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特許7545634液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240829BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/01 301
B41J2/14 305
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020138709
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034825
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207181
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 朋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 則康
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-185732(JP,A)
【文献】特開2019-142112(JP,A)
【文献】特開2004-322411(JP,A)
【文献】特開2016-175183(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0086632(US,A1)
【文献】特開2016-159618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルと、
前記ノズルに通じる個別液室と、
前記個別液室に液体を供給する共通液室と、
前記個別液室内に圧力を発生させる圧力発生部材と、
前記圧力発生部材を保持する保持部材と、
第1温度検知部材と第2温度検知部材とを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記第1温度検知部材は前記共通液室に隣接して設けられ、前記第2温度検知部材は前記保持部材に設けられ、
前記共通液室を加熱または冷却する温度調整用流体が流れる温調流路と、
前記温調流路内に前記温度調整用流体を流入させる流入部と、
前記温調流路から前記液体吐出ヘッド外へ前記温度調整用流体を排出する排出部とを備えたことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記圧力発生部材による圧力の駆動を制御する制御部をさらに備えた請求項1記載の液体吐出ヘッドであって、
前記制御部は、少なくとも前記第1温度検知部材および前記第2温度検知部材の温度検知結果に基づいて、前記圧力発生部材の駆動を制御する液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1温度検知部材および前記第2温度検知部材が検知した温度の平均値を用いて、前記液体の吐出を制御する請求項2記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1温度検知部材および前記第2温度検知部材が検知した温度の平均値を用いて、前記温度調整用流体の温度を制御する請求項2または3記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記温調流路は、前記ノズルの液体吐出方向において、前記共通液室と重なるように配置される請求項1から4いずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1温度検知部材は、前記液体吐出方向において、前記温調流路よりも前記共通液室の近くに設けられる請求項5記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
液体を吐出するノズルと、
前記ノズルに通じる個別液室と、
前記個別液室に液体を供給する共通液室と、
前記個別液室内に圧力を発生させる圧力発生部材と、
前記圧力発生部材を保持する保持部材と、
第1温度検知部材と第2温度検知部材とを備えた液体吐出ヘッドであって、
前記第1温度検知部材は前記共通液室に隣接して設けられ、前記第2温度検知部材は前記保持部材に設けられ、
前記圧力発生部材による圧力の駆動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、少なくとも前記第1温度検知部材および前記第2温度検知部材の温度検知結果に基づいて、前記圧力発生部材の駆動を制御し、
前記制御部は、前記第1温度検知部材および前記第2温度検知部材が検知した温度の平均値を用いて、前記液体の吐出を制御することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1温度検知部材は、前記共通液室を形成する共通流路部材の内側に設けられる請求項1から7いずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記保持部材は、前記ノズルの配列方向に延在した金属製の部材であり、
前記圧力発生部材を保持する側とは反対の面側に設けられた孔部内に、前記第2温度検知部材を保持する請求項1から8いずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えた液体吐出ユニット。
【請求項11】
前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくともいずれか一つと前記液体吐出ヘッドとを一体化した請求項10に記載の液体吐出ユニット。
【請求項12】
請求項1から9いずれか1項に記載の液体吐出ヘッド、または、請求項10もしくは11記載の液体吐出ユニットを備えた液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、および、液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に液体吐出ヘッドでは、吐出液体の粘度特性には温度依存性があり、吐出液体の速度や容量は吐出液体の粘度に影響を受ける。このため、吐出液体の温度を検出し、駆動信号を調整することによって環境や駆動条件に依存しない安定した画像を得られるような制御が行われている。
【0003】
従って、吐出液体の温度を高精度に検知することが高画質化につながり、吐出液体の温度を検知するための温度検知部材を設けた液体吐出ヘッドの発明が既になされている。
【0004】
例えば特許文献1(特開2019-123115号公報)の液体吐出ヘッドでは、流路板内に温度検知手段を設けている。個別液室近くにサーミスタを設けることで、吐出液の温度を高精度に検知できる。
【0005】
しかし、流路板内に温度検知部材を設けようとすると、そのスペース確保のため、流路間の距離を広げるなどする必要があり、液体吐出ヘッドが大型化してしまうという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液体吐出ヘッドの小型化と吐出液体の温度の高精度な検知を両立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、液体を吐出するノズルと、前記ノズルに通じる個別液室と、前記個別液室に液体を供給する共通液室と、前記個別液室内に圧力を発生させる圧力発生部材と、前記圧力発生部材を保持する保持部材と、第1温度検知部材と第2温度検知部材とを備えた液体吐出ヘッドであって、前記第1温度検知部材は前記共通液室に隣接して設けられ、前記第2温度検知部材は前記保持部材に設けられ、前記共通液室を加熱または冷却する温度調整用流体が流れる温調流路と、前記温調流路内に前記温度調整用流体を流入させる流入部と、前記温調流路から前記液体吐出ヘッド外へ前記温度調整用流体を排出する排出部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドでは、その小型化と吐出液体の温度の高精度な検知を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの平面説明図である。
図2】同じく側面説明図である。
図3図1のA-A線に沿う断面図で、ノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
図4】吐出液貯留部および温調流路の外部との接続部分を示す図である。
図5】液体吐出ヘッドの液体吐出時間と温度の関係を示した図である。
図6】本発明に係る液体を吐出する装置の一例の要部平面説明図である。
図7】同装置の要部側面説明図である。
図8】本発明に係る液体吐出ユニットの他の例の要部平面説明図である。
図9】本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例の正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明の第1実施形態について図1ないし図3を参照して説明する。図1は同実施形態に係る液体吐出ヘッドの平面説明図、図2は同じく側面説明図、図3図1のA-A線に沿うノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
【0011】
この液体吐出ヘッドは、ノズル板1と、流路板2と、壁面部材としての振動板部材3とを積層接合している。そして、振動板部材3の振動領域(振動板)30を変位させる圧電アクチュエータ11と、ヘッドのフレーム部材を兼ねている共通液室部材20とを備えている。
【0012】
ノズル板1は、液体を吐出する複数のノズル4を配列したノズル列を2列有している。
【0013】
流路板2は、複数のノズル4にそれぞれノズル連通路5を介して通じる複数の個別液室6、各個別液室6にそれぞれ通じる流体抵抗部7、1又は複数の流体抵抗部7に通じる1又は複数の液導入部8を形成している。
【0014】
振動板部材3は、流路板2の個別液室6の壁面を形成する変形可能な振動領域30を有する。ここでは、振動板部材3は3層構造(限定されない)とし、流路板2側から薄肉部を形成する第1層と、厚肉部を形成する第2層及び第3層で形成され、第1層で個別液室6に対応する部分に変形可能な振動領域30を形成している。
【0015】
そして、振動板部材3の個別液室6とは反対側に、圧電アクチュエータ11を配置している。この圧電アクチュエータ11は、圧力発生部材としての圧電部材12と、圧電部材12を保持する保持部材としてのベース部材13とを有する。圧電部材12は、振動板部材3の振動領域30を変形させる駆動手段(アクチュエータ手段)としての電気機械変換素子である圧電素子12Aを含む。
【0016】
ベース部材13は、ノズル配列方向に延在する金属製の部材である。ベース部材13上に圧電部材12が接合されることで、圧電部材12がノズル配列方向にわたってベース部材13に保持される。圧電部材12には、ハーフカットダイシングによって溝加工により、ノズル配列方向において、所要数の柱状の圧電素子12Aが所定の間隔で櫛歯状に形成されている。
【0017】
そして、圧電素子12Aを振動板部材3の振動領域(振動板)30に形成した島状の厚肉部である凸部30aに接合している。
【0018】
この圧電素子12は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極が設けられ、外部電極にフレキシブル配線部材15が接続されている。
【0019】
圧電部材12は、フレキシブル配線部材15や液体吐出ヘッド100内の基板等を介して制御部55に接続される。
【0020】
制御部55は、例えば、液体吐出ヘッド100を備えた液体を吐出する装置(詳しくは後述)に設けられる。ただし、液体吐出ヘッド100内に設けられていてもよい。
【0021】
共通液室部材20は共通液室10を形成している。共通液室10は、振動板部材3に設けた開口9を介して液導入部8に通じている。また、共通液室10に壁面を形成するダンパ部21を設けている。
【0022】
この液体吐出ヘッドにおいては、制御部55が、例えば圧電素子12Aに与える電圧を基準電位(中間電位)から下げることによって圧電素子12Aが収縮し、振動板部材3の振動領域30が引かれて個別液室6の容積が膨張することで、個別液室6内に液体が流入する。
【0023】
その後、制御部55は、圧電素子12Aに印加する電圧を上げて圧電素子12Aを積層方向に伸長させ、振動板部材3の振動領域30をノズル4に向かう方向に変形させて個別液室6の容積を収縮させる。これにより、個別液室6内の液体が加圧され、ノズル4から液体が吐出される。
【0024】
なお、ヘッドの駆動方法については上記の例(引き-押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行なうこともできる。
【0025】
次に、本実施形態の液体吐出ヘッドにおける温調手段について説明する。
【0026】
本実施形態の液体吐出ヘッドにおいては、共通液室部材20の外面に、温調手段を構成する温調流路部材41を配置している。
【0027】
温調流路部材41は、温度調整用流体が通じる温調流路42を形成している。この温度調整用流体は、共通液室10内の個別液室6に供給する液体を加熱または冷却してその温度を調整するものである。温調流路42は、共通液室部材20を介して共通液室10に並設して設けられ、共通液室10に並行してノズル配列方向(図3の紙面に垂直な方向)に延在する。別の言い方をすると、温調流路42は、ノズル4の液体吐出方向(あるいは液体吐出ヘッド100の液体吐出方向で、図3の上下方向)において、共通液室10に重なるように配置される。
【0028】
温調流路42に温度調整用流体を通すことによって、共通液室部材20を介する熱伝導により共通液室10内の液体の温度を制御(調整)できる。温度調整用流体としては、例えば、温水或いは冷却水を使用できる。また温調流路42を共通液室10に並行して設けることで、共通液室10内の吐出液体と温度調整用流体との熱交換効率を上げることができる。
【0029】
図4は共通液室10に吐出液体を供給する貯留部43および温調流路42の外部との接続部分を示す図である。
【0030】
図4に示すように、共通液室10はその一方側で、チューブ44を介して吐出液体の貯留部43に接続される。共通液室10はチューブ44を介して貯留部43から吐出液体を供給される。また貯留部43は液体吐出ヘッド外に接続され、液体吐出ヘッド外から吐出液体を供給される。共通液室10はその他方側で吐出液体の排出側の経路に接続されている。
【0031】
温調流路42は、その一端に、チューブ44等で構成される流入部45が設けられる。流入部45により、温調流路42は液体吐出ヘッド外と接続され、温度調整用流体を供給される。また温調流路42は、その他端に、チューブ44等で構成される排出部46が設けられる。排出部46により、温調流路42は液体吐出ヘッド100外へ温度調整用流体を排出できる。つまり、ヘッド外の温調液流路~流入部45~温調流路42~排出部46~ヘッド外の温調液流路のように、温度調整用流体は、ヘッド外の温調液流路と温調流路42との間を循環する。また、液体吐出ヘッド外に設けられた温度調整手段56により、循環する温度調整用流体の温度を調整できる。温度調整手段56は、例えば制御部55によって制御される。液体吐出ヘッド100外に温度調整手段56を設けることで、液体吐出ヘッド100を大型化することなく、吐出液体の温度調整ができる。
【0032】
このように液体の温度変動を抑制することで、吐出液体として、温度によって粘度や表面張力の変動する液体を使用する場合でも、その物性の変動を抑制し、安定した液体吐出を行うことができる。
【0033】
次に、吐出液体の温度を検知する温度検知部材について説明する。
【0034】
図3に示すように、共通液室部材20には孔部20aが設けられる。孔部20a内に第1温度検知部材としての第1サーミスタ51が設けられる。孔部20aは、共通液室部材20内で、共通液室10に隣接した位置に設けられ、共通液室部材20の側面の側に開口した孔部である。第1サーミスタ51はリード線53に接続され、リード線53などを介して制御部55に接続される。
【0035】
第1サーミスタ51は、共通液室部材20内の共通液室10と温調流路42の間であって、共通液室10に隣接した位置(特に本実施形態では、ノズル4の液体吐出方向において、温調流路42よりも共通液室10に近い位置)に設けられる。また、孔部20aは圧電部材12と反対側(図3の右側)へ開口しており、第1サーミスタ51は圧電部材12から遠い位置に設けられる。
【0036】
温調流路42よりも共通液室10に近い位置に第1サーミスタ51を配置することで、第1サーミスタ51が、共通液室10内の液体により近い温度を検知できる。また、孔部20aを圧電部材12と反対側へ開口させることで、第1サーミスタ51が圧電素子12の発熱による影響を受けることを防止できる。そして、孔部20aを外側へ開口させることで、第1サーミスタ51の孔部20a内への挿入およびリード線53の配線がしやすくなり、好ましい。さらに、共通液室部材20内において、共通液室10と温調流路42との間が第1サーミスタ51を配置するためのスペースを設けやすく、本実施形態の配置により、液体吐出ヘッドをその幅方向(図3の左右方向)に広げることなく、第1サーミスタ51の配置が可能である。ただし、第1サーミスタ51の配置はこれに限らない。例えばスペースが許せば、第1サーミスタ51を共通液室部材20内の共通液室10の側面の側(図3の共通液室10の右側あるいは左側)に設けることもできる。
【0037】
また、ベース部材13には孔部13aが設けられる。ベース部材13は、孔部13a内に第2温度検知部材としての第2サーミスタ52を保持する。孔部13aは、ベース部材13の上面(ベース部材13の圧電部材12と反対側の端面)の側に開口した孔部である。第2サーミスタ52はリード線54に接続され、リード線54などを介して制御部55に接続される。
【0038】
配列された複数のノズル4は、形成する画像のパターンによりその吐出の有無がそれぞれ異なるため、圧電部材12の発熱量にもノズル配列方向に差が生じる。しかし、ベース部材13を前述のようにノズル配列方向に延在する金属製の部材とすることで、ベース部材13をノズル配列方向に均熱化できる。従って、第2サーミスタ52の検知温度をより平均化できる。また、孔部13aを圧電部材12と反対側に開口させて第2サーミスタ52を圧電部材12から遠い側に設けることで、より平均化した温度を検知できる。
【0039】
本実施形態の制御部55は、第1サーミスタ51および第2サーミスタ52の温度検知結果に基づいて、制御を変更する。具体的には、制御部55は、第1サーミスタ51および第2サーミスタ52の検知した温度に基づいた駆動波形を圧電素子12Aに与える。これにより、外的、内的要因によって、液体温度が変動し、液体の物性が変動しても、温度毎の物性に合わせて吐出制御を変更することができ、安定して高精度の吐出を行うことができる。ただし、制御部55は、第1サーミスタ51および第2サーミスタ52の温度検知結果に基づいて、液体の吐出量等のその他の吐出条件を変化させてもよい。
【0040】
ところで、液体吐出ヘッドにより吐出される液体は、圧電素子12Aにより加熱される。つまり、吐出液体は、圧電素子12Aに接続された個別液室6を通過する際に、その温度が上昇する。従って、吐出される液体の温度をより高精度に検知するためには、吐出直前の液体の温度を検知することが望ましく、個別液室6に隣接した位置に温度検知部材を設けることが望ましい。しかし、液体吐出ヘッド100の構造上、個別液室6の近くに温度検知部材を配置するスペースを確保することが難しく、液体吐出ヘッド100が大型化してしまう。
【0041】
一方、ベース部材13および共通液室10を形成する共通液室部材20は比較的大型の部材であるため、温度検知部材を配置するためのスペースをその内側に確保することが容易である。
【0042】
以上のことから、本実施形態では、ベース部材13内および共通液室10に隣接した共通液室部材20内に第1サーミスタ51および第2サーミスタ52をそれぞれ配置することにより、液体吐出ヘッド100を小型化できる。そして、以下に示す方法により、これらのサーミスタにより、吐出液体の温度を高精度に検知することができる。
【0043】
図5は液体吐出ヘッド100の液体吐出時間と各温度の関係を示した図で、図の横軸が、液体吐出ヘッド100が連続して液体を吐出した時間、縦軸が温度を示している。図の実線B0が個別液室6内の吐出液体の温度、一点鎖線B1が第1サーミスタ51の検知した温度、二点鎖線が第2サーミスタ52の検知した温度をそれぞれ示している。なお実験では、便宜的に個別液室6のノズル4側の面に隣接した位置に、上記サーミスタと異なるサーミスタを配置することで、実線B0で示す個別液室6内の吐出液体の温度を測定した。
【0044】
図5に示すように、一点鎖線B1<実線B0<二点鎖線B2の順で温度が高くなっており、個別液室6内の吐出液体の温度は、第1サーミスタ51の検知した温度と第2サーミスタ52の検知した温度の間の値になっている。
【0045】
つまり、吐出液体と同様、圧電素子12Aからの伝熱によってベース部材13が加熱されるため、第2サーミスタ52の検知温度は高くなる。特に、圧電素子12Aに直に接触したベース部材13は、その温度が個別液室6内の吐出液体の温度よりも高くなる。一方、個別液室6よりも上流側に位置する共通液室10内の吐出液体の温度、つまり、第1サーミスタ51の検知した温度は個別液室6内の吐出液体の温度よりも低くなる。以上のことから、それぞれの検知温度は図5のようになっている。具体的には、個別液室6内の吐出液体の温度は、第1サーミスタ51の検知した温度と第2サーミスタ52の検知した温度の間の値になっている。特に本実施形態では、個別液室6内の吐出液体の温度は、第1サーミスタ51の検知した温度と第2サーミスタ52の検知した温度のほぼ中間の値になっている。
【0046】
以上の結果に鑑みて、本実施形態の液体吐出ヘッドでは、制御部55が、第1サーミスタ51および第2サーミスタ52の検知した温度の平均値を算出する。そして制御部55は、この平均値を吐出液体の温度として、温度制御に用いる。これにより、制御部55が、実際の吐出液体の温度により近い温度を検知(算出)でき、実際の吐出液体の温度により近い温度での制御が可能になる。従って、液体吐出ヘッドを備えた液体を吐出する装置(例えば画像形成装置)が、装置周辺の環境温度や装置駆動時の温度変動などによらず、安定した温度や条件で吐出液体を吐出できる。従って、画像形成装置の場合には、安定した品質の画像を形成できる。
【0047】
以上のように本実施形態では、液体吐出ヘッド100の小型化と高精度な吐出液体の温度検知を両立できる。なお、本実施形態では第1サーミスタ51および第2サーミスタ52の検知した温度の平均値を用いるものとしたが、その比率は適宜変更可能であり、実測結果を用いるなどして最適な比率を採用できる。例えば制御部55は、算出した平均値に一定のしきい値を加算した値(以下、単に算出値とも呼ぶ)を、個別液室内における液体温度に相当する温度とし、圧電部材12の制御や後述の制御を行ってもよい。
【0048】
また、制御部55が温度を検知(算出)した後の動作として、上記算出値を温調流路の温度制御に用いることもできる。すなわち、算出値がしきい値以上の場合は、温調流路内を流れる液体の温度を下げるように制御することもできる。吐出される液体の種類によっては吐出時の温度条件が画像品質等に大きく影響を与えることがある。そのような場合は上記のような制御をすることで、液体の温度を最良に保ち、画像品質等を良好にすることができる。
【0049】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について図6及び図7を参照して説明する。図6は同装置の要部平面説明図、図7は同装置の要部側面説明図である。
【0050】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向Dに往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向Dに往復移動される。
【0051】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド100及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド100は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド100は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向Dと直交する副走査方向Eに配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0052】
液体吐出ヘッド100の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド100に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0053】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0054】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0055】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド100に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0056】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向Eに周回移動する。
【0057】
さらに、キャリッジ403の主走査方向Dの一方側には、搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド100の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0058】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド100のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0059】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0060】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向Eに搬送される。
【0061】
そこで、キャリッジ403を主走査方向Dに移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド100を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0062】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について図8を参照して説明する。図8は同ユニットの要部平面説明図である。
【0063】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド100で構成されている。
【0064】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0065】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について図9を参照して説明する。図9は同ユニットの正面説明図である。
【0066】
この液体吐出ユニットは、液体供給部材である流路部品444が取り付けられた液体吐出ヘッド100と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0067】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド100と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0068】
以上の液体を吐出する装置または液体吐出ユニットに設けられた液体吐出ヘッドにも、前述の温度検知部材を配置できる。これにより、液体吐出ヘッドを小型化すると共に、吐出液体の温度を高精度に検知できる。
【0069】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0070】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0071】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0072】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0073】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0074】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0075】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0076】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0077】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取り付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0078】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0079】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0080】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0081】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0082】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0083】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0084】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0085】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0086】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0087】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【符号の説明】
【0088】
1 ノズル板
2 流路板
3 振動板部材
4 ノズル
6 個別液室
10 共通液室
11 圧電アクチュエータ
12 圧電部材(圧力発生部材)
12A 圧電素子
13 ベース部材(保持部材)
13a 孔部
20 共通流路部材
20a 孔部
41 温調流路部材
42 温調流路
45 流入部
46 排出部
51 第1サーミスタ(第1温度検知部材)
52 第2サーミスタ(第2温度検知部材)
55 制御部
100 液体吐出ヘッド
【先行技術文献】
【特許文献】
【0089】
【文献】特開2019-123115号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9