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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】癌治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20240829BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240829BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240829BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240829BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K9/14
A61K47/04
C12N15/113 Z ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021524810
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021318
(87)【国際公開番号】W WO2020246380
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019105500
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517111918
【氏名又は名称】株式会社キャンサーステムテック
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩文
(72)【発明者】
【氏名】呉 しん
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507866(JP,A)
【文献】特表2016-513950(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181877(WO,A1)
【文献】"KLF5 Regulates the Integrity and Oncogenicityof Intestinal Stem Cells",CANCER RES.,vol.74 no.10,2014年,p.2882- 2891
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7105
A61P 35/00
A61P 43/00
A61K 48/00
A61K 9/14
A61K 47/04
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-4711-5pを有効成分として含む、癌治療剤。
【請求項2】
miR-4711-5pが、成熟型miRNA、pri-miRNA、又はpre-miRNAである、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項3】
miR-4711-5pが、炭酸アパタイト粒子に複合化されている、請求項1又は2に記載の癌治療剤。
【請求項4】
miR-4711-5pを有効成分として含む、癌幹細胞の増殖抑制剤。
【請求項5】
miR-4711-5pの癌治療剤の製造のための使用。
【請求項6】
miR-4711-5pの癌幹細胞の増殖抑制剤の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療剤に関する。より具体的には、本発明は、優れた抗腫瘍効果を奏し、しかも癌幹細胞の幹細胞性を低下させることもできる癌治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
miRNAは、18~24ヌクレオチドからなる小さなRNAで真核生物に広く存在しており、ヒトでは数千のmiRNAの存在が明らかになっている。miRNAは、1993年に初めて報告された内在性に発現する短いRNAである。DNAからpri-miRNAと呼ばれるループ構造を持つRNAが転写される。ループが酵素によって切断され、pre-miRNAを作る。このpre-miRNAが核外に輸送され、Dicerにより20~25塩基程度のmiRNA配列が切り出される。これがRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれるリボ核酸とArgonoute(アルゴノート)蛋白の複合体に取りこまれることでmiRNA-RISC複合体を形成し、mRNAの3'UTRと結合して遺伝子発現を抑制する。miRNAとmRNAの結合は不完全であるため標的遺伝子は1つとは限らず、複数の遺伝子を標的として制御することが可能である点が重要な特徴である。また、miRNAは、生体内の遺伝子発現の制御に重要な役割を果たしており、miRNAの制御システムの異常は、多くの疾患の原因や進展に関与していることも明らかにされている。特に、癌の発症や進展に関連性を示すmiRNAについて種々解明されており、癌治療用の核酸医薬の担い手として注目されている。
【0003】
一方、癌細胞には、自己増殖能があり、周辺組織への浸潤や離れた組織への転移が可能であるという特性がある。しかしながら、癌組織を形成している癌細胞の全てにおいて、これらの特性を備わっているのではなく、癌を発症させたり、癌を進行させたりする癌細胞は、癌細胞の中でもごく僅かにしか存在しない癌幹細胞であることが分かっている。癌幹細胞は、正常幹細胞と同様に未分化な表面形質を示し、自己複製能と多分化能を有し、癌組織を構成する多様な分化段階にあるあらゆる癌細胞を生みだす特性を有している。即ち、癌幹細胞は、癌組織中で自己複製により自分と同じ細胞を維持しつつ、分化によって大多数の癌細胞を生み出すもとになっていると考えられている。そのため、癌幹細胞自体を治療対象とすることが癌の根治につながると考えられている。
【0004】
また、KLF5は、ジンクフィンガー転写因子であるKLFファミリーの1つである。KLF5は、正常腸管では陰窩において強く発現しているが、癌部では広く発現してWnt/Catnbシグナル伝達を増強することにより癌細胞の増殖を促進することが明らかになっている(非特許文献1)。また、Lgr5陽性細胞やマウスにおいてKlf5を欠損させと腫瘍が形成されないことも報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Takeo Nakaya et al., Cancer Res; 74(10) May 15, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、KLF5は癌化に必要な要素であり、癌幹細胞との関連が示唆されているが、従来、KLF5に結合でき癌の治療に有効なmiRNAは見出されていない。また、試験例2に示しているように、KLF5に結合できるmiRNAであっても、癌細胞に対する増殖抑制効果を示さないものは多数存在している。このような状況の下、本発明の目的は、癌の効果的な治療を可能にする癌治療用の核酸医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、miR-4711-5pは、癌化に関与するKLF5のmRNAに結合するだけでなく、細胞周期がG1期からS期に移行する上で重要なTFDP1のmRNAにも結合する特性があることが判明した。更に、miR-4711-5pは、細胞のアポトーシスや細胞周期の制御に重要なp53を抑制するMDM2の発現を抑えることも確認できた。miR-4711-5pは、KLF5、TFDP1、及びMEM2の発現を抑制でき、その結果、効果的に癌細胞の増殖、浸潤、及び遊走を抑制し、細胞をG1期に留め、更に癌細胞のアポトーシスを誘導できることを見出した。また、miR-4711-5pには、癌幹細胞の幹細胞性を低下させる作用があり、癌幹細胞の増殖抑制に有効であることをも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. miR-4711-5pを有効成分として含む、癌治療剤。
項2. miR-4711-5pが、成熟型miRNA、pri-miRNA、又はpre-miRNAである、項1に記載の癌治療剤。
項3. miR-4711-5pが、炭酸アパタイト粒子に複合化されている、項1又は2に記載の癌治療剤。
項4. miR-4711-5pを有効成分として含む、癌幹細胞の増殖抑制剤。
項5. miR-4711-5pの癌治療剤の製造のための使用。
項6. 癌の治療のための処置に使用される、miR-4711-5p。
項7. miR-4711-5pを癌患者に治療有効量投与する、癌の治療方法。
項8. miR-4711-5pの癌幹細胞の増殖抑制剤の製造のための使用。
項9. 癌幹細胞の増殖を抑制するための処置に使用される、miR-4711-5p。
項10. miR-4711-5pを癌患者に治療有効量投与し、癌幹細胞の増殖を抑制させる、癌幹細胞の増殖抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の癌治療剤は、癌幹細胞に関与するKLF5のmRNAだけでなく、細胞周期がG1期からS期に移行させるのに必要なTFDP1や、p53の抑制を行うMDM2のmRNAにも結合して、優れた抗腫瘍効果を奏し、癌細胞の増殖、浸潤、及び遊走を抑制し、更に癌細胞のアポトーシスを効果的に誘導することができる。また、本発明の癌治療剤は、癌幹細胞の幹細胞性を低下させることもできるので、癌幹細胞の増殖抑制が可能であり、癌治療用の核酸医薬として臨床上の有用性が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】41種類の候補miRNAをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、HCT116、及びHT29)の増殖試験を行った結果を示す図である。
図2】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)におけるKLF5 mRNA発現量を測定した結果を示す図である。
図3】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)におけるKLF5(タンパク質)発現量を測定した結果を示す図である。
図4】デュアルルシフェラーゼアッセイによりmiR-4711-5pとKLF5の結合を確認した結果を示す図である。
図5】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)の細胞増殖試験を行った結果を示す図である。
図6】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)の浸潤アッセイを行った結果を示す図である。
図7】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)の細胞遊走能を評価した結果を示す図である。
図8】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)におけるAnnexin Vで染色される細胞、即ちアポトーシスを起こしている細胞の割合を測定した結果を示す図である。
図9】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)におけるp53、サバイビン、cPARP、及びcCaspase3の発現量を測定した結果を示す図である。
図10】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)におけるKLF5、CD44v9、LGR5、BMI1、及びLRIG1のmRNA量を測定した結果を示す図である。
図11】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1)におけるCD44v9陽性細胞の割合を測定した結果を示す図である。
図12】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1)における活性酸素種活性を測定した結果を示す図である。
図13】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)におけるスフェアー形成能を評価した結果を示す図である。
図14】miR-4711-5pまたはnegative controlをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1)の次世代シークエンスの結果を用いてIngenuity Pathways Analysisを行った結果を示す図である。
図15】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)について細胞周期アッセイを行った結果を示す図である。
図16】miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)における、G1期/S期チェックポイントの制御に関わるタンパク質(TFDP1、E2F1、Rb、CCNE、CDK2、p53、p21、p27、CCND1、CDK2、CDK6、及びMDM2)とβ-アクチン(ACTB)のタンパク質レベルでの発現量を測定した結果を示す図である。
図17】デュアルルシフェラーゼアッセイによりmiR-4711-5pとTFDP1の結合を確認した結果を示す図である。
図18】デュアルルシフェラーゼアッセイによりmiR-4711-5pとMDM2の結合を確認した結果を示す図である。
図19】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍サイズを経時的に測定した結果を示す図である。
図20】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、14日目にマウスから摘出した腫瘍を観察した結果を示す図である。
図21】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、マウスの体重を経時的に測定した結果を示す図である。
図22】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、14日目にマウスから摘出した各組織をヘマトキシリン・エオジン染色して観察した結果を示す図である。
図23】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍におけるmiR-4711-5p量を測定した結果を示す図である。
図24】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍におけるKLF5、TFDP1、MDM2、及びACTBのmRNA量を測定した結果を示す図である。
図25】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍におけるKLF5、TFDP1、MDM2、及びACTBのタンパク質レベルでの発現量を測定した結果を示す図である。
図26】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍組織をTUNELアッセイした結果を示す図である。
図27】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍組織をTUNELアッセイした結果を示す図である。
図28】マウス皮下固形腫瘍モデル(大腸癌細胞株DLD-1)において、腫瘍におけるcPARP、cCaspase3、及びACTBの蛋白量を測定した結果を示す図である。
図29】miR-4711-5p、miR-21-5p、miR-152-5p、miR-153-3p、miR-448-3p、及びmiR-34aをトランスフェクションした大腸癌細胞株(DLD-1、及びHCT116)の細胞増殖試験を行った結果を示す図である。縦軸は、450nmの吸光度を示す。
図30】大腸癌患者から得られた大腸癌細胞にmiR-4711-5p及びmiR-34aをトランスフェクションし、72時間後に細胞の状態を観察した結果を示す図である。
図31】大腸癌患者から得られた大腸癌細胞にmiR-4711-5p及びmiR-34aをトランスフェクションし、細胞増殖試験を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.癌治療剤
本発明の癌治療剤は、有効成分としてmiR-4711-5pを含むことを特徴とする。以下、本発明の癌治療剤について詳述する。
【0012】
[有効成分]
本発明の癌治療剤では、有効成分としてmiR-4711-5pを使用する。miR-4711-5pは、ヒト由来のmiRNAであり、その塩基配列は、成熟型miRNA(mature-miRNA)であれば、5'-UGCAUCAGGCCAGAAGACAUGAG-3'(配列番号1)である。
【0013】
本発明の癌治療剤において、有効成分として使用されるmiR-4711-5pは、成熟型miRNAであってもよく、またヘヤピン型前駆体miRNA(pri-miRNA)や、pri-miRNAの一部が切断されたpre-miRNAであってもよい。当該pri-miRNAやpre-miRNAは、細胞内でプロセシングを受けて成熟型miRNAになる。また、前記各miRNAは、相補的な塩基配列を有するRNAとからなる二本鎖の前駆体を形成していてもよい。当該二本鎖の前駆体は、癌細胞内で二本鎖が解けて成熟型miRNAを遊離させる。また、ヘヤピン型前駆体miRNAやpre-miRNAの塩基配列については、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドを成熟型miRNAとして生じさせるように設定すればよく、このような塩基配列は当業者にとって適宜設定可能である。
【0014】
有効成分として使用されるmiRNAは、酵素に対する分解耐性等を付与するために、必要に応じて、一般的に核酸に施される各種修飾がなされていてもよい。このような修飾としては、例えば、2'-Oメチル化等の糖鎖部分の修飾;塩基部分の修飾;アミノ化、低級アルキルアミノ化、アセチル化等のリン酸部分の修飾等が挙げられる。
【0015】
[適用対象]
本発明の癌幹細胞の癌治療剤の適用対象となる癌種については、特に制限されないが、例えば、大腸癌、食道癌、結腸癌、胃癌、直腸癌、肝臓癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮頚癌、腎臓癌、脳腫瘍、頭頚部癌、胆管癌、胆嚢癌、口腔癌等の固形癌;白血病、悪性リンパ腫等の血液癌が挙げられる。これらの癌種の中でも、好ましくは固形癌、更に好ましくは大腸癌が挙げられる。
【0016】
また、本発明の癌治療剤は、癌幹細胞の増殖を抑制することもできるので、化学療法が効かなかった癌に対しても有効な治療効果が認められ得るので、本発明の癌幹細胞の癌治療剤の適用対象の一態様として、化学療法が効かなかった癌が挙げられる。
【0017】
[投与方法]
本発明の癌治療剤の投与方法としては、miR-4711-5pを生体内で前記癌の組織又は細胞に送達できることを限度として特に制限されないが、例えば、血管内(動脈内又は静脈内)注射、持続点滴、皮下投与、局所投与、筋肉内投与、腹膜内投与等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは動静脈内投与が挙げられる。
【0018】
本発明の癌治療剤の投与量については、適用対象となる癌幹細胞の種類、患者の性別、年齢、症状等に応じて適宜決定されるため、一概に決定することはできないが、例えば、miR-4711-5pの成熟型miRNA量換算で1日当たり1~100mg/m2(体表面積)程度が挙げられる。
【0019】
[製剤化]
本発明の癌治療剤は、miR-4711-5pが癌幹細胞内に送達されて機能発現することにより、癌治療効果を奏するので、本発明の癌治療剤はmiR-4711-5pが癌細胞内に送達され易いように、miRNA導入剤と共に製剤化されていることが望ましい。このようなmiRNA導入剤としては、特に制限されず、例えば、炭酸アパタイト粒子、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト等のいずれであってもよい。これらのmiRNA導入剤の中でも、炭酸アパタイト粒子は、生体内で癌細胞に集積させて癌細胞内へのmiR-4711-5pの移行を効率的に行うことができるので、本発明の癌治療剤の好適な一態様としては、miR-4711-5pが炭酸アパタイト粒子との混合状態、又はmiR-4711-5pが炭酸アパタイト粒子に複合化(内包)されてなる複合粒子の状態で存在するものが挙げられる。
【0020】
以下、miR-4711-5pの導入剤として使用される炭酸アパタイト粒子について説明する。
【0021】
(炭酸アパタイト粒子)
炭酸アパタイトは、水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の水酸基の一部をCO3で置換した構造を有し、一般式Ca10-mXm(PO4)6(CO3)1-nYnで表される化合物である。ここで、Xは、炭酸アパタイトにおけるCaを部分的に置換し得る元素であり、例えば、Sr、Mn、希土類元素等が挙げられる。mは、通常0以上1以下の正数であり、好ましくは0以上0.1以下であり、より好ましくは0以上0.01以下であり、更に好ましくは0以上0.001以下である。Yは、炭酸アパタイトにおけるCO3を部分的に置換しうる基又は元素であり、OH、F、Cl等が挙げられる。nは、通常0以上0.1以下の正数であり、好ましくは0以上0.01以下であり、より好ましくは0以上0.001以下であり、更に好ましくは0以上0.0001以下である。
【0022】
本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の平均粒子径については、生体内に投与されて、細胞内へ移行できる程度の大きさである限り、特に制限されない。具体的には、本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の平均粒子径として、通常30nm超、好ましくは30~3000nm、更に好ましくは30~2000nm、特に好ましくは30~1500nmが挙げられる。
【0023】
なお、前記の炭酸アパタイトの平均粒子径は、動的光散乱法粒子計測(DLS)により測定される値である。DLSを用いた測定に適さない巨大な粒子(例えば、粒径5μm以上)が存在する場合は、それらは測定対象範囲から除去される。また、本明細書において、粒径とは、走査型プローブ顕微鏡で測定した際に、別個の粒子として認識可能な独立した粒子の粒径を意味する。よって、複数の粒子が凝集している場合は、それらの集合体を一つの粒子と判断する。
【0024】
炭酸アパタイト粒子は、公知の手法に従って得ることができる。例えば、水溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンを共存させることによって調製することにより得ることができる。水溶液中の各イオン濃度は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されず、下記を参考に適宜設定することができる。
【0025】
水溶液中のカルシウムイオン濃度は、通常0.1~1000mM、好ましくは0.5~100mM、更に好ましくは1~10mMが挙げられる。
【0026】
水溶液中のリン酸イオン濃度は、通常0.1~1000mM、好ましくは0.5~100mM、更に好ましくは1~10mMが挙げられる。
【0027】
水溶液中の炭酸水素イオン濃度は、通常1.0~10000mM、好ましくは5~1000mM、更に好ましくは10~100mMが挙げられる。
【0028】
カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンの供給源としては、水溶液中にこれらのイオンを供給可能である限り特に制限されないが、例えば、これらのイオンの水溶性塩が挙げられる。具体的には、カルシウムイオン源としてCaCl2を用いることができ、リン酸イオン源としてNaH2PO4・2H2Oを用いることができ、炭酸イオン源としてNaHCO3を用いることができる。
【0029】
炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り、上述する各イオン供給源及び他の物質以外の成分を含んでも良い。例えば、水溶液中に上記組成物中に、フッ素イオン、塩素イオン、Sr、Mn等を添加することにより、炭酸アパタイトにおけるCa又はCO3を部分的に置換してもよい。但し、フッ素イオン、塩素イオン、Sr、Mnの添加量は、形成される複合体粒子のpH溶解性、粒径範囲に著しい影響を与えない範囲内とすることが好ましい。また、炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液は、基剤として水を使用すればよいが、細胞培養用の各種培地やバッファー等を使用してもよい。
【0030】
本発明で使用される炭酸アパタイト粒子の調製において、水溶液中への各イオン供給源及び他の物質の混合順序は特に限定されず、目的とする炭酸アパタイト粒子が得られる限り、いかなる混合順序で水溶液を調製してもよい。例えば、カルシウムイオン及び他の物質を含有する第1の溶液を調製すると共に、別途、リン酸イオン及び炭酸水素イオンを含有する第2の溶液を調製し、第1の溶液と第2の溶液とを混合して水溶液を調製することができる。
【0031】
炭酸アパタイト粒子は、上記の各イオンを含有する水溶液のpHを6.0~9.0の範囲に調整し、一定時間放置(インキュベート)することによって得ることができる。炭酸アパタイト粒子を形成する際の当該水溶液のpHとしては、例えば6.5~9.0、好ましくは6.7~8.8、更に好ましくは6.7~8.6、より更に好ましくは6.8~8.5、特に好ましくは7.0~8.5、最も好ましくは7.1~8.0が挙げられる。
【0032】
炭酸アパタイト粒子を形成する際の当該水溶液の温度条件は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されないが、通常0℃以上であり、例えば4℃以上、或いは37℃が挙げられる。
【0033】
炭酸アパタイト粒子を形成するための当該水溶液のインキュベート時間は、炭酸アパタイト粒子が形成される限り特に制限されないが、通常1分~24時間、好ましくは5分~1時間が挙げられる。粒子形成の有無は、例えば、顕微鏡下で観察することによって確認することができる。
【0034】
また、炭酸アパタイト粒子の平均粒径を前記範囲に制御する方法としては、特に制限されないが、例えば、炭酸アパタイト粒子の製造過程又は炭酸アパタイト粒子の製造後に分散剤を加える方法が挙げられる。分散剤の種類については、炭酸アパタイト粒子を分散可能であることを限度として特に制限されず、一般に医薬品に添加される分散剤であればよいが、一例としてアルブミンが挙げられる。分散剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。炭酸アパタイト粒子を含む水溶液中での分散剤の濃度としては、微細化及び/又は再凝集抑制の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、0.1~500mg/ml、好ましくは1~100mg/ml、更に好ましくは1~10mg/ml程度;或は0.001~10重量%程度が挙げられる。また、粒子径の制御法の別の例として、前記の水溶液中で形成した炭酸アパタイト粒子を超音波振動処理する方法が挙げられる。超音波振動処理としては、具体的には、超音波破砕機等の超音波振動子を直接試料に接触させて超音波をかける処理;超音波振動子及び水槽(洗浄槽)を備えた超音波洗浄器を用いて、当該水槽に液体(例えば、水)を入れ、そこに炭酸アパタイト粒子を収容した容器(例えば、プラスチック製のチューブ)を浮かべ、液体を介して炭酸アパタイト粒子を含む水溶液に超音波をかける処理等が挙げられる。このような超音波振動処理によって、簡便且つ効率的に炭酸アパタイト粒子の粒径を前記範囲に微細化することができる。
【0035】
上記の超音波振動処理の条件は、粒子径を所定範囲に制御可能である限り特に制限されない。例えば、超音波振動子及び水槽(洗浄槽)を備えた超音波洗浄器を用いて行う場合であれば、以下の条件が例示される。
水槽の温度:例えば5~45℃、好ましくは10~35℃、更に好ましくは20~30℃。
高周波出力:例えば10~500W、好ましくは20~400W、更に好ましくは30~300W、より好ましくは40~100W。
発振周波数:例えば10~60Hz、好ましくは20~50Hz、更に好ましくは30~40Hz。
処理時間:例えば、30秒~30分、好ましくは1~20分、更に好ましくは3~10分。
【0036】
超音波振動処理を行う際に用いる、炭酸アパタイト粒子を包含する容器の種類は、粒子を所定の粒子径範囲に微細化することが可能である限り制限されず、水溶液の容量や使用目的に応じて適宜選択することができる。例えば、1~1000ml容量のプラスチック製チューブを用いることができる。
【0037】
また、超音波振動処理は、分散剤の存在下(即ち、分散剤を、炭酸アパタイト粒子を含む水溶液に添加した状態)で行うことが好ましい。これは、分散剤と炭酸アパタイト粒子とが共存する環境で超音波振動処理を行うことにより、より微細な粒径を有する炭酸アパタイトナノ粒子が得られ、粒子の再凝集を抑制することも可能となるためである。
【0038】
(miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子)
本発明の癌治療剤の好適な一態様では、miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子が複合化した複合粒子が使用される。このようにmiR-4711-5pを炭酸アパタイト粒子に複合化させることによって、炭酸アパタイトの作用によって生体内の癌細胞にmiR-4711-5pを集積させて、癌細胞内にmiR-4711-5pを効率的に導入させることが可能になる。また、細胞内に導入された後に、細胞内でmiR-4711-5pが炭酸アパタイト粒子から遊離できるので、miR-4711-5pによる抗腫瘍効果を効率的に発揮させることも可能になる。
【0039】
本発明において、miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子とは、miR-4711-5pが炭酸アパタイト粒子に対してイオン結合、水素結合等によって吸着して担持された状態を指す。miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子の形成方法については、特に制限されないが、例えば、miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子を水溶液中で共存させることにより形成する方法;炭酸アパタイト粒子を調製する水溶液中で、カルシウムイオン、リン酸イオン及び炭酸水素イオンと共に、miR-4711-5pを共存させることにより、炭酸アパタイト粒子の形成とmiR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行う方法等が挙げられる。
【0040】
miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子の形成を、炭酸アパタイト粒子の形成とmiR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行う場合、炭酸アパタイトの調製に使用される水溶液中にmiR-4711-5pを、例えば0.1~1000nM、好ましくは0.5~500nM、更に好ましくは1~200nMとなるように添加すればよい。
【0041】
miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子において、miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の比率については特に制限されず、miR-4711-5pの投与量等に応じて適宜設定すればよい。例えば、2mgのmiR-4711-5pを炭酸アパタイト粒子に複合化させる場合、前述する炭酸アパタイト粒子を調製するための水溶液2.5Lに、5mgのmiR-4711-5pを添加して、炭酸アパタイト粒子の形成とmiR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合化を同時に行えばよい。
【0042】
また、本発明において、炭酸アパタイト粒子と複合化させたmiR-4711-5pを使用する場合、生体への投与に適した溶媒中に分散した状態で使用される。前述するように、炭酸アパタイト粒子は、各種のイオン供給源となる物質を水、培地、又はバッファー等の溶媒に溶解させることによって得られるが、そのようにして得られる炭酸アパタイト粒子分散溶液は、浸透圧、緩衝能、無菌性等の観点から必ずしも生体への投与(血管内投与)に適していない。よって、炭酸アパタイト粒子が分散した溶媒を生体への投与に適した溶媒(例えば、生理食塩水等)に置換するためには、通常、遠沈によって炭酸アパタイト粒子を溶媒から分離し、回収して溶媒を置き換える操作が必要である。しかしながら、このような操作を行うと炭酸アパタイト粒子同士が凝集し、粒子が巨大化するため、却って生体への投与には適さない状態へと変化してしまう。そこで、凝集した炭酸アパタイト粒子を生体への投与に適した溶媒に添加した上で、前述する超音波振動処理を行うことにより、miR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子が、生体への投与に適した溶媒中で適度な粒子径(前述する範囲の平均粒子径)で分散させることができる。
【0043】
また、本発明の癌治療剤において、炭酸アパタイト粒子と複合化させたmiR-4711-5pを使用する場合、本発明の癌治療剤の投与はmiR-4711-5pと炭酸アパタイト粒子の複合粒子を超音波振動処理によって微小な粒子の状態で分散させた後に、当該粒子が凝集する前に速やかに行うことが望ましい。例えば、超音波振動処理後1分以内、好ましくは30秒以内の投与が好適である。但し、前述するように、アルブミンを添加することによって炭酸アパタイト粒子の凝集を抑制する場合は、超音波振動処理後、数分~数十分経過後に投与することも可能である。
【0044】
2.癌幹細胞の増殖抑制剤
miR-4711-5pは、癌幹細胞の幹細胞性を低下させて癌幹細胞の増殖を抑制することもできるので、本発明は、更に、miR-4711-5pを有効成分として含む癌幹細胞の増殖抑制剤を提供する。
【0045】
本発明の癌幹細胞の増殖抑制剤は、癌幹細胞の増殖を抑制するために使用される核酸医薬であり、使用する有効成分、適用対象となる癌種、投与方法、製剤化等については、前記「1.癌治療剤」の場合と同様である。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるものではない。
【0047】
試験例1:候補miRNAの抽出
miRBaseとTarget Scanの2つのデータベースを使用して、KLF5に結合する可能性のあるmiRNAを抽出した。抽出したmiRNAの内、Wnt/β-カテニンシグナル、Wnt/Ca+シグナル、及びNotchシグナルのいずれかに関係するものを抽出した。その結果、miRBaseからは29種類のmiRNA、Target Scanからは31種のmiRNAが抽出された。miRBaseで抽出されたmiRNAとTarget Scan抽出されたmiRNAで重複しているものは16種類あったので、合計44種類のmiRNAが抽出された。44種類のmiRNAの内、3種類のmiRNAについては既に機能解析が進められていたので、それらを除外して41種類のmiRNAを候補として選択した。
【0048】
試験例2:miRNAのスクリーニング
前記で抽出した41種類の候補miRNAを用いて、大腸癌細胞株の増殖試験を行った。具体的には、先ず、96ウェルプレートの各ウェルにDLD-1、HCT116、及びHT29の3つの大腸癌細胞株をそれぞれ5000 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いて候補miRNA又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、5'-AUCCGCGCGAUAGUACGUA-3'、配列番号2)でトランスフェクションした。トランスフェクションから72時間後にcell counting kit-8(同仁化学研究所)を用いて、GloMax-Multi+Detection System(Promega)で細胞生存率(cell viability、%)を測定した。
【0049】
結果を図1に示す。図1中、No.20の候補miRNAがmiR-4711-5pである。図1から明らかなように、miR-4711-5pは、大腸癌細胞株の増殖抑制効果が優れていることが確認された。
【0050】
試験例3:miR-4711-5pがKLF5のmRNAレベルでの発現量に及ぼす影響の分析
大腸癌細胞株に対する増殖抑制効果が優れていたmiR-4711-5pについて、KLF5 mRNA発現量に及ぼす影響を分析した。具体的には、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)でトランスフェクションした。トランスフェクションを行った24時間後に細胞を回収し、miRNeasy Kit (Applied Biosystems)で全RNAを抽出し、PCRによってKLF5 mRNA量の測定を行った。
【0051】
結果を図2に示す。この結果、miR-4711-5pには、大腸癌細胞株においてKLF5の発現をmRNAレベルで抑制する作用があることが確認された。
【0052】
試験例4:miR-4711-5pがKLF5のタンパク質レベルでの発現量に及ぼす影響の分析
miR-4711-5pについて、KLF5のタンパク質レベルでの発現量に及ぼす影響を分析した。具体的には、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)でトランスフェクションした。トランスフェクションを行った48時間後に細胞を回収し、細胞内の全タンパク質を抽出し、ウエスタンブロッティングによりKLF5のタンパク質レベルでの発現量を測定した。
【0053】
結果を図3に示す。この結果、miR-4711-5pをトランスフェクトした大腸癌細胞株は、KLF5の発現がタンパク質レベルでも抑制されていることが確認された。
【0054】
試験例5:miR-4711-5pとKLF5の結合の確認
miR-4711-5pをトランスフェクトした大腸癌細胞株においてmiR-4711-5pがKLF5に結合しているか否かを確認するために、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector (Promega)を用いて分析を行った。先ず、target scanを用いて、miR-4711-5pによる強い結合が予測されるbinding site 1(KLF5の3'UTRの position 1186-1208、5'-AAUAGUAAUGUGAUGCUGAUGCU-3'(配列番号3))とmiR-4711-5pによる弱い結合が予測されるbinding site 2(KLF5の3'UTRの position 917-939、5'-GACAAUGUUGCAUUUAUGAUGC-3'(配列番号4)、とKLF5の3'UTRの position 951-973、5'-CAAAACGUUGAAUUGAUGAUGCA-5'(配列番号5)の2つの領域)を同定した。binding site 1を含むDNA分子(インサート1)、及びbinding site 2(2つの領域)を含むDNA分子(インサート2)を作成し、インサート1及び2をそれぞれpmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vectorのマルチクローニングサイトに挿入した。
【0055】
96ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×104 cells/wellとなるように播種し、10%FBS(ウシ胎児血清)を含むD-MEM培地で12時間培養を行った後に、培地を血清非含有のOpti-MEM培地に交換して、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)とインサート1又は2を挿入したプラスミドをコトランスフェクションした。トランスフェクションを行った8時間後に培地を10%FBS含有D-MEM培地に交換し、更に24時間培養を行った後に、製品のプロトコールに従って、ルシフェラーゼ蛋白発現量を測定した。
【0056】
結果を図4に示す。この結果、miR-4711-5pによりルシフェラーゼの発現が抑えられており、binding site 1及び2の双方にmiR-4711-5pが結合していることが確認された。
【0057】
試験例6:細胞増殖試験
miR-4711-5pを用いて、大腸癌細胞株の細胞増殖試験を行った。具体的には、先ず、96ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ3.0×103 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24、48、及び72時間後に、cell counting kit-8(同仁化学研究所)を用いて、GloMax-Multi+Detection System(Promega)で細胞生存数を測定した。
【0058】
結果を図5に示す。この結果、miR-4711-5pのトランスフェクションを行った場合には、ネガティブコントロールに比べて、48及び72時間後には、DLD-1及びHCT116の細胞増殖を有意に抑制できることが確認された。
【0059】
試験例7:浸潤アッセイ
miR-4711-5pを用いて、大腸癌細胞株の浸潤アッセイを行った。具体的には、先ず、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後に、細胞をBD BioCoat Matrigel Invasion Chambers (BD biosciences)に播種して48時間培養を行った。次いで、ヘナトキシリンで核染色を行い、浸潤した細胞数を計測した。
【0060】
結果を図6に示す。この結果、miR-4711-5pのトランスフェクションを行った場合には、ネガティブコントロールに比べて、浸潤能細胞数が有意に低下することが確認された。
【0061】
試験例8:遊走能の評価
miR-4711-5pを用いて、創傷治癒アッセイによる大腸癌細胞株の遊走能の評価を行った。具体的には、先ず、24ウェルプレートにインサート(ibidi Culture Insert 2 Well (ibidi))をセットし、各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ3.5×105~4.0×105 cells/wellとなるように播種し、24時間培養を行った。次いで、インサートを除去してwoundを作成して引き続き培養を行い、インサート除去から24、48及び72時間後に、wound面積を測定した。
【0062】
結果を図7に示す。この結果、miR-4711-5pのトランスフェクションを行った場合には、ネガティブコントロールに比べて、wound面積が有意に広くなっており、細胞の遊走能が低下することが確認された。
【0063】
試験例9:アポトーシスアッセイ
miR-4711-5pを用いて、大腸癌細胞株のアポトーシスアッセイを行った。具体的には、先ず、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後に、細胞をAlexa Fluor 488 Annexin V/Dead Cell Apoptosis Kit (Thermo Fisher Scientific)で処理し、SH800ZCell Sorter (Sony Biotechnology Inc.)を用いて、Annexin Vので染色される割合を求めた。また、トランスフェクションから48時間後に細胞を回収し、細胞内の全タンパク質を抽出し、ウエスタンブロッティングによりp53、サバイビン、cPARP(cleaved PARP)、cCaspase3(cleaved Caspase3)、及びACTB(β-アクチン)の発現量を測定した。
【0064】
Annexin Vで染色される細胞(即ち、アポトーシスを起こしている細胞)の割合を測定した結果を図8に示し、p53、サバイビン、cPARP、cCaspase3、及びACBTの発現量を測定した結果を図9に示す。この結果、miR-4711-5pをトランスフェクトした大腸癌細胞株では、Annexin Vで染色される細胞が増加しており、アポトーシスが強く誘導されていることが分かった。また、野生型のp53を有するHCT116では、miR-4711-5pをトランスフェクションすることにより、p53の発現が亢進し、抗アポトーシス性タンパク質であるsurvivinの発現量が減少し、アポトーシス性タンパク質であるcPARP及びcCaspase3の発現量が増大していた。また、変異型のp53を有するDLD-1では、miR-4711-5pをトランスフェクトすることにより、survivinの発現が低下、cCaspase3の発現量が増大していた。即ち、これらの結果から、miR-4711-5pのトランスフェクションによって、大腸癌細胞株のアポトーシスが誘導されることが明らかとなった。
【0065】
試験例10:幹細胞マーカーの発現量の分析
miR-4711-5pが大腸癌細胞株の幹細胞マーカーの発現量に及ぼす影響について分析した。具体的には、先ず、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後に細胞を回収し、miRNeasy Kit (Applied Biosystems)で全RNAを抽出し、PCRによってKLF5、CD44v9、LGR5、BMI1、及びLRIG1のmRNA量を測定した。また、トランスフェクションから48時間後のDLD-1については、FACSにより細胞表面のCD44v9量の測定を行った。
【0066】
KLF5、CD44v9、LGR5、BMI1、及びLRIG1のmRNA量を測定した結果を図10に示し、FACSによりDLD-1表面のCD44v9量を測定した結果を図11に示す。図10から分かるように、miR-4711-5pのトランスフェクションによって、DLD-1では、幹細胞マーカーであるCD44v9、LGR5、及びBMI1の発現が抑制され、HCT116では、幹細胞マーカーであるCD44v9、及びBMI1の発現が抑制されていた。また、図11から分かるように、miR-4711-5pのトランスフェクションによってDLD-1の細胞表面に存在するCD44v9が減少していた。以上の結果から、miR-4711-5pがトランスフェクションされた大腸癌細胞株では、幹細胞マーカーの発現が抑制されており、miR-4711-5pには癌幹細胞の幹細胞性を低減させる作用があることが明らかとなった。
【0067】
試験例11:活性酸素種活性の測定
幹細胞性の高い細胞は活性酸素種(Reactive oxidant species, ROS)活性を低く保つ性質がある。そこで、miR-4711-5pが大腸癌細胞株のROS活性に及ぼす影響について分析した。具体的には、先ず、6ウェルプレートにDLD-1を1.0×105cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後に細胞を回収し、CellROX Deep Red (thermos fisher scientific)で染色してFACSによりROS活性を測定した。
【0068】
結果を図12に示す。なお、図12の右図に示すROS activityは、ROS活性がhighと判定された細胞の割合である。Highとlowのcut off値はCell ROX試薬を暴露していない細胞を用いて決定した。この結果、miR-4711-5pがトランスフェクションされた大腸癌細胞株では、ROS活性が高い細胞の割合が増大しており、miR-4711-5pが幹細胞性を低下させていることが確認された。
【0069】
試験例12:スフェアー形成能の分析
miR-4711-5pが大腸癌細胞株のスフェアー形成能に及ぼす影響について分析した。具体的には、先ず、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後に細胞を回収し、細胞同士が凝集していない状態にして96-well ultra-low attachment plates (Corning Inc., USA)に1×103 cells/wellとなるように播種して1週間培養を行った。なお、当該培養には、EGF 20 ng/ml、bFGF 10 ng/ml、及びペニシリンG 100 μg/mlを含む無血清DMEM/F-12培地を用いた。1週間後に40μm以上のスフェロイドの数を計測した(n=10)。
【0070】
結果を図13に示す。この結果、miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株のスフェロイド数が低下することが確認され、miR-4711-5pには大腸癌細胞株のスフェアー形成能を低減させる作用があることが明らかとなった。
【0071】
試験例13:IPA解析
miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株について、次世代シークエンスを行った結果を用いてIngenuity Pathways Analysis(IPA)を行った。具体的には、先ず、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1を1.0×105cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから36時間後に細胞を回収し、miRNeasy Kit (Applied Biosystems)で全RNAを抽出した。次いで、得られた全RNAを用いてライブラリー調製を行った後、当該ライブラリーの次世代シーケンス解析を行った。そして、次世代シークエンスを行った結果を用いて、Ingenuity Pathways Analysisを実施した。
【0072】
結果を図14に示す。この結果、miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株では、細胞周期におけるG1期からS期への移行が抑制されていることが示唆された。
【0073】
試験例14:細胞周期アッセイ
前記試験例13の結果から、miR-4711-5pは細胞周期におけるG1期からS期への移行を抑制することが示唆されたので、miR-4711-5pが大腸癌細胞株の細胞周期に及ぼす影響について詳細分析した。具体的には、先ず、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1を1.0×105cells/wellとなるように播種し、10%FBS含有D-MEM培地を用いて終夜培養を行った。次いで、培地をFBS非含有D-MEM培地に交換して24時間培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後に培地を10%FBS含有D-MEM培地に交換した。引き続き8時間培養を行った後に、細胞を回収して細胞周期アッセイを行った。細胞の回収及び細胞周期アッセイの手法は以下の通りである。
【0074】
ウェル中の細胞をPBSで洗浄し、Trypsin-EDTAで処理して細胞を遊離させた。次いで、10%FBS含有D-MEM培地中に細胞を懸濁して回収し、15mlチューブに入れて遠心分離及び上清除去を行った。その後、PBSを添加して遠心分離を再度行った。次いで、上清を除去し、撹拌しながら、冷70%エタノール水溶液200μlを少しずつ滴下した。その後、撹拌を停止して、冷70%エタノール水溶液300μlを容器の壁面を伝わせながら添加して、30分間氷冷した。次いで、遠心分離及び上清除去を行った後に、PBSで洗浄し、遠心分離を再度行った。遠心分離後に上清を除去し、0.1mg/mlのRNaseを500μl入れて、37℃で20分間インキュベートした。インキュベート後に遠心分離を行って上清を除去した後に、25μg/mlのプロピジウムイオダイドを200μl入れ、20分間インキュベートした。次いで、FACS flowシース液を300μl添加し、セルストレーナーに通してFACSにて解析を行った。
【0075】
結果を図15に示す。この結果、miR-4711-5pをトランスフェクションした大腸癌細胞株では、G1期の細胞の割合が増加しており、G1からS期への移行が抑制されていることが確認された。
【0076】
試験例15:G1期/S期チェックポイントの制御に関わるタンパク質の発現量の測定
miR-4711-5pについて、G1期/S期チェックポイントの制御に関わるタンパク質の発現量に及ぼす影響を分析した。具体的には、6ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ1.0×105 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmicroRNA(NC、配列番号2)でトランスフェクションした。トランスフェクションを行った48時間後に細胞を回収し、細胞内の全タンパク質を抽出し、ウエスタンブロッティングにより、G1期/S期チェックポイントの制御に関わるタンパク質(TFDP1、E2F1、Rb、CCNE、CDK2、p21、p27、CCND1、CDK2、CDK6、及びMDM2)とβ-アクチン(ACTB)のタンパク質レベルでの発現量を測定した。
【0077】
結果を図16に示す。この結果、miR-4711-5pをトランスフェクトした大腸癌細胞株では、細胞周期を止めるp21やp27の発現亢進と共に、TFDP1及びMDM2の発現低下も認められた。p53野生株のHCT116ではp53の発現が亢進し、その下流のp21の発現が亢進していた。
【0078】
試験例16:miR-4711-5pとTFDP1の結合の確認
Target Scanにおいて、TFDP1はmiR-4711-5pの結合領域を持つことが示唆された。そこで、miR-4711-5pをトランスフェクトした大腸癌細胞株においてmiR-4711-5pがTFDP1に結合しているか否かを確認するために、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector (Promega)を用いて分析を行った。先ず、target scanを用いて、miR-4711-5pによる結合が予測されるbinding site (TFDP1の3'UTRの position 191-213、5'-UUUGAUACCAGUGUGCUGAUGCA-3'(配列番号6))を同定した。当該binding siteを含むDNA分子(インサート)を作成し、インサートをpmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vectorのマルチクローニングサイトに挿入した。
【0079】
96ウェルプレートの各ウェルにDLD-1を3.0×103 cells/wellとなるように播種し、10%FBS(ウシ胎児血清)を含むD-MEM培地で12時間培養を行った後に、培地を血清非含有のOpti-MEM培地に交換して、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)とインサートを挿入したプラスミドをコトランスフェクションした。トランスフェクションを行った8時間後に培地を10%FBS含有D-MEM培地に交換し、更に24時間培養を行った後に、製品のプロトコールに従って、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0080】
結果を図17に示す。この結果、miR-4711-5pによりルシフェラーゼの発現が抑えられており、TFDP1の3'UTRのposition 191-213にmiR-4711-5pが結合していることが確認された。
【0081】
試験例17:miR-4711-5pとMDM2の結合の確認
Target Scanにおいて、MDM2はmiR-4711-5pの結合領域を持つことが示唆された。そこで、miR-4711-5pをトランスフェクトした大腸癌細胞株においてmiR-4711-5pがMDM2に結合しているか否かを確認するために、pmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vector (Promega)を用いて分析を行った。先ず、target scanを用いて、miR-4711-5pによる結合が予測されるbinding site (MDM2の3'UTRの position 2315-2337、5'-UAUGGAAUAAAACUACUGAUGCA-3'(配列番号7))を同定した。当該binding siteを含むDNA分子(インサート)を作成し、インサートをpmirGLO Dual-Luciferase miRNA Target Expression Vectorのマルチクローニングサイトに挿入した。
【0082】
96ウェルプレートの各ウェルにDLD-1を3.0×103 cells/wellとなるように播種し、10%FBS(ウシ胎児血清)を含むD-MEM培地で12時間培養を行った後に、培地を血清非含有のOpti-MEM培地に交換して、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p又はネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)とインサートを挿入したプラスミドをコトランスフェクションした。トランスフェクションを行った8時間後に培地を10%FBS含有D-MEM培地に交換し、更に24時間培養を行った後に、製品のプロトコールに従って、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0083】
結果を図18に示す。この結果、miR-4711-5pによりルシフェラーゼの発現が抑えられており、MDM2の3'UTRのposition 2315-2337にmiR-4711-5pが結合していることが確認された。
【0084】
試験例18:マウス皮下固形腫瘍モデルにおけるmiR-4711-5pの抗腫瘍効果及び安全性の評価
1.miRNAと炭酸アパタイトの複合粒子の製造
100mlの蒸留水に、0.37gのNaHCO3、90μlのNaH2PO4・2H2O(1M)、及び180μlのCaCl2(1M)をこの順に添加して溶解させ、1NのHClでpHを7.5に調整した。これを直径0.2μmのフィルターでろ過した。得られたバッファー1ml当たりに2μgのmiRNA、4μlのCaCl2(1M)を混合し、37℃の水浴中で30分間インキュベートした。その後、15000rpm×5分で遠沈し、得られたペレットを生理食塩水(0.5重量%アルブミン含有)に分散させ、miRNAを炭酸アパタイト粒子に内包させた複合粒子の分散液を得た。試験に供する直前に、得られた分散液を10分間超音波振動処理にかけた。なお、超音波振動処理は、超音波振動機能を有するウォーターバスを用いて、20℃に設定した水に、プラスチック容器に収容した前記分散液を浮かべ、高周波出力55W、発振周波数38kHzの条件で10分間行った。斯して得られた製剤は、直ちに、後述する試験に使用した。
【0085】
なお、超音波振動処理の分散液には、miRNAを包含した炭酸アパタイトナノ粒子からなる複合粒子が生成しており、当該複合粒子には炭酸アパタイト1mg当たり約20μg程度のmiRNAが含まれていることが確認できている。
【0086】
2.マウス皮下固形腫瘍モデル試験
6~8週齢のBALB/cAヌードマウス(雌、日本クレア社製)の背部左右に、DLD-1を5×105 cells/腫瘍となるように皮下注射し、固形腫瘍を有するモデルマウスを作製した。腫瘍が約20 mm3の大きさに達した時点でマウスをランダムに、miR-4711-5p投与群(miR-4711-5p)5匹、ネガティブコントロール群(Negative control)5匹、及び未処置群(Parent)4匹の3群に分けた。miR-4711-5p投与群では、腫瘍が約20 mm3の大きさに達した時点を0日目として、0日目、2日目、4日目、7日目、9日目及び11日目に、miR-4711-5p量換算で40μg/回となるようにiR-4711-5pを包含した炭酸アパタイトナノ粒子を尾静脈より静脈注射した。ネガティブコントロール群では、miR-4711-5p投与群と同様のスケジュール及び用量で、コントロールmiRNA(配列番号2)を包含した炭酸アパタイトナノ粒子を尾静脈より静脈注射した。未処置群では、薬剤の投与を行わなかった。試験期間中、マウス背部の腫瘍サイズ(長径×短径×短径×1/2)及びマウスの体重を経時的に測定した。また、14日目にマウスから腫瘍を摘出して大きさを観察した。更に、14日目にマウスから、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、及び結腸を摘出してヘマトキシリン・エオジン染色を行い、組織観察を行った。
【0087】
腫瘍サイズを経時的に測定した結果を図19に示し、14日目にマウスから摘出した腫瘍を観察した結果を図20に示す。この結果、miR-4711-5p投与群では、ネガティブコントロール群及び未処置群に比べて、腫瘍サイズが有意に小さかった。
【0088】
また、マウスの体重を経時的に測定した結果を図21に示す。この結果、3群間で体重に有意な差はなく、miR-4711-5pによる副作用がないことが確認された。
【0089】
また、14日目にマウスから、脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、及び結腸を摘出してヘマトキシリン・エオジン染色を行った結果を図22に示す。各組織のヘマトキシリン・エオジン染色の結果からも、miR-4711-5pによる副作用は認められなかった。
【0090】
試験例19: miR-4711-5pの抗腫瘍効果の評価
8週齢のBALB/cAヌードマウス(雌、日本クレア社製)の背部左右に、DLD-1を2.5×106 cells/腫瘍となるように皮下注射し、固形腫瘍を有するモデルマウスを作製した。マウスをランダムに、miR-4711-5p投与群(miR-4711-5p)3匹、及びネガティブコントロール群(Negative control)3匹の2群に分けた。miR-4711-5p投与群では、DLD-1を皮下注射した時点を0日目として、7日目、8日目及び9日目に、miR-4711-5p量換算で40μg/回となるようにiR-4711-5pを包含した炭酸アパタイトナノ粒子(前記試験例18と同条件で調製したもの)を尾静脈より静脈注射した。ネガティブコントロール群では、miR-4711-5p投与群と同様のスケジュール及び用量で、コントロールmiRNA(配列番号2)を包含した炭酸アパタイトナノ粒子を尾静脈より静脈注射した。10日目にマウスから腫瘍を摘出した。
【0091】
摘出した腫瘍におけるmiR-4711-5p量をPCRによって測定した。また、摘出した腫瘍におけるKLF5、TFDP1、及びMDM2のmRNA量をPCRによって測定した。更に、摘出した腫瘍から全タンパク質を抽出し、ウエスタンブロッティングにより、KLF5、TFDP1、MDM2、cPARP(cleaved PARP)、cCaspase3(cleaved Caspase3)、及びACTB(β-アクチン)のタンパク質レベルでの発現量を測定した。更に、摘出した腫瘍について、TUNELアッセイによってアポトーシスにより生じる断片化DNAを染色し、また、核をHoechstによって染色した。
【0092】
腫瘍におけるmiR-4711-5p量を測定した結果を図23に示す。この結果、miR-4711-5p投与群では、ネガティブコントロール群に比べて、腫瘍におけるmiR-4711-5p量が有意に増加していた。
【0093】
また、腫瘍におけるKLF5、TFDP1、MDM2、及びACTBのmRNA量を測定した結果を図24に示し、腫瘍におけるKLF5、TFDP1、MDM2、及びACTBのタンパク質量を測定した結果を図25に示す。この結果、miR-4711-5p投与群では、ネガティブコントロール群に比べて、KLF5、TFDP1、及びMDM2の発現量は、mRNA及びタンパク質の双方で低減していることが確認された。
【0094】
TUNELアッセイを行った結果を図26及び27に示し、cPARP、cCaspase3、及びACTBの蛋白レベルでの発現を測定した結果を図28に示す。この結果、miR-4711-5p投与群では、アポトーシスが誘導された細胞が有意に増加しており、アポトーシス性タンパク質であるcPARP及びcCaspase3の発現量が増大していることが分かった。
いることが分かった。
【0095】
試験例20:細胞増殖試験(他のmiRNAとの比較)
大腸癌細胞株(DLD-1及びHCT116)を用いて、miR-4711-5p、KLF5の発現抑制作用が報告されている4種のmiRNA(miR-21-5p、miR-152-5p、miR-153-3p、及びmiR-448-3p)、及び抗腫瘍効果が報告されているmiR-34aについて細胞増殖試験を行った。具体的には、先ず、96ウェルプレートの各ウェルにDLD-1及びHCT116の2つの大腸癌細胞株をそれぞれ3.0×103 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p、miR-21-5p、miR-152-5p、miR-153-3p、miR-448-3p、miR-34a、及びネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから24、48、及び72時間後に、cell counting kit-8(同仁化学研究所)を用いて、GloMax-Multi+Detection System(Promega)で細胞生存数を測定した。
【0096】
結果を図29に示す。なお、図29の縦軸は450nmの吸光度である。この結果、miR-4711-5pのトランスフェクションを行った場合に最も高い増殖抑制効果が認められた。
【0097】
試験例21:細胞増殖試験(患者から採取した大腸癌細胞を用いた検証)
ステージII及びIIIの患者5名(Pt.28、Pt.36、Pt.40、Pt.41、及びPt.45)から採取した大腸癌細胞を用いて、細胞増殖試験を行った。本試験は、大阪大学病院の倫理委員会の許可を得た上で、その許可の下で、インフォームドコンセントが得られた大腸癌患者5名から採取した大腸癌細胞を用いて行った。各患者から採取された大腸癌細胞のスフェロイドをtrypLE express(Invitrogen)と共に37℃で30分間インキュベートすることにより、単一の大腸癌細胞に解離させた。得られた単一の大腸癌細胞を96ウェルプレートの各ウェルに4.0×103 cells/wellとなるように播種し、終夜培養を行った後に、Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を用いてmiR-4711-5p、miR-34a、及びネガティブコントロールのmiRNA(NC、配列番号2)をトランスフェクションした。トランスフェクションから72時間後に、細胞の状態を観察すると共に、cell counting kit-8(同仁化学研究所)を用いて、GloMax-Multi+Detection System(Promega)で細胞生存数を測定した。
【0098】
細胞の状態を観察した結果を図30に示し、細胞生存数を測定した結果を図31に示す。この結果、miR-4711-5pは、大腸癌患者から得られた大腸癌細胞に対する増殖抑制効果が、miR-34a及びネガティブコントロールに比べて有意に高い(p<0.01p)ことが確認された。
【0099】
<総合考察>
前記試験例1~9の結果から、以下の点が明らかになり、miR-4711-5pには抗腫瘍効果があることが確認された。
(1) KLF5に対するmiRNAの中でもmiR-4711-5pは、癌細胞の生存率を効果的に低下させ、癌細胞中のKLF5の発現を抑制できる。
(2) miR-4711-5pは、KLF5の3'UTRに結合する。
(3) miR-4711-5pは、癌細胞の増殖、浸潤、及び遊走を抑制できる。
(4) miR-4711-5pは、癌細胞のアポトーシスを誘導できる。
【0100】
また、前記試験例10~12の結果から、以下の点が明らかになり、miR-4711-5pには癌細胞の幹細胞性を低下させることが確認された。
(5) miR-4711-5pは、癌幹細胞の幹細胞マーカーの発現を抑制できる。
(6) miR-4711-5pは、ROS活性が高い癌細胞の割合を増大させる。
(7) miR-4711-5pは、癌細胞のスフェアーの形成を抑制できる。
【0101】
また、前記試験例13~17の結果から、以下の点が明らかになり、miR-4711-5pには癌細胞の細胞周期におけるG1期からS期への移行を抑制できることが確認された。
(8) miR-4711-5pは、G0/G1期の癌細胞の割合を増加させる。
(9) miR-4711-5pによってG1期からS期への移行が抑制されるメカニズムの1つは、miR-4711-5pが直接的に標的とするTFDP1のダウンレギュレーションである。
(10) miR-4711-5pによってG1期からS期への移行が抑制されるメカニズムの1つは、miR-4711-5pが直接的に標的とするMDM2のダウンレギュレーションである。
【0102】
試験例18及び19の結果から、miR-4711-5pは、in vivoでも抗腫瘍効果を奏し、正常組織に対する副作用は認められないことは確認された。
【0103】
試験例20及び21の結果から、miR-4711-5pは、抗腫瘍効果が報告されているmiR-34aよりも優れた抗腫瘍効果があり、大腸癌患者から摘出された大腸癌細胞に対しても実際に優れた抗腫瘍効果を奏することが確認された。
図1
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【配列表】
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