(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/343 20060101AFI20240828BHJP
【FI】
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2023094096
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2018162260の分割
【原出願日】2018-08-31
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】長尾 陽二
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-119560(JP,A)
【文献】特開2004-022989(JP,A)
【文献】特開2001-168471(JP,A)
【文献】特表2012-522390(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0089399(US,A1)
【文献】特開2004-087908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00- 5/50
H01L 33/00-33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1窒化物半導体層と、
第2導電型の第2窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層と前記第2窒化物半導体層との間に配置された、単一量子井戸構造の活性領域と、を備え、
前記活性領域は、前記第1窒化物半導体層の側から順に、第1障壁層と、中間層と、井戸層と、第2障壁層と、を有し、
前記中間層の格子定数は、前記第1障壁層及び前記第2障壁層の格子定数よりも大きく、且つ、前記井戸層の格子定数よりも小さく、
前記中間層の膜厚は、前記井戸層の膜厚よりも厚く、
前記井戸層と前記第2障壁層とは接しているか、又は、前記井戸層と前記第2障壁層との距離が前記第1障壁層と前記井戸層との距離よりも小さく、
前記第1障壁層はIn
aGa
1-aN(0≦a<1)であり、
前記中間層はIn
bGa
1-bN(a<b<1)であり、
前記井戸層はIn
cGa
1-cN(b<c<1)であり、
前記第2障壁層はIn
dGa
1-dN(0≦d<b)であ
り、
前記第1窒化物半導体層は、n型窒化物半導体層であり、
前記第2窒化物半導体層は、p型窒化物半導体層である、
半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記中間層の膜厚は前記井戸層の膜厚の1.5倍以上6倍以下である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記中間層の膜厚は13nm未満である請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記中間層は不純物を有し、
前記不純物の導電型は前記第1導電型である、請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記不純物は、1×10
18cm
3以上1×10
20cm
3以下の濃度で前記中間層に含まれる、請求項4に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記中間層の膜厚は3nm以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記中間層は、前記第1障壁層から前記井戸層に向かって格子定数が増大する組成を有する組成傾斜層である請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記井戸層のIn組成比cは、10%以上50%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
発振波長が430nm以上600nm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記半導体レーザ素子は、第1クラッド層と、第2クラッド層と、第1光ガイド層と、第2光ガイド層と、を備え、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層との間に前記活性領域が配置され、
前記第1クラッド層と前記活性領域との間に、前記第1光ガイド層が配置され、
前記第2クラッド層と前記活性領域との間に、前記第2光ガイド層が配置されている請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記第1窒化物半導体層は、前記第1クラッド層又は前記第1光ガイド層であり、
前記第2窒化物半導体層は、前記第2クラッド層又は前記第2光ガイド層である請求項10に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記半導体レーザ素子は、基板を備え、
前記基板の側から順に、前記第1窒化物半導体層と、前記活性領域と、前記第2窒化物半導体層と、が配置されている請求項1~
11のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、それぞれ、井戸層と、障壁層と、その間に配置された中間層とから形成された活性領域を含む窒化物半導体発光素子が記載されている。窒化物半導体発光素子は、例えば半導体レーザ素子である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-356256号公報
【文献】特開2011-151275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体レーザ素子において、レーザ発振する電流である閾値電流の更なる低減が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、以下の発明を含む。
第1導電型の第1窒化物半導体層と、
第2導電型の第2窒化物半導体層と、
前記第1窒化物半導体層と前記第2窒化物半導体層との間に配置された、単一量子井戸構造又は多重量子井戸構造の活性領域と、を備え、
前記活性領域は、前記第1窒化物半導体層の側から順に、第1障壁層と、中間層と、井戸層と、第2障壁層と、を有し、
前記中間層の格子定数は、前記第1障壁層及び前記第2障壁層の格子定数よりも大きく、且つ、前記井戸層の格子定数よりも小さく、
前記中間層の膜厚は、前記井戸層の膜厚よりも厚く、
前記井戸層と前記第2障壁層とは接しているか、又は、前記井戸層と前記第2障壁層との距離が前記第1障壁層と前記井戸層との距離よりも小さい、半導体レーザ素子。
【発明の効果】
【0006】
このような構成を有することにより、半導体レーザ素子の閾値電流を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の模式的な断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の活性領域のバンドギャップエネルギーを模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の模式的な上面図である。
【
図4】活性領域の変形例1を模式的に示す図である。
【
図5】活性領域の変形例2を模式的に示す図である。
【
図6】活性領域の変形例3を模式的に示す図である。
【
図7】実施例1~4及び比較例1、2の半導体レーザ素子の閾値電流密度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明を以下の実施形態に特定するものではない。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0009】
(半導体レーザ素子100)
図1は本発明の一実施形態の半導体レーザ素子100の模式的な断面図であり、半導体レーザ素子100の共振器方向と垂直な方向における断面を示す。半導体レーザ素子100は、第1導電型の第1窒化物半導体層(第3n型半導体層23)と、第2導電型の第2窒化物半導体層(第2p型半導体層43)と、第1窒化物半導体層と第2窒化物半導体層との間に配置された活性領域3と、を有する。より具体的には、半導体レーザ素子100は、基板1の上に、n型窒化物半導体層を有するn側領域2と、活性領域3と、p型窒化物半導体層を有するp側領域4と、がこの順に設けられている。p側領域4の表面にはリッジ4aが設けられている。活性領域3のうちリッジ4aの直下の部分及びその近傍が導波路領域である。リッジ4aの上面とリッジ4aの側面から連続するp側領域4の表面には絶縁膜5が設けられている。基板1はn型であり、その下面にはn電極8が設けられている。また、p側領域4表面のリッジ4aに接してp電極6が設けられ、さらにその上にp側パッド電極7が設けられている。
【0010】
(基板1)
基板1には、例えばGaNやAlN等からなる窒化物半導体基板を用いることができる。また、窒化物半導体基板以外の基板を用いてもよい。このような基板としては、例えば、サファイアなどの絶縁性基板、SiC、Si、ZnO、Ga2O3、GaAsなどの半導体基板、ガラスなどの上に窒化物半導体を成長させたテンプレート基板などが挙げられる。また、後述するピエゾ電界は、基板1を成長基板としてその上に成長される半導体層の成長方向が+c軸である場合に特に発生しやすい。したがって、基板1が成長基板である場合には、窒化物半導体が+c軸成長するように、基板1は+c面を主面とするGaN基板又はc面を主面とするサファイア基板等を用いることが好ましい。ここで+c面又はc面を主面とするとは、厳密にこれらの面であるもののほかに、1度以下のオフ角を有するものを含んでよい。さらには、サファイア基板よりもGaN基板を用いる方がその上に成長される窒化物半導体層の転位密度を低減することができ、後述する中間層32を厚膜で設け易いと考えられるため、好ましい。
【0011】
(n側領域2)
n側領域2は、窒化物半導体からなる単層又は多層構造で形成することができる。n側領域2に含まれるn型半導体層としては、Si、Ge等のn型不純物が含有された窒化物半導体からなる層を挙げることができる。n側領域2は、例えば、基板1側から順に、第1n型半導体層21、第2n型半導体層22、第3n型半導体層23(n型窒化物半導体層)、第4n型半導体層24を有する。n側領域2にはこれら以外の層が配置されてもよく、また、一部の層を省略してもよい。
【0012】
第1~第4n型半導体層21~24は、n型不純物を含有する。第1n型半導体層21は、例えばAlGaNからなる。第2n型半導体層22は、例えばInGaNからなる。
第3n型半導体層(n型窒化物半導体層)23は、例えば第1n型半導体層21よりもバンドギャップエネルギーが大きいAlxGa1-xN(0≦x<1)からなる。第3n型半導体層23は、n側領域2において最大のバンドギャップエネルギーを有してよい。第3n型半導体層23はn側クラッド層(第1クラッド層)として機能させることができる。第3n型半導体層23の膜厚は、例えば0.7~1.2μm程度である。第4n型半導体層24は、例えばGaNからなる。第4n型半導体層24の膜厚は、例えば第3n型半導体層23の膜厚よりも小さい。
【0013】
n側組成傾斜層25は、例えば基板1側をGaNとし活性領域3側をInGaNとして徐々に組成が変化した層である。n側組成傾斜層25の膜厚は、50nm~500nmとすることができる。n側組成傾斜層25は、n型不純物を含有することが好ましい。組成傾斜層は、少しずつ組成を変えた層の積層構造であるため、その積層構造中のヘテロ界面には負の固定電荷が発生し、それによって生じるバンドスパイクがキャリア注入障壁となる。n側組成傾斜層25にn型不純物を含有させることで、そのバンドスパイクを緩和することができる。
【0014】
第3n型半導体層23と第4n型半導体層24とn側組成傾斜層25は、第3n型半導体層23から井戸層33に向かって格子定数が徐々に増加する関係であることが好ましい。これにより、井戸層33にかかる歪を緩和することができ、ピエゾ電界の影響を低減することができる。n側光ガイド層(第1光ガイド層)として機能する層としては、例えば第4n型半導体層24及び/又はn側組成傾斜層25が挙げられる。第4n型半導体層24は省略してもよい。後述する活性領域3中の障壁層の膜厚が薄い場合はn側組成傾斜層25も障壁層の機能を有する場合がある。
【0015】
(活性領域3)
活性領域3は、単一量子井戸構造又は多重量子井戸構造を有する。
図2は、半導体レーザ素子100の活性領域3のバンドギャップエネルギーを模式的に示す図である。
図2に示す活性領域3は単一量子井戸構造である。
図2に示すように、活性領域3は、第1窒化物半導体層の側から順に、第1障壁層31と、中間層32と、井戸層33と、第2障壁層34と、を有することができる。活性領域3にはこれら以外の層が配置されてもよく、また、一部の層を省略してもよい。中間層32の格子定数は、第1障壁層31及び第2障壁層34の格子定数よりも大きく、且つ、井戸層33の格子定数よりも小さい。中間層32の膜厚は、井戸層33の膜厚よりも厚い。
図2では井戸層33と第2障壁層34とは接している。井戸層33と第2障壁層34との間に別の層を配置してもよいが、この場合、井戸層33と第2障壁層34との距離が第1障壁層31と井戸層33との距離よりも小さくなるように別の層を配置する。
【0016】
活性領域3の中の井戸層33として、例えばInGaNが用いられる。活性領域3を挟む第3n型半導体層23及び第2p型半導体層43としては、それぞれ例えばAlGaN及びGaNが用いられる。このように格子定数の異なる半導体層が積層されていることにより、活性領域3、特に井戸層33に例えば圧縮歪がかかる。井戸層33に歪が加わることでピエゾ電界が発生する。ピエゾ電界が発生することによりホールの波動関数と電子の波動関数とが空間的に分離され、キャリアの再結合確率が低下する。これにより、半導体レーザ素子の発光効率が低下し、半導体レーザ素子がレーザ発振するための閾値電流が上昇する。
【0017】
そこで、本実施形態では、中間層32を設ける。第1障壁層31と井戸層33の間の格子定数を有する中間層32を設けることにより、井戸層33にかかる歪を緩和させることができる。加えて、中間層32を設けることにより、第2導電型のキャリア(例えばホール)の波動関数のピークを第1障壁層31の側に近づけることができる。これらによって、キャリアの再結合確率を上昇させることができる。したがって、半導体レーザ素子100の発光効率を上昇させることができ、閾値電流を低減させることができる。中間層32が薄すぎると波動関数のピークを第1障壁層31の側に近付ける効果が弱まるため、中間層32の膜厚は井戸層33の膜厚よりも厚いことが好ましい。また、閾値電流が上昇すると閾値電流密度も上昇するが、閾値電流密度が高いほどキャリアが活性領域3からオーバーフローする確率が増大すると考えられる。閾値電流を低減させることで、オーバーフローの確率を低減させ、これによって光出力の温度特性を向上させることが可能である。本明細書において、光出力の温度特性とは、常温時の光出力に対する高温時の光出力の割合を指す。
【0018】
井戸層33と第2障壁層34とは接しているか、又は、そうでない場合は、井戸層33と第2障壁層34との距離が第1障壁層31と井戸層33との距離よりも小さいことが好ましい。仮に第2障壁層34と井戸層33との間にも中間層32のような層を設けると第1導電型のキャリア(電子)の波動関数のピークが第2障壁層34の側に近づき、第2導電型のキャリア(正孔)の波動関数のピークが第1障壁層31の側に近づく。これにより、波動関数の空間的重なりが減り、発光効率が下がってしまう。したがって、上述の構成とすることが好ましい。さらには、井戸層33と第2障壁層34との間に別の層を設ける場合は、その別の層の膜厚が中間層32として機能しない程度に薄いことが好ましい。具体的には、井戸層33と第2障壁層34との間の距離が井戸層33の膜厚よりも小さいことが好ましい。また、井戸層33と第2障壁層34との間に設ける別の層は、井戸層33と第2障壁層34との間の格子定数及びバンドギャップエネルギーを有する層とする。
【0019】
活性領域3を構成する各層は、GaN又はInGaNのような二元系又は三元系の化合物半導体からなることが好ましい。AlInGaNのような四元系化合物半導体であれば、その組成比を調整することで、バンドギャップエネルギー差は大きいが格子定数差は小さい積層構造を形成することができる。しかし、四元系化合物半導体よりも二元系又は三元系の化合物半導体の方が設計値に近い組成比を製造しやすい。このため、活性領域3は二元系又は三元系の化合物半導体で構成することが好ましい。そしてこの場合は各層の格子定数差が大きくなりやすいため、歪を緩和可能な中間層32を設けることがより好ましい。
【0020】
活性領域3が多重量子井戸構造である場合は、
図4に示すように、井戸層33を複数配置し、それらの間に中間障壁層37を配置する。この場合、活性領域3は、すべての井戸層33とそれを挟む層の関係が、
図2に示す第1障壁層31と中間層32と井戸層33と第2障壁層34のような関係となるようにすればよい。中間層32は、組成傾斜層であってもよくそうでなくてもよい。
図2に示す活性領域3は単一量子井戸構造である。単一量子井戸構造であれば、井戸層33の発光が別の井戸層で吸収されることが無いため光損失を小さくすることができ、また、障壁層31の数が少ないため活性領域3の次に成長させる層(例えばp側領域4の層)の結晶性を向上させることができる。一方で、単一量子井戸構造は多重量子井戸構造よりも光閉じ込め係数が低くなる場合があり、この場合はこれによって閾値電流が上昇するが、中間層32を設けることで閾値電流を低減することができる。また、多重量子井戸構造の場合は中間層32を複数設けることになるため各中間層32の膜厚を大きくすると井戸層33の結晶性の悪化が懸念される。このため、単一量子井戸構造の方が中間層32の膜厚増大による閾値電流の低減の効果が得られやすい可能性がある。
【0021】
(第1障壁層31)
第1障壁層31としては、井戸層33よりバンドギャップエネルギーが大きい材料を用い、例えばInGaN、GaN、又はAlGaNを用いることができる。発振波長430nm以上である場合など井戸層33のIn組成比が比較的大きい場合は、それとの格子定数差が大きくなりすぎないようにInaGa1-aN(0≦a<1)が好ましい。井戸層33の結晶性を向上するためには第1障壁層31はGaNであることが好ましい。第1障壁層31の膜厚は、1原子層以上とすることができ、また、20nm以下とすることができる。
【0022】
(中間層32)
中間層32は、膜厚が厚いほど井戸層33への歪の緩和の効果が大きいと考えられる。
このため、中間層32の膜厚は井戸層33の膜厚の1.5倍以上であることがより好ましい。後述する
図7に示すように、中間層32の膜厚が井戸層33の膜厚未満の範囲では膜厚増による閾値電流密度の変化度合が大きく、井戸層33の膜厚よりも厚い範囲では閾値電流密度の変化度合が緩やかであるという傾向がみられた。得られる半導体レーザ素子100の品質を安定させるためには閾値電流密度の変化度合が緩やかである範囲の膜厚を採用することが好ましいと考えられる。このため、この観点からも、中間層32の膜厚は井戸層33の膜厚の1.5倍以上であることが好ましい。また、
図7から、中間層32の膜厚は3nm以上であることが好ましいといえる。一方で、膜厚が厚いほどキャリア(例えばホール)のオーバーフローの確率が上昇すると考えられる。このため、中間層32の膜厚は井戸層33の膜厚の6倍未満であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましい。また、
図7から、中間層32の膜厚は13nm未満であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましいといえる。
【0023】
中間層32としては、第1障壁層31と井戸層33の間の格子定数を有する材料を用いることができる。このような材料としては、第1障壁層31よりもIn組成比が高く、且つ、井戸層33よりもIn組成比が低いIn
bGa
1-bN(a<b<1)が挙げられる。第1障壁層31がGaNである場合はそのIn組成比は0%である。中間層32がIn
bGa
1-bNである場合、そのIn組成比bが井戸層33に近いほど、井戸層33への歪の緩和の効果が大きくなるがキャリアのオーバーフローの確率は上昇すると考えられる。このため、中間層32のIn組成比bは、井戸層33のIn組成比cと第1障壁層31のIn組成比aとの合計値の半分以下とすることが好ましい。中間層32のIn組成比bは井戸層33のIn組成比cの半分以下としてもよい。中間層32のIn組成比bは、例えば5~15%とすることができる。
図2において中間層32は第1障壁層31と接している。
【0024】
中間層32は井戸層33とn側領域2の間に配置することが好ましい。これは、窒化物半導体においては電子よりもホールの方が移動し難いためである。中間層32を井戸層33のn側領域2の側に配置することで、効率的に、井戸層33にかかる歪を緩和することができ、また、キャリアの再結合確率を上昇させることができる。また、各半導体層として窒化物半導体を用いる場合、n側領域2、活性領域3、p側領域4の順に成長させる傾向があり、井戸層33の成長前に中間層32を成長させることが井戸層33の歪緩和に有利であると考えられる。
【0025】
中間層32はアンドープでもよいが、第1導電型の不純物(例えばn型不純物)を含有していてもよい。第1導電型の不純物を含有することにより、キャリア(例えばホール)のオーバーフローの確率を低減することができる。また、中間層32がアンドープでなく不純物を含有する場合は、膜厚を厚くするほど結晶性が悪化しやすい。したがって、中間層32が不純物を含有する場合は特に、その膜厚を上述のとおり13nm未満とすることが好ましい。n型不純物やp型不純物としては、n側領域2及びp側領域4で挙げたものと同様の材料を用いることができる。例えばn型不純物を含有させる場合、電子キャリア濃度は、1×1018cm3以上が好ましく、さらには1×1019cm3以上が好ましい。また、1×1020cm3以下が好ましく、さらには6×1019cm3以下が好ましい。このような範囲とすることでより効率的にホールのオーバーフローの確率を低減することが可能である。
【0026】
図5に示すように、中間層32は、組成傾斜層としてもよい。中間層32を第1障壁層31から井戸層33に向かって格子定数が増大する(In
bGa
1-bNの場合はIn組成比bが増大する)組成傾斜層とすることで、井戸層33の歪の緩和効果がより大きくなると考えられる。
図4では、中間層32の最も第1障壁層31に近い部分のIn組成比bは第1障壁層31のIn組成比a(0%)よりも大きいが、第1障壁層31と同じであってもよい。
【0027】
なお、本明細書において、組成傾斜層とは、複数の層が積層された多層構造であって、総体として組成傾斜している層を指す。例えばInXGa1-XN(0≦X<1)からなる組成傾斜層の場合は、これを構成する各層が、膜厚25nm以下、且つ、隣接する層とのIn組成比の差が0.5%以下であるものを指す。さらには、各層の膜厚は20nm以下であることが好ましい。各層の膜厚の下限値は例えば1原子層である。隣接する層とのIn組成比の差は0.1%以下であることが好ましい。その下限値は例えば0.007%程度である。このような範囲とすることにより組成傾斜層において生じる歪みを低減することができる。また、組成傾斜層のIn組成比や格子定数等を他の層のそれらと比較する場合は、組成傾斜層の平均値を用いる。例えばIn組成比が7%から10%まで徐々に変化する組成傾斜層の場合は、その平均値8.5%を組成傾斜層のIn組成比として他の層との大小関係を比較する。
【0028】
中間層32は、井戸層33に隣接することから、コア・クラッド構造のコア層としての役割を兼ねるとも考えられる。このことから、中間層32を設けることで光閉じ込め係数が向上することも期待できる。光閉じ込め係数が向上すれば、発光効率が向上し、閾値電流の低減が可能である。
【0029】
(井戸層33)
井戸層33は、IncGa1-cN(b<c<1)とすることができる。井戸層33のIn組成比cは、例えば17%以上とすることができる。半導体レーザ素子100の発振波長が長波になるほど、井戸層33のIn組成比cが大きくなり、活性領域3の外側の層との格子定数差が大きくなる。このため、ピエゾ電界の影響をより顕著に受けやすくなる。したがって、半導体レーザ素子100の発振波長が430nm以上である場合に特に、中間層32を設けることが好ましい。発振波長430nm以上の半導体レーザ素子とする場合の井戸層33のIn組成比cは、全体の層構造によって多少増減するが、例えば10%以上である。井戸層33のIn組成比cは、例えば50%以下とすることができる。このとき、半導体レーザ素子の発振波長は600nm以下程度であると考えられる。井戸層33の膜厚は、例えば2~4nmとすることができる。井戸層33は、結晶性向上や光吸収低減の観点から、アンドープであることが好ましい。
【0030】
(第2障壁層34)
第2障壁層34は、井戸層33よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。第2障壁層34は、例えばIndGa1-dN(0≦d<b)である。第2障壁層34の組成及び膜厚の範囲は、上述の第1障壁層31と同様のものを採用することができる。第2障壁層34にn型不純物を含有させると、光吸収やホールのトラップの虞があるため、また、p型不純物であるMgは光吸収を生じさせるため、第2障壁層34はアンドープとすることが好ましい。例えば第2障壁層34はアンドープのGaNからなる。
【0031】
(その他の層)
図2において、第1障壁層31は、活性領域3の最も外側、すなわちn側領域2に最も近い位置に配置されているが、第1障壁層31のn側領域2の側に別の層を配置してもよい。例えば
図6に示すように、第1障壁層31の膜厚を5nm以下とし、第1障壁層31のn側領域2の側に、第1障壁層31よりも格子定数が大きく且つ膜厚が厚いInGaN層35を配置してもよい。このようなInGaN層35を設けることにより、井戸層33への歪を緩和することができる。このInGaN層35の膜厚は30nm以下とすることができる。InGaN層35を設ける場合、その基板1側にさらにGaN層36を設けてもよい。GaN層36の膜厚は5nm以下とすることができる。後述するように、中間層32は井戸層33とn側領域2の間に配置することが好ましいため、第1障壁層31も井戸層33とn側領域2の間に配置することが好ましい。第1障壁層31が量子井戸構造の障壁層として機能するためには井戸層33の近傍に配置されていることが好ましく、例えば第1障壁層31は井戸層33からの距離が20nm以下となる位置に配置されることが好ましい。
【0032】
図2では井戸層33と中間層32とが接しているが、井戸層33と中間層32との間に薄膜層(第1薄膜層)を設けてもよい。中間層32の効果を得るためには中間層32を井戸層33の近くに配置することが好ましいため、第1薄膜層は中間層32の効果を阻害しない程度の膜厚で設ける。例えば、第1薄膜層の膜厚を井戸層33の膜厚以下とすることができ、また、2nm以下とすることができる。換言すれば、井戸層33と中間層32との間の距離は井戸層33の膜厚以下とすることができ、また、2nm以下とすることができる。第1薄膜層は、中間層32から井戸層33に向かって格子定数が増大する組成を有する組成傾斜層としてもよい。これにより、井戸層33にかかる歪を緩和することができる。第1薄膜層は、組成傾斜層でなくてもよい。この場合、中間層32と井戸層33の間の格子定数及びバンドギャップエネルギーを有する層として設けることができる。
【0033】
図2では第2障壁層34は井戸層33と接しているが、第2障壁層34と井戸層33との間に薄膜層(第2薄膜層)を設けてもよい。第2薄膜層は、第2障壁層34と井戸層33との間の格子定数及びバンドギャップエネルギーを有する層とすることができる。第2薄膜層は、中間層32のような機能を有しない程度の厚みとすることが好ましい。第2薄膜層の膜厚は、井戸層33の膜厚未満とすることができる。第2薄膜層の膜厚は例えば2nm以下とすることができる。
【0034】
(p側領域4)
p側領域4は、窒化物半導体層からなる単層又は多層構造で形成することができる。p側領域4に含まれるp型窒化物半導体層としては、Mg等のp型不純物が含有された窒化物半導体からなる層を挙げることができる。p側領域4は、例えば、活性領域3側から順に、p側組成傾斜層41、第1p型半導体層42、第2p型半導体層43(p型窒化物半導体層)、第3p型半導体層44を有する。p側領域4にはこれら以外の層が配置されてもよく、また、一部の層を省略してもよい。半導体レーザ素子100にはリッジ4aが設けられており、活性領域3のうちリッジ4aの直下の部分及びその近傍が導波路領域である。リッジ4aは形成しなくてもよい。
【0035】
p側組成傾斜層41は、例えば活性領域3側をInGaNとし第1p型半導体層42側をGaNとして徐々に組成が変化した層である。第2障壁層34と同様の理由から、p側組成傾斜層41はアンドープであることが好ましい。p側組成傾斜層41の膜厚は、50nm~500nmとすることができる。p側組成傾斜層41は、p側組成傾斜層41の活性領域3側の界面及び第1p型半導体層42側の界面を除くすべての領域に亘って、およそ0.004eV/nm以上のバンドオフセットが存在しないことが好ましい。急峻なバンドオフセットが存在するとホールがトラップされることがあるが、このような範囲内であればホールがトラップされる確率を低減することができる。p側組成傾斜層41が(In)GaNである場合は、InGaNのIn組成比になおすと0.1%/nm以上の急峻な組成比変動が存在しないことが好ましい。活性領域3中の障壁層の膜厚が薄い場合はp側組成傾斜層41も障壁層の機能を有する場合がある。
【0036】
第1~第3p型半導体層42~44は、p型不純物を含有する。第1p型半導体層42は、例えばAlGaNからなる。第1p型半導体層42は、例えば電子ブロック層として機能する。第1p型半導体層42は、p側領域4中で最も高いバンドギャップエネルギーを有し、且つp側組成傾斜層41よりも膜厚が小さい層として設けてよい。第2p型半導体層43(本実施形態ではこの層をp型窒化物半導体層とする)は、例えばAlGaNからなる。第2p型半導体層43は、p側領域4中で電子ブロック層に次いで高いバンドギャップエネルギーを有してよい。第1p型半導体層42と第2p型半導体層43の間にアンドープ又は第2p型半導体層43の半導体層を配置してもよい。アンドープ層と第2p型半導体層43との膜厚の大小関係は、第2p型半導体層43の方が厚くてもよいが、p側領域4における光吸収を低減するためにアンドープ層と第2p型半導体層43を同程度の膜厚としてもよい。アンドープ層と第2p型半導体層43は例えば同じ組成の層である。第3p型半導体層44は、例えばGaNからなり、p型コンタクト層として機能する。
p側光ガイド層(第2光ガイド層)として機能する層としては、例えばp側組成傾斜層41及び/又はp型半導体層43が挙げられる。第2p型半導体層43はp側クラッド層(第2クラッド層)として機能する層であってもよいが、後述するp電極6としてITO等のクラッド層の機能を備える材料を用いる場合は、p電極6をクラッド層とし、p側領域4内にクラッド層を設けなくてもよい。
【0037】
(その他の部材)
半導体レーザ素子100は、p側領域4の表面の一部に設けられた絶縁膜5を有することができる。絶縁膜5は、例えば、Si、Al、Zr、Ti、Nb、Ta等の酸化物又は窒化物等の単層膜又は積層膜によって形成することができる。絶縁膜5の膜厚は、10~500nm程度とすることができる。p電極6は、例えばリッジ4aの上面に設けられる。p側パッド電極7は、p電極6に接触して設けられる。p側パッド電極7はp電極6よりも大面積であり、p側パッド電極7にワイヤ等が接続される。n電極8は、例えばn型の基板1の下面のほぼ全域に設けられる。各電極の材料としては、例えば、Ni、Rh、Cr、Au、W、Pt、Ti、Al等の金属又は合金、Zn、In、Snから選択される少なくとも1種を含む導電性酸化物等の単層膜又は多層膜が挙げられる。導電性酸化物としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、GZO(Gallium-doped Zinc Oxide)等が挙げられる。各電極の厚みは、例えば、0.1~2μm程度が挙げられる。なお、本明細書において、活性領域3からみてp側領域4が位置する側を上方とし、n側領域2が位置する側を下方とする。そして、上面及び下面とは、このような上下方向における面を指す。
【0038】
図3に、半導体レーザ素子100の模式的な上面図を示す。
図3に示すように、p電極6を光出射端面及び光反射端面から離間した位置に設けることが好ましい。これにより、各端面及びその近傍における電流集中を緩和することができる。加えて、上面視において、光出射端面及び光反射端面のそれぞれからの距離が、p側パッド電極7の方がp電極6よりも小さくなるように各電極を設けることが好ましい。これにより、p側パッド電極7によって光出射端面及び光反射端面及びその近傍に生じる熱を放散することができる。これらの構成により、半導体レーザ素子100が頓死する確率を低減することができる。光出射端面の方が光反射端面よりも発熱しやすいため、p電極6は光出射端面からの距離の方を光反射端面からの距離よりも大きくすることが好ましい。
【0039】
また、
図1及び
図3に示すように、絶縁膜5は、p電極6の一部を被覆してもよい。絶縁膜5は開口5aを有し、その開口5aを介してp電極6はp側パッド電極7と接続されている。このような構成により、p側パッド電極7から注入される電流が絶縁膜5で遮られる。このため、絶縁膜5による被覆領域を調整することにより、電流注入領域を調整することができる。
図3に示すように、光出射端面の側の被覆領域を光反射端面の側の被覆領域よりも大きくすることで、光出射端面の側の電流注入量を低減することができ、光反射端面の側の発熱を低減することができる。且つ、p電極6の端は光注入領域の端よりも光反射端面に近い位置にあるため、p電極6による放熱は期待できる。光出射端面及び光反射端面には、誘電体多層膜等の反射膜を形成してもよい。p電極6の幅はリッジ4aの上面の幅と同じであってもよい。
【0040】
[実施例1]
実施例1として、以下に示す半導体レーザ素子を作製した。
【0041】
+c面を主面とするGaN基板(基板1)上に、n側領域2を成長させた。n側領域2は、GaN基板側から順に以下の層を有する。
膜厚1.5μmのSiドープしたAl0.02Ga0.98N層(第1n型半導体層21)、
膜厚150nmのSiドープしたIn0.05Ga0.95N層(第2n型半導体層22)、
膜厚1μmのSiドープしたAl0.07Ga0.93N層(第3n型半導体層23)、
膜厚300nmのSiドープしたGaN層(第4n型半導体層24)、
膜厚250nmのSiドープの組成傾斜層(n側組成傾斜層25)。
n側組成傾斜層25は、成長の始端をGaNとし、成長の終端をIn0.05Ga0.95Nとして、組成傾斜がほぼ直線状となるようにIn組成を実質的に単調増加させて成長させた。
次に、活性領域3を成長させた。活性領域3は、n側領域2の側から順に以下の層を有する。
膜厚1nmのSiドープしたGaN層、
膜厚8nmのSiドープしたInGaN層、
膜厚1nmのSiドープしたGaN層(第1障壁層31)、
膜厚3nmのアンドープのInGaN組成傾斜層(中間層32)、
膜厚2.25nmのアンドープのIn0.2Ga0.8N層(井戸層33)、
膜厚1nmのアンドープのGaN層(第2障壁層34)。
中間層32は、成長の始端をIn0.07Ga0.93Nとし、成長の終端をIn0.1Ga0.9Nとして、組成傾斜がほぼ直線状となるようにIn組成を実質的に単調増加させて成長させた。
次に、p側領域4を成長させた。p側領域4は、活性領域3の側から順に以下の層を有する。
膜厚250nmのアンドープの組成傾斜層(p側組成傾斜層41)、
膜厚10nmのMgをドープした高Al組成比のAlGaN層(第1p型半導体層42)、
膜厚300nmのMgを一部にドープした低Al組成比のAlGaN層(第2p型半導体層43)、
膜厚15nmの最後に、MgをドープしたGaN層(第3p型半導体層44)。
p側組成傾斜層41は、成長の始端をIn0.05Ga0.95Nとし、成長の終端をGaNとして、組成傾斜がほぼ直線状となるようにIn組成を実質的に単調減少させて成長させた。
【0042】
そして、以上の層が形成されたエピタキシャルウエハーをMOCVD炉内より取り出し、リッジ、n電極、p電極等を形成し、個片化して半導体レーザ素子を得た。半導体レーザ素子は、リッジ幅を45μm、共振器長を1200μmとした。
【0043】
[実施例2~4]
実施例2~4として、中間層32の膜厚が異なる以外は実施例1と同様にして半導体レーザ素子を作製した。実施例2では中間層32の膜厚を4nmとし、実施例3では中間層32の膜厚を6.5nmとし、実施例4では中間層32の膜厚を13nmとした。実施例2~4の中間層32は実施例1の中間層32と同様に組成傾斜層であり、その成長始端の組成と成長終端の組成は実施例1と同じとした。
【0044】
[比較例1]
比較例1として、中間層32を設けない以外は実施例1と同様にして半導体レーザ素子を作製した。
【0045】
[比較例2]
比較例2として、中間層32の膜厚が異なる以外は実施例1と同様にして半導体レーザ素子を作製した。比較例2では中間層32の膜厚を1nmとした。
【0046】
(閾値電流密度、相対光出力)
実施例1~4及び比較例1、2の半導体レーザ素子は、いずれも、同じ条件で複数個作成した。そして、それぞれ閾値電流密度と相対光出力とを測定し、各実施例及び各比較例における中央値を各実施例及び各比較例の閾値電流密度及び相対光出力の値とした。なお、各実施例及び各比較例のいずれも、半導体レーザ素子の発振波長の中央値は455nm程度であった。また、ここでの相対光出力とは、環境温度80℃で測定した光出力を環境温度25℃で測定した光出力で割った数値を指す。相対光出力の数値が大きいほど光出力温度特性が良好であるといえる。
【0047】
図7に、実施例1~4及び比較例1、2の半導体レーザ素子の閾値電流密度を示す。閾値電流密度が小さいほど閾値電流が低いといえる。
図7に示す結果から、中間層を設けることにより閾値電流密度が低減されることがわかった。
図7に示すように、閾値電流密度は、中間層の膜厚が井戸層の膜厚と同程度になるまでは急激に減少し、それ以上の膜厚では緩やかに減少している。この結果から、中間層の膜厚を井戸層の膜厚よりも厚くすることで低い閾値電流の半導体レーザ素子を安定して得ることができるといえる。一方で、中間層の膜厚が13nmまで厚くなると閾値電流密度はやや高い値となった。これは、中間層が厚くなることによりホールがオーバーフローする確率が上昇したためと考えられる。
【0048】
また、相対光出力については、比較例1(0nm)が70%であり、比較例2(1nm)が72%であり、実施例1(3nm)が74%であり、実施例2(4nm)が74%であり、実施例3(6.5nm)が72%であり、実施例4(13nm)が69%であった。なお、これらの数値は小数点以下を四捨五入した数値である。このように、相対光出力は、中間層を設けることで概ね上昇したが、膜厚が13nmの場合は中間層を設けない場合よりも低い値となった。これは、閾値電流密度が低いほどレーザ発振で固定されるホールの量が少なくなることは相対光出力が上昇する方向に働くが、中間層の膜厚が厚くなるほどホールがn側領域の側に染み出しやすくなることは相対光出力が低下する方向に働くためであると考えられる。これらの結果から、中間層の膜厚は厚すぎないことが好ましいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る半導体レーザ素子は、光ディスク用光源の他、プロジェクタやテレビ用光源といったディスプレイ用光源や、医療用光源、照明用光源等に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
100 半導体レーザ素子
1 基板
2 n側領域
21 第1n型半導体層
22 第2n型半導体層
23 第3n型半導体層(n型窒化物半導体層)
24 第4n型半導体層
25 n側組成傾斜層
3 活性領域
31 第1障壁層
32 中間層
33 井戸層
34 第2障壁層
35 InGaN層
36 GaN層
37 中間障壁層
4 p側領域
41 p側組成傾斜層
42 第1p型半導体層
43 第2p型半導体層(p型窒化物半導体層)
44 第3p型半導体層
4a リッジ
5 絶縁膜
5a 開口
6 p電極
7 p側パッド電極
8 n電極