(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】顕微鏡システム及びこの顕微鏡システムを用いた試料の観察方法
(51)【国際特許分類】
G01Q 30/02 20100101AFI20240827BHJP
G01Q 20/02 20100101ALI20240827BHJP
G01Q 20/04 20100101ALI20240827BHJP
G01Q 60/24 20100101ALI20240827BHJP
【FI】
G01Q30/02
G01Q20/02
G01Q20/04
G01Q60/24
(21)【出願番号】P 2024035805
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2020095546の分割
【原出願日】2020-06-01
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野田 有吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩令
(72)【発明者】
【氏名】相蘇 亨
(72)【発明者】
【氏名】汪 子涵
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 栄広
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004403(JP,A)
【文献】特開2007-298314(JP,A)
【文献】特開2006-100456(JP,A)
【文献】特表2002-533718(JP,A)
【文献】特開2011-102731(JP,A)
【文献】特開平07-198308(JP,A)
【文献】米国特許第05142145(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットを備えた走査型プローブ顕微鏡と、光学式の対物レンズを備えた光学顕微鏡を備えた顕微鏡システムにおいて、前記光学顕微鏡による試料の膜厚の測定結果を補正する補正方法であって、
前記走査型プローブ顕微鏡及び前記光学顕微鏡によって、試料の膜厚を測定し、
前記走査型プローブ顕微鏡の膜厚の測定結果と、前記光学顕微鏡の膜厚の測定結果の間の相関関係を取得し、
前記相関関係を用いて、前記光学顕微鏡の膜厚の測定結果を補正する、
補正方法。
【請求項2】
試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットを備えた走査型プローブ顕微鏡と、光学式の対物レンズを備えた光学顕微鏡を備えた顕微鏡システムにおいて、試料の複素屈折率を算出する算出方法であって、
前記走査型プローブ顕微鏡及び前記光学顕微鏡によって、試料の膜厚を測定し、
前記走査型プローブ顕微鏡の膜厚の測定結果と、前記光学顕微鏡の膜厚の測定結果の間の相関関係を取得し、
前記相関関係を用いて、前記試料の複素屈折率を算出する、
算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンチレバーを有するプローブユニットを備える顕微鏡システム及びこの顕微鏡システムを用いた試料の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から試料観察の分野においては、光学顕微鏡と走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope;SPM)を組み合わせた顕微鏡システムが用いられている。このような顕微鏡システムにおいては、まず光学顕微鏡により試料の広範囲の領域を観察し、その後、走査型プローブ顕微鏡を用いて特定の領域を詳細に観察することができ、効率的に試料の観察を行うことができる。また、光学顕微鏡による焦点合わせにより試料までのおおよその距離を見積り、その距離をもって試料にアプローチした後、走査型プローブ顕微鏡を操作することにより、速やかに走査型プローブ顕微鏡の焦点を合わせることができる。
【0003】
特許文献1は光学顕微鏡で試料の高さを測定し、その結果に基づいて走査型プローブ顕微鏡を較正することにより、試料の高さを走査型プローブ顕微鏡で高精度に測定する顕微鏡システムを開示している。
【0004】
特許文献2はカンチレバーとサンプルの領域における光学的観察を可能にするビュー・システムと、カンチレバー上へと光線を向けさせ、カンチレバーの移動を示すカンチレバーからの戻り光線を獲得するヘッド・システムと、を有する原子間力顕微鏡システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-3919号公報
【文献】特表2012-506049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の装置においては、一般的に、光学顕微鏡の対物レンズ(明視野レンズ)と走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーを含むプローブユニットが、レボルバに取り付けられている。操作者は、まず光学顕微鏡の対物レンズを用いて試料に光学系の焦点を合わせて、その時の対物レンズの位置から、試料の第1の位置を得る。その後、操作者はレボルバを用いて、対物レンズをプローブユニットに切り替え、第1の位置とプローブユニットのカンチレバーの位置との差分だけ、試料をプローブユニットに近づけることにより、カンチレバーの位置を試料に合致させていた。このような操作により、走査型プローブ顕微鏡による試料の詳細な観察が可能となる。
【0007】
しかしながら、上述の手法により得られた値は、常に絶対的に正しい値であるとは限らない。また、プローブユニットでの観察像から焦点位置を探す方法もある。試料が鏡面かつ平坦で周囲に目印となるごみがないような時には焦点を見つけづらい。さらにはカンチレバーの取り付け方により試料までの距離は僅かながら変化する。これらの場合、プローブユニットが試料に接近しすぎることにより、カンチレバーが試料に衝突するようなトラブルが生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カメラの位置を調整可能にすることにより、カンチレバーの試料への衝突の様なトラブルの発生を抑制し得る顕微鏡システムを提供する。
【0009】
本発明の顕微鏡システムは、試料を観測する顕微鏡システムであって、前記試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットと、前記試料及び前記カンチレバーの背面に合焦可能なカメラと、前記試料に対する前記カメラの位置を調整するため、当該カメラを駆動する駆動部と、前記駆動部を制御して、前記カメラの焦点が前記カンチレバーの背面に合う位置または前記カメラの焦点が前記試料の表面に合う位置の各々の位置に前記カメラを移動可能な制御部と、を備え、前記制御部は、前記カメラの位置を当該カメラの焦点が前記カンチレバーの背面に合致している位置から、前記試料の表面に合致する位置まで動かした前記カメラの移動距離Δz’に基づき、前記カンチレバーから前記試料の表面までの距離Δzを算出する。
【0010】
本発明の顕微鏡システムにおいて例えば、前記制御部は、算出された前記距離Δzに基づき、前記駆動部を制御して、前記カンチレバーと前記試料を相対的に接近させる。
【0011】
本発明の顕微鏡システムにおいて例えば、前記制御部は、前記距離Δzに所定の余裕値を考慮して得られる、前記距離Δzより小さい値を算出し、前記駆動部を制御して、前記カンチレバーと前記試料を当該値の分だけ相対的に接近させた後、前記カンチレバーと前記試料の間の距離を微調整する。
【0012】
本発明の顕微鏡システムにおいて例えば、前記カンチレバーは光てこ方式であり、少なくとも1つのレーザにより前記カンチレバーの駆動または変位を検知する。なお、カンチレバーは自己検知方式でもよく、その場合にはレーザは不要である。
【0013】
本発明の顕微鏡システムにおいて例えば、前記プローブユニットは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)の一部を構成するレンズ型AFMユニットである。
【0014】
本発明の顕微鏡システムにおいて例えば、前記プローブユニット及び少なくとも1つの光学式の対物レンズを取り付け可能であり、前記試料を観察するために、前記プローブユニット及び前記対物レンズを相互に切り替え可能なレボルバを更に備える。
【0015】
本発明の顕微鏡システムにおいて例えば、前記レボルバが、前記試料を観察するために前記プローブユニットから前記対物レンズに切り替えた際に、前記制御部は、当該対物レンズのワークディスタンスを取得し、当該ワークディスタンスと、切り替え前の前記プローブユニットの前記カンチレバーの位置から、前記対物レンズまたは前記試料を移動させるべき距離を算出する。
【0016】
本発明は、カンチレバーを有するプローブユニットを備える顕微鏡システムを用いた試料の観察方法であって、前記カメラの焦点を前記カンチレバーの背面に合わせる工程と、前記カメラを動かし、前記カメラの焦点を前記試料の表面に合わせる工程と、コンピュータが、前記カメラの位置を当該カメラの焦点が前記カンチレバーの背面に合致している位置から、前記試料の表面に合致する位置まで動かした前記カメラの移動距離Δz’に基づき、前記カンチレバーから前記試料の表面までの距離Δzを算出する工程と、を備える。
【0017】
本発明は、試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットを備えた走査型プローブ顕微鏡と、光学式の対物レンズを備えた光学顕微鏡を備えた顕微鏡システムにおいて、前記光学顕微鏡による試料の膜厚の測定結果を補正する補正方法であって、前記走査型プローブ顕微鏡及び前記光学顕微鏡によって、試料の膜厚を測定し、前記走査型プローブ顕微鏡の膜厚の測定結果と、前記光学顕微鏡の膜厚の測定結果の間の相関関係を取得し、前記相関関係を用いて、前記光学顕微鏡の膜厚の測定結果を補正する。
【0018】
本発明は、試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットを備えた走査型プローブ顕微鏡と、光学式の対物レンズを備えた光学顕微鏡を備えた顕微鏡システムにおいて、試料の複素屈折率を算出する算出方法であって、前記走査型プローブ顕微鏡及び前記光学顕微鏡によって、試料の膜厚を測定し、前記走査型プローブ顕微鏡の膜厚の測定結果と、前記光学顕微鏡の膜厚の測定結果の間の相関関係を取得し、前記相関関係を用いて、前記試料の複素屈折率を算出する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の顕微鏡システムによれば、カメラの位置を動かすことにより試料の表面に焦点を合わせることができ、カンチレバーが試料に衝突するようなトラブルを抑制することができる。また、アプローチ完了までの時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である顕微鏡システムの全体構成図である。
【
図2】
図2は、光てこ方式のレンズ型AFMユニットの拡大図である。
【
図3】
図3は、一般的な光学系におけるレンズの結像関係を示す概念図である。
【
図4】
図4は、対物レンズの倍率から計算される縦倍率の計算値と実験による実験値を示すグラフである。
【
図5】
図5は、従来のレンズ型AFMユニットによる試料へのアプローチの方法を示す概念図であり、(a)は明視野レンズを用いて試料の第1の位置を得るプロセス、(b)は第1の位置とレンズ型AFMユニットのカンチレバーの位置との距離Δzを求めるプロセス、(c)は(a)と同じプロセス、(d)は試料を距離Δzだけレンズ型AFMユニットに近づけるプロセスを示す。
【
図6】
図6は、本実施形態のレンズ型AFMユニットによる試料へのアプローチの方法を示す概念図であり、(a)はレンズ型AFMユニットのカンチレバーの背面にカメラの焦点があった位置をカメラの原点位置として記録するプロセス、(b)はカメラを移動距離Δz’だけ動かし、カメラの焦点を試料の表面に合わせるプロセス、(c)は試料を距離Δzだけレンズ型AFMユニットに近づけて試料に焦点を合致させるプロセスを示す。
【
図7】
図7は、本実施形態の顕微鏡システムにおけるカメラの位置調整を実行する際の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、薄膜の膜厚を測定した際に、白色干渉計測では膜厚が薄めに測定される(計測誤差その他の誤差に起因する)ことを説明する概念図である。
【
図9】
図9は、複素屈折率の影響により、白色干渉計測で生じ得る計測誤差を示すグラフである。
【
図10】
図10は、白色干渉計測により算出された薄膜の厚さと、AFM測定による厚さの関係をプロットするとともに、近似曲線を示すグラフである。
【
図11】
図11は、白色干渉計測による高さ測定の結果を補正する手順を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、薄膜の複素屈折率を算出するための手順を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、プローブユニットから対物レンズへの切り替えの際に、試料を最適な位置に移動させる手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る顕微鏡システムの実施形態について、図面を用いて詳述する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である顕微鏡システムの全体構成図である。顕微鏡システム100は、装置本体10と、計測対象の試料S(測定対象物)が載置されたステージ20と、顕微鏡システム100の制御を司るとともに得られたデータを処理する制御部であるコンピュータ(プロセッサ)30とを含む。装置本体10は、落射同軸照明用の白色光源の如き光源11と、必要に応じて設けられる波長フィルタの如き光学フィルタ12と、ビームスプリッタ13と、例えば撮像素子により構成されるカメラ(検出器)15と、カメラ15を駆動する駆動部としてのカメラ位置微調整機構17とを含む。一例では、ステージ20はxy方向への移動に加え、z方向への移動も可能である。
【0023】
更に装置本体10の下端には、操作者による手動またはコンピュータ30により自動で駆動されるレボルバ16が設けられている。レボルバ16は少なくとも一つのレンズ、装置等の取り付けが可能なアダプタであり、レボルバ16の下面には種々のレンズ、装置等が取り付け可能な一つまたは複数の穴が設けられている(図示せず)。本例においては、レボルバ16の下面に、少なくとも1つの光学式の対物レンズ14とプローブユニット40が取り付けられており、試料Sを観察するために、プローブユニット40及び対物レンズ14を相互に切り替え可能としている。対物レンズ14は、顕微鏡システム100における光学顕微鏡の機能の一部をなす部材であり、明視野レンズ、干渉対物レンズ等、特にその種類は限定されない。
【0024】
光学顕微鏡としての機能の観点からは、光源11からの光は矢印Aの光路を通りビームスプリッタ13で反射された後、矢印Bの光路を通り試料Sへ向かう。試料Sからの反射光は再び矢印Bの光路を通って戻り、カメラ15へと向かい結像される。ここでの光学顕微鏡は、共焦点顕微鏡、干渉計等をも含む概念である。
【0025】
プローブユニット40は、顕微鏡システム100における走査型プローブ顕微鏡(SPM)の機能の一部をなす部材である。プローブユニット40は、例えば走査型プローブ顕微鏡の一種である原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)の一部を構成するレンズ型AFMユニットである。
図1におけるプローブユニット40は、その筐体の内部に例えばピエゾ素子から構成されるXY検知素子41およびZ検知素子42を備え、下面にカンチレバー43を備えている。走査時にカンチレバー43の探針(プローブ)が試料Sの表面に接触し、カンチレバー43が上下に変位し、XY検知素子41およびZ検知素子42は、カンチレバー43の変位を電気信号に変換することにより、試料Sの表面形状が検知される。
図1のプローブユニット40は、いわゆる自己検知方式のユニットであり、XY検知素子41およびZ検知素子42は、カンチレバー43の変位を直接検知することができる。
【0026】
図2は、
図1とは異なる光てこ方式のプローブユニット40を示しており、XY検知素子41、Z検知素子42、カンチレバー43に加え、内蔵レンズ44、光位置センサ45(Position Sensitive Detector;PSD)を備えている。図示せぬレーザ光源から照射された少なくとも一つのレーザLは、プローブユニット40内に導光され、内蔵レンズ44によりカンチレバー43の背面へ照射され、反射して光位置センサ45に導かれる。ここで、試料Sの表面の形状に関わらず、XY検知素子41、Z検知素子42は、光位置センサ45の中心に照射される反射したレーザLの量が一定になるように、カンチレバー43の撓み量(駆動または変位)を制御する。このため、XY検知素子41、Z検知素子42が変位し、この変位を電気信号に変換することにより、試料Sの表面形状が検知される。
【0027】
光学顕微鏡で使用される対物レンズ14、SPMで使用されるプローブユニット40の双方を有していることから、本実施形態の顕微鏡システム100は、光学顕微鏡とSPMの複合機の形態をとっている。すなわち本実施形態の顕微鏡システム100は、対物レンズ14を用いる光学顕微鏡と、プローブユニット40を用いるSPMとして使用可能である。そして、二つの顕微鏡として利用する際、コンピュータ30がカメラ位置微調整機構17を制御し、カメラ位置微調整機構17が
図1の矢印Fで示すようにカメラ15の位置を動かすことにより、カメラ15は試料Sとカンチレバー43の背面の各々に焦点を合わせることが可能となる。ただし、レーザLの照射はカンチレバー43の背面に固定されたままで動かない。以下、この制御の意義について説明する。
【0028】
図3は、一般的な光学系におけるレンズの結像関係を示す。いわゆる対物レンズのレンズ倍率に相当し、物体と像の大きさの比を示す横倍率βは、物体(測定対象物)の高さy、物体の像の高さy’、撮影距離z、繰出し量z’、対物レンズまでの焦点距離f、対物レンズまでの焦点距離f’に基づき、以下の式(1)により求められる。
【0029】
【0030】
特に無限遠系と呼ばれる光学系の配置の場合は、β0=f’/fが成立する。
【0031】
一方、横倍率βに直交する縦倍率αは、光軸方向に沿った物体の移動量Δzに対する像の移動量Δz’の比であり、以下の式(2)により求められる。物体の移動量Δz、像の移動量Δz’は、光学系のサイズに比して微小である。
【0032】
【0033】
また、対物レンズ側の反対に位置する結像レンズ(鏡筒レンズ)の無限遠系配置における倍率をη0とすると、式(2)および対称な関係から、以下の式(3)が成立する。
【0034】
【0035】
カメラに像が合うまでの移動量がΔz’であり、これはカメラの焦点を合わせるため、カメラを動かすべき移動量Δz’に相当する。式(3)より、既知のカメラの位置を動かした移動量Δz’、対物レンズの倍率およびカンチレバー背面に焦点が合っているときの位置から、物体までの移動量すなわち距離Δzを求めることができる。
【0036】
なお、上記式(1)~(3)は近軸光線が成り立つという仮定条件(sinθ≒tanθ≒θ)を前提としているため、対物レンズが高倍率になるにつれ成り立たなくなる。しかしながら、一般にAFMで使用される対物レンズの倍率は20倍以下である。
【0037】
図4は、対物レンズの倍率から計算される縦倍率の計算値と実験による実験値を示す。このグラフからわかるように、一般的に想定される20倍以下の倍率では、計算値と実験値の乖離は小さく、ほぼ近軸光線で成り立つ条件を満たしている。
【0038】
図5は、本実施形態の顕微鏡システム100と同様に、対物レンズ14として明視野レンズを用いる光学顕微鏡及びプローブユニット40としてレンズ型AFMユニットを用いる走査型プローブ顕微鏡の双方の機能を使用可能な従来の顕微鏡システムの動作を概念的に示す。このような顕微鏡システムにおいては、まず光学顕微鏡により試料の広範囲の領域を観察し、その後、走査型プローブ顕微鏡を用いて特定の領域を詳細に観察することができ、効率的に試料の観察を行うことができる。また、光学顕微鏡による焦点合わせにより試料までのおおよその距離を見積り、その距離をもって試料にアプローチした後、走査型プローブ顕微鏡を操作することにより、速やかに走査型プローブ顕微鏡の焦点を合わせることができる。
【0039】
特に
図5は、従来の明視野レンズ及びレンズ型AFMユニットよる試料へのアプローチ及び焦点合わせのプロセスを概念的に示す。従来の顕微鏡システムにおいては、本実施形態における駆動部としてのカメラ位置微調整機構17は設けられておらず、カメラの位置は固定である。
【0040】
図5の顕微鏡システムにおいて、操作者は、
図5(a)、(c)に示すように、まず光学顕微鏡の明視野レンズを用いて試料に光学系の焦点を合わせて、その時の明視野レンズの位置から、試料(試料の表面)の第1の位置を得る。その後、操作者はレボルバを用いて、明視野レンズをレンズ型AFMユニットに切り替える。レンズ型AFMユニットのカンチレバーの位置は既知であるため、
図5(b)に示すように、第1の位置とレンズ型AFMユニットのカンチレバーの位置との距離Δzは必然的に求められる。そこで、操作者が、
図5(d)に示すように、試料を距離Δzだけレンズ型AFMユニットに近づけることにより、試料(試料の表面)を第2の位置に移動させ、試料に焦点を合致させる。このような操作により、走査型プローブ顕微鏡による試料の詳細な観察が可能となる。なお、本例では、試料をレンズ型AFMユニットに近づけているが、レンズ型AFMユニット(+装置本体)を試料に近づけてもよい。
【0041】
しかしながら、試料の第1の位置とレンズ型AFMユニットの位置との距離Δzは、たとえば「カンチレバーの位置が絶対的に変動しない、という条件のもと見積もられた」等の理由により、常に絶対的に正しい値であるとは限らない。また、プローブユニットでの観察像からピントの合う焦点位置を探す方法もある。さらにはカンチレバーの取り付け方により試料までの距離は僅かながら変化する。これらの場合、例えば、プローブユニットが試料に接近しすぎることにより、カンチレバーが試料に衝突するようなトラブルが生じ得る。
【0042】
一方、
図6は本実施形態の顕微鏡システム100におけるレンズ型AFMユニットによる試料へのアプローチ及び焦点合わせのプロセスを概念的に示す。本実施形態のプロセスにおいては、明視野レンズ、レボルバは使用せず、専らカメラ15及びカメラ15を駆動する駆動部としてのカメラ位置微調整機構17を使用する。
【0043】
操作者は、
図6(a)に示すように、まずレンズ型AFMユニットのカンチレバーの背面にカメラの焦点があった位置をカメラの原点位置として記録する。このとき、試料(試料の表面)は第1の位置にあるが、焦点とは関係がなく、カメラの焦点は試料に合っていない。二点鎖線は、カンチレバーの背面に合致した際の焦点の光束を示している。その後、
図6(b)に示すように、操作者がコンピュータ30を操作することにより、コンピュータ30がカメラ位置微調整機構17を制御し、カメラ位置微調整機構17が駆動してカメラ15を移動距離(移動量)Δz’だけ動かし、カメラ15の焦点を試料の表面に合わせる。破線は、試料の表面に合致した際の焦点の光束を示している。
【0044】
カメラを原点位置から動かした移動距離Δz’と、対物レンズの倍率β
0と、結像レンズの倍率η
0は既知であるため、式(3)より、試料までの距離Δzを求めることができる。そこで、操作者が、
図6(c)に示すように、試料を距離Δzだけレンズ型AFMユニットに近づけることにより、試料(試料の表面)を第2の位置に移動させ、試料に焦点を合致させる。二点鎖線は、カンチレバーの背面及び試料の表面に合致した焦点の光束を示している。このような操作により、走査型プローブ顕微鏡による試料の詳細な観察が可能となる。なお、本例では、試料をレンズ型AFMユニットに近づけているが、レンズ型AFMユニット(+装置本体)を試料に近づけてもよい。なお、Δz’動かしたことで横倍率βは若干ながら変化するため、光学顕微鏡像としてのXY平面内の大きさを補正してもよい。
【0045】
図7は、本実施形態の顕微鏡システム100におけるカメラの位置調整を実行する際の手順を示すフローチャートである。まず、プローブユニット40のカンチレバー43が
図1の自己検知方式か
図2の光てこ方式かを判定する(ステップS11)。カンチレバー43が光てこ方式の場合、操作者は、カンチレバー43の背面にレーザLの焦点が合うように、内蔵レンズ44の位置調整を行う(ステップS12)。
【0046】
コンピュータ30は、カンチレバー43の背面に焦点が合うカメラ15の位置を原点位置として記録する(ステップS13)。これは
図6(a)の状態に対応する。さらに、操作者の操作によりコンピュータ30が、カメラ位置微調整機構17を制御し、カメラ位置微調整機構17が駆動して、カメラが動かせる範囲内にいるときにカメラ15を動かす(ステップS14)。なお、カメラの可動範囲に制限がある場合、カメラの可動範囲の限界値に達する場合がある。カメラを動かせる限界値に達した場合(ステップS15のYES)、操作者はプローブユニット40を含む装置本体10を移動させ、カンチレバー43が試料Sと衝突しないように近づける(ステップS16)。なお、試料Sをプローブユニット側に近づけても良い。なお、このときカメラ15は可動できるように原点位置へ戻す。
【0047】
コンピュータ30は、カメラ15の移動により、カメラ15の焦点が試料Sの表面に合致したか否かを判定する(ステップS17)。ステップS14からステップS17を繰り返すことによって、カメラ15の焦点が試料Sの表面に合致すると(
図6(b)の状態)、この時のカメラ15の位置と記録した原点位置との差分から、移動距離Δz’が求められる(ステップS18)。更にコンピュータ30は、式(3)より試料までの距離Δzを算出し、試料Sが載置されたステージ20を距離Δzだけ移動させ、カンチレバー43と試料Sの距離を縮め、
図6(c)の状態を実現する(ステップS19)。
【0048】
尚、理論上は、ステージ20を距離Δzだけ移動させると、カンチレバー43と試料Sの表面の位置が合致することになるが、実操作においては両者がいきなり衝突するのを防ぐため、まず、距離Δzに所定の余裕値を考慮して得られる距離Δzより小さい値(例えば距離Δzに1より小さい安全係数を掛け合わせた値や、距離Δzから所定の安全係数に対応した値を引いた値等)だけ、ステージ20を移動させる(ラフな調整である粗動)。この時点で、カンチレバー43と試料Sの表面は、例えば100μm程度に接近し、その後微調整する(微調整である微動)ことにより、例えば原子間力(AFMの場合)を検知できるnmのオーダまでカンチレバー43と試料Sの表面が接近する。微調整は、例えばXY検知素子41、Z検知素子42等を用いることにより可能である。なお、ステップS18では、プローブユニット40を含む装置本体10を試料Sに近づけるように移動させてもよい。
【0049】
上記のプロセスにおいて制御部であるコンピュータ30は、上記のフローにおいて次のようなプロセスを実行する。コンピュータ30は、カメラ15の焦点が、カンチレバー43の背面と試料Sの表面の各々に合うように、カメラ位置微調整機構17を制御してカメラ15を動かす。そしてコンピュータ30は、カメラ15の位置をカメラ15の焦点がカンチレバー43の背面に合致している位置から、試料Sの表面に合致する位置まで動かしたカメラ15の移動距離Δz’に基づき、カンチレバー43から試料Sの表面までの距離Δzを算出する。さらにコンピュータ30は、距離Δzに所定の余裕値を考慮して距離Δzより小さい値を算出し、カメラ位置微調整機構17を制御して、カンチレバー43と試料Sを当該値の分だけ相対的に接近させた後、カンチレバー43と試料Sの間の距離を微調整する。
【0050】
実行の際、コンピュータ30のハードウェア(CPU等)は、上記プロセスを実行させるプログラムを読み込み、顕微鏡システム100を用いた試料の観察方法を実行する。このようなプログラムは、コンピュータ30の内部または外部に設けられた記憶装置(ハードディスク、記録メディア、メモリ等)に記憶されている。
【0051】
尚、上記した方法においては、カメラ15は、カンチレバー43と試料Sの間の相対的な位置決めに用いられている。しかしながら、このカメラ15は、対物レンズ14により試料Sを観察する場合に、対物レンズ14からの光を検知してもよい。すなわち、
図6に示したカンチレバー43と試料Sの間の相対的な位置決めの後、レボルバ16を駆動することにより対物レンズ14が試料Sに対向するが、この状況においてカメラ15は光学顕微鏡の一部である撮像素子として機能することができ、部品点数の増加を抑えることができる。
【0052】
図5に示す従来のプロセスでは、試料の第1の位置とレンズ型AFMユニットの位置との距離Δzは、前述のとおり、常に絶対的に正しい値であるとは限らない。また、プローブユニットでの観察像からピントの合う焦点位置を探す方法もある。試料が鏡面かつ平坦で周囲に目印となるごみがないような時には焦点を見つけづらい。さらにはカンチレバーの取り付け方により試料までの距離は僅かながら変化する。これらの場合、そのため、例えば、プローブユニットが試料に接近しすぎることにより、カンチレバーが試料に衝突するようなトラブルが生じ得る。
【0053】
本実施形態では、プローブユニットであるレンズ型AFMユニット以外に明視野レンズ(対物レンズ)を用いない。その代わりに本実施形態では、カメラの位置を動かすことにより試料の表面に焦点を合わせる。カメラの位置の調整においては、カンチレバーと試料が相対的に接近することがないため、カンチレバーが試料に衝突するようなトラブルを防止することができる。また、従来技術においては、試料へのプローブユニットのアプローチに際し、粗動モータを何回も動かさないといけないため、操作に時間がかかることが多いが、本実施形態によればアプローチ完了までの時間を短縮することが可能となる。よって、安全性が向上するとともに、高速な動作が可能となる。
【0054】
また、従来のプロセスでは、カンチレバーの背面に固定式のカメラの焦点を合わせると、試料の表面に焦点が合わない。特に光てこ方式におけるレンズ型AFMユニット内に組み込まれている小型レンズ(小さな対物レンズ)は、カンチレバーの背面を照射するように調整されているため、動かすことができない。このため、レボルバに別の明視野レンズ(対物レンズ)をつけて、それを頼りに試料までの距離を把握してアプローチを行うため、必然的にレボルバにおけるユニットの取り付け部が明視野レンズによって占有されてしまう。また、アプローチにも時間がかかることとなる。
【0055】
この課題は、明視野レンズを用いる共焦点顕微鏡については特段大きな問題にはならないが、白色干渉顕微鏡については使用できるレンズの本数が減ることとなりレボルバの特徴を最大限に活かしきれないことになる。
【0056】
本実施形態では、カメラの位置を調整できる駆動部が設けられており、明視野レンズが不要となるため、コスト削減が可能となり、より付加価値の高いもの(例えば倍率の異なる干渉対物レンズ等)をレボルバに取付けることが可能となる。
【0057】
また、従来におけるプローブユニットは、内部にピエゾ素子として粗動のZ検知素子を内蔵するために、必然的にユニットが大きく重くなる傾向にあった。また可動範囲を大きくした積層型ピエゾ素子を使用することにより、微小な領域でのZ分解能が落ちるという課題があった。
【0058】
本実施形態では、カメラの位置を調整できる駆動部が設けられており、プローブユニットの軽量化が可能となる。
【0059】
また、従来のプロセスにおいては、レボルバを回転させることが一般的であるため、同心円の機械的な公差分視野の中心位置がずれる懸念があったが、本実施形態ではそのような懸念は生じ得ない。
【0060】
なお、XY検知素子41、Z検知素子42等のピエゾ素子は、試料Sの側(ステージ20)にも、プローブユニット40の側にも設けることが可能である。
【0061】
本実施形態のプローブユニット40は、広義の走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope;SPM)の一部をなすユニットであり、実施形態ではその一種である走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope;STM)の一部であるレンズ型AFMユニットである。しかしながら、プローブユニット40は、磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope;MFM)、静電気力顕微鏡(Electrostatic Force Microscope;EFM)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)等の他の走査型プローブ顕微鏡にも適用可能である。
【0062】
次に、本実施形態の如き顕微鏡システム100を用いて誘電体膜上の金属膜厚を計測する方法について説明する。上述した様に、本実施形態の顕微鏡システム100は、光学顕微鏡とSPMの複合機の形態をとっている。光学顕微鏡による測定はSPMに比べて短時間で測定を行うことができる、しかしながら従来から、光学顕微鏡、例えば白色干渉顕微鏡の様に光を用いた高さ計測(白色干渉計測)を行う光学顕微鏡(三次元計測顕微鏡)による計測においては、誘電体膜上の金属膜厚は、金属の複素屈折率のため実際の膜厚よりも薄めに計測されることが知られている。
【0063】
図8に示すように、光が屈折率n
0および消衰係数k
0の媒質から屈折率n
1および消衰係数k
1の媒質へ垂直入射した際、反射による位相変化は次式で与えられる。
【0064】
【0065】
そして、複素屈折率(n1,k1)の試料1から反射した光と複素屈折率(n2,k2)の試料2から反射した光の位相差は、以下の式(5)により求められる。
【0066】
【0067】
そして、試料1の消衰係数k1=0と仮定できるとき、すなわち、試料1が誘電体である(例えばガラス基板)の場合、以下の式(6)が成立する。
【0068】
【0069】
この位相差ΔΦにより、誘電体上に成膜された金属の膜厚は実際の膜厚よりも小さく計測される。実際の膜厚と計測された膜厚の差である計測誤差Δhは、以下の式(7)により求められる。
【0070】
【0071】
図9は、光学顕微鏡として白色干渉顕微鏡を用いて測定試料(試料2)の膜厚を測定した際、屈折率n
2および消衰係数k
2で、基板のガラス(誘電体)は複素屈折率の虚数部分が0と仮定し、かつ測定試料の裏面からの反射が無視できる、すなわち試料1の厚みが厚い前提において、発生する膜厚の計測誤差Δhの計算結果を示す。すなわち白色干渉計測では、屈折率n
2が小さいほど計測誤差Δh(の絶対値)が大きくなる、すなわち、計測された膜厚と実際の膜厚との差が大きくなる。
【0072】
消衰係数k2が不変で一定であるならば、計測誤差Δhの補正は容易である。しかしながら、薄膜になればなるほど、裏面反射を始めとした種々の要因による影響が大きくなる。また、特に白色干渉顕微鏡により計測する場合には、レーザによる単一波長による計測ではないため、波長ごとの消衰係数k2も波長に対して一定とは限らない。
【0073】
図10は、走査型白色干渉顕微鏡による白色干渉計測(CSI;Coherence Scanning Interferometry)により測定された薄膜の膜厚と、レンズ型AFMユニットを用いた測定(AFMによる測定)による薄膜の膜厚をプロットしたものである。点線L10はCSIとAFMでの計測結果が合致するときの理想の線であり傾きは1である。実線L11は点線L10と平行であり(傾きは1)、切片は式(7)より決まる値であって、理想の線L10を切片である計測誤差Δhだけオフセットしたものである。
【0074】
一方、一点鎖線L12は実際の薄膜の状況を反映した線であり、傾きが1ではないことから実線L11のように点線L10から切片分、すなわちオフセットしているわけではない。すなわち、計測誤差Δhは一定ではないが、薄膜の屈折率n2が変化しているとは考え難いため、式(4)~(7)より、薄膜の厚みによって消衰係数k2が変化していることを意味する。このような消衰係数k2の変化は、線形または指数関数(ランベルト・ベールの法則)と仮定してもよく、このような仮定の下で近似曲線(フィッティング曲線)にしたものが破線L13である。白色干渉計測は、特に薄膜計測の場合、複素屈折率、裏面反射等の影響を受け、更に回折限界において空間方向でローパスフィルタがかかり尖頭値が小さくなるため、AFMによる測定よりも薄めの膜厚が測定されるという結果を示している。
【0075】
そのため、現実には試料ごとに(試料の厚みが違うごとに)、すなわち、複素屈折率の違う試料ごとに、白色干渉計測およびAFM測定を行い、これらの間の相関関係を表す相関データを一覧にまとめた相関表(ルックアップテーブル)を取得した上で、高さ補正(膜厚補正)をすることが望ましい。
図11は、本実施形態の顕微鏡システム100を用いて、白色干渉計測による高さ測定の結果を補正する手順を示す。
【0076】
まず操作者は、顕微鏡システム100に試料を設置する(ステップS21)。設置した試料がこれまで測定していない新しい試料である場合及び/または測定したことのある試料であっても着目している範囲の高さにおいて、試料の相関データ(着目している範囲の厚みの相関データ)が存在しない場合(ステップS22;NO)、相関データを取得する必要がある。そこで、操作者は、顕微鏡システム100のコンピュータ30を操作し、白色干渉顕微鏡及びレンズ型AFMユニットを用いて、試料の高さ測定(膜厚測定)を行う(ステップS23)。白色干渉顕微鏡による測定は、対物レンズ14を用いた白色干渉計測であり、レンズ型AFMユニットによる測定は、プローブユニット40として、上述した実施形態の様にレンズ型AFMユニットを用いたAFM測定である。
【0077】
さらに、この高さ測定の測定結果から白色干渉計測とAFM測定の間の相関関係(相関表)、具体的には
図10に示した近似曲線を取得する(ステップS24)。ステップS23、ステップS24を経て、コンピュータ30は、この相関関係を用いて白色干渉計測での高さ測定の結果に補正を行い、複素屈折率等による影響を排除する(ステップS25)。コンピュータ30は、ステップS23、ステップS24を経た後、試料の種類ごとに相関関係を図示せぬメモリ、記憶装置等に保存しておくことにより、次に同種の試料について白色干渉計測を行う際、保存しておいた相関関係を用いて補正し、速やかに正確な膜厚を算出することができる。もちろん毎回の観測において、ステップS23、ステップS24を実施して、改めて相関関係を得てもよい。
【0078】
すなわち、共焦点顕微鏡、白色干渉顕微鏡等の光学顕微鏡(三次元計測顕微鏡)で得られた高さの値とレンズ型AFMユニットで得られた高さの結果から、光学式で得られた高さを補正(キャリブレーション)することができる。上述した様に、AFM測定は光学顕微鏡による計測と比較して計測誤差Δhが発生せず、高い精度で膜厚を測定できることが期待されるが、光学顕微鏡による計測に比して測定に時間がかかる。そこで、
図11のプロセスにより、試料ごとにAFM測定と光学顕微鏡計測の間の相関関係を予め取得しておき、この相関関係に基づき、光学顕微鏡計測の測定結果を補正することにより、比較的正確な膜厚を迅速に得ることができる。
【0079】
上記内容は、試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットを備えた走査型プローブ顕微鏡と、光学式の対物レンズを備えた光学顕微鏡を備えた顕微鏡システムにおいて、光学顕微鏡による試料の膜厚の測定結果を補正する補正方法である。走査型プローブ顕微鏡及び光学顕微鏡によって、試料の膜厚を測定し、走査型プローブ顕微鏡の膜厚の測定結果と、光学顕微鏡の膜厚の測定結果の間の相関関係(例えば
図10に記載したもの)を取得し、相関関係を用いて、光学顕微鏡の膜厚の測定結果を補正することができる。
【0080】
また、高さの補正以外に、
図10の測定結果の近似曲線から測定試料の複素屈折率(n
2,k
2)を求めることも可能である。一般にn
0、k
0は空気、そしてn
1、k
1は例えばk
1の無視できるガラス基板などである。試料2の複素屈折率が分かっていればフィッティングは容易であるが、未知の場合であっても変数の数はn
2、k
2の2つであり、
図10の実験結果よりL11とL12の2本の線、すなわち方程式に相当するものが得られるため、複素屈折率(n
2,k
2)を求めることが可能となる。ただし、薄膜における消衰係数k
2の変化の仕方は線形や指数関数と仮定する点に注意したい。
【0081】
図12は、実施形態の顕微鏡システム100を用いて得られた結果から薄膜の複素屈折率を算出するための手順を示す。まず操作者は顕微鏡システム100に試料を設置する(ステップS31)。次に白色干渉計測及びAFM測定により、試料の高さ測定を行う(ステップS32)。さらに、高さ測定の測定結果から白色干渉計測及びAFM測定の間の相関関係、近似曲線を取得する(ステップS33)。測定結果と近似曲線から、薄膜における複素屈折率(n
2,k
2)を得る(ステップS34)。
【0082】
すなわち、光学顕微鏡(例えば、共焦点顕微鏡、白色干渉顕微鏡等)で得られた高さの値とレンズ型AFMで得られた高さの結果から、薄膜試料の複素屈折率(n,k)を算出することができる。光学顕微鏡による計測の測定結果を用いて、複素屈折率(n,k)を迅速に得ることができる。
【0083】
上記内容は、試料の表面を走査するカンチレバーを有するプローブユニットを備えた走査型プローブ顕微鏡と、光学式の対物レンズを備えた光学顕微鏡を備えた顕微鏡システムにおいて、試料の複素屈折率を算出する算出方法である。走査型プローブ顕微鏡及び光学顕微鏡によって、試料の膜厚を測定し、走査型プローブ顕微鏡の膜厚の測定結果と、光学顕微鏡の膜厚の測定結果の間の相関関係(例えば
図10に記載したもの)を取得し、相関関係を用いて、試料の複素屈折率を算出することができる。
【0084】
図10における実際の薄膜の状況を反映した一点鎖線L12においては、切片に相当する計測誤差Δhが、AFM測定における32nm付近から0nmに向かって減少している。この現象は、
図9での屈折率n
2=1.5の曲線を例に挙げると、点線の部分に該当する。上述した様に薄膜の屈折率が変わるとは考え難いため、消衰係数k
2が線形または指数関数(ランベルト・ベールの法則)により変化すると仮定でき、計測誤差Δhの減少とともに、消衰係数k
2が減少している。そして、
図10の相関関係から、
図9、特にその元となる式(4)~(7)を用いて複素屈折率(n
2,k
2)を求めることができる。
【0085】
次に、プローブユニット40を用いたSPM測定(例えばレンズ型AFMユニットを用いたAFM測定)を行った後、レボルバ16を用いて光学式の対物レンズ14に切り替える際に生じ得る問題とその解決方法について述べる。上述した様に、本実施形態の顕微鏡システム100は、光学顕微鏡とSPMの複合機の形態をとっている。典型的な利用形態として、光学顕微鏡により試料の広範囲の領域を観察し、その後、SPMを用いて特定の領域を詳細するプロセスが実施されるが、その逆にSPMを用いて特定の領域を詳細に観察した後、再度、光学顕微鏡により試料の広範囲の領域を観察することも多く、この場合、レボルバ16を駆動して、プローブユニット40から対物レンズ14への切り替えが行われる。
【0086】
プローブユニット40のカンチレバー43の先端と試料Sとの距離は、粗動アプローチ後で例えば0.1~0.5mm程度、その後の微動による(すなわち微動アプローチ)測定時には、例えば数オングストローム~数nm程度の微小値にまで達し得る。一方で、対物レンズ14を用いて観察を行う場合、無限遠配置時のワークディスタンス(WD)は設計値として与えられており数mm~数十mmとレンズによって異なる。また、WDは、「対物レンズ14の先端から試料表面までの距離」を意味し、カメラ位置が変わることでWDも式(1)~(3)にしたがって変化する。
【0087】
このように、プローブユニット40を用いる測定と対物レンズ14を用いる測定においては、試料Sに対する距離が全く異なるレンジをとっている。また、プローブユニット40から対物レンズ14の切り替えの際には、ステージ20や装置本体10の動きも伴うため、たとえ切り替え前に同焦を機械的に保っていたとしても公差から像がぼやけてしまうことがしばしば起きる。また、WDはそれぞれのレンズによって異なり得る。このため、レボルバ16を駆動させた場合には、レンズごとのWDに合致するように、対物レンズ14と試料の相対的な距離を決定しなければならない。
【0088】
そこで、本実施形態の顕微鏡システム100においては、カメラ15の上下動によるカンチレバー43のアプローチ(
図7のプロセス)の際に得られた試料Sの位置に関する試料位置情報と、次に用いられる対物レンズ14のWD、すなわち対物レンズ14から試料Sまでの焦点が合う最適な距離の情報を得ておく。そして、対物レンズ14への切り替えに際し、試料Sを上下動させるべき距離を算出し、算出された補正を含めた距離だけ試料Sの位置を上下動させる。なお、ここでの「試料位置」とは試料Sの絶対的な位置でもよく、レボルバ16の特定の点(基準点)を基準にした相対的な位置でもよい。よって、試料位置の上下動の際には試料S(ステージ20)の移動がされてもよく、レボルバ16等を含む装置本体10を移動させてもよい。このようなプロセスにより、レボルバ回転時においても真に試料Sに焦点が合うWDに合致するように、対物レンズ14と試料の相対的な距離を決定することを迅速かつ簡便に行うことが可能となる。
【0089】
図13は、プローブユニット40から対物レンズへの切り替えの際において試料Sを最適な位置に移動させる手順を示す。まず、コンピュータ30が、顕微鏡システム100における現在の試料Sの位置を算出する(ステップS41)。ここでは、プローブユニット40を用いて測定が行われていることが前提である。次にコンピュータ30は、切り替えの際の入力信号の有無等によりレボルバ16が駆動したか否かを判定する(ステップS42)。レボルバ16が駆動した場合、コンピュータ30は、切り替え後使用される対物レンズ14のWDを取得する(ステップS43)。さらにコンピュータ30は、このWDと切り替え前のプローブユニット40のカンチレバー43の位置から、試料Sを移動させるべき距離を算出し(ステップS44)、ステージ20を駆動して試料Sを移動させる(ステップS45)。ステップS44、S45では、対物レンズ14、レボルバ16を含む装置本体10を試料Sに近づけるべき距離を算出して近づけてもよい。すなわちコンピュータ30は、対物レンズ14のWDと、切り替え前のプローブユニット40のカンチレバー43の位置から、対物レンズ14または試料Sを移動させるべき距離を算出する。
【0090】
レボルバ16のどの穴(設置部)にどのような対物レンズ14またはプローブユニット40が装着されているかは既知であることが好ましい。ただし、対物レンズ14、プローブユニット40の装着位置、これらの種類等についての情報は、ユーザが都度入力するものであってもよい。
【0091】
各対物レンズ14のWD(又はWDを計算可能な情報)は既知であることが好ましい。ただし、ユーザが都度入力するものであってもよい。
【0092】
また、
図13の手順の前に、少なくとも一度はカメラ15の上下動により試料Sの位置に関する情報を得ておく必要がある。一旦情報が得られれば、その後、試料Sを上下動させた距離を加減算することにより、現在の試料位置を算出することができる。試料Sの位置情報を得ておくことにより、プローブユニット40から対物レンズ14への切り替えの際のみならず、一の対物レンズから他の対物レンズへの切り替えの際にも本手法を用いることができる。
【0093】
ちなみにレボルバ16を駆動させて、無限遠配置時におけるWDが異なる別のレンズに切り替えた場合であっても試料Sの像がぼやけることのないよう、同焦点距離(Parfocal distance)は規格化されている。よって、対物レンズの切り替えの際は試料位置を上下動させる必要は本来ないはずである。しかしながら、規格に則っていない装置や部品が用いられる場合や、規格に則っていたとしても公差等の影響で試料Sの像がぼやける場合もある。そこで、対物レンズの切り替えの際にも、上述した手法を用いて試料位置を上下動させることができる。
【0094】
また、レボルバ16を駆動させる駆動装置(モータ等)が設けられる場合がある。ユーザによるインターフェースを介したレボルバ16の駆動指示や、記憶された観察フローに応じて駆動装置が自動でレボルバ16を駆動させ、用いるレンズを変更することができる。
【0095】
好ましくは、レボルバ16で現在用いられている穴(設置部)、用いられている対物レンズ14またはプローブユニット40の種類を検出するセンサや、レボルバ16の(特に手動による)駆動を検知するセンサを設けることが好ましい。センサによりWDの最適化を開始すべきタイミングを決定することができる。また、センサにより最適なWDの算出を自動化することも可能である。
【0096】
また、レボルバ16の駆動の前に、衝突防止のため試料Sのリトラクト処理が実行されてもよい。例えばコンピュータ30がディスプレイやスピーカを用いてユーザにリトラクト処理を促すシグナルを出す。その場合、試料位置を上下動させる距離の算出処理において、リトラクト処理による移動距離が考慮される。
【0097】
さらに用いる対物レンズ14の種類を判定した後の任意のタイミングにおいて、カメラ15の位置を、明視野観察に適した位置に上下動させる処理が実行されてもよい。
【0098】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の顕微鏡システムによれば、カンチレバーが試料に衝突するようなトラブルを抑制することができ、安全性が向上するとともに、高速な動作が可能な顕微鏡システムが提供される。
【符号の説明】
【0100】
10 装置本体
11 光源
12 光学フィルタ
13 ビームスプリッタ
14 対物レンズ
15 カメラ
16 レボルバ
17 カメラ位置微調整機構(駆動部)
20 ステージ
30 コンピュータ(制御部)
40 プローブユニット
41 XY検知素子
42 Z検知素子
43 カンチレバー
44 内蔵レンズ
45 光位置センサ
100 顕微鏡システム
S 試料