(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】乾燥練り製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20240828BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
A23L17/00 101Z
B41M5/00 100
A23L17/00 102Z
(21)【出願番号】P 2020126627
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019219022
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】茂山 恵里那
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 次朗
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-083420(JP,A)
【文献】特開昭55-023955(JP,A)
【文献】特開2001-103936(JP,A)
【文献】特開2015-084669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
B41M
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
練り製品の表面に可食性インキを印刷し、乾燥温度50℃以上、70℃以下で乾燥させることにより得られる乾燥練り製品の製造方法であって、
印刷前の練り製品の水分含有率が13重量%以上であり、
且つ、乾燥練り製品の水分含有率が10%以下である、
ことを特徴とする乾燥練り製品の製造方法。
【請求項2】
インクジェット印刷により印刷されることを特徴とする請求項1に記載の乾燥練り
製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食インキで印刷された練り製品の絵柄を、湯戻し後も良好なまま維持することのできる乾燥練り製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、練り製品の生地表面に着色する試みがなされている。例えば、練り製品に可食インキからなる絵柄を転写することで意匠性の高い練り製品を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術は、湯戻しにより喫食可能となる乾燥練り製品を想定するものではなかった。このため、練り製品を乾燥する際に生じる課題、具体的には、湯戻しによる絵柄の崩れや退色という課題を解決するものではなかった。すなわち本発明の課題は、可食インキで印刷された練り製品の絵柄を、湯戻し後も良好なまま維持することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、練り製品の表面に可食性インキを印刷し、乾燥させることにより得られる乾燥練り製品の製造方法であって、印刷前の練り製品の水分含有率が13重量%以上であり、且つ、乾燥練り製品の水分含有率が10%以下である、ことを特徴とする乾燥練り製品の製造方法により上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の完成により、可食インキで印刷された練り製品上の絵柄を、湯戻し後も良好なまま維持することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態に係る乾燥練り製品の製造方法を具体的に説明する。
【0008】
練り製品
本発明における練製品とは、カマボコ、竹輪、さつま揚げ等の水産系の練り物、又はソーセージ、ハンバーグ等の畜肉系の練り物を指す。練り製品の製造方法には特に制限はなく、周知の方法で製造することができる。
【0009】
練り製品の原料は、水分含有率が高いときには高粘度のペースト状であり、且つ乾燥により水分含有率が低下すると流動性の低い固形状となるものであればよい。具体的には、スケトウダラ、ホッケ、アジ等の魚肉、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉、その他、エビ、イカ、タコ、カニ、貝類などが使用できる。必要に応じて、大豆、小麦などの植物性原料を併用してもよい。
【0010】
乾燥練り製品
本発明の乾燥練り製品は、前記練り製品を水分含有率10%以下まで低下させることで長期保存を可能にしたものである。
【0011】
可食インキ
本発明における可食インキとは、食用色素を含む喫食可能、且つ印刷可能なインキを指す。食用色素としては、β-カロテン、リボフラビン等の天然系合成色素、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム等の天然色素誘導体などが挙げられる。
【0012】
製造方法
本発明においては、印刷前の練り製品の水分含有率が13重量%以上であり、且つ、乾燥練り製品の水分含有率が10%以下であることが必要である。乾燥後に可食インキを印刷するよりも、水分含有率の高い状態で印刷し、その後に乾燥させたほうが、湯戻しによる絵柄の崩れや退色を抑制することができる。色素は熱に弱いため、熱が加わる恐れの小さい乾燥後に印刷するのが一般的であるが、本発明ではこれと全く逆の方法を採用している点に特徴がある。ここで、本発明のメカニズムを説明するために、乾燥練り製品に可食インキで印刷した場合と、乾燥前の練り製品に印刷を行った場合について比較する。
【0013】
乾燥練り製品に印刷を行った場合
乾燥練り製品に印刷を行った場合には、湯戻しにより体積が大きくなるため絵柄も拡大する。すると、可食インキの密度が減少し、色調が弱まる(本発明においては、この現象も「退色」の一形態とする)。また、乾燥練り製品中に膨張率の異なる部位、例えば、空隙の多い部分と少ない部分が混在していると絵柄が崩れてしまう。
【0014】
乾燥前の練り製品に印刷を行った場合
乾燥前の練り製品に印刷を行った場合には、乾燥により絵柄が縮小するが、湯戻しにより拡大し、元の大きさに近づく。色調については、乾燥により可食インキの密度が上昇しているため、湯戻ししたとしても元の密度に戻るだけである。したがって、乾燥練り製品に印刷を行った場合とは異なり、湯戻しによって退色する恐れは小さい。さらに、空隙の多い部分と少ない部分が混在していたとしても、湯戻し後は乾燥前の練り製品の大きさ・形状に近づくため、乾燥前の絵柄の大きさ・形状に近づくだけである。したがって、乾燥前に練製品に印刷を行うことで、絵柄の意匠性を担保することができる。
【0015】
具体的には、印刷前の練り製品の水分含有率が13重量%以上であることが必要であり、25重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが極めて好ましい。
【0016】
乾燥条件
乾燥方法に特に制限はないが、乾燥温度が低く、乾燥時間が長い場合には絵柄の色調が悪化する傾向があり、一方、乾燥温度が高く、乾燥時間が短い場合には、湯戻ししにくく、湯戻し後のカマボコの形状が小さくなりやすい傾向がある。したがって、乾燥温度は50℃以上、70℃以下とすることが好ましい。
【0017】
印刷方式
印刷方式としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷などを用いることができるが、吐出部と基材(練り製品)を接触させずに印刷することができるインクジェット印刷が衛生性の観点においてより好ましい。
【実施例】
【0018】
(練り製品)
印刷前にカマボコ(色相:白色、形態:厚み5mmのスライスカット、原料:スケトウダラ)を温風乾燥機(60℃)で乾燥させて水分含有率9重量%、14重量%、33重量%のカマボコ1~3を用意した。また、乾燥していない水分含有率53重量%のカマボコ4も準備した。
【0019】
【0020】
インクジェットプリンター(ニューマインド社、NE-420F)を使って、可食インキ(東洋アドレ社製、天然色素インクカートリッジ(黒、青、マゼンタ、黄))を、カマボコ1~4に印刷した。なお、カマボコ1~4の絵柄(形状、大きさ、色相)は全て同じである。
【0021】
印刷後にカマボコを、熱風乾燥機を用いて乾燥させて、水分含有率9重量%の乾燥カマボコ(試作例2~8)を製造した。また、乾燥方法を変更し、減圧乾燥機で乾燥させた水分含有率9重量%の乾燥カマボコ(試作例9)を製造した。なお、試作例1については印刷のみを実施した。
【0022】
評価
(湯戻し前の色調評価)
乾燥カマボコの湯戻し前の絵柄の色調を以下の基準に従って評価した。なお、試作例3を色調が“良好”な基準、試作例1を色調が“不良”な基準とし、試作例3よりも色調が良好だったものを“非常に良好”、試作例1と試作例3の中間の評価を“普通”とした。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通(実用レベル)
×:不良
【0023】
試作例1~9を99℃のお湯で3分間湯戻し、湯戻し後の絵柄の色調、及びカマボコの形状を評価した。
【0024】
(湯戻し後の色調評価)
湯戻し後の絵柄の色調を以下の基準に従って評価した。なお、試作例4を色調が“良好”な基準、試作例1を色調が“不良”な基準とし、試作例4よりも色調が良好なものを“非常に良好”、試作例1と試作例4の中間の評価を“普通(実用レベル)”とした。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通(実用レベル)
×:不良
【0025】
(湯戻し後の形状評価)
湯戻し後のカマボコの形状を以下の基準に従って評価した。なお、本評価においては、湯戻し後のカマボコの大きさが大きいほど好ましく、具体的には、試作例4を形状が“非常に良好”な基準、試作例8を形状が“普通(実用レベル)”な基準とし、試作例8よりも形状が悪いものを“不良”、試作例4と試作例8の中間の評価を“良好”とした。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通(実用レベル)
×:不良
【0026】
【0027】
【0028】
試作例5~7と試作例4(乾燥温度45℃、乾燥時間120分)の比較により、乾燥温度が低く、乾燥時間が長い場合には、湯戻し後の絵柄の色調が低下することがわかる。また、試作例5~7と試作例8(乾燥温度80℃、乾燥時間20分)の比較により、乾燥温度が高く、乾燥時間が短い場合には、湯戻りが悪く、カマボコの形状が小さくなりやすことがわかる。また、試作例4と試作例9の比較により、熱風乾燥よりも減圧乾燥の方が湯戻し後の色調が向上することがわかる。