IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-27
(45)【発行日】2024-09-04
(54)【発明の名称】高炉スラグ微粉末の活性化
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20240828BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240828BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240828BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240828BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20240828BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240828BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B22/14 A
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B22/06 Z
C04B24/38 Z
C04B24/26 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021512848
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2019076513
(87)【国際公開番号】W WO2020070093
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】18198197.8
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【弁理士】
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】リサ デュプイ
(72)【発明者】
【氏名】マクシム リアード
(72)【発明者】
【氏名】ロリータ オーギュエル
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ ルーテンス
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-189903(JP,A)
【文献】特開平11-116316(JP,A)
【文献】特開平11-021160(JP,A)
【文献】特開平01-022989(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1581905(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第103819113(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第02514727(EP,A2)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0070404(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物性結合材組成物であって、
- ポルトランドセメントとスラグとを含む混合セメントである鉱物性結合材であって、前記鉱物性結合材の重量を基準として、少なくとも90重量%のスラグを含む鉱物性結合材、
- 水酸化カルシウムからなるか、又は水酸化カルシウムを含む、前記スラグの水和のための活性化剤であって、前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.3~4重量%で存在する前記活性化剤、及び
- 炭酸リチウム、硫酸リチウム、及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩からなるか、又はこれを含む共活性化剤
を含み、
活性化剤対共活性化剤の重量比が、20:1~1.1:1であることを特徴とする、
鉱物性結合材組成物
【請求項2】
前記スラグが、ブレーン法によって測定される4,400~6,000cm/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項3】
前記活性化剤が、前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.4~3.5重量%で存在することを特徴とする、請求項1又は2に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項4】
前記共活性化剤が、炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウムからなることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項5】
前記共活性化剤が、前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.1~3重量%で存在することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項6】
硫酸カルシウムを含まない前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.1~5重量%の硫酸カルシウムをさらに含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項7】
流動化剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項8】
- 前記活性化剤が水酸化カルシウムであり、かつ0.3~4重量%で存在し、
- 前記共活性化剤が炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウムであり、かつ0.1~3.0重量%で存在し、
かつ前記鉱物性結合材組成物が、
- 0~4重量%の少なくとも一種の流動化剤、
- 0~5重量%の硫酸カルシウム、
- 0.006~0.5重量%の増粘剤、及び
- 0~3重量%のさらなる添加剤
をさらに含み、全ての重量%が前記鉱物性結合材の重量を基準とすることを特徴とする、請求項1に記載の鉱物性結合材組成物。
【請求項9】
水と混合した後、請求項1~のいずれか一項に記載の鉱物性結合材組成物が硬化した後に得られる硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグを含む、改善された鉱物性結合材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントは、建設業において最も多く使用される鉱物性結合材である。しかし、ポルトランドセメントクリンカの製造は、可燃物の焼成工程のために、更に炭酸カルシウムの脱炭酸工程により、高いCO排出量の一因となる。
【0003】
それゆえ、より低温度で調製でき、且つ炭酸カルシウムがより少ない代替材料の使用が増加している。高炉スラグ微粉末(GGBS)は、そのような材料の1つである。高炉スラグ微粉末(GGBS)は、コンクリート又はモルタル中の鉱物性結合材として、部分的に又は完全にポルトランドセメントを置換し同様の機械的特性を得られるが、また改善された耐化学性、より安価な費用及びより良好な持続可能性を有する。一方でスラグは潜在水硬性材料であり、つまり水和を開始させるための活性化を必要とする。加えて、水和は通常進行が遅い。ポルトランドセメントとの配合物では、スラグを水和させるための活性化剤の添加は必須ではないが、活性化剤を添加しない配合物での凝結時間は通常長く、水和反応の速度も遅い。スラグの水和を活性化するために、NaOHが使用されることが多い。しかしNaOHは腐食性が高く、皮膚、目又は粘膜と接触すると重篤な損傷を引き起こす可能性がある。加えて、NaOHを含む乾燥鉱物性結合材組成物では、乾燥組成物が生成され、水と混合されるとき、危険な粉塵が形成し得る。
【0004】
従って、建設業においてスラグの使用を拡大させるために、より有害性の低い活性化剤が必要である。
【0005】
米国特許第5,411,092号明細書は、水と、2000~15000cm/gの粒径を有する高炉スラグと、リン酸三ナトリウムを含む活性化剤とを含む組成物で、油井及びガス井をセメンティングする方法について記載している。記載される付加的な活性化剤は、シュウ酸イオン又はクエン酸イオンである。活性化剤は、遅延剤と更に組み合わせられてもよい。
【0006】
米国特許第5,026,215号明細書は、水と、最小で9,500cm/gの比表面積を有する極微小スラグと、分散剤と、促進剤とを含む組成物による配合物注入の方法であって、スラグに対する水の比が0.5:1~10:1である方法を開示している。活性化剤は、好ましくはアルカリ又はアルカリ性の土類酸化物、水酸化物若しくは塩を含む。好ましい活性化剤はNaOHである。
【0007】
米国特許出願公開第2017/0362123号明細書は、高炉スラグ、フライアッシュ又はガラス粉末などの固形鉱物化合物と、少なくとも30重量%のリン酸から誘導される塩を含む活性化系とを含む水硬性結合材について開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
凝結時間が低減され強度発現がより速い、スラグを含む改善された鉱物性結合材組成物への需要が、依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の主題は、スラグを含み、迅速な凝結及び改善された初期強度を示す、費用効果が高く且つ環境にやさしい鉱物性結合材組成物を提供することである。
【0010】
驚くべきことに、この課題は、請求項1に記載されているような鉱物性結合材組成物によって成し遂げられ得ると見出された。
【0011】
鉱物性結合材は少なくとも30重量%のスラグを含み、これは環境的理由のために極めて望ましい。このように多量のセメントが置換されることで、COの生成量が有効に低減される。
【0012】
水酸化カルシウムからなる、又は水酸化カルシウムを含む活性化剤は、使用量が少なくても極めて有効である。水酸化カルシウムはNaOHよりも腐食性が低く、スラグを活性化するために使用されることが多く、また安価である。
【0013】
水酸化カルシウムと組み合わせた共活性化剤は、スラグを含む鉱物性結合材組成物の凝結時間を更に低減させ、初期強度を増大させるのに極めて有効である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、以下を含む鉱物性結合材組成物に関する:
- 鉱物性結合材の重量を基準として、少なくとも30重量%のスラグを含む鉱物性結合材、
- 水酸化カルシウムからなるか、又は水酸化カルシウムを含む、スラグの水和のための活性化剤と、
- 炭酸リチウム、硫酸リチウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩からなるか、又はこれを含む共活性化剤。
【0015】
本文書において、用語「鉱物性結合材」は、水和反応において水と反応し、固体水和物を形成する無機結合材を意味する。鉱物性結合材は、例えば、水硬性結合材(例えば、セメント)、潜在水硬性結合材(例えば、スラグ)、ポゾラン結合材(例えば、フライアッシュ)、又は非水硬性結合材であってよい。硫酸カルシウム、特に硫酸カルシウム半水和物は、本文脈では鉱物性結合材であると考えられる。しかし本発明の全体を通じて、鉱物性結合材の重量は、硫酸カルシウム、特に硫酸カルシウム半水和物を含まずに計算される。換言すれば、任意選択的に存在する硫酸カルシウム、特に硫酸カルシウム半水和物の重量は、本発明の鉱物性結合材の重量計算では省略される。
【0016】
用語「鉱物性結合材組成物」は、鉱物性結合材を含む組成物を意味する。
【0017】
用語「スラグ」は、スラグセメントとも呼ばれる、高炉スラグ微粉末(GGBS)を意味する。高炉スラグは、鉄鉱石、コークス及び石灰岩又はドロマイトを高炉中で一緒に溶融して、鉄を製造する際に形成される。高炉スラグは、その工程中で生成される、非金属の副産物である。高炉スラグは、主にケイ酸塩、アルミノケイ酸塩及びケイ酸カルシウムアルミニウムからなる。水砕スラグは、多量の水によって急冷され、殆ど又は全く結晶化していないガラス状態の砂状の細粒を生成する。水砕スラグは粉砕され、GGBSとなる。スラグは潜在水硬性結合材である。
【0018】
用語「潜在水硬性結合材」は、添加剤で活性化されると、水と反応して固体水和物になる鉱物性結合材を意味する。
【0019】
用語「活性化剤(activator)」は、スラグの水和を活性化できる添加剤を意味する。
【0020】
用語「共活性化剤(co-activator)」は、凝結時間を低減させ、及び/又は活性化されたスラグの硬化反応を促進できる添加剤を意味する。
【0021】
好ましくは、鉱物性結合材は、少なくとも36重量%、好ましくは少なくとも66重量%、より好ましくは少なくとも82重量%、特に少なくとも90重量%のスラグを含む。
【0022】
鉱物性結合材の更なる好適な構成成分は、例えばポルトランドセメント、フライアッシュ、シリカフューム、天然ポゾラン又は燃焼オイルシェールである。
【0023】
好ましくは、スラグは、2,000~10,000cm/g、より好ましくは4,000~9,000cm/g、特に4,300~8,000cm/gの、ブレーン法によって測定される比表面積を有する。
【0024】
4,400~6,000cm/gの範囲の比表面積を有するスラグは、特に有利である。
【0025】
スラグの比表面積を調整するために、異なる比表面積を有するスラグを配合することは、有利であり得る。
【0026】
このような粉末度を有するスラグは、低い含水量での良好なワーカビリティと、水と混合した後の鉱物性結合材組成物の迅速な強度発現という点で、特に適している。
【0027】
好ましくは、鉱物性結合材はポルトランドセメント及びスラグを含む、混合セメントである。
【0028】
好適な混合セメントは、例えば、DIN EN 197-1中でCEM IIIA、CEM IIIB、CEM IIIC及びCEMV/Bとして、又はASTM C595中でType ISポルトランド高炉スラグセメントとして規定されるセメントである。
【0029】
本発明の別の好ましい実施形態では、鉱物性結合材はスラグからなる。この場合、鉱物性結合材組成物中の唯一の鉱物性結合材はスラグであり、特に環境にやさしい。
【0030】
好ましくは、活性化剤は50~100重量%の水酸化カルシウムを含む。活性化剤の、その他の好ましい構成成分は、更なるアルカリ土類金属の水酸化物又はアルカリ水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化リチウム又は水酸化カリウムであってよい。
【0031】
活性化剤は、水酸化カルシウムからなるのが最も好ましい。
【0032】
好ましくは、活性化剤は、鉱物性結合材の重量を基準として、0.3~4重量%、より好ましくは0.4~3.5重量%、更により好ましくは0.5~3重量%、特に0.6~2.5重量%で存在する。
【0033】
0.3重量%より少ない使用量では、有効にスラグを活性化するのに不十分な可能性がある。また4重量%を超える使用量では、鉱物性結合材組成物のワーカビリティに悪影響を与え得る。
【0034】
共活性化剤は、鉱物性結合材組成物の性能を更に改善するために使用される。
【0035】
驚くべきことに、共活性化剤は初期の凝結時間を低減させるだけでなく、水和反応の速度をも高める。
【0036】
好ましくは、共活性化剤は、炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウムを、より好ましくは炭酸リチウムを含む。
【0037】
共活性化剤が、炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウム、好ましくは炭酸リチウムからなる場合もまた、有利であり得る。
【0038】
好ましくは、共活性化剤は、鉱物性結合材の重量に関して、0.1~3重量%、より好ましくは0.12~2重量%、更により好ましくは0.14~1重量%、特に0.16~0.8重量%で存在する。
【0039】
このような使用量での共活性化剤は、凝結時間を低減させ、且つ初期材齢の強度を改善できる。
【0040】
0.1重量%より少ない共活性化剤の使用量では、有効に凝結時間を低減させる、及び/又は鉱物性結合材の硬化を促進するのに不十分であり得る。また3重量%を超える使用量では、ワーカビリティ及び費用に悪影響を与え得る。
【0041】
好ましくは、活性化剤対共活性化剤の重量比は、20:1~1:1、より好ましくは10:1~1.1:1である。
【0042】
このような重量比は、鉱物性結合材の凝結及び/又は水和を促進するのに有効であり、また低い費用も維持される。
【0043】
好ましくは、鉱物性結合材組成物は、硫酸カルシウムを含まない鉱物性結合材の重量を基準として、0.1~5重量%、より好ましくは0.2~3重量%、特に0.3~2重量%の硫酸カルシウム、好ましくは硫酸カルシウム半水和物を更に含む。これは、上述のように、鉱物性結合材の重量に対する硫酸カルシウムの重量%の計算において、鉱物性結合材の重量計算に、硫酸カルシウム自体は考慮されないことを意味する。
【0044】
硫酸カルシウムは、鉱物性結合材のレオロジー特性及び強度発現を改善できる。
【0045】
好ましくは、鉱物性結合材組成物は流動化剤を更に含む。
【0046】
好ましくは、流動化剤は、ポリアルキレングリコール側鎖を含むアニオン性櫛形ポリマーを包含する。
【0047】
用語「ポリアルキレングリコール側鎖を含むアニオン性櫛形ポリマー」は、ポリマー主鎖のアニオン基と、ポリアルキレングリコール側鎖とを含むポリマーを意味する。アニオン基は、好ましくは、カルボキシレート基、スルホネート基、サルフェート基、リン酸基及びホスホネート基からなる群から選択される。側鎖は好ましくは、エステル基、エーテル基、イミド基及び/又はアミド基を介してポリマー主鎖に結合する。
【0048】
ポリアルキレングリコール側鎖は、好ましくは、エチレングリコール若しくはプロピレングリコール、又はエチレングリコール及びプロピレングリコールで構成される。最も好ましいのは、ポリエチレングリコールの側鎖である。
【0049】
好ましくは、櫛形ポリマーは、式(I)の構造単位
【化1】
及び式(II)の構造単位
【化2】
を含み、
式中、
はいずれの場合も他のものからは独立して、-COOM、-SO-OM、-O-PO(OM)及び/若しくは-PO(OM)であり、
及びRは、いずれの場合も他のものからは独立して、H、-CH-COOM若しくは1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
及びRは、いずれの場合も他のものからは独立して、H若しくは1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
及びRは、いずれの場合も他のものからは独立して、H、-COOM若しくは1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
又は式中、RとRは、-CO-O-CO-への環(無水物)を形成し、
Mは、いずれの場合も他のものからは独立して、H、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価又は三価の金属イオン、アンモニウムイオン又は有機アンモニウム基であり、
P=0、1又は2であり、
o=0又は1であり、
m=0又は1~4の数であり、
n=2~250、とりわけ10~200であり、
Xは、いずれの場合も他のものからは独立して、-O-又は-NH-であり、
は、いずれの場合も他のものからは独立して、H、C~C20のアルキル基、シクロヘキシル基又はアルキルアリール基であり、且つ
A=C~Cアルキレンである。
【0050】
好ましくは、構造単位IIに対する構造単位Iのモル比は、0.7~10:1、より好ましくは1~8:1、特に1.5~5:1である。
【0051】
櫛形ポリマーが、更なる構造単位IIIを含む場合、有利であり得る。好適な構造単位IIIは、アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル、アクリル酸若しくはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、酢酸ビニル、スチレン又はN-ビニルピロリドンを含む群から選択されるモノマーから誘導される。
【0052】
好ましくは、アニオン性櫛形ポリマーは、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩基、並びにポリエチレングリコール側鎖を含む。
【0053】
このようなポリマーは、水と混合する際の鉱物性結合材組成物にとって極めて有効な分散剤であり、本発明の鉱物性結合材組成物に特に適している。
【0054】
流動化剤が、ポリアルキレングリコール側鎖を含むアニオン性櫛形ポリマーを2種以上含む場合、有利であり得る。異なる櫛形ポリマーの組合せ、例えばアニオン基の種類若しくは量、側鎖の長さ若しくは数、又は付加的なモノマー単位が異なる櫛形ポリマーの組合せは、ワーカビリティ、ワーカビリティの時間及び必要な水の量に関して、鉱物性結合材組成物の性能を誘発するのに役立ち得る。
【0055】
ポリアルキレングリコール側鎖を含むアニオン性櫛形ポリマーの重量平均分子量(M)は、SECによって、0.067MのNaHPO及び0.01MのNaNを含む水を溶離液として用いて、ポリエチレングリコール標準試料に対して測定され、好ましくは5,000~200,000g/mol、より好ましくは8,000~150,000g/mol、特に好ましくは10,000~130,000g/mol、とりわけ12,000~80,000g/molである。
【0056】
好ましくは、流動化剤は粉末である。
【0057】
好ましくは、流動化剤は、鉱物性結合材の重量のうち乾燥材料として計算されるとき、0.02~4重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.08~1重量%、特に0.1~0.5重量%で存在する。
【0058】
好ましくは、鉱物性結合材組成物は、増粘剤を更に含み、好ましくは多糖類、より好ましくは微生物による多糖類、特にウェランガム、キサンタンガム、ダイユータンガム及びジェランガムからなる群から選択される多糖類、好ましくはダイユータンガムを更に含む。
【0059】
このようなガムは水溶性であり、鉱物性結合材組成物の一部になり得る多くの化学物質と相溶性がある。また鉱物性結合材の凝結に望ましくない影響を与えない。それらは、水と混合した後に鉱物性結合材組成物の沈降又はブリーディングを防止するのに、極めて有効である。
【0060】
好ましくは、増粘剤は、鉱物性結合材の重量を基準として、0.006~0.5重量%で存在する。
【0061】
増粘剤が微生物による多糖類である場合、好ましくは、鉱物性結合材の重量を基準として、0.006~0.1重量%、より好ましくは0.01~0.05重量%で存在する。
【0062】
好ましくは、鉱物性結合材組成物は、消泡剤、界面活性剤、着色剤、殺生物剤、遅延剤、空気連行剤、レオロジー改質剤、増ちょう剤、収縮低減剤又は防錆剤などの、更なる添加剤を含む。
【0063】
好ましい鉱物性結合材組成物において、
- 活性化剤は水酸化カルシウムであり、0.3~4重量%、好ましくは0.4~3.5重量%、より好ましくは0.5~3重量%、特に0.6~2.5重量%で存在し、
- 共活性化剤は炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウムであり、0.1~3.0重量%、好ましくは0.12~2重量%、より好ましくは0.14~1重量%で存在し、
また鉱物性結合材組成物は、
- 0~4重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.08~1重量%、特に0.1~0.5重量%の少なくとも1種の流動化剤、好ましくはポリアルキレングリコール側鎖を含む、アニオン性櫛形ポリマーを含む流動化剤と、
- 0~5重量%、好ましくは0.2~3重量%、より好ましくは0.3~2重量%の硫酸カルシウムと、
- 0.006~0.5重量%の増粘剤、好ましくは多糖類と、
- 0~3重量%の更なる添加剤と、
を更に含み、全ての重量%は鉱物性結合材の重量を基準とする。
【0064】
好ましくは、鉱物性結合材組成物は不活性鉱物フィラーを更に含む。鉱物フィラーは、微細な砂粒子から粗礫まで、様々な形状、大きさ又は異なる材料で入手可能な、化学的に不活性な固体材料である。モルタル又はコンクリートで一般的に使用される全てのフィラーは、基本的に好適である。
【0065】
好ましくは、鉱物性結合材組成物はモルタル又はコンクリートである。
【0066】
鉱物性結合材組成物の全ての構成成分は、固体材料として混合され、固体鉱物性結合材組成物を生成することができ、水と混合されるまで保管され得る。
【0067】
鉱物性結合材組成物の一部がプレミックス中に混合される場合も有利であり得る。プレミックスは梱包され、その他の構成成分と混合される前に数時間、数ヵ月間又は数年間保管され得る。
【0068】
好ましくは、プレミックスは、活性化剤、共活性化剤及び任意の硫酸カルシウム、流動化剤及び/又は増粘剤を混合することによって生成できる。
【0069】
本発明の更なる態様は、組成物の使用であって、組成物の重量を基準として、
- 5~95重量%の水酸化カルシウムと、
- 5~60重量%の炭酸リチウム、硫酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウム、好ましくは炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウムと、
- 0~40重量%、好ましくは1~30重量%の硫酸カルシウムと、
- 0~35重量%、好ましくは5~30重量%の流動化剤、好ましくはポリアルキレングリコール側鎖を含む、アニオン性櫛形ポリマーと、
- 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%の増粘剤と、
- 0~20重量%の更なる添加剤と、
を含み、少なくとも30重量%のスラグ(鉱物性結合材の重量を基準とする)を含む鉱物性結合材の、凝結及び/又は硬化を促進するための、組成物の使用である。
【0070】
本発明の鉱物性結合材組成物は、水と混合されると硬化する。好ましくは、水性の鉱物性結合材組成物における、鉱物性結合材に対する水の重量比は、0.22~0.7、より好ましくは0.25~0.5、更により好ましくは0.3~0.4である。このような含水量が、結果として硬化体の改善された強度につながる。
【0071】
本発明の更なる態様は、前述のように、水と混合した後、鉱物性結合材組成物が硬化した後に得られる硬化体、特に構造物の一部である。
【0072】
構造物は、例えば橋、建物、トンネル、道路又は滑走路であり得る。
【実施例
【0073】
以下の実施例では、限定することなく本発明を例示する。
【0074】
1.材料
Ecocemは、約2,900kg/mの密度、11μmの平均粒径(D50)、及び約4,500cm/gのブレーン比表面積を有する高炉スラグ微粉末(GGBFS)であり、Ecocem Materials Ltd.,Irelandから入手可能である。
【0075】
Ecocem Superfineは、約2,900kg/mの密度、5μmの平均粒径(D50)、及び7,000~8,000cm/gのブレーン比表面積を有する、より細かく粉砕されたGGBFSであり、Ecocem Materials Ltd.,Irelandから入手可能である。
【0076】
CEM III/Aは、DIN EN 197-1に準拠する混合セメント、CEM III/A 32.5 N-LHであり、HeidelbergCement AG,Germanyから入手可能である。
【0077】
水酸化カルシウムは、Nekapur(登録商標)2であり、Kalkfabrik Netstal AG,Switzerlandから入手可能であった。
【0078】
炭酸リチウム及び硫酸リチウムは、Sigma-Aldrich Chemie GmbH,Switzerlandから購入した。
【0079】
炭酸ナトリウムは、Emsure(登録商標)であり、Merck KGaA,Germanyから購入した。
【0080】
硫酸カルシウムは、硫酸カルシウム半水和物(CaSO・1/2HO)であり、Knauf AG,Germanyから入手可能であった。
【0081】
Sika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)-125Pは、ポリアルキレングリコール側鎖を含むアニオン性櫛形ポリマーを主成分とした粉末流動化剤であり、Sika,Switzerlandから入手可能である。
【0082】
リグニンスルホン酸は、市販のリグニンスルホン酸ナトリウム粉末である。
【0083】
Kelco-crete(登録商標)DG-Fは、ダイユータンガムであり、CP Kelco,USAから入手可能である。
【0084】
2.適用試験
鉱物性結合材組成物を生成し、水と混合し、性能試験を行った。鉱物性結合材組成物は、最大0.3mmの骨材寸法を有する緻密なモルタルであった。
【0085】
2.1測定方法
EN 196-3に準拠する自動ビカー針装置Vicatronicを用いて、モルタルの凝結時間を測定した。
【0086】
40×40×160mmの寸法の角柱上で、モルタルの圧縮強度を測定した。モルタルを混合した直後に、型枠にモルタルを詰め、こてを用いて表面をならすことによって供試体を生成した。型枠を20℃にて保管した。一連の角柱を生成し、それらを離型し、所定の時間間隔で試験した。EN 196-1に準拠して、角柱の強度を測定した。
【0087】
2.2.乾燥鉱物性結合材の生成、水との混合、及び生成物の性能
鉱物性結合材組成物の全ての構成成分を、乾燥状態で表1~表4中に示される量で、機械的混合機(KitchenAid Model Artisan、5KSM150)において、速度1で30秒間混合した。
【0088】
次に水を添加し、速度2で30秒間素材を混合した。混合を停止し、素材を手作業で均質化させた。続いて、再び速度4で、追加で2分間混合した。
【0089】
表1は、Ca(OH)で活性化されたモルタルM1~M7の組成、炭酸リチウム及び硫酸カルシウムの凝結時間への影響、10時間後及び24時間後の圧縮強度を示す。スラグに対する水の重量比は、0.36であった。
【0090】
【表1】
【0091】
表2は、Ca(OH)で活性化されたモルタルM8~M10の組成、炭酸ナトリウムの凝結時間への影響、10時間後及び24時間後の圧縮強度を示す。スラグに対する水の重量比は、0.36であった。
【0092】
【表2】
【0093】
表3は、Ca(OH)で活性化されたモルタルM11~M16の組成、炭酸リチウムの凝結時間への影響、10時間後の圧縮強度を示す。セメントに対する水の重量比は、0.36であった。
【0094】
【表3】
【0095】
表4は、モルタルM17~M19の組成、及び流体のコンシステンシーを得るために組成物が必要とする水の量に対する、流動化剤の影響を示す。
【0096】
【表4】
本開示は以下も包含する。
[1]
以下を含む、鉱物性結合材組成物:
- 鉱物性結合材の重量を基準として、少なくとも30重量%のスラグを含む鉱物性結合材、
- 水酸化カルシウムからなるか、又は水酸化カルシウムを含む、前記スラグの水和のための活性化剤、及び
- 炭酸リチウム、硫酸リチウム、及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩からなるか、又はこれを含む共活性化剤。
[2]
前記鉱物性結合材が、少なくとも36重量%、好ましくは少なくとも66重量%、より好ましくは少なくとも82重量%、特に少なくとも90重量%のスラグを含むことを特徴とする、態様1に記載の鉱物性結合材組成物。
[3]
前記スラグが、ブレーン法によって測定される4,400~6,000cm /gの比表面積を有することを特徴とする、態様1又は2に記載の鉱物性結合材組成物。
[4]
前記鉱物性結合材が、ポルトランドセメントとスラグとを含む混合セメントであることを特徴とする、態様1~3のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[5]
前記鉱物性結合材が、スラグからなることを特徴とする、態様1~4のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[6]
前記活性化剤が、前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.3~4重量%、好ましくは0.4~3.5重量%、より好ましくは0.5~3重量%、さらにより好ましくは0.6~2.5重量%で存在することを特徴とする、態様1~5のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[7]
前記共活性化剤が、炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウム、好ましくは炭酸リチウムを含むことを特徴とする、態様1~6のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[8]
前記共活性化剤が、炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウム、好ましくは炭酸リチウムからなることを特徴とする、態様1~7のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[9]
前記共活性化剤が、前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.1~3重量%、好ましくは0.12~2重量%、より好ましくは0.14~1重量%、さらにより好ましくは0.16~0.8重量%で存在することを特徴とする、態様1~8のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[10]
活性化剤対共活性化剤の重量比が、20:1~1:1、好ましくは10:1~1.1:1であることを特徴とする、態様1~9のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[11]
硫酸カルシウムを含まない前記鉱物性結合材の重量を基準として、0.1~5重量%、好ましくは0.2~3重量%、特に0.3~2重量%の硫酸カルシウム、好ましくは硫酸カルシウム半水和物をさらに含むことを特徴とする、態様1~10のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[12]
流動化剤、好ましくはポリアルキレングリコール側鎖を含むアニオン性櫛形ポリマーをさらに含むことを特徴とする、態様1~11のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物。
[13]
- 前記活性化剤が水酸化カルシウムであり、かつ0.3~4重量%で存在し、
- 前記共活性化剤が炭酸リチウム及び/又は炭酸ナトリウムであり、かつ0.1~3.0重量%で存在し、
かつ前記鉱物性結合材組成物が、
- 0~4重量%の少なくとも一種の流動化剤、
- 0~5重量%の硫酸カルシウム、
- 0.006~0.5重量%の増粘剤、及び
- 0~3重量%のさらなる添加剤
をさらに含み、全ての重量%が前記鉱物性結合材の重量を基準とすることを特徴とする、態様1に記載の鉱物性結合材組成物。
[14]
組成物の重量を基準として、
- 5~95重量%の水酸化カルシウム、
- 5~60重量%の炭酸リチウム、硫酸リチウム、又は炭酸ナトリウム、
- 0~40重量%の硫酸カルシウム、
- 0~35重量%の流動化剤、
- 0~20重量%の増粘剤、及び
- 0~20重量%のさらなる添加剤
を含む組成物の使用であって、鉱物性結合材の重量を基準として、少なくとも30重量%のスラグを含む前記鉱物性結合材の凝結及び/又は硬化を促進するための使用。
[15]
水と混合した後、態様1~13のいずれかに記載の鉱物性結合材組成物が硬化した後に得られる硬化体、特に構造物の一部。