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特許7545750光発振器、光発振器の設計方法およびレーザー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】光発振器、光発振器の設計方法およびレーザー装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/08 20230101AFI20240829BHJP
   H01S 3/113 20060101ALI20240829BHJP
   G02F 1/35 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/113
G02F1/35
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022506853
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010143
(87)【国際公開番号】W WO2021182619
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2020044709
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「大口径連続接合装置の研究開発、及びTILAモジュールの産業展開」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
(72)【発明者】
【氏名】林 桓弘
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-001192(JP,A)
【文献】特開平02-065282(JP,A)
【文献】特開2019-167888(JP,A)
【文献】特開平01-258483(JP,A)
【文献】特開平01-270370(JP,A)
【文献】特開平08-056027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/08
G02F 1/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長を有する光を反射する第1反射部と、
前記第1波長とは異なる第2波長の励起光によって励起され前記第1波長の光を放出するレーザー媒質と、
前記レーザー媒質に対して前記第1反射部と反対側に配置されており、前記第1反射部とともに、前記第1波長を有する環状レーザー光を出力する不安定共振器を形成する第2反射部と、
前記レーザー媒質に対して前記第1反射部と反対側に配置されており前記第1波長を有する光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、
を備え、
前記励起光のパワーをP(kW)とし、前記環状レーザー光の内径をd(mm)とし、外径をd(mm)とし、d/dを拡大率mとしたとき、拡大率mが以下の式(1)を満たす、
光発振器。
+aLog(P)≦m≦b+b+b 2・・・(1)
ただし、
=1.421
=0.10678
=2.8698
=0.79408
=-0.022536
【請求項2】
前記第1反射部からみて、前記第2反射部の大きさは前記第1反射部の大きさより小さい、
請求項1に記載の光発振器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光発振器と、
前記レーザー媒質に供給する前記励起光を出力する励起光供給部と、
を備える、レーザー装置。
【請求項4】
前記不安定共振器から出力された前記環状レーザー光を集光する集光光学系を更に有する、
請求項3に記載のレーザー装置。
【請求項5】
第1波長を有する光を反射する第1反射部と、前記第1波長とは異なる第2波長の励起光によって励起され前記第1波長の光を放出するレーザー媒質と、前記レーザー媒質に対して前記第1反射部と反対側に配置されており、前記第1反射部とともに、前記第1波長を有する環状レーザー光を出力する不安定共振器を形成する第2反射部と、前記レーザー媒質に対して前記第1反射部と反対側に配置されており前記第1波長を有する光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部とを備える光発振器の設計方法であって、
前記励起光を前記レーザー媒質に供給することによって前記不安定共振器から出力される前記環状レーザー光を集光した場合において、前記環状レーザー光のエアリーディス内のエネルギーの前記励起光のエネルギーに対する変換効率を有効エネルギー変換効率ηeff(%)とし、前記環状レーザー光の内径をd(mm)とし、外径をd(mm)とし、d/dを拡大率mとしたとき、
前記有効エネルギー変換効率ηeffの前記拡大率mに対する分布である変換効率分布を取得し、
前記有効エネルギー変換効率ηeffを、前記変換効率分布における最大有効エネルギー変換効率で規格化することによって得られた規格化有効エネルギー変換効率が50%以上であるように、拡大率mを設定する、
光発振器の設計方法。
【請求項6】
第1波長を有する光を反射する第1反射部と、前記第1波長とは異なる第2波長の励起光によって励起され前記第1波長の光を放出するレーザー媒質と、前記レーザー媒質に対して前記第1反射部と反対側に配置されており、前記第1反射部とともに、前記第1波長を有する環状レーザー光を出力する不安定共振器を形成する第2反射部と、前記レーザー媒質に対して前記第1反射部と反対側に配置されており前記第1波長を有する光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、を備える光発振器であって、前記環状レーザー光の内径をd (mm)とし、外径をd (mm)とし、d /d を拡大率mとしたとき、拡大率mが2 1/2 より大きい、前記光発振器と、
前記レーザー媒質に供給する前記励起光を出力する励起光供給部と、
を備え、
前記励起光のパワーが1.5kW以上且つ12kW以下である場合、拡大率mは、1.44以上4.01以下であり、
前記励起光のパワーが3kW以上12kW以下である場合、拡大率mは、1.47以上5.1以下であり、または、
前記励起光のパワーが6kW以上12kW以下である場合、拡大率mは、1.50以上6.82以下である、
レーザー装置。
【請求項7】
前記不安定共振器から出力された前記環状レーザー光を変換するための非線形光学系を更に有する、
請求項3に記載のレーザー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光発振器、光発振器の設計方法およびレーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野では、非特許文献1~3に記載の技術が知られている。非特許文献1~3に記載の光発振器は、共振器を構成する一対の平面鏡と、一対の平面鏡の間に配置されたセラミック製のレーザー媒質及びセラミック製のQスイッチ素子とを有する、受動Qスイッチ型のマイクロチップレーザーである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】平等拓範、「マイクロドメイン制御によるハイパワーレーザー材料」、応用物理、2016年、第85巻、第10号、p.863-869
【文献】Masaki Tsunekane, et. al.,“High Peak Power, Passively Q-switched Microlaser for Ignition of Engines,”IEEEJOURNAL OF QUANTUM ELCTRONICS, 2010年2月, VOL. 46, NO.2, p. 277-284
【文献】Masaki Tsunekane, et. al.,“High Peak Power, Passively Q-switched Yb:YAG/Cr:YAG Micro-Lasers,”IEEEJOURNALOF QUANTUM ELCTRONICS, 2013年5月, VOL. 49, NO.5, p. 454-461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザー光を集光光学系(たとえばレンズ)で集光し、集光位置の高いエネルギーを使用する場合がある。この際、集光位置におけるレーザー光におけるエアリーディスク内のエネルギー(以下、「有効エネルギー」とも称す)が高いことが望ましい。レーザー光のエネルギーは、励起光のエネルギーに依存する。
【0005】
そこで、本発明は、レーザー光を集光した場合、集光位置において、励起光のエネルギーに対して高い有効エネルギーを実現可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る光発振器は、第1波長を有する光を反射する第1反射部と、第1波長とは異なる2波長の励起光によって励起され上記第1波長の光を放出するレーザー媒質と、上記レーザー媒質に対して上記第1反射部と反対側に配置されており、上記第1反射部とともに、上記第1波長を有する環状レーザー光を出力する不安定共振器を形成する第2反射部と、上記レーザー媒質に対して上記第1反射部と反対側に配置されており上記第1波長を有する光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、を備え、上記第2波長の励起光のパワーをP(kW)とし、上記環状レーザー光の内径をd(mm)とし、外径をd(mm)とし、d/dを拡大率mとしたとき、拡大率mが以下の式(A)を満たす。
+aLog(P)≦m≦b+b+b 2・・・(A)
ただし、
=1.421
=0.10678
=2.8698
=0.79408
=-0.022536
【0007】
上記構成では、不安定共振器を有することから、パルス状の上記環状レーザー光が出力される。環状レーザー光を集光光学系で集光した際、集光位置における環状レーザー光のエアリーディスク(中央部)のエネルギーを有効エネルギーと称す。上記光発振器は、拡大率mは式(A)を満たす。そのため、励起光のエネルギーに対して高い有効エネルギーを実現可能である。
【0008】
上記第1反射部からみて、上記第2反射部の大きさは上記第1反射部の大きさより小さくてもよい。
【0009】
本発明の他の側面に係るレーザー装置は、上記光発振器と、上記レーザー媒質に供給する上記励起光を出力する励起光供給部と、を備える。上記構成では、不安定共振器を有することから、パルス状の上記環状レーザー光が出力される。上記光発振器は、拡大率mは式(A)を満たす。そのため、励起光のエネルギーに対して高い有効エネルギーを実現可能である。
【0010】
上記不安定共振器から出力された上記環状レーザー光を集光する集光光学系を更に有してもよい。
【0011】
上記不安定共振器から出力された上記環状レーザー光を変換する非線形光学系を更に有してもよい。
【0012】
本発明の他の側面に係る光発振器の設計方法は、第1波長を有する光を反射する第1反射部と、第1波長とは異なる2波長の励起光によって励起され上記第1波長の光を放出するレーザー媒質と、上記レーザー媒質に対して上記第1反射部と反対側に配置されており、上記第1反射部とともに、上記第1波長を有する環状レーザー光を出力する不安定共振器を形成する第2反射部と、上記レーザー媒質に対して上記第1反射部と反対側に配置されており上記第1波長を有する光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部とを備える光発振器の設計方法であって、上記励起光を上記レーザー媒質に供給することによって上記不安定共振器から出力される上記環状レーザー光を集光した場合において、上記環状レーザー光のエアリーディス内のエネルギーの上記励起光のエネルギーに対する変換効率を有効エネルギー変換効率ηeff(%)とし、上記環状レーザー光の内径をd(mm)とし、外径をd(mm)とし、d/dを拡大率mとしたとき、上記有効エネルギー変換効率ηeffの上記拡大率mに対する分布である変換効率分布を取得し、上記有効エネルギー変換効率ηeffを、上記変換効率分布における最大有効エネルギー変換効率で規格化することによって得られた規格化有効エネルギー変換効率が50%以上であるように、拡大率mを設定する。
【0013】
上記設計方法で設定された拡大率mは、上述した式(A)を満たし得る。そのため、上記のように設計された光発振器から出力された環状レーザー光を集光した場合、集光位置において、励起光のエネルギーに対する高い有効エネルギーを実現可能である。
【0014】
本発明に係る光発振器の他の例は、第1波長を有する光を反射する第1反射部と、第1波長とは異なる第2波長の励起光によって励起され上記第1波長の光を放出するレーザー媒質と、上記レーザー媒質に対して上記第1反射部と反対側に配置されており、上記第1反射部とともに、上記第1波長を有する環状レーザー光を出力する不安定共振器を形成する第2反射部と、上記レーザー媒質に対して上記第1反射部と反対側に配置されており上記第1波長を有する光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、を備え、上記環状レーザー光の内径をd(mm)とし、外径をd(mm)とし、d/dを拡大率mとしたとき、拡大率mが21/2より大きい。
【0015】
上記構成では、不安定共振器を有することから、パルス状の上記環状レーザー光が出力される。上記光発振器は、拡大率mが21/2より大きい。そのため、励起光のエネルギーに対して高い有効エネルギーを実現可能である。
【0016】
本発明に係るレーザー装置の他の例は、上述した他の例である光発振器と、上記レーザー媒質に供給する上記励起光を出力する励起光供給部と、を備え、上記励起光のパワーが1.5kW以上且つ12kW以下である場合、拡大率mは、拡大率mは、1.44以上4.01以下であり、上記励起光のパワーが3kW以上12kW以下である場合、拡大率mは、1.47以上5.1以下であり、または、上記励起光のパワーが6kW以上12kW以下である場合、拡大率mは、1.50以上6.82以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い有効エネルギーを実現可能なレーザー装置および光発振器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、一実施形態に係るレーザー装置の概略構成を示す図面である。
図2図2は、図1に示したレーザー装置から出力されるパルスレーザー光の一例を示す模式図である。
図3図3は、参考実験例におけるビーム径の測定結果を示す図面である。
図4図4は、参考実験例における焦点近傍でのドーナツビーム(パルスレーザー光)のビーム半径と、ドーナツビームのエアリーディスクの半径とをプロットしたグラフである。
図5図5は、参考実験例における焦点位置におけるビームパターンの画像である。
図6図6は、図5中に示した白色ラインをy軸とした場合のy軸方向の強度分布を示す図面である。
図7図7は、数値計算に使用した光発振器のモデルを示す模式図である。
図8図8は、エネルギー変換効率ηおよび有効エネルギー率Eeffの拡大率依存性を示すグラフである。
図9図9は、有効エネルギー変換効率ηeffの拡大率依存性を示すグラフである。
図10図10は、規格化有効エネルギー変換効率ηeffの拡大率依存性を示すグラフである。
図11図11は、レーザー装置の第1応用例の模式図である。
図12図12は、レーザー装置の第2応用例の模式図である。
図13図13は、レーザー装置の第3応用例の模式図である。
図14図14は、レーザー装置の第4応用例の模式図である。
図15図15は、レーザー装置の第5応用例の模式図である。
図16図16は、レーザー装置の第6応用例の模式図である。
図17図17は、レーザー装置の第7応用例の模式図である。
図18図18は、光発振器の第1変形例を示す模式図である。
図19図19は、光発振器の第2変形例を示す模式図である。
図20図20は、光発振器の第3変形例を示す模式図である。
図21図21は、光発振器の第4変形例を示す模式図である。
図22図22は、第1反射部および第2反射部が湾曲している場合の曲率半径と拡大率との関係を説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0020】
図1に示したように、一実施形態に係るレーザー装置1Aは、励起光供給部2と、光発振器3Aと、集光光学系4とを有する。レーザー装置1Aは、励起光供給部2から供給される励起光L1が光発振器3Aに入射されることによって、パルスレーザー光L2を出力する。本実施形態に係るレーザー装置1Aは、受動Qスイッチレーザー装置である。レーザー装置1Aでは、パルスレーザー光L2を更に集光光学系4で集光する。レーザー装置1Aは、レーザー点火、レーザー誘起ブレークダウン分光法、アブレーションを目的とした様々なレーザー加工、または、レーザー光を用いた手術に好適に用いられる。本実施形態において、パルスレーザー光L2は、第1波長を有し、励起光L1は、第2波長を有する。
【0021】
上記第2波長は、たとえば、光発振器3Aが有するレーザー媒質31がNd:YAGであれば波長808nmまたは波長885nm、レーザー媒質31がYb:YAGであれば波長940nmまたは波長968nmである。上記第1波長は、例えば、レーザー媒質31がNd:YAGであれば波長1064nm、レーザー媒質31がYb:YAGであれば波長1030nmである。
【0022】
励起光供給部2は、励起光L1を光発振器3Aに供給可能な構成を有する。励起光供給部2は、例えば、光ファイバ21と、レーザーダイオード(LD)22および入射光学系23を有する。励起光供給部2は、複数の光ファイバ21の束(バンドル)を有してもよい。励起光供給部2は、光ファイバ21を有しない構成であって、LD22から入射光学系23を介して光発振器3Aに励起光L1を供給する構成でもよい。
【0023】
LD22は、励起光L1を出力する。励起光L1のパワーは、たとえば、0.8kW以上である。LD22は、連続波発振されてもよいし、準連続波発振されてもよい。光ファイバ21は、入力端がLD22にカップリングされている。光ファイバ21は、LD22から出力された励起光L1を入射光学系23に出力する。入射光学系23は、光ファイバ21から出力された励起光L1を集光して、光発振器3Aに入射させる。入射光学系23は、たとえば、図1に例示したようにレンズ23aおよびレンズ23bを有する。励起光L1は、例えば平行光もしくは実質的に平行光に近い緩い集光光として第1反射部33に入射されてもよい。
【0024】
光発振器3Aは、レーザー媒質31と、Qスイッチ素子(可飽和吸収部)32と、第1反射部33と、支持体34と、第2反射部35とを有する。第1反射部33と、第2反射部35と、レーザー媒質31と、Qスイッチ素子32とは、Z軸に沿って、第1反射部33、レーザー媒質31、Qスイッチ素子32および第2反射部35の順に配置されている。上記Z軸は、光発振器3Aの光軸に相当する。
【0025】
[レーザー媒質]
レーザー媒質31は、励起状態において増幅が吸収を上回る反転分布を形成し、誘導放出を利用して光を増幅させる。レーザー媒質31は、利得媒質とも称される。レーザー媒質31は、第2波長を有する励起光L1が供給されることによって、第1波長を有する光を放出可能であれば、既知の種々のレーザー媒質を利用できる。
【0026】
レーザー媒質31の材料の例は、発光中心となる希土類イオンを添加した酸化物から形成される光利得材料、発光中心となる遷移金属イオンを添加した酸化物から形成される光利得材料、カラーセンターとなる酸化物から形成される光利得材料等を含む。
【0027】
上記希土類イオンの例は、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybを含む。遷移金属イオンの例は、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuを含む。母体材料の例は、YAG,YSAG,YGAG,YSGG,GGG,GSGG,LuAGなどのガーネット系、YLF,LiSAF,LiCAF,MgF,CaFなどのフッ化系、YVO,GdVO,LuVOなどのバナデート系、FAP,sFAP,VAP,sVAPなどのアパタイト系、Al、BeAlなどのアルミナ系、Y,Sc,Luなどの二三酸化物系、KGW,KYWなどのタングステート系を含む。母体材料は、単結晶であってもよいし多結晶セラミック材料であってもよい。母体材料は、非晶質の各種ガラスでもよい。
【0028】
レーザー媒質31の形状の例は、板状及び柱状を含む。図1に示した実施形態において、レーザー媒質31の中心軸はZ軸に一致する。レーザー媒質31は、第1端面31aと、第2端面31b(Z軸の方向において第1端面31aと反対側の面)とを有する。第1端面31a及び第2端面31bはZ軸に直交している。Z軸の方向に沿ったレーザー媒質31の長さの例は、0.2mm~26mmである。
【0029】
Z軸方向からみたレーザー媒質31の形状(平面視形状)の例は、円形、矩形又は正方形、多角形を含む。上記レーザー媒質31の平面視形状が円形の場合、直径の例は1.4mm~100mmである。上記レーザー媒質31の平面視形状が矩形又は正方形の場合、およその対角の長さの例は1.9mm~140mmである。
【0030】
以下では、Z軸方向からある要素をみた場合のその要素の形状を上記のように「平面視形状」とも称す。
【0031】
Qスイッチ素子32は、Qスイッチ素子32に入射する第1波長の光の強度が増大すると吸収能力が飽和する特性を有する可飽和吸収体である。Qスイッチ素子32の透過率は、第2波長を有する光の吸収に伴って増加する。Qスイッチ素子32は、レーザー媒質31と同軸に配置され得る。Qスイッチ素子32は、第2端面31bに接合されてもよい。
【0032】
Z軸方向からみた場合、Qスイッチ素子32の大きさは、例えばCr:YAGでありレーザー媒質31がNd:YAGであればレーザー媒質31の方がより小さい。レーザー媒質31がNd:YVOまたはYb:YAGである場合、レーザー媒質31の方がQスイッチ素子32より、Z軸方向の長さが短い。Qスイッチ素子32の形状の例は、板状及び柱状を含む。Qスイッチ素子32は、レーザー媒質31側の第1端面32aと、第2端面32b(Z軸の方向において第1端面32aと反対側の面)とを有する。第1端面32aはZ軸に直交している。Z軸の方向に沿ったQスイッチ素子32の長さの例は、0.1~10mmである。
【0033】
レーザー媒質31及びQスイッチ素子32がともにセラミック製である場合、レーザー媒質31とQスイッチ素子32とは、焼結接合でも良いが表面活性化接合されるとなおよい。表面活性化接合は、真空中で接合する材料の接合面の酸化膜又は表面付着物をイオンビーム照射又はFAB(中性原子ビーム)照射によって除去し、平坦で構成原子の露出した接合面同士を接合するという手法である。上記接合は、分子間結合を利用した直接接合である。表面活性接合であれば、レーザー媒質をセラミックスに限定すること無く、単結晶同士の接合、またはそれらのハイブリッドな接合が可能なだけでなく、励起光反射コーティングなどを施した上での接合が可能になる。レーザー媒質31とQスイッチ素子32とが接合されることによって接合体を形成している場合、その接合体におけるレーザー媒質31とQスイッチ素子32の接合方向の長さ(Z軸方向の長さに相当)は、例えば、10mmより小さい。
【0034】
レーザー媒質31の第2端面31b及びQスイッチ素子32の第1端面32aの少なくとも一方には、第2端面31b及び第1端面32aにおける反射特性(例えば第2波長の光の反射特性)を調整するコーティング層が設けられてもよい。このようなコーティング層が第2端面31b及び第1端面32aの少なくとも一方に設けられている場合、例えばレーザー媒質31及びQスイッチ素子32は、コーティング層を介して前述したように接合され得る。Qスイッチ素子32の第1端面32a及び第2端面32bの少なくとも一方には、第2波長の励起光L1に対してHRコートとして機能し、第1波長の光に対してARコートとして機能するコーティング層が設けられてもよい。ただし、複合共振器を構成する場合、上記コーティング層は、第1波長の光に対して部分反射を実現するコーティング層でもよい。このようなコーティング層は、可飽和吸収部の一部であってもよい。すなわち、可飽和吸収部は、可飽和吸収体(図1のQスイッチ素子32)の他、上記コーティング層を有してもよく、コーティング層が可飽和吸収体の端面に設けられている場合、コーティング層の端面が可飽和吸収部の端面に相当する。
【0035】
[第1反射部]
第1反射部33は、レーザー媒質31の第1端面31aに設けられている。第1反射部33は、第2波長の励起光L1を透過する一方、第1波長の光を反射する。第2波長の励起光L1に対する第1反射部33の透過率は80%以上(望ましくは95%以上)であり、第1波長の光に対する第1反射部33の反射率は90%以上(望ましくは99%以上)である。第1反射部33は、たとえば誘電体多層膜である。第1反射部33は、たとえば、第2波長の励起光L1に対してARコートとして機能し、第1波長の光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。第1反射部33が誘電体多層膜である場合、第1反射部33は、薄膜形成技術によって第1端面31aに形成され得る。
【0036】
第1反射部33は、第1面33aと、第2面33bを有する。第1面33aは、励起光L1が入射される面である。第2面33bは、Z軸方向において第1面33aと反対側の面である。第1面33a及び第2面33bは、Z軸に直交している平面である。よって、第1反射部33は、上述した透過特性及び反射特性を有する平面鏡である。しかし、第1反射部33は、曲率を有する鏡(湾曲した鏡)でもよく、例えば凹面鏡であってもよい。
【0037】
[支持体]
支持体34は、Qスイッチ素子32と離間して配置されている。支持体34は、第2反射部35を支持する。支持体34は、第1波長の光(パルスレーザー光L2)を透過する。第1波長の光に対する支持体34の透過率は、90%以上である。支持体34の材料の例は、ガラスを含む。本実施形態において、支持体34の中心軸は、Z軸と一致している。
【0038】
支持体34の第1面34a(Qスイッチ素子32側の面)は、Qスイッチ素子32側に湾曲している。第1面34aの曲率半径は、たとえば、第2反射部35の曲率半径と同様である。支持体34の第2面34b(Qスイッチ素子32と反対側の面)は、たとえば平面である。支持体34の例は、平凸レンズである。第1面34aには、第1波長の光に対するARコートが施されていてもよい。このようなARコートも支持体34の一部でもよい。第1面34a上に第2反射部35が設けられている。
【0039】
[第2反射部]
第2反射部35は、第1面34a上に形成された第1波長の光を反射する。第2反射部35は、たとえば誘電体多層膜である。第2反射部35の光軸はZ軸と一致している。第1波長の光に対する第2反射部35の反射率は80%以上(望ましくは99%以上)である。第2反射部35は、例えば第1波長の光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。第2反射部35が誘電体多層膜である場合、第2反射部35は、薄膜形成技術によって第1面34aに形成され得る。
【0040】
光発振器3Aは、図1に示したように、レンズ36を有してもよい。レンズ36は、パルスレーザー光L2を平行化するレンズである。
【0041】
[集光光学系]
集光光学系4は、光発振器3Aから出力されるパルスレーザー光L2を集光する光学系である。図1に示した形態では、集光光学系4は、レンズである。集光光学系4の焦点距離の例は、5mm~500mmである。
【0042】
レーザー装置1Aは、収容部5を更に備えてもよい。収容部5はたとえば筐体である。収容部5は、入射光学系23、光発振器3Aおよび集光光学系4を収容する。この場合、たとえば、光ファイバ21の出力端は、収容部5の第1端壁5a(Z軸に直交する一対の壁部の一方の壁部)に取り付けられる。収容部5の第2端壁5b(Z軸に沿って第1端壁5aと反対の端壁)には、開口5cが形成されている。開口5cは、窓部材6によって塞がされている。窓部材6は、パルスレーザー光L2に対して透明な部材である。
【0043】
光発振器3Aを更に説明する。
【0044】
光発振器3Aが有する第1反射部33および第2反射部35は不安定共振器URを構成している。図1に示した実施形態において、第1反射部33及び第2反射部35によって形成される不安定共振器URの光軸は、Z軸と一致している。
【0045】
Z軸方向からみた場合、第2反射部35の大きさは、第1反射部33の大きさより小さい。更に、第2反射部35は、第1反射部33側に向けて湾曲している。第2反射部35は、たとえば、第1面34aと同様に湾曲している。第2反射部35が上記のように湾曲していることから、第2反射部35は、第2波長の光を発散させる。よって、第1反射部33及び第2反射部35は拡大光学系を形成している。
【0046】
Z軸方向からみた場合、第2反射部35は円形または多角形であり、その直径または対角の長さの例は、1mm~20mmである。第2反射部35の直径または対角の長さは、1mm~3mmであってもよい。第2反射部35の曲率半径の例は10mm~2mである。第2反射部35の曲率半径の例は10mm~100mmであってもよい。
【0047】
第2反射部35のうち第1反射部33に最も近い部分(第2反射部35の頂部)と、第1反射部33の第2面33bとの間の距離(以下、「共振器長Lc」とも称す)の例は、約4mm~50mmである。共振器長Lcは、15mmより小さくてもよい。
【0048】
第1反射部33及び第2反射部35は、不安定共振器URを構成する。そのため、Qスイッチ素子32を備える光発振器3Aからは、図2に示したように、ドーナツ状(ドーナツモード)のパルスレーザー光L2(環状レーザー光)が出力される。この点を具体的に説明する。
【0049】
励起光供給部2からの励起光L1が第1反射部33の第1面33aに入射されると、励起光L1は、第1反射部33を透過して、レーザー媒質31に供給される。これにより、レーザー媒質31が励起され、第1波長の光が放出される。レーザー媒質31から放出された第1波長の光は、第2反射部35によって、第1反射部33側に反射される。第1反射部33は第1波長の光を反射する。これにより、第1波長の光がレーザー媒質31を複数回通過する。第1波長の光がレーザー媒質31を通過する際の誘導放出によって第1波長の光は増幅され、Qスイッチ素子32の作用によってパルスレーザー光L2として出力される。
【0050】
第2反射部35は、第1反射部33側に湾曲していることから、第2反射部35で反射された第2波長の光は発散する。そのため、Z軸の方向からみて、第2反射部35の外側からパルスレーザー光L2が出力される。その結果、パルスレーザー光L2の形状(強度分布)は、図2に示したようなドーナツ形状(環状)である。すなわち、レーザー装置1Aは、ドーナツ状のパルスレーザー光L2を出力できる。
【0051】
パルスレーザー光L2の内径をdとし、パルスレーザー光L2の外径をdとし、拡大率mをd/dで定義する。
【0052】
上記レーザー装置1Aでは、光発振器3Aに励起光L1が入力されると、ドーナツ状のパルスレーザー光L2が出力される。レーザー装置1Aは、集光光学系4を有する。そのため、パルスレーザー光L2は、集光光学系4によって集光される。
【0053】
ここで、参考実験例を参照して、不安定共振器を有するレーザー装置の特性を説明する。以下、参考実験例の説明においてドーナツ状のパルスレーザー光をドーナツビームと称す。
【0054】
参考実験例では、収容部5および窓部材6を有しない点以外は、図1に示したレーザー装置1Aと同様のレーザー装置を使用した。
【0055】
参考実験例では、光ファイバ21がカップリングされたLD22を使用し、入射光学系23によって、励起光L1を第1反射部33に入射させた。入射光学系23は、レンズ23aおよびレンズ23bを用いたテレスコープであった。LD22の励起方法、励起光L1の波長及び出力パワーは、次のとおりであった。
・励起方法:準連続波励起
・励起光L1の波長:808nm
・励起光L1の出力パワー:700W
【0056】
レーザー媒質31には、Nd:YAGセラミック(Nd3+の添加量:1.1at.%)を用いた。Qスイッチ素子32には、Cr4+:YAGセラミックを用いた。Qスイッチ素子32の初期透過率は30%であった。レーザー媒質31及びQスイッチ素子32は接合されていた。レーザー媒質31及びQスイッチ素子32の接合体のZ軸方向の長さは7mmであり、上記接合体の体積は、6×6×7mmであった。レーザー媒質31及びQスイッチ素子32の接合体の両端面(すなわち、レーザー媒質31の第1端面31a及びQスイッチ素子32の第2端面32b)には、波長1064nm及び波長808nmそれぞれの光に対するARコートを施した。
【0057】
第1反射部33には、波長1064nmの光を反射し、波長808nmの光を透過する平面鏡を用いた。支持体34には、第1面34aの曲率半径が52mmの平凸レンズを使用した。支持体34の第1面34aの中央部に、第2反射部35として、波長1064nmの光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜を部分コーティングした。第1面34aのうち第2反射部35以外の領域には、ARコートを施した。Z軸方向からみた場合、第2反射部35の形状は、直径2mmの円形であった。共振器長Lcは10mmであった。
上記構成では、不安定共振器における拡大率mは21/2に相当する。
【0058】
ドーナツビーム(パルスレーザー光L2)を平行化するためのレンズ36として凸レンズを使用した。集光光学系4としてレンズ(焦点距離:300mm)を使用した。
【0059】
参考実験例では、パルスレーザー光L2のパルスエネルギーおよびパルス幅を測定した。パルスエネルギーは、集電素子(pyroelectric energy sensor)(Ophir Optronics Solutions Ltd.製)を用いて測定した。パルス幅は、立ち上がり時間(rise time)が30psのフォトディテクター及び13GHzオシロスコープを用いて測定した。パルスエネルギーおよびパルス幅は、集光光学系4を使用していない状態で測定した。測定によって得られたパルスエネルギーは10Hzの繰り返し周波数において13.2mJであり、パルス幅は、半値全幅で476psであった。
【0060】
参考実験例では、集光光学系4の集光位置近傍のビーム品質(M)を測定した。ビーム品質の測定には、ISO11146に応じたビーム品質測定器(beam quality M2 tool)(Cinogy technologies製)と解析ソフトウエア(RayCi)を使用した。
【0061】
ビーム品質(M)は次のように取得した。ドーナツビームの伝搬方向に沿った集光位置の前後における複数の位置でビーム径を測定した。その測定結果から、Mを算出した。ビーム径の測定結果は、図3に示したとおりであった。図3中の横軸は、ビーム径を測定した位置(position)(mm)を示しており、縦軸は、ドーナツビームの半径(beam radius)を示している。図3では、上記Z軸に対して設定する3次元座標系のX軸方向及びY軸方向のドーナツビームの半径を示している。図3における四角のマークは、X軸方向のビームの半径であり、黒丸のマークは、Y軸方向のビームの半径である。ドーナツビームは、理論的には真円であるが、実際には僅かに楕円形状を有する。上記X軸は、楕円の長軸方向に対応し、Y軸は楕円の短軸方向に対応する。図3には、各測定位置におけるビームパターンも示している。図3に示したように、焦点位置におけるファーフィールドパターンは、エアリーディスク及びエアリーパターンであった。
【0062】
図3から算出されるMは、X軸方向に対して6.8であり、Y軸方向に対して5.3であった。参考実験例におけるMの数値は、2次モーメントのビーム径に基づいた値である。更に、光電力の86.5%のビーム径に基づいたM PCも算出した。X軸方向及びY軸方向のM PCは、それぞれ6.5及び5.2であった。ここで、下記式でX軸方向及びY軸方向のMの平均M aveを定義する。
【数1】
【0063】
この場合、X軸方向及びY軸方向に対して算出されたMの平均M aveは6であった。同様に、X軸方向及びY軸方向に対して算出されたM pcの平均M aveは、5.8であった。
【0064】
図4は、焦点近傍におけるドーナツビームのビーム半径と、ドーナツビームのエアリーディスクの半径とをプロットしたグラフである。ドーナツビームのビーム半径は、図3に示したX軸方向およびY軸方向の半径の平均値である。図4中の曲線α1は、ドーナツビームのビーム半径の測定結果に対するフィティング曲線を示している。図4中の曲線α2はエアリーディスク半径の測定結果に対するフィッティング曲線を示している。更に、図4中の曲線α3は、同様のレンズでガウシアンビームを集光した場合のガウシアンビーム半径を示している。
【0065】
図4に示した結果より、エアリーディスクの半径は、ドーナツビームのビーム半径の約0.2倍であった。ここで、エアリーディスクの幅およびビーム品質をwAiryおよびM Airyとし、ドーナツビームの幅およびビーム品質をwおよびM とする。この場合、以下の関係が成立する。
【数2】
前述したように、M は6であり、wAiry/wは、約0.2である。したがって、ドーナツビーム全体のビーム品質Mは6である一方、エアリーディスクでは、約1.2のビーム品質を得られる。換言すれば、エアリーディスクでは、ガウシアンモードに近いビーム品質が得られる。
【0066】
更に、図4により、ドーナツビームのエアリーディスクに相当する領域に着目すれば、長いレイリー長(図4では、ガウシアンビームの約4倍)を実現できる。
【0067】
図5は、焦点位置におけるビームパターンの画像である。図5からも焦点位置においてエアリーディスクおよびエアリーパターンが形成されていることが理解され得る。
【0068】
図6は、図5中に示した白色ライン(図6中において縦方向に延びている白色ライン)をy軸とした場合のy軸方向の強度分布を示す図面である。図6では、図5の中心部におけるy軸方向に沿った断面の強度(実験結果)が白丸でプロットされている。図中の横軸はy軸方向における位置を示しており、縦軸は、規格化強度を示している。エアリーディスク及びエアリーパターンの2次モーメントビーム直径(2w)は、0.29mmであった。図6中には、同じビーム直径(0.29mm)を有するガウシアン分布を実線で示すとともに、0.2wを直径とするガウシアン分布を破線で示している。なお、幅wは、位置0に対して正(または負)の領域の幅である。図6に示した長さdaがエアリーディスク直径に相当する。
【0069】
平面波が円形開口レンズを通過すると回折によってエアリーディスクパターンが生じる。そのため、平面波を円形開口レンズで集光した場合の光の集光位置(焦点位置)における強度分布を示す式(1)(たとえば、B. Lu, et al., “The beam quality of annular lasers and related problems,” J. Mod. Opt. 48, 1171 (2001)、参照)によって、ドーナツビームの強度分布をフィティングした。
【数3】
式(1)中のmは、b/aである。式(1)中のmを定義するbは、円形開口レンズの外半径(outer radius)であり、aは、円形開口の内半径(inner radius)である。fは、円形開口レンズの焦点距離である。rは、焦点位置におけるエアリーディスクの半径方向の位置である。I(0,f)は、焦点面におけるピーク強度である。I(0,f)は、S/(λ)で表される。Sは、円形開口レンズの開口面積である。Sは、πa(m-1)で表される。Jは、1次ベッセル関数である。k(=2π/λ)は、波数である。
【0070】
図6に示したフィッティング曲線では、m、2bおよびfは以下のとおりであった。
m=1.48
2b=7.5mm
f=315mm
【0071】
参考実験における不安定共振器の拡大率mは、21/2である。そのため、上記式(1)に基づくフィッティング結果より、式(1)におけるmを、不安定共振器の拡大率と見なす(換言すれば、d=2a、d=2bと見なす)ことによって、式(1)に基づいて、ドーナツビーム(パルスレーザー光L2)の焦点位置におけるエアリーディスクの強度分布を算出できる。
【0072】
図1に戻って、レーザー装置1Aを更に説明する。
【0073】
本実施形態では、励起光L1のパワー(以下、「励起パワー」とも称す)をP(kW)とした場合、拡大率mは、以下の式(2a)を満たす。換言すれば、拡大率mが、式(2a)を満たすように、不安定共振器UR(具体的には、第1反射部33および第2反射部35)が設計されている。
+aLog(P)≦m≦b+b+b 2・・・(2a)
ただし、式(2a)において、a、a、b、bおよびbは次のとおりである。
=1.421
=0.10678
=2.8698
=0.79408
=-0.022536
【0074】
拡大率mは、以下の式(2b)を満たしてもよい。換言すれば、拡大率mが、式(2b)を満たすように、不安定共振器UR(具体的には、第1反射部33および第2反射部35)が設計されていてもよい。
+aLog(P)≦m≦b+b+b 2・・・(2b)
ただし、式(2b)において、a、a、b、bおよびbは次のとおりである。
=1.613
=0.16827
=2.6961
=0.71522
=-0.023234
【0075】
拡大率mは、以下の式(2c)を満たしてもよい。換言すれば、拡大率mが、式(2c)を満たすように、不安定共振器UR(具体的には、第1反射部33および第2反射部35)が設計されていてもよい。
+aLog(P)≦m≦b+b+b 2・・・(2c)
ただし、式(2c)において、a、a、bおよびbは次のとおりである。
=1.886
=0.28888
=2.6771
=0.51375
=-0.021411
【0076】
拡大率mは、以下の式(2d)を満たしてもよい。換言すれば、拡大率mが、式(2d)を満たすように、不安定共振器UR(具体的には、第1反射部33および第2反射部35)が設計されていてもよい。
+aLog(P)≦m≦b+bLog(P)・・・(2d)
ただし、式(2d)において、a、a、bおよびbは次のとおりである。
=1.9308
=0.37083
=2.9116
=2.3422
【0077】
具体的には、拡大率mは、21/2より大きい。拡大率mは、たとえば、10以下である。拡大率は、7以下であってもよいし、6以下、5以下、または4以下であってもよい。
【0078】
[励起パワーPが1.5kW以上12kW以下(または、3kW以下若しくは6kW以下)である場合(特に、1.5kWの場合)]
拡大率mは、1.44以上4.01以下でもよい。
拡大率mは、1.64以上3.72以下でもよい。
拡大率mは、1.93以上3.40以下でもよい。
拡大率mは、1.99以上3.32以下でもよい。
【0079】
[励起パワーPが3kW以上12kW以下(または6kW以下)である場合(特に、3kWである場合)]
拡大率mは、1.47以上5.1以下でもよい。
拡大率mは、1.69以上4.64以下でもよい。
拡大率mは、2.02以上4.03以下でもよい。
拡大率mは、2.10以上4.03以下でもよい。
【0080】
[励起パワーPが6kW以上12kW以下である場合(特に、6kWである場合)]
拡大率mは、1.50以上6.82以下でもよい。
拡大率mは、1.74以上6.20以下でもよい。
拡大率mは、2.11以上4.99以下ででもよい。
拡大率mは、2.22以上4.74以下であってよい。
【0081】
[励起パワーPが12kWである場合]
拡大率mは、1.53以上9.16以下でもよい。
拡大率mは、1.79以上7.94以下でもよい。
拡大率mは、2.19以上5.76以下でもよい。
拡大率mは、2.33以上5.44以下でもよい。
【0082】
上記レーザー装置1Aでは、光発振器3Aに励起光L1が入力されると、ドーナツ状のパルスレーザー光L2が出力される。レーザー装置1Aは、集光光学系4を有する。そのため、パルスレーザー光L2は、集光光学系4によって集光される。
【0083】
集光光学系4の集光位置(焦点位置)でエアリーディスクとしてパルスレーザー光L2の中心に含まれるエネルギーを「有効エネルギー」と称す。上記レーザー装置1Aでは、拡大率mが、式(2)を満たす。そのため、励起光L1のエネルギーに対して、高い有効エネルギーを実現可能である。そのため、レーザー光を集光して使用するレーザー応用分野において、レーザー装置1Aおよび光発振器3Aは有効である。
【0084】
エアリーディスクの大きさは、パルスレーザー光L2の大きさより小さい。そのエアリーディスクの領域で高い有効エネルギーを実現可能であるためたとえば微細加工、微細な領域での手術なども可能である。集光位置において、パルスレーザー光L2のエネルギーがエアリーディスクにより多く含まれ、またレイリー長に相当する焦点深度も長くなるため安定なブレイクダウンが望める。
【0085】
次に、励起光L1のエネルギーに対して高い有効エネルギーを実現可能なことを、数値計算結果を参照して更に説明する。
【0086】
図7は、数値計算に使用した光発振器のモデルを示す模式図である。図7に示したように、数値計算モデルとしての光発振器は、第1反射部33、レーザー媒質31、Qスイッチ素子32および第2反射部35を有していた。数値計算では、励起光L1を光発振器に入力して、拡大率m(=d/d)のパルスレーザー光L2が出力される場合を想定した。
【0087】
励起光L1の形状およびサイズ、第2反射部35の直径および反射率は次のように仮定した。
・励起光L1の形状(Z軸方向からみた形状):円形
・励起光L1のサイズ(直径):出力するパルスレーザー光L2の直径dとした。
・第2反射部35の直径d:1mm
・第2反射部35の反射率(またはカップリング効率):1/m
また、レーザー媒質31の有効モード面積(A)およびQスイッチ素子32の有効モード面積(ASA)は同じと設定した。
【0088】
数値計算では、出力されたパルスレーザー光L2をレンズで集光した場合において、励起光L1のエネルギーEpumpに対する有効エネルギーEAiry diskの割合(以下「有効エネルギー変換効率ηeff」と称す)を計算した。有効エネルギーEAiry diskは、前述したように、パルスレーザー光L2の集光位置におけるエアリーディスク内のエネルギーである。
【0089】
上記計算のために以下の式(3)および式(4)を使用した(たとえば、後述する参考文献1~3を参照)。式(4)で表されるEpulseは、パルスレーザー光L2のエネルギーである。
【数4】
【数5】
ただし、式(3)および式(4)中のngiは、式(5)表されるレーザー媒質31の初期反転分布密度(Initial population inversion density of gain medium)である。
【数6】
式(3)から式(5)中の各パラメータは以下のとおりである。
:Qスイッチ素子の初期透過率
R:第2反射部35の回折損失に相当の反射率
L:不安定共振器URにおける往復損失
σ(m):誘導放出断面積
(mm):レーザー媒質31の長さ
(=π(d/2)):レーザー媒質31におけるモード面積
γ:レーザー媒質31の反転分布減少因子
gf:レーザー媒質31の最終反転分布
:励起光L1のピークパワー
τ(ms):上準位寿命
:励起率
参考文献1:N. Pavel, J. Saikawa, S. Kurimura, and T. Taira, “High average powerdiode end-pumped composite Nd:YAG laserpassively Q-switched by Cr4+:YAGsaturable absorber,” Jpn. J. Appl. Phys. 40(Part 1, No. 3A), 1253-1259 (2001).
参考文献2:H Sakai, H Kan, T Taira, “1 MW peak powersingle-mode high-brightness passively Q-switched Nd3+:YAG microchiplaser Optics Express; Vol. 16, Issue 24,pp.19891-19899, (2008).
参考文献3:A. Kausas and T. Taira, “Giant-pulse Nd:YVO4 microchip laserwithMW-level peak power by emission cross-sectional
control,” Opt. Express 24(4), 3137-3149(2016).
【0090】
数値計算では、T、R、L、σ、l(mm)、γ、τを以下の値とした。
=0.3
R=0.5
L=0.06
σ=2.63×10―23(m
=4mm、
γ=2
τ=0.23ms
gfは、数値計算過程で順次算出した。また、Wは励起パワーPpとその励起面積で決定した。
【0091】
更に、エアリーディスク内のエネルギーEAiry diskは、式(1)に基づいて算出される強度分布に基づいて算出した。式(1)を使用する場合、式(1)中のmを、拡大率mとした。具体的には、式(1)中のaをd/2とし、式(1)中のbをd/2とした。
【0092】
励起光L1のエネルギーEPUMPに対するパルスレーザー光L2のエネルギーEpulseの有合をエネルギー変換効率ηと称す。
パルスレーザー光L2のエネルギーEpulseにおける有効エネルギーEAiry diskの割合を、有効エネルギー率Eeffと称す。
励起光L1のエネルギーEPUMPに対するパルスレーザー光L2のエネルギーEpulseの割合を、有効エネルギー変換効率ηeffと称す。
【0093】
エネルギー変換効率η、有効エネルギー率Eeffおよび有効エネルギー変換効率ηeffは、それぞれ次の式で表される。
【数7】
【0094】
励起パワーPpが、1.5kW、3kW、6kWおよび12kWの場合それぞれにおいて種々の拡大率mについて、上記エネルギー変換効率η、有効エネルギー率Eeffおよび有効エネルギー変換効率ηeffを算出した。拡大率mは、d(パルスレーザー光L2の内径に相当)を固定し、d(パルスレーザー光L2の外径に相当)を変化させることで調整した。計算結果は、図8および図9のとおりであった。
【0095】
図8は、エネルギー変換効率ηおよび有効エネルギー率Eeffの拡大率依存性を示すグラフである。図8の横軸は拡大率を示している。図8において右側の縦軸はエネルギー変換効率ηを示しており、左側の縦軸は、エネルギー変換効率ηを示している。図9は、有効エネルギー変換効率ηeffの拡大率依存性(変換効率分布)を示すグラフである。図9の横軸は拡大率を示している。図9の縦軸は有効エネルギー変換効率ηeffを示している。図9は、式(6c)から理解されるように、図8に示した有効エネルギー率Eeffとエネルギー変換効率ηとの積である。
【0096】
更に、図9に示した有効エネルギー変換効率ηeffの拡大率依存性を、有効エネルギー変換効率ηeffの最大有効エネルギー変換効率(最大値)で規格化した規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを算出した。規格化有効エネルギー変換効率ηn_effは、各励起光L1の励起パワーPの有効エネルギー変換効率ηeffの拡大率依存性に対して算出した。その結果は、図10のとおりであった。図10の横軸は拡大率mであり、縦軸は、規格化有効エネルギー変換効率ηn_efである。
【0097】
図10中のハッチング領域は、規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが50%以上の領域を示している。このハッチング領域に対する拡大率mと、励起パワーPとの関係は式(2a)で表される。
【0098】
したがって、拡大率mが式(2a)を満たす場合、50%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが得られる。すなわち、励起光L1のエネルギーを、有効エネルギーに効率よく変換可能である。その結果、高い有効エネルギーを実現できる。
【0099】
規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが63.21%以上の領域を示す式が式(2b)である。したがって、拡大率mが式(2b)を満たす場合、63.21%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが得られる。すなわち、励起光L1のエネルギーを、有効エネルギーに更に効率よく変換可能である。その結果、一層高い有効エネルギーを実現できる。
【0100】
規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが86.47%以上の領域を示す式が式(2c)である。したがって、拡大率mが式(2c)を満たす場合、86.47%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが得られる。すなわち、励起光L1のエネルギーを、有効エネルギーに更に効率よく変換可能である。その結果、一層高い有効エネルギーを実現できる。
【0101】
規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが90%以上の領域を示す式が式(2d)である。したがって、拡大率mが式(2d)を満たす場合、90%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effが得られる。すなわち、励起光L1のエネルギーを、有効エネルギーに更に効率よく変換可能である。その結果、一層高い有効エネルギーを実現できる。
【0102】
図10より、以下の点も理解し得る。
[励起パワーPが1.5kW以上12kW以下(または、3kW以下若しくは6kW以下)である場合(特に、1.5kWの場合)]
拡大率mが1.44以上4.01以下であれば、50%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが1.64以上3.72以下であれば、63.21%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが1.93以上3.40以下であれば、86.47%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが1.99以上3.32以下であれば、90%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
【0103】
図10より、以下の点も理解し得る。
[励起パワーPが3kW以上12kW以下(または6kW以下)である場合(特に、3kWである場合)]
拡大率mが1.47以上5.1以下であれば、50%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが1.69以上4.64以下であれば、63.21%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが2.02以上4.03以下であれば、86.47%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが2.10以上4.03以下であれば、90%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
【0104】
図10より、以下の点も理解し得る。
[励起パワーPが6kW以上12kW以下である場合(特に、6kWである場合)]
拡大率mが1.50以上6.82以下であれば、50%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが1.74以上6.20以下であれば、63.21%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが2.11以上4.99以下であれば、86.47%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが2.22以上4.74以下であれば、90%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
【0105】
図10より、以下の点も理解し得る。
[励起パワーPが12kWである場合]
拡大率mが1.53以上9.16以下であれば、50%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが1.79以上7.94以下であれば、63.21%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが2.19以上5.76以下であれば、86.47%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
拡大率mが2.33以上5.44以下であれば、90%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現できる。
【0106】
レーザー装置1Aが有する光発振器3Aを設計する場合、たとえば、次のような設計方法が可能である。
【0107】
まず、上記数値計算と同様の手法で、規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを算出する。規格化有効エネルギー変換効率が50%以上であるように、拡大率mを設定する。このように設定した拡大率mを実現するように、第1反射部および第2反射部の形状および大きさを決定する。これにより、レーザー装置1Aを実現可能な光発振器3Aを設計可能であり、その結果、50%以上の規格化有効エネルギー変換効率ηn_effを実現可能なレーザー装置1Aを設計できる。
【0108】
次に、本実施形態で開示したレーザー装置を用いた種々の応用例を説明する。
【0109】
図11は、レーザー装置の第1応用例の模式図である。図11は、レーザー装置1Aを、自動車、コジェネなどにおける内燃機関100のレーザー点火に用いた例である。この場合、レーザー装置1Aから出力されるパルスレーザー光L2の集光位置が内燃機関100の燃焼室101内であるように、レーザー装置1Aが内燃機関に取り付けられている。レーザー装置1Aが、上記のように高い有効エネルギーを有するため、効率的にレーザー点火を行える。
【0110】
図12は、レーザー装置の第2応用例の模式図である。図12は、レーザー装置1Aを、ジェットエンジン200のレーザー点火に用いた例である。この場合、レーザー装置1Aから出力されるパルスレーザー光L2の集光位置がジェットエンジン200の燃焼室201内であるように、レーザー装置1Aがジェットエンジン200に取り付けられている。レーザー装置1Aが、上記のように高い有効エネルギーを有するため、効率的にレーザー点火を行える。
【0111】
図13は、レーザー装置の第3応用例の模式図である。図13では、マーキングおよび微細加工等のレーザー加工にレーザー装置1Aを応用した場合を示している。図13に示した例では、レーザー装置1A(具体的には、収容部5)がロボットアーム300に取り付けられている。ロボットアーム300を操作することによって、加工対象物301の加工位置に、パルスレーザー光L2を照射できる。そのため、上述したマーキングおよび微細加工等のレーザー加工が施され得る。レーザー装置1Aが、励起光L1のエネルギーに対して高い有効エネルギーを有するため、効率的にレーザー加工を行える。また、有効エネルギーは、エアリーディスクにおけるエネルギーであるため、微細加工も可能である。
【0112】
図14は、第4応用例の模式図である。図14では、加工対象物302にレーザピーニング処理およびレーザーフォーミング処理などのレーザー加工を行う場合を示している。図11に示した例は、レーザピーニング処理およびレーザーフォーミング処理などに使用される液体噴射部303を収容部5に取り付けている点以外は、実質的に図13に示した第3応用例と同様である。図14に示した例では、加工対象物302の加工位置に、液体噴射部303から液体304(たとえば水)を供給しながら、加工位置に、パルスレーザー光L2を照射することによって、上述したレーザピーニング処理およびレーザーフォーミング処理などを施す。レーザー装置1Aが、励起光L1のエネルギーに対して高い有効エネルギーを有するため、効率的にレーザピーニング処理およびレーザーフォーミング処理などを行える。また、有効エネルギーは、エアリーディスクにおけるエネルギーであるため、微細加工も可能である。
【0113】
図15は、第5応用例の模式図である。図15では、レーザー装置の変形例であるレーザー装置1Bを使用している。図15では、レーザー装置1Bを、試料400のレーザー誘起ブレークダウン(LIBS)分光法に適用した場合の例を示している。レーザー装置1Bから照射され試料400で生じた発光を検査光L3と称す。
【0114】
レーザー装置1Bは、励起光供給部2と、光発振器3Aと、集光光学系4とを有する。 励起光供給部2と、光発振器3Aと、集光光学系4は、レーザー装置1Aの場合と同様であるため、説明を省略する。第5応用例においても、集光光学系4は、たとえばレンズである。レーザー装置1Bは、励起光供給部2と、光発振器3Aと、集光光学系4を有するため、レーザー装置1Aと同様に、パルスレーザー光L2を出力可能である。レーザー装置1Aは、パルスレーザー光L2の集光位置が、試料400の検査領域に位置するように、試料400に対して配置されている。
【0115】
パルスレーザー光L2の照射により生じた試料400からの光(以下、「検査光」と称す)を分析するために、レーザー装置1Bには、分光器401が光ファイバ402を介して取り付けられている。更に、レーザー装置1Bは、光分岐フィルタ7と、反射部8と、収容部5Bとを有する。
【0116】
光分岐フィルタ7は、レンズ36と、集光光学系4との間に配置されている。光分岐フィルタ7は、パルスレーザー光L2を透過する一方、試料400からの検査光L3であって集光光学系4で集光される検査光L3を反射する。光分岐フィルタ7は、たとえば波長選択フィルタである。
【0117】
反射部8は、光分岐フィルタ7で反射された光を、収容部5Bに取り付られた光ファイバ402の一端に入射させるように反射する。
【0118】
収容部5Bは、励起光供給部2が有する入射光学系23、光発振器3A、集光光学系4、光分岐フィルタ7および反射部8を収容する。収容部5Bの第1端壁5aには、光ファイバ21が取り付けられており、第3端壁5dには、光ファイバ402が取り付けられている。更に、収容部5Bの第2端壁5bには、パルスレーザー光L2を出力するための開口5cが形成されている。開口5cは、集光光学系4によって塞がれている。これにより、レーザー装置1Aの場合と同様に、パルスレーザー光L2が、収容部5Bから出力され得る。
【0119】
レーザー装置1Bから出力されたパルスレーザー光L2は、パルスレーザー光L2の集光位置に配置された検査領域に照射される。これにより、検査領域においてレーザー誘起ブレークダウンが生じ、その結果、プラズマ発光が生じる。プラズマ発光で生じた検査光L3は、集光光学系4に再度入射し、光分岐フィルタ7で反射部8側に反射される。そのように反射された検査光L3は、反射部8で反射され、光ファイバ21に入射される。光ファイバ21は、分光器401に接続されているため、検査光L3を分光器401で分光できる。
【0120】
レーザー装置1Bは、レーザー装置1Aと同様のパルスレーザー光L2を出力できる。集光位置におけるパルスレーザー光L2は、励起光L1のエネルギーに対して高い有効エネルギーを有する。よって、効率的にレーザー誘起ブレークダウンを生じさせることが可能である。
【0121】
図16は、第6応用例の模式図である。図16では、レーザー装置の変形例であるレーザー装置1Cを使用している。レーザー装置1Cの構成は、窓部材6を有しない点および集光光学系4で開口5cを塞いでいる点以外は、レーザー装置1Aの構成と同様である。したがって、レーザー装置1Cは、レーザー装置1Aと同様のパルスレーザー光L2を出力する。
【0122】
図16では、レーザー装置1Cを、光音響イメージングに適用した場合の例を示している。具体的には、レーザー装置1Cを、生体組織といった検査対象500に照射する。この際、レーザー装置1Cは、検査対象500内の検査領域でパルスレーザー光L2が集光されるように、検査対象500に対して配置される。
【0123】
検査領域にパルスレーザー光L2が照射されると、検査領域が熱膨張する。この熱膨張によって超音波USが生じる。この超音波USを、検出器501(たとえば、高感度微小振動検出器)によって検出する。
【0124】
集光位置におけるパルスレーザー光L2は、励起光L1のエネルギーに対して高い有効エネルギーを有する。そのため、効率的に熱膨張およびそれに伴う超音波USを生じさせることが可能である。
【0125】
図17は、第7応用例の模式図である。図17では、レーザー装置1Aの変形例であるレーザー装置1Dを使用している。レーザー装置1Dは、レーザー操作部10を更に備える点で主にレーザー装置1Aの構成と相違する。この相違点を中心にしてレーザー装置1Dを説明する。図17では、レーザー装置1Dを、眼600の手術(たとえば緑内障、白内障などの手術)に応用した例を示している。
【0126】
レーザー装置1Dは、励起光供給部2と、光発振器3Aと、集光光学系4と、収容部5と、レーザー操作部10と、を有する。励起光供給部2と、光発振器3Aと、集光光学系4は、レーザー装置1Aの場合と同様であるため説明を省略する。
【0127】
収容部5は、励起光供給部が有する入射光学系23と、光発振器3Aを収容する。収容部5は、集光光学系4を収容していない点以外は、第6応用例の収容部と同様である。収容部5の開口5cは、レンズ36によって塞がれている。
【0128】
レーザー操作部10は、光伝播光学系11と、走査部12と、集光光学系4とを有する。光伝播光学系11は、パルスレーザー光L2を、治療対象である眼600に向けて伝播する光学系である。光伝播光学系11は、たとえば、複数のレンズ、ミラーなどで構成され得る。走査部12および集光光学系4の一部も光伝播光学系の一部として機能する。走査部12は、治療のためにパルスレーザー光L2を走査する部分であり、たとえば、ミラーと、ミラーを走査する駆動部とを有する。集光光学系4は、レーザー装置1Aの場合と同様に、パルスレーザー光L2を集光する。
【0129】
レーザー装置1Dは、光発振器3Aを有する。そのため、レーザー装置1Aが有する光発振器3Aと同様のパルスレーザー光L2が出力される。レーザー操作部10は、集光光学系4を有し、パルスレーザー光L2を集光する。したがって、レーザー装置1Dは、レーザー装置1Aと同様の作用効果を有する。そのため、集光位置におけるパルスレーザー光L2は、励起光L1のエネルギーに対して高い有効エネルギーを有する。したがって、眼600を効率的に治療できる。
【0130】
以上説明した種々の形態は、本発明の例示である。本発明は例示した種々の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲を含むとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0131】
図18は、光発振器の第1変形例を示す模式図である。図18に示した光発振器3Bのように、第1反射部33は、レーザー媒質31から離れていてもよい。この場合、たとえば、第1反射部33は、励起光L1に対して透明な支持体37Aに支持されていればよい。
【0132】
図19は、光発振器の第2変形例を示す模式図である。図19に示した光発振器3Cのように、第1反射部33が湾曲している点で、図18に示した光発振器3Aと相違する。この場合、たとえば、第1反射部33は、励起光L1に対して透明であり、第1反射部33を支持する支持面が湾曲している支持体37Bに支持されていればよい。ドーナツ状のパルスレーザー光L2が得られれば、第1反射部33の湾曲方向は、図19に示した方向と反対側でもよい。
【0133】
図20は、光発振器の第3変形例を示す模式図である。図20に示した光発振器3Dのように、第2反射部35は、Qスイッチ素子32の第2端面32bに設けられてもよい。この場合、第2端面32bは、第2反射部35が、所望の形状に湾曲するように湾曲していればよい。
【0134】
図21は、光発振器の第4変形例を示す模式図である。図21に示した光発振器3Eは、第1反射部33が湾曲している点で、図20に示した光発振器3Dと相違する。この場合、レーザー媒質31の第1端面31aは、第1反射部33が、所望の形状に湾曲するように湾曲していればよい。ドーナツ状のパルスレーザー光L2が得られれば、第1反射部33の湾曲方向は、図21に示した方向と反対側でもよい。
【0135】
図22に示したように、第1反射部33および第2反射部35が湾曲している場合、第1反射部33および第2反射部35は、次の式で表され得るR1及びR2を有する反射部であってもよい。R1は、第1反射部33の曲率半径であり、R2は、第2反射部35の曲率半径である。
R1=-2Lc/(m-1)
R2=2mLc/(m-1)
上記R1及びR2の式において、mは、図2を利用して説明した拡大率m(=d/d)であり、Lcは、図1を利用して説明した共振器長Lcである。
【0136】
拡大率mにおけるdは、第2反射部35の大きさ(直径など)に対応し、dは、出力されるパルスレーザー光(ドーナツビーム)の径に対応する。よって、レーザー装置は、上記R1及びR2の式を用いて、所望の拡大率mを有するドーナツ状のパルスレーザー光を得るように設計され得る。
【0137】
Qスイッチ素子として例示した可飽和吸収体と、レーザー媒質とは、離れていてもよい。光発振器の光軸方向からみた場合、可飽和吸収体の大きさは、第2反射部より大きくレーザー媒質より小さくでもよい。
【0138】
レーザー装置は、不安定共振器から出力された環状レーザー光(たとえば上記実施形態の上記ドーナツビーム状のパルスレーザー光L2)を変換するための複屈折位相整合(BPM, birefringent phase matching)や擬似位相整合(QPM,quasi phase matching)またはその両者を組み合わせた非線形光学系(例えば非線形光学素子)を更に備えてもよい。この場合、たとえば、波長1μmの基本波(レーザー発振波長は発光中心となる添加元素に依存)から、高調波や和周波、さらにはパラメトリック過程や差周波も含めたそれらとの組合せによる可視域、紫外線域などの短波長への変換、さらにパラメトリック過程や差周波、さらには高調波や和周波も含めたそれらの組合せでの中赤外域からテラヘルツ波までの変換も効率良くおこなえるため、加工や計測に有効である。また、上記非線形光学系(例えば非線形光学素子)はスペクトルのチャープを利用したパルスの圧縮、伸張を含めたパルス成形にも有用である。
【0139】
以上説明した種々の実施形態、変形例などは、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0140】
1A,1B,1C,1D…レーザー装置,2…励起光供給部,3A,3B,3C,3D,3E…光発振器、4…集光光学系、31…レーザー媒質、32…Qスイッチ素子、33…第1反射部、34…支持体、35…第2反射部、36…レンズ、L1…励起光、L2…パルスレーザー光(環状レーザー光)、UR…不安定共振器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22