、風味に乏しいものであった。未変性澱粉を含む比較例3では、粉っぽさが少ない食感となったものの、ねっとりとベタ付きがあり、硬くて重いもたつきがある食感となり、くすみがあり艶のない色調であった。
【0032】
表1
*カスタードクリームに使用する澱粉質原料の全量に対する質量%
標準的な小麦粉:薄力粉(日本製粉社製ハート)
変性澱粉:ヒドロキシプロピル化リン酸架橋小麦澱粉(株式会社J-オイルミルズ社製WPO-10)
未変性澱粉:コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製コーンスターチY)
【0033】
<試験2 冷凍カスタードクリームにおけるGA-SA小麦粉の影響>
表2記載の割合で小麦粉の一部又は全部をGA-SA小麦粉に置き換えた以外は製造例1に従って冷凍カスタードクリームを製造し、室温で1時間静置して解凍した後、評価例1に従って評価した。なお、澱粉質原料として標準的な小麦粉のみを使用した冷凍カスタードクリームの評価点を3点とした。
その結果、試験1のカスタードクリームと同様にGA-SA小麦粉を使用した実施例6から10は外観、口溶け及び硬さが優れていた。またGA-SA小麦粉の含有量が高くなるにつれてカスタードクリームが軟らかくなる傾向も同様であったが、90質量%以上のGA-SA小麦粉を含む実施例9及び10においてもカスタードクリームとして問題はなかった。標準的な小麦粉のみを使用した比較例4では、やや粉っぽさが感じられた。変性澱粉を含む比較例5では、口溶けは比較例4と大差なく、やや柔らかくもたつきのない食感となり、粉っぽさが少ない食感となったが、くすみがあり艶のない色調になり、風味に乏しいものであった。未変性澱粉を含む比較例6では、粉っぽさが少ない食感となったものの、ねっとりとベタ付きがあり、硬くて重いもたつきがある食感となり、くすみがあり艶のない色調であった。
【0034】
【0035】
<製造例2 ヨーグルトクリームの製造>
(1)水あめ70質量部、植物油脂65質量部、砂糖60質量部、小麦粉30質量部、発酵乳25質量部、発酵乳パウダー12質量部、乳蛋白6質量部、レモン果汁4質量部、増粘多糖類2質量部、香料1質量部、酸味料1質量部、及び水222質量部をボウルに入れて、均質になるまでホイッパーで十分に撹拌混合した。
(2)中弱火で加熱しながら木ベラで手早くかき混ぜ、全体的にとろみが出たら弱火にしてかき混ぜ続け、クリーム状になるまで加熱混合した。
(3)金属性バットに広げてラップで表面を覆い、粗熱を取った後、冷蔵庫で1時間寝かせてヨーグルトクリームを得た。
【0036】
<試験3 ヨーグルトクリームにおけるGA-SA小麦粉の影響>
小麦粉として標準的な小麦粉又はGA-SA小麦粉を使用した以外は製造例2に従ってヨーグルトクリームを製造した。標準的な小麦粉を使用したヨーグルトクリームを3点とし、評価例1に従って評価した。
その結果、GA-SA小麦粉を使用した実施例11は、標準的な小麦粉を使用した比較例7に対して外観、口溶け及び硬さ共に優れ、粉っぽさのないヨーグルトクリームであった。
【0037】
【0038】
<製造例3 ブルーベリークリームの製造>
(1)水あめ30質量部、植物油脂60質量部、砂糖90質量部、小麦粉22質量部、ブルーベリー果汁50質量部、乳蛋白5.5質量部、全粉乳18質量部、ナチュラルチーズ17.5質量部、レモン濃縮果汁0.5質量部、ソルビトール12質量部、酸味料1.5質量部、香料1.5質量部、増粘多糖類1質量部、及び水190質量部をボウルに入れて、均質になるまでホイッパーで十分に撹拌混合した。
(2)中弱火で加熱しながら木ベラで素早くかき混ぜ、全体的にとろみが出たら弱火にしてかき混ぜ続け、クリーム状になるまで加熱混合した。
(3)金属性バットに広げてラップで表面を覆い、粗熱を取った後、冷蔵庫で1時間寝かせてブルーベリークリームを得た。
【0039】
<試験例4 ブルーベリークリームの食感に与えるGA-SA小麦粉の影響>
小麦粉として標準的な小麦粉又はGA-SA小麦粉を使用した以外は製造例3に従ってブルーベリークリームを製造した。標準的な小麦粉を使用したブルーベリークリームを3点とし、評価例1に従って評価した。
その結果、GA-SA小麦粉を使用した実施例12は、標準的な小麦粉を使用した比較例8に対して外観、口溶け及び硬さ共に優れ、粉っぽさのないヨーグルトクリームであった。
【0040】