(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】ブタジエンの製造方法およびブタジエンの製造装置
(51)【国際特許分類】
C07C 1/20 20060101AFI20240830BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240830BHJP
B01J 23/50 20060101ALI20240830BHJP
C07C 11/167 20060101ALI20240830BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C07C1/20
B01J23/63 Z
B01J23/50 Z
C07C11/167
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020100157
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-05-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】新家 雄
(72)【発明者】
【氏名】日座 操
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 朋久
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 忠博
(72)【発明者】
【氏名】崔 隆基
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0217853(US,A1)
【文献】国際公開第2016/111203(WO,A1)
【文献】特表2017-532318(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017508(WO,A1)
【文献】特開2020-000998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造方法であって、
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を
、金属(A)
としての銀を担体に担持してなる固体触媒A、
および、金属(B)
としてのハフニウムを担体に担持してなる固体触媒Bに、この順で接触させてブタジエンを得る、ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、前記固体触媒Aに接触させる際の温度が250~400℃であり、かつ、前記固体触媒Bに接触させる際の温度が350~500℃である、請求項1に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項3】
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、前記固体触媒Bに接触させる際の温度が400℃超500℃以下である、請求項1または2に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項4】
前記固体触媒Aおよび前記固体触媒Bに含まれる担体が、いずれもシリカである、請求項1~
3のいずれか1項に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項5】
前記金属(A)の含有量が、前記固体触媒Aに含まれる担体の質量に対して0.1~50質量%であり、
前記金属(B)の含有量が、前記固体触媒Bに含まれる担体の質量に対して0.1~50質量%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項6】
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造装置であって、
反応器Aと、前記反応器Aに連結された反応器Bとを有し、
前記反応器Aが
、金属(A)
としての銀を担体に担持してなる固体触媒Aを充填した反応器であり、
前記反応器Bが
、金属(B)
としてのハフニウムを担体に担持してなる固体触媒Bを充填した反応器であり、
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、前記反応器Aおよび前記反応器Bの順に通過させる、ブタジエンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタジエンの製造方法およびブタジエンの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1,3-ブタジエン(以下、「ブタジエン」とも略す。)は、モノマーとしてブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムの原料として使用されており、主として、ナフサをエチレンクラッカー(ナフサクラッカー)により熱分解してエチレンやプロピレンを生成させる際の副生成物として得られている。
しかしながら、近年の原料のライトフィード化により、ブタジエンの生成量が減少してきている。
そこで、石化代替原料として、バイオマス(トウモロコシやサトウキビ)を発酵させ、ブタンジオール、ブタノール、ブテンまたはエタノールを経由してブタジエンを製造するプロセスが研究されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「エタノールを含む原料を触媒に接触させることにより、生成物中のブタン類、ブテン類、ブタジエン類からなるC4留分中の1,3-ブタジエンの割合を98mol%以上とすることを特徴とする、1,3-ブタジエンの製造方法。」が記載されており([請求項1])、また、触媒として、周期表第4族および第5族の元素を含有する触媒が記載されている([請求項4])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載されたブタジエンの製造方法について検討したところ、ブタジエンの収率が劣ることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、ブタジエンの収率を向上させることができるブタジエンの製造方法およびブタジエンの製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、原料であるエタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を担体に担持してなる固体触媒、ならびに、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属を担体に担持してなる固体触媒に、この順で接触させることにより、ブタジエンの収率が向上することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
[1] エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造方法であって、
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体に担持してなる固体触媒A、ならびに、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体に担持してなる固体触媒Bに、この順で接触させてブタジエンを得る、ブタジエンの製造方法。
[2] エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、上記固体触媒Aに接触させる際の温度が250~400℃であり、かつ、上記固体触媒Bに接触させる際の温度が350~500℃である、[1]に記載のブタジエンの製造方法。
[3] エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、上記固体触媒Bに接触させる際の温度が400℃超500℃以下である、[1]または[2]に記載のブタジエンの製造方法。
[4] 上記金属(A)が、第11族に属する金属であり、
上記金属(B)が、第3族および第4族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属である、[1]~[3]のいずれかに記載のブタジエンの製造方法。
[5] 上記金属(A)が、銀であり、
上記金属(B)が、ハフニウム、ジルコニウおよびスカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載のブタジエンの製造方法。
[6] 上記固体触媒Aおよび上記固体触媒Bに含まれる担体が、いずれもシリカである、[1]~[5]のいずれかに記載のブタジエンの製造方法。
[7] 上記金属(A)の含有量が、上記固体触媒Aに含まれる担体の質量に対して0.1~50質量%であり、
上記金属(B)の含有量が、上記固体触媒Bに含まれる担体の質量に対して0.1~50質量%である、[1]~[6]のいずれかに記載のブタジエンの製造方法。
[8] エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造装置であって、
反応器Aと、上記反応器Aに連結された反応器Bとを有し、
上記反応器Aが、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体に担持してなる固体触媒Aを充填した反応器であり、
上記反応器Bが、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体に担持してなる固体触媒Bを充填した反応器であり、
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、上記反応器Aおよび上記反応器Bの順に通過させる、ブタジエンの製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブタジエンの収率を向上させることができるブタジエンの製造方法およびブタジエンの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のブタジエンの製造装置の実施態様の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本願明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「ブタジエン」とは、「1,3-ブタジエン」のことを示す。
また、本明細書において、各成分は、各成分に該当する物質を1種単独でも用いても、2種以上を併用してもよい。ここで、各成分について2種以上の物質を併用する場合、その成分についての含有量とは、特段の断りが無い限り、併用した物質の合計の含有量を指す。
【0012】
[ブタジエンの製造方法]
本発明のブタジエンの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも略す。)は、エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物(以下、「原料」とも略す。)からブタジエンを得るブタジエンの製造方法である。
また、本発明の製造方法は、原料を、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体(以下、「担体A」とも略す。)に担持してなる固体触媒A、ならびに、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体(以下、「担体B」とも略す。)に担持してなる固体触媒Bに、この順で接触させてブタジエンを得る方法である。
なお、本発明においては、金属(A)および金属(B)は、それぞれ、担体Aおよび担体B上に、金属として存在していてもよいし、金属酸化物等の化合物として存在していてもよい。
【0013】
本発明においては、上述した通り、原料を固体触媒Aおよび固体触媒Bにこの順で接触させることにより、ブタジエンの収率が向上する。
これは、詳細には明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
すなわち、後述する比較例1-1~1-4などに示すように、固体触媒Bとして第3~5族に属さない金属を担体に担持させた場合や、後述する比較例1-5に示すように、原料を接触させる固体触媒の順序を逆にした場合には、副反応である脱水反応が起こるため、ブタジエンの収率が低くなると考えられる。
そのため、本発明においては、原料を所定の固体触媒Aおよび固体触媒Bにこの順で接触させることにより、副反応である脱水反応の進行が抑制され、ブタジエンの選択率が向上したため、ブタジエンの収率が向上したと考えられる。
【0014】
〔固体触媒A〕
本発明の製造方法で用いる固体触媒Aは、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体Aに担持してなる固体触媒である。
【0015】
<担体A>
固体触媒Aに用いる担体Aは、後述する金属(A)を担持できれば特に限定されず、その具体例としては、シリカ、アルミナ、マグネシアなどが挙げられる。
【0016】
本発明においては、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなり、ブタジエンの収率がより向上する理由から、担体Aが、シリカであることが好ましい。
【0017】
また、本発明においては、ブタジエンの選択率が更に高くなり、ブタジエンの収率が更に向上する理由から、担体Aとして、平均細孔径が3~15nmの範囲にあるシリカを用いることが好ましく、平均細孔径が3nm超10nm以下の範囲にあるシリカを用いることがより好ましい。
ここで、「平均細孔径」とは、窒素の吸着等温線からBJH法あるいはDFT法で求めた細孔径分布曲線のピーク値を示す細孔径をいう。
【0018】
<金属(A)>
固体触媒Aが有する金属(A)は、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属である。
第11族に属する金属としては、具体的には、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、Au(金)などが挙げられる。
また、第12族に属する金属としては、具体的には、例えば、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)が挙げられる。
また、第13族に属する金属としては、具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)が挙げられる。
【0019】
ここで、第11族に属する金属の原料は特に限定されないが、例えば、第11族から選択される金属の硝酸塩、および、酢酸塩などが挙げられる。具体的には、Ag(NO3)、CH3COOAgなどが挙げられる。
また、第12族に属する金属の原料は特に限定されないが、例えば、第12族から選択される金属の硝酸塩、酢酸塩、およびこれらの水和物などが挙げられる。具体的には、Zn(NO3)2、Zn(NO3)2・6H2O、Zn(OCOCH3)2などが挙げられる。
また、第13族に属する金属の原料は特に限定されないが、例えば、第13族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸アルミニウム九水和物、硝酸ガリウム水和物、硝酸インジウム三水和物などが挙げられる。
【0020】
本発明においては、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなり、ブタジエンの収率がより向上する理由から、上記金属(A)が、第11族に属する金属であることが好ましく、銀であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明においては、上記金属(A)の含有量は、上述した担体Aの質量に対して、0.1~50質量%であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましく、0.2~30質量%であることが更に好ましい。
ここで、金属(A)、後述する金属(B)の「含有量」は、例えば、ICPまたは蛍光X線等により測定することができる。
【0022】
〔固体触媒B〕
本発明の製造方法で用いる固体触媒Bは、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体Bに担持してなる固体触媒である。
【0023】
<担体B>
固体触媒Bに用いる担体Bは、後述する金属(B)を担持できれば特に限定されず、その具体例としては、上述した担体Aと同様のものが挙げられ、その好適態様も同様である。
【0024】
<金属(B)>
本発明の固体触媒が有する金属酸化物(B)は、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属の酸化物である。
第3族に属する金属としては、具体的には、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)などが挙げられる。
また、第4族に属する金属としては、具体的には、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などが挙げられる。
また、第5族に属する金属としては、具体的には、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)などが挙げられる。
【0025】
ここで、第3族に属する金属の原料は特に限定されないが、例えば、第3族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、Sc(NO3)2、硝酸スカンジウム五水和物などが挙げられる。
また、第4族に属する金属の原料は特に限定されないが、例えば、第4族から選択される金属の硝酸塩、塩酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、ZrO(NO3)2、ZrO(NO3)2・2H2O、ZrO(OCOCH3)2、HfCl4などが挙げられる。
また、第5族に属する金属の原料は特に限定されないが、例えば、第5族から選択される金属の硫酸塩、オキシ硫酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、塩酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、VOSO4、VOSO4・nH2O、(CH3COO)2Ta、VCl3、NbCl5、TaCl5などが挙げられる。
【0026】
本発明においては、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなり、ブタジエンの収率がより向上する理由から、上記金属(B)が、第3族および第4族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましく、ハフニウム、ジルコニウおよびスカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウおよび酸化スカンジウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0027】
また、本発明においては、上記金属(B)の含有量は、上述した担体Bの質量に対して、0.1~50質量%であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましく、0.2~30質量%であることが更に好ましい。
【0028】
〔固体触媒の調製方法〕
上述した固体触媒AおよびBの調製方法は特に限定されず、例えば、含浸法、ゾルゲル法等の公知の方法を採用することができる。これらの中でも、得られる固体触媒の活性および選択性が高く、また、簡便であることから、含浸法が好ましい。
含浸方法としては、例えば、噴霧法、コーティング法、ポアフィリング法、選択吸着法などの公知の手法を採用することができる。具体的には、上述した金属(A)または金属(B)の原料となる金属の硝酸塩、酢酸塩等を水に溶解させ、得られた水溶液を上述した担体に含浸させ、その後、担体を乾燥させる方法が挙げられる。なお、乾燥方法や乾燥時間は特に限定されないが、60~80℃で減圧乾燥することが好ましい。また、乾燥後に、200~600℃の温度で焼成することが好ましい。
また、上述した調製方法以外にも、例えば、上述した金属(A)または金属(B)の原料となる金属の硝酸塩、酢酸塩等を混合した後に、加熱、濃縮、水熱合成などの処理を施し、乾燥・焼成する方法も挙げられる。
また、調製した触媒は、使用前に、必要に応じて、成型、整粒などを施してもよい。
【0029】
〔原料〕
本発明の製造方法では、目的生成物であるブタジエンの原料として、エタノール、または、エタノールとアセトアルデヒドとの混合物を使用する。
また、原料は、適宜希釈して、上述した固体触媒AおよびBに接触させてもよい。
また、原料を希釈する媒体(以下、「希釈媒体」ともいう。)としては、具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。
また、原料は、エタノール、アセトアルデヒド、希釈媒体以外の不純物等を含んでいてもよい。
【0030】
本発明の製造方法においては、原料として、エタノールとアセトアルデヒドとの混合物を使用する場合、エタノールとアセトアルデヒドの質量比(エタノール:アセトアルデヒド)は、特に限定されるものではないが、例えば、19:1~1:9の範囲が好ましく、16:4~2:8の範囲が更に好ましい。
【0031】
〔反応条件等〕
本発明の製造方法は、公知の反応形式で実施でき、流通式でも、バッチ式でも、その他でもよいが、生産性の観点から、流通式で実施することが好ましい。
また、本発明の製造方法は、気相で行っても、液相で行ってもよいが、高い反応温度を適用でき、原料の転化率が向上する観点から、気相条件下で行うことが好ましい。
また、所望により、反応開始前に、触媒を還元してもよく、例えば、水素気流中、200~500℃で、触媒を還元した後、原料と接触させて、ブタジエンの生成工程を実施してもよい。
【0032】
原料を固体触媒に接触させる方法としては、例えば、懸濁床方式、流動床方式、固定床方式等を挙げることができる。また、本発明は、気相法、液相法のいずれであってもよいが、気相法を用いることが好ましい。
【0033】
気相で反応を行う場合、原料ガス(例えば、エタノールガス、好ましくはエタノールガスとアセトアルデヒドガスの混合物)は、希釈することなく反応器に供給してもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、水蒸気、などの不活性ガスにより適宜希釈して反応器に供給してもよい。
【0034】
反応温度は、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなり、ブタジエンの収率がより向上する理由から、原料を上記固体触媒Aに接触させる際の温度が250~400℃であり、かつ、上記固体触媒Bに接触させる際の温度が350~500℃であることが好ましい。特に、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなり、ブタジエンの収率がより向上する理由から、原料を上記固体触媒Bに接触させる際の温度が400℃超500℃以下であることが好ましい。
反応圧力は、常圧から高圧までの広い範囲で適宜設定できるが、製造効率や装置構成などの観点から、1.0MPa以下に設定することが好ましい。
【0035】
原料と固体触媒との接触時間は、原料の供給速度を調整することによりコントロールすることができ、単位触媒あたりの重量空間速度(WHSV)は1.0~40g-原料/g-cat・hであることが好ましく、2.0~20g-原料/g-cat・hであることがより好ましい。
【0036】
反応終了後、反応生成物は、例えば、蒸留、抽出、膜分離等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、軽質ガス、C4留分、重質分、水、エタノール、アセトアルデヒド等に分離精製することができる。
【0037】
[ブタジエンの製造装置]
本発明のブタジエンの製造装置(以下、「本発明の製造装置」とも略す。)は、エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造装置であり、反応器Aと、上記反応器Aに連結された反応器Bとを有する。
また、本発明の製造装置においては、上記反応器Aが、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体に担持してなる固体触媒Aを充填した反応器であり、上記反応器Bが、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体に担持してなる固体触媒Bを充填した反応器である。
また、本発明の製造装置は、エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、上記反応器Aおよび上記反応器Bの順に通過させる製造装置である。
なお、反応器Aに充填された固体触媒A、および、反応器Bに充填された固体触媒Bは、それぞれ、本発明の製造方法において説明した固体触媒Aおよび固体触媒Bと同様である。
【0038】
図1は、本発明のブタジエンの製造装置の実施態様の一例を示す模式図である。
図1に示すブタジエンの製造装置10は、反応器A1と、反応器A1に連結された反応器B2を有する。
また、
図1に示すブタジエンの製造装置10は、送液ポンプPを有しており、この送液ポンプPを用いて、原料であるエタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物を、反応器A1および反応器B2の順に通過させることができる。なお、送液ポンプPは、原料を反応器A1および反応器B2の順に通過させることができるものであれば、配置する位置や機能は特に限定されない。
また、
図1に示すブタジエンの製造装置10は、反応器A1および反応器B2の反応雰囲気を調整するガスボンベ3を有する。
また、
図1に示すブタジエンの製造装置10は、反応器A1および反応器B2のそれぞれに、反応器内の温度を調整するヒーター4を有する。
また、
図1に示すブタジエンの製造装置10は、反応器B2の下流側に、生成物を分析するガスクロマトグラフィー分析装置5を有する。
【実施例】
【0039】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0040】
〔実施例1-1〕
AgNO3(Ag塩)0.211gを水5mlに溶解させて水溶液A1を調製した。
調製した水溶液A1を、メソポーラスシリカ(富士シリシア株式会社製、商品名:CARiACT G-6、平均細孔径:6nm)に含浸させた後、110℃で4時間乾燥し、更に500℃で4時間焼成することにより、Agがシリカに担持されてなる固体触媒A1を調製した。
また、HfCl4(Hf塩)0.204gを水5mlに溶解させて水溶液B1を調製した。
調製した水溶液B1を、メソポーラスシリカ(富士シリシア株式会社製、商品名:CARiACT G-6、平均細孔径:6nm)に含浸させた後、110℃で4時間乾燥し、更に500℃で4時間焼成することにより、Hfがシリカに担持されてなる固体触媒B1を調製した。
下記表1に、担持させる金属の種類および担持量を示す。
【0041】
調製した固体触媒A1の0.3gを固定床流通式反応器に充填し、反応器Aを作製した。
同様に、固体触媒B1の0.3gを固定床流通式反応器に充填し、反応器Bを作製した。
これらの反応器を連結し、反応器Aよりも上流側から、N2ガスを5~15ml/minで流し、更に、エタノール(EtOH)を0.03ml/minの割合で、N2ガス流に添加し、反応器Aにおける反応温度350℃、反応器Bにおける反応温度425℃、大気圧下において、重量空間速度(WHSV)5.0g-原料/g-cat・hの条件で流通させた。下記表1に、原料、反応温度および重量空間速度(WHSV)を示す。
反応を2時間行い、得られた生成物をガスクロマトグラフ(島津製作所社製)を用いて分析した。
また、以下の式に従って、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
原料の転化率=(原料投入量-未反応原料の留出量)/(原料投入量)×100(%)
BD選択率=(ブタジエンの生成量)/(原料投入量-未反応原料の留出量)×100(C-mol%)
BD収率=(原料の転化率)×(BD選択率)÷100(C-mol%)
BD生産性=(1時間あたりのブタジエンの生成質量)/(使用した触媒質量)(g-BD/g-cat・h)
【0042】
〔実施例1-2〕
反応器Bにおける反応温度を下記表1に示す温度(400℃)に変更した以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0043】
〔実施例1-3〕
水溶液B1に代えて、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.147gを水5mlに溶解させた水溶液B3を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、ZrO2がシリカに担持されてなる固体触媒B3を調製した。
また、固体触媒B1に代えて、調製した固体触媒B3を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0044】
〔実施例1-4〕
反応器Bにおける反応温度を下記表1に示す温度(400℃)に変更した以外は、実施例1-3と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0045】
〔実施例1-5〕
水溶液B1に代えて、Sc(NO3)2(Sc原料)0.108gを水5mlに溶解させた水溶液B5を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、Sc2O3がシリカに担持されてなる固体触媒B5を調製した。
また、固体触媒B1に代えて、調製した固体触媒B5を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0046】
〔比較例1-1〕
水溶液B1に代えて、Mg(NO3)2・6H2O(Mg塩)0.125gを水5mlに溶解させた水溶液C1を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、MgOがシリカに担持されてなる固体触媒C1を調製した。
また、固体触媒B1に代えて、調製した固体触媒C1を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0047】
〔比較例1-2〕
水溶液B1に代えて、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183gを水5mlに溶解させた水溶液C2を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、ZnOがシリカに担持されてなる固体触媒C2を調製した。
また、固体触媒B1に代えて、調製した固体触媒C2を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0048】
〔比較例1-3〕
水溶液B1に代えて、Fe(NO3)3・9H2O(Fe塩)0.2485gを水5mlに溶解させた水溶液C2を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、Fe2O3がシリカに担持されてなる固体触媒C3を調製した。
また、固体触媒B1に代えて、調製した固体触媒C3を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0049】
〔比較例1-4〕
水溶液B1に代えて、Cr(NO3)3・9H2O(Cr塩)0.2462gを水5mlに溶解させた水溶液C2を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、Cr2O3がシリカに担持されてなる固体触媒C4を調製した。
また、固体触媒B1に代えて、調製した固体触媒C4を用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0050】
〔比較例1-5〕
実施例1-1で調製した固体触媒A1を反応器Bに用い、実施例1-1で調製した固体触媒B1を反応器Aに用いた以外は、実施例1-1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0051】
【0052】
表1に示す結果から、固体触媒Bとして、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)に該当しない金属を担体に担持させた場合には、ブタジエンの収率が20%以下となることが分かった(比較例1-1~1-4)。
また、固体触媒Aとして、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体に担持させ、固体触媒Bとして、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体に担持させた場合には、ブタジエンの収率が著しく低下することが分かった(比較例1-5)。
これに対し、固体触媒Aとして、第11族、第12族および第13族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(A)を担体に担持させ、固体触媒Bとして、第3族、第4族および第5族に属する金属からなる群から選択される少なくとも1種の金属(B)を担体に担持させ、固体触媒Aおよび固体触媒Bの順に原料を接触させた場合には、ブタジエンの収率が向上することが分かった(実施例1-1~1-5)。
特に、実施例1-1と実施例1-2との対比から、原料を固体触媒Bに接触させる際の温度が400℃超500℃以下であると、ブタジエンの収率がより向上することが分かった。
【0053】
〔実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-4〕
実施例2-1~2-5および比較例2-1~2-4は、反応器Aにおける反応温度を下記表2に示す温度(400℃)に変更した以外は、それぞれ、実施例1-1~1-5および比較例1-1~1-4と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表2に示す。
【0054】
【0055】
表2に示す結果から、反応器Aにおける反応温度を400℃に変更した場合でも、表1に示す結果と同様の結果が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0056】
1 反応器A
2 反応器B
3 ガスボンベ
4 ヒーター
5 ガスクロマトグラフィー分析装置
P 送液ポンプ