(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ふっ素溶出抑制型固化材、改良土、及び、改良土の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/10 20060101AFI20240829BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20240829BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C09K17/10 P
C09K17/06 P
B09C1/08 ZAB
(21)【出願番号】P 2020074194
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅彦
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214591(JP,A)
【文献】特開2017-048269(JP,A)
【文献】特開2009-051914(JP,A)
【文献】特開2015-071522(JP,A)
【文献】特開2020-037623(JP,A)
【文献】特開昭59-084974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00- 17/52
B09B 1/00- 5/00
B09C 1/00- 1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ふっ素を含有する土壌に添加される、ふっ素溶出抑制型固化材であって、
セメント系固化材と、
リン酸水素カルシウ
ムを含有する骨灰と、を備える、ふっ素溶出抑制型固化材。
【請求項2】
前記リン酸水素カルシウ
ムの含有割合が1.77質量%以上である、請求項1に記載のふっ素溶出抑制型固化材。
【請求項3】
ふっ素を含有する土壌に、請求項1又は2に記載のふっ素溶出抑制型固化材を添加することにより、改良土を作製する、改良土の製造方法。
【請求項4】
前記土壌の体積に対する前記ふっ素溶出抑制型固化材の質量の比(前記ふっ素溶出抑制型固化材の質量/前記土壌の体積)が50kg/m
3以上となるように、前記土壌に前記ふっ素溶出抑制型固化材を添加する、請求項3に記載の改良土の製造方法。
【請求項5】
ふっ素を含有する土壌と、請求項1又は2に記載のふっ素溶出抑制型固化材とを備える、改良土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふっ素溶出抑制型固化材、改良土、及び、改良土の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント系固化材が含まれ、石灰がさらに含まれるふっ素溶出抑制型固化材を、ふっ素を含む土壌に添加するにより改良土を作製し、改良土からのふっ素の溶出を抑制する方法が発明されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、改良土からのふっ素の溶出を十分に抑制させるのに、地盤の土壌に石灰を多量に添加する必要が生じることがあり、それに伴って、別途処理すべき汚泥が多量に発生するといった問題などが生じる場合がある。
そのため、さらなるふっ素溶出抑制型固化材の検討が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、改良土からのふっ素の溶出を抑制しうる、ふっ素溶出抑制型固化材、改良土、及び、改良土の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意研究したところ、リン酸水素カルシウム及びリン酸三カルシウムの少なくとも何れか一方を改良土に含ませることによって、改良土からのふっ素の溶出を抑制しうることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0007】
即ち、本発明に係るふっ素溶出抑制型固化材は、ふっ素を含有する土壌に添加される、ふっ素溶出抑制型固化材であって、
セメント系固化材を備え、
リン酸水素カルシウム及びリン酸三カルシウムの少なくとも何れか一方を備える。
【0008】
また、本発明に係るふっ素溶出抑制型固化材の一態様では、前記リン酸水素カルシウム及び前記リン酸三カルシウムの合計含有割合が、1.77質量%以上である。
【0009】
さらに、本発明に係る改良土の製造方法は、ふっ素を含有する土壌に、前記ふっ素溶出抑制型固化材を添加することにより、改良土を作製する。
【0010】
また、本発明に係る改良土の製造方法の一態様では、前記土壌の体積に対する前記ふっ素溶出抑制型固化材の質量の比(前記ふっ素溶出抑制型固化材の質量/前記土壌の体積)が50kg/m3以上となるように、前記土壌に前記ふっ素溶出抑制型固化材を添加する。
【0011】
さらに、本発明に係る改良土は、ふっ素を含有する土壌と、前記ふっ素溶出抑制型固化材とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、改良土からのふっ素の溶出を抑制しうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材は、ふっ素を含有する土壌に添加される、ふっ素溶出抑制型固化材である。
さらに、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材は、セメント系固化材を備える。
また、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材は、リン酸水素カルシウム及びリン酸三カルシウムの少なくとも何れか一方を含むリン酸カルシウム系添加剤を備える。
【0015】
前記セメント系固化材は、セメントを含有する。また、前記セメント系固化材は、石膏を含有してもよい。さらに、前記セメント系固化材は、高炉スラグを含有してもよい。また、前記セメント系固化材は、硬化促進剤、分散剤などの混和剤を含有してもよい。
【0016】
前記セメントは、水硬性セメントであり、前記セメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、白色、耐硫酸塩、中庸熱、低熱などの各種ポルトランドセメント、該ポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ等を混合してなる混合セメント、アルミナセメントなどの特殊セメントなどが挙げられる。
【0017】
前記石膏としては、無水石膏(CaSO4 )、半水石膏(CaSO4 ・0.5H2 O)、二水石膏(CaSO4 ・2H2 O)等が挙げられる。
【0018】
前記高炉スラグとしては、高炉水砕スラグ等が挙げられ、該高炉水砕スラグとしては、高炉水砕スラグの微粉末等が挙げられる。
高炉水砕スラグの微粉末としては、JIS A 6206:2013の“高炉スラグ微粉末”が好ましく、すなわち、比表面積が2,750cm2/g以上10,000cm2/g未満のものが好ましい。なお、比表面積は、JIS R 5201:2015の比表面積試験に従って測定することができる。
なお、前記セメントが、高炉スラグを含有する高炉セメントであることにより、前記セメント系固化材が、高炉スラグを含有してもよい。
【0019】
本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材は、骨灰を含有することにより、リン酸水素カルシウムを含有してもよい。
なお、骨灰は、動物の骨から膠及び脂質の除いたものを焼くことによって得られる、白い粉末状の灰である。
骨灰は、主成分としてリン酸水素カルシウムを含有する。
【0020】
また、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材は、骨炭を含有することにより、リン酸三カルシウムを含有してもよい。
なお、骨炭は、動物の骨を800℃以上の温度で蒸し焼きにして、該骨に含まれる有機物を炭化することによって得られる、多孔質の黒い粒状の炭である。
骨炭は、主成分としてリン酸三カルシウムを含有する。
【0021】
本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材では、前記リン酸水素カルシウム及び前記リン酸三カルシウムの合計含有割合が、好ましくは1.77質量%以上、より好ましくは1.96~33.3質量%、さらに好ましくは4.76~16.7質量%である。
【0022】
なお、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材は、土壌への添加前に全ての成分が混合された状態になっている必要はなく、成分ごとに土壌に添加されてもよい。例えば、本実施形態においては、セメント系固化材とリン酸カルシウム系添加剤との内の一方を土壌に添加した後に他方を添加してもよい。
【0023】
本実施形態に係る改良土は、ふっ素を含有する土壌と、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材とを備える。
【0024】
本実施形態に係る改良土は、水を備える。
また、本実施形態に係る改良土は、改良土の固形分の質量に対する改良土の水の質量の比が、好ましくは0.05~4kg/kgである。水の質量には、土壌が含有する水の質量も含まれる。
なお、土壌の固形分の質量に対する改良土の水の質量の比は、改良土を構成する材料を混合した直後の比を意味する。
【0025】
前記改良土のpHは、例えば、8.0~13.0であり、より具体的には、9.0~12.0である。
なお、改良土のpHは、材齢7日のpHを意味する。
【0026】
本実施形態に係る改良土の製造方法では、ふっ素を含有する土壌に、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材を添加することにより、改良土を作製する。
【0027】
なお、本実施形態に係る改良土の製造方法では、土壌と、本実施形態に係るふっ素溶出抑制型固化材を構成する各種材料と、水とを混合することにより、改良土を作製してもよい。
【0028】
本実施形態に係る改良土の製造方法では、前記土壌の体積に対する前記ふっ素溶出抑制型固化材の質量の比(前記ふっ素溶出抑制型固化材の質量/前記土壌の体積)が、好ましくは50kg/m3以上、より好ましくは50~200kg/m3、さらに好ましくは50~120kg/m3となるように、前記土壌に前記ふっ素溶出抑制型固化材を添加する。
なお、前記土壌の体積は、「土壌(湿潤状態の土壌)の質量」を「土壌の湿潤密度」で除することで、もしくは、「改良対象の地盤の面積」に「改良する深さ」を乗ずることで求めることができる。
【0029】
なお、本発明に係るふっ素溶出抑制型固化材、改良土、及び、改良土の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係るふっ素溶出抑制型固化材、改良土、及び、改良土の製造方法は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。本発明に係るふっ素溶出抑制型固化材、改良土、及び、改良土の製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0030】
次に、試験例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0031】
ふっ素を含有する土壌として、下記表1に示す粘性土(1)及び粘性土(2)を用意した。
また、セメント系固化材として、高炉セメントB種(BB)90質量部と、無水石膏(An)10質量部とを混合したセメント系固化材を用意した。
さらに、添加剤として以下のものを用意した。
骨灰(リン酸水素カルシウムの含有量:90.2質量%)
リン酸三カルシウム(関東化学社製の特級試薬)
リン酸二水素カルシウム(関東化学社製の特級試薬)
リン酸水素二ナトリウム(関東化学社製の特級試薬)
水酸化カルシウム(関東化学社製の特級試薬)
【0032】
【0033】
(試験例1)(ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量:1.96質量%)
前記粘性土(1)と、前記セメント系固化材と、下記表2に示す添加剤とを混合して改良土を作製した。
改良土の作製の際、土壌の体積に対するセメント系固化材の質量の比(セメント系固化材の質量/土壌の体積)は、60kg/m3とした。また、添加剤の量に関して、セメント系固化材100質量部に対して、添加剤を2.0質量部とした。すなわち、ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量を1.96質量%とした。
なお、添加剤として骨灰を用いる場合では、ふっ素溶出抑制型固化材におけるリン酸水素カルシウムの量は、1.77質量%である。
【0034】
<一軸圧縮強さの測定>
改良土を用いてJGS 0821-2009「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準拠して供試体を作製した。そして、供試体を20℃、95RH%の条件で7日間封緘養生して、材齢7日の供試体を得た。
材齢7日の供試体を用いて、改良土の一軸圧縮強さを測定した。なお、一軸圧縮強さは、JIS A 1216:2009「土の一軸圧縮試験方法」に従って測定した。
結果を下記表2に示す。
【0035】
<ふっ素の溶出試験>
前記一軸圧縮強さの測定で使用した材齢7日の供試体を用いて風乾試料を作製し、この風乾試料に対してふっ素の溶出試験を行った。
具体的には、風乾試料に対して、平成3年8月環境庁告示第46号(土壌の汚染に係る環境基準について)付表に掲げる方法により検液を作製し、平成15年3月6日環境省告示第18号(改正 平成28年3月29日 環境省告示第34号)の別表に記載の方法で検液中のふっ素濃度(mg/L)を測定し、この検液中のふっ素濃度(mg/L)を、「改良土からのふっ素の溶出量(mg/L)」(以下、単に「ふっ素溶出量(mg/L)」ともいう。)とした。
結果を下記表2に示す。
【0036】
(試験例2)
添加剤を用いなかったこと以外は、試験例1と同様にして改良土を作製した。
そして、この改良土に対して、上記「一軸圧縮強さの測定」及び上記「ふっ素の溶出試験」を行った。
結果を下記表2~5に示す。
【0037】
【0038】
(試験例3)(ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量:4.76質量%)
添加剤の量に関して、セメント系固化材100質量部に対して添加剤を5.0質量部としたこと、すなわち、ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量を4.76質量%としたこと以外は、試験例1と同様にして改良土を作製した。
なお、添加剤として骨灰を用いる場合では、ふっ素溶出抑制型固化材におけるリン酸水素カルシウムの量は、4.29質量%である。
そして、これらの改良土に対して、上記「一軸圧縮強さの測定」及び上記「ふっ素の溶出試験」を行った。
結果を下記表3に示す。
【0039】
【0040】
(試験例4)(ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量:9.09質量%)
添加剤の量に関して、セメント系固化材100質量部に対して添加剤を10.0質量部としたこと、すなわち、ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量を9.09質量%としたこと以外は、試験例1と同様にして改良土を作製した。
なお、添加剤として骨灰を用いる場合では、ふっ素溶出抑制型固化材におけるリン酸水素カルシウムの量は、8.20質量%である。
そして、これらの改良土に対して、上記「一軸圧縮強さの測定」及び上記「ふっ素の溶出試験」を行った。
結果を下記表4に示す。
【0041】
【0042】
(試験例5)(ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量:16.7質量%)
添加剤の量に関して、セメント系固化材100質量部に対して添加剤を20.0質量部としたこと、すなわち、ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量を16.7質量%としたこと以外は、試験例1と同様にして改良土を作製した。
なお、添加剤として骨灰を用いる場合では、ふっ素溶出抑制型固化材におけるリン酸水素カルシウムの量は、15.1質量%である。
そして、これらの改良土に対して、上記「一軸圧縮強さの測定」及び上記「ふっ素の溶出試験」を行った。
結果を下記表5に示す。
【0043】
【0044】
表2~5に示すように、添加剤の量が同じもの同士で対比すると、添加剤として骨灰(リン酸水素カルシウムを含有。)又はリン酸三カルシウムを用いた場合には、ふっ素溶出量が少なかった。
従って、本発明によれば、改良土からのふっ素の溶出を抑制しうることが分かる。
【0045】
表2~5のデータから、無添加のデータ及び骨灰のデータを取り出したものを下記表6に、無添加のデータ及びリン酸三カルシウムのデータを取り出したものを下記表7に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
(試験例6)
前記粘性土(2)と、前記セメント系固化材と、骨灰とを混合して改良土を作製した。
改良土の作製の際、土壌の体積に対するセメント系固化材の質量の比(セメント系固化材の質量/土壌の体積)は、51kg/m3とした。また、添加剤の量に関して、セメント系固化材100質量部に対して、添加剤を2.0質量部、5.0質量部、10.0質量部、20.0質量部とした。すなわち、ふっ素溶出抑制型固化材における添加剤の量を1.96質量%、4.76質量%、9.09質量%、16.7質量%とした。
そして、これらの改良土に対して、上記「一軸圧縮強さの測定」及び上記「ふっ素の溶出試験」を行った。
結果を下記表8に示す。
【0049】
(試験例7)
添加剤を用いなかったこと以外は、試験例6と同様にして改良土を作製した。
そして、この改良土に対して、上記「一軸圧縮強さの測定」及び上記「ふっ素の溶出試験」を行った。
結果を下記表8に示す。
【0050】
【0051】
表6~8に示すように、骨灰(リン酸水素カルシウムを含有。)及びリン酸三カルシウムの使用量が増えると、ふっ素溶出量が少なくなった。