(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】暗渠管敷設装置
(51)【国際特許分類】
E02B 11/02 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
E02B11/02 302B
(21)【出願番号】P 2020212847
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】596029085
【氏名又は名称】株式会社パディ研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晃介
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178508(JP,A)
【文献】特開2010-187611(JP,A)
【文献】特開平11-192001(JP,A)
【文献】特開2019-129821(JP,A)
【文献】特開2010-126990(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0112367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体に牽引されながら地中に溝を形成する溝形成部と、該溝形成部の後方で該溝形成部で形成した溝の底部に向けて可撓性を有する暗渠管をガイドする暗渠管ガイド部と、該暗渠管ガイド部の後方で前記溝内に挿入され、前記溝の底部に敷設された暗渠管の上方の溝内に疎水材を充填する筒状の疎水材充填部と、該疎水材充填部の上方から疎水材充填部内に前記疎水材を落下させるホッパーとを備えた暗渠管敷設装置において、
前記溝形成部は、形成する溝の少なくとも下半部を形成する部分の土砂を上方に掻き上げる土砂掻き上げ部と、該土砂掻き上げ部に連設され、土砂掻き上げ部で掻き上げた土砂を幅方向両側に押し拡げる切削部とからなり、
前記土砂掻き上げ部は、溝形成方向前部側の下端に対して上端が後方に位置した円弧曲面を有し、前記疎水材充填部の下端後端部の高さ位置を超えない位置に設けられ
、
前記切削部は、板端を溝形成方向前部側に向けた切削板と、該切削板の両側面に互いに対称に傾斜して設けられた一対の拡幅板とを有し、
前記土砂掻き上げ部は、前記円弧曲面が板材を曲げた板面からなり、前記板材を前記切削板の板端に固着した状態で、水平方向の断面がT字状に形成され、
前記円弧曲面の幅寸法と前記一対の拡幅板の幅寸法とは同一である
ことを特徴とする暗渠管敷設装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗渠管敷設装置に関し、詳しくは、圃場に形成した溝の底部に暗渠管を敷設するとともに、暗渠管上部の溝内に疎水材を投入する暗渠管敷設装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圃場の地中に排水溝を形成し、該溝内に籾殻などの疎水材を充填した籾殻暗渠を形成することにより、圃場の排水性を向上させることが行われている。籾殻暗渠を形成するための排水溝形成装置は、基本的に、地面下に挿入されて溝を切り開くブレード状の溝形成部と、該溝形成部の後部に連設された籾殻投入用のホッパーとを備えており、トラクタなどの走行体によって排水溝形成装置を牽引しながらホッパー内に籾殻を投入することによって籾殻暗渠を連続して形成するように構成されている(例えば、特許文献1,2,3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4621443号公報
【文献】特開2018-178508号公報
【文献】特開2019-129821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された排水暗渠形成装置では、排水暗渠の掘削形成を開始するための前処理として、ブレードでガイド溝を形成する必要があるため、作業に手間や時間がかかっていた。また、特許文献2に記載された溝形成部では、圃場によって土砂を押し拡げるための大きな力が必要となり、装置を牽引する車両が大型化してしまうという問題があった。特に、形成する溝が深くなるにつれて、押し拡げる下層の土砂には上層部分の重みが加わって抵抗が更に増大し、最悪の場合、車輪がスリップして牽引力が不足する事態に陥ってしまう。さらに、特許文献3に記載された排水溝形成装置では、高さ寸法の大きい土砂掻き上げ部の形状に起因して、下層の石や礫などが掘り起こされたり、作土層の構造に変化をもたらしたりすることから、これらを除去するための後処理に労力を要し、圃場における後の作業に支障を生じるおそれがあった。こうした排水暗渠を形成するための各種装置は、種々の観点から改良がなされてきたが、生産性の高い圃場の適切な整備を行うには十分とはいえなかった。
【0005】
そこで本発明は、圃場の構造を維持しながら排水溝の形成と同時に暗渠管を敷設することが可能な暗渠管敷設装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の暗渠管敷設装置は、走行体に牽引されながら地中に溝を形成する溝形成部と、該溝形成部の後方で該溝形成部で形成した溝の底部に向けて可撓性を有する暗渠管をガイドする暗渠管ガイド部と、該暗渠管ガイド部の後方で前記溝内に挿入され、前記溝の底部に敷設された暗渠管の上方の溝内に疎水材を充填する筒状の疎水材充填部と、該疎水材充填部の上方から疎水材充填部内に前記疎水材を落下させるホッパーとを備えた暗渠管敷設装置において、前記溝形成部は、形成する溝の少なくとも下半部を形成する部分の土砂を上方に掻き上げる土砂掻き上げ部と、該土砂掻き上げ部に連設され、土砂掻き上げ部で掻き上げた土砂を幅方向両側に押し拡げる切削部とからなり、前記土砂掻き上げ部は、溝形成方向前部側の下端に対して上端が後方に位置した円弧曲面を有し、前記疎水材充填部の下端後端部の高さ位置を超えない位置に設けられていることを特徴としている。
【0007】
また、前記切削部は、板端を溝形成方向前部側に向けた切削板と、該切削板の両側面に互いに対称に傾斜して設けられた一対の拡幅板とを有し、前記土砂掻き上げ部は、前記円弧曲面が板材を曲げた板面からなり、前記板材を前記切削板の板端に固着した状態で、水平方向の断面がT字状に形成され、前記円弧曲面の幅寸法と前記一対の拡幅板の幅寸法とは同一であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の暗渠管敷設装置によれば、溝形成部が溝の少なくとも下半部を形成する土砂掻き上げ部と、該土砂掻き上げ部で掻き上げた土砂を幅方向両側に押し拡げる切削部とからなるので、走行体の推進力を用いて横方向に動きにくい下層の土砂を持ち上げて、その土砂に加わる重みを軽減することが可能になる。これにより、持ち上げた土砂に対して、切削部による横方向へのずらし動作が少ない力で行えることから、比較的小型の走行体で装置を牽引した場合であっても排水溝を容易に形成することができる。しかも、土砂掻き上げ部を疎水材充填部の下端後端部の高さ位置を超えない位置に設けるので、石や礫などが作土層に上げられる不具合を防止することができる。すなわち、施工する圃場に対して前処理も後処理もいらない暗渠管敷設装置が達成され、生産性の高い圃場の適切な整備に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の暗渠管敷設装置の一形態例を示す側面図である。
【
図3】同じく暗渠管敷設装置の進行方向後部側から見た正面図である。
【
図4】同じく暗渠管敷設装置の進行方向前部側から見た要部の斜視図である。
【
図5】同じく暗渠管敷設装置の進行方向前部側から見た要部の断面斜視図である。
【
図6】同じく暗渠管敷設装置の進行方向後部側から見た要部の斜視図である。
【
図7】同じく暗渠管敷設装置の進行方向前部側から見た要部の正面図である。
【
図8】同じく暗渠管敷設装置の進行方向後部側から見た要部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至
図15は、本発明の暗渠管敷設装置の一形態例を示している。本形態例に示す暗渠管敷設装置10は、矩形状の基本フレーム11の前部側下部に設けられて圃場の地中にあらかじめ設定された形状の溝12を掘削形成するための溝形成部13と、該溝形成部13の後方で、該溝形成部13で形成した溝12の底部に暗渠管14をガイドするための暗渠管ガイド部15と、該暗渠管ガイド部15の後方で前記溝12内に挿入されて籾殻などの疎水材16を充填するための疎水材充填部17と、該疎水材充填部17の上方から疎水材充填部17内に前記疎水材16を落下させるためのホッパー18と、該ホッパー18の上端に開口した矩形状の開口部18aの周囲に設けられた水平方向の作業デッキ部19と、前記開口部18aの3辺から作業デッキ部19の上面より上方に向かって鉛直方向に突設した疎水材ガイド板20と、前記暗渠管ガイド部15から溝12の底部に送出される暗渠管14を溝12の底面に向けて押圧する暗渠管押圧部材21と、前記疎水材充填部17の後端上部に設けられて溝12内に充填される疎水材16の充填高さを設定する疎水材高さ設定部材22と、前記基本フレーム11の後部側一側で前記暗渠管14を巻回したホースリール23を回転可能に保持するリール保持部24とを備えており、基本フレーム11の前端部には、走行体の一種であるブルドーザ51の後部に連結するための走行体連結部25が設けられ、ホッパー18の前部には、前記暗渠管ガイド部15の上端が開口するとともに、暗渠管敷設装置10の上下方向位置を検出するためのレーザ受光器26が取り付けられている。
【0011】
暗渠管14は、周面に多数の通孔を形成した長尺で可撓性を有する合成樹脂製であって、所定長さの暗渠管14がホースリール23に巻回された状態となっている。また、暗渠管14は、圃場の状態などに応じて適切な口径を有するものが選択される。リール保持部24は、従来からこの種の暗渠管敷設装置に設けられているリール保持部と同様に形成されており、リール保持部24に保持したホースリール23の暗渠管14が尽きてホースリール23が空になると、作業を一旦停止し、空のホースリール23を取り外して、暗渠管14を巻回した新たなホースリール23をリール保持部24に取り付け、前の暗渠管14の後端と新たな暗渠管14の先端とを接続してから作業を再開する。
【0012】
暗渠管ガイド部15は、暗渠管14の最大外径より大きな内面寸法を有する筒状体によって形成されており、挿入される暗渠管14の動きを考慮した前傾姿勢で溝形成部13の後方に沿うようにして設けられている。暗渠管ガイド部15の上端には、ホースリール23から巻き出された暗渠管14の挿入口15aが上方に開口しており、暗渠管ガイド部15の下端部は後方に向けて屈曲しており、下端には、暗渠管14を溝12の底部に向けて送り出すための送出口15bが後方に向かって開口している。
【0013】
疎水材充填部17は、溝12の内面幅寸法に対応した外面幅寸法を有しており、上下方向が開口した偏平な角筒状に形成され、下端縁は、暗渠管ガイド部15の送出口15b上縁に位置した下端前端部FHから後方に向かって上昇した傾斜が設けられており、下端後端部RHは、溝12内に充填される疎水材16の最大充填高さに対応した位置に設けられている。疎水材16の充填高さは圃場によって異なるが、少なくとも作土層と呼ばれる植物の生育に必要な土壌層の厚さ(15~20cm程度)を考慮して、溝12の深さの60~70%程度に設定され、例えば、溝12の深さが80cmであれば、疎水材16の充填高さは50cm程度に設定される。これにより、暗渠管14が敷設された溝12内において作土層と疎水材16の充填層とが上下方向に区画される。
【0014】
溝形成部13は、複数の鋼板材を組み合わせた溶接構造であって、所定深さ、例えば、50~80cm程度の深さの溝12を形成するもので、溝12の少なくとも下半部を形成する部分の土砂を上方に掻き上げる土砂掻き上げ部27と、該土砂掻き上げ部27に連設され、土砂掻き上げ部27で掻き上げた土砂を幅方向両側に押し拡げる切削部28とを備えている。
【0015】
土砂掻き上げ部27は、溝形成方向前部側の下端が底板29の先端に接続されるとともに、溝12の底面となる部分の土砂を掻き上げて溝底面を形成するために先鋭化され、この下端に対して上端が後方に位置した円弧曲面30を有している。円弧曲面30は、鋼板材に曲げを施して形成された板面であって、形成する溝幅に対応した幅寸法を有し、先端及び後端を通る平面が底板29の板面との間で略45度の傾斜を有している。また、土砂掻き上げ部27は、疎水材充填部17の下端後端部RHの高さ位置を超えない高さ位置に設けられている。すなわち、土砂掻き上げ部27は、例えば、深さ80cmの溝12を形成する場合、溝12の少なくとも下半部に対応する高さ寸法40cmを有し、かつ、疎水材充填部17の下端後端部RHで規定される位置、つまり疎水材16の充填高さ50cmを超えない位置に設けられることにより、溝12内における土砂掻き上げ部27(円弧曲面30)と作土層との上下間に10~20cm程度の厚さを有する中間層が確保される。これにより、土砂掻き上げ部27で掻き上げられた土砂が上方へ移動した場合であっても、土中の下層に埋まった石、礫などが作土層に上がらずに、中間層に止まるようになる。
【0016】
切削部28は、鋼板材の板端31aを溝形成方向前部側に向けた切削板31と、該切削板31の両側に設けられた幅方向一対の拡幅板32,32とを有している。切削板31は、板端31aの上部側が暗渠管ガイド部15の傾斜に沿って上下方向に延び、下部側が円弧曲面30の形状に整合した突出形状を有して形成されている。両拡幅板32,32は、組み合わせた状態で、形成する溝幅に対応した幅寸法を有し、該幅寸法が暗渠管14の最大外径より幅広となるように、切削板31の両側面に互いに対称に傾斜して設けられるとともに、外側端部が暗渠管ガイド部15の外側面に連設している。これにより、切削部28と一体化した土砂掻き上げ部27は、溝形成方向に対して強度が高められ、
図11や
図12などにも示すように、円弧曲面30を有する鋼板材を切削板31の板端31aに固着した状態で、水平方向の断面がT字状に形成されるとともに、円弧曲面30の裏面と両拡幅板32,32との前後間に空間Sが設けられている。
【0017】
疎水材充填部17の上部に連設したホッパー18は、疎水材充填部17の上部開口と同形状に形成された下端開口に対して上方が左右方向に拡開した角形漏斗状に形成されており、上端に矩形状の開口部18aが形成されている。また、疎水材充填部17の上部開口から上端の開口部18aに向かう左右の側壁18b,18bは、ホッパー18の内方に向かって緩やかな凸となる曲面で形成されており、疎水材16が円滑に落下するようにしている。このホッパー18の容量は、一般的に流通している疎水材入り袋の一袋分、例えば、100リットル程度の容量に形成されており、開口部18aの高さは、地面から20~40cm程度に設定されている。
【0018】
さらに、疎水材充填部17からホッパー18にわたる前端面上下方向には、暗渠管押圧部材21の高さ位置を調節するための押圧位置調節部材33が設けられ、後端面上下方向には、疎水材高さ設定部材22の高さ位置を調節するための充填高さ調節部材34が設けられている。
【0019】
暗渠管押圧部材21は、一端に押圧ローラ21aを回転可能に装着したL字状のリンクレバー21bの他端を、暗渠管ガイド部15と疎水材充填部17とを連結する左右の連結板間に設けられた支軸21cによって回動可能に支持したものであって、リンクレバー21bの中間部には、押圧位置調節部材33のリンク棒33aの下端が前後方向にスライド可能に係合するスリット21dが形成されている。
【0020】
リンク棒33aの上端には、ホッパー18の前方に突出するストッパーピン33bが設けられるとともに、前部側疎水材ガイド板20の外面には、ストッパーピン33bを係止するための円盤状係止部材35が回転可能に取り付けられている。円盤状係止部材35には、深さが異なる半径方向の挿入溝35aと、該挿入溝35aの内端から周方向に屈曲した係止溝35bとが4箇所に設けられており、円盤状係止部材35を回転させて所定深さの挿入溝35aを上方に向け、該挿入溝35aに前記ストッパーピン33bを上方から挿入した後、円盤状係止部材35を回転させて係止溝35bの端部にストッパーピン33bを係止させることにより、リンク棒33a及びリンクレバー21bを介して押圧ローラ21aを所定高さに固定した状態にできるように形成されている。これにより、
図10に実線で示す最小口径の暗渠管に対応した最下降位置と、想像線で示す最上昇位置との間の4段階に押圧ローラ21aの高さを調節することができ、作業時の振動によって挿入溝35aとストッパーピン33bとの係止状態が外れないようにしている。
【0021】
また、疎水材高さ設定部材22は、ホッパー18の後部外面に設けられた左右一対のガイド部材22a,22a間に、上下方向に長い長方形状の調節板22bを上下方向にスライド可能に装着したものであって、充填高さ調節部材34は、前記調節板22bの上端部に連結された連結棒34aを介して設けられた調節レバー36を有している。調節レバー36は、一端を後部側疎水材ガイド板20の側方から突出した支持板36aに固着した支軸36bに回動可能に装着したもので、他端には、疎水材ガイド板20の外面に設けた円弧状の係止歯部材36cに噛合する噛合部材36dが設けられている。係止歯部材36cには、複数の係止歯が設けられており、調節レバー36の他端を上下方向に回動させて噛合部材36dを所定の係止歯に係止させることにより、連結棒34aを介して調節板22bを所定の高さに調節することができ、疎水材16の充填高さを所定高さに設定できる。また、係止歯部材36cと噛合部材36dとを係止させることにより、作業時の振動によって係止状態が外れないようにしている。
【0022】
本形態例における作業デッキ部19は、前記ホッパー18の開口部18aに対して作業時進行方向の左側に設けられており、作業者が一人以上立てるとともに、所定量の疎水材16を詰めた袋を1個以上載置可能な広さを有している。さらに、疎水材投入後の空き袋を回収する籠や箱を載置可能なスペースを有する広さに形成されている。この作業デッキ部19の上面は、開口部18aの上端縁と面一となっており、段差が生じないようにしている。また、ホッパー18の開口部18aに対して作業時進行方向右側前部には、暗渠管ガイド部15内への暗渠管14の挿入や暗渠管14の後端と前端との接続などを行うための補助デッキ部19aが設けられている。
【0023】
疎水材ガイド板20は、ホッパー18の開口部18aに対して作業時進行方向の前部側、後部側及び右側に、上部開口の三方を囲む状態で設けられており、作業デッキ部19が設けられた左側には設けられていない。疎水材ガイド板20の高さは、ホッパー18内に疎水材16を投入する際に、疎水材16が周囲に飛散しない程度に設定されており、作業デッキ部19上から疎水材16を投入する方向に対向する作業時進行方向右側の疎水材ガイド板20を他より高く形成することが好ましい。また、作業時進行方向の後部側の疎水材ガイド板20を、作業デッキ部19側に突出させておくことにより、作業時の後方への安全性も向上する。
【0024】
また、本形態例に示す暗渠管敷設装置10では、ホッパー18の内部に疎水材16をほぐすための疎水材撹拌部材37を設けている。この疎水材撹拌部材37は、両端部をホッパー18の前後壁に回転可能に支持された回転軸37aの周囲に複数の撹拌羽根37bを突設させたもので、回転軸37aの一端に連結した電気モータや油圧モータなどの駆動手段37cで回転軸37aを回転させて撹拌羽根37bで疎水材16を撹拌することにより、疎水材16にブリッジが発生することをより確実に防止している。
【0025】
このように形成された暗渠管敷設装置10が使用される圃場では、耕起を行った際に石や礫などが取り除かれた作土層が形成されている。こうした圃場に、地表から所定深さの位置に暗渠管14を敷設する場合、暗渠管敷設装置10は、自走可能な走行体であるブルドーザ51の後部に設けられた平行リンク部材51aに前記走行体連結部25を連結した状態で暗渠管敷設作業を行う。
【0026】
暗渠管敷設作業における溝12の底面位置、つまり、溝形成部13の土砂掻き上げ部27の下端が描く移動軌跡は、レーザ受光器26で受光した基準レーザ光によって平行リンク部材51aに設けたシリンダ51bを伸縮させることにより、一定の水勾配が得られるように高さが調節される。また、暗渠管敷設作業を行う前に、暗渠管敷設位置に沿って疎水材入り袋を所定間隔で配置しておく。この疎水材入り袋の配置作業は、トラックなどの適宜な走行体の荷台に載置した疎水材入り袋を、溝内への疎水材16の投入量に応じた間隔で地面上に落としていけばよい。
【0027】
暗渠管敷設作業は、ブルドーザ51を所定の速度、例えば歩行速度程度で移動させて行う。このとき、作業者の一人は、暗渠管敷設装置10の移動に伴って歩きながら、地面上に配置された疎水材入り袋を作業デッキ部19の上面に載置していく。別の作業者は、作業デッキ部19の上に乗った状態で、作業デッキ部19の上面に載置された疎水材入り袋の袋の一端を切断するなどして開封し、開封した部分がホッパー18の開口部18a内に入るようにして袋を倒した後、袋の他端を持ち上げて袋内の疎水材16をホッパー18内に投入していく。このとき、作業デッキ部19の上面と開口部の上縁とを面一にしているので、作業デッキ部19の上に疎水材が落下しても、ホッパー18内に容易に投入することができる。
【0028】
ブルドーザ51に牽引された暗渠管敷設装置10の移動に伴い、溝形成部13における土砂掻き上げ部27と切削部28とが同時に作用し、所定深さ(例えば60cm)で所定幅(例えば14cm)の鉛直方向の溝12が形成される。このとき、土砂掻き上げ部27の裏面(空間S)には、ほぐれた土砂の一部が回り込むが、後に続く切削部28の拡幅板32に土砂が当接して幅方向両側に押し拡げられる。また、土砂掻き上げ部27で掻き上げられた低層の土砂には石や礫が含まれている場合があるが、これらは溝12の形成と同時に、土砂掻き上げ部27の円弧曲面30に沿って持ち上げられた後、拡幅板32に当接して幅方向左側又は右側に押しのけられていく。
【0029】
ここで、土砂掻き上げ部27は、溝12の少なくとも下半部(例えば30cm)に対応する高さ寸法を有し、かつ、疎水材充填部17の下端後端部RHで規定される位置、つまり疎水材16の充填高さ(例えば40cm)を超えない位置に設けられているので、溝12内における土砂掻き上げ部27と作土層との上下間に中間層が確保される。これにより、土砂掻き上げ部27で掻き上げられた土砂が上方へ移動しても石や礫などが作土層に上がらずに中間層に止められる。
【0030】
こうして形成された溝12内において、暗渠管ガイド部15でガイドされた暗渠管14が溝12の底部に連続的に送出されると、押圧位置調節部材33によって所定位置に調節された押圧ローラ21aが暗渠管14を溝12の底面に押圧していくので、暗渠管14は、溝12の底面に沿って確実に敷設される。そして、ホッパー18内に投入された疎水材16は、溝底面の暗渠管14の上方を覆うようにして疎水材充填部17の下部開口から溝12内に充填される。また、充填高さ調節部材34の調節板22bの高さを調節レバー36で調節することにより、疎水材16の充填高さが所望する高さにおいて均一に保たれる。
【0031】
このように、本発明の暗渠管敷設装置10によれば、溝形成部13が溝12の少なくとも下半部を形成する土砂掻き上げ部27と、該土砂掻き上げ部27で掻き上げた土砂を幅方向両側に押し拡げる切削部28とからなるので、走行体の推進力を用いて横方向に動きにくい下層の土砂を持ち上げて、その土砂に加わる重みを軽減することが可能になる。これにより、持ち上げた土砂に対して、切削部28による横方向へのずらし動作が少ない力で行えることから、比較的小型の走行体で装置を牽引した場合であっても排水溝を容易に形成することができる。しかも、土砂掻き上げ部27を疎水材充填部17の下端後端部RHの高さ位置を超えない位置に設けるので、石や礫などが作土層に上げられる不具合を防止することができる。すなわち、施工する圃場に対して前処理も後処理もいらない暗渠管敷設装置10が達成され、生産性の高い圃場の適切な整備に資するものである。
【0032】
また、切削部28が板端31aを溝形成方向前部側に向けた切削板31と、該切削板31の両側面に互いに対称に傾斜して設けられた一対の拡幅板32,32とを有し、土砂掻き上げ部27が円弧曲面30を有する板材を切削板31の板端31aに固着した状態で、水平方向の断面をT字状に形成しているので、円弧曲面30の裏面と両拡幅板32,32との前後間に空間Sを設けた構造が安価に達成できる。これにより、溝12を形成する際に、形成した溝12の側壁を押圧しないので、溝12を形成する際の抵抗が大幅に低減され、しかも、不透水壁を形成することはなく、溝形成時に側壁部分の土砂がほぐされた状態になり、地中の水が溝12内に流れやすくなることから、排水効果を向上させることができる。
【0033】
なお、本発明の暗渠管敷設装置は、前記形態例に限定されるものではなく、溝形成部の大きさは、土砂を下層から中層まで上げて溝形成時の抵抗を少なくできる構造であればよく、暗渠管の敷設に要する溝の形状や深さ、作土層の厚さなどの条件に応じて、例えば、土砂掻き上げ部と切削部との幅に多少の差を設けるなど、その大きさを適宜に変更することができる。また、土砂掻き上げ部の配置を疎水材充填部の下端後端部の位置との関係で高さ方向に規定した上で、円弧曲面を斜辺とする略直角三角形を相似的に拡大又は縮小すれば、各種条件に適う大きさ(サイズ)の溝形成部が得られることから、暗渠管敷設装置が使用される多様な環境に広く対応することができる。
【符号の説明】
【0034】
10…暗渠管敷設装置、11…基本フレーム、12…溝、13…溝形成部、14…暗渠管、15…暗渠管ガイド部、15a…挿入口、15b…送出口、16…疎水材、17…疎水材充填部、18…ホッパー、18a…開口部、18b…側壁、19…作業デッキ部、19a…補助デッキ部、20…疎水材ガイド板、21…暗渠管押圧部材、21a…押圧ローラ、21b…リンクレバー、21c…支軸、21d…スリット、22…疎水材高さ設定部材、22a…ガイド部材、22b…調節板、23…ホースリール、24…リール保持部、25…走行体連結部、26…レーザ受光器、27…土砂掻き上げ部、28…切削部、29…底板、30…円弧曲面、31…切削板、31a…板端、32…拡幅板、33…押圧位置調節部材、33a…リンク棒、33b…ストッパーピン、34…充填高さ調節部材、34a…連結棒、35…円盤状係止部材、35a…挿入溝、35b…係止溝、36…調節レバー、36a…支持板、36b…支軸、36c…係止歯部材、36d…噛合部材、37…疎水材撹拌部材、37a…回転軸、37b…撹拌羽根、37c…駆動手段、51…ブルドーザ、51a…平行リンク部材、51b…シリンダ