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特許7545150二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、二酸化炭素還元電極、及び、二酸化炭素電解セル
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  • 特許-二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、二酸化炭素還元電極、及び、二酸化炭素電解セル 図1
  • 特許-二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、二酸化炭素還元電極、及び、二酸化炭素電解セル 図2
  • 特許-二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、二酸化炭素還元電極、及び、二酸化炭素電解セル 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、二酸化炭素還元電極、及び、二酸化炭素電解セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/031 20210101AFI20240828BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240828BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20240828BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240828BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240828BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240828BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240828BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240828BHJP
【FI】
C25B11/031
C25B11/052
C25B11/065
C25B1/23
C25B3/26
C25B3/03
C25B9/00 A
C25B9/00 G
C25B9/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024036257
(22)【出願日】2024-03-08
【審査請求日】2024-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「CO2等を用いた燃料製造技術開発/合成メタン製造に係る革新的技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内 尚泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洸基
(72)【発明者】
【氏名】中村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充里
(72)【発明者】
【氏名】片山 祐
(72)【発明者】
【氏名】崔 亮秀
(72)【発明者】
【氏名】糸稲 凌汰
(72)【発明者】
【氏名】森永 明日香
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-519420(JP,A)
【文献】特表2023-549666(JP,A)
【文献】特表2018-513383(JP,A)
【文献】特開2023-138098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維層と、
前記導電性繊維層上に設けられ、かつ、導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるマイクロポーラス層と、
の2層を有する二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層。
【請求項2】
前記導電性繊維層の材料は、炭素繊維である請求項1に記載の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層。
【請求項3】
前記導電性粒子は、炭素粒子である請求項1に記載の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層と、
前記二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層の前記マイクロポーラス層側の面上に設けられたカソード触媒層と、
を有する二酸化炭素還元電極。
【請求項5】
請求項4に記載の二酸化炭素還元電極と、電解質と、アノード電極と、を備える二酸化炭素電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、二酸化炭素還元電極、及び、二酸化炭素電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
メタン(CH)は、二酸化炭素(CO)及び水(HO)に電気を加え、触媒上で二酸化炭素の還元反応を進行させることにより合成することができる。二酸化炭素を還元してメタンを合成する技術については、種々の報告がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多孔性の導電性材料からなる導電性支持体と、導電性支持体上に設けられた窒素含有金属錯体が担持された導電性材料を含有する電極層と、を含む二酸化炭素還元電極を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-63037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素還元電極に用いられる一般的なカソードガス拡散層は、炭素繊維を編み込んだ形状を有している。二酸化炭素還元反応では、COガスと触媒と電解質とが接触する必要があるところ、例えば、編み込んだ形状の炭素繊維を焼結したカソードガス拡散層では、COガスと触媒と電解質との接触点が少ない。このため、メタンの生成効率が良好とは言い難い。このため、二酸化炭素還元電極のメタン選択性を向上できるカソードガス拡散層の開発が望まれている。
【0006】
本開示は、上記のような事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、二酸化炭素還元電極のメタン選択性を向上できる二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層を提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層を備える二酸化炭素還元電極及び二酸化炭素電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 導電性繊維層と、
上記導電性繊維層上に設けられ、かつ、導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるマイクロポーラス層と、
を有する二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層。
<2> 上記導電性繊維層の材料は、炭素繊維である<1>に記載の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層。
<3> 上記導電性粒子は、炭素粒子である<1>又は<2>に記載の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層。
<4> <1>~<3>のいずれか1つに記載の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層と、
上記二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層の上記マイクロポーラス層側の面上に設けられたカソード触媒層と、
を有する二酸化炭素還元電極。
<5> <4>に記載の二酸化炭素還元電極と、電解質と、アノード電極と、を備える二酸化炭素電解セル。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、二酸化炭素還元電極のメタン選択性を向上できる二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層を備える二酸化炭素還元電極及び二酸化炭素電解セルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の二酸化炭素還元電極が有するカソードガス拡散層の断面SEM画像(撮影倍率:300倍)の一部である。
図2図2は、実施例における選択性の評価試験に用いた、二酸化炭素還元電極を組み込んだガス拡散型ハーフセルの概略図である。
図3図3は、実施例における選択性の評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0011】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0013】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
[二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層]
本開示の二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層(以下、単に「カソードガス拡散層」ともいう。)は、導電性繊維層と、上記導電性繊維層上に設けられ、かつ、導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるマイクロポーラス層と、を有する。
本開示のカソードガス拡散層は、二酸化炭素還元電極のメタン選択性を向上できる。
本開示のカソードガス拡散層がこのような効果を奏し得る理由については明らかでないが、本発明者らは以下のように推測している。但し、以下の推測は、本開示のカソードガス拡散層を限定的に解釈するものではなく、一例として説明するものである。
【0016】
本開示のカソードガス拡散層は、導電性繊維層上に、導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるマイクロポーラス層を有するため、従来の導電性繊維層のみを有するカソードガス拡散層と比較して、二酸化炭素還元反応に必要なCOガスと触媒と電解質との接触点を増加させることができる。この接触点の増加により、二酸化炭素還元電極のメタン選択性が向上したと推測される。
一方、特許文献1に記載の二酸化炭素還元電極は、カソードガス拡散層として、グラファイト繊維の焼結体からなるカーボンペーパー(CP)を用いており、マイクロポーラス層を有していないため、メタン選択性は低いと考えられる。
【0017】
また、本開示のカソードガス拡散層は、二酸化炭素還元電極のメタン以外のC系生成物選択性、例えば、一酸化炭素(CO)選択性及びエチレン(C)選択性も向上できる。
【0018】
<導電性繊維層>
本開示のカソードガス拡散層は、導電性繊維層を有する。
導電性繊維層は、導電性繊維により形成されてなる層であり、層内を流体(例:気体及び液体;以下、同じ)の流通が可能な層である。
【0019】
導電性繊維層の材料は、特に限定されない。
導電性繊維層の材料の具体例としては、炭素繊維及びチタン繊維が挙げられる。
炭素繊維及びチタン繊維は、いずれも焼結体であってもよい。
導電性繊維層の材料としては、炭素繊維が好ましい。
炭素繊維としては、グラファイト繊維が好ましい。
【0020】
導電性繊維層の密度は、特に限定されないが、例えば、0.10g/cm~1.00g/cmであることが好ましく、0.30g/cm~0.50g/cmであることがより好ましい。
【0021】
本開示における「導電性繊維層の密度」は、単位面積当たりの質量及び厚さから求められる値である。
【0022】
導電性繊維層の空隙率は、特に限定されないが、例えば、70%~90%であることが好ましく、80%~85%であることがより好ましい。
【0023】
導電性繊維層の厚さは、特に限定されないが、例えば、250μm以下であることが好ましく、100μm~250μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることが更に好ましい。
【0024】
本開示における「導電性繊維層の厚さ」は、導電性繊維層の平均厚さを意味する。
導電性繊維層の平均厚さは、以下の方法により求められる値である。
導電性繊維層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。導電性繊維層の厚み方向において任意に選択した6箇所の厚さを測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値を導電性繊維層の平均厚さとする。
【0025】
<マイクロポーラス層>
本開示のカソードガス拡散層は、導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるマイクロポーラス層(MPL)を有する。
MPLは、導電性繊維層上に設けられており、導電性繊維層の一方の面上に設けられていることが好ましい。
【0026】
導電性粒子は、導電性を有する材料を含む粒子であれば、特に限定されない。
導電性粒子としては、例えば、炭素粒子、及び導電性を有する金属粒子が挙げられる。
導電性を有する金属粒子としては、例えば、チタン粒子、銅粒子、銀粒子、及び白金粒子が挙げられる。
導電性粒子としては、炭素粒子が好ましい。
炭素粒子としては、グラファイト粒子が好ましい。
【0027】
導電性粒子の形状は、特に限定されない。
導電性粒子の形状は、例えば、球状(例:真球状及び楕円球状)であってもよく、板状であってもよく、不定形状であってもよい。
【0028】
導電性粒子の大きさは、特に限定されない。
導電性粒子の粒子径は、例えば、流体を良好に流通させることが可能な大きさの孔を形成する観点から、50nm以上であることが好ましく、50nm~200nmであることがより好ましい。
【0029】
本開示における「導電性粒子の粒子径」は、導電性粒子の平均一次粒子径を意味する。
導電性粒子の平均一次粒子径は、以下の方法により求められる値である。
MPLの表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。任意に選択した1μm角の3視野のSEM像から、それぞれ10個の導電性粒子を任意に選択し、それらの一次粒子の円相当径を測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値を導電性粒子の平均一次粒子径とする。
【0030】
多孔質体であるMPLが有する孔の形状は、特に限定されない。
孔の形状は、例えば、円形(例:真円形及び楕円形)であってもよく、矩形であってもよく、不定形であってもよい。
【0031】
多孔質体であるMPLが有する孔の大きさ(以下、「MPLの孔径」ともいう。)は、流体の流通が可能であれば、特に限定されない。
MPLの孔径は、例えば、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。また、MPLの孔径は、例えば、3.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。
ある態様では、MPLの孔径は、0.01μm~3.0μmであってもよく、0.1μm~1.0μmであってもよい。
【0032】
本開示における「MPLの孔径」は、MPLの平均孔径を意味する。
MPLの平均孔径は、以下の方法により求められる値である。
MPLの厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。任意に選択した2μm角及び50μm角の3視野のSEM像から、それぞれ10個の孔を任意に選択し、それらの孔の円相当径を測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値をMPLの平均孔径とする。
【0033】
MPLの孔径は、例えば、導電性粒子の大きさにより制御できる。
【0034】
MPLの厚さは、特に限定されないが、例えば、150μm以下であることが好ましく、50μm~150μmであることがより好ましく、50μm~100μmであることが更に好ましい。
【0035】
本開示における「MPLの厚さ」は、MPLの平均厚さを意味する。
MPLの平均厚さは、以下の方法により求められる値である。
MPLの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。MPLの厚み方向において任意に選択した6箇所の厚さを測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値をMPLの平均厚さとする。
【0036】
[二酸化炭素還元電極]
本開示の二酸化炭素還元電極は、本開示のカソードガス拡散層と、本開示のカソードガス拡散層のMPL側の面上に設けられたカソード触媒層と、を有する。すなわち、本開示の二酸化炭素還元電極は、導電性繊維層/MPL/カソード触媒層の層構成を有する。
このような層構成を有することで、本開示の二酸化炭素還元電極は、高いメタン選択性を示す。また、本開示の二酸化炭素還元電極は、メタン以外のC系生成物である一酸化炭素(CO)及びエチレン(C)についても高い選択性を示す傾向にある。
以下、二酸化炭素還元電極について、詳細に説明する。なお、本開示のカソードガス拡散層の詳細は、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0037】
<カソード触媒層>
本開示の二酸化炭素還元電極は、カソード触媒層を有する。
カソード触媒層は、カソードガス拡散層のMPL側の面上に設けられている。
カソード触媒層がカソードガス拡散層のMPL側の面上に設けられていると、COガスがカソード触媒層中のカソード触媒に接触しやすくなり、二酸化炭素の還元反応が効率的に進行し、メタンを選択的に、かつ、効率的に生成できる傾向にある。
【0038】
カソード触媒層は、カソード触媒を含む層である。
カソード触媒は、二酸化炭素の還元反応を促進させるものである。
カソード触媒の種類は、二酸化炭素の還元反応を促進できれば、特に限定されない。
カソード触媒としては、例えば、Cu、Ag、Zn、Sn、Al等の金属又は合金が挙げられる。カソード触媒は、これらの金属又は合金の粒子であることが好ましい。
カソード触媒層は、例えば、メタンの生成効率の観点から、Cu粒子を含む層であることが好ましい。本開示では、Cu粒子を含む層を「Cu粒子層」ともいう。
Cu粒子層は、Cu粒子からなる層であることが好ましい。
【0039】
カソード触媒がCu粒子である場合、Cu粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、10nm以下であることが好ましく、5nm~10nmであることがより好ましい。Cu粒子の粒子径が小さいほど、メタンの生成効率が向上する傾向にある。
【0040】
本開示における「Cu粒子の粒子径」は、Cu粒子の平均一次粒子径を意味する。
Cu粒子の平均一次粒子径は、以下の方法により求められる値である。
カソード触媒層の表面を、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察し、200nm角の5つの視野に存在するCu粒子の一次粒子径を全て測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値をCu粒子の平均一次粒子径とする。
【0041】
カソード触媒層の厚さは、特に限定されないが、例えば、200nm~350nmであることが好ましい。
【0042】
本開示における「カソード触媒層の厚さ」は、カソード触媒層の平均厚さを意味する。
カソード触媒層の平均厚さは、以下の方法により求められる値である。
カソード触媒層の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。カソード触媒層の厚み方向において任意に選択した6箇所の厚さを測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値をカソード触媒層の平均厚さとする。
【0043】
[二酸化炭素還元電極の製造方法]
本開示の二酸化炭素還元電極の製造方法は、特に限定されない。
本開示の二酸化炭素還元電極は、公知の方法により製造できる。
本開示の二酸化炭素還元電極の好適な製造方法(以下、「製造方法X」ともいう。)について、カソード触媒層がカソード触媒としてCu粒子を含む層である場合を例に挙げて説明する。なお、製造方法Xの説明では、本開示のカソードガス拡散層及び本開示の二酸化炭素還元電極の項において説明した事項と共通する事項の説明は省略する。
【0044】
製造方法Xは、本開示のカソードガス拡散層を準備する工程(以下、「カソードガス拡散層準備工程」ともいう。)と、準備した本開示のカソードガス拡散層のMPL側の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることによりカソード触媒層を形成する工程(以下、「カソード触媒層形成工程」ともいう。)と、を含む。
製造方法Xは、カソードガス拡散層準備工程及びカソード触媒層形成工程以外の工程(所謂、他の工程)を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、電極を蒸留水で洗浄する工程が挙げられる。
【0045】
-カソードガス拡散層準備工程-
製造方法Xは、本開示のカソードガス拡散層を準備する工程(即ち、カソードガス拡散層準備工程)を含む。
「本開示のカソードガス拡散層を準備する」とは、本開示のカソードガス拡散層を使用可能な状態にすることを意味し、特に断りのない限り、本開示のカソードガス拡散層を作製することを含む。すなわち、カソードガス拡散層準備工程は、予め作製された本開示のカソードガス拡散層を準備する工程であってもよく、本開示のカソードガス拡散層を作製する工程であってもよい。
【0046】
本開示のカソードガス拡散層を作製する方法は、特に限定されない。
本開示のカソードガス拡散層は、公知の方法により作製できる。
導電性繊維層には、市販のカーボンペーパーを使用してもよい。
【0047】
-カソード触媒層形成工程-
製造方法Xは、カソードガス拡散層準備工程において準備した本開示のカソードガス拡散層のMPL側の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることによりカソード触媒層を形成する工程(カソード触媒層形成工程)を含む。
カソード触媒層形成工程によれば、Cu粒子層であるカソード触媒層が形成される。
アークプラズマ法によってCu粒子層を形成することで、メタンをより効率的に生成可能な二酸化炭素還元電極を製造できる傾向にある。
アークプラズマ法は、2つの電極間に高温のアーク放電を発生させることにより金属を気化させて、金属ナノ粒子を生成させる気相法の一つである。アークプラズマ法では、2つの電極間に発生させたプラズマによって金属が蒸発して気化し、発生した金属の蒸気が雰囲気ガスと反応しながら冷却されることで、ナノサイズの粒子まで成長する。このため、アークプラズマ法によれば、本開示のカソードガス拡散層のMPL側の面に、ナノサイズのCu粒子が付着したCu粒子層を形成できる。Cu粒子層を形成するCu粒子は、粒子径が小さいほど二酸化炭素との接触面積が大きくなり、触媒としての機能を効果的に発揮するため、メタンがより効率的に生成されると考えられる。
【0048】
アークプラズマ条件は、特に限定されない。
印加電圧としては、例えば、80V~150Vが好ましく、110V~120Vがより好ましい。
放電回数としては、例えば、50回~1000回が好ましい。
コンデンサ容量としては、例えば、300μF~1500μFが好ましい。
パルス周波数としては、例えば、0.2Hz~10Hzが好ましい。
アークプラズマ条件の好ましい一例としては、印加電圧が120Vであり、放電回数が500回であり、コンデンサ容量が1080μFであり、パルス周波数が1Hzである条件が挙げられる。
アークプラズマ装置としては、アドバンス理工(株)製のアークプラズマ法ナノ粒子形成装置(型式:APD-1S-C)を好適に使用できる。但し、本開示におけるアークプラズマ装置は、これに限定されない。
【0049】
[二酸化炭素電解セル]
本開示の二酸化炭素電解セルは、本開示の二酸化炭素還元電極(所謂、カソード電極)と、電解質と、アノード電極と、を備える。
本開示の二酸化炭素還元電極は、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0050】
<電解質>
本開示の二酸化炭素電解セルは、電解質を有する。
電解質は、二酸化炭素電解セルに使用される公知のイオン交換膜型の電解質から選択することができる。イオン交換膜型の電解質は、カチオンを選択的に透過する性質を有していてもよく、アニオンを選択的に透過する性質を有していてもよい。
電解質としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。
電解質は、例えば、フッ素系高分子電解質膜であってもよく、炭化水素系高分子電解質膜であってもよい。
【0051】
電解質としては、市販品を使用できる。
電解質の市販品の例としては、“ナフィオン”(登録商標)〔ケマーズ(株)製〕、“フレミオン”(登録商標)〔AGC(株)製〕、“ネオセプタ”(登録商標)〔(株)アトムス製〕、“セレミオン”(登録商標)〔AGC(株)製〕、及び、“Sustainion”(登録商標)〔Dioxide Materials社製〕が挙げられる。
【0052】
<アノード電極>
本開示の二酸化炭素電解セルは、アノード電極を有する。
アノード電極は、水を酸化して酸素及び水素イオンを生成させることが可能な材料であれば、特に限定されず、例えば、二酸化炭素電解セルに使用される公知のアノード電極から選択することができる。
【0053】
アノード電極の材料としては、例えば、イリジウム、白金、パラジウム、ニッケル等の金属、これらの金属を含む合金、これらの金属を含む金属間化合物、酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ルテニウム等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、及び、Ru錯体、Fe錯体等の金属錯体が挙げられる。
アノード電極は、例えば、これらの材料を基材上に積層した複合電極であってもよい。
アノード電極には、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0055】
[二酸化炭素還元電極の作製]
<実施例1>
カーボンペーパー(CP)〔商品名:SIGRACET(登録商標) 28BC、SGL CARBON社製〕を2cm角に切り出し、カソードガス拡散層として用いた。
この切り出したCPの厚さ方向の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)〔商品名:GeminiSEM 460、Carl Zeiss製〕を用いて観察したところ、CPは、導電性繊維である炭素繊維の焼結体からなる層(即ち、導電性繊維層)上に、導電性粒子であるグラファイト粒子により形成された多孔質体であるマイクロポーラス層(MPL)が設けられた構成を有していることが確認された。
CPの厚さ方向の断面のSEM画像(撮影倍率:300倍)を図1に示す。
【0056】
導電性繊維層の厚さを既述の方法により測定したところ、116μmであった。
MPLの厚さを既述の方法により測定したところ、72μmであった。
MPLの孔径を既述の方法により測定したところ、0.5μmであった。
【0057】
次いで、アークプラズマ装置〔商品名:アークプラズマ法ナノ粒子形成装置、型式:APD-1S-C、アドバンス理工(株)製〕を用いて、切り出したCPのMPL側の面上に、Cu粒子をアークプラズマ法により蒸着させた。具体的には、切り出したCPを、MPL側の面が露出するように、イミドテープを用いてアークプラズマ装置内に配置した後、真空中でCuを蒸発させて気化することによりCu粒子を生成させ、生成したCu粒子をCPのMPL側の面上に付着させた。アークプラズマ条件は、電圧を120V、コンデンサ容量を1080μF、放電回数を500回に設定した。
以上のようにして、カソードガス拡散層(導電性繊維層/MPL)/カソード触媒層(Cu粒子層)の層構成を有する、実施例1の二酸化炭素還元電極を作製した。
【0058】
<比較例1>
カーボンペーパー(CP)〔商品名:Toray Paper TGP-H-060、厚さ:190μm、東レ(株)製〕を2cm角に切り出し、カソードガス拡散層として用いた。この切り出したCPは、導電性繊維である炭素繊維の焼結体からなり、所謂、導電性繊維層に相当する。
【0059】
次いで、アークプラズマ装置〔商品名:アークプラズマ法ナノ粒子形成装置、型式:APD-1S-C、アドバンス理工(株)製〕を用いて、切り出したCPの片面上に、Cu粒子をアークプラズマ法により蒸着させた。具体的には、切り出したCPを、イミドテープを用いてアークプラズマ装置内に配置した後、真空中でCuを蒸発させて気化することによりCu粒子を生成させ、生成したCu粒子をCPの片面上に付着させた。アークプラズマ条件は、電圧を120V、コンデンサ容量を1080μF、放電回数を500回に設定した。以上のようにして、カソードガス拡散層(導電性繊維層)/カソード触媒層(Cu粒子層)の層構成を有する、比較例1の二酸化炭素還元電極を作製した。
【0060】
[電極体の作製]
二酸化炭素還元電極と電解質とを用いて電極体を作製した。
まず、電解質に対し、以下の前処理を行った。
電解質〔商品名:Sustainion(登録商標) X37-50 Grade 60 Membrane、アニオン交換膜、厚さ:50μm、Dioxide Materials社製〕を、電解液〔1MのKOH水溶液、富士フイルム和光純薬(株)製〕に24時間浸漬させた。電解質を電解液から取り出し、電解質の表面を、純水を用いて洗浄した。
【0061】
(1)製造例1(二酸化炭素還元電極:実施例1)
前処理後の電解質と実施例1の二酸化炭素還元電極とを、電解質と、実施例1の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のCu粒子層側の面とが接するように重ね合わせた後、プレス機〔商品名:小型熱プレス機、型式:H300-05、アズワン(株)製;以下、同じ。〕を用いて、室温(25℃)の環境下にてプレス成形することにより、二酸化炭素還元電極〔カソードガス拡散層(導電性繊維層/MPL)/カソード触媒層(Cu粒子層)〕/電解質の層構成を有する、製造例1の電極体を作製した。
【0062】
プレス条件は、プレス圧力を5MPa、プレス時間を5分間とした。また、電解質を保湿状態に保つため、純水で湿らせたキムワイプ(登録商標)を、電解質の二酸化炭素還元電極とは重ね合わせていない側の面に接触させた状態でプレス成形を行った。以下の製造例2についても、同様のプレス条件で同様のプレス成形を行った。
【0063】
(2)製造例2(二酸化炭素還元電極:比較例1)
前処理後の電解質と比較例1の二酸化炭素還元電極とを、電解質と、比較例1の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のCu粒子層側の面とが接するように重ね合わせた後、プレス機を用いて、室温(25℃)の環境下にてプレス成形することにより、二酸化炭素還元電極〔カソードガス拡散層(導電性繊維層)/カソード触媒層(Cu粒子層)〕/電解質の層構成を有する、製造例2の電極体を作製した。
【0064】
[評価:選択性]
実施例1の二酸化炭素還元電極を備える製造例1の電極体、及び比較例1の二酸化炭素還元電極を備える製造例2の電極体の電極体を用いて、カソードガス拡散層の選択性の評価を行った。カソードガス拡散層の選択性の評価は、ファラデー効率を指標とした。ファラデー効率は、反応した電流のうち、その生成物の反応に使用された電流の割合を示すものである。
まず、電極体をガス拡散型ハーフセル(図2参照)に組み込んだ。ハーフセルは、図2に示すように、電極体の一方の面側(電解質の面側)に電解液を貯留し、電極体の他方の面側(二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層の面側)にCOガスを供給できる構造を有している。なお、作用極(WE)にはCu電極、参照極(RE)にはAg/AgCl電極、対極(CE)にはカーボンロッドを用いた。また、電解液には、1MのKHCO水溶液を使用した。なお、KHCO水溶液は、事前にCOガス(純度:99.99%)をバブリングさせた後、pHを7.9に調整してから使用した。
次に、室温(25℃)環境下において、二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層側に、COガス(純度:99.99%)を流量5cc/minで流し、ラインのCOガス置換を行った。次いで、二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層側に、参照極であるAg/AgCl電極を基準として、作用極と参照極との間の電位が、-1.4V、-2.0V、又は、-2.5Vになるように電圧を印加した。電圧の印加を開始し、電流が流れたことを確認した後、1.5分~2分の間、ガスクロマトグラフ〔商品名:Nexis(登録商標) GC-2030、(株)島津製作所製〕の排気ラインに接続した流量計〔商品名:Defender(登録商標) 530+、Mesa Labs社製〕を用いて、生成ガスの流量を測定した。生成ガスの流量を測定した後、流路上のガスクロマトグラフを用いて生成ガスの組成を分析した。ガスクロマトグラフの流路には、常に生成ガスを流通させ、規定の時間毎に流路の切り替え操作を行うことで、カラム〔商品名:MICROPACKED-ST、信和化工(株)製〕に生成ガスを導入し、分析を行った。
生成ガスの流量の測定結果と生成ガスの組成の分析結果とから、水素(H)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)及びエチレン(C)の生成量を算出し、電荷量に換算した。換算により求めた電荷量と実際に流れた電流値の割合とから、水素、一酸化炭素、メタン及びエチレンの製造効率(所謂、ファラデー効率)を求め、カソードガス拡散層の選択性を評価した。
生成ガスの組成及び各成分のファラデー効率を表1及び図3に示す。
なお、表1に示すファラデー効率は、合計を100.0%に補正した後の値である。
ファラデー効率(単位:%)の値が大きい成分ほど、二酸化炭素還元電極が生成しやすい成分、すなわち、二酸化炭素還元電極が高い選択性を示す成分であるといえる。
【0065】
【表1】
【0066】
表1及び図3に示すように、実施例1の二酸化炭素還元電極は、比較例1の二酸化炭素還元電極と比較して、高いメタン選択性を示した。また、実施例1の二酸化炭素還元電極は、比較例1の二酸化炭素還元電極と比較して、メタン以外のC系生成物である一酸化炭素及びエチレンについても高い選択性を示した。
以上の結果から、導電性繊維層上に導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるMPLを有するカソードガス拡散層によれば、二酸化炭素還元電極のメタン選択性、一酸化炭素選択性、及びエチレン選択性を向上できることが明らかとなった。
【要約】
【課題】二酸化炭素還元電極のメタン選択性を向上できる二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層、並びに、上記二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層を備える二酸化炭素還元電極及び二酸化炭素電解セルを提供する。
【解決手段】導電性繊維層と、上記導電性繊維層上に設けられ、かつ、導電性粒子により形成されてなる多孔質体であるマイクロポーラス層と、を有する二酸化炭素還元電極用カソードガス拡散層及びその応用。
【選択図】なし
図1
図2
図3