(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの製造方法およびシリコンウェーハ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/322 20060101AFI20240828BHJP
H01L 21/26 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
H01L21/322 Y
H01L21/26 F
(21)【出願番号】P 2021028234
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】前田 進
(72)【発明者】
【氏名】須藤 治生
(72)【発明者】
【氏名】松村 尚
(72)【発明者】
【氏名】青木 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-175023(JP,A)
【文献】特開2011-222842(JP,A)
【文献】特開2011-233556(JP,A)
【文献】国際公開第2001/055485(WO,A1)
【文献】特開2001-284362(JP,A)
【文献】特開2008-294112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/322
H01L 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハを
RTP装置の炉内において
空孔がシリコンウェーハに導入される雰囲気下で急速昇降温熱処理するシリコンウェーハの製造方法であって、
1300℃以上における温度と時間のサーマルバジェットにおいて、
急速昇降温熱処理において最大
加熱温度が1350℃の
加熱処理を所定の最大時間
である20sec継続す
る条件を100%
のサーマルバジェットとしたとき、
53%以上65%以下のサーマルバジェットで急速昇降温熱処理することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記急速昇降温熱処理に使用するシリコンウェーハは、基板の酸素濃度を0.6×10
18atoms/cm
3以上1.0×10
18atoms/cm
3以下(ASTM’79)となるよう制御することを特徴とする請求項1に記載されたシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法およびシリコンウェーハに関し、急速昇降温熱処理(RTP処理)によって表層に無欠陥層(DZ層)を有し、バルク層に酸素析出物によるイントリンシックゲッタリング層(IG層)を有するシリコンウェーハの製造方法およびシリコンウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、ウェーハのデバイス活性領域(ウェーハ表面から深さ10μm程度)内に存在するCOP(空洞欠陥)が、半導体デバイスの特性および信頼性劣化の原因となることがある。
【0003】
ウェーハ表層のCOPを消去する方法として、特許文献1に開示されているようにシリコンウェーハに対し急速昇降温熱処理(RTP)を行う方法がある。
RTPとは、シリコンウェーハを数秒あるいはそれ以下の時間スケールで1000℃以上の高温に加熱するプロセスである。このような高速な加熱速度は、高強度のランプ等によって行われる。冷却工程においては、熱応力よる転位やウェーハ破壊を防ぐため、一般にはウェーハ温度をゆっくりと下げる制御が行われる。
【0004】
この方法によれば、シリコンウェーハを高温熱処理することにより、ウェーハ表面の酸素を外方に拡散させて格子間酸素を減少させ、COPの内壁酸化膜や結晶の酸素析出物などの酸素が関連した欠陥を、酸素の非飽和状態により溶解しウェーハ表面のデバイス活性領域に微小欠陥のない無欠陥層(DZ層)を形成させる。
【0005】
さらにDZ層以下の深い領域(バルク部)では含まれている過剰な格子間酸素が高温熱処理によって析出し、微小なSiO2析出物に代表されるBMDを生成する。これらのBMDがバルク部のシリコンマトリックスに歪みを及ぼして二次的な転位や積層欠陥を誘起し、金属不純物をゲッタリングする(イントリンシックゲッタリング層(IG層)が形成される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シリコンウェーハに対する急速昇降温熱処理(RTP)におけるサーマルバジェット(熱処理工程の総和)が大きくなると、ウェーハ表面において高温での熱処理中に炉体から発生するFeなどの重金属汚染が顕著になり、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ(CIS)などの高性能センサを用いる場合に白キズなどの品質劣化の原因になるという課題があった。
【0008】
また、サーマルバジェットが大きいと、RTPの加熱源であるランプの熱負荷が大きくなり、ランプが破損する危険があった。
上記の課題を鑑みると、RTPにおけるサーマルバジェットは、できる限り小さくしたいが、その場合にはウェーハ表面にCOPが残留する、或いは、バルク層のBMDの形成が不足して、RTPの利点を享受できないという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、シリコンウェーハを急速昇降温熱処理(RTP)する際に、RTP装置を破損させることなく熱処理を完了するとともに、熱処理したシリコンウェーハの表面のデバイス活性領域に微小欠陥のないDZ層が形成され、バルク層に高ゲッタリング能力のIG層が形成され、且つウェーハ表面における重金属汚染が少なく、清浄なシリコンウェーハを製造することのできるシリコンウェーハの製造方法およびシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコンウェーハの製造方法は、シリコンウェーハをRTP装置の炉内において空孔がシリコンウェーハに導入される雰囲気下で急速昇降温熱処理するシリコンウェーハの製造方法であって、1300℃以上における温度と時間のサーマルバジェットにおいて、急速昇降温熱処理において最大加熱温度が1350℃の加熱処理を所定の最大時間である20sec継続する条件を100%のサーマルバジェットとしたとき、53%以上65%以下のサーマルバジェットで急速昇降温熱処理することに特徴を有する。
尚、前記急速昇降温熱処理に使用するシリコンウェーハは、基板の酸素濃度を0.6×1018atoms/cm3以上1.0×1018atoms/cm3以下(ASTM’79)となるよう制御することが望ましい。
【0011】
このように急速昇降温熱処理において、最大加熱温度である1350℃での加熱時間が例えば20secの場合を100%のサーマルバジェット(熱処理工程の総和)とすると、53%以上65%以下のサーマルバジェットでシリコンウェーハを熱処理する。
これにより、RTP装置(ランプなど)を破損させることなく熱処理を完了するとともに、熱処理したシリコンウェーハの表面のデバイス活性領域に微小欠陥のないDZ層が形成され、バルク層に高ゲッタリング能力のIG層が形成され、且つウェーハ表面における重金属汚染が少なく、清浄なシリコンウェーハを製造することができる。
【0012】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコンウェーハは、表層におけるLSTDの数が0.3コ/cm
2
以下であり、且つバルク層のBMD密度が5×1010cm-3以上であることに特徴を有する。
尚、基板の酸素濃度が0.6×1018atoms/cm3以上1.0×1018atoms/cm3以下(ASTM’79)であることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリコンウェーハを急速昇降温熱処理(RTP)する際に、RTP装置を破損させることなく熱処理を完了するとともに、熱処理したシリコンウェーハの表面のデバイス活性領域に微小欠陥のないDZ層が形成され、バルク層に高ゲッタリング能力のIG層が形成され、且つウェーハ表面における重金属汚染が少なく、清浄なシリコンウェーハを製造することのできるシリコンウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のシリコンウェーハの製造方法が適用される急速昇降温熱処理装置(RTP装置)の一形態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の急速昇降温熱処理装置(RTP装置)において適用されるシリコンウェーハの熱履歴の例を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例の条件No.1の熱履歴を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例の条件No.2の熱履歴を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例の条件No.3の熱履歴を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例の条件No.4の熱履歴を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例の条件No.5の熱履歴を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例の条件No.6の熱履歴を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例の条件No.7の熱履歴を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例の条件No.8の熱履歴を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例の条件No.9の熱履歴を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例の条件No.10の熱履歴を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例の条件No.11の熱履歴を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例の条件No.12の熱履歴を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例の実験1、実験2の結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例の実験3の結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例の実験4、実験5の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明のシリコンウェーハの製造方法が適用される急速昇降温熱処理装置(RTP装置)の一形態を示す断面図である。
図1に示すようにRTP装置1は、雰囲気ガス導入口20a及び雰囲気ガス排出口20bを備えたチャンバ(反応管)20と、チャンバ20の上部に離間して配置された複数のランプ30と、チャンバ20内の反応空間25にシリコンウェーハWを支持する基板支持部40とを備える。また、図示しないが、シリコンウェーハWをその中心軸周りに所定速度で回転させる回転手段を備えている。
【0016】
基板支持部40は、シリコンウェーハWの外周部を支持するリング10と、リング10を支持するステージ40aとを備える。チャンバ20は、例えば、石英で構成されている。ランプ30は、例えば、ハロゲンランプで構成されている。ステージ40aは、例えば、石英で構成されている。このRTP装置1は10~300℃/秒の昇温・降温の温度勾配でシリコンウェーハWの全体を均一に加熱して処理することができるが、詳細なサーマルバジェットは後述する。
【0017】
尚、このRTP装置1における反応空間25内の温度制御は、基板支持部40のステージ40aに埋め込まれた複数の放射温度計によってシリコンウェーハWの下部の基板径方向における基板面内多点(例えば9点)の平均温度を測定し、その測定された温度に基づいて複数のハロゲンランプ30の制御(各ランプの個別のON-OFF制御や、発光する光の発光強度の制御等)を行う。
【0018】
続いて、この実施形態にかかるシリコンウェーハの製造方法について、
図1のRTP装置1を用いて説明する。
まず、リング10にシリコンウェーハWを載置して固定する。このリング10を、酸化雰囲気下の反応空間25内に設置されたステージ40aの上部にシリコンウェーハWの上面が略平行になるように固定する。
【0019】
また、雰囲気ガス導入口20aよりプロセスガスを導入するとともに雰囲気ガス排出口20bから反応空間25内のガスを排気し、シリコンウェーハW上に所定の気流を形成する。
次いで、等配列に配置されたハロゲンランプ30をステージ40aに埋め込んだ複数の放射温度計によるシリコンウェーハWの下部の温度からのフィードバックにより個々に制御してシリコンウェーハWの温度を制御しながら急速に加熱してシリコンウェーハWの加熱処理を行う。
【0020】
ここで、RTP装置1における急速昇降温熱処理において、最大加熱温度である1350℃での加熱処理を例えば20sec(最大時間)継続する場合を100%のサーマルバジェット(熱処理工程の総和)とすると、53%以上65%以下のサーマルバジェットで処理する。
例えば、
図2のグラフに示すように、加熱開始後10secまでにウェーハ表面温度を1300℃まで加熱する。
次いで、加熱開始後27~32secまでにウェーハ表面温度を1350℃まで加熱し、その状態を0~6sec継続する。
その後、炉内を急冷し、急速昇降温熱処理を完了する。
また、この急速昇降温熱処理工程に使用するシリコンウェーハは、基板の酸素濃度を0.6×10
18atoms/cm
3以上1.0×10
18atoms/cm
3以下(ASTM’79)となるよう制御する。
【0021】
このような急速昇降温熱処理においては、加熱温度を1350℃まで昇温することにより、ウェーハ表面のCOPを消去し、DZ層を形成することができる。また、導入される空孔濃度が高くなり、バルク層のゲッタリング能力を十分とするだけの高いBMD密度を得ることができる。加熱温度が1350℃まで達しない(サーマルバジェットが不十分)と、ウェーハ表層にボイド欠陥が残留し、また、バルク層のBMD密度が減少して、ゲッタリング能力が低下することになる。
【0022】
また、最高加熱温度である1350℃での加熱時間を長く維持しないことにより、SPV(Surface Photovoltage)法によるFe-B濃度を低く(1×109cm-3未満)することができ、シリコンウェーハを清浄にすることができる。1350℃での加熱温度が長すぎ、サーマルバジェットが大きくなりすぎると、Fe汚染(重金属汚染)が顕著となり、また、RTP装置1への熱負荷が大きくなるため、ランプ破損等の虞があり好ましくない。
【0023】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、RTP装置1における急速昇降温熱処理において、最大加熱温度である1350℃での加熱時間が例えば20secの場合を100%のサーマルバジェット(熱処理工程の総和)とすると、53%以上65%以下のサーマルバジェットでシリコンウェーハを熱処理する。
これにより、RTP装置を破損させることなく熱処理を完了するとともに、熱処理したシリコンウェーハの表面のデバイス活性領域に微小欠陥のないDZ層が形成され、バルク層に高ゲッタリング能力のIG層が形成され、且つウェーハ表面における重金属汚染が少なく、清浄なシリコンウェーハを製造することができる。
【0024】
尚、前記実施の形態においては、最高温度である1350℃を数秒維持し、サーマルバジェットの好ましい割合を調整するようにしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではなく、最高温度である1350℃の継続時間がなくとも徐々に冷却するなどしてサーマルバジェットの割合を前記53%以上65%以下に調整するようにしてもよい。
【0025】
また、前記実施の形態においては、急速昇降温熱処理において最大温度での継続時間を20secとしたが、本発明にあってはそれに限定されることなく、20secより長い時間を最大継続時間としてもよい。
【実施例】
【0026】
本発明に係るシリコンウェーハの製造方法およびシリコンウェーハについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に基づき以下の実験を行った。
【0027】
(実験1)
実験1では、シリコンウェーハに対する急速昇降温熱処理の条件を変えて、LSTD(レーザ光散光により検出されるCOPなどの微小欠陥)の数を測定した。尚、この急速昇降温熱処理工程に使用するシリコンウェーハは、基板の酸素濃度が約1.0×1018atoms/cm3(ASTM’79)である。
【0028】
条件No.1では、
図3に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を20secとした。また、この条件をサーマルバジェット100%とした。
条件No.2では、
図4に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を15secとした。また、この条件のサーマルバジェットは92.9%とした。
【0029】
条件No.3では、
図5に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を13secとした。また、この条件のサーマルバジェットは85.1%とした。
条件No.4では、
図6に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を10secとした。また、この条件のサーマルバジェットは75.2%とした。
【0030】
条件No.5では、
図7に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を8secとした。また、この条件のサーマルバジェットは65.4%とした。
条件No.6では、
図8に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を2secとした。また、この条件のサーマルバジェットは59.4%とした。
【0031】
条件No.7では、
図9に示すような熱履歴とし、最高温度を1350℃、最高温度継続時間を0.1secとした。また、この条件のサーマルバジェットは52.8%とした。
条件No.8では、
図10に示すような熱履歴とし、最高温度を1340℃、最高温度継続時間を0.1secとした。また、この条件のサーマルバジェットは42.3%とした。
【0032】
条件No.9では、
図11に示すような熱履歴とし、最高温度を1330℃、最高温度継続時間を0.1secとした。また、この条件のサーマルバジェットは31.7%とした。
条件No.10では、
図12に示すような熱履歴とし、最高温度を1320℃、最高温度継続時間を0.1secとした。また、この条件のサーマルバジェットは21.1%とした。
【0033】
条件No.11では、
図13に示すような熱履歴とし、最高温度を1310℃、最高温度継続時間を0.1secとした。また、この条件のサーマルバジェットは10.5%とした。
条件No.12では、
図14に示すような熱履歴とし、最高温度を1300℃、最高温度継続時間を22secとした。また、この条件のサーマルバジェットは0%とした。
【0034】
図15のグラフに条件No.1~12の結果を示す。
図15のグラフの縦軸(左側)は、予測LSTD(コ/cm
2)、横軸は条件Noである。
このグラフに示すように、LSTDは条件No.1からNo.12まで、サーマルバジェットの減少
とともに増加した。条件No.8以降は、LSTDの数が0.3コ/cm
2を超えて値が悪くなった。したがって、ウェーハ表層のCOPを消去する熱処理条件としては、条件No.1~No.7が好ましいことがわかった。
【0035】
(実験2)
実験2では、実験1と同じ急速昇降温熱処理の条件により、バルク層のBMD密度を測定した。
図15のグラフに条件No.1~12の結果を示す。
図15のグラフの縦軸(右側)は、バルク層のBMD密度(cm
-3)、横軸は条件Noである。
このグラフに示すように、条件No.1からNo.7までは、バルク層のBMD密度は、略一定で十分に高い値(5×10
10cm
-3以上)が得られた。
しかしながら、条件No.8以降は、サーマルバジェットの減少に伴い、バルク層のBMD密度は低下した。これは、急速昇降温熱処理で導入される空孔濃度が、サーマルバジェットとともに低下するためである。
したがって、バルク層のゲッタリング性能を十分とする熱処理条件としては、条件No.1~No.7が好ましいことがわかった。
【0036】
(実験3)
実験3では、実験1と同じ急速昇降温熱処理の条件により、熱処理後のシリコンウェーハのFeB濃度をSPV法により測定した。
図16のグラフに条件No.1~12の結果を示す。
図16のグラフの縦軸は、FeB濃度(cm
-3)、横軸は条件Noである。
このグラフに示すようにFeB濃度は、条件No.1~No.8まで漸減し、条件No.8以降は測定下限値以下となった。良好なFeB濃度は1×10
9cm
-3とすると、これを下回る条件No.は条件No.5~No.12である。
したがって、シリコンウェーハを清浄に処理するためには、条件No.5~No.12が好ましいことがわかった。
【0037】
以上の実験1乃至3の結果により、基板の酸素濃度が約1.0×1018atoms/cm3(ASTM’79)の場合、ウェーハ表層のCOPを消去するができ、バルク層のゲッタリング性能を十分とし、シリコンウェーハを清浄に処理することのできる熱処理条件No.は、条件No.5(サーマルバジェット65%)~条件No.7(サーバルバジェット53%)であることがわかった。
また、これら条件No.5~No.7の範囲であれば、最高温度持続時間が長すぎず、十分なサーマルバジェットを確保することができ、装置への悪影響を抑えることができる。
【0038】
(実験4)
実験4では、実験1と同様にシリコンウェーハに対する急速昇降温熱処理の条件を変えて、LSTD(レーザ光散光により検出されるCOPなどの微小欠陥)の数を測定した。
この実験4では実験1とは急速昇降温熱処理工程に使用するシリコンウェーハ基板の酸素濃度のみが異なり、その値は約0.6×10
18atoms/cm
3(ASTM’79)である。
図17のグラフに条件No.1~12の結果を示す。
図17のグラフの縦軸(左側)は、予測LSTD(コ/cm
2)、横軸は条件Noである。
このグラフに示すように、LSTDの数は条件No.1からNo.12まで目標値である0.3コ/cm
2
以下となった。
【0039】
(実験5)
実験5では、実験4と同じ急速昇降温熱処理の条件により、バルク層のBMD密度を測定した。
図17のグラフに条件No.1~12の結果を示す。
図17のグラフの縦軸(右側)は、バルク層のBMD密度(cm
-3)、横軸は条件Noである。
このグラフに示すように、条件No.1からNo.7までは、バルク層のBMD密度は、略一定で十分に高い値(5×10
10cm
-3以上)が得られた。
しかしながら、条件No.8以降は、サーマルバジェットの減少に伴い、バルク層のBMD密度は低下した。
したがって、バルク層のゲッタリング性能を十分とする熱処理条件としては、条件No.1~No.7が好ましいことがわかった。
【0040】
以上、実験4、5の結果により、基板の酸素濃度が約0.6×1018atoms/cm3(ASTM’79)の場合も、条件No.1~No.7の場合にウェーハ表層におけるLSTDの数を抑制し、バルク層のゲッタリング性能を十分とすることができると確認した。よって、基板の酸素濃度は、0.6×1018atoms/cm3以上1.0×1018atoms/cm3以下(ASTM’79)であることが望ましい。
【符号の説明】
【0041】
1 RTP装置
20 チャンバ(炉)
25 反応空間
30 ハロゲンランプ
40 基板支持部
40a ステージ
W シリコンウェーハ