(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、造形用モルタル組成物、及び、造形物
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20240829BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B28B1/30
C04B28/02
(21)【出願番号】P 2020193665
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】明石 昌之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 重裕
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-097785(JP,A)
【文献】特開2019-104643(JP,A)
【文献】特開2001-261411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B28B 1/00- 1/54
B05F 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形用モルタル組成物を用いて所望の形状に造形する造形物の製造方法であって、
セメント及び骨材を含む粉体材料と、水を含む液体材料と、を吹付け用ノズル内で混練して造形用モルタル組成物を得た後、該造形用モルタル組成物を気体と共に支持体に吹付ける乾式吹付け工程を含み、
前記骨材の吸水率が、7.5%以下であ
り、
前記粉体材料に対する前記液体材料の質量割合(液/粉体比)が、10.0%以上24.0%以下である、造形物の製造方法。
【請求項2】
前記造形用モルタル組成物の単位体積質量が、1.70t/m
3以上2.40t/m
3以下である、請求項
1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の造形物の製造方法に用いられる造形用モルタル組成物であって、
セメント及び骨材を含む粉体材料と、水を含む液体材料と、を含み、
前記骨材の吸水率が、7.5%以下である、造形用モルタル組成物。
【請求項4】
請求項
3に記載の造形用モルタル組成物を硬化させてなる、造形物。
【請求項5】
単位体積質量が、1.70t/m
3以上2.40t/m
3以下である、請求項
4に記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法、該製造方法に用いられる造形用モルタル組成物、及び、造形用モルタル組成物を硬化させてなる造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、テーマパーク、遊園地、公園等に設置される造形物は、金網、鉄筋、鉄骨等を用いて組み立てられた支持体を包むようにしてモルタル組成物を塗布した後、該モルタル組成物を所望の形状に造形して製造される(例えば、特許文献1)。
【0003】
従来、比較的大きな造形物を製造する際には、湿式吹付け工法を用いて、モルタル組成物を支持体に吹付けている。湿式吹付け工法とは、セメントを含む粉体材料と水を含む液体材料とを予め混練したモルタル組成物をポンプ搬送し、吹付け用ノズルの先端で気体と共に対象物に吹付ける工法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、湿式吹付け工法は、ポンプ圧送するために流動性の高い材料を使用しているため、吹付け厚さを厚くすることが難しく、また、粉体材料と液体材料とを予め混練したモルタル組成物をホースで圧送するため、長距離圧送ができないことに加えて、ホース内の洗浄が必要であるという問題が知られている。
【0006】
さらに、湿式吹付け工法を用いて造形物を製造する場合、造形可能な硬さになるまで時間を要し、かつ、造形可能な硬さを長時間維持することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することが可能な造形物の製造方法、造形用モルタル組成物、及び、造形物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る造形物の製造方法は、造形用モルタル組成物を用いて所望の形状に造形する造形物の製造方法であって、セメント及び骨材を含む粉体材料と、水を含む液体材料と、を吹付け用ノズル内で混練して造形用モルタル組成物を得た後、該造形用モルタル組成物を気体と共に支持体に吹付ける乾式吹付け工程を含み、前記骨材の吸水率が、7.5%以下である。
【0009】
前記造形物の製造方法は、乾式吹付け工法を用いて、造形用モルタル組成物を支持体に吹付けていて、さらに、粉体材料に含まれる骨材の吸水率が7.5%以下であることにより、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することができる。
【0010】
また、前記造形物の製造方法は、乾式吹付け工法を用いているため、吹付け厚さを厚くすることができ、さらに、長距離圧送が可能であることに加えて、ホース内の洗浄も不要である。
【0011】
本発明に係る造形物の製造方法は、前記粉体材料に対する前記液体材料の質量割合(液/粉体比)が、10.0%以上24.0%以下であってもよい。
【0012】
斯かる構成により、前記造形物の製造方法は、造形可能な硬さになるまでの時間をより短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することができる。
【0013】
本発明に係る造形物の製造方法は、前記造形用モルタル組成物の単位体積質量が、1.70t/m3以上2.40t/m3以下であってもよい。
【0014】
斯かる構成により、前記造形物の製造方法は、造形可能な硬さになるまでの時間をより短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することができる。
【0015】
本発明に係る造形用モルタル組成物は、上述の造形物の製造方法に用いられる造形用モルタル組成物であって、セメント及び骨材を含む粉体材料と、水を含む液体材料と、を含み、前記骨材の吸水率が、7.5%以下である。
【0016】
前記造形用モルタル組成物は、粉体材料に含まれる骨材の吸水率が7.5%以下であることにより、乾式吹付け工法を用いて造形物を造形する際に、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することができる。
【0017】
本発明に係る造形物は、上述の造形用モルタル組成物を硬化させてなる。
【0018】
前記造形物は、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持して製造することができる。
【0019】
本発明に係る造形物は、単位体積質量が、1.70t/m3以上2.40t/m3以下であってもよい。
【0020】
前記造形物は、造形可能な硬さになるまでの時間をより短くすると共に、造形可能な硬さをより長時間維持して製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することが可能な造形物の製造方法、造形用モルタル組成物、及び、造形物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態に係る造形物の製造方法、造形用モルタル組成物、及び、造形物について説明する。
【0023】
<造形物の製造方法>
本実施形態に係る造形物の製造方法は、セメント及び骨材を含む粉体材料と、水を含む液体材料と、を吹付け用ノズル内で混練して造形用モルタル組成物を得た後、該造形用モルタル組成物を気体と共に支持体に吹付ける乾式吹付け工程を含む。
【0024】
前記乾式吹付け工程は、乾式吹付け工法を用いて、造形用モルタル組成物を支持体に吹付ける工程である。具体的には、粉体材料をコンプレッサー(空気圧縮機)や空気送風機で製造された気体と共にホースで圧送して吹付け用ノズルへ供給し、該吹付け用ノズル内で液体材料と混練して造形用モルタル組成物を得た後、この造形用モルタル組成物を気体と共に高圧力で支持体に吹付ける。ここで、混練とは、気流中で粉体材料と液体材料とを充分に接触させて練り混ぜることをいう。
【0025】
粉体材料に含まれるセメントとしては、特に限定されるものではなく、市場で入手できる種々のセメントを用いることができる。具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の各種混合セメント、アルミナセメント、及び、超速硬セメント(例えば、カルシウムアルミネート系、カルシウムサルフォアルミネート系、カルシウムフルオロアルミネート系等)からなる群から選択される一つを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。セメントの配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、650kg/m3以上1200kg/m3以下とすることができる。
【0026】
粉体材料に含まれる骨材は、吸水率が7.5%以下である。骨材としては、例えば、山砂、川砂、陸砂、及び、海砂等の天然砂;砂岩、石灰岩等を人工的に破砕して形成された砕砂(より詳しくは、石灰砕砂等);膨張性頁岩等を粉砕・造粒・焼成したものや真珠岩等を破砕・加熱発泡させた軽量骨材等が挙げられる。これらの骨材を単独で用いるか、2種以上を混合して用いることにより、骨材の吸水率を7.5%以下に調整することができる。骨材の吸水率は、0.2%以上であることが好ましく、6.0%以下であることが好ましい。骨材の配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、475kg/m3以上1300kg/m3以下とすることができる。
【0027】
粉体材料は、セメント及び骨材以外のその他の材料を含んでいてもよい。セメント以外のその他の材料としては、例えば、繊維材(ガラス繊維、鋼繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維等)、混和材(高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材等)、混和剤(減水剤、増粘剤、消泡剤等)等が挙げられる。
【0028】
粉体材料の吹付け用ノズル内への供給量は、特に限定されるものではなく、例えば、2kg/min以上50kg/min以下とすることができる。
【0029】
液体材料に含まれる水としては、特に限定されるものではなく、一般的な上水道水を用いることができる。また、液体材料は、水以外のその他の材料を含むものであってもよい。水以外のその他の材料としては、例えば、モルタルを混練する際に使用する減水剤等の混和剤、ポリマーディスパージョン液、収縮低減剤、凝結調整剤等が挙げられる。液体材料の配合量としては、特に限定されるものではなく、例えば、200kg/m3以上400kg/m3以下とすることができる。
【0030】
液体材料の吹付け用ノズル内への供給量は、特に限定されるものではなく、例えば、0.2kg/min以上12.0kg/min以下とすることができる。
【0031】
粉体材料と液体材料とを混練して得られた造形用モルタル組成物は、気体と共に支持体に吹付ける。吹付ける気体の圧力は、特に限定されるものではなく、例えば、5kPa以上600kPa以下とすることができる。
【0032】
粉体材料に対する液体材料の質量割合(液/粉体比)は、10.0%以上24.0%以下であることが好ましく、12.0%以上16.0%以下であることがより好ましい。
【0033】
造形用モルタル組成物の単位体積質量は、1.70t/m3以上2.40t/m3以下であることが好ましく、1.75t/m3以上2.20t/m3以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態に係る造形物の製造方法は、乾式吹付け工法を用いて、造形用モルタル組成物を支持体に吹付けていて、さらに、粉体材料に含まれる骨材の吸水率が7.5%以下であることにより、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することができる。また、前記造形物の製造方法は、乾式吹付け工法を用いているため、吹付け厚さを厚くすることができ、さらに、長距離圧送が可能であることに加えて、ホース内の洗浄も不要である。
【0035】
本実施形態に係る造形物の製造方法は、粉体材料に対する液体材料の質量割合(液/粉体比)が、10.0%以上24.0%以下であることにより、造形可能な硬さになるまでの時間をより短くすると共に、造形可能な硬さをより長時間維持することができる。
【0036】
本実施形態に係る造形物の製造方法は、造形用モルタル組成物の単位体積質量が、1.70t/m3以上2.40t/m3以下であることにより、造形可能な硬さになるまでの時間をより短くすると共に、造形可能な硬さをより長時間維持することができる。
【0037】
<造形用モルタル組成物>
本実施形態に係る造形用モルタル組成物は、本実施形態に係る造形物の製造方法に用いられる造形用モルタル組成物であって、セメント及び骨材を含む粉体材料と、水を含む液体材料と、を含み、骨材の吸水率が、7.5%以下である。すなわち、本実施形態に係る造形用モルタル組成物は、本実施形態に係る造形物の製造方法で記載する粉体材料及び液体材料を含む。
【0038】
本実施形態に係る造形用モルタル組成物は、粉体材料に含まれる骨材の吸水率が7.5%以下であることにより、乾式吹付け工法を用いて造形物を造形する際に、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持することができる。
【0039】
<造形物>
本実施形態に係る造形物は、本実施形態に係る造形用モルタル組成物を硬化させてなる。前記造形物は、単位体積質量が1.70t/m3以上2.40t/m3以下であることが好ましく、1.75t/m3以上2.20t/m3以下であることがより好ましい。
【0040】
本実施形態に係る造形物は、本実施形態に係る造形用モルタル組成物を硬化させてなることにより、造形可能な硬さになるまでの時間を短くすると共に、造形可能な硬さを長時間維持して製造することができる。
【0041】
本実施形態に係る造形物は、単位体積質量が1.70t/m3以上2.40t/m3以下であることにより、造形可能な硬さになるまでの時間をより短くすると共に、造形可能な硬さをより長時間維持して製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(造形用モルタル組成物)
まず、以下の骨材A及びBを表1に示す配合で混合し、骨材1~5を作製した。各骨材の吸水率を表1に示す。
骨材A:高知県産石英砂、密度2.51g/cm3、吸水率0.2%
骨材B:メサライト(日本メサライト工業社製)、密度1.08g/cm3、吸水率10.0%
【0044】
【0045】
次に、セメント(普通ポルトランドセメント、住友大阪セメント社製、密度3.15g/cm3)、及び、上述の骨材を混合して、各粉体材料を得た。また、液体材料としては、水(上水道水、密度1.00g/cm3)を用いた。各成分の配合比、及び、液/粉体比を表2に示す。
【0046】
表2に示す施工方法に従って粉体材料と液体材料とを混練することにより、各実施例及び比較例のモルタル組成物を得た。モルタル組成物の単位体積質量を表2に示す。
【0047】
【0048】
(造形可能時間の測定)
表2に示す施工方法にて、容器内に各モルタル組成物の吹付けを行った。そして、JIS A 1147-2019 コンクリートの凝結時間試験方法に準拠して、貫入抵抗試験を行った。なお、容器は、内径が150mm、内高150mmの金属製の円筒形のものを使用し、貫入針は100mm2、50mm2、25mm2及び12.5mm2の断面積のものを適宜使用した。造形可能な硬さのときの貫入抵抗値を2~8N/mm2として、造形の開始時間(2N/mm2となる時間)及び終了時間(8N/mm2となる時間)、並びに、これらの時間から算出される造形可能な総時間を表3に示す。造形の開始時間は、2時間未満を「○」、2時間以上を「×」と判定した。また、造形可能な総時間は、3時間以上を「○」、3時間未満を「×」と判定した。
【0049】
【0050】
表3の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のモルタル組成物では、吹付け直後から造形可能な硬さであると共に、造形可能な硬さを3時間以上維持することができる。
【0051】
一方、骨材の吸水率が7.5%を超える比較例1のモルタル組成物では、吹付け直後の貫入抵抗値が8N/mm2を超えていて、造形を行うことができなかった。
【0052】
また、湿式吹付け工法を用いた比較例2及び3のモルタル組成物では、造形可能な硬さになるまで時間を要し、かつ、造形可能な硬さを長時間維持することができなかった。