(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-28
(45)【発行日】2024-09-05
(54)【発明の名称】水溶性フィルム、その製造方法および包装体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240829BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
B65D65/46
(21)【出願番号】P 2022193208
(22)【出願日】2022-12-02
(62)【分割の表示】P 2020562508の分割
【原出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018248285
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 稔
(72)【発明者】
【氏名】清水 さやか
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-305923(JP,A)
【文献】特開2018-028662(JP,A)
【文献】特開2002-020506(JP,A)
【文献】特開2002-059475(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03348608(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03348605(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/020046(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123894(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190235(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084836(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199140(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/230583(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043514(WO,A1)
【文献】特開2016-060746(JP,A)
【文献】特開2005-179390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/22
B65D 65/00-65/46
B29C 41/00-41/36
B02B 5/30
B29C 55/00-55/30
B29C 61/00-61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、
前記ポリビニルアルコールのけん化度が75モル%以上であり、前記水溶性フィルムがグリセリンを含み、水溶性フィルムにおける前記グリセリンの含有量がポリビニルアルコール100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であり、
重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの
1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)
0、(A1)
60および(A1)
180としたとき、下記式(1)を満たす、水溶性フィルム。
(数1)
0.2 < (A1)
60/(A1)
0 < 0.6、
かつ(A1)
180/(A1)
0 < (A1)
60/(A1)
0 ・・・(1)
【請求項2】
さらに、下記式(2)を満たす、請求項1に記載の水溶性フィルム。
(数2)
(A1)
180/(A1)
0 < 0.3 ・・・(2)
【請求項3】
前記結晶成分量(A1)
0が80%以下であり、かつ、
前記混合溶液中に前記水溶性フィルムを浸漬した直後における前記スピン-スピン緩和曲線から求めた拘束非晶成分量を(A2)
0としたとき、拘束非晶成分量(A2)
0が5~30%である、請求項1または2に記載の水溶性フィルム。
【請求項4】
前記結晶成分量(A1)
0と前記拘束非晶成分量(A2)
0との比(A1/A2)
0が1~20である、請求項3に記載の水溶性フィルム。
【請求項5】
厚さ35μmの前記水溶性フィルムを30℃の脱イオン水に浸漬したときの破断時間が10~100秒である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水溶性フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール樹脂と溶媒とを含有する製膜原液を用意することと、
前記製膜原液を回転する支持体上に供給して、液状被膜を形成することと、
前記支持体上で前記液状被膜から前記溶媒を除去して、前記水溶性フィルムを得ることと、を有する、水溶性フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記製膜原液は、さらに前記ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して10質量部以上で可塑剤を含有する、請求項6に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記製膜原液の前記支持体上への供給速度をS0[m/秒]とし、前記支持体の回転速度をS1[m/秒]としたとき、S1/S0が7以下である、請求項6または7に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記支持体の表面温度が50~110℃である、請求項6~8のいずれか1項に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性フィルムで構成された包材と、
前記包材に内包された薬剤と、を含む、包装体。
【請求項11】
前記薬剤が農薬、洗剤または殺菌剤である、請求項
10に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種薬剤の包装等に好適に使用されるポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルム、その製造方法および包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術では、水溶性フィルムは、その水に対する優れた溶解性を利用して、液体洗剤や農薬や殺菌剤等の各種薬剤の包装や、種子を内包するシードテープ等、幅広い分野で使用されてきた。
【0003】
上述のような用途に使用する水溶性フィルムには、主にポリビニルアルコール樹脂(以下、単に「PVA」と称することがある。)が用いられている。そして、可塑剤等の各種添加剤を配合すること、変性ポリビニルアルコールを用いることによって、水溶性を高めた水溶性フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、水溶性フィルムを特定の方法で製造することにより、結晶化を促進して、X線回折により測定される結晶化度を19%以上とすることも開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
ところで、光学用PVAフィルム中の各運動成分(結晶成分、拘束非晶成分、非晶成分)の存在割合を求める方法として、パルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance)を用いることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、パルスNMRで求めた各運動成分の存在割合と、水溶性フィルムに求められる各種性能との関連は、いまだ検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-078166
【文献】特開2016-050280
【文献】WO2015/020046
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている水溶性フィルムは、可塑剤等の添加量を調整することや、変性ポリビニルアルコールを用いることにより、水溶性フィルムの結晶化度を低下させて水溶性を高めている。
しかしながら、単に結晶化度を低下させると、水溶性フィルムは、高い水溶性を有するようになる一方で、高湿度下においてロール状で保管したときに端部において接触面同士が融着して、包装体製造時に皺や破れが発生するという問題があった。
反対に、単に結晶化度を上げると、水溶性フィルムは、ロール状で保管するときの端部における接触面同士の融着は低減されるが、水溶性が不十分となることがあった。
【0008】
本発明は、水に対する溶解性に優れ、かつロール状で保管するときの端部における接触面同士の融着を低減し得る水溶性フィルム、その製造方法および水溶性フィルムを用いた包装体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルム中の結晶成分量の経時変化率を特定範囲とすることにより、水溶性フィルムの水に対する溶解性を制御することができ、上記問題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記[1]~[11]に関する。
[1] ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、前記ポリビニルアルコールのけん化度が75モル%以上であり、前記水溶性フィルムがグリセリンを含み、水溶性フィルムにおける前記グリセリンの含有量がポリビニルアルコール100質量部に対して5質量部以上50質量部以下であり、
重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、前記水溶性フィルムを浸漬した直後、60秒経過時および180秒経過時に、前記水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、下記式(1)を満たす、水溶性フィルム;
(数1)
0.2 < (A1)60/(A1)0 < 0.6、
かつ(A1)180/(A1)0 < (A1)60/(A1)0 ・・・(1)
[2] さらに、下記式(2)を満たす、上記[1]に記載の水溶性フィルム;
(数2)
(A1)180/(A1)0 < 0.3 ・・・(2)
[3] 前記結晶成分量(A1)0が80%以下であり、かつ、
前記混合溶液中に前記水溶性フィルムを浸漬した直後における前記スピン-スピン緩和曲線から求めた拘束非晶成分量を(A2)0としたとき、拘束非晶成分量(A2)0が5~30%である、上記[1]または[2]に記載の水溶性フィルム;
[4] 前記結晶成分量(A1)0と前記拘束非晶成分量(A2)0との比(A1/A2)0が1~20である、上記[3]に記載の水溶性フィルム;
[5] 厚さ35μmの前記水溶性フィルムを30℃の脱イオン水に浸漬したときの破断時間が10~100秒である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の水溶性フィルム;
[6] 上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の水溶性フィルムの製造方法であって、
前記ポリビニルアルコール樹脂と溶媒とを含有する製膜原液を用意することと、
前記製膜原液を回転する支持体上に供給して、液状被膜を形成することと、
前記支持体上で前記液状被膜から前記溶媒を除去して、前記水溶性フィルムを得ることと、を有する、水溶性フィルムの製造方法;
[7] 前記製膜原液は、さらに前記ポリビニルアルコール樹脂100質量部に対して10質量部以上で可塑剤を含有する、上記[6]に記載の水溶性フィルムの製造方法;
[8] 前記製膜原液の前記支持体上への供給速度をS0[m/秒]とし、前記支持体の回転速度をS1[m/秒]としたとき、S1/S0が7以下である、上記[6]または[7]に記載の水溶性フィルムの製造方法;
[9] 前記支持体の表面温度が50~110℃である、上記[6]~[8]のいずれか1つに記載の水溶性フィルムの製造方法;
[10] 上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の水溶性フィルムで構成された包材と、
前記包材に内包された薬剤と、を含む、包装体;
[11] 前記薬剤が農薬、洗剤または殺菌剤である、上記[10]に記載の包装体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水に対する溶解性に優れ、かつロール状で保管するときの端部における接触面同士の融着を低減し得る水溶性フィルム、その製造方法および水溶性フィルムを用いた包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】フィルム中の結晶構造を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明の水溶性フィルムは、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)を含有する。そして、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された5℃の混合溶液中に、水溶性フィルムを浸漬した直後(0秒経過時)、60秒経過時および180秒経過時に、水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を行ったとき、得られるスピン-スピン緩和曲線から求めた結晶成分量をそれぞれ(A1)0、(A1)60および(A1)180としたとき、下記式(1)を満たす。(数3)
0.2 < (A1)60/(A1)0 < 0.6
かつ(A1)180/(A1)0 < (A1)60/(A1)0・・・(1)
なお、以下では、本発明の水溶性フィルムを「PVAフィルム」と称することがある。
【0015】
<パルスNMR>
パルスNMRとは、有機化合物の構造決定等に用いられる汎用のNMRとは異なり、系内の分子運動性と関連した1H核の緩和時間を測定可能な分析方法である。また、パルスNMRでは、その高い定量性を利用して、系内における各運動成分の存在割合を求めることができる。
【0016】
パルスNMR測定装置には、装置中の電磁石によって発生した静磁場が存在する。静磁場中では、水素核の核スピンの向きが静磁場に沿った方向に配向する。この状態で、パルス磁場を加えると、水素核の核スピンは、静磁場に沿った方向から90°倒れた状態(励起状態)になる。その後、励起された核スピンの向きは、巨視的に元の静磁場に沿った方向に戻る。
核スピンの向きが励起状態から元の状態まで戻る過程を「T2緩和」と呼び、この過程に要する時間を緩和時間(tau)と呼ぶ。単一成分の緩和の場合、時間(t)における磁化強度(y)は、励起状態での強度(a)、緩和時間(tau)および定数(y0、W)を用いて、以下の式で表される。
【0017】
(数4)
y = y0 + a×exp(-1/W×(t/tau)w)
なお、Wはワイブル係数と呼ばれ、W = 1の場合には式はExp型に、W = 2の場合には式はGauss型になる。一般的なポリマーの場合は、1 ≦ W ≦ 2の範囲をとる。
【0018】
T2緩和の場合、水素核は、励起状態から他の水素核とエネルギー交換を行いながら、元の状態へと減衰する。したがって、試料の分子運動性が高い場合、相互に近接するプロトン同士の相互作用が小さいため、系全体のエネルギー減衰が起こり難く、緩和時間が長くなる。これとは逆に、試料の分子運動性が低い場合、緩和時間が短くなる。
したがって、結晶性ポリマーであれば、結晶成分では緩和時間が短く、非晶成分では緩和時間が長くなる。更には、結晶成分と非晶成分との境界部である拘束非晶成分(
図1参照)では、両者の中間の緩和時間となる。
【0019】
通常のX線測定等では、結晶成分量および非晶成分量のみしか測定することができないが、パルスNMRでは、結晶成分量および非晶成分量に加えて、拘束非晶成分量の測定が可能である。さらに、一般的なX線測定では、測定のタイムスケール的に、水溶性フィルム中の結晶成分量が水中でどのように経時変化するかを判別することが難しい。これに対して、本発明で用いる重水と重メタノールとの混合溶液中でのパルスNMRによれば、水溶性フィルム中の結晶成分量の経時変化を把握することができる。
【0020】
なお、実際の結晶性ポリマーでは、上記結晶成分、拘束非晶成分および非晶成分が混在する。このため、前記結晶性ポリマーを含有する水溶性フィルムをパルスNMR測定すると、得られる緩和曲線では、緩和時間が短い結晶成分由来の緩和成分と、緩和時間が長い非晶成分由来の緩和成分と、両者の中間程度の緩和時間を有する拘束非晶成分由来の緩和成分との和として観測される。
【0021】
本発明では、線形最小二乗法によって得られた緩和曲線を、下記式にフィッティングした。結晶成分の緩和時間をtau1とし、拘束非晶成分の緩和時間をtau2とし、非晶成分の緩和時間をtau3としたとき、時間(t)におけるサンプル全体の磁化強度(y)は、定数y0および励起状態におけるa1, a2, a3を用いて、以下の式で示される。
【0022】
(数5)
y = y0 + a1×exp(-1/W1×(t/tau1)w1) + a2×exp(-1/W2×(t/tau2)w2) + a3×exp(-1/W3×(t/tau3)w3)
【0023】
今回、鋭意検証を進めた結果、各製膜条件で製造したフィルム間で安定して再現性良くフィッティング可能な式(フィッティング用関数式)として、結晶成分および拘束非晶成分のそれぞれがガウス型緩和(W1, W2 = 2)とし、非晶成分がExp型緩和(W3 = 1)とし、tau1 = 0.01 ms、tau2 = 0.05 ms、tau3 = 0.70 msとして固定した下記式を用いた。
【0024】
(数6)
y = y0 + a1×exp(-0.5×(t/0.01)2) + a2×exp(-0.5×(t/0.05)2) + a3×exp(-t/0.70)
【0025】
本発明では、上記式から導かられるa1, a2, a3およびy0を求め、a1, a2およびa3の合計(a1 + a2 + a3)に対する各成分の割合(%)を結晶成分量(A1)、拘束非晶成分量(A2)、非晶成分量(A3)と定義する。例えば、拘束非晶成分量(A2)の値は、a2/(a1 + a2 + a3)×100で表される。
【0026】
本発明では、水溶性フィルムが収容されたサンプル管(NMRチューブ)内に、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された混合溶液を投入して、水溶性フィルムを混合溶液に浸漬した直後を「0秒経過時」と定義する。そして、混合溶液への浸漬直後(0秒経過時)、浸漬後60秒経過時および180秒経過時に、それぞれ水溶性フィルムの1HパルスNMR測定を開始し、測定終了後に得られたスピン-スピン緩和曲線から、各成分量の経時変化率を算出した。なお、測定開始から終了まで、通常、10~15秒程度の時間を要する。
【0027】
本明細書において、浸漬直後、浸漬後60秒経過時および180秒経過時に測定を開始して得られた緩和曲線から求められた結晶成分量(A1)を、それぞれ(A1)0、(A1)60、(A1)180と表記する。
同様に、浸漬直後、浸漬後60秒経過時および180秒経過時に測定を開始して得られた緩和曲線から求められた拘束非晶成分量(A2)を、それぞれ(A2)0、(A2)60、(A2)180と表記する。
また、浸漬直後、浸漬後60秒経過時および180秒経過時に測定を開始して得られた緩和曲線から求められた非晶成分量(A3)を、それぞれ(A3)0、(A3)60、(A3)180と表記する。
【0028】
本発明の水溶性フィルム(PVAフィルム)は、結晶成分量(A1)の経時変化率が下記式(1)を満たす。
(数7)
0.2 < (A1)60/(A1)0 < 0.6
かつ(A1)180/(A1)0 < (A1)60/(A1)0・・・ (1)
【0029】
上記式は、PVAフィルム中の結晶成分量(A1)は、経時的に減少するが、浸漬後60秒経過時においても、初期量に対してある程度の量を保持していることを示している。PVAフィルム中の結晶成分量(A1)の経時変化率を特定範囲とすることによって、吸湿時のPVAフィルムの溶解速度をコントロールし得ることを見出した。すなわち、PVAフィルムに対して、高い水溶性と、ロール状で保管するときの端部における接触面同士の融着を防止し得る特性(以下、単に「ロール保管時の融着防止特性」とも記載する。)とを付与し得ることを見出した。
【0030】
換言すれば、(A1)60/(A1)0が0.2以下であると、PVAフィルムの吸湿時の溶解速度が速過ぎて、PVAフィルムにロール保管時の融着防止特性を付与することができない。一方、(A1)60/(A1)0が0.6以上である場合は、PVAフィルム中の結晶成分量(A1)の経時変化率(経時低下率)が極端に低いということができ、上記PVAフィルムは水溶性に劣る。
【0031】
(A1)60/(A1)0の下限は、0.2超であればよいが、0.25超が好ましい。一方、(A1)60/(A1)0の上限は、0.6未満であればよいが、0.55未満が好ましく、0.5未満がより好ましい。(A1)60/(A1)0が上記範囲であれば、PVAフィルムは、高い水溶性とロール保管時の融着防止特性との双方を好適に発揮することができる。
【0032】
また、PVAフィルムは、結晶成分量(A1)の経時変化率が下記式(2)を満たすことが好ましい。
(数8)
(A1)180/(A1)0 < 0.3 ・・・(2)
上記式は、浸漬後180秒経過時における結晶成分量(A1)が十分に少ないことを示している。したがって、上記式を満足するPVAフィルムは、より高い水溶性を有すると考えることができる。
【0033】
(A1)180/(A1)0の上限は、特に限定されないが、0.3未満が好ましく、0.25未満がより好ましく、0.2未満がさらに好ましい。(A1)180/(A1)0が上記範囲であるPVAフィルムは、極めて高い水溶性を有する。なお、(A1)180/(A1)0の下限は、特に制限されないが、例えば、0以上である。
【0034】
結晶成分量(A1)0の上限は、特に限定されないが、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましい。一方、結晶成分量(A1)0の下限は、特に限定されないが、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。結晶成分量(A1)0が上記範囲であると、PVAフィルムの機械的強度が不足することを防止しつつ、PVAフィルムに高い水溶性を付与することができる。
【0035】
拘束非晶成分量(A2)0の上限は、特に限定されないが、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましい。一方、結晶成分量(A2)0の下限は、特に限定されないが、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。結晶成分量(A2)0が上記範囲であると、PVAフィルムにロール保管時の優れた融着防止特性と、高い水溶性との双方を付与することができる。
【0036】
非晶成分量(A3)0の下限は、特に限定されないが、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。一方、非晶成分量(A3)0の上限は、特に限定されないが、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、45%以下がさらに好ましい。非晶成分量(A3)0が上記範囲であると、PVAフィルムの機械的特性が不足することを防止しつつ、PVAフィルムに高い水溶性を付与することができる。
【0037】
結晶成分量(A1)0と拘束非晶成分量(A2)0との比(A1/A2)0は、特に限定されないが、1~20が好ましい。(A1/A2)0の上限は、特に限定されないが、10以下がより好ましく、7以下がさらに好ましい。一方、(A1/A2)0の下限は、特に限定されないが、1.5以上がより好ましく、2以上がさらに好ましい。(A1/A2)0が上記範囲であると、PVAの結晶成分周辺での分子運動性が規制され、PVAの溶解速度が適度になる。上述の結果、(A1)60/(A1)0が大きくなり過ぎることや、(A1)60および(A1)180が小さくなり過ぎることを防止または抑制することができる。
【0038】
拘束非晶成分量(A2)0と非晶成分量(A3)0との比(A2/A3)0は、特に限定されないが、0.3~10が好ましい。(A2/A3)0の上限は、特に限定されないが、7以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。一方、(A2/A3)0の下限は、特に限定されないが、0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましい。(A2/A3)0が上記範囲であると、PVAの溶解速度が適度になるため、ロール保管時の融着防止特性と水溶性とをより向上させることができる。
【0039】
結晶成分量(A1)0と非晶成分量(A3)0との比(A1/A3)0は、特に限定されないが、0.5~15が好ましい。(A1/A3)0の上限は、特に限定されないが、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。一方、(A1/A3)0の下限は、特に限定されないが、1以上がより好ましい。(A1/A3)0が上記範囲であると、PVAの溶解速度が適度になるため、ロール保管時の融着防止特性と水溶性とをより向上させることができる。
【0040】
結晶成分量(A1)60の上限は、特に限定されないが、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましい。一方、結晶成分量(A1)60の下限は、特に限定されないが、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。結晶成分量(A1)60が上記範囲であると、PVAフィルムの水溶性が低下することを防止しつつ、ロール保管時の融着防止特性をより適切に発揮させることができる。
【0041】
結晶成分量(A1)180の上限は、特に限定されないが、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。一方、結晶成分量(A1)180の下限は、特に限定されないが、特に制限されないが、例えば、0%である。結晶成分量(A1)180が上記範囲であるPVAフィルムは、極めて優れた水溶性を有する。
【0042】
本発明では、上述のようなパラメータを上記範囲にコントロールすることが重要である。前記パラメータのコントロールの方法としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂の種類(けん化度、変性量、未変性PVA/変性PVAのブレンド比等)を調整する方法、可塑剤の添加量を調整する方法、フィルム製造条件(支持体の表面温度、熱処理条件等)を調整する方法、または上述の方法の組み合わせで調整する方法が挙げられる。
【0043】
<ポリビニルアルコール樹脂>
本発明の水溶性フィルム(PVAフィルム)は、ポリビニルアルコール樹脂(PVA)を含有する。
PVAとしては、ビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化することにより製造された重合体を使用することができる。
ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリアン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。上述の中でも、ビニルエステルモノマーとしては、酢酸ビニルが好ましい。
【0044】
ビニルエステル重合体は、特に限定されないが、単量体として1種または2種以上のビニルエステルモノマーのみを用いて得られた重合体が好ましく、単量体として1種のビニルエステルモノマーのみを用いて得られた重合体がより好ましい。ビニルエステル重合体は、1種または2種以上のビニルエステルモノマーと、1種または2種以上のビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であることが、(A1)60/(A1)0および(A1)180/(A1)0を適切な範囲に調整し易いため、好ましい。
【0045】
この他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
なお、ビニルエステル重合体は、上述の他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0046】
ビニルエステル重合体に占める他のモノマーに由来する構造単位の割合を変化させることで、(A1)60/(A1)0を調整することができる。これは、他のモノマーに由来する構造単位の導入により、PVAの分子同士の間における相互作用が弱まって、熱処理による結晶化が進行し難くなったり、非晶部の運動性が抑制されて結晶溶解が進行し難くなったりするためであると推定される。他のモノマーに由来する構造単位の割合は、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0047】
PVAの重合度は、特に制限されないが、下記範囲が好ましい。すなわち、重合度の下限は、PVAフィルムの十分な機械的強度を維持する観点から、200以上が好ましく、300以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。一方、重合度の上限は、特に限定されないが、PVAの生産性やPVAフィルムの生産性等を高める観点から、8,000以下が好ましく、5,000以下がより好ましく、3,000以下がさらに好ましい。
【0048】
ここで、重合度とは、JIS K 6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味する。すなわち、本明細書において、重合度は、PVAの残存酢酸基を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から、次式により求められる。
(数9)
重合度Po = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0049】
PVAのけん化度が高ければ高い程、結晶成分量(A1)0が大きくなる傾向があり、(A1)60/(A1)0および(A1)180/(A1)0が大きくなる傾向がある。この傾向は、けん化度が高くなると、PVAの分子が有する水酸基同士の間における相互作用が強まり、熱処理による結晶化が進行し易く、結晶溶解が進行し難くなるためであると推定される。本発明において、PVAのけん化度は、特に限定されないが、60~99.9モル%が好ましい。けん化度の下限は、特に限定されないが、65モル%以上がより好ましく、70モル%以上がさらに好ましく、75モル%以上が特に好ましい。一方、けん化度の上限は、特に限定されないが、99モル%以下がより好ましく、91モル%以下がさらに好ましく、90モル%以下が特に好ましい。PVAが未変性PVAである場合には、PVAのけん化度は60~93モル%であることが好ましく、64~91モル%であることがより好ましい。前記範囲にPVAのけん化度を調整することにより、PVAフィルムの水溶性と機械的強度とを両立し易い。
【0050】
ここで、PVAのけん化度は、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステルモノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して、ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。
PVAのけん化度は、JIS K 6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0051】
PVAフィルムは、1種のPVAを単独で含有してもよく、重合度、けん化度および変性度等が互いに異なる2種以上のPVAを含有してもよい。
【0052】
PVAフィルムにおけるPVAの含有量の上限は、特に限定されないが、100質量%以下が好ましい。一方、PVAの含有量の下限は、特に限定されないが、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。
【0053】
<可塑剤>
PVAフィルムは、特に限定されないが、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤を含むことにより、PVAフィルムに、他のプラスチックフィルムと同等の柔軟性を付与することができる。このため、PVAフィルムは、衝撃強度等の機械的強度や二次加工時の工程通過性等が良好になる。
可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコール等が挙げられる。これらの可塑剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上述の中でも、PVAフィルムの表面へブリードアウトし難い等の理由から、可塑剤としては、特に限定されないが、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。
【0054】
可塑剤の含有量を変更することにより、PVAにおける各運動成分(結晶成分、拘束非晶成分、非晶成分)の存在割合を調整することが可能である。
PVAの分子鎖の一次構造によっても異なるが、一般に可塑剤を含有しないPVAフィルムに比べ、少量の可塑剤を含有するPVAフィルムは、熱処理により結晶化が進行し易くなる。これは、PVAの分子が動き易くなり、エネルギー的により安定な結晶あるいは拘束非晶の構造をとり易くなるためであると推定される。
一方、過剰量の可塑剤を含有するPVAフィルムでは、逆に結晶化の進行が阻害される傾向を示す。この傾向は、PVAの分子が有する水酸基と相互作用する可塑剤の量が多くなり、PVAの分子同士の間における相互作用が弱まるためであると推定される。
このようなことから、PVAフィルム中の結晶成分量(A1)0および拘束非晶成分量(A2)0や、PVAフィルム中の結晶成分量(A1)0および拘束非晶成分量(A2)0の割合を適切な範囲に調節するためには、可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して、10~70質量部が好ましい。
【0055】
PVAフィルムにおける可塑剤の含有量の下限は、特に限定されないが、PVA100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。一方、可塑剤の含有量の上限は、特に限定されないが、PVA100質量部に対して、70質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。可塑剤の含有量が上記範囲であると、PVAフィルムにおいて、衝撃強度等の機械的強度の改善効果を十分に得ることができる。また、PVAフィルムが柔軟になり過ぎて取り扱い性が低下したり、表面へのブリードアウト等の問題を生じたりするのを好適に防止または抑制することができる。
【0056】
<澱粉/水溶性高分子>
PVAフィルムは、澱粉またはPVA以外の水溶性高分子の少なくとも一方を含有してもよい。澱粉またはPVA以外の水溶性高分子の少なくとも一方を含むことにより、PVAフィルムに機械的強度を付与したり、取り扱い時におけるPVAフィルムの耐湿性を維持したり、あるいは溶解時における水の吸収によるPVAフィルムの柔軟化の速度を調節したり等することができる。
【0057】
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、コメ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類;エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工等が施された加工澱粉類等が挙げられるが、特に加工澱粉類が好ましい。
【0058】
PVAフィルムにおける澱粉の含有量は、特に限定されないが、PVA100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。澱粉の含有量が上記範囲であると、PVAフィルムの工程通過性が悪化するのを防止または抑制することができる。
【0059】
PVA以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0060】
PVAフィルムにおけるPVA以外の水溶性高分子の含有量は、特に限定されないが、PVA100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。PVA以外の水溶性高分子の含有量が上記範囲であると、PVAフィルムの水溶性を十分に高めることができる。
【0061】
<界面活性剤>
PVAフィルムは、特に限定されないが、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を含むことにより、PVAフィルムの取り扱い性や、製造時におけるPVAフィルムの製膜装置からの剥離性を向上することができる。
界面活性剤としては、特に制限されず、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0062】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型界面活性剤;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型界面活性剤;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型界面活性剤等が挙げられる。
【0063】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型界面活性剤;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型界面活性剤;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型界面活性剤;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
このような界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。上述の界面活性剤の中でも、PVAフィルムの製膜時における表面異常の低減効果に優れること等から、界面活性剤としては、特に限定されないが、ノニオン系界面活性剤が好ましく、アルカノールアミド型界面活性剤がより好ましく、脂肪族カルボン酸(例えば、炭素数8~30の飽和または不飽和脂肪族カルボン酸等)のジアルカノールアミド(例えば、ジエタノールアミド等)がさらに好ましい。
【0065】
PVAフィルムにおける界面活性剤の含有量の下限は、特に限定されないが、PVA100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がさらに好ましい。一方、界面活性剤の含有量の上限は、特に限定されないが、PVA100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下がさらに好ましく、0.3質量部以下が特に好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲であると、製造時におけるPVAフィルムの製膜装置からの剥離性が良好になるとともに、PVAフィルム同士の間でのブロッキングの発生等の問題が生じ難くなる。また、PVAフィルムの表面への界面活性剤のブリードアウトや、界面活性剤の凝集によるPVAフィルムの外観の悪化等の問題も生じ難い。
【0066】
<その他の成分>
PVAフィルムは、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤以外に、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物等の成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。
PVA、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子および界面活性剤の質量の合計値がPVAフィルムの全質量に占める割合は、特に限定されないが、60~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。
【0067】
<水溶性フィルム>
本発明の水溶性フィルム(PVAフィルム)は、30℃の脱イオン水に浸漬したときの破断時間が、特に限定されないが、10~100秒が好ましい。破断時間の上限は、特に限定されないが、75秒以内がより好ましく、50秒以内がさらに好ましい。破断時間の上限が上記範囲のPVAフィルムは、薬剤包装用フィルムとして好適に使用することができる。一方、破断時間の下限は、特に限定されないが、15秒以上がより好ましい。破断時間の下限が上記範囲のPVAフィルムから作製された包装体は、仮に濡れた手で触ったとしても、破れる可能性が低減されており、内容物の流出等の問題が生じ難い。
【0068】
PVAフィルムを30℃の脱イオン水に浸漬したときの破断時間は、以下のようにして測定することができる。
<1> PVAフィルムを23℃-50%RHの雰囲気下に、16時間以上置いて調湿する。
<2> 調湿したPVAフィルムから、長さ40mm×幅35mmの長方形のサンプルを切り出した後、長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)が開口した50mm×50mmのプラスチック板2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつ窓がサンプルの幅方向のほぼ中央に位置するように挟み込んで固定する。
【0069】
<3> 500mLのビーカーに300mLの脱イオン水を入れ、水温を30℃に調整する。
<4> 上記<2>においてプラスチック板に固定したサンプルをビーカー内の脱イオン水に浸漬する(撹拌なし)。
<5> 脱イオン水に浸漬してから、サンプルがプラスチック板の窓から破れ落ちるまでの時間を測定する。
【0070】
PVAフィルムの厚みは、特に制限されないが、下記範囲が好ましい。すなわち、厚みの上限は、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。一方、厚みの下限は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましく、20μm以上が特に好ましい。上記範囲の厚みは大き過ぎないため、PVAフィルムの二次加工性が悪化するのを好適に防止することができる一方、小さ過ぎもしないため、PVAフィルムの十分な機械的強度を維持することができる。特に、結晶成分量(A1)0と拘束非晶成分量(A2)0との比(A1/A2)0を上述したような範囲に設定すれば、比較的小さい厚みのPVAフィルムであっても、高い機械的強度を維持することができる。
なお、PVAフィルムの厚みは、任意の10箇所(例えば、PVAフィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10箇所)の厚みを測定し、測定した厚みの平均値として求めることができる。
【0071】
<水溶性フィルムの製造方法>
本発明の水溶性フィルム(PVAフィルム)の製造方法は、特に制限されず、例えば、次のような任意の方法を使用することができる。
水溶性フィルムの製造方法としては、PVAに溶媒、添加剤等を加えて均一化させた製膜原液を、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去する方法)、あるいは、上述の方法の組み合わせにより製膜する方法や、押出機等を使用して得られた製膜原液をTダイ等から押出すことにより製膜する溶融押出製膜法やインフレーション成形法等が挙げられる。上述の方法の中でも、PVAフィルムの製造方法としては、流延製膜法および溶融押出製膜法が好ましい。流延製膜法および溶融押出製膜法の方法を用いれば、均質なPVAフィルムを生産性よく得ることができる。
以下、PVAフィルムを流延製膜法または溶融押出製膜法を用いて製造する場合について説明する。
【0072】
PVAフィルムを流延製膜法または溶融押出製膜法を用いて製造する場合、まず、PVAと、溶媒と、必要に応じて可塑剤等の添加剤とを含有する製膜原液を用意する。なお、製膜原液が添加剤を含有する場合、製膜原液における添加剤のPVAに対する比率は、前述したPVAフィルムにおける添加剤のPVAに対する比率と実質的に等しい。
次に、製膜原液を、金属ロールや金属ベルト等の回転する支持体上へ膜状に流涎(供給)する。これにより、支持体上に製膜原液の液状被膜を形成する。液状被膜は、支持体上で加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。
固化した長尺のフィルム(PVAフィルム)は、支持体より剥離されて、必要に応じて乾燥ロール、乾燥炉等により乾燥されて、さらに必要に応じて熱処理されて、ロール状に巻き取られる。
【0073】
支持体上に流涎された液状被膜の乾燥工程(溶媒除去工程)、その後のPVAフィルムの乾燥工程で、PVAは加熱される間に結晶化が進む。特に水分率が多い領域で加熱されることによって、PVAは、PVAの分子鎖の運動性が高くなるため結晶化が進み、拘束非晶成分量(A2)0が減少して結晶成分量(A1)0が増加し易くなる。したがって、PVAの結晶化の程度は、乾燥工程における乾燥速度によって制御することができる。例えば、乾燥速度を速くすると、結晶成長が阻害され、結晶成分量(A1)0が低下する傾向を示す。一方、乾燥速度を遅くすると、結晶成長が促進され、(A1/A2)0が大きくなる傾向を示す。また、与える熱量を大きくすると、結晶成分量(A1)0が多くなり、PVAフィルムの水溶性が低下する傾向を示す。
なお、乾燥速度は、支持体温度、支持体との接触時間、熱風温度および量、乾燥ロールおよび乾燥炉温度等により調整することができる。
【0074】
上記製膜原液の揮発分率(製膜時等に揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は、特に限定されないが、50~90質量%が好ましく、55~80質量%がより好ましい。揮発分率が上記範囲であると、製膜原液の粘度を好適な範囲に調整することができるので、PVAフィルム(液状被膜)の製膜性が向上するとともに、均一な厚みを有するPVAフィルムを得易くなる。また、製膜原液の揮発分率が適切であるため、支持体上でのPVAの結晶化が適度に進行するため、拘束非晶成分量(A2)0と結晶成分量(A1)0とのバランスを取り易くなる。
【0075】
ここで、本明細書における「製膜原液の揮発分率」とは、下記の式により求めた値をいう。
(数10)
製膜原液の揮発分率(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
式中、Waは、製膜原液の質量(g)を表し、Wbは、Wa(g)の製膜原液を105℃の電熱乾燥機中で16時間乾燥した後の質量(g)を表す。
【0076】
製膜原液の調整方法としては、特に制限されず、例えば、PVAと、可塑剤、界面活性剤等の添加剤とを溶解タンク等で溶解させる方法や、一軸または二軸押出機を使用して含水状態のPVAを、可塑剤、界面活性剤等の添加剤と共に溶融混錬する方法等が挙げられる。
【0077】
製膜原液を流涎する支持体の表面温度は、特に限定されないが、50~110℃が好ましく、60~100℃がより好ましく、65~95℃がさらに好ましい。表面温度が上記範囲であると、液状被膜の乾燥が適度な速度で進むことにより、結晶成分量(A1)0が多くなり過ぎることを防止するとともに、液状被膜の乾燥に要する時間が長くなり過ぎないので、PVAフィルムの生産性が低下することもない。また、液状被膜の乾燥が適度な速度で進むことにより、PVAフィルムの表面に発泡等の異常が生じ難く、非晶成分量(A3)0が多くなり過ぎて、相対的に拘束非晶成分量(A2)0が少なくなり過ぎるのを好適に防止することもできる。
【0078】
支持体上で液状被膜を加熱すると同時に、液状被膜の非接触面側の全領域に、風速1~10m/秒の熱風を均一に吹き付けてもよい。これにより、液状被膜の乾燥速度を調節することができる。非接触面側に吹き付ける熱風の温度は、特に限定されないが、50~150℃が好ましく、70~120℃がより好ましい。熱風の温度が上記範囲であると、液状被膜の乾燥効率や乾燥の均一性等をより高めることができる。
【0079】
製膜原液の支持体上への供給速度(吐出速度)をS0[m/秒]とし、支持体の回転速度(周速)をS1[m/秒]としたとき、製膜原液の支持体上への供給速度(吐出速度)をS0に対する支持体の回転速度(周速)S1の比(S1/S0)は、下記範囲が好ましい。すなわち、(S1/S0)の上限は、特に限定されないが、7以下が好ましく、6.8以下がより好ましく、6.5以下がさらに好ましい。一方、(S1/S0)の下限は、特に限定されないが、3超が好ましく、5超がより好ましく、5.2超がさらに好ましく、5.5超が特に好ましい。(S1/S0)が上記範囲であると、液状被膜内においてPVAの分子鎖の配向による結晶化が適度に進行して、結晶成分量(A1)0が適量となる。また、ダイリップと支持体との間において、液状被膜の重力による変形を抑制し得るため、PVAフィルムに厚みむらの発生等の問題が生じ難い。
【0080】
なお、製膜原液の供給速度(S0)とは、製膜原液の流れ方向の線速度を意味する。具体的には、製膜原液の供給速度(S0)は、膜状吐出装置から供給(吐出)される製膜原液の単位時間あたりの体積を、前記膜状吐出装置のスリット部の開口面積(膜状吐出装置のスリット幅とスリット開度の平均値との積)で除することにより求めることができる。
【0081】
PVAフィルムは、支持体上で好ましくは揮発分率5~50質量%にまで乾燥(溶媒除去)された後、支持体から剥離され、必要に応じてさらに乾燥される。
乾燥の方法としては、特に制限されず、乾燥炉に通過させる方法や、乾燥ロールに接触させる方法が挙げられる。
複数の乾燥ロールを用いてPVAフィルムを乾燥させる場合は、PVAフィルムの一方の面と他方の面とを交互に乾燥ロールに接触させることが好ましい。これにより、PVAフィルムの両面におけるPVAの結晶化度を均一化させることができる。この場合、乾燥ロールの数は、特に限定されないが、3個以上が好ましく、4個以上がより好ましく、5~30個がさらに好ましい。
【0082】
乾燥炉または乾燥ロールの温度は、特に限定されないが、40~110℃が好ましい。乾燥炉または乾燥ロールの温度の上限は、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましい。一方、乾燥炉または乾燥ロールの温度の下限は、特に限定されないが、45℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。乾燥炉または乾燥ロールの温度が上記範囲であると、結晶成分量(A1)0と非晶成分量(A3)0とのバランスを取り易くなる。
【0083】
乾燥後のPVAフィルムには、必要に応じてさらに熱処理を行うことができる。熱処理を行うことにより、PVAフィルムの機械的強度、水溶性、複屈折率等の特性を調整することができる。
熱処理の温度は、特に限定されないが、60~135℃が好ましい。熱処理温度の上限は、130℃以下がより好ましい。熱処理の温度が上記範囲であると、PVAフィルムに対して与える熱量が多くなり過ぎず、結晶成分量(A1)0を適量に調整することができる。
【0084】
このようにして製造されたPVAフィルムは、必要に応じて、さらに、調湿処理、フィルム両端部(耳部)のカット等を施した後、円筒状のコアの上にロール状に巻き取られ、防湿包装されて製品となる。
【0085】
一連の処理によって最終的に得られるPVAフィルムの揮発分率は、特に限定されないが、1~5質量%が好ましく、2~4質量%がより好ましい。
【0086】
<用途>
本発明の水溶性フィルム(PVAフィルム)は、水溶性と溶解速度とのバランスに優れ、一般の水溶性フィルムが適用される各種のフィルム用途において、好適に使用することができる。
前記フィルム用途としては、例えば、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルム等が挙げられる。上述のフィルムの中でも、本発明の効果がより顕著に得られることから、本発明の水溶性フィルムは、薬剤包装用フィルムに適用することが好ましい。
【0087】
本発明の水溶性フィルムを薬剤包装用フィルムに適用する場合、薬剤の種類としては、例えば、農薬、洗剤(漂白剤を含む)、殺菌剤等が挙げられる。
薬剤の物性は、特に制限されず、酸性であってもよく、中性であってもよく、アルカリ性であってもよい。
また、薬剤は、ホウ素含有化合物やハロゲン含有化合物を含有してもよい。
【0088】
薬剤の形態としては、粉末状、塊状、ゲル状および液体状のいずれであってもよい。
包装形態も、特に制限されず、薬剤を単位量ずつ包装(好ましくは密封包装)するユニット包装の形態が好ましい。
本発明の水溶性フィルムを薬剤包装用フィルムに適用して薬剤を包装することにより、本発明の包装体が得られる。換言すれば、本発明の包装体は、本発明の水溶性フィルムで構成された包材(カプセル)と、前記包材に内包された薬剤とを含む。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されない。なお、以下の実施例および比較例において採用された評価項目と評価方法は、下記の通りである。
【0090】
(1) 1HパルスNMRによる結晶成分量(A1)、拘束非晶成分量(A2)および非晶成分量(A3)の定量
まず、水溶性フィルム25mgを、5mm×5mm程度の大きさに裁断して、サンプルを得た後、前記サンプルを内径10mmのNMRチューブに収容した。別途、重水と重メタノールとが1:1の容積比で混合された混合溶液を事前に調整した。そして、上述のサンプルを収容したNMRチューブおよび混合溶液を5℃で保管しておいた。
【0091】
パルスNMR装置にサンプルを収容したNMRチューブをセットし、次いで混合溶液1mLを一気にNMRチューブ内へ投入して、サンプルを混合溶液に浸漬させた。前記瞬間を0秒経過時(浸漬直後)として、パルスNMR測定装置を用いて、下記条件でサンプルの1HパルスNMR測定を行って、スピン-スピン緩和曲線を得た。
なお、測定時間は15秒であった。また、サンプルを収容したNMRチューブは、パルスNMR装置内でそのままの状態としておき、浸漬後60秒経過時および180秒経過時に再度測定を行った。
【0092】
測定装置 :NMR Analyzer mq20 the minispec (BRUKER社製)
パルス系列 :Solid-Eco法
パルス幅 :7.22 μs
パルス繰り返し時間:1 s
Dummy Shoot :0
Pulsed Atten :0 dB
積算回数 :32回
測定温度 :40℃
Gain :70~110 dB (サンプルの観測強度に応じて調節)
【0093】
得られたスピン-スピン緩和曲線を、前記方法を用いてフィッティングすることにより、浸漬直後、浸漬後60秒経過時および180秒経過時におけるサンプル中の結晶成分量(A1)、拘束非晶成分量(A2)および非晶成分量(A3)を定量した。
【0094】
(2)水溶性フィルムの破断時間
前記方法により、水溶性フィルムの30℃の脱イオン水中での破断時間を求めた。
【0095】
(3)端部における接触面同士の膠着(融着)性評価
水溶性フィルムを3cm×20cmに切り出し、短辺を軸として丸めた後、両端部を切断した。これにより、幅1cmの小さな水溶性フィルムのロールを作製した。口幅15mmのダブルクリップ(コクヨ株式会社製、商品名Scel-bo)を用いて、得られたロールの中心軸付近を、クリップの挟む部分の方向がロールの軸方向に一致するようにして挟み、60℃-90%RHの条件下に16時間保管した。保管後のフィルムロールを巻出して、端部における接触面同士の膠着状態を評価した。
【0096】
評価基準:
A…端部において接触面同士の膠着がなく、水溶性フィルムを抵抗なく巻き出せた。
B…巻出し時に抵抗が感じられたが、力を加えれば水溶性フィルムを巻き出せた。
C…端部において接触面同士が膠着しており、水溶性フィルムを巻き出すことができなかった。
【0097】
<実施例1>
まず、マレイン酸モノメチルエステル(MMM)変性PVA(けん化度90モル%、重合度1700、MMM変性量5モル%)100質量部、可塑剤としてグリセリン25質量部、界面活性剤としてラウリン酸ジエタノールアミド0.1質量部および水を配合して、製膜原液を調製した。なお、製膜原液の揮発分率は、68質量%であった。
次に、製膜原液をTダイから支持体である金属ロール(表面温度80℃)上に膜状に吐出して、金属ロール上に液状被膜を形成した。金属ロール上で、液状被膜の金属ロールとの非接触面の全体に、85℃の熱風を5m/秒の速度で吹き付けて乾燥した。これにより、PVAフィルムを得た。なお、製膜原液の金属ロール上への吐出速度(S0)に対する金属ロールの周速(S1)の比(S1/S0)を4.8とした。
次いで、PVAフィルムを金属ロールから剥離して、PVAフィルムの一方の面と他方の面とを各乾燥ロールに交互に接触させて乾燥を行った後、円筒状のコア上にロール状に巻き取った。なお、各乾燥ロールの表面温度は約75℃に設定した。また、得られたPVAフィルムは、厚み35μm、幅1200mmであった。
なお、表1中では、マレイン酸モノメチルエステル変性PVA(MMM変性量5モル%)を「MMMΔ5」と略す。
【0098】
<実施例2、実施例3および実施例4>
製膜原液の調製に用いるグリセリンの配合量を、それぞれ10質量部、45質量部および5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。
【0099】
<実施例5>
製膜原液を吐出する金属ロールの温度を、85℃に変更した以外は実施例3と同様にして、PVAフィルムを得た。
【0100】
<実施例6および比較例1>
製膜原液を吐出する金属ロールの温度を、それぞれ120℃および60℃に変更した以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。
【0101】
<実施例7、実施例8および比較例2、比較例3>
製膜原液の調製に用いるPVAを、それぞれマレイン酸モノメチルエステル(MMM)変性PVA(けん化度90モル%、重合度1700、MMM変性量2モル%)、無水マレイン酸(MA)変性PVA(けん化度99モル%、重合度1700、MA変性量3モル%)、部分けん化PVA(けん化度88モル%、粘度平均重合度1700)、および高けん化PVA(けん化度99モル%、重合度1700)に変更した以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。
なお、表1中では、マレイン酸モノメチルエステル変性PVA(MMM変性量2モル%)を「MMMΔ2」、無水マレイン酸変性PVA(MA変性量3モル%)を「MAΔ3」と略す。
【0102】
<比較例4>
製膜原液を吐出する際の(S1/S0)を48に変更した以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。
【0103】
<比較例5>
乾燥後のPVAフィルムに対して、さらに140℃で熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、PVAフィルムを得た。
【0104】
得られた水溶性フィルムの評価結果を表1に示す。
【0105】
【0106】
表1に示すように、PVAの種類、可塑剤の量、支持体(金属ロール)の表面温度、(S1/S0)の値および追加の熱処理の有無のうちの少なくとも1つを変更することにより、PVAフィルムを重水/重メタノール混合溶液中に浸漬した際における結晶成分量の経時変化率を調整し得ることが確認できた。
そして、0.2<(A1)60/(A1)0<0.6の条件を満たす各実施例のPVAフィルムは、高い水溶性を有し、膠着性評価の結果も良好であった。これに対して、上記条件を満たさない各比較例のPVAフィルムは、水溶性が極めて低いか、あるいは膠着性評価の結果が不良であった。
加えて、(A1)180/(A1)0<0.3の条件を満たす実施例1~3、5、7および8のPVAフィルムは、その水溶性がより高まり、薬剤包装用フィルム用途に好適である。