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特許7545811シックナー、スラリー処理システム、排水処理システム、及びシックナーの制御方法
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  • 特許-シックナー、スラリー処理システム、排水処理システム、及びシックナーの制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】シックナー、スラリー処理システム、排水処理システム、及びシックナーの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/30 20060101AFI20240829BHJP
   C02F 11/121 20190101ALI20240829BHJP
【FI】
B01D21/30 G ZAB
C02F11/121
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020054491
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021154189
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須賀 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 政登
(72)【発明者】
【氏名】中河 久典
(72)【発明者】
【氏名】上野 修
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-26662(JP,B1)
【文献】特開平11-300110(JP,A)
【文献】特開2004-58026(JP,A)
【文献】特開2017-124368(JP,A)
【文献】実開昭53-38157(JP,U)
【文献】特開2003-340208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/30
C02F 11/121
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト、ゴミ焼却灰、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも一種と、水と、を含むスラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽と、
前記濃縮部の少なくとも一部を前記沈殿槽から抜き出す抜出ラインと、
前記抜出ライン上に設けられ、前記抜出ライン内を流れる前記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する測定部と、
前記抜出ラインに接続され、前記抜出ライン内を流れる前記濃縮部を直接前記沈殿槽に戻す返送ラインと、
前記抜出ラインに接続され、前記抜出ライン内を流れる前記濃縮部を外部に排出する排出ラインと、
前記抜出ライン、前記返送ライン及び前記排出ラインに直接接続され、前記濃縮部の流路を前記返送ライン及び前記排出ラインの間で切り替える切り替え部と、を備え
前記切り替え部は、前記懸濁物質濃度の値に応じて、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記濃縮部を前記沈殿槽に返送し、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には、前記濃縮部をシックナーの外部に排出するように切り替える、シックナー。
【請求項2】
前記測定部による前記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、前記切り替え部を制御する制御部を更に備える、請求項1に記載のシックナー。
【請求項3】
前記測定部による前記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果が所定値を超えた場合に、外部の警報装置に信号を送る信号発信器を更に備える、請求項1又は2に記載のシックナー。
【請求項4】
前記沈殿槽、前記抜出ライン、前記測定部、及び前記切り替え部のうち少なくとも一つ以上が閉塞防止用の流体を注入する注入部を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のシックナー。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシックナーと、前記シックナーの前記排出ラインに接続する貯留槽と、を備え、
前記切り替え部は、前記懸濁物質濃度の値に応じて、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記濃縮部を前記沈殿槽に返送し、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には、前記濃縮部をシックナーの外部に排出するように切り替える、スラリー処理システム。
【請求項6】
前記貯留槽が、凝集剤添加手段と、前記シックナーの前記測定部による前記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には凝集剤の添加量を増加させ、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には凝集剤の添加量を減少させるように前記凝集剤添加手段を制御する制御部と、を有する、請求項5に記載のスラリー処理システム。
【請求項7】
前記貯留槽と接続する濃縮部処理部を更に備える、請求項5又は6に記載のスラリー処理システム。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシックナーと、前記シックナーから供給される前記上澄み部を収容する収容槽と、前記収容槽と接続し、前記沈殿槽とは異なる第二沈殿槽と、を備え、
前記切り替え部は、前記懸濁物質濃度の値に応じて、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記濃縮部を前記沈殿槽に返送し、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には、前記濃縮部をシックナーの外部に排出するように切り替える、排水処理システム。
【請求項9】
前記収容槽は、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を前記上澄み部に添加する手段を更に備える、請求項8に記載の排水処理システム。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載のシックナーを制御する方法であって、
セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト、ゴミ焼却灰、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも一種と、水と、を含むスラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽から抜き出される前記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する工程と、
前記懸濁物質濃度の値に応じて、前記懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には前記濃縮部を前記沈殿槽に返送し、前記懸濁物質濃度が所定値よりも高い場合には、前記濃縮部をシックナーの外部に排出するように切り替えを行う工程と、を有する、シックナーの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シックナー、スラリー処理システム、排水処理システム、及びシックナーの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石の製錬工程、廃棄物の処理工程及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等において処理対象物の洗浄が行われており、この過程で大量のスラリーが生成する。当該スラリーを効率的に処理するために、有力な方法として、スラリー中の分散体を、沈殿槽を含むシックナー等で凝縮処理し、濃縮部を除去する方法が広く採用されている。
【0003】
スラリーの処理を効率的に行うためには、分散体を十分に沈降させ、濃縮部の懸濁物質濃度を高めてから装置外へ排出することが望ましい。一方で、濃縮部の懸濁物質濃度が高すぎる場合には、沈殿槽からの抜出不良が発生し得る。従来、管理者による目視観察及び経験則によって排出のタイミングを制御することが一般的である。これに対して、沈殿槽上部に超音波を送受信する超音波トランスジューサを設け、濃縮部の厚みを計測し、上述の排出のタイミングを制御しようとする検討がなされている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-154262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉱物スラリー等の溶媒と分散体との分離が比較的よいスラリーを対象とする場合には、濃縮部と上澄み部との界面が比較的明確であるため、超音波等によって濃縮部の厚みを観測することができ、特許文献1に開示の方法は有用である。一方で、廃棄物処理等の工程及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等で発生するスラリーは濁水であることが多く、沈殿槽内の状況を目視で観測することも、超音波によって濃縮部の厚みを計測することも困難であり、上述の抜出不良等が発生し得る。そこで、濁水等のスラリーを処理する場合であっても、経験則等に頼らず、より簡便な方法でシックナーを安定的に制御する方法があれば有用である。
【0006】
本開示は、濁水等のスラリーを対象とした場合であっても、安定して運転が可能なシックナー及びその制御方法を提供することを目的とする。本開示はまた、上述のシックナーを用いたスラリー処理システム及び排水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽と、上記濃縮部の少なくとも一部を上記沈殿槽から抜き出す抜出ラインと、上記抜出ライン上に設けられ、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する測定部と、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を上記沈殿槽に戻す返送ラインと、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を外部に排出する排出ラインと、上記抜出ライン、上記返送ライン及び上記排出ラインに接続され、上記濃縮部の流路を上記返送ライン及び上記排出ラインの間で切り替える切り替え部と、を備える、シックナーを提供する。
【0008】
上記シックナーは、沈殿槽内で形成される濃縮部を抜出ライン及び返送ラインによって循環させつつ、抜出ライン上においてライン内を流れる濃縮部の懸濁物質濃度を測定可能な測定部を備える。そして、測定部による懸濁物質濃度の値に基づいて、濃縮部をシックナー外に排出できるように、上記返送ラインと排出ラインとを切り替える切り替え部を備える。上記シックナーは上述の構成を備えることによって、濁水を含むスラリーを処理対象とする場合であっても、目視や経験則に頼らず、測定部で測定される懸濁物質濃度の値に基づいて、濃縮部の返送と排出とを切り替えられることから、安定して運転が可能である。
【0009】
上記測定部による上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、上記切り替え部を制御する制御部を更に備えてもよい。制御部を備えることによって、シックナーの運転中に監視者を必ずしも配さずに済むことから、より定常的な運転を可能とする。
【0010】
上記測定部による上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果が所定値を超えた場合に、外部の警報装置に信号を送る信号発信器を更に備えてもよい。
【0011】
上記シックナーにおいて、上記沈殿槽、上記抜出ライン、上記測定部、及び上記切り替え部のうち少なくとも一つが閉塞防止用の流体を注入する注入部を更に備えてもよい。
【0012】
本開示の一側面は、上述のシックナーと、上記シックナーの上記排出ラインに接続する貯留槽と、を備える、スラリー処理システムを提供する。
【0013】
上記スラリー処理システムは、上述のシックナーを備えることから、シックナーから排出される濃縮部における懸濁物質濃度を安定させることが可能であり、その後の処理(例えば、脱水処理等)に支障をきたすことを十分に抑制できる。
【0014】
上記貯留槽が、凝集剤添加手段と、上記シックナーの上記測定部による上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて上記凝集剤添加手段を制御する制御部と、を有してもよい。
【0015】
上記貯留槽と接続する濃縮部処理部を更に備えてもよい。
【0016】
本開示の一側面は、上述のシックナーと、上記シックナーから供給される上記上澄み部を収容する収容槽と、上記収容槽と接続し、上記沈殿槽とは異なる第二沈殿槽と、を備える、排水処理システムを提供する。
【0017】
上記排水処理システムは、上述のシックナーを備えることから、濃縮部を効率的に排出すると共に、十分に分散体の含有量が低減され、且つスラリーを構成していた溶媒及び溶媒に溶解している成分を含む排水を安定的に製造し、収容槽に収容することができる。そして、当該排水を第二沈殿槽において排水内の成分を沈殿させ、必要に応じて回収等することができる。
【0018】
上記収容槽は、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を上位上澄み部に添加する手段を更に備えてもよい。収容槽は、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を上位上澄み部に添加することによって、第二沈殿槽における成分の沈殿を促進することができ、所望の成分の回収率を向上させることができる。
【0019】
本開示の一側面は、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽から抜き出される上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する工程と、上記懸濁物質濃度の値に応じて、上記濃縮部を上記沈殿槽に返送するか、上記濃縮部をシックナーの外部に排出するかの切り替えを行う工程と、を有する、シックナーの制御方法を提供する。
【0020】
上記シックナーの制御方法は、沈殿槽内に形成される濃縮部が抜き出される際の懸濁物質濃度に着目し、この値に基づいて、濃縮部を沈殿槽に返送するか、シックナー外部に排出するかの切り替えを行う工程を含むことから、シックナーにおける抜出不良や排出された濃縮部の後処理における支障が発生することを抑制し、シックナーの運転を安定的に制御できる。
【0021】
上記制御方法は、上述のシックナーを制御する方法であってよい。
【0022】
上述の制御方法において、上記スラリーが、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト、ゴミ焼却灰、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも一種と、水と、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、濁水等のスラリーを対象とした場合であっても安定して運転が可能なシックナー及びその制御方法を提供できる。本開示によればまた、上述のシックナーを用いたスラリー処理システム及び排水処理システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1はシックナーの一例を示す構成図である。
図2図2は沈殿槽から抜き出される濃縮部における懸濁物質濃度の時間依存性を示す仮想のグラフである。
図3図3はスラリー処理システムの一例を示す構成図である。
図4図4は排水処理システムの一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
[シックナー]
シックナーの一実施形態は、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽と、上記濃縮部の少なくとも一部を上記沈殿槽から抜き出す抜出ラインと、上記抜出ライン上に設けられ、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する測定部と、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を上記沈殿槽に戻す返送ラインと、上記抜出ラインに接続され、上記抜出ライン内を流れる上記濃縮部を外部に排出する排出ラインと、上記抜出ライン、上記返送ライン及び上記排出ラインに接続され、上記濃縮部の流路を上記返送ライン及び上記排出ラインの間で切り替える切り替え部と、を備える。
【0027】
図1はシックナーの一例を示す構成図である。図1において、シックナー100は、沈殿槽10と、沈殿槽10にスラリーを供給する供給ライン2と、沈殿槽10の底部に接続された抜出ライン4と、抜出ライン4に接続された返送ライン6及び排出ライン8とを備える。シックナー100において、抜出ライン4上に測定部20を備える。またシックナー100において、抜出ライン4、返送ライン6及び排出ライン8はまた、切り替え部30とも接続している。切り替え部30によって、抜出ライン4からの流れ(抜出ライン4中を流れる濃縮部の流路)を、返送ライン6に送るか、排出ライン8に送るかを切り替えることができる。各種ラインは、スラリー及び濃縮部を搬送できる形態であればよく、例えば、管状等であってよい。
【0028】
供給ライン2から沈殿槽10に供給されるスラリーは、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト(セメントキルン抽気ダストともいう)、ゴミ焼却灰、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも一種と、水と、を含んでいてよい。また上記スラリーは、沈殿槽10に供給される前に、例えば、pH調整剤等によって液性が調製されたものであってよく、また凝集剤等によって分散体の少なくとも一部を凝集させたものであってよい。
【0029】
沈殿槽10は、例えば、有底円筒状の外壁部を有する。沈殿槽10の内側には、外壁部と同心となるように設けられた有底円筒状の内壁を有し、その底部は、底面に向かって凸な円錐状の形状を有する。沈殿槽10の内側が上述のような形状を有することで、スラリー中の分散体を沈降させた後、沈殿槽10の底部に接続した抜出ライン4から濃縮部をより効率よく抜き出すことができる。沈殿槽10は、底部に向かって凸な円錐状の底面に沿って駆動可能なレーキ等が配置されていてもよい。
【0030】
沈殿槽10では、スラリー中の分散体を沈降させる。凝集状態は、例えば、沈殿槽10に供給されるスラリーの性状(例えば、pH及び凝集剤の添加量)などによって制御することができる。沈殿槽10がレーキを有する場合、沈殿槽10の底部付近で、レーキをゆっくりと回転させることによって、スラリー中の濃縮を促進し、濃縮部をより均一な状態とすることができる。
【0031】
沈殿槽10の底部に形成された濃縮部は、沈殿槽10の底部に接続された抜出ライン4から抜き出される。シックナー100においては、抜出ライン4中を流れる濃縮部における懸濁物質濃度(SS濃度)が測定部20によって測定される。この際、抜出ライン4中を流れる濃縮部の懸濁物質濃度が所定値(管理者が任意に設定する値)よりも高く、充分な濃縮状態にある場合には、当該濃縮部は、排出ライン8中へ供給されシックナー100の外部へと排出される。一方、抜出ライン4中を流れる濃縮部の懸濁物質濃度が所定値よりも低い場合には、切り替え部30の動作によって、濃縮部の流れる流路が排出ライン8から返送ライン6へと切り替えられ、当該濃縮部は、返送ライン6中へと供給され沈殿槽10へ再び供給される。
【0032】
図1において、抜出ライン4は沈殿槽10の底部に接続しているが、沈殿槽10の底部付近に形成される濃縮部を抜出可能であれば、沈殿槽10の底部に接続されている必要はなく、例えば、抜出口が沈殿槽10の内側底部に位置するように配置されていれば、沈殿槽10の底部付近の側面に接続していてもよい。抜出ライン4は後述する測定部20による、抜出ライン4中を流れる濃縮部における懸濁物質濃度を測定が可能であるように、少なくとも一部が、光又は超音波が透過可能な素材で構成されていることが好ましく、測定部に対面する位置に光が透過可能なガラス等の窓が設けられていることがより好ましい。
【0033】
シックナー100が懸濁物質濃度の測定部20を備えることによって、沈殿槽10から抜き出された濃縮部の濃縮の度合いを確認しつつ、運転することが可能であり、濃縮度合いが不十分なままシックナー100の外部へ排出されたり、濃縮度合いが高すぎることでシックナー100からの抜出不良が発生したりすることを抑制することができる。シックナー100から排出ライン8によって排出される濃縮部は、例えば、濃縮部処理部(例えば、脱水機等)等に供給されてよい。
【0034】
測定部20は、沈殿槽10と抜出ライン4の接続部よりも下流に位置することが好ましく、抜出ライン4の切り替え部30よりも上流側には位置されることが好ましい。測定部20は抜出ライン4の外壁上に設けられていてもよい。測定部20における懸濁物質濃度の測定方法は、例えば、透過光測定法又は散乱光測定法等であってよい。シックナー100は、測定部20による濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果が所定値を超えた場合に、外部の警報装置に信号を送る信号発信器を更に備えてもよい。
【0035】
切り替え部30は、抜出ライン4中を流れる濃縮部の流路を排出ライン8及び返送ライン6のいずれかに切り替えられるものであればよい。切り替え部30は、例えば、抜出ライン4、排出ライン8及び返送ライン6のそれぞれの端部と直接接続し、上述の端部と切り替え部30との接続部のそれぞれに上述のライン中の流れを止めることが可能なストップバルブを有するような形態であってもよい。切り替え部30はまた、例えば、三方弁等であってよい。切り替え部30は、測定部20における懸濁物質濃度の測定結果に応じて、人が切り替えを行ってもよいが、例えば、上記濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて、上記切り替え部を制御する制御部によって切り替えてもよい。この場合、シックナー100は、上記切り替え部を制御する制御部を更に備える。
【0036】
シックナー100において、沈殿槽10、抜出ライン4、測定部20、及び切り替え部30のうち少なくとも一つ以上が、閉塞防止用の流体を注入する注入部を更に備えてもよく、沈殿槽10、抜出ライン4、測定部20、及び切り替え部30のすべてが上記注入部を備えてもよい。沈殿槽10、抜出ライン4、測定部20、及び切り替え部30が、上記注入部を備えることで、シックナーの運転中に、シックナー100中で閉塞が生じることを抑制することができ、また一度閉塞が生じた後に、閉塞前の状態に回復させることが容易なものとなる。
【0037】
[シックナーの制御方法]
シックナーの制御方法の一実施形態は、スラリー中の分散体を沈降させ上澄み部と濃縮部とを形成する沈殿槽から抜き出される上記濃縮部の懸濁物質濃度を測定する工程と、上記懸濁物質濃度の値に応じて、上記濃縮部を上記沈殿槽に返送するか、上記濃縮部をシックナーの外部に排出するかの切り替えを行う工程と、を有する。
【0038】
上記シックナーの制御方法においては、沈殿槽におけるスラリー中の分散体の沈降状況を、沈殿槽から抜き出される濃縮部の懸濁物質濃度を測定することで確認しながら、その結果に応じて、抜き出された濃縮部を沈殿槽に返送するか、シックナーの外部に排出するかの切り替えを行う。このような工程を含むことによって、濃縮度合いが不十分なままシックナーの外部へ排出されることを抑制したり、濃縮度合いが高すぎることでシックナーからの抜出不良が発生したりすることを抑制し、シックナーを安定して運転することができる。
【0039】
シックナーの制御方法においては、濃縮部を沈殿槽に返送するか、シックナーの外部に排出するかを決定するための、懸濁物質濃度の閾値を予め任意に定めることができる。図2は、沈殿槽から抜き出される濃縮部における懸濁物質濃度の時間依存性を示す仮想のグラフである。図2においては、濃縮部を沈殿槽に返送する状態から、シックナー外部に排出する状態へと切り替える高閾値をYとし、濃縮部の排出と共に懸濁物質濃度が徐々に低下し、濃縮部をシックナー外部に排出する状態から、沈殿槽に返送する状態へと切り替える低閾値をXとした例を示した。懸濁物質濃度の高閾値及び低閾値に照らしながら、上述の切り替えを繰り返しながら安定的にシックナーを運転することができる。なお、高閾値Y及び低閾値Xの設定は任意に行うことができるが、安定な操業を行い、処理効率を向上させる観点から、例えば、高閾値Yはその値を超えると濃縮度合いになると抜出不良が発生し得る値に設定し、低閾値Xはその値よりも低くなると、その後の濃縮部の処理に支障をきたす値に設定することが望ましい。従来のシックナーの制御は、目視観察及び経験則等に基づいた制御であり、シックナーから排出される濃縮部の懸濁物質濃度が安定しないことが生じ得る。特に、濃縮部における懸濁物質濃度が低い場合には、脱水機による脱水処理を行う前に、シックナーから排出される濃縮部に対して更に凝集剤等を多量に添加したり、濃縮部の分画等を行ったりする必要が生じ得る。このため、処理コストが高騰する場合があった。上記シックナーの制御方法は、抜出ライン中の少なくとも一箇所の測定によって、濃縮部の濃縮度合いを予め制御することができることから、スラリー等の安定的な処理を行うことができる。
【0040】
シックナーの制御方法は、濃縮部の懸濁物質濃度を向上させるために、沈殿槽に供給されるスラリーに対して、例えば、pH調整剤、及び凝集剤等を添加する工程を更に備えてもよい。
【0041】
シックナーの制御方法は、例えば、抜出ラインにおける閉塞を防止又は解消する工程を更に備えてもよい。例えば、沈殿槽と抜き出しラインの接続部から、切り替え部までの間のいずれかの箇所において閉塞防止用の液体を注入する工程を更に備えていてもよい。閉塞防止用の液体は、例えば、沈殿槽等で生成する上澄み部の一部を分取し、使用してもよい。上澄み部の一部を分取して使用することによって、シックナーの運転において使用する水の量を節約することが可能となる。
【0042】
上述のシックナー100は、上記制御方法を行うために適するように抜出ライン4中を流れる濃縮部の懸濁物質濃度を測定可能なように測定部20を備えている。換言すれば、上述の制御方法は、シックナー100の制御方法にも適用できる。
【0043】
上述のシックナー100及び上述のシックナーの制御方法によれば、濁水等のスラリーを対象とした場合であっても安定して運転が可能であることから、例えば、スラリー処理システム、及び排水処理システムに好適に使用できる。
【0044】
[スラリー処理システム]
スラリー処理システムの一実施形態は、上述のシックナーと、上記シックナーの上記排出ラインに接続する貯留槽と、を備える。
【0045】
図3は、スラリー処理システムの一例を示す構成図である。スラリー処理システム200は、水洗槽110、シックナー100、貯留槽120及び濃縮部処理部130をこの順に接続して備える。水洗槽110と、シックナー100における沈殿槽10とは供給ライン2によって接続している。またシックナー100と貯留槽120とは排出ライン8で接続しており、貯留槽120と濃縮部処理部130とは搬送ライン7で接続している。
【0046】
水洗槽110は、鉱石の製錬工程、廃棄物の処理工程、及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等において処理対象物質を洗浄する際に生成される洗浄液が導入される。一般には、洗浄は水を用いて行われることから、洗浄液となるスラリーは、媒体である水と、上記処理対象物中の水に対する可溶成分と、分散体とを含む。分散体は、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト(例えば、塩素バイパスダスト等)、ゴミ焼却灰、及び石炭灰からなる群より選択される少なくとも一種を含む。水洗槽110は、必要に応じて、スラリーに対してpH調整剤及び凝集剤等を添加する手段を備えていてよい。pH調整剤及び凝集剤等を添加する手段から、pH調整剤等がスラリー中に添加されることによって、可溶成分が不溶化し沈殿が生じる、分散体の凝集が促進される等が生じ、シックナー100における沈殿槽10における濃縮部の形成がより容易なものとなる。
【0047】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ、並びに、硫酸及び塩酸等の酸などであってよい。凝集剤は、例えば、無機凝集剤、無機高分子凝集剤及び有機高分子凝集剤等であってよい。
【0048】
シックナー100において十分に濃縮され、排出ライン8中を流れ外部に排出された濃縮部は、貯留槽120に導入される。貯留槽120では、その後の濃縮部処理部130における処理をより効率的に行うことができるように、濃縮部中の分散体の凝集等を更に進行させる。貯留槽120は、凝集剤添加手段を備えてもよい。貯留槽120は凝集剤添加手段に加えて、シックナー100の測定部20による濃縮部の懸濁物質濃度の測定結果に基づいて凝集剤添加手段を制御する制御部を更に備えてもよい。
【0049】
濃縮部処理部130は、例えば、脱水機及び乾燥機などであってよい。濃縮部処理部130が脱水機である場合、貯留槽120で分散体の凝集離処理がなされた濃縮部が脱水処理され、系外に運ばれる。脱水処理後に得られる処理物は、スラリーに含まれる成分等によって、各種用途に用いられる原料とすることもできる。例えば、セメントキルンの排ガスから抽出されたダスト(例えば、塩素バイパスダスト等)のみを含むスラリーを上述のスラリー処理システムにおいて処理することで得られる処理物は、セメント製造の仕上げ工程における粉砕機(仕上げミルともいう)にクリンカと共に供給する原料として使用することができる。またセメントキルンの排ガスから抽出されたダスト(例えば、塩素バイパスダスト等)、ゴミ焼却灰、及び石炭灰等の石灰分を含むスラリーを上述のスラリー処理システムにおいて処理することで得られる処理物は、セメント製造の焼成前の原料粉砕機(原料ミルともいう)に供給する原料として使用することができる。
【0050】
[排水処理システム]
排水処理システムの一実施形態は、上述のシックナーと、上記シックナーから供給される上記上澄み部を収容する収容槽と、上記収容槽と接続し、上記沈殿槽とは異なる第二沈殿槽と、を備える。
【0051】
鉱石の製錬工程、廃棄物の処理工程及びセメントキルン抽気ダストの処理工程等において処理対象物中には、各種有用な成分が含有され得る。特にセメントキルン抽気ダストには、塩素、アルカリ、硫黄、タリウム、鉛、カドミウム、クロム、マンガン、鉄、セレン等の有用な成分が含まれる。これらの成分は有用であると同時に、水質汚濁防止法などによって規制される有害物質にも該当しており、上記処理対象物の洗浄液の排水からは、これらの成分を除去することが求められる。そこで、シックナーを用いたスラリーの処理では、シックナー等から排出される上澄み部を含む排水に更に処理を加え、水溶性の成分や有用な成分を回収、除去することが望ましい。上記排水の処理のためには、処理前に事前にスラリーを構成する分散体の含有量を極力低減し、処理しやすい排水としておくことが望ましい。上述のシックナー100等を用いることによって、上記のような排水を効率的に生成することができる。
【0052】
図4は、排水処理システムの一例を示す構成図である。排水処理システム300は、水洗槽110、シックナー100、混和槽122及び第二沈殿槽140をこの順に接続して備える。水洗槽110と、シックナー100における沈殿槽10とは供給ライン2によって接続している。またシックナー100と混和槽122とは排水ライン3で接続しており、混和槽122と第二沈殿槽140とは搬送ライン9で接続している。
【0053】
混和槽122は、例えば、pH調整剤、還元剤、凝集剤及び吸着材からなる群より選択される少なくとも一種を上澄み部(シックナー100の排水ライン3から供給される上澄み部)に添加する手段を備えてもよい。このような手段を設けることによって、上澄み部中の可溶成分を不溶化させたり、凝集体を形成させたりすることによって沈殿を生ぜしめたり、吸着材等に可溶成分の少なくとも一部を吸着させることによって溶媒と分離させたりすることができる。pH調整剤及び凝集剤は、上述のスラリーの処理方法においてpH調整剤及び凝集剤として例示したものを用いることができる。還元剤としては、例えば、第一鉄塩化合物等を用いることができる。第一鉄塩化合物は、例えば、塩化第一鉄、塩化第一鉄・二水和物、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄・四水和物、硫酸第一鉄・五水和物、硫酸第一鉄・七水和物、及びポリ硫酸第一鉄等が挙げられる。吸着材としては、例えば、希土類化合物を含む吸着材を用いることができる。希土類化合物は、例えば、イットリウム、ランタン、セリウム、及びイッテルビウムからなる群より選択される一種以上の元素の酸化物、並びに水酸化物等が挙げられる。
【0054】
排水処理システムは、その他、例えば、第二沈殿槽140において、重金属等の有効成分等を除去した後の上澄み部を電気分解する電気分解層を更に備えてもよい。上記上澄み部を電気分解することによって、上澄み部中に溶解していた溶存金属を更に回収することができる。
【0055】
以上、シックナー、シックナーの制御方法、スラリー処理システム及び排水処理システムについて、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
2…供給ライン、3…排水ライン、4…抜出ライン、6…返送ライン、7,9…搬送ライン、8…排出ライン、10…沈殿槽、20…測定部、30…切り替え部、100…シックナー、110…水洗槽、120…貯留槽、122…混和槽、130…濃縮部処理部、140…第二沈殿槽、200…スラリー処理システム、300…排水処理システム。
図1
図2
図3
図4